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鹿児島県農業開発総合センター 平成26年3月 有機農業による栽培管理成果集 野菜・茶 (指導者向け

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鹿児島県農業開発総合センター

平成26年3月

有機農業による栽培管理成果集

- 野菜・茶 -

(指導者向け)

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は じ め に

農産物の安心,安全に対する消費者の意識が高まる中,有機農産物供給

への期待はますます高まりをみせています。この推進にあたっては,農業

が本来有する自然循環機能を発揮し,環境への負担を低減し,環境と調和

した農業生産を確保しなければなりません。

そこで,平成18年12月に,我が国の有機農業の発展を図ることを目的と

した「有機農業の推進に関する法律」が制定・公布され,これに基づき,

平成19年4月,国は「有機農業の推進に関する基本的な方針」を策定・公

表しました。これを受けて,県では平成20年8月に 「鹿児島県有機農業,

推進計画」を策定しました。この計画に基づき当農業開発総合センターで

は,野菜および茶の有機農業に関する技術の体系化を図るため,平成21年

から5年間 「本県の気象条件に対 した有機農業技術体系確立」に関す, 応

る研究に取り組みました。

今回,本研究において得られた研究結果をもとに指導者向けの資料とし

て 「有機農業による栽培管理成果集 -野菜・茶- 」を作成しました。,

この成果事例集では,野菜・茶について,土づくりと施肥管理,病害虫

管理の基本的な考え方と栽培管理技術,有機栽培の実践事例などを紹介し

ております。

本成果事例集が有機農業に新たに取り組もうとする農業者,すでに取り

組まれている農業者などへの栽培技術指導の一助となることを期待してお

ります。

平成26年3月

鹿児島県農業開発総合センター

所 長 宮内 悟

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目 次

Ⅰ 野菜1 有機栽培技術対策(1) 土づくりと施肥管理

ア 基本的な考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1イ 各種肥料の特徴 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8ウ 有機質資材の施用時期別の窒素無機化の推定 ・・・・・・・・・・・ 9

(2) 病害虫管理ア 基本的な考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16イ 土着天敵の発生消長 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21

2 作物別栽培管理技術(1) 基本的な考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35(2) 作物別

ア キュウリ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36イ オクラ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43ウ ホウレンソウ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49エ キャベツ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56オ ニンジン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 59

(3) 輪作体系ア キュウリ,オクラ+ホウレンソウ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 63

3 有機栽培の実践事例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 69

Ⅱ 茶1 有機栽培技術対策(1) 病害虫抵抗性品種 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 71(2) チャの有機栽培で活用できる耕種的,物理的および生物的防除 74

2 有機栽培茶園の特徴・特性(生物多様性) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 893 施肥管理(1) 基本的な考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 91(2) 施肥管理のポイント ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 91(3) 代表的な有機質肥料の種類と分解特性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 92(4) 年間の施肥体系の考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 94(5) 施肥時期 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 94(6) 施肥基準 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 94(7) 有機質肥料施用上の特記事項 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 94(8) 菜種油粕と魚粉の分解特性を考慮した施肥事例 ・・・・・・・・・・・ 95(9) 茶園土壌の診断基準 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 97

4 除草管理(1) 耕種的雑草防除 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 100(2) 物理的雑草防除 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 101(3) 主要雑草の特徴と茶樹への影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 101(4) 雑草管理の留意点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 102

5 有機栽培の実践事例(1) アンケート及び聞き取り調査等より ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 103

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Ⅰ 野菜

1 有機栽培技術対策

(1) 土づくりと施肥管理

ア 基本的な考え方

有機農業は地力(地力は作物生産に関わる土壌の能力で,化学性,物理性,生物性が挙

) , 。 ,げられる に依存した生産方式であり 地力が高まらなければ安定生産は難しい しかし

土壌養分が多くなり過ぎると作物が軟弱になり,病害虫に罹りやすくなる。環境負荷低減

に反し,地下水汚染や温室効果ガス増大などへも影響する。また,有機農業では土壌養分

のアンバランスが起こりやすいため,土壌診断が重要である。

新規で有機農業を始める場合や規模拡大で新たに有機栽培圃場に転換する場合,有機栽

培農家の圃場を分けてもらうか,慣行栽培をしてきた農地を借地にするか,または,耕作

。 ,放棄地を借地することが考えられる 慣行栽培圃場や耕作放棄地は地力が低い場合があり

地力の低い圃場では,野菜類の有機栽培を開始してから,収量・品質が安定するまでに年

数を要する。経営安定のために短期間で生産安定が図れるように土づくりをしていかなけ

ればならない。土づくりとは,作物の生産安定のために作物根が伸長しやすく,かつ,そ

の根が円滑に機能できるように土壌環境を整え,土壌の作物生産能力を向上・保全するこ

。 , , , ,とである そのため 土づくりは 地力を維持・向上させるために 堆肥等の有機質資材

石灰質資材等の土づくり肥料の施用,深耕・排水対策等の技術を組み合わせ,生産コスト

も考慮して総合的に行わなければならない。

有機栽培農家の土壌調査結果をみると,長年有機栽培を行ってきた農家圃場では,リン

酸含量がかなり高く,pHも高くなってきており微量要素の不可給態化や生理障害,生育障

害の発生が心配される。このため,有機栽培農家は作物の生育状況をみながら土壌診断を

行い,土壌養分に応じて堆肥や有機質資材の種類や施用量を見直すことが大切である。

表1 有機農業現地ほ場における土壌化学性 (可給態リン酸・CEC:乾土当たり)

注)調査地域:姶良地域100点(平成19年),大隅地域29点(平成20年)

pH可給態リン酸

CEC Ca/Mg Mg/k

H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ

施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29小 5.0 14 14.0 58 41 9 2 1 1

露地 平均 6.6 153 23.3 94 71 17 6 5 4大 8.2 1010 47.3 209 190 39 25 20 17小 5.0 3 10.8 27 21 4 1 2 1

全体 平均 6.6 246 23.0 104 76 21 7 4 4大 8.2 1232 47.3 209 190 53 25 20 29小 5.0 3 10.8 27 21 4 1 1 1

5.5~6.5

5~50 60~85 50~65 8~15 2~5 4~8 2~5

土壌診断基準

(露地野菜)

飽和度 %

1

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(ア)土壌の化学性

有機栽培では,良好な作物生育のために土壌の化学性,物理性や生物性を改善し,地力

を向上させる「土づくり」が も重要である。有機栽培農家が借りる耕作放棄地等の地力

が低い場合,何トンの堆肥を,何年連用すれば安定生産ができるかが問題となる。

有機栽培を年2作体系で4年間合計8作栽培した農業開発総合センターの試験結果で

は,1年目の夏秋キュウリは地力がなかったため,有機区は慣行区に比べ大幅に収量が少

なかった。2年目以降も,春夏作の夏秋キュウリやオクラで病害虫被害のため,有機区の

収量は慣行区に比べ1~2割少なかった。有機区の養分含有率は慣行区に比べて高いこと

から養分供給は十分足りており,有機区の養分吸収量が少なかった原因は養分供給の不足

ではなく,病害虫の影響による収量低下が原因である。秋冬作では病害虫被害がみられな

かったため,慣行区と同等に近い収量が得られている(図1 。)

有機区の土壌は,栽培年数の経過に伴い年々可給態リン酸,交換性塩基類の増加がみら

れ,また,交換性石灰含量の増加に伴ってpHも上昇している。これらは有機質資材の施用

により慣行区に比べ養分供給量が多かったためである(図2~4 。)

表2 各試験区の養分投入量(kg/10a,平成21~25年)

有機区の可給態窒素は4年間で大幅に増加し,慣行区での増加はみられなかった。この

, 。 ,相違は 牛ふん堆肥の施用量に由来している 有機区における可給態窒素の大幅な増加は

年間10a当たり4tの牛ふん堆肥施用の影響が大きい。また,年間2t/10aの牛ふん堆肥を

施用した慣行区の可給態窒素の増加はみられず,この施用量が地力維持レベルと考えられ

る(図4 。)

これらの結果から考えると,土づくりとして3年程度牛ふん堆肥を年間4t/10aの施用

を行い,その後はリン酸や塩基類が土壌中に過剰集積することをさけるため,リン酸や塩

基の投入量を抑制できる施肥法に切り替える必要がある。

現物投入量

区名 資材名 T-N P2O5 K2O CaO MgO

牛ふん堆肥 1,000 10 15 17 12 5

BB48 125 20 20 20

苦土石灰 100 42 10

総投入量 30 35 37 54 15

牛ふん堆肥 2,000 20 30 34 24 11

鶏ふん堆肥 500 11 29 18 86 8

油粕 200 14 5 3 2 2

苦土石灰 100 42 10

総投入量 44 64 55 154 30

注)果菜類4作及び葉茎根菜類4作,年間2作

有機

1作当たり 

慣行

2

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図1 有機栽培区における野菜の収量指数 図2 可給態リン酸含量の推移

図3 塩基飽和度の推移 図4 可給態窒素含量の推移

(イ)土壌の物理性

一般的に作土が厚い圃場では作物の生育が良く,根菜類は深い作土が必要で,葉菜類の

中でも深根性のものは作土層が深いと生育が良くなる。また,保水性,透水性が良好な圃

場でも野菜類の生育が良い。大型農業機械で作業を行っていた圃場などは,耕盤が形成さ

れ排水不良となっている場合もあるので注意する。

新規で有機農業を始める場合の慣行栽培ほ場や耕作放棄地は,土壌の物理性が余り良く

なかったり,耕盤ができていたりして,透排水性が悪い圃場も多い。生育不良な土壌につ

, 。 ,いては 土壌物理性の改善が必要である 軟弱野菜のように圃場に直接播種をする作物は

土壌の保水性が高くないと発芽不良が生じやすく,収量に影響する。このような圃場では

有機質資材投入によって保水性を高めることが望ましい。一方,近年温暖化の影響で異常

気象がみられ,集中豪雨や長雨が続いた場合には,圃場に停滞水が発生し根腐れを起こし

, 。 。たり 病害が多発する場合もある 葉菜類の軟腐病などは排水不良の圃場で多く発生する

0

20

40

60

80

100

120

キュ

ウリ

葉ネ

キュ

ウリ

ホウ

レンソウ

キュ

ウリ

ホウ

レンソウ

オク

ホウ

レンソウ

オク

春夏 秋冬 春夏 秋冬 春夏 秋冬 春夏 秋冬 春夏

H21 H22 H23 H24 H25

慣行

区に

対す

る収

量指

数313

0

10

20

30

40

50

栽培

キュ

ウリ

葉ネ

キュ

ウリ

ホウ

レンソウ

キュ

ウリ

ホウ

レンソウ

オク

ホウ

レンソウ

オク

H21 H22 H23 H24 H25

可給

態リ

ン酸

(m

g/10

0g乾

土)

慣行有機

0

20

40

60

80

100

栽培

キュ

ウリ

葉ネ

キュ

ウリ

ホウ

レンソウ

キュ

ウリ

ホウ

レンソウ

オク

ホウ

レンソウ

オク

H21 H22 H23 H24 H25

塩基

飽和

度(%

慣行有機

0

1

2

3

4

5

6

7栽

培前

キュ

ウリ

葉ネ

キュ

ウリ

ホウ

レンソウ

キュ

ウリ

ホウ

レンソウ

オク

ホウ

レンソウ

オク

ラ春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏

H21 H22 H23 H24 H25

可給

態窒

素(

mg/

100g

乾土

) 慣行

有機

3

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そのため,排水対策を行うとともに,耕盤破砕や深耕が必要である。土壌の物理性は土壌

の種類によって異なり,一般的に畑地に多い黒ボク土壌は比較的膨軟で,水田に多いシラ

スを母材とする土壌は硬い。

当センターで行った黒ボク土における有機栽培の試験結果でみると,有機栽培開始から

3年目の調査において,有機区の土壌では,慣行区に比べ土壌の硬度(ち密度)が低く,

固相率は小さく,孔隙率(液相率と気相率の和)は高まり,土の膨軟性を表す指標が向上

( )。 , , ,していた 表3 また 有機栽培農家ほ場では 有機栽培歴が長いほど固相率は低下し

孔隙率が向上していた(表4 。保水性の改善は,播種をして栽培する野菜の発芽の斉一)

性を高めるためにも重要である。有機栽培農家ほ場でも,有機物投入することで土壌物理

性が改善されていた。ただし,有機物投入は経済性や環境負荷への影響を考慮すると,一

度に多量の投入は避けた方がよい。

表3 試験開始から3年目の土壌物理性の比較(農業開発総合センターほ場)

表4 現地ほ場の土壌物理性(平成24年5月調査)

注)孔 隙 率:土壌における固相間のすきまのことで,液相と気相の和

有効水分:植物が吸収可能な土壌水分のこと

透水係数:水が土壌中を浸透しやすいかを示す係数

固相 液相 気相 孔隙率 pF1.5 pF2.7有効水分

作土 0~16 11.8 88.4 34.1 44.6 21.4 65.9 48.7 42.8 5.9 2.3×10-3

次層 16~27 16.4 92.8 36.8 52.3 10.9 63.2 54.0 48.2 5.8 1.7×10-4

3層 27~38 23.4 96.5 41.8 52.5 5.7 58.2 53.6 47.0 6.6 4.1×10-4

作土 0~15 12.0 81.9 31.5 39.0 29.5 68.5 52.1 37.4 14.8 3.2×10-3

次層 15~25 18.6 87.1 33.1 46.4 20.5 66.9 52.2 43.3 9.0 6.2×10-4

3層 25~42 21.4 80.0 31.7 58.5 9.8 68.3 61.9 54.8 7.1 1.3×10-4有機

慣行

ち密度(mm)

透水係数(cm/sec)

区名

三相分布(ml/100ml)容積重

(g/100ml)

pF水分(ml/100ml)

層位深さcm

三相分布(%)

固相 液相 気相 pF1.5 pF2.7有効水分

表層 87.1 34.4 33.3 32.3 65.6 38.9 31.4 7.45 7.7×10-3

次層 113.9 45.5 41.7 12.8 54.5 46.2 37.8 8.41 6.4×10-5

表層 92.3 36.2 41.6 22.2 63.8 45.1 37.9 7.23 4.9×10-3

次層 131.2 52.4 45.5 2.1 47.6 46.3 43.4 2.84 4.4×10-5

表層 75.3 29.5 36.0 34.5 70.5 42.5 34.5 7.99 1.1×10-2

次層 105.7 42.8 50.6 6.6 57.2 53.5 46.5 7.03 5.6×10-5

表層 87.7 34.2 34.9 31.0 65.9 40.4 34.8 5.64 7.3×10-3

次層 108.2 43.3 45.8 10.9 56.7 49.0 43.8 5.26 2.4×10-4

表層 94.6 37.2 39.7 23.1 62.8 40.2 36.6 3.63 6.7×10-3

次層 125.3 50.1 45.0 4.9 49.9 46.3 39.2 7.07 6.7×10-5

孔隙率(%)

容積重(g/100ml)

透水係数(cm/sec)

pF水分(ml/100ml)

姶良町C

蒲生町A

姶良町A1

姶良町A2

姶良町B

層位調査地点 有機栽培歴等

有機栽培8年以上

基盤整備後4年目有機栽培開始3年目

有機栽培8年以上

有機栽培8年以上

有機栽培開始3年目

4

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(ウ)施肥管理について

有機物連用による土壌化学性の変化をみると,今回行った試験では,有機区における土

壌の養分含量は,年間牛ふん堆肥4t/10aの施用を行うことで年々増加した。年間牛ふん

堆肥4t/10aを3年程度連用することによって土づくりができる。有機物から養分供給量

が多い施肥を続けていくと養分過剰になっていくため,ある程度の土づくりができた段階

で,土壌診断基準(表5)を超えた場合はリン酸やカリ等の養分集積を抑制する施肥に切

り替えていく必要がある。

有機栽培ほ場におけるリン酸やカリの過剰土壌の施肥改善対策を図るため,牛ふん堆肥

の減量と有機質資材の中で窒素に対してリン酸とカリ成分が低いナタネ油粕の増量による

施肥体系について検討した。キュウリ,オクラ,ホウレンソウにおける施肥改善区では,

有機区と同等または同等以上の収量を得られた(図5)。また,施肥改善区のリン酸およ

びカリの養分残存量は有機区に比べて少なくなった。

※堆肥および肥料施用量

(1作当たり,年2作体系)

有機区

牛ふん堆肥2t/10a,鶏ふん堆肥500kg/10a,

油粕200kg/10a

施肥改善区

牛ふん堆肥1t/10a,鶏ふん堆肥500kg/10a,

油粕300kg/10a

図5 収量の比較(平成25年,オクラ,品種「指宿グリーン )」

土壌条件:可給態リン酸 39mg/100g乾土,カリ飽和度3%(交換性カリ含量38mg/100g乾土)

0

50

100

150

200

250

有機 施肥改善

果実

収量

(kg

/a)

5

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表5 土壌診断基準

① 果菜類

土 壌 非火山灰土 火山灰土 石灰質土

表層(作土)の厚さ (㎝以上) 20 25 20

主要根群域の深さ (cm以上) 20 25 20

有効根群域の深さ (cm以上) 60

現地容積重 (g/100mL) 80~120 60~ 80 100~120

pF1.5の気相率 (%以上) 10 20 15

有効根群域の 高ち密度 (㎜以下) 22

主要根群域の水分 pF1.5~pF3.0 %以上 15 20 15( )-4有効根群域の 小透水係数 ㎝/sec以上 10( )

地下水位(cm以下) 80

グライ層の位置(cm以下) 60

腐 植 (%以上) 3 5 3

pH (H O) 5.5~6.5 5.5~6.5 6.0~6.52

pH (KCl) 5.0~6.0 5.0~6.0 5.5~6.0

陽イオン交換容量 (CEC meq/100g乾土) 5~20 15~35 15~25

塩基飽和度 (%) 72~85 60~85 80~95

石灰飽和度 (%) 60~65 50~65 70~75

苦土飽和度 (%) 10~15 8~15 8~15

カリ飽和度 (%) 2~ 5

塩基含量(陽イオン交換容量(CEC)で異な 15meqの場合 20meqの場合 18meqの場合る)

交換性石灰[CaO] (meq/100g乾土) 9.0~ 0.8 10.0~13.0 12.6~13.5

交換性苦土[MgO] (meq/100g乾土) 1.5~ 2.3 1.6~ 3.0 1.4~ 2.7

交換性カリ[K2O] (meq/100g乾土) 0.3~ 0.8 0.4~ 1.0 0.4~ 0.9

交換性石灰[CaO] (mg/100g乾土) 252~274 280~364 353~378

交換性苦土[MgO] (mg/100g乾土) 30~ 45 32~ 61 29~ 55

交換性カリ[K2O] (mg/100g乾土) 14~ 35 19~ 47 17~ 42

CaO/MgO (当量比) 4~ 8

MgO/K2O (当量比) 2~ 5

可給態リン酸 (mg/100g乾土) 10~50 5~50 10~50

EC (1:5 mS/cm以下) 0.3

無機態窒素 (mg/100g乾土以下) 3 5 3

6

Page 13: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

② 葉茎菜類

土 壌 非火山灰土 火山灰土 石灰質土

表層(作土)の厚さ (㎝以上) 20 25 20

主要根群域の深さ (cm以上) 20 25 20

有効根群域の深さ (cm以上) 60

現地容積重 (g/100mL) 80~120 60~ 80 100~120

pF1.5の気相率 (%以上) 10 20 15

有効根群域の 高ち密度 (㎜以下) 22

主要根群域の水分 pF1.5~pF3.0 %以上 15 20 15( )-4有効根群域の 小透水係数 ㎝/sec以上 10( )

地下水位(cm以下) 80

グライ層の位置(cm以下) 60

腐 植 (%以上) 3 5 3

pH (H O) 5.5~6.5 5.5~6.5 6.0~6.52

pH (KCl) 5.0~6.0 5.0~6.0 5.5~6.0

陽イオン交換容量 (CEC meq/100g乾土) 5~20 15~35 15~25

塩基飽和度 (%) 72~85 60~85 80~95

石灰飽和度 (%) 60~65 50~65 70~75

苦土飽和度 (%) 10~15 8~15 8~15

カリ飽和度 (%) 2~ 5

塩基含量(陽イオン交換容量(CEC)で異な 15meqの場合 20meqの場合 18meqの場合る)

交換性石灰[CaO] (meq/100g乾土) 9.0~ 9.8 10.0~13.0 12.6~13.5

交換性苦土[MgO] (meq/100g乾土) 1.5~ 2.3 1.6~ 3.0 1.4~ 2.7

交換性カリ[K2O] (meq/100g乾土) 0.3~ 0.8 0.4~ 1.0 0.4~ 0.9

交換性石灰[CaO] (mg/100g乾土) 252~273 280~364 353~378

交換性苦土[MgO] (mg/100g乾土) 30~ 45 32~ 61 29~ 55

交換性カリ[K2O] (mg/100g乾土) 14~ 35 19~ 47 17~ 42

CaO/MgO (当量比) 4~ 8

MgO/K2O (当量比) 2~ 5

可給態リン酸 (mg/100g乾土) 10~50 5~50 10~50

EC (1:5 mS/cm以下) 0.3

無機態窒素 (mg/100g乾土以下) 3 5 3

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イ 各種肥料の特徴

有機農業で使用される家畜ふん堆肥や米ぬか等の有機質資材は,窒素の肥効を主に考慮

して施用されるが,窒素以外の肥料成分も含まれる。これら資材の肥料成分を十分理解し

た上で使用する必要がある。そこで,県内の有機農業者が使用している資材の肥料成分に

ついて調査したので紹介する。

(ア)各種資材の肥料成分

表6に県内で主に使用される有機質資材の肥料成分を示す。県内の有機農業生産者団体

で主に使用されている資材を聞き取り調査し,その資材リストの中から使用頻度の高い資

材の肥料成分を分析した。調査した有機質資材は,現物当たりにおける窒素含有率が2.2

~7.8%,リン酸含有率は2.5~15.7%,カリ含有率は0.5~4.9%と使用資材毎の成分含有

率に幅があった。また,表記した資材以外にキーゼライト等の苦土肥料やカキガラ石灰等

の石灰質資材も使用されていた。

表6 県内有機農業者に主に使用されている有機質資材の肥料成分

項目 肥 料 成 分 含 有 率 (現物当たり%)

種類 窒素 リン酸 カリ 石灰 苦土

有機混合肥料A 7.1 4.7 2.9 0.1 1.3有機混合肥料B 2.2 7.2 4.9 19.5 1.9有機混合肥料C 7.8 3.7 2.1 3.7 0.8米ぬかA 2.3 4.1 1.9 0.1 1.4ナタネ油粕A 6.8 2.5 1.6 1.1 0.9魚粕A 6.6 15.7 0.5 21.0 0.7牛ふん堆肥A 1.0 1.4 2.2 1.1 0.6鶏ふん堆肥A 3.4 7.2 4.9 19.5 1.9

(イ)有機質資材の特徴と養分施用量

調査した有機質資材のうち,単体で使用頻度の高い米ぬか,ナタネ油粕,魚粕について

それぞれの特徴を紹介する。ナタネ油粕の窒素は化学肥料に比べて遅効性で,リン酸,カ

リ含有率が低い。魚粕の窒素は分解しやすく速効性であり,骨を多く含むことから,リン

, 。 , ,酸が多く カリはほとんど含まれてない 米ぬかは脂質が多く 炭素と窒素の比率(C/N比

炭素率)が高いため,土壌中での分解が遅いとされる。

表7に有機質資材の養分供給量を示す。ナタネ油粕と魚粕を200kg/10a施用した場合の

窒素施用量は13.2~13.6kg/10aで,バレイショ作の化学肥料の施肥基準量と同程度になる

, 。 ,が リン酸とカリは資材によって過不足が生じる ナタネ油粕ではリン酸とカリが不足し

魚粕ではリン酸が多くなる。米ぬかでは肥料成分が少なく,他の資材に比べ養分供給量は

少なくなる。

また,作物生産を行う上では,窒素肥効の特徴を考慮しなければならない。ナタネ油粕

や魚粕,米ぬかの窒素の無機化率は6割程度で,各資材ごとに特徴が少しずつ違う。各資

材の特徴をよく理解して上手に活用した方がよい。

8

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表7 有機質資材からの養分供給量

【 比 較 】項目 有機質資材 200kg/10aからの養分供給量(kg/10a) バレイショ作の場合の

化学肥料の施肥基準量成分 牛ふん堆肥 ナタネ油粕 魚粕 米ぬか (kg/10a)

窒 素 2.0 13.6 13.2 4.6 14リン酸 2.8 5.0 31.4 8.2 13カ リ 4.4 3.2 1.0 3.8 14

ウ 有機質資材の施用時期別の窒素無機化の推定

, ,野菜の中には ホウレンソウのように茎葉を繁茂させ栄養生長段階で収穫する葉茎菜類

茎葉を繁茂させつつ果実肥大をさせるトマトなどの果菜類等,生育や養分吸収の特性が様

々である。このことから,作物の収量・品質を確保する施肥管理は作物の生育特性や養分

吸収特性を考慮し,作物が必要な養分量を必要な時期に供給する必要がある(表9:野菜

のタイプ別養分吸収パターン 。)

有機栽培では作付けされる野菜品目は多く,周年通して栽培される。一方,有機質資材

の窒素肥効は,温度の影響を大きく受けるため季節によって異なる。そこで,よく利用さ

れる有機質資材について,施用時期別の窒素無機化量をアメダスポイント加世田の平均気

温の平年値と各資材の窒素無機化特性値を用いて推定した。

牛ふん堆肥と鶏ふん堆肥は,施用時期が異なっても窒素無機化量や無機化速度に大きな

差はみられない(図6,図7 。ナタネ油粕および魚粕は施用時期別の窒素無機化率は異)

なり,ナタネ油粕の窒素無機化率では,50%に到達する時期が,8月施用条件で10日,6

月施用条件で16日,10月施用条件で17日,4月施用条件では26日,2月及び12月施用条件

で40日以上である(図8 。魚粕はナタネ油粕に比べると窒素無機化が若干早く,窒素無)

機化率が50%に到達する時期は,8月施用条件で8日,6月施用条件で13日,10月施用条

件で14日,4月施用条件で22日,2月及び12月施用条件で35~37日になる(図9 。)

ナタネ油粕の窒素無機率化が50%以上に到達する日数は,施用時期の違いで30日以上の

差があり,魚粕では25日以上の差がある。有機栽培で冬期に多く作られる軟弱野菜は生育

期間が短いため,低温期は窒素無機化速度を考慮して施肥時期を早める必要がある。

有機質資材からの窒素無機化は有機態窒素の種類や地温などの影響をうけ,各資材ごと

の窒素無機化量は積算温度に依存

する。ナタネ油粕と魚粕の積算温 表8 積算温度に対する窒素無機化率の推測値

度に対する窒素無機化率の推移を

みると積算温度400℃では両肥料

とも窒素無機化率が50%を超える。

有機質資材の施用は,地域や季節

に合わせて積算温度を考慮して,

その時期,量を決定する(表8,

図10・11 。)

なたね油粕 魚粕

100 21 24200 35 38300 45 48400 51 54500 55 58600 56 61700 57 62800 57 63900 57 63

1000 57 63

積算温度(℃)無機化率(%)

9

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表9 野菜のタイプ別養分吸収パターン

(相馬,財団法人日本土壌協会「野菜の栽培特性に合わせた土づくりと施肥管理」を一部改変)

10

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図6 牛ふん堆肥の施用時期別 図7 鶏ふん堆肥の施用時期別窒素無機化率の推移 窒素無機化率の推移

図8 ナタネ油粕の施用時期別 図9 魚粕の施用時期別窒素無機化率の推移 窒素無機化率の推移

図10 ナタネ油粕の積算温度に対する 図11 魚粕の積算温度に対する窒素無機化率の推移 窒素無機化率の推移

11

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【成果情報①】

【成果の内容】

【成果の活用面・留意点】

有機質資材の施用時期別窒素無機化率

・有機質資材の施用時期別窒素無機化を比較検討した。

・低温期では有機質資材の窒素無機化速度が遅いため,窒素無機化速度を考慮して施用時期を早める。

【成果の特徴】

連絡先:生産環境部土壌環境研究室 (TEL 099-245-1156)

・なたね油粕および魚粕における窒素無機率化率が50%以上に到達する日数は,施用時期の違いで25~30日の差がみられる。

・両資材とも窒素無機化率は,積算温度400℃で50%を超え,地域や季節に合わせて積算温度を考慮して施用時期を決められる。

表 積算温度に対する窒素無機化率の推定値

図 施用時期別の窒素無機化率(左:なたね油粕,右:魚粕,アメダス:加世田)

なたね油粕 魚粕100 21 24200 35 38300 45 48400 51 54500 55 58600 56 61700 57 62

800 57 63900 57 63

1000 57 63

無機化率(%)積算温度

12

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【成果情報②】

【成果の内容】

【成果の活用面・留意点】

土づくりのための堆肥施用量と土づくり期間

・新規に有機栽培を行うほ場における土づくりのための堆肥施用量と土づくり期間について検討した。

・牛ふん堆肥4t/10a(年間投入量)施用開始から3年で,可給態リン酸含量および可給態窒素含量の上昇がみられ, 可給態窒素が5mg/100gに到達し,可給態リン酸含量は土壌診断基準の上限近くまで到達し,3年間で土づくりができる。

・牛ふん堆肥2t/10a連用は,可給態窒素の増加がみられず,地力が維持する程度である。

【成果の特徴】

連絡先:生産環境部土壌環境研究室 (TEL 099-245-1156)

・有機栽培農家が新たに借りる耕作放棄地や借地等の地力が低い場合,土づくりに取り組む際の参考となる。

・土壌分析を定期的に実施し,分析結果が土壌診断基準値を超えた場合は,適宜資材投入量を調整する。

図 土壌養分の変化(左:可給態窒素,右:可給態リン酸)

堆肥および肥料施用量(1作当たり,年2作体系)慣行区 牛ふん堆肥 1t/10a 化学肥料(N:P2O5:K2O=20:20:20kg/10a)有機区 牛ふん堆肥 2t/10a,鶏ふん堆肥500kg/10a,油粕200kg/10a

01234567

栽培

キュ

ウリ

葉ネ

キュ

ウリ

ホウ

レンソウ

キュ

ウリ

ホウ

レンソウ

オク

ホウ

レンソウ

オク

H21 H22 H23 H24 H25

可給

態窒

素(m

g/1

00

g乾土

) 慣行有機

0

10

20

30

40

50

栽培

キュ

ウリ

葉ネ

キュ

ウリ

ホウ

レンソウ

キュ

ウリ

ホウ

レンソウ

オク

ホウ

レンソウ

オク

ラ春

H21 H22 H23 H24 H25

可給

態リ

ン酸

(m

g/1

00

g乾土

慣行

有機

13

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【成果情報③】

【成果の内容】

【成果の活用面・留意点】

リン酸およびカリの減肥ができる有機物施用法

・有機栽培におけるリン酸とカリの過剰土壌の施肥改善対策を検討した。・有機質肥料の中で窒素に対してリン酸とカリ成分が低いナタネ油粕施用量を増や

し,牛ふん堆肥施用量を年間4t/10aから2t/10aに減らすことで,リン酸およびカリの養分投入量減らすことができる。

・ナタネ油粕を増量,牛ふん堆肥を減量した施用でも,リン酸およびカリ養分の多い有機物施肥法と同等の収量を得られる。

【成果の特徴】

連絡先:生産環境部土壌環境研究室 (TEL 099-245-1156)

・土壌診断の結果,リン酸およびカリ含量が土壌診断基準値を超えた場合には本施肥法に切り替える。

堆肥および肥料施用量(1作当たり,年2作体系)有機区 牛ふん堆肥 2t/10a,鶏ふん堆肥500kg/10a,油粕200kg/10a油粕増量区 牛ふん堆肥 1t/10a,鶏ふん堆肥500kg/10a,油粕300kg/10a

図 収量の比較

(左:平成25年,オクラ,品種「指宿グリーン」,右:夏秋キュウリ,品種「久留米久太郎」)土壌条件:可給態リン酸39mg/100g,カリ飽和度3%(38mg/100g乾土)

0

50

100

150

200

250

有機 油粕増量

果実

収量

(kg

/a)

0

50

100

150

200

250

300

350

有機 油粕増量

果実

収量

(kg

/a)

14

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【成果情報④】

【成果の内容】

【成果の活用面・留意点】

有機栽培土壌の物理性

・有機栽培開始から3年目で,孔隙率(固相間のすきまで水や空気で満たされる)が高まり,土の膨軟性を表す指標が向上していた。

【成果の特徴】

連絡先:生産環境部土壌環境研究室 (TEL 099-245-1156)

・有機栽培農家の土づくりのための目安となる。

土の膨軟性 保水性

注)孔 隙 率:孔隙は土壌における固相間のすきまのことで,液相と気相の和有効水分:植物が吸収可能な土壌水分

6061626364656667686970

慣行 有機

孔隙

率(%

0

2

4

6

8

10

12

14

16

慣行 有機

有効

水分

(m

l/10

0ml)

堆肥および肥料施用量(1作当たり,年2作体系)慣行区 牛ふん堆肥 1t/10a 化学肥料(N:P2O5:K2O=20:20:20kg/10a)有機区 牛ふん堆肥 2t/10a,鶏ふん堆肥500kg/10a,油粕200kg/10a

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(2) 病害虫管理

ア 基本的な考え方

有機栽培では化学農薬を用いることができないので,病害虫対策については,栽培管理

の面から,作物を病害虫が発生しにくい体質に改善すること,また病害虫が発生しにくい

土壌環境や栽培環境を整えることが重要になる。それでも病害虫の発生が予想され,その

制御が困難な場合には,有機 規格に適合した農薬の使用を検討することになる。JAS

しかし,野菜の有機栽培においては,気象条件の変化などにより病害虫が大発生して大

きな被害を受けることがある。そのため,病害虫の発生の実態に即した対応策をとる必要

がある。基本的には,ほ場を常によく観察して病害虫の発生状況を把握するとともに,病

害虫の種類を特定し,それに応じた適切な対応を早期にとることが重要である。

野菜の有機栽培における病害虫対策としては,耕種的防除対策(抵抗性品種の使用,播

種期の移動など ,物理的防除対策(防虫ネットなどによる遮断や光反射資材の使用,太)

陽熱消毒など ,生物的防除対策(天敵や微生物製剤の使用など)がある。)

(ア)耕種的防除

a 播種期,定植期の移動による病害虫の回避

環境条件との関係で病原菌,害虫が特に多くなる時期があるので,播種期や定植期をず

らしてその時期を避ける。これには,気象変動に対するリスク分散の意味もある。

b 抵抗性品種の選択

野菜の種類によっては,特定の病害に抵抗性のある品種があるので,極力そうした品種

を利用する(例えば,ホウレンソウのべと病,ハクサイの根こぶ病抵抗性品種など 。)

c 土づくり・適正施肥

健全な生育をした野菜は病害虫に侵されにくくなるが,そのためには土づくりが欠かせ

ない。特に,窒素過多になると軟弱な生育となり,病害虫が発生しやすい素地を持つこと

になるので注意する。また,未熟な有機物は害虫や土壌病害の発生を促すので注意する。

d 排水対策

レタスなどの軟腐病,タマネギのべと病などは排水不良圃場で発生しやすい。また,一

般に排水不良地では生育が不良となり,軟弱な生育が病気を誘発して伝染を拡大するので

注意する。

e 輪作,混作体系の導入

連作をすると特定の病害虫が多くなるので輪作体系をとることが重要である。また,混

作すると作物の組み合わせによっては病害虫が回避される。

f 対抗植物による防除

土壌センチュウ対策としてエンバクやマリーゴールド,クロタラリア等を導入すること

16

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により土中または植物組織内外のセンチュウの発育阻害を図る。各種センチュウに対する

密度抑制効果は種類や品種によって異なる(2 作物別栽培管理技術 表1「各センチュ

ウ対抗植物のセンチュウ密度抑制効果」を参照 。)

g ハウス等の適切な温湿度管理

湿度が高いと病気が発生しやすい(灰色かび病等)ので,ハウス等では適切な温湿度管

理に留意する。

h 整枝,せん定

整枝,せん定の目的は作物によって異なるが,これらの作業を通じて植物体を健全に保

ち,病害虫の被害の軽減を図る間接的な効果と,ほ場内または植物体の日当たりや通風を

確保することで病害虫の発生しにくい環境を作ること,病害虫の発生源または感染源を除

去することで病害虫のまん延を防ぐこと等の直接的な効果がある。

i 病害虫発生ほ場の管理

病害虫に侵された株や葉は病原菌や害虫の発生の温床になるので,ほ場外に持ち出す。

j 残渣処理

栽培終了後は植物残渣をほ場から持ち出し,土中に残った残渣はすき込みを行って早期

に腐熟させる。これらの処理は,病害虫の感染源をほ場から除去し,次作への影響を避け

る意味で大切である。

(イ)物理的防除

a 防虫ネット等による害虫侵入防止

被覆栽培やハウスの入り口等で利用し,害虫が侵入しないようにする。目的とする害虫

により目合いを変える(表1 。)

表1 害虫侵入防止のためのネットの目合いの目安

目合い 対象害虫の種類

~ 鱗翅目害虫(ヨトウ類,タバコガ類,アオムシ)2 4mm

以下 鱗翅目害虫(コナガ,カブラハバチ)1.0mm

以下 アブラムシ類,キスジノミハムシ0.8mm

以下 ハモグリバエ類0.6mm

以下 アザミウマ類0.5mm

以下 コナジラミ類0.4mm

b 雨よけ,トンネル栽培の導入

作物が雨にぬれると病原菌の胞子が発芽しやすくなる(ホウレンソウ立枯病等)。また,

湿潤あるいは多湿条件下で病原菌の繁殖・伝搬が盛んになることが多いので,それを防ぐ

ために雨よけやトンネル被覆を行い,降雨が直接雨にかからないようにする。

17

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c 土壌還元消毒

太陽熱,水および米ぬか(又はふすま)を利用した土壌消毒法。土に米ぬか(又はふす

ま)を混和し,一時的に湛水状態となるまで大量にかん水した後,透明フィルムで被覆し

て地温を ℃以上まで高める。このときに混和した米ぬか(ふすま)を栄養分として土30

壌微生物が増殖し,その際の酸素の消費による土壌の還元状態(酸素欠乏 ,有機物から)

生成される酢酸などの有機酸,微生物間の拮抗作用,太陽熱と発酵熱による高温等の複合

的要因によって,病害虫に対する防除効果が得られる。

d 太陽熱消毒

太陽熱,水及び粗大有機物(稲わらなど)を利用した土壌消毒法。粗大有機物を投入し

た後,土壌水分量が %以上になるまでかん水し,透明フィルムで被覆して地温を ℃60 40

以上に高めることにより,病害虫に対する防除効果が得られる。

e マルチ栽培の導入

泥の跳ね上がりによる腐敗病等の蔓延防止が可能である。

f 捕殺

ハスモンヨトウなどは,卵~若齢幼虫のうちは集団で生息するので,早めに発見し,ま

とめて捕殺する。

g 黄色蛍光灯などの活用

夜間に活動するヨトウガや,ハスモンヨトウなどに対して,夜間に一定以上の明るさに

遭遇させることで 「昼間の状態」であることを認識させ,活動を阻害する。,

h 光反射資材の使用

アザミウマ類やアブラムシ類は,背中から太陽光を受けることによって飛翔時のバラン

スを保っていると考えられているため,光反射資材を使用することによって太陽光を反射

させ,ほ場周囲に散乱させることで害虫の飛翔活動を阻害し,ほ場への侵入防止効果が期

待できる。シルバーマルチやタイベックシートなどをマルチとして使用する方法がある。

i 近紫外線除去フィルムの利用

人間が視覚で認識できる光の波長はおおむね ~ だが,多くの昆虫は ~380 780nm 250

を視覚で感じるといわれる。 以下の近紫外線域の波長を通さない「近紫外線600nm 380nm

除去フィルム」で覆われた条件下は昆虫にとって暗黒に近い状態になり,正常な活動が阻

害される。このフィルムを被覆することによって,アザミウマ類やアブラムシ類の侵入防

止効果が見込める。

18

Page 25: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

(ウ)生物的防除

a 生物農薬の利用

各種の天敵昆虫・ダニ類,微生物殺虫剤,微生物殺菌剤が生物農薬として登録されてい

る。これらは有機 規格(後述)で使用が認められている。JAS

b 土着天敵の活用

自然環境に生息している昆虫その他の生物で,農業害虫の天敵となるものが数多く存在

する。これを活用することは有機農業においては非常に重要となる。

c 天敵の機能を高める方法

一般に,天敵は餌となる害虫がいない条件では,ほ場で定着,増殖することは難しい。

, , ,一方 害虫が増加してから天敵が発生しても 天敵による効果が害虫の増殖に追いつかず

作物に被害が発生する危険性が高い。そこで,ほ場およびその周辺環境における天敵の定

着を促すため,以下のような方法が使用される。

(a)バンカー法

栽培作物を加害しない代用餌を着生させた植物(バンカー植物)をほ場に導入し,この

植物上で天敵を定着,増殖させる。その後,害虫の発生に伴い,バンカー植物で増殖した

天敵が害虫を捕食,寄生する。

(b)天敵温存植物(インセクタリープラント)

, , , ,天敵の餌となる昆虫類が発生したり 花粉や蜜源を供給することで 天敵を誘引 定着

。 。増殖させる植物をいう 主にほ場の周囲に植栽して土着天敵を活用した害虫防除をねらう

ソルゴーでは「ヒエノアブラムシ (このアブラムシは野菜類には寄生しない)が発生」

し,これを餌としてテントウムシなどの有用な土着天敵が増加する。また,天敵の餌とな

る花粉や蜜源を供給するソバ,ハーブ類なども天敵温存植物として注目されている。

実際には,病害虫の発生状況は地域,野菜の種類,作型,その年の気象条件等によって

異なるので,発生状況に応じて適切と考えられる方法を組み合わせて実施することが必要

である。

(エ)有機JAS規格で使用が認められている農薬

, ,有機農産物の生産は原則 化学的に合成された農薬の使用を避けることとなっているが

有害動植物により農産物に多大な被害が予測される場合であって,耕種的防除,物理的防

除,生物的防除によって効果的に防除できない場合には,表2の農薬に限り使用可能であ

る。

19

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表2 有機JAS規格により使用が認められている農薬( 有機農産物の日本農林規格」「

( 終改正 平成 年 月 日農林水産省告示第 号)より)24 3 28 833

なお,有機JAS規格に適合した農薬を使用する場合も,あくまで農薬取締法に基づい

た使用が求められるので,使用基準の確認が必要である。

農  薬 基  準

除虫菊乳剤及びピレトリン乳剤除虫菊から抽出したものであって,共力剤としてピペロニルブトキサイドを含まないものに限ること。

なたね油乳剤

マシン油エアゾル

マシン油乳剤

デンプン水和剤

脂肪酸グリセリド乳剤

メタアルデヒド粒剤 捕虫器に使用する場合に限ること。

硫黄くん煙剤

硫黄粉剤

硫黄・銅水和剤

水和硫黄剤

石灰硫黄合剤

シイタケ菌糸体抽出物液剤

炭酸水素ナトリウム水溶剤及び重曹

炭酸水素ナトリウム・銅水和剤

銅水和剤

銅粉剤

硫酸銅 ボルドー剤調製用に使用する場合に限ること。

生石灰 ボルドー剤調製用に使用する場合に限ること。

天敵等生物農薬

天敵等生物農薬・銅水和剤

性フェロモン剤農作物を害する昆虫のフェロモン作用を有する物質を有効成分とするものに限ること。

クロレラ抽出物液剤

混合生薬抽出物液剤

ワックス水和剤

展着剤カゼイン又はパラフィンを有効成分とするものに限ること。

二酸化炭素くん蒸剤 保管施設で使用する場合に限ること。

ケイソウ土粉剤 保管施設で使用する場合に限ること。

食酢

燐酸第二鉄粒剤

炭酸水素カリウム水溶剤

炭酸カルシウム水和剤 銅水和剤の薬害防止に使用する場合に限ること。

ミルベメクチン乳剤

ミルベメクチン水和剤

スピノサド水和剤

スピノサド粒剤

還元澱粉糖化物液剤

20

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イ 土着天敵の発生消長

農薬散布が制限される有機農業では,ほ場に発生する土着天敵の働きを生かした害虫防

除対策が特に重要となる。そこで,露地果菜類における害虫と土着天敵類の発生消長を調

査するとともに,ほ場の周囲に植栽した天敵温存植物(ソルゴー,ソバ)での天敵類の発

生についても調べたので紹介する。

(ア)有機栽培ほ場でみられる主な土着天敵

a ヒメハナカメムシ類(アザミウマなどの天敵)

タイリクヒメハナカメムシ,コヒメハナカメムシ,ナミヒメハナカメムシなどの土着種

。 , 。 ,がある 体長は成虫が 前後 老熟幼虫が 前後である 畑地や雑草地で生息し2mm 1.5mm

主にアザミウマ類を捕食するが,ほかにハダニ類,アブラムシ類といった微小な虫も食べ

る。

b アカメガシワクダアザミウマ(アザミウマの天敵)

成虫は黒色で体長は 弱,幼虫は紅白の縞模様で体長 弱である。畑地や雑草2mm 1.5mm

地で生息し,ミナミキイロアザミウマなどの害虫アザミウマ類を捕食する。

成虫 幼虫

成虫 幼虫

21

Page 28: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

c カブリダニ類(ハダニなどの天敵)

ミヤコカブリダニ,ケナガカブリダニなど多くの土着種が畑地や樹園地で確認されてい

る。体長は雌成虫で 前後であり,ハダニ類の天敵として知られるものが多いが,0.4mm

ハダニ以外にアザミウマ類やコナジラミ類の幼虫,チャノホコリダニなどを捕食する種類

もある。

d テントウムシ類(アブラムシの天敵)

畑地やその周辺の草地で多くの種が確認される。ナナホシテントウ,ヒメカメノコテン

トウ,ナミテントウなどは主にアブラムシ類を捕食する天敵である。一方,ニジュウヤホ

シテントウなどはナスやジャガイモの葉を食害する害虫である。

成虫(ナナホシテントウ)

幼虫

雌成虫

8mm

成虫(ヒメカメノコテントウ)

4mm

22

Page 29: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

e ヒラタアブ類(アブラムシの天敵)

成虫は花に飛来して花蜜や花粉を摂食し,アブラムシのコロニー(集団)の近くに産卵

する。ふ化した幼虫がアブラムシ類を捕食する。

f クサカゲロウ類(アブラムシの天敵)

主にアブラムシなどを捕食する。成虫はレース模様の翅を持ち,体色は緑色や黄緑色な

どである。卵は糸状の卵柄の先に産み付けられる。幼虫のなかには背面にいろいろな塵を

背負って移動するものがある。

成虫

成虫

幼虫

幼虫卵

23

Page 30: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

g ショクガタマバエ(アブラムシの天敵)

。 , , ,幼虫がアブラムシ類を捕食する 幼虫の形は紡錘形で 食べたアブラムシにより赤 橙

黄色などの色になる。アブラムシのコロニー(集団)を探すとしばしば発見される。

h アブラバチ類(アブラムシの天敵)

成虫がアブラムシに産卵する。卵はアブラムシの体内でふ化し,幼虫はアブラムシを食

べて育ち,球形の「マミー(寄生蛹 」を形成して,そこから次世代のアブラバチ成虫が)

羽化する。

幼虫

成虫 マミー

24

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表3 主な害虫の発生時期と土着天敵の活動時期

(実際の発生パターンは,年次,品目,周辺環境等により異なる。特に土着天敵は,

一般的には害虫が増加してから発生がみられる )。

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

(害虫) カンザワハダニ

(天敵)ミヤコカブリダニ

ケナガカブリダニ

害虫・天敵の種類

<カンザワハダニとその土着天敵>

<ミナミキイロアザミウマとその土着天敵>

<アブラムシ類とその土着天敵>

害虫の発生および土着天敵の活動時期は,以下の文献を参考にした。

静岡県植物防疫協会編(2003 「農作物病害虫診断ガイドブック」)

日本環境動物昆虫学会編(2009 「テントウムシの調べ方」)

馬場ら(2008 「天敵昆虫アカメガシワクダアザミウマHaplothrips brevitubus (Karny) の捕食レ)

パートリーおよび鹿児島大学農学部学内圃場における季節消長」鹿児島大学農場研報

農文協編(2004 「天敵大事典 生態と利用」)

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

(害虫)ミナミキイロアザミウマ

(天敵)タイリクヒメハナカメムシ

アカメガシワクダアザミウマ

害虫・天敵の種類

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

(害虫) ワタアブラムシ

(天敵) ヒラタアブ類

ナナホシテントウ

ヒメカメノコテントウ

クサカゲロウ類

ショクガタマバエ

アブラバチ類

害虫・天敵の種類

(越夏)

25

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(イ)ピーマンにおける害虫と土着天敵の発生消長

ピーマンは花数が多く,天敵類の植物質餌となる花粉も多いため,有機栽培のように農

薬散布の影響を受けない環境では,ヒメハナカメムシ類をはじめとする土着天敵が発生し

やすく,それがアザミウマなどの害虫被害を抑えるのに役立つと考えられる。

a 土着天敵が温存されたピーマンほ場と,天敵に影響の大きい農薬が繰り返し散布され

たピーマンほ場における害虫と土着天敵の発生の比較

露地ピーマンで,土着天敵の働きによる害虫被害の抑制効果を明らかにするために,天

敵温存区(定植後天敵に影響の小さい化学農薬を 回だけ散布し,ほ場周囲にソルゴーと1

) , ( ) ,ソバを栽植 と 農薬多散布区 天敵に影響の大きい化学農薬を定期的に散布 を設定し

害虫と土着天敵の発生を比較した。

害虫では,アブラムシ類の発生やミナミキイロアザミウマによる果実被害が農薬多散布

区で増加し,天敵温存区では抑制された(図1,2 。一方,土着天敵のヒメハナカメム)

シ類は天敵温存区でのみ継続的に発生が認められた(図3 。)

(耕種概要)

試験場所 農業開発総合センター露地ほ場

天敵温存区: の日にジアミド系殺虫剤(天敵への影響が小さい)を散布。

ほ場周囲にソルゴーとソバを植栽

農薬多散布区: の日にジアミド系殺虫剤(天敵への影響が小さい , の日に合成)

ピレスロイド系または有機リン系の殺虫剤(いずれも天敵への影響が大

きい)を散布。ソルゴー,ソバ植栽なし

ピーマン 平成23年5月9日定植 6月中旬~10月上旬収穫 品種「京波」

ソルゴー 平成23年5月9日播種 品種「三尺ソルゴー」

ソバ 平成23年5月9日播種 品種「信州大そば」

0

10

20

30

5/24 6/14 7/5 7/26 8/16 9/6 9/27

虫数

(頭/葉

天敵温存区

農薬多散布区

図1 ピーマン葉におけるアブラムシ類成幼虫数の推移

26

Page 33: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

(耕種概要)

試験場所 農業開発総合センター露地ほ場

天敵温存区: の日にジアミド系殺虫剤(天敵への影響が小さい)を散布。

ほ場周囲にソルゴーとソバを植栽

農薬多散布区: の日にジアミド系殺虫剤(天敵への影響が小さい , の日に合成)

ピレスロイド系または有機リン系の殺虫剤(いずれも天敵への影響が大

きい)を散布。ソルゴー,ソバ植栽なし

ピーマン 平成23年5月9日定植 6月中旬~10月上旬収穫 品種「京波」

ソルゴー 平成23年5月9日播種 品種「三尺ソルゴー」

ソバ 平成23年5月9日播種 品種「信州大そば」

0

20

40

60

80

100

6/17 7/8 7/29 8/19 9/9

被害

果率(

%)

天敵温存区

農薬多散布区

図2 ミナミキイロアザミウマによるピーマンの被害果率の推移

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

5/24 6/14 7/5 7/26 8/16 9/6 9/27

虫数

(頭

/花)

天敵温存区

農薬多散布区

図3 ピーマン花におけるヒメハナカメムシ類成幼虫数の推移

27

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b 有機栽培(農薬散布なし)のピーマンにおける害虫と土着天敵の発生

農薬を全く散布していない有機栽培ほ場のピーマンでは,アブラムシ類は育苗期から定

植直後にかけて一時的に多発したが,その後は減少した(図4 。また,アザミウマの被)

害果は栽培期間中を通じて少なかった(図5 。天敵では,場内試験の天敵温存区と同様)

に,ヒメハナカメムシ類が継続して発生した(図6 。)

(耕種概要)

試験場所 姶良市の有機栽培産地ほ場

有機A=農薬散布なし ほ場周囲にソルゴー,ソバを植栽

有機B=農薬散布なし ソルゴー,ソバ植栽なし

ピーマン 平成23年4月21日定植 6月中旬~10月上旬収穫 品種「京波」

ソルゴー 平成23年4月18日播種 品種「三尺ソルゴー」

ソバ 平成23年4月18日播種 品種「信州大そば」

図6 ピーマン花におけるヒメハナカメムシ類成幼虫数の推移

0

10

20

30

40

50

6/29 7/13 7/27 8/10 8/24 9/7 9/21

被害

果率

(%)

有機A

有機B

0

2

4

6

8

10

12

5/2 5/30 6/27 7/25 8/22 9/19

虫数

(頭

/葉)

有機A

有機B

図4 ピーマン葉におけるアブラムシ類成幼虫数の推移

図5 ミナミキイロアザミウマによるピーマンの被害果率の推移

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

6/1 6/29 7/27 8/24 9/21

虫数

(頭

/花)

有機A

有機B

28

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(ウ)オクラにおける害虫と土着天敵の発生消長

オクラの頂部(頂芽部 上位2葉)における土着天敵ヒメハナカメムシの発生は,慣行+

化学農薬(天敵に影響の強いネオニコチノイド系殺虫剤など)を散布した慣行栽培区では

ごくわずかであったが,有機栽培で使用できる気門封鎖型殺虫剤やBT剤のみを散布した

有機栽培区では,頂部当たり ~ 頭の発生が認められた(図7 。有機栽培区におけ0.1 0.3 )

, ( )。る害虫アザミウマの発生は頂部当たり ~ 頭で 慣行栽培区と同程度であった 図80 0.2

(耕種概要)

試験場所 農業開発総合センター露地ほ場

有機栽培区: の日に有機JAS適合資材(①=還元澱粉糖化物液剤,②=還

元澱粉糖化物液剤およびBT剤)を散布。ほ場周囲にソルゴーと

ソバを植栽

慣行栽培区: の日に慣行化学農薬を散布。ソルゴー,ソバ植栽なし

オクラ 平成24年4月25日播種 6月中旬~8月収穫 品種「指宿グリーン」

ソルゴー 平成24年4月24日播種 品種「三尺ソルゴー」

ソバ 平成24年4月18日播種 品種「信州大そば」

図8 オクラ頂部における害虫アザミウマ成幼虫数の推移

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

5/23 6/6 6/20 7/4 7/18 8/1 8/15

頂部

当た

り成

幼虫

数(頭

)

有機栽培区

慣行栽培区

0

0.1

0.2

0.3

5/23 6/6 6/20 7/4 7/18 8/1 8/15

頂部当

たり

成幼

虫数(頭) 有機栽培区

慣行栽培区

図7 オクラ頂部におけるヒメハナカメムシ成幼虫数の推移

29

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ヒメハナカメムシはオクラの植物体から発生する透明な分泌物(図9)を餌として利用

, 。できるため オクラはヒメハナカメムシ類の生息場所として適していると考えられている

図9 オクラ頂部に生息するヒメハナカメムシ成虫と

オクラに発生する透明の分泌物

(この分泌物はヒメハナカメムシの餌になる)

30

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(エ)キュウリにおける害虫と土着天敵の発生消長

キュウリ(5月上旬定植,6~7月収穫)の有機栽培区では,定植後間もなくアブラム

2シ類の発生が認められたが 発生初期に昆虫病原糸状菌製剤 有機JAS適合資材 を約, ( )

, ,週間間隔で 回散布したところ アブラムシ類の密度増加が止まるとともにアブラバチ類2

ヒラタアブ類など土着天敵の発生が認められ,定植 ヶ月後以降のアブラムシ類の密度は1

慣行栽培区に比べて抑制された(図 , , 。10 11 12)

(耕種概要)

試験場所 農業開発総合センター露地ほ場

有機栽培区: の日に有機JAS適合資材(いずれも昆虫病原糸状菌製剤)を

散布。ほ場周囲にソバを植栽

慣行栽培区: の日に慣行化学農薬を散布。ソバ植栽なし

キュウリ 平成25年5月8日定植 6月上旬~7月中旬収穫 品種「夏すずみ」

ソバ 平成25年4月19日播種 品種「信州大そば」

図10 キュウリ葉におけるアブラムシ類成幼虫数の推移

図11 キュウリ葉におけるアブラバチ類成虫数の推移

図12 キュウリ葉におけるヒラタアブ類幼虫数の推移

0

0.05

0.1

0.15

0.2

5/15 5/22 5/29 6/5 6/12 6/19 6/26 7/3 7/10

成虫

数(

頭/葉

) 有機栽培区

慣行栽培区

0

0.05

0.1

0.15

0.2

5/15 5/22 5/29 6/5 6/12 6/19 6/26 7/3 7/10

幼虫

数(

頭/葉

) 有機栽培区

慣行栽培区

0

20

40

60

80

100

5/15 5/22 5/29 6/5 6/12 6/19 6/26 7/3 7/10

成幼

虫数

(頭

/葉) 有機栽培区

慣行栽培区

31

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(オ)天敵温存植物(ソルゴー,ソバ)における土着天敵の発生

ほ場周囲に天敵温存植物(土着天敵の餌となる昆虫や花蜜,花粉を供給し,天敵の繁殖

場所としての役割を果たす植物)を栽植することによって,ほ場及びその周辺環境に多様

な土着天敵が生息しやすい環境が形成される(図 。13)

ほ場の周囲に天敵温存植物として 月下旬に植栽したソルゴーでは, 月以降にヒエノ4 7

アブラムシが発生する(図 , 。ヒエノアブラムシはソルゴーの葉では増加するが,14 15)

野菜類には寄生しない。ソルゴーで増加したヒエノアブラムシを餌として,アブラムシの

天敵であるヒラタアブやテントウムシ類などが発生し,これら天敵がほ場内に移動して,

栽培している野菜の害虫の発生を抑制する。

また,ほ場周囲に 月中旬に栽植したソバでは,開花が始まる 月中旬頃から花にヒラ4 5

タアブ類の成虫が飛来し,ヒメハナカメムシ類やアカメガシワクダアザミウマも発生する

(図 。16)

図14 露地ピーマンほ場周囲に栽植したソルゴーに発生した

ヒエノアブラムシとテントウムシ成虫

(平成23年,農業開発総合センターほ場)

図13 露地ピーマンほ場周囲へのソルゴー,ソバの栽植

(平成23年,農業開発総合センターほ場)

32

Page 39: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

図16 露地ピーマンほ場周囲に植栽したソバの花における土着天敵の発生消長

試験場所:農業開発総合センター露地ほ場

平成23年3月28日にピーマンほ場の周囲に播種,降霜による発芽不良の

ため4月12日追播 品種「信州大そば」

図15 露地ピーマンほ場周囲に栽植したソルゴーにおけるヒエノアブラムシと

土着天敵の発生消長

試験場所 農業開発総合センター露地ほ場

平成23年4月27日にピーマンほ場の周囲に播種 品種「三尺ソルゴー」

0

50

100

150

200

7/7 7/21 8/4 8/18 9/1 9/15 9/29

虫数

(頭

/葉)

ヒエノアブラムシ

0

0.5

1

1.5

2

7/7 7/21 8/4 8/18 9/1 9/15 9/29

虫数

(頭

/葉)

テントウムシ類成虫,蛹,幼虫

0

0.1

0.2

0.3

7/7 7/21 8/4 8/18 9/1 9/15 9/29

虫数

(頭

/葉)

ヒラタアブ類幼虫

0

0.1

0.2

0.3

0.4

7/7 7/21 8/4 8/18 9/1 9/15 9/29

虫数

(頭/葉

タマバエ類幼虫

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

7/7 7/21 8/4 8/18 9/1 9/15 9/29

虫数

(頭

/葉)

クサカゲロウ類成虫,幼虫,卵

0

0.2

0.4

0.6

7/7 7/21 8/4 8/18 9/1 9/15 9/29

虫数

(頭

/葉)

クモ類

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

5/24 6/7 6/21 7/5 7/19 8/2 8/16

虫数

(頭

/花序

ヒメハナカメムシ類成幼虫

0

1

2

3

5/24 6/7 6/21 7/5 7/19 8/2 8/16

虫数

(頭

/花序

アカメガシワクダアザミウマ成幼虫

33

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ソルゴー,ソバともに晩霜の危険がなくなる時期(県本土平坦部では 月中旬頃)に播4

種する。いずれも湿害を受けやすいので,降雨前後の播種を避ける。また,ソルゴーやソ

バのための畦を設けて播種すると湿害が避けられる。

図17 果菜類ほ場周囲へのソルゴー,ソバの植栽例

(果菜類ほ場の両端に畦と平行にソバを植栽し,その外側を囲むようにソルゴーを

植栽する )。

果菜類(ピーマン,オクラ等)

ソルゴー

ソバ

ソバ

34

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ネコブセンチュウ

ネグサレセンチュウ

マメ科 クロタラリア ネマコロリ ○ -〃 ネマキング ○ ○サイラトロ - ○ -落花生 ナカテユタカ ○ ○

キク科 ステビア - ○ -マリーゴールド カルメン ○ ○

イネ科 ギニアグラス グリーンパニック ○ -〃 ナツカゼ ○ -〃 ソイルグリーン ○ -ソルゴー グリーンソルゴー ○ ×〃 つちたろう ○ ×

ユリ科 アスパラガス ハイデル × ○

センチュウ種注1)

科名 作物名 品種等

2 作物別栽培管理技術

(1)基本的な考え方

ア 輪作体系の重要性

野菜栽培では,同じ野菜を連続栽培すると,特定の養分の蓄積等の土壌理化学性の悪化

や,センチュウ,立枯病等の病害虫の多発等により著しい減収,品質低下により,栽培が

難しくなる,いわゆる「連作障害」が課題となる。一般栽培では,こうした障害を化学合

成農薬等で克服できるが,これら農薬等を使用しない有機栽培の対策としては,イネ科や

マメ科など科の異なる作物の組み合わせや,病害虫の発生の少ない作型の選択や抵抗性品

種及び抵抗性台木の利用など,効率的な輪作体系を導入することが必須である。

イ 輪作体系とセンチュウ対抗植物

輪作体系の試験研究は,過去に農業開発総合センター大隅支場(旧:農業試験場大隅支

) , ,場 において試験が取り組まれており 輪作作物の中にセンチュウ対抗植物を導入すると

後作でのセンチュウ被害を軽減できることが示されている。

表1 各センチュウ対抗植物のセンチュウ密度抑制効果

(○増殖を抑える,×抑えない,-判然とせずまたは調査なし)

注1)センチュウの種類はそれぞれサツマイモネコブセンチュウとミナミネグサレセンチュウが主体

(土壌線虫に対する対抗植物の効果と利用上の留意点,鹿児島県農業試験場大隅支場主任研究員

川崎修二,牧草と園芸第51巻第2号)

また,センチュウ対抗植物を緑肥(有機物)として圃場にすき込むことで,土づくり,

地力増進効果も期待できることから,輪作体系へのセンチュウ対抗植物を導入することの

効果は高い。

35

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(2)作目別栽培技術

ア キュウリ(夏秋普通栽培)

キュウリの有機栽培では,降雨,高温,台風,乾燥など気象災害や病害虫の発生,着果

負担等により草勢が低下し,収穫期間が約1~2か月と短期となりやすいため,作型の組

み合わせを考慮する。育苗および本圃での初期生育の確保及び安定した収量を得るための

有機質肥料の肥効特性に対応した施肥管理とともに,耐病性に優れる品種を選定し,有機

JAS 適合資材のみを用いた安定栽培に取り組む必要がある。

そこで,4月播種,5~6月収穫の作型における2トン/10aどり技術について,栽培

管理を紹介する。

(ア)品種

a 品種の特徴

(a) 久留米きゅう太郎(久育種苗)

果実は濃緑,果長は21~22cmで,秀品率は高い。主枝雌花率は5月播種で70~80%,果

実肥大が早く,収量が多い。

(b) Vアーチ(タキイ種苗)

果実は濃緑,果長21cmで揃い,秀品率が高い。主枝雌花率は4~5月播種で40~50%,

初期から収量が上がり,安定して後半まで続く。

(c) VR夏すずみ(タキイ種苗)

果長は21~22cm,果色は濃緑で照りがあり,果実は尻太果や胴細果等くず果の発生が少

なく,秀品率が高い。主枝雌花率は3~5月播種で50~60%である。

b 栽培特性

(a) 久留米きゅう太郎

, , ( ( , )うどんこ病 ベと病 ウィルス病 特にズッキーニ黄斑モザイクウィルス 以降 ZYMV

に強い。側枝が初期よりゆっくりと順次発生し,茎は中太で徒長しにくい。

(b) Vアーチ

うどんこ病,ベと病,ウィルス病(特に,ZYMV ,褐斑病に強く,じっくりと側枝が発)

, 。 , ,生し 栽培後半まで草勢が安定する 葉は小さく立性で 特に孫枝から短節間となるため

混みにくい草姿で管理作業がしやすい。

(c) VR夏すずみ

夏秋栽培で発生の多いうどんこ病・ベと病に強い 「夏すずみ」にZYMV抵抗性を付与し。

た品種である。草勢は中で,側枝の太さは中庸であるが,高温乾燥の続く盛夏期でも後半

までスタミナがあり,側枝の発生が良く,収穫の波も少ない。

(イ)育苗管理

a 育苗資材

(a) 床 土

床土は通気性・保水性の高い資材(土)を選ぶ。12㎝の育苗鉢を利用する場合,1,000

36

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鉢当たり,約800 準備する。床土は使用の40~50日前までに配合,堆積,ビニル被覆し

土と有機物がよく混合するように2~3回切り返しを行う。

直まきの場合は,10a当たり,140ml~160ml(2,100~2,400粒)必要となる。

有機JAS 適合資材のみを用いた育苗の場合,肥料の溶出が少なく生育が不安定となりや

, 。 ( ) ,すいため 有機質肥料の培土混和や追肥等で生育を確保する 育苗時 播種後10日目 に

鶏ふんペレットを追肥した場合,定植後の生育が早く,初期収量もやや高い。

供試した床土の配合例:山土10:牛ふん堆肥1(容積比)で混合。

図1 育苗時追肥の収量への影響(有機栽培3年目)

(品種:Vアーチ,平成23年5月31日定植,収穫期6月23日~7月15日)

鶏ふんペレット(商品名:デルプラス683((N6 P O 8 K O 3))で2 5 2

窒素量300mg/l,600mg/lずつ播種後10日目に追肥

(b) 温度管理

低温度は,播種から4~5日は18℃前後,その後は15℃,定植前は13~14℃を確保す

る。日中は,高温にならないよう通風,換気を十分に図る。

(c) かん水

少量で多回数のかん水に心がけ,夕方は鉢土の表面が軽く乾く程度の管理をする。

(d) 鉢ずらし

光に十分あて充実した苗にするため,本葉2枚展開時から,葉と葉がふれあわないよう

鉢の間隔を取る。鉢ずらし後は乾燥しやすいので注意する。

(e) 育苗日数と葉令

育苗日数30日程度で3.5~4枚程度が適苗である。若苗は過繁茂になりやすく,本葉5

~6枚の苗は活着が遅れ,中節位からの側枝発生が劣る。

(ウ)本圃管理

きゅうりの根は浅根性で,表土の浅い位置に大半が集中する。露地裁培では,発芽(定

植)初期から根を深く,広く張らせることが,高温,乾燥期の生育,収量を高めることに

なる。また,梅雨期を経過する作型では排水不良に伴う根腐れがみられるので,十分な排

水対策が必要である。

37

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a 定植準備

(a) 土づくり

土壌の保水性を高め,根の張りをよくするためにワラや堆肥等の有機物資材を施用し深

耕する。また,排水が悪い圃場はもみがら暗渠等の排水対策を行うか,それができない場

合は圃場周囲に明渠を施す。

(b) 土壌センチュウ対策

センチュウ対抗植物(クロタラリア,エンバク,ギニアグラス等)や土壌還元消毒が利

用できる。

(c) 整地・施肥

定植25~30日位前に切リワラや苦土石灰などの土壌改良資材を土とよく混合する。定植

10~15日前に基肥を施し,整地する。マルチ被覆する前に本ぽの土壌水分を考慮し,湿り

すぎの場合はやや乾燥させ,乾燥している場合はかん水や降雨後にマルチ被覆すると定植

後の水分コントロールがしやすい。

供試した施肥設計は以下の通りである。(単位:kg/10a)

施肥事例1 牛ふん堆肥2,000,油かす200,鶏ふん堆肥500,苦土石灰100

施肥事例2 牛ふん堆肥1,000,油かす300,鶏ふん堆肥500,苦土石灰100

※ 実際の施肥量や石灰質資材の施用量については,土壌診断結果に基づき施肥を行うこと。

施肥量は,窒素肥効率(牛ふん堆肥30% ,鶏ふん堆肥60%,油かす60%)から,窒素量

を約20kg/10aになるよう設定。

施肥事例2は,施肥事例1に比べて牛ふん堆肥を1t/10aに減施し,油かすを300kg/10a

に増施しており,この施肥法はリン酸およびカリの養分投入量を少ないため,牛ふん堆肥

等の連年施用に伴うリン酸およびカリ過剰といった土壌養分集積が懸念される場合に利用

できる。施肥事例2は施肥事例1に比べ6月までの初期収量が多く,7月の収量は施肥事

例1と同程度である。

図2 施肥法別の可販収量(有機栽培3年目)

(品種:Vアーチ,平成23年5月31日定植)

b 定植

(a) 栽培型と栽植密度

栽植密度は,栽培時期,生産目標,品種によって異なる。畝はできるだけ広い方が生育

は良好となる。また,畝の向きは南北向きが望ましい。

38

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30cm

115cm115cm 135cm

90cm

敷きわら

パイプ支柱

作 型 畝 幅 株 間 10a当たり株数

4月まき 250㎝ 2条 60㎝ 1,333本

5~6月まき 〃 〃 50 1,600

7~8月まき 〃 〃 50 1,600

(b) マルチ

肥料の流亡,地温上昇,乾燥,土壌の固結防止,アブラムシ,スリップスの忌避,雑草

対策として,ムシコン,シルバー,ミラーマルチを使用する。

マルチは,降雨後か,かん水後土壌水分が適量の時,定植(播種)7~10日前に行う。

c 管 理

厳しい環境の変化に耐えられるように,生育初期に着果より根張りを良くさせる管理を

優先させる。

(a) 支柱立て

長さ2.25mのパイプ支柱を2m間隔に立てる。きゅうりネット(150cm幅)は下の方を30

cmすかして張る。外側の支柱は,すじかいの竹を立て補強する。天井もマイカー線等で補

強する。上部は釘でネットを支え,台風直前にはネットとも,つるを下ろせるようにして

おく。

図3 支柱の設置方法

(b) 誘引と整枝

つるが伸び始めたら,早めにネットにテープナーで誘引する。生長するに従い,茎葉が

垂れないように誘引する。

主枝の下節5~6節までの子づるは早めに除去する。主枝の摘心は,主枝長が目の高さ

程度に伸びた時心抜きをすると20~25節位になる。

主枝の摘心後は,草勢維持のため子づるを2~3本放任し,子づるの摘心後は,孫づる

を4~5本程度,摘心せず残し,草勢の維持を図る。

1度に4本以上の側枝を摘むような強い整枝は草勢のバランスが乱れ,不良果の発生原

因となる。

(c) 摘 葉

摘葉は1株当たり1回2~3葉とするが,老化葉,枯葉,病気葉などはこの限りではな

い。早めに摘葉を行うことで,受光体勢の維持が図られる。

39

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d 病害虫管理

アブラムシ類: 5月中旬以降から発生がみられ,有機JAS 適合資材の還元でん粉糖化

物液剤,ボーベリア バシアーナ乳剤や,土着天敵類の温存管理技術が

利用できる。

事例:土着天敵の温存管理(天敵温存植物の植栽)

天敵温存植物:ソ バ(信州大そば,タキイ種苗)

ソルゴー(三尺ソルゴー,早生,短稈,子実型,雪印種苗)

植 栽 方 法 : 土着天敵の餌となる昆虫,花密,花粉を供給する天敵温存植物

(ソバ,ソルゴー)を,地域の晩霜日(県本土平坦地で4月中旬

頃)以降になるよう播種する(図3 。対象病害虫はアザミウマ)

類,アブラムシ類である。

図4 天敵温存植物の植栽事例

ベ と 病 : 梅雨期(5月下旬~)以降,着果負担による草勢低下に伴い,下

位葉から上位葉へ感染する。有機JAS 適合資材(銅水和剤等)の予

防散布,抵抗性品種,雨よけ栽培が利用できる。

e 収穫・出荷調整

100~150g/本で収穫すると,株疲れが少なく,収穫期間を長く保持し,品質が高まり

増収する。

キュウリソバ ソバ ソルゴー

ソルゴー

ソルゴー

ソルゴー

40

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(エ)内容成分評価

キュウリの内容成分について分析を行った結果,糖,アスコルビン酸(ビタミンC)及

びポリフェノールの含量については,各品種とも慣行栽培と有機栽培はほぼ同程度であっ

た。

図5 糖含量 図6 アスコルビン酸(ビタミンC)含量

(有機栽培1~3年目) (有機栽培1~3年目)

図7 ポリフェノール含量

(有機栽培1~3年目)

食味の評価については,有機栽培と慣行栽培の「夏すずみ 「Vアーチ」について,食」

感(歯ごたえ),渋み,甘み,香り,総合評価に関して実施したが,調査年度ごとに評価結

果が異なり,明確な傾向がみられなかった(データ略)。

有機栽培と慣行栽培は,養分吸収や生育速度,栽培土壌,病害虫など,品質に影響する

要因が異なるため,サンプルによって品質評価の結果が多様になるとの報告がある。

41

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規格外

5月 重量

下旬 上旬 中旬 下旬 小計 計 (kg/a)

慣行 2 63 132 15 210 212 16

有機 0 64 97 10 170 170 80 33

慣行 3 99 129 24 253 256 37

有機 0 86 106 14 206 206 81 24

慣行 6 70 124 19 213 219 27

有機 0 54 107 13 175 175 80 32

久留米きゅう太郎

VR夏すずみ

品種名栽培法別

可販果収量(kg/a)

6月 慣行比

Vアーチ

【成果情報⑤】

【成果の内容】

【成果の活用面・留意点】

夏秋どりキュウリ有機栽培の有望品種「久留米きゅう太郎」

・有機JAS 適合資材のみを用いた夏秋キュウリ栽培に有望な品種を選定した。・「久留米きゅう太郎」は側枝が初期よりゆっくりと順次発生する。・「久留米きゅう太郎」は初期生育が優れ,2トン/10aの収量が期待できる。・「久留米きゅう太郎」はうどんこ病,ベと病,ズッキーニ黄斑モザイクウィルス病

(ZYMV)に抵抗性がある。

【目的と特徴】

連絡先:園芸作物部野菜研究室 (TEL 099-245-1125)

・親づる1本仕立てとし,5節までの子づるは摘除し,その他の子づるは2節で摘心する。

第1表 旬別可販果収量(有機栽培3年目)

「久留米きゅう太郎」播種日 平成23年4月12 日定植日 平成23年5月6日

栽植密度 畦幅250cm 株間60cm 2条植(133株/a) 施肥量 牛ふん堆肥200,鶏ふん堆肥50 kg/a) 油かす20(窒素量:2.1)

42

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イ オクラ

オクラはアオイ科に属する一年生草本で,東北アフリカの原産である。高温性作物であ

り,昼温25~30℃,夜温20~23℃が生育適温である。根は直根性のため,排水が良く耕土

が深く,有機質に富む肥沃な土壌で生育が良い。オクラの有機栽培では,高単価が得られ

る6月までの収量及び生育後半までの安定した収量確保が重要となる。そのため,本圃で

の有機質肥料施肥技術やマルチ,トンネル栽培等の初期生育安定技術とともに,初期収量

が高く,規格外果の少ない品種を選定し,生育後半まで安定した収量確保に取り組む必要

がある。

そこで,4月播種,6~8月収穫の作型について,栽培管理を紹介する。

(ア)品種

a 品種の特徴

(a) ブルースカイZ(みかど協和種苗)

濃緑,陵角のはっきりした五角オクラで,収穫始は「ブルー

スカイ」に比べ4~5日早く,低節位から連続して着莢する極

早生種である。果莢の特徴は,濃緑色で,陵角が正五角,陵角

のはっきりした果面のへこみが少ない正五角形である。食味や

日持ちがすぐれている。

(b) 指宿グリーン(田上二葉種苗)

濃緑,陵角のはっきりした五角オクラで 「ブルースカイ」と,

同程度の収量で,低節位から連続して着莢する早生種である。

秀品率が高く収量も高い。曲がり果やイボ果の発生も少ない。

果莢の特徴は,濃緑色で,陵角が正五角である。

b 栽培特性

(a) ブルースカイZ

草勢が強く,枝の伸長がやや早い。秀品率が高く収量も高い。曲がり果やイボ果の発生

も少ない。低温期での生育は比較的早く,発芽は斉一である。6月までの収量は「指宿グ

リーン」並で,7月以降の収量も安定して高い。草勢はやや強い。

(b) 指宿グリーン

草勢が強く,枝の伸長がやや早い。低温での発芽は早い。6月までの初期収量は高い。

発芽は斉一であるが,高温管理するとやや徒長しやすい。草勢は中程度である。

43

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図1 品種別の発芽率(温度15,25,30℃)

(イ)本ぽ管理

オクラの根は直根性のため,排水が良く耕土が深く,有機質に富む肥沃な土壌で生育が

良い。乾燥に強い作物であるが,生育初期が乾燥状態になると生育が遅れる。また,収穫

期に乾燥させると草勢と品質の低下が起こりやすいので積極的にかん水する。

a 播種準備

(a) 土づくり

, 。土壌の保水性を高め 根の張りをよくするために堆肥等の有機物資材を施用し深耕する

また,排水が悪い圃場はもみがら暗渠等の排水対策を行うか,それができない場合は圃場

周囲に明渠を施す。

(b) 整地・施肥

定植25~30日位前に土壌改良資材,定植10~15日前に基肥を施す。マルチ被覆前に本圃

の土壌水分を考慮し,湿りすぎの場合はやや乾燥させ,乾燥の場合はかん水や降雨後にマ

ルチ被覆すると定植後の水分コントロールがしやすい。

(c) 堆肥・基肥の施用(単位:kg/10a)

施肥事例1 牛ふん堆肥2,000,油かす200,鶏ふん堆肥500,苦土石灰100

施肥事例2 牛ふん堆肥1,000,油かす300,鶏ふん堆肥500,苦土石灰100

※ 実際の施肥量や石灰質資材の施用量については,土壌診断結果に基づき施肥を行うこと。

, ( , , ) ,施肥量は 窒素肥効率 牛ふん堆肥30% 鶏ふん堆肥60% 油かす60% から

窒素量を約20kg/10aになるよう設定。

施肥事例2は,施肥事例1に比べて牛ふん堆肥を1t/10aに減施し,油かすを 300 kg/

10aに増施しており,この施肥法はリン酸およびカリの養分投入量を少ないため,牛ふん

堆肥等の連年施用に伴うリン酸およびカリ過剰といった土壌養分集積が懸念される場合に

利用できる 「指宿グリーン」は施肥事例2が施肥事例1に比べやや収量は同程度かやや。

高く,施肥事例1と同程度の生育である。

44

Page 51: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

図2 時期別可販収量(有機栽培5年目)

(b) 畝立て

畝は平畝とし,畝幅 160cm,播種穴間隔15cm,2条植とし,1穴当たり3~4粒播種す

る(2,500株/a 。)

畝幅:160cm 床 幅:90cm

株 間: 15cm 条 間:45cm(2条) 通 路:70cm

○ ○ ○ ○

45.0 70.0

22.5 22.5

b マルチの選定

地温(18℃)の確保及び雑草対策を兼ねて,黒,グリーンマルチを使用する。

c 播種

地温18℃以上を確保してから播種する。1穴3~4粒まきで,10a当たり4リットル必

要である。6月までの収量を高める対策として,早まきする場合,発芽適温が28~30℃と

高いことから,マルチ,POトンネル被覆等の保温対策を行う。

45

Page 52: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

図3 早期収量向上対策例(平成25年5月7日(有機栽培5年目 ))

左上:POトンネル被覆(4月5日播種) 右 奥:直まき(被覆なし (4月24日播種))

左下:直まき被覆なし(4月24日播種) 右手前:セル成型苗 (3月26日播種)

d 欠株対策

欠株は収量に大きな影響を与える。無理な早まきは避け,地温18℃以上を確保し,播種

する。また,欠株が発生したら,補植か追いまきを実施する。

e かん水

開花始め頃までは,かん水を控え気味にして,中期以降は生育に応じてかん水する。か

ん水不足により乾燥すると,生育が遅れて減収し,品質も悪くなる。

f 間引き

本葉5~7枚までに,1穴当たり3本に間引く。

g 摘 葉

葉が込みあって,風通しや光線の透過が悪くなったり,土壌

養分が集積した地力の高い圃場など,生育が旺盛なときは摘葉

を行う。草勢の強弱にあわせて実施するが,通常は,収穫果の

下に1~2枚残して行う。

h 病害虫管理

, ,アブラムシは5月中旬以降発生がみられ 有機JAS 適合資材の還元でん粉糖化物液剤や

土着天敵類の温存管理技術が利用できる。6月下旬以降オオタバコガの発生がみられ,有

機JAS 適合資材のBT剤が利用できる。

i 収穫

莢の長さ9~10cmで収穫する。収穫開始は播種後約2か月である。高温期では果実肥大

が早く,収穫時期が遅れると,莢が硬化して品質を落とすので,適期収穫を心がける。

46

Page 53: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

(ウ)内容成分評価

オクラの糖含量については,各品種とも慣行栽培と有機栽培はほぼ同程度であった。ま

た,アスコルビン酸(ビタミンC)含量については,各品種とも慣行栽培に比べて有機栽培

の方がわずかに少なかった。

ビタミンC含量については,窒素成分の増加により茎葉が過繁茂して,光合成効率が低

下した場合に減少するとの報告がある。

図4 糖含量 図5 アスコルビン酸(ビタミンC)含量

(有機栽培4~5年目) (有機栽培4~5年目)

47

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開花期 開花節位

(月/日) (節) 果長(cm) 果重(g) 果径(mm)

ブルースカイZ 6/20 6.1 10.0 13.0 19.4

指宿グリーン 6/20 6.1 10.4 13.7 19.5

果実の形状

【成果の内容】

【成果の活用面・留意点】

露地オクラ有機栽培の有望品種「ブルースカイZ」

・有機JAS 適合資材のみを用いた露地オクラ栽培に有望な品種を選定した。・「ブルースカイZ」は開花や果実の形状は「指宿グリーン」とほぼ同程度である。・「ブルースカイZ」は6月の収量は「指宿グリーン」並で,7~8月の収量は「指宿グリーン」に比べ多い。

【目的と特徴】

連絡先:園芸作物部野菜研究室 (TEL 099-245-1125)

・摘葉は草勢の強弱にあわせて,収穫果の下1~2枚残して摘葉を行う。・5月中旬以降のアブラムシ対策として,還元でん粉糖化物液剤等を利用する。

【成果情報⑥】

図1 時期別可販収量(kg/a)(有機栽培5年目)

播種日 平成25年4月24 日栽植密度 畦幅160cm 株間15cm 1穴3株 2条植(2,500株/a)

施肥量 牛ふん堆肥200,鶏ふん堆肥50 kg/a) 油かす20(窒素量:2.1)

0

50

100

150

200

250

300

慣行 有機 慣行 有機

ブルー

スカイZ

指宿グリーン

8月 下旬

8月 中旬

8月 上旬

7月 下旬7月 中旬

7月 上旬

6月 下旬

(kg/a) 264 258231249

表1 開花期,開花節位,果実の形状

「ブルースカイZ」

48

Page 55: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

ウ ホウレンソウ

ホウレンソウの有機栽培では,地力を高める必要がある。しかし,過度の有機物施用は

硝酸態窒素の発現量が増加したり,土壌養分の集積等が懸念される。そのため,好適な養

分吸収ができる施肥管理,ベと病等の病害虫防除を適切に行うことが重要となる。本圃で

, ,の安定した収量を得るための有機質肥料施肥技術とともに 耐病性に優れる品種を選定し

有機JAS 適合資材のみを用いた安定栽培に取り組む必要がある。

そこで,秋冬まき作型(10~12月播種12~2月収穫及び1~2月播種,3~4月収穫)

について,栽培管理を紹介する。

(ア)性状,特性と作型

ホウレンソウの生育適温は15~20℃で,低温には強く0℃でも寒害を受けないが,高温

には弱く25℃で生育が鈍る。過湿な土壌では湿害を受けやすく,立枯性病害が発生しやす

い。耕土が深く,保水性・排水性ともに良好で肥沃な土壌を好む。収穫適期幅は秋冬まき

作型でも比較的短いので,収穫遅れ等に留意する。

a 秋まき作型

気温が生育適温に近くなり,日長も次第に短くなるので,年間で も栽培しやすい時期

で,露地条件でも充分栽培できる。10月まきでは生育後半にべと病が発生しやすくなるの

で抵抗性品種を導入する。

b 冬まき作型

, 。 ,厳寒期の栽培となるので トンネルの温度管理も必要となる 曇天や降雨の続く条件で

べと病が発生するので,秋まきと同様の対策が必要である。この作型は栽培期間が長くな

るので,肥料切れさせないような施肥管理が必要である。

(イ) 品種

a 品種の特徴

(a) スパイダー(トキタ種苗)

, ,葉色は光沢のある極濃緑色で 葉柄が柔軟で軸割れ

軸折れの発生が少ない。株張りが優れる。草姿は立性

で,低温伸長性がある。秋まき(9~11月播種)に適

する。

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(b) パワーアップ7(ナント種苗)

葉色は濃緑で,葉幅は中程度で,浅めの欠刻が1~2段入る。

葉柄が折れにくい。草姿は極立性である。冬まき(12~3月播種)

に適する。

(c) トラッド7(サカタのタネ)

葉色は鮮やかな濃緑色で葉幅が広く,浅く欠刻が入る。葉柄が太く,株張りが優れる。

草姿は極立性である。低温伸長性があり,寒さによる生育遅延などの障害に強い。秋まき

(9~11月播種)に適する。

○べと病に対する抵抗性

品種名 スパイダー パワーアップ7 トラッド7 ソロモン

べと病レース R-1~R-7 R-1~R-7 R-1~R-7 R-1,R-3

, 。注:べと病については現在R-11の系統が確認されており 抵抗性品種も育成されてきている

(ウ)本圃管理

a 圃場の選定および土づくり

日当たりが良く排水良好で,耕土が深く有機質に富んだ土壌が理想的である。ホウレン

ソウの生育は土壌の腐植含量,窒素含量との相関が高いとされ,良質のホウレンソウを安

定生産するには,家畜ふん由来の完熟堆肥の施用による土づくりと深耕を徹底する。軟弱

野菜のように圃場に直接播種する作物は,保水性が低い土壌の場合,発芽が不揃いになり

やすく根域も確保されにくいことから,生育や収量へ影響するため,牛ふん堆肥等の有機

質資材投入によって保水性を高める。

b 施肥

適正土壌酸度はpH6.5~7.0であり,pH6.0以下では生育不良,pH5.5以下では生育不良

となるので,作付けにあたっては酸度矯正に努める。また,有機栽培においては,鶏ふん

堆肥を連用することが多く,これはpHを高めリン酸過剰を招くので,土壌診断を行い,適

切なバランスになるよう施肥設計する。

(単位:kg/10a)

施肥事例1 牛ふん堆肥2,000,油かす200,鶏ふん堆肥500,苦土石灰100

施肥事例2 牛ふん堆肥1,000,油かす300,鶏ふん堆肥500,苦土石灰100

※ 実際の施肥量や石灰質資材の施用量については,土壌診断結果に基づき施肥を行うこと。

施肥量は,窒素肥効率(牛ふん堆肥30%,鶏ふん堆肥60%,油かす60%)から,窒素量

を約20kg/10aになるよう設定。

施肥事例2は,施肥事例1に比べて牛ふん堆肥を1t/10aに減施し,油かすを300 kg/

10aに増施しており,この施肥法はリン酸およびカリの養分投入量を少ないため,牛ふん

堆肥等の連年施用に伴うリン酸およびカリ過剰といった土壌養分集積が懸念される場合に

利用できる。

50

Page 57: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

施肥事例2は初期生育がやや遅く,播種後33日目の収量は低いが,播種後45日以降は施

肥事例1に比べ同程度かやや高い可販収量が得られている。

図1 施肥法別可販収量(平成23年11月7日播種,有機栽培4年目)

c 耕うん・整地

できるだけ深耕して土壌を膨軟にし通気性を良くする。発芽・生育ムラをなくし病害の

発生を防ぐため,播種床はなるべく均一になるように整地する。播種前に充分かん水して

おく(基礎水 。かん水むらは発芽,幼苗の生育にむらを生じ,管理作業を不便にし収穫)

時期を不揃いにするので,補正かん水により全面均一かん水ができるようにする。

d 播種

(a) 播種

播種は,品種や播種時期・播種機によって異なる(3~5 /10a 。)

播種法はベルト式(ごんべえ)や真空播種機利用などが多い。

播種直後はかん水,あるいはローラーで鎮圧をする。鎮圧することで表面からの水分の

蒸発が抑えられ,発芽が揃いやすい。このときのかん水が多すぎると発芽が揃わないこと

があるので注意する。

(b) 栽植密度

。 ( ,一般的に播種機を利用した条間20~25cmの条まきが主である 株間は作型や品種 立性

半立性)によって異なるが,6~8cmである。

e 栽培管理

(a) 間引き

ベルト式(ごんべえ)播種機を利用する場合,間引きが必要である。密植すると,徒長

, , ,し品質が低下するので 本葉1~2枚時に1回 本葉3~4枚時にもう1回仕上げを行い

生育を揃える。

51

Page 58: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

(b) かん水

かん水技術は生育,品質の良否や土壌病害の発生に大きく影響する。

・ 播種前に深層部まで湿るようにたっぷりかける(基礎水:30~40mm程度 。)

・ 播種後は鎮圧をかねて軽くかけ,かん水ムラをなくす(補正かん水 。)

・ 本葉3~4枚頃までは立枯病予防のためかん水を控える。本葉が3~4枚時に乾燥

が著しい場合,夜間に葉水程度をかける。

・ 本葉4枚以降は,ほ場の状態をみて適宜かん水するが,夕方~早朝にかけて行う。

, , 。基礎水が少なかったり ほ場の保水性が悪い場合 乾燥しやすいので適宜かん水する

・ 収穫1週間前からかん水は控える。

f 病害虫管理

ベと病は11~12,3~4月に発生しやすく,抵抗性品種の利用を図り,間引きを適正に行い,

風通しを良くする。

ハスモンヨトウ,ネキリムシは春,秋期に発生し,観察による早期捕殺に努める。また,有機

JAS 適合資材のBT剤が利用できる。

g 収 穫

収穫時の草姿は草丈25~30cm,展開葉8~9枚である。収穫の方法は1株ずつ抜き取る

か包丁等で1株ずつ株元から切る。切る場合,連作障害を防ぐため残根が少なくなるよう

なるべく深い位置で切る。収穫したものは涼しい場所で調製する。調製は下葉2~3枚を

取り除き,大きさを揃え200g前後で袋詰めする。

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(エ)内容成分評価

ホウレンソウのシュウ酸含量については,各品種とも慣行栽培に比べて有機栽培が多か

った。

シュウ酸含量については,地力窒素の増加に伴い,葉中のシュウ酸含量が増加するとの

報告がある。

図2 シュウ酸含量(有機栽培2~4年目)

糖含量については,各品種とも慣行栽培に比べて有機栽培の方が少なかった。

アスコルビン酸(ビタミンC)含量は,各品種とも慣行栽培と有機栽培はほぼ同程度で

あった。

糖含量については,窒素成分の増加により茎葉が過繁茂し,光合成効率が低下した場合

に減少するとの報告がある。

図3 糖含量 図4 アスコルビン酸(ビタミンC)含量

53

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0

20

40

60

80

100

スパイダー

トラッド7

ソロモン

11/9 11/21 11/29

(%)

51 37

131 159

173 160

0

50

100

150

200

スパイダー ソロモン

33日 45日(kg/a)

【成果の内容】

【成果の活用面・留意点】

秋まきホウレンソウ有機栽培の有望品種「スパイダー」

・有機JAS 適合資材のみを用いた秋まきホウレンソウ栽培に有望な品種を選定した。・「スパイダーは徒長しにくく,播種後45~53日の可販株率は90%で高い。・「スパイダー」の播種後33~53日目の可販収量は,51~173kg/aである。・有機栽培では土壌養分が集積しやすく,シュウ酸含量が高くなる傾向がみられる。・「スパイダー」はべと病(R-1~R-7)に抵抗性がある。

【目的と特徴】

連絡先:園芸作物部野菜研究室 (TEL 099-245-1125)

・播種後45~55日を目安に収穫する。・0.4mm目合いの防虫ネットを浮きがけすることで害虫の侵入軽減が図られる。

【成果情報⑦】

図1 規格内株率 図2 可販収量(有機栽培3年目)規格内株率:草丈25~40cmの株割合 可販収量:草丈25~40cmの株の単位面積当たり重量

播種日 平成23年10月7日 栽植密度 畦幅150cm 条間20cm 株間6cm 4条植(4,444株/a) 施肥量 牛ふん堆肥200,鶏ふん堆肥50(kg/a),油かす20(窒素量:2.1)

「スパイダー」図3 栽培法別のシュウ酸含量

54

Page 61: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

【成果の内容】

【成果の活用面・留意点】

冬まきホウレンソウの有機栽培の有望品種「パワーアップ7」

・有機JAS 適合資材のみを用いた冬まきホウレンソウ栽培に有望な品種を選定した。・「パワーアップ7」は葉柄がしなやかで折れにくい。・「パワーアップ7」は播種後48~59日目の可販収量は,128~139kg/aである。・「パワーアップ7」はべと病(R-1~R-7)に抵抗性がある。

【目的と特徴】

連絡先:園芸作物部野菜研究室 (TEL 099-245-1125)

・播種後45~55日を目安に収穫する。・0.4mm目合いの防虫ネットを浮きがけすることで害虫の侵入軽減が図られる。

【成果情報⑧】

図2 可販収量(有機栽培4年目)可販収量:草丈25~40cmの株の単位面積当たり重量

播種日 平成25年2月1日栽植密度 畦幅150cm 条間15cm 株間15cm 4条植(4,444株/a) 施肥量 牛ふん堆肥200,鶏ふん堆肥50(kg/a) 油かす20(窒素量:2.1)

139 143128

11

0

20

40

60

80

100

120

140

160

パワーアップ7 ソロモン

播種後48日(3/21)播種後59日(4/1)

(kg/a)

図1 葉長の推移

0

10

20

30

40

50

60

播種後38日

(3/11)

48日

(3/21)

59日

(4/1)

パワーアップ7ソロモン

(kg/a)

可販株葉長25~40cm

「パワーアップ7」

55

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エ キャベツ

キャベツは環境適応性が高く,根群の発達が旺盛で,吸肥力も強く,比較的有機栽培が

容易な作物である。キャベツの有機栽培では,慣行栽培に比べ外葉は小さく,葉数の増加

が遅い傾向があるため,結球の締まり具合から収穫時期を決定する。

キャベツは移植栽培であり,苗質が生育の良否と収量に影響するので,健苗育成に努め

る。特にセル成型苗の場合培土量が少なく,有機JAS 適合培土は市販の慣行培土に比べ,

育苗期間が長くなると養分不足になりやすい傾向があるので留意する。

また,育苗および本圃での初期生育の確保及び安定した収量を得るための有機質肥料施

肥技術を身につけるとともに,収量性に優れる品種を選定し,有機JAS 適合資材のみを用

いた安定栽培に取り組む必要がある。

そこで,9月播種,10月定植,1~2月収穫の作型の栽培管理を紹介する。

(ア)品種

a 品種の特徴

(a) 冬藍(サカタのタネ)

ゴマ症などの生理障害に強く,球内部のアントシ

アンも発生しにくいため、低温期に栽培しやすい中

晩生品種。萎黄病抵抗性。黒腐病耐病性。低温下で

も肥大し,大玉での収穫が可能。玉ぞろいがよく,

一斉収穫に適する。

(b) 彩ひかり(タキイ種苗)

外葉はやや大型で草勢は中,立性,低温伸長性に

優れる。球色は光沢のある鮮緑色で,厳寒期のアン

トシアン色素はほとんど発生せず,結球後の裂球は

遅い。

(イ)育苗管理

a セル成型苗育苗

(a) 育苗資材

培養土は有機JAS 適合培土,トレイは128穴または200穴を用いる。

(b) 播種

( ) ( )種子はコーティング種子 または裸種子 を10a当たり約4,000~6,000粒 40~60ml

用意し,セルトレイに播種する。覆土は種子が隠れる程度とする。覆土後に上から押さえ

て種子と培土を密着させ十分灌水する。発芽するまでは培土が乾きすぎないように管理す

る。発芽までは低温時には保温シート,高温時には日よけシートなどを用いる。芽が出た

56

Page 63: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

葉数 草丈 茎葉重 SPAD値

区名 (枚) (cm) 葉長 葉幅

(g)

有機JAS適合培土のみ 3.1 12.5 4.7 3.6 14.3 24.4

有機JAS適合培土+自家培土+鶏ふんペレット混和 3.7 17.5 6.5 5.2 30.6 28.4

有機JAS適合培土+自家培土+鶏ふんペレット追肥 4.1 23.4 6.8 5.4 34.1 30.4

慣行培土 3.8 18.6 6.3 5.0 27.1 30.1

大葉(cm)

ら被覆資材を取り除き,灌水を行う。トレイは底からの発根を防ぐために,台を設置して

10cm以上浮かせる。

(c) 水管理

高温期は1日2回(朝と昼過ぎ)とし,1回目のかん水量はトレイの底から水が出てく

るようたっぷりと,2回目はやや少なくする。トレイの縁の方は乾きやすいので重点的に

灌水する。夕方の灌水は徒長を招くので行わない。

(d) 育苗管理

有機JAS 適合培土の場合,市販の慣行培土に比べ,育苗期間が長くなると養分不足にな

りやすい傾向があるので,有機質肥料の培土混和や追肥等で生育を確保する。有機JAS 適

合培土に鶏ふんペレットを混和した場合,慣行培土と同程度の苗質が得られる。

表1 鶏ふんペレット混和,追肥した場合のキャベツセル成型苗の苗質への影響

注)鶏ふんペレット(商品名:デルプラス683((N6% P O 8% K O 3%))2 5 2

自家培土:山土10:牛ふん堆肥2(容積比)で混合した培土

鶏ふんペレット混和:有機JAS適合培土1:自家培土1(容積比)に,慣行培土の窒素量と同量

の鶏ふんペレットを播種前に混和

鶏ふんペレット追肥:有機JAS適合培土1:自家培土1(容積比)に播種前に混和したポリポッ

トに,播種後14日目に慣行培土の窒素量と同量の鶏ふんペレットを追肥

供試培土の概要 仮比重 NET L

N PO KO pH EC (kg/L) (充填時)2 5 2

mg/L mS/cm

有機JAS 適合培土(有機の土(サカタのタネ) 90 240 200 50)

慣行培土(ポットくん1号(菱東肥料) 200 2,500 200 5.5~6.5 0.65~0.85 20)

(ウ)本圃管理

湿害に弱いため,排水対策を行い,完熟堆肥の施用,緑肥作物のすきこみにより,透水

性,保水牲のバランスのとれた土壌を作ることが必要である。

a 施 肥

施肥量は,窒素肥効率(牛ふん堆肥30% ,鶏ふん堆肥60%,油かす60%)から,窒素量

を約20kg/10aになるよう設定。

供試した施肥設計は以下の通りである。

(単位:kg/10a)

施肥事例 牛ふん堆肥2,000,油かす200,鶏ふん堆肥500,苦土石灰100

※ 実際の施肥量や石灰質資材の施用量については,土壌診断結果に基づき施肥を行うこと。

57

Page 64: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

施肥量は,窒素肥効率(牛ふん堆肥30% ,鶏ふん堆肥60%,油かす60%)から,

窒素量を約20kg/10aになるよう設定。

b 定植

セル成型苗では本葉2~3枚となる25日前後で定植し,老化苗を定植しない。

定植は降雨後がよく,乾燥している時は,かん水してから定植する。また高温時は夕方

。 , 。 ,の涼しいときに植え付ける 深植えしすぎると 生育遅延の原因となる セル成型苗では

浅植えして根鉢表面が地表に露出すると乾燥して活着が遅れるため,注意する。

(a) 栽植様式

栽植様式は,圃場条件,品種や作型で異なるが,標準的な畝幅は60~70cmで,株間は30

~40cmの単条植えが適当である。

(b) 栽植密度

3,500~5,500株/10a

c 栽培管理

(a) かん水

定着後の活着を促すため,3~5日間は十分かん水する。また,結球期の乾燥は,球の

肥大に大きく影響するので十分かん水する。高温期のかん水は,温度変化の少ない朝夕に

行う。

(b) 雑草対策

雑草対策として,黒マルチを張る。畝間には敷き草等を敷く。

d 病害虫管理

耐病性品種(萎黄病,黒腐病等)利用と排水対策,株間,条間を広くとり,風通しを良

くするなど耕種的防除を組み合わせる。ネキリムシは定植後被害がみられ,観察により捕

殺する。

e 収穫・出荷調整

品種特性としての生育日数に加え,結球の締まり具合をみて収穫する。8~9分程度の

結球程度で収穫し,収穫遅れによる裂球に留意する。

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オ ニンジン

ニンジンの有機栽培では,土づくりの進んだ肥沃な圃場で,病害虫の発生を回避するこ

とが重要となる。そのため,本圃での安定した収量を得るための有機質肥料施肥技術を身

につけるとともに,耐病性に優れる品種を選定し,有機JAS 適合資材のみを用いた安定栽

培に取り組む必要がある。

そこで,秋まき作型(9月播種12~1月収穫)について,栽培管理を紹介する。

(ア)性状,特性と作型

発芽温度は 低8℃, 高30℃で,適温は15~25℃である。生育温度は3~ 28℃であ

るが,適温は18~21℃で,これより高いと根の肥大がにぶり,根形が乱れ表皮もあらくな

る。根形は,地温の高低に大きく影響され,地温が低いと細長く肥大の悪いニンジンにな

り,高温では短根でずんぐり型で,伸びの悪いニンジンとなる。根の着色温度は,16~20

℃で,生育適温よりやや低く,12℃以下の低温になると着色が阻害される。

ニンジンは,緑植物感応型で,ある一定の大きさに達した株が低温により花芽分化し,

高温長日で抽苔開花するが,品種間差異が大きい。低温に感応する大きさは,黒田五寸で

葉数4~9枚,7g以上の株が4.5~15℃の低温に25~60日間遭遇することによって花芽

分化,抽苔するとされている。

(イ)品種

a 品種の特徴

(a) 向陽二号(タキイ種苗)

大型三寸と黒田五寸系の組み合わせによる一代

交配種で,根形は肩の張りがあって,尻部まで肉

付きがよく,揃いはきわめて良い。肌はなめらか

で,根色は美しい鮮紅色で市場性が高く,市場で

の中心品種となっている。草勢は中で葉は葉柄が

しっかりし,根とのバランスが良い。青首及び白

斑症の発生は少なく,低温着色性は良好,抽苔は遅い。

(b) ベーター441(旧系統名:SK5-441 サカタのタネ)

夏まき秋冬どり用の早生品種。黒葉枯病や斑点病

といった葉枯病およびピシウム菌によるしみ腐病に

強い耐病性をもつ。葉は強健、立性で草勢が強い。

濃鮮紅色で,M、L中心でよく揃い,秀品率が高い。

早生性を有する一方で、低温下では根の肥大が抑え

られ裂根が少なく在圃性に優れる。

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Page 66: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

(c) 秋陽五寸(田上二葉種苗)

夏まき秋冬どり用の早生品種。葉は強健,立性

で草勢が強い。鮮紅色で,L中心でよく揃う。

(ウ)本圃管理

土づくりには,①発芽を揃える。②根群を発達させ順調に生育させる。③岐根等の品質

劣化を防ぐ。④着色を促進する。等の効果が期待される。

a 圃場の選定および土づくり

耕土が深く,下層まで一様にぼう軟な土地で,熟畑を選定する。

圃場の準備は,播種1か月前から行う。完熟堆肥を全面に散布,深耕後,ロータリーに

よる砕土を十分(4回程度)に行う。特に水田の場合には深耕砕土が大切で,耕うん回数

を多く(5~6回)し,土塊が細かくなるよう入念に実施する。

発芽が揃わないと,欠株により株間が広くなって生育が旺盛なものがある一方,発芽が

, , 。遅れたもの等との間に生育の不揃いを生じたり 裂根等の品質低下が起こり 低収を招く

このようなことから,発芽を揃え,初期生育をスムーズにさせるため,播種時から生育初

期の土壌水分の確保に努めるため,牛ふん堆肥等による土づくりによる良好な保水性の確

保が重要である。

b 施肥

pHは,6.0~6.5を目標に苦土石灰を施用する。

(単位:kg/10a)

施肥事例1 牛ふん堆肥2,000,油かす200,鶏ふん堆肥500,苦土石灰100

施肥事例2 牛ふん堆肥1,000,油かす300,鶏ふん堆肥500,苦土石灰100

※ 実際の施肥量や石灰質資材の施用量については,土壌診断結果に基づき施肥を行うこと。

施肥量は,窒素肥効率(牛ふん堆肥30% ,鶏ふん堆肥60%,油かす60%)

から,窒素量を約20kg/10aになるよう設定。

施肥事例2は,施肥事例1に比べて牛ふん堆肥を1t/10aに減施し,油かすを300kg/10a

に増施しており,この施肥法はリン酸およびカリの養分投入量を少ないため,牛ふん堆肥

等の連年施用に伴うリン酸およびカリ過剰といった土壌養分集積が懸念される場合に利用

できる。

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c 播 種

秋まきの県内事例は次のとおりである。

<指宿地区・夏~秋まき>

畦幅80~90cm,株間8cm,条間12~13cm,4条植え

(a) 播種量

播種量は,裸種子の場合,10a当たり1~2 の範囲である。品種により発芽率がやや

落ちる場合や,夏まきで高温乾燥時の場合は多めに播種する。コート種子の場合は,1穴

当たり3粒程度とする。

(b) 播種法

ニンジンは,発芽を均一にさせることが生育や品質,収量に影響するので,播種は降雨

の後,またはかん水後の適湿条件で行う。特にコート種子の場合は適湿でないと発芽が劣

るので注意する。播種後の覆土の厚さは,水分状態が適当な場合は5mm程度とし,乾いて

いる場合は1cm程度覆土する。覆土後はローラー等で鎮圧するとよい。

d 管 理

(a) 間引き

間引きは2回行うことが基本であるが,労力の関係から4~6葉期の1回で済ませる場

合が多い。2回間引きの場合は,第1回を2~3葉期に2~3cmに1本とし,5~6葉期

に 終株間とする。1回で済ませる場合は,4葉期頃から間引き始め,5~6葉期には終

。 , , ,えるようにする 間引きが遅れると 茎葉が徒長し 作業による茎葉や根の損失が大きく

その後の生育が遅れる。

(b) 中耕,土寄せ,追肥

播種後60日以降 葉重 根重が急激に増加するが 初期の生育 特に本葉4~7葉期 播, , , , (

種後30~50日)の, も細胞分裂が盛んな時期の肥料の吸収が収量等に大きな影響を与え

る。追肥は油かすを用い,草勢を確認しながら早めに実施する。第1回目は本葉2枚頃,

第2回目は本葉3~4枚頃に条間にバラまきし,通路部分を軽く中耕する。第3回目の追

肥は, 終間引き後,通路部分に施用後,土寄せを行う。

e 病害虫防除

耐病性品種利用の他,しみ腐れ病,白絹病,黒斑病は連作回避や排水対策を徹底する。

ネキリムシ類は観察により早期捕殺する。コオロギ類は圃場周囲の除草が効果的である。

センチュウは土壌還元消毒や線虫対抗植物(ギニアグラス,エンバク等)が利用できる。

f 収 穫

収穫が遅れると肥大が進み,裂根や腐敗が多くなり,商品化率が低下するので適期収穫

を行う。1本平均重150~200gぐらいの時期,秋まき露地栽培で180日前後を目安に収穫

を始める。

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(エ)内容成分評価

ニンジンのカロテノイド含量は,各品種とも慣行栽培に比べて有機栽培が多かった。

カロテノイド含量については,有機栽培年数が経過し,土壌中のリン酸含量が増えると

ニンジン根中のカロテノイド含量が増加するとの報告がある。

図1 カロテノイド含量(有機栽培3年目)

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上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下

有機栽培

慣行栽培

年度 平成22年度

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月

キュウリ

べと病

アブラムシ

べと病

アブラムシ

キュウリ

ホウレンソウ

ホウレンソウ

土壌

消毒

作畝

作畝

トンネル被覆

トンネル被覆

作畝

支柱設置

作畝支柱設置

主枝

摘心

主枝摘心

(3) 輪作体系

ア 輪作体系(キュウリ,オクラ+ホウレンソウ)

(ア)線虫対抗植物,作型変更によるセンチュウ対策

オクラは,野菜の中でもセンチュウが増殖しやすい作物であり,オクラの生育,収量へ

の影響に加え,後作物もセンチュウ被害を受けやすいことから,センチュウ対策は必須で

ある。

このセンチュウ対策を目的として,オクラとホウレンソウの輪作体系にエンバクを組み

入れたり,ホウレンソウの作型を変更した場合の影響について検討した。

サツマイモネコブセンチュウの発生生態は,卵または幼虫で越冬し,露地では4~5月

ごろから増加し始め,夏季~秋季に高密度になりやすいとされている。オクラ跡のホウレ

ンソウでは同様の傾向が確認され,冬まき作型は秋まき作型に比べ生育,収量への影響は

比較的軽微であり,地温が低く推移する冬まき作型を利用すると,センチュウ害の回避が

可能で,気象変動に対するリスク分散が図られる。また,オクラの前作に,エンバクやホ

ウレンソウなど比較的センチュウ寄生程度の少ない作物を組み入れてセンチュウ密度の抑

制を図り,輪作体系を維持できると考えられた。

図1 輪作体系例

注)○ 播種(定植 ,□ 収穫,◆ 病害虫防除)

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上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下

有機栽培

慣行栽培

年度

2月 3月月

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

平成23年度

1月

キュウリ

ハスモンヨトウ

ホウレンソウ

作畝

ホウレ

ンソウ

べと病

ハスモンヨトウ

作畝

支柱設置主枝

摘心

キュウリ

土壌

消毒

ニンジン

ニンジン

アブラムシ

べと病

作畝

べと病

作畝

作畝べと病

アブラムシ

上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下

有機栽培

慣行栽培

4月 5月 6月 7月 12月8月 9月 10月 11月

平成24年度

年度

1月 2月 3月

灰色かび病

オオタバコガ作畝

支柱設置

アブラムシ

ホウレ

ンソウ

オクラ

アブラムシ

オクラ

土壌消毒

エンバク

ホウレ

ンソウ

オオタバコガ

作畝

トンネル被覆

トンネル被覆

作畝

支柱設置

作畝

上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下

有機栽培

慣行栽培

11月5月 6月 7月 8月 9月 10月月

年度

4月 12月

平成25年度

1月 2月 3月

アブラムシ

灰色かび病

灰色かび病

オクラ

センチュウ

オクラ

ホウレ

ンソウ

ホウレンソウ

オオタバコガ

土壌

消毒アブラムシ

オオタバコガ

作畝

支柱設置

作畝

支柱設置

図1の続き

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図2 エンバク後オクラのネコブセンチュウ被害状況

(左:有機栽培,右慣行栽培,播種 平成25年4月24日,撮影 平成25年8月24日)

図3 オクラ跡秋まきホウレンソウのネコブセンチュウ被害状況

(左:有機栽培,右:慣行栽培播種:平成25年10月10日,撮影平成25年11月14日)

図4 圃場でのオクラ跡秋まきホウレンソウのネコブセンチュウ被害状況

(左:有機栽培,右:慣行栽培播種:平成25年10月10日,撮影平成25年11月14日)

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0

20

40

60

80

100

120

有機 慣行 有機 慣行 有機 慣行 有機 慣行 有機 慣行

オクラ跡

8/24

エンバク跡

12/14

ホウレンソウ跡

4/3

オクラ跡

8/26

ホウレンソウ跡

11/14

平成24年 平成25年

(頭/20g)

139

114

33

78

0

20

40

60

80

100

120

140

160

前〃作オクラ

前作エンバク

土壌消毒 前〃作オクラ

前作なし

土壌消毒

冬まき作型

(H24)

秋まき作型

(H25)

(kg/a)

図5 緑肥作物(エンバク)のホウレンソウ収量への影響

図6 オクラ+ホウレンソウ体系のサツマイモネコブセンチュウ密度の推移

(イ)有望品種を用いた作付体系の収益試算について

a 夏秋キュウリ+ホウレンソウ(秋まき (有機栽培3年目))

夏秋キュウリは有望品種「久留米きゅう太郎 ,慣行品種「VR夏すずみ」,ホウレンソ」

ウ(秋まき)は有望品種「スパイダー ,慣行品種「ソロモン」として,粗収益(肥料費除」

く)を試算した結果,有望品種を用いた体系の粗収益は43,502円/aで慣行品種を用いた体

系に比べ37%多かった。

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Page 73: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

作物 可販収量(kg/a)

単価(円/kg)

粗収益(円)

(慣行品種比)

肥料費(円/a)

粗収益-肥料費(円/a)

(慣行品種比)

キュウリ 206 196 40,453 34,885 5,568

ホウレンソウ 173 420 72,819 34,885 37,934

小計 113,272 (112) 43,502 (137)

キュウリ 175 196 34,258 34,885 -627

ホウレンソウ 160 420 67,221 34,885 32,336

小計 101,479 (100) 31,709 (100)

オクラ 264 735 194,073 34,885 159,188

ホウレンソウ 139 420 58,567 34,885 23,682

小計 252,641 (110) 182,871 (114)

オクラ 231 735 169,972 34,885 135,087

ホウレンソウ 143 420 60,068 34,885 25,183

小計 230,040 (100) 160,270 (100)

作付体系

キュウリ+ホウレンソウ(秋まき)

有望品種を用いた場合

慣行品種を用いた場合

オクラ+ホウレンソウ(冬まき)

有望品種を用いた場合

慣行品種を用いた場合

b 露地オクラ(普通作型)+ホウレンソウ(冬まき (有機栽培5年目))

露地オクラは有望品種 ブルースカイZ 慣行品種「指宿グリーン」 ホウレンソウ 冬「 」, , (

) 「 」, , ( )まき は有望品種 パワーアップ7 慣行品種「ソロモン」として 粗収益 肥料費除く

を試算した結果,有望品種を用いた体系の粗収益は182,871円/aで慣行品種を用いた体系

に比べ14%多かった。

表1 有望とされる品種を用いた場合の粗収益

注)可販収量:キュウリ+ホウレンソウ(秋まき)(平成23年度)

オ ク ラ+ホウレンソウ(冬まき)(平成25年度)

単 価:有機栽培:有機百培(姶良伊佐地域振興局農林水産部,平成26年3月作成見込)

慣行栽培:農業経営管理指導指標(県経営技術課,平成23年3月)

肥 料:堆肥5円/kg,油かす45円/kg,苦土石灰22円/kg,BB48 122円/kg

有望品種:キュウリ(久留米きゅう太郎 ,オクラ(ブルースカイZ))

ホウレンソウ(秋まき スパイダー,冬まき パワーアップ7)

慣行品種:キュウリ(VR夏すずみ ,オクラ(指宿グリーン ,ホウレンソウ(ソロモン)) )

67

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作付体系施肥法別

作物 可販収量(kg/a)

単価(円/kg)

粗収益(円)

(対照区比)

肥料費(円/a)

粗収益-肥料費(円/a)

(対照区比)

キュウリ 207 196 40,572 34,400 6,172

ホウレンソウ 164 420 68,880 34,400 34,480

小計 109,452 (103) 40,652 (113)

キュウリ 169 196 33,124 34,885 -1,761

ホウレンソウ 173 420 72,660 34,885 37,775

小計 105,784 (100) 36,014 (100)

オクラ 221 735 162,435 34,400 128,035

ホウレンソウ 187 420 78,540 34,400 44,140

小計 240,975 (97) 172,175 (97)

オクラ 264 735 194,040 34,885 159,155

ホウレンソウ 128 420 53,760 34,885 18,875

小計 247,800 (100) 178,030 (100)

オクラ+ホウレンソウ(冬まき)

油かす300kg牛ふん堆肥1t鶏ふん500kg/10a

油かす200kg牛ふん堆肥2t鶏ふん500kg/10a(対照)

キュウリ+ホウレンソウ(秋まき)

油かす300kg牛ふん堆肥1t鶏ふん500kg/10a

油かす200kg牛ふん堆肥2t鶏ふん500kg/10a(対照)

(ウ)土壌養分集積を考慮した施肥設計の収益試算について

土壌養分集積を考慮した施肥設計(牛ふん堆肥1t,油かす300kg,鶏ふん500kg/ 10aの

粗収益(肥料費除く)は牛ふん堆肥2t,油かす200kg,鶏ふん500kg/10aの施肥設計に比

べ,夏秋キュウリ+ホウレンソウ(秋まき)体系で13%高く,露地オクラ+ホウレンソウ

(冬まき)体系で3%低かった。

表2 土壌養分集積を考慮した施肥設計を用いた場合の粗収益

注)可販収量 キュウリ+ホウレンソウ(秋まき)(平成23年度)

オ ク ラ+ホウレンソウ(冬まき)(平成25年度)

単価:有機栽培:有機百培(姶良伊佐地域振興局農林水産部平成26年3月作成見込)

慣行栽培:農業経営管理指導指標(県経営技術課,平成23年3月)

肥料:堆肥5円/kg,油かす45.2円/kg,苦土石灰22.1円/kg,BB48 121.8円/kg

品種:キュウリ(Vアーチ) ,ホウレンソウ(秋まき スパイダー)

オ ク ラ(ブルースカイZ) ,ホウレンソウ(冬まき パワーアップ7)

68

Page 75: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

3 有機栽培の実践事例

(1)姶良市 A氏(平成22年8月31日現在)

ア 経営概況

経営面積 :施設50a(JAS認証50),露地畑150a(JAS認証120),水田20a

加入組織 :蒲生町園芸振興会有機部会,かごしま有機生産組合

経営作物 :野菜 夏秋:ナス,シシトウ,ピーマン(3つで25~30a),オクラ10a等

秋冬:ニンニク10a,シュンギク10~15a,レタス10a,サニーレタス10a,

葉物(ホウレンソウ,コマツナ)26a,ソラマメ10a,スナップエンドウ,

インゲン等

イ 栽培管理

使用資材:鶏糞,油かす,トーマス有機,魚粕,バイオの有機,石灰肥料(セルカ)

施 用 量:野菜 堆肥2t,油かす200kg,トーマス有機や鶏糞200kg/10aを基本に,作

物や状況に合わせて加減

栽培技術 地力を考慮し輪作体系を実施

マルチ被覆や敷きワラによる雑草防除,ハウス防虫,ネット展張(日よけ

対策)

ウ 病害虫防除

タマネギ苗床における土壌還元消毒の実施

オクラのセル成型苗と直播を組み合わせた作付

鶏ふん堆肥,油かすを基本とした施肥設計である。土壌病害対策で,タマネギ苗床の土

壌還元消毒や,オクラの収穫期の前進化を図るためセル成型苗利用に取り組んでいる。

土壌還元消毒(タマネギ苗床)

69

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(2)姶良市 農業生産法人B(平成21年6月2日現在)

ア 経営概況

経営面積:施設27a(有機27・JAS27),水田1,940a(有機500・JAS500)

特別栽培10ha,有機栽培水田は露地野菜200a,水稲300a

取組経緯:大規模水稲栽培+施設キュウリ(昭和48~)

有機野菜栽培(昭和60~) 有機水稲(平成13~)

加入組織:姶良市有機部会,かごしま有機生産組合

経営作物:野菜 夏秋:キュウリ,トマト,ナス,シシトウ,ピーマン等

秋冬:ダイコン,ニンジン,タマネギ,キャベツ,葉菜類等,

50品目/年程度

水稲 有機栽培米,特別栽培米,一般栽培米,農作業受託

イ 栽培管理

使用資材:堆肥,鶏ふん,米ぬか,油かす

施 用 量:野菜 鶏ふん堆肥1t,油かす200kg/10aを基本とし,作物や生育状況によ

り調整

水稲 有機栽培 油かす100kg程度(野菜残効を考慮)

特別栽培 鶏ふん堆肥120~140kg/10a,油かす60kg,米ぬか60kg

( ) , , 。キュウリ 夏秋 は節成性の強い品種を用い 定植後45日を目安に 4回程度作付け

台風時はキュウリネットごとずりおろし,通過後引き起こし

ウ 病害虫防除

天敵利用によるアブラムシ防除

かん水によるうどんこ病防除(促成キュウリ)

植生管理による天敵温存(ほ場周囲の雑草活用,クローバー作付)

水田雑草防除(乗用型田車(田植7,14日後 ))

土壌病害対策(土壌還元消毒,平成19~)

鶏ふん堆肥,油かすを基本とした施肥設計である。病害虫防除については植生管理に

よる土着天敵温存技術を利用し,安定した効果が得られている。

エ 作付体系例

菜花-タマネギ-ジャガイモ-キュウリ

植生管理による土着天敵の温存技術

70

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Ⅱ 茶

現在,本県の有機茶栽培農家戸数は68戸,有機栽培面積は242 (うち有機 認証面ha JAS

積193 )でこれは県内茶園面積の約2.8 にあたる。戸数は野菜に次ぐが,面積は一番多ha %

く年々増加傾向にある(表1 。)

表1 県内有機栽培の作物別構成 (単位:戸,ha)

区 分 水稲 野菜 果樹 茶 計

農家戸数 43 210 18 68 339

有機栽培面積 90 221 22 242 575

有機JAS面積 48 170 10 193 421

※食の安全推進課調べ(平成25年11月現在)

安全・安心な農産物を求める消費者ニーズは根強い中で緑茶の世界的な消費動向は,国

内の状況に反し,和食ブームや健康食品としてのイメージが定着し,右肩上がりで伸び,

生産量も増加している(図1 。)

図1 世界の茶生産量と緑茶の占める割合(日本茶業中央会資料より)

他国産に比べてブランド力がある日本茶にとって海外進出はしやすい状況にあるが,厳

格な残留農薬基準の設定国向けに輸出するには現状の茶生産体制では難しい。そのような

中,国内外のニーズに応えられる有機栽培の面積拡大は本県の茶業振興や生産者の経営安

定にとって重要である。

しかし,茶の有機栽培を実践するには,病害虫対策,除草管理等の多くの問題を克服し

なければならない。そのために,茶樹の生理生態はもちろん,土壌条件をはじめ,対象と

する病害虫や雑草,使用する有機 適合資材の特性などを熟知することや,年次ごとJAS

の気象変動に応じた管理が必要になる。また,有機栽培においても近年の茶価低迷の中で

コストや労動力の軽減などの経営的視点も忘れてはならない。さらに,輸出を視野に入れ

るのであれば,対象国の有機 適合資材の情報も必要となってくる。ここでは,本課JAS

題で取り組んだ成果を中心に,生産現場で有機栽培を誘導するにあたって,参考となる情

報をまとめた。なお,情報の一部は,新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業

課題番号1912「海外需要に対応した茶の無農薬栽培法と香気安定発揚技術の確立 (中核」

機関: 独)農研機構 野菜茶業研究所 ,及び「有機栽培技術の手引(果樹・茶編 (一( ) )」

般社団法人 日本土壌協会)の内容を関係者,出版社の許可を得て,引用・加筆したもの

である。

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1 有機栽培管理技術対策

(1)病害虫抵抗性品種

有機栽培を実践するにあたって品種の選定は重要なポイントになる。現地での聞き取り

調査を通じてわかったことは,有機生産者のほとんどは,経営の半ばから有機栽培に切り

替わっていることである。つまり病害虫に対し,抵抗性のないもしくは弱い品種で有機栽

培に取り組んでいる場合が多く,管理上多くの苦労を強いられている。近年,収量・品質

を兼ね備えた病害虫抵抗性品種が多く育成されている。これらを活用することで有機栽培

に取り組みやすい環境が生まれると思われる。ここでは本県のチャ奨励品種の有機栽培の

病害抵抗性有機適応度(表2)と有望な病害虫抵抗性品種を紹介する(表3 。)

表2 本県チャ奨励品種の病害虫抵抗性適応一覧と病害適応性有機適応度

表3 有機栽培に適応有望なチャ品種と主な特性

品種 樹勢クワシロ

カイガラムシ炭疽病 輪斑病 もち病 赤焼病

病害抵抗性有機適応度

くりたわせ 弱 やや弱 やや強 やや強 - - ○

ゆたかみどり 強 やや弱 強 中 中 弱 ◎

さえみどり やや強 弱 中 やや弱 強 - ○

あさつゆ 中 やや強 やや強 やや弱 やや強 中 ○

あさのか 強 - 中 強 - 弱 ◎

やぶきた やや強 やや弱 弱 弱 中 中 △

はるもえぎ やや強 やや弱 中 強 弱 弱 ○

かなやみどり 強 やや弱 やや強 やや強 強 強 ◎

おくみどり 強 やや弱 弱 中 弱 強 △

はるみどり やや強 やや弱 弱 弱 中 - △

品種 樹勢クワシロ

カイガラムシ炭疽病 輪斑病 もち病 赤焼病

べにふうき 強 弱 強 強 弱 強

ゆめかおり - 強 やや弱 やや強 やや弱 -

みなみさやか やや強 強 強 強 弱 -

そうふう 強 やや弱 中 強 弱 弱

はるのなごり 強 中 強 やや強 - -

しゅんたろう - やや弱 やや強 強 - -

さえあかり 強 やや弱 やや強 強 やや弱 強

つゆひかり 強 - 強 中 やや強 弱

なんめい 強 強 中 強 - -

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【成果の内容】

【成果の活用面・留意点】

茶の有機栽培に適する県奨励品種「あさのか」

・「あさのか」の有機栽培適応性について調査した。・多収性で、「やぶきた」に比べて有機栽培でも収量減が少ない。・輪斑病に耐病性があり、虫害の影響が出にくい。・耐寒性が強く、県内各地で栽培可能である。

【目的と特徴】

連絡先:茶業部栽培研究室 (TEL 0993-83-2811 )

・網もち病には弱いので、9月上旬に銅剤による防除を必要とする。

【成果情報⑨】

表 官能審査結果(H25年度) (各項目20点満点)茶期 区 名 形状 色沢 香気 水色 滋味 合計

慣行区 16.5 16.5 15.5 16.0 16.0 80.5一番茶 有機区 16.0 16.0 15.5 16.5 15.5 79.5

無防除区 16.0 16.0 15.0 15.5 15.0 77.5慣行区 13.0 13.0 13.0 12.0 13.0 64.0

二番茶 有機区 12.5 12.5 12.0 13.0 12.5 62.5無防除区 12.5 12.5 12.0 13.0 12.5 62.5

73

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チャの有機栽培で活用できる耕種的,および物理的,生物的防除(2)

これまでも,本県のチャ慣行栽培における病害虫防除は,耕種的防除,生物的防除など

を利用し,化学的防除だけに頼らない総合的病害虫管理( )を行ってきたが,有機栽IPM

培では従来の を進め,有機肥料の種類や茶園周辺の作物の植生まで含めた総合的作IPM

物管理( )の考え方が必要である。そのため,従来よりも上項で紹介した抵抗性品種ICM

やせん枝技術などのより積極的な利用が鍵となる。

そこで,抵抗性品種を除いたチャの有機栽培で活用できる耕種的,物理的防除対策を表

4にまとめた。これらの対策は,病害虫の観察を十分に行い,病害虫の被害を抑えられな

い場合に活用することが基本となる。

表4 チャの有機栽培で活用できる防除法の一覧

技術名 対照病害虫 処理時期

(1)せん枝 (浅刈り) 二番茶後の浅刈り

(浅刈り、中切りなど) 炭疽病、輪斑病、チャノミドリヒメヨコバイ、チャノキイロアザミウマ、ハマキムシ類

(中切り) 一番茶後の中切り

クワシロカイガラムシ

(2)銅水和剤 炭疽病、輪斑病、新梢枯死症、網もち病、もち病、赤焼病 予防剤なので発病前の散布が基本

(3)マシン油乳剤 カンザワハダニ、サビダニ類、チャトゲコナジラミ、クワシロカイガラムシダニ類は3月頃から一番茶萌芽前まで、チャトゲコナジラミは越冬世代の若齢~中齢期までに1月間隔で2回

(4)BT剤 チャノホソガ、ハマキムシ類、ヨモギエダシャク チャノホソガは葉縁巻葉期以降

ハマキムシ類は巻葉形成初期

ヨモギエダシャクは若齢期

(5)顆粒病ウイルス ハマキムシ類 発蛾最盛日から約2週間後の若齢期

(6)合成性フェロモン剤 ハマキムシ類 越冬世代成虫の発生前

(7)ネット直掛け チャノミドリヒメヨコバイ、チャノホソガ、ツマグロアオカスミカメ浅刈り直後に茶株をすっぽり包むように直掛けする。

(8)スプリンクラー散水 クワシロカイガラムシふ化開始直後から約2週間、日中のみ間断散水

(9)吸引式・送風式病害虫防除機

チャノミドリヒメヨコバイ、チャノキイロアザミウマ、カンザワハダニ、サビダニ類、炭疽病

新芽生育期の初期に複数回走行

(10)防霜対策 赤焼病茶芽が休眠に入る前の年内の降霜時期(10~12月)

74

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ア せん枝による防除

せん枝は,チャ栽培にはなくてはならな

い技術である。茶園の若返りや栽培管理をし

やすいように樹高,枝を整えるとともに病害

, ,虫の伝染源を物理的に除去し 茶株内の湿度

気温など環境の改善を行い,病害虫の発生し

にくい条件をつくる。

。有機栽培で問題になる病害は炭疽病である

炭疽病は,雨で新芽に感染し,病葉は落葉

しやすく,樹勢の低下を起こす(写真1 。)

秋に多発した茶園では,一番茶収量の減収を

招く。有機栽培では炭疽病に強い品種を選定

することが一番の対策であるが,仕方なく炭

疽病に弱い品種を選択した場合,せん枝技術

は炭疽病対策として効果的である(図2 。)

も一般的なせん枝時期は,二番茶後にな 写真1 A,炭疽病の初期症状(細い葉

る。せん枝により物理的に炭疽病葉を除去す 脈が網目上に褐変する ;B,古くなった)

ると同時に,茶芽の生育を遅らせて,梅雨期 病斑 ;C 症状の全景,

における感染防止を主な目的に行う。せん枝

時期が遅いほど,また,せん枝位置が深いほ

ど炭疽病の発生が少なくなるが,翌年の一番

, 。茶の収量を考慮して 時期と高さを決定する

二番茶後のせん枝効果は概ね 年程度であ1

り,新芽の時期に降雨が多ければその効果は

さらに短くなる。

そのため,一番茶後のせん枝は効果は高い 図2 せん枝による炭疽病の抑制効果

ものの,再生芽の伸びる時期が梅雨期に当た (やぶきた)

るため 雨が多い年では多発を招くので注意が必要である さらに せん枝は網もち病 写, 。 , (

真2 ,もち病など,胞子が空気伝搬される病害には効果が低くなる。)

次に,有機栽培で も問題になる害虫はチャ

( )。 ,ノミドリヒメヨコバイである 写真3 本種は

新芽を加害する害虫であり,二番茶生育期から

発生が多くなり,雨が少ない年には多発する傾

向にある。加えて,有力な天敵も少ないため,

夏茶での被害を抑えることは困難である。さら

に,有機 で利用できる農薬は少なく残効がJAS

短いなどの問題がある。

この対策として,二番茶後に浅刈り更新程度に

せん枝することにより,新芽生育期をチャノミド

写真2 網もち病 リヒメヨコバイの発生時期からずらすことで,次

茶期の被害を軽減することができることが報告さ

れている(図3 。二番茶後の浅刈り位置は,前年秋整枝から 程度低い位置を目安) 1.5cm

0

50

100

150

200

250

300

350

処理前(二番茶) 深刈なし 深刈あり

発病葉数

枚/2

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に行うと良いとされる。特に平坦地では,チャノミドリヒメヨコバイの被害を受けやすい

ことから,有機栽培茶園においてせん枝による防除法を検討する必要がある。

三番茶でのチャノミドリヒメヨコバイの被害芽率写真3 チャノミドリヒメヨコバイ(A) 図3

とその被害(B)

イ 銅殺菌剤による防除

銅殺菌剤は,病原菌の胞子発芽や侵入を阻害するため,病原菌が植物に感染する前にあ

らかじめ植物表面に付着するように予防的に散布することが重要である。病原菌が茶葉に

侵入し,発病してからでは効果が期待できない。表5に各病害の特徴と銅剤による効果的

な防除法のポイントについてまとめた。

表5 銅剤による病害防除法のポイント

0

5

10

15

20

25

慣行防除 二茶後浅刈 無防除

被害芽率

(品種:やぶきた 鹿児島総農セ茶業部 2011)

対象病害 散布時期 発病の特徴と散布の考え方

炭疽病

萌芽期~1葉期、秋芽ではさらに2~3葉期にも雨の状況に応じた散布

病原菌は降雨で飛散し、新芽の葉裏の毛茸から侵入する。そのため、新芽と雨が合う時期は発生しやすいので注意する。発病には20日程度要するため、二、三番茶では萌芽期から1葉期までに、葉裏まで薬液が良くかかるように散布する。それ以降の防除は摘採により、感染葉も持ち出されるため必要ない。また、新芽の時期に降雨がないと予想される場合は散布の必要はない。秋芽では翌年の葉層を確保するため、2~3葉期にも防除をおこなうとよい。また、せん枝と組み合わせると効果的である。

輪斑病二、三番茶の摘採・整枝直後

二、三番茶の摘採や、整・せん枝などで生じた葉や枝梢の切り口から感染するため、これらの作業の当日に散布する必要があるが、防除効果は低い。

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表5 銅剤による病害防除法のポイント(つづき)

対象病害 散布時期 発病の特徴と散布の考え方

輪斑病による新梢枯死症

秋芽の萌芽~2葉期

秋芽の生育期に輪斑病菌による新梢枯死症が発生する。本菌は、包葉が離脱(3葉期頃まで)した傷口から主に侵入し、導管を侵すため、9~10月ころに新芽全体が枯死する。そのため、防除は包葉が離脱する時期の萌芽期~2葉期まで予防的に行う。葉や枝に発生する輪斑病と異なり、新梢枯死症については予防的に散布できるため、銅剤での防除効果が期待できる。

もち病 萌芽前

もち病菌は空気伝染し、胞子の発芽には高湿度(99%以上)が必要である。病原菌が侵入できるのは芯から第2葉までの柔らかい新葉のみである。また、発病まで約10日と短い。本菌は一番茶芽の抱葉の隙間から胞子が入り込み、胞子の形で付着して越冬していることから、、銅剤で本病を防除する場合は、一番茶萌芽前(越冬芽)に散布すると銅剤の効果を 大限に引き出し、効果が高い。また、二番茶、秋芽でも萌芽前の散布の効果が高い。

網もち病 8月下旬から9月中旬

網もち病は主に二番茶、秋芽で発生する。秋に発生すると、落葉するため、枝の耐冬性が低下し、枝枯を起こしやすいく、一番茶以降の減収を招く。しかし、本病は典型的な病徴がみられるまで2か月以上かかることから、防除時期を失しやすく、症状目立つ時期には手遅れとなる。特に、炭疽病に強い品種であっても網もち病に弱い品種(あさのかな、かなやみどりなど)は防除の必要がある。本病の感染は新葉3葉期までであるが、炭疽病と異なり、多湿条件(相対湿度98%以上)で胞子が飛散するため、8月下旬から9月中旬のころに本病の感染圧が高くなる。そのため、防除時期は炭疽病と異なり、8月下旬から9月上旬となるため、注意が必要である。特に、更新等により8月下旬から9月上旬が秋芽伸育期が当たれば、本病が多発する可能性が高いため、3葉期までに防除する必要である。だだし、この時期は炭疽病に弱い品種では同時防除が可能である。

赤焼病主に初霜後の11月中旬から3月、稀に雨の多い年の梅雨時期にも発生

赤焼病は、晩秋と早春に葉と枝梢に発生する低温時期の病害であり、主に傷口や気孔など自然開口部から感染する。台風や季節風などの強風や摘採などによって生じた傷口から感染することから、常発園では予防的な散布が効果的である。特に、葉が凍結したあとの融解時に水滴とともに気孔等からも侵入し、組織内を拡大しやすいことから、秋の防霜対策(散水や防霜ファン)は非常に有効である。銅剤の散布は、初期の局所的な発生を確認したら直ちに実施し、その後は月1回程度散布すると十分に発病を抑制できる。多発生が予測される場合や、常発園の場合は、発病していなくても2月上旬から3月中旬頃までに1~2回散布する。マシン油は本病を助長するので、極力、秋から2月下旬までは使用しない。

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ウ マシン油乳剤による防除

マシン油乳剤は機械用の潤滑油が主成分であり,カイガラムシやダニの気門を物理的に

封鎖して窒息させることにより効果を発揮するため,薬剤抵抗性が発達することはないと

されている。本薬剤は早春期に散布するとカンザワハダニとチャノナガサビダニに対して

効果がある(図4 。クワシロカイガラムシに対しては第1世代のふ化 盛期の散布が効)

, , ,果が高いが 成園では株内部まで薬液がかかりにくいので 一番茶後に中切りする場合は

中切り後のふ化 盛期に散布する。ただし,マシン油乳剤は 月~翌年の2月頃に散布10

すると赤焼病の発生を助長する可能性がある。したがって,赤焼病の発生が懸念される茶

園では,3月に入って萌芽前までの間に散布するようにする(図5 。また,春期の萌芽)

前の散布は萌芽遅延を引き起こすので,散布から萌芽までの期間を十分にとる。春夏期は

新芽にかかると葉焼け等の薬害を生じるので使用を控える。

図4 カンザワハダニに対するマシン油 図5 マシン油乳剤散布による赤焼病の

乳剤の防除効果(農研機構, ) 助長作用 (農研機構, )2012 2012

エ 除虫菊乳剤による防除

除虫菊乳剤はチャノホソガに登録があり,有機 適合資材である。チャノホソガをJAS

対象に本剤を新芽萌芽期~1葉期に散布することで,新芽に発生しているチャノミドリヒ

メヨコバイ,チャノキイロアザミウマの被害を,チャノホソガと同時に軽減させることが

期待できる(図5 。ただし,本剤は残効期間が短いことから,サイクロン式吸引洗浄装)

置などの物理的防除手段と組み合わせる必要がある。

図6 除虫菊剤によるチャノホソガ防除時におけるチャノミドリヒメヨコバイ(左 ,)

チャノキイロアザミウマ(右)の同時防除効果

1.0

51.0

75.6

0.8 5.4

31.3

0

20

40

60

80

100

慣行 有機(除虫菊) 無防除

被害

芽率

(%

) 二番茶

三番茶

チャノミドリヒメヨコバイ

0.0

2.6

4.7

0.0

1.2

5.4

0

5

10

慣行 有機(除虫菊) 無防除

被害

芽率

(%

) 二番茶

三番茶

チャノキイロアザミウマ

78

Page 85: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

オ 剤による防除BT剤は昆虫寄生性の 菌( )が,菌体内に生産する結晶BT BT BerlinerBacillus thuringiensis

毒素タンパク質を製剤化した生物農薬である。製剤に際して芽胞を滅菌処理した死菌と,

滅菌していない生菌とがある。 剤は,チャハマキなどのチョウ目害虫が摂食することBT

で幼虫の体内に取り込まれると,中腸のアルカリ性条件下で結晶が解け,さらに酵素の作

用を受けて殺虫活性を示すタンパク質が生成され,防除効果を発揮する。毒素を摂食する

と2,3時間で摂食活動を停止し,死亡までは2~3日を要する。この殺虫性タンパク質

は紫外線に弱いため,野外では残効期間は短くなる。

ハマキムシ類(チャハマキ,チャノコカクンハマキ)は,巻葉内に生息し,その内部か

ら葉を食害する。そのため,巻葉内部葉に 剤を付着させるためには,巻葉の綴り方がBT

ゆるく,しかも感受性が高い若齢期に散布することが重要である。

チャノホソガはふ化後の幼虫は卵の付着部

位から直接葉内に食入し,その後,葉縁巻葉

期(葉の縁を葉裏側に筒状に巻く時期)まで

は葉内を食害する。そのため,葉縁巻葉期ま

では,葉表面に付着した 毒素を摂食するBT

機会はない。したがって,散布の適期は,葉

縁巻葉を脱出して葉の表面を食害するように

( )( ) ,なる時期 三角巻葉期 写真4 の直前で

チャの新芽の生育ステージでは萌芽期から8

日前後になる。この時期に散布しても幼虫は

三角巻葉を形成する(図7)が,巻葉内で毒 写真4 三角巻葉内のチャノホソガの

素の付着した葉表面を摂食するため死亡し結 幼虫(右側は虫糞)

繭を形成できない。そのため,結果的に虫糞量が抑制される(図8 。)

図7 剤(エスマルク )のチャノホソガの発育ステージ別効果BT DF

( )内は調査した発育ステージ

0 0

10.2

0 0.70

32.625.6

0

91.1

0

20

40

60

80

100

卵期 潜葉前期 潜葉後期 葉縁巻葉期直接 葉縁巻葉期間接

防除

率(%

処理した発育ステージ

(葉縁巻葉)

(ふ化)

(葉縁巻葉)

(三角巻葉)

(三角巻葉)

(葉縁巻葉) (結

繭)

(三角巻葉)

(結繭)

(三角巻葉)

79

Page 86: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

図8 剤(エスマルク )の時期別散布による虫糞抑制効果BT DF

カ 顆粒病ウイルスによる防除防除

顆粒病ウイルスは,野外で病死したハマキムシ類(チャハマキ,チャノコカクモンハマ

キ)の幼虫から分離された昆虫寄生性のウイルスで,ハマキムシ類の幼虫のみに殺虫効果

がある。有機認証されている「ハマキ天敵(写真5 」は,ウ)

イルス顆粒体(包埋体)を成分としている。ハマキムシ類が

葉に付着した包埋体を摂食すると,腸内で包埋体が溶解し,

遊離したウイルス粒子が腸管の表面から細胞内に侵入する。

細胞内ではウイルスの増殖が始まる。感染した幼虫は終齢期

に発病し(体色が白くなる,写真6 ,蛹化前に死亡する。感)

染しやすいのは2齢幼虫までで,その後は感染率が急激に低

下する。したがって,散布は発蛾 盛期の7~ 日後の若齢14

幼虫期に行う。若齢幼虫は,前の世代が作った巻葉内に潜り

込む習性があるため,この際に前世代の感染幼虫と接触する

機会があり,顆粒病ウイルスが次世代に伝搬すると考えられ

ている。

一般的には第1世代(越冬世代の次の世代)の若齢幼虫

期に散布すると,その後1~2世代は感染が流行する。そ

, , ,のため 慣行栽培では 顆粒病ウイルスを散布した後の1

2世代の間は,感染源となるハマキムシ類の幼虫を確保す

るために,ハマキムシ類に対して防除を行わない。

キ 合成性フェロモン剤による防除

ハマキムシ類の合成性フェロモン剤(ハマキコン-N)は,チャハマキとチャノコカクモンハマキの

両種(写真7)の性フェロモン成分を含んでおり,雄が雌を探索することをできなくし,交尾を阻害

することから産卵を抑制し,次世代の発生を抑制する。交尾を効率よく阻害するために,成虫が

44.1

8.3

44.6

0

20

40

60

80

100

BT0.5葉期散布 BT3葉期散布 無処理

虫糞

が多

い三

角巻

葉の

割合

(%

写真5 ハマキムシ類の微生物農薬「ハマキ天敵」

写真6 野外で顆粒病ウイルスに罹病したチャハマキの老齢幼虫

80

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発生し始める前や低密度時に設置する。実際

には,越冬世代の成虫の羽化が始まる前まで

の設置が良い。ただし,発生時期は地域で異

なるので,地元の発生予察情報を利用する。

さらに,ハマキムシ類は成虫が飛翔して圃

場間を移動するので,未処理圃場から既交

尾雌が侵入するのを防ぐために,広域に処

理することも重要である。

ク 散水による防除(クワシロカイガラムシ)

クワシロカイガラムシの卵塊のふ化開始以降に,2週間程度散水する。日中の 時間12

程度,スプリンクラーで間断散水( 分散水, 分止水)を行い,クワシロカイガラム10 20

シ雌成虫の介殻内を水浸しにし,あるいは介殻内の湿度を高めたりして,卵塊を腐敗させ

て防除する。この方法で, %以上の卵塊を死滅させることができる。ただし,この方90

法は茶樹内の湿度が高くなるので,病害の発生に注意が必要である。

ケ 黄色高圧ナトリウムランプによる防除

黄色高圧ナトリウムランプは,新芽生育時期の夜間に点灯することで,チャノホソガの

行動を抑制し,被害を軽減する(図9 。)

京都府,福岡県,

熊本県,滋賀県等

で研究調査がなさ

れ,関連情報が出

されている。

図9 ランプ点灯によるチャホソガの誘殺頭数の推移(左)と設置の様子(右)

コ 吸引式・送風式病害虫防除機による防除

本装置は乗用型の機械で,進行方向前方の「ブラシ・吸サイクロン式吸引洗浄装置・・・

」 , 「 」 ( )。「 」 ,引部 と 後方の 送風・散水部 で構成されている 図 ブラシ・吸引部 では10

新芽や古葉に生息する害虫や炭疽病の罹病葉を稼働ブラシで浮遊させ,同時に吸引除去す

る。さらに,後方で散水と送風によって病葉を吹き飛ばし,害虫に対しても噴射圧により

ダメージを与える。

この装置は新芽の生育期間に稼働させることにより,チャノミドリヒメヨコバイや炭疽

病に対して防除効果がある。さらに,葉裏に寄生するカンザワハダニやチャノナガサビダ

ニの密度を低下させる(図 。本装置を用いて病虫害を防除する場合,ブラシ回転11,12,13)

数は ,走行変速は3速( 分 )に設定し,茶時期は1週間に 回程度の間100rpm 17.8 /10a 1

隔で稼働を行うか,また,萌芽期~摘採期にかけて4日に1回程度の間隔で稼働させる。

写真7 茶株面上で交尾するチャノコカクモンハマキ(A)とチャハマキ(B)

81

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本機は,後方から茶株面に強風送風式捕虫機・・・

を吹き付け,吹き飛ばされた害虫や病葉を機械に取

り付けた袋に回収する仕組みになっている(写真

8 。送風式捕虫機は,4日に1回程度の間隔で走)

行させることにより,チャノミドリヒメヨコバイの

。 ,被害を軽減する ヨコバイが多発生しているときは

新芽生育初期に重点的に走行すると効果的である。

これらの機械は,防除効果を上げるため注意事項

には頻繁に走行させる必要がある。そのため,新芽

の生育期には芽に傷が付かないように適正な設定条

件で作業を行う。また,うね間が機械の頻繁な走行により硬く踏みしめられることも考え

られることから,走行条件を適正に調整し,土壌のぬかるんだ状態での走行は避けること

が重要である。

図 10 サイクロン式吸引洗浄装置

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

慣行防除 1回/週 無処理

6/ 4(二番茶3葉期)

8/10(秋芽萌芽期)

9/10(秋芽生育期)

10/14(整枝前)

0

20

40

60

80

100

120

140

1回/週 無処理 1回/週 無処理

古葉

新葉

チャノナガサビダニ カンザワハダニ

寄生葉数

図 チャノミドリヒメヨコバイに対する13吸引装置の防除効果 (農研機構, )2012

図 ダニ類に対する防除効果12

図 炭疽病に対する防除効果11

写真8 送風式防除機(農研機構, )2012

82

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サ 防霜対策(防霜ファン)による防除

赤焼病は秋冬季が低温の年に発生しやすく,さらに同じ茶園内でも,霜の発生しやすい

場所で多発生する傾向がある。このような現象から,赤焼病の感染は,晩秋から初冬の霜

の発生と密接に関係していることが明らかになっている。降霜の際にできた葉表の氷が解

けるとき,葉表の赤焼病菌が水とともに気孔から葉内に侵入する。このような病原菌の葉

内への侵入経路を断ち,発病を抑えるために,防霜対策が効果的である(図 。以下に14)

その具体的な防霜対策を紹介する。

年の 月 日から 月 日まで防霜ファンによる防霜対策を行った。ファン2007 10 16 12 31

の稼働開始は茶株面に設置した温度センサーの設定温度に従い,ファンを稼働させる温度

は 月 日から 月 日までは4℃,10 17 11 13

その後 月 日までは2℃, 月 日11 30 12 14

12 30までは1℃ そして防霜期間終了の 月,

日までは0℃に設定した。ファンを停止さ

せる温度は,いずれの時期も稼働開始温度

よりも2℃高い値に設定した。

その結果,この防霜期間にファンが稼働

したのは 日間で,その間の 低気温は無15

防霜区が ℃であったのに対して,防霜-6.3

区では ℃に止まった。結局,葉表の結-1.5

氷が観察されたのは無防霜区では8回であ

ったのに対して,防霜区ではわずかに1回

だけであった。

防霜区では,赤焼病が初めて観察された

1月4日にカスガマイシン銅水和剤を,そ

の1ヶ月後に無機銅剤をそれぞれ散布した。その結果,赤焼け病の発病葉数は被害許容水

準の1m 当たり 枚以下に抑えられ,高い防除効果を示した。2 50

図 防霜ファンによる防霜対策がやぶ14きたの赤焼病の発生量に及ぼす影響。矢印は銅剤(実線,カスガマイシン銅水和剤; 破線,無機銅剤)の散布日を示す。

破線は要防除水準(被害葉 枚/m )50 2

83

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(参考)茶害虫の天敵類

有機栽培茶園では虫に影響が少ない環境になることから様々な天敵類が生息している。

ここでは,その主な天敵類について紹介する。

害 天 敵 類

カブリダニ類 ハダニバエ類ワ

茶園には複数種のカブリダニ類が生息している。カンザ この仲間の幼虫は,ハダニやクワシロカイガラムシなどハ

ワハダニの発生に少し遅れて増殖し,カンザワハダニを を捕食する。名前はハエであるがカの仲間である。左ダ

食べつくす。他にもチャノミドリヒメヨコバイやチャノキイロ の写真は,数匹のハダニバエがカンザワハダニの集ニ

アザミウマも攻撃する。冬は主のいなくなったハマキム 団を攻撃しているところである。

シ類の巻葉内に数匹の集団で越冬しているのを見かけ

る。成虫はハダニの集団の中に少し大きめの楕円形の

卵を産む。

チャノミドリヒメヨコバイの チャノミドリヒメヨコバイの幼 ハエトリグモの仲間コ 茶株上に最も普通に見

成虫を捕獲した造網性 虫を捕食するカブリダニ類 ハエトリグモの仲間も茶株バ かけるクモ。網を張らず

のクモ 面を徘徊しながら餌を捕食イ に,茶株面を歩き回って

する。様々な昆虫類を捕食す

る。

84

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害 天 敵 類

オオアトボシアオゴミムシ アトボシアオゴミムシ アオゴミムシ類の幼虫ハ

本種は全国の作物圃場 本種は森林性のゴミムシで, 一般にアオゴミムシ類の幼虫は植物体に上る習性が

や果樹園で1~2世代を 作物圃場ではほとんど見か あり,害虫を捕食することでよく知られている。他のゴミマ

繰り返すが,チャでは4世 けない。しかし,茶園は永年 ムシ類のほとんどは成虫・幼虫ともに地表で活動して

代繰り返すことが確認さ 性で森林のような環境なの いるため,害虫の捕食者としてはあまり機能していなキ

れている。幼虫は植物体 で,生息しているようである。 いが,アオゴミムシの仲間は有用な捕食者である。

にのぼり,主にチョウ目の オオアトボシアオゴミムシにム

幼虫を捕食する。 似る。

チャハマキの寄生バエ チャノコカクモンハマキの寄生蜂

夏場によくみかける。 1年を通して寄生蜂は働いている。これらの寄生蜂の寿命をのばし,産卵数を増や

すために,花蜜を出す雑草の存在は重要である。1年を通して様々な時期に花を咲

かせる多様な雑草を管理する技術は重要である。

85

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図 病害虫に弱い品種における年間の防除体系の1例15

 

茶の生育状況

ハダニ

サビダニ類

ャノミドリ

 ヒメヨコバイ

ャノキイロ

 アザミウマ

ャノホソガ

ハマキムシ類

萌芽期

2葉期

4葉期

摘採

萌芽期

2葉期

4葉期

摘採

萌芽期

2葉期

4葉期

摘採

萌芽期

2葉期

4葉期

秋整枝

秋芽生育期

萌芽前

害    虫

一番茶

二番茶

三番茶

4月

3月

7月

5~6月

8~9月

有機栽培では

ほとんど発生

しない。

萌芽までの密度推移を

定期的に調べて、防除

の要否を判定する。

マシン油乳剤

移行期間対策

マシン油乳剤

二番茶摘採後

の浅刈り

二番茶摘採後

の浅刈り

BT剤

散布

BT剤

散布

防除必要

なし

防除必要

なし

被害発生

BT剤・ハ

マキ天敵

散布

やや被害

発生

カブリダニ

類活躍

カブリダニ

類活躍

自然消滅

吸引装置の

走行

吸引装置の

走行

自然消滅

自然消滅

F1

F2

F3

F4

F5

天敵

少発生

天敵活発

天敵活発

天敵不在

マシン油の散布は赤焼病の

発生を助長しやすいので、そ

の後赤焼病の初発生を確認

したら銅剤を散布する。

86

Page 93: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

図 病害虫に弱い品種における年間の防除体系の1例(つづき)16

害   虫

茶の生育状況

クワシロカイ

ガラムシ

赤焼病

輪斑病

炭疽病

萌芽期

2葉期

4葉期

摘採

萌芽期

2葉期

4葉期

摘採

萌芽期

2葉期

4葉期

摘採

萌芽期

2葉期

4葉期

秋整枝

病    害

萌芽前

一番茶

二番茶

三番茶

秋芽生育期

3月

4月

5~6月

7月

8~9月

害虫防除のた

めにマシン油を

散布した場合

は、赤焼病が

発生しやすい。

輪斑病摘採直後に銅

剤散布炭疽病2葉期ころまで

銅剤散布

赤焼病初発確

認後、銅剤散

炭疽病2葉期ころまで

銅剤散布

炭疽病2葉期まで

と3,4葉期

銅剤散布

輪斑病摘採直後に銅

剤散布

・第1世代の若

齢期にマシン

油乳剤散布、

・散水防除

87

Page 94: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

【成果の内容】

【成果の活用面・留意点】

チャノホソガに対するBT剤の効果的使用時期

・チャノホソガの発育ステージ別に,有機JAS認証資材であるBT剤(Bacillus thuringiensis)

の処理効果を検討した。・チャノホソガの葉縁巻葉期でチャ新芽の3葉期にBT剤を散布すると,三角巻葉は形成されるが巻葉内で幼虫が死亡し,荒茶品質に影響する虫糞の排出が抑制される。

【目的と特徴】

連絡先:茶業部環境研究室 (TEL 0993-83-2811)

・葉縁巻葉期は2~3日間であることや,BT剤は浸透性や残効性はないため,散布時期を失しないようにする。

【成果情報⑩】

44.1

8.3

44.6

0

20

40

60

80

100

BT0.5葉期散布 BT3葉期散布 無処理

虫糞

が多

い三

角巻

葉の

割合

(%

0 0

10.2

0 0.70

32.625.6

0

91.1

0

20

40

60

80

100

卵期 潜葉前期 潜葉後期 葉縁巻葉期直接 葉縁巻葉期間接

防除

率(%

処理した発育ステージ

(葉縁巻葉)

(ふ化)

(葉縁巻葉)

(三角巻葉)

(三角巻葉)

(葉縁巻葉) (

結繭)

(三角巻葉)

(結繭)

(三角巻葉)

図 チャノホソガの各発育ステージに処理したBT剤の効果

図 BT剤の散布時期による虫糞抑制効果

88

Page 95: - 野菜・茶...CEC Ca/Mg Mg/k H2O mg/100g meq/100g 塩基 石灰 苦土 カリ 施設 平均 6.8 414 22.4 123 85 29 9 3 5 最大 7.9 1232 37.7 173 145 53 22 7 29 最小 5.0 14

2 有機栽培茶園の特徴・特性(生物多様性)

一般に有機物の施用は,それらを分解するミミズ等の土壌動物や微生物の種類数や密度

を高める。その結果,地表に投入された有機物の分解が早まり,無機化された栄養素が再

び作物に吸収されるという栄養サイクルが早まり,土壌の養分供給能力が高まりやすい。

有機栽培茶園の微生物活性に関する報告は少ないが,比較的調査しやすい土壌動物の種類

や個体数から,土壌中の微生物の活性を推定できる可能性がある。

そこで,県内の2つの地域(南薩と霧島)の,有機栽培と慣行栽培の圃場を5ヵ所ずつ

選定して,地表に生息するハネカクシ類とワラジムシ類を落とし穴トラップを用いて,2

年間にわたって捕獲数を調査した。その結果を図 に示した。17

ハネカクシ類(写真9,D)やワラジムシ類(同写真G)は粗大な有機物を分解して,

糞として排泄する。その糞はササラダニ類やトビムシ類(写真9,A,B)などの小型の

動物によってさらに分解され, 後には微生物によって窒素,リン,カリなどの無機養分

にまで分解される。したがって,有機物を分解する土壌動物が多いと,それらの排泄物を

餌にするさらに小さな動物,そして 終的には微生物も多いことが想像される。有機栽培

茶園にこれらの分解者が多いという結果は,有機栽培茶園はそれだけ有機物の分解が速や

かであることを意味している。投入した有機質肥料や,整・せん枝などで落下した枝葉の

分解も有機栽培茶園では早く進むと考えられる。

土壌動物の中でトビムシ類 写真9 A B は 土壌に生息するアリやクモ類の餌 同( , ) , (

写真E,F)としても重要な働きを行っている。したがって,トビムシ類がたくさんいる

, , ( ) ,有機茶園には それを専門に餌とする捕食者 例えばウロコアリ類 写真10 A も多く

そのためウロコアリ類は有機栽培茶園の有用な指標種になっている。他にオオハリアリも

機茶園に特異的に多く,指標種である(写真10 B)。有

アリ類も有機茶園は慣行茶園に比べて,個体数は約5倍,種数は約1.5倍と多くなった

(図18 。有機茶園のアリ群衆の種数の多さや個体数の多さが,どのような意義があるの)

かは現在のところ不明だが,何らかの生態系サービスを提供している可能性がある。

図 17 茶園の有機物分解者の個体数に及ぼす有機栽培の影響(末永,未発表)

89

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写真9 A,フシトビムシの仲間(上,葉上に生息; 下,地表に生息 ; B,マルトビムシの)仲間(上,葉上に生息; 下,地表に生息 ; C,D,ハネカクシ類; E,フシトビムシ類を捕)食したヒラタウロコアリ; F,フシトビムシ類を捕食したウロコアリ; G,ワラジムシ類

写真 10 有機栽培茶園の指標となりうる(A)ウロコアリと(B)オオハリアリ

図 18 茶園のアリ類の個体数と種数に及ぼす有機栽培の影響(鹿児島県;末永,未発表)

90

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3 施肥管理

(1)基本的な考え方

有機栽培は地力に依存した生産方式であり,施用した有機物から発現する無機態窒素等

を厳密にコントロールする

ことは難しいが,茶は年間を通して養分吸収のある作物であり,その意味では有機栽培に

適していると思われる。以下に,有機栽培における施肥管理のポイントを述べる。

(2)施肥管理のポイント

ア 土壌診断の実施

茶の良好な生育を確保するためには,茶園土壌改善指針に基づく土壌管理及び施肥管理

が重要であり,そのためには定期的な土壌診断等を実施する必要がある。特に有機栽培茶

園では,用いる肥料あるいは土壌改良資材の種類や施用量が限定される場合もあるため,

土壌の酸性化,濃度障害,特定養分の蓄積および溶脱に伴うミネラルバランスの不均衡化

等が起こりやすい場合が考えられる。茶園土壌は茶の生育面の特性から,一般の作物に比

べて,酸性化しやすい土壌環境にあるため,塩基類(カリウム,カルシウム,マグネシウ

ム等)の溶脱が多い傾向にある。さらに,茶園では特定の有機質肥料や堆きゅう肥を多用

, 。 ,する事例が多く リン酸やカルシウムの過剰が認められる事例が多々認められる 例えば

現場の一部で使われている鶏ふん堆肥は,貴重な窒素肥料であるが,リン酸やカルシウム

の含量も高いことから,施用基準を上回る施用は茶の生育や収量を損なう場合がある。ま

た,実例の一つとして,表6で示している菜種油粕と魚粉を主体とする施肥体系で,4年

間栽培した結果,慣行栽培に比べて,うね間表層における可給態リン酸と交換性カルシウ

ムの集積が多かった。個々の有機肥料や堆きゅう肥で,茶の必要とする養分を完全に満た

し得る有機質資材はまれであり,さらにそれらの資材における養分の成分量のそのもの自

体が大きく変動する場合もあるため,日常からの茶の生育観察に加えて土壌診断を適宜実

施し,施用する資材の種類や施用量の見直しを臨機応変に行う必要も考えられる。

イ 土壌酸性の矯正

土壌の酸性化は,有機物の分解に関わる土壌微生物相の変化に大きく影響するため,施

用された有機質資材の分解が遅くなる等,肥効発現の遅れがみられるとともに,根の生育

や活性に悪影響を及ぼす。茶園土壌の適正pHは4.0~5.0であり,うね間のpHが4.0 以

下の場合は炭カルや苦土炭カル,貝化石等で矯正する必要がある。またpH5.0以上の場

合には,イオウ粉末を必要に応じて施用する方法がある。苦土石灰類の施用は,基本的に

は土壌緩衝能曲線を作成して施用量を算出することが基本であるが,一般には10a当たり

100kg程度を目安に施用する。

ウ 有機栽培で留意すべき養分

(ア)カリウムとマグネシウム

, , 。カリウムは 窒素に次いで茶樹に多く含まれ 茶樹の耐寒性と関係するといわれている

茶園のような酸性土壌では溶脱量が多く,また茶園で用いられる有機質肥料の中には,魚

粉や菜種油かす等のように,カリウム含量の低いものが施用されている事例が多くある。

, , ,このため カリウム含有量の少ない資材を施用する茶園では 定期的な土壌診断に基づき

。 ,必要に応じたカリウムの補給が必要である 有機栽培で用いられるカリウム資材としては

草木灰があり,また茶園の敷き草にもカリウムを補給する効果がある。

91

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その反面,カリウムが比較的多く含有される牛ふん堆肥等を施用した茶園では,カリウ

ムが蓄積している場合がある。このような茶園では,マグネシウムの吸収がカリウムとの

拮抗作用によって抑制されることがある。マグネシウムが欠乏すると,葉緑素が減少して

緑色を失い,葉脈間が黄化する。欠乏症状は古葉から発現する。この対策としては,土壌

診断の結果に基づき,拮抗作用のあるカリウムが少ない場合は硫酸カリ苦土を施用し,逆

にカリウム含量が多い場合は硫マグ(硫酸苦土)を施用する方法がある。ただし,硫酸カ

リ苦土と硫マグ(硫酸苦土)は,天然物質または化学処理を行っていない天然物質に由来

するものとする。

(イ)硫黄

硫黄はカリウムに次いで茶の吸収が多く,茶樹内の硫黄化合物は香気成分として重要で

あるといわれている。慣行栽培においては,硫安が主な硫黄の供給となっているが,有機

栽培では硫安の使用が認められていない。既存のデータによると,無硫酸根肥料を3年程

度連用すると,葉色が薄くなり生育が衰えるが,硫安の施用で回復することが知られてお

り,このことから茶園において硫黄欠乏が起こり得ることが推定されている。一般に硫黄

の欠乏症状は,葉全体の黄化で窒素欠乏の症状に類似している。有機質肥料の多くは,硫

黄も含有しているものが多いため,通常は硫黄欠乏は起こりにくいと考えられる。欠乏が

認められた場合,土壌診断でカルシウム,マグネシウムが不足しているものの土壌pHを

矯正する必要がない時は,硫酸カルシウムあるいは硫マグ(硫酸苦土)を施用する。ただ

し,硫酸カルシウムと硫マグ(硫酸苦土)は,天然物質または化学処理を行っていない天

然物質に由来するものとする。

(ウ)微量要素

各種微量要素は,基本的には有機質肥料に含まれているため,有機栽培では,特に微量

要素欠乏の発生は少ないといわれている。しかし,蛇紋岩や頁岩の風化土壌の茶園や,土

壌中に可給態リン酸が著しく蓄積している茶園等では,亜鉛欠乏が発生する場合があるの

で注意を要する。

(3)代表的な有機質肥料の種類と分解特性

有機質肥料とは,動植物質資材を原料とする肥料の総称である。一般に茶では,慣行栽

培においても,他の作物に比べて有機質肥料の施用割合が大きい。これは,有機質肥料は

無機質肥料に比べて収量は変わらないが,品質の向上が図られる場合があることによる。

しかし,その理由については不明な点が多いのが現状である。

有機質肥料には保証された肥料成分のみでなく,その他の微量要素等分も含み,その肥

効も,緩効性肥料的な効果がある。このため,有機質肥料の施用に当たっては各資材の特

性を活かした施用を行うことが重要になる。例えば,茶芽の生長が早い夏肥には,肥効が

速効的な有機質肥料を用いる等,茶樹の養分吸収特性も考慮した施用法が重要と考えられ

る。また,同じ名称で呼ばれる有機質肥料でも,その成分や肥効が大きく異なる場合もあ

るため,使用に当たっては注意が必要である。

有機農業で使用可能な施肥資材は,有機JAS 規格に各種定められているが,その中で茶

園に多く使用されている菜種油粕,魚粕及び骨粉などの特性を以下に述べる。

ア 菜種油粕

菜種の種子から油を抽出した残り粕で,搾油法により色状が異なるが,肥料成分は窒素

5%前後,リン酸3%前後,カリ1.5%前後である(公定規格;窒素4.5%以上,リン酸2

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%以上,カリ1%以上 。窒素の主な形態はタンパク態である。油脂の含量は,搾油法に)

よって差があり,圧搾しただけのものは油脂分が多く残存しており,土壌中での分解が遅

く,肥効の発現が遅れる特徴がある。一般的に,菜種油粕は各種の油粕の中でも, も遅

効性で,その分解速度は,形状や地温によって,大きく変化し,粒が細かいほど,地温が

高いほど分解は速くなる。またカリは水溶性で,速効性があるものの,その含量が少ない

ため,土壌診断の結果でカリが不足している場合は他の肥料と組み合わせた利用が必要で

ある。その他の注意点としては,土壌に施用した菜種油粕から生成される有機酸は,急激

に分解すると一時的に多量の有機酸が生成され,亜硝酸ガスなどの有毒ガスも同時に発生

する場合があり,作物の生育を阻害することがあるので,特に挿し木床や改植園で施用す

る際は,施用後2~3週間してから耕起し定植等を行う必要がある。

イ 魚 粕

魚粕は生魚を水で煮た後,水分と脂肪を絞って乾燥させたもので,公定規格では窒素4

%以上,リン酸3%以上で,かつ窒素とリン酸の合計量は12%以上と定められている。

カリの含量が少ない(1%以下)ことが,成分上の大きな特徴である。したがって,菜種

油粕と同様に,カリの少ない土壌では,他のカリを含む施肥資材との組み合わせが必要で

ある。また,窒素はタンパク態で,土壌中での分解が有機質肥料の中でも速効性である。

ウ 骨粉(蒸製骨粉)

生骨を砕いて蒸気で加圧蒸煮し,乾燥,粉砕したものである。公定規格では窒素とリン

酸をともに保証するものは,窒素1%以上,リン酸17%以上で,かつ両成分の合計含有率

が21%以上となっている。リン酸のみを保証するものはリン酸25%以上である。カリはほ

。 , 。とんど含まれていない この資材の大きな特徴は 石灰含量が25%前後と高いことである

窒素とリン酸は土壌中で分解されてから作物に吸収されるため,肥効は遅く持続性があ

る。

エ 草木灰

パームアッシュ,トウモロコシなどの焼成灰でカリ含量が高く,成分の主体は炭酸カリ

ウムであり,水溶性のカリが5%程度,リン酸が1~2%程度含まれている。

オ 硫酸カリ

有機栽培では,天然物質または化学的処理を行っていない天然物質に由来するものとさ

れている。硫酸カリは水溶性カリを50%含む生理的酸性肥料で肥効は速効性である。

カ ぼかし肥

茶園でよく使われるぼかし肥は,油粕,魚粕,骨粉などの有機質肥料を混ぜ合わせ,水

分を加えて発酵させたものや,有機質肥料に山土や堆肥を加えてから発酵させたものがあ

る。県内の有機茶園でも使われている事例が多い。

有機質肥料の油粕,魚粕,骨粉などを直接土壌へ多用すると,施用初期の急速な分解

に伴う有機酸の生成や,アンモニアガスや亜硝酸ガスの発生によって発芽や定植直後の

生育が阻害されることがあるが,ぼかし肥はこれらの障害をなくすため,複数の有機質肥

料を混ぜ合わせ,必要に応じて山土や堆肥を混合し,50~55℃以上にならないように切り

返しながら1~2ヵ月間にわたって微生物による分解発酵させ,施用後の急速な分解や養

分放出を抑制するものである。ぼかし肥は,材料の種類や量を変えることによって,肥料

, 。 , , ,効果の程度や効き方の遅速 土壌改良効果の大小が調節可能である ただし 油粕 魚粕

骨粉を主な原料とした場合に,特に留意する点は窒素とリン酸に比べてカリ含量が低いこ

とから,成分含量を把握した上で施肥基準等をもとにカリ肥料を補う必要がある。

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(4)年間の施肥体系の考え方

効率的な施肥管理のためには,毎年必要な量を季節に応じて分施すること,土壌・気象

条件に合わせて調節することが大切である。施用量は,環境保全型農業の観点からも,施

( ) 。 , , , , ,肥基準 年間窒素投入量50kg/10a に準拠する 窒素は 秋肥 春肥 芽出し肥 夏肥で

茶樹の生育に応じて施用する。一般的には,慣行栽培茶園と同様に,秋肥,春肥および夏

肥において分施を行い,年8回程度に分けて施肥することが望ましい。リン酸とカリは,

茶樹の吸収が旺盛な春秋を中心に施用することが適当である。毎回の施肥後は,肥料と土

, 。壌を混和した方がよいが 根をあまり痛めないように深さ10cm程度までの耕うんに止める

また,踏み固められたうね間を中耕し,肥料や敷き草などを混合して,地力増強を図るこ

とも重要である。

(5)施肥時期

窒素の施肥は,秋肥(8月下旬~9月中旬 ,春肥(2月上~下旬 ,芽出し肥(3月) )

下旬 ,夏肥(一番茶後,二番茶後)というように茶樹の生育に応じて施用することが基)

本である。しかし,地温の低い春肥や芽出し肥の施用時期は,有機質肥料の肥効発現が遅

れるので,慣行の施肥時期より1~2週間程度早めに施用する等,地域の気象条件に応じ

た施肥が求められる。特に有機栽培では,有機質肥料の分解を促進し肥効を高めるため,

土壌との混和や灌水管理等が重要となる。また新芽が摘採された後,茶樹の窒素吸収は早

, 。い時期ほど活発に行われるので 夏肥の追肥は摘採後なるべく早く行うことが大事である

一方,リン酸は土壌に固定されやすいが,茶樹は難溶性のリン酸も利用できるため,秋肥

と春肥の2回施用でよい。またカリは窒素に次いで収奪量が多いが,窒素ほど溶脱はせず

土壌に保持されるので,秋肥及び春肥の2回施用が適当である。強度のせん枝を行った場

合,三要素の吸収量は激減し,1ヵ月程経過してから吸収が行われるので,施肥量や施肥

時期に留意する必要がある。

(6)施肥基準

永年性作物で年間2~4回新芽を収穫する茶樹の施肥量は,新芽の摘採により茶樹から

収奪された養分を樹体に戻すことを基本とする。有機質資材の種類による肥効発現を考慮

しながら施肥を行う。施肥量の留意点としては,一回の窒素の施用量が多いと,根や葉の

生理作用を阻害し障害を起こす場合や地下への溶脱量が多くなることから,1回の上限施

用量は窒素成分で10a当たり10kg以下とし,それ以上を施用する場合は分施する必要があ

る。

(7)有機質肥料施用上の特記事項

有機栽培では有機質肥料を施用することから,特に降水量が少ない時には施用した肥料

の分解が進まないため,50mm程度の雨が降ってから施用するか,施用後に灌水することが

効果的である。一方,梅雨時期など特に雨が多い頃に有機質肥料を多く施用すると,有機

物の分解が進まず嫌気発酵をして分解が遅れたり,うね間がぬかるんで作業が困難になる

場合があるので,中耕・浅耕などの適切な土壌管理を行う必要がある。

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(8)菜種油粕と魚粉の分解特性を考慮した施肥事例

下表に,菜種油粕と魚粉等の有機質肥料のみを用いた年間窒素施用量50kg/10a の施肥

事例を示す。この施肥設計は,以下に述べるねらいを考慮した施肥体系である。

ア 一番茶の収量・品質向上を 重視するため,春肥重点型の施肥とする。

イ 秋肥:慣行栽培の半分の窒素施用量にする。

ウ 春肥~芽出し肥:油粕は肥効が遅く,無機化率も低い( 高64%)ので,12月下旬の早

めの施用とし,窒素無機化量を慣行栽培並みにする( 施肥名人 」利用 。「 )R

ただし,寒肥は凍霜害や赤焼け病を回避するため,少量施用とする。

エ 夏肥:土壌窒素の無機化を考慮して,夏肥Ⅱを減らす(2年目以降)。

この施肥設計で,3年間栽培した結果,一番茶では慣行栽培と同程度の生葉収量と荒

茶品質を得ることができた。詳細は成果情報②を参照のこと。

表6 菜種油粕と魚粉を用いた施肥事例

(上段:肥料名,下段Nkg/10a)秋肥Ⅰ 秋肥Ⅱ 寒肥 寒肥 春肥Ⅰ 春肥Ⅱ 芽出肥 夏肥Ⅰ 夏肥Ⅱ(8月上旬) (9月上旬) (12月上旬) (1月中旬) (2月上旬) (3月上旬) (3月下旬) (一番茶後) (二番茶後)

慣行栽培 有機配合Ⅰ有機配合Ⅰ 有機配合Ⅱ有機配合Ⅱ 硫安 有機配合Ⅱ有機配合Ⅱ

5 5 8 7 7 8 10 50 (50)

有機栽培 菜種油粕 菜種油粕 菜種油粕 菜種油粕 魚粉 魚粉 菜種油粕 菜種油粕 菜種油粕

3 2 3 5 7 7 10 8 5 50 (32)注1)有機配合Ⅰ(7-2-2,有機質由来窒素61%),硫安(21-0-0),有機配合Ⅱ(11-1-2,有機質由来窒素40%),菜種油粕(5.3-2-1),魚粉(8-8-0)

注2)年間合計の括弧内は,各資材における窒素の無機化量を「施肥名人」で推定した窒素発現量を示す。

試験区 年間合計

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「施肥名人 」による窒素無機化量の推定R

<慣行栽培>

<有機栽培>

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(9)茶園土壌の診断基準

土 壌 非火山灰土 火山灰土

表土の厚さ(cm以上) 25 25

主要根群域の深さ(cm以上) 40 40

有効根群域の深さ(cm以上) 60 60

現地容積重(g/100ml) 80~100 40~ 80

pF1.5の気相率(%以上) 20 20

有効根群域の 高ち密度 (mm以下) 20 20

主要根群域の水分率 pF1.5~3.0(v%以上) 10 20-4 -4有効根群域の 小透水係数(cm/sec以上) 10 10

地下水位(cm以下) 100 100

グライ層の位置 (cm以下) 80 80

腐植(%以上) 3 5

pH(H O) 定植後 4.0~5.0 4.0~5.02

定植時 5.0~5.5 5.0~5.5

陽イオン交換容量(meq/100g乾土) 8~20 15~35

塩基飽和度(%) 25~40 25~40

石灰飽和度(%) 15~25 15~25

カリ飽和度(%) 2~ 4 2~ 4

16 20陽イオン交換容量が16,20の場合の塩基含量

交換性CaO(meq/100g) 2.4~4.0 3.0~5.0

〃 MgO(meq/100g) 0.3~0.6 1.0~2.0

〃 K O(meq/100g) 0.3~0.6 0.4~0.82

交換性CaO(mg/100g) 67~112 84~140

〃 MgO(mg/100g) 6~ 12 20~ 40

〃 K O(mg/100g) 14~ 28 19~ 382

CaO/MgO(当量比) 3~ 6 4~ 8

MgO/K O(当量比) 2~ 5 2~ 52

トルオーグリン酸(mg/100g乾土) 20~100 5~50

EC(1:5,dSm 以下) 1.0 1.0-1

注:1)主要根群域:茶根の大部分が存在する土層

2)有効根群域:茶根の伸長しうる土層

3)容積重,気相率および腐植はうね間主要根群域を対象とする。

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【成果の内容】

【成果の活用面・留意点】

茶のJAS有機栽培における生葉収量と荒茶品質

・茶のJAS有機栽培体系を確立するため, JAS有機に適合した肥培管理における茶の生葉収量と荒茶品質を明らかにした。・一番茶の生葉収量と荒茶品質は,慣行栽培と同程度となる。しかし,二番茶と三番茶は,チャミドリヒメヨコバイの被害によって慣行栽培よりも劣る。

【目的と特徴】

連絡先:茶業部環境研究室 (TEL 0993-83-2811)

・供試品種は「やぶきた」で,土壌条件は多腐植質黒ボク土である。・施肥資材は,菜種油粕と魚粉を用い,年間窒素投入量は,50kg/10aである(表1)。・防除資材はマシン油と除虫菊乳剤を用いる。

【成果情報⑪】

表1 施肥体系 (上段:肥料名,下段Nkg/10a)秋肥Ⅰ 秋肥Ⅱ 寒肥 寒肥 春肥Ⅰ 春肥Ⅱ 芽出肥 夏肥Ⅰ 夏肥Ⅱ(8月上旬) (9月上旬) (12月上旬) (1月中旬) (2月上旬) (3月上旬) (3月下旬) (一番茶後) (二番茶後)

慣行区 有機配合Ⅰ 有機配合Ⅰ 有機配合Ⅱ有機配合Ⅱ 硫安 有機配合Ⅱ 有機配合Ⅱ

5 5 8 7 7 8 10 50 (50)

有機区,無防除区 菜種油粕 菜種油粕 菜種油粕 菜種油粕 魚粉 魚粉 菜種油粕 菜種油粕 菜種油粕

3 2 3 5 7 7 10 8 5 50 (32)注1)有機配合Ⅰ(7-2-2,有機質由来窒素61%),硫安(21-0-0),有機配合Ⅱ(11-1-2,有機質由来窒素40%),菜種油粕(5.3-2-1),魚粉(8-8-0)

注2)年間合計の括弧内は,各資材における窒素の無機化量を「施肥名人」で推定した窒素発現量を示す。

試験区 年間合計

表2 官能審査(4カ年の平均)試験区 形状 色沢 外観計 香気 水色 滋味  内質計 総計

一番茶 慣行区 16.8 15.5 32.3 16.2 16.3 15.7 48.2 80.5有機区 - - - - - - - -無防除区 - - - △ ▲ ▲ ▲ ▲

二番茶 慣行区 13.0 13.0 26.0 13.2 13.8 13.5 40.5 66.5有機区 - ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲無防除区 - ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲

三番茶 慣行区 11.0 11.0 22.0 11.0 11.7 11.3 34.0 56.0有機区 - - - - - ▲ ▲ ▲無防除区 - - ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲

注)慣行区との差が±0.5以内は-,-0.5以下~-1.0以上は△,-1.0を下回る場合は▲とした。

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【成果の内容】

【成果の活用面・留意点】

県内の有機栽培の肥培管理

・県内の有機JAS栽培茶園では,主に菜種油粕,魚粉およびこれらを主原料とするボカシ肥料等が,春肥時期(1~4月)を主体に施用されている。また,年間施肥量は

窒素が約40kg/10a,リン酸が約23kg/10aおよびカリが約10kg/10aであった。

【目的と特徴】

・菜種油粕と魚粉は,カリ含有量が少ないので,定期的な土壌診断等を実施し,必要に応じてカリ肥料を施用する。

【成果情報⑫】

連絡先:茶業部環境研究室 (TEL 0993-83-2811)

表1.現地施肥事例と肥料三要素投入量

生産者 菜種油粕 魚粉 鶏ふん N P2O5 K2OA B C D A B C D E 肥料成分投入量(kg/10a)

1 360 100 28.2 17.7 4.82 173 80 246 215 52.0 33.2 10.13 380 80 28.2 17.7 4.84 94 295 218 40.4 18.5 7.15 590 36.3 17.5 11.86 286 186 31.0 23.3 3.87 148 742 60.3 26.0 31.78 660 31.0 22.0 4.99 100 653 42.4 28.1 5.8

10 260 200 80 34.0 24.2 4.611 840 50.6 29.5 6.712 240 727   342 50.9 33.5 27.613 500 160 34.6 16.4 8.2

平 均 40.0 23.7 10.1標準偏差 10.0 5.8 8.6

CV 0.3 0.2 0.9注)1.N,P,Kの含有率(現物%)は,菜種油粕が5.6,2.5,1.3,魚粉が8.0,8.7,0.0で,ボカシ肥料A~DはNが4.7~6.3,

Pが3.0~4.0,Kが0.7~2.5である。また市販有機配合A~Eは,Nが6.0~8.0,Pが1.0~4.0,Kが0.7~4.0である。

現物施用量(kg/10a)ボカシ肥料 市販有機配合

表2.時期別成分投入量(kg/10a)成 分 秋 肥 (%) 寒 肥 (%) 春 肥 (%) 夏 肥 (%) 合 計 (%)

N 9.2 (23) 3.1 (8) 18.8 (47) 8.9 (22) 40.0 (100)

P2O5 5.5 (23) 2.5 (11) 10.9 (46) 4.8 (20) 23.7 (100)

K2O 2.8 (27) 2.0 (20) 3.9 (37) 1.4 (15) 10.1 (100)

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4 雑草管理

(1)耕種的雑草防除

ア 有機物(敷き草,枝条チップ等)マルチによる雑草管理

幼木期の根は,一般に株元付近の表層に多く分布しているため,干ばつや寒害の影響を

受けやすい。また,幼木園はうね間が広いためエロージョンを起こしやすいことから,土

壌水分の蒸散防止や,地温の調節,エロージョン防止のために株元付近に敷き草等を行う

ことが必要である。

有機栽培では幼木期間のうち,定植後1~2年目は雑草が発生しやすく,除草に費やす

労力も多くなることから,計画的な除草作業とともに,うね間への敷き草施用による雑草

の抑制を図ることが必要である。特に,傾斜地の茶園では降雨により土壌侵食を起こしや

すく,肥斜が流亡しやすいことから,敷き草などのマルチは,土壌表面への雨滴の衝撃作

用の低減,土壌透水性の増大や表面流去水の流れを弱め,土砂流亡を防止することができ

る。

なお,過湿になりやすい透水性の不良な土壌条件の茶園に多量の敷き草をすると,敷き

草が保持する水分と土壌表面からの蒸散が妨げられて土壌が酸素不足となり,根が浅くな

り過湿障害を受けやすくなる。そのため,敷き草量を少なめにするなど土壌条件によって

加減する必要がある。

また,うね間への枝条チップによるマルチも雑草対策に有効であり,山林樹木の枝条や

造園樹木や街路樹,公園などの樹木の剪定技などをチップ化したものをマルチとして利用

する。この効果として,定植1年目の幼木園に枝条チップをうね間にマルチした場合の雑

草の発生量(生体重)をみると,無施用区

に比べ施用区は雑草の発生が抑制される 図(

19 。)

また,同じく枝条チップをうね間に施用

し,夏から冬にかけてマルチとして利用し1

0ヵ月後のうね間の土壌硬度をみると,無施

用区に比べ,施用区は全般に値が低く表層

土壌の圧密化が抑制されていることが認め

られた(図20 。)

写真11 幼木園の畝間に施用された枝条チップ

図20 枝条チップマルチと土壌硬度

(山中式硬度計による定植 年目幼木園の畝間図19 枝条チップマルチと雑草の発生図 1

) )( )(定植 年目幼木園の畝間 (後藤 ) 枝条 処理 カ月後の調査 後藤1 2002 10 2002チップマルチ

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枝条チップは,敷き草類と同様,雑草の抑制,土壌理化学性の改善に有効である。この

場合,樹木の直径10cm以下程度の枝条部分をチップ化した資材であれば,うね間に施用し

ても窒素飢餓への影響は少ないとみられるが,大きな樹木の幹,根も含めてチップ化した

ものはC/N比が高くなるので,多量に施す場合はC/N比を確認のうえ,ある程度分解が

進んだものを施用する必要がある。

なお,使用にあたっては,有機JAS規格では刈取や伐採した後に化学的処理を行ってい

ないものとされている。また,有機栽培農家の中には,草丈の短い広葉雑草などをうね間

に繁茂させて管理している例もみられ,表土の流亡を防止するとともに,緑肥としての効

果や天敵類の生息地としての役割も期待される。但し,幼木茶樹を覆うまでに草が繁茂す

ると生育を抑制することから,草生管理には茶樹を被陰しない草種の選択を行う必要があ

る。

留意点として,幼木樹では冬期に地際まで有機物で覆うとその部分が断熱され,冷えて

凍結し幹割れしやすいので,冬期間は株元から15cm程度の地面は露出させる必要がある。

また,有機物分解のために窒素が収奪されることがあるので,樹体の養分管理には注意

が必要である。

イ フィルムマルチによる雑草管理

有機栽培において定植後の雑草管理の一つとして,定植の際,敷わら等に替えてフィル

ムマルチ(ポリエチレン等を素材としたもの)を利用する方法がある。この方法は,雑草

対策に有効で,植え付け時の敷わら作業が省けるため,植え付け労力も軽減される。なお

有機 規格では,フィルムマルチは土壌から取り除くことと生分解性のものは使用でJAS

きないことになっているので留意する必要がある。

(2)物理的雑草防除

物理的雑草防除として,草刈機による切断や耕耘,火炎による焼き払いなど物理的手段

による防草があり,手取除草もこの範疇に入いる。種子等で増殖する雑草は,種子が出来

る前に対応することが重要で,その場合,雑草は開花後の日数が僅かでも発芽能力のある

種子が出来るものが多いことに注意する必要がある。有機栽培では草刈りや手取除草が防

草の中心になる場合が多く,除草に多くの労力が割かれる。生育が旺盛になる前の早めの

草刈りと,強害雑草に的を絞った手取除草を併用した早期除草が肝要となる。

(3)主要雑草の特徴と茶樹への影響

ア イネ科夏雑草

イネ科夏雑草では,茶樹の幼木期にメヒシバやアキメヒシバがしばしば大発生して生育

を阻害することがある。多年生ではススキが目立ち,オヒシバは園内には少なく枕地など

での大発生が見られる。

イ キク科夏雑草

管理放棄直後の茶園や管理不十分な茶園では,ベニバナボロギクが大発生することがあ

る。綿毛のある種子が風で飛んで散布されるため,周辺に放棄茶園があると多発生する。

, 。植物体が目立つことと軟弱なため 増殖する前に手取りで発生源を取り除く必要がある

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ウ 冬雑草

オランダミミナグサやハコベは,春になると伸長して茶株に絡みつき,取り除くのが難

しい場合がある。スズメノカタビラなど草丈が小さいイネ科雑草は茶園にも多いが,摘採

面まで上がってくることは少ない。スイバなどが発生していると花茎が伸びてきて荒茶に

混入する可能性がある。

エ ツル性雑草

ツル性雑草のうち茶園で問題になるのがヤマノイモである。繁茂してムカゴを落とすと

爆発的に増殖するので,一番茶摘採後に茶うね上に伸びてくる伸長茎を辿って種イモごと

完全に抜き取る必要がある。ツルがうね面を横道して繁茂すると,親イモの所在が分から

なくなるのでなるべく早期に抜き取る。またヘクソカズラは製品に異臭をつけるので,特

徴的な花を目印に株元から取り除く必要がある。

オ 周辺から茶園へ侵入する雑草

クズや竹類,ササ類,ヨシ,スギナ,ハマスゲ,ワラビなどが周辺から茶園内へ侵入す

ることがある。横走茎や地下茎が必ずあるので,それらを除去する。

(4)雑草管理の留意点

有機栽培茶園では,法面や林地・草刈り場で刈り取ったササ類やススキ・カヤなどをう

ね間に敷き草とする場合,敷き草に雑草種子が入っていると茶園で増殖することがあるの

で,刈り取ったススキやカヤなどの敷き草を現地で束ねる際に,余分な雑草種子が入らな

いように注意する必要がある。見慣れない雑草が生えている時は,極力早期に抜き取る。

また,家畜ふん堆肥などを有機質資材として施用する際には,輸入飼料に混入していた

雑草種子が施用後に発生してくることが多いので十分注意する。

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5 有機栽培の実践事例

(1)アンケート及び聞き取り調査等より(抜粋)

ア 防除対策

(ア)耕種的防除法

○効果に年次差はあるが,有機生産者の多くで整せん枝により新芽と病害虫発生とのタ

イミングをずらし,被害を回避させる方法が実践されている(一般管理園でもあえて,

終摘採時期を遅らせて同様の効果を狙っている事例がある。この場合,防除優先で秋芽充

実は度外視する考えである 。)

○収量は少なくなるが,品質を重視し,病害虫被害の症状が見える場合は早摘みで対処

している。

○病害虫抵抗性品種の導入も見られるが,現在のところ一部に限られる。有機生産者の

多くで今後,積極的に導入する意向を持つ。

(イ)物理的防除法

○一部に限れらるがサイクロン式吸引洗浄装置による病害虫防除の取り組みが始められ

ている。

○シャクトリムシやゴマフボクトウなどのスポット的な被害については多くは捕殺や被

害枝の焼却で対処する。

○チャノホソガ被害葉は,水色の赤み軽減のため,摘採後に降灰用洗浄脱水装置で処理

し製造に入る事例がある。

(ウ)生物的防除法

○ハマキ天敵やハマキコン , 剤の活用が見られるが,実践数は少ない。N BT

○天敵類の防除効果も考えられるが,保護策など意識的な取り組みはなされていない。

※有機 適合資材での防除は一部で見られるが,無農薬栽培が主流である。JAS

イ 施肥管理

○油粕,魚粕など価格的に入手しやすい資材を用いる事例が多い。窒素投入量は慣行栽

培よりも少ない傾向にある(成果情報③ 。)

○数種類の有機資材を有効微生物類により発酵させたボカシ肥や液肥を自家製造し,施

しているが,一部の取り組みに過ぎない。

ウ 除草管理

○実践農家すべてで草刈機や管理機,手作業により行われている。幼木園では,これら

の方法に加え,ビニルマルチや敷き草管理で対処されている。

○一部で雑草による草生栽培が実践されていた。カバークロップ利用は今のところ少な

い状況である。

○薩摩かもや山羊など動物類を活用しての除草管理も見られた。外敵からの保護や別途

餌代がかかるなどの問題もある。

※有機栽培上,雑草管理が一番の問題と答える意見が多。今後の重要課題である。

エ その他

○被覆管理は,実需者の意向もあるが,基本的に実施されていない。理由として労働力

の問題が大きく,また樹勢低下を懸念している面もある。

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【実践事例の内容】

【成果の活用面・留意点】

地域ぐるみでの有機的害虫防除技術の実践事例(有明茶IPM研究会における取り組み)

・難防除害虫クワシロカイガラムシ防除を節水条件での水利用により地域ぐるみで取り組んでいる。

【目的と特徴】

・水利用にあたっては水管理組織等との十分な協議が必要となる。・散水方法が可能なコントローラーが必要となる。・当該研究会は,有機的管理も導入し,IPM(総合的病害虫管理)を実践する組織である。

【実践情報①】

連絡先:茶業部栽培研究室 (TEL 0993-83-2811)

左図の実証結果から下記のルールにより実践している。

①散水時期:クワシロカイガラムシ第1世代②散水方法:10分散水20分止水③散水時間:昼間もしくは夜間12時間④散水期間:クワシロカイガラムシふ化開

始期から7日間(雨の場合は散水中止)⑤使用水量:84mm

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有機農業による栽培管理成果集作成部署

園芸作物部野菜研究室

生産環境部病理昆虫研究室

生産環境部土壌環境研究室

茶業部栽培研究室

茶業部環境研究室

農産物加工研究指導センター

編集とりまとめ

企画調整部研究企画課・普及情報課

有機農業による栽培管理成果集 - 野菜・茶 -

平成26年3月 発行

発行者 鹿児島県農業開発総合センター

〒899-3401 鹿児島県南さつま市金峰町大野2200番地 電話 099-245-1081

http://www.pref.kagoshima.jp/ag11