中国の債券市場~ 現状と抱える問題点 · 2015. 2. 18. ·...

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2004 年 3 月 25 日発行 現状と抱える問題点 中国の債券市場~

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2004 年 3 月 25 日発行

現状と抱える問題点

中国の債券市場~

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要旨

1. 中国経済は、現在大きな転換を迫られている。WTO 加盟後、実体経済面では市場化がか

なり進んだが金融面は出遅れている。WTO 加盟時に「2006 年に金融サービスを対外開放

する」ことをコミットした中国が残った3年間で金融システム改革をどう進めていく

かが注目される。

2. 金融面の市場化には市場原理に基づいた自由な金利体系の構築が必要であると同時に

債券市場の育成も必要不可欠である。中国の債券市場は 78 年の改革・開放以降、金融

市場の一部として国債や政策金融債を中心に一定の発展を遂げた。2002 年に国債、政

策金融債、企業債の年間発行額合計は 94 年の約4倍、GDP の9%に相当する 9,461 億

元に達した(そのうち、企業債は GDP の僅か 0.3%に過ぎない)。2001 年末における発

行残高合計も 94 年の約8倍、GDP の 25%に相当する 2.5 兆元となった。

3. 中国の債券市場は、①銀行の店頭取引市場、②証券取引所債券市場、③銀行間債券市

場の3つに分けられており、それぞれが異なる市場参加者と発行・流通銘柄を有して

いる。店頭取引市場は 88 年に始まり、銀行の窓口で債券を発行・取引する市場である。

取引所債券市場は、92 年から始まり、機関投資家や個人投資家が証券取引所会員を通

じて債券取引に参加できる証券取引所場内市場である。銀行間債券市場は 97 年から始

まり、中国為替取引センター兼全国コール市場で金融機関並びに金融機関を通じて参

加可能な非金融機関(2001 年以降)などが大口の債券取引を行う場外市場であり、債券

のホールセール市場とも呼ばれている。

4. 2002 年6月にこれまで銀行間債券市場や取引所債券市場で発行・流通していた登録式

(記帳式)国債が店頭取引市場でも発行・流通できるようになったことから、3市場で

流通する債券が登場した。今後、全国的な統一した債券市場が期待されている。

5. 債券市場の問題点としては、①債券取引に関わるインフラ整備が遅れていること、②

資金需給に応じた市場金利で債券を発行することはできないこと、③経済成長の下支

えとなっている非国有企業が社債発行による資金調達ができないこと、④流通市場の

分断により、統一したイールドカーブが形成されていないこと、などが挙げられる。

6. 中国国務院が 2004 年2月1日に公布した「資本市場の改革・発展を推進する九つの意

見」には、①資本市場が効率的な資源配分機能を最大限に発揮すること、②非国有経

済の発展を加速すること、③企業の資金調達における直接金融の割合を高めること、

という3つの狙いが盛り込まれている。それにより、債券市場の整備は全面的な実践

段階に入ったと言われる。今後、中国の債券市場がどう変わっていくかが注目される。

(2004 年3月 24 日 調査本部 アジア調査部中国室 劉 家敏)

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目次

1. はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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1

2. 中国経済における債券市場 1

(1) 債券市場の歩み 1

a. 国債の歩み 2 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

b. 金融債(政策金融債)並びに企業債(社債)の歩み 4

(2) 債券の種類 5

(3) 債券のプライマリー・マーケット 6

a. 国債 6

b. 金融債(政策金融債) 8

c. 企業債(社債) 10

(4) 債券のセカンダリー・マーケット 11

a. 店頭取引市場 12

b. 証券取引所債券市場 13

c. 銀行間債券市場 14

3. 中国の債券市場―ポテンシャル、問題点と今後の課題 17

(1) ポテンシャル 17

a. 資金供給サイド 17

b. 資金需要サイド 20

(2) 問題点と今後の課題 21

a. 債券市場 21

b. 企業債(社債)市場 21

4. 終わりに 23

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図表目次

図表 1 中国の金融システム改革―歩みと成果 ........................................1

図表 2 中国における債券の年発行額と年末発行残高の推移 ............................2

図表 3 中国の債券市場の歩み ......................................................3

図表 4 中国経済における企業債券―歩みと主な動き ..................................5

図表 5 2003 年 9 月に認められた新規発行企業債券 ....................................6

図表 6 発行者からみる債券種類 ....................................................6

図表 7 中国における国債発行の方式 ................................................7

図表 8 2003 年銀行間債券市場で発行された国債 ......................................8

図表 9 2003 年銀行間債券市場で発行された政策金融債 ................................9

図表 10 中国の債券市場の構成 ....................................................10

図表 11 中国の「取引センター」の歩み ..............................................11

図表 12 証券取引所債券市場-銘柄数とその内訳 ....................................13

図表 13 証券取引所債券市場の取引高の構成(2002 年) ................................13

図表 14 上海証券取引所で取引される債券の銘柄と売買高(2003 年 10 月現在) ...........14

図表 15 上海証券取引所債券市場の国債と企業債(社債) (2002、2003 年) ...............15

図表 16 市場別国債取引のイールドカーブ(%) ......................................16

図表 17 銀行間国債市場と証券取引所国債市場との比較 ..............................16

図表 18 中国家計部門の金融資産の構成比(フローベース、%) ........................17

図表 19 中国保険業の資産総額 ....................................................18

図表 20 中国保険業の資産構成 ....................................................19

図表 21 中国保険業のポートフォリオの構成 ........................................19

図表 22 国内金融市場での新規資金調達額の構成 ....................................20

図表 23 非金融部門の外部資金調達構成比の国際比較 ................................21

図表 24 企業規模別で見た中国企業の資金調達状況(%) ..............................21

図表 25 債券の発行・流通を管理する政府部門 ......................................23

図表 26 中国における社債発行―企業数と起債金額 ..................................23

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1. はじめに 中国経済は、現在大きな転換を迫られている。WTO加盟後、実体経済面では市場化がかな

り進んだが金融面は出遅れている1。WTO加盟時に「2006 年に金融サービスを対外開放する」

ことをコミットした中国が残った3年間で金融システム改革をどう進めていくかが注目さ

れる。

金融面の市場化には市場原理に基づいた自由な金利体系の構築が必要であると同時に債

券市場の育成も必要不可欠である。本稿では、改革・開放以降の中国の債券市場の全体像

を明らかにした上でその問題点と今後の課題を検討してみたい。

2. 中国経済における債券市場 (1) 債券市場の歩み 78 年まで計画経済にあった中国では、すべての金融業務は中国人民銀行による画一的統

制のもとで行われ、貸出金利や預金金利も政府の規定によって決められていた。こうした

金融システムの下で1949年から 1978年にかけて約30年にわたって金利はわずか9回しか

調整されなかった。

1978 年の改革・開放以降、特に 92 年に市場経済への移行が始まってから実体経済面では市場化が大きく前進した。それに伴い、金融面での市場化も求められている。過去を振

り返って見ると、中国の金融システム改革は3つの段階を辿って進んできた。それは、①

市場経済原則に則った中央銀行主導の商業銀行制度の整備期 (78~90年)、②各種金融市場の形成期(91~95年)、③市場経済に適合した金融システムの構築期(96年以降)、である(図表1)。

図表 1 中国の金融システム改革―歩みと成果 時間 段階 成果

78~90 年 中央銀行下の商業銀行制度を整備する 財政と銀行の分離をある程度達成した

91~95 年 各種の金融市場を形成する 株式市場、コール市場、債券市場などが次々と

スタートした

96 年以降 市場経済に相応しい金融システムを構築する

いくつかの改革案(注)を試しながら、金融システ

ムを構築している

(注)中国では、市場経済に適合する金融システムを構築するには、まず、国有商業銀行と国有企業との従来の関係を見

直す必要がある。そのため、96 年以降、メインバンク制、デットエクィティスワップによる不良債権処理などが試

行された。

(資料)華民等「発達国家的金融体系与中国現状」『金融与保険』2003 年8月 21 日。

債券市場は金融市場の一部として金融システム改革の第2段階から国債や政策金融債を

中心に一定の発展を遂げた。中国における債券の年発行額と年末発行残高の推移を見ると

(図表2)、国債、金融債(ほとんどは政策金融債)、企業債2(社債、以下同じ)の年発行額合

1劉 家敏「中国経済における「企業部門」の市場化と今後の課題」『国際金融』2003 年 10 月 1 日。 2中国では有限責任公司や株式会社以外の国有企業が発行した債券は「社債」でなく、「企業債」と呼ばれてい

る。

1

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計は 94 年の 2,076 億元から 2002 年には 9,461 億元に達し、年末発行残高合計も 94 年の

3,172 億元から 2001 年には 25,161 億元に約8倍となった。

図表 2 中国における債券の年発行額と年末発行残高の推移

年発行額 年末発行残高

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

9,000

10,000

94 95 96 97 98 99 2000 2001 2002

国債 金融債(政策金融債) 企業債 総額

億元

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01年

国債 金融債 企業債 合計

億元

(資料)「中国金融年鑑」、CEIC DATA より作成。

a. 国債の歩み 計画経済にあった中国では長く債券といえば国債を意味していた。1949 年に中華人民共

和国が成立した後、国債は2つの時期に分けられて発行されている。それは、「50 年代」と

「80 年代以降」である。50 年代には総計6回の国債発行があった。当時、主に①財政赤字の

補填、②インフレの抑制、③国家の建設資金の調達、などを目的としていた。50 年代に発

行された国債は 68 年までに償還されたがそれ以降 81 年まで国債の新規発行はなかった。

78 年以降、改革・開放初期の投資資金不足を補填するために、81 年には政府は約 20 年

ぶりに国債発行を復活し、その後、債券市場は一定の発展を遂げた(図表3)。初年度の発

行額は約 49 億元であったが、調達された資金は政府の「財政予算内」投資資金3不足を解消

するために利用された4。87 年に国債の年発行額は約 117 億元に上り、年末発行残高も 392

億元となった。90 年代まで発行された国債は、「行政的割当方式」で主に国有企業、国有金

融機関などに割当てを行うものであった。当時、個人の国債購入も可能であったが職場で

の「割り当て」や「申し込み」を通じてしか購入できなかった。国債の償還期限は最短で2年、

最長で 9年であり、個人に対する国債の年利は8%から 15%のレンジであったが購入した

国債は転売不可能となっていたため、あまり魅力的な金融商品とされていなかった。

3 当時、中国の固定資産投資は「予算内投資」と「予算外投資」と分けられていた。「予算内投資」(中央政府の

年度計画に入っている投資案件)は財政資金を使って国家重点建設プロジェクトや重点国有企業の投資

に当てられていた。それ以外は各企業の自己資金を使って投資することになるので「予算外投資」と呼ば

れていた。 4 当時の国債発行は国有企業が所有している「予算外資金」(各国有企業の自己資金)を吸収する狙いもあっ

た。

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図表 3 中国の債券市場の歩み

国債市場

金融債・企業債(社債)市場

1981-1987 年 1984-1987 年

1

(流通不可能な時期)

81 年から発行され、流通は不可

発行額:81 年:約 49 億元

87 年:約 117 億元

87 年年末発行残高:392 億元

84 年以降企業債の発行、85 年以降金融債(実質的に

政策金融債である)の発行が始まった。

発行額:85 年金融債は約 5億元、

86 年企業債は約 100 億元

87 年年発行残高:金融債:55 億元

企業債:86 億元

1988-1993 年 1988-1993 年

2

(流通市場が始まった時期)

88 年 4 月から一部の都市で国債の流通(店頭取引)が可

能となり、91 年には全国的に流通可能となった。92 年

に証券取引所債券市場が始まった。

発行額:88 年:約 189 億元

93 年:約 385 億元

急速な成長を遂げ、債券の種類も多様化した。

発行額:88 年:金融債は約 65 億元、

企業債は約 75 億元

93 年:企業債は約 236 億元

93 年年末発行残高:金融債:109 億元

企業債:802 億元

1994-1996 年 1994-1996 年

3

(国債の発行・流通市場が整備された時期)

政府の財政資金調達は、従来の人民銀行からの借り入れ

から国債の発行へ移行し、人民銀行による公開市場操作

も可能となった。国債市場の整備が進んだ。

発行額:94 年:約 1,138 億元

96 年:約 1,848 億元

96 年年末発行残高:4,361 億元

94 年以降、企業債が証券取引所債券市場で流通する

ようになり、その発行も増加した。

発行額:94 年:政策性金融債 約 776 億元

企業債 約 162 億元

96 年:政策性金融債 約 1,070 億元

企業債 約 269 億元

96 年年末発行残高:金融債:2,510 億元

企業債:598 億元

1997-2002 年 1997-2002 年

4

(国債に対する需要が急増する時期)

97 年 6 月に銀行間債券市場がスタートし、国債に対す

る需要が急増した。98 年以降、積極的な財政政策の下

で国債の年発行額は高まりつつある。

発行額:97 年:約 2,412 億元、

02 年:約 6,061 億元

2002 年年末発行残高:19,336 億元

政策性金融債の発行が順調に拡大した一方で、企業

債券は大きな拡大が見られなかった。

発行額: 97 年:政策性金融債 約 776 億元

企業債 約 255 億元

02 年:政策性金融債 約 3,075 億元

企業債 約 325 億元

年末発行残高:金融債:10,054 億元(2002 年)

企業債:1,009 億元(2001 年)

(注)93 年までの金融債は国営 (有)商業銀行が財政部の指示に従って発行していたため、実質的に政策金融債と見なさ

れている。94 年以降、政策金融債の発行は4大国有商業銀行(中国工商銀行、中国建設銀行、中国農業銀行、中国

銀行)から 3 大政策銀行(国家開発銀行、中国輸出入銀行、中国農業発展銀行)に移管された。2002 年末の金融債発

行残高には 94 年以降発行された政策金融債しか残っていない(「中国債市的問題与前景」、香港信報、2002 年 2 月 5

日)。

(資料)「中国金融年鑑」、CEIC DATA などより作成。

88 年4月から一部の都市をはじめ、商業銀行における国債の店頭取引5が始まった。91

年にはほとんどの大都市で店頭取引が可能となった。国債の流通に伴い、それに対する需

要も一気に膨らんだ。年発行額は 88 年の約 189 億元から 93 年には 385 億元に約2倍増加

し、年末発行残高も 1,541 億元で初年度(81 年)の約 31 倍に達した。94 年に①政府の財政

資金調達は計画経済時代から続いてきた中国人民銀行からの借り入れから完全に国債発行

に切り替えたことや②国債の発行・流通市場が一層整備されたこと、などを背景に同年年

5 店頭取引市場、証券取引所債券市場、銀行間債券市場については(4)「債券のセカンダリー・マーケット」

にて詳述。

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発行額は 93 年の約 3倍の 1,138 億元に急増し、96 年末になってさらに約 1,848 億元に達し

た。

97 年6月に銀行間債券市場(付録2を参照)がスタートし、巨大な預金を持つ国有商業銀

行などの金融機関は銀行間債券市場を通じて国債を資金運用対象としたため、国債に対す

る需要もさらに高まった。それを背景に 97 年の国債年発行額は約 2,412 億元に達し、2002

年には 6,000 億元台まで上昇した。2002 年末の国債発行残高は 19,336 億元となり、81 年

の約 395 倍に相当する。

b. 金融債(政策金融債)並びに企業債(社債)の歩み 中国では、金融債は 85 年から、企業債は1年遅れて 86 年から正式に統計上データが発

表されるようになった。初年度の発行額はそれぞれ 5億元、100 億元であった。金融債は当

初国営(有)商業銀行4行によって発行され、調達された資金は最終的に財政予算内資金を

利用する国営(有)企業に投入されていた。1987 年3月 27 日に公布された「企業債券管理暫

定条例」により、企業債券を発行する企業は必ず「全民所有制企業」(国営企業)であると規定

されていたため、企業債の発行も財政資金の代替とされた(企業債は「基本建設債券」と「技

術改造債券」とに分類されていた)。従って、金融債も企業債も実質的に国営(有)銀行や国

営(有)企業の財政資金需要に応じて発行され、「資金の使途も規定された準国債」であると

考えられる。88 年以降、国債流通市場の整備に伴い、金融債や企業債の流通も金融機関の

窓口経由でできるようになったため、93 年年末の発行残高は金融債が 109 億元、企業債が

802 億元に達した。94 年以降、3大政策銀行(国家開発銀行、中国輸出入銀行、中国農業発

展銀行)がそれぞれの国有商業銀行6から分離され、政策金融債を発行し始めた。政策銀行

による年発行額は、94 年の 776 億元から 2002 年には約 3,000 億元に上り、年末発行残高は

10,054 億元に、国債に次ぐ規模まで拡大してきた。一方、2002 年には企業債券の年発行額

は325億元となり、2001年末の発行残高も1,009億元に達したが国債や金融債(政策金融債)

と比べ、企業債の発行額はそれほど伸びていない。

高度成長期に当たる中国では 60 年代の日本と同様に大量の産業資金を必要としている。

過去を振り返って見ると、改革初期における企業セクターの資金不足は主に政府主導の国

債・政策金融債の増発、国有商業銀行の貸出拡大、外資導入などで賄われてきた。90 年代

に入って政府は株式市場の発展を重視しはじめた。その背後には、①国有企業の上場を通

じて企業部門の民営化を推進していく、②国有商業銀行貸出に依存し過ぎた間接金融を中

心とする金融構造を改革する、といった一石二鳥の狙いがあった。こうした国有企業や金

融構造の改革を念頭においた資本市場育成策は最初から非国有企業を対象としたものでは

なかった。それを背景に中国の企業債市場は 80 年代半ば頃の「起動期」、89~92 年の「急成

長期」、93~2000 年の「調整期」を辿り、2001 年以降、「回復期」に入ったと言えよう(図表4)。

6国家開発銀行は中国建設銀行から、中国輸出入銀行は中国銀行から、中国農業発展銀行は中国農業銀行か

ら分離され、政策銀行として発足した。

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図表 4 中国経済における企業債券―歩みと主な動き 発展段階 主な動き

起動期(1984~88 年) 1987 年3月に「企業債券管理暫定条例」が施行された

急成長期(1989~92 年) 企業債の年発行額が急増した

調整期(1993~2000 年) 1993 年8月に「企業債券管理暫定条例」が改正された

市場整理や管理強化などを背景に企業債の年発行額が減少した

回復期(2001~現在) 企業債の年発行額が回復してきた(「企業債券管理条例」が検討中)

(資料)「企業債券和風険投資―対伝統融資方式の反思」中銀網、2003 年4月 14 日などより整理した。

「起動期」では前述のように計画経済時代から続いてきた「予算内財政資金」(財政予算枠

内の資金割当て)で中央や地方政府傘下の国有企業を支援する方針が見直されたため、政府

は「中央企業債券」と「地方企業債券」の発行認可を通じて国有企業の「基本建設」(基本建設

債券)と「技術改造」(技術改造債券)を促進してきた。「成長期」では、経済発展に伴う産業資

金不足が深刻であった地方政府傘下の国有企業などが企業債発行を融資手段として利用し

はじめ、92 年にはその年発行額は 600 億元まで急増した。しかし、当時、企業のコンプラ

イアンス体制や投資者を保護する法制度が整っておらず、投資者利益を損害する違法資金

集め事件が続発した。違法資金集めとは、投資家に毎月の高利(20%以上)を支払う約束で

広く資金集めを行い、多くの大衆をだましたことを指す。90 年代初期にこうした事件が続

発し、国家の金融秩序を乱すのみならず、社会の安定にも相当の悪影響を与えた7。それら

の不祥事を教訓に 93 年に「企業債券管理暫定条例」が改正され、94 年には中国政府は企業債

市場の整理や管理強化を行った(「調整期」)。その後、市場整理により企業債の年発行額も

2000 年には 100 億元台割れとなったが 2001 年に入って年発行額が再び上昇し、300 億元台

を回復した(「回復期」)。2003 年9月には一気に 15 社、合計 352 億元の社債発行が新規認可

され(図表5)、企業債発行のスピードアップが実感される。もっとも、起債企業を見ると、

依然としてインフラ建設、エネルギー開発、情報・通信関連の国家大型プロジェクトや大

手国有企業がほとんどである。

(2) 債券の種類 前述のように、中国では、①国債、②金融債(ほとんど政策金融債)、③企業債、が発行

されているが資金使途に応じてそれぞれまたいくつかに分類されている(図表6)。中国で

発行されている国債には、券面があるものとないものに分けられている。券面のあるもの

は無記名式(現物)国債であり、「国庫券」とも呼ばれる。券面のないものは記名式の国債で

あり、凭証式国債と登録式の国債(記帳式国債)がある。凭証式国債は貯蓄型国債とも言わ

れ、券面の代わりに、国債購入を証明する領収書が債権者に渡される。償還期限までいつ

でも換金できるが流通することはできない。登録式の国債は、国債発行のコストを削減す

7 戴相龍「中国金融読本」(桑田 良望訳)、1999 年5月、中央経済社。

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るために電子取引システムを通じて発行・流通するペーパーレス国債である。無記名式(現

物)国債と登録式の国債は流通できる国債でもある。

図表 5 2003年 9月に認められた新規発行企業債券

発行社名 資金調達額

国家電網公司 50 億元

中国網通グループ 50 億元

中国石化 35 億元

国家電力公司南方公司 30 億元

中国電力投資グループ 30 億元

中国華能グループ 40 億元

鞍山鋼鉄グループ 25 億元

江蘇省交通産業グループ 18 億元

浙江省交通投資グループ 14 億元

神化グループ 10 億元

河南高速道路発展有限公司 10 億元

中国長江航運グループ 10 億元

中国通用技術グループ 10 億元

中国節能投資公司 10 億元

北京首都観光グループ 10 億元

(注)インフラ、エネルギー、通信などを中心としている。

(資料)「中国十五家企業獲 352 億元企業債券発行額度」

中新社 2003 月 9 月 16 日などより作成。

図表 6 発行者からみる債券種類 発行主体 種類

◇政府 ・ 国債(81 年から)

・ 財政債券(87 年から、財政赤字を補填するため)

・ 国家建設債券(88 年から、国家大型プロジェクトの資金を調達する)

特別国債(89 年から、特別使途の財政資金を調達する)

・ 保値公共債(89 年から、インフレ時期に発行される国債)

◇法人企業

・ (中央所属)重点企業債券(87 年、88 年 2 回発行)

・ (地方所属)企業債券(86 年から)

・ 短期企業債券(短期融資券)(90 年代に発行)

・ 社債(2003 年以降、有限責任公司と株式会社による発行)

・ 転換社債(98 年から発行)

◇金融機関 ・ 金融債(政策金融債と特別金融債など)(85 年から発行) (注)1.中国では、有限責任公司や株式会社以外の国有企業も債券を発行していた。それは「企業債」と呼ばれる。

2. 2003 年以降起債企業に対する認許可制度や年発行額規制の見直しをする声も出てきた。

3. 特別金融債は 91 年に証券取引所で国債現先取引により返済危機に陥った金融機関を救済するために発行さ

れた金融債である。国債現先取引とは、国債の条件付き(買戻し条件付きと売り戻し条件付きがある)売買取

引である。当時、国債の買い現先(売り戻し条件付きの国債購入)はほとんど銀行であり、売り現先(買戻し

条件付きの国債売却)はほとんど証券会社であった。証券会社は売り現先を行って調達した短期資金を投機

目的で株式市場、不動産などリスクのある長期投資の分野に投入したため、取引期日に買戻しができなくな

り、深刻な決済遅延が生じ、遅延金額は数百億元に達したという(戴相龍「中国金融読本」(桑田 良望訳)、一

九九九年五月、中央経済社)。

4. 政策金融債は政策銀行(国家開発銀行、中国輸出入銀行、中国農業発展銀行)が発行した金融債である。

(資料)雷軍華「中国債券市場結構欠均衡」「国際金融報」、2003 年 5 月 16 日などより作成。

(3) 債券のプライマリー・マーケット a. 国債 中国政府は、81 年以降、ほぼ毎年国債を発行するようになっている。前述のように 2002

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年の国債発行総額は 6,061.3 億元であり、年末発行残高は 19,336.1 億元に達した。国債に

次ぐ2番目の存在である政策金融債は94年までは4大国有商業銀行によって発行されてい

たが、それ以降は、国有商業銀行から分離された 3 大政策銀行(脚注6を参照)が発行する

ようになった8。2002 年に政策金融債の年発行額は約 3,075 億元であり、年発行残高は約

10,054 億元に達した。一方、同年企業債券(社債)の年発行額は 325 億元に過ぎず、発行残

高は(2001 年末)約 1,009 億元に達したが国債や政策金融債と比べて極めて低いレベルに止

まっている。

図表 7 中国における国債発行の方式 発行方式 定義 実施時期

直接発行 財政部が自ら直接販売する ・「行政的割当方式」による販売(国有金融機関や国有企業向け)

・財政部及びその代行機関(国有商業銀行)による販売

・銀行、保険基金、養老基金など特別な機関投資家に限定した販売方式

(私募方式)

公募入札式

・国債の発行価格などの発行条件は入札によって決められる。

80 年代

90 年代以降

90 年代以降

99 年以降

間接発行 受託発行 引受発行

仲介者を介在させて間接的に売却する

・募集事務のみを委託する方式

・募集不足額が生じた時にそれを引き受けさせる方式

80~90 年代前半

90 年代前半以降(注)中国では、国債発行について「年度発行額度の管理制度」、つまり、政府が次年度の財政収支の予測値に基づいて当

該年度の国債発行年額を決める仕組みとなっている。国債の追加発行は全人代の承認が必要とされる。但し、2003

年には「許認可制」から「登録制」へ見直しをする動きが見られた。

(資料)「国債発行的4種方式」中央国債登記結算有限公司、2003 年 8 月 25 日。

国債発行方式は、直接発行と間接発行がある(図表7)。直接発行の場合、国債発行条件

は80年代は市場需給を反映したものではなく、財政部の内部協議によって決められていた。

国債の発行金利は銀行の1年預金金利を参考にして決められていたが預金金利はまだ自由

化されていなかったため、国債の発行条件はほとんど一定であった。90 年代前半には、引

受販売方式により国債を発行する方式が始まった9。それに伴い、前述のようなの行政割当

により国債を引受させる方式が見直された。96 年以降、公募入札式による国債発行が主流

となりつつある。

97 年 6 月に銀行間債券市場が成立してから国債の発行は主に銀行間債券市場で行われて

いるが証券取引所での発行も可能である。2001 年に取引所で発行された国債は 960 億元で

あり、同年国債発行総額(4,884 億元)の約 20%である。銀行間債券市場における国債購入

者は主に商業銀行などの金融機関である。

8 2001 年には国家開発銀行による政策金融債の発行額は全体の 8割を超え、2,590 億元となった。 9 93 年には、「一級自営商の制度」を採用した。財政部、中国人民銀行及び中国証券監督管理委員会は「中華

人民共和国国債1級自営商暫定管理規則」を制定し、19 社の信託投資会社、証券会社などの証券仲介機関

及び銀行を第1グループの1級自営商として認可し、その年の第3期国債の引受に参加させた(戴相龍

「中国金融読本」(桑田 良望訳)、1999 年 5 月、中央経済社)。

7

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2003 年に銀行間債券市場で発行された国債は(図表8)、合計 3,335 億元に達しており、

そのほとんどは 1~15 年物の中長期国債である10。国債の発行金利と償還期限は市場需給を

ある程度反映しており、その発行金利もマーケット・レートの判断指標として参考にされ

ている。

図表 8 2003年銀行間債券市場で発行された国債 国債回号 金額(億元) 返済(Y(Year)・M(Month)) クーポン(%)

0301 700 7Y 2.66

0302 260 10Y 2.80

0304 260 5Y 2.45

0305 260 3Y 2.32

0306 260 5Y 2.53

0307 460 7Y 2.66

0309 220 15Y 4.18

0310 220 2Y 2.77

0311 360 7Y 3.50

0312 255 1Y 割引債

0313 100 3M 割引債

合計 3,335 ― ―

(資料)Bloomberg

b. 金融債(政策金融債) 85 年以降、国営銀行(政策融資機能が分離される前の国有商業銀行)が金融債を発行でき

るようになった。80 年代には金融債の年発行額は中国人民銀行が定めた枠内で行われ、そ

の認可が必要とされており、「行政的割当方式」によって発行されていた。当時、金融債発

行により調達された資金はすべて「特別貸出」として利用されていた。「特別貸出」は、政府

の産業政策や輸出拡大政策に基づく貸出である。「特別貸出」を利用する企業に対しては一

定の条件が設定されていた。例えば、中国銀行(当時、外国為替等海外業務を主とする国営

銀行)からの「特別貸出」を利用できる企業は、①借り入れた資金を輸出拡大に結びつくプロ

ジェクトに投資しなければならない、②高い利息(年率約 10~14%)を支払う能力を有する、

③1~2年間内返済できる、④収益状況が良い企業が保証を提供する、⑤投資資金の一部

は自己資金で賄われる、などの条件を満たさなければならなかった11。94 年に3大政策銀

行が設立されたため、金融債の発行機能も国有商業銀行から3大政策銀行に移った。国家

開発銀行は政策銀行として登録式の政策金融債を銀行間債券市場で発行し始めた。98 年以

降、国家開発銀行を始め、公募入札式の政策金融債の発行も行われるようになった。現状

では、政策金融債の発行は国家開発銀行を中心とし、農業発展銀行による発行実績はない。

10 中国では、1年以内の物を短期国債、1~10 年の物を中期国債、10 年超の物を長期国債と呼ぶ。 11 「中国銀行関于発行金融債券、開弁人民元特種貸出実施弁法」1987 年4月6日、中国金融年鑑、1988 年。

8

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図表 9 2003年銀行間債券市場で発行された政策金融債 発行回号 金額

(億元)

返済(Year/Month) クーポン (%)

SDBC

0301 200 10Y 3.39

0302 200 10Y 2.87

0303 200 10Y 変動金利 1

0305 200 3Y 2.41

0306 200 10Y 変動金利 2

0307 200 1Y 0.00

0308 100 1Y 0.00

0309 200 1Y 0.00

0311 200 9M 0.00

0313 300 10Y 2.77

0315 100 10Y 2.77

0316 100 20Y 3.14

0318 100 3Y 変動金利 3

0319 100 3Y 2.76

0320 200 8Y 3.89

0321 100 3M 0.00

0322 200 5Y 3.738

0324 200 10Y 変動金利 4

0326 100 5Y 3.738

0328 100 5Y 3.53

0329 200 3Y 3.2

0330 200 6M 0.00

合計 3,700 - -

EXIMCH

0301 80 5Y 2.69

0302 120 3Y 2.75

0303 120 2Y 3.00

合計 320 - -

総額 4,020 - - (注)1.変動金利 1 はクーポンが当該年度の 1 年物預金金利プラス 0.47%、変動金利 2 は当該年度の 1 年物預金金利プ

ラス 0.49%、変動金利 3 は当該年度の 1 年物預金金利プラス 0.77%、変動金利 4 は当該年度の 1 年物預金金利

プラス 1.05%。

2.SDBC は「中国国家開発銀行」、EXIMCH は「中国輸出入銀行」である。

(資料)Bloomberg

2003 年に銀行間債券市場で発行された金融債は(図表9)、4,020 億元に達した。そのう

ち、9割は1~20 年物の中長期政策金融債である。また、54%は国家開発銀行が発行した

ものである。期限は 3ヶ月から 20 年までである。固定利付債がほとんどであるが変動利付

債やゼロクーポン債(割引債)も見られる。金融債の投資家も主に商業銀行などの金融機関

である。

9

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c. 企業債(社債) 中国での企業債の発行は法律的には、1993 年8月2日に制定された「企業債券管理暫定条

例」と 1994 年7月1日に施行された「中華人民共和国公司法」(会社法) (第五章)に基づいて

行われている。会社法 159 条では、起債適格企業は、①株式会社、②100%国家所有の国有

企業、③2社以上の国有企業で構成される有限責任公司、であると規定されている。起債

目的は生産経営資金の調達に限られ、資金使途も厳しく規制されており、企業の経営損失

や非生産性支出に当てることは禁止されている。さらに会社法161条では起債要件として、

①純資産規制(株式会社は 30 百万元以上、有限会社は 60 百万元以上)、②累計債務規制(累

計債務は公司純資産の 40%を超えてはならない)、③経営業績規制(直近3年間の平均可処

分利益で発行された社債の1年間の利息を支払うことができる)、④資金使途規制(調達し

た資金は国家産業政策に相応しいプロジェクトに使用しなければならない)、⑤発行金利規

制(発行金利は国務院が規定する金利を超えてはならない)、⑥その他の規制(国務院の定め

るその他の条件を満たすこと)、などがある。

国家発展及び改革委員会12は企業債全体の年発行枠の管理を行い、社債発行の審査・認可

を行う。国家発展及び改革委員会は起債企業を審査する際、当該企業について中央銀行で

ある中国人民銀行、中国証券監督管理委員会などと情報交換をしながら、起債の適格性に

ついて検討する。特に問題がなければ企業の申請書を国務院に提出する。国務院から起債

枠を得た後、起債企業にさらに詳細な申請書類を作成させ、申請書類を審査した上で債券

発行の許可を与える。発行の申し込みの際に書類として、①会社の登録証明書、②会社の

定款、③社債募集要綱、④会社の資産評価報告書と検定報告書、が要求される。また、起

債企業は国家が認可された格付機関(3(2)bを参照)から格付を取得することが発行要件

とされている。

本来、社債の発行金利は国債発行金利プラスクレジットスプレッドで決められるべきで

あるが、中国では、93 年に改正された『企業債券管理暫定条例』により、政府の特別許可

がない限り、企業債券は国務院が規定する金利を超えて発行することは認められていない。

つまり、企業が自社の信用状況に応じた金利で起債する道は閉じられている。

図表 10 中国の債券市場の構成

店頭取引市場 88 年に始まり、当初、無記名式(実物)国債のみを対象としていたが 2002 年以降、

登録式の国債(記帳式国債)も取引されるようになった。また、企業債も取引所債

券市場が開かれる前に一時取引されたことがある。 証券取引所債券市場 92 年に始まり、個人や法人が参加できる債券市場であり、国債、企業債が取引

されている。 銀行間債券市場 97 年6月に始まり、国債や金融債(政策金融債)の主な取引市場となっている。

(資料)「中国貨幣政策執行報告―2003 年第2季度」中国人民銀行貨幣政策分析小組、2003 年8月などより作成。

12 http://www.sdpc.gov.cn

10

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(4) 債券のセカンダリー・マーケット 中国の債券流通市場は、①店頭取引市場、②証券取引所債券市場、③銀行間債券市場、

に分けられている(図表 10)。88 年まで債券の流通マーケットはなかったが、91 年以降ほと

んどの都市で国有商業銀行の店頭取引による国債流通が可能となった。店頭取引は主に金

融機関と個人投資家との間の相対売買である。2003 年末現在、店頭取引業務ができる商業

銀行の窓口は6,000に達し、流通のネットワークは全国の大小都市に遍く行き渡っており、

さらに県の一部にまで広がっている。店頭取引に参加している投資家の 99.6%は個人であ

り、取引される銘柄数は 2002 年の 2 から 2003 年には5になった(そのうち、4銘柄は銀行

間債券市場、店頭取引市場、証券取引所債券市場で同時に流通できるものである)13。

図表 11 中国の「取引センター」の歩み 1994 年 4 月 中国為替取引センターが上海で設立した

1996 年 1 月 コール市場がスタートした

1997 年 6 月 銀行間債券市場がスタートした

2002 年 6 月 外貨建てのコール取引がスタートした

2003 年 6 月 手形市場がスタートした。 (注)1.「取引センター」は「中国外匯交易中心・ 全国銀行間同業拆借中心」を指し、外為市場、コール市場、銀行間

債券市場などが含まれている。本部は上海にあり、北京には予備センターが設けられている。

2.「取引センター」には中国の外為市場とマネーマーケットがあり、マネーマーケットにはコール市場、

銀行間債券市場、手形市場がある。

(資料)「市場概況」中国貨幣網

90 年代に入って上海・深圳両証券取引所の設立により、証券取引所債券市場もスタート

した。それは、いわゆる「集中的な国債取引ができる」場内市場である。機関投資家や個人

投資家は証券取引所会員を通じて債券取引に参加できる。その売買は競売方式で価格優先、

時間優先の原則下で、取引所の電子取引システムを通して自動的に行われている。96 年に

証券取引所での国債現物取引高は 5,000 億元を超えた。

銀行間債券市場は 97 年から始まり、中国為替取引センター兼全国コール市場14で金融機

関並びに金融機関を通じて参加可能な非金融機関(2001 年以降)などが大口の債券取引を行

う場外市場であり(図表 11)、債券のホールセール市場とも呼ばれている。取引対象となる

のは、登録式の国債(記帳式国債)、一部の記名式国債と政策銀行が発行した金融債、中央

銀行の短期国債(T-Bill、94 年以降)などであり、すべては相対取引となっている(銀行間債

券市場の仕組みは付録2を参照)。

銀行間債券市場が設立された背景には91年に証券取引所で試行された国債の現先取引が

金融秩序の混乱をもたらした経緯があった(図表6の注3を参照)。その後、銀行資金の株

式市場への流入を禁止し、マネーマーケットと資本市場とを分離させるという政府の方針

が固まった。こうした国債先物取引におけるコンプライアンス並びに信用リスクの監視を

13 「2003 年 OTC 国債交易情況概覧」中央国債登記結算有限責任会社研究開発部、2003 年 12 月。 14 中国人民銀行の傘下にある事業法人である。

11

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徹底するために、政府は 95 年に「商業銀行法」によって商業銀行による証券取引所での債券

取引を禁止した15。また、同年、中国人民銀行、財政部、中国証券監督管理委員会は連名で

「証券現先業務を一層ルール化することに関する通知」を公布した。「通知」には、売り現先

をする金融機関は、必ず自己保有の国債や金融債券を 100%保有していなければならず、ま

た国債や金融債は、中国人民銀行の省レベルの支店が指定する証券登録保護預かり機関に

集中保管しなければならないことを規定している。96 年に設立された「中央国債登録決済有

限責任会社」(付録3を参照する)は証券登録保護預かり機関としての役割を果たす政府機

関である。すでに発生した国債現先取引のポジションについては決済に向けての作業を推

進した。その解決方法としては買戻しが困難な証券会社を救済する目的で債権者である銀

行に特別金融債の発行を許可し、調達した資金を現先取引に生じた不良債権の処理に充当

させた。2000 年には、「全国銀行間債券市場債券取引管理弁法」や「全国銀行間債券市場債券

レポメイン協議」が公表されてから銀行間債券市場は国債や政策金融債の発行・流通のメイ

ン市場となり、金融機関の短期資金調達と中央銀行(中国人民銀行)の公開市場操作の場所

となっている。

政策金融債はそもそも各金融機関の窓口で販売され、証券取引業務が認可された金融機

関を通して転売されていたが16、97 年6月以降は銀行間債券市場で取引されるようになっ

た。企業債は証券取引所債券市場を通して流通している。

a. 店頭取引市場

中国の債券取引は最初店頭取引から始まったが、90 年に証券取引所が設立されたことや

97 年に銀行間債券市場がスタートしたことにより、店頭取引の機能は実質的に低下した。

証券取引所は個人や企業が参加できる市場であるが、取引対象となる債券は銘柄が少なく、

取引コストも高いことから個人や企業の投資拡大を阻害していた。そのため、2002 年4月

に「商業銀行店頭登録式(記帳式)国債の取引管理弁法」が実施され、同年6月に記帳式国債

は4大国有商業銀行の店頭でも発行・流通することとなった。金融機関の店頭で発行され

た登録(記帳)式国債は銀行間債券市場と証券取引所債券市場でもほぼ同時に流通できるこ

とから店頭取引市場が活性化され、個人や企業のような非金融機関投資家にも銀行間債券

市場へ間接的なアクセスを与えたと受け止められている。その意味で金融機関の店頭取引

市場は銀行間債券市場と取引所債券市場との間に設けられているパイプのような存在であ

る。

15 当時、証券取引所における国債現先取引は銀行の資金が株式市場に流入する主要なルートであると判断

されていた。 16 「中国人民銀行関于 1988 年発行金融債券、発放特種貸出的規定」1988 年 1 月 20 日、中国金融年鑑、1989

年。

12

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b. 証券取引所債券市場 証券取引所債券市場で上場される債券の銘柄数を見ると(図表 12)、上海証券取引所と深

圳証券取引所を合わせた上場銘柄数は、95 年の 62 から 2002 年には 74 に増加し、転換社債

を含んだ企業債は 14 から 24 に増えた。証券取引所債券市場の売買高を見ると(図表 13)、

2002 年では 3.3 兆元であった(1 日当たり約 132 億元)が、そのうち、国債レポは 73.4%(2.4

兆元、1日当たり約 96 億元)、国債現物は 26.2%(0.87 兆元、1日当たり約 35 億元)であっ

たのに対し、企業債券は 0.4%(144 億元、1 日当たり約 0.6 億元)に過ぎず、企業債券の取

引は極めて少ない。

図表 12 証券取引所債券市場-銘柄数とその内訳 上海証券取引所 深圳証券取引所

上場銘柄 金融債 企業債 国債 上場銘柄 金融債 企業債 国債

1995 47 4 12 31 15 0 1+(1) 13

1996 24 2 5 17 19 0 1 18

1997 22 0 5 17 20 0 2 18

1998 20 0 5 15 19 0 2+(1) 16

1999 23 0 9 14 20 0 3+(2) 15

2000 25 0 10 15 21 0 2+(3) 16

2001 31 0 12 19 23 0 1+(3) 19

2002 39 0 11+(3) 25 35 0 4+(6) 25 (注)1. 中国では企業債券は証券取引所でしか流通していない。

2. 企業債は「普通社債+(転換社債)」である。2004 年 3 月現在、両取引所で取引されている企業債は 25+(23)銘柄

である(上海証券取引所は 19+(13)、深圳証券取引所は 6+(10)) (「中央国債登記結算有限責任会社」のヒアリン

グにより)。

(資料)CEIC DATA

図表 13 証券取引所債券市場の取引高の構成(2002年)

国債現物26.2%

国債レポ73.4%

企業債0.4%

(注)1.上証所(上海証券取引所)と深証所(深圳証券取引所)の合計である。

2.金融債の上場はゼロである(図表 12 を参照)。

(資料)CEIC DATA

2003 月6月末に証券取引所で上場されている(上海、深圳両証券取引所合計)債券の時価

13

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総額は 3,635 億元、そのうち、国債は 3,308 億元(91%)、企業債などは 327 億元(9%)と

なっている。取引所債券市場はまだ規模が小さく、銀行間取引市場(同時点債券の時価総額

は 2.74 兆)の 13%に過ぎない。

図表 14 上海証券取引所で取引される債券の銘柄と売買高(2003 年 10 月現在)

銘柄数 構成比 取引高 構成比 全体 63 100.0 46363.0 100.0

直物 国債 企業債 転換社債

51

21

19

11

81.0

33.3

30.2

17.5

4657.9

4081.7

247.7

328.5

10.0

8.8

0.5

0.7

レポ 12 19.0 41705.1 90.0

国債 企業債

9

3

14.3

4.7

40017.6

1687.5

86.3

3.7

(資料)上海証券取引所ホームページ。

上海証券取引所だけを取り上げて見ると(図表 14)、2003 年 10 月現在、取引される債券

の銘柄数は 63 であるが、そのうち、直物取引対象となる銘柄は 51、レポ取引対象となる銘

柄は 12 である。取引高を見ると、前者は 10%、後者の 90%を大きく下回っている。国債

レポは取引所債券市場の主な取引となっている。

2002 年、2003 年に上海証券取引所では国債、企業債ともに5年満期の中期債から 20 年

の超長期債が発行されている(図表 15)。これまで発行された5年以下の国債のクーポンは

ほとんど対応期間の預金金利より高くなっている。国債の発行者である政府部門のリスク

が商業銀行より低いにも関わらず、クーポンが対応期間の預金金利より高いことは、①発

行金利が完全に市場需給を反映していないこと、②国有商業銀行の市場化が遅れているこ

と、などが考えられる。もっとも、2002 年発行の5年物国債のクーポンは 2.65%であり、

初めて同年銀行預金金利(中国工商銀行の5年物は 2.79%)を下回るようになった。

c. 銀行間債券市場 2003 月6月末現在、銀行間債券市場での債券発行残高は 2.74 兆元、そのうち、国債は

1.48 兆元、政策性金融債は 1.02 兆元、中央銀行(中国人民銀行)のT-Bill17は 2,400 億元と

なっている。償還期限は3月物から 30 年物までがあり、イールドカーブも大まかながら形

成されている。2003 年上半期では、銀行間債券市場での現物売買高は 1.01 兆元(1日当た

り約 40 億元)18であり、レポ売買高は 5.04 兆元(1 日当たり約 202 億元)に達した。

17 短期融資券とも呼ばれる。 18 「商業銀行発債不太遥遠」『中国証券報』2003 年 8 月 21 日。

14

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図表 15 上海証券取引所債券市場の国債と企業債(社債) (2002、2003年)

国債名

金額

(億元)

返済

(年)

クーポン

(%)

企業債・社債名

金額

(億元)

返済

(年)

クーポン

(%)

96 国債(6) 255.30 10 11.83 99 宝鋼 20.00 5 4.00

96 国債(8) 201.10 7 8.56 01 中移動 50.00 10 3.73

97 国債(4) 130.00 10 9.78 01 三峡 30.00 15 5.21

99 国債(5) 160.00 8 3.28 02 三峡 39.69 20 4.76

99 国債(8) 200.00 10 3.30 02 中移動(5) 12.46 5 3.50

20 国債(4) 140.00 10 2.60 02 中移動(15) 33.17 15 4.50

20 国債(10) 120.00 7 2.36 02 蘇交通 9.13 15 4.51

21 国債(3) 120.00 7 3.27 02 渝城投 15.00 10 4.32

21 国債(7) 239.60 20 4.26 02 武鋼(3) 5.00 3 3.50

21 国債(10) 200.00 10 2.95 02 武鋼(7) 15.00 7 4.02

21 国債(12) 200.00 10 3.05 02 金茂債 2.65 10 4.22

21 国債(15) 200.00 7 3.00 03 滬軌道 40.00 15 4.51

02 国債(3) 200.00 10 2.54 98 三峡(8) 10.00 8 6.20

02 国債(10) 200.00 7 2.39 98 中鉄(1) 16.00 5 6.95

02 国債(13) 240.00 15 2.60 98 中鉄(2) 10.00 5 3.80

02 国債(14) 224.00 5 2.65 98 中鉄(3) 24.00 10 4.50

02 国債(15) 179.54 7 2.93 99 三峡 30.00 10 変動金利

03 国債(1) 324.27 7 2.66 98 中信 7.00 7 5.48

03 国債(3) 260.00 20 3.40 98 石油 13.50 8 4.50

03 国債(7) 460.00 7 2.66 - - - -

03 国債(8) 163.80 10 3.02 - - - -(注)1.国債名のカッコにある数字は発行回号である。例えば、96 国債(6)は 96 年に発行された第 6期国債を指す。

2.変動金利はクーポンが当該年度の 1年物預金金利プラス 1.75%である。

3.国債の券面はすべて 100 元であり、利払い方法はほとんど年 1 回利払いとなっている(個別的に半年利払いの国

債もある)。

4.企業債券の利払い方法は年払いと満期一括払いがある。

(資料)“Stock Exchange Fact book 2002”上海証券取引所、2003 年。

97 年では銀行間債券市場の会員数は 16 であったが、2002 年4月3日に中国人民銀行が

2002 年第5号公告を発表したことより、非銀行金融機関も登録参入制を通して銀行間債券

市場に参加できるようになったため、銀行間債券市場の会員数19は一気に増加し20、2003 年

10 月現在では 881 に上った。

2002 年 12 月の国債のイールドカーブを見る(図表 16)と、証券取引所債券市場と銀行間

債券市場との間にひずみが生じている。その背後には両市場の間に資金移動がまだできて

いないことがある。今後、全国的に統一した債券市場が整備されれば、両市場のイールド

カーブ曲線も1本に収斂していくであろう。

19 2003 年 10 月現在、その会員は商業銀行のみならず、財務公司、保険会社、証券会社、投資信託ファン

ド、外資系銀行も含まれている。 20 「中国債券市場主要障碍与改進措置」『国際金融報』2003 年5月6日。

15

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図表 16 市場別国債取引のイールドカーブ(%)

1. 00

1. 40

1. 80

2. 20

2. 60

3. 00

3. 40

3. 80

0. 5y 2y 3y 5y 7y 10y 15y 20y 30y

銀行間債券市場

証券取引所債券市場

(注) 1.2002 年 12 月の曲線。

2.中国では、2004 年1月現在、発行された 30 年の国債は 1回しかなく

(発行回号 020005、発行金額 260 億元)、銀行間債券市場で発行されたものである。

取引所債券市場で 30年債の発行実績がないため、イールドはその推計値を使ったとのこと。

(資料) 「2002 年全国銀行間債券市場述評」中央国債登記結算公司研究開発部、2003 年。

図表 17 銀行間国債市場と証券取引所国債市場との比較

銀行間国債市場 取引所国債市場

市場参加者 主に商業銀行、一部のノンバンク金融機関

も参加可能

ノンバンク金融機関

証券取引口座を有する企業と個人

投資目的 長期投資(現物取引が少ない) 短期投資(現物取引が多い)

資金需給 需要≺ 供給 需要≻ 供給

流動性 低い(債券所有権の移転は少ない) 高い(債券所有権の移転は多い)

取引方式 相対取引 集合競売

決済方式 T+1(中央国債登記結算公司経由) T+0(取引所登記公司経由)

債券の保管 1級方式 1.5 級方式 (注)1.集合競売取引方式とは、各取引日の規定された時間内(午前 9:15-9:25)に価格優先、時間優先の原則下で、委託

売買オーダーを一括で取引システムを通じて自動的に約定を成立させる取引方式。

2.1 級方式とは、債券保管口座を甲、乙、丙に分けている。甲口座と乙口座との間には直接に決済できるが、丙口

座は必ず甲口座を通して決済するようになっている。1.5 級方式とは、投資者の名義で登録される債券は取引所

の会員を通じて取引する方式である。甲口座を有する会員は一般的に商業銀行や大手証券会社であり、財政部や

中央銀行の承認が必要とされる。乙、丙口座は登録制であり、年間保管料が違う。取引量が小さい金融機関やノ

ンバンク金融機関は一般的に丙口座を選ぶ。2003 年に丙口座を有する会員数が急増した。

3.資金需給はその市場の性質を示す。銀行間債券市場は潤沢な資金を有する商業銀行が主役となっているため、資

金供給は常に資金需要を上回っている。一方、取引所債券市場では、ノンバンク金融機関が企業や個人に債券を

売却し、資金を獲得している形となっているため、資金需要は資金供給を上回っている。

(資料)「国債市場統一的条件漸成熟」財政部、2002 年9月 23 日。

銀行間債券市場と証券取引所債券市場との違いは図表 17 で示している。現状では、両市

場が分断されており、取引所で取引されている銘柄のうち、4銘柄が一方的に銀行間債券

市場へ移動することしかできない21。2002 年6月にこれまで銀行間債券市場や取引所債券

市場で発行・流通していた登録式(記帳式)国債が店頭取引市場でも発行・流通できるよう

21取引所で発行された債券が銀行間債券市場でも流通できることを意味する。

16

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になったことから、3市場で流通する債券が登場したと言えよう。今後、全国的な統一し

た債券市場が期待されている。

3. 中国の債券市場―ポテンシャル、問題点と今後の課題

債券市場、特に企業債券(社債)市場を整備することは中国経済の金融面における構造的

改革を促進することになる。なぜなら、市場メカニズムに基づく社債の市場整備が進むこ

とにより、①新興の民営企業など非国有企業に多様な資金調達ルートが提供されること、

②信用リスクが金融機関に集中する現行の金融システムから幅広い投資家に分散された金

融システムへ移行することができること、③計画経済から市場経済へ移行する過程に必要

不可欠なセーフティーネットの役割を果たす社会保障基金に多様な運用商品を提供するこ

と、などが期待されるからである。

(1) ポテンシャル

以下では、債券市場の主な資金供給者である家計部門や機関投資家の金融資産運用状況

と主な資金需要者である企業部門の資金調達状況を通し、中国の債券市場のポテンシャル

を見てみたい。 a. 資金供給サイド 中国の非金融部門の IS バランスを見ると、家計部門は大幅な貯蓄超過となっており、資

金不足である企業部門や政府部門に資金を供給している。しかし、家計部門から流出した

マネーフローは主に国有商業銀行を通じて企業部門や政府部門に流入しており、あくまで

も銀行の仲介機能に大きく依存している。フローベースで家計部門の金融資産の構成を見

ると(図表 18)、債券の割合は、92 年の 15%から 2001 年には 5.5%に低下している。さら

に、そのうち、9割は国債である。株式市場への投資は徐々に拡大しているが債券市場で

は大きな変化が起きておらず、むしろそのウエートが低下している。

図表 18 中国家計部門の金融資産の構成比(フローベース、%)

現金 定期・当座預金 外貨預金 債券 株式 保険

92 19.3 57.4 3.1 15.1 3.9 1.293 22.4 61.4 5.2 5.9 3.9 1.294 13.7 74.4 5.0 5.6 0.5 0.795 5.0 83.6 3.5 6.6 0.3 1.096 7.1 75.3 2.2 11.5 2.8 1.297 10.9 63.9 3.1 11.9 7.7 2.598 6.8 65.6 8.0 11.2 6.1 2.499 15.3 50.0 9.6 13.2 7.2 4.72000 9.0 46.2 13.4 6.3 13.8 11.32001年 6.3 66.8 4.8 5.5 8.2 8.3

(資料)「中国金融年鑑」98、2001、2002 年、「中国人民銀行統計季報」2003 年などより作成。

17

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家計部門の年末銀行預金残高を見ると、97 年の 4.6 兆元から 2003 年末には 10.4 兆元と

なった。一方、2003 年には金融機関の貸出残高は 15.9 兆元に達したが、その 53%を占め

る短期貸出のうち、52%が国有企業向けの貸出である22。つまり、急速に増加してきた家計

部門の預金は国有商業銀行を通じて国有大手企業に貸し出されている構造となっている23。

今後、如何にして家計部門の資金運用を多様化し、効率的な資金配分を達成するかは中国

経済が持続的に成長していくことができるか否かを見極める上での重要なポイントとなろ

う。また、金融リスクが銀行セクターに集中している現体制から資本市場を通じて機関投

資家や個人投資家に分散する新体制へ移行することも極めて重要である。

図表 18 で示しているように 2001 年現在、家計部門の金融資産の1割弱は保険に回るな

ど金融資産の多様化の萌芽も見られる。改革・開放以降、中国の保険業は確かに急速な発

展を遂げている。資産総額を見ると(図表 19)、2001 年の 4,591 億元から 2003 年 10 月には

8,319 億元に 2年間ほぼ倍増した。急速に拡大してきた保険業の資金が今後どう運用される

かは注目される。

図表 19 中国保険業の資産総額

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

9,000

2001 2002 2003年10月

億元

(資料)CEIC DATA

22 企業別の長期貸出に関するデータがないため、ここでは、短期貸出のみを見ることにする。国有企業向

けの長期貸出の割合は短期よりさらに高いと考えられる。 23 もっとも、2002 年以降、政府の都市部マイホーム促進策により、国有商業銀行の個人向けの住宅ローン

なども急速に増加している。

18

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図表 20 中国保険業の資産構成

0%

20%

40%

60%

80%

100%

2001年1月 2001年8月 2002年3月 2002年10月 2003年5月

銀行預金 ポートフォリオ その他

03年10月

(資料)CEIC DATA

図表 21 中国保険業のポートフォリオの構成

0%

20%

40%

60%

80%

100%

01/1 01/4 01/7 01/10 02/1 02/4 02/7 02/10 03/1 03/4 03/7 03/10

国債 証券投資ファンド その他の証券投資

(注)「その他の証券投資」は主に政策金融債や企業債を対象とする。 (資料)CEIC DATA

保険業の資金運用構成を見ると(図表 20)、銀行預金とポートフォリオ(自主運用)の割合

はいずれも約4割となっている。ポートフォリオのうち(図表 21)、国債の割合は 2001 年年

初の7割から 2003 年 10 月には 38%まで低下したのに対し、その他の証券投資(政策金融債

や中央企業債)は 18%から 50%まで上昇してきた。一方、証券投資ファンドを通しての投

資割合は 12%となっている。保険業の資産構成における国債以外の証券投資シェア(証券投

資ファンド+その他の証券投資)は近年、政府の規制緩和の影響を受けて確実に拡大してき

たが、投資できる企業債の銘柄が少なく投資枠も低く抑えられている。中国政府は 2003 年

6月2日に新たに「保険公司の企業債券投資に関する暫定管理方法」を公表した24。それによ

り、保険会社の企業債券の投資対象は従来の三峡ダム、鉄道、電力、移動通信など中央企

業(中央政府に属している国有企業)債券で格付けがAA以上の企業債券なら自由に投資でき

24 「保険資金投資企業債券範囲拡大」『人民日報海外版』2003 年 6 月 13 日。

19

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るようになり、投資金額も総資産の 10%から 20%へ引き上げられた。

また、全国社会保障基金も債券市場へ投資する大きな資金源として期待されている。中

国では、2002 年末現在、「全国社会保障基金」の資産総額は 1,241.86 億元に達した。そのう

ち、銀行預金として運用されている金額は 938.79 億元であり、資産総額の 76%を占めてい

る。それに対し、有価証券に投資している金額は僅か 18.66 億元であり、資産総額の 1.5%

に過ぎない。もっとも、2003 年 6 月中旬に社会保障基金総資産のうち、140 億元が6つの

投資ファンドを通して株式市場へ投資することが認められた。今後、債券市場を含む資本

市場への投資拡大が進められていくであろう。

b. 資金需要サイド 資金需要サイドに目を転じると、中国国内金融市場では資金需要のほとんどが借り入れ

の形で賄われている。新規資金調達額の構成を見ると(図表 22)、金融機関からの借り入れ

シェアは 2000 年の 70%から 2003 月6月末には約 90%に上昇が続いている。一方、直接金

融(企業債+株式)の割合は 13%から2%に大きく低下しており、融資構成には歪みが生じて

いる。

図表 22 国内金融市場での新規資金調達額の構成

(%)

貸出 国債 企業債 株式2000 69.7 17.8 0.6 11.92001 75.9 15.7 0.9 7.62002 80.2 14.4 1.4 4.0

2003年6月末 89.5 8.6 0.3 1.6(資料)中国人民銀行統計司、「中国金融年鑑」より作成。

国際比較の観点から見ると(図表 23)、非金融部門の外部資金調達(ストックベース(中国

を除く))における借り入れの割合は、日本は5割弱、米国は1割強、ドイツは4割強であ

ったのに対し、中国は9割弱と非常に高いレベルにあったことが見て取れる。それに対し、

社債の割合は、日本は 12.2%、米国は 15.0%、ドイツは 1.6%であったが、中国は 0.3%

に止まっている。

また、企業規模別で中国国内企業の資金調達状況を見ると(図表 24)、金融機関からの借

り入れは、中小企業は 99%、大企業の 90%となっている。一方、社債発行による資金調達

の割合は大企業が僅か 1.8%、中小企業がゼロであった。中小企業にとって直接金融による

資金調達は皆無に等しい。

20

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図表 23 非金融部門の外部資金調達構成比の国際比較 借入 社債 株式 その他

日本 48.6 12.2 32.6 6.6 米国 10.5 15.0 43.8 30.7 ドイツ 43.3 1.6 24.0 31.2 中国 89.5 0.3 1.6 8.6

(注)1.中国は 2003 年上半期、それ以外は 2002 年の数字である。

2. 中国ではストックベースの数字がないので、フローベースの数字で計算した。

(資料)各国の資金循環表により作成。

図表 24 企業規模別で見た中国企業の資金調達状況(%) 貸付 社債 株式

大手企業 90.3 1.8 7.9 中小企業 98.7 0.0 1.3 (注)2003 年 1~6 月期の数字である。

(資料)「中小企業股票融資僅是“毛毛雨”?」『証券時報』2003 年 9 月 16 日。

(2) 問題点と今後の課題 a. 債券市場 前述のように、中国の債券市場は数々の問題を抱えている。主な問題点をまとめると、

①債券取引に関わるインフラ整備が遅れていること、②資金需給に応じた市場金利で債券

を発行することはできないこと、③経済成長の下支えとなっている非国有企業が社債発行

による資金調達ができないこと、④流通市場の分断により、統一したイールドカーブが形

成されていないこと、などが挙げられる25。

こうした問題を解決するには、市場経済に相応しい投融資制度の整備が必要とされる。

中国政府は「国家投融資体制の改革方案」を打ち出そうとしており、①中国国内企業の資本

参入に際しての法的環境の整備、②非国有企業の社債発行に対する規制緩和、③地方政府

による公共債券発行26の解禁などを検討している。

b. 企業債(社債)市場 一国の社債市場の発展は、①家計部門の金融資産の多様化ニーズ、②機関投資家の地位

確立、③企業部門の財務内容改善と情報開示制度の確立、④経済発展に伴う旺盛な資金需

要、④社債の発行・流通におけるインフラ整備、格付けや法制度の整備などが前提とされ

る。90 年代の日本は、以上のような環境が整った上で、さらに、①間接金融の後退、②国

内企業の独立性向上、などを背景に、大企業の銀行離れが進み、株式市場での増資や国内

25 「銀行間債券市場蘊蔵空間与機遇的沃土」『中国証券報』2003 年 7 月 14 日。 26 1994 年実施された「予算法」には、「法律上や国務院の特別規定以外に地方政府が地方政府債券を発行し

てはならない」という規定が書かれている(「地方発債、経済会否“火上澆油”?」中経網、中経分析)。し

かし、中国都市部インフラ整備に必要とされる資金額は毎年 5,000 億元に達し、その資金不足は深刻で

ある。

21

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債券市場での社債発行などデット・ファイナンスが進行した27。

中国で非国有企業が急速に成長している。付加価値ベース(GDPベース)で見た工業生産額

における非国有企業のシェアは 94 年の 18%から 2002 年には 74%28に大幅に上昇した。そ

れに伴い、非国有企業の資金需要も大きくなり、社債発行に対するニーズが高まっている。

しかし、当面、社債発行が非国有企業の融資手段として活かされていない。その背後には、

①企業債発行の審査や承認において計画経済の残影がまだ残っている、②格付け機関の育

成、企業情報のディスクロージャー制度など社債の発行・流通に関連するインフラが不十

分であり、起債企業の信用リスクに応じた発行条件で起債することはできない、③民営企

業の財務体質が弱く、起債の信用リスクが大きい、などの問題が指摘されている。今後、

経済成長の下支えとなっている非国有企業からの巨大な資金需要がどう満たされていくか

は中国経済が持続的に成長していくことができるか否かを見極める上での重要なポイント

となろう。

当面、中国の社債市場を発展させるには3つの問題を解決する必要がある。それは、①

社債発行に関する審査制度を見直すこと、②起債企業に対する信用調査制度や情報開示制

度を整備すること、③起債企業の客観かつ公正な情報を投資者に提供できる格付け機関を

育成すること、である。

まず、中国では、社債発行に関する事前許認可制度に関しては多数の政府部門が関わっ

ている(図表 25)。各種の債券発行に関する審査は異なる政府部門によって行われており、

債券発行の手続きも複雑であるため、社債の発行者は起債申請の提出から認可が下りるま

で時間がかかる。また、投資者を保護する観点から、起債企業の信用リスク管理も必要で

ある。2003 年4月以降、中国人民銀行は国有商業銀行が起債企業に保証を提供することを

進めている29が、信用リスクの負担を銀行から広く投資家に分散するという本来の目的に合

致する措置ではない。企業独自の信用力で社債発行の道を開くべく社債制度が待たれると

ころである。社債発行に必要とされる格付け機関の公正性も問われている。現状では、中

国国内格付け機関は約 10 社があるが社債発行に関わる業務は主に「中誠信国際信用評級有

限公司」、「聯合資信評估有限公司」、「大公国際資信評估公司」の3社に集中している。こう

した寡占状況下では、発行体からの圧力、格付け機関側のコーポレートガバナンスの問題

が理由で起債企業は高い手数料を払えば高い格付けを得ることもできることから、起債企

業に対する客観的な評価が期待できない30。

27 「公社債市場の新展開」、公社債引受協会、1996 年6月 27 日。 28 「非国有企業:増長与政策環境―2003 年 1 季度数拠分析」中経網、2003 年5月7日。 29 中国人民銀行の「商業銀行の中間業務暫定規定」(2001 年)、「商業銀行の中間業務暫定規定」(2002 年4月)などによって行われる。

30 「商業銀行包弁企業債担保」『財経週刊』2003 年 4 月 7日。

22

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図表 25 債券の発行・流通を管理する政府部門

債券発行を許認可する政府機関

発行される債券種類 許認可政府部門

国債 財政部

企業債 国家発展並びに改革委員会

金融債 中国人民銀行(中央銀行)

転換社債(CB) 証券監督管理委員会

流通市場を管理・監督する政府機関

債券市場 政府機関

店頭取引市場 中国人民銀行(中央銀行)

銀行間債券市場 中国人民銀行(中央銀行)

取引所債券市場 証券監督管理委員会

(資料)「何が債券市場の発展を妨げているか」国家開発銀行、2002 年 1 月、中経網。

社債発行に重大な意味を持つ改正版「企業債券管理条例」は、案がすでに国務院に提出さ

れ、現在審議中であり、近々に承認される見通しである。新条例施行後、債券市場に少な

くとも①社債の発行に対して審査許可制から登録制へ移行すること、②社債発行金利は格

付けなどを通して起債企業の信用状況や債券市場需給に応じて決められること、③インフ

ラ整備を通じて全国的な統一した社債流通市場が形成されること、④債券発行の適債基準

が緩和され、起債企業が国有企業から非国有企業へ広がっていくこと、⑤社債発行によっ

て調達された資金に対する使途規制が緩和されること31、といった五つの変化が期待されて

いる。

図表 26 中国における社債発行―企業数と起債金額 年 起債企業(社) 起債金額(億元)

2001 5 144

2002 12 325

2003(予測値) N.A. 500

(注)2003 年 4 月まで起債社数は 3社、起債金額は 65 億元である。

(資料) 「商業銀行包弁企業債担保」『財経週刊』2003 年 4 月 7日。

4. 終わりに 中国にとって債券市場、特に、社債市場を発展させることは金融面での市場化を促進す

る上で避けては通れない重要な課題である。2003 年には社債の発行による資金調達は 500

億元に達したと言われるが依然として規模が小さい(図表 26)。2004 年2月1日に中国の国

31「新版『企業債券管理条例』不日出台民営企業発債有望」中経網、2003 年8月 13 日。

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務院は「資本市場の改革・発展を推進する九つの意見」(以下「意見」)を公布し、資本市場

の発展を加速しようとしている。「意見」には、①資本市場の効率的な資源配分機能を最大

限に発揮すること、②非国有経済の発展を加速すること、③企業の資金調達における直接

金融の割合を高めること、という3つの狙いが取り込まれている。社債に関しては、「起債

基準を明確化し、信用リスクを厳しく管理した上で社債市場の立ち遅れを改善し、適債基

準を満たした企業の社債発行額を拡大させる」という方針を明らかにした。それは「2003 年

10 月に開かれた中国共産党の第 16 期中央委員会第3回全体会議(三中全会)で決められた

資本市場の整備に関する決議がこの「意見」の発表をもって全面的な実施段階に入った」と

中国国内で高く評価されている。こうした政策の下で中国の社債市場がどう変わっていく

かが注目されている。

【参考資料】 1. “Stock Exchange Fact Book” Shanghai Stock Exchange, 2003.

2. 「中国金融創新与金融競争力培育」金版電子出版公司、1999 年。

3. 戴相龍「中国金融読本」(桑田 良望訳)、1999 年5月、中央経済社。

4. 「公社債市場の新展開」、公社債引受協会、1996 年6月 27 日。

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「付録1」

「企業債券発行に関する規定」

社債発行可能な企業:①株式会社、②100%国有企業、③国有企業2社以上で構成される有

限責任公司。

起債目的: 生産経営資金を調達するためでなければならない。認可された使途し

か使えない(企業の経営損失や非生産性支出に使われることは禁止)。

起債条件: ①純資産制限(株式会社は 30 百万元以上、有限会社は 60 百万元以上)

②累計債務規制(累計債務は公司純資産の 40%を超えてはならない)

③経営業績規制(直近3年間の平均可処分利益で発行された社債の1年

間の利息を支払うことは十分である)

④資金使途規制(調達した資金は国家産業政策に相応しい項目に運用

しなければならない)

⑤発行金利規制(発行金利は国務院が規定する金利を超えてはならな

い)

⑥その他の規制

債券発行の審査・許可機関:国家発展と改革委員会(http://www.sdpc.gov.cn)

起債申請に必要とされる書類:①会社の登録証明書、②会社の定款、③社債募集要綱、

④会社の資産評価報告書と検定報告書

審査手続き: 国家発展及び改革委員会は企業債全体の年発行枠の管理を行い、債券発行

の審査・認可を行う政府機関である。国家発展及び改革委員会は起債企業を審査する際、

当該企業について中央銀行である中国人民銀行、中国証券監督管理委員会などと情報交換

をしながら、起債の適格性について検討する。特に問題がなければ企業の申請書を国務院

に提出する。国務院から起債枠を得た後、起債企業にさらに詳細な申請書類を作成させ、

申請書類を審査した上で債券発行の許可を与える。

その他: 起債企業は国家が認可された格付機関から格付を取得することは発行要件

とされている。その格付は債券発行の審査を受ける際、あるいは、発行する際、参考指標

として使われる

(注) 中華人民共和国公司法第5章公司債券、「企業債券管理暫定条例」よりまとめた。

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「付録2」

「銀行間債券取引市場」

取引種類: 現物取引とレポ取引

取引対象: 現物取引は登録式の国債及び非行政割合方式で発行された政策金融債を

対象とし、レポ取引は以上に加えて中央銀行発行のT-billも対象とする

レポ取引の種類:1日、7日、12 日、14 日、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、6ヶ月、9ヶ

月、1年の 11 種類である

取引時間: 午前:9:00-12:00、午後:13:30-16:30

取引参加者: 債券取引に参加する資格がある商業銀行や保険会社、証券会社、投資フ

ァンド、財務公司などのノンバック金融機関及び人民元業務を取り扱うことができる外

資系金融機関

決済方式: 券面は中央国債登記結算有限公司で委託保管の所有権移転が行われてお

り、取引資金は中国人民銀行の支払システムを通じて決済される

(注)1.銀行間債券市場を参加する商業銀行の一部が店頭取引も兼営している。

2.商業銀行が所有する債券は平均で資産総額の約 12~13%である。

3.銀行間債券市場の主要参加者は商業銀行であり、レポ取引がメインとなっている。

附表 1 銀行間債券市場における債券の現物取引

売買差額 (プラス:購入≻ 売却、マイナス:購入≺ 売却)

商業銀行 ノンバンク金融機関

売買総額

国有

その他

保険会社

証券会社

投資ファンド

他の金融機関

外資系金融機関

2000 628.7 33.0 98.5 -41.6 2.8 -74.8 -17.9

2001 839.6 31.1 170.0 -91.1 -75.3 -28.5 -6.2

2002 4411.7 472.8 -53.4 -81.0 -118.1 -214.4 -5.8

(資料)「中国金融年鑑 2001,2002,2003」

附表 2 銀行間債券市場における債券のレポ取引

売買差額 (プラス:レポ≻ リバースレポ、マイナス:レポ≺ リバースレポ)

商業銀行 ノンバック金融機関

売買総額

国有

その他

保険会社

証券会社

投資ファンド

他の金融機関

外資系金融機関

2000 15781.7 4094.6 -3252.7 -148.1 -1016.0 325.0 -2.7

2001 40133.3 12132.3 -8096.7 -978.8 -1897.1 -1147.3 -12.5

2002 101885.2 44588.7 -21730.1 -3883.1 -960.9 -17976.9 -37.8

(資料)「中国金融年鑑 2001,2002,2003」

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「付録3」

「中央国債登記決済有限責任会社」

(China Government Securities Depository Trust & Clearing Co., LTD.) 説明 「中央国債登記結算有限責任会社」は 96 年 12 月に設立された 100%国有機関である。2002

年 1 月に再登録し、資本金は 2.3 億元である。「中央国債登記結算有限責任会社」は財政部

や中国人民銀行(中央銀行)から権限が与えられ、債券市場で取引されている国債、政策金

融債、企業債、及びその他のフィックスインカム有価証券の登録、券面の委託管理、決済

などのサービスを提供している。2002 年末現在、「中央国債登記結算有限責任会社」に委託

管理されている債券の発行残高は 28,000 億元を超え、既発債券全体の 85%を占めている。

主要なメンバー

分類 主要なメンバー

商業銀行及び政策銀行 4 大国有商業銀行(中国工商銀行、中国建設銀行、中国銀行、

中国農業銀行)、国家開発銀行、株式制商業銀行(中国光大銀行、

華夏銀行、中国民生銀行、上海浦東発展銀行、招商銀行、福建

興業銀行、深圳発展銀行、広東発展銀行、上海浦東発展銀行、

交通銀行)、各城市銀行(約 90 行)など

国内ノンバンク金融機関 中国太平洋保険グループ㈱、中国平安保険㈱

中国人寿保険公司、中国人民保険公司、国泰君安証券㈱、

長城証券有限公司、長江証券有限公司、華夏証券有限公司、

上海汽車グループ財務有限公司、中油財務有限公司、全国社会

保障基金理事会、各種の証券投資基金、各種の信用組合など

外資系金融機関 HSBC 上海支店、UFJ 上海支店、CITI 上海支店、

Bank of America 上海支店、ABN 上海支店、CSFB 上海支店、

Credit Lyonnais 上海支店、AIU 上海子会社、

Standard Charter 上海支店など

(注)2002年の会員数は合計947であったが2003年末には2,895に急増した(「中央国債登記結算有限責任会社」のヒアリ

ングにより)。

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