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4 序章 本論の目的-フェルナンド・ペソーアの錯綜した思想を紐解く「契機」の探求 本論文は、二十世紀前半のポルトガルを生きた詩人フェルナンド・ペソーア Fernando Pessoa(1888-1935)のポエジー 1 と文学理論を検討することを目的として書かれた論文である。 だが本論におけるこの検討は、ペソーアの思想(詩想)や詩学の全体像を闡明し呈示するこ とを目的とはしていない。この論文において検討されるのは、 1912 年から 1918 年の期間の ペソーアのポエジーと文学理論である。ペソーアが 1912 年にポルトガルの文学世界に登場 し、1935 年の逝去まで自身の文学生活を続けたことを考えると、この論文が考察の対象と する期間はこの詩人の文学生活の三分の一にも満たない。またこの期間のペソーアの著述活 動を検討対象とするということは、この詩人が生前に刊行した英語詩集『アンチノウス Antinous(1927)や『35 のソネット 35 Sonnets(1927)、ポルトガル語で唯一出版された詩集 『メンサージェン Mensagem(1934)も本論では具体的に論じられないことを意味する。 だがこの時期に詩人が自らの表現のあり方を詩的実践と理論構築の双方から組み上げて ゆき、この期間に思索されたポエジーと文学理論がこの詩人の全体的な思想にとって決定 的な意味をもち、この七年間が詩人の文学生活全体のなかでもっとも濃密な思索期間のひ とつであることを考えれば、このわずかな期間に焦点を絞り検討することの意義は諒解さ れるであろう。 ペソーアの思索にとってもっとも充実した期間のひとつである文学生活初期のポエジー と文学理論を検討するに際しての第一の論件は、ペソーアという詩人のポエジーの原初形 態を解明することである。この解明のためには、なににもまして、ペソーアがあたらしい ポルトガルのポエジーA Nova Poesia Portuguesa をモチーフに書いた三つの論稿を検討する 必要がある。それは、ペソーアがポルトガルの文学世界に登場する際に書いたこれらの論 稿のなかにこの詩人のポエジーの原初形態が克明に記録されているからである。 この原初形態については、本論のなかで具体的に検討されることであるが、この形態の 本質について先走って言えば、それは、物体と精神の実在的かつ非実在的な顕現という非 両立状態を両立させる事象総体のことである。この事象総体から成るポエジーをあたらし いポルトガルのポエジーとして呈示するペソーアは、上記の論稿のなかで、あたらしいポ ルトガルのポエジーをさまざまな知の領域を横断して論及するが、突き詰めて言えば、こ の詩人が論じるのは、この本質のあり方とあり様についてであり、もっと言えば、ペソー アはこの非両立状態を両立させる事象総体についての考察を変奏して呈示するだけである。 ただ、繰り返しペソーアがこの本質を考察するのは、これがペソーアのポエジーにとって 不可欠な要素となっているからであり、そしてペソーアがこれらの論稿において多様な知 1 ここでもちいる「ポエジー poesia」は本論のなかで繰り返し登場するタームである。本論で具体的に検 討されるペソーアの思索に鑑みて、このタームに、とりわけ、「詩学的創造性」と「詩的思考」という意味 を強調して使用することとする。 東京外国語大学博士学位論文 Doctoral thesis (Tokyo University of Foreign Studies)

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序章

本論の目的-フェルナンド・ペソーアの錯綜した思想を紐解く「契機」の探求

本論文は、二十世紀前半のポルトガルを生きた詩人フェルナンド・ペソーア Fernando

Pessoa(1888-1935)のポエジー1と文学理論を検討することを目的として書かれた論文である。

だが本論におけるこの検討は、ペソーアの思想(詩想)や詩学の全体像を闡明し呈示するこ

とを目的とはしていない。この論文において検討されるのは、1912 年から 1918 年の期間の

ペソーアのポエジーと文学理論である。ペソーアが 1912 年にポルトガルの文学世界に登場

し、1935 年の逝去まで自身の文学生活を続けたことを考えると、この論文が考察の対象と

する期間はこの詩人の文学生活の三分の一にも満たない。またこの期間のペソーアの著述活

動を検討対象とするということは、この詩人が生前に刊行した英語詩集『アンチノウス

Antinous』(1927)や『35 のソネット 35 Sonnets』(1927)、ポルトガル語で唯一出版された詩集

『メンサージェン Mensagem』(1934)も本論では具体的に論じられないことを意味する。

だがこの時期に詩人が自らの表現のあり方を詩的実践と理論構築の双方から組み上げて

ゆき、この期間に思索されたポエジーと文学理論がこの詩人の全体的な思想にとって決定

的な意味をもち、この七年間が詩人の文学生活全体のなかでもっとも濃密な思索期間のひ

とつであることを考えれば、このわずかな期間に焦点を絞り検討することの意義は諒解さ

れるであろう。

ペソーアの思索にとってもっとも充実した期間のひとつである文学生活初期のポエジー

と文学理論を検討するに際しての第一の論件は、ペソーアという詩人のポエジーの原初形

態を解明することである。この解明のためには、なににもまして、ペソーアがあたらしい

ポルトガルのポエジーA Nova Poesia Portuguesa をモチーフに書いた三つの論稿を検討する

必要がある。それは、ペソーアがポルトガルの文学世界に登場する際に書いたこれらの論

稿のなかにこの詩人のポエジーの原初形態が克明に記録されているからである。

この原初形態については、本論のなかで具体的に検討されることであるが、この形態の

本質について先走って言えば、それは、物体と精神の実在的かつ非実在的な顕現という非

両立状態を両立させる事象総体のことである。この事象総体から成るポエジーをあたらし

いポルトガルのポエジーとして呈示するペソーアは、上記の論稿のなかで、あたらしいポ

ルトガルのポエジーをさまざまな知の領域を横断して論及するが、突き詰めて言えば、こ

の詩人が論じるのは、この本質のあり方とあり様についてであり、もっと言えば、ペソー

アはこの非両立状態を両立させる事象総体についての考察を変奏して呈示するだけである。

ただ、繰り返しペソーアがこの本質を考察するのは、これがペソーアのポエジーにとって

不可欠な要素となっているからであり、そしてペソーアがこれらの論稿において多様な知 1 ここでもちいる「ポエジー poesia」は本論のなかで繰り返し登場するタームである。本論で具体的に検

討されるペソーアの思索に鑑みて、このタームに、とりわけ、「詩学的創造性」と「詩的思考」という意味

を強調して使用することとする。

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の領域を横断するのは、この本質が多くの知の領域に応接しているからである。

他方、物体と精神の実在的かつ非実在的な顕現という非両立状態を両立させる事象総体

の分析が肝要であるのは、この本質がペソーアのポエジーの原初形態の核であるという理

由からだけではない。この事象総体がペソーアの一貫した、その後のこの詩人のポエジー

や文学理論を貫通する決定的な要素となっているからである。このことに鑑み、第二の論

件としてこの本質がペソーアの思索したポエジーや文学理論にどのような影響を与え、ど

のように刻印されているのかが検討される。この論件のために具体的に考察されるのは、

〈パウリズモ Paulismo〉、〈交差主義 Interseccionismo〉、〈感覚主義 Sensacionismo〉という文

学理論であり、あたらしいポルトガルのポエジーに関する思索をもとに展開されたこれら

の理論がどのような理論であるかが精査され、とともにこれらの理論の詩的昇華である詩

作品の読解が為されることでその具体的なあり様とあり方が検証されることとなる。

第二の論件の考察においてはまた、これらの文学理論がパウリズモを皮切りに交差主義

を経て感覚主義へと進展する継続した体系を成し、密接な理論的連鎖をつくって進展変容

されている様も同時に検討されることになる。

この一連の文学理論の思索を経てペソーアが最終的に獲得するのは感覚主義であるが、

この理論は、ペソーアの文学理論の帰結であると同時に、この詩人の思索にあらたな道を

開く直接の原因ともなっている。それは、この感覚主義の思索が、〈異名 heterónimo〉と〈パ

ガニズム paganismo〉というペソーアの思想にとってきわめて肝要な現象および神学体系を

かれに思索させる契機となるからである。この事実から、第三の論件として、感覚主義と

異名およびパガニズムがどのように有機的な知の体系として組み立てられているのかが検

討される。

第三の論件に関してもう少し具体的に述べておけば、異名という現象は、ペソーアとい

う詩人をなにより特徴づける要素である。そしてその異名のなかでもペソーアの文学生活

においてもっとも密接な関係と影響力をもち、この詩人が「主要」とみなした異名、アル

ベルト・カエイロ Alberto Caeiro、リカルド・レイス Ricardo Reis、アルヴァロ・デ・カンポ

ス Álvaro de Campos は、感覚主義と不可分な関係を有しており、今一度先走って言えば、

この文学理論が構築されなければ、これらの「主要な」異名は存在しなかったとさえ言え

るような関係をこの主義とのあいだに結んでいる。したがって感覚主義をこの理論の内部

からだけではなく、外部から(だが無関係にあるふたつの事象を意図的に同じ文脈におい

て考察するということではなく)分析するという意味において、(そして全体的な異名とい

う現象の内実の一端を解明するという意味においても)「主要な」異名の分析は不可避の検

討事項になる。

他方、パガニズムはペソーアと「主要な」異名が詩化し理論化する神学体系のことであ

る。この神学体系と感覚主義との連関は、前者が後者の神学として構築され機能したこと

からはっきりと理解できる。ただこの神学体系は、ペソーアがあたらしいポルトガルのポ

エジーに係る思索と平行して、そしてこれに関連付けておこなった神に係る思索からも深

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い影響を受けていると考えられ、つまり、このパガニズムは、ペソーアがおこなった神に

係る思索が内包され複層的な神学体系となっている。このことから、この神学体系の検討

に際しては、ペソーアと「主要な」異名のパガニズムについての思索(と同時にアントニ

オ・モーラ António Mora という別の異名のパガニズムに係る言及および理論)を分析する

だけでなく、あたらしいポルトガルのポエジーに関わりをもつペソーアの神に係る思索も

精査され、この神学体系の全体像があきらかにされることとなる。

本論は、これら三つの論件を通してペソーアが 1912 年から 1918 年にかけて思索した思

想を解明することに傾注される。それはこの詩人の錯綜した思想全体を紐解くための「契

機」(ヘーゲル)をあきらかにするためであり、この詩人がポルトガルの「近代」にたいし

てポエジーや文学理論を以てどのように対峙し、そしてそれをどう表現へと昇華させたの

かを探求するためであり、ペソーアが異名という複数の「自己/他者」の創造のなかに自ら

を立たせ、「複数/非人称性」と「単数/人称性」とを生きた意味を考察するためであり、パ

ガニズムという神学体系によりキリスト教的伝統からの異化をはかったペソーアが実現し

ようとしたことがなにかを知るためである。

本論の特色-ペソーアの文学理論とポエジーを読み解くためのあたらしい視点の設定

ペソーアの思想や作品が本格的な批評や研究の対象となるのはこの詩人が 1935 年に逝去

して以降のことである。その死がポルトガルの著名な新聞『ディアーリオ・デ・ノティー

シアス Diário de Notícias』紙などに大きく掲載されたように、当時のポルトガルにおいてペ

ソーアは一定の知名度を有してはいたが、批評および研究の対象とされるようになるのは

詩人が世を去ってだいぶ経ってからである。

ペソーアの死後にかれのアパートに置かれた衣装用トランクのなかから発見された

27.543 にも及ぶ遺稿はひとを驚かせたが、これらの遺稿がタイプ打ちされたものからカフ

ェの紙ナプキン、会社名の入った便箋に書かれたメモ書きなど雑然とした状態で収められ

ていたため、その整理に手間取り、これらをもとに作品が出版されるようになるのに詩人

がこの世を去ってから七年の歳月を必要とした。

こういった事情もあってポルトガル国内においてさえペソーアが批評や研究の対象とな

るのに(一部の限られた、この詩人と知己を得ていた文学者たちや友人たちにより、「主要

な」異名の詩集や、全集と銘打たれてはいるもののまったくその体裁を成さない作品全集、

あるいは生前のペソーアに近い者であるがゆえに客観的な視座を欠いた評伝が出版されは

するものの)さらに多くの時間がかかった。

その後、徐々にではあるが、ポルトガル本国のみならず、欧米をはじめ世界中でこの詩

人の詩や散文、さらには論文や評論といった作品が翻訳され広く紹介されるようになり

(1988 年にはポルトガル文化庁の命で結成されたペソーア作品の分析校訂作業をおこなう

〈エキッパ・ペソーア Equipa Pessoa〉が発足され、かれらの作業により現在ではペソーア

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作品の全貌があきらかになりつつある2)、また作品の出版にともないこの詩人の思想やポエ

ジーに関して多様な知的領域から批評および研究が提出されるようになった。

本論文が扱う 1912 年から 1918 年の期間におけるペソーアのポエジーや文学理論に関す

る批評や研究もポルトガルの作家兼文学評論家で、ペソーアと深い親交をもったジョア

ン・ガスパール・シモンイス João Gaspar Simões(1903-1987)が 1929 年に、自身が創刊に携わ

った雑誌『プレゼンサ Presença』に「主題 Temas」を発表して以降、多くの研究者によって

断片的に取り扱われてきている。この断片的にという言葉は、文字通りの意味であり、先

に挙げたペソーアのポエジーや文学理論の各々を取り扱った批評や研究は数多くあるが、

これらのペソーアの思考を連関する体系として眺望し通観した研究や批評はほとんどなか

ったと思われる。たしかに、連なる思考体系とする分析観点のもとでペソーアの文学生活

初期のポエジーと文学理論を検討した研究がないわけではなく、わずかではあるもののい

くつかある。だがその検討はこれらの理論とポエジーの概観をなぞることで読解を終了し、

これらがペソーアの思索のなかでどのように生成され練成されたのか、どのように相互に

結びつけられ展開されたのか、といったことを十分に検討してはいなかったと思われる。

本論文では、したがって、1912 年から 1918 年にかけて思索されたペソーアのポエジーと

文学理論に係る内実の具体的な検討だけではなく、どのような意図をもってペソーアがこ

れらの思考をうみだし精製したのか、これらがどう連鎖し作用したのかを可能な限り多く

の作品を精査し解読しながらあきらかにする。

この要請にしたがい、本論の第一部ではペソーアのポエジーの原初形態であるあたらし

いポルトガルのポエジーに関する三つの論稿が分析され、ペソーアという詩人のポエジー

の骨格が解明される。またこれらの三つの論稿が当時のポルトガルの時代状況や文学状況

に大きな影響を受けて書かれていることから、これらの状況もこの原初形態と並行して分

析されることになる。

第二部では、パウリズモ、交差主義、感覚主義、異名、パガニズムについての具体的な

解明がおこなわれ、あたらしいポルトガルのポエジーというペソーアの思索の萌芽がどの

ようにこれらの思考のなかで花開いたのか、またこれらの思考はどのように連関してひと

つの思考体系を構築したのかが分析される。

この二部構成で書かれる本論文の内実につき少し具体的に述べると、第一部では、導入

として、ペソーアが自身の文学生活初期に多大な影響を受けた 20 世紀初頭のポルトガルの

文学運動〈サウドジズモ Saudosismo〉とこの運動がドグマとしたポルトガルの情緒〈サウ

ダーデ Saudade〉、そして同運動へ参加するまでのペソーアの履歴が確認される。これらの

確認を経て、第一章では、あたらしいポルトガルのポエジーに関する三つの論稿「社会学

的に考察されるあたらしいポルトガルのポエジー A nova Poesia Portuguesa sociologicamente

considerada」(1912)、「再考するならば Reincidindo」(1912)、「あたらしいポルトガルのポエ 2 中世文献学を専門とするイヴォ・カストロ Ivo Castro(1945-)をコーディネーターとする〈エキッパ・ペソ

ーア〉はテレーザ・リタ・ロペス Teresa Rita Lopes(1937-)などのペソーア研究者と反目し合いながらも、ペ

ソーア作品のクリティック版を刊行する作業を継続しておこなっている。

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ジー その心理学的側面について A nova Poesia Portuguesa no seu aspecto psicológico」(1912)

が分析され、この詩人のポエジーの原初形態が考察される。この考察においてあたらしい

ポルトガルのポエジーの成立過程とこのポエジーの詩学および美学が分析され、このあた

らしいポルトガルのポエジーの本質、つまりペソーアのポエジーの原初形態の本質が、精

神と物体、あるいは実在と非実在の均衡した溶解(状態)であることがあきらかになる。

そしてこの本質に係る詩的実践である、「黄昏の痕跡 Impressões de crepúsculo」(1913)と題さ

れるひとつの詩を構成する二編の詩「ああぼくの村の鐘 Ó sino da minha aldeia」(1913)およ

び「沼地 Paùis」(1913)が検証されることによって、あたらしいポルトガルのポエジーの詩

における具体的なあり様とあり方が分析される。

第二章では、ペソーアの哲学理論、〈汎神論的超越論 transcendentalismo panteísta〉が分析

される。あたらしいポルトガルのポエジーに関する論稿の第三論稿「あたらしいポルトガ

ルのポエジー その心理学的側面について」において論じられたこの哲学理論の分析のな

かでペソーアは、精神と物体の実在性が抱える問題を根本命題として問い、この問題にた

いする解として、「精神(霊性)の物体(物象)化」および「物体(物象)の精神(霊)化」、

つまり精神と物体の実在的かつ非実在的な顕現という非両立状態を両立させるあり様とあ

り方を呈示した。同章ではこの哲学理論の分析を介して、あたらしいポルトガルのポエジ

ーが哲学的にどのように補完されたのかが検証される。

他方、ペソーアはつねにおのれの詩学および哲学と神(宗教、信仰)の思索を切り離す

ことのなかった詩人である。そしてそれはあたらしいポルトガルのポエジーの文脈におい

てもかわることはない。実際、ペソーアはあたらしいポルトガルのポエジーの思索と平行

して神(宗教、信仰)を思索しており、そしてこの神(宗教、信仰)の思索は、あたらし

いポルトガルのポエジー論の思索と多くが一致している。具体的に言えば、ペソーアはあ

たらしいポルトガルのポエジーの思索において実在性の実在的かつ非実在的顕現という矛

盾を許容するポエジーを追究し、これを汎神論的超越論へと理論化したが、かれは神(宗

教、信仰)の思索にもこの思考をあてはめる。第三章では「合理(理性)的な信仰告白(信

仰行為)」というペソーアの言葉に集約されるような神(宗教、信仰)思索に焦点が当てら

れ、それが、ペソーアのポエジーの原初形態と一致していることが考察され、またその具

体的な表現形態が詩「神-彼方(彼岸)Além-Deus」の読解を通して分析されることになる。

第二部は、第一部で検討されたペソーアのポエジーの原初形態がこの詩人の文学理論に

どのように刻印されているのかが主な論件となる。

この論件の具体的な検討のまえに、導入として、ペソーアが文学運動サウドジズを脱退

した経緯が、ポルトガル初のモダニズム雑誌『オルフェウ Orpheu』(1915)やパウリズモとの

関係で明確にされる。ただし、この考察によって、サウドジズモの思想と相容れず、『オル

フェウ』に関与し、パウリズモを構築したペソーアの思想が、じつは、モダニズムに接触

しながらも、つねにサウドジズモに着想を得たあたらしいポルトガルのポエジーの思索と

結びついていることもあきらかにされる。

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この導入を経てペソーアの文学理論の検討が開始される。第一章では、交差主義とその

詩的実践である詩「斜の雨 Chuve Oblíqua」(1914)が分析される。この分析において、交差

主義の理論内実に加え、これがパウリズモの進展された文学理論であることが検証される。

この検証により交差主義が、キュビスムや未来主義の要素を備えるとともに、あたらしい

ポルトガルのポエジーの要素をも備え成立していることがあきらかになる。

交差主義の分析を経て検討されるのは、この理論の進展形態である感覚主義である。こ

の文学理論の検討に際して、まず、この理論の構成要素としてペソーアがあげた「フラン

スの《象徴主義》」、「ポルトガルの超越論的汎神論」そして「未来主義、キュビスムそして

他の類似の思考が誘発的な表現形態であるところの無意味かつ矛盾した事象の寄せ集め」

という三つの「運動」についての分析がおこなわれる。この分析により感覚主義の構成要

素は、ペソーアのそれまでの思考が、ある部分はそのままで、別の部分は改変されて、積

み重ねられた理論であることが理解される。この改変は、とくに、ペソーアが自身のポエ

ジーの本質であった実在性の実在的かつ非実在的顕現から実在性の非実在的顕現へと思考

の重心を移動させたことによって発生するが、この改変の原因を探るために、ペソーアの

「夢想の芸術」と題される論稿と、ポルトガル象徴主義の詩人、アントニオ・ノブレ António

Nobre(1867-1900)およびカミーロ・ペサーニャ Camilo Pessanha(1867-1926)のポエジーと詩作

品が分析される。

感覚主義の構成要素を理解したのち、第二章では、「芸術において精神の幾何学的な諸要

素のなかに実在性の分解を実現」することを目的とする感覚主義の呈する感覚様態が分析

される。また、この感覚様態の分析と平行して、「すべてをあらゆる方途で感覚する」こと

を追求する感覚主義が理論核とする「感覚 Sensação」によってつくりだされる、一次元、二

次元、三次元的な感覚次元の分析もおこなわれる。そしてこの感覚様態と感覚次元は、詩

「不合理な時刻 Hora Absurda」(1913)、「斜の雨」、「船乗り Marinheiros」(1913)の分析を介し

て具体的に検証される。

これらの考察により感覚主義の理論内実が分析されたのち、ペソーアが感覚主義との関

連で呈示した「感覚の人格化」の問題が異名現象に結び付けられ分析される。この分析に

おいては、ペソーアが感覚主義の文脈で異名をどのような意図をもって創造し、これをど

のような使命を果たす装置として規定したのか、また感覚主義者であり、「主要」と呼ばれ

る異名が、他の異名と比べてどのような特異性を有しているのかが検討される。

この検討を経て、アルヴァロ・デ・カンポスおよびアルベルト・カエイロというふたり

の「主要な」異名が綴った詩「海のオード Ode marítima」(1915 年頃)と「群れの番人 O

Guardador de rebanhos」(1915)が分析され、「主要な」異名がどのように「感覚すること」を

詩的実践においておこなったのかが分析される。

第三章においては、「主要な」異名とペソーアが師弟関係によって秩序付けられ、この関

係において、師カエイロとかれの弟子であるペソーアや他の異名がパガニズムという神学

体系によって結ばれていることが論じられる。

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同章ではまず、感覚主義の「美学的宗教」と呼んで差し支えないこの神学体系パガニズ

ムが、一般にパガニズムと呼ばれ理解される神学体系とは異なる、師カエイロの特異な感

覚とポエジーを軸として成立していることがあきらかにされる。続いて、このカエイロの

感覚とポエジーを弟子であるペソーアやカンポスたち異名がそれぞれの方法で解釈しなが

ら詩化および理論化し、「ポルトガルのパガニズム」あるいは「ネオパガニズム」と呼ばれ

る神学体系をつくりだすことが闡明される。これらの考察ののち、このパガニズムを具体

的に知るために、ペソーアの「高次のパガニズム o Paganismo Superior」(1915 年頃)およ

びカエイロの「哲学的後継者」である異名アントニオ・モーラの『神々の帰還 O Regresso dos

Deuses』(1917 年頃)に呈示されたパガニズム思考が分析されることとなる。

このように要約できる本論文は、最終的に、連関する思考体系としてはこれまで十分に

論じられることのなかったペソーアの文学生活初期のポエジーと文学理論の研究にあたら

しい視点を提出することになるだろう。そしてこのあたらしい視点は、ペソーアの思想全

体を読み解くためのひとつの有力な視点ともなるであろう。

この論文はただし、ペソーアのポエジーと文学理論の解明と分析を一義的な目的とする

ことから、これらの作業においてさまざまに想起されることになるであろう多くの文人や

思想家の文学理論や哲学理論は原則的には取り扱わないこととする。私見では、本論で検

討されるペソーアの文学理論とポエジーからは、少なく見積もっても、エマーソン、キル

ケゴール、ニーチェ、ハイデガー、ボルヘス、バフチン、バタイユ、ドゥルーズ、レヴィ

ナス、ブランショといった哲学者や文学者や文芸評論家の思想を容易に想起することがで

きると考える。ペソーアの思想とかれらの思想を比較対照することは、それはそれできわ

めて魅力的な作業であるが、それをおこなうよりも先に、そしてのちにそれを実現するた

めに、本論の作業をまず完遂しなければならないであろう。

なお、本論における詩の訳出にあたっては、Obras de Fernando Pessoa (1986), introduções e

notas de António Quadros e Dalila Perreira da Costa, Vol. I., Porto: Lello & Irmão Editores;

Fernando Pessoa Obra Poética (2005), Organização, Introdução e Notas de Maria Aliete Galhoz,

23ª edição, Rio de Janeiro: Editora Nova Aguiar; DIMAS, Samuel (1998), A Intuição de Deus em

Fernando Pessoa 25 Poemas Inéditos, Colecção ÉPHATA, Lisboa: Edições Didaskalia; Orpheu 2

(1984), 3ª edição, preparação do texto e introdução de Maria Aliete Galhoz, Lisboa: Edições Ática;

Poemas de Ricardo Reis (1994), Edição Crítica de Fernando Pessoa. vol. III, edições de Luiz

Fagundes Duarte, INCM. を主として使用し、適宜、Obras completas de Fernando Pessoa (1958),

vol. I. II. III. IV, Lisboa: Edição Ática; Fausto Traedia Subjectiva fernando pessoa (1988), Texto

Estabelecido por Teresa Sobral Cunha, Prefácio por Eduardo Lourenço, Lisboa: Editorial Presença;

PESSOA, Fernando (1952), Primeiro Fausto, org. Eduardo Freitas de Costa, Lisboa: Ática;

PESSOA, Fernando (1988), Fausto Tragédia Subjectiva (fragmentos), texto estabelecido por Teresa

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Sobral Cunha, Lisboa: Editorial Presença; Fernando Pessoa A Little Larger Than the Entire

Universe Selected Poems (2006), Edited and Translated by Richard Zenith, London: Penguin Books

を参照した。

散文や書簡等に関してはÁlvaro de Campos – Livro de Versos edição crítica (1997), 3ª edição,

introdução, transcrição, organização e notas de Teresa Lita Lopes, Lisboa, Editorial Estampa; Cartas

a Armando Côrtes-Rodrigues (1985), introdução de Joel Serão, Lisboa: Livros Horizontes; Cartas

de Mário de Sá-Carneiro a Fernando Pessoa (2001), edição Manuela Parreira da Silva, Assírio

Alvim; Citações e Pensamentos de Fernando Pessoa (2010), Organizado por Paulo Neves da Silva,

4ª edição, Alfragide: Casa das Letras;Correspondência 1905-1923 (1998), edição de Manuela

Parreira da Silva, Lisboa: Assírio & Alvim; Correspondência 1923-1935 (1999), edição de Manuela

Parreira da Silva, Lisboa: Assírio & Alvim; Crítica – Ensaios, Artigos e Entrevistas (1999), ed.

Fernando Cabral Martins, Assírio & Alvim; Escritos sobre Génio e Loucura (2007), 2 vol., ed.

Jerónimo Pizarro, Lisboa: INCM; Fernando Pessoa e o Ideal Neo-pagão (1996), recolha e

transcrição de Luís Filipe B. Teixeira, Fundação Calouste Gulbenkian; Notas para Recordação do

meu mestre Caeiro (1997), textos fixados, organizados e apresentados por Teresa Rita Lopes, Lisboa:

Editorial Estampa; Obras completas de Fernando Pessoa (1958), vol. I. II. III. IV, Lisboa: Edição

Ática; Obras de António Mora, Edição Crítica de Fernando Pessoa. vol. VI, edições e estudo de Luís

Filipe B. Teixeira, INCM; Obras de Fernando Pessoa (1986), introduções e notas de António

Quadros e Dalila Perreira da Costa, Vol. I. II. III, Porto: Lello & Irmão Editores; Fernando Pessoa

Obras em prosa (2005), Organização, Introdução e Notas de Cleonice Berardinelli, Rio de Janeiro:

Editora Nova Aguiar, Obra Essencial de Fernando Pessoa 5, Prosa Íntima e de Autoconhecimento

(2007), edição Richard Zenith, traduções Manuela Rocha, Lisboa: Assírio & Alvim; Páginas de

Estética e de Teoria e Crítica Literárias (1966), ed. Georg Rudolf Lind e Jacinto do Prado Coelho,

Lisboa: Ática; Páginas Íntimas e de Auto-Interpretação (1966), textos estabelecidos e prefaciados

por Georg Rudolf Lind e Jacinta do Prado Coelho, Lisboa: Edições-Ática; Pessoa Ínédito (1993),

colaboração Teresa Rita Lopes, Lisboa: Livros Horizontes; Ricardo Reis Prosa in Obras de

Fernando Pessoa (2003), edição Manuela Parreira da Silva, Lisboa: Assírio & Alvim; Textos

Filosóficos (1968), Lisboa: Ática.を主に使用した。

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〈凡例〉

1. 本文中で引用された欧文文献の大文字は一重鉤括弧「」で示し、イタリック体で書か

れた語句は訳語もイタリック体で示し、二重山括弧《》のあてられた語句は訳語にも

これをあてはめ、太字であらわされた語句は訳語も太字表記で示した。

2. 著書名、新聞・雑誌名は二重鉤括弧『』で示し、題目は日本語訳が必要であると本論

著者が判断した場合は訳出し、そのほかは原文の発音に即してカタカナで表記した。

3. 本文中の小括弧()は本論著者による補足、亀甲括弧〔〕は原文内に付された作者に

よる補足を示し、「」は引用語句の大文字を示す以外に、引用、もしくは論文、作品の

章等の題目、本論著者による強調を示し、(…)は本論著者による中略、〔…〕は原文

著者による中略を示し、一重山括弧〈〉は文学運動、概念、団体等の名称を示した。

ただし同じ名称が頻繁にもちいられる場合、本論著者が必要と判断しない限りは、原

則として二度目からは名称だけを示した。

4. 本論著者が必要と判断した場合、本文中にあらわれる作家や詩人などの固有名詞の日

本語表記に加えて原名等を併記した。

5. 複数回言及される人名や文献等の固有名詞については、初出の際に原題を付し引用す

るが、誤解が予想されない限り、二回目以降の書名を略記することがある(たとえば、

「社会学的に考察されるあたらしいポルトガルのポエジー A nova Poesia Portuguesa

sociologicamente considerada」を「社会学的考察」と略記するように)。ただし、書名を

明瞭にしたほうがよいと本論稿著者が判断した場合、既出された書名であっても略字

をもちいないで記すこととした。

6. 註については、当該個所に番号を付し、脚注にて適宜注記や著者名や作品名などを表

記した。なお、脚注に表記されるのは作品名あるいは論文名もしくは著者名と頁数の

みの簡単な表記にとどめ、巻末の参考文献のなかで詳記することにした。また頻出す

る著作は下記にある略記号をもちい、原書の頁数を表記することにとどめた。

7. 原文の訳出、就く、詩の訳出にあたっては先学先人の訳を参照する機会もあったが、

本論では文体や訳語の整合性に鑑みて、本論著者が訳出することを原則とした。また

訳出された詩には必要に応じて原文を付記しておいた。それは訳出した詩の多くが未

訳である事由による。

8. タームの一貫性という観点から、原則的にペソーアの引用の訳語にあらわれる「実在

性」や「実在」という語は原文に書かれた〈realidade〉や〈real〉という語に対応し、

「現存」、「現に在る」、「現実に存在する」といった訳語は〈existência〉や〈existir〉の

語に対応し、「在る」や「存在する」という語は〈ser〉という語に対応する。この原則

から外れて上記の語が訳される場合はその都度対応する語を原文のまま表記すること

にした。また、必要があると判断した場合は訳語だけでなく原文の語句も併記した。

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本論で使用される略記号:

ACLV: Álvaro de Campos - Livro de Versos

AOAFP: As Origens dos Apelidos das Famílias Portuguesas

BHLP: Breve História da Literatura Portuguesa

Ca: Correspondência 1905-1922

Cb: Correspondência 1923-1935

CACR: Cartas a Armando Côrtes-Rodrigues

CMSCFP: Cartas de Mário de Sá-Carneiro a Fernando Pessoa

DFP: Dicionário de Fernando Pessoa e do Modernismo Português

EFP: Estudos sobre Fernando Pessoa

EGL: Escritos sobre Génio e Loucura

FPIN: Fernando Pessoa e o Ideal neopagão

FS: Filosofia da Saudade

NRMC: Notas para Recordação do meu mestre Caeiro

OAM: Obras de António Mora

OEFP: Obra Essencial de Fernando Pessoa 5, Prosa Íntima e de Autoconhecimento

OFP a: Obras de Fernando Pessoa vol. I

OFP b: Obras de Fernando Pessoa vol. II

OFP c: Obras de Fernando Pessoa vol. III

OP: Fernando Pessoa Obras em Prosa

OPoética: Fernando Pessoa Obra Poética

PETCL: Páginas de Estética e de Teoria e Crítica Literárias

PI: Pessoa Inédito

PIA: Páginas Íntimas e de Auto-Interpretação

PRR: Poemas de Ricardo Reis

RRP: Ricardo Reis Prosa

SOI: Sensacionismos e Outros Ismos

TF: Textos Filosóficos

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