GPS...GPS衛星からは,衛星に搭載されている正確な原子時計...

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1.はじめに 最近,携帯電話で見知らぬ土地で自分の位置情報を得る ことができるようになった.これは携帯電話の高機能化に より GPS(Global Positioning System)機能がつい たおかげである.ほかに GPS を利用した身近な製品とし ては,カーナビや船舶の測量機器が挙げられる.この GPS とは,元は冷戦時にアメリカ合衆国で軍事用に開発 された衛星測位システムであり,現在は民生用に一部開放 されて広く一般に利用されている.今回は,この身近なも のとなった GPS を紹介する. 2.GPS の原理 GPS とは,上空約 20 000km に約 30 基ある GPS 衛星(正式名称 NAVSTAR)とその衛星から情報を地上 で受け取り,位置を測定する受信局から構成される(図1). GPS 衛星からは,衛星に搭載されている正確な原子時計 からの時刻と衛星の軌道情報が発信されている.これを地 上で受け取り,受信した時間と衛星から電波が出た時間の 差を求め,光速(300 000km/s)をかけることにより 衛星との距離を求めることができる.3 個の衛星からの距 離がわかれば三次元空間での位置が二つに決まる.一つは 明らかに地球上にないので,現在の位置が特定できる,と いう仕組みだ(図2).しかし,受信する側の時計は一般 に用いられている時計なので GPS で用いるには精度が十 分ではない(1 秒ずれたら 300 000km も誤差が出てし まう).この時間のずれを補正するためにもう1個別の GPS 衛星からの情報が必要になる.すなわち,GPS で 位置を計測するためには,最低4 個の衛星が必要になる. このため,実際には約 30 箇の GPS 衛星が地球上空にあ り,地上ではどこでも障害物がなければ常時 6 箇以上の 衛星から情報を受信できるようになっている.当然,4 箇 より多くの衛星から情報を得ることができれば位置情報の 精度は向上する. また,説明した一つの受信側のみで測定する単独測位で はなく,位置の決まっている他の地上局からの情報を利用 して精度を向上させる測位方法として,DGPS(Differen- tial GPS)やRTK-GPS(Real Time Kinematic GPS) などがあり,実際に精確な位置情報が必要な測量分野で用 いられている.単独測位では誤差は 10m 程度になるが, RTK-GPS といった最も精度が出るものだと約 2cm まで 誤差が小さくなる. 3.GPS の将来 現在,紹介したアメリカの GPS 以外にも,世界では EU(Europe Union:ヨーロッパ連合)の Galileo(ガ リレオ),ロシアの GLONASS,日本では準天頂衛星シ ス テ ム(Quasi-Zenith Satellite System, QZSS) な どが計画されている.とくに,日本の準天頂衛星システム は,日本独自の準天頂衛星(赤道上の静止衛星軌道ではな く,高緯度上空の軌道を飛ぶ衛星)と GPS と Galileo と いったほかの衛星測位システムの衛星も同時に利用するも ので,GPS の弱点である障害物の多い山間部や高層ビル 群の中でも正確な位置が測定できるようなシステムを目指 して開発が進められている. 〈文責 メカライフ編修委員〉 図 1 GPS 衛星 図 2 三次元測位のイメージ GPS 522 日本機械学会誌 2008. 6 Vol. 111 No. 1075 ─ 58 ─

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1.はじめに 最近,携帯電話で見知らぬ土地で自分の位置情報を得ることができるようになった.これは携帯電話の高機能化により GPS(Global Positioning System)機能がついたおかげである.ほかに GPS を利用した身近な製品としては,カーナビや船舶の測量機器が挙げられる.このGPS とは,元は冷戦時にアメリカ合衆国で軍事用に開発された衛星測位システムであり,現在は民生用に一部開放されて広く一般に利用されている.今回は,この身近なものとなった GPS を紹介する.

2.GPSの原理 GPS とは,上空約 20 000km に約 30 基ある GPS衛星(正式名称 NAVSTAR)とその衛星から情報を地上で受け取り,位置を測定する受信局から構成される(図1).GPS 衛星からは,衛星に搭載されている正確な原子時計からの時刻と衛星の軌道情報が発信されている.これを地上で受け取り,受信した時間と衛星から電波が出た時間の差を求め,光速(300 000km/s)をかけることにより衛星との距離を求めることができる.3 個の衛星からの距離がわかれば三次元空間での位置が二つに決まる.一つは明らかに地球上にないので,現在の位置が特定できる,という仕組みだ(図2).しかし,受信する側の時計は一般に用いられている時計なので GPS で用いるには精度が十分ではない(1 秒ずれたら 300 000km も誤差が出てしまう).この時間のずれを補正するためにもう 1 個別のGPS 衛星からの情報が必要になる.すなわち,GPS で位置を計測するためには,最低 4 個の衛星が必要になる.このため,実際には約 30 箇の GPS 衛星が地球上空にあり,地上ではどこでも障害物がなければ常時 6 箇以上の衛星から情報を受信できるようになっている.当然,4 箇より多くの衛星から情報を得ることができれば位置情報の精度は向上する. また,説明した一つの受信側のみで測定する単独測位ではなく,位置の決まっている他の地上局からの情報を利用して精度を向上させる測位方法として,DGPS(Differen-tial GPS)や RTK-GPS(Real Time Kinematic GPS)などがあり,実際に精確な位置情報が必要な測量分野で用いられている.単独測位では誤差は 10m 程度になるが,RTK-GPS といった最も精度が出るものだと約 2cm まで誤差が小さくなる.

3.GPSの将来 現在,紹介したアメリカの GPS 以外にも,世界ではEU(Europe Union:ヨーロッパ連合)の Galileo(ガリレオ),ロシアの GLONASS,日本では準天頂衛星システム(Quasi-Zenith Satellite System, QZSS)などが計画されている.とくに,日本の準天頂衛星システムは,日本独自の準天頂衛星(赤道上の静止衛星軌道ではなく,高緯度上空の軌道を飛ぶ衛星)と GPS と Galileo といったほかの衛星測位システムの衛星も同時に利用するもので,GPS の弱点である障害物の多い山間部や高層ビル群の中でも正確な位置が測定できるようなシステムを目指して開発が進められている.

〈文責 メカライフ編修委員〉

図 1 GPS 衛星

図 2 三次元測位のイメージ

GPS編

522 日本機械学会誌 2008. 6 Vol. 111 No.1075

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