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Page 1: バルセ圓ナの計画住宅市街地における維持更新の手 …研究No.0806 バルセ圓ナの計画住宅市街地における維持更新の手法と実態 主査阿部大輔*i

研究No.0806

バルセ圓ナの計画住宅市街地における維持更新の手法と実態

主査阿部大輔*i

委員熊谷亮平*2

本研究は,バルセロナの計画住宅市街地を対象に,その形成過程を跡づけ,市街地の維持更新の手法ならびに実態を把握することを

目的とする。その結果,①低密度の市街地を計画した土木技師セルダの構想はほとんど実現されず,様々な建築条例の変遷の結果,約

4倍の高密度市街地が形成されたこと,②現在の計画住宅市街地の保全手法はプランにおけるゾーニングならびに地区全体を対象とす

る修復条例であり,住宅の修復に加えて街区内側の空間を公的なパティオ(中庭)として再整備することが重要な戦略となっているこ

と,③街区における所有者の数や前面道路とのアクセスの関係陛により様々な形態・使われ方があること,が判明した。

キーワード 1)バルセロナ,2)計画住宅市街地,3)拡張地区,

6)パティオ,7)開発公社

4)セルダ5)修復,

PLANNINGINSTRUMENTSINURBANRREHABILITATIONATTHEEIXAMPLEOFBARCELONA

Ch.DaisUl(eAbe

Mem.RyoheiKumagai

Thisstudydemonstratestheplanningtechniquesf()rurbanrehabilitationand駕novationusedintheEixampleofBar㏄10naTheoveralloonclusionsofthissurveyarethat1)dlevolumeofthepla㎜edhousingblockshaveincreasedfburtimessin㏄theoriginalplanningoon㏄ptofI.Cerda,2)basedontheBuildingOrdinanceforRehabilitation,themostimpOrtantregenerationstrategyisdefinedbytherecoveryofthepatiowithintheplannedhousingb1㏄k,and3)thediveisityofpatiosdependsonthenumebroflandosvnersandaocessfrompublicroads.

1.研究の枠組み

LI.研究の背景と目的

本研究は,スペイン第二の都市バルセロナの都心部に

広がる「拡張地区」泊)と呼ばれる計画住宅市街地に着

目し,①囲い込み型街区の広がる拡張地区建設のプロセ

スを明らかにすること,②既成市街地としての「拡張地

区」が抱える都市整備上の問題点を特定し,集合住宅や

中庭で構成される街区の修復保全の実態を明らかにする

こと,を目的とする。特に,既存建造物の修復・パティ

オ(中庭)の再整備・施設整備を主目的に1996年に設

立された拡張地区開発公社(PROEIXAMPLE)の活動に

着目し,その実践的な取り組みを明らかにする。また,

街区の維持更新の際に,所有者の利益をどのように担保

しっっ再整備を行っているのか,あるいは関連する住民

の合意をどのようにして形成していったのかといった点

についても考察したい。

バルセロナの拡張地区に建設された街区の多くは当初

の計画理念とは異なり建て詰まりが進行し,現在でも居

住環壕に恵まれない住戸が存在する。しかし廃屋がほと

んどなく,大規模な再開発によるオープン・スペースの

創出や住宅街区の新たな建設は原則的に望めない。そう

した市街地においては,建造物の全面的な建て替えによ

らない,住み続けながら住環境を改善する方法がとられ

てきた。この点において,歴史的・社会的背景や計画思

想は大きく異なるものの,わが国における一般既成市街

地の環境改善が学ぶ点が多いと考えられる。

1.2.既往研究との関係

バルセロナの都市計画に関する邦語の基礎文献として

は末尾に記した文献1),2)等が挙げられるが瀧),本研

究が主眼を置く拡張地区の再整備手法やその実態に言及

している研究は数少ない。本研究と近い視座を有する研

究として,本研究が着目するパティオの再整備にっいて

紹介した文献3),拡張地区の中庭型街区の形態的特徴

を調査した文献4),セルダ計画と現代の都市空間の関

係性を論じた文献5)があるが,いずれも手法の詳細や

U東京大学大学院工学系研究科都市持続再生研究センター

つ首都大学東京都市環境科学研究科・助教

特任助教(当時政策研究大学院大学政策研究科研究助手)

一119一住宅総合研究財団研究論文集恥36.2009年版

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実態にまでは踏み込んでおらず,その内実は依然として

不明のままである。

スペイン国内では,建築条例を切り口に拡張地区の形

成過程を詳細に論じた文献6),拡張地区の建設に大き

な役割を果たした拡張事業会社の活動に詳しい文献7),

セルダの計画理論に関する現地の都市史の専門家たちの

論集である文献8),9)10)といった代表的な論文を筆頭に,

現在まで研究蓄積はかなりの数に上る。しかしそのほと

んどはセルダの計画原論に関するもので,拡張地区の現

代的問題ならびにその都市計画的対応を扱った研究は現

地においても不在である裡)。

灘鰯菱_霧雄張駆㈲・蟹、 紺姫が倉フ蝋賜

講欝繋鱗寒一鶯露ビア

勃タルー熟鵡。'

図2・1拡張地区と6つの界隈(筆者作成)

L3研究の構成・方法

本研究では既往の研究蓄積を踏まえつつ,それらを批

判的に再検討しながら,以下の手順で論を進めていく。

まず,現在の拡張地区の基礎情報を整理する(2章)。

次に,19世紀後半から開始された拡張地区の建設プロ

セスを明らかにし,拡張地区の再生が求められるに至っ

た状況を特定する(3章)。続いて,現在の拡張地区に

おける街区の維持更新手法を明らかにする(4章)。こ

こでは現行のプランである「拡張地区修復改善プラン」

の内容とともに「修復改善条例」の内容が分析される。

さらに,開発公社の実践的な取り組みに着目し,拡張地

区の維持更新の方法論について論じる(5章)。最後に

6章でまとめとして本研究で得た新たな知見を述べる。

研究の方法は,本稿末に挙げた関連文献の解読ならび

に現地調査,専門機関へのインタビューである。現地で

は開発公社のCarlesBlascoiBayot局長,CarmenMarzoi

Carplo氏(建築・計画部局ディレクター)にインタビューを行い,再整備のプロセスないし規制に備わる内在的

特徴の把握に努めた。

2バルセロナ拡張地区の基礎的情報ならびに現況

現在の拡張地区の面積は約7.5km2,人口は約266万

人である(2008年現在)tL4)。地区面積は市の7%強に

過ぎないが地区人口は全人口の165%を占め,市内で最

も高密度な居住地区となっている(旧市街は約2.6万人

/km2,拡張地区は約3.6万人/km2,市の平均は約1.6万

人/km2)。この行政区分内にさらに「界隈barri」と呼ば

れる小地区が設定され,拡張地区の場合,図2・1に示

す6っの界隈で構成されている。

地区内の住戸タイブを見てみると,60~120m2の規模

の住戸が80%近くを占め,市内の他地区と比べ住戸規

模の大きな地区となっている。

拡張地区の造成が開始されたのは,次章で見るように

19世紀後半からであり,19世紀中に建築されたものが

現在の約165%を占めている。最も高い比率を占めるの

は1961~80年の期間に建設されたものであり。全体の

約35%を占める。この時期に続くのが20世紀の開始か

らスペイン内戦の終結(1939年)までの時期のもので,

約29%を占める。すなわち,築70~110年の建造物群

と築30~50年の建造物が地区の約2/3を占めている

また,街路を除いた公共空間が圧倒的に不足している

ことも拡張地区の特徴である。バルセロナ市は都市公園

として約557ヘクタールを整備しているが,そのうち拡

張地区内に立地するのは4公園のみであり,その総面積

は行政区中最も少ないlllha(全体の約2%)に留まっ

ている。住民一人あたりの緑地面積は,市の平均が

67m2であるのに対し,拡張地区のそれは依然として

Lgm2に過ぎないのである。

3.拡張地区の建設プロセスと再生政策の文脈

3Lセルダ計画における住宅街区の設計

バルセロナの拡張地区の原型となったのは,土木技師

セルダが1859年に作成した『バルセロナの改善および

拡張計画』である。このプランは,前年の1858年に市

が主催したバルセロナ整備拡張計画の公開設計競技に際

して提出されている'15)。

セルダは,狭く雑然とした旧市街の外側に広がる平野

に1133m四方のグリッドを敷き詰めた。新たな市街地

を構成する道路は幅員20mを基本に設計され,道路網

の骨格として幅員50~60mの三本の大通りが構想され

た。セルダの目的は適切な地価の敷地を可能な限り増や

すことであり,資本主義的性格を意図的に回避するため

に均等かつ反階層的なグリッドを徹底的に反復させてい

る(図3・1)。また,交通の流れをよりスムーズにす

るために,道路の交差部には隅切りが施された。

最適な採光・通気を確保するため,原則的に建設は街

区の二側面にのみ認められ,建物高さは4階建て16m

に抑えられた。セルダは仏人衛生学者MichelL6vyの著

作『公共衛生と個人衛生』(1845年出版)をベースに,

適切な人口密度として250人/haを想定した。

セルダは自身の理論を全四巻の大著『都市計画の一般

理論』(1867年)としてまとめあげている。セルダは、

一120一住宅総合研究財団研究論文集Nb362009年版

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難雛購

灘灘雛難警蕪

雛灘欝

醗灘叢

麟難騒鰯・騨.川

 翻、磯鐸 騨嘘図

咳ご

田川仏

『われわれは,道路網の決定的な要素として「街路」(vfas)

をその幅員と面積とともに想定し,その街路によって囲まれた

「街区」(lntervias)を特別な要素として考える』dlb)ことを

新時代の都市設計原理として位置づけた。セルダは街区

の概念に原義的には「通りの狭間」を意味する〃π8ハ面∫

と名付けたことか

ら分かるように,

街路と街区は都市

の発展を支える相

互に不可分の存在

として理解されて

いたのである(図

3・2)。

セルダは街区の

中にも不可分の存

在を見いだす。そ

れがマッス空間と

鞍鰭讐撃㌣8瓢砺凶粥愈、◎・弐三鮒、・麹藷ゼ

1:滋瀬鑛/銀塾磁卦響塗蒙瀞欝轟ガ編」。翼図3・2街路と街区,庭園

出典=文献8)pl71

しての住宅建築とボイド空間としての庭園であった

『街区の存在は,通りや採光のためのパティオのような,それ

を補完する空間との共存なくしてはありえない』IL7)。区画

の中に建築物と庭園を配置する形は時期によってまちま

ちであるが,街区の構械要素がこの二つであるというセ

ルダの確信は一貫していた。セルダはこの考え方を「都

市的なもの(建築物)を農村化し,農村的なもの(庭

園)を都市化せよ」と表現したns.)。

1859年にセルダが示した街区の構成によると,土地

の配分は「建設用地」が28%,「街路」が30%,「庭

園」が42%となっているt[c),。

32セルダ計画に基づく市街地形成の変遷

上記のような原則で計画されたセルダ案は,その後ど

のようなブロセスで建設されていくのだろうか。

セルダは各街区における住宅密度や居住者層の構成に

ついて,自身のプランの厳密な実行を想定していた。ま

た,住宅街区に接する内側(街路の反対側)の庭園が共

同社会の空間として用いられるよう建築条例を制定した。

セルダの意図にも関わらず,拡張地区は次第に過密化し

ていくのだが,その大きな要因が建築条例を改変するこ

とによって発生した度重なる街区における増築(場合に

よっては違法建築)である。ここでは,街区形成の変遷

を時代ごとの建築条例・規制に着目して記述する泪゜)。

1)第1期.区画条例(1860~90年)

セルダは,事業開始後に原則二側面への建設規制を緩

和し,多くの敷地で住宅建造物が「コ」の字型を形成す

ることを認めた。この段階でもセルダは庭園空間の実現

に重要性を布置しており,どの建造物からも庭園にアク

セスが可能となるように建造物内側の形態を変更してい

る。セルダ自身が起草した建築条例は市議会によって廃

案となり,その後いくつかの修正案が提出されたが,各

区画につき認められる建設は区画の奥行きの50%まで,

残りの空地は庭園とし,高さは16~20mまでというの

がおおよその規制内容であった。

2)第2期・住宅街区条例(1891~1941年)

1891年の条例では,建べい率は73.6%,建物高さは6

階建て22m(地上階部の上階にentresueloと呼ばれる中

二階0)建設が認められた),建設可能な奥行きは28m

にまで緩和された。庭園空間にも設備や高さ44m,

1932年の修正条例では55mを上限とする建築物が認め

られた。セルダの建築条例はすでに効力を失っており,

敷地の全側面に建造物が建築されていく。セルダが構想

した街路に対して開いた「公園的庭園」は,街区内側の

私的な空間へと変質を余儀なくされたのである。

3)第3期過密期の条例(1942~76年)

建物高さは1942年の条例で2385m,1947年の条例

で244mにまで緩和された。パティオは高さ55mまで

建築が認められた。

条例で認められた建築物の最大高さを実現するために,

古い建造物の上に重ねる形で高さを確保する行為が続出

する。屋根裏階,そしてさらにその上の屋根裏階や追加

的に建設された部屋等は形態的にきわめて無秩序であり,

これが新たな拡張地区のスカイラインとなった。前章で

触れたように,現在の拡張地区の建造物の1/3以上は

1960~80年にかけて建設されており,そのスカイライ

ンを決定づけたのがこの時期の条例だったと考えられる。

建築線は基本的に維持されながらも,垂直方向あるい

は中庭方向への無秩序な増築が進んだ背景としては,あ

るいは規制の緩い条例が定められた背景としては,「拡

大成長主義」(desarro〃1∫1110)とigr)楡された当時の市の

都市政策の存在が大きかった。

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当初,セルダは一街区の建築容積を67,200m3と考え

ていたが,実際は度重なる増築により1970年代半ばに

はその4.4倍となる294,771m3にまで建設された1芋11)。

人口密度も計画が想定した250人/haを大幅に上回り,

1000人/haに達する街区が出現するほどであった。建

築条例は容積の増大をコントロールするどころか,現状

追認型の規制内容を示すのみに留まったのである。

4)第4期:民主化後の条例(1976年~)

フランコ将軍が1975年に死去し,独裁政権に終止符

が打たれるのに並行する形で,翌年の1976年にバルセ

ロナ市とその周辺の27市町村を対象とするバルセロナ

大都市圏総合プラン(PlanGeneralMetropolitano,以降

PGMと略記)が策定された。PGMはわが国のマスター

プランに相当し,現在でも有効な法定都市計画である。

PGMに付随する条例では,拡張地区の建築容積を緩

やかに削減し,高さは20.75m,パティオに面する建築

物の高さは4.5mまでに制限し,屋上階への建築を禁じ

た。これは一種のダウンゾーニング的措置である。本稿

2.2で見たように,現在の建築ストックのうち1961~80

年に建造されたものが最も大きい比率を占めるという事

実は,拡張地区の建設が完了する時期が,最も建築密度

の高い,言い換えれば開発圧力に対応した条例のもと開

発が進行した時期と重なることを示している。

3.3.バルセロナの都市再生と拡張地区の再整備

1)民主化直後の都市戦略における拡張地区の位置

先述したPGMは,過密のため悪化した住環境の改善

と当時圧倒的に不足していた公共空間を漸進的に創出す

るための有効なツールとなり,その後の都市再生を実現

するための法的基盤となった注12)。1979年には建築家

オリオル・ボイガス(OriolBohigas)が市の都市計画局

長の座に就き,地区再生へ向けた取り組みが始動する。

拡張地区は,旧市街やグラシアといった地区とともに

初期の重要な整備対象地区として位置づけられていたが,

具体的かつ大規模な再開発が想定されたわけではない。

市が構想した当時の戦略的な再生事業は合計50に上っ

たが,地区内に立地していたのは古い倉庫群が立地して

いた敷地を公園に転換する事業(現在のミロ公園)のみ

であった。ボイガスは自らの再生戦略を「中心市街地の

衛生環境を改善し,郊外をモニュメント化する」tl'1:s)

と名付けたことからも分かるように,民主化直後の優先

順位は旧市街と郊外の市街地に置かれた。

2)1980~90年代の拡張地区における都市問題

とはいえ,拡張地区に問題がなかったわけではない。

第一に,市街地の過密の問題である。センサスが実施

された1981年当時の人口は現在よりも約10万人近く多

い35万4165人であった。一街区あたりの住戸数は

1970年の205戸から1980年には251戸へと増加してい

るIF-14)。当時,人口が増加傾向にあったことを考慮し

ても,過密な居住環境は明らかであった。

第二に,建造物の老朽化ならびに用途の問題である。

セルダ計画の最初期に建設されたグラシア通り周辺の都

心部だけでなく,住宅街区の老朽化が全般的に進行して

いた。また,都心部で急速に進展していた第三次産業化

は,地区の居住機能を急速に消失させるものであった。

第三は交通の問題である。一日の平均自動車量は6万

台に上った。1990年代には居住以外の用途の増加に伴

い地区交通も増加の一途を辿った。特に都心部でその傾

向は顕著だった。すでに拡張地区はバルセロナ大都市圏

の全体交通量の約23%が通過する経路となっていた。

地区街路には通過交通の問題が,主要幹線道路には過度

な交通の集中の問題が,それぞれ浮上したのである。

駐車場については,1970年代から1990年代にかけて,

地区内の公共駐車場の台数は2万台から5万台へと大幅

に増加し,地区内のおよそ半数の街区が公的な駐車場を

備えるまでになったが,駐車場不足は慢性的であり,解

決すべき問題として理解されていた。

第四は,施設の問題である。拡張地区は居住機能・聖

教機能は高いが,地区レベルの施設やオープン・スペー

スに欠けていた。街区の区画は計画的に分割され,その

後住宅地化したため,現代的な施設を整備するための用

地が不足していたのである

4.住宅街区の維持更新手法

4.1.一般的なゾーニングによる規定

上記の諸問題を受け,大規模な事業こそないものの,

高密度市街地の低減と公共空間の創出というPGMの掲

げた戦略の二本柱に沿いながら,拡張地区の整備が着手

されていく。この点は,PGMが定めたゾーニング規制

からも読み取ることができる。拡張地区の場合,急激な

人口増加に対処して計画的に市街化され,居住用途が優

勢なエリアに対応する「高密度市街地」(densificaci6n

urbana;コード番号13aおよび13b)が指定されたが,

このゾーニングでは,過密を緩和し施設・サービス・緑

表4・1拡張地区におけるゾーニングの主な規制内容

13al3b

容積率220%180%

戸数密度上限350戸/ha250戸/ha 標準戸数密度220戸/haI75戸/ha 道路率28.80%2.50%

空地率25.70%17.50%

建物高さ8.55~23.8m7,55~16.7m

階数2~7階2~5F皆 前面道路の幅員により規定される,Baの場合8~30m以上,13bの場合8~15m以上

(出典1都市計画規範NUM(文献17)より筆者作成)

一122一 住宅総合研究財団研究論文集No.36,2009年版

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地の質を改善することが目的となっているのである(都

市計画規範第321条)。なお,PGMが定めるゾーニン

グの種類はわが国のそれとは大きく異なる。バルセロナ

では,用途に基づいてゾーニングを施すのではなく,既

存の市街地の都市形態を基準にゾーニングされている。

主な規制内容を表4・1に整理する。

4.2,修復改善プラン

1980年代中頃から市は急速な地区の第三次産業化と

住民の高齢化に歯止めをかけるべく,拡張地区の再生に

取りかかった。居住用途の促進ならびに地区コミュニテ

ィの活性化を狙った再生事業は,1986年に拡張地区修

復改善条例という形で制度化された。

1986年は拡張地区にとって重要な年であった。この

年にオリンピックの開催が決定し,1992年の実施へ向

けて様々なインフラ整備が進行していくのであるが,拡

張地区も市を代表する地区として,老朽化が進んでいた

歴史的建造物の修復に政策的な重きが置かれていく。フ

ァサードの改修を目的とするキャンペーン「バルセロナ

さん,おめかししよう」("Barcelona,posa'tguapa")が

同年の1986年に開始されたことは,そうした姿勢を端

的に伝えている。修復を中心とする一連の取り組みを受

けて,市は以下を目的とする「拡張地区再生プラン」を

作成した。

・居住環境の改善。構造補強やサービス機能の改善,

アクセシビリティの改善を踏まえた修復を促進する。

。パティオの再整備の促進。地区の居住機能を優先す

るため,公的用途の空間整備を目的とする。

。各種施設の整備(教育・スポーツ・文化・遊園施設

等)。居住機能を担保し,地区住民へのサービスや

福祉機能を強化することを目的とする。

・市全体から見た地区内の交通網・歩行者動線を勘案

した街路の再整備。モビリ`ティを改善することによ

り,経済的魅力を高める。

・生活の質の向上。歩行者優先空間や緑地,照明設備

の整備,騒音問題の解決,地区内の自動車数の削減,

地区内外へのアクセスの改善

・地区経済の活性化

である。パティオは私的な庭園としてではなく,公園と

して利用されることが前提となる(第11条)。街区の

内側に建て詰まっていた施設や住戸はパティオ整備のた

めに撤去されることになる。建造物の建て替えはいずれ

不可避的に発生するのであるから,それに併せてパティ

オも漸次整備させていく,という方法である。

この目的のために,2002年に拡張地区におけるPGM

の規定内容に修正が加えられた。すなわち,従来の「高

密度市街地」(13)ならびに「緑地」(6)に代わる新

たなゾーニングコードとして13Eならびに6Eを導入し

たのである。13Eとは,街区内側の中央における建築物

ならびにプライベートな庭を整備するのに適した空間で

あり,6Eとは街区内側にパティオを整備し,地下は私

有化することが認められる不動産を指す。

PGM修正以前の街区内側の多くは,コード番号17/6

あるいは17/7で示される「用途の改変」が指定されて

おり,これはいわばより具体的なゾーニングが決定する

までの暫定的な用途指定であった。こうした空間におい

て,街区中央の空間を開放するべき対象として,13Eと

6Eが順次指定され,現在地区内すべての街区が13Eの

指定を受けている。

パティオを再整備するために,街区中央の空地を「建

設可能な奥行きの1.5倍より内側に位置する土地」(第

9条1項)と定義している。そして,建設可能な奥行き

が20mあるいはそれ以上であり,かつパッサージュを

有さない場合,街区内側の空地への建設は認められず,

民間所有の庭園空間にしなければならない。

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6階(PB+5)洩

.聾盤痙塾

4.3.修復改善条例ならびにPGMの修正

拡張地区における再生政策の先鞭は,先述した修復改

善条例(1986年)である。その後1994年,2002年に部

分的な修正を受け,現在に至っている。全28条で構成

されるこの修復改善条例の特徴は以下の三点にあった。

1)パティオの再整備

第一に,街区を構成する既存建造物の建て替えもしく

は大幅な改変の際に,パティオの再整備を義務づけた点

'二:\、↑

\…;……・蓬〔oΦ帽

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図4・213Eならびに6Eの街区モデル

(出典:PROEIXAMPLB提供に筆者加工)

図4・2に示したのがパティオ再整備を前提とする現

行の街区モデルである。平均的な建物の奥行きを26m

とすると,地上階は奥行きの最大15倍までは建設可能

であるため(第8条),街路側から39mだけ内側に入

った地点が新たに整備されるパティオの輪郭となる。そ

一123一 住宅総合研究財団研究論文集恥36.2009年版

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してパティオに面することになる街区内側の地上階の高

さは4.5mを上限とする。一般的な街区の一辺は113.m

であるので,平均的なパティオ面積は35m×35m=

1,225m2となる。とはいえ,現実には実際の敷地害ljりや

所有権の構造は単純化できないため,次章で見るように

様々な形態ならびに規模のパティオが形成されている。

2)用途の制限

第二の特徴は,街区の上階における商業・オフィス用

途を禁じた点である。伝統的に拡張地区は商業活動の中

心地区であるが,かつてサービス業の集中により地区人

口の減少を招いた時期があった。ビジネス街のように単

一の機能しか持たない地区となることを回避するために,

居住機能を強化するとともに,都市活動の多様性の維持

が図られている。

また,住宅市街地に好ましくないと考えられる様々な

用途に制限を課している。例えば,ゲームセンターやカ

ジノといった娯楽施設が地区内に立地する場合,それぞ

れは最低400mの距離を保たなければならない(第15

条2項)。さらに,コンサート会場を兼ねたバル(居酒

屋)やディスコ,ダンスホールといった騒音を発する施

設,さらにポルノ等の性産業関連店舗が立地できるのは

幅員25m以上の街路に面した街区のみであり,かつそ

れぞれは400m離れている必要がある(第15条3項)。

拡張地区のゾーニングは原則として用途別に規模制限

がないため,このようにそれぞれの店舗間の距離をコン

トロールすることで居住性を担保しているのである。

3)町並みの維持

第19条は建造物の取り壊しに関する規定であるが,

その条文において,拡張地区の都市景観の魅力の多くは

1932年以前の条例に従って建設された建造物の価値に

依っていることを述べている。重要なのはこうした建造

物が単体で存在するのではなく,連なって町並みを形成

していることであり,唯一無二の町並みの保全を推し進

めるために,1932年以前の建造物はたとえこれまで積

極的な保存措置が採られてこなかったとしても保存され

るべきであるとする(第19条1項)。ファサードの維

持ならびに建造物の駆体の状況が回復不可能であると専

門家委員会が判断しない限り,取り壊しは認められない。

5.開発公社の活動から見る計画住宅市街地の維持更新

5.1.公社(PROEIXAMPLE)設立の背景と目的

前章までに明らかにしたように,拡張地区は街区内側

をパティオへと転換することをその主な再生戦略とする。

1995年段階までに,すでに地区内の6街区のパティオ

が再整備されていた。しかし,すでに建て詰まった街区

内側の空間に市が介入することには大きな困難が伴い,

街区の更新は遅々として進まなかった。というのも,当

時の街区内側の地上階は住居あるいは倉庫,駐車場,ス

ーパーマーケット等の店舗部分が建設されてしまってい

る状態が多かったからである(図5・7)。さらに,他

地区と比べて区分所有者の割合が大きいため利害関係者

が多数にわたり,権利調整の難しさも表面化した。

そこで市は,プランの実行部隊として官民共同出資の

開発公社を1996年に設立し,地区再生プランの実施に

取りかかった。開発公社は,①既存街路の整備ならびに

新たな施設の整備,②パティオ整備へ向けた街区内側の

土地の取得,③商業・文化・観光の中心地としての地区

の魅力を引き出し活性化すること,④住宅整備の促進,

を目的とする。2004年に市は行政関係の出資団体と開

発公社を統合したインフラ協会(BIMSA)を新たに創

立し,この組織に対して資金を出資している。現在,市

(BIMSA)が62%の出資,金融機関が23.8%の出資,

建設業界が7.9%の出資となっている。

筆者らの開発公社へのインタビューによると,公社の

活動は,①優i先区域の設定による修復行為の促進(修復

への財政支援・インセンティブ),②パティオの再整備

(を含む空間整備全般),③公社内に設置された修復局

を通じた民間の建造物の修復への技術的支援,④市民へ

の活動の告知・PR,を軸に展開している。これらのう

ち,本稿ではまず①の修復措置の仕組みをレビューし,

住民(所有者)の利益,合意をどのように担保している

のかを整理した上で,②のパティオ再整備に関連する活

動実態を明らかにしたい。なぜなら,地区再生の当初に

作成された修復条例の段階から,パティオの回復は高い

優先順位を付与されており,計画論的にも見るべき点が

多いと考えられるからである。

5.2.活動実態①:既存住戸の修復

開発公社は設立の当初から内部に修復局を設置し,地

区内の建造物や住戸の修復に取り組んできた。1997年3

月には,地区内で相対的に建造物の状態に劣っていたサ

ン・アントニ市場,サグラダ・ファミリア,フォルト・

ピアンクの各界隈を「優先修復区域」に指定し,財政の

優遇措置を施すことで住環境の改善に着手した。

開発公社は様々な企業と協定を締結することで,工事

に関わる技術的・財政的な支援の仕組みを構築し,集合

住宅の所有者のならびに組合が負担する修復コストを引

き下げる政策をとっている。修復事業の補助について,

例えば中央政府とカタルーニャ自治州との協定に基づい

て事業予算費の最大23%まで,4.2で言及したBarcelona,

posa'tgttapaキャンペーンに基づいて市から10%の補助

が可能とする仕組みが確立された。金融機関との協定に

より,低金利での貸し付けも開始された。

開発公社ならびに修復局は所有者や組合の合意形成に

一124一 住宅総合研究財団研究論文eCNo.36.2009年版

Page 7: バルセ圓ナの計画住宅市街地における維持更新の手 …研究No.0806 バルセ圓ナの計画住宅市街地における維持更新の手法と実態 主査阿部大輔*i

直接介入する役割を担っているわけではなく,ましてや

彼らの利益を直接的に担保する措置をとっているのでも

ない。ただし,様々な財政支援プログラムを組み合わせ

ることで低コストでも修復を可能とするメニューを整備

することで,建て替えよりも修復を選ぶインセンティブ

を刺激しており,これがひいては街区を構成する建造物

レベルの保全にまで好影響を与えていることが推定され

るのである。

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図5・1民間による修復への投資額

(単位は百万ユーロ)出典=文献18)

例えば図5・1は民間の修復に対する投資額の変遷を

示している。街路やパティオの整備を含む公共空間整備

事業費が2004年に622万ユーロ,2005年に1701万ユ

ーロ,2006年に1871万ユーロ,2007年に2350万ユー

ロと修復事業費の1/3~1/10であることからも,一般市

街地の維持が修復事業によって実現されていると言えそ

うである。

5.3.活動実態②:パティオ再整備のプロセス

整備対象となる街区は,①街区再整備の困難の度合い,

ならびに②拡張地区内における街区の立地の二点を基礎

として選ばれる。

事業の実現可能性については,①「パティオとして整

備したい街区(BE+6E)に関連する所有権者の人数と

整備面積」,②「街区が面する街路からのアクセス空間

を確保できるか」,③r街区内側の建て込みの程度」,

④r街区内側で展開されている活動の程度」,⑤「地下

の建設状況」の五点を勘案して判断される。

通常,所有権者が少なければ少ないほど,買い取りを

含めた交渉は容易となる。

民間への土地あるいは容積の売却

図5・2パティオ整備のメカニズム

民間の不動産については,前章で見た修復改善条例に

従うものとし,建て替えプロセスに応じてパティオを提

供する方法で進めている。工場や旧施設の跡地などの有

効活用が求められる敷地については,公社が土地の買い

取りを積極的に行い,その土地(あるいは容積率)を整

備のために民間に売却して資金を回収し,パティオの整

備を進めるのが一般的である(図5・2)。

実例を見てみよう。不動産市場に直接介入することに

より公的な土地を確保した好例が,ボレイ通り/ディプ

タシオ通り/ビラドマ通り/コンセイ・デ・セント通り

で囲まれた街区の再編である(図5・4では15番に当た

るパティオ)。以前,この街区には病院が所有する慈善

施設が立地していた。

まず,対象不動産が売りに出されたが,この不動産は

一部が施設のゾーニング(7a),一部が高密度市街地

(13a)に指定されていた。街区内側には百年近い樹齢

の樹木が豊富に存在しており,公共空間として開放する

のに充分な魅力を備えていた。再生事業は以下の四段階

の手続きを経て実施された。

㊦o

土地の取得に関しては,

央部の敷地の市への提供を内容とする協定を区画単位で

の建て替え等の開発を行う事業者と締結することにより,

より効率の良い獲i得を図る。例えば,2004~2007年の

四力年プログラムによる再整備において,土地の買い取

りに約340万ユーロが投じられ,カラブリア通り38-40

番地の旧映画館跡の土地合計2,243.1m2が取得された。

こうして獲得された

灘灘1難麟…繊総継1欝羅纏

開発公社が病院から不動産を取得する。

街区内部の空間をパティオとして整備するためにプ

ランの微調整を行う。その際,公道からパティオへ

のアクセス通路を確保し,必要となる建築物の改変

には条例を適用して対処する。

新たに公園となる空間を所有権上分離し,市へ譲渡

する。

コンペを通じて,新たに建築可能な不動産を売却す

る。これにより開発公社は資金を回収する。

買い取りだけでなく,街区中

に取得していたア

リ・ベイ通り100-

102番の土地を約

400万ユーロで売却

し,資金の回収に努

めている。

欝難簿図5・3パティオの整備単位

(PROEIXAMPLE提供を加工)

一125一住宅総合研究財団研究論文geM.36.2009年版

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次に,街区の位置について,公社の掲げた戦略は,パ

ティオを有する街区を中心として,半径200m以内に位

置する8つの街区の住民が,新たに整備される公共空間

としてのパティオを享受できるようにするというもので

ある(図5・3)。それに続く整備に際しては,この

200m圏から外れる「パティオ空白地域」が優先的に選

定される。半径200m以内に位置する街区については,

内部空間の整備の優先順位は低くなる。

54.再整備されたパティオの類型と分析

2009年7月までに,合計40街区,87,154m2のパティ

オが創出されている(図5・4)。さらにそれぞれのパ

ティオについて,その形態と規模から基本的な空間的特

質を把握し,パティオと公道(アクセス道路)との関係

ならびにパティオ内部の設備の状況からパティオの利用

傾向を把握する。記述する項目は,①名称,②面積,③

行政の命名に着目した空間の類型(庭園や広場など),

④接道数,⑤アクセス空間の形態(通路型か公道直結型

か,屋根を有するか開放型か),⑥パティオの平面形状,

⑦パティオと街区内側の建造物との距離(地上階の建築

物のボリューム),⑧特記すべき特徴,であり,この丸

数字は図5・5,図5・6で示す各項目番号に対応する。

D規模と平面形態

現在までに整備が完了したパティオの傾向を考察しよ

う。まず規模について,4.3で分析したように,13E+6E

の組み合わせによるパティオは,1,225m2を基本的なモ

ジュールとして想定している。規模,形態ともに街区モ

デルに近いのが15番,19番,20番,21番,27番,40

番,構想よりもよりゆったりとしたパティオへと変貌し

たのが5番,23番,32番である。

これらのパティオの形態が比較的整形なのは,関係す

る区画ならびに土地所有者の数が少なかったためである

と考えられる。例えば22番のパティオはもともとの区

画割りの複雑さの影響で,新たに誕生した空間はユニー

クな形態となっている。所有権の関係性が空間に現出し

ている他の例として,9番,26番がある。

面積が3,000m2を超える大規模なパティオは,3番や

17番のように元来の街区の敷地が113m四方の基本モジ

ュールより大きい事例,そして同じく3番や7番,8番

などのように従前の用途が邸宅や工場であり,その後の

土地利用が相対的に容易だった事例が該当する。

2)接道数とアクセス空間の形態

接道数は,1箇所が24事例,2箇所が8事例,3箇所

が6事例,不明が2事例であった。敷地が大きくかっ主

要交通道路に近接する3番や17番,商業施設が立地す

る39番,敷地の半分以上が開放型の公園になっている

7番や8番といったパティオは接道数を3箇所有してい

る。接道数が2箇所のパティオについては,隣り合う二

側面の街区にアクセス通路を有する5番のようなケース

が半分を占めている。接道は1箇所であるがアクセスロ

は2箇所整備されている32番のような例もある。

アクセス空間の形態について,パティオはあくまで中

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K)O図5・4整備が完了したパティオ(2009年7月段階)

街区の番号は図5・5および図5・6中の番号に対応する.

一126一 住宅総合研究財団研究論文集悔36.2009年版

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⑭e

鍵蟹蟹騨薫一瀦灘繊鍵1

i'トーレス・デ・アイグアス、(21)1.517m2、3歴園、④接道数1(ロジェーデ・リ,:i一リア通り)、ts.〉屡根一通路型、⑤正方形(整形〉⑦縷衝型、◎中庭型。かっての水道施設の遺構を保存。足下は児童溺のプーづしとなっており、夏場は入場料が必要。

2、ユ:カサ・エリサル沢鳥495m2、3縫園、雀接道数、(バレンシア通り)、写屋根一通路型、⑤長方形(整形)壌接近型、菖中庭型。アクセス空間の途中には公共施設(行漱)のオフィスあり。中健は段差あり。

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3i♪パラウ・ロペー一」②3,795m2、3麗園、紬接道数3(グラシア通り+コルセガ+ロセジョ)、おグラシア側+ ロセジョ偶:膣根、コルセガ側:公道直紬型、δ長方形(整形)診捜近型、鵠緑豊かな庭園。グラシア通りとディアゴナル通りに近接した一一・等地。アクセス空聞の途中には観光案内所、ホテル、レストランあり

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響靴羅鍵

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㊤セバスティア・ガッシ諏②L889m2、・3庭園;膿道数2(エンデンサretり一f一ロカフォルト通り)、登,いずれも屋根一通路型、お不整形、⑦接近型、⑰中庭型。児塗遊異もあるが、自転奪やスケートボードの乗り合わせも司能自工ンテンサ鰐のアクセス空闘にはパルが隣接

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議撫.

1]セサル・マルティネイ、、2/2.582m2、㊤健園、・4)接道数25

(ピリャロLILル通り+グランビア通り)、5ビリャロエル働:天窒、 グ7ンビアeelj:屋根一i蚤践型、δ正方形(整形}、?.接近型纂中庭型。セルダの計画思想費綻承している構成、グラウンド的な広い空地あり。ビソヤロエル囎の通路には地下駐車場へのアクセス

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(Lカルリツト、'8895m2、ρ耀薗、`膿避数起ロジェ・一・デ・

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フロー・ル通り)、¢天空一通路型、翁長方形(不整形)、:才接近型㊧公園型。学校のグラウンドと高齢者施設が併麗され、人が集まりやすい構成となっている。残りの空地部分のパティオ化が計画中

.1J-eンセラット、1鴛7.590m2、、含,健園、遵.接遭数3(コルセガ+

7

口力フォルト十ロセジョ)、繭公道直繕型、:6長方形(整形)7接近型、鳴公園。三.面閣放型。街区の半分が緑地となっている。街区上部には児童向け図露魏がある。

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8

'〕)インドゥストゥリア、為6、900m2、(窒庭園影接通数2(マリーナ通り+インドゥストゥリア通り)⑤公道直結型、心正方形(整形)、:1接近型矧街区敷地の対部分を爾いた二面開放の公園。公懸に面して建つ街区の地上部にはいくつかの店舗(バル}がある。パラソルによる滞留。

9℃モンセラツト・ロツチ.'Z・2.705m2、3繹園、紺妾道数2(ロセジョ通り+プロベンサ通り)、蓼露根・…通路型 窃不整形、、プ接近型、、ξ;かってのビー一・・ル工業遺産(地元のビ…ル会1±Darnm>)あり。

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ρ10'」.'マヌT・ル・デ・ベドm・、¢885m2、鍵園、創鑓蜘

(ディフタシオ通り)、登天空・・通路型、(登不整形、を)緩衝型⑧土地の譲渡により1997隼に完成。内部までのアクセス通路が長く、こじんまりとしていることもあり人気の少ない静かな空間

11 丸Uクロティルデ・セルダ②3,100m2、ぢ・庭園、㊥接道数1(マリーナ通D)い5公道直結型、⑮不整形、1ヱ犠近型£一薗開放型の公闘。運動可能な空賜が多い。中薩に段差あり。街区側に段差あり。

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12(IW'ントニ・ブッチヴェール、¢4,055m2、翁庭圏牲接道数3(シシリア通り+インドゥストゥリア通り+コルセガ通り)(5)シシリア側:公遊直結型、インドゥストヅノア倶1:屋根、コルセガ側:天空、纂正方形(整形)、⑦接近型、⑮一面開敵の公園。広めの敷地に遊興多い。自転華通行もあり。

Tフ♪fルト・ピ:ンク、¢ノ3,275m2、13」広場、濡接道数213(シシリア通り+リバス運り)、ぢ・いずれも公道直結型 す不整形、⑦接近型、εノ北パスターミナルに隣接する広場的空間。リバス遜り沿いにはカフェ、街区鯛にはスーバーマーケットあり

」)ソフィy・バラット、像580m2、箏纏圏、尊接遮1数1]4 (ジ〔トナ通り)、⑤屋根一通路型、'6長方形(整形)ブ)緩衝型、菖街路からのアクセス道が長い。中腿型。図轡露が併設しており、平日のアクセスは限られている。

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15習謬羅雑礁趨憂翻簾鶏號響数1⑦接近型、:勘公闘鰯生格。かつての慈善施設(高齢者施設)の蹄地。中央に蟹かな植樹。

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、瀦ダ懲誤1趣、・,..戸・噛,,、..識

難噸憂

藪暴…

!〕)トレス・トゥムス、診'1,700m2、翁庭i園、⑳接道数2(マンソ通り+16カラブリア通り)べ奪マンソ錨:屋根一・通路型、カラプリア{麹:天空一通路型、鳶不整形、オ撲近型¢古い:L場(GalletasMontes)の跡地。今[ヨ、社会橿祉センタ・ならびに掌校が立地する公園として整備。街区との距離が近い。

」.,リフx、¢5,225m2、3;庭園、毎腰道数3(ローマ通り+17 リャンサ通り牽バレンシア)、(登いずれも天空一遇路型㊨,正方形(整形)、⑦綴衝型、(釧日宿営地の跡地利用。丁願なランドスケープ・デザイン。芝生、ミモ夙丼リ・一ブなど多様な橿樹。遊園コーナーとともに鰻があり、憩いの場として活用されている。ローマ通り側からのアクセスは街路的性格。

奄フェラン・スニェー、・28GO鵬2、,登学校38@接遵数1(ペレ・カルデルス・バッリージュ)(§天空一通路型、(6:不明鳶綴衝型 ㊨2000無に完成ρ学校施設のためアクヤスに劉隈あり。

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襲縛灘.瀞数麟

↓マリア・メルセー・マル'ヴソし、逡.r,388m2.(5;庭闘19穂接道数杖プロベンサ通り)、写屡根一通路型危正方形(整形)、ク綴衝型、壼中庭型。6Eの形態に最も近い。かつての出版会社の跡地。隣接するスポーツ施設が隣接には地下経由でアクセス。出版会社階代の壁画を保存している。

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201)ジャゥマ・ペリッチ・像}・227m23庭墜・ ζ)接遜数1(グランビア)、δ灰空一通路型、、6長方形(整形)7膿近型、菖中庭型。旧繊雛工場(ColbniaT6Xti[RDsal)の跡地利用。アクセス遵は竹で彩られている。パティオに配された遊翼のデザインはエンリック・ミラージェスによるもの。

図5・5整備されたパティオの空間的特性(1)

一ユ27一住宅総合研究財団研究論文集No.36.2009年版

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2]'.1.;,レクトール・オリベーラズ客985m2、・3縫園④接遵数1(アラゴ通り)、8天空一通路型、(6正方形⑦緩衝型、お;中庭型。カタルー=ヤ・ゴシック様式の地区教会が隣接し、施設そばの小公園として機能。パティオには公共施設あり。アクセス道には店舗(雷店)が隣接。

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22↓リナ・オデ±vZ].319m2、3腿圃、@接道数2〔サルデーニャ通り+ベイ通り)、(雪・サルデー二親腓天空一通路型、ベイ側:屋根一通路型、.6)不整形、:Z》接近型、t8;中庭型。2003年に完成。幼児用と児童用の二つ遊戯空間。芝生一ンあり

23藻繍麟弩翻曝諮識型⑤長方形(整形)、7接近型、・勘中庭型。様々な年代の児童が遊べるような配慮。遊具だけでなくポール遊び等の運動も可能。境界壁の見せ方に工夫あり。

24 ①パウラ・モンタル、、2,3,585m2、・窒庭園、@接道数1(ビラドマ通り)、(5公道直結型、5長方形(不整形)⑦接近型(ただし断面側〉、⑧公通との開放面が広い。運動用途と体憩用途を区分。現在は公園的利用だが将来的には高齢者施設を挿入予定。

25紘識鋸魏纒疑継激撫総雛鷲)公園駒性格は薄い。通りに面して柵あり.

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26 Tアンティガ・ドル久2/2,455m2、3公共通路(carretera)④接道数2(アリ・ベイ通り+ロジェー・ダ・フロール通り) 宣天空一通路型、β不整形、⑦接近型、⑧施設隣接型。通り抜けの移動パターンが多い。芝生ゾーン。接して経つ建造物は新しいものが多く、パティオとの距離は近い。

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27擁繍駕錯翻還腿螺綴5不靴、之緩衝型、纂中庭型。ホテルおよびレストランが隣接し、テラスの活動がパティオへ滲み出している。大きな遊具のため突質的な公園面積は大きくない。

Ql!コレナ・マセーラス、脅1,520m2、③庭園28@接道数1(ロセジョ通り)、⑤屋根一通路型、⑤正方形(不整形)⑦接近型、蒋緑豊かな庭園的性格が強い。病院の外部診断所の建物に購接。通路には地下駐軍場へのアクセスあり。アクセス道に面してレストランあり。

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29 ①カテリーナ・アルベルト、12>2.410m2、愚庭團④接道数2(ロセジョ通り+マリネール・パッサージn)⑰いずれも公道直結型、遍.正方形、z'接近型⑧バッサージュからのアクセス。公園的な性格が強い。隣接する 建造物との岡に芝生ゾーンが設置Ω建造物は新しい。

①エスコラ・マジsルカ、②一m2、¢学校30「参接道数不明(マジョルカ通り)、お屋根一適銘型窒不明、⑫不明、鶏学校施設のためアクセスは制隈されている。学校とともに若者向け低廉住宅あり。校庭としてのパティオ。

31藻護購番鰐粂解霜タ『(施設)画施設の一部。現段階ではアクセス不司能。

32Tテテ・モントリウ、tr2,600m2、}庭圓・竃接道数1(セ7ルベダ通り),5渥根一通賂型、(6長方形(整形)'tl接近型、⑧アクセス通路が二か所。中庭型。遊具施設だけでなく自転車やスケートボードの利用も考慮したゆったりとした空間。

33 豊'メルセー・ビラレット、:≧450m2、⑧庭園、窃接道数1(フロリダブラン力通り)、お'屋根一通路型、菖長方形(不整形)身接近型(壁面が高い)、£現在、最小のパティオ。中庭型。公道からのアクセスが長く、人の滞留は少ない

34(1カルカツソーナ・・2・2.365m2、3庭園誓接道数1(ウルジェイ通り)、⑤公道直結型、{6長方形(整形)Z接近型、:島公園型。謁費時には再整備のため閉鎖中。通常時は遊戯場としての性格が強い。

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."、・「・る3 纒講

(1)カンディダ・ペレス、21,090m2、(3・庭園35 ④接道数1(コムテ・ボレイ通り)、(5・屋根一通賂型、6'正方形(不整形)、7'緩衝型、⑤通りからパティオに沿ってRCRの設計による図魯館がある。サン・アントこ界隈の生活環境の改魯に大きく霧与。パティオ中央にはかつての工場の遺構である煙突が保存されている。

36(1・カルメtビアー一ダ¢890m2、㊤鷹園窮妾道数1〔ロジエー■デ・リューリア通り)、な天空一通路型㊨長方形(不整形)、'7耀衝型、⑥中庭型。かつては駐車場ならびに事務所で占拠されていた。パティオに入って突き当たり(南側)に遊具あり.憩いの場としての性格が強い。

37 Tコンスタンサ・アラゴ、r脅745m2、3庭團@接道数1(ロジェー・デ・フロール通り)、⑤屋根一通路型⑤長方形(整形)、.7,接近型、膨公共施設が隣接。

PP

38簸繍融う影騎駕瑠躍誕懇方形(整形)ご緩衝型、⑧入り口が広く、地区公園的性格が強い。遊具空閥は奥にあり、街路側にはボール遊びを想定したオー一プン・スペースとなっている。子供の利用が多い。

主)マリア=ルス・モラー一レス、2L'1.740m2、:3庭園39塗接道数3(ディアゴナル遇り+ウルジェイ通り+ブエノス・アイレス通り)、5)公道直結型(2)+屋根一通路型 6)不整形、⑦接近型、(δ商業施設・オフィスビルの空地的スベ・…ス。公園の性格は弱い。ウルジェイ通り{貝1に遊異スベースありe

40灘姦歌㌻㌶暴稲鯉臨路型島正方形(整形)、⑦接近型、a中庭型。教齎施設が隣接。

一 40街区、8ア,t54m2

【凡例】△上部建物なしアクセス《上部建物ありアクセスP:遊具、G:緑地、S:店舗、M:モニュメントE:スホーツ施設、F:展示施設、社会福祉施設T:教育施設、L:図書館、⊂:教会R:レストラン(カフェ)、U:工事中N:公的中庭なし、St:道路

図5・6整備されたパティオの空間的特性(2)

一128一 住宅総合研究財団研究論文集M36.2009年版

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嚢蓑

惑麟畿

惚蒙

徳鷺

離瓢顧 礁

羅鱗 灘.額鱗、鎗

襲 

伊、購戚

(a)従前

ガタ ぶ

騨翻睡羅蕪欝

欝'膿鷲嚢,鰍鍵簸、'

馨響灘鑓繧遷董納

(b)現況図5・7ジャウマ・ペリッチ庭園(20番)

(a)+(b)写真提供・PROEIXAMPLEIFIoroAzqueta(c)筆者撮影

紙驚騰簸蹴驚

一灘磯、讐轡・

(a)従前図5・8

(a)+(b)写真提供

鱗轡.難賊

驚饗

鰹響

(c)パティオ空間

(b)現況ジョアン・プロッサ庭園(27番)

PROEIXAMPLEIFIoroAzqueta、(c)筆者撮影

鱗詫鱗鞭

醜雛叢灘講i(c)パティオ空間

庭が原義なので,通路を通って街区内側ヘアプローチす

るものが基本的に多い。直接公道からアプローチできる

パティオは13事例が該当し,いずれも公道に対して開

いていることから公園的性格を強く持つものが多い。

通路型のアプローチ空間は地上階部分を通路にしてい

る屋根型の場合と,建造物と建造物の間が開いており,

そこを通路とする天空型に分類できる。通路型は全部で

43事例あり,屋根型が21事例,天空型が22事例とほ

ぼ半数ずつとなっていることが判明した。閉じた街区が

基本となっている拡張地区の町並みにおいて出現する天

空型は,そのほとんどが接道している不動産の建て替え

に伴い整備されたと考えられる。実際,天空型の通路を

有するパティオの場合,新たに建設されたホテルが隣接

する27番,地下駐車場を備えた5番,公共施設を備え

た21番,26番,高齢者施設を備える6番など,施設が

近接している場合が多い。

3)パティオ空間と地上階部との関係

街区内側の倉庫群等,建築物の建て詰まりの状況によ

って,内側に面する建造物とパティオ空間との間の距離

に違いが出る。本稿では,パティオから建造物の壁面が

近い場合を接近型,地上階部の建築物があるために遠い

場合を緩衝型として分類した。

6まとめと考察

本稿が明らかにした点は以下である。

バルセロナの拡張地区は1859年のセルダの拡張ブラ

ンに沿って形成されたが,条例の改正の度に規制内容が

緩和され,一街区あたりの容積はセルダの当初の構想の

約4倍にも膨張した結果,現在に至るまで市内で最も人

口密度の高い地区となっている。

民主化直後に策定された総合プランにおいて,拡張地

区の実質的なダウンゾーニングが施された。大半が既存

不適格建築物となる厳しい規制のために,所有者が全面

的な建て替えより修復を選択するインセンティブとして

働くことが期待されたと考えられ,事実1986年に制定

された修復改善条例でも主な眼目は街区内側のパティオ

の回復,用途の制限,町並みの維持に置かれた。

1996年に再生プランを推進するために設立された開

発公社もパティオの再整備を主目的とした。本稿では整

備が完了した40のパティオを詳細に踏査し,その特徴

を平面形状や規模,接道数,公道からのアクセス空間に

着目して類型化した。

1992~2000年にかけての中古住宅価格の上昇率は,

市が59.9%,拡張地区が66.3%であった注15)。このデ

ータはパティオの整備により直接的に資産価値が上昇し

たことを示すものではないが,漸進的な住環境整備の取

り組みの結果,拡張地区の居住性がさらに強化され,地

価が上昇したことの裏返しとして理解してもよいだろう。

パティオ創出に際する所有者の合意形成や利益の担保

の実態にっいて,本研究では実証的に分析するまでには

至らなかった。しかし,本研究からいくつかの推論は導

き出せるだろう。

公社へのインタビューによると,わが国の状況と同様,

一129一 住宅総合研究財団研究論文ec・rgo.362009年版

Page 12: バルセ圓ナの計画住宅市街地における維持更新の手 …研究No.0806 バルセ圓ナの計画住宅市街地における維持更新の手法と実態 主査阿部大輔*i

所有者の合意形成は基本的に難しく,スムーズに建て替

えが進むケースは稀である。図5・8で見たような,天

蓋型の通路を生み出すような全面建て替えは,全不動産

がもともと市有だったか,市が買い取っているか,ある

いは市が買い取れる程度に所有関係が複雑ではなかった

ため可能となったことが推定される。

開発主体である公社は,旧市街のように協議区域を設

けて統一的な意見調整を図っているわけではない。利益

の調整は原則建造物単位となり,パティオを提供するこ

とが地価の上昇に反映されると判断されれば建て替えが

進むことになる。修復条例では1932年以前の建造物は

原則保全することとなっており,建て替えの対象はそれ

以降に建設された建造物ということになる。とはいえ,

各戸の維持更新については,修復が基本となっており,

修復措置に対しては財政支援のインセンティブが与えら

れている。この場合,取り壊し等を含む大幅な改変が必

要となるのは,アクセス道およびパティオとなる地上階

部である。この点において,そもそも街区内側は居住空

間としてよりも,多くの場合人の住まない倉庫として用

いられていたことが多かったため,追い出し等は問題の

姐上に上らなかったと言える。

バルセロナにおけるパティオ再整備の試みが示唆する

のは,計画住宅市街地の持続的な改善にあたり,建築の

敷地単位を超えて,区画全体で総合的に建造環境を捉え

ることの重要性である。セットバック等,建築レベルの

対応でしか公共空間を創出する方法を持たないように見

えるわが国の住環境整備に対して,バルセロナのパティ

オ再整備の経験は示唆的である。

<注>

1)スペイン語ではEnsanche(エンサンチェ),カタルー

ニャ語ではEixample(アシャンプラ)と呼ばれる。2)文献1)-2)の他に、岡部明子1「都市再生バルセロナ・

モデルの検証」,『持続可能な都市一欧米の試みから何を学ぶか一』(福川裕一ほか編著),岩波書店,

pp.121-・178,2005や鈴木隆:「セルダとバルセロナ整備拡張計画」,『都市をつくった巨匠たちシティプ

ランナーの横顔』,ぎょうせい,pp.29-33,2004など3)なお2009年はセルダの拡張プランから150周年にあ

たり,市でも様々な展覧会が企画,実施されている。

しかし,現在の拡張地区の改善の実態についてはここでもあまり取り上げられておらず,現地においてもその視点は盲点となっていると言えるのである,

4)本章でのデータの出典は文献11)による。5)セルダの計画案はこのコンペにおいて選外とされ,一

等には建築家AntoniRoviraiTriasの案が選出された,コンペにまつわる経緯や両者のプランの相違点にっい

ては,文献D,2)を参照のこと,6)TGU,II,691(文献13)

7)TGU,II,685(文献13)8)例えば文献10)(147-189)など,

9)SoriayPuig(】999:281)10)文献9)(292-293)や18)における議論を参考にした。

なお,本稿では4期に分けて建築条例を捉えているが,

他の条例の概要にっいては山道(2009:58)が詳しい。

11)文献8).p.64 12)β可音r)(2009:78-84)

13)文文献12)。当時の都市戦略を知るには,BOHIGAS, Oriol.°」Unaaltraurbanitaビ.enRe(・θnstruc・(・io'deBar(・elona,

Barcelona:Edicions62,pp.7-31,1984も参考になる,14)文献16)

15)文献ll)

〈参考文献〉

)

1

)2)3

)4)5

)6)7

)8)9

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