パルス性地震動に対する免震建物の擁壁衝突時の最 …( 、、 、 、 ′= 、...

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ulseike round Motion, aseIsolation, Retaining Wall, Collision, Estimation of Maximum Response パルス性地震動 , 免震 , 擁壁 , 衝突 , 最大応答予測 .はじめに 年兵庫県南部地震、 年新潟県中越地震に代表されるよう に、近年、内陸地殻内地震の震源近傍においてパルス性地震動と呼 ばれるパルス状の波形を有する地震動が頻発しており 、建物に甚大 な被害を与えている。また、上町断層帯の地震に関しても、さまざ まな機関によって地震動予測 例えば が実施されているが、パルス状の 波形が顕著であり、現行の設計法で規定している地震動レベルを大 きく超えているため、パルス性地震動に対する建物応答の把握が重 要であることが指摘されている 。上部構造の変形を大幅に低減可能 な免震建物も例外ではなく、巨大地震発生時には、免震建物が擁壁 に衝突し、上部構造の変形が増大する可能性が指摘されており 、最 大応答を定量的に評価する必要がある。 免震建物の擁壁衝突時の応答特性に関する先行研究として、中安 らは、 自由度系せん断型モデルによる応答特性の把握 を行ったが、 衝突時の高次モードを考慮した応答特性に関しては未解明である。 また、多自由度モデルによる応答特性の把握として、三輪田らは、実 大実験とシミュレーション解析 を行い、小巻らは、ロッキング応答 に関する検討 を行ったが、入力・擁壁部(擁壁+背後地盤)剛性・ 建物規模が変化した時の応答特性については、研究の余地が残され ていると考える。 更に、免震建物の擁壁衝突時の最大応答予測法の提案を試みた研 究事例も存在する。柏らは、衝突を考慮しない時刻歴応答解析より 衝突直前の情報を抽出し、これを初期条件として擁壁部と基礎を連 結して解析を再度行う最大応答変形予測手法 を提案したが、簡便性 という点に課題が残る。また、小倉らはエネルギーの釣合に着目し、 衝突を考慮しない場合と擁壁部剛性を無限大とした場合の ケース の解析を行うことで免震部材と上部構造の両者を安全側に評価する 手法 を提案している。これに対し、佐藤らは擁壁部剛性を考慮し たエネルギー保存則に基づく手法を提案し、時刻歴応答解析を行う ことなく簡易に最大応答変形を予測可能であることを示した 。し かし、これらのエネルギー釣合に基づく方法は、高次モードを考慮 できないため、精度が低下する点に課題が残る。 以上を踏まえ本論では、多自由度系せん断型モデルを用いてパル ス性地震動に対する免震建物の応答特性を把握し、その知見を基に、 高次モードを考慮可能で、どのような入力・擁壁部剛性・建物規模 にも適用可能な簡易な最大応答変形予測手法を提案する。本予測法 においては、衝突を考慮しない場合の時刻歴応答解析結果より得ら れた最大免震層変位と衝突直前の情報に基づき、免震建物が擁壁部 から受ける反力を簡単な波形で近似的に再現可能とする点に新規性 がある。反力を近似することで、擁壁への衝突を考慮した複雑な応 答解析を実施することなく、擁壁部剛性が変化した際の建物応答へ の影響の理解を促進することができる。近似した反力を衝突位置に 作用させて、数値積分による時刻歴応答解析を行う手法を提案予測 法とする。最後に、提案予測法の精度検証を行い、時間刻みを大き くした場合にも最大応答変形を概ね評価可能であることを確認する。 自由度系せん断型モデルによる分析 本章は、衝突中(本論では、擁壁部が建物と接触している状態を 構造系 697 号 【カテゴリーⅠ】 日本建築学会構造系論文集 79697号, 385-3922014年₃月 J. Struct. Constr. Eng., AIJ, Vol. 79 No. 697, 385-392, Mar., 2014 パルス性地震動に対する免震建物の擁壁衝突時の最大応答評価 MAXIMUM RESPONSE EVALUATION OF BASE-ISOLATED BUILDINGS AGAINST PULSE-LIKE GROUND MOTIONS IN CASE OF COLLISION TO RETAINING WALL 安本 宏 ,岡 沢 理 映 ,多幾山 法子 ** ,大 西 良 広 *** ,林   康 裕 **** Hiroshi YASUMOTO, Rie OKAZAWA, Noriko TAKIYAMA, Yoshihiro ONISHI and Yasuhiro HAYASHI 本稿は文献13)を再構成し,加筆・修正したものである。 京都大学大学院工学研究科建築学専攻 修士課程 Graduate Student, Dept. of Architecture and Architectural Eng., Kyoto Univ. ** 首都大学東京都市環境学部建築都市コース Assoc. Prof., Div. of Architecture and Urban Studies, Tokyo Metropolitan Univ., Dr. Eng. 准教授・博士(工学) *** 京都大学大学院工学研究科建築学専攻 Assoc. Prof., Dept. of Architecture and Architectural Eng., Kyoto Univ., Dr. Eng. 准教授・博士(工学) **** 京都大学大学院工学研究科建築学専攻 教授・工博 Prof., Dept. of Architecture and Architectural Eng., Kyoto Univ., Dr. Eng. 385

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パルス性地震動に対する免震建物の擁壁衝突時の最大応答評価

安 本 宏 , 岡沢理映 ,多幾山法子 , 大西良広 ,林 康 裕

Hiroshi YASUMOTO, Rie OKAZAWA, Noriko TAKIYAMA, Yoshihiro ONISHI and Yasuhiro HAYASHI

ulseike round Motion, aseIsolation, Retaining Wall,Collision, Estimation of Maximum Response

パルス性地震動 , 免震 , 擁壁 , 衝突 , 最大応答予測

.はじめに

  年兵庫県南部地震、 年新潟県中越地震に代表されるよう

に、近年、内陸地殻内地震の震源近傍においてパルス性地震動と呼

ばれるパルス状の波形を有する地震動が頻発しており 、建物に甚大

な被害を与えている。また、上町断層帯の地震に関しても、さまざ

まな機関によって地震動予測例えば が実施されているが、パルス状の

波形が顕著であり、現行の設計法で規定している地震動レベルを大

きく超えているため、パルス性地震動に対する建物応答の把握が重

要であることが指摘されている 。上部構造の変形を大幅に低減可能

な免震建物も例外ではなく、巨大地震発生時には、免震建物が擁壁

に衝突し、上部構造の変形が増大する可能性が指摘されており 、最

大応答を定量的に評価する必要がある。

 免震建物の擁壁衝突時の応答特性に関する先行研究として、中安

らは、 自由度系せん断型モデルによる応答特性の把握 を行ったが、

衝突時の高次モードを考慮した応答特性に関しては未解明である。

また、多自由度モデルによる応答特性の把握として、三輪田らは、実

大実験とシミュレーション解析 を行い、小巻らは、ロッキング応答

に関する検討 を行ったが、入力・擁壁部(擁壁+背後地盤)剛性・

建物規模が変化した時の応答特性については、研究の余地が残され

ていると考える。

 更に、免震建物の擁壁衝突時の最大応答予測法の提案を試みた研

究事例も存在する。柏らは、衝突を考慮しない時刻歴応答解析より

衝突直前の情報を抽出し、これを初期条件として擁壁部と基礎を連

結して解析を再度行う最大応答変形予測手法 を提案したが、簡便性

本稿は文献を再構成し、加筆・修正したものである。

京都大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程

首都大学東京都市環境学部建築都市コース准教授博士(工学)

京都大学大学院工学研究科建築学専攻准教授博士(工学)

京都大学大学院工学研究科建築学専攻教授工博

という点に課題が残る。また、小倉らはエネルギーの釣合に着目し、

衝突を考慮しない場合と擁壁部剛性を無限大とした場合の ケース

の解析を行うことで免震部材と上部構造の両者を安全側に評価する

手法 を提案している。これに対し、佐藤らは擁壁部剛性を考慮し

たエネルギー保存則に基づく手法を提案し、時刻歴応答解析を行う

ことなく簡易に最大応答変形を予測可能であることを示した 。し

かし、これらのエネルギー釣合に基づく方法は、高次モードを考慮

できないため、精度が低下する点に課題が残る。

 以上を踏まえ本論では、多自由度系せん断型モデルを用いてパル

ス性地震動に対する免震建物の応答特性を把握し、その知見を基に、

高次モードを考慮可能で、どのような入力・擁壁部剛性・建物規模

にも適用可能な簡易な最大応答変形予測手法を提案する。本予測法

においては、衝突を考慮しない場合の時刻歴応答解析結果より得ら

れた最大免震層変位と衝突直前の情報に基づき、免震建物が擁壁部

から受ける反力を簡単な波形で近似的に再現可能とする点に新規性

がある。反力を近似することで、擁壁への衝突を考慮した複雑な応

答解析を実施することなく、擁壁部剛性が変化した際の建物応答へ

の影響の理解を促進することができる。近似した反力を衝突位置に

作用させて、数値積分による時刻歴応答解析を行う手法を提案予測

法とする。最後に、提案予測法の精度検証を行い、時間刻みを大き

くした場合にも最大応答変形を概ね評価可能であることを確認する。

  自由度系せん断型モデルによる分析

 本章は、衝突中(本論では、擁壁部が建物と接触している状態を

構造系 697号

【カテゴリーⅠ】 日本建築学会構造系論文集 第79巻 第697号,385-392,2014年 ₃ 月J. Struct. Constr. Eng., AIJ, Vol. 79 No. 697, 385-392, Mar., 2014

パルス性地震動に対する免震建物の擁壁衝突時の最大応答評価MAXIMUM RESPONSE EVALUATION OF BASE-ISOLATED BUILDINGS

AGAINST PULSE-LIKE GROUND MOTIONS IN CASE OF COLLISION TO RETAINING WALL

安 本   宏*,岡 沢 理 映*,多幾山 法子**,大 西 良 広***,林   康 裕**** Hiroshi YASUMOTO, Rie OKAZAWA, Noriko TAKIYAMA,

Yoshihiro ONISHI and Yasuhiro HAYASHI

本稿は文献13)を再構成し,加筆・修正したものである。 * 京都大学大学院工学研究科建築学専攻 修士課程 Graduate Student, Dept. of Architecture and Architectural Eng., Kyoto Univ. ** 首都大学東京都市環境学部建築都市コース Assoc. Prof., Div. of Architecture and Urban Studies, Tokyo Metropolitan Univ., Dr. Eng. 准教授・博士(工学) *** 京都大学大学院工学研究科建築学専攻 Assoc. Prof., Dept. of Architecture and Architectural Eng., Kyoto Univ., Dr. Eng. 准教授・博士(工学) **** 京都大学大学院工学研究科建築学専攻 教授・工博 Prof., Dept. of Architecture and Architectural Eng., Kyoto Univ., Dr. Eng.

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衝突中と呼ぶ)の図 に示す解析モデルの各次振動モード性状の把

握を目的とし、免震装置より上の 階床(免震層上部基礎)を含ま

ない上部構造(以下、上部構造)を等価 自由度系とした、 自由度

系せん断型モデルによる解析を行う。

 解析概要

 上部構造と免震層上部基礎の線形 自由度系せん断型モデルを図

に示す。なお、本論では、既往の研究に倣い、擁壁と背後地盤を

合わせて擁壁部と呼ぶ。擁壁部は水平ばねと水平ダッシュポットで

モデル化する。簡単のため免震層を含めて擁壁部剛性 k w とする。k wをパラメータとし、 質点の自由振動解に対し初期変位 、初速度

V=を与えて解析を行う。本論では、擁壁部剛性評価の不確定

性に起因して、 節で後述するように感度解析による安全性の確認

を提案するため、擁壁部剛性については等価線形として扱う。

 ここで、k w の検討範囲を考える。実免震建物の擁壁衝突実験を実

施し、kw = となる結果が得られた研究事例が存在する。

これは擁壁厚さが である場合の実験結果であり、擁壁の規模と

しても小さく 、背後地盤も柔らかい場合である。しかし、擁壁厚

さが約 となる設計事例 も報告されているため、断面 次モー

メントが擁壁厚さの 乗に比例することを考えると、少なくとも

kwを超える擁壁が存在する。基礎の角での衝突や、面での

衝突など、基礎と擁壁の衝突の仕方には様々なパターンが存在する

が、ここで用いている試算は、小巻ら の手法を用いて、 階床の一

辺が擁壁面に線状に同時に接触するとした時の評価を用いている。

以上から、本論では kwの値をと変化させた解析を行う。

なお、kw が 以上の解析も行ったが、kwの結果と

応答特性に変化がみられなかったため割愛する。

 減衰は歪エネルギー比例型減衰を用い、上部構造の 次減衰定数

は 、擁壁部のダッシュポットによる 次減衰定数は、衝突反発

係数 e と、減衰定数 hw の関係を表す式により定める。本研究で

は eとし、この時の hw は である。hw についても kw と同様の

理由で、解析中に値が変化しないものとする。

eehw +−= π           

また、上部構造は等価 自由度モデルであり、多質点系せん断型モ

デルにおいて逆三角形 次モードとし、 次固有モードとベースシア

が等価になるように等価質量を定める。免震層固定時の 次固有周期

が HHは建物高さになるように、剛性を決定する。モデ

ルは、階モデルと l(l階モデルを作成する。以上の方法によ

る、等価 質点系の剛性を表 に、その他の解析諸元を表 に示す。

免震層上部基礎図 に示す下より つ目の質点は、実建物の設計

例を参考にし上部構造 層質量の 倍と設定する。

 応答理論解

  自由度系の応答変位の理論解 ix は、式 で表される。ただし、i

は層を表す。なお、免震層上部基礎を第 層とする。

∑=

− ′′

=

k

kthk

k

k

teVuu

xx

kk ωωβ ω

          

ここで、nは次数、 niu は固有モード、 nβ は刺激係数、 nω′は減衰を考慮し

た固有円振動数、nh は減衰定数、 nω は固有円振動数である。また式

より第 i 層における 次モード、 次モードの振幅の和に対する n 次

モードの振幅の割合 tY ni を式 で定義する。

∑=

−−

′′=

k

th

k

kki

th

n

nni

ni

kknn eVueVutY ωω

ωβ

ωβ

      

図   自由度系せん断型モデル

表  解析諸元

図  応答変位と 次モード振幅の割合

図  刺激関数 図  減衰定数左 次、右 次)

設定対象 値

上部構造層質量 免震層上部基礎質量m

階高 免震層固定時1次固有周期Tf

H 上部構造1次減衰定数

初速度V

表  等価 質点剛性

階数

階 階 階 階 階 階 階 階 階 階 階

等価質点剛性

x

x

刺激関数次

刺激関数次

Y

Y

1次減衰定数

基礎固定時固有周期

2次減衰定数

基礎固定時固有周期

kw

kw

kw

kw

kw

kw

kw

kw

kw

kw

kw

kw

kw

kw

kw

kw

擁壁部

免震層上部基礎

3

 解析結果

 図 に 自由度系せん断型モデル 階モデルの刺激関数を示す。

擁壁部剛性 k w が増大すると、免震層上部基礎の 次刺激関数が小さ

くなり、 次刺激関数が大きくなる。

  階モデルにおける、各層の応答変位 ix 、各層の 次モードの振幅

の割合 tYi を図 に示す。ここで i について、応答変位が負にな

ると擁壁部から離れることを意味するので、負になった以降の解析

結果(図左上より、kwでは約秒以降、kw

では約秒以降、kwでは約秒以降、kwで

は約 秒以降)については考察しない。上部構造は kw によらず、

tY が小さく 次モードが卓越する。しかし、免震層上部基礎につ

いては、kw が増大するにつれて tY が増大し、 次モードの影響が

支配的になる。このように、kw が増大していくと、x に示すように免

震層上部基礎の応答に影響する固有振動数が高くなって、 次固有振

動数との差が大きくなるため、上部構造の応答はそれほど変化しな

くなる。

 階数が変化した時の 次減衰定数と 次減衰定数を図 に示す。擁

壁部剛性・階数が増大すると、 次減衰定数は上部構造の減衰定数

に漸近する。これは、図 のように 次モードが上部構造で大き

くなることに起因する。一方、 次モードは免震層上部基礎で大きく

なり、 次と 次固有振動数の差が大きくなるため、 次減衰定数は

増大する。

 多自由度系せん断型モデルによる分析

 本章では、詳細な応答特性を検証するために、多質点系せん断型

モデルによる解析を行う。なお、 章では k w は免震層を含むものと

していたが、 章以降では kw は免震層を含まない。

 解析モデル

 図 に示す多質点系せん断型モデルで θ− 法 θ= による

時刻歴応答解析を行う。解析対象として 階、 階、 階モデルの

種類を考える。解析諸元を表 に示す。質量は免震層直上以外は

等しく、免震層直上はその 倍の値とする。階高は全層同じ値とす

る。上部構造の剛性は、免震層固定時の 次固有周期

fT が H

(H は建物高さ)となるように各層の剛性を決定する。また、剛

性分布は最上層と第 層で : の台形分布となっている。なお、免

震層を第 層とする。免震層の剛性は表 に示す 次固有周期になる

ように設定する。質量・階高・ 次固有周期は、実建物の設計例を参

考に設定した。免震層の減衰は、ダンパーを排除した既往の実験結

果 に基づき と設定した。ここでは、建物は上部構造・免震層

ともに線形とする。減衰は歪エネルギー比例型減衰とする。また、擁

図  建物が擁壁部から受ける力衝突力

図  正弦波パルス

表  解析諸元

図  多自由度系せん断型モデル

図  衝突力のフーリエ振幅スペクトル

階 階 階

上部構造mi 免震層直上m 上部構造h i 免震層h 擁壁部h w 免震層固定 免震T

各モデル

次固有周期

層の質量

階高

設定対象

クリアランスC

減衰定数

Ap

Vp

Dp

Tp

kw

kw=

kw

kw=F w

階モデル

F w

階モデル

F w

階モデル

kw

kw

kw

kw

振動数フーリエ振幅スペクトル・

階モデル

振動数フ

ーリエ振幅スペクトル・

階モデル

振動数フ

ーリエ振幅スペクトル・

階モデル

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衝突中と呼ぶ)の図 に示す解析モデルの各次振動モード性状の把

握を目的とし、免震装置より上の 階床(免震層上部基礎)を含ま

ない上部構造(以下、上部構造)を等価 自由度系とした、 自由度

系せん断型モデルによる解析を行う。

 解析概要

 上部構造と免震層上部基礎の線形 自由度系せん断型モデルを図

に示す。なお、本論では、既往の研究に倣い、擁壁と背後地盤を

合わせて擁壁部と呼ぶ。擁壁部は水平ばねと水平ダッシュポットで

モデル化する。簡単のため免震層を含めて擁壁部剛性 k w とする。k wをパラメータとし、 質点の自由振動解に対し初期変位 、初速度

V=を与えて解析を行う。本論では、擁壁部剛性評価の不確定

性に起因して、 節で後述するように感度解析による安全性の確認

を提案するため、擁壁部剛性については等価線形として扱う。

 ここで、k w の検討範囲を考える。実免震建物の擁壁衝突実験を実

施し、kw = となる結果が得られた研究事例が存在する。

これは擁壁厚さが である場合の実験結果であり、擁壁の規模と

しても小さく 、背後地盤も柔らかい場合である。しかし、擁壁厚

さが約 となる設計事例 も報告されているため、断面 次モー

メントが擁壁厚さの 乗に比例することを考えると、少なくとも

kwを超える擁壁が存在する。基礎の角での衝突や、面での

衝突など、基礎と擁壁の衝突の仕方には様々なパターンが存在する

が、ここで用いている試算は、小巻ら の手法を用いて、 階床の一

辺が擁壁面に線状に同時に接触するとした時の評価を用いている。

以上から、本論では kwの値をと変化させた解析を行う。

なお、kw が 以上の解析も行ったが、kwの結果と

応答特性に変化がみられなかったため割愛する。

 減衰は歪エネルギー比例型減衰を用い、上部構造の 次減衰定数

は 、擁壁部のダッシュポットによる 次減衰定数は、衝突反発

係数 e と、減衰定数 hw の関係を表す式により定める。本研究で

は eとし、この時の hw は である。hw についても kw と同様の

理由で、解析中に値が変化しないものとする。

eehw +−= π           

また、上部構造は等価 自由度モデルであり、多質点系せん断型モ

デルにおいて逆三角形 次モードとし、 次固有モードとベースシア

が等価になるように等価質量を定める。免震層固定時の 次固有周期

が HHは建物高さになるように、剛性を決定する。モデ

ルは、階モデルと l(l階モデルを作成する。以上の方法によ

る、等価 質点系の剛性を表 に、その他の解析諸元を表 に示す。

免震層上部基礎図 に示す下より つ目の質点は、実建物の設計

例を参考にし上部構造 層質量の 倍と設定する。

 応答理論解

  自由度系の応答変位の理論解 ix は、式 で表される。ただし、i

は層を表す。なお、免震層上部基礎を第 層とする。

∑=

− ′′

=

k

kthk

k

k

teVuu

xx

kk ωωβ ω

          

ここで、nは次数、 niu は固有モード、 nβ は刺激係数、 nω′は減衰を考慮し

た固有円振動数、nh は減衰定数、 nω は固有円振動数である。また式

より第 i 層における 次モード、 次モードの振幅の和に対する n 次

モードの振幅の割合 tY ni を式 で定義する。

∑=

−−

′′=

k

th

k

kki

th

n

nni

ni

kknn eVueVutY ωω

ωβ

ωβ

      

図   自由度系せん断型モデル

表  解析諸元

図  応答変位と 次モード振幅の割合

図  刺激関数 図  減衰定数左 次、右 次)

設定対象 値

上部構造層質量 免震層上部基礎質量m

階高 免震層固定時1次固有周期Tf

H 上部構造1次減衰定数

初速度V

表  等価 質点剛性

階数

階 階 階 階 階 階 階 階 階 階 階

等価質点剛性

x

x

刺激関数次

刺激関数次

Y

Y

1次減衰定数

基礎固定時固有周期

2次減衰定数

基礎固定時固有周期

kw

kw

kw

kw

kw

kw

kw

kw

kw

kw

kw

kw

kw

kw

kw

kw

擁壁部

免震層上部基礎

3

 解析結果

 図 に 自由度系せん断型モデル 階モデルの刺激関数を示す。

擁壁部剛性 k w が増大すると、免震層上部基礎の 次刺激関数が小さ

くなり、 次刺激関数が大きくなる。

  階モデルにおける、各層の応答変位 ix 、各層の 次モードの振幅

の割合 tYi を図 に示す。ここで i について、応答変位が負にな

ると擁壁部から離れることを意味するので、負になった以降の解析

結果(図左上より、kwでは約秒以降、kw

では約秒以降、kwでは約秒以降、kwで

は約 秒以降)については考察しない。上部構造は kw によらず、

tY が小さく 次モードが卓越する。しかし、免震層上部基礎につ

いては、kw が増大するにつれて tY が増大し、 次モードの影響が

支配的になる。このように、kw が増大していくと、x に示すように免

震層上部基礎の応答に影響する固有振動数が高くなって、 次固有振

動数との差が大きくなるため、上部構造の応答はそれほど変化しな

くなる。

 階数が変化した時の 次減衰定数と 次減衰定数を図 に示す。擁

壁部剛性・階数が増大すると、 次減衰定数は上部構造の減衰定数

に漸近する。これは、図 のように 次モードが上部構造で大き

くなることに起因する。一方、 次モードは免震層上部基礎で大きく

なり、 次と 次固有振動数の差が大きくなるため、 次減衰定数は

増大する。

 多自由度系せん断型モデルによる分析

 本章では、詳細な応答特性を検証するために、多質点系せん断型

モデルによる解析を行う。なお、 章では k w は免震層を含むものと

していたが、 章以降では kw は免震層を含まない。

 解析モデル

 図 に示す多質点系せん断型モデルで θ− 法 θ= による

時刻歴応答解析を行う。解析対象として 階、 階、 階モデルの

種類を考える。解析諸元を表 に示す。質量は免震層直上以外は

等しく、免震層直上はその 倍の値とする。階高は全層同じ値とす

る。上部構造の剛性は、免震層固定時の 次固有周期

fT が H

(H は建物高さ)となるように各層の剛性を決定する。また、剛

性分布は最上層と第 層で : の台形分布となっている。なお、免

震層を第 層とする。免震層の剛性は表 に示す 次固有周期になる

ように設定する。質量・階高・ 次固有周期は、実建物の設計例を参

考に設定した。免震層の減衰は、ダンパーを排除した既往の実験結

果 に基づき と設定した。ここでは、建物は上部構造・免震層

ともに線形とする。減衰は歪エネルギー比例型減衰とする。また、擁

図  建物が擁壁部から受ける力衝突力

図  正弦波パルス

表  解析諸元

図  多自由度系せん断型モデル

図  衝突力のフーリエ振幅スペクトル

階 階 階

上部構造mi 免震層直上m 上部構造h i 免震層h 擁壁部h w 免震層固定 免震T

各モデル

次固有周期

層の質量

階高

設定対象

クリアランスC

減衰定数

Ap

Vp

Dp

Tp

kw

kw=

kw

kw=F w

階モデル

F w

階モデル

F w

階モデル

kw

kw

kw

kw

振動数フーリエ振幅スペクトル・

階モデル

振動数フ

ーリエ振幅スペクトル・

階モデル

振動数フ

ーリエ振幅スペクトル・

階モデル

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壁部は、免震層変位がクリアランスを超えれば働く水平ばねとダッ

シュポットでモデル化し、 章同様、擁壁部の減衰定数 hw は と

して設定する。

 入力波

 パルス性地震動を単純化した式の正弦波パルスを入力波に用い

る。図 に時刻歴波形を示す。ここで、Ap はパルス加速度振幅、Tp は

パルス周期、V p はパルス速度振幅、D p はパルス変位振幅である。

( )

=

ppp TtTVty

ππ             

本論では、V p、T p により正弦波パルスを表すものとする。

 衝突力

 衝突時に建物が擁壁部から受ける反力を、衝突力と呼ぶ。衝突力

Fw は式で表される。

+−

= xcCxk

F www

ただし、x 、k w、c w、C は順に免震層変位、擁壁部剛性、擁壁部減衰

係数、クリアランスである。k w を変化させた時の衝突力の時刻歴波

形を図 に示す。ここで、衝突力Fw が負の値をとる場合があるのは、

式の減衰項の速度 x が負の値をとる場合があるためである。 階、

階、 階モデルともに kw が小さい時は正弦波半波に似た波形であ

るが、kw が増大するにつれて、形は崩れ、 階、階モデルでは、衝

突が複数回起こった。これは 自由度系せん断型モデルで示したよ

うに、k w が大きい時は上部構造と免震層の各応答が卓越する固有振

動数が大きく異なるためである。つまり、擁壁部剛性が大きい場合

には、免震層から直ぐに離れようとするが、上部構造は 次モード

が卓越しており、上部構造全体としては擁壁方向に向かって変形が

進行しているため、擁壁方向へと引き戻されて再び衝突が生ずる。

このような挙動を繰り返すことで、衝突が複数回生ずることとなる。

また、モデルによって擁壁部剛性が増大した時の波形が著しく異な

るが、図 に示したように、階数が多いモデルでは高次の減衰が効

くためである。そして、k w が増大すると高次モードに減衰が効くこ

とで、図 のように衝突直後を除けば余弦波 波に似た波形になる。

 図 に図 の衝突力のフーリエ振幅スペクトルを示す。k w が増大

すると、高振動数が励起する。また、階数が増大すると高振動数の

励起が低振動数に比べ相対的に小さくなっており、階数が多いモデ

ルの方が、高次の減衰が効いていることが、ここでも確認できる。

 衝突時間

 複数回衝突時の衝突時間 cT は始めの衝突から最後の衝突が終るま

での時間とする。擁壁衝突中の 次固有周期 cT を表 に示す。図

に、 階モデルの cT cT を示すが、両者には高い相関があることが

わかる。特殊なケースとしてクリアランス の場合を示すが k w に

関わらず cT cT がに近い値をとる。また、クリアランスが の

場合は入力が増大すると に漸近する。 に達しない理由は、擁

壁衝突までに歪エネルギーが増大しているためである。

 刺激関数・最高次の固有周期

 図 に 階モデルの擁壁衝突中の刺激関数を示す。kw が増大する

と、高次の刺激関数が励起し、高次の影響を受けやすくなる。また、

kwと非常に大きい時、免震層において大きな寄与を示して

いる。このように、k w が増大すると最終的に最高次は免震層を動か

すためのモードになる。図 のフーリエ振幅スペクトルを見ても最

高次付近の固有振動数での値が励起しており、したがって、k w が増

大すると、衝突力にも最高次が励起されるため、正確な解析を行う

kw

kw

kw

kw

T c/Tc(1)

パルス速度振幅Vp[cm/s]

階モデルC

T c/Tc(1)

パルス速度振幅Vp[cm/s]

階モデルC

階 階 階

基礎固定

擁壁部衝突中 次固有周期 T [s]

k w

図 VpTcTc

表  擁壁部衝突中の 次固有周期 cT

刺激関数

kw

刺激関数

kw

刺激関数

kw

kw

kw

kw

固有周期

T i

次数

階モデル

図   階モデルの刺激関数(細線: 次、太線:最高次)

図  固有周期の変化 図 kwTwTcN

階モデル

階モデル

階モデル

T wT

cN

kw

kw

kw

F w

図  k w の大小による波形の特徴の比較

pTt ≤ pTt >

Cx > Cx ≤

5

ためには、最高次まで考慮する必要がある。また、本論では、擁壁

部に減衰を与えたモデルであるため、高次の影響は小さくなってい

るが、擁壁部をばねのみでモデル化した場合に、最高次の励起がよ

り顕著になることも確認しており、高次の重要性がより高くなると

考えられる。

 図 に 階モデルの kw が変化した時の n次固有周期の変化につい

て示す。kwが増大し、kwとなる時、最高次の固有周期のみ

が、特異な値をとっている。ここで、免震層直上の質量m と kwによっ

て決定される固有周期 Tw を式 で定義する。

ww k

mT π=                     

図 に Tw と各モデルの擁壁衝突中の最高次の固有周期 TcN (N は最

高次数)の比Tw/TcNを示す。kwが増大すると、Tw/TcNは に漸近する。

 このように kw を増大させると、免震層において、最高次の刺激関

数が励起し、その結果、衝突力には最高次の振動数が現れる。その

解析時に要求される精度の つの目安として、式の周期を再現で

きるだけの時間刻みが要求される。しかし、kw が小さい時には Tw は

TcNに対して大きな評価となるので、固有値解析を行い、最高次の固

有周期を把握した上で、必要な解析刻みを検討すべきである。

 最大応答予測法

 最大応答予測法として用いる際の前提条件

 、 章と同様に、本章で提案する手法は、上部構造・免震層・擁

壁部の等価線形性を仮定した手法である。ここで、 節以降の解

析結果からも明らかなように、上部構造については擁壁衝突時にお

ける最大層間変形角が、 程度以下であることから等価線形解析

が適用可能と考える。また、免震装置についても等価線形解析で扱

える場合を提案手法の前提とする。一方、擁壁部剛性については、佐

藤らの実大建物の衝突実験のシミュレーション から擁壁部剛性評

価の難しさが指摘されている。また、擁壁衝突位置や建物のねじれ

の有無などに起因して、擁壁衝突のパターンは様々であり、擁壁部

剛性や非線形性も大きく変化する。このような擁壁部剛性評価の不

確定性を考慮して、感度解析により擁壁衝突時の安全性を確認する

ことが望ましいと考える。すなわち、本論文で提案する手法を適用

する際には、免震建物の等価線形モデルを作成し、線形の擁壁部剛

性注 を変化させた感度解析を行い、擁壁衝突時の安全性を検討する

必要がある。

 最大応答予測法概要

 図 のような多質点系せん断型モデルにおける最大応答予測法

(以下、提案予測法と呼ぶ)を提案する。事前の解析により、提案予

測法で必要な情報は、x、 ibx 、 ibx 、T、T、cuiであり、順に、非

衝突の応答解析による免震層最大変位、衝突直前変位、衝突直前速

度、非衝突中の 次固有周期、衝突中の 次固有周期、衝突中の 次

固有モードi は層を表す。第 層が免震層、ただし、iw の時は擁壁

部である。ここで、 ibx 、 ibx は非衝突の応答解析における、最大応答

発生直前のクリアランスを越える瞬間のものである。

 提案予測法では、非衝突解析における免震層の最大変位発生以前

に、クリアランスを超える回数は少ないことが望ましい注 。提案予

測法とは、擁壁部をばねとダッシュポットでモデル化した際の最大

応答変形と概ね等しくなるような等価な衝突力 wF ′ 以下では提案波と

呼ぶ,式を擁壁衝突部に作用させ、衝突直前の状態を初期条件と

して衝突以後の挙動を時刻歴応答解析により求める手法である。

−′

=′

CxkF ww         

ここで、 ix′、ki は、図 に示す免震層応答変位の予測値、剛性である。

kw、Cは定数であり、 wF ′を求めるために、 x を求める。 x′を次式で表す。

なお、”′ ”を付す変数は、 章のFw、x と区別して、予測値を示す。

Ttxx π=′   ttt ≤≤

ttTtttxCx c −−′−−+=′ π   ttt ≤≤

ここで、t、t・t・t、xi は時刻、図に示す時刻、衝突時の免震層

最大変位の予測値である。まず、非衝突時の固有値解析、応答解析

により T 、x を求め、式を決定する。式については、未知

数は x、t、t、cT ′であるが、t、t は式となり、x、cT ′が表せ

る。

xxTt π=        

cTtt ′+=                  

後の説明の便宜上、x と cT ′の導出を手順 手順 に分けて示す。

 手順 図 に示すように、衝突中 次モード振動仮定時の免震

層最大変位と衝突時間を x 、cT ′ に近似する。また、衝突直前と最大

応答時の建物のエネルギーの釣合から式 が表せる。

EEEEE hssk ++=+           

ここで、 kE 、 sE は衝突直前の運動エネルギー、歪エネルギーで、 sE 、

hE 、 E は最大応答時の歪エネルギー、減衰消費エネルギー、入力エ

ネルギーである。また、 kE 、 sE 、 sE 、 hE 、 E は式となる。

∑=

=N

iibik xmE

      

∑=

−−+=N

ibiibibs xxkxkE

     

∑=

−−++=N

iiiiws xxkxkkE

    

bwwh xxkhkhE −+= π

∑=

−− −−−+N

ibiibiiii xxxxkh

π      

dtE TTt

t

c

∫+

=

Cx > Cx ≤

図  提案免震層変位関係図 図  衝突時間関係図

提案免震層変位

非衝突

衝突中全層1次モード仮定

A

T

T

x

a

b

C

x

t

C

x

x

x

Tt t t

cT ′cT ′

- 388 -

Page 5: パルス性地震動に対する免震建物の擁壁衝突時の最 …( 、、 、 、 ′= 、 、′、 ′ 、′ 、 ∑ = = ∑ = = + − − ∑ = = + + − − ∑ = +

4

壁部は、免震層変位がクリアランスを超えれば働く水平ばねとダッ

シュポットでモデル化し、 章同様、擁壁部の減衰定数 hw は と

して設定する。

 入力波

 パルス性地震動を単純化した式の正弦波パルスを入力波に用い

る。図 に時刻歴波形を示す。ここで、Ap はパルス加速度振幅、Tp は

パルス周期、V p はパルス速度振幅、D p はパルス変位振幅である。

( )

=

ppp TtTVty

ππ             

本論では、V p、T p により正弦波パルスを表すものとする。

 衝突力

 衝突時に建物が擁壁部から受ける反力を、衝突力と呼ぶ。衝突力

Fw は式で表される。

+−

= xcCxk

F www

ただし、x 、k w、c w、C は順に免震層変位、擁壁部剛性、擁壁部減衰

係数、クリアランスである。k w を変化させた時の衝突力の時刻歴波

形を図 に示す。ここで、衝突力Fw が負の値をとる場合があるのは、

式の減衰項の速度 x が負の値をとる場合があるためである。 階、

階、 階モデルともに kw が小さい時は正弦波半波に似た波形であ

るが、kw が増大するにつれて、形は崩れ、 階、階モデルでは、衝

突が複数回起こった。これは 自由度系せん断型モデルで示したよ

うに、k w が大きい時は上部構造と免震層の各応答が卓越する固有振

動数が大きく異なるためである。つまり、擁壁部剛性が大きい場合

には、免震層から直ぐに離れようとするが、上部構造は 次モード

が卓越しており、上部構造全体としては擁壁方向に向かって変形が

進行しているため、擁壁方向へと引き戻されて再び衝突が生ずる。

このような挙動を繰り返すことで、衝突が複数回生ずることとなる。

また、モデルによって擁壁部剛性が増大した時の波形が著しく異な

るが、図 に示したように、階数が多いモデルでは高次の減衰が効

くためである。そして、k w が増大すると高次モードに減衰が効くこ

とで、図 のように衝突直後を除けば余弦波 波に似た波形になる。

 図 に図 の衝突力のフーリエ振幅スペクトルを示す。k w が増大

すると、高振動数が励起する。また、階数が増大すると高振動数の

励起が低振動数に比べ相対的に小さくなっており、階数が多いモデ

ルの方が、高次の減衰が効いていることが、ここでも確認できる。

 衝突時間

 複数回衝突時の衝突時間 cT は始めの衝突から最後の衝突が終るま

での時間とする。擁壁衝突中の 次固有周期 cT を表 に示す。図

に、 階モデルの cT cT を示すが、両者には高い相関があることが

わかる。特殊なケースとしてクリアランス の場合を示すが k w に

関わらず cT cT がに近い値をとる。また、クリアランスが の

場合は入力が増大すると に漸近する。 に達しない理由は、擁

壁衝突までに歪エネルギーが増大しているためである。

 刺激関数・最高次の固有周期

 図 に 階モデルの擁壁衝突中の刺激関数を示す。kw が増大する

と、高次の刺激関数が励起し、高次の影響を受けやすくなる。また、

kwと非常に大きい時、免震層において大きな寄与を示して

いる。このように、k w が増大すると最終的に最高次は免震層を動か

すためのモードになる。図 のフーリエ振幅スペクトルを見ても最

高次付近の固有振動数での値が励起しており、したがって、k w が増

大すると、衝突力にも最高次が励起されるため、正確な解析を行う

kw

kw

kw

kw

T c/Tc(1)

パルス速度振幅Vp[cm/s]

階モデルC

T c/Tc(1)

パルス速度振幅Vp[cm/s]

階モデルC

階 階 階

基礎固定

擁壁部衝突中 次固有周期 T [s]

k w

図 VpTcTc

表  擁壁部衝突中の 次固有周期 cT

刺激関数

kw

刺激関数

kw

刺激関数

kw

kw

kw

kw

固有周期

T i

次数

階モデル

図   階モデルの刺激関数(細線: 次、太線:最高次)

図  固有周期の変化 図 kwTwTcN

階モデル

階モデル

階モデル

T wT

cN

kw

kw

kw

F w

図  k w の大小による波形の特徴の比較

pTt ≤ pTt >

Cx > Cx ≤

5

ためには、最高次まで考慮する必要がある。また、本論では、擁壁

部に減衰を与えたモデルであるため、高次の影響は小さくなってい

るが、擁壁部をばねのみでモデル化した場合に、最高次の励起がよ

り顕著になることも確認しており、高次の重要性がより高くなると

考えられる。

 図 に 階モデルの kw が変化した時の n次固有周期の変化につい

て示す。kwが増大し、kwとなる時、最高次の固有周期のみ

が、特異な値をとっている。ここで、免震層直上の質量m と kwによっ

て決定される固有周期 Tw を式 で定義する。

ww k

mT π=                     

図 に Tw と各モデルの擁壁衝突中の最高次の固有周期 TcN (N は最

高次数)の比Tw/TcNを示す。kwが増大すると、Tw/TcNは に漸近する。

 このように kw を増大させると、免震層において、最高次の刺激関

数が励起し、その結果、衝突力には最高次の振動数が現れる。その

解析時に要求される精度の つの目安として、式の周期を再現で

きるだけの時間刻みが要求される。しかし、kw が小さい時には Tw は

TcNに対して大きな評価となるので、固有値解析を行い、最高次の固

有周期を把握した上で、必要な解析刻みを検討すべきである。

 最大応答予測法

 最大応答予測法として用いる際の前提条件

 、 章と同様に、本章で提案する手法は、上部構造・免震層・擁

壁部の等価線形性を仮定した手法である。ここで、 節以降の解

析結果からも明らかなように、上部構造については擁壁衝突時にお

ける最大層間変形角が、 程度以下であることから等価線形解析

が適用可能と考える。また、免震装置についても等価線形解析で扱

える場合を提案手法の前提とする。一方、擁壁部剛性については、佐

藤らの実大建物の衝突実験のシミュレーション から擁壁部剛性評

価の難しさが指摘されている。また、擁壁衝突位置や建物のねじれ

の有無などに起因して、擁壁衝突のパターンは様々であり、擁壁部

剛性や非線形性も大きく変化する。このような擁壁部剛性評価の不

確定性を考慮して、感度解析により擁壁衝突時の安全性を確認する

ことが望ましいと考える。すなわち、本論文で提案する手法を適用

する際には、免震建物の等価線形モデルを作成し、線形の擁壁部剛

性注 を変化させた感度解析を行い、擁壁衝突時の安全性を検討する

必要がある。

 最大応答予測法概要

 図 のような多質点系せん断型モデルにおける最大応答予測法

(以下、提案予測法と呼ぶ)を提案する。事前の解析により、提案予

測法で必要な情報は、x、 ibx 、 ibx 、T、T、cuiであり、順に、非

衝突の応答解析による免震層最大変位、衝突直前変位、衝突直前速

度、非衝突中の 次固有周期、衝突中の 次固有周期、衝突中の 次

固有モードi は層を表す。第 層が免震層、ただし、iw の時は擁壁

部である。ここで、 ibx 、 ibx は非衝突の応答解析における、最大応答

発生直前のクリアランスを越える瞬間のものである。

 提案予測法では、非衝突解析における免震層の最大変位発生以前

に、クリアランスを超える回数は少ないことが望ましい注 。提案予

測法とは、擁壁部をばねとダッシュポットでモデル化した際の最大

応答変形と概ね等しくなるような等価な衝突力 wF ′ 以下では提案波と

呼ぶ,式を擁壁衝突部に作用させ、衝突直前の状態を初期条件と

して衝突以後の挙動を時刻歴応答解析により求める手法である。

−′

=′

CxkF ww         

ここで、 ix′、ki は、図 に示す免震層応答変位の予測値、剛性である。

kw、Cは定数であり、 wF ′を求めるために、 x を求める。 x′を次式で表す。

なお、”′ ”を付す変数は、 章のFw、x と区別して、予測値を示す。

Ttxx π=′   ttt ≤≤

ttTtttxCx c −−′−−+=′ π   ttt ≤≤

ここで、t、t・t・t、xi は時刻、図に示す時刻、衝突時の免震層

最大変位の予測値である。まず、非衝突時の固有値解析、応答解析

により T 、x を求め、式を決定する。式については、未知

数は x、t、t、cT ′であるが、t、t は式となり、x、cT ′が表せ

る。

xxTt π=        

cTtt ′+=                  

後の説明の便宜上、x と cT ′の導出を手順 手順 に分けて示す。

 手順 図 に示すように、衝突中 次モード振動仮定時の免震

層最大変位と衝突時間を x 、cT ′ に近似する。また、衝突直前と最大

応答時の建物のエネルギーの釣合から式 が表せる。

EEEEE hssk ++=+           

ここで、 kE 、 sE は衝突直前の運動エネルギー、歪エネルギーで、 sE 、

hE 、 E は最大応答時の歪エネルギー、減衰消費エネルギー、入力エ

ネルギーである。また、 kE 、 sE 、 sE 、 hE 、 E は式となる。

∑=

=N

iibik xmE

      

∑=

−−+=N

ibiibibs xxkxkE

     

∑=

−−++=N

iiiiws xxkxkkE

    

bwwh xxkhkhE −+= π

∑=

−− −−−+N

ibiibiiii xxxxkh

π      

dtE TTt

t

c

∫+

=

Cx > Cx ≤

図  提案免震層変位関係図 図  衝突時間関係図

提案免震層変位

非衝突

衝突中全層1次モード仮定

A

T

T

x

a

b

C

x

t

C

x

x

x

Tt t t

cT ′cT ′

- 389 -

Page 6: パルス性地震動に対する免震建物の擁壁衝突時の最 …( 、、 、 、 ′= 、 、′、 ′ 、′ 、 ∑ = = ∑ = = + − − ∑ = = + + − − ∑ = +

6

ここで、hi は減衰定数である。なお、 E は、 cT とし、入力エネル

ギーは評価しない注 。また、 次モードで振動するので次式となる。

uuxxCx cicbi −+=           

式を連立すれば、x が求まる。ただし、xx となれ

ば、xxとする。

 手順 次に cT ′ を求める。衝突時間関係図を図 に示す。 sE 、を

点 a をエネルギー基準とした際の点 b での歪エネルギー、 hE を減衰

消費エネルギー、A i を sk EE + の運動エネルギーをもつ建物の擁壁衝

突時最大変位とすれば式が表せる。

EEEEE hssk ++=+          

∑=

−−++=N

iiiiws AAkAkkE

      

∑=

−−++=N

iiiiiwwh AAkhAkhkhE

ππ   

また、 次モードの振動を考え、次式となる。

uuAA cici ⋅=         

太線kw細線k

w非線形時刻歴応答解析提案予測法

図  最大応答変形角正弦波パルスVp、Tp

R

階モデル

R

階モデル

R

階モデル

層間変位

層間変位

時間

時間

階モデル

階モデル

kw=

kw=

kw=

kw=

kw=

kw=

kw=

図  衝突と等価な力 wF ′ 正弦波パルスVp、Tp

F w

t'

階モデル

F w

t'

階モデル

F w

t'

階モデル

図  層間変位時刻歴(kw、上:非線形時刻歴応答解析、下:提案予測法)

図  提案予測法と非線形時刻歴応答解析の最大層間変形角の高さ方向の最大値R の比較

階モデル,川口波,kw

免震

層変

時間(s)

C

C

(非線形時刻歴応答解析)

階モデル,川口波,非衝突

免震層変位

時間(s)

C

C

図  最大応答予測する衝突と実際の最大応答発生する衝突が異なる場合

表  精度検証の際のパラメータ

兵庫県南部地震 葺合波

新潟県中越沖地震 刈羽波

新潟県中越沖地震 柏崎波

鳥取県西部地震 日野波

台湾集集地震 石岡波

新潟県中越地震 川口波

新潟県中越地震 山古志波

擁壁部剛性

地震波

クリアランス 両側

正弦波パルスVpTp

nc≧

提案

予測法

R

非線形時刻歴応答解析R

nc

提案

予測法

R

非線形時刻歴応答解析R

nc=

提案

予測法

R

非線形時刻歴応答解析R

7

図  時間刻みによる誤差の変化 階モデル クリアランス片側 正弦波パルスVp、Tp (左:非線形時刻歴応答解析、中央:提案予測法、右:柏らの予測法)

式、、を連立すれば、A の 次方程式となりA が求

まり、図 より式となるので、cT ′ が求まる。

ACxATTT ccc −−−=′ π      

以上より求まる x、cT ′を用いて、 wF ′ を求める。

 提案波例

 衝突開始時間を とした提案波を図 に示す。入力波は、正弦波

パルスVp、Tpを入力した。提案波として表すことで、応

答解析せずとも、k w が変化した時の建物応答への影響の理解の促進

が期待できる。例えば図 では、擁壁部剛性が 以上のも

のを同じラインタイプで示しているが、提案波が殆ど変化しないこ

とから、応答も殆ど変化しないことが予測できる。 また、各建物で

は建物規模に大きな差があるため、衝突のエネルギーが大きく違う

ことが、衝突時間 cT ′ に顕著に表れていることが分かる。

 精度検証

 提案予測法と非線形時刻歴応答解析本論では、図 のように擁壁

部を建物から離してモデル化した際の応答解析を非線形時刻歴応答

解析と呼ぶを比較し精度検証を行う。まず、提案予測法が実際の挙

動を模擬できていることを図 の層間変位の時刻歴波形に示す。衝

突時に生ずる衝撃的な波動の建物内の伝播性状を概ね表現できてい

ることがわかる。図 に正弦波パルスを入力した時の上部構造の最

大層間変形角R を示す。誤差が最大となるのは、 階モデルの場

合で、 であり、概ね予測できている。また以下では、クリアラ

ンスを両側に設置した条件で、 地震波を入力する場合、 クリア

ランスを と変化させた場合について検証する。実際の建物で

は免震層にダンパーを設置して、免震層の減衰定数を 程度と

することが多いため、地震波を用いた解析では、実際の免震建物に

近い挙動を再現するために、免震層の減衰定数は と設定した。提

案予測法と非線形時刻歴応答解析における全層の最大層間変形角の

最大値R を図 に示す。非衝突の解析において最大応答以前に

クリアランスを超える回数 n c が 以下であれば、提案予測法によっ

て、一部の例外を除き概ね最大層間変形を評価できることが確認で

きた。ここで、n c= の場合、図中丸印で囲んだ精度が著しく低下し

ている場合がある。この原因を考察するため、 階モデル クリア

ランス両側 kwとした場合の結果を図 に示す。提

案予測法では非衝突の解析より、開始約 秒の第 回目の衝突に

よって最大応答が生ずると考えられるが、非線形時刻歴応答解析で

は、開始約 秒の 度目の衝突により最大応答が生じている。この

最大応答発生時間のずれは、既往の柏らの予測法 や、佐藤らの予測

法 でも同様に生じると考えられ、非衝突の解析結果を基に最大応

答を予測する場合には注意が必要であり、衝突が終了した後の建物

の挙動も解析する必要がある注 。

 時間刻みの精度への影響

 図 に非線形時刻歴応答解析と提案予測法の、時間刻みが変化し

た時の精度の比較を示す。縦軸は、最大応答変形角の高さ方向の最

大値R を、非線形時刻歴応答解析を時間刻み で行った場

合の最大応答変形角の高さ方向の最大値 R * で基準化した値

RR* である。非線形時刻歴応答解析、柏らの提案する最大

応答予測法では、時間刻みが大きくなると、k w が大きい時に精度が

低下する。しかし、提案予測法は提案波が単純明快であるため、時

間刻みに依らず、安定した結果が得られている。また、擁壁部の減

衰を考慮しない場合は、図 に示す衝突力における高次の励起が顕

著になるため、非線形時刻歴応答解析による精度の低下は一層顕著

になる。設計では、提案予測法を簡便な予測法として用い、最後に

章のような、時間刻みを十分に小さくすれば精度が向上する時刻

歴応答解析をすることが効率的であると考えられる。

.まとめ

 本研究はパルス性地震動下における、免震建物の擁壁衝突時の簡

易最大応答予測法の提案を目的としたものである。最大応答予測法

を構築するにあたり、まず、せん断質点系モデルを用いた時刻歴応

答解析により、免震建物の擁壁衝突時の挙動を明らかにした。そし

て、その知見を基に、最大応答予測法を提案を行い、精度検証を行っ

た。以下に得られた知見を示す。

衝突中に建物が受ける力(衝突力)は、擁壁部剛性・建物規模な

どにより著しく変化する。その原因は免震層と上部構造における

卓越周期の違い・減衰定数の変化から説明できる。

擁壁部剛性に関わらず、擁壁への衝突時間は、擁壁に接触してい

る時の 次固有周期の概ね 倍になる。

擁壁部剛性を増大させると、擁壁に接触している時の最高次の固

有周期は免震層上部基礎の質量m と擁壁部剛性 kw を用いて表され

る値 wkm π に漸近する。衝突力にも wkm π の周期が励起さ

れるため、k w が大きい場合の解析では wkm π が追えるような

時間刻みを設定すべきである。

衝突と等価な外力(提案波を擁壁衝突部に作用させ、時刻歴応

R

R

時間刻み

R

R

時間刻み

R

R

時間刻み

kw= k

w= k

w k

w=

- 390 -

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6

ここで、hi は減衰定数である。なお、 E は、 cT とし、入力エネル

ギーは評価しない注 。また、 次モードで振動するので次式となる。

uuxxCx cicbi −+=           

式を連立すれば、x が求まる。ただし、xx となれ

ば、xxとする。

 手順 次に cT ′ を求める。衝突時間関係図を図 に示す。 sE 、を

点 a をエネルギー基準とした際の点 b での歪エネルギー、 hE を減衰

消費エネルギー、A i を sk EE + の運動エネルギーをもつ建物の擁壁衝

突時最大変位とすれば式が表せる。

EEEEE hssk ++=+          

∑=

−−++=N

iiiiws AAkAkkE

      

∑=

−−++=N

iiiiiwwh AAkhAkhkhE

ππ   

また、 次モードの振動を考え、次式となる。

uuAA cici ⋅=         

太線kw細線k

w非線形時刻歴応答解析提案予測法

図  最大応答変形角正弦波パルスVp、Tp

R

階モデル

R

階モデル

R

階モデル

層間変位

層間変位

時間

時間

階モデル

階モデル

kw=

kw=

kw=

kw=

kw=

kw=

kw=

図  衝突と等価な力 wF ′ 正弦波パルスVp、Tp

F w

t'

階モデル

F w

t'

階モデル

F w

t'

階モデル

図  層間変位時刻歴(kw、上:非線形時刻歴応答解析、下:提案予測法)

図  提案予測法と非線形時刻歴応答解析の最大層間変形角の高さ方向の最大値R の比較

階モデル,川口波,kw

免震

層変

時間(s)

C

C

(非線形時刻歴応答解析)

階モデル,川口波,非衝突

免震層変位

時間(s)

C

C

図  最大応答予測する衝突と実際の最大応答発生する衝突が異なる場合

表  精度検証の際のパラメータ

兵庫県南部地震 葺合波

新潟県中越沖地震 刈羽波

新潟県中越沖地震 柏崎波

鳥取県西部地震 日野波

台湾集集地震 石岡波

新潟県中越地震 川口波

新潟県中越地震 山古志波

擁壁部剛性

地震波

クリアランス 両側

正弦波パルスVpTp

nc≧

提案

予測法

R

非線形時刻歴応答解析R

nc

提案

予測法

R

非線形時刻歴応答解析R

nc=

提案

予測法

R

非線形時刻歴応答解析R

7

図  時間刻みによる誤差の変化 階モデル クリアランス片側 正弦波パルスVp、Tp (左:非線形時刻歴応答解析、中央:提案予測法、右:柏らの予測法)

式、、を連立すれば、A の 次方程式となりA が求

まり、図 より式となるので、cT ′ が求まる。

ACxATTT ccc −−−=′ π      

以上より求まる x、cT ′を用いて、 wF ′ を求める。

 提案波例

 衝突開始時間を とした提案波を図 に示す。入力波は、正弦波

パルスVp、Tpを入力した。提案波として表すことで、応

答解析せずとも、k w が変化した時の建物応答への影響の理解の促進

が期待できる。例えば図 では、擁壁部剛性が 以上のも

のを同じラインタイプで示しているが、提案波が殆ど変化しないこ

とから、応答も殆ど変化しないことが予測できる。 また、各建物で

は建物規模に大きな差があるため、衝突のエネルギーが大きく違う

ことが、衝突時間 cT ′ に顕著に表れていることが分かる。

 精度検証

 提案予測法と非線形時刻歴応答解析本論では、図 のように擁壁

部を建物から離してモデル化した際の応答解析を非線形時刻歴応答

解析と呼ぶを比較し精度検証を行う。まず、提案予測法が実際の挙

動を模擬できていることを図 の層間変位の時刻歴波形に示す。衝

突時に生ずる衝撃的な波動の建物内の伝播性状を概ね表現できてい

ることがわかる。図 に正弦波パルスを入力した時の上部構造の最

大層間変形角R を示す。誤差が最大となるのは、 階モデルの場

合で、 であり、概ね予測できている。また以下では、クリアラ

ンスを両側に設置した条件で、 地震波を入力する場合、 クリア

ランスを と変化させた場合について検証する。実際の建物で

は免震層にダンパーを設置して、免震層の減衰定数を 程度と

することが多いため、地震波を用いた解析では、実際の免震建物に

近い挙動を再現するために、免震層の減衰定数は と設定した。提

案予測法と非線形時刻歴応答解析における全層の最大層間変形角の

最大値R を図 に示す。非衝突の解析において最大応答以前に

クリアランスを超える回数 n c が 以下であれば、提案予測法によっ

て、一部の例外を除き概ね最大層間変形を評価できることが確認で

きた。ここで、n c= の場合、図中丸印で囲んだ精度が著しく低下し

ている場合がある。この原因を考察するため、 階モデル クリア

ランス両側 kwとした場合の結果を図 に示す。提

案予測法では非衝突の解析より、開始約 秒の第 回目の衝突に

よって最大応答が生ずると考えられるが、非線形時刻歴応答解析で

は、開始約 秒の 度目の衝突により最大応答が生じている。この

最大応答発生時間のずれは、既往の柏らの予測法 や、佐藤らの予測

法 でも同様に生じると考えられ、非衝突の解析結果を基に最大応

答を予測する場合には注意が必要であり、衝突が終了した後の建物

の挙動も解析する必要がある注 。

 時間刻みの精度への影響

 図 に非線形時刻歴応答解析と提案予測法の、時間刻みが変化し

た時の精度の比較を示す。縦軸は、最大応答変形角の高さ方向の最

大値R を、非線形時刻歴応答解析を時間刻み で行った場

合の最大応答変形角の高さ方向の最大値 R * で基準化した値

RR* である。非線形時刻歴応答解析、柏らの提案する最大

応答予測法では、時間刻みが大きくなると、k w が大きい時に精度が

低下する。しかし、提案予測法は提案波が単純明快であるため、時

間刻みに依らず、安定した結果が得られている。また、擁壁部の減

衰を考慮しない場合は、図 に示す衝突力における高次の励起が顕

著になるため、非線形時刻歴応答解析による精度の低下は一層顕著

になる。設計では、提案予測法を簡便な予測法として用い、最後に

章のような、時間刻みを十分に小さくすれば精度が向上する時刻

歴応答解析をすることが効率的であると考えられる。

.まとめ

 本研究はパルス性地震動下における、免震建物の擁壁衝突時の簡

易最大応答予測法の提案を目的としたものである。最大応答予測法

を構築するにあたり、まず、せん断質点系モデルを用いた時刻歴応

答解析により、免震建物の擁壁衝突時の挙動を明らかにした。そし

て、その知見を基に、最大応答予測法を提案を行い、精度検証を行っ

た。以下に得られた知見を示す。

衝突中に建物が受ける力(衝突力)は、擁壁部剛性・建物規模な

どにより著しく変化する。その原因は免震層と上部構造における

卓越周期の違い・減衰定数の変化から説明できる。

擁壁部剛性に関わらず、擁壁への衝突時間は、擁壁に接触してい

る時の 次固有周期の概ね 倍になる。

擁壁部剛性を増大させると、擁壁に接触している時の最高次の固

有周期は免震層上部基礎の質量m と擁壁部剛性 kw を用いて表され

る値 wkm π に漸近する。衝突力にも wkm π の周期が励起さ

れるため、k w が大きい場合の解析では wkm π が追えるような

時間刻みを設定すべきである。

衝突と等価な外力(提案波を擁壁衝突部に作用させ、時刻歴応

R

R

時間刻み

R

R

時間刻み

R

R

時間刻み

kw= k

w= k

w k

w=

- 391 -

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8

答解析をする手法を提案予測法として提案した。提案予測法は本

研究で用いた 階・ 階・ 階モデルいずれにおいても、各層の

最大応答を概ね予測できた。ただし、階数が多くなると精度が悪

くなる傾向が見られた。また、提案波は、単純明快であり、擁壁

部剛性が変化した時の応答変位への影響の理解を促進するものと

して、簡便な計算により得ることができる。また、提案予測法は、

時間刻みによる影響が小さいという利点がある。

注 感度解析における擁壁部剛性は線形としたが、筆者らは、実免震建物

の擁壁衝突実験を行うとともに、本論文で採用したモデル化と同様の質

点系モデルを用いて衝突挙動を良好に再現できることを確認している

注 図に示すように、非衝突の応答解析をすると、クリアランスを度以

上超えた後に、最大応答となる場合がある。この時の ibx 、 ibx(図中点)は、衝突解析を行った際の点とは異なるため、提案予測法の精度は悪

くなる。そこで、クリアランスを超える回数は少ないことが望ましいと

している。

注)図で示すような収斂計算によって提案波を導出した。x、Tcの右下

の添え字jは、収斂計算のjステップ目を指す。式と異なり、収斂計

算は入力エネルギーを評価したx、Tcを導出した。しかし、収斂計算

の手間に見合う最大応答変形角の精度向上は見られなかったため、簡便

性を優先し、入力エネルギーをゼロとした。また、図中のmの値に

よって収斂する値が異なる、または収斂しない場合があり、その点でも

実用的でないと判断した。

注)佐藤らの予測法ではエネルギー法に基づく手法であるため、衝突終了

後の時刻歴応答を追跡できない。一方、柏らの予測法については、衝

突を考慮しないモデルに対して衝突終了直後の初期条件を与えること

で、衝突後の応答を追跡できる。しかし、このような手法をとったとし

ても、図のように複数回の衝突が生じる際には、柏らの方法では衝突

終了の判定が難しく、衝突終了直後の初期条件を求めることは困難であ

る。本手法は複数回の衝突が生じる場合であっても、衝突終了後の応答

を解析できる。

参考文献

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震荷重,日本建築学会近畿支部耐震構造部会主催シンポジウム,上町断

層帯による想定地震動に対する建物の耐震設計を考える, 川辺秀憲,釜江克宏:上町断層帯の地震を想定した強振動予測,日本建

築学会近畿支部耐震構造部会主催シンポジウム,上町断層帯による想定

地震動に対する建物の耐震設計を考える,

産業技術総合研究所活断層研究センター:大阪湾周辺の地震動地図 地

震動予測研究報告 暫定版, 中央防災会議:東南海、南海地震等に関する専門委員会中部圏・近畿圏

直下地震対策 ,参照

林康裕,森井雄史:予測地震動に対する建築物の応答,大阪を襲う内陸

地震に対して建物をどう設計すればよいか?,日本建築学会近畿支部構

造研究部会シンポジウム資料, 柏尚稔,中安誠明,中島正愛:過大地震動下における免震建物の応答と

損傷特性,構造工学論文集, 中安誠明中島正愛:過大地震下における免震建物の応答と損傷日本建

築学会大会学術講演梗概集,構造Ⅱ,, 三輪田吾郎,小巻潤平,佐藤浩太郎,佐野剛志,勝俣英雄,多幾山法

子,林康裕:実大免震建物の擁壁衝突実験とそのシミュレーション解析,

日本建築学会構造系論文集, 小巻潤平,佐藤浩太郎,三輪田吾郎,佐野剛志,勝俣英雄,多幾山法子,

林康裕:免震建物の擁壁衝突によるロッキング応答,日本建築学会大会

学術講演梗概集,構造Ⅱ小倉正恒,前野敏元,近藤一雄,藤谷秀雄,林康裕,倉本洋:上町断層

帯地震に対する設計用地震動ならびに設計法に関する研究(その)免震

構造建物の設計法,日本建築学会大会学術講演梗概集,構造Ⅱ

佐藤浩太郎,小巻潤平,三輪田吾郎,佐野剛志,勝俣英雄,多幾山法子,

林康裕:擁壁に衝突する免震建物の簡易応答予測法,日本建築学会大会

学術講演梗概集,構造Ⅱ大西良広小巻潤平多幾山法子林康裕:免震建物の擁壁衝突挙動分析の

ための設計事例調査,日本建築学会技術報告集,,,,

安本宏,岡沢理映,多幾山法子,大西良広,林康裕 パルス性地震動に

対する免震建物の擁壁衝突時の最大応答予測法,日本建築学会近畿支部

研究報告集第号構造系,,小巻潤平,三輪田吾郎,多幾山法子,大西良広,林康裕 免震建物の擁壁

剛性評価手法の提案その評価手法の構築,日本建築学会大会学術講演梗

概集,構造Ⅱ,,大町達夫,荒井靖博:個別要素法で用いる要素定数の決め方について,

構造工学論文集,佐藤浩太郎,小巻潤平,三輪田吾郎,佐野剛志,勝俣英雄,多幾山法子,

林康裕:実大免震建物の擁壁への衝突実験(その)擁壁部の抵抗特性,

日本建築学会大会学術講演梗概集,構造Ⅱ

図  収斂計算による提案波導出

非衝突の応答解析により、xib, ,xを求める初期条件としてTcとする

ibx

[手順1]により xjを求める

xj

Tcj=mTcjm

[手順2]によりTcj を求める

Tcj-Tcj<

ステップの前進

TcTcj x xj

非衝突 衝突考慮 クリアランス

x

t

C

図  非衝突・衝突考慮時の初期条件の違い

鉛直荷重を受ける集成材梁-RC 床版合成梁に関する実験的研究 集成材梁とRC床版の一体効果を考慮した合理的部材設計手法の構築 その1 EXPERIMENTAL STUDY ON WOOD-CONCRETE COMPOSITE BEAMS

AS SIMPLE BEAM Proposal of Design Method for Wood-Concrete Composite Beams Part 1

畔柳 歩*,楠 寿博**,稲山 正弘***,五十田 博****

蒲池 健*****,北村 俊夫******,鈴木 創太******* Ayumu KUROYANAGI, Toshihiro KUSUNOKI, Masahiro INAYAMA, Hiroshi ISODA

Ken KAMACHI, Toshio KITAMURA and Souta SUZUKI

This study presents the vertical structural performance of wood–concrete composite beam. This composite beam has a superior performance of fire protecting and sound-proofing. In addition this composite beam is superior to a simple beam in strength, stiffness. But there is not the design method and there are few study accumulations of wood-concrete composite beam system with shear connecter in Japan. In this paper, the result of shear performance of shear connecter between timber beam and reinforced concrete slab is described. The result of bending test is also described and traced by numerical model. They are summarized in 1) the composite beam increases more than 180% in strength and 280% in stiffness to simple timber beam, 2) numerical model traced to the result of bending test accurately. Keywords : Laminated timber beam, Reinforced concrete slab, Composite beam, Flexural strength, Finite element method analysis

集成材梁,RC床版,合成梁,曲げ強度,有限要素法解析

1. はじめに

2010 年に施行された「公共建築物等における木材の利用の促進に

関する法律」により大規模、大スパンの木造建築の需要拡大が期待

されている。これまで小規模建築が主体ともいえる木材を大規模、

大スパン建築に利用する方法はさまざま提案されているが、その一

つとして他の材料と組み合わせた複合部材としての利用がある。こ

こで床版との複合部材を考えた場合、集成材梁と RC 床版を組み合

わせた構造は、構造性能の面からばかりでなく、遮音性や、コンク

リートの持つ熱吸収能力により防火性が向上することからも有効な

複合方法である。構造的には、それぞれ別に鉛直力に抵抗するとみ

なしたものと比較して強度と剛性の向上が見込まれ、一体化を図る

ことで集成材梁断面サイズを小さくでき、加えて剛床が可能になる

ことで合理的な構造設計が可能になるものと予想される。本研究で

は、この集成材梁と RC 床版の合成梁を対象とする。 木梁と RC 床版の合成梁は多くの国々で一般的にみられる工法で

あり、木梁と RC 床版は、木梁の切り欠き部へ充填したコンクリー

トとの勘合、ラグスクリュー等の接合具あるいは両者の複合形とい

った機械的接合により接合される。集成材や LVL などの木梁と RC床版の合成梁は、特にヨーロッパで多くの実験、解析的研究 例えば 1),2)

があり、木造建築の他、木橋にも適用されている。Eurocode 5 3) で

は、付録の技術情報として合成梁の簡易計算法が示されている。一

方、我が国においては北村らによる研究成果 4),5) があるものの、設

計指針 6) が示されている鉄骨梁+RC 床版の合成梁と比較して研究

蓄積は極わずかで、今後普及のために設計法の確立が望まれる。 そこで、本研究では、大規模、大スパンでの適用を視野に入れた

大きなせいをもつ集成材梁と RC 床版を組み合わせた合成梁の鉛直

方向の強度・剛性について検討した。 まず、一体化を左右する要素である梁と床版のせん断性能である

接合部について、接合部仕様の異なる試験体を用意しせん断実験を

実施し、性能を把握した。次いで、合成梁の曲げ実験を実施し、強

度・剛性の向上度合いを把握し、さらに、有限要素法解析により曲

げ実験の結果を追跡した。

* (株)竹中工務店技術研究所 研究員・工修 Researcher, Research and Development Institute, Takenaka Corporation, M. Eng. ** (株)竹中工務店技術研究所 主任研究員・農博 Chief Researcher, Research and Development Institute, Takenaka Corporation, Dr. Agr. *** 東京大学大学院農学生命研究科 教授・工博 Professor, Grad. School of Agriculture Life Sci., Univ. of Tokyo, Dr. Eng. **** 京都大学生存圏研究所 教授・工博 Professor, Laboratory of Structural Function, Kyoto University, Dr. Eng.***** 山田憲明構造設計事務所・農博 Yamada Noriaki Structural Design Office Co., Ltd., Dr. Agr. ****** 齋藤木材工業(株) 室長・工博 Chief, Saito Wood Industry Co., Ltd., Dr. Eng.******* 葛飾区役所・工修 Katsushika Ward Office, M. Eng.

(2013年 ₇ 月10日原稿受理,2013年12月11日採用決定)

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