コクラン共同計画: その展開と今後の展望utdpm/paper2/1999_cochrane-future...186...

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薬剤疫学 Jpn J Pharmacoepidemiol, 4(2) Dec 1999 : 185 ●企画/メ タ ・アナ リシス とその周辺 コクラン共同計画: その展開 と今後の展望 東京医科歯科大学難治疾患研究所情報医学研究部門(臨床薬理学) 津 谷喜一郎 国立がんセンター研究所がん情報研究部 中山 健夫 東大阪短期大学 元和 東京医科歯科大学医学部公衆衛生学 金子 善博 1. じめ に=Evidence-basedMedicine "エ ビデ ンス(ま た は根 拠)に 基 づ く医療 (Evidence-basedMedicine:EBM)"は 「医療の 質 」 の評 価 に対 す る社 会 の 関 心 の 増 大 を 背 景 に, 1990年 代 半 ば か ら急 速 に世 界 規 模 の 潮 流 を形 成 し つ つ あ る.イ ンタ ー ネ ッ トを は じ め とす る情 報 シ ス テ ム の 革 命 的 と も言 え る発 展 か ら機 を一 に し た 恩 恵 を受 け,欧 米 のEBM先 進 国 に さ ほ ど遅 れ る こ とな くEBMの 概 念 は国 内 に積 極 的 に 導 入 さ れ,保 健医療関係者の問に広 く認知され始めてい る.EBMと い う言 葉 が 初 め て 記 載 さ れ た の は,カ ナ ダ ・マ クマ ス タ ー 大 のG.Guyattが 貧血 を疑 わ れた患者 を例に,シ ョットガン的オーダーではな く既 存 の 知 見 に基 づ い た 効 率 良 い 診 断手 順 の 重 要 さを強調 したわ ずか1頁 の論文(1991年)であっ た1).その後,EBMの 定義 を明示 したのが 「臨床 疫学」の第一人者 として世界的な名声 を博 してい たD.Sackett(マ ク マ ス ター大 → 英 ・オ ツク ス フ ォー ド 大)で ある2).その定義によると "Evidence -based Medicine is the conscientious, explicit and judicious use of current best evi- dence in making decisions about the care of individualpatients",す な わ ち,「患 者 個 々 の ケ ア にお ける意思決定 に際 して」「入手可能 な最良 のエ ビデ ンス を」「注意 深 く(意識 して),明示 的に(はっ き りと根 拠 を示 しなが ら),適正 に用 いる こ と」と 言 え る.ど ち らか とい う とそ の 本 質 が 「限定 され た意識の高い臨床医」にのみ受け入れられた観の ある「臨床疫 学」のエ ッセ ンス を,現代 的 にsophis- ticateし て,よ り多くの保健医療関係者の心を捉 える魅力のあるコンセプトとして社会に問われた 姿 がEBMで あ っ た と も 言 え る. 現実の保健医療現場での意思決定は 「限りある 医 療 資 源 」 の も とで,「 医 師 の 専 門 性"clinical expertise"」 「患 者 の嗜 好"patient preference"」 「研 究 の 成 果"research evidence"」3)な どが複雑に 絡 み 合 っ て行 わ れ て い るが,EBMは とくにこの 「研 究 の 成 果"research evidence"」 の領 域 を充 実 させ る体 系的 な手 法 と言 え る(意 思決定全体を問 題 とす る 「医 学 判 断 学"Medica1 Decision Mak- ing"」 と は類 縁 関 係 に は あ る が,具 体 的 な 課 題 は 異 な る). 2. コ ク ラ ン共 同 計 画 とは何 か? コ ク ラ ン共 同 計 画 は1992年に英 国 国 民 保 健 サ ー ビス の 一 環 と して 始 ま り,そ の後世界的に展 開されつつある医療技術評価のプロジェクトであ る4).ラン ダ ム化 比 較 試 験(RCT)を 中 心 に,世 別 刷 請 求 先:〒104-0045 東 京 都 中 央 区 築 地5-1-1国 立 が ん セ ン タ ー 研 究 所 が ん情 報 研 究 部 中山健夫

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  • 薬剤疫学 Jpn J Pharmacoepidemiol, 4(2) Dec 1999 : 185

    ●企画/メ タ ・アナリシスとその周辺

    コクラン共 同計 画:

    その展 開 と今後 の展望

    東京医科歯科大学難治疾患研究所情報医学研究部門(臨 床薬理学) 津 谷 喜一 郎

    国立がんセンター研究所がん情報研究部 中 山 健 夫

    東大阪短期大学 柳 元 和

    東京医科歯科大学医学部公衆衛生学 金 子 善 博

    1.  は じ め に=Evidence-basedMedicine

    "エ ビデ ンス(ま た は根 拠)に 基 づ く医療

    (Evidence-basedMedicine:EBM)"は 「医療の

    質」の評価 に対する社会の関心の増大を背景に,

    1990年 代半ばか ら急速 に世界規模の潮流 を形成

    しつつある.イ ンターネットをはじめとする情報

    システムの革命的とも言える発展か ら機 を一にし

    た恩恵 を受け,欧 米のEBM先 進国にさほど遅れ

    ることな くEBMの 概念 は国内に積極的に導入さ

    れ,保 健医療関係者の問に広 く認知され始めてい

    る.EBMと いう言葉が初めて記載されたのは,カ

    ナダ ・マクマスター大のG.Guyattが 貧血 を疑わ

    れた患者 を例に,シ ョットガン的オーダーではな

    く既存の知見に基づいた効率良い診断手順の重要

    さを強調 したわずか1頁 の論文(1991年)で あっ

    た1).そ の後,EBMの 定義 を明示 したのが 「臨床

    疫学」の第一人者 として世界的な名声 を博 してい

    たD.Sackett(マ クマス ター大→英 ・オ ツクス

    フォー ド大)で あ る2).そ の 定 義 に よ る と"Evidence -based Medicine is the conscientious,

    explicit and judicious use of current best evi-

    dence in making decisions about the care of

    individualpatients",す な わ ち,「 患 者 個 々 の ケ ア

    に お け る意 思 決 定 に際 して 」「入 手 可 能 な 最 良 の エ

    ビ デ ンス を」「注 意 深 く(意 識 して),明 示 的 に(は っ

    き り と根 拠 を示 しな が ら),適 正 に用 い る こ と」と

    言 え る.ど ち らか とい う とそ の 本 質 が 「限 定 さ れ

    た 意 識 の 高 い臨 床 医 」 に の み 受 け入 れ られ た観 の

    あ る 「臨 床 疫 学 」の エ ッ セ ンス を,現 代 的 にsophis-

    ticateし て,よ り多 くの保 健 医 療 関 係 者 の 心 を 捉

    え る魅 力 の あ る コ ンセ プ トと し て社 会 に問 わ れ た

    姿 がEBMで あ っ た と も言 え る.

    現 実 の 保 健 医療 現 場 で の意 思 決 定 は 「限 りあ る

    医 療 資 源 」 の も とで,「 医 師 の 専 門 性"clinical

    expertise"」 「患 者 の嗜 好"patient preference"」

    「研 究 の 成 果"research evidence"」3)な どが 複 雑 に

    絡 み 合 っ て行 わ れ て い るが,EBMは と くに こ の

    「研 究 の 成 果"research evidence"」 の領 域 を充 実

    させ る体 系 的 な手 法 と言 え る(意 思 決 定 全 体 を 問

    題 とす る 「医 学 判 断 学"Medica1 Decision Mak-

    ing"」 と は類 縁 関 係 に は あ る が,具 体 的 な 課 題 は 異

    な る).

    2.  コ ク ラ ン共 同 計 画 とは何 か?

    コ ク ラ ン 共 同 計 画 は1992年 に 英 国 国 民 保 健

    サ ー ビス の 一 環 と して 始 ま り,そ の後 世 界 的 に 展

    開 さ れ つ つ あ る 医 療 技 術 評 価 の プ ロ ジ ェ ク トで あ

    る4).ラ ン ダ ム化 比 較 試 験(RCT)を 中 心 に,世 界

    別刷 請 求先:〒104-0045  東 京都 中央 区築 地5-1-1  国立 が ん セ ンター研 究所 が ん情 報研 究部 中 山健夫

  • 186 企画/メ タ ・アナ リシス とその周辺

    中の臨床試験 を 「システマティック・レビュー(後

    述)」し,そ の結果 を保健医療関係者,政 策決定者,

    そして医療の受 け手(コ クラン共同計画では"コ

    ンシューマー"と 表現されている)に 届けて,合

    理的な意思決定 を支援することを目指 している.

    対象はすべての介入行為であ り,パ ッチワーク的

    に各テーマのシステマティック ・レビューが進行

    中である.シ ステマティック ・レビュー とは,あ

    る医学的介入についてのエビデンスを明らかにす

    るために,世 界中か らの臨床試験をあらかじめ定

    めた基準で網羅的に収集 し,批 判的吟味を加え,

    要約するための方法である.さ まざまなRCTの

    知見をメタ ・アナ リシスによって統合 したシステ

    マティック ・レビューは,エ ビデンスの強さでは

    最上位 に位置づ けられる5).

    1948年 に初 めてのRCTがBMJ誌 に発表 され

    て以来半世紀,す でに世界で50万 ~100万 件 の

    RCTが 行われた とされているが,そ れらの成果は

    近年のデータベース科学の発展を見るまでは大半

    が 「死蔵」 ともいえる状態で放置されていた.コ

    クラン共同計画の試みは 「これまで完全 に忘れさ

    られ見すごされてきた金鉱」 とも,そ の規模 と構

    想のスケールか ら 「ヒト・ゲノム計画にも匹敵す

    る現代医学の巨大プロジェク ト」 とも評されてい

    る4).コクランの名 は,1970年 代 にRCTに よる医

    療技術評価の必要性 を見通した英国の疫学者Ar-

    chiebald Cochrane (1909~1988)に 由来する.彼

    はその著書『効果 と効率』6)の中で,「ヘルスケアに

    関してよ り十分に説明 されて決断 したい人 たち

    が,入 手 可 能 な エ ビ デ ン ス に基 づ く信 頼 で き る レ

    ビ ュ ー に ア ク セ ス で き な い で い る」 こ とを嘆 い た

    が,30年 近 く前 に その よ うな 先 見 的 な 問 題 意 識 を

    表 明 した こ の疫 学 者 の 慧 眼 は真 に賞 賛 に値 す る と

    言 え よ う.

    社 会 生 活 の基 盤 を形 成 す る構 造 物(道 路 ・港 湾 ・

    発 電 所 な ど の産 業 基 盤,学 校 ・病 院 ・公 園 な どの

    社 会 福 祉 ・環 境 施 設)な ど は イ ン フ ラ ス ト ラ ク

    チ ャ ー と 呼 ば れ る が,質 の 高 い 「研 究 の 成 果

    "research evidence"」 を利 用者 に提 供 す る とい う

    役 割 か ら,コ ク ラ ン共 同 計 画 はEBM実 践 に お け

    る情 報 イ ン フ ラ ス トラ ク チ ャー と位 置 付 け られ て

    い る4).

    コ ク ラ ン共 同 計 画 は 全 世 界 の 賛 同 者 が ボ ラ ン

    テ ィ ア ベ ー ス で 維 持 して い る もの で,そ の 存 在 形

    態 はNPO(非 営 利 団 体)の 形 を とっ て い る.

    3. The Cochrane Library

    コ ク ラ ン共 同 計 画 の 主 た る ア ウ トプ ッ トで あ る

    TheCochraneLibraryは シ ス テ マ テ ィ ッ ク ・レ

    ビ ュ ー の 結 果 を含 め6種 類 の デ ー タベ ー ス ・サ ブ

    セ ッ トを収 載 し て い る(表1,2) .シ ス テ マ テ ィ ッ

    ク ・レ ビュ ー は,進 行 中 を含 め す で に1,000件 を

    超 え るが,レ ビ ュ ー が終 わ っ た もの は抄 録 部 分 が

    英 語 版(http://www.nihs. gojp/acc/cochrane/

    revabstr/mainindex.htm),日 本 語 版(http://

    www.nihs.go.jp/dig/cochrane/jp/revabstr/jp/

    abidx.htm)と も,ホ ー ム ペ ー ジ で 無 料 公 開 され て

    い る.

    Preparing, maintaining and promoting the accessibility of systematic

    reviews of the effects of health care.

    図 1 コ ク ラ ン ・ロ ゴ

  • 薬剤疫学 Jpn J Pharmacoepidemiol, 4(2) Dec 1999 : 187

    The Cochrane Library にはRCTを 中心 とし

    た臨床試験のデータベースであるCENTRALが

    含まれ る.CENTRALはRCTな どの論文の書誌

    事項を掲載 したデータベースである.米 国国立医

    学図書館(NLM)に よるMEDLINE,エ ルゼビア

    社 によるEMBASEな どか ら電子的 に検索 され

    た ものに加 え 「ハ ンドサーチ」によって確認され

    た文献 を含む22万 件余(The Cochrane Library

    1999 issue 2)の 文献情報が蓄積 されている.「ハ

    ンドサーチ」とは,RCTの 論文をもれな く確認す

    るために,論 説記事,投 稿文な どを含めて,雑 誌

    を1ペ ージ1ペ ージ手作業で,計 画的に検索する

    ことを指す.こ の書誌事項 には,コ クラン共同計

    画が「ハ ンドサーチ」によってRCTと 確認 した論

    文,CCT (Controlled Clinical Trials.ラ ンダム

    化 されていない臨床比較試験)の 論文,確 認未実

    施(not assessed)の 別が記載されている.電 子的

    に検索された分については順次 「ハンドサーチ」

    によって確認作業が行われ,デ ータが更新 されて

    いる.

    コ ク ラ ン共 同 計 画 は,英 語 文 献 に限 らず,国 際

    的 にRCTな どの収 集 を行 っ て い る が,各 国 で 電

    子 的 検 索 また は 「ハ ン ドサ ー チ 」 に よ っ て見 い だ

    され た 臨 床 試 験 の 書 誌 情 報 が まずCENTRALに

    掲 載 さ れ る.一 定 のquality contro1の プ ロ セ ス を

    経 た もの は"Cochrane Controlled Trials Regis-

    ter (CCTR)"と い うデ ー タベ ー ス ・サ ブ セ ッ トに

    入 る.CENTRALやCCTRが 活 用 さ れ れ ばエ ビ

    デ ン ス を 求 め る 人 々 や シ ス テ マ テ ィ ッ ク ・レ

    ビ ュ ー を行 う人 々 の 負 担 が著 し く軽 減 され る.

    コ ク ラ ン共 同 計 画 に よ っ てRCTやCCTと 判

    定 さ れ た もの の う ち,MEDLINE由 来 の 論 文 に つ

    い て は,そ の書 誌 情 報 にRCTやCCTの 情 報 を 書

    き加 え る作 業 がNLMと の協 定 に よ り1996年 か

    ら行 わ れ て い る.こ れ に よ りMEDLINE上 で

    RCT,CCTの 文 献 を検 索 す る場 合 の"sensitivity"

    (探 す べ き も の を探 し出 せ る割 合)が 向 上 す る.

    MEDLINEは イ ン タ ー ネ ッ ト上 で"PubMed"と

    して 無 料 公 開 され て お り,世 界 で 最 も普 及 して い

    る医 学 デ ー タベ ー ス で あ る.そ れ は 同 時 にMED一

    表1  The Cochrane Library とそ の デ ー タ ベ ー ス

    The Cochrane Libraryは 年4回 発 行 され,6種 類 の デー タ ベ ー ス を収載 し て い る.1999年issue 2収 載 の

    デ ー タ件 数 を示 す.

    表2  The Cochrane Library問 い 合 わ せ 先

  • 188 企画/メ タ ・アナ リシス とその周辺

    LINEが 世 界 で 最 も高 い 信 頼 性 を期 待 さ れ て い る

    デ ー タ ベ ー ス の 一 つ で あ る こ とを意 味 す る.コ ク

    ラ ン共 同 計 画 は そ の名"collaboration"の 通 り,

    パ ー トナ ー との建 設 的 な 関 係 を築 く こ とで ,相 互

    の質 の 向 上 と,そ の 目標 で あ る 「求 め て い る人 間

    が 必 要 な 情 報 を手 に入 れ る こ とが で き る」 社 会 環

    境 の整 備 に貢 献 して い る と言 え よ う.

    4.  コ ク ラ ン共 同計 画 の 展 開

    コ ク ラ ン共 同計 画 の 公 式 年 譜 を表3に 示 す .こ

    の 数 年 で の コ ク ラ ン共 同 計 画 の 発 展 は瞠 目す べ き

    で あ る.現 在 も共 同 レ ビ ュ ー グ ル ー プ(CRG)と

    し て 「麻 酔 」 「リ ンパ 腫 ・血 液 病 」 「代 謝 ・内 分 泌

    異 常 」 グル ー プ が,方 法 論 作 業 グ ル ー プ(MWG)

    と し て 「薬 の 安 全 性 」 「非 ラ ン ダ ム化 試 験 」 「質 的

    研 究 」 「QOL」 な どが 待 機 し て い る.コ ク ラ ン共 同

    計 画 の最 終 目標 で あ る「す べ て の ヘ ル ス ケ ア介 入 」

    の カ バ ー を 目指 し て,今 後 もそ の 活 動 領 域 は 大 き

    く拡 大 さ れ て い く こ とで あ ろ う(http://hiru.

    mcmaster.ca/cochrane/cochrane /cchronol .

    htm).

    5.  現 在 の 体 制

    1) 活 動方 針

    コ ク ラ ン共 同計 画 の活 動 は9つ の 方 針 に基 づ い

    て い る(http://hiru.mcmaster. ca/cochrane/co-

    chrane/stratp 96. htm).

    (1) Collaboration… 共 同 計 画 は,内 部 で も対 外

    的 に も コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンが 良 く,開 か れ た 意 志

    決 定 とチ ー ム ワ ー ク に支 え られ て い る.

    (2) Building on the enthusiasm of individuals

    … 個 人 の 熱 意 に基 づ き,そ れ ぞ れ の 技 能 や 立 場 の

    人 た ちが 動 き,支 え て い る.

    (3) Avoiding duplication… 作 業 の 重 複 を避 け る

    た め に,成 果 を最 も生 か せ る よ う運 営 と コー デ ィ

    ネ ー トに努 め る.

    (4) Minimising bias… バ イ ア ス を最 小 にす るた

    め に,科 学 的厳 格 さ や,広 範 囲 か らの 参 加 を保 証

    し,利 害 の摩 擦 を避 け るな ど,さ ま ざ ま な取 り組

    み を す る.

    (5) Keeping up to date… つ ね に新 し くあ る た め

    に,コ ク ラ ン ・レ ビ ュ ー は新 し い エ ビデ ン ス を 探

    し,そ れ を組 み込 み 続 け て い る.

    (6) Striving for relevance… 今 日 的 課 題 に焦 点

    を あ て るた め に,人 々 が ヘ ル ス ケ ア の あ れ これ を

    選 ぶ た め に重 要 な ア ウ トカ ム を用 い て,ヘ ル ス ケ

    ア の介 入 の 評 価 を推 進 す る.

    (7) Promoting access… ア ク セ ス を 確 保 す る た

    め に,コ ク ラ ン共 同計 画 の 成 果 を,既 存 の組 織 や

    シ ス テ ム と提 携 し,世 界 中 の ユ ー ザ ー に適 正 な価

    格,内 容,媒 体 で届 け る.

    (8) Ensuring quality… 確 か な質 の た め に,批 判

    は受 け入 れ,ま た そ れ に答 え,方 法 を進 歩 させ,

    質 の 改 善 の た め に シ ス テ ム を開 発 す る.

    (9) Continuity… 継 続 す るた め に,レ ビ ュ ー,編

    集 プ ロ セ ス,重 要 な機能 に関 す る責 任 は確 実 に維

    持 し更 新 す る(原 則 の第9は1998年10月 に 追 加

    され た).

    2)  コ クラ ン共 同計 画 の構成

    各 国 の 人 々 は,共 同 レ ビ ュー グ ル ー プ,方 法 論

    作 業 グ ル ー プ,フ ィー ル ド,コ ン シ ュ ー マ ー ・ネ ッ

    トワー ク な どに参 加 し,各 国 内 と管 轄 国 の サ ポ ー

    トは コ ク ラ ン ・セ ン タ ー が,全 般 の運 営 は運 営 委

    員 会 が行 っ て い る.

    ■ 共 同 レ ビ ュ ー グ ル ー プ(Collaborative Review

    Group: CRG)

    コ ク ラ ン 共 同 計 画 の 主 な 作 業 は 約50のCRG

    が 行 い,コ ク ラ ン ・レ ビ ュ ー が 作 ら れ,手 入 れ

    (maintain)さ れ て い る.研 究 者,保 健 医 療 従 事 者,

    ヘ ル ス サ ー ビ ス を受 け る人(コ ン シ ュ ー マ ー)が

    グ ル ー プ を構 成 し,予 防,治 療,リ ハ ビ リ に関 す

    る個 別 な い し複 数 の 問題 に つ い て,信 頼 性 の あ る,

    最 新 のエ ビデ ン ス を社 会 に送 り出 して い る.

    ■ 方 法 論 作 業 グ ル ー プ(Methods Working

    Group: MWG)

    コ ク ラ ン共 同 計 画 が 用 い る多 様 な研 究 成 果 の 統

    合 手 法 は まだ揺 藍 期 に あ り,急 速 に 発 展 しつ つ あ

    る.MWGは 新 しい 方 法 論 を 開発 し,コ ク ラ ン共

    同計 画 に対 し シス テ マ テ ィ ッ ク ・レ ビ ュー の妥 当

    性 や精 度 を改 善 す る方 法 を提 言 す る役 割 を担 う.

    例 え ば,「 解 析 方 法 」MWGは 各 種 デ ー タ を統 計 的

    に統 合 す る方 法 を評 価 し,「 適 応 と勧 告 」MWGは

  • 薬剤疫学 Jpn J Pharmacoepidemiol, 4(2) Dec 1999 : 189

    表 3 コクラン共同計画年譜 http : //hiru.mcmaster.ca/cochrane/cochrane/cchronol. htm

  • 190 企画/メ タ ・アナ リシス とその周辺

    表3  つ づ き(1)

  • 薬剤疫学 Jpn J Pharmacoepidemiol, 4(2) Dec 1999 : 191

    レビューの結果に基づいてどのような 「診療への

    示唆」を提言するか,と いう課題 を探求 している.

    ■フィール ド(Field)

    フィール ドは疾病別の課題ではな く,ケ アの設

    定(例 えばプライマ リ・ケア),コ ンシューマーの

    タイプ(例 えば高齢者),介 入のタイプ(例 えば代

    替医療)に 焦点をあてたものである.フ ィール ド

    のメンバーは,関連する研究の専門家の情報検索,

    そのフィール ドでの優先度 と見通 しがレビュー ・

    グループの作業に反映 されるような支援,特 別 な

    デ ー タ ベ ー ス の編 集,外 部 の 関 連 団体 との 活 動 を

    調 整,各 領 域 に 関 連 し た シ ス テ マ テ ィ ッ ク ・レ

    ビ ュ ー へ の コ メ ン トな ど を行 っ て い る.

    ■ コ ン シ ュ ー マ ー ・ネ ッ ト ワ ー ク(Consumer

    Network)

    コ ン シ ュ ー マ ー ・ネ ッ トワ ー ク は,コ ク ラ ン共

    同 計 画 に参 加 し て い る コ ン シ ュ ー マ ー に 情 報 と

    ネ ッ トワ ー ク の フ ォ ー ラム を提 供 し,世 界 中 の コ

    ン シ ュ ー マ ー ・グル ー プ の 連 絡 係 とな っ て い る.

    表3  っ づ き(2)

  • 192 企画/メ タ ・アナ リシス とその周辺

    ■ コ ク ラ ン ・セ ン タ ー(Cochrane Center)

    各CRG,MWG,フ ィー ル ド,コ ン シ ュ ー マ ー ・

    ネ ッ トワ ー ク の 作 業 は 円 滑 に進 む よ う に,世 界 各

    地 の15の コ ク ラ ン・セ ンタ ー に よっ て さ ま ざ まな

    調 整 を受 け て い る.セ ンタ ー は教 育 研 修 な どの分

    野 で コ ク ラ ン 共 同 計 画 の メ ン バ ー を 支 援 し,各

    国 ・地 域 に お け る コ ク ラ ン共 同 計 画 の 目的 達 成 を

    推 進 す る役 割 を担 って い る.

    ■ 運 営 委 員 会(Steering Committee:SC)

    登 録 さ れ たCRG,MWG,フ ィー ル ド,コ ン

    シ ュ ー マ ー ・ネ ッ トワ ー ク,各 コ ク ラ ン ・セ ン タ ー

    は,運 営 委 員 会 メ ンバ ー の選 出 と年 次 総 会 に あ た

    り投 票 資 格 を持 っ て い る.運 営 委 員 会 は12名 で,

    年2回(例 年10月 の コ ロ キ ア ム 時 と2月)会 合 す

    る.こ の2回 の 会 合 以 外 に も各 種 作 業 部 会 は電 話

    会 議 で 定 例 会 を行 う.運 営 委 員 会 の 決 定 は コ ク ラ

    ン共 同 計 画 企 画 書 に計 画 され た 目標 と目 的 に 従 っ

    て行 わ れ る.

    ■事 務 局

    運 営 委 員 会 お よ び各 作 業 部 会 は英 国 に あ る事 務

    局 が サ ポ ー トして い る.

    ■ 支 援 者 と支 援 団 体

    コ ク ラ ン共 同計 画 の作 業 は各 国 の各 種 団 体 や基

    金 に よ り支 え られ て お り,The Cochrane Library

    に謝 辞 が 掲 載 さ れ て い る.

    6.取 り上 げ られ て い る テ ー マ

    CRGが 取 り組 ん で い る 実 際 の テ ー マ に は ど ん

    な 内 容 の もの が あ るの だ ろ うか.こ こで は最 もレ

    ビ ュー が 進 行 し,管 理 され て い るCRGの 一 つ で

    あ る脳 卒 中 グ ル ー プ に よ る シ ス テ マ テ ィ ッ ク ・レ

    ビ ュー の成 果 の リス トを紹 介 す る(表4) .日 本 語

    版 はThe Cochrane Library 1998, Issue 4に 対 応

    し て い る(http : //www.nihs.go.jp/dig/co-

    chrane/jp/revabstr/jp/strokegr .htm).

    7.シ ス テ マ テ ィ ッ ク ・レ ビ ュー 抄 録 の 実 際

    コ ク ラ ン デ ー タ ベ ー ス"シ ス テ マ テ ィ ッ ク ・レ

    ビ ュ ー"(CDSR)か ら提 供 され る レ ビ ュー 結 果 の

    実 際 を 紹 介 す る.「脳 卒 中 に対 す る組 織 化 した 入 院

    ケ ア(脳 卒 中 ユ ニ ッ ト)」の有 効 性 に 関 す る シ ス テ

    マ テ ィ ック ・レ ビ ュー の 抄 録 を例 示 す る.こ の テ ー

    マ につ い て の シス テ マ テ ィ ッ ク ・レ ビ ュー は1998

    年3月17日 に い っ た ん 終 了 し て お り(http://

    www.nihs.go.jp/dig/cochrane/jp/ revabstr/

    ab000197.htm),邦 訳 され た 結 果 がWeb上 で 読

    め る(http://www.nihs.gojp/dig/ cochrane/jp/

    revabstr/jp/jp000197.htm).し か し邦 訳 の直 後,

    1998年10月28日 に レ ビ ュー が 更 新 さ れ て い る

    (http://www.nihs.go.jp/acc/cochrane/ revab-

    str/ab000197.htm).コ ク ラ ン共 同 計 画 の シ ス テ

    マ テ ィ ッ ク ・レ ビ ュー が 適 切 に 「手 入 れ 」 さ れ て

    い る事 実 と,「 翻 訳 」と い うプ ロ セ ス に不 可 避 で あ

    る 「情 報 把 握 の タ イ ム ・ラ グ 」 の 現 実 を認 識 さ せ

    られ る実 例 で あ る.

    「脳 卒 中 後 の 組 織 化 し た入 院 患 者(脳 卒 中 ユ ニ ッ ト)の

    ケ ア 」"Organised inpatient (stroke unit) care after

    stroke" Stroke Unit Trialists' Collaboration

    本 テー マ に関す る システ マテ ィック ・レ ビュー につ

    い て1998年10月28日 に実質 的 な追 加 が行 わ れ た.

    コ クラ ン ・レ ビュー は必要 に応 じて規則 的 なチ ェ ッ ク

    と更新 を受 けてい る.

    背景 と目的(Background and Objectives):「 脳卒

    中ユニ ッ ト」は脳 卒 中患者 の治療 に限定 され た病 棟 ま

    た はチ ーム で あ り,一 連 の複 合 的 なア セス メ ン トや リ

    ハ ビ リテー シ ョンを含 む一 連 の 障 害 回 復 サ ー ビ ス を

    提供 す る もので あ る.こ の レビュー の 目的 は脳 卒 中後

    の 患者 に対 す る従 来 の ケア と比 較 した脳 卒 中 ユ ニ ッ

    トでの ケア の効 果 を評 価 す る もの で ある.

    検 索方 法(Search strategy):コ ク ラ ン 「脳 卒 中」

    グル ー プの臨床 試験 デー タベ ース,参 考文 献 リス トの

    検 索 と この領域 の研 究者 へ の確認.

    選択 基準(Selection criteria):「 脳 卒 中ユ ニ ッ ト」

    と従来 の ケ アを比較 した ラ ンダム化 ・準 ラ ンダム化比

    較 試験.

    デ ータ収 集 と解析(Data collection and analy-

    sis):2人 の レ ビュー ワーが 試験 の適格 性 と質 を独立

    に評 価 した.主 任 レ ビュー ワーが未 発表 の試 験 の コー

    デ ィネー ター に構 造 化面 接 を行 った.

    主 な結果(Main results):20試 験 が対 象 となっ た.

    「脳 卒 中ユ ニ ッ ト」は最終 の レビ ュー(経 過観 察 の中央

    値1年)に 記録 された死 亡 オ ッズ の減 少 に関連 して い

    た.オ ッズ比 は0.83(95%信 頼 区間0.71-0.97)で あ っ

  • 薬剤疫学 Jpn J Pharmacoepidemiol, 4(2) Dec 1999 : 193

    表4  共同 レビューグループが取 り上 げてい るテーマ(脳 卒 中グループの例)

  • 194 企画/メ タ ・アナ リシス とその周辺

    表4  つづ き

  • 薬剤疫学 Jpn J Pharmacoepidemiol, 4(2) Dec 1999 : 195

    た.最 終 レビュー 時点 での死 亡 また は入院 の オ ッズ は

    死 亡 また は要 介 護状 態 のオ ッズ に比 して 小 さか った

    (オ ッズ比 はそれ ぞれ0.76,95%信 頼 区 間0.65-0.90,

    0.75,95%信 頼 区間0.65-0.87).サ ブ ・グル ー プの分

    析 に よ る と脳 卒 中ユ ニ ッ トの優 位 さ は,患 者 の年齢,

    性別,脳 卒 中 の重症 度,脳 卒 中ユニ ッ トの運 営形 態 と

    は独 立 で あ るこ とが 示 された.試 験 の知見 は均 一 で は

    なか ったが,脳 卒 中 ユニ ッ トの利 用 によ り在 院期 間が

    長 くな る とい う こ とはなか った.

    レ ビュー ワーの 結 論(Reviewers'conclusions):

    「脳 卒 中 ユニ ッ ト」 で 治療 された脳 卒 中の入 院 患者 は

    発 症1年 後 の時 点 での生 存,自 立,家 庭 生活 へ の復帰

    の可 能 性 は よ り高 い.そ の 優位 さ は特 殊 な患者 群 や

    「脳 卒 中 ユニ ッ ト」のケ アの形 式 に限定 され なか った.

    在 院期 間 の系統 的 な延長 は観 察 され なか った.

    Citation : Stroke Unit Trialists' Collaboration.

    Organised inpatient (stroke unit) care after stroke.

    In : The Cochrane Library, Issue 3, 1999, oxford:

    Update Software.(大 西 ・三瀬 に よる旧 レ ビュー の 日

    本 語訳 を参 考 に して筆者 が翻 訳)

    8.  コ ク ラ ン共 同計 画 の イ ンパ ク ト

    コ ク ラ ン共 同 計 画 は 世 界 各 国 に お け る 実 地 臨

    床,研 究 課 題 の設 定 そ し て公 衆 衛 生 施 策 に 大 き な

    影 響 を及 ぼ し て い る.コ ク ラ ン・ニ ュ ー ス(http://

    hiru.mcmaster.ca/cochrane/cochrane/

    ccimpact.htm)に は 全 世 界 か ら コ ク ラ ン ・レ

    ビ ュ ー が 活 用 さ れ た35の 事 例 が 紹 介 され て い る.

    そ の うち の い くつ か を紹 介 す る.

    ●そ の1カ ナ ダ で は コ ク ラ ン・レ ビ ュー が 「集 学

    的 脳 卒 中 ユ ニ ッ ト」の有 効 性 を示 した こ とに よ り,

    脳 卒 中 対 策 の 予 算 カ ッ トを避 け る こ とが で き,削

    減 の 危 機 に頻 して い た作 業 療 法 士 の人 員 が 確 保 さ

    れ る こ とに な った.

    ● そ の2新 し い 臨 床 試 験 に 資 金 を 提 供 す る 前

    に,英 国 医学 評 議 会 は 申 請 者 に対 して,シ ス テ マ

    テ ィ ッ ク ・レ ビ ュ ー が され て い るか,さ れ て い る

    と した らそ の 知 見 は何 で あ る か答 え る こ と を求 め

    る こ と に し た.さ ら に 評 議 会 は シ ス テ マ テ ィ ッ

    ク ・レ ビ ュー の著 者 に新 し い研 究 の 採 否 審 査 を担

    当 す る よ う に要 請 して い る.

    ●そ の3多 くの 国 で 医 学 教 科 書 の 執 筆 者 が コ ク

    ラ ン ・レ ビ ュ ー を 参 照 す る よ う に な っ て い る.

    ●そ の4乳 が ん に 関 す る コ ク ラ ン ・レ ビ ュ ー グ

    ル ー プ はオ ー ス トラ リア で の 進 行 乳 が ん 診 療 ガ イ

    ドラ イ ンの 策 定 に 貢 献 した.

    ●そ の5コ ク ラ ン ・レ ビ ュー は英 国,カ ナ ダ,イ

    ン ド,オ ー ス トラ リア で の 喘 息 診 療 ガ イ ドライ ン,

    英 ・ウ ェー ル ズ にお け る有 効 性 評 価 プ ロ トコ ル の

    作 成 に活 用 さ れ た.

    ●そ の6北 米 政 府 が 支 援 す る 「エ ビ デ ン ス に 基

    づ い た 診 療 セ ン ター 」 は,コ ク ラ ン ・レ ビ ュ ー グ

    ル ー プ,コ ク ラ ン ・セ ン ター と協 力 関 係 に あ り,

    実 際 に コ ク ラ ン ・ラ イ ブ ラ リを活 用 し て い る.

    ●そ の7コ ク ラ ン ・レ ビ ュ ー は米 ・ス タ ン フ ォー

    ド大 学 で 試 験 的 に行 わ れ て い る臨 床 意 思 決 定 の 教

    育 プ ロ グ ラ ム に採 用 され て い る.

    ● そ の8ブ ラ ジル ・コ ク ラ ン ・セ ン タ ー は 「エ ビ

    デ ン ス に基 づ い た の 医 学 文 化 」 を作 り出 す こ とに

    貢 献 し て い る.セ ンタ ー はEBMを 扱 った 全 国 放

    送 の テ レ ビ番 組550の 作 成 に 主体 的 に 関与 した.

    ●そ の9 British Medical JournalとAmerican

    College of Physicianは 一 般 臨 床 医 の診 療 手 引 き

    とな る 臨床 的 有 効 性 の 一 覧 に コ ク ラ ン ・レ ビ ュ ー

    を取 り入 れ て い る.

    ●そ の10コ ク ラ ン ・レ ビ ュー 普 及 に 力 を注 ぐ英

    国 国 営 医 療 局 は女 性 の た め の"イ ン フ ォー ム ド ・

    チ ョイ ス"リ ー フ レ ッ トの 作 成 に 際 し て コ ク ラ

    ン ・レ ビ ュー を活 用 し た.

    9.  コ ク ラ ン共 同計 画 に 関 す る国 内 の 動 き と今 後

    の課 題

    1) 国内 の動 き

    国 内 で は正 式 の コ ク ラ ン ・セ ン タ ー 設 立 に は

    至 っ て い な い が,「 緩 や か な人 の ネ ッ トワー ク」を

    目指 して,The JApanese informal Network for

    the CO chrane Collaboration (JANCOC,代 表 ・

    津 谷 喜 一 郎http://www.cph.mri.tmd.ac.jp/

    JANCOC/HomePage.htm1)が1994年 に 設 立 さ

    れ,コ ク ラ ン共 同計 画 の 日本 へ の 普 及 ・啓 発 活 動

    を行 っ て い る.

    (1) セ ミナ ー ・ワー ク シ ョ ップ の 開 催 … 過 去1

    年 で はJANCOC/ユ サ コ ジ ョイ ン トEBMRセ ミ

    ナ ー(大 阪/東 京),第2回Evidence-Based Medi-

  • 196 企画/メ タ ・アナ リシス とその周辺

    cineセ ミナー(自 治医科大学地域医療学研究室共

    催),第2回 システマティック ・レビューワーク

    ショップ,ま た医薬 ビジランスセ ミナー(第1回 ・

    第2回/TIP・JIP共 催)な どを行い多 くの参加者

    を得た.

    (2) 出版活動…『コクラン共同計画資料集』4),"Effectiveness and Effi

    ciency"6)と"Systematic

    Reviews"7)と の日本語版の発行,お よびそれ らの

    出版サポー トを行 った.

    (3) コクラン ・レビューの抄録翻訳…主に薬剤

    師 と医師がボランティアとしてThe Cochrane

    Libraryに 収載 されているコクラン ・レビューの

    抄録の翻訳作業を進めている.前 述のとお り,そ

    の成果はWeb上 において無料で閲覧できる.

    (4) 日本語RCT論 文のCENTRAL収 載 の推

    進…日本語で発表 されたRCTは 約1万 件 と推定

    され,こ れらの成果に対する各国関係者の関心は

    高い.1998年 度 より文部省科学研究費補助金 「研

    究成果公 開促進費」を受 けて,こ れ らの論文 を

    CENTRALに 収載す るプロジェク トが進 められ

    ている8).登 録に際 しては抄録の英文化が行 われ

    るが,こ れらの成果に海外か らもアクセスできる

    ようになれば,世 界的 レベルのEBMの 実践に貢

    献するだけでな く,日 本 における臨床研究の質的

    向上,さ らに他の分野における研究の国際交流の

    可能性が高 まることが期待 される.

    JANCOCの 機能 はその趣 旨上,既 存の団体に

    対 して排外的なものではない.従 来 より適正な医

    療の提供 を目指 して活動 してきたTIP(代 表 ・別

    府宏囹),JIP(代 表・浜六郎),愛 知県臨床疫学研

    究会,大 阪 の医療 問題研 究 会(http://www.

    geocities.cojp/Athlete-Athene/2800/)な ど各グ

    ループがJANCOCを 通 じて相互 に連絡 を取 りつ

    つ,コ クラン共同計画が日本に適切に導入 される

    ことを目的に独自の活動を展開している.

    2) 今後の課題

    次にわが国におけるコクラン共同計画に対する

    今後の課題 を整理する.

    (1) システマテイツク ・レビューへのレビュー

    ワーとして参加

    著者の一人(柳)と その共同研究者 ・橋本 は実

    際にコクラン ・レビューに参加 しているが,そ の

    出発点は日本の臨床試験に対する真摯 な反省にあ

    る9~12).そこで培った批判 的視点 が レビューグ

    ループで評価された と言えるだろう.そ の経験 に

    ついては,各種のセミナーを通 じて紹介 している.

    前述 したように日本語情報に対する関係者の関心

    は高 く,日 本人のレビューワー としての積極的な

    参加が期待されている.関 心のある方は,CDSR

    に記 されているCRGに 直接手紙 を書 くことを勧

    める.た だしコクラン共同計画では電子メールの

    使用(添 付 ファイルを含む)を 前提に活動してい

    るので,イ ンターネットを利用 されるほうが望 ま

    しい.大 学関係者の推薦があれば大学のサーバー

    を利用できることも多いので,身 近な方 に相談す

    ることを強 くお勧めする.

    (2) エ ビデンスを作 る立場 としての関与

    コクラン共同計画においてがん領域は他のテー

    マに比 して取 り組みが遅れていた感があった.し

    かしThe Cochrane Libraryの 中にがんに特化し

    た"Cancer Library"を 立ち上げるプロジェク ト

    が進行 中であ り,日 本の国立がんセンターにも協

    力の要請が来ている.

    わが国の臨床試験の質的問題はすでにさまざま

    な形で指摘されている.臨 床試験の成果をもって

    世界のEBM推 進に貢献 したいと願って も,臨 床

    試験自体の妥当性 に疑義が呈 され続 けている現状

    ではその希望 も萎 えかねない.コ クラン共同計画

    を活用することで,保 健医療従事者,コ ンシュー

    マー,そ して行政サイ ドの臨床試験に対する認識

    が深 まってい くで あろ うし,世 界で認 め られ る

    CRGに 採用されるような臨床試験を実施する,と

    い う目標設定は,臨 床試験にかかわる人々にとっ

    てその質 を向上させ る努力の具体的な方向を指 し

    示す ものとなろう.

    臨床試験の質を考 える際に,コ クラン共同計画

    は鏡の役割 を果たす.具 体的にどのような形でそ

    の成果を臨床試験の改善 に結びつけていくか,直

    接の関係者のみならず,社 会全体が共有すべき課

    題 となってい くであろう.

    (3)コ クラン ・センター設立に向けての要件

    現在コクラン・センターは13ヵ 国に15ヵ 所開設

  • 薬剤疫学 Jpn J Pharmacoepidemiol, 4(2) Dec 1999 : 197

    されている.い わゆる先進国G8の うち,米 国,

    英国,フ ランス,ド イツ,イ タリア,カ ナダでは

    センターが各国の司令塔 として機能 していると同

    時に,自 国の経験を世界 に向けて発信している.

    現在の日本 は(挑 発的な言い方が許 されるのなら

    ば)ロ シアとともに 「コクラン ・センターのない

    世界でただ2つ の 『先進国』」 ということになる.

    英国コクラン ・センターは非営利団体 として英

    国医療評議会(MRC),ナ フィール ド財団,英 国製

    薬会社協会か らの資金援助に加 え,イ ングラン ド,

    スコットランド,ウ ェールズなどの行政組織か ら

    適宜各種プロジェク トの援助 を受けている.主 要

    スタッフは8人 であ り,業 務 としてはレビューグ

    ループのサ ポー ト,ワ ークショップの実施 に当

    たっている.オ ランダ ・センターは大学病院内研

    究施設の位置付けで,運 営基盤 は主 として行政機

    関からの援助に拠 っている13).

    運営委員会 もセンターの新規開設に当たっては

    その財政的基盤に強い関心 を寄せている.わ が国

    でもEBMと コクラン共同計画の拠点 としてコク

    ラン ・センターの開設を望む声が保健医療従事者

    のみならずコンシューマー ・サイ ドからも大きく

    なりつつある.そ のためにはセンター業務が持続

    されうる健全な経済的支援環境 の整備(同 時にコ

    クラン共同計画の目的に沿 うものと関係者が納得

    できる形 で)に 関 して,保 健 医療従事者,コ ン

    シューマー,関 連業界,そ して行政が参加で きる

    オープンな形のディスカッションを積み重ねてい

    くことが必要であろう.

    レビューが無計画に行われた り,い ったん形が

    できあがったらそのまま放置されて更新 もされな

    かった ら,ヘ ルスケアの真の有効性 をユーザーは

    知ることができず,適 切 な保健医療サービスの提

    供 は不可能である.ま たこうしたレビューの成果

    が体系的に整理されていなかったら,新 たに臨床

    試験を始めようにも,こ れ までの到達点から出発

    することができないために方向性 を見定めること

    ができない.そ れぼか りか不必要 ・不適切 に被験

    者が試験 に組み込 まれることにな り,時 間的 ・金

    銭的 ・人的に限 りある貴重な資源が浪費 されるこ

    とになろう.

    高原の指摘するように14)今日の保健医療従事者

    は,旧 来の 「仲間内」だけで通 じる諸概念を前提

    とした ものではなく,よ り普遍的な基礎を持つ,

    国民 に分か り易いaccountabilityを 獲得す る必

    要がある.

    EBM,そ してそのインフラとしてのコクラン共

    同計画はその普遍的な基礎,共 通の言葉 として社

    会的にも成熟 してい く可能性を持 っている.共 に

    外来文化の成果の導入,と いう段階は終え,日 本

    の環境の中で具体的にどう活かしうるか,さ らに

    日本におけるノウハ ウの蓄積を世界に還元 し,こ

    の領域への真の貢献の方法を探 る段階に入 りつつ

    ある.

    本稿が関心を持つ方々の理解の一助 とな り,関

    係者間の議論を進める嚆矢 となることを願 ってい

    る.

    謝辞

    資 料 を 提 供 頂 い た 廣 瀬 美 智 代 様(JANCOC翻 訳

    コーデ ィネ ー ター)に 感 謝 いた します.

    文 献

    1) Guyatt GH. Evidence-based Medicine. ACP J Club. 1991 ; 114 (suppl 2) : A-16.

    2) Sackett DL, Rosenberg WM, Gray JA, Haynes RB, Richardson WS. Evidence based medicine : what it is and what it isn't. BMJ 1996 Jan 13 ; 312(7023) : 71-2

    3) 川村 孝,玉 腰 暁 子,若 井 建 志,大 野 良 之.Evidence-

    based Medicineと コ クラ ン共 同 計 画.公 衆 衛 生学

    雜 誌1999; 6:498-506.

    4) 別 府 宏圀,津 谷 喜 一 郎,編.コ ク ラ ン兵/司計 画資 料

    集.サ イエ ンテ ィ ス ト社,1997.

    5) 福 井 次 矢,編.EBM実 践 ガ イ ド,医 学 書 院,1999:

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    6) Cochrane AL. Effectiveness and Efficiency -Ran-dom reflections on health services. The Nuffield Provincial Hospitals Trust,1972[効 喫 と効 率― 深 健 と医療 の疫 学―.森 亨,訳.

    サ イ エ ン テ ィス ト社, 1999]

    7) Chalmers I, Altman DG. Systematic Reviews. BMJ Publishing Group, London, 1995[シ ズ テ マ テ ィ ック レ ビュー.津 谷 喜 一 郎,別

    府 宏圀,浜 六 郎,監 訳.サ イ エ ン テ ィス ト社,1999]

    8) 津 谷 喜一 郎,山 崎 茂 明,兼 岩 健 二,中 山健 夫.日 本

    にRCTは い く つ あ る か?.臨 床 薬 理1999;

  • 198 企画/メ タ ・アナ リシス とその周辺

    30(1) : 189-190. 9) Hayashi K, Hama R. Evaluation of oral anti-

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    10) Berger D, Fukunishi I. Psychiatric drug develop-ment in Japan. Science 1996 ; 273 : 318-319.

    11) 柳 元和.心 理 的 因子 へ の 介入 研 究 を実施 す る際 の問

    題 点.Type A 1997;8:3-8.

    12) Hayashi K, Hashimoto K, Yanagi M, Umeda T, Hama R. Drug approval in Japan questioned . Lancet 1998 ; 352(9126) : 491.

    13) 廣瀬 美 智 代,津 谷喜 一 郎.英 国 のNHSレ ビ ュー普 及

    セ ンタ ー とコ ク ラ ン セ ン タ ーの 現 状.病 院1999;

    58 (10) : 951-954.

    14) 高原 亮 治.地 域 保 健 と医療 介 入 の妥 当性 を基礎 づ け

    る もの.公 衆 衛 生1997 ; 61 (9) : 652-658.