安全・安心な医療機器のための ヒューマンファクターの基本的考 … ·...

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安全・安心な医療機器のための ヒューマンファクターの基本的考え方 小松原明哲 早稲田大学理工学術院 経営システム工学科 人間生活工学研究室 2017.5.6.日本医療安全学会 1

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安全・安心な医療機器のための ヒューマンファクターの基本的考え方

小松原明哲

早稲田大学理工学術院

経営システム工学科 人間生活工学研究室

2017.5.6.日本医療安全学会

1

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医療機器におけるUsability

規格そのものについて理解しようとしてもダメ。

規格適合性だけを考えていてもダメ。

規格の背景にある考え方、思想を理解する必要。

2

お断り:

今日の講演:規格についての解説はしません。

IEC 62366-1 2015

• Medical devices - Part 1: Application of usability engineering to medical devices

(医療機器-第1部:医療機器へのユーザビリティエンジニア リングの適用)

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よいお饅頭とは?

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あんこ

カロリー

舌触り

甘さ

色、艶

皮 ・・・・・ 口触り

・・・・・

しおり

分かりやすさ

読みやすさ

見やすさ

・・・・・

商品={あんこ}+{皮+しおり}(インタフェイス)

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あんこ

カロリー

舌触り

甘さ

色、艶

皮 ・・・・・ 口触り

・・・・・

しおり

分かりやすさ

読みやすさ

見やすさ

・・・・・

しかも消費のContext により要求は変わる

5

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工業製品も同じ ユーザと接する部分も含めて商品

機能/性能

消費電力

頑強さ

機能数

・・・・・

インタフェイス

把持性

視認性

操作性

・・・

マニュアル

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機能/性能

消費電力

頑強さ

機能数

・・・・・

インタフェイス

把持性

視認性

操作性

・・・

しかも使用のContext により要求は変わる

マニュアル

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医療機器でも同じ

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機能/性能

消費電力

頑強さ

機能数

・・・・・

把持性

インタフェイス

把持性

視認性

操作性

・・・

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使用のContext のもとに開発する

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機能/性能

消費電力

頑強さ

機能数

・・・・・

把持性

インタフェイス

把持性

視認性

操作性

・・・

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インタフェイスが「使いにくい」とどうなるか?

• 誤使用 ⇒ 医療の質の低下、直接的事故

• 効率低下 ⇒ 容態悪化、患者がさばけない

• 学習期間の長期化 ⇒ スタッフの訓練拘束

• イライラ ⇒ サービスの低下、ストレス

etc

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「使いやすさ(使用性)」Usability

• Characteristic of the user interface that establishes effectiveness, efficiency, ease of user learning and user satisfaction

• 効果、効率、学習容易、満足をもたらすユーザインタフェイスの特性

(ISO/IEC 62366:2007医療機器のユーザビリティ)

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医療機器のユーザビリティ規格では・・・

• 誤使用(ミスユース)が重大な医療事故につながるところをしっかり見なさい、といっている。

• 重大な医療事故につながらない部分は見る必要はない、と言っているのではない!

– 低クラスの医療機器には無関係ということではない。

– 事故には直結しなくとも低質な医療につながることは困る。

– 事故にはつながらなくとも、使いにくいと「購買されない」という企業リスクを負う。

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クラス1(一般医療機器) 不具合が生じた場合でも、人体へのリスクが極めて低いと考えられるもの

(例)体外診断用機器、メス・ピンセット等、X線フィルム、歯科技工用用品 クラス2(管理医療機器) 不具合が生じた場合でも、人体へのリスクが比較的低いと考えられるもの (例)MRI装置、電子内視鏡、消化器用カテーテル、心電計、超音波診断装置 クラス3(高度管理医療機器) 不具合が生じた場合、人体へのリスクが比較的高いと考えられるもの (例)透析器、人工骨、人工呼吸器 クラス4(高度管理医療機器)

患者への侵襲度が高く、不具合が生じた場合、生命の危険に直結するおそれがあるもの (例)ペースメーカ、人工心臓弁、ステントグラフト

医療機器の分類: 直接的危害/不具合発生時の回復可能性の観点

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低クラスであっても、ユーザビリティが貧弱だと・・・

• 誤使用等に伴う不適切医療

• 正しい使用をするための時間ロス

⇒ 医療提供までの遅延

⇒ 患者がさばけない

• 医療スタッフら使用者のストレス

• 医業経営上の支障

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支持されない商品

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ユーザから文句が出ないのは・・・

• 代替商品がないから仕方なしに使っているだけかもしれない。

• ユーザビリティを兼ね備えた他社製品が出ると、一気に潮目が変わる。

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厚生労働省の動き 医薬品・医療用具に関連する医療事故防止対策 「医薬品・医療用具等関連医療事故防止対策検討会」を平成12年5月に設置

厚生労働省では、医薬品、医療用具その他の医療現場で使用される製品の名称や容器、仕様について、医療事故を引き起こしにくいものに改めることも防止対策のひとつになるものと考え、これを具体化していくシステムの構築を進めているところ。

具体的には、

• 医療事故事例の情報収集

• 医薬品の名称や医療用具の仕様などについての改善検討、製品の改良を実現 等

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物としてのベネフィットとリスク 使用におけるリスクとベネフィット

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機能/性能

消費電力

頑強さ

機能数

・・

把持性

インタフェイス

把持性

視認性

操作性

・・・

こちらだけではなく

こちらも

評価しますよ

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厚生労働省 医薬品・医療機器等対策部会(2016.3.11)

• 子どもによる医薬品誤飲事故の防止対策について

– PTP包装容器を含めた誤飲防止対策の方向性

– Senior Friendly(SF)との関係を維持し、どうChild Resistance (CR)を実現するか?

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CRSF容器も提案されてきている

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現在のところ医薬品や用具の検討が多いが、いずれ高度医療機器も検討対象とすることが見込まれる。

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経腸栄養ラインに投与されるべき薬剤が誤って輸液ラインに投与されることがないように,経腸栄養ラインの関連製品を輸液ラインとは物理的に接続が不可能な規格とする基準を制定した。

関連通知 •「医療事故を防止するための医療用具に関する基準の制定等について」(平成12年8月31日医薬発第888号)

•「医療事故防止に資する医療用具(注射筒型手動式医薬品注入器用針)の開発及び供給の促進について」(平成12年9月8日医薬審第1049号,医薬安第107号)

https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/medical-safety-info/0007.html#b1

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国立社会保障・人口問題研究所資料

日本の人口構成:高齢化

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これからの医療サービスの動向

• 患者は増える

• 在宅医療も増える

• 医療は恐らく高度化する=医療機器依存性が高まる

• スタッフは減る

– 一人あたりの作業量は増える、ダブルチェックなどやっていられない

– 外国人、高齢スタッフ依存率は高まる

– 女性の活躍割合、活躍幅も今以上に増える

– 教育訓練に割ける時間もなくなる etc

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「守り」 • 使用の安全の確保 • ユーザの「誤使用」もメーカー責任 • 製造物責任に問われる可能性も • 「誤使用」の可能性が少ない商品をユーザは購買する

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使用による事故

• ユーザ責任? • メーカ責任?

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鍋がエプロンに触れてひっくり返る。 取ってが重たい鍋。 重心が取って側。

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そもそも欠陥とは?

当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他当該製造物に係わる事情を考慮したとき、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう(製造物責任法第2条)

製造業者等は……引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる・・・・(製造物責任法第3条)。

通常:特別でなく、普通の状態であること。世間一般にみられる状態であること。 24

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メーカー責任 ユーザ責任

正しい使用 あり得る使用 異常な使用

通常の使用

誤使用

使用種類のモデル(小松原)

裁判となると、通常かどうかは、個々に判断される。

製品製造においては、企業としては防御的に考える必要がある。 25

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使用者の使用に起因して起こる事故であっても 通常状態で使用していて生じるのであれば、欠陥

• 使用者の不注意で生じる事故は

「人間工学的欠陥」の可能性がある。

(例)

– “不注意”で、その製品が扱われる蓋然性が高い

–同じ形態の“不注意事故”が多発する

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通常の範囲は時代とともに変わる

• 異常な使用でなければ、あり得る使用である。

• 時代と共に、あり得る使用と社会が認識する範囲は拡大する傾向にある。

いまから40年前の扇風機。

当時は許された。今ではどうか?

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ある人工呼吸器

「換気停止」メニューを選ぶと、デフォルトが「停止」になっている。

「停止」を選択(ボタン押し)しても、モニタ画面の基本色は変わらずに光ったまま(自分が換気停止操作をしたことが分かりにくい)。 ⇒ 不慣れな看護師が誤って換気停止をし、患者が窒息。 ⇒ 看護師の不注意以前に、インタフェイス設計が問題 (ユーザビリティ上の欠陥)

換気停止しますか? はい いいえ

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どうやって立ち向かっていくか?

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鉛筆なめなめでは、ユーザビリティは作りこめない! IEC/ISO 62366

• 設計・開発の初期の段階で(段階から)、ユーザビリティを評価することが必須

• 機構上の設計や開発が終了後に考えればよいということではない。

• 医療機器のユーザインタフェイスについてユーザビリティを確保するプロセスを社内に構築し、それに従って開発を進めなさい。

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• 機器適用仕様の作成

• よく使う機能の明確化

• ユーザビリティに関するハ ザードと危険状態の特定

• 主要操作機能の明確化

• ユーザビリティ仕様決定

• ユーザビリティ妥当性確認

• ユーザインタフェースの設計・実装

• ユーザビリティ検証

• ユーザビリティ妥当性確認

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IEC/ISO 62366の基本プロセス

リスクアセスメントのプロセス(ISO12100)、人間中心設計過程(ISO9241-210)を混ぜ合わせたようなもの。

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Step1 使用および誤使用の同定

Step2 ハザードの同定

Step3 リスクの見積もりと評価

Step5 設計によるリスクの低減

step4安全か?

Step6 残留リスクの伝達

Step8 経過観察

Step7 発売

N

Y

リスクアセスメントのプロセス ISO12100

どのような

「誤使用」が

あリ得るか?

どうすれば

「誤使用」をしないようになるか?

どうすれば

「誤使用」を避けられるか?

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ISO9241-210 Ergonomics of human–system interaction —

Part 210: Human-centred design for interactive systems

人間工学:人間中心設計プロセス Human Centred Design Process

利用状況の把握

検証テスト

要求事項の把握

設計解の導出

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言っていることは、基本、同じ。

1. 使用実態を把握する

2. 要求事項を抽出する

3. 要求を充足する設計解を作成する

4. 設計案の試用(テスト)を行い、完成度を高める

5. 一連の活動の記録を残す

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ISO9241-210 Ergonomics of human–system interaction —

Part 210: Human-centred design for interactive systems

人間中心設計過程 Human Centred Design Process

利用状況の把握

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なぜ利用状況の把握が重要なのか?

現実の運用実態

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乖離があると、 使いにくいシステム ⇒ 事故etc

設計者の意図 (設計前提)

デイタイムを想定して機器設計

夜間使用!

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あるオーブントースターの注意書き

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使用中は本体から離れない。 調理物が発火することがあります。

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設計者の意図 ユーザの行動

この製品はこう使うものである

安全のためには、確かにそう。 38

使用中は本体から離れない。 調理物が発火することがあります。

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設計者の意図 ユーザの行動

ユーザはそうは行動しない/できない

能力・特性

行動傾向、経験

現場の実態 etc

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設計者の意図通りにしないから、事故が起こる! 設計者の意図通りに実情を変えるのか?

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人工呼吸器の事故

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• 弱いが自発呼吸ができる筋ジストロフィの患者では、人工呼吸器のマスクはしばらくは外すことができる

• 口腔ケアのためには、マスクを外さないといけない • 1分すると、マスク脱落アラームがけたたましく鳴り響く

マニュアル • その時には、リセットスイッチを都度押すこと

現実 • 両手で手技をしていると、リセットのために手技が中断する • 手技時間も長くなり、患者も苦痛

結果 • 結果、呼吸器のスイッチをオフにして手技をする例がある • 手技後、スイッチオンを失念する重大インシデント

機器設計者は現場の実情を理解していない!

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設計者の意図 ユーザの行動

対策は二つしかない

②現場の実情に従って 機器を設計する

①設計者の意図を現場に押し付ける

重要なことは②。 しかし、現実には①だけで話が進む場合が多い。

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• 機器を作るときに、頭の中で現場を作る (現場を想像していないことすらある)

• もし、設計者の意図したとおりに機器を使用していないとしたら、それは現場員の意識が低いのだ。

• そのときにはマニュアルを「詳細化」し、現場員を「指導」「矯正」する対策を講じればよいのだ。

機器設計者の陥る罠

現場の実情=Contextをよく調べろ!

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ISO9241-210 Ergonomics of human–system interaction —

Part 210: Human-centred design for interactive systems

人間中心設計過程 Human Centred Design Process

利用状況を把握してユーザ要求を明確化。

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Context-of-use description

1. The users and other stakeholder groups:

2. The characteristics of the users or groups of users:

3. The goals and tasks of the users:

4. The environment(s) of the system:

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1. The users and other stakeholder groups

• buyer ; 購買者、承認者

• primary user ; 主使用者

• secondary user ; 副次使用者

• seatmate ; 同席者 副次使用者

主使用者

同席者

購買者

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全員の安全(快適性、健康 etc含む)が満足されなければ安全な製品とは言えない。

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消費の各段階でユーザは変わる 主使用者 副次使用者 同席者

販売 ディーラー

利用 運転者

同乗者 歩行者

保守 タイヤ交換者

ガソリンスタンドの給油者

ディーラーの保守者

廃棄 スクラップ業者

少なくとも主使用者を明確にする。

副次利用者、同席者は解の形式が定義(詳細化)した段階で抽出される(ものもある)。

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御社の医療機器の場合について考えてみてください

⇒そのあたりが企業の実力差になる

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2. The characteristics of the users or groups of users

製品の特性に応じて定義すべきこと。

• knowledge, skill, experience, education, training, physical attributes, habits, preferences and capabilities.

製品の特性

• プロユース、パーソナルユース、パブリックユース

• 嗜好型、生活必需型、生存必需型

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3 The goals and tasks of the users: GOAL TASKS

タイヤ交換すること ボルトを少し緩める ジャッキをあて、車体をあげる ボルトを外しタイヤを外す 別のタイヤを入れる・・・

目的地まで運転すること ギアをPに入れる エンジンを始動する ブレーキを緩め発進する・・・

所定量給油すること 燃料キャップ外す 給油する 燃料キャップ閉める・・・

御社の医療機器の場合について考えてみてください

⇒そのあたりが企業の実力差になる 49

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4. The environment(s) of the system

• the technical environment, including the hardware, software and materials.

• the physical, social and cultural environments shall be described.

– The physical : thermal conditions, lighting, spatial layout and furniture.

– The social and cultural : work practices, organizational structure and attitudes.

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technical environment

ガソリンの品質

修理業者の数・程度

social and cultural

environments

法律・治安

交通安全文化

関係者の教育水準

The physical environments

運用・利用場所

温湿度・気候

道路事情

自動車であれば・・・

御社の医療機器の場合について考えてみてください

⇒そのあたりが企業の実力差になる 51

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医療機器であれば・・・ context of use :明らかとすべきことの「例」

ユーザ: • ユーザの識別(医師、看護師、患者、家族、メンテナス者など) • ユーザの訓練のレベル、状態 • ユーザの特徴(身体的能力、態度など) etc 使用 • 機器の使用目的、期待される正しい利用 • 危害を引き起こす恐れのあるユーザの使用 etc 機器の使用環境: • どこで使うのか?(病室、手術室、自宅、公共空間など) • 特別な使用環境(EMR、無菌室、ICUなど) • 他の機器との併用、同時使用・運用の必要性、可能性 etc 機器の運用条件 • 保管、メンテナンス要件 • 院内風土、管理体制、国民文化 etc

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1~4を組み合わせて 「通常の使用」のシナリオを作る

• 医療機器の場合は、ハザード関連の使用シナリオを重点的に作る。

• 「通常の使用」についてのシナリオを作る。

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検温シナリオ①

患者は98歳女性 肺炎で4人部屋に入院 譫妄、傾眠状態 脱水気味 午前3時 枕元灯下 看護師は・・・ ・・・

ピピピ

シナリオのケースをどれだけもれなくもっているかが企業の実力差

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洗濯物を洗濯槽に入れる

洗剤を入れる

給水する

洗濯開始ボタンを押す

洗濯物をより分ける

洗濯槽に入れる

生地表示を探す

生地別に山積みする

工程 作業 動作

生地表示を読む

手順は「工程(行程)」「作業」「動作」とブレイクダウンされる。

シナリオとして、どのレベルで整えるか、またどのレベルまでブレイクダウンするか(詳細に書くべきか)は、製品特性、業務特性と作業員のレベルによる。

工程の抜けを懸念するのか? 作業の抜けや不適切動作を懸念するのか?

シナリオの作成:まずは正しい使用手順をベースに置き、そこからの逸脱を検討するとよい

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逸脱:どうやって「通常の使用」を予見するか? (例1)

製品事故データベースを利用

• 過去の製品事故例をもとにして。

• 当該製品と類似した特徴を持つ他製品での事故例をもとにして。

公開されているデータベースの例

・PMDA

・製品評価技術基盤機構 製品安全・事故情報

・消費者庁 事故情報データバンクシステム

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当該製品の使用されている状況の観察

(例)

• 使用状況観察

–使われ方

–製品に出来た傷(痕跡)

逸脱:どうやって「通常の使用」を予見するか?

(例2)

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当該製品の使用されている状況の推察

• ペルソナ/シナリオ手法による推察

逸脱:どうやって「通常の使用」を予見するか?

(例3)

• 山田太郎氏 男性、37歳• 大久保電気商事商品開発部長• 神奈川県川崎市在住 マンション住まい• 身長175cm 体重120Kg

• 家族は妻、幼稚園生の長男、2歳の長女。フィレットを飼っている(部屋に放し飼い)。

• ビール大好き。• スポーツ全般(見るのもするのも)大好き。・・・・

想定される使用(取り扱われ方)

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• 小森うめ氏 女性、80歳

• 主婦、一人暮らし。

• 青森市在住 自宅住まい

• 身長 145cm 体重38kg

• 家族に先立たれ現在一人暮らし

• 機械は全般に苦手

• 趣味はお料理(主に和食)。

• おしゃべり大好き。近所のお年寄りのたまり場になっている。

• 老化。足腰弱く室内でも杖を使用・・・・

想定される使用(取り扱われ方)

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ISO9241-210 Ergonomics of human–system interaction —

Part 210: Human-centred design for interactive systems

人間中心設計過程 Human Centred Design Process

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使用性確保

(誤使用防止)の方法

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受容器

判断

効果器 操作器

表示器

メカニズム インタフェース

人間 機械

①基本的な人間工学

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⑥つり銭を取る

①受話器を取る

③電話番号を入力する

②お金を入れる

④耳に当てて話す

⑤受話器を置く

ソフト:この手順が自然に分かるのだろうか?

分からなくなったら 取りあえず受話器を

置く(初期状態に戻れる) (脱出性)

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ボタン

グリップ径

取り出し口

投入(挿入)口

ボタン

挿入口

カーブ

高さ

盤面傾き 右利き基準

入れる・ 取り出す

つかむ

押す

ハード:手順が容易に実行可能だろうか?

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フィードバックと応答時間

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発射物・漏洩物

発熱により塗料の有機溶剤が揮発した ⇒全品回収

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②標準化

上吐水? 下吐水?

旧型機 新型機

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• 安全のためにあえて使いにくくする –偶発的接触による起動を避ける

–一定条件が整わないと不作動

–一定時間危険状態が露呈すると自動停止

③ Fool Proof

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• 製品の安全系をユーザが無効化させてしまい、事故になるケースがある。 – 例)安全ガードをユーザが取り外して使用し、事故になる。

• 安全系に頼って不注意、粗雑行為となる。 – 例)石油ストーブを揺すって消す

• ユーザに容易に無効化されてしまう安全系は、安全系とはいえない。無効化不可能な安全系でなくてはならない。

• 安全系が惹起する恐れのある不適切行為も考えに入れないといけない。

• 安全系はただ単に装着すればよい、ということではない。

しかし!安全機能に対する使用者心理

安全機能の無効化/依存

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取っ手の位置を下げ(重心と近づける)、斜めにし、なで肩とすることで注ぎやすくなった。樹脂量削減のために取っ手を無くしたが、握りやすさは考えられている。

消費生活用製品(家電等含む)ではこうした問題はほとんど卒業している。

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多数のガイド本がある。

社内では設計値レベルでガイドライン化、社内標準化する必要性

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設計ガイドを使いこなす ⇒具体的設計値を決めていく 人間の能力の限界と特性に 関する理解と知識が必須

【例】

• 加齢と作業能力

• 単一情報処理メカニズム

• 短期記憶の限界 etc 70

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加齢と作業能力の変化

東京都立大学身体適性学研究室

いわゆる人間工学的な改善活動。

「バリアフリー」「UD」はここから出てくる。

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女性運転士が増えてきた・・・ アイポイントが低い⇒前方視界が悪い

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不注意

他のことに意識を向けてしまっていること

← 単一チャネルメカニズム(選択的注意)

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記憶の限界

• 覚え/思い出すのは苦手。 – 頑張れば5~9(7±2) – 普通はせいぜい3つどまり。 – 当たり前のことほど思い出せない。 – 前と後は思い出せない(スキップされやすい)

• だからメモやチェックリストを使え – 記憶を負荷するな。 – 業務ではマニュアルを参照せよ (マニュアルを覚えるな)

– チェックリストは現場で実行せよ

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前と後は忘れやすい(飛ばしやすい)

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モード設定忘れ!

原紙の回収忘れ!

電源を落とさずに修理工事に入る

患者の名前を確認しないで投与

ダブルバック製剤を未開通で投与

機器点検後、復旧措置を取り忘れる

病室に空アンプルを置き忘れる

患者に検査結果箋を渡し忘れる

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ISO9241-210 Ergonomics of human–system interaction —

Part 210: Human-centred design for interactive systems

人間中心設計過程 Human Centred Design Process

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最後に検証テスト

「念のため」の位置づけ。ここで問題が出る=それまでの活動の失敗。

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「攻め」 • 使用の快適性の訴求

• 医療機器には感性的側面(アメニティ・UX)が求められる

⇒ ストレスの緩和、医療効果への間接的効果 77

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サービス

• コアサービス – コアサービスでの差別化は第一義

– しかし顧客はそこまで求めていないことも多い

• サブサービス – むしろサブサービスが商品購買の動機となっていることも多い

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LIXIL くるりんポイ排水口 汚れがつきにくくて、ヌメりにくい

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感性側面 • 売れる(好まれる)/売れない(好まれない)

• アメニティやヒーリングを与える (医療機器、福祉機器では特別な意味)

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よい例

• 日本光電 小児用電極

• トーアエイヨ― フランドルテープ (冠動脈拡張薬)

• GEヘルスケア 小児病院MRI

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• 患者に対しての親和性 –生活不快感、不安感の回避

–看護師とのお話のきっかけ

• 保護者に対する癒しにもつながる

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攻めにおいては 突然変異も求められている

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イノベーション

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物は遺伝する。 しかし遺伝を断ち切る

⇒商品の本質を考えてみる

安全

静穏

省エネ

首ふり

タイマー

ユーザビリティ

・・・

様々な改善がなされてきたが、基本的な商品姿は変わらない。 83

突然変異

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現在の商品姿は、当時の技術の制約を受けて、 ただ単にそうなっている場合もある。

ユーザが必要とするものは、商品ではなく、便益である。

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問題解決の考え方

状態A 状態B

変換過程

状態Aにあるものを状態Bにしたいだけ。

その変換過程に問題があるのなら、別の変換過程を提案すればよい。

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手すり

出入りを支援したいから

浴槽へ入るから

からだを温めるから

血行がよくなるから

リラックスするから

要求が機能として充足されればよい。

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そもそも求められている便益は何?

実はその便益は求められていないかもしれない・・・

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ナースステーションのセントラルモニタで、ECG原波形まで観察したいわけ? また常時監視しているわけ?

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高品質な 医療サービス支援が目標

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日本企業の弱点・問題点

• 「あんこ」だけに注目し、皮としおりをつけ足しにしている

• 自社製品に閉じている

• 他社製品と連結しようという意識に乏しい

–非連結の隅間を医療スタッフが埋めさせている

• 医療サービス全体の提案という意識がない

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バイタル (結果)

呼吸制御 (原因)

薬剤制御 (原因)

異なるメーカの機器間連携が出来ない。 ITでかなりの自動監視、自動制御が出来るはず

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病院全体の提案は できないでしょうか・・・

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生活者

患者 疾患

患者は患者以前に生活者である。

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重篤な事故事例(422件)の発症割合(平成25年)

患者起因事故が非常に多い。

日本透析医学会誌31(1) 2016

[分類名](39.6%)

[分類名](11.6%) 穿刺・止血での事故

血液回路のセットミスによる事

血液回路の離断

薬剤・輸血の事故

透析液供給停止・中断

基本的操作のミス

HDFの事故

体重測定のミスによる事故

透析液異常

ESA投与忘れ

カプラーの血液汚染 誤嚥

合併症死(診断遅延疑)

その他

ご高齢の患者さん

抜針事故

転倒転落

誤嚥

認知症の患者さん

ご高齢の 患者さん

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キーワード

高齢

認知症

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患者にさらなる力を 人々の気持ちとニーズに耳を傾ける

フィリップス ヘルスケア

• フィリップスは人を理解することから始めます。人に耳を傾け、それぞれのニーズを理解します。これは、フィリップスの製品とソリューションが、便利なだけでなく有意義なものであることを意味します。そして、こうしたアプローチは、病院に多大な利益をもたらします。

• ヘルスケアに対する革新的なアプローチにより、患者、医師、技術提供者の間に創造的なパートナーシップが生まれます。私たちのイノベーションは、人々の生活を実際に向上するものです。政府機関や利害関係者によく聞かれるのは、患者にとって最適な環境を作るにはどうしたらいいかという質問です。

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http://www.philips.co.jp/a-w/innovationandyou/article/full-video-story/patients-helping-patients.html

何かの潮目で欧米メーカーに席巻される懸念

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まとめ

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機能/性能

消費電力

頑強さ

機能数

・・・・・

把持性

インタフェイス

把持性

視認性

操作性

・・・

インタフェイスを含めて商品

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厚生労働省の動き 医薬品・医療用具に関連する医療事故防止対策 「医薬品・医療用具等関連医療事故防止対策検討会」を平成12年5月に設置

厚生労働省では、医薬品、医療用具その他の医療現場で使用される製品の名称や容器、仕様について、医療事故を引き起こしにくいものに改めることも防止対策のひとつになるものと考え、これを具体化していくシステムの構築を進めているところ。

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「使用の安全」に関する動き

最低限「守り」は絶対条件

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医療機器メーカー • 医薬品メーカーに比べて動きが、超、遅い。

• 独占状態(新規参入がない)

• 工学的技術力が強すぎ。「あんこ」が良ければ、「かわ」はつけたし、と思っている。

• 「かわ」に特別な技術があると認識していない(素人分かりされやすいのが、難点)

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何かの潮目で欧米メーカーに席巻される懸念

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医療機器の事故情報: 原因の「可能性」を考えていく癖をつける

入力を間違えた

処方指示が分かりにくかった

他のポンプと誤認した

業務が立て込んでいた

部屋が暗かった

フォントが見にくかった

操作に不慣れだった

小数点が小さかった

表示が暗かった

スタッフの不注意、と切り捨てたらメーカとして何も進歩がない。

薬剤知識がなかった

グレアで光った

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やり方はある。参考書もある

開発の上流で押さえこむことが大事 検証テストは重要だが、そこでダメが出ても手遅れ