インスリンの基本 · 2ヵ月後 治療開始時...

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インスリンの基本 松山赤十字病院 内科(糖尿病・代謝内分泌): 近藤しおり

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Page 1: インスリンの基本 · 2ヵ月後 治療開始時 インスリン治療を受けた1型糖尿病の子供 1921年のインスリン発見以前、1型糖尿病は「死に至る病」であった。

インスリンの基本

松山赤十字病院 内科(糖尿病・代謝内分泌): 近藤しおり

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責任インスリン

シック デイ

低血糖

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成因と病期の概念

病期

成因

正常血糖 高血糖

正常領域 境界領域

糖尿病領域

インスリン非依存状態 インスリン依存状態

インスリン不要

高血糖是正に必要

生存に

必要

1型

2型

その他

妊娠

糖尿病

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2ヵ月後 治療開始時

インスリン治療を受けた1型糖尿病の子供

1921年のインスリン発見以前、1型糖尿病は「死に至る病」であった。 現在の治療目標は、健康な人と変わらない生活の質(QOL)の維持、 寿命の確保。

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インスリン 膵から分泌されるホルモン、生命に不可欠

・糖代謝(ブドウ糖を細胞内へ取り込む) ・成長因子

1921年:動物の膵抽出物より発見 1982年:遺伝子工学によるインスリンの生産 2001年:アナログインスリン

膵組織 膵島(ランゲルハンス島)

インスリン染色

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生物のエネルギー源

植物:光合成(解糖系の逆)によって合成。 動物:食べ物から得る。

人間のエネルギー

1. 炭水化物(米飯、パン、麺など)を 消化吸収して得る。 2. 肝臓や腎で乳酸やアミノ酸、グリセロールなどから 糖新生を行う。

ブドウ糖(=グルコース)

車のエネルギー

ガソリン

インスリン バッテリー

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細胞

インスリン

ブドウ糖

インスリン作用不足の場合

血管

ブドウ糖

インスリン作用正常の場合

インスリン

高血糖

細胞

血管

細胞内飢餓

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インスリン1単位とは *歴史的には48時間絶食の体重約2kgのウサギを

低血糖痙攣に至らせる量と定められた。

いく度かの変遷を経て、国際標準品との活性

比較で決定されている。

*ヒトでは、0.8単位/kg/日産生されている。

*点滴内のブドウ糖10gあたり、速効型インスリン

1単位が目安。

*1 単位は 6 nmol/L (レベミルのみ24 nmol/L )

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糖尿病の治療

インスリン(補充)療法: 健常人にみられる血中インスリンの 変動パターンを再現すること。

朝食 昼食 夕食

80

160

血糖値 (mg/dl)

インスリン

追加分泌

基礎分泌

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インスリン注射例

(強化インスリン療法)

朝食

昼食

夕食

眠前

R、超速効型 N、持効型

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責任インスリン 朝のインスリンは、今からとる朝食にみあったインスリンを

食前に注射するものであり、朝食前の血糖値で決まるのではない。

昼食前の血糖が高い場合、昼食前のインスリンを増やすのでは

なく、朝食前のインスリンを増やす。

朝食 昼食 夕食

80

160

血糖値 (mg/dl)

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インスリン投与量の変更は、責任インスリン

(その血糖値に最も影響を及ぼすインスリン)

の増減によって行う。

インスリン治療の注意点1

そのときの血糖値でインスリン量が決まるのではない。

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インスリン依存状態の患者では、

いかなる場合もインスリン注射を

中断してはならない。

インスリン治療の注意点2

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無自覚低血糖と

それから生じる重症低血糖を

起こさないこと。

インスリン治療の注意点3

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無自覚低血糖

重症低血糖は無自覚低血糖を背景におこる

警告症状がなく、中枢神経症状が

最初で唯一の症状である状態

高齢者の低血糖による異常行動は

譫妄、認知症と間違われやすい。

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低血糖 糖尿病治療における緊急事態

血糖値が70 mg/dl以下

中枢神経系は100%ブドウ糖に依存

血糖低下に対しては拮抗調節反応(counter regulation)で対応

血漿ブドウ糖

(mg/dl)

80

0

20

40

60

カテコラミンとグルカゴンの分泌

コルチゾールと成長ホルモンの分泌

自律神経症状

発汗、動悸

神経症状

嗜眠

植物状態

死亡

昏睡

糖10g摂取

50

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低血糖の対応

◎意識障害を診たら、まず血糖測定を。

◎内服薬による低血糖昏睡は、処置で意識が

回復しても1~2日は必ず経過観察入院。

◎意識障害が4時間以上では、不可逆な

高次脳機能障害をひきおこす。

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高齢者の低血糖の特徴

生理機能低下 認知症で症状を自覚できない、 伝えられない。 自律神経反応低下 冷や汗や動悸などを経ず、中枢神経症状がいきなり現れてしまう。 *低血糖による不穏、異常行動を 認知症と間違えられる。

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シックデイ

糖尿病患者が発熱、嘔吐、下痢などで

食事が摂れない状態

半日以上続くときは、医療機関へ

内服薬はのまない インスリンは、血糖値を確認し、

通常の半分量を注射

シックデイのインスリン中断でケトアシドーシスのおそれ

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インスリンの種類

ヒトインスリン

速効型:R(regular)

中間型:N(NPH: Neutral Protamine Hagedorn)

1936年 Hagedorn

アナログインスリン

超速効型:ヒューマログ、ノボラピッド、アピドラ

持効型:ランタス、レベミル、トレシーバ

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分類 商品名

速効型:R ヒューマリンR、ノボリンR、イノレットR

中間型:N ヒューマリンN、ノボリンN

超速効型 ヒューマログ、ノボラピッド、アピドラ

持効型 ランタス、レベミル、トレシーバ

混合型

R+N

超速効+中間型

ノボリン30R (R30%+N70%)、

ヒューマリン3/7 (R30%+N70%)

ヒューマログ(25, 50%)、

ノボラピッド(30, 50, 70%)

インスリン製剤

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インスリンのバイアルと注射器

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インスリンペン型注入器

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B1

B29 Pro

A1

B28 Lys

ヒューマログ (lispro)

B1

B29 Lys

A1

B28 Pro

B1

B31 Arg

A1

B30 Arg

ランタス (glargine)

B1

A1

B28 Pro→Asp

ノボラピッド (aspart)

A21 Asn→Gly

A21 Asn

インスリンアナログの比較

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糖尿病治療の目的

血糖、血圧、体重、脂質のコントロール

糖尿病性合併症、動脈硬化性疾患の 発症、進行の予防

健康な人と変わらない生活の質(QOL)の 維持、寿命の確保