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アカクローバ(Trifolium pratense L.)におけるDNAマーカーの 開発とその育種的利用に関する研究 磯部 祥子 1) 目 次 I.緒 言 II.アカクローバにおけるDNAマーカーの開発と連鎖地図の作成 1.RFLPマーカーによる連鎖地図の作成 1)材料および方法 2)結 果 3)考 察 2.マイクロサテライトマーカーによる連鎖地図の作成 1)材料および方法 2)結 果 3)考 察 III.アカクローバにおけるDNAマーカーの育種的利用法 1.RFLPおよびマイクロサテライトマーカーの育種素材への応用性 1)材料および方法 2)結 果 3)考 察 2.アカクローバの越冬性に関するQTL解析 1)材料および方法 2)結 果 3)考 察 IV.総合考察 V.要 約 VI.引用文献 VII.謝 辞 SUMMARY 平成19年12月28日原稿受理 1)寒地飼料作物育種研究チーム(現、(財)かずさDNA研究所) 次へ進む 農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター

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アカクローバ(Trifolium pratense L.)におけるDNAマーカーの開発とその育種的利用に関する研究

磯部 祥子1)

目 次

I.緒 言II.アカクローバにおけるDNAマーカーの開発と連鎖地図の作成1.RFLPマーカーによる連鎖地図の作成1)材料および方法2)結 果3)考 察2.マイクロサテライトマーカーによる連鎖地図の作成1)材料および方法2)結 果3)考 察III.アカクローバにおけるDNAマーカーの育種的利用法1.RFLPおよびマイクロサテライトマーカーの育種素材への応用性1)材料および方法2)結 果3)考 察2.アカクローバの越冬性に関するQTL解析1)材料および方法2)結 果3)考 察IV.総合考察V.要 約VI.引用文献VII.謝 辞SUMMARY

平成19年12月28日原稿受理1)寒地飼料作物育種研究チーム(現、(財)かずさDNA研究所)

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アカクローバ(Trifolium pratense L.)におけるDNAマーカーの開発とその育種的利用に関する研究

磯部 祥子1)

I.緒 言

アカクローバはユーラシア大陸東南部および地中海沿岸が原産地で、西暦3~4世紀にはヨーロッパで栽培が行われており、13世紀にはスペインで最初の品種が育成されたことが記録されている(Sjodin 1966、Merkenschleager 1934)。本種は初期生育や再生が旺盛で、収量性が高く、耐酸性土壌や耐湿性に優れ、栽培が容易であるなどの特性から16世紀にはヨーロッパを中心に栽培地が広がり、その後アメリカ大陸、オセアニア大陸へと伝播していった。アカクローバが牧草として最初に日本に導入されたのは1874年(明治7年)で、開拓使により北海道の七重開墾場で試作が開始された(村上 1967)。1914年(大正3年)には牧草および緑肥作物として北海道の普及奨励種となり、その後本種の栽培が北海道・東北を中心に広がった(我有 1998)。しかしながら、アカクローバは耐暑性に劣るため関東以南では作付面積が少なく、現在の主たる栽培地は北海道であり、道内においてはマメ科牧草種子流通量の約45%を占めている(北海道農政部2005)。その主な利用法は採草用であり、イネ科牧草チモシーとの混播栽培が最も一般的である。アカクローバを初めとするマメ科牧草は草地の収量性を向上させ、根粒菌との共生による空中窒素の利用によって肥料費を削減させるなど草地の生産性向上に寄与する。また、一般にマメ科牧草はイネ科牧草に比べてタンパク質とミネラル含有量が高いため、飼料の品質と栄養バランスや嗜好性の向上にも寄与する(TAYLOR and QUENSEBERRY 1996)。さらに、アカクローバは必須栄養素であるα-リノレン酸の生乳中における割合を高めるなどの高機能成分を持つ特性も着目されつつある(DEWHUSTら 2003)。アカクローバは永続性に劣り草地から消失しやすいため、草地の栄養生産性を下げることが問題となっている。これは、北海道のみならず世界のアカクローバ栽培地帯における共通の問題であることから、アカクローバの永続性の改良が各国で試みられている。現在、OECDリストに登録されているアカクローバの品種数は245品種で、多国籍企業を中心とした民間会社や公的機関など様々な機関で育種が行われている。しかしながら、これまで育成された品種の永続性は長くて4年であり、草地の栄養生産性維持のためには少なくともあと1~2年の生存年数の延長が必要とされている。永続性は一貫して改良すべき育種目標であるが、その他の育種目標は栽培体系の変化により変わりつつある。中でも収量性は、アカクローバの育種開始時から1990年代まで重要視された形質であり、1970年代から90年代の海外導入品種を含めた国内栽培品種の全ては収量性の高い早生品種となった。しかしながら、北海道では混播相手であるイネ科牧草の草種が再生性に優れるオーチャードグラスから品質、越冬性に優れるが再生性に劣るチモシーへと変遷した。この様なことから、現在では「収量性」とは逆の選抜方向を必要とする「再生の穏やかな」アカクローバ品種が求められている。アカクローバは自殖率が低く優良個体の保持が困難である特徴を有していることから集団選抜法あるいは母系選抜法といった育種法が用いられている。これらの育種法は品種のヘテロ性を維持

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しながら目的の形質について選抜を行う方法である。言い換えれば、系統内において目的形質に関する方向性を揃えつつ同時に多様な遺伝的背景をもつ個体を混在させなければならない。従って、他の育種法よりも目的形質に対する選抜効率が低い育種法であるとも言える。しかしながら、コントラクターによる大規模栽培から放牧を主体とする家族経営まで様々な酪農経営に伴う草地の栽培体系の多様化から、今日では社会情勢に応じた多彩な品種が求められており、様々な形質についてより効率的に選抜できる育種法の開発が望まれている。近年のめざましいゲノム学の進展は植物の遺伝学にも劇的な変化を及ぼした。シロイヌナズナ、イネ、ミヤコグサなどのモデル植物を中心に大規模なゲノミックDNAやcDNAの塩基配列解読が行われ、遺伝子機能の解析が塩基配列を中心としてゲノムワイドに行われている。これらの情報は従来の遺伝学ではとらえることの出来なかった多くの知見をもたらし、新たな生物学的発見のみならず産業への応用としてゲノム情報を生かした新しい育種法の開発が期待されている(KANG 2002)。現在、ゲノム情報を利用した育種法の開発には、大きく外来遺伝子導入による遺伝子組換え体の作出とDNAマーカーを用いた選抜(MAS: Marker Assisted Selection)が考察されている。収量性やストレス耐性など重要な育種目標の多くはQTL(Quantitative Traits Loci: 量的形質遺伝子座)に支配されており、複数の遺伝子が複雑に関与している。そのために、これらの形質の改良にはDNAマーカーを用いたMASによる改良が有効であると考えられている。作物を対象としたDNAマーカーの開発は15年ほど前からイネ、トウモロコシ、ダイズなど主要穀物を中心に行われてきた。しかしながら、DNAマーカーの開発はコストとテクニックを必要とすることから、主要穀物以外の各作物ではその整備が遅れている。また、他殖性の牧草類は自殖性の作物に比べて遺伝様式が複雑であることから、イネなどで確立されたマーカーの開発法と応用理論を直接利用することが難しいため、マーカーの整備を一層遅らせる要因となっていた。Torifolium属においてもBARRETら(2004)やHERRMANNら(2006)によるDNAマーカー開発の報告があるものの、公表されているマーカー数が極めて少なく、目的形質の選抜マーカーを開発するのには十分でない。本研究は選抜DNAマーカーを用いたアカクローバ育種法の開発の資とすることを目的として、アカクローバのDNAマーカーの開発とその育種的利用法について論ずる。そのため、第一にRFLPおよびマイクロサテライト配列を利用したDNAマーカーの開発と連鎖地図の作成を行い、第二に開発したDNAマーカーの育種素材に対する応用性の検証と越冬性に関するQTL解析を行うとともに、その育種的利用法について論述した。

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II アカクローバにおけるDNAマーカーの開発と連鎖地図の作成

DNAマーカーの多型検出法には数種類があるが、初期に多く開発されたのはRFLP (RestrictionFragment Length Polymorphisms)を利用したものである。RFLPマーカーはヘテロ型を検出できる共優性マーカーで遺伝子領域から比較的低コストに作出することができ、同一種の異なる解析集団において応用性の高いDNAマーカーである。しかしながら、RFLP はDNAをメンブレンに転写し、それに目的のDNA断片をハイブリダイゼーションさせる過程を必要とするために多くの労力を要する欠点がある。一方、マイクロサテライトマーカーは2~4塩基の短いモチーフの繰り返し配列による多型を利用したマーカーであり、様々な植物種で開発されている。本マーカーは共優性マーカーとしてヘテロ座の検出が可能であり、解析が簡便であるという利点があるものの、開発には濃縮ライブラリーの作成や多量のシーケンス解析など高度なテクニックを要する。本章では新しい育種技術の整備を目的としてアカクローバのDNAマーカーの開発と連鎖地図の作成を行う。最初にアカクローバcDNA由来のRFLPマーカーによる連鎖地図の作成について述べ、次にアカクローバのEST(Express Sequence Tags)配列をもとにしたマイクロサテライトマーカーによる高密度連鎖地図の作成について述べる。

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1.RFLPマーカーによる連鎖地図の作成

1)材料および方法

(1)マッピング集団の作成連鎖地図作成は通常F2集団を用いて作成するが、自殖できない植物種ではF1集団を用いて両親ごとの染色体の組換え価をもとにマーカーの位置を決定するのが一般的である(RIRRERら1994、GRATTAPAGLIAとSEDEROFF 1994、HEMMATら1994、MALEPAAREDら1997)。その結果、一つのマッピング集団から両親(P1、P2)に対応する2種類の連鎖群が形成されるが(P1およびP2特異的な連鎖群)、マーカーの中にはP1,P2のどちらにおいても多型が検出されるマーカー(共通マーカー)が存在するので、この共通マーカーを橋渡しにして各両親の連鎖群を統合し、一つの連鎖地図とする。したがって、より多くの共通マーカーを得ることは連鎖地図の精度を高めるのに重要なポイントとなる。共通マーカーの割合の高さは両親のゲノムの相似の高さに比例するので、戻し交雑第2代をマッピング集団として用いれば、戻し交雑第1代であるドナー親と戻し交雑親が理論上同一ゲノムを1セット持つことから、同一ゲノム内に存在する特異的な塩基配列が共通マーカーとして検出されることになる。そこで、本研究では共通マーカーの数を増やすために戻し交雑集団をマッピング集団として用いることにした。アカクローバ2個体「WF1680」と「1588」によるF1集団の作成を1997年に全ロシアウィリアムス飼料作研究所で行った(Table 1)。花粉親として用いた「WF1680」はロシアの中心部で栽培される品種由来の個体であり、晩生で白花(劣性)をつけるという特性を持つ。種子親に用いた「1588」はロシアのアルハンゲルスク地帯(北緯65度東経40度)由来の野生個体であり早生でピンク色の花をつける。「WF1680×1588」のF1集団から「1588」に形態が似ている個体を選び「272」と名付けて種子親とし、「WF1680」による戻し交雑を行って後代167個体をマッピング集団として用いた。

(2)RFLP解析DNAは葉齢の若い葉から抽出した。抽出法はDOYLEら(1990)が報告したCTAB法を一部改良したものを用いた。すなわち、2%CTAB溶液に100mM Tris-HCL(pH8.0)、20mM EDTA、0.7MNaCl、0.3Mソルビトール、0.5% ポリビニルピロリドン、2%ポリエチレングリコール、0.3%メルカプトエタノールを混合した溶液である。各3μgのDNAをBamHI、DraI、EcoRI、HindIII、KpnIおよびPstIの6種類の制限酵素で切断し、0.6%アガロースで電気泳動した後にナイロン膜(Hybond-N+、Amersham Pharmacia Biotec社)上に転写した。RFLP解析におけるサザンハイブリダイゼーションのプローブにはアカクローバのcDNA由来の断片を用いた。アカクローバ品種「ホクセキ」の幼苗からTRIzol溶液(Life Technologies社)を用いて全RNAを抽出した。cDNAライブラリーの作成はcDNAライブラリー作成キット(Stratagene社)を用い、マニュアルに従って作成した。全2213のcDNAクローンより、マッピング集団から任意に選んだ8個体のDNA上でサザンハイブリダイゼーションにより多型を示し、かつ明瞭なRFLP断片が検出できるクローンのスクリーニングを行った。サザンハイブリダイゼーションには

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Amersham Pharmacia Biotec社のECL direct labeling systemで標識されたプローブを用い、シグナルをX線フィルムに感光させてバンドの検出を行った。スクリーニングしたcDNAについてマッピング集団の全個体に対するRFLP解析を行った。

(3)連鎖解析連鎖地図は解析ソフトウエアJoinMap version 2.0 (STAM and VAN Ooijin 1995)により各マーカーの両親の遺伝子型の分離比データを用いて作成した。各座の分離比はχ2検定によりJMSLAモジュールを用いて検出した。データの群分けはJMGRPモジュールを用いてLOD値4.0で計算した。この段階でどのグループにも属さなかったデータセットは解析から除外した。組換え値はJMRECモジュールにより閾値としてLOD値を0.01、REC値を0.49として計算した。連鎖群内の座の並びはJMMAPモジュールによりコサンビの関数で閾値をLOD値で2.0、REC値で0.35として行った。この段階で連鎖群内の並びが決定しなかったマーカーは解析から除外した。

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1.RFLPマーカーによる連鎖地図の作成

2)結 果

スクリーニングを行った2213のcDNAプローブのうち36%(808)のcDNAプローブがマッピング集団の8個体間で明瞭なバンドが認められ、5.5%(121)のcDNAプローブが多型バンドを検出した。これら121のcDNAプローブを用いて全マッピング集団に対する多型解析を行ったところ、65 cDNAプローブがマルチバンドを検出した。これらのマルチバンドは異なるマーカーとして扱い、連鎖地図上で同一座に位置づけられた場合には同一マーカーとみなした。cDNAプローブのサイズ約800bp~3kbpの間であり、平均の大きさは1.7kbであった。121の cDNAプローブから249のマーカーの遺伝型データを取得し、JoinMAPのJNGRPモジュールにより群分けしたところ、191のマーカーが7つの連鎖群に分けられ、58のマーカーはどの連鎖群にも属さなかった。群分けされた191のマーカーの連鎖群内の並びをJMMAPモジュールで決定したところ33のマーカーがデータ解析から除外され、158のマーカーの連鎖地図上の位置を決定した(Fig. 1)。各連鎖群は、距離の長い順にLG1からLG7までの番号を付与し、21のマルチバンドは同一座に位置づけられたことから、10のマーカーとみなした。なお、1つのマーカーが複数の座に位置づけられることはなかった。位置が決定した158のマーカーのうち1つのマーカーは劣性形質である白花の形態マーカー(Flower-c)で残りの157マーカーがRFLPマーカーである。Flower-cはLG1の末端から8.0 cMに位置づけられた。連鎖地図上のRFLPマーカーは90のcDNAプローブに由来した。そのうち41のcDNAプローブはマルチバンドを検出し、残りのプローブはシングルバンドを検出した(Table 2)。1つのcDNAから検出されたマルチバンドの数は2~6本で、2つのマルチバンドを検出したcDNAプローブの数が最も多かった。4~6本のマルチバンドを検出したcDNAプローブは同一プローブ由来の複数のマーカーが異なる連鎖群に位置づけられた。一方、2本のマルチバンドを検出したcDNAプローブでは同一プローブ由来のマーカーで全て同一連鎖群内に位置づけられた。連鎖地図の全長は535.3cMで各連鎖群の長さは63.7cM(LG7)から104.cM(LG1)であった(Table 3)。2つの座(マーカーにより位置づけられた座位)の平均距離は3.4cMで座間の距離が最も長かったのはLG1上のC1483aとC27の間で23.2cMであった。ドナー親(種子親:「272」)に特異的な座位と反復親(花粉親:「WF1680」)に特異的な座位および共通に有する座位はそれぞれ7つの連鎖群上に分散した(Table 3)。連鎖地図上の全ての座位はその41%がドナー親に特異的で、22%が反復親に特異的であり、残りの37%が両親に共通な座位であった。共通の座位の分離のタイプはab×ac、ao×aoおよびab×abに分けられるが、ao×aoタイプのマーカーが最も多かった。分離の歪みは地図上の37%の座位で認められ、地図上に分散して位置づけられた(Table 4、Fig.1)。分離比が歪んだ座位の割合はその分離タイプによって異なり、共通に存在する座位の中ではab×ab, ao×aoタイプでほぼ全て分離が歪み、ab×acタイプでは36%が歪んでいた。両親特異的な座位は共通の座位に比べて分離の歪みが少なく、ドナー親特異的な座位で9.4%、反復親特異的な座位で5.7%だった。

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1.RFLPマーカーによる連鎖地図の作成

3)考 察

本節では、157のRFLPマーカーと1つの形態マーカーによる7つの連鎖群に分かれたアカクローバの連鎖地図を作成した。本連鎖地図はクローバ属で最初に作成された連鎖地図である。アカクローバの染色体の基本数は7本であり、連鎖群と同数であることから各連鎖群は各染色体に対応すると考えられる。連鎖地図の全長は535,3cMであったが、この値はアカクローバとゲノムサイズがほぼ同一であるLotus japonicusの連鎖地図(HAYASHIら 2001)の全長487.3~481.3cMと大きな差異はなく、有効な値であるものと考えられた。158のマーカーが地図上に位置づけられた中で、91のマーカーが解析から除外された。このことは、各両親の連鎖地図を統合して一つの連鎖地図にする過程において、両親共通のマーカーが十分でない場合に起こり、その数も増加する。例えば、LG3上の末端から43.4cMの位置に座乗する共通マーカー、C1770c(ao×aoタイプ)を除外してLG3の連鎖群の並びを計算した場合に、LG3は38座による80.7cMの連鎖群から23座による67.9cMの連鎖群へ縮小した(データ略)。このことは、今後共通マーカー数が増加するにつれてこれら91のマーカーも連鎖地図上に位置づけられる可能性を示唆している。分離タイプの中ではドナー親特異的な座位の割合が高かった。ドナー親(「272」)のゲノムの1セットは高緯度地帯であるロシア・アルハンゲルスク地帯の野生個体(「1588」)に由来し、もう1セットは栽培品種由来の反復親(「WF1680」)に由来する。個体内の2つのゲノムの由来が異なることがドナー親の多型性が反復親に比べて高いことに影響していると考えられる。本研究で得られた共通座の割合はSalixのシュードテストクロスで得られた22%より高く(TSAROUHASら2002)、Eucalyptus globulesで得られた40%より低かった(THAMARUSら2002)。本研究では共通座の割合を高めるためシュードテストクロスではなく戻し交雑集団をマッピング集団として用いたが、その効果は明確に現れなかった。その要因としてドナー親内のゲノム間多型性の高さが影響しているものと考えられる。地図上の座の分離比の歪みは様々な種で報告されている。分離比の歪みの原因については統計的なバイアスや遺伝型解析のスコアミスなどのデータ解析にかかわる要因や染色体の欠失、致死遺伝子、遺伝的隔離作用など生物的要因など様々な理由が考えられている(PLOMINら1995、BRADSHAWとSTETTLER 1994)。本研究では分離比が歪んだ座の割合は分離タイプによって異なり、ab×abおよびao×aoタイプではほぼ全ての座の分離比が歪みヘテロ型にシフトしていた。同様の傾向は2倍体アルファルファのF2集団による連鎖地図でも生じており(BRUMMERら1993、KISSら1993、KALO'ら2000)、ホモ型を避ける何らかの生理的要因が働いていることが推定された。本連鎖地図作成で生じた分離比の歪みの原因を明確に述べることは難しいがいくつかの要因による複合作用であると推定され、解明にはさらに詳細な検討が必要であるものと考えられる。連鎖地図上の座はLG1、LG3、LG4およびLG5の末端領域を除いてほぼ均等に分布していた。DARVASHIら(1993)は地図上の座間の距離が10~20cMであれば信頼のできるQTLの検出を

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インターバルマッピングによって行えると報告している。本連鎖地図は、LG1上で座間の距離が23.2cM離れた領域があるものの、他の領域では2つの座の間に20cM以上の距離が認められなかったことから、QTL解析を行う上で十分な座の密度を有しているものと判断できる。したがって、マッピング集団の形質評価を行い、本連鎖地図を用いてQTL解析を行うことで、農業形質に関わる有用なQTLが同定される可能性が高い。本研究で作成した連鎖地図は、今後アカクローバのQTL解析により形質に連鎖した選抜マーカーを開発していく上での重要な情報である。また、本連鎖地図はクローバ属ではじめて作成されたことから、アカクローバのみならずクローバ属全体のゲノム情報を用いた育種法の開発に有益な情報を提供したものと考えられる。

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2.マイクロサテライトマーカーによる連鎖地図の作成

1)材料および方法

(1)材 料マッピング集団にはアカクローバ個体「HR」を種子親とし、「R130」を花粉親としたF1後代188個体を用いた。「HR」は日本の品種「ホクセキ」とスイスの品種「Renova」に由来し、形態は早生、立ち型で花色はピンク色、葉の大きさは中である。「R130」は第2章の第1節で述べたRFLP地図のマッピング集団から選抜した個体でロシア・アルハンゲルスク地域の野生個体とロシアの栽培品種に由来する。形態は晩生で匍匐型、花色は白で葉は小さい。

(2)マイクロサテライトマーカーの開発マイクロサテライトマーカーは4種類のライブラリー、すなわちゲノムSSR濃縮ライブラリー、メチルフィルトレーションゲノムライブラリー、cDNASSR濃縮ライブラリーおよび均一化cDNAライブラリを用いて開発した。ゲノム濃縮ライブラリー作成には「HR」と「R130」のDNAを用いた。800~1000bpのDNA断片をpBluescriptII SKプラスミドベクター(Stratagene, USA)に導入しKIJASら(1994)が報告した方法を用いてSSR濃縮ライブラリーを作成した。濃縮に用いたモチーフは遺伝子領域に比較的多いとされる(AAC)、(AAG)、(ATC)、(GGA)および(GGT)である(田畑ら 未発表)。メチルフィルトレーションゲノムライブラリーは超音波により分解した1kb以下のゲノムDNAをpBluescriptII SKプラスミドベクターへ導入し、3種類のmcrBC+ E.coliccホスト、すなわちJM109、DH5αおよびXLI-Blueに導入して作成した(RABINOWICZ 1999)。cDNA濃縮ライブラリーの作成には品種「ホクセキ」の幼苗を用いた。RNAの抽出とcDNAの合成はASAMIZUら(1999)が報告した方法を用いた。500~1000bのcDNA断片をpBluescriptII SK-プラスミドベクターに導入して濃縮ライブラリーを作成した。濃縮に用いたモチーフは(AAC)、(AAG)、(ATC)、(GGA)、(GGT)、(CT)および(AAAG)である。均一化cDNAライブラリーはHRの葉と葉柄、およびR130の葉を用いて作成した。プラスミドDNAからTempliPhiDNA amplificationキット(アマシャム社)を用いて直接増幅・シーケンスを行った。シーケンスは片側のみ解読し、cDNA濃縮ライブラリーと同じモチーフのSSRを探索した。マイクロサテライトマーカーのプライマーの設計には設計プログラムPrimer 3を用い(STEVEとHELEN 2000)、増幅断片の大きさが90~300bpとなるように設計した。シーケンス解析は生データについてデータの質の評価をPhred programにより評価したのち(EWINGら1998)、BLASTプログラムのBLASTNを用いて公開データべース上のAlabidopsisthaliana(シロイヌナズナ)、L. japonicus 、M. trancatulaおよびダイズの遺伝子配列との相同性を解析した。なお、検索の閾値はE≦10-5またはビットスコア≧30とした。L. japonicusおよびM. trancatulaについては相同性の高いゲノミッククローンについて各連鎖地図上の位置を確認し、アカクローバマイクロサテライトマーカーの連鎖地図上の位置と比較することによりマクロシンテニーを推定した。

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(3)マイクロサテライトマーカーの多型解析PCRは反応液の全量を5μlとし、0.5ngのアカクローバゲノムDNA、1×PCRバッファー(TakaraBio社)、0.2U Takara Taq(Takara Bio社),0.2mM dNTPs、0.8μMプライマーペアの混合溶液を用いた。PCR反応はタッチダウンPCR法(DONら1991)を一部修正し、以下のプログラムで行った。94℃ 3分に続いて94℃ 30秒+ 68 ℃+30秒を3サイクル終了ごとにアニーリング温度を2℃低下させるラウンドを3回、続いて94 ℃ 30秒+ 62 ℃30秒+72 ℃30秒を3サイクル終了ごとにアニーリング温度を2℃低下させるラウンドを4回、続いて94 ℃ 30秒+ 55 ℃30秒+ 72 ℃30秒を30サイクル、最後に72℃10分である。PCR増幅産物は3%のMetaPhor agarose gels(BMA社)と10%のアクリルアミドゲルを用いて電気流動し、マッピング集団の両親および188F1個体から任意に選んだ10個体の間で多型を示すマーカーを選抜した。選抜したマーカーによるマッピング集団全個体の多型解析は3%のアガロースゲルを用いて行い、多型検出が困難なマーカーに限り10%アクリルアミドゲルによる再解析を行った。

(4)RFLP解析前節(第2章第1節)で開発したRFLPマーカーを用いて前節と同様な解析法でマッピング集団の任意の個体14個体で多型解析をおこなった。解析方法は前節と同様である。多型が検出されたRFLPマーカーはマッピング集団全個体に対する多型解析に供試した。

(5)連鎖解析RFLPマーカーおよびマイクロサテライトマーカーの遺伝子型データ解析はカラーマッピング法(KISSら1998)および解析プログラムJoinMap ver3.0(http://www.kyazma.nl)を用いて行った。得られた遺伝子型タイプは色分けしてデータのマトリクスを作成し、データの並び替えによってマーカーを7つのグループに分けた。各グループのデータセットは集団のタイプをcpとしてJoinMapの群分け機能によりLOD値5で再度群分けの解析を行い、同一グループ内に再分類されたデータセットを一つの連鎖群とみなした。各連鎖群内のマーカーの並びはJoinMapのマッピング機能を用いてLOD≧2.0、REC≦0.35で計算した。

(6)FISHによる染色体の解析染色体のサンプル調整とDAPI染色をOHMIDOら(2002)の報告した方法により、染色体の識別を行った。FISH解析のプローブには28S rDNA、5S rDNAおよび各連鎖群に座乗しているマーカー配列を含むBACクローンを用いて行った。28S rDNAと5S rDNAのプローブはアカクローバゲノムのrDNAと5S RNA遺伝子のシーケンスをもとに作成したプライマーを用いてPCRにより増幅した。BACプローブはHRのゲノムDNA由来のBACライブラリーをCopyContorolpCC1BAC(Epicentre社)により作成し、3-D DNAプールを構築した中からSSRを含むBACを選抜して作成した。

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アカクローバ(Trifolium pratense L.)におけるDNAマーカーの開発とその育種的利用に関する研究

2.マイクロサテライトマーカーによる連鎖地図の作成

2)結 果

(1)マイクロサテライトマーカーの開発アカクローバのゲノム領域内のSSRを同定するために作成したゲノムSSR濃縮ライブラリー、メチルフィルトレーションゲノムライブラリー、cDNASSR濃縮ライブラリー、および均一化cDNAライブラリーのクローンの数のリストをTable 5に示した。4種類のライブラリーから83172クローンを同定した。ゲノミックおよびcDNAのSSR濃縮ライブラリーではそれぞれ15427(56%)および6568(57%)のクローンが15塩基以上のSSRを含み、メチルフィルトレーションゲノムライブラリーでは533(28%)のクローンが、均一化cDNAライブラリーでは6801(25%)のクローンが同様のSSRを含んでいた。これらSSRを含むクローンの塩基配列をもとに全7244のマイクロサテライトマーカーのプライマーペアを設計した。プライマーペアを設計した7244クローンの塩基配列に対して相同性の検索を行ったところ、5970のクローンが既知のタンパク質をコードしていることが判明した。7159のプライマーペアを用いて「HR」、「R130」およびマッピング集団10個体間で3%アガロースゲルによる多型解析を行ったところ、1488のプライマーペアが多型を検出した。多数のマルチバンドを検出するプライマーペアについてはデータ取得上の混乱を避けるために以降の解析から排除した。残りのプライマーペアについてマッピング集団全個体に対して多型解析を行ったところ、1305のプライマーぺアについて明確な多型を得ることができた。そのうち1024のプライマーペアは3%アガロースゲルで多型判別が可能であり、残り281のプライマーペアは10%アクリルアミドで判別することができた。

(2)RFLPマーカーのスクリーニング121のcDNAプローブを用いて「HR」、「R130」およびマッピング集団14個体間の多型解析を行ったところ95のプローブが多型を検出した。そのうち37のプローブは2~6本のマルチバンドを検出し、これらのバンドは異なるマーカーとみなした。その結果、全部で167のRFLPマーカーの遺伝子型データを取得することができた。

(3)連鎖地図の作成1472のマーカー(1305のマイクロサテライトマーカーおよび167のRFLPマーカー)の遺伝子型データを用いて連鎖解析を行ったところ1399のマーカーによる1434座位が連鎖群上に位置づけられた(Fig. 2、Table 6)。うち1286座位はマイクロサテライトマーカーに由来し、148座位はRFLPマーカーに由来することが判明した。連鎖地図の全長は868.7cMで各連鎖群の長さは108.2cM(LG6)から149.7cM(LG2)である。このことから、2つの座位の間の平均距離は全体で0.6cMであり、連鎖群内では0.46cM(LG3)から0.81cM(LG5)であった。座位の密度は連鎖群の末端で粗になる傾向にあった。34のマーカーが複数の座位を検出し、そのうち17のマーカーは同一連鎖群内に、残り17のマーカーは異なる連鎖群に検出された複数の座位が位置づけられた。連鎖地図上の43%にあたる611座位は「HR」特異的であり、418座位(29%)がR130特異

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的、405座位 (28%)が共通の座位であった(Table 7)。LG1は「HR」特異的な座位の割合が64%と高かった。共通座位の分離タイプはab×cd、ef×eg、hk×hkタイプがそれぞれ167,160,78座位だった。全体の27%の座位について分離比の歪みが認められた(P<0.05、Table 6)。分離の歪みは全ての連鎖群で認められたが、連鎖群によってその割合は異なりLG5では7.7%の座位の分離が歪んでいたのに対し、LG2では52%が歪んでいた。分離タイプ別ではhk×hkが67.9%と歪んだ座位の割合が高かったが、そのほかの分離タイプは22.7~31.9%と大きな差は認められなかった。

(4)染色体の構造と連鎖群との関連性Fig. 3aにDAPI染色によるアカクローバの染色体像を示した。アカクローバの染色体の長さは5.1~7.4μmで不均一な濃縮パターン(CP)により染色体を識別することができた。FISH解析では28S rDNA(緑色の蛍光シグナル)が染色体1番の短腕部の核小体形成部(NORs)において強く検出され、染色体6番の短腕においても弱く検出された(Fig. 3b)。また「HR」の染色体5番の片側にもシグナルが検出されたが、「R130」では検出されなかった。5S rDNA(赤色のシグナル)は染色体1番の中心部からNORsにかけての領域と染色体2番の短腕に2カ所検出された(Fig. 3c)。各連鎖群から以下のマーカー配列を含むBACクローンをBACライブリーの3-Dプールから選抜し、FISH解析を行った。すなわちRCS1777(LG1)、RCS1588 (LG2)、RCS1627(LG3)、RCS1647 (LG4)、RCS0036 (LG5)、 RCS0019 (LG6)およびRCS2546 (LG7)である。RCS1777、RCS1588、RCS1627、RCS0036、RCS0019および RCS2546はそれぞれ染色体4,2,5,1,6および3番で検出された(Fig. 3d)。RCS1647は染色体7番の末端と1番の中心部のNORの近くに検出された。

(5)L. japonicus およびM. truncatulaとの比較連鎖地図上に座乗した1286のマイクロサテライトマーカーのうち434のマーカーがL.japonicusと、566のマーカーがM. truncatulaと、257のマーカーが両種のゲノム配列と相同性を示した。相同性を示した配列は他のマメ科植物の連鎖群上での位置を比較することでマクロシンテニーの推定を行った(Fig. 4)。3種間のマクロシンテニーはアカクローバ(以下rc)のLG1、L. japonicus(以下Lj)のChr5およびM. Truncatula s(以下Mt)のChr1の間で認められた。また、Lj chr1はrc LG6-Mt chr7およびrc LG7-Mt chr3の間でもマクロシンテニーが認められた。そのほかの連鎖群の関係はrc LG 2 - Lj chr2 - Mt chr6および rc LG 3 - Lj chr4 - Mt chr4の間で一部関連が認められたものの、全体的には複雑な関連を示した。

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2.マイクロサテライトマーカーによる連鎖地図の作成

3)考 察

SSR同定のために作出した4種類のライブラリーのうち、ゲノムおよびcDNA濃縮ライブラリーではそれぞれ53%と57%のクローンにSSRが含まれていたが、SSR濃縮を行わなかったライブラリーでも十分量のSSRを含むクローンの選抜を行うことができた。2種類のゲノムライブラリーのうちメチルフィルトレーションゲノムライブラリーは90%のクローンが既知遺伝子と相同性を示し、フィルター処理の及ぼす効果の高さが明らかとなった。一方、ゲノムSSR濃縮ライブラリーでも遺伝子領域に多いとみなされたモチーフを濃縮に用いることで60%以上のクローンが既知遺伝子と相同性を示した。2種類のcDNAライブラリーでは80%のクローンが既知遺伝子と相同性を示したことから、これらのライブラリーは遺伝子に関連したマイクロサテライトマーカーの作出に有用なソースであると考えられる。マーカーの多型検出法については取り扱いの容易なアガロースゲルで多型が分離できるマーカーの作出を目指した。設計した7159プライマーペアのうち1488ペアがマッピング集団で多型を示し、そのうち約70%がアガロースで多型検出が可能であった。本研究で設計したプライマーペアに対するスクリーニング効率は21%であり、BARETTら(2004)が報告したシロクローバマイクロサテライトマーカーでのスクリーニング効率(63%)に比べて低い値であった。これは検出バンドの長さの差が大きい配列を厳選して選抜したことによると考えられる。近年、より精度の高いゲノム解析を目的として密度の高い連鎖地図が数種の作物で開発されている。本節で作成した連鎖地図のlocusの密度は平均で0.6cM/lociだった。この結果はMcCOUCHら(2002)によるイネの連鎖地図(electronic-PCR、157 kb/loci)、MENZら(2002)によるソルガムの連鎖地図(AFLPマーカー、0.6 cM/loci)、SONGら(2004)によるダイズの統合連鎖地図(マイクロサテライトマーカー、1.4 cM/locic)など報告されている主要な高密度連鎖地図に比べて遜色がなく、十分な密度を有した連鎖地図であると判断できる。また複数の座を検出したマーカーの割合は全体の2.3%と低く、本節において開発したマーカーは異なる集団の連鎖解析において高い精度で応用できるものと考えられる。連鎖地図の全体の長さは868.7cMであり、第2章1節で述べたRFLP連鎖地図の535.3cMより長かった。距離が長くなった要因のひとつはマーカー数の増加によるゲノムカバー率の増大であると考えられる。また、マッピング集団のゲノムのヘテロ性の違いも関与している可能性がある。本節で用いた集団は日本、スイスおよびロシアに由来していたが、RFLP連鎖地図集団はロシアのみに由来した。特に日本とスイスに由来する「HR」特異的なマーカーの割合は43%と「R130」の29%より高く、「HR」はゲノムのヘテロ性が高いと推察される。アカクローバのゲノム量を440.1Mbとした場合(SATOとISOBEら 2005)、遺伝距離と物理距離の関係は507kb/cMとなった。この結果は近縁のマメ科植物M. truncatula の970 kb/cM(CHOIら2004)、L. japonicus の 907 kb/cM (HAYASHIら2001)およびシロクローバの835 Kb/cM(BARRETら2004)に比べて連鎖距離あたりの物理距離が短かった。シロクローバとの違いはシロクローバのゲノムサイズが956Mb(BARRETら2004)とアカクローバに比べて大きいことが要因

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であると推察された。FISH解析により連鎖地図と染色体地図の統合を行ったところ、染色体7番と1番に検出されたLG4上のRCS1647以外のマーカーは各染色体上に1箇所ずつ検出された。RCS1647の染色体1番上のシグナルはゲノムが進化の過程で複製された領域であると考えられる。解析に用いたマーカーは各連鎖群の末端に位置づけらたが、染色体上でも末端にシグナルが検出されており位置の対応にも矛盾がなく、連鎖群の精度の高さが証明された。L. japonicusおよびM. trancatulaのシーケンス情報はそれぞれ全体の約半分が公開されているにすぎないが、アカクローバのクローン配列の約2/3と相同性を示し、マクロシンテニー解析を行うことが可能であった。アカクローバおよびL. japonicu、M. trancatulaはそれぞれ染色体の基本数が7,6,8本と異なるものの、アカクローバの3つの連鎖群は比較した3種のマメ科植物種間で保存性が高いことが推察された。残りの連鎖群においても部分的なマクロシンテニーが認められており、マメ科モデル植物のゲノム情報は高い確率でアカクローバへ応用することが可能であると考えられた。本節で作成したマイクロサテライトマーカーによる連鎖地図は、マメ科作物の中では最も密度が高くかつ遺伝子由来のマーカーであるため応用性が高い。また、連鎖地図だけでなく多数のSSRを含む塩基配列情報や染色体との対応、マメ科間でのマクロシンテニーなど本節で蓄積したゲノム情報はDNAマーカーを利用したアカクローバ育種技術の開発の基盤になると考えられる。

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アカクローバ(Trifolium pratense L.)におけるDNAマーカーの開発とその育種的利用に関する研究

III アカクローバにおけるDNAマーカーの育種的利用法

DNAマーカーは新しい育種ツールとして期待されており、多くの作物種で整備が行われている。一方、実際にDNAマーカーを利用して育成された品種は極めて少ない。DNAマーカーの実用化へのステップはマーカーの種類や対象とする作物の生殖様式、育種素材の変異の広さ、育種目標などにより異なるが、大きく2つのステップに分けることができる。すなわち、開発したDNAマーカーの育種素材に対する多型性の確認と、育種目標に関連するDNAマーカーの同定である。特に、育種目標に関連するDNAマーカーの同定は形質の遺伝様式が複雑になるほど困難であり、QTL解析、シンテニーを利用したモデル植物の情報利用など様々な手法やゲノムリソースを駆使して行わなければならない(RAJEEVら2005)。中でも、他殖性植物はDNAマーカー解析の事例が少なく、育種的利用法に関する理論開発も遅れていることから、DNAマーカーを用いた育種への利用効率を上げるためにはその特性を多面的に証明する必要がある。DNAマーカーを用いた育種法として最も期待されているのは、目的形質に関与するDNAマーカーを用いて育種素材の選抜を行うMAS(Marker Assisted Selection)である。特に、収量やストレス耐性などある形質に関して複数の遺伝子が関与している量的形質遺伝子座(QTL: QuantitativeTraits Loci)は発現に環境要因の影響を受けやすく表現型での効率的な選抜が困難であり、DNAマーカーによるMASが選抜の効率化につながると考えられている。MASへの第一歩は選抜に用いるDNAマーカーの開発、すなわち目的形質に関連するDNAマーカーの探索である。一般にQTLに支配されている形質に関連するDNAマーカーの探索はQTL解析と称されているが、QTL解析にはいくつかの手法が存在する。最も広く行われている方法はインターバルマッピング法であるが、これは連鎖地図と連鎖地図を作成した集団を用いてQTLを連鎖地図上に位置づける方法であり、形質に関与するQTLの数、連鎖地図上の位置、および作用力を検出することが可能である(鵜飼 2000)。越冬性とは越冬時に生じる生物的・非生物的複合ストレス耐性と定義される(北海道農業研究センター、2001)。中でも生物的ストレス、すなわち病害による影響は全体の3~8割を占めていると報告されている(NOVOSIOLOVA, 2002)。越冬中に生じる最も重要な病害は積雪下において子のう菌Sclerotinia trifoliorum Erikssonによって発生する菌核病である(BALDINら 2001)。菌核病は秋に感染したのち積雪下で序々に進行し、翌春の融雪後気温の上昇とともに一気に茎葉や根が灰白色に腐敗する(成田1959)。本種において、菌核病抵抗性は病原菌に対する真性抵抗性のみならず、積雪下の越冬性も含めた様々な要因が関与していると考えられ、抵抗性遺伝子座はQTLであると推定されている。一方、越冬性に関与する主な非生物的ストレスは耐凍性であり、耐凍性もまたQTLに支配される形質であることが明らかにされている(ALONSO-BLANCら2005)。しかしながら、個体レベルでのアカクローバの耐凍性検定は検定の系が確立されておらず、現在のところ評価が非常に難しい。以上の背景から本章では、アカクローバにおけるDNAマーカーを育種へ利用するための第一段階として、第2章で開発したRFLPマーカーおよびマイクロサテライトマーカーの育種素材に対する応用性と選抜DNAマーカーとしての可能性を検討する。最初にDNAマーカーの育種素材に対す

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る応用性を明らかにするために異なる遺伝子型をもつ個体に対するマーカーの移行性と連鎖地図上のマーカー位置の安定性を評価する。続いて目的形質に関連するDNAマーカーの同定のステップとして越冬性をターゲット形質とし、QTL解析による候補領域の検出を行う。

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1.RFLPおよびマイクロサテライトマーカーの育種素材への応用性

1)材料および方法

(1)RFLPマーカーの多型解析供試材料は日本の育成品種である「ホクセキ」、ロシアの「ラーニイ2」およびカナダの「アルタスウェード」の3品種を用いた。各品種から4個体ずつゲノムDNAを抽出し、全12個体について90のcDNAプローブによるRFLP解析を行った。RFLP解析は第2章第1節と同様の方法で行い、多型バンドの数の評価とRFLP連鎖地図のマッピング集団の両親である「272」、「WF1680」とのバンドサイズの比較を行った。バンドサイズの違いを異なるアレルとみなし、バンドを検出しなかった座はホモ座のnull(該当する遺伝子座をもたない)であるとみなした。

(2)マイクロサテライトマーカーの多型解析異なる11カ国で育成されたアカクローバ品種・系統を多型解析に用いた。用いた品種・系統は以下の通りで、( )内は育成国を示す。「ナツユウ」(日本)、「ホクセキ」(日本)、「サッポロ」(日本)、「北育20号」(日本)、「ラーニイ2」(ロシア)、「スタート」(チェコスロバキア)、「クラノ」(デンマーク)、「レノバ」(スイス)、「メルビー」(ベルギー)、「ケンランド」(アメリカ合衆国)、「アルタスウェード」(カナダ)。各品種8個体からゲノムDNAを抽出し、全88個体について連鎖群をカバーするマイクロサテライトマーカーに対応する268プライマーペアを用いてPCRを行った。PCRの反応液組成とプログラムは第2章第2節と同様である。PCR増幅産物を10%アクリルアミドゲルで泳動し、エチジウムブロマイド染色によりバンドを検出した。バンドのサイズの違いを異なるアレルとみなし、バンドを検出しなかった座はホモ座のnullであるとみなした。バンドが1本のみ検出された場合、遺伝子型はホモ型(aa)かnullアレルとのヘテロ座(ao)と推察できるが、その判断はホモ座のnullが88個体中に検出された割合から推定した。各マーカーについてアレルの数と以下の式によるPICの算出を行った。PICi = 1-ΣiPij2 (Pijはi マーカーにおける j アレルの頻度を示す)。

(3)RFLP地図とマイクロサテライト地図の比較第2章第1節で開発したRFLPマーカーは第2章第2節においてマイクロサテライト地図上に位置づけられているので、マイクロサテライトマーカーをRFLP地図上に位置づけた方法について述べる。RFLP連鎖地図を作成した解析集団「272×WF1680」から任意に抽出した94個体および両親のゲノムDNAを用いてマイクロサテライト連鎖地図全体をカバーしている177プライマーペアについてPCRを行った。PCRの反応液組成とプログラムは第2章第2節と同様である。アガロースゲルを用いて多型を判別し、カラーマッピング法(KISSら1998)および解析プログラムJoinMapver3.0(http://www.kyazma.nl)を用いて解析した。また、1形態マーカー、8RAPDマーカー(Oerpn社 10mer kit)および6STS(Sequence Tag-Sites)マーカーのデータも連鎖解析に加えた。STSマーカーはIVASHUTAら(2002)により同定されたアルファルファ耐凍性に関する候補遺

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伝子の領域から設計されたマーカーである。連鎖解析の手順と条件は第2章第2節と同様である。

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1.RFLPおよびマイクロサテライトマーカーの育種素材への応用性

2)結 果

(1)RFLPマーカーの多型解析Table 8に90 のcDNAプローブにより検出されたアカクローバ12個体間における多型バンドの数を示した。90中85のプローブが12個体間で多型を検出したが5プローブは多型を検出しなかった。78プローブはマッピング後代と同じ大きさのバンドを検出したが、残りの7プローブはマッピング集団と同じサイズのバンドを検出しなかった。「ホクセキ」、「アルタスウェード」および「ラーニイ2」の各品種内で多型を検出したプローブの数はそれぞれ79、83、83だった。3つの品種間で品種特異的なアレルが検出されたプローブの数は33だった。全体でみると、1プローブあたりのアレルの数は3.3であり、最大は10、最小は1だった(データ略)。

(2)マイクロサテライトマーカーの多型解析多型解析を行った268のプライマーペア全てが88個体間で多型を示した。Fig.5にマイクロサテライトマーカーのアレルの数およびPICの頻度分布を示した。1マーカーあたりの平均のアレルの数は6.5で最大が19、最小が2だった。各マーカーのプライマーペアにおいて1個体以上がバンドを検出しなかったプライマーペアは供試した268のプライマーペア中78プライマーペアだった。PICの平均値は0.6で最大が0.89、最小が0.05だった。PICの頻度がもっとも高かったのは0.7~0.8の間だった。

(3)RFLP地図とマイクロサテライト地図の比較RFLP連鎖地図の作成集団「272×WF1680」について121cDNAプローブ由来の249RFLPマーカー、128マイクロサテライトマーカー、8RAPDマーカー、6STSマーカーおよび1形態マーカーによる連鎖解析から301座位による全長747.5cMの地図を作成した。Table 9に連鎖地図上の座位の数とRFLPマーカーとしてハイブリダイズされたcDNAプローブの数を示す。連鎖地図上の301座位のうちRFLPマーカーの座位の数は87cDNAプローブに由来する197座位であり、マイクロサテライトマーカーの座位の数は98、その他のマーカーによる座位が6であった。1マーカーから2つ以上の座位が位置づけられたマーカーは認められなかった。連鎖地図上に位置づけられなかったマーカーの数は91であり解析したマーカー数の23%を占めていた。「272×WF1680」集団により再構築された地図(以下、「272×WF1680」地図)に位置づけられたマイクロサテライトマーカーは全て第2章第2節で作成した「HR×R130」集団による高密度連鎖地図(以下、「HR×R130」地図)にマップされたマーカーである。「272×WF1680」地図の各連鎖群に位置づけられたマイクロサテライトマーカーは、全て「HR×R130」地図の同一連鎖群に位置づけられた。一方、RFLPマーカーとしてハイブリダイズされた140 cDNAプローブのうち65プローブ(46%)は「272×WF1680」地図と「HR×R130」地図において同一連鎖群に位置づけられたものの22プローブ(16%)は異なる連鎖群に位置づけられた(Table 9)。同一連鎖群に位置づけられたプローブの割合が最も高かったのはLG4で、異なる連鎖群に位置づけられたプローブの割合が最も高かったのはLG1だった。Fig.6に「272×WF1680」地図と「HR×R130」地図のマーカーの位置関係を示した。マーカーの

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並びの保存性は連鎖群により異なった。LG2、3、4、6はマーカーの並びの保存性が高かったが,LG1、5、7は異なる位置に位置づけられるマーカーが多く認められた。

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1.RFLPおよびマイクロサテライトマーカーの育種素材への応用性

3)考 察

本節ではRFLPマーカーおよびマイクロサテライトマーカーの育種素材に対する移行性と2つの連鎖地図間におけるマーカーの位置の比較から、第2章で開発したDNAマーカーの応用性の検証を行った。RFLPマーカーについては多型解析を行った90cDNAプローブの74%が12個体間で多型を示し、87%がマッピング集団「272×WF1680」と同じサイズのバンドを検出した。このことからアカクローバcDNAプローブ由来のRFLPマーカーは育種素材に対して十分な移行性があると考えられた。また、各品種内で多型を検出したcDNAプローブの数が79~83と品種間の差が小さかったことから、解析した3品種が異なる地域で育成されたにも関わらず品種内の多様性が同じ程度であったことが示唆された。マイクロサテライトマーカーについては多型解析を行った全268プライマーぺアが育成国の異なる11品種で多型バンドを検出したことから、由来の異なる育種素材においても多型検出が可能であることが明らかとなった。バンドの多型性に品種間で明確な差は認められなかった。1マーカーあたりのアレル数は2~19で平均は6.5だったが、これはRFLPマーカーの平均のアレル数(3.1)より多く、マイクロサテライトマーカーはRFLPマーカーに比べて多型性が高いと判断した。マーカーの多型性の指数であるPICは各マーカーのアレルの数と多型アレルの分布による均一性をもとに算出される。マイクロサテライトマーカーのPICは平均で0.6だったが、このことは、これらのマーカーがヘテロ座を検出する確率が平均で60%であることを意味している。F1集団を用いた遺伝解析においては各両親のもつヘテロ座が解析の対象となることから、本マイクロサテライトマーカーは平均で60%の個体に対して適用可能であり移行性の高いマーカーであることが判明した。一方、KöLLIKERら(2005)が開発したゲノムDNAに由来する27マイクロサテライトマーカーは24アカクローバ個体での多型解析においてアレル数が2~25でヘテロ座を検出したマーカーの割合は71%であり、本節で解析を行ったマーカーにくらべて多型性が若干高かった。一般に遺伝子領域は遺伝子が存在しない領域に比べて配列の保存性が高いとされており、このことが遺伝子領域由来の割合の高い本マイクロサテライトマーカーとKöLLIKERらのマーカーとの多型性の違いに影響したと考えられる。マイクロサテライトマーカーのアレルの数とPICの分布の形を比較するとアレルの数の分布は平均値6.5よりも少ない数で分布のピークが認められたのに対し、PICは平均値0.6よりも高いPICで分布のピークが認められた。このことはアレルの数が多いマーカーはアカクローバの集団内において異なるアレルが比較的同程度の割合で存在していることを示唆している。マーカーの多型解析を行ううえで、より均一に多型アレルが分布しているマーカーは選抜効率が高く、多型アレルの分布が偏っているマーカーより有用性が高い。このことから本節で開発したマーカーは選抜効率が高く使いやすいマーカーであると考えられた。「272×WF1680」集団において連鎖地図の再構築に供試したRFLPマーカーの数はII-1.と同じ249マーカーであるが、地図上に位置づけられたRFLPマーカーの座の数は156から197に増加し

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た。これは解析マーカー数の増加により両親に共通の座位が増えたことで連鎖地図計算の過程で除外されるマーカーの割合が減少したためと考えられる。また、連鎖地図の距離が535.31cMから747.5cMと長くなったことからマイクロサテライトマーカーが追加されたことで連鎖地図のゲノムに対するカバー率が上がったことが示唆された。「272×WF1680」地図と「HR×R130」地図では座の並びの保存性が連鎖群により異なり、LG2、3、4、6は保存性が比較的高く、LG1、5、7は低かった。LG2、3、4、6は「272×WF1680」地図において連鎖群上の座の数が42~63であったのに対し、LG1、5、7は32~35と少なく、連鎖群上の座の数がマーカーの並びの保存性に影響を与えていると考えられる。第2章第1節で述べたように、座の数が少ない連鎖群は解析から1マーカーを除外するだけで連鎖群の計算結果が大きく変わることもあり、解析結果が安定しない。このことから、連鎖地図間の座の位置の比較には少なくとも50以上の座が各連鎖群に座乗している必要があると考えられた。また、LG1とLG5は高密度な「HRxR130」地図においても比較的座の密度が低く、LG1は個体により多型性が異なる連鎖群で、LG5は大きなrDNA領域を有する最も長大な染色体1番に相当する連鎖群だった。このことはゲノム構造も座の並びの保存性に影響を与えていることを示唆している。「272×WF1680」地図上の座の数をさらに増加させ、座の数による位置の安定性の影響を排除することで転座が起きやすい領域を同定できる可能性が高い。「272×WF1680」地図上のマイクロサテライトマーカーは全て「HRxR130」地図上の同一連鎖群に座乗していたが、RFLPマーカーは16%のcDNAプローブが異なる連鎖群上に座が位置づけられていた。これは1つのcDNAプローブから検出された複数のバンドについて各バンドを異なるマーカーとみなしたことが影響したと考えられる。また、RFLPマーカーはDNA断片とゲノムDNAの結合により多型を検出することから、PCRをベースとするマイクロサテライトマーカーに比べて異なる配列に対する検出の許容性が高く、このこともRFLPマーカーが異なる連鎖群に位置づけられたことに関与していると考えられた。第2章で開発したRFLPマーカーとマイクロサテライトマーカーはともに育種素材に対して十分な多型性を有していたが、マイクロサテライトマーカーの方が多型性が高く、また連鎖群上の座乗位置が安定していた。今後、選抜マーカーなど育種に対するマーカーの実用化を図る上でマイクロサテライトマーカーの利用がより有効であるものと考えられる。

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アカクローバ(Trifolium pratense L.)におけるDNAマーカーの開発とその育種的利用に関する研究

2.アカクローバの越冬性に関するQTL解析

1)材料および方法

(1)RFLP連鎖地図による解析 第2章第1節で作成した158座によるRFLP連鎖地図と解析集団「272×WF1680」を用いてQTL解析を行った。解析集団の各個体を挿し木または腋芽培養により増殖し、北海道農業研究センター(以下北農研、所在地札幌市)および全ロシアウィリアムス飼料作研究所(以下ウィリアムス研、所在地ロシア・モスクワ地域)において形質評価を行った。両場所における形質評価項目および解析に用いたアカクローバの遺伝子の数をTable 10にまとめた。ウィリアムス研では菌核病の室内および圃場での菌核病抵抗性検定を行った。室内検定では解析集団36個体についてSclerotinia trifoliorum Erikssonの培養液を葉の表面にスポットし、14-16度のグロスチャンバー内に一週間放置して葉の罹病程度を算出した。圃場検定は解析集団59個体各6反復を2001年9月に菌核病検定圃場へ移植し、2002年4月に各遺伝型の罹病程度を算出した。北農研では2000年6月に解析集団を1反復で圃場へ移植し、2001年の融雪直後に各株の写真撮影を行い画像解析により緑色部割合を算出して株の損傷程度を評価した。2001年6月に前年とは異なる圃場に解析集団を3反復で移植し翌年の融雪2週間後に草丈を測定した。QTLの検出は解析ソフトウエアMapQTL ver4.0(VAN Ooijen ら2002)を用いてKruskal-Wallisanalysis(LEHMANNら1975)およびインターバルマッピング(LANDERとBOTSTEIN 1989)を行った。Kruskal-Wallis analysisとは連鎖地図の情報を利用せず分散分析法をベースとしてマーカーと形質の関係を解析する方法であり、インターバルマッピング法は連鎖地図の情報を利用して最尤法をベースにQTLの候補領域を検出する方法である。QTL検出の閾値はKruskal-Wallis analysisではP<0.01としインターバルマッピングではLOD値>2.7として、両法による検出領域が一致した領域をQTLの候補領域とした。なお、インターバルマッピングのLOD値の閾値はVANOoijen(1999)が作成したシミュレーション表より算出した。RFLP連鎖地図に位置づけられた135cDNAプローブのシーケンスを行い、耐病性およびストレス耐性に関する遺伝子との相同性解析を行った。100プローブのシーケンスは北海道システムサイエンス社においてABI Prism 3100 Genetic AnalyzerによりBigDye terminator v2.0(ABI社)を用いて行った。35プローブはドラゴンジェノミクスセンター(タカラバイオ社)においてMegaBACE 1000によりDYEnamic ET dye terminationキット (Amasham bioscience社)を用いて行った。シーケンスは片側解読のみを行い、BLASTプログラムのBLASTXを用いて公開データべース上の基地遺伝子との相同性解析を行った。また、RFLP連鎖地図上にアルファルファの耐凍性に関連する2つの遺伝子候補SICAS (Genbank accession No. L13415, WolfraimとDhindsa,1993).およびMSnat(Genbank accession No. AF439379, Ivashuta et al. 2002)を位置づけた。SICASとMSnatのプライマー配列はそれぞれ5'-TAGAGGAGTTGTGGACAAGA / 5'-TAGATACATGAGGTGATAAGAおよび5'-GTCAGGCTGGACGGTCG / 5'-GGATTCATACTCGGGTGGAGである。

(2)マイクロサテライト連鎖地図による解析

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第2章第2節で作成した集団「HR×R130」と1434座によるマイクロサテライト連鎖地図を用いてQTL解析を行った。「272×WF1680」集団による解析と同様に、各個体を挿し木または腋芽培養により増殖し、ウィリアムス研および北農研において形質評価を行った。形質評価に用いたアカクローバのクローン数はウィリアムス研が96、北農研が188である。ウィリアムス研では2004年9月に菌核病罹病性および萎ちょう病(Fusarium oxysporum)検定圃場にそれぞれ6反復で個体を移植し、2005年5月に各個体の罹病程度を算出するとともに株の生存率から越冬性を評価した。北農研では2003年6月に5反復で圃場へ個体を移植し、2004年5月に菌核病抵抗性を9段階の評点(1:病徴無-9:病徴甚)で2005年4月に越冬性を9段階の評点(1:極弱-9:極強)で評価した。QTLの検出法はRFLP連鎖地図を用いた解析と同様である。第3章第1節で再構築した301座による「272×WF1680」集団の連鎖地図(197RFLPおよび98マイクロサテライト座)を用いて「272×WF1680」集団におけるQTLの再解析を行った。解析に用いた形質データはRFLP連鎖地図による解析で用いたデータと同一であるが遺伝子型の数は異なり、菌核病室内検定が26、菌核病圃場検定が45、株の緑色部割合が86、草丈が88だった。検出されたQTLについて前節で作成した比較地図によりマイクロサテライト地図上のQTLとの位置を比較した。

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アカクローバ(Trifolium pratense L.)におけるDNAマーカーの開発とその育種的利用に関する研究

2.アカクローバの越冬性に関するQTL解析

2)結 果

(1)RFLP連鎖地図による解析Table 10に菌核病および越冬性に関する形質値の概要を示した。菌核病の罹病程度(ウィリアムス研)は、室内検定では平均で38.7%(最大70.4%、最小11.1%、「272」:42.6%、「WF1680」:50.0%)であり、圃場検定では平均で25.5%(最大100%、最小14.8%、「272」:33.3%、「WF1680」:33.3%)であった。北農研における融雪直後の株の緑色部割合は平均で7.3%(最大59.2%、最小0%、「272」:11.7%、「WF1680」:20.2%)であり、草丈は平均で6.3cm(最大10.3cm、最小2.0cm、「272」:8.3cm、「WF1680」:11.1cm)であった。全ての形質は解析集団内で分離していることから、QTL解析に適していると判断した。調査を行った項目間において全ての組み合わせで有意な相関が認められなかった(Table 11)。Table 12およびFig.7に RFLP連鎖地図上に検出された有意なQTL(インターバルマッピングでLOD<2.7かつKruskal-Wallis analysisでP< 0.05)を示した。検出されたQTLは合計で7つあり、その内訳は室内検定による菌核病抵抗性(SRL)に関して3つ、圃場検定による菌核病抵抗性(SRFR)に関して1つ、株の緑色部割合(GPRJ)に関して2つ、早春の草丈(PHIJ)に関して1つであり、異なる形質のQTLが同一カ所に検出されることはなかった。連鎖群別にみるとLG6上に検出されたQTLが3つと最も多く、ついでLG1上の2つであった。LG3とLG7上にはQTLが検出されなかった。最も効果の高いQTLは圃場検定による菌核病抵抗性で、表現型の分散に対する説明割合が82.6%であった。検出された7つのQTLのうち5つは「WF1680」に特異的なQTLで、残りの2つは両親に共通なQTLであり、「272」に特異的なQTLは検出されなかった。アルファルファの耐凍性に関与する候補遺伝子から設計したSTSマーカー、SICASとMSnatはそれぞれLG6上の13.8cMと34.7cMに位置づけられた(Fig.7)。cDNAプローブのシーケンスを用いた相同性解析においてストレス耐性に関する候補遺伝子と高い相同性を示したプローブは9つあった(Table 13)。これらのcDNAプローブに由来するRFLP座はLG3上に10座、LG1上に2座、LG6上に2座、LG7上に1座が位置づけられた。また9つのうち2つのプローブはRFLP座が室内検定による菌核病抵抗性に関するQTLを、1つのプローブはRFLP座が株の緑色割合に関するQTLを検出した。

(2)マイクロサテライト連鎖地図による解析Table 14に評価を行った形質値の概要を示した。ウィリアムス研における菌核病罹病程度は平均で66.1%(最大100%、最小0%、「HR」:71.4%、「R130」:80.0%)で、萎ちょう病罹病程度は平均で15.9%(最大100%、最小0%、「HR」:14.3%、「R130」:20.0%)であり、菌核病が萎ちょう病に比べて多発していた。越冬後の株の生存率は平均で18.0%(最大100%、最小0%、「HR」:14.3%、「R130」:0%)であった。北農研における菌核病抵抗性(9段階評点)は平均で6.8(最大9.0最小3、HR:5、R130:5)であり、越冬性(9段階評点)は平均で4.0(最大7.5、最小1.0、「HR」:3、「R130」:2)であった。全ての形質は解析集団内で値が分離していることからQTL解析を行うことができると判断した。越冬後の株生存率と菌核病罹病

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率、菌核病罹病率と萎ちょう病罹病率の間には有意な相関が認められたがその他の形質間に有意な関係は認められなかった(Table 15)。マイクロサテライト連鎖地図によるQTL解析では各形質において多数の有意なQTLが検出された(Table 16)。北農研での菌核病抵抗性に関するQTLの数が14で最も多く、次いで多かったのがウィリアムス研での株の生存率と菌核病罹病率に関するQTLでそれぞれ10であった。萎ちょう病罹病率に関するQTLの数は2と少なかった。各形質で検出されたQTLの平均のLOD値は3.3~4.7の間にあり、表現型の分散に対する説明割合は13.6~25.1%の間にあった。最も効果の大きいQTLはウィリアムス研における株の生存率で表現型の分散に対する説明割合は64%だった。ウィリアムス研における菌核病罹病率と北農研における越冬性は表現型の分散に対する説明割合が10~18%であり、効果の大きいQTLは検出されなかった。Fig.8に連鎖地図上のQTLの位置を示した。最も多くQTLが検出された連鎖群はLG6で12のQTLが検出された。次いで多くのQTLが検出されたのはLG2の9つとLG3の8つだった。LG1とLG7は検出されたQTLの数が少なかった。連鎖地図上のいくつかの領域においては形質の異なるQTLが同一カ所に検出された。特にLG6の35cM付近には北農研の越冬性を除く全ての形質のQTLが検出された。「272×WF1680」集団によるRFLP連鎖地図にマイクロサテライトマーカーを座乗させ再構築した地図を用いて「HR×R130」集団によるマイクロサテライト連鎖地図とQTLの位置を比較した(Fig.9)。「272×WF1680」集団においては連鎖地図上の座の数が158座から301座に増加したことにより、検出されたQTLの数が菌核病抵抗性および越冬性の両者で増加した(菌核病抵抗性には室内および圃場検定の結果を、越冬性には株の緑色割合と早春の草丈を含む)。「HR×R130」集団と「272×WF1680」集団のQTLの位置を比較すると多くの領域でQTLが対応する領域に位置づけられていた。特にLG6とLG3については両集団において多くのQTLが検出された。

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2.アカクローバの越冬性に関するQTL解析

3)考 察

菌核病はアカクローバの栽培適地である冷涼地帯において重要な病害であり抵抗性品種の育成は各国で試みられてきた。アカクローバの菌核病抵抗性に関する遺伝学的な研究はこれまでほとんどなされてこなかったが、育種現場の経験から病害抵抗性に関する主働遺伝子は存在せず多数の遺伝子が関与していると推定されていた。すなわち、多数の遺伝子が関与するということはすなわち抵抗性の発現が環境要因の影響を受けやすいことを示唆しており、単一場所での形質データに基づくQTL解析では検出されないQTLが存在する可能性が高い。そのために本節では異なる2試験場である北農研とロシア・モスクワ地域に位置するウィリアムス研において形質の評価を行った。北農研では菌核病抵抗性検定圃場がないため、菌核病抵抗性の評価は自然発生により行ったが、顕著な発病が認められたのは「HR×R130」集団の移植翌年のみであった。また、ウィリアムス研における「272×R130」集団を用いた菌核病抵抗性検定においては室内検定と圃場検定の結果の間には有意な相関はなく、本研究においても菌核病抵抗性の安定した評価は困難であった。菌核病は病害力が強く一度発生すると株に著しい損傷を与えるが、その発生には積雪深、積雪期間や融雪時の気象条件など様々な要因が影響する。病害力の調節の困難さと環境要因が与える影響の大きさが菌核病抵抗性の安定した評価を困難にしていると考えられた。また、「HR×R130」集団でのモスクワにおける菌核病抵抗性と越冬後の個体生存率および菌核病抵抗性と萎ちょう病抵抗性の間には有意な相関が認められたが、その他の形質間には有意な関係が認められなかったことから菌核病のみならず越冬性に関する形質は一般に再現性のある評価が難しいと思われる。越冬性および菌核病抵抗性に関する有意なQTLの数は解析に用いた連鎖地図により異なった。「272×R130」集団においては158座からなるRFLP連鎖地図においては検出されたQTLの数は4つの評価項目に対して合計で7つであったのに対し、同一集団でも再構築により301座となった連鎖地図では検出されたQTLの数が合計で20となった。また、1304座からなる「HR×R130」集団の連鎖地図では越冬性と菌核病に関するQTLの数は各評価項目について7~14と多数のQTLが検出された。以上の結果はマーカー密度の高い連鎖地図は密度の低い連鎖地図に比べてQTLの検出力が高いことを示唆している。一方、密度の高い「HR×R130」集団の連鎖地図においても萎ちょう病抵抗性に関するQTLは2カ所と少なかった。これらのQTLの分散に対する寄与率は13~18%と低く、今回の解析では検出されなかったQTLが多く存在すると考えられる。萎ちょう病は解析集団内において罹病程度が分離していたものの平均の罹病率が15.9%と低かったことがQTLの検出力の低さに影響していたと考えられた。菌核病抵抗性に関するQTL解析についてアカクローバの病原菌であるSclerotinia trifoliorumに関する報告はないものの、同属であるSclerotinia sclerotiorum抵抗性についてはいくつか報告されている。ARAHANAら(2001)はダイズを用いてQTL解析を行い、抵抗性に関して28と多数のQTLを検出した。その他、ヒマワリ(BERTら2002)、ナタネ(ZHAOら2006)でもそれぞれ15および8と多数のQTLが検出されている。本節においても「HR×R130」集団で多数の菌核病抵抗性に関与するQTLが検出されており、Sclerotinia sclerotiorum抵抗性に関与するQTL解析の結果と一

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致した。また、菌核病抵抗性に関与するQTLの数の多さは、抵抗性には多数の遺伝子が関与しているという育種家の従来の予想とも一致する。QTLが多数検出された「HR×R130」 集団では連鎖地図上のいくつかの領域において相関が認められなかった複数の形質のQTLが同一カ所に検出された。このような領域はLG6上で最も多く、LG1とLG5上では認められなかった。また比較地図を利用して2つの集団間のQTLの位置を比較したところ、多くの領域でQTLが対応する領域に位置づけられており、特にその傾向はLG6とLG3で顕著であった。LG6はRFLP連鎖地図においてアルファルファの耐凍性に関する候補遺伝子が位置づけられており、LG3はストレス耐性に関与する遺伝子配列と高い相同性を示したcDNAプローブに由来するRFLP座が多数位置づけられていた。以上のことから、LG6とLG3上には越冬性に関与する遺伝子が多数座乗している可能性が示唆された。越冬性に関して再現性の高い評価を行うのは難しく、本節における形質評価も精度が高かったとは言い難い。一方で、相関が認められなかった複数の評価形質のQTLが同一カ所に検出されたことから、形質評価を複数回行うことで共通して発現しているQTLを浮かび上がらせることが可能であると考えられた。越冬性に関連するQTLは多数存在するが、選抜マーカーの開発は汎用性を考慮に入れると比較的安定して発現するQTL領域から行っていくことが望ましいと思われる。本研究の結果は、複数のQTLが同一箇所に検出されたLG6上の領域が越冬性に関する選抜マーカーの候補領域として最も有力であると判断した。

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アカクローバ(Trifolium pratense L.)におけるDNAマーカーの開発とその育種的利用に関する研究

IV 総合考察

大家畜経営における飼料の自給率は、草地面積が比較的広い北海道においても54%と低く、飼料自給率向上には単位面積あたりの栄養生産性の向上が必須であるとされている(農林水産省2006)。一方、牧草の栄養生産性が最も高い刈り取り適期に全農家が刈り取りを行ったとしても、北海道の現状の草地におけるTDN自給可能割合は62%であると試算されており、栄養生産性向上のためにはマメ科牧草の増産が欠かせない(北海道農政部2000)。しかしながら、現在の混播草地のマメ科牧草の割合は北海道平均で約10%であり、適正割合とされる30%に比べて低いことから、安定して栽培できるアカクローバ品種の育成が求められている。混播草地におけるアカクローバの割合はイネ科牧草の種類や栽培管理により変動する。栽培イネ科牧草のほとんどがチモシーである北海道においてはチモシーに対する抑圧問題からアカクローバの栽培が敬遠され、このことがマメ科牧草の栽培割合を減少させる原因の一つとなっていた(我有 1998)。北海道農業研究センターではこれまで、母系選抜法によりアカクローバ品種「サッポロ」、「ホクセキ」および「ナツユウ」を育成してきた(山口ら 2000、磯部ら2002)。特に「ナツユウ」はアカクローバの安定栽培に対して最も重要な形質である永続性を改良し、かつチモシーに対する混播適性を高めた品種であり、今後草地のマメ科牧草の割合向上に貢献することが期待されている。母系選抜法は系統の中に遺伝的変異を残したまま選抜を行うことから、自殖が可能な作物の育種法に比べると効率の良い選抜法であるとはいえないが、母系の選抜を繰り返すことで改良が困難な永続性や未選抜の形質であった混播適性を改良できることが「ナツユウ」の育成により明らかとなった。一方、「ナツユウ」の育成には20年もの歳月を要しており、社会情勢の変化が激しく20年先の需要を見越して育種目標を設定することが難しい現在においては、より効率的な育種法の開発が強く望まれる。DNAマーカーは育種の効率化を推進するツールとして多くの作物で期待されている。DNAマーカーを用いた選抜、MASの利点についてはKOEBNERら(2003)が以下の四点にまとめている。すなわち、1)遺伝率が低く、遺伝様式が複雑で表現型による選抜が困難である形質の選抜効率の向上、2)劣性遺伝子に支配される形質の戻し交雑後代からの選抜、3)耐病性遺伝子のピラミディングによる病原菌の異なるレースに対する耐性の付与、4)ピラミディングを行うことのできる育種母材の選定である。アカクローバは品種内の多型性が品種間よりも高いとされており(MILLIGAN 1991)、本研究においても開発したDNAマーカーに品種特異的な多型は認められなかった。これは表現型のみで選抜する従来の育種法が、育種素材の内包している多型性の僅かな部分を選抜していたにすぎなかったことを示唆している。したがって、アカクローバにおいてDNAマーカーの活躍が最も期待されるのはMASの4つの利点のうち「遺伝率が低く、遺伝様式が複雑で表現型による選抜が困難である形質の選抜効率の向上」であろう。開発するDNAマーカーの種類や育種法へのMASの組み込み方については、従来の交雑育種法が作物の特性にあわせて異なっていたのと同じように作物の生物的な特性や社会的な状況に合わせて考えていく必要がある。MASを用いた育種のコンセプトとして代表的なものにPELEMANら(2003)が提唱しているBreeding by DesignTM™というコンセプトがある。これは育種素材に対して目標形質に関わる全ての遺伝子座とアレルのコンビネーションをコントロールするという考え方であり、多型マーカーが得られやすいAFLPマーカーを中心に高密度な連鎖地図を作成し、

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育種素材に対する多型解析を大量に行うとともに、詳細かつ正確な形質データの評価を行うという手法に基づいて行う。このようなコンセプトは育種の歴史が長く、利用する育種素材の遺伝型がほぼ確定されているイネなどの作物においては有効であるが、育種素材内の多型性が高く、かつ自殖種子が得られないため各遺伝型の詳細な形質データの取得が困難であるアカクローバにおいては非現実的である。したがって、他殖性作物についてはMASの組み込み方についてBreedingby Design™のような明確なコンセプトは未だ提示されていないが、どのような種類のDNAマーカーを開発し、どのような方法で実用化に導き、どのように育種の中で用いていくかというコンセプトを積み上げていく必要がある。アカクローバはゲノム上の多型が比較的高い確率で検出されることから、無計画に多型を検出するマーカーを多数開発することはマーカーの実用化を図る段階で混乱が生じる恐れがある。それよりは遺伝子領域など表現型の変異に直接関わるゲノム領域の由来のマーカーを作出することが効率的なマーカーの実用化に繋がると考えた。そのため本研究におけるRFLPとマイクロサテライトマーカーの開発にあたっては各々が遺伝子領域由来のマーカーとなることを開発の条件とした。一方、遺伝子領域はその他の領域にくらべて配列の保存性が高いことから遺伝子領域由来のマーカーは育種素材に対する移行性が若干劣るものの、本研究で開発したマーカーは育種素材に対して十分な移行性を有しており、実用性に問題がないことが明らかとなった。さらに、マイクロサテライトマーカーの開発にあたっては取り扱いに高度な技術を必要としないアガロースゲルで多型判別ができるマーカーを開発し、育種現場に対するDNAマーカーの普及性も考慮に入れた。選抜DNAマーカーの開発においては一般に目的形質とDNAマーカーの形質を関連づけるQTL解析が最初のステップとなる。精度の高いQTL解析のためには詳細な表現型のデータの取得が欠かせないとされているが、環境要因の影響を受けやすい形質は再現性の高い表現型データの取得が困難である。本研究においても2場所において様々な手法用いて菌核病抵抗性を中心とした越冬性の評価を行ったが、ほとんどの評価形質の項目間で相関が認められなかった。一方、QTL解析を行うと相関のない評価形質のQTLがいくつかの領域において同一箇所に位置づけられ、異なる集団由来の連鎖地図においてはそれらのQTL候補領域を対応づけることができた。このことは環境要因の影響を受けやすい形質でもデータ取得を重ねることでQTLの候補領域を検出することが可能であることを示している。選抜マーカー開発の手順において目的のQTL領域を検出した後は目的領域のみを別の遺伝子型に置換した準同質遺伝子系統(NILs)を作出し、個々のQTLの作用力を評価するのが一般的である。しかしながら、自殖率が低いアカクローバではNILsを作成するのは不可能であることから、一般に用いられている手法で選抜マーカーの開発をさらに推し進めていくのは不可能である。おそらくアソシエーション解析などの、多数の遺伝子型からなる集団とマーカー多型のデータから表現型とDNAマーカーの関係を解析する手法を用いて選抜マーカーの開発を推し進めていく必要があると考えられる。本研究で作出したマイクロサテライトマーカーは異なる遺伝子型に対する移行性が高く、連鎖地図上の位置も比較的安定していたことから、アソシエーション解析に適していると考えられる。今後は、本研究で検出した越冬性に関するQTL候補領域周辺に座乗しているマイクロサテライトマーカーを用いて越冬性の異なる品種に対してアソシエーション解析を進めることで、越冬性に関わる選抜マーカーの開発が可能になるものと考えられた。本研究においてはDNAマーカーの開発と連鎖地図の作成に伴って連鎖地図上に座乗しているマーカー情報だけでなく様々なゲノムリソースが整備された。すなわちSSRを含む領域の同定の過程で生じたEST情報や、地図に座乗しなかった配列を含むSSR領域を増幅するプライマーペア情報、FISH解析の過程で作成されたBACライブラリーなどである。アラビドプシスやイネなどモデ

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ル植物と称されている種に比べればこれらのゲノムリソースの情報量は多くはないが、作物種レベルとしては十分であると考えられる。特にマイクロサテライト連鎖地図の作成によりアカクローバゲノムとマメ科のモデル植物であるLotus japonicusやMedicago truncatulaとの間にマクロシンテニーが存在することが明らかとなった。本研究において開発されたゲノムリソースはモデル植物のゲノム情報を併用することでDNAマーカーの開発のみならず遺伝子単離など分子生物学に関する様々な研究に対して応用することが可能であると考えられた。本研究ではアカクローバで最初のDNAマーカーによる連鎖地図を作成し、その育種的利用法について考察した。DNAマーカーの育種的利用法については解決しなければいけない課題が多く残されており、本研究で作成したマーカーを速やかに育種に用いることが出来るわけではないが、本研究の成果はDNAマーカーを用いた新たなアカクローバ育種法の基盤になるものと考えられる。

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アカクローバ(Trifolium pratense L.)におけるDNAマーカーの開発とその育種的利用に関する研究

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アカクローバ(Trifolium pratense L.)におけるDNAマーカーの開発とその育種的利用に関する研究

VII.謝 辞

本論文の作成に当たって終始懇切な指導を賜った宮崎大学フロンティア科学実験総合センター教授明石 良博士、同大学農学部教授藪谷 勤博士、琉球大学農学部教授川本康博博士、宮崎大学農学部教授赤尾勝一郎博士ならびに佐賀大学農学部助教授鈴木章弘博士に心より感謝の意を表する。また、本研究の遂行にあたり多大な援助と、懇切な指導を賜った財団法人かずさディー・エヌ・エー研究所田畑哲之博士、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構北海道農業研究センター山口秀和博士ならびに奥村健治博士、九州沖縄農業研究センター我有 満博士に謹んで謝意を表する。さらに、研究の遂行にあたり多大な援助を賜ったウィリアムス飼料作研究所ニコライ・コズロフ博士ならびにイリーナ・クリメンコ博士、モンサント社セルゲイ・イヴァシュタ博士、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構北海道農業研究センター廣井清貞氏、畜産草地研究所内山和宏氏、九州沖縄農業研究センター澤井 晃氏、前日本芝草研究開発機構眞木芳助氏、前日本草地畜産種子協会松浦正宏氏、前日本草地畜産種子協会植田精一氏、北海道立上川農業試験場竹田芳彦氏、北海道畜産試験場堤 光昭氏、北海道農政部中島和彦氏、神戸大学教育学部助教授近江戸伸子博士、片岡遼平氏、かずさディー・エヌ・エー研究所佐藤修正博士、浅水恵理香博士、中村保一博士、金子貴一博士、櫻井望博士、笹本茂美氏、小原光代氏、藤代継一氏、和田津由子氏、渡辺安希子氏に心より感謝の意を表する。最後に、本研究の遂行に際し、種々御協力下さった北海道農業研究センター寒地飼料作育種研究チームマメ科牧草育種グループの石井 実氏、三好達也氏、佐藤勝彦氏、澤田将氏、柴田豊子氏、豊川春子氏、福井久美子氏、渡辺美栄子氏、村田曜子氏には対し厚く御礼申し上げたい。ここに記して関係各位に対する謝辞とする次第である。

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Development of DNA markers of red clover (Trifolium pratense L.) and its potential to breeding

Sachiko ISOBE1)

Summary

With the aim of advance the red clover breeding methodology with DNA markers, DNA markers of redclover (Trifolium pratense L.) were developed and evaluated its potential to breeding. 1.A genetic linkage map of red clover was constructed using RFLP markers from cDNA probes of abackcrossed mapping population. The map contains 157 RFLP markers and one morphological marker on7 linkage groups. The total map distance was 535.7cM and the average distance between two markers was3.4cM. This is the first report of construction of a linkage map of Trifolium species. 2.A high-density genetic linkage map was established with gene-associated microsatellite markers. Atotal of 7159 primer pairs were designed to amplify simple sequence repeats (SSRs) identified in fourdifferent types of libraries. Based on sequence similarity, 82% of the SSRs were likely to be associatedwith genes. The 1305 selected microsatellite markers as well as 167 previously developed RFLP markerswere subjected to linkage analysis. A total of 1434 loci detected by 1399 markers were successfullymapped onto seven linkage groups totaling 868.7 cM in length. Each genetic linkage group was linked to acorresponding chromosome by FISH analysis using seven microsatellite markers specific to each of thelinkage groups as probes. Macrosynteny at the segmental level was observed between the genomes of redclover and two model legumes, Lotus japonicus and Medicago truncatula, strongly suggesting that thegenome information for the model legumes is transferable to red clover for genetic investigations andexperimental breeding. 3.The transferability RFLP and microsatellite markers to other red clover germplasms wereinvestigated. The mean values of allele numbers per RFLP and microsatellite marker were 3.3 and 6.5,respectively. A linkage map was reconstructed with 90 cDNA probes of RFLP markers and 177 primerpairs of microsatellite markers by 272×WF1680 mapping population, and 301 loci were mapped onto thelinkage map totaling 747.5 cM. All primer pairs of microsatellite markers were mapped onto the samelinkage groups of HR×130 mapping population, while 16% of cDNA probes of RFLP markers weremapped onto different linkage groups. The microsatellite markers were considered to have hightransferability and universality to breeding materials.4.QTL analysis for winter hardiness and Sclerotinia trifoliorum resistance was performed with theRFLP and microsatellite linkage maps. The phenotypic traits of the mapping populations, 272×WF1680and HR×R130, were estimated at National Agricultural Research Center for Hokkaido Region in Sapporoand All-Russian Williams Fodder Crop Research Institute in Moscow region, Russia. Most phenotypictraits showed no significant correlation. However, many of them detected significant QTLs on the samelocus of the maps, especially on LG6. We considered that the QTLs on LG6 were a potent region in whichmapped candidate selection markers are related to winter hardiness. In conclusion, we developed RFLP and microsatellite markers and constructed two linkage maps of redclover. The results suggest that the information has a high potential for improving red clover breedingmethodology.y

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1) Forage Crop Breeding Research Team (Hokkaido Region)(Present address: Kazusa DNA Research Institute)

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アカクローバ(Trifolium pratense L.)におけるDNAマーカーの開発とその育種的利用に関する研究

V 要 約

本研究は選抜DNAマーカーを用いたアカクローバ育種法の開発の資とすることを目的として、第一にRFLP およびマイクロサテライト配列を利用したDNAマーカーの開発と連鎖地図の作成を行い、第二に開発したDNAマーカーの育種素材に対する応用性の検証と越冬性に関するQTL解析を行うことでアカクローバのDNAマーカーの開発とその育種的利用法について論述したものである。以下にその概略を記す。

1. cDNA由来のRFLPマーカーと戻し交雑集団を用いてアカクローバの連鎖地図を作成した。作成した連鎖地図は7つの連鎖群上に157のRFLPマーカーと1つの形態マーカーがマップされた。連鎖地図の全長は、535.7cMで2つの座の間の平均距離は3.4cMであった。本連鎖地図はクローバ属ではじめて作成された地図である。

2. 遺伝子領域の配列に由来しアガロースゲルで多型検出が可能なマイクロサテライトマーカーの作出と連鎖地図の作成を行った。4種類のライブラリーを作成し、SSR配列を含むクローンの同定を行って7244のSSRプライマーペアを設計した。プライマーを設計した配列のうち82%が既知遺伝子の配列と相同性があった。マッピング集団で多型をもつプライマーペアをスクリーニングし、188個体のF1集団を用いて連鎖解析を行い、既報のRFLPマーカーと合わせて1434座による全長868.7cMの連鎖地図を作成した。FISHにより染色体と連鎖群の1対1の対応づけをおこなった。また、マメ科モデル植物LotusjaponicusとMedicago truncatulaとのマクロシンテニーを明らかにした。

3. RFLPおよびマイクロサテライトマーカーの育種素材への応用性を明らかにすることを目的として、異なるアカクローバ遺伝型に対するマーカーの移行性と2つの連鎖地図間のマーカーの位置の保存性を検討した。RFLPマーカーの1プローブあたりのアレルの数は3.3、マイクロサテライトマーカーは6.5だった。RFLP連鎖地図を作成した「272×WF1680」集団についてマイクロサテライト地図全体をカバーする177プライマーペアの多型解析を行い、全長747.5cMの301座による連鎖地図を再構築した。RFLPマーカーについては16%のプローブが両地図間において異なる連鎖群に位置づけられていたが、マイクロサテライトマーカーは全てが両連鎖地図の同一連鎖群に位置づけられた。マイクロサテライトマーカーは多型性が高く、また連鎖群上の座乗位置が安定していることから、育種素材に対する応用性が高いことが明らかとなった。

4. 菌核病抵抗性を中心とした越冬性に関する選抜DNAマーカーの開発を行うために、2つの連鎖地図作成集団「272×WF1680」および「HR×R130」を利用してこれらの形質に関するQTL解析を行い、両集団間のQTLの位置を比較した。形質の評価は北海道農業研究センター(札幌市)および全ロシアウィリアムス飼料作研究所(ロシア・モスクワ地域)で行った。多くの評価項目間において有意な相関が認められなかったもの、また、相関のない複数の形質についてQTLが同一カ所に多数位置づけられており、その傾向はLG6で顕著であった。以上のことから、LG6上のQTLは越冬性に関する選抜マーカーの候補領域として最も有力であると考えられた。

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以上により、本研究においてはアカクローバのDNAマーカーと連鎖地図を作成し、交雑育種法との比較を交えながら育種的利用法について論述した。本研究の成果はDNAマーカーを用いた効率的なアカクローバ育種法の開発の基盤となる。

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