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リーダーシップの持(自)論アプローチ

――その理論的バックグランドと公表データからの持(自)論解読の試み――※

神戸大学大学院経営学研究科

金井壽宏・尾形真実哉・片岡 登・元山年弘・浦野充洋・森永雄太

1. はじめに

ただ鑑賞するように学び、頭で知識として知るだけですむことも世の中には存在する。

しかし、実践につなげるためには、違う学び方がある。自分に引き寄せること、経験や観

察と結びつけて、自分なりの考えをしっかりもつことが大切になるような学びがある。

いきなり経営者になるような人のリーダーシップという大げさな話に限らず、われわれ

は、自分が入門し技を磨きたいと思っている領域ではそのように学んでいるはずだ。うま

くなるころには、一家言、自分なりの持(自)論のようなものをもって、能書きを垂れるよう

になる。

たとえば、自らサッカーをプレーしなくても、ルール、各チームの特徴、作戦、フォー

メーション等々を知ることで、見ることが以前よりも楽しめる。自らギターを弾かなくて

も、楽器やアンプの種類と音色の特徴、スケール、いくつかの代表的奏法などをかじると、

演奏を聞くのがそれ以前よりも熱心になれる。

しかし、サッカーをプレーするひと、ギターをプレーするひとにとっては、単なる座学

を通じて頭で知るのでおしまいというレベルをはるかに超える、実践的な学び方というも

のがある。球技にもセオリーがあれば、奏法にもセオリーがある。それらは、役に立たな

いむなしいセオリーではなく、実際のプレーに役立つから、セオリーとして生き残ってい

るのだ。そういう実践家が実際によりいいパフォーマンスを導くために現場で使っている

セオリーのことを、持(自)論という。自分の考えを表明しているセオリーという意味では、

普遍的なセオリーというより、マイ・パーソナル・セオリー、セルフ・セオリーという意

味では、自論である。どちらの側面もあるので、本稿では持(自)論と表記している。

自ら実践家であるひとなら、もしもゲームやコンサートを観察する機会、プレーヤーと

実際に話す機会、それはなくても教則ビデオや(すべてが有意義とは限らないが)上質な

教材を手にする機会をもったときに、鑑賞するようには見ないし、ただ読んで頭に収める

だけのためには読まないだろう。そういうところには、実践家が実際に使用しているセオ

リーがみつかる。そういう持(自)論を、経営者のリーダーシップについて探し出すためには、

どのようにすればいいだろうか。もちろん、直接、すぐれた経営者にインタビューして引

※ この論文は、神戸大学大学院経営学研究科の平成17年度専門職大学院形成支援経費の

支援を受けたプロジェクトの成果を含むものであり、この支援について言及することで謝

辞としたい。

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き出すことができれば理想だ(それも、おおいに試みられべきだし、われわれもその方向

のドキュメンテーションも進めている)。しかし、経営者が書いたもの(自伝)や経営者に

ついて書かれたもの(伝記)などがあれば、そのなかに、その経営者のリーダーシップの

持(自)論が見つかるはずだし、うまくそれを読み取ることができれば、これから自分なりの

リーダーシップ持(自)論をもちたいと思っているひとには、格好のインプットとなるであろ

う。

さて、セオリーが実践とつながるとき、実践からセオリーが生まれるとき、われわれは、

鑑賞するために学んでいる段階を超えて、よりよい実践を自らもおこなえるように学習し

ているといえる。こういうときのセオリーを、学者が検証することを目的に科学者として

の手順にそって構築される理論、つまり公式理論(formal theory)と区別して、実践的理論

(practical theory)とも呼ぶが、本論文では、すぐれた実践家が持っている自分なりの持(自)

論という意味で、さきにもふれたことの繰り返しになるが、「持(自)論」(practical self

theory-in-use)と表記する。

ここで持(自)論と呼んだものは、実践的知能(practical intelligence、ロバート・スターン

バーグ)、暗黙知(tacit knowledge、マイケル・ポラニー)、TPOV(教えようと思えば教えら

れること、Teachable Point of View、ノエル・ティシー)、内省的実践家によるホンネの理論

(theory-in-use、アージリス=ショーンとドナルド・ショーン)にかかわっている。1

経営学の多種多様な研究領域のなかで、組織行動論に限定されるわけではないが、リー

ダーシップ、モティベーション、キャリアなど、学ぶものの一人ひとりの実践と密着した

組織行動論ではとりわけ、自分が変わること、自分の環境を変えることをめざして、実践

的に学ぶべきだ。さきのサッカー・プレーヤー、ギター・プレーヤー同様に、セオリーを

学ぶために学ぶのではなく、よりよき実践のために、セオリーにあった行動がとれるよう

になることをめざして学んでいきたいものだ。リーダーシップの公式理論に詳しく、歴史

上の人物、現代の経営者のリーダーシップの特徴をうまく説明するが、そのひと自身は、

リーダーシップのかけらもないというのでは、学ぶ意味が激減する。

組織行動論を学ぶ目的は、組織行動論における主要トピック、たとえば、リーダーシッ

プやモティベーションについて持(自)論、もしセオリーというのがおおげさなら、自分なり

の考え、原理・原則をもつことであるともいえる。持(自)論をもつことによって、たとえば、

リーダーシップを例にとるなら、principle-centered leadership(これは、よく知られていると

おり、スティーブン・R.コヴィーの用語で書籍のタイトル)を行動面で生み出すことができ

ようになるし、組織行動論全般でいえば、学ぶことを通じて変わること、少なくとも変わ

り始めること、それを支える持(自)論をもつことによって、原理に導かれた組織行動

1 持(自)論アプローチについての体系的レビューをおこなうことが本論文の目的ではない

ので、ここでは、引用をおこなった文献については、本文中で出所についてふれるように

するが、それ以外の文献については、特別な参考文献リストを作成していない。持(自)論ア

プローチのレビュー論文を別稿として著すときに、包括的な文献リストを作成する予定で

ある。

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(principle-centered organizational behavior)がとれるようになることだ。

これをもつことによって、行動する本人がぶれなくなるだけでなく、フォロワーたちが

適切な行動をとりやすくなる。持(自)論が原理・原則のリストのように言語化されていて、

リーダー格のひとが、そのセオリーどおりの行動を現実にとるという意味で言行一致して

いれば、リーダーがぶれなくなるばかりでなく、フォロワーの観察学習(アルバート・バ

ンデューラ)も大いに促進されることになる。言行一致することを、walk the talk というの

は絶妙な英語表現だが、語る原理どおりに歩むことができれば、そういう現場の歩き方こ

そ、トム・ピーターズとロバート・ウォーターマンが注目してみせた現場遊弋管理

(management by walking around, management by wandering around)の真骨頂だ。

リーダーシップを学ぶうえで、自分の直接の経験や、自分が接したすぐれたリーダーの

観察がいちばん重要だが、それらの経験や観察から、自分なりの持(自)論をもつことが大事

だとしたら、すでに実務経験がある MBA の組織行動論の講義や、経営幹部候補のための企

業でのリーダーシップ研修では、このような経験と実践的セオリーとの橋渡しが命となる。

この論文は、これらの持(自)論アプローチの基礎を記すとともに、リーダーシップの持(自)

論を、自叙伝や伝記を残しているすごいリーダーと思しきひとの持(自)論を試論的だが、読

み取ることの例示になることもめざしている。

それは、また、神戸大学大学院経営学研究科が推進してきた社会人教育のあり方、MBA

のクラスを同時に、知識創造の 先端の場にする試みとも関連している。

2. 経営学のなかの持(自)論アプローチの嚆矢

そもそも、経営学は、応用学問分野であるので、セオリーをほかのどの分野よりも、実

践的に用いてきた伝統がある。研究者が公式的に構築するセオリーとは(両立はもちろん

可能だが)別個のものとして、実践家が実践のなかから抱くようになったセオリーにも注

目してきた。そのような例として、ここでは、ダグラス・マクレガー、エドガー・シャイ

ン、クリス・アージリス=ドナルド・ショーンを取り上げる。きわめて限定的な取り扱い

だが、持(自)論アプローチの包括的レビューをするのがここでの目的ではない。

2.1. マクレガーの X 理論、Y 理論の場合

経営学のなかでのモティベーション論として、また、持(自)論を重視するモティベーショ

ン論の構築のために、重要な古典的著作のひとつに、マサチューセッツ工科大学のダグラ

ス・マクレガー(Douglas McGregor)による「X理論、Y理論」(1960)がある。

マクレガーは、経営学の中に行動科学、とりわけ心理学を応用することを 初に考えた

人物である。以前、アンティオーク大学の学長まで務めていた人物だから、おそらく鳴り

物入りの人事で、MIT の当時、School of Industrial Management と呼ばれていたビジネス・ス

クール(現在の MIT スローン経営大学院)を強化するために登場したのだろう。経営学は応

用だけど、基礎学問分野に根付かせたほうがいいというのは、マクレガーの方針でもあっ

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たので、マクレガーのおこなった人事は、一方で、心理学者として優秀だったひとに、企

業という組織での変化やリーダーシップの研究と教育の場を与えるのがいいと考え、後任

の人事はそういう方向でなされた(他方で、実践への応用がなによりも大事で、「よい理論

ほど実践的なものはない」と言ってのけた K.レビンがいた MIT であるので、実践面で影響

力のあるひと、たとえば、劇場の経営で名を馳せていた R.ベッカード(Richard Beckhard)

を、組織開発の分野で活躍してもらうために、特任教授として採用したりした)。

マクレガーが基礎学問分野から採用した新任のひとりがE.H.シャインで、もうひとりが、

MIT を去ったあともリーダーシップ論の第一人者として君臨し続ける W.ベニス(Warren

Bennis)だ。マクレガー自身は、残念ながら1964年に58歳でなくなってしまっている。

『企業の人間的側面』(1960年)に至るマクレガーの「持(自)論への旅」は、マネジ

ャーであれば人がどんなときに動くものかという自分なりの仮定や前提を持っているはず

だという極めて自然な考えから出発した。そして1950年代の米国において、さまざま

な立場の人にどんなときにがんばるのかを尋ねてみたところ、同じ文化、同じマネジャー、

同じ国でありながら、まったく対称的な2つの考え方が出てきたことに注目し、その2つ

の考えを X 理論と Y 理論として対比した。学者であるマクレガーが理論という言葉を使っ

ているので、両方の理論とも研究者としてマクレガーが構築した理論のように誤解されが

ちだが、実際には、われわれが本書で使用する用語法でいえば、これらふたつの理論は、

マネジャーたち自身が抱く対照的な人間観であり、「持(自)論」にほかならない。

その内容は、マクレガー自身が使った言葉に忠実に紹介すればつぎのとおりだ(Douglas

McGregor, The Human Side of Enterprise, New York, McGraw-Hill, pp.33-34, pp. 47-48)。まず、X

理論(Theory X)における「人間の性質と人間の行動に関する仮定」をみよう。

X 理論

(1) 平均的な人間は、仕事など生まれつき嫌いで、もしできることなら、仕事など避け

ようとするであろう。

(2) 仕事なんか嫌いだというこの人間の性(さが)ゆえに、たいていの人びとは、強制

されたり、統制されたり、命令されたり、脅されたりしないと、組織の目的を達成

するのに十分な努力をしてくれない。

(3) 平均的な人間は、命令されることを好み、責任を回避することを望み、大望など抱

かず、ほかのなによりも安全を求めている。

これに対して、Y 理論(Theory Y)における仮定は、つぎのように整理されている。

(1) 仕事に体力、知力を使うのは、遊びや休みのときと同じくらい自然なことだ。平均

的な人間は、生まれつき仕事が嫌いなわけではない。統制可能な条件しだいで、仕

事は満足の素になるかもしれないし(その場合には、自発的になされるであろうし)、

あるいは、罰の素になるかもしれない(その場合には、できることなら、やりたく

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ないであろう)。

(2) 外的統制と罰の脅威は、組織の目標にむけて努力してもらうための唯一の手段では

ない。人は、自分が打ち込む(コミットする)目標が達成されるように、自己管理、

自己統制ができるであろう。

(3) 目標に打ち込むこと(コミットメント)は、目標を達成したときに得られる報酬の

関数だ。このような報酬のなかで も意義が大きいのは、自我や自己実現の欲求が

満足されることだ。それは、組織の目標にむかって努力した直接の結果でありうる。

(4) 平均的な人間は、適切な条件の下では、責任を引き受けるのみならず、進んで責任

を取ろうとする。責任の回避、大望の欠如、安定へのこだわりは、一般的には、生

まれつきの人間の性(さが)というよりも、経験の結果そうなってしまっているだ

けだ。

(5) 組織における問題を解決していく際に、相対的にかなり高度の想像力、工夫の才、

創造性を発揮する能力は、(働いている人びとという)母集団のほんの一握りのひと

たちだけでなく、広範に分布している。

(6) 近代の産業における生活において、平均的人間のもつ知力の潜在的可能性は、ほん

の一部分しか活用されていない。

X 理論は、「命令と統制でひとが動くという伝統的見解(the traditional view of direction and

control)」と呼ばれている。これに対して、Y 理論には「個人の目標と組織の目標の統合(the

integration of individual and organizational goals)」というサブタイトルが付けられている。上

記の各項目は、X 理論、Y 理論が前提にしている仮定だ。

そして、これらの仮定こそが、マネジメントに携わるひとたちの持(自)論の内容をなして

いる。マクレガーは、マネジャーたちが X 理論と Y 理論のどちらに近い持(自)論を抱くか

によって、彼らのマネジャーとしてのあらゆる意思決定とアクションが違ってくると主張

する。X 理論に近い持(自)論をもてば、X 理論に即した職場ができあがってしまい、Y 理論

に近い持(自)論をもつなら、Y 理論に即した職場ができあがってしまう。自分が信じている

考えが現実のものになることを、自己成就的予言(self-fulfilling prophecy)と呼ぶが、上に

立つひとが、部下にとって仕事など面白いわけがなく、命令がないと部下は働かないし、

進んで責任をとることなどけっしてないという前提で、振舞っていたら、やがて実際に部

下はそのようになってしまう。X 理論の仮定(思い込みでもある)が現実のものとなる。逆

に、仕事は取り組み方しだいで面白いものになるし、部下の可能性を信じ、彼らの創意工

夫を引き出せば、もっともっと彼らは活き活きとしていくと思ってマネジャーが日ごろ振

舞えば、Y 理論が想定するような職場が現実のものとなる。

マクレガーは、一方で、実務家が行動科学の知識を活用しないことを嘆きつつ、他方で、

実際にはマネジャーも働くひとりひとりの個人も、マネジメントはアートだといいつつも、

自分なりの持(自)論を、必ずしも明確に意識されているとは限らないがいくつかの仮定とし

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て抱いていることに注意を喚起した。

マクレガーの考え方は、つぎの指摘によくあらわれている。

マネジャーのどのような行為も、仮定、一般化、および仮説に――つまりは、

理論に依拠している。われわれの仮定は、しばしば暗黙のままで、あまり意識

に上らないこともあり、矛盾していることもしょっちゅうだ。にもかかわらず、

仮定は、われわれがこうすれば、ああいうことが起こるという予測の中身を決

めていく。理論と実践とは不可分なのだ(McGregor, 1960, p.6)。

ひとことでいえば、社会科学者が構築する公式の理論のように、科学的に検証されては

いなくても、実践家は、自分なりに自分の意思決定やアクションを左右する仮定群をもっ

ている。それが、実践家が抱くセオリーにほかならないというわけだ。マクレガーは端的

に、「マネジャーのあらゆる行為は、セオリーに依拠する(Every managerial act rests on

theory)」と喝破する。

マクレガーは、X 理論を伝統的見解、Y 理論をより人間主義的な見解と呼んでいることか

らわかるとおり、Y 理論を推奨しているように読める X 理論の第1の仮定、つまりひとは

仕事などしたくないものだという仮定は、科学的管理法の時代にテイラーが強調した「一

日の公正な労働(a fair day’s work)」という考えに現れている。これ以上は働きたくないと

いうニュアンスがある。時代は、科学的管理法から人間関係論を経て、より人間主義的な

経営に向かっていたと認識したので、書名も『企業の人間的側面』となっている。マクレ

ガーの後継者の E.H.シャインの人間モデルでは、経済人モデルから、社会人モデルを経て、

自己実現モデルに向かう時代を画したのが、この古典的著作であった。

マクレガーの言葉のひとつでもっともよく引用されるものにつぎのような絶妙な言葉が

ある。「われわれが彼(従業員)を動機づけているのではない。彼がやる気になっているの

だ。そうでないときには、彼は死んでいることになる(We do not motivate him, because he is

motivated. When he is not, he is dear)」(Gary Heil, Warren Bennis, and Deborah C.

Stephens(2000). Douglas McGregor, Revisited: Managing the Human Side of Enterprise, New York:

Wiley, p.11)。これらのタイトルや中心的な主張から、大半の経営管理論のテキストでは、

マクレガーは、時代遅れの X 理論に代わって、新しい時代にふさわしい Y 理論を、より人

間的なものとして提案したというように記述されている。マクレガー自身もそういう書き

方をしているところがあるので、このような記述があからさまにまちがっているとはいえ

ないが、マクレガーの 大の貢献は、第1に、管理者になるころには、意識している度合

いは低いかもしれないものの、モティベーションについての持(自)論をもっていることを、

第2には、どのような持(自)論をもっているかによって、部下の働き方、したがって職場の

在りようが変わってくることを、明らかにした点に求められる。同じ時代、同じ国の同じ

文化のもとで、同じようにマネジャーをしているひとたちの間に、対照的なふたつの持(自)

論があることを発見したことこそ、マクレガーの 大の貢献である。

内容理論として検討すれば、マクレガーの説は、X 理論が注目する人間の欲求、Y 理論が

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念頭におく人間の違いを述べていることになる。この違いは、マクレガーが影響を受けた

マズローの欲求階層説では、X 理論の仮定が低次の欲求、Y 理論の仮定は高次の欲求に対応

する。マクレガー自身が、X 理論をわるもの、Y 理論をいいものに仕立て上げたのは、イン

パクトのある本の常で、これからは Y 理論の時代だと言いたかったという面はもちろんあ

る。しかし、マクレガーに大きな影響を与えた A.H.マズローがいみじくも警告したように、

だれもが自我・自尊心や自己実現への欲求にまで達しているわけではないし、シャインの

複雑人モデルでも説明したとおり、一見すると人間主義的なモデルでも、だれにもそれが

あてはまると思ったら、必ず困ったことが起こる。生理的欲求や安全・安心への欲求を低

次の欲求と呼ぶのは、やや誤解を招く表現で、より基本的な欲求といってもいい。ひとに

よっては、また、ふだんは高次の欲求が顕現化するところまで達しているひとでも、ある

フェーズでは、基本的な欲求にこだわるべきときがある。また、職場による違いもあるだ

ろう。マネジメントの責任にあるひとは、部下の成熟度、その部下の現時点での課題、ま

た職場や職種の性質上、X 理論でいかざるをえない場面にも遭遇することがあるだろう。繰

り返し、本書で、ローカルで、パーソナルなセオリーが大事だと言い続けている理由だ。

ウォレン・ベニスたちは、誠に適切にも、マクレガーが実務家に接するときにおこなった

ことは、「あなたの思考を再考させること(rethinking your thinking)」だったと指摘している。

X 理論よりも Y 理論がお奨めだといっているようにも読める面が確かにある。しかし、「Y

理論がいいから、ぜひこれでいってね」とマクレガーが主張したという教科書的理解はあ

まりに浅すぎる。彼は、X 理論と Y 理論を参考にして、働く人びとに、とりわけマネジャ

ーたちに、自分がほんとうに信じる仮定を、問いただすことをめざしてきた。マクレガー

のそばにいたベニスは、いくつかのエピソードを紹介するが、たとえば、マクレガーは、

よくマネジャーたちに、「どのように従業員のやる気を出させていますか(How do you

motivate employees?)」と聞いたものだが、逆に実務家から、「これはいい理論みたいですが、

どう使うのですか」と聞かれると、あっさり「わかりません」といつも答えていたそうだ。

それは、その理論が自分と自分が置かれた状況にどのように使えるかということを各人が

自分で考えること、そのためには、自分の思考を再考させることが大事だとおもっていた

からだ。実務家に、モティベーションについて、自分の抱く仮定、信念、われわれの言葉

では、持(自)論をチェックしてもらうためのやりとりを重視していた。ベニスたちは、ダグ

ラス・マクレガーの功績を再評価するための本のなかで、つぎのように述べている。

ダグラス・マクレガーの も重要な遺産は、X 理論でもなければ、Y 理論でも

ない。マネジャーならば人間の性(さが)についての自分の核となる仮定を問

いただすべきだという主張、また、マネジャーたちは、これらのメンタル・モ

デル(本書の文脈では持(自)論と読み替えてもいい、金井注)が管理の実際を左

右するのかよく理解するべきだという主張こそが、マクレガーの遺した 重要

な遺産だ。マクレガーが X 理論と Y 理論を開発したのは、われわれの根源的な

諸仮定をこのように問いただすための促進剤として使うためにであった(Gary

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Heil, Warren Bennis, and Deborah C. Stephens(2000). Douglas McGregor, Revisited:

Managing the Human Side of Enterprise, New York: Wiley, p.20)。

別の箇所では、「ほんとうの問題は、あなたが X 理論に近いのか、Y 理論に近いのかとい

うことではない。この対照的な理論は、...核となる諸仮定をテストする単純な構成概念な

のだ」(p.27)ともいっている。さすがにマクレガーの薫陶を直接受けたベニスを含む著者た

ちの記述だ。MIT に在学中に、恩師のエドガー・シャインからも、マクレガーのエピソー

ドをいっぱい聞かせてもらったが、通常の X 理論、Y 理論の理解を深めないといけないと

痛感する。深めれば、一気にモティベーションの持(自)論アプローチの核心に一歩近づける。

X 理論と Y 理論と命名し、その仮定を項目にして言語化し、明示化したのは、マクレガー

だが、これらは、学者が構築し検証された公式の理論ではない。そうではなくて、マクレ

ガーは、マネジャーたちに「どのように従業員を動機づけていますか」と尋ねたときのや

りとりの生の声から蒸留されたものだ。これは、マネジャーたちが使っている、これらの

仮定のコアにある部分を照射する。X 理論と Y 理論は、学者の構築した理論でなく、実践

家が抱くセオリーが解読、発掘された実践家のセオリーである。それが証拠に、67年の

著書『プロフェッショナル・マネジャー』では、「セオリー(つまりは、信念または確信)」

と言い換えている。自分に発破をかけるだけでなく、マネジャーとして他の人びとのやる

気に働きかけようとするあらゆる企ての背後には、「セオリー(つまりは、信念または確信)」

があると、マクレガーは考えたのであった。

1960 年の古典的名著の7年後、『プロフェッショナル・マネジャー』という書籍を著し、

前著では X 理論と Y 理論というように、実践家のセオリーとして対比したものを、新作で

は「コズモロジー」と表現した。コズモロジーとは、宇宙観であり、おおげさだけど、マ

ネジャーになるころには、そういうものをもってほしいというマクレガーの大きな望みが

言葉の選択に表れている。ひとを扱うことが仕事の主要な部分になってくるマネジャー層

では、その宇宙観のなかに、ひとはなぜ動くかの持(自)論、つまり人間観もが主要な領域を

占めるだろうが、それ以外にも、組織観、事業観など、人びとが活躍する舞台、場につい

ても、自分なりの考えを持つ必要があるだろう。ひとがなぜ動くかをふまえて、自分なら

どのように絵を描いて、絵の実現のために人びとを巻き込むかという、リーダーシップの

持(自)論もこの宇宙観の一角をなすだろう。J.P.コッターは、新しく事業部長になったひと

は、 初の数ヶ月をかけて、この大きな絵と実行プラン(この両方を含めて、コッターは、

アジェンダと読んだ)を創り出す必要がある。新任事業部長として、製品市場、財務、組

織とひとについて、文書化された公式の計画よりも、一方ではより長期を見据え、他方で

は、より短期には、だれになにを頼む必要があるのかなどの活動項目が、より具体的に描

かれているのだ。アジェンダの辞書での第1の意味は会議の議題だが、ちょうど議題のよ

うに、あたまのなかで、なにをすべきかが、経営計画よりも、大きな絵として描かれ、同

時にすぐに着手すべきことが整理されている状態が、アジェンダ設定の帰結だ。マクレガ

ーがコズモロジーという大げさな表現を使っているのは、担当者から、管理職へ、さらに

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トップへ、あるいは、専門の世界をより深く極めていくにつれて、持(自)論がより包括的に

なる必要があることを示唆するいい言葉の選択だとわたしは思う。

多くの経営者が、自分の頭で考えることの大切さを強調するが、考えたら、その結果を

持(自)論に言語化し、それが、宇宙論というレベルにまで達していて、それが日常の行動の

指針となるとしたら、たいへんに雄大なことだ。

2.2. シャインの複雑人モデルの場合

エドガー・シャイン(Edgar H..Schein)の提唱する「複雑人(complex man)モデル」は、

モティベーションを考えるときの人間観、人間モデルのバラエティを教えてくれる。彼に

よれば、人間モデルの変遷は、つぎのように捉えられる。

・ 経済人モデル

・ 社会人モデル

・ 自己実現人モデル

・ 複雑人モデル

まず、経済人モデル。経営学の長い歴史を見たら、今日の成果主義の発端は、フレデリ

ック・テイラーの差別出来高給にまで遡ることができる。一日にがんばればいったい何個

つくれるのか、その適切な個数の標準が二十世紀初頭まではよくわからなかった。だれも、

標準を科学的に設定しようとしなかったからだ。科学的というのは、ややテイラーに特殊

な意味合いで、きちんと動作研究、所用時間の研究をしたうえで、標準を計算するという

ことだ。標準を設定するときに、どの作業分野でも、一流のひとのやり方を研究した。そ

のことで、労働強化が高まるという批判が、組合からは起こったが、どの作業にどれだけ

の時間をかけるかを計測するなら、一流のひとをベンチマークするという気持ちはわかる。

仕事のペースは、一流のようにやれと言われたら困るが、仕事のやり方、段取り、道具な

どは、一流に学ぶのがいい(サッカーでもギターでも、習い始めうまくなりたいと思った

ら、自分はへたくそなのでという理由で、三流に学びたいとはだれも思わないだろう)。標

準が時間・動作研究を通じてきちんと設定される前には、作業者ががんばってより多くつ

くれるようになると、経営者が標準を恣意的にあげる(換言すれば、賃率を下げる)とい

う弊害が見られた。科学的管理法は、その意味では、それまでの成り行き管理を克服する

ものであり、テイラー自身は、志の高い精神革命(mental revolution)だと主張していた。

その彼が、導入したのが、標準を上回った作業をできたものには、割り増しを払う差別出

来高給で、ここにひとつの萌芽的な人間観が現れている。テイラーの人間観ともいえるが、

同時に、19世紀から20世紀へ変わったころの時代の人間観だったとも言える。たとえ

ば、以前の成り行き管理とは、つぎのような事態を引き起こした。多くの人が20個をつ

くっていたときに誰かが30個をつくりだしたら、10個分のプレミア(割り増しの支払)

をつけていた。ところが、複数の人が30個をつくりだしたら、経営者は、「なんだ、30

個つくるれんじゃないか」と言って、標準を30個に恣意的に変えてしまい、プレミアを

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消した。これでは多くの人が不満に思う。あるいは、それならといって、みなでグルにな

って申し合わせたかのように、たくさんつくることをしないようになる。これは、ひとは

元から怠け者なのでなく、仕組みがおかしいから怠業が起こるという意味で、組織的怠業

(systematic soldiering)と呼ばれた。そこで、標準をきちんと測定した上で、それを上回っ

た人には差別出来高給を出し、満たない人にはがんばれよというシグナルを出したのであ

る。それがテイラーの貢献で、この背後のひとつの人間モデルの萌芽があり、それをシャ

インは、経済人モデルと呼んだ。命名の理由は、ひとががんばるのは、賃金という経済的

報酬だとテイラーは、またその時代の多くの人びとは思っていたようだからだ。

世紀の変わり目以降に、鉄鋼や自動車などの巨大産業が発達していく。テイラーは、主

として鉄鋼業から科学的管理法を導入したが、それをいろんな産業にも普及させようとし

た。自動車産業では、ヘンリー・フォード1世が、デトロイト・オートメーションと呼ば

れる移動組み立てラインを導入したが、有名なことは、賃金の高さだった。フォードに働

くひとが、フォードの車が買えるようになれば、自動車産業も栄えるという大きな絵もあ

るが、動機モデルとしては、車をはじめとして、買えなかったものが買えるようになって

いく経済的報酬を重視したということだ。だから、がんばった分だけ、お金で褒美を払う

ことが大事な時代だったのである。この人間観が古臭くなることはけっしてない。だれだ

って、結婚する間際に、あるいは、住宅ローンを組んで返済をはじめたら、やっぱり、働

く理由のひとつは、時代がいくらくだっても、給料がもらえる、また、がんばった分だけ、

ボーナスが増えるという点になるのではないだろうか。今日の時代の成果主義が、テイラ

ーの時代の差別出来高給のように素朴なまま実施されることはないが、成果にいたる行動

や発揮された能力に連動して、給料やボーナスが変動することにより、ひとが動機づけら

れると考える面においては、経済人モデルが、浮上してくる。

経営学の100年の歴史のスパンでみると、科学的管理法のつぎの時代を画したハーバ

ード大学の人間関係論は、これとは異なる人間観を提示した。人間は、標準的な方法で、

標準化された方法で、標準どおりに作業をおこなう機械ではない。まるごとの人間として、

働くひとは、職場に、感情や期待を持ち込むし、心配や不安があるときには、監督者に相

談に乗ってほしいと思うこともあるだろうし、職場のインフォーマルな集団に、帰属する

ことがもたらす安心感もある。ひとは、ひとりで生きているわけではないので、会社や職

場にコミュニティやメンバーであることを喜べるチームを求める。職場についたら、今日

も標準めざしてがんばろうというのは、仕事のすべてではない。人間関係論の元となった

ホーソン実験におけるいちばん有名な実験では、5名の女子工員がひとつのグループとし

て特別に実験のためにつくられた作業室で、単純な部品を組み立てる作業をしていた。会

社やハーバードの研究者の注目を浴び、通常の職場の当時はまだまだ強権的でがみがみし

ていた監督とは違うタイプの配慮がある場で、グループのなかの5名には、金銭的な報酬

などとは異なる心的態度に変化がみられた。テイラーは、メカニカル・エンジニアであっ

たが、ホーソン実験をおこなったエルトン・メイヨーは精神分析家、フリッツ・J.レス

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リスバーガーは臨床心理学者だった。科学的管理法の全盛期のあと、ホーソン実験のイン

パクトが現れるころには、時代の人間観は、経済人モデルから、社会人モデルへと変遷し

ていった。ひとは、経済的報酬で動くこともあるが、集団に所属していることが安心や喜

びをえる社会的存在でもある。

1950~60 年代にかけて人間関係論が全盛を迎えるころには、一部の先進的学者は、ひと

は、人間関係論の社会人モデルでは、集団に埋没し依存する個人を念頭においているよう

なところがあり、そこを批判的にとらえ、もっと自律し、給料や人間関係よりも高度な動

機、たとえば、自分らしく生きる見通しの追求、自分の可能性を開花させるために、ひと

は自ら自分を動機づけることができることに注目する学者が出てきた。代表格は、心理学

者では、アブラハム・マズローで、経営学の分野では、ダグラス・マクレガーやクリス・

アージリスだ。マクレガーは、1950年代に米国で管理職をしているひとたちのモティ

ベーションに関する持(自)論を収集し、旧来のテイラーやメイヨーの主張と異なり、仕事そ

のものを楽しみ、自分で自分をコントロールできるようなひとを前提にした新しい人間観

が存在することを、主張した。その主張を鮮明にするために、テイラーの考えに近い旧来

の人間モデルをX理論、マズローの自己実現の欲求に近いような高度の欲求にかかわる新

しい人間モデルをY理論と呼んだ。Y理論は、経済人モデルだけでなく、社会人モデルと

も袂を分かつ。人間関係も大事だが、それはやや依存的なモデルである。会社に働く人間

は、親を頼る子どものイメージよりはもっと自律的で成熟しており、要するに大人だ。自

分を貫くことが必要ではないか。イヤなものは断り、やりたいものは自分で追求する。そ

れなら、放っておいてもがんばるはずだ、という主張である。テイラーの描く組織、また、

官僚制的な組織などの古典的な管理原則が、成熟した個人にはそぐわないことを批判した

のが、初期のクリス・アージリスの貢献であった。本書の立場から興味深いのは、マクレ

ガーも、後期のアージリスも、実践家の持(自)論を強調する研究者である点だ。その彼らが、

より高度の欲求で動く自律的な人間モデルを提唱しているのは非常に興味深い。なぜなら、

持(自)論をもつこと自体が、自律的に自分なりの働き方を貫く道であるからだ(もっとも

新の、self-regulation theory も、素朴でも自分のセオリーをもつことが、モティベーションの

自己制御に役立つと主張している)。エドガー・シャインは、経済人モデル、社会人モデル

に続く時代に提唱されたものであり、自己実現人モデルと名づけた。それは、マクレガー

をはじめ、このような考えをもつ経営学者が、自己実現の心理学で名高いマズローの影響

を受けていたからだ。

19世紀から20世紀への変わり目にテイラーの科学的管理法、その30年後には人間

関係論、その30年後の1960年代には、人間関係論と区別してレイモンド・E.マイルズ

に人的資源管理論と呼ばれる領域が登場した。ほかならぬマイルズの Theories of

Management というタイトルの書籍もまた、学者の理論でなく、実践家が抱く持(自)論に、

多様性があることを認めた学者のひとりであった。それぞれの時代を彩る人間モデルが、

経済人モデル、社会人モデル、自己実現モデルだったと、総括する E.H.シャイン自身が、『組

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織心理学』の初版で提唱したのが、複雑人のモデルだ。

管理職になって、自分以外のひとに動いてもらわないと仕事にならない、つまりひとを

扱うこと自体が仕事の重要な部分になってくるころには、「十人十色であることをしっかり

認識すべきだ」というのが、複雑人モデルのエッセンスだ。異なるモデルは、異なる時代

精神、時代の課題を反映しているが、人間関係論の時代になっても、経済的報酬のインセ

ンティブにより強く動かされるひとがいるし、自己実現という言葉がよく聞かれるように

なったからといって、管理職のひとが、部下の全員が自己実現のために働いていると思っ

たら、間違いだ。外発的な経済的報酬が大事なひともいれば、職場の雰囲気、人間関係が

大事だというひともいるし、また、仕事を通じて自分の可能性をフルに開花させ自己実現

していきたいというひともいる。

だから、「複雑人モデル」の基盤には、管理職になるころには、自分のおかれた状況につ

いて、(ちょうど組織開発の専門家がおこなうような)臨床的な診断力が望まれるという主

張がある。シャインのその後の著作も含めて、また、彼との議論から明らかなことは、す

べてのひとが同じ動機で動いているなどと決めつけるのがいちばんよくないということだ。

個人の発達のためにも、組織開発のためにも、人間のもつ動機は多様で一筋縄にはいかな

い。でも、今に至るまでの歴史的変遷からみると、モデルは3とおりぐらいに集約できる。

もっときめ細かく、モティベーションから見た人間モデルを、10個、20個にも精緻化

できるかもしれない。でも、 初の3つを参考に、自分なりに自分の周りのひとのやる気

の理解に必要な、複数のモデルを持(自)論のベースに据えるようにしていきたい。第4の複

雑人モデルは、その意味では、そこまでの3つのモデルと違って、メタモデルと言ってよ

い。どの個別の人間モデルに注目するにせよ、基本姿勢としては、ひとがなにに動機づけ

られるのかというのは、複雑なことだと認識する必要がある。これが、複雑人モデルのメ

ッセージだ。

しつこく繰り返すようだが、経済的動機から人間関係論の社会的動機、自己実現という

プロセスを並べてみると、なんとなく学問の進化がそのまま人間観の高級化につながって

いるように思えてくる。だから管理職者にとっては、「今は自己実現の時代だから、みんな

仕事を通じてそれを目指してくれ」と言ったほうが今風のように錯覚しがちだ。

しかし、世の中には自己実現とは切り離して働いている人もいる。お金のためと割り切

る人も少なくない。そのひとの人生におけるフェーズということもある。職場でハートを

射止めたひとと結婚を控え、貯金に精を出しているときには、関係への動機や経済的な動

機がその折には高まる。しかし、自分の名前が永遠に残るようなプロジェクトに打ち込み

始めるようなフェーズが後にあれば、そのときには、自己実現という面がクローズアップ

されてくるだろう。十人十色という意味は、ひとりひとり、どの欲求や動機が支配的であ

るのかに個人差があるばかりでなく、同じひとでも、そのときどきの人生のフェーズで、

どの欲求や動機が重要性を増すかが変遷していく。この二重の意味で、いろんなひとにい

ろんな欲求がいろんなときに違った形で姿を現すのだ。そこでエドガー・シャインは、ま

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ずモティベーションの源泉は多様であるということを認めた上で、「経済人モデル」「社会

人モデル」「自己実現人モデル」というものを提唱したのである。その全体の基盤にあるメ

タモデルが、「複雑人モデル」というわけだ。

これは、本論文で扱うリーダーシップの持(自)論よりも、モティベーションにまつわる持

(自)論でのモデルで、実践家が抱く人間モデルと思ってもらえばよいが、リーダーシップが、

人びとを巻き込むという面を含む限り、リーダーシップ持(自)論は、どこかでモティベーシ

ョン持(自)論とリンクしている必要があると思われる。

2.3. アージリス=ショーンのタテマエ理論と(内省的実践家の)ホンネ理論

クリス・アージリスとドナルド・ショーンは、社会や組織のなかで専門職のひとたちの

働き方を観察したり、コンサルタントとしてアクション・リサーチ的に介入して変化を起

すことをめざしてきた。

まず、 初の発見は、自分のとっている行為を実際に導いているホンネ・レベルでの理

論(theory-in-use)に注目し、つぎのふたつの点をあきらかにした(アージリス=ショーン、

1974)。

ひとつは、専門職として活躍しているひとに持(自)論にあたるものを尋ねると、望ましい

と教わっていること、組織が望んでいること、あるいはタテマエとしてこのように答える

のが妥当と思われるような決まり文句が返ってくることも多い。彼らは、本人がほんとう

に信じていてそれに基づいて実践することになっている「使用中の理論(theory-in-use)」と、

この「聞かれればこう答えるという理論(espoused theory)」とは、異なることを明らかにし

た。前者をホンネの理論、後者をタテマエの理論と呼ぶこともできるが、本論文の用語法

では、前者がここでいう持(自)論に当たる。自分が抱くセオリーで、実際に自分のプロとし

ての行動を左右している考え、仮定から成る実践的理論がそれだ。

もうひとつは、教師やコンサルタントやその他の専門職の話に耳を傾けていると、とく

に組織を変革していくような場面では、ふたとおりのホンネの理論、もしくは持(自)論が見

出された。それをモデル I、モデル II(Chris Argyris and Donald A. Schon(1974). Theory in

Practice: Increasing Professional Effectiveness. San Francisco, CA: Jossey-Bass, pp.68-69; p.87)と

して提示した。後に、単一ループ学習、二重ループ学習の概念として展開されるものの萌

芽がここにある。

モデル I の世界での行動を導くのは、つぎのような考え方だ。

(1) 目標を定義して、達成しようとする

(2) 勝つことを 大化し、負けることを 小化する

(3) 否定的な感情を生み出したり、表出したりするのを 小化する

(4) 合理的であろうとする。

これらにみあった実際の行為はつぎのようになりがちだ。

(1) 環境を一方的にデザインし管理する(相手を説得しにかかる、より大きな目標に訴

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える)

(2) 課題を自分で背負い込み、統制する(課題の当事者であること=オーナーシップを

主張し、課題の定義と拡張は自分の管轄だとみなす)

(3) 一方的に自分を防衛しようとする(ほとんど、あるいはまったく観察不可能な行動

しかともなわない自分の頭で作り出したカテゴリーで話しかけ、他の人びとへのイ

ンパクトに気づかず、また、レトリックとして言っていることと行動していること

の不適合にも気づかず、相手を責める、紋切り型で捉える、感情を抑圧する、へん

にかしこぶるなどといった防衛的行為によってつじつまを合わせようとする)

(4) 他の人びとが傷つかないように一方的に保護する(情報を伝えず、情報や行動を検

閲する規則をつくり、内輪の会合を開く)

このような戦略で行為を実際にとってしまうと、その結果は、つぎのようになる。

(1) 行為者は、つぎのように見られる。防衛的で、首尾一貫せず、つじつまがあわず、

競争的で、ひとを統制したがり、弱みを見せるのを恐れ、ひとを操縦したがり、感

情を抑え、極度に自分のことや他の人びとのことばかり気にかけるか、そうでなけ

れば、他の人びとのことに関心をもたなくなってしまう

(2) 対人関係、集団での関係において防衛的になる(行為者としての自分にだけ依存し、

他のひとと共におこなうこと、他の人びとを助けることがほとんどない)

(3) 防衛的規範(不振、危険負担の欠如、画一性、外面的なかかわり合い、社交辞令を

重んじ、パワーがらみの競争と対抗関係)

(4) 選択の自由、内面からのかかわり合い、危険負担が低度

これらの結果、モデル I では、自己隠蔽的で、単一ループ学習となり、持(自)論を公の場

で検証することはほとんどなくなり、検証することがあっても、内輪のこととなってしま

う。

これに対して、モデル II の世界はつぎのように描かれている。まず、モデル II の行動を

左右する変数は、つぎの三つだ。

(1) 妥当な情報

(2) 知らされたうえでの自由な選択

(3) 選択への内面からのかかわり合いとその選択を実施するうえでの、絶えざるモニタ

リング(監視)

このモデル II を抱くひとがとる行為の戦略は、つぎのようになる。

(1) 参加者たちが、チェスのたとえでいうと、コマになるのでなく差し手として扱われ、

自分が原因(主人公)であるという意識(自己原因性=personal causation の感覚)を

もてるような状況もしくは環境をデザインする

(2) 課題も共同で統制される

(3) 自己の知覚も共同の企てと重なり、成長に向かっている(直接的に観察可能なカテ

ゴリーで話す。そして、自分に首尾一貫性がなかったり、つじつまがあわなくなっ

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ているのに、そのことに無頓着にならないようにする)

(4) 互いに相手を双方向的に保護し合う

このように行動していると結果として、

(1) 防衛的には 小限しか振舞わないとされる行為者(ファシリテータ、コラボレータ、

選択を生み出すひと)

(2) 防衛的であることが 小限に抑えられた対人関係とグループ・ダイナミクス

(3) 学習指向の規範(信頼、個性、困難な課題についてはオープンな対決=問題直視)

学習の帰結は、

(1) それはちがうといつも言いうるプロセス

(2) 二重ループ学習

(3) 理論を公の場で検証すること

生活の質に対する帰結は、

(1) 生活の質は、消極的というより、もっと積極的になるだろう(高度の純粋さと高度

の選択の自由)

(2) 問題解決と意思決定の有効性は、とりわけ困難な問題に対して、大きなものになる

全体として、モデル I は、有効性を減少させ、モデル II は、長期的な有効性を増大させ

る。

このような考え方については、マクレガーの X 理論、Y 理論と同様に、X 理論がいいも

の、Y 理論がわるもの、そして、モデルは、アージリスとショーンが構築し提唱したものと

いう誤解がある。重要な点は、ひとつには、このモデルが、実践家の思い描く、自分で抱

くセオリーであるという点、そして、どのようなセオリーを抱くかで実践家が働く場のあ

り方が変わってくるという点にある。彼らが後に、組織学習における二重ループ学習の提

唱者になることから、モデル II がいいものだと読んでしまいそうな表現を著者たち自身が

しているが、自分の持(自)論をチェックしてほしいというのが、 大のメッセージだ。

ドナルド・ショーンは、その後、内省的実践家(reflective practitioner)という表現で、う

まくできることについて持(自)論を言語化できるひと、いきなり言語化できなくても、対話

と実演のなかから持(自)論を見つけようとするひとの特性を描いた(Donald A. Schön (1983).

The Reflective Practitioner: How Professionals Think in Action, New York: Basic Books)。それだけ

であきたりず、どのようにすれば内省的実践家を育成することができるかという点まで、

議論を深めていった(Donald A. Schön (1987). Educating the Reflective Practitioner, San

Francisco, CA: Jossey-Bass)。

3. 基礎ディシプリンと持(自)論アプローチ

心理学の世界には、誰でももともと自分なりのセオリーを持っている、ということを研

究対象とした「素人心理学」「素朴心理学」と呼ばれる領域がある。アドリアン・F.ファー

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ンハム(Adrian F. Furnham)は、われわれが、心理学者でなくても、心理学の素人理論を持っ

ているし、同様に、医者でもないのに、医学一般、精神医学について、また、経済学の専

門家でなくても、経済について、素人理論を持っている。同様に、統計学、法律、教育に

ついても、素人理論が存在することを論じている(Lay Theories: Everyday Understanding of

Problems in the Social Scinecs. Pegamon Press, 1988、細江達郎監訳田名場 忍・田名場美雪訳、

北大路書房、1992 年)。たとえば、日常のなかで発揮される素人の素朴心理学における代表

的テーマが暗黙のパーソナリティ論だ。われわれは、心理学の講義をとって、パーソナリ

ティの心理学について詳しく習っていなくても、「あのひとは外交的だ」とか、「あのひと

は自己中心的だ」とか、素人なりに自分の言葉で、パーソナリティを判断しているし、そ

れが、自分の行為や決定に影響を与えていることを知っている。たとえば、「凶暴そうだか

ら、つき合うのはやめよう」とか。しかし、ある場面では、それは性格のせいでなく、環

境のせいだと帰属することもある。「えらい暴れていると思ったらリング上だった」という

のなら、洒落にならない。特定の行動の原因を、個人の特性に帰属したり、環境の特性に

帰属するプロセスに注目した心理学者たち、たとえば、フリッツ・ハイダー、ハロルド・

ケリーは、因果の推論に際して、素人は応用科学者のようでもあると形容した。帰属理論

の延長上で展開されたモティベーション理論もある(バーナード・ワイナー、Bernard Weiner)。

イエール大学のロバート・J.スターンバーグ(Robert J. Sternberg)は、知能、創造性、叡智

の分野で、素人の抱く考えを素に概念化を試みた。叡智のような味のある概念は、そもそ

も、実際に人びとが、なにを叡智だと思っているのかを確かめるのが も有望な方向のひ

とつであり、素朴にあがってきた概念こそが、実は、フォーマルな概念の形成にも寄与す

ると考えてきた。叡智それ自体は、日常生活をうまく乗り切るための経験ベースで役立つ

持(自)論であるとも言い換えることもできる。キャロル・ドゥウェックは、ほかならぬ知能

についての子どもの素人なりの考えが、子どもの勉学のモティベーションにどのように影

響を与えるかを研究してきた。

たとえば、「俺はあきらめないヤツが好きだ」というだけでも、その背後には持(自)論と

してのパーソナリティ・セオリーがある。あるいは「あれだけの仕事をやってもらったん

だから、カツ丼ぐらい食わせてやろう」と言えば、そこにはこのように言うひとの持(自)

論としてのモティベーション理論があるということだ。

よくがんばった子どもに「いい点を取れたのはなぜだと思う?」と尋ねると、「先生が

よかったから」「かわいい子がとなりになって、いいとこを見せたくなって」「運がよかっ

たら」「試験が簡単だったから(みんなも点がよかったよ)」「僕が努力したから」「僕は賢

いから」「勉強がおもしろくなってきたから」といった答えが返ってくる。こうして原因の

帰属を考えてみると、一方では自分で自分を説明することになっているし、他方、先生や

管理職にとっては、なぜこの子はこんな動きをするのかということを知る手がかりになる。

そこでは、特別に心理学を学ばなくても、素人なりのセオリーをつくっているはずなので

ある。

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ここでひとつよくある誤解をほぐしておきたい。ここでいう因果とは、リチャード・ド

ゥシャーム(Richard de Charms)が強調するとおり、客観的に科学的に検証される因果では

なく、日常生活のなかの行為者、実践家が―先生であれ、管理職であれ、生徒であれ、働

くひとりひとりの部下であれ―彼らが主観的に思い描く因果だ。たとえば、コントロール

の幻想(illusion of control)として知られる現象がある。ルーレットやカードゲームで赤の

数字が続いたので、そろそろ次は黒だというのは、客観的には間違いだ。ルーレットもカ

ードゲームもどこで盤が止まるか、どのカードを引くかは、偶然に支配されているので、

自分が念じても影響を与えることができない。でも、思ったとおりのカードを引いたら、「や

っぱりね」というかもしれない。また、宝くじを販売しているところは、必ずといってい

いほど、「昨年の実績」を宣伝している。ここから、1億円のあたりが2本でましたとか。

また、大きな金額のくじを当てたひとも、「感想を聞かれて」慎重に考えて、駅から三番目

のところで宝くじを買ったのがよかった」というかもしれない。統計を学んだひとたちは、

さいころは乱数といっしょで偶然により、1から6までの間の数字をランダムに示すこと

になるだけなのに、すごろくで大事な場面で、友達が「ぼくが変わりにふってあげようか」

というと、いやがる。だれもが、自分が主人公、自分が原因でありたいと思っている。主

観的にそう思っていることが大事だ。コントロールの幻想に限らず、誤った推論をいっぱ

いする。われわれは、往々にして、成功したときには自分のがんばりや能力のおかげで、

うまくいかなったときには、環境のせい(課題が難しすぎた、運がわるかった、道具がだ

めだった、等々)にする。ニスベットとロスは、これを因果帰属の基本的誤謬と呼んだ。

かくして、学生は成績がいいと、自分ががんばったといい、可とか不可だと、先生の教え

方がわるかったという。同様に、野球の監督は、不調が続くと、更迭されることになる。

しかし、H.ケリーがいうように、素人なりに、どの変数とどの変数とつながっているかに

ついて、日常の観察のなかでわれわれは、素朴な応用科学者として、推論をしている。あ

の試合に勝ったのは、監督のおかげだというとき、あるいは、引き締まったピッチングの

おかげだったというとき、われわれは、因果の帰属をおこなっている。たとえば、統計学

の分散分析や実験計画法、因果の推論法について学んでいなくても、(1)ある変数とある

変数とが共変する(同じ動きを示す、たとえば、練習が多いほど勝率が高い)かどうか、(2)

時間の順が抱く因果と適合的かどうか(つまり、原因にあたるもの、練習のほうが、成果

より先んじているかどうか)、(3)論理的に考えても両者につながりがあるかどうか(守

備に不備があり負けていたので、守備練習を増やすことは失点を防ぎ、勝ちゲームを増や

したというのは論理的に納得がいく)、など考えをめぐらす。

ドシャームの明言だが、「石ころについて、自分のパーソナルな経験に基づいて推論する

のは、まちがいだろうが、...わたし自身の経験では、他の人びとについて推論するうえで

貴重な知識の源泉が自分にある」(Personal Causation: The Intenal Affective Determinants of

Behavior, New York, Academic Press, 1968, p.22)。モティベーションやリーダーシップ

のような分野では、実践しているひとがどういうセオリーをもっているのかを聞くのに意

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味があるわけはここにある。

心理学では、客観性が妥当で、主観性がだめというように切り捨てることはできないし、

たいへんな損失だ。心理学の対象は、(暗黙知で有名なマイケル・ポラニー, Michael Polanyi

の言葉を使えば)「個人的知識ないし個人知(personal knowledge)」であり、行為するひと自

身が、「さいころを自分でふらせろ」という場合にも、自分なりの意図をもっている。この

個人的知識は、本書の用語法では、持(自)論(とくに、自論、セルフ・セオリー)にほかな

らない。自分についての知識こそが、因果の担い手(the knowledge of oneself as a causal agent,

ibid., p.10)なのだ。モティベーションは、このような考えを適用するのに、 も適切な領

域ともいえる。それは、「モティベーションは、ひとが行動を理解する助けになるために生

み出された概念であるという事実、....モティベーションは、われわれ自身の内側から、

いいかえると自分なりの因果づけ(personal causation、自己原因性と訳されることが多い)

から、知ることができるなにかである」(p.24)からだ。ソクラテスにとっては、哲学の問

題であった「自分を知る」ということ、そこから「自分で考える」「自分なりの持(自)論を

もつ」ということが、実践の問題でもあるのだ。また、ソクラテスにとっては哲学の問題

であり、後に J.A.ミーチャム(J.A.Meacham)が叡智の本質だといった「無知の知」「知るこ

とと疑うことのバランス」は、自分にだけ成り立つ狭義のセルフ・セオリーでは、世界を

とらえられないということを、思い出させてくれる。狭義のセルフ・セオリーにも、ワール

ド・セオリーにも必ず不備や抜けがある。ミーチャムは、叡智とは、知ることと疑うことの

バランスというときに、疑うことの も重要な機能を、「パーソナルな知識=個人知を、モ

ニタリングするメタ能力」と定義した。自分には気づかない欲求で動くひともいるし、自

分とは違うメカニズムでモティベーションが喚起されるひともいる。自分を知るのも難し

いし、世界について知り尽くすのも、とてつもなく難しい。だから、主観的な因果から、

自分たちの行動をまず理解するが、その因果の推論がまちがっているかもしれないという

自覚が常にいる。選手をクビにしたり、監督を更迭したりするたびに、それが正しかった

のかどうか、反芻しないひとは、信頼されるリーダーにはなれない。

野球の監督が負け試合の後で反省会をおこなうのは、原因帰属を自分なりに皆と議論し

ながら考えるためだ。「あと一本が出なかった」とか「あの場面のバントは俺のミスだった」

などさまざまあるが、チームとしては監督のせいなのか、プレーヤーのせいなのかでずい

ぶん変わってくる。監督のせいで、それがずっと続くようなら更迭を考えなければならな

いし、選手のせいなら起用法を変えるなどの対処が必要になるはずである。

私が強調したいのは、自分が人生の主人公だと思うことが、究極的には意味づけに関わ

る 大のモティベーターになるということだ。実は素人は素人なりにセオリーを持ってい

て、セオリーに内在するのが原因帰属であり、そのあり方がモティベーションやリーダー

シップにまつわる人びとの行動を決めるからである。

なお、セルフ・セオリーと自己原因性の理論については、本論での説明は十分ではない

が、別稿でまた、詳しく論じる予定だ。

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持(自)論をもつことにより、自分の行動を自分で律することができるようになるという側

面は、 新の自己調整(自己制御、self-regulation)の理論ともつながってくる奥行きをもっ

ている。

4. 実践的教育におけるリーダーシップとモティベーション――神戸方式の BJL と持(自)

論アプローチ

経営学は応用学問分野なので、 先端の理論をダイナミックに動く現実に応用してきた。

応用の場である経営の実践をだれよりも丹念に調べることから、基礎学問分野に還流する

ような現実に根づいた理論(grounded theory)が、応用分野である経営学から生まれてきた。

学理と現実との融合というのは、そもそも神戸大学建学の理念なので、応用領域であるこ

とから、逆向きに基礎理論にも貢献することをめざしてきた。会社とは、大半の成人が人

生のかなりの時間をすごす場だ。それは、応用領域としては、経営学が照射する働く個人、

職場、企業組織、さらに産業社会にとっても大切なフィールドなので、基礎学問分野にも

フィードバックすべき「見晴らしの有利な地点」(”vantage” point)に立っている。

経営学のなかでも、本論文の冒頭でもふれたように、組織のなかの人間行動(human

behavior in organization)、略して組織行動論(organizational behavior、OB)と呼ばれる分野

におけるリーダーシップやモティベーション論は、そのようなことを見晴らしのよさをフ

ル活用すべき場となっている。

この第4節では、これらのテーマを素材に、神戸大学のMBA(経営学修士)における

研究に裏づけられた教育(Research-Based Education、RBE)、BJL(By the Job Learning)

という考えを肉づけしながら、紹介しておきたい。

実社会に数年勤めていれば、わざわざ習わなくても、「ひとはなぜ働くのか」について自

分なりの考えがあるだろう。プロジェクト・リーダーの経験をしたり、20年近く働いて

管理職としてライン長になったりするころには、「どのようにすればひとはついてくるの

か」について、見識をもっているはずだ。考えや見識がどの程度、言語化できるかについ

ては個人差があるけれども、実践家として、自分なりのモティベーション持(自)論、リーダ

ーシップ持(自)論をもっているはずだ。

経営学の組織行動論のなかには、研究者が実験や質問紙調査、面接等を通じて体系的に

整備してきた諸理論があるが、両者のリンクが経営学で実践的であるための要となり、MBA

教育では特にそのことが問われる。

神戸方式では、MBAの院生に、大学ならではのリサーチに根づいた既存の理論を、す

でに構築された出来合いの理論として教えることが主眼ではない。一歩踏み込んで、理論

がどのようにつくられたかという手順にまで遡って教えるところまでいけば、少しは RBE

に近づくが、その程度なら他のビジネス・スクールでもおこなわれている。これが RBE の

原初的レベルで、知識の伝授の流れが一方的にとどまっている。

この段階を超えてつぎのレベルでは、実務界で活躍してくださるMBA院生がせっかく

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おられるのだから、今 先端のモティベーション理論でも、いちばん旬のリーダーシップ

理論でも、実践家でもある MBA 院生の経験、実感に合わないなら、それを嘆くのではなく、

新理論を探す貴重な出発点と捉える。経験のズレをインプットとして、実践家の生の声、

経験に適合する原理・原則の探求がクラスのなかで始まる。このようにすることによって、

教室は、一方的伝授の場でなく、知の創造の場に一歩近づく。MBA のクラスでは、教員と

院生とがインタラクティブに接することの真の意味は、ここにある。また、ほんとうに役

に立つ理論を求める MBA 院生なら、自ら知を創造するスキルこそが、MBA を修了してか

ら何年経っても陳腐化しないスキルだと気づいてくれる。これが、RBE の第2のレベルだ。

経験豊かで内省的な実践家なら、モティベーションについても、リーダーシップについ

ても、自分なりの持(自)論をもっているはずだと強調したが、そこに明示的に焦点を合わせ

るのが第3のレベルだ。MBA のセッションはうまく設計されれば、フルタイムで働く MBA

院生が暗黙知として知っているはずのことを、言語化する機会を豊富に創り出し、持(自)

論を発掘、発見する場になっていく。教材を通じての内省、クラスでの議論と対話のなか

から、実践を踏まえた経営学的洞察、いろんな気づきや発見、アイデアの新結合が生まれ

る。受講生の MBA 院生たちは、モティベーションやリーダーシップの理論についての理解

を単に<物知り>として深めるだけでなく、RBE の第3レベルでは、自分が信じるし実際

に実践にも使う理論(practical theory-in-use)=持(自)論の発掘と言語化を<実践家>として

自らおこなうことになる。この4つのレベルを要約すると表1のようになる。

表1 RBE(Research-Based Education)のレベル

<レベル1> 理論や仮説が構築されたプ

ロセスまで実践家に知らせる

MBA 院生が実践家であるがゆえに、あえて

研究者として接する

<レベル2> 先端の理論や生まれつつ

ある仮説が、現実と合う点、合わない点を、

実務家との対話のなかから見出す

実践を知る MBA 院生のほうが経験知として

知っておられることを大切にする

<レベル3> 実務家自身がもっているは

ずのセオリーを発掘する作業を、研究と教育

の接点として活用する

内省的実践家として MBA 院生を、実践的な

持(自)論の担い手として、尊重する

<レベル4> 学者のフォーマルな理論と、

実践家の抱く持(自)論をもとに、経営学の

先端を、フルタイムで働くMBA院生(その

まま社会人 Ph.D.プログラムに進む方もおら

れる)とともに、共同で切り開く

理論と持(自)論の架橋、研究者=教育者とし

ての教員と実践家としての院生=研究者と

の融合(ここから、学理と現実の融合をめざ

す)

さて、この神戸方式の RBE を実現するうえで、仕事の場を1年半もしくは2年も離れて

大学に来るよりも、働きながら通う MBA が適切だとわれわれは考えている。通常聞きなれ

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た OJT(On-the-Job-Training 現場での学習)でも、Off-JT(研修)でもなく、BJL と略記してい

るが「働きながらの学習(By-the-Job-Learning)」が、経験と持(自)論、フィールドとクラス

の場、そして、神戸大学の理念のとおり、現実と学理をしっかりつなげていくことにつな

がる。

本論文のテーマであるリーダーシップ開発を例にこのことを考えてみたい。リーダーシ

ップには、たとえば、アイオワ実験、オハイオ州立研究、ミシガン研究など古典から、始

まってさまざまな理論がある。それは、どのようにして現実のなかから見つけ出されたか

の説明と議論が第1レベルだ。どのように仮説、理論が設定、構築され、検証されたかの

手順を、しっかり学ぶことは、学理と現実との融合のためには非常に重要だ。

つぎに、○○研究、□□理論のこの点、あの点が、自分たちが日常経験している日本の企業、

職場の現実と合わないという面が議論のなかで浮かび上がってきたら、そのズレから、ど

のような新しい洞察が生まれそうか議論していく。そこから、一部の MBA 院生は、修士論

文のテーマを見つけ出すことがある。

しかし、今、金井研究室で重視しているのは、すぐれた実践家なら、理論家の理論の導

出プロセスに興味をもったり、それらの理論が現実にそぐわない点を指摘したりするだけ

でなく、自分が実践で使っている自分なりの持(自)論を、言語化できるという点だ。

2005年度の神戸大学 MBA プログラムにおける組織行動応用研究では、初のこころみ

で、(1)MBA の組織行動論を受ける前に、モティベーションとリーダーシップについて、

自分なりにどのような考え、アイデア、もしあるなら持(自)論をもっているか、レポートし

てもらい、(2)すべての16セッションを学んだ後に、それらを踏まえて、彼らのモティ

ベーション持(自)論、リーダーシップ持(自)論をより納得のいく形に改訂してもらい、(3)

その改訂版の持(自)論を日常意識するようになったら、実際に自分のリーダーシップ行動や、

部下の満足ややる気がどのように変わったかについて、われわれ教員と TA、RA の側がフ

ォローする、というプロセスを計画し実施しつつある(第3段階のフォロー調査はこれか

ら)。(1)、(2)の部分を、Before and After Report ということで、BAR と略している。そ

のフォーマットは、第4節末尾に資料としてつけている。

また、持(自)論のインプットはいうまでもなく、学者の理論だけでなく、MBA 院生の自

分の経験、経験からの教訓、また、他のすぐれた実践家の持(自)論もまた、自分なりの持(自)

論を形成するうえでの、貴重なインプットとなる。

このことを体系的にインタビューで仲間から聞き出したり、あるいは、自分で内省した

りするためのエクササイズをたくさん使用する。たとえば、ミドル・マネジャー以上の立

場の MBA 院生には、マネジャーとしてリーダーシップをとるに至るまでに有益だった「一

皮むけた経験」を語ってもらう。クラスで、わたしがボランティアで話してもいいという

方をつのり、すばらしい経験談と教訓を話してもらう。2005 年度の MBA の組織行動応用

研究の場合、その機会は、他の受講生にも大きなインパクトを与え、20名近くのひとが、

身近ですぐれたリーダーシップをとっていると思われるひとの「一皮むけた経験」につい

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て、すばらしいレポートを提出した。

このような経営学の神戸方式は、組織行動応用研究でわれわれがおこなっている方法が

やり方が唯一ではないが、役に立つのがいい理論だという K.レビンの教えに忠実なイノベ

ーションを繰り返し深化させようとしている。

このようなやり方で、われわれがイメージしている、「学者の理論と実践家の持(自)論の

相互作用」のイメージは、図1に示すとおりである。

実践家が自分の経験、観察を意味づけるインプット

内省的実践家が、自分の持(自)論を言語化するためのインプット

教 育

学者の理論 ―――――――――――――――――→ 実践家の経験と持(自)論

←―――――――――――――――――

研 究

すぐれた実践家の持(自)論とのずれがフロンティアを開く

より現実に根づいた持(自)論から、理論を発見していく

図1 学者の理論と実践家の持(自)論の相互作用

付録 BAR レポート

<持(自)論をめぐる事前レポートと事後レポート BAR of Theory-in-use on Motivation

and Leadership)>

われわれは、わざわざひとから習わなくても、たとえば、「あのひとは外向的だ」「あ

のひとはとことんやりぬくタイプだ」などと、日常のなかで話します。ということは、

パーソナリティやモティベーションについて、自分なりの考え(持(自)論)をもって

いるということです。リーダーシップについては、「....すれば、ひとはついてくる

もんだ」というように、自分なりの持(自)論をもっているか、あるいは意識していな

くても暗黙にはもっていて、ひとから聞かれればそれなりに答えられる自分の言葉が

あるものです。そこで、皆さんにお願いしたいのは、このコースを履修するまえに、

とりわけ、以下にあげているようなテキストを読む前に、モティベーションとリーダ

ーシップの2つについて、自分なりの持(自)論を以下のフォーマットに沿って書いて

いただくようにお願いします。提出日は、Day1の第1セッションです。

つぎの箇条書きに回答する形で、事前レポートを作成してください。すでに、これ

まで、なんらかのモティベーション理論やリーダーシップ理論を、学生時代、自己啓

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発と読書、社内の研修、社外のセミナー・講演等を通じて学んだことがあるひとも、

できる限り自分の言葉で、以下のことについて書いてください。

1.自分が調子よくがんばれているときと、無気力になってしまっているとき、この

両者を分けている要因はなんだと思いますか。具体的な場面を念頭において考え

てください。

2.自分の身の回りで、概していつもがんばり屋さんのひとと、たいてい手抜きで熱

心な姿をあまり見ないひとを比べて、どこに大きな違いがあるのか、考えてくだ

さい。

3.(1.と関連して)自分が調子よくがんばれているとき、上司はいったいどのよう

な行動を自分に対してとってくれていましたか。行動の特徴を、そのひとの持ち

味や発想法とあわせて、振り返ってみてください。

4.(2.と関連して)がんばり屋さんのひとにいっそう励んでもらい、また、手抜き

のひとに発破をかけるためには、どのような行動をとりますか。

5.自分がこれまでお仕えした上司のなかで、もっとも信頼できるし、このひとなら

ついていってもいいと思ったひとの、発想、行動の特徴、人間としての持ち味に

は、どのような特徴がありますか。

6.歴史上の人物のなかですごいリーダーというと、だれを思い浮かべますか。その

ひとのスケールの大きさを示す行動上、性格上の特徴はどういうところにあると

思いますか。

7.(1.と2.をもとに)自分が信じる自分なりのモティベーションの持(自)論を言

語化してみてください。(1.)キーワードを並べるレベル、(2.)キーワードを

相互に関連づけるレベル、(3.)キーワード間の関連をうまく例示するレベル、

(4.)自分なりのセオリーとしてもっと整理されているレベルのうち、出来る限

りより上位のレベルに至るような持(自)論を書いてみてください。たとえば、

(3.)で例示される方は、例示に先立って、(1.)キーワードのリスト(2.)

キーワード間の関連の記述を記してください。

8.(3.から7.までの素材を元に)自分なりのリーダーシップ持(自)論を、(7.)

と同じ要領で、作成してください。

9.すでに、これまでなんらかのモティベーションの理論やリーダーシップの理論を、

学生時代、自己啓発と読書、社内の研修、社外のセミナー・講演等を通じて、学

んだことがあるひとは、上記の(7.)と(8.)の記述が、だれのどのような理

論や概念の影響を受けているかについても、記してください。

5. 持(自)論アプローチの展開例としてのリーダーシップ開発

われわれは、リーダーシップのような領域こそ も持(自)論アプローチがうまくいかせる

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領域だとみなしてきた。それは、鑑賞するように学ぶだけでは無意味で、身につけること

が、肝要だからだ。

5.1. リーダーシップ持(自)論に注目したリーダーシップ開発論

そのために、リーダーシップにおける素朴理論や持(自)論の重要性に関して、これまでも

研究を蓄積してきた(そのエッセンスは、金井壽宏(2005)『リーダーシップ入門』日経文庫、

を参照)。

リーダーシップを見つけるのに有益だったイベントの分布をみると、経験が 重要で、

そのつぎが関係(だれのもとで、だれとともに働いていたか)であって、米国の調査でも

われわれの調査でも、研修や MBA などの教育の場のウェイトは、5~10パーセント程度

にとどまる。しかし、これは、リーダーシップ研修や MBA の組織行動の科目におけるリー

ダーシップのセッションが有益になる確率が非常に低いと捉えるべきではない。教育の場

でのやりとりを、経験や観察と結びつけることの重要性を物語っているとみなすのがよい。

これまでのわれわれの取組みでも、研究者が創った公式の理論を中心に教えるやり方で

もなく、逆に、ケースで議論ばかりでおえてセオリーが軽視されてしまうようなやり方で

もなく、受講者自身が実践家であるので、その経験や観察、それらの内省、言語化に基づ

いて、クラスでの議論を重ねてきた。

さきに、観察にかかわるエクササイズ(R.J.ハウスよる「すごいリーダーとできるマネジ

ャー」)や経験にかかわるエクササイズ(「マイ・ベスト・ジョブ」や「一皮むけた仕事経

験」)をおこなし、あわせてリーダーシップの持(自)論が提示されているような教材(たと

えば、『小倉昌男 経営学』日経 BP、1999 年)を事例にしてしっかりケース討議をおこな

えば、リーダーシップについてただ鑑賞するように、すぐれた経営者の持(自)論や、学者の

いろんな理論にふれるだけでなく、自分なりのリーダーシップ持(自)論をもつことの大切さ

が、かなりしっかり認識される。研究者が構築してきた理論は、理論のための理論として

でなく、マイ・リーダーシップ持(自)論を言語化するためのインプットだと考えてもらえば、

いくつかの理論を紹介するか、あるいは、複数の理論を通じて共通の基盤の部分を説明す

る意義はある。

5.2. すぐれた実践家の持(自)論の解読例の必要性

上記のようなこれまでの試みは、まだ完成しているわけではない(ことの性質上、完成

というものはないであろう)。その発展の現段階で、持(自)論アプローチは、ともすれば、

持(自)論の大切さを強調しながら、それは研修や MBA の教室の場を出たあとの、実践=経

験の場で作成するのだという要望だけで終えていた。

近では、研修の場合にも、研修中にリーダーシップやモティベーションについての持

(自)論を書いてもらい、さらに修了までに改訂してもらうようにした。神戸大学 MBA の組

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織行動応用研究でも第 4 節で述べたとおり、2005 年度より、16セッションを受ける前と

受けたあとで、モティベーションとリーダーシップに関する自分の持(自)論がどのように変

わったかを内省、実践とのかかわりで検討してもらうように実施した。

その際に、すぐれた経営者のなかには、ロジャー・エンリコ、ジャック・ウェルチ、松

下幸之助氏、小倉昌男氏などのように、明示的に実践家としての持(自)論をしっかり箇条書

きのように言語化しているひとがいることも強調し、それを受講生の持(自)論づくりのイン

プットとして奨励した。

しかし、それらは、すぐれた実践家の持(自)論のほんの少数の実例にすぎないので、自分

がすごいと思う経営者、歴史上の人物、政治家、音楽やスポーツの世界での指揮者や監督

など、定評があり信頼のできる自叙伝か伝記のあるひとなら、箇条書きにはなっていなく

ても、持(自)論があるはずなので、それらも参考にするように言い渡すのが常であった。

これは、学習を継続してもらうため、自分らしい持(自)論をつくるために、自分がすごい

と思うひとのリーダーシップ持(自)論をインプットに加味するのは、非常に納得のいく展開

方法であると今も考えている。

問題は、われわれ自身が、これまで自叙伝や伝記から、実際にその当該人物のリーダー

シップ持(自)論を、その人物の経験との関連でどのように抽出できるのかの見本を示さない

ままだった。

持(自)論アプローチが教育のみならず、研究としてもその実践性ゆえに大切になってくる

としたら、持(自)論のコーディング例を示す必要があるという認識が高まってきた。

すぐれた実践家の持(自)論の解読例の必要性が感じられたので、それを実際におこなって

みた。また、同種の試みを実施したいと思う実践家、研究者の双方に役立つように、(まだ

改訂されていくであろうが、現時点での)コーディング・マニュアルを開発した。

研究者も従事すべき持(自)論のドキュメント化(少なくとも、その有力な例示)として、

付録にコーディング例をつけている。研究としてデータ蓄積し、精緻な内容分析をする段

になると、カテゴリーの妥当性、コーディングの信頼性がいっそう問題になってくるであ

ろうが、ここでの目的は、そもそも公表資料から、リーダーシップ持(自)論の抽出がどの程

度可能であるかのデモンストレーションにある。

複数の評定者により、同じ伝記的資料のコーディングを実施したが、それは、通常の評

定者間での一致度(inter-rater agreement rate)によって信頼性を見るのが目的ではない。文

字通り、同じ素材に複数でコーディングも試しただけにとどまる。

実践的に実践家が自分にしっくりきて自分が置かれた場に役立つパーソナルでローカル

な持(自)論を構築するうえで、自分にぴんとくるところがよりクローズアップされて、自叙

伝や伝記からの読み取りがおこなわれるはずだ。だから、持(自)論をつくる素材として、実

践家が、本人から見てすごいと思うリーダーの自叙伝や伝記を読みとるときに、ほかのひ

とがコーディングしても同じ持(自)論項目が生み出されるかどうかなどは、大きく気にかけ

る必要がない。

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しかし、ウェルチや小倉昌男氏のように箇条書きで明示的にリーダーシップ持(自)論を述

べていない公表資料から、研究者が「すごい経営者の持(自)論集」をドキュメント化するな

ら、コーディングのルールが明示化される必要があるだろう。

そのための試みとしてはまだ不十分だが、持(自)論を抽出するつもりで作業するとどのよ

うなアウトカムが出てくるかの見本と、まだ発展途上だが、現時点でのコーディング・マ

ニュアルを提示することが、持(自)論アプローチの重要さの確認とあわせて、この論文のも

うひとつの重要な目的である。

5.3. コーディングのための萌芽的マニュアル――二次資料からの持(自)論抽出のためのガ

イドライン

この項(5.3)では、付録に掲げた持(自)論の読み取り、内容分析のプロセスで、気づいた

点を踏まえて、現時点で、リーダーシップ持(自)論を解読する際のガイドラインという形で、

萌芽的なコーディング・マニュアルを提示するものである。

公式の理論を構築するだけでなく、すぐれた実践家の書いたもの(公表資料)から、リ

ーダーシップ持(自)論を引き出しドキュメント化することが、すぐれた実践家に実際にイン

タビューしつつ(一次資料として)「一皮むけた経験」と「教訓」、さらに、そのひとの「リ

ーダーシップ持(自)論」を引き出すのと並行して、経営学者の課題だという思いをわれわれ

はもっている。社長、会長、副社長、役員とのインタビューを通じての試みも着手されて

いる(一部はビデオ録画されている)が、こちらのほうは、まだ公表する段階にはない。

だから、まずは公表資料の分析から着手したいという思いをわれわれとともにする研究

者や実践家(人事部の方、MBA の方など)の方々は、どうか、このガイドラインを参考に

作業していただきたい。そしら、論文のこの場を借りてのお願いとなるが、そのコーディ

ング結果をわたしどもとシェアし合い、また、ガイドラインやコーディングスキームの改

訂について、意見をいただくように、ぜひお願い申し上げたい。

以下が、リーダーシップ持(自)論のコーディングのための萌芽的マニュアルである。

(1)研究目的を設定する

経営者の持(自)論抽出のためのファーストステップは、まず何のためにその作業をおこな

うのかを明確にすることである。後述するが、対象となる経営者や資料を選定する際には、

研究目的によって選ぶべき(選んではいけない)対象がある。また、実際に文章をコーデ

ィングしていくときのルールやフォーマットについても、研究目的に従って設計されなけ

ればならない。つまり、次のステップ以降の作業は、すべて研究目的の内容に依存してい

るのである。

(2)分析対象の選定

公刊資料の有無の確認

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まず前提となるのは、経営者本人による自叙伝や信頼できる伝記が公刊されていること

である。たとえ関心のある経営者がいたとしても、その人についての公刊された資料がな

ければ分析はできない。そこで、インターネットや図書館を利用して、資料の有無を確認

しておく必要がある。

研究目的に応じた分析対象の選定――いくつかの例

次に、具体的に対象となる経営者と資料を選ぶ作業に移る。前述のように、対象の選定

は研究目的に大きく依存しているので、以下では具体的にいくつかのケースを想定して分

析対象選定のための指針を示す。

(a) 特定の経営者の持(自)論に関心がある場合

この場合は、対象選定の自由度は比較的高い。分析できる公刊資料さえあれば、基本的

に自分の興味や関心に従って対象を選んでも差し支えない。

ただし、ビジネス教育におけるケーススタディのように経営者の持(自)論や行動、さらに

その背後にある要素をより深く理解する目的がある場合には、経営者本人による自叙伝や

信頼できる伝記以外にも、その経営者の側近や参謀による回顧録やジャーナリスティック

な出版物が豊富に存在する経営者を選ぶのもひとつの方法だろう。たとえば、本田宗一郎

氏にとっての藤沢武夫氏、井深大氏にとっての盛田昭夫氏といったように、苦楽を共にし

た参謀や共同経営者が回顧録を出版している場合がある。また、松下幸之助氏については、

PHP研究所による資料が多く残されている。経営者の生きた世界をより多面的に理解す

るために、それらの資料は参考になるだろう。

(b) 持(自)論の形成プロセスに関心がある場合

この場合において重視すべきことは、対象となる資料に経営者の生い立ちからの記述が

含まれていることである。なぜなら、経営者の持(自)論は、幼少期、学生時代、一般社員時

代といった経営者になる前の経験がベースになっていることも多く、経営者になってから

のことしか記述されていない回顧録では、その人物の前史の記述が希薄になっている場合

が多いからである。たとえば、中内功氏の事業に対する持(自)論の多くは、自身が体験した

太平洋戦争や戦後から高度成長期の社会や経済状況といったものが背景になっている。ま

た、武田國男氏の持(自)論は、幼少期に間近に接した祖父や父からの影響を色濃く受けてい

る。このような経営者になる前の背景事情を詳しく知るためには、分析対象は生い立ちか

ら記述のある半生記である必要がある。

(c) 特定の出来事の成否の要因をリーダーの持(自)論から探る場合

他方で、特定の出来事の成否に焦点をあてる場合、分析対象は経営者の半生記である必

要はない。むしろ、その人物が経営者になってからのことを中心に描いた回顧録のほうが、

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こちらが焦点をあてている出来事についての記述が豊かである可能性もある。たとえば、

日産再生計画におけるカルロス・ゴーンのリーダーシップ持(自)論に関心があるのなら、彼

が日産の社長に着任してからの回顧録を分析対象にすれば研究目的は達成できるだろう。

ただし、その場合でも、企業変革で用いられたリーダーシップ持(自)論の背景に幼少の頃の

経験がある可能性はあるので、それらを知りたければ彼自身による半生記も併読する必要

があるだろう。

もちろん、上で挙げたような研究目的以外の場合もあり得る。重要なのは、研究目的に

応じて分析対象を選定するということを再度強調しておきたい。

試し読みの重要性

われわれが実際にコーディングした範囲ではあるが、どの自叙伝にも必ず学ぶべき教訓

があり、その意味ではまったくハズレの自叙伝はなかった。ただし、持(自)論の表明が明ら

かに他の経営者よりも少ないと感じられる経営者はあった。また、研究目的に従って分析

対象を選んでも、実際に読み進めていくと、研究目的に適さないことが後になって分かる

場合もある。こちらはリーダーシップの持(自)論について関心があるのに、事業観や人生観

についての記述に終始しているような場合である。

たとえば、佐治敬三氏の『へんこつなんこつ』は、自身と経験を共にしてきた人物につ

いての記述が中心になっているため、経営者自身の考えやものの見方についての記述に乏

しく、経営者の持(自)論の抽出という目的には不十分だったかもしれない。また、中内功氏

の『流通革命は終わらない』は、自身が理想とする社会観やモティベーションの持(自)論に

ついては記述が豊富だが、人をついて来させるためのリーダーシップ持(自)論についての記

述は乏しい。他方では、『小倉昌男 経営学』のように持(自)論がかなり明示されている資

料もあるし、デービッド・パッカードの『HPウェイ』は、経験と持(自)論と行動のつなが

りが明示的に記述されているため、持(自)論の形成プロセスと持(自)論と行動化が把握しや

すかった。このように見ると、効果的な分析対象の選定には、経営者の書き方の癖、自叙

伝を通じて経営者が伝えたいメッセージ、経営者が持(自)論を意識している度合いといった

要素にも注意する必要がある。

しかし、このあたりの要素を事前に把握することが難しいのも事実である。そこで、分

析を効果的に進めるために、本格的にコーディングをおこなう前に、試し読みをおこなう

ことを勧める。それによって、思惑が外れるリスクを軽減することができるだろう。

(3)コーディングの指針の策定

分析枠組みの設定

資料を手元に取り、実際にコーディング作業を始めるにあたっては、文章のどのような

点に注目し、それをどのようにコーディングしていくのかを示す具体的な指針が必要であ

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る。その具体的な指針となるのが分析枠組みとコーディングのルール、さらにはコーディ

ング内容を記入するフォーマットである。

もちろん、これらの指針の策定にあたっても、自分たちの研究目的との整合性を考慮す

る必要があることは言うまでもない。ただし、ここではひとつの見本として、われわれが

おこなった手続きを例示する。

まず、われわれはリサーチ・クエスチョンとして、以下の 3 つの課題を設定した。

① 経営者の抱く持(自)論はどのようなものか?

② その持(自)論が形成された背景にはどのような要素があるか?

③ 経営者の抱く持(自)論はどのような行動につながっているか?

そこで、以下の概念図のような分析枠組みを設定した。簡単に言うと、経営者が抱く持(自)

論のみを取り出すのではなく、その背景にある要素と具体的な行動とのつながりに注目す

るということである。

コーディング項目とルールの策定

分析枠組みに続いて、より具体的にコーディングの項目とルールを定めておく必要があ

る。以下では、武田國男氏『落ちこぼれタケダを変える』を用いたコーディング例を適宜

示しつつ、われわれが設定したコーディング項目とルールについて説明していく。

まず、基本的な進め方としては、 初から文章を読み進めていって、該当箇所を見つけ

た順に、Excel のワークシートで作成したコード表に 1 行ずつコーディングしていく。つま

り、コード表には上からページが若い順に並んでいくことになる。読み進めていって、た

とえばある持(自)論の背景にある要素が見つかっても、その持(自)論の横に記入するのは止

めたほうがよい。なぜなら、「背後にある要素→持(自)論→行動」の関係は 1 対 1 であると

は限らず、そのような場合は、コーディング表上の処理が難しくなるためである。したが

って、そのような複雑な対応関係がある場合は、無理に対応関係をつけるのではなく、備

考欄で注記をしておくようにする。

続いて、具体的なコーディング項目について説明していく。

(a) 持(自)論

分析のコアを成すのは、言うまでもなく経営者の抱く持(自)論の抽出である。分析者は、

持(自)論 (リーダーシップ、モ

ティベーション、事業

観、組織観、人生観)

背後にある要素 (性格、持ち味、仕事

経験、時代背景など)

持(自)論の 行動化

(戦略、経営施策の実

施、周囲との接し方)

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文章を読み進めていって、対象経営者が持(自)論を表明しているとおぼしき箇所を拾い上げ

て、その内容を簡潔に示すラベルを付与し、そのラベルのもとになる箇所のページを記し

ておく。

その際、生成されたラベルが経営者が用いた生の言葉であるのか、あるいは分析者によ

って要約的に創作されたものであるのかを区別しておくことは重要である。なぜなら、経

営者が用いた言葉は、その人物の当事者見解により密着したものであると考えられ、分析

者の解釈によって創作されたラベルよりも、その経営者の持(自)論そのものに近いと考えら

れるからである。このような考えに基づき、われわれは経営者の生の言葉から生成された

ラベルには「★」マークを付すことで、それ以外のラベルと区別するようにした。

では、分析者はどのようにして文章から持(自)論を抽出していけばよいのか?そのための

コツのひとつとして、文章の書き出しや語尾に注目することを提案したい。具体的には、

われわれの経験の範囲では、以下のような文章中の以下のような文章形態には持(自)論が含

まれている可能性がある(ただし、ここに示すものはあくまで一例であるので、これ以外

の文言にも注意する必要があるのは言うまでもない)。

・ 「私の信条(信念)は~」

・ 「~だと信じている」「~だと考えている」

・ 「~が使命(自分の役割)だ」

・ 「~でなければならない」「~であるべきだ」

・ 「~が必要だ」「~が重要だ」

・ 「~が私のスタイルだ」「私のスタイルは~」

たとえば、下の文章は上記の特徴を示しており、われわれはこの文章を「自分ができな

いことは任せる」とコーディングする。

私は勘とか直感とかは人より鋭いところがあるが、ちゃんとした仕事はできない。できる人を探し、

その人に任せるのが私のスタイルだ。(101 頁)

さて、コーディングを進めていくと、経営者の持(自)論には様々な形態があることに気づ

く。それらの形態をコーディングの時点で区別して、それぞれに記号を示しておくと、後

でおこなう詳細な分析のときに便利である。具体的には、以下のような分類が考えられる。

・ L:リーダーシップ(人びとを引っ張る、巻き込むことに関わるもの)

・ M:モティベーション(自分の動機づけに関わるもの)

・ B:事業観(「ビジネスはこうあるべきだ」という持(自)論)

・ O:組織観(「組織とはこうあるべきだ」という持(自)論)

・ C:人生観(人生やキャリア全般に関わるもの)

たとえば、以下に挙げる 2 つの文章は、リーダーシップの持(自)論と人生観について示し

ているものであり、上は「範を示す」、下は「自然体でいく」とそれぞれコーディングし、

必要なら「L」や「C」と記号を付与しておくとよいだろう。

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欧米型の実力主義の人事制度も上から始めた。当初、人事担当が一斉に導入しようとするのをやめ

させた。上にいる者が信賞必罰の範を示さなければ改革などできない。第一陣は経営幹部、次いで

管理職、社員はその後だ。「偉い人たちは安全地帯にいて」と思われたら社員はついていかない。

(119 頁)

1975 年(昭和 50 年)暮れ、大阪のホテルで式を挙げた。仲人はサントリーの佐治敬三さん。大阪

財界での父の知合いだが、頼みに行ったのは母だった。「國男はよほどの人じゃないと満足しない

でしょ。佐治さんにお願いしてあげる」というわけ。披露宴ではずっと隣の佐治さんと話していた。

その際いただいたひと言を人生の指針として守り続けている。「自然体でいきなはれ。自然体でな

いとあきまへん」。(76-77 頁)

(b) 持(自)論の背後にある要素

次に、持(自)論の背後にある要素のコーディングである。ここでも持(自)論のコーディン

グと同じように、該当しそうな箇所を拾い上げ、ラベルを付与していく。ただし、たとえ

ば前述の「自然体でいく」という持(自)論のケースのように対象経営者の経験と持(自)論と

のつながりが明示的な場合は簡単だが、明示的でないケースや 後まで読んでみて分かる

ケースなどのほうが多い。そのような事情から、持(自)論とのつながりが明白でない場合で

も、関連がありそうな要素は念のためコーディングしておくという姿勢が肝要である。な

お、ここでも同じようにコード該当箇所のページを記しておく。

また、これについてはコーディングすべき要素が多岐にわたるため、予めいくつかのカ

テゴリーに区分しておくほうが便利である。具体的には、以下のようなカテゴリーを作成

のうえ、コーディングをおこなった。

・ 性格・持ち味:そのひとの個人特性,性格

・ 仕事経験:起業や入社後の仕事経験にまつわるもの

・ その他:幼少~学生時代の経験、家族の影響、プライベートな出会い、読書、結婚など

私生活での経験、社会的・経済的状況など

具体例を示そう。下の文章は、先代の社長と参謀役だった小西氏の間柄について記述さ

れている箇所だが、このようなトップと参謀の以心伝心のコンビネーションを見ていたこ

とが、前述の「自分ができないことは任せる」という持(自)論の背景にあると考えられる。

そこで、この文章を「父と小西さんの絶妙なコンビネーション」とラベルを付与し、コー

ド表の「その他」欄に記入する。

父・長兵衛と小西さんは社長と副社長、会長と社長という具合に長いことコンビを組んできた。そ

れはお互い絶妙のパートナーだった。おうような旦那タイプの父と、実務家タイプの小西さん。以

心伝心の間柄だった。(110-111 頁)

(c) 持(自)論の行動化

ここでは持(自)論と対象経営者の行動とのつながりが確認できる文章を拾い上げ、これま

でと同じように、適宜ラベルを付与し、該当箇所のページも記しておく。具体的には、経

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営者が実施した戦略や経営施策、周囲の人びととの接し方などについて言及されている箇

所に注目するとよいだろう。ただし、前述の持(自)論の背景にある要素と同じように、ここ

でも持(自)論と行動の関係が曖昧な場合が多いので、うまく勘を働かせながら、注意深くコ

ーディングを進めていく必要がある。

たとえば、下の文章は武田國男氏が後任社長を選ぶときのことについて記述されたもの

だが、自身の抱く「公私混同しない」という持(自)論をそのまま実践していることが見て取

れる。

2003 年に 年少の取締役だった長谷川閑史新社長にバトンタッチし、会長に就任した。「何を基準

に選んだのか」との質問には「公私混同のないこと」を一番に挙げた。(131 頁)

(d) 記述内容

この欄には、上記(a)~(c)の項目の記述内容についてのさらに詳細な説明を記入する。こ

こにはラベルの該当箇所の文章をそのまま抜粋してもよいし、自分で要約したものを記入

しても構わない。

(e) 備考

この欄は、分析者がコーディングのプロセスでの気づきや副次的な発見事実などを自由

に記入しておくためのものであり、分析者ごとに様々な使い方があってよい。たとえば、

ある持(自)論とその背後にある要素のつながりが明示的でなく、推測しかできない場合には、

「この持(自)論の背景には○○の経験が背後にありそう」といった仮説的な解釈メモを記して

おくと便利である。あるいは、持(自)論を意識している度合いについて注記を記したりして

もよい。資料全体を読み終わって、全体を俯瞰して気づくことも多いので、そのようなこ

とを書き加えていく。この欄が豊かになればなるほど、対象の経営者について解釈が進展

しているということを意味している。

以上、今回われわれがおこなった手続きの例示を通して、二次資料から持(自)論の抽出を

試みようとする分析者のためのガイドラインを示した。このガイドラインが少しでも参考

になれば幸いである。

6. 実践家が自分の持(自)論を生み出す素材――研究者でなく、実践家自身の読み方

本論文の付録に収められたいくつかのコーディングの実例が示すとおり、経営者の自伝

や伝記が、リーダーシップの持(自)論を生み出す母体として、カラフルな素材に満ちている。

カラフルというのは、研究者のリーダーシップ理論は、 も高いレベルの抽象度では、課

題と人間、構造づくりと配慮、P(パフォーマンス)と M(メンテナンス)のような基軸に収

斂するが(金井『リーダーシップ入門』日経文庫、2005 年、第 V 章)、実際に経営者が語る

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言葉から持(自)論を引き出すと、現実はもっと色彩豊かであることがわかる。まず、課題軸

でも、たくさんの言葉がみつかるし、それに負けず、人間軸でも、いろんな表現に出会う。

PM 理論では、P と M が基軸にあり、調査対象ごとに異なる因子が出てきてもそれは表現型

(phenotypes)にすぎないと議論されてきた。また、わたし自身も、そのような捉え方のな

かに、リーダーシップの一般論を求める熱い熱意を当時の三隅二不二教授から感じとらせ

ていただいた。

しかし、時代が再び、新たなリーダーシップ論の展開を求めるときに、リーダーシップ

を身につけていくのに役立つ経験に関する研究が生まれ始めた地味な調査の流れ(モーガ

ン・マッコール)のに合流するような動きもこの国でも始まっている。その際に、経験の

教訓から社長や経営幹部、さらにはミドル・マネジャーが引き出す本人の語る言葉から成

る実践的持(自)論を収拾する試みにおいては、ほかならぬそのひとの表現型自体に、そのひ

との持ち味が体現されている。カラフルであると言った一つの理由は、基本軸をもっとバ

ラエティをもって語るさまざまな実践的下位次元がもっと豊かに存在するという意味だが、

もうひとつの意味合いは、ひとりひとりの経営者の自叙伝、伝記から読み取れる言葉その

ものが、色調が豊かだという点にある。たとえば、同じ P のなかに、圧力・緊張系の P も

あれば、計画・希望・目標系の P もある(cf., 金井『働くみんなのモティベーション論』

NTT 出版、2006 年、第2章)。P のなかにもこの二系統が下位時限として存在しそうだと三

隅教授もしばしば強調されていた。同じ P のなかに下位次元を描こうとすれば、さらにど

ういう機微があるかは、持(自)論アプローチからは、もっと自然体で経営者の生の言葉によ

ってカラフルに記述されていくだろう。圧力と計画以外の P があるはずだし、また、同じ

中身の下位次元を照射していると思われる場合にも、まさにそれに付けた言語的ラベルが

ひとの個性を反映している点が実に興味深い(付録のわれわれのコーディングにおいても、

持(自)論の項目のラベルが、経営者自身の言葉なのかどうかを明記したのは、この点を意識

してのことである)。

実践家の皆さんが、トップであれ、ミドルであれ、現場の指揮官であれば、自分の言葉

で持(自)論を持とうとするなら、一方で学者の理論も素材を提供するだろうが、他方で、そ

れをどう表現するかという点では、経営者の生の声が大いに参考になるはずだ。

本論文では、公表資料のコーディング例を示すことによって、豊かな素材が存在するこ

とをデモンストレートさせてもらったが、この試みと並行して、経営者自身にインタビュ

ーをするなかで、経営課題と合わせて、経営幹部になるまでに印象に残っている「一皮むけ

た経験」を聞き出し、ひとつひとつの経験からの教訓の語ってもらい、さらに、その教訓が

リーダーシップに対して持っている意味合いを問うことから、その経営者のリーダーシッ

プ持(自)論を聞き出す試みを重ねつつある(それらの試みの一部は、現代経営学研究所の『ビ

ジネス インサイト』や神鋼ヒューマン・クリエイトの『CREO』に掲載されている金井が

実施したインタビューに実例をみることができるだろう)。あわせて、トップは可視性が高

いし、自伝や伝記、インタビューなどを見つけやすいが、ミドル・レベル以下になると、

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リーダーシップの持(自)論を含むような文書に出会うことは稀になる。この分野でも、神戸

大学大学院経営学研究科では、社会人大学院(MBA)の組織行動の科目や、企業のミドル

に対する研修のなかで持(自)論を実際に書いてもらったり、改訂してもらったり、その結果

を共有して議論する機会を設けてドキュメンテーションを進める手立てを模索中である。

これらの試みが出揃えば、MBA などの場で、持(自)論アプローチで教育をおこなうこと

が、いっそう実りあるものになっていくであろう。

さて、われわれ研究者の立場でも、持(自)論アプローチで実践に役立つ研究、理論づくり

というよりは、実践家の持(自)論の発見、救出をめざすなら、ただフォーマルな理論を構築

するのでなく、持(自)論をうまく引き出す方法の確立が、ひとつの重要な研究課題になって

いく。そのためには、質的データの分析手法の洗練が望まれる。

しかし、これを読まれた実践家が実際に、自ら自分が敬意を払う経営者の自伝や伝記を

読んで、自分なりの持(自)論を書き始める参考にする場合には、コーディングのためのカテ

ゴリーの生成、カテゴリーのネーミング、コーディングの信頼性などに煩わされる必要は

全くない。自分の行動と観察からもぴんとくるリーダーシップ行動の発揮された具体の場

面や、それを含む経験や脈絡、それを形容する言葉で自分にぴんときたものを、拾い上げ

ていけばいい。自分にあうという意味で、まずはパーソナルな持(自)論を持つのがよい出発

点となる。だから、他者がコーディングしたときと違う項目が自分の持(自)論づくりのため

にあがってきたとしてもかまわない。一言でいえば、自分に役立ちそうな限り、自分が気

になる言葉、共感できるところから浮かび上がる表現に注目すればいい。 後に、このこ

とを強調しておきたい。気楽に自分のリーダーシップに対する考えを研ぎ澄ますため、そ

のためには言語化がいるから、いい言葉のサンプルを、それらの書籍から抜き出すのがい

い。ただし、その言葉で出てきた、場面、脈絡などはその言葉といっしょにメモしていた

ほうがいいだろう(そういうときに、この付録のフォーマットが少しは、研究者だけでな

く、実務家にはお役に立てば幸いだ)。

書籍から経営者のリーダーシップの持(自)論を、信頼性にも妥当性にも自信たっぷりに引

き出せるところまで、われわれ研究者の側は来ていない。しかし、紙と鉛筆をもって、自

伝、伝記にアプローチすれば、そこに実践的持(自)論を探す宝庫があることは解明された。

どうか、実践家の皆さんは、さっそく自分が大事だと思う経営者や、ビジネス以外の世界、

スポーツや音楽などの世界、歴史や政治の世界も含め、自分に参考になりそうだと思われ

るひとのメモワールドを、リーダーシップの持(自)論を自分なりに引っ張り出すつもりで読

んでみてほしい。

7. むすびと今後の展望

すでに、同種のコーディングがおこなわれることへの希望を第 5 節で述べさせてもらっ

たが、結びでは、再度、実践家の持(自)論と研究者の公式理論を対比して、両者がけっして

別々のものでなく、架橋されることが大事であることを述べて、むすびに変えたい。

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スターンバーグは、心理学のような領域では、学者の公式理論でさえ、その学者の実践

持(自)論から出てきていることが多いこと、また、実践家(行為者、素人)の持(自)論や素

朴理論は、しばしば学者の理論を発展させる起爆剤になることを、実践的知能や創造性、

叡智の研究を通じて示してきた。

表 2.研究家が構築するセオリーと実践家が抱くセオリー

セオリー#1 実践家が抱くセオリー セオリー#2 研究家が構築するセオリー

しばしば、自分独自の持(自)論とも呼ばれる しばしば、普遍的な理論とも公式理論とも呼

ばれる

意識されていることもあるし、意識下のこと

もある→だから、内省、対話、議論がいる

明示的かつ厳密に鍵概念が定義され、測定尺

度まで伴っていることが多い(尺度でなくて

も、投影法などにある)

自分と世界を説明する広義のセルフ・セオリ

理論的にも K.レビン以来、B=f(P, E)

ということで、行動は、ひととそのひとがい

る環境から決まるという立場に立つ理論が

多い

自分が実際に使用しているという意味でホ

ンネの理論(theory-in-use)

実務家が、セオリー#2を読書や研修で学ん

で、自分は「自己実現をめざしています」と

いうときには、ホンネの理論というより、タ

テマエの理論(espoused theory)のこともあ

りえる

内省もできる実践家なら自覚していること

もあるが、内省だけでなく、議論や対話から

見出すのがいい

しかし、タテマエにならず、自分の経験に合

致する理論がみつかれば持(自)論の形成にも

役立つ

もし、それを聞き出すのを学者が助ければ、

それは発掘(発見)された理論とも呼ばれる

学者だから、公式の理論を構築するだけでな

く、すぐれた実践家の持(自)論を発掘し救い

出すのも学者の仕事の一部

少し、学者の言葉に汚染されることになるが

持(自)論を編み上げる原料のひとつとしてセ

オリー#2のキーワードを参照するのはい

い。しかし、 後は、できれば大和言葉、自

分の言葉で語ろう、自分の持(自)論!

学問的にもすぐれたセオリーを構築するう

えで、モティベーションに卓越した個人、あ

るいは、ひとのモティベーションを高めるの

がうまいひとの持(自)論を探求するのは、学

問そのものの進歩にも役立つ

今後は、両者を対比するばかりでなく、この両者を架橋する試みとして、持(自)論アプロ

ーチ、BJL、アクション・リサーチなどを、リーダーシップ開発論の発達のために進展させ

ていきたい。

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また、モティベーションやキャリアといった、組織行動論の他の有力テーマにも広げて

いき、組織行動論を学ぶことは、組織行動論の諸公式理論をなぞることでなく、各領域に

ついて持(自)論を抱くようになり、自分の行動そのものが、principle-centered organizational

behavior になることだという考えを、研究面、教育面、実践面で深めていきたい。

[2007.2.22 803]

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付録 持(自)論のコーディング例 まず、 初に記しておくが、今回、公表資料から、リーダーシップ持(自)論の抽出をおこ

なった文献はつぎのとおりである。

自伝文献リスト

稲盛和夫

稲盛和夫(2004),『稲盛和夫のガキの自叙伝』日本経済新聞社。 井深大

井深大・井深亮(2003),『「ソニー」創造への旅:ものづくり,人づくり』グラフ社。 小倉昌男

小倉昌男(1999),『小倉昌男 経営学』日経 BP 社。

小倉昌男(2003),『経営はロマンだ!』日本経済新聞社。 佐治敬三

佐治敬三(2000),『へんこつなんこつ』日本経済新聞社。 椎名武雄

椎名武雄(2001),『外資と生きる:IBMとの半世紀』日本経済新聞社。 武田國男

武田國男(2005),『落ちこぼれタケダを変える』日本経済新聞社。 中内功

中内功(2000),『流通革命は終わらない』日本経済新聞社。 本田宗一郎

本田宗一郎(2001),『本田宗一郎 夢を力に』日本経済新聞社。

本田宗一郎・田川五郎(1984),『本田宗一郎 おもしろいからやる:「私の世界」シリーズ』

読売新聞社。

西田通弘(1983),『語り継ぐ経営:ホンダとともに三十年』講談社。 松下幸之助

松下幸之助(2001),『松下幸之助 夢を育てる』日本経済新聞社。 パッカード

Packard, D. ( 1995 ),The HP Way, ( 伊豆原弓訳『HP ウエイ:シリコンバレーの夜明け』日経

BP 出版センター,1995 )。

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付録目次(五十音順) 稲盛和夫 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39-45 井深大 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46-53 小倉昌男 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54-59 佐治敬三 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 60-61 椎名武雄 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 62-66 武田國男 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67-69

中内功 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70-72 本田宗一郎・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73-79

松下幸之助・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 80-82

D. パッカード・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 83-89

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性格・持ち味(頁)仕事経験

(頁)その他(頁)

運不運ではなく、心の持ちよう(4)★C

人生の明暗を分かつものは、運不運ではなく、心の持ちようだ。 谷口雅春『生命の実相』を読んだことから。

節々で多くの人に支えられる(14-15)

節々で多くの人に支えられる

世のため人のためになる会社を目指そう(14-15)★B

大恩のある方の期待にこたえるには会社を立派にするしかない。世のため人のためになる会社を目指そう。

節々で多くの人に支えられていると感じたことから。

人生は心に描いた通りになる(15)★M

才能に乏しくても熱意があれば人に伍していけるはずだ。しかし、それ以上に大切なものがある。心の様相だ。心が呼ばないものが自分に近づいてくることはない。人生は心に描いた通りになる。ひたすらそう考えてきた

谷口雅春『生命の実相』を読んだことから。

高校時代の国語の先生の授業に感銘を受ける(15-16)

高校時代の国語の先生の授業に感銘を受ける

敬天愛人(16)★C 私の部屋には西郷隆盛の『敬天愛人』の額が掛かっている。この南洲翁の遺訓を社是とし、心を高める経営、私心なき経営を実践してきたつもりだ。

高校時代の国語の先生の授業に感銘を受けたことから。

敬天愛人を社是とする(16)

敬天愛人を社是とする 高校時代の国語の先生の授業に感銘を受けたことから。京セラの社是“常に公明正大謙虚な心で仕事にあたり 天を敬い 人を愛し 仕事を愛し 会社を愛し 国を愛する心”

父親譲りのところがある(22)

私も企業経営において何事にも慎重なところがあり、無借金経営を信条としてきた。このあたりは父の血をしっかり引いているようだ。

無借金経営(22)★B 私も企業経営において何事にも慎重なところがあり、無借金経営を信条としてきた。

父親譲りと感じている。

母親譲りのところがある(22)

どんな逆境に置かれてもくじけることなく、つねに明るさを忘れないでいられる性格は母譲りである。

郷土の気風を意識する(25)

薩摩は尚武の気風を尊ぶ。西田小学校のモットーも「強く正しく美しく」。

郷中教育で鍛えられる(25-26)

弱虫がまともに育ったのは鹿児島独特の郷中教育で鍛えられた面がある。

ガキ大将に目覚める(26)

いつしか上に立ってこそ男と思うようになってきた。人を支配するのは快感がある。グループをどう掌握していくかが 大の関心事だった。

同級生の家の柿を取る(26-28)

同級生の家の柿を取る

言葉は発する人の人格による(28)★C

人がいった言葉をそのまま信用してはならない。ある人がイエスといってもそれはイエスではないかもしれない。言葉そのものに独立して意味があるのではなく、発する人の人格によるのだ

同級生の家の柿を取ったことから。

一中に不合格になる(30)

悪い予感は的中した。やむなく尋常高等小学校に入った。ほかの中学は考えてもいなかった。それにしても、この惨めさはなかった。ついこの前まで子分だった連中や、気にくわないぼんぼんたちが一中の征服姿でさっそうと歩いている。

備考持論の背後にありそうな要素持論(頁)

(生の言葉には★)

持論の行動化(頁)

記述内容

39 稲盛和夫

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性格・持ち味(頁)仕事経験

(頁)その他(頁)

備考持論の背後にありそうな要素持論(頁)

(生の言葉には★)

持論の行動化(頁)

記述内容

結核に罹患した時に谷口雅春『生命の実相』と出会う(32-33)

「生長の家」の主催者、谷口雅春の『生命の実相』である。ページをめくっているうち、こんなくだりに出会った。

文武両道(37)★C 体が復調して元気になると勉強にも身を入れるようになった。もう惨めな目にはあいたくないし、文武両道を極めようと思い立った。

一中に不合格になったことから。

斉藤先生の話を聞く(38-40)

聞きようによっては過激だが、普段は紳士である先生が、信念をもって話された言葉の数々は、今も心に刻まれている。

いい加減が許せない(45)

努力をすれば報われる、やればできるんだという自信もついてきた。自信がつくにつれ、今度はいい加減ということが自分で許せなくなった。

完璧主義(46)★ いつごろからかはわからないのだが、完璧主義が芽生えており、徹底的に自分を鍛えるようになった。「俺は頭が悪いんだから、人の二倍は努力する。人が二倍勉強したところは五倍勉強する」。これが口癖だった

先輩の実験器具の徹底した洗浄を見る(60-61)

自分で試行錯誤を繰り返し、苦労して初めてわかることも多い。経験則と理論がかみ合ってこそ、すばらしい技術開発やものづくりができる。

現場経験を大切にする(61)★O

先輩の後ろ姿は、現場での経験の大切さを私に教えてくれた。 先輩の実験器具の徹底した洗浄を見たことから。

フィロソフィを大切にする(65-66)C

吉田さんに「稲盛さん、若いのにあなたにはフィロソフィがある」といわれた。吉田さんと別れた後、私は何度も「フィロソフィ」「フィロソフィ」と声に出していた。

目標が大きければ大きいほどいい(76)★M

熱に浮かされたように私は気宇壮大な夢をぶち上げた。やる以上は、目標が大きければ大きいほどいい。

谷口雅春『生命の実相』を読んだことから。

その瞬間瞬間を全力で生きることが大切(78)★C

「その瞬間瞬間を全力で生きることが大切なんだ」と社員を鼓舞した。

将来にわたって従業員やその家族の生活を守り、みんなの幸せを目指していくことでなければならない(81-82)★L

もし、自分の技術者としてのロマンを追うためだけに経営を進めれば、たとえ成功しても従業員を犠牲にして花を咲かせることになる。だが、会社には、もっと大切な目的があるはずだ。会社経営の もベーシックな目的は、将来にわたって従業員やその家族の生活を守り、みんなの幸せを目指していくことでなければならない。

京セラの経営理念。

人類、社会の進歩発展に貢献する(81-82)★B

自分の人生は従業員の面倒をみるだけで終わってよいのだろうか。自分の一生をかけて、社会の一員として果たすべき崇高な使命があるはずだ。そこで生涯をかけて追い求める理念として、後に「人類、社会の進歩発展に貢献すること」と付け加えた。

経営理念の大切さ(82)O

経営理念は、全社員が共感し、心から納得できる普遍的な価値観に根ざしていなければ意味がない。この経営理念を確立したことは、会社経営の確固たる基盤となり、後の私の人生観のなかで大きな位置を占めることになる。

40 稲盛和夫

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性格・持ち味(頁)仕事経験

(頁)その他(頁)

備考持論の背後にありそうな要素持論(頁)

(生の言葉には★)

持論の行動化(頁)

記述内容

三菱電機より磁器円筒を受注する(86-88)

三菱電機より磁器円筒を受注する。

負けず嫌い(86) 生来の負けず嫌いだ。ここはやるしかないと居直った。 三菱電機より磁器円筒を受注した時。

ネバーギブアップの精神を植えつける(88)★L

この時の私の執念は、全社員に「ネバーギブアップ」の精神を植え付けた。私にはその収穫の方がうれしかった。

三菱電機より磁器円筒を受注した時。

限界まで努力する(93)C

結果は不調に終わったとしても、あまりのひたむきさに神様が哀れに思い、かわいそうだから注文をあげよう、と思われるぐらい努力するしかないのだ。

会社の設立にあたり8人で血判をする(74)

私は「同志」とか、「仲間」という言葉をよく使う。これは、一般の企業の設立経緯とは違って、私を中心に八人の同志が集まり、支援してくださる方々が株主となって会社をスタートさせたからだ。

経営者と従業員は、パートナーシップという横の横の関係である★(96)L

お互いの心の結びつきがベースにあった。社内の人間関係は経営者と従業員という縦の関係ではなく、一つの目標に向かって行動をともにし、自らの夢を実現していく「同志」の関係、つまり、「パートナーシップ」という横の関係に基づいている。

8人の同志によって会社を始めたことから。

全員が経営者になる★(97)O

そういう意味で私は個人の能力を 大限発揮させ、みんなが生きがいを持って働けるようにするには、どうしたらいいか考えた。思案の末、創業時に戻ればいいと思い当たった。全員が経営者になるのだ。(97)

独立採算組織アメーバを作る(97)

独立採算組織アメーバを作る 全員が経営者になるという考えから。

会社は全従業員のためのもの(97)O

会社が普遍的な経営哲学を持つことが前提となる。京セラの経営理念では、会社は一部の人のためでない、パートナーである全従業員のためのものだ。

「思いやりの心、利他の心」を持つ(97-98)★C

私は「思いやりの心、利他の心」を持つことが重要であると社員に説いている。

名誉と誇りの大切さ(98)M

すばらしい業績を上げたアメーバに対して与えられるのは、名誉と誇りである。みんなのために貢献したという満足感と、信じ合える仲間から寄せられる感謝や称賛こそ、人間が得られる 高の報酬である。

コミュニケーションを大事にする(99-100)O

いかにも日本的といわれようが、ひざをつき合わせての談論風に勝るコミュニケーションはない。

「コンパ」を開く(98-100)

私は社員の心を一つにしようと「コンパ」を頻繁に開いた。・・・コンパは心と心が結ばれる格好の場であり、教育の場でもある。

コミュニケーションを大事にするという考えから。

決めたことは必ず守る(104)C

前の晩にどれだけ遅くても、朝礼には必ず出ることが大切なのだ。

人間の能力は無限である(106)★C

「人間、能力は無限だ」と。そして、なんとしてもやり遂げるという強烈な願望を持ち続けることの大切さを。

「京セラサブストレート神話」

人のマネジメントの大切さ(111)B

人のマネジメントがうまくいかないと操業も安定しない。

41 稲盛和夫

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性格・持ち味(頁)仕事経験

(頁)その他(頁)

備考持論の背後にありそうな要素持論(頁)

(生の言葉には★)

持論の行動化(頁)

記述内容

従業員の先頭に立って働く(112)★L

従業員の先頭に立って働くという京セラ流のやり方を、アメリカでも愚直に実践しただけだ。(112)

現場を重視する(113)O

私はサンディエゴ工場に行くとすぐ作業着姿で現場に出る。

人間流(113)★C 心のこもった料理を皿に取りながら、アメリカ流も日本流もない、人間流でいけばいいのだ、と思った。

個人の利益よりも企業の利益を重視する(121)B

会社を豊かにしておかなければ、不確実な社会情勢のなかで企業は生き残れない。パートナーである従業員のためにも、余裕資金を蓄えておく必要がある。個人の利益より、企業の利益にウエートを置くのが、経営者として当然の責務であると考えたからだ。

上場の際、全株式を新株で発行した(120)

しかし私は、会社が全株式を新株で発行する方法を選んだ。創業者利益を得る方法ではなく、会社の自己資本の充実を選んだのである。

個人の利益より、企業の利益を重視したことから。

株主にも責任を負う(122)★B

これからは社員と家族にほかに株主にも責任を負うことになる。

公明正大で、ガラス張りの経理をする(123)★B

公明正大で、ガラス張りの経理は、私の創業以来の経営哲学だ。

全員参加(125-127)★O

全員参加が我が社の信条だ。

社員全員で香港旅行に行く(125-127)

社員全員で香港旅行に行く。 全員参加という信条から。

会社は運命共同体(128)★O

我が社は「従業員の物心両面にわたる幸福の追求」を経営理念に掲げ、創業以来、常に全社一体となって苦楽を共にしてきた歴史がある。運命共同体である以上、雇用は死守すると宣言した。

オイルショックでも雇用を維持する(128-130)

オイルショックでも雇用を維持する。 会社は運命共同体であるという考えから。

得意技を使う(134)★B

せめて自分の得意技を使おうと考えた。これまで培ってきたセラミック技術や結晶技術を使って異業種・異分野へ進出すれば、多角化によるリスクを減らすことができるはずだ、と思った。

技術だけでなく、市場を作り上げたい(139)B

再結晶宝石をつくるということ自体、画期的なことだ。しかし、私は再結晶宝石をつくるというだけでなく、過去に誰もなしえなかった再結晶宝石という新市場をつくりあげたいと思ったのである。

原理原則を貫く(139)★C

常識にはとらわれず、「原理原則」を貫くのが私の哲学だ。すぐに理解してくれなくても、 高品質の宝石をリーズナブルな価格で提供するなら、いつかはお客様はわかってくださる。

共存共栄(145)★B 「セラチップ会」という名の特約店を組織して、共存共栄を目指した販売活動を推進した。

正直(150)★C 「あるがままに正直に対応しなさい」と伝えた。

42 稲盛和夫

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性格・持ち味(頁)仕事経験

(頁)その他(頁)

備考持論の背後にありそうな要素持論(頁)

(生の言葉には★)

持論の行動化(頁)

記述内容

試練は真摯に受け止める(151)★C

「災難に遭うのは過去につくった業が消える時です。業が消えるのですから喜ぶべきです。どんな業があったか知らんが、その程度のことで業が消えるならお祝いせんといかんですな」。このことは私が立ち直っていく上で、 高の教えとなった。

志があれば少々の困難で諦めない(154)C

私には、新しい代替エネルギーとして太陽エネルギーを実用化するという志があって始めたことなので、少々の困難で諦めるつもりはない。

環境問題に対する配慮(156-157)B

地球温暖化は人類にとっての緊急課題であり、これ以上、狭い地球で化石燃料を燃やし、二酸化炭素の排出を増やし続けていくわけにはいかない。

ソーラーエネルギー事業を拡大する(155-157)

今後、資源・エネルギーの枯渇が予測される二十一世紀、この事業の社会的な意義はますます重要になる。

環境問題に対する配慮から。

会社の財産は社員全員の財産である(162)L

私の主張が反映された契約内容は、売上総額五十一億円、うち、十四億円がノウハウ料であった。私は「これこそ我々の汗と涙の結晶なんだ。これを認めてくれなかったら従業員に申し訳が立たない」といい切った。

社員は同志である(165)★O

こうした思いやりが相手の心を打ったのか、現地社員はいつしか同じ目標を目指す同志となった。

利他(169)★B サイバネット工業を支援し、社員を救うことは、利他の行為であるという一念で耐え抜いた。

サイバネット工業を合併する(167-170)

サイバネット工業を支援 利他という考えから。

情けは人のためならず(170)★L

昔から「情けは人のためならず」というが、二十年もたった今、そのことを実感している。

退路を断つ(172)C 本当に助けるならば、のるかそるか、もう後には引けない状態にこちらを追い込むべきだ。支援する以上はすべて面倒をみるというのが、一番人間らしいやり方だと思う。

雇用を守る(173)B いかに苦しい時でも、人員整理はいっさい行わなかった。

飛び石を守る(173)★B

リスクが高い手だが、この飛び石を必死で守り抜けば、やがてこちらの陣地とつないで、生き残ることができる。そう思い、苦労に苦労を重ね、どうにか軌道に乗せてきた。

縁を大切にする(173-174)★C

救済を頼まれ、相手の社員を救ってあげたいという純粋な思いから、巡ってきた縁を大切にしただけだ。

相手企業の社員を救うことは善きこと(174)★B

相手企業の社員を救うことは善きことだと信じて、 後までやり通してきた。

財産は社会から預かったもの(175)C

私は、財産を自分のものではなく、社会から預かったものだと考えるようになった。

稲盛財団を発足し、京都賞を創設する(175-182)

稲盛財団を発足し、京都賞を創設する 財産は社会から預かったものであるという考えから。

43 稲盛和夫

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性格・持ち味(頁)仕事経験

(頁)その他(頁)

備考持論の背後にありそうな要素持論(頁)

(生の言葉には★)

持論の行動化(頁)

記述内容

世のため人のために尽くす(175)M

「世のため人のために尽くす」という私の人生観

科学技術と精神面のバランスが大切である(178)★C

科学技術と精神面の両者がバランスよく発展してこそ人類の未来がある、というのが私の考えだ。ものごとには陰と陽、明と暗、プラスとマイナスと必ず二面の世界がある。この両面がバランスよく解明され、発展してこそ全体としての安定がもたらされるはずだ。

国民大衆のため(187)★B

我々は国民大衆のため、日本の通信料金を引き下げなければなりません。

人の通らない道を切り開く(189)C

私は創業以来ずっと人の通らない道を切り開いてきた。

営業地区を譲歩する(197-198)

このまま角突き合わせていたら、迷惑を被るのは国民だ。私が引けば万事おさまると首都圏と中部圏を譲って決着した。

国民大衆のためという考えから。

買収や合併とは企業同士の結婚のようなもの(201)★B

買収や合併とは企業同士の結婚のようなもので、お互いが信頼し、友好的でなければうまくいかないと思っていたので、そのことに十分、意を用いて交渉を進めていた。

市場が判断する(204)B

バトラー氏の立場も理解できるし、市場で堂々とまみえればいい。

目先の利益に囚われない(204)B

有利な条件を放棄し、一見損するような決断をした結果、京セラとAVX社との間には目に見えない信頼関係が築かれた。「情けは人のためならず」という言葉のとおり、これが十五年後に合併の話が持ち上がった時、友好的な雰囲気でまとまる素地となっていたのである。

相手のことを思いやる★C

合併はまったく文化の違う企業がいっしょになることであり、 大限、相手のことを思いやるべきだと考えたのである。

公正、公平、誠意、正義、勇気、愛情、謙虚な心を大切にする(208)★C

「人間として何が正しいかで判断する」「公正、公平、誠意、正義、勇気、愛情、謙虚な心を大切にする」というような私が経営のよりどころとした経営哲学を社員用に小冊子にまとめたものだった。

自由と民主主義(209)C

日本は自由と民主主義を基本原理として国際社会のなかで信頼され尊敬される存在でなかればならないというのが私の意見だ。

反省することに進歩がある(211)★C

人間は間違いを包み隠さずに明らかにし、反省するところに進歩がある。

譲歩すべきは譲歩する(213)★C

私は相手を思いやることを忘れずに、譲歩すべきは譲歩する寛容さを身につけるべきだと主張した。

社会に対する奉仕(215)C

私は社会に奉仕することは人間にとって も大事なことだと考えている。

世のために尽くす(216)★C

「世のために尽くすことは私の生き方だ」

リーダーは優れた考え方を持つ(217)★L

なぜ成功しているのか、それはリーダーが優れた考え方を持っているからだ。

投資や企業努力に対する配慮(220)C

新製品の開発には大変な投資と企業努力があったに違いない。それを無にするものであって、私は社会正義に照らしても問題だと考えた。

44 稲盛和夫

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性格・持ち味(頁)仕事経験

(頁)その他(頁)

備考持論の背後にありそうな要素持論(頁)

(生の言葉には★)

持論の行動化(頁)

記述内容

民意の大切さ(220)C 国民が納得した立法がなされるべきだということだ。今回の増税は高級官僚の発案で提案されたもので、民意に基づいていない。

世のため人のために貢献する(223)★C

それは、世のため人のために貢献しようという純粋な私の経営哲学に端を発したものである。

歳末助け合い募金を行う(223)

歳末助け合い募金を行う 世のため人のために貢献するという考えから。

「京セラ経営学講座」を開設する(232)

企業が学問の世界、教育の場において支援することは、企業の重要な社会貢献の一つであると考え、基金を拠出することにした。

社会貢献という考えから。

利を求むるに道あり利を散ずるに道あり(232)★B

企業経営には、利益を追求するにあたって、人間として守るべき道がある。企業である限り、利益は必要だが、人を騙したり、おとしめたりする不正な方法では、企業が長年にわたって繁栄することはできない。私は企業がとるべき公明正大な態度を、「利を求むるに道あり」と称している。また同様に、利益を使う場合にも、私利私欲のためでなく、世のため人のためにお金を使う、人間としての正しい道が存在する。すなわち、「利を散ずるに道あり」である。

トップの器が大きくなれば、会社も発展する(235)★L

企業経営はトップが持つ哲学、理念によって大きく左右されると考えている。若手経営者にはトップとして持つべき「経営哲学」こそ伝えたい。トップの器が大きくなれば、会社も自然と発展すると確信している。

経営者の心が変わるならば、経営は必ず順調にいく(237)★L

その際の趣意書いう。「経営の要諦は、トップの持つ心にある。経営の真髄を感得して、経営者の心が変わるならば、経営は必ず順調にいく。

努力を続ければ成功できる(244)★C

日本でも、既得権益を持った人たちだけでなく、新しいチャレンジャーも純粋な気持ちで一生懸命努力を続ければ成功できる。

世のため人のために貢献する(245)★C

これは決して先進国の人たちにも役立つ事業と思い、ゴーサインを出した。(245)

国民の利益を追求する(248)B

「小異を捨てて大同につく」以外にない。だから、一企業の利害を乗り越えて、大儀についていただけないだろうか」。

人間として何が正しいかを追求する(252)★C

「人間として何が正しいかを追求する」という経営哲学を、全従業員と共有しながら、一丸となって一生懸命に努力をしてきた結果と思っている。

因果応報(262)★C 今までの自分を振り返ると、個人であろうと、会社や国家であろうと、それぞれ運命というものを持っていると思う。個人の運命だけでなく、自分が関係する会社や国など、幾多の運命の波が重なり合い、自分の運命も決まってくる。だが、その運命というのは、決して固定されたものではない。その人の思いや行動にによって、人生は常に変化していく。仏教では因果応報の法則と呼んでいるが、善きことを思い、行うならば、それが原因となって、物事は良い方向へ進んでいくものだ。

45 稲盛和夫

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)

照れ屋(12)根が照れ屋なせいか,また,明治の生まれで喜怒哀楽を表に出すのは男らしくないという風潮の中で育ったせいか,どうも心の内奥を語るのが苦手

喜怒哀楽を表に出すのは男らしくないといっているが,結構,涙もろい感じがする。

科学は人間的(14)★C

科学とは人間の日常生活とかけ離れたものではなく,最も人間的なものである

誕生した時代背景(26)

誕生前年には足尾銅山争議が起こり,庶民の生活はたいへん逼迫していた時代だった。

父,井深甫(26-31)

父は古河鉱業日光製銅所の技師だった。私が3歳の時に病気がもとで亡くなってしまった。だから,私は肌のぬくもりや生身の父を知らない。父親は創造性豊かで,趣味の広い多少皮肉屋だったが,温かい心の持ち主であった。

初めての記憶(32-34)

人には,この世に生まれてきて最初の記憶というものがある。私の覚えている最初の記憶は,乃木希典将軍が自刀された時に「号外」が町にまかれ,周囲が異様な興奮の渦に包まれていたということと,初めて家に電気がついた日のことだ。一番初めの記憶が電気がついた日のことだというと,みんな「いかにも井深さんらしい」といって喜ぶ

電気への想い(33-34)

電気が引けた後,私は毎晩のように祖父母や母が雑談する居間に行っては,下から煌々と光輝く電球を見上げ,「なんて明るいんだろう。どうやって電気はできるのだろうか・・・」と,思いにふけったものだ。

好奇心旺盛(41-42)

目に映るものに対しては,人一倍,好奇心が旺盛だった。

思い出のおもちゃ,メカノとの出会い(43)

私は,坂田さんという父の日光時代の部下であり親友でもある方の自宅で,メカノという鉄製の組み立ておもちゃにかじりつき,鉄の板切れに穴のあいたものとボルトとナットを相手に奮闘し,ケーブルカーとか風車をこしらえた。鉄の板切れに穴があいたものと,ボルトにナット,こんな単純な素材でいろいろなものが作れる,私には新鮮な驚きであった。そして,このものを組み立てるという面白さを知ったことは,後々の私にいろいろな影響を及ぼした。

母,さわ(43-44)母は,いい意味での教育ママであった。私が小学校1年生の頃,日曜ともなると,私を上野の博物館に連れて行ってくれた。私の科学に対する目を育てようとしくれたのだろう。

コツコツタイプ(51-52)

性格的なものだと思うが,私は派手に行動したり,積極的にリーダーシップをとるよりも,好きなことをコツコツと探究することが好きだったので,自然と周囲からはそれほど目立たない存在となっていたのであろう。

得意科目は理科(53)

どの科目も一応こなし,苦手とする科目はなかったように思うが,そのなかでも特に勉強に力が入ったのは理科であった。

理科室が私のいるべき場所であり,心安らぐ世界であったというくらい,理科室が好きだったという。

備考持論(頁)(生の言葉

には★)

持論の背後にありそうな要素持論の行動化(頁) 記述内容

46 井深大

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の背後にありそうな要素持論の行動化(頁) 記述内容

祖父母(59-60)

母が再婚するということで,祖父母のところに預けられた。祖父母は母の代わりにはなれなかったが,今でも私の多感な時期を育ててくれた身内として感謝している。加えて,特に祖父からは,「自尊心」「独立精神に富んだ気性」を植え付けられ,思春期の精神形成に多大なる影響を受けたと思う。

作家になりたかった(61)

私は,一時,作家になろうと思った。そういうと,「科学畑の井深さんが?」とみんな意外な顔をするが,私としては意外でもなんでもない。母が再婚先の神戸に行き,一人残された私を慰めるものは機械いじりと,祖父母の書棚からそっと取り出してきた本を読むぐらいしかなかったからだ。

友達が少なく,読書が好きだったから。

組み立て玩具(63)

簡単な金属や木片を使って,子供でも作成できるようなモーターの原理,構造を有したものであり,電気を通じさせるとガタガタと回転を始める。このときの完成した喜びは,一生忘れられるものではなく,新しく物を作る道を歩ませる原動力となった。

時計への興味(64)

機械類を分解しては組み立て直すことが好きであった私のことだ。時計というものに非常に興味をおぼえ,よく祖父の目を盗んでは時計を分解してみた。分解すること自体は意外と易しいが,元通りに修復することは難しい。難しいが,本人は楽しくてしょうがないわけだから,時が経つのを忘れて取り組んだ。

これがきっかけで無線の研究にのめり込むようになる。

無線が好きになる(64)

無線が好きになったといのが,エレクトロニクス屋になった一番の大きな要因であろう。

名門,神戸一中に入学(69-)

神戸一中のモットーは,「質素剛健 自重自治」。1,2年時にはテニスに凝り,コートが暗闇に包まれるまでボールを追い回した。3年から4年に進級するときに1年遅れた。

神戸一中には歩いて通った。いまの異人館のあたりをかすめて行く北野通りという有名なところを歩いて通った。親近感を覚える。

不合理が許せない(74)

進級できなかった理由は,漢文で及第点がもらえなかったからだ。漢文の読み下しが気に入らず,非常に不合理なもので,テストは白紙で出した。

無線機作りに夢中になる(75-79)

当時,勉強にはやる気が起こらなかったが,無線に興味の対象は集中していた。

感激は創意工夫から生まれる(75-76)M

創意工夫しながら新しいものを作り上げる喜び,これは直接製作にかかわったものにしか味わえない充足感であり,その時の初めて無線を聴けた感激は,いまもって忘れようとしても忘れ去ることができない。

無線が友情を育む(77)

後にソニーの重役を務めた笠原功一君,朝日放送の重役を務められた草間貫吉氏,日本アマチュア連盟の会長にもなった梶井謙一氏,後に一緒に仕事をすることになる星野愷氏,安立電機社長をやっておられた磯英治氏が有名であった。

47 井深大

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の背後にありそうな要素持論の行動化(頁) 記述内容

創造の原点は無線(79)

無線やラジオは直接,視覚のなかに飛び込んでこないだけに,思ったり考えたりする世界が広がる。そこにまた楽しみがあるのであり,私の一貫しての創造する歩みは,いまになって考えれば,書物を読んで空間をさまようのと同様に,無線が原点としてあった。

実行派(84) 決めたら実行に移すのが早い私である。

早稲田大学第一高等学院に入学(82-84)

私の進学希望校は浦和高校と北海道大学の予科,それの早稲田大学第一高等学院であった。しかしながら,浦和と北大のほうは見事に落ちてしまった。

負け惜しみではなく,幼少時から早稲田には親しみがあったし,行きたかった学校だったという。

山本忠興教授(86-87)

電気科の主任に山本忠興という先生がいらして,先生の長男と私は幼稚園で同級生であった。すでに山本先生の自宅へはそのころから行ったことがあり,可愛がってもらっていた。そのようなことから山本先生の名前は非常に印象深く私の心に残っていた。山本忠興先生に憧れて早稲田大学第一高等学院に入学したと言っても過言ではない。また,敬虔なるキリスト教徒の山本忠興先生の感化で,キリスト教主義を掲げる友愛学舎(スコット・ホール)に入った。

しかし,このスコット・ホールの規律的頽廃さに不満を抱き,ベニンホフ宣教師という建立者と対立することになる。

内村鑑三先生(90)

私は,キリスト教徒としては,日本の代表的なキリスト教指導者であり,大先達であった内村鑑三先生の聖書講義には2,3度しか出たことがなかったが,自分を厳しく律する姿を見て,派こそ違え,あれこそキリスト教徒のあるべき姿だと思った。

井深氏は,内村先生の厳しく律する姿勢をベニンホフ氏に求めたが,対立はより深刻化していったという。結局,井深氏は,友愛学舎を後にする。

科学部に所属(92)早稲田大学第一高等学院のクラブ活動は大変盛んで,私は科学部に所属した。私が科学部でやった主だったことといえば,増幅装置をこしらえたことだ。いうなれば,いまのスピーカーとマイクロホンである。

早稲田大学への進学(95)

理工学部電気工学科第二分科の弱電の道に進学。自分でいろいろと実験してみたり開発してみたり試行錯誤することが面白く,学校へはあまり通わず,自宅や仲間の家で電気いじりをしては楽しみ,ときには朝から晩まで入りびたりになっていた。

第一分科の強電と第二分科の弱電で迷うが,無線をやめられそうになかったから考えた末,弱電を選んだという。

就職活動(98-99)

当時は大変な就職難であったが,焦る気持ちはなかった。就職試験は東京芝浦電気を受けたが,見事に振られてしまった。東芝を受けた理由は,東芝社長の山口喜三郎氏と当時の副社長は,私の父の日光時代の上司であったと聞かせれていたので,親しみが持てたからである。

コネを利用すれば入れたが,そこまでして入りたくなかったという。

ソニーの転機(99) もし私が東芝に受かっていたら,今日のソニーはなかったことであろう。盛田氏の著書では,東芝の人を見る目のなさを批判している(『学歴無用論』)。

48 井深大

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の背後にありそうな要素持論の行動化(頁) 記述内容

PCLに入社(101)

録音技術を追求する。この一点でPCLが望んでいるものと,私の行いたいことはぴったり一致していた。また,所長から「責任を持たせて貴君の考える研究をさせるから,是非とも入社して欲しい」との要請もあり,私自身も就職するならば,思う存分研究ができて働き甲斐のある企業に入ろう,と考えていたこともあり,PCLに入社した。

能力ある者はそれなりに待遇する(103)★

入社の際,月給は60円,これがPCL所長植村氏との約束であった。当時,私立大学出の初任給が55円で東大出が60円と世間相場は決まっていた。私は一人前に扱われたような気がして,ひどく嬉しかった。ところが月給袋をもらって中身を確かめてみると,50円しか入っていない。60円でも55円でもなく,50円しかないのだ。私はムカッときた。あくる日,植村所長に文句を言いに行くと,はじめ所長は黙ってうなずくだけでなんとも言ってくれない。私は給料明細書を差し出し,さらに所長の意見を請うた。しばらくして所長には「経理上の手違いではないか,そのような小さなことにとらわれるな」といわれ,軽く受け流されたしまった。仕方なく引き下がると,翌月から約束通り給料が60円になり,その年のうちにトントン拍子に上がって,暮には90円ほどになった。大学出の入社1年生としてはかなりの高給取りになったわけだ。今日の私の”能力ある者はそれなりに待遇する”という考え方は,このときの経験が基になっており,後のソニーで大いに生かしていくことになった。

東通工の設立趣意書の経営方針にもこの考えは記されているという。

特許の勉強(103)私は真空管やネオン,無線などの基礎研究とともに特許の勉強を懸命にした。それが後で会社を興したときに役立つことになるのだからわからないものだ。

PCLを退社(105-106)

後に,PCL映画株式会社とPCLが一緒になって映画会社になってしまった。これが東宝の前身である。映画や歌が嫌いであったわけでもなく,映像の研究,開発にもそれなりの難しさがあり,技術者としてのやりがいもあったわけだが,やはり根底には科学,電気というものに対する愛着心があった。このようなことからPCLを退社することを心に決めた。

日本光音工業株式会社に転職(106)

PCL植村所長が社長をしている日本音工業株式会社に移る

知的障害を持つ二女の影響(110)

後年,二女が知的障害であったために,社会福祉というような問題にぶつかってこれを真剣に考え,私は大いに勉強させられたとともに,新しい目を開くきっかけをつくってくれたことは事実である。

盛田昭夫氏との出会い(111-114)

彼と会った時の第一印象は,私より13歳も若くユニークな考えの持ち主で,人に対する話し方も心得ており,洗練された男というものであった。一人の人間として大いに彼を気に入った。長年コンビを組んできた私と盛田君。ひとつの目的に向かって全力疾走するとき,呼吸がピッタリと一致すると,必ず良い結果を生む。開発資金などのやり繰りは盛田君,技術開発の担当は私,と役目はききちっと決まっていた。

179-181も詳しい。

49 井深大

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の背後にありそうな要素持論の行動化(頁) 記述内容

独自路線で生き残る(119-120)B

多くの社員を抱え,設備も焼け残りの工場を持っている大企業が創業を始めるにちがいない。そのような大規模の企業とは,とても競うことなどできるわけがないから,大企業がやらないであろう研究や製品開発だけをやろう,そう強く決心した。

個性と創造性を追及する姿勢が見てとれる。

事業は人的まとまりが最も大切(129)★B

社員が終結し,一丸となって前進するエネルギーは素晴らしいものだ。1プラス1が2ではなく,3にも10にもなる。斬新なアイディアが次々に出され,続いて研究,開発に入る。工場内は熱気に包まれ,私たち役員も社員も区別なくイキイキとしていた。例え施設が老朽化し,風雨が肌を刺そうとも,一向に環境条件は気にならなかった。事業というものは,人的まとまりが最も大切である

やろうとすれば何事もできる(137)★M

私にとって実物のテープレコーダーを見る以外,手元にまったく資料はない。テープというのはなんであるか,テープの素材がなんであるか,そこに付いている鉄の粉はどういうものでどのようにして作るのか,どれもこれもよくわからなかった。いろいろなものを実験した。結果として,蓚酸鉄を焼いて作った強磁性酸化鉄を使うと,わずかながら録音した声が聴こえてるではないか。このときばかりは,仲間と抱き合い,小躍りして喜んだ。このテープレコーダー経験を通して,私は,やろうとすれば何事もできるという大きな自信を得るとともに,いい製品さえできれば,ひとりでに売れるんだという強い信念を持った。

いいものを作れば必ず売れる(137)★B

いいものを作れば必ず売れる,それが私の信念だ。上記,テープレコーダー開発の経験から得られた持論

山田志道氏との出会い(141)

在米日本人の山田志道氏に会い,アメリカのテープレコーダーの研究者を紹介して頂いた。彼は大変親切な人で,熱心にいろいろと世話をしてくれた。かれなくしては今日のアメリカ進出はないといっても過言ではない。ソニーにとっては恩人といっていい人だ。

とりわけ,事業や製品開発に携わったわけではない。

技術者としての誇り(142)★M

アメリカにいった際,こちらが敗戦国の国民だからといって卑屈になったことは1度もない。私は,技術者なんだ,そういう誇りが常にあった。

行動してみる(145)★L

短波コンバーターのときも,初めてのテープレコーダーやテープ開発の時も専門家なんていなかったではないか。だから,なんでも懸命にやるのであったら,行動してみるのがいい。

50 井深大

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の背後にありそうな要素持論の行動化(頁) 記述内容

感動屋(149)

トランジスタ開発グループのリーダーである岩間和夫君が,設備も素材もないので研究グループを作り,通常の仕事を終えてから毎晩,勉強会を開いたというのである。テープレコーダーの開発,製造で忙しい時であったのに,と彼の地道な努力には胸が熱くなった(149),トリニトロンを発売できたその日,私は全技術陣を前に一言,労をねぎらいたく,全員を会議室に集めた。壇上に立ち,ひとつの大事業を成したスタッフ一人ひとりの顔を見回してみると,自然に熱いものが込み上げてきて仕方がなかった。「みなさんの人一倍の努力のおかけで,トリニトロンが完成し,発売するまでに至った。本当にありがとう。」最後は言葉にならなかった。

努力は労うという持論が背後にあるか?

チャレンジ精神(154)★M

私は,いつも「人がやらないからやってみよう」というチャレンジ精神を持って商品を企画してきた。だからこそ,新しいものができ,時代に敏感な若い人たちに受け入れられたのであろう。

現在のソニーの人材採用時の求める人材の基準となっている。

洞察力が重要(158)★L

筋がいいということは,ひとつの大きなポイントである。仕事に本気になって乗り出すときには,この性質のよさ,あるいはこれは性質が悪いと見抜くことは大変重要なことだ。

現場の生の声や報告を聞く(158)

トリニトロンの開発に関しては,実験1つに最初から立合い,現場の生の声や報告を聞いてその本質をつかむことに努力を要した。

不安は表に出さない(159)

果たしてトリニトロンを使って商品化できるかどうか,研究室のスタッフの前ではニコニコしていたが大きな不安を抱えていた

成せば成る(161)★M

トリニトロンの完成(160-162)

その時の感激はいまもって忘れることができない。根本的にまったく違ったシステムを生み出したことは,大変意味の深いことだといまでも誇りに思っている。成せば成るという,私の信念はついに実ったのである。

部下を誇りに思う(160-161)L

全力で目的に向かって突き進んだ男達の顔には爽快さがみなぎり,私が自負した通り,そこには世界一のエンジニアの顔があった。私はいまでも声を大にしていいたい。ソニーの技術者は世界一と。

考えを貫く(161)★L私は技術屋の姿勢として,思想をもっていたし,最後までその考えを貫いてきた。

科学技術が最も大事(168)★C

私は科学技術こそ今日の人間にとって最も大事な問題だと考える。人類の生活や文化の進歩は科学技術によって支えられているのであり,人間の生活に役立つものこそ本当の科学技術なのである。このことを正しく子供のころから理解して,科学技術に親しんでもらいたい。そして,日本を含む国際間の未来を切り開く人材に育ってほしい。科学技術を恐れたり敬遠したりすること自体が,また人間と科学の齟齬を生むのである。今日のような高度に発展した物質文明においては,そのように考えることが人間疎外を生み,多くの戦争を含む不幸を生じることになるのである。

51 井深大

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の背後にありそうな要素持論の行動化(頁) 記述内容

福井謙一先生の著書『学問の創造』(169)

ノーベル物理学賞を受賞された福井謙一先生の著書『学問の創造』を読み,たいへん感銘を受けた。

ありのままに追及し,感激を味わう,その繰返しが大切(171)★M

喜び,充実感ーありのままに追究し,感激を味わう,その繰返しが大切なのである。

その世界に遊ぶ(171)★M

学問する世界には創造力が付きもので,その世界に遊ぶこと自体が自然なのである。自然なるが故に,素直な発想から生まれた作品や製品は,必ずといってもいいほど大衆に受け入れられ,浸透していくのだ。

自然体(172)★L自然体による学問の研究は,人間性の向上にとって欠くべからざるものである。

無口(176) 私はもともと無口なほうだ

ミニチュア収集(178)

ミニチュアは私の自慢のコレクションであり,それを眺めていると限りない創造が心を満たす。技術者としていかにコンパクト化できるかを追究し続けてきた私にとって,これら無数のミニチュアは私の発想の原点,助言者であるのかもしれない。創造する楽しさ,喜びを与えてくれる。私にとっての貴重な心の宝のひとつである。

議論を重ねる(183)ソニーの設立に当たっては仲間たちと幾度となく話し合い,互いに納得するまで議論を重ねた。

アイディアの源泉でもあると考えられる。

人と人との円滑なつながりと独自の技術力の開発(184)★B

世界に通用する商品を生み出す源は,人と人との円滑なつながりと独自の技術力の開発であろうといのが,経営者であり技術者であった私の考え抜いた結論である。

理科教育振興資金制度がスタートし,現在の財団法人・幼児開発協力が組織化(185)

当時の日本の科学技術が欧米に比べて数段立ち遅れていたこともあり,日本を発展させるためには国民のあいだに広く科学技術を普及させなければならない,と痛切に考えて立ち上げた。

アイディア重視(188)

私はアイディア重視のほうだ

きっかけをつくるのはうまいが,その後始末は下手(196)

私はもともと,きっかけをつくるのはうまいが,その後始末は決して上手いとはいえない。

本気になったら熱中しやすい(196)

本腰を入れたら熱中しやすい私である

52 井深大

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の背後にありそうな要素持論の行動化(頁) 記述内容

トータル的な人間教育(207ー217)★C

私はいまある教育というのは,知的に理屈的に解釈することだけが,教育・学問の目的,方法になってしまっており,例えば,感性といったものは全然,受け止める受けざらがない状態であると考える。感性や人間性を含めたトータル的な真の人間教育が必要である。

53 井深大

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)

経営とは考えることである(ロマン3)★B

目的が決まる。目標が掲げられる。実現するための方法を考える。経営とは考えることである。数々のセミナーや講演を聞いた結果,私が得たもの,それは,経営とは自分の頭で考えるもの,その考えるという姿勢が大切である(経営学37)。

やればわかる(ロマン4)★L

①考えてもわからないときはやってみる。やればわかる。私が経営者として体得したことの1つである。②宅急便を開始した当初は,会社を潰さずにやれるかどうかが問題だったが,やれるかどうかじゃない。やらなければ駄目だと思った(ロマン122-123)。

経営はロマンである(ロマン4)★B

経営はロマンである。だから経営は楽しい。目標を決め方法を考え実行する。この間の緊張感は堪らない。

顧客視点を重視(ロマン4)

①私は徹底して顧客の視点を重視した。自画自賛になるが,宅急便が成功したのは,利用者の視点を忘れなかったからだと思う。②宅急便の商品化計画で最も重視したのは,「利用者の立場でものを考える」ということだった。主婦の視点がいつも念頭にあった(ロマン121)。③供給側の論理で考えてしまう。これは絶対に犯してはならない過ちだ(ロマン145)。

経営者に必要なのは「志」である(ロマン4)★M

宅急便を考えたとき,単なる一企業の事業ではなく,社会的なインフラになるし,そうしたいと思っていた。それは私の「志」だった。私は経営者に必要なのは「志」だと思っている。

筋の通らないことが嫌い,許せない(ロマン4)

①私には行政に楯突く男というレッテルが貼られている。なぜ楯突くかというと筋の通らないことが嫌いだからである。というよりも,筋の通らないことが許せないからである。②創業者の父が「三越さんには足を向けて寝られない」とまで言った取引先と決別する。その理由が,三越の新社長岡田茂氏のやり方が許せなかったから。ここでも筋の通らないことに対して真摯な態度を取ったと言える(ロマン129-132)。③官僚のやり方が許せなく,徹底的に戦った(ロマン133-140)。運輸省との闘い(経営学158-170)。

小倉氏のモチベーションの源泉であるとも言えるか?男気を感じる。

権力が嫌い(ロマン5)

私には町人の血が流れている。本能的にお上に楯突くことが多い。要するに権力が嫌いなのである。政治家には頼らない(ロマン141-143)。

運輸省との闘いも,筋が通らなかったということと同時に,権力への闘争心があったと考えられる。小倉氏のモチベーションの源泉であるとも言えるか?ここにも男気を感じる。

座右の銘(ロマン5) 座右の銘はと問われたら「真心と思いやり」と答えることにしている。

宅急便の立ち上げ(ロマン17)

これまでに自分がやり遂げた最大の仕事は,ヤマト運輸で日本初の宅急便である「宅急便」を立ち上げたことだと思っている。

父,康臣(ロマン25ー26)

大和運輸株式会社の創業者。志が大きく,パイオニア精神が旺盛。進取の気性に富んでいた。

父から経営者の心構えを学ぶ機会が増えた。「経営は進むばかりが能ではない。引くことも大事で,逆櫓戦術も考えなければいけない」と良い聞かされた(ロマン87)。経営者は目先のことより,先を考える経営戦略が大事なのだとしった(ロマン89)。「成功体験のある人ほどそれにとらわれて失敗する」という経営の法則を,父から学ばざるを得なかった(ロマン93)。父を反面教師として「トップが長く居座ると”老害”になる」という教訓を学んだ(ロマン105)。

備考持論(頁)(生の言葉

には★)

持論の背後にありそうな要素持論の行動化(頁) 記述内容

54 小倉昌男

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の背後にありそうな要素持論の行動化(頁) 記述内容

庭球部のキャプテン経験(ロマン51-53)

漠然とではあるが,いずれ父の会社を継ぐことになるだろうと考えていたから,リーダーシップの養成にも役立つと思った。キャプテンだったから,多くの先輩のお世話になることが多かった。東大生もいたし,社会人もいた。私の生涯にわたる貴重な人脈となったことは有り難いことであった。

リーダーシップを学ぶと同時に,ネットワークの構築に役立つ。

中高一貫の6年半生活(ロマン53)

学校の勉強は怠けたが,テニスを中心とした中高一貫の6年半は,かけがえのない財産となった。私は後に経営者となり,事業を規制で妨害する役所と徹底的に戦うが,自由と自己責任という中高の教育方針が少なからず影響していたと感じている。

東京大学大塚久雄先生の欧州近代経済史の講義。特に,マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の講義(ロマン57)

それまで需要と供給の関係で動くのが資本主義経済だと思っていたが,その基盤として倫理が重要だという。しかも倫理は宗教と切り離せないものだと教えられ,強く印象に残った。企業経営者としてやってきた私の心の底辺に,この講義の影響があったと思っている。企業の中心には倫理があるべきだと,今も信じている。

経営リーダー10の条件の1つ,高い倫理観にも影響を与えている?

学徒出陣経験(ロマン58-61)

独立野砲兵第三十三大隊に配属が決定。そこで,宿泊の設備が不足していたので,中隊長から炊事場とかわやを作れと命令があった。資材がないので途方に暮れていると,下仕官が近くの河原から石を拾い,山から土を掘り出してきて,瞬く間にかまどを築いた。かわやは学校の裏手に溝を掘り,近くの農家でもらってきた竹ざおとわら束で屋根と囲いを作り,これもあっと言う間に完成させた。やる気があれば何でもできるのだと痛感した。軍隊では嫌な思い出が多かったが,「何でもできないことはない。やればできる」と肝に銘じたことが大きな収穫であった。

戦後のテニス部の再建には,この資材なしでも炊事場やかわやを作り上げた下士官の姿がよみがえった。そして,庭球部の活動が再開した。やればできるのである。やればできる,という精神を確立したことがうれしかった。

闘病生活(ロマン73-77)

1948年のクリスマスころ,重症の肺結核にかかり,入院。大和運輸に復職したのは1953年(昭和28年)。休職期間は5年近くに及んだ。退院から3年後,救世軍に入隊。クリスチャンになった。今も神に生かされて自分がある。

総務部長の経験で現場の裏を知る(ロマン78-81)

静岡運輸へ出向。静岡に下宿し,29歳の若さで総務部長になった。部下は酒やけで赤い鼻をした庶務課長と女性事務員の2人だけで,部長のポストは私のために作られたようなものだった。就業規則も賃金規定も整備されておらず,勉強しながらそれを作るのが仕事になった。業績も赤字続きだった。その理由は,毎日膨大な運賃が猫ババされていたからであった。数日後,その猫ババをした社員2人が話しがあるからと会社の一室で会うと,彼らは机の上に短刀を置き,「今の安い給料で食えると思っているのか。多少のチャージは大目に見ろ」とすごんだ。運送会社の泥臭い現場を肌で知ることができた。

総務部長の経験で優先順位を示すことの重要性を痛感(ロマン81-82)

何でも第一にする会社がよくあるが,それではいけない。何が第一なのか,はっきりと優先順位を示す経営者にならなければ駄目だと痛感した。そこで「安全第一,営業第二」と書いたポスターを作った。その結果,事故は減り,しかも営業成績は落ちなかったのである。

成功体験におごらない(ロマン93)★L

父親を反面教師として学ぶ。

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の背後にありそうな要素持論の行動化(頁) 記述内容

会社の危機を救った3つの身近なヒント(ロマン110-114),(経営学72-74),(経営学93)

吉野家の牛丼絞込み戦略,息子の洋服,日本航空のジャルパック 宅急便構想のヒントとなる。

ユナイテッド・パーセル・サービス(ロマン115),(経営学87-89)

営業所視察で,ニューヨーク,マンハッタンを歩いていると,十字路の周囲米大手運送会社,ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の集配車が4台停車している光景を見て,ハッとひらめいた。「宅急便は成功する」。うちなる確信を得た瞬間だった。その後,USPとは業務提携することになる。

ポジティブ思考(ロマン123)

デメリットを恐れて立ち止まったら発展はない。メリットをそれ以上に大きくすればいい。

上智大学の篠田雄次郎先生(ロマン124),(経営学55),(経営学171-175)

「全員経営」へのきっかけ。1977年の全国運輸事業研究協議会第7回大会での講演。「ドイツのパートナーシップ経営を参考にしなさい。コミュニケーションを大事にし,社長の考えを社内の隅々にまで共有させれば,社員は社長の考えを先取りして行動するようになる。命令したり,監督したりしない労務管理が可能になる」というものだった。この考えに基づき,宅急便の運転手も”セールスドライバー”に変えた。

小倉氏自ら,「全員経営」の精神は,ヤマトの企業文化であると言い,社員の体質にしみ込んでいると論じている(経営学173)

自信家(ロマン144)私は同業の参入を歓迎した。客が他社と比較対照すれば当社のサービスの良さが引き立つ。そんな自信があった。

自分自身にというより,自社の事業や製品にか。

デメリットあるところにビジネスチャンスあり(ロマン147)★B

運送業者にとって雪が降ることはデメリット以外のなにものでもないが,ヤマト運輸は雪が降れば収益が得られるわけで,雪よ降れ降れである(経営学231)。

ゴルフ宅急便,スキー宅急便,クール宅急便,コレクトサービス,ブックサービスなどの新商品開発の苦労から形成された持論であると考えられる(ロマン147-149),(経営学229-248)

現場主義(ロマン164)★B

私は現場主義で,トップは常に現場を見なければいけないと考えていた。

お客と最も多く接するセールスドライバーに対して,寿司屋の職人のような気っぷくの良さや高度な技術と機敏に動ける判断力と行動力を併せ持つサッカーの優秀なフォワードのような存在になってほしいと要求した。これは,現場に最も近い人間が最も重要な役割を果しているということを例えたものであると理解できる(経営学177-182)。

妻,玲子(ロマン165-166)。

私達はともにクリスチャンで,1989年に私は救世軍から彼女と同じカトリックに改宗していた。趣味の俳句も彼女の影響で始めた。玲子が「あなたが宅急便をつくったおかげで,本当に便利になった。私から国民栄誉賞をあげたい」と言ってくれたことは今も忘れない。マザー・テレサを尊敬し,郷土愛が強かった玲子の遺志に従い,静岡県蒲原町に福祉金として1億円を寄付した。

福祉事業などに影響を与えている人物といえる。

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の背後にありそうな要素持論の行動化(頁) 記述内容

評価は「人柄」(ロマン167-168)★O

①成果主義は考え方としては正しいが測定が難しい。ある時期に上がった成果が現任者の功績か,前任者の種まきによるものか,はっきりわけられないからだ。それなら「誠実」「部下の面倒見がいい」といった人間性を重視したほうがいい。これが企業風土になれば客に対しても誠実な社員が増えるはずだ。②現場のトップが管理職としての評価に傷がつくのを恐れ,車両や事故を本社に報告せず,隠すケースが増えたことによってそう考えるようになった。管理職だけではなく社員全体にとっても同様である(経営学270)

趣味(ロマン170-174)

ジャズ,義太夫,俳句

ヤマト福祉財団を設立(ロマン175-210)。

会社経営を離れたら,お世話になった社会への恩返しに,福祉の仕事をしたいと思い,1993年9月にヤマト福祉財団を設立し,理事長となる。設立の目的は,心身に障害のある人々の「自立」と「社会参加」を支援することである。

キリストの教えが背後にあると考えられる。

後継者人事の持論(ロマン178)。O

私は世襲に対しては否定的で,息子(康嗣)を後継者にしたいと思ったことはない。世襲にも良い面はあると思う。いずれ社長に就任することがはっきりしていれば,覚悟ができるからだ。その点ではサラリーマン社長より良い。しかし,親の情が強すぎるのか,無理やり息子を引き上げて失敗する例が多い。真の実力があれば自然と社長になれるはずだ。2代目である私も,自分の力で社長になったつもりである。

シンプル思考(ロマン184)。

需要とは ある ものではなく,”つくりだす”もの(ロマン199)★B

私はセミナーで「需要とは”ある”ものではなく,”作りだす”もの」と強調している。

宅急便の開発,さらに,ゴルフ宅急便,スキー宅急便,クール宅急便の開発経験が影響を与えていると考えられる。

ロマンチスト(ロマン204)。

炭焼き名人の銀爺はロマンチストだ。私も経営はロマンだと思っている。

実直(ロマン208)。 経営者としての私も「間違えた。ごめんなさい」の連続だった。

探究心旺盛(経営学37)。

小倉氏は,様々なセミナーや勉強会に参加したり,立ち上げたりしていることから,探究心が旺盛であったと考えられる

東京大学林周二助教授の『流通革命』の理論(経営学46)

流通チャネルを太く,短く,多くすることが近代化の柱だという理論。この理論には大いに納得し,刺激を受けた。

流通システム開発センターの主任研究員,中田信哉氏(経営学52)

マーケティングという概念を教わった。それまで運送の市場について考えたことがないのはもちろん,マーケティングという言葉さえ知らないのが普通であったから,中田氏が口にした「市場」という言葉が,私の心に強烈に焼きついた。

流通政策研究所専任理事の宮下正房氏(経営学54)

宮下氏からはじめて「業態」という言葉を聞いた。業態が違えば,経営の論理が違ってくることを教えられた。

プライドが高い(経営学71)

日本一のトラック会社と自他ともに認めていたヤマト運輸のプライドを考えると,なんとしても個人宅配の分野で一花咲かせたいという気持ちがふつふつと沸いてきた

小倉氏のモチベーターか?

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の背後にありそうな要素持論の行動化(頁) 記述内容

信頼されること(経営学199)★L

労使の問題は,つまるところ労使の信頼関係に帰すると思う。それには,経営者が組合から信頼されるようにすることが出発点である。

経営者は社員のモチベーター(経営学187-189)L

社長は,とか,課長は,とか批判するのは,自分を会社の中心に置いて,参画意識のもとで常に考えているからではないだろうか。赤提灯で会社の悪口を言うのは,むしろ会社が好きな証拠ではないか。日本人は,潜在的に会社への参画意識があるのだから,それを引き出す努力を経営者が怠ってはいけない。経営に参画するということは,社員に働き甲斐を与えることだ。働き甲斐は,日本人にとって生き甲斐である。それは社員に対し,金銭とは別の喜びを与えることになる。

中間管理者は社員のモチベーター(経営学189-192)O

社員全員がやる気を出し,与えられた仕事を自主的にかつ自律的にやり,目標とする成果を達成するためには語ミュウにケーションが重要である。だからこそ,コミュニケーションの推進役として中間管理者が大事な役割を負っているのだ。中間管理者が任務を果してくれるかどうかが,やる気のある社員集団ができるかどうかの決め手になる。

小倉氏のコミュニケーションの重要性に対する持論がうかがえる。

会社と組合は運命共同体(経営学211)O

私は,労働組合がないと経営が成り立たないとすら思っている。なぜかというと,会社を経営していて,方針を示し,具体的に目標を設定しても,それが会社の組織の末端まで伝わっているかどうか,心許ない思いをしているのが実際である。管理職に聞いてみると大丈夫ですという。本当にそうなのかと思っていても確かめる術がない。ところが,労使の会議などの折に,組合から「会社の幹部はうまいこといっているけれど,現場の一部では本当の指示とはまったく違うことをやっているのを知っているか」と指摘され,調べてみるとその通りだったことが再三あった。会社の経営において,具合の悪いところがあったらシクシク痛むことが,健全な経営を続けるために必要である。そのシクシクと痛みを伝えるのが,労働組合の役目だと思う。現場の情報を伝えてくれるのが組合員(経営学206)。父の康臣は「従業員愛すべし,組合員叩くべし」とよく言っていたが,小倉氏は,労働組合を大事にし,信頼関係を高めることにも留意した。宅急便の開発の際には,組合の幹部に積極的に相談したり,重要人事案件は組合幹部に直接説明したりして,信頼関係の構築に努めていた。労使の一体感は強まっていった。一朝一夕には無理でも,細かい努力を積み重ねれば,必ずできるのである(経営学212)。

経営者の役割は,組織の肥大化を防ぎ,活性化の道を探ることである(経営学261)★L

企業が成長すれば,時と共に組織は肥大化し,官僚的になる傾向がある。経営者は常に組織の肥大化を防ぎ,活性化の道を探らなければならない。

パーキンソンの法則(経営学266)。ここで小倉氏は,年功序列の習慣が実力主義の採用を妨げる害毒をもたらすと主張している。ピラミッド型からフラット型組織へ(経営学266-268)

できないことははっきり断る(経営学282)★L

できないことははっきり断るのも経営者の資格の1つである。

度量(経営学282)★L

即座に「よろしい」と引き受ける度量も必要である。

論理的思考(経営学272ー274)★L

経営者にとって一番必要な条件は,論理的に考える力を持っていることである。なぜなら,経営は論理の積み重ねだからである。

「経営とは考えることである」という持論との関連。

58 小倉昌男

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の背後にありそうな要素持論の行動化(頁) 記述内容

攻めの経営(経営学277-278)★B

これからの企業経営は,ますます激しい競争に晒されることを覚悟しなければならないと思う。ボーダーレスの時代だから,どんな新しい競争相手が現れるかわからない。経営は,攻めの姿勢が大事である。守りの経営では,じり貧になるのは間違いない。

デメリットに恐れるのではなく,メリットを得に行動する

行政に頼らぬ自立の精神(経営学279-281)★L

霞ヶ関には無謬性という言葉があるそうだが,その思い上がった精神構造は理解することができない。煎じ詰めていくと,世間知らずの役人の言うことを聞く経営者が悪い,ということになるのだ。

政治に頼るな,自助努力あるのみ(経営学281-283)★L

ヤマト運輸が宅急便全国展開の必要性から路線トラックの免許申請をしたとき,5年も6年も放置されて困ったことがある。そのとき,政治家に口利きを頼んだらという意見があったが,私は政治家には一切頼まなかった。そうすれば,中途半端な妥協案を出すに違いないと思ったからだ。中途半端な解決などしたら,百年の悔いを残すからである。行政訴訟という正攻法で進んでよかったとおもっている。

マスコミとの良い関係(経営学283-284)★O

宣伝と広報は違う。経営者は,優れた広報マインドを持つことが要求されていることを知らなければならない。

明るい性格(経営学285-286)★L

成功している有名な経営者は,「ねあか」の人が多い。経営者は,常にプラス思考をする必要があると思う。「ねあか」の経営者が成功しているのは,決して偶然ではない。

ポジティブ思考やプライドが高い,自信家,ロマンチストなどの性格に反映。

経団連の会長を長く務めた新日本製鉄の稲山嘉寛名誉会長

これまでたくさんの経営者とお付き合いをしてきたが,その中で特に尊敬しているのが経団連の会長を長く務めた新日本製鉄の稲山嘉寛名誉会長である。稲山氏は「ねあか」の人であると同時に「謙虚」な人であった。他人の人格を尊重し,長所を見つけて認めるという点で,経営者として大事な資質について教えられたのである。

「ねあか」であると同時に「謙虚」さが経営者の大事な資質。

身銭を切ること(経営学286-288)★L

つまらないことのようだが,経営者にとって必要なことは,身銭を切ることだと思う。経営者はもらうべきものはもらい,部下に飲ませるときにはポケットマネーで払うようにしなければ,社員から尊敬される経営者にならないことを覚悟する必要がある。

福祉事業なども

高い倫理観(経営学288-290)★C

企業が永続するためには,人間に人格があるように,企業に優れた”社格”がなければならない。人格者に人徳があるように,会社にも”社徳”が必要なのである。経営トップがひとり高い倫理観を誇っても,社徳の高い会社にはならない。社員全員の倫理性が高くてこそ,社徳の高い会社と言えるのである。それにはまず,トップが先頭に立ち,高い目標を目指して歩まなければならないのである。

キリスト教の影響も。

59 小倉昌男

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)

人生の自覚(25)★Cそれまでの酔生夢死、無目標の生活から・・・人生の自覚の芽ばえとでもいうべき転機を迎えたのかもしれない。

放校の危機。(25)(要約)病弱で、1年の後半を全欠。次年度も1学期を全欠し、2年連続留年による放校の危機に立たされる。

自由主義と真善美聖(28)★C

河合教授の著書に触発されて、今もなお私の心の奥に行き続けているのは、自由主義の信奉と、人生の価値「真善美聖」へのあこがれである。

河合教授の著作(28)

軍国主義が台頭してきた時世に刊行された東京帝国大学河合栄次郎教授の『学生に与ふ』(ジェレミー・ベンサムの最大多数の最大幸福。スチュアート・ミルの自由論に共感。これは世の中の動きに本能的な反発を感じていたからかもしれない)

自由主義と真善美聖という持論との関連明示。

農業へのおもい(31)B

農業に自らをささげることに大儀を感じていた。

加藤完治氏の著作(31)

一時加藤完治氏の説く農本主義にひかれるところがあった。自由主義にひかれながら一方こんな主張に共鳴したのだからノーテンもいいところである

農業への思いとの関連明示

革新(39)★C私もまた”エトヴァス ノイエス”のない日は、進歩なき○〈りっしんベンに解〉の一日と思い定めて、常に革新を目指していきたい。

恩師小竹先生の経験談(39)

(要約)小竹先生がよく話された話。ノーベル賞受賞者ウィーランド博士とのやり取り。毎日朝夕「エトヴァス ノイエス〈何か新しいことはないか〉」ときかれた。小竹先生は「いくら熱心でも毎日毎日新しいことが会ってたまるかと思ったけれども、だが待てよ、真理の探究に休みはない、毎日毎日が真剣勝負と思えば”エトヴァス ノイエス”のないわけがない、それほどの心がけで日々の研究生活をすごすべきだ」とおもいかえされた。

革新の持論とのかかわり明示

父の振る舞い(81・82)

ウイスキーはブレンドが命である、しかし、父はそれを息子に教えようとは全くしなかった。・・・私はただ自らの思いのまま、さまざまに試行錯誤を繰り返すばかりであった。

飲んでうまいウイスキー(90)★B

父と私の理想、飲んでうまいウイスキーの勝利であった。

お客による発見

このボトルキープもまた、むしろバーや飲食店の方の発明であった。・・・いつお見えになっても、お客様には安心して自分の瓶から好きなようにウイスキーを飲んでいただく。お客よろこび、店繁盛というわけである。

飲んでうまいウイスキーとの関連で記述されるが、つながりが不明瞭。

志ありきの社会貢献(184)B

サントリーの社会への恩返しも、出来れば父のように一人の人間のやむにやまれぬ真情から出た活動としたいと思い続けている。私が”はじめに志ありき”というのはそんな意味である。

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の背後にありそうな要素持論の行動化(頁) 備考記述内容

60 佐治敬三

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の背後にありそうな要素持論の行動化(頁) 備考記述内容

父の経験と実践(183・184)

(要約)父は、その母から「知られることのない布施の行為が尊いのである」という教えを受け、無料診療所を開いたりした。父は利益三分主義を唱えて、その一分は社会にお返しすることを信条とした生涯を過ごした。父はたわいないことを対象にすることもあったが、それがかえって父の真情を示すものであったのだと思う。

志ありきの社会貢献とのつながり明示

ハード偏重への抗議(206)

生産一辺倒、今日的にいえば、ハード偏重の社会への抗議であった。

61 佐治敬三

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性格・持ち味(頁)仕事にまつわること

(頁)その他(頁)

日本IBMの社長(6)

社長就任直後のこと。米本社の管理者研修で、海外現地法人のトップの役割について話をした際、こんなキャッチフレーズを使った。「セル・IBM・イン・ジャパン、セル・ジャパン・IBM」。IBMを日本に売りこみ、日本をIBMに売りこむ、という意味だ。単にコンピュータを売るだけでなく、IBMの優れた経営理念を日本に伝える。同時に、日本という素晴らしい国の実情を米本社に理解してもらう。私が18年間の社長時代にやってきたことは、このフレーズに集約されるといっていい。

異国が近い家(11-12)

父は、大学卒業後、ドイツに約2年間留学し、鋼の勉強をしている。当時は、第一次世界大戦後ということもあり、ドイツに留学する日とは多かったようだが、大正時代から「異国」が身近にある家だった。

椎名家三代(フロンティア精神)(15)

祖父、父、私の三人がいずれも、当時の日本では新しい世界に飛び込んでいるのだ。明治の靴、大正の金属洋食器、そして昭和のコンピューター。時代も分野も異なるが何か因縁めいたものを感じる。

クロスカルチャーの洗礼(18-19)

岐阜の豊かな自然に囲まれて育ったが、家に一歩入ると、そこは「東京」だった。東京生まれの地日チャ、一度も岐阜弁で話すことはなかった。母も東京弁を話せる。私は、家の外では、岐阜弁、中では東京弁という具合に使い分けていた。わたしが、後に外資系企業に勤め、日本とアメリカという二つの文化に挟まれながら、さほど違和感なくやることができたのも、幼くして、岐阜と東京のクロスカルチャーの洗礼を受けていたおかげかもしれない。

人生における大きな転機(27)

私の人生で大きな転機になったのが、米国への留学だ。1951年9月から約1年半の米国生活がなければ、IBMに世話になることもなかっただろう。

米国に対する印象の変化(28)

米国に対する印象も戦争中とは変わっていた。上京するときにこんなことがあった。列車が駅のホームに滑り込むと、ホームで米軍の水兵が日本人の子どもたちと遊んでいた。水兵たちは皆、笑顔を浮かべ、楽しそうにしている。「鬼畜米英と教えられたけれど鬼じゃない。ちゃんとした人間じゃないか」。ショックを受けた。こうした経験を重ねる中で、米国に対する偏見はいつしかなかくなった。

父の影響(19、21、27、29)

私の父は、放任主義だったが、背中で多くのことを教えてくれた。 父も慶応義塾普通部に通った経験があり、当たり前のように、普通部を進学先として選んだ。 私自身は機械いじりが好きというわけではなかったが、1949年4月に慶應義塾大学工学部機械工学科に進むことになった。父も工学系の学校を出ており、あまり深く考えずに進学先を決めた。 父もドイツで勉強しており、留学することに違和感はなかった。

備考持論の背後にありそうな要素

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の行動化(頁) 記述内容

62 椎名武雄

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性格・持ち味(頁)仕事にまつわること

(頁)その他(頁)

備考持論の背後にありそうな要素

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の行動化(頁) 記述内容

自国を愛し、異文化を受け入れる★C

留学時代(愛国心の目覚め)(34)

わたしは、入学当初から学内食堂でアルバイトをしていた。食堂で支給された白い制服の胸には、赤鉛筆で日の丸を書いた。米国人から「それは何だ」と聞かれたことはないが、心のどこかで「おれは日本人だ」と主張していた。日本で暮らしていると、自分を日本人と意識することがほとんどない。しかし、ひとたび外国にでると、自分が日本であることを強く意識させられる。留学時代に私は、日本を愛していると自覚した。だが、それは外国を嫌うこととは違う。愛国者だからこそ、異文化を受けられる。私は今に至るまでそう思い続けている。

「世界企業」としてのIBM(47)

IBMは操業当初から「世界企業」だった。トーマス・ワトソン・シニアが発足当時の社名を「インターナショナル・ビジネス・マシーンズ」に変更したのは1924年、海外で事業を展開するはるか前のことである。IBMは早い時期から海外市場に進出した。

IBMの経営方針・信念(47-49)

IBMは、現地法人の経営は現地の人間に任せるという経営方針を貫いてきた。 グローバル規模で業績を高めるための最もよい方法が、「現地法人は、100%子会社、現地法人のトップは現地人」の組み合わせであり、これはIBMの信念といっていい。

現地人が(企業の)経営トップを務める(48-49)★B

日本企業は当たり前のように、国際化を進めているが、今でも大半の海外子会社では、日本人がトップに座っている。現地の人に経営を任せるのは勇気がいることだ。だが、当時もし日本IBMの社長が米国人だったら、果たして優秀な社員が集まってきただろうか。むろん、みんながみんな社長になりたくて会社に入るわけではなないけれど、一番上に日本人がいれば、よし自分も頑張ろうという気になるのではないか。「現地法人は現地の人間に任せるのがべすと」。トーマス・ワトソン・シニアは50年以上も前から、グローバル経営の基本を感覚的に理解して

生意気・米国かぶれの嫌な野郎(52-53)

南糀谷時代の私は、生意気盛りだった。今振り返ると、若気の至りとしかいいゆがないが、当時は好き勝手なことをやり、上には不平不満ばかり言っていた。 工場時代の写真を見ると、当時の私は、若造なのに最前列で蝶ネクタイを締めて、さも偉そうにたっている。周囲からみれば、米国かぶれの嫌な野郎といったところだろう。 私はよく東京・麹町の本社に押しかけ、「会社の方針はおかしい」とがんがん文句を言った。

米本社の管理者教育(63)

私は、1960年代前半、管理者教育のために米本社へ派遣されたときに、こんな体験をした。わたしのいた20人ほどのクラスに、本社の副社長が講演に来ていった。「皆さん、IBMのおかしなところを指摘してください。すると、次々と手が上がり、皆が平気な顔をして「ここが変だ。あそこがおかしい」と平然と訴えていく。ちなみに、私たちのクラスは全員が30代だった。若手が好き勝手なことを言っているのに、それを聞いている副社長は不快そうな表情は見せず、反論すべき点は反論していく。研修という点を差し引いても、上下の隔たりがまるでないのに驚いた。

ドント・シュート・ザ・メッセンジャー(報告者を撃つな)(64)★O

世間では、昨今、企業や官庁の不祥事が数多く報じられているが、その一因は情報がうまく伝達されていないことにあると思う。悪い情報が上まで届くかどうかは、トップの責任という側面もあるのではないだろうか。

63 椎名武雄

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性格・持ち味(頁)仕事にまつわること

(頁)その他(頁)

備考持論の背後にありそうな要素

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の行動化(頁) 記述内容

グロリアス・ディスコンテント(栄光ある不満、光輝ある不満)(64-65)

わたしは、取締役になってからも、会社の方針にズケズケと文句を言っていた。すると、日本に駐在していた米本社の幹部が、「お前はグロリアス・ディスコンテント(栄光ある不満・光輝ある不満)という言葉を知っているか?」という。知らないと答えると、彼は「不平や不満があるのなら、それをなくすよう物事を計前しなければならない。それをグロリアス・ディスコントと言うんだ」と教えてくれた。心にずしんときた。その後、意に沿わない出来事や場面に遭遇するたびに、この言葉を思い起こすようになった。

社員も必死で努力する(73)★O

IBMは本気で終身雇用を守ろうとしていたから、50歳、60歳の社員に対しても厳しい研修を義務付けていた。終身雇用制というのは「ぬるま湯」を意味するのではない。社員も必死で努力しないと維持することはできない。

会社をどう変えるかという目標とその目標を達成しようとする熱い思い(86)★M

何よりも重要なのは、会社をどう変えるかという目標とその目標を達成しようとする熱い思いではないだろうか。八幡製鐵にはそれがあった。

変化にチャレンジする(95)L

米産業界では、変化にチャレンジするにはフレッシュな発想を持つ人がいいという考え方が定着している。変化の少ない業種だと話は別かもしれないが、ハイテク業界は競争が激しく、技術も猛烈な勢いで変化する。既存の概念で固まった人間は通用しない。

現場に言いたいことを言わせながら、自分の考え方もきちんと伝える(98)L

稲垣さん(上司)は現場に言いたいことを言わせながら、自分の考え方をきちんと伝えていることがわかってきた。私も単なる針のむしろと身を縮めているのではなく、直すべきところは直さなければならないと反省するようになった。いつしか、稲垣さんの人心掌握術に感心するようになっていた。

適度な緊張関係に基づく権限委譲(99)★L

「権限委譲」と「放任」とは違う。権限を委譲すれば、任せる側にも責任が発生する。きちんと成果をあげているか、おかしなことをしていないか。チェックするのは任せた側の義務だ。日本の産業界を見回すと、権限委譲と放任を混同しているケースが多いように思える。任せる側と任される側に適度な緊張関係があってこそ、初めて権限委譲は機能するのではないかと思う。

セル・○○(IBM)とセル・△△(ジャパン)(100)★B

「セル・IBM」というのは、IBMの優れた経営理念を日本に伝えるという意味で、日本IBMは機器やソフトを売るだけの会社ではないということだ。「セル・ジャパン」というのは、米IBMの人たちに日本という素晴らしい国を知ってもらうということ。日本の商慣習を米本社に理解してもらうことが日本での商売を伸ばすことにつながる。日本企業の海外法人トップや海外企業の日本法人トップの仕事もこの二つの役割に集約されるのではないだろうか。私自信、このフレーズを胸に刻みながら、社長業に邁進していった。

商売の基本はどこでも同じ(104)★B

現場で商談が成立したのに、上に行って突然ひっくり返ってしまうこともよくあった。ケイレツ、互恵取引、トップ同士の人間関係-。日本的といってしまえばそれまでだが、商売の基本はどこでも同じだ。

64 椎名武雄

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性格・持ち味(頁)仕事にまつわること

(頁)その他(頁)

備考持論の背後にありそうな要素

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の行動化(頁) 記述内容

背骨と手足(107)★O

背骨は、経営の理念や原則といった企業の基本的骨格のこと。手足はそれ以外の背骨を補完する機能を指す。背骨がしっかりしていないと時代の変化の中で真っすぐ立っていられないから、世界中のIBMが共有して守り抜いていく。これに対して、手足は、各国の子会社が市場の実情に合わせて磨きをかける。こうした考え方を基本にすえて、技術力、販売力、組織力の「三つの柱」を強化しようと社内に呼びかけた。

やる意志(105)★M

どんなに社会貢献や女性の活用を進めても「しがらみのない外資系企業だからできる」といわれたのは悔しくてたまらなかった。私たちは、米国の仕組みを苦労して日本流にアレンジしている。外資だからできたのではない。やる意志があったからできたのだ。

原理原則だけは守る★(139)

ただ、どんなに日本社会と同化しようとも、世界のIBMを貫く原理原則だけはしっかりと守ったつもりだ。たとえば、会社としての政治献金は一切しないし、従業員一人一人にビジネス・コンダクト・ガイドラインという厳しい行動規定が課されている。原理原則にこだわったせいで競争に負けるケースもあるが、基本までころころ変えると、貴重なIBMファンを逃し、企業としての存在意義を失ってしまう。

個人の尊重・最善の顧客サービス・完全性の追及(140)★B

IBMには、「個人の尊重」「最善の顧客サービス」「完全性の追及」という三つの経営理念がある。日本でも創業当初からの家訓や創業者の言葉が壁に飾っていることが多い。何百年も前に考えたとは思えないほどいいことを言っていると思うこともあるが、その反面今の世の中に合わなくなっていると感じることも多い。しかし、IBMの三つの理念は、どんな世の中でも、どんな国でも、どんな社会体制でも通用すると思う。

IBMの理念(140)

密なコミュニケーション・徹底的な話し合い(148)★L

外国人と一緒に仕事をするには、徹底的に話し合う必要がある。よく言われることだが、日本人と違って以心伝心が通用しないためだ。コミュニケーションを密にして、こちらの考えかt方を的確に伝え、向こうがどう思っているかを聞くことが大事である。

しっかりした自己を持つ(162)★L

大組織を率いるリーダーには、いくつか備えるべき条件がある。以下・・・

私心を持たない(162)★L

常に新しいものに挑戦する(162)★L

人のマネジメントがうまい(162)★L

65 椎名武雄

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性格・持ち味(頁)仕事にまつわること

(頁)その他(頁)

備考持論の背後にありそうな要素

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の行動化(頁) 記述内容

企業も教育責任を負う(178-180)★L

私自身が構造改革の大きなテーマだと考えてきたのが教育問題だ。日本の明日を考えようとすると、どうしても教育の問題は避けて通れない。日本の教育が危機的状況にあるとすれば、その責任は学校や家庭だけでなく、企業も負うべきだと私は考えている。日本の企業は父親を仕事漬けにして、結果的に、子育てという重要な仕事を母親一人に押し付けてきたからだ。社員が仕事と袈逓のバランスを取れるよう、企業はきちんと配慮していかなければならない。

JA(ジュニア・アチーブメント―子どもが自らの責任で将来を決定できるよう、社会や経済の仕組みについて学んでもらうプログラムで、企業人が教師役を務める)支援組織の理事長に就任

チェック機能(社外取締役のような)(191)★O

戦後の日本企業には労働組合、銀行、役所など経営をチェックする存在が常にあったが、最近はこうした機能が弱くなってしまった。健全な経営にはやはり社外取締役のようなチェック機能が必要だ。そのために日本でも社外取締役が定着していくのは望ましい方向だろう。

リスクに見合うだけのリターン(報酬)で報いる(191-192)★B

経営者は厳しい監視下に置かれる分、それなりの報酬を得てもいいのではないかと思う。日本の経営者の報酬は、米国に比べてはるかにに低い。とはいえ、日本の経営者の報酬を米国ほど高くすべきとは思わない。だが、経営というのは頭脳と身体を限界まで酷使する仕事なのだから、きちんと働いて成果をあげている経営者には、リスクに見合うだけのリターンで報いてもいいと思う。

グローバルな舞台で通用する人材を育てる(193-196)★O

経済を見ても政治・文化を見ても、この国は「二つの日本(国際派と国内派)」が存在する。グローバルな視点で眺めると、こうした状況はあまりに異質だ。次の世紀に日本が世界と共生し、光り輝く国でいるためには、二つの日本を一つにしていく必要がある。では、そのために何をすればいいのか。突き詰めれば、グローバルな舞台で通用する人材の育成に行き着くと、私は信じている。

異質な要素を積極的に受け入れる(196)★O

二つの日本を一つにするには、これまでの日本にはない異質な要素を積極的に受け入れ、そこから日本を揺さぶっていくしかないのではないだろか。私が、日本IBMでやってきたことは、まさに「異」の立場から日本を一つにしようとする道のりだった。

成功体験に縛られない・自己否定を恐れない(196)L

私は以前から「若者、女性、地方、外国人」に期待するといい続けてきた。戦後の日本社会を作り上げてきたのが、「中高年、男性、中央、日本人」だとすれば、今必要とされているのは、そうしたいわゆるエスタブリッシュメントとは異なる人たちの発想だと思うからだ。成功体験に縛られたエスタブリッシュメントには、自己否定ができない。かく言う私だって、似たようなものだ。

66 椎名武雄

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)

落ちこぼれ(3) 家も学校も会社もすべて落ちこぼれ。

ボキャ貧(3)言わんとしていることが伝わらない。誤解を招く。きっちりしたことひとつ言えない自分が情けない。

人見知り(13、49) 本人の自己認識。具体例なし。 自伝を読む限りでは人見知りするような人物には見えない

部屋住みの三男(13)長男には帝王学。どうせ自分は期待されていない。ひがみ根性が染み付く。

窓際経験(13)長く窓際にいたので、会社のダメなところが手に取るようにわかっていた。ぬるま湯、部門内エゴ、無責任体質、国際意識の低さ、危機感の欠如などの問題意識。

後のドラスティックな変革行動の根っこにある経験。窓際だったから変革しやすかったと振り返っている。

母・繁子(28)伊勢商人の娘で一切無駄遣いをしない。小遣いもないし、洋服もお古ばかり。

我慢強い(29)小さい頃、大怪我をしても泣かずに翌日登校したことを褒められたのが嬉しかった。

自由放任(37-48)甲南の自由な学風。テストはカンニング。クラブ活動に情熱。大学へは行かずパチンコ、ジャズ喫茶、マージャン。

海外遊学(58-66) フランス。駐仏の役人との交流。イギリス語学留学。

まっすぐ(68)新潟での医薬営業。卸の在庫処理を目立たないよう少しずつやればいいのに、一括処理してしまい上司に叱られる。

新規事業の失敗(72-75)

食品事業部。クレープ屋の新規事業に失敗する。

佐治敬三(77) 仲人。

自然体でいく(77)★C仲人の佐治敬三さんの披露宴の席でのひと言「自然体でいきなはれ。自然体でないとあきまへん」を人生の指針としている。

仲人の佐治さんからの言葉。明示的に意識しているが、リーダーシップやモチベーションの持論より意味が広い?

目立ちたがり屋(79)横浜営業所長。「プラッシー」の売上日本一奪回へ向けて部下にハッパをかける。

現場のいい加減な仕事振りを目の当たりにした(79)

横浜営業所長時代。米屋の裏に錆びた王冠の「プラッシー」が山積みになっていた。前の営業所長の数字合わせの結果。

無気力職場にうんざり(80-81)

國男の赴任前、強化米の流通ルート開拓にことごとく失敗。だが、その原因究明はなおざりになっていた。そこで、失敗の原因分析と新製品導入を目的とした部門横断的組織をつくる。開発と営業のコミュニケーション不全、失敗にふれることはタブー、目立つとイジメにあう、見渡せば覇気のない顔ばかりといった問題点に気づく。

問題を放置しない(80)C

敗因を探らないで放ったらかしにしていては、また同じ過ちをおかす。(80)

無気力職場を見てきたことと、自身のクレープの失敗経験が根っこにある。

無責任上司に噛みつく(81)

「皆さん、部長でっせ。もっと責任もっていい事業部をつくろうやないですか」とかみついた。こちらもわめいた手前、柱になるような新製品をと知恵を絞った。(81)

上司としての責任感にまつわる持論が根っこにありそう。

反骨魂(83)新しい強化米を提案するも、旧商品とのカニバリ懸念から却下される。持ち前の反骨魂がうずく。

備考持論の背後にありそうな要素持論(頁)(生の言葉

には★)持論の行動化(頁) 記述内容

67 武田國男

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論の背後にありそうな要素持論(頁)(生の言葉には★)

持論の行動化(頁) 記述内容

土下座でお願い(85)「新玄」の発売。何としても世に出したかった。有力な卸に集まってもらい、会場の石畳の上に土下座して協力をお願いした。

やり遂げるためには、面子なんかどうでもいいという、強い達成志向の持論がありそう。

功労者の左遷(85-86)

「新玄」の功労者の安藤寛さんが妬まれて左遷。腐りきった組織だと思った。

「リュープリン」への路線転換(94-95)

米国合弁会社で推進中の抗生物質を癌治療薬「リュープリン」へ転換することを進言。経営幹部は全員反対。彼らは国際市場を分かっていないし、旧態依然としていた。自分は一歩も譲らなかった。結果、リュープリンはアメリカで好調に売れ出した。

アメリカ流ビジネスを学ぶ(95-97)

TAP社駐在。アメリカのビジネスマンの目標達成への執念、合理性、タフな交渉力、お金へのシビアさに敬服した。過酷なアメリカ市場に比べて、島国日本の意識がいかに遅れているか実感。

大きな学びがあったことを明示。

長期的な経営方針の欠如(101)

国際事業部。極めて重要な戦略部門のはずが何を目指し、何処へ行くのかという長期的な経営方針がなかった。信じられないことだ。

ちゃんとした仕事ができない(101)

勘とか直感は人より鋭いけど、緻密でない。 自分の弱点を自覚している。

自分ができないことは任せる(101)★L

私は勘とか直感とかは人より鋭いところがあるが、ちゃんとした仕事はできない。できる人を探し、その人に任せるのが私のスタイルだ。

弱点の自覚や父と小西さんとの相補的な関係を見ていることが影響している?

大企業病を痛感(103-109)

医薬事業部長。事業目標があいまい。「今までこうやってきたから」と惰性で進んでいる。利益額すら掴んでおらず、金銭感覚が著しく欠けている。研究所も論文ばかり書いて、企業の研究所として売れる薬をつくる「創薬」意識がない。

研究所改革のリーダー探し(107)

まず改革のプランを考え出し、引っ張ってくれる人を探さなければならない。私自身、この方面のことはさっぱりわからない。

「自分ができないことは任せる」という持論が根っこにありそう。

小西新兵衛会長(110)

役員になってから、小西会長から意見を求められる。逆に、こちらから会長の意見も聞く。経営トップとしての思考回路が見えてきた。

父と小西さんの絶妙なコンビネーション(110-111)

鷹揚な旦那タイプの父と実務家タイプの小西さんは以心伝心の間柄だった。

父・鋭太郎(111-113)庭の池の鯉をじっと見つめて動かない父の姿が目に焼きついている。経営者の孤独だったのだと気づく。

スピード(113)就任と同時に全速力で突っ走れるよう手を打っておこうと思った。徐々にスピードを上げてなどと悠長なことを言ってる場合ではない。

「危機感」が根っこにある。

ビジョンを示す(115)★L

経営改革をするに際して、何より会社の目指すべき方向、ビジョンを全社員にはっきり示すことが大事だ。

国際事業部や医薬事業部で部門の方針が曖昧だったから??

もうける経営(115-117)

株式会社である以上、株主利益を最大限追求しなければならない。もたれ合いのぬるま湯体質は許されない。成果をあげた人が報われる仕組みにしなければならない。商売、金もうけのフィロソフィーがなかった。私は最初から「銭、銭」と言っていた。何せもうけると。そして働けと。

アメリカでの経験、これまでの問題意識などが根っこに。

人がさぼるのが許せない性分(117)

人が働いてないのを見ると無性に腹が立つ。

68 武田國男

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論の背後にありそうな要素持論(頁)(生の言葉には★)

持論の行動化(頁) 記述内容

実行重視(117)L いくらお題目をつくっても実行しなければ意味がない。 現場の無責任体質を見ているから。

トップダウンで怒鳴りまくる(117)

現場で誰も責任を取る人がいないから、ボトムアップからトップダウンに変えた。

「実行重視」とのつながりが明示的。

ドラスティックな構造改革(118)

大幅な人員削減、早期退職優遇制度、不要な研究所、不採算事業のリストラ、医薬品の海外売上比率を50%にする、多角化部門のカンパニー制、成果主義人事制度。社員やOBから相当強い反発を受けたが、退かなかった。しかし、1万人の社員の生活がかかっていると思うと、眠れないこともあった。

「問題を放置しない」「実行重視」「信念を貫く」という持論が根っこにありそう。

信念を貫く(119)L私には、「上にいる者が考えをコロコロ変えたらいけない」との信念がある。

無責任体質からの教訓?もしくは、「新玄」「リュープリン」で周囲の反対を押し切って成功を収めているから?

範を示す(119)★L上にいる者が信賞必罰の範を示さなければ改革などできない。「偉い人たちは安全地帯にいて」と思われたら社員はついていかない。

創業家だからか?若い頃に無責任上司を見てきているからか?

私には企業はいつひっくり返るかもしれないという強迫観念がある。 アメリカの厳しい競争環境を見ているから?

がんと闘う(122-125)改革途上の会社の行く末、家や子供たちのあれこれを考えてるうちに頭が真っ白になった

小西新兵衛会長(129)

バブル期の財テクに走りそうになったとき、「絶対に本業以外に手を出してはいかん」と怒鳴られた。小西さんがいなければ、いまのタケダも私もなかった。

後継社長選び(131)当時最年少取締役だった長谷川閑史氏を後継指名。選定理由の第一は「公私混同のないこと」だった。

「公私混同をしない」という持論が背後にありそう。

公私混同をしない(131)L

「会社はお前のおもちゃじゃないぞ、このボケが」と心の中で怒鳴り続ける。

会社は株主のものという意識?創業家出身だから、特に意識していた?

ボキャ貧(133)財界活動で錚々たる経営者に囲まれると、きっちりした意見ひとつ言えない自分が情けない。

世襲を否定(134)子供に継がせたい親の気持ちもわかる。しかし、そのようなこをが許される状況でも時代でもない。幹部以上の子弟が入社できないという内規を定めた。

「公私混同をしない」という持論が背後にありそう。

父・鋭太郎(135) 書「運根純」、「行くに徑に由らず」という言葉。

祖父・重太郎(135) 社訓「規」

王道を歩む(135)★B二百年以上の歴史で築いた「くすりづくり」という王道を、誠実に愚直にコツコツと歩み続けることだ。それを内外のグループ各社に訴え続ける、いわば「伝道師」の役割こそが自分の仕事なのかもしれない。

祖父、父、小西氏といった人たちからの教え。

生き物が好き(135) 従順だし、文句を言わない。余計な気を遣うこともない。

69 武田國男

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)

オネスト(8)★C私の信条は「オネスト」。正直に、言うべきことを言い、やるべきことをやる。過去はない。未来もない。今を生きる。

戦死した人たちへの誓い(12)★M

食べ物への執念と悲惨な戦争を遂行させた精神主義への反感が骨の髄まで染み込んでいる。この体験を基に、私は日々の生活必需品を安心して買える社会をつくることを戦死した人々に誓った。

苛烈な戦争体験が原点。

坂本龍馬への憧れ(16-18)

世界を視野に、今日的な会社組織を作った起業家としても憧れている。時代を先取りする合理的精神や、藩という概念をいち早く捨てて薩長同盟を実現した町人的才覚に惹かれた。

商人としての父の姿(23)

父はお客さまが来ると、食事中でも何回も店に立った。夜中でも義務であるかのように店を開けた。盆、暮れ、正月もない。365日、24時間営業だ。父の商人としての大きな背中が幼心に焼きついた。

貧しい生活(23-24) 毎日の日銭で米を買うような貧しい生活。

戦争体験(24-34)

酷寒の満州。古参兵のしごき。嫌々ながらフィリピン転戦を志願。敵の手榴弾による大怪我。極限的な飢餓。死ぬ前にもう一度腹いっぱいすき焼きを食いたいと来る日も来る日も願った。なぜこんなにも多くの人が、何のために死ななければならなかったのか。草むす屍となった戦友の声なき声を今も聞き続けている。

負けず嫌い(37)戦後の闇市の熱気。闇屋たちが握っていた札束が目に焼きつく。「負けてたまるか」と闘志を燃やした。

自分の後ろには消費者が付いている(39)★M

薄利多売。メーカーから出荷停止を喰らいつつ、へこたれず自分の後ろには関西中の消費者がついていると信じて仕入れに奔走した。

「お客様のために」という意識。

中間商業排除の原則(43)

神戸高商時代に習ったこと。メーカーが力をつけるほど卸の存在は難しくなる。

商売の基本を教えられる(48)

千林にて。「口は悪いが、心は温かい」お客さまに商売の基本を教えられた。以来当社では、「お客さまは最高の教師」と決めている。

全米スーパーマーケット協会式典(54-56)

「スーパーによるローコストMDがアメリカの豊かさを支えている」というケネディ大統領の講演に感動。アメリカのチェーンストアの経営者との交流すると、相手の店舗数が桁外れで、チェーン展開のスピードアップの必要性を痛感。各都市のスーパーを見学すると、すべての創意工夫が買い手の立場から出発している。漠然と目指していた「豊かな社会」がそこにあった。

倉本長治(58) 「商業界」を主宰。セミナーでチェーンストア経営者を熱く指導。

店は客のためにある(58)★B

「伝統的なもみ手ではなく、店は客のためにあるという近代的精神こそ必要だ」。この言葉を倉本先生の墓碑から拓本を取って、驕りへの戒めとしている。

「商業界」主宰者である倉本長治氏の教え。

ダイエー東西分割騒動(62-66)

末弟の力専務と対立。会社を東西に分割する案が浮上。会社がなくなるかもしれないという恐怖を抱く。焦り。

備考持論の背後にありそうな要素持論(頁)(生の言葉

には★)持論の行動化(頁) 記述内容

70 中内功

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論の背後にありそうな要素持論(頁)(生の言葉には★)

持論の行動化(頁) 記述内容

三鬼陽之助(69)本を出版したことを叱責される。「経営者が本を書くことは自分の手足を縛ることである。書いた内容にこだわれば、時代の変化への対応が鈍くなり、経営判断にも曇りが出る」。

貧しいときに食べたライスカレーが忘れられない(72)★M

母親が貧しい家計をやりくりして大阪・梅田の阪急百貨店で25銭のライスカレーを食べさせてくれた。あの香ばしい味が忘れられず、今も私の事業欲を刺激する。

貧しさの体験が豊かさの飽くなき追求の原動力になっている。

小林一三(72)小林翁の発想に倣って、創業当初から全国展開と関連授業への進出を視野に入れていた。

西攻東進、全国展開(72-76)

福岡、瀬戸内海沿岸、首都圏への店舗拡大。 アメリカ見学、小林一三

出店反対運動に屈さない(74)

熊本での激しい反対運動。不屈の闘志で世論にアピールし、15万人の署名を集める。社内では「あきらめよう」という声も出ていたが、私は絶対にあきらめなかった。

負けず嫌い?ナショナルチェーンへの強い思い。

松下との戦い(76-80)

松下製品の安売りに対して、メーカー側が対抗策を講じてくる。松下側の対応は公取でも問題視された。ダイエーはPB商品の激安カラーテレビを発売。松下幸之助直々に安売りを止めるように諭されたが、「安売り哲学」を曲げなかった。

「戦死者への誓い」「自分の背中には消費者がついている」という思いが根っこにある。

山田無文老師(81)自分の進むべき道はこれでいいのか不安を感じ、精神的な救いを求めた。「社会が必要とするなら、あんたの会社はおのずと残る」。このひと言で命のある限り自分の信じる道をひたすら歩む腹を決めた。

事業家(83-84) 私は経営者というより事業家である。それが自分の本性だ。

業容の拡大(84-88)コンビニ、百貨店、カード、情報などへの進出。コングロマーチャントを目指す。

小林一三、ドラッカー

ドラッカー(87) 岐路に立つと『現代の経営』をボロボロになるまで読み返した。

事業の目的は顧客の創造(87)★B

ドラッカー教授の「事業の目的は顧客の創造」というひと言を信条としてきた。

ドラッカー

物価値上がり阻止運動(92-96)

物価高騰に苦しむ主婦のために、食品、肌着、日用品などの価格を凍結。買占めに遭う事態もあったが、それでも方針を変えずに商品確保に全力を尽くした。

自分の後ろには消費者が付いている

PB商品の開発(96-100)

メーカー製品を仕入れて販売するだけでは、価格を大幅に下げることはできない。「圧倒的な安さ」を実現した商品を自分たちでつくる。

自分の後ろには消費者が付いている

選ぶ自由があること(100)★B

私は「選ぶ自由があること」が豊かな社会の必要条件だと信じている。戦争体験や巨大メーカーによる寡占が根っこにある。

リッカー支援(104) 消費者保護の観点からリッカーの管財人に就任。

個性主義(109-113)★O

創造力に富む人材を育成するには、各人の「個性の最大限の開発」が必要である。

これも戦争体験?軍隊での精神論、抑圧的な環境?

流通科学大学の開学(110-113)

「流通を盛んにすることが世界平和につながる」という信念。それを若者に伝え、21世紀の流通を支える人材を育成したいという思い。教育理念は「個性主義」。

71 中内功

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論の背後にありそうな要素持論(頁)(生の言葉には★)

持論の行動化(頁) 記述内容

経団連(113-117)斉藤英四郎さん、平岩外四さん、豊田章一郎さんらとの交流。流通しか知らない私は、世の中の広さ、世界の広さを学ぶことができた。

メーカーと互角に渡り合いたい(125)B

ナショナルチェーンとして巨大な販売力を持つことによって、メーカーへの拮抗力を持つことができ、互角の立場で商品開発に取組むことができるという信念。

価格決定権を握ろうとするメーカーとの長年の戦いから得た信念であると明示(125)。

4社合併ダイエー、忠実屋、ユニード、ダイナハの4社を合併。ナショナルチェーン化を達成。

アメリカ見学、小林一三

生活必需品を適正価格で、安定供給し続けることが使命(131)★M

阪神大震災のとき、マスコミから「無料で商品を配らないのか」と問われ、唖然とした。商人が無料で商品を配るなどできるはずがない。生活必需品を適正価格で安定供給し続けることが使命だ。

自分の後ろには消費者が付いている

業績低迷(132-136)震災の影響、ハイパーマートの失敗、消費の低迷などによって258億円の赤字計上。

臥薪嘗胆(135)★M

執務室の壁面に「臥薪嘗胆」と大書きした。失敗も挫折もある。だが私もダイエーも創業の真っ只中にある。湊川の河畔で戦い、利あらず命を失った楠木正成ではないが、七度生まれ変わって、この国に住む人びとの日々のより豊かな暮らしに貢献していきたい。

経営失敗の戒め

常在創業、創意無限(135)★M

創業当時の千林のことを忘れるなという意味ではない。毎日毎日が創業であり、毎日毎日創意工夫をつづけなければならないという覚悟である。この執念が消えたとき、中内は「中内」でなくなり、ダイエーは「ダイエー」でなくなる。

経営失敗の戒め

すき焼き食いたい(142)★M

私は「すき焼き食いたい」の一念で飢餓戦線から生還し、食いたいものが腹いっぱい食える社会を作ろうと決意した。

戦争体験が根っこに。

72 中内功

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)

機械好き(夢を力に16)

なにしろ機械の動くのを見てさえいれば、しごくごきげんなのだった。

手先が器用(夢を力に16)

とにかく手先は器用な方で、物を造らせられればだれにも負けない自信があった。

電気工夫に感激(夢を力に16-17)

私が子供のころ、私どもの村にはじめて電灯がついた。そのとき私はペンチとドライバーを腰にした電気工夫が電柱に上っていろいろワイヤーをひねっている姿を見ていたく感激した。

自動車作りにあこがれる(夢を力に17)

小学校二、三年のころ、ある日学校から家に帰ろうと道を急いでいると、私の村に自動車が来たという話を耳にした。私は何もかも忘れてすっ飛んでいった。…そして僕もいつかは自動車を作ってみたいな、と子供心にもあこがれた。

貧乏なことで差別される(夢を力に21)

私の家は貧乏だった・・・隣の家は金持ちで五月の節句になるといつも弁慶とか義経の武者人形を飾るので、私はそれが見たくてしかたがなかった。しかし、見に行くと「お前みたいな子は来ちゃいけない」と追い返された。そのときのくやしさはいまでも忘れない。金がある、ないで人を差別する、なんでそうするのかと疑問を持ったことをいまだに覚えている。

平等(夢を力に21)★C金によって人間を差別するということは絶対に排撃する。これは現在の私の事業経営のうえでも、人間だれでも皆平等でなければならぬという考え方になって現れている。

貧乏なことで差別されたことからと明記。

帯の色でいじめられる(夢を力に21)

尋常小学校三、四年のことだった。その日は天長節で、学校では式があった。おふくろはカスリの着物のい上に、新しい青い色の帯をしめてくれた。私は得意になって学校へ行ったが、実はそれが母の帯だった。仲間はそれと知って「やーい、お前の帯は女の帯だ」とさんざん私をいじめた。私は泣いて家に帰った。そのとき以来、私は考えた。色に男の色と女の色の区別があるのはおかしい。

個性の大切さ(夢を力に21)C

人間は自分の個性でいくべきで、色とか、格好とかに左右されるべきではない。

帯の色でいじめられたことによると明記。

女房子供よりも従業員を優先(夢を力に60)

おやじさんにしてみれば従業員の給料のほうが優先なんだ。女房子供なんて後回し。そういう人だったんですよ。

二代目社長河島喜好によるエピソード。

新しさを求めた(夢を力に63)

「どこが新しいんだ?どこがヨソとちがうんだ?」と真っ先に聞くのが口癖だった。

二代目社長河島喜好によるエピソード。

輸出振興と合わせて輸入防止を政府に頼むため民間業者の会合があった(夢を力に79)

二十六年ごろ、輸出振興と合わせて輸入防止を政府に頼むため民間業者の会合があった。だが私はそれに参加しなかった。輸出を政府に頼み、そのうえさらに輸入防止まで依頼しようという安易な道を選ぶことに強い反発を感じたからである。これはわれわれがあくまで技術によって解決すべき問題である。

良品に国境なし(夢を力に79)★B

私は“良品に国境なし”のことばを身を持って実現しようと決心した。技術を高め、世界一性能のいいエンジンを開発して輸入を防ぎ、輸出をはかろうというわけである。

輸出振興と合わせて輸入防止を政府に頼むため民間業者の会合があったことに対する思いとして明記。

備考持論の背後にありそうな要素持論(頁)(生の言葉

には★)持論の行動化(頁) 記述内容

73 本田宗一郎

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論の背後にありそうな要素持論(頁)(生の言葉には★)

持論の行動化(頁) 記述内容

思想の大切さ((夢を力に93)C

私はすべて思想によって技術をみちびく方針をとっている。

共生(夢を力に93)B現地に工場を建てたからにはまずその土地を富ます方法を考えねばならぬ。

働きよい環境の大切さ(夢を力に95)L

働きよい環境にするのは経営者の義務でもある。

若い人たちに工場建設を任せる(夢を力に96-97)

この工場建設について私や専務はいっさい口出しをせず、決めたのは土地だけ。若い者の創意と生命力に強く期待してちゅうちょなくこの大事業のすべてを彼らにまかせる気になり、“全社員の創意くふうで鈴鹿にモデル工場を作れ”と指令を出した。すると平均年齢24、5歳の連中が各職場からチエを出してきた。建築関係者は建物について、技術研究所の連中は技術的なアイデアを、というぐあいにそれぞれの技能、持ち場に応じて適切なアイデアを出し合い、ついに100億円に近い大工場を無事完成させたのである。鈴鹿製作所は若い人たちの集大成であり、世に誇りうることと思う。

若い人を評価(夢を力に97)L

私は若い人たちを高く評価している。若い人たちに工場建設を任せることにつながっていると明記。

スジを通す(夢を力に97-98)★C

私は一見とっぴなことをやっているようでも、どんな場合でも絶対にスジを通す。

労使一体(夢を力に101)★O

私はつねづね従業員は全部経営者である、だから経営に参加する権利と義務があると言っている。生産調整をしなくてはならぬようなときにも、はっきり実情と今後の対策を明示して全社員がいっしょに困難を克服することにしている。こういう姿が真の労使一体というのではないかと思う。

平等(夢を力に102)★O

私は会社経営の根本は平等にあると思う。

社長が陣頭指揮をする必要はない(夢を力に102)L

社長というものは重役会で決定したことが手順よく行なわれているかどうか全体を監督し、突発事故が起きたときにはよく対処されているかどうか、もし対処されていなければ役員に相談して適切な打開策を検討するのが役目である。それさえスムーズに行なわれていれば何も陣頭指揮などする必要はない。

本社にときたましか顔を出さない(夢を力に102)

私は本社へもときたましか顔をださないし、社長の実印も見たことがないから四角か三角かも知らない。

社長が陣頭指揮をする必要はないという考えからと明記。

民衆の犠牲の上には英雄は成り立たない(夢を力に103)L

私の英雄観を言えば、民衆の犠牲のうえにことを成した過去の英雄を私はとらない。たとえば西郷隆盛は、英雄ではあろうが、最後が気に入らない。どういう事情があったにせよ、万を数える貴重な青年の命を道連れにしたからである。

政府の命令では動かない(夢を力に113)O

うちは株主の会社であり、政府の命令で、おれは動かない。

担当者に直接指示(夢を力に136)

本田は毎日、技術研究所に顔を出し、担当者に直接指示を出した。 エピソード

74 本田宗一郎

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論の背後にありそうな要素持論(頁)(生の言葉には★)

持論の行動化(頁) 記述内容

文献ばかり読んで行動しないスタッフを怒る(夢を力に141)

文献ばかり読んでいるスタッフを見て、本田は「お前らはもたもた考えているばかりで何も行動を起こさない。おれだったらすぐにやってみる!」といつもの調子で怒鳴った。

エピソード

常識は破るためにある(夢を力に183)★C

常識は破るためにある。

私は、わが社のモットーとして「3つの喜び」を掲げている。すなわち3つの喜びとは、作って喜び、売って喜び、買って喜ぶ。(215)

モットー

模倣はあくまで手段(夢を力に223)★B

模倣はあくまで手段であって目的ではありません。

理論の大切さ(夢を力に226)C

当時「一生懸命」が尊ばれたが、単なる一生懸命は何ら価値がない。否、誤った一生懸命は怠惰よりもかえって悪い。一生懸命には「正しい理論に基づく」ことが欠くことを得ない前提条件である。

部下への配慮(夢を力に238)L

監督者は部下の得意なものを早くつかんで、伸ばしてやる、適材適所へ配置してやる。

自分のために働け(夢を力に250)M

私はいつも、会社のためにばかり働くな、ということを言っている。

責任感(夢を力に251)O

責任の持てないような人は、すぐ辞めてもらいたい。

夢、若さ、理論、時間、アイデアを尊重(夢を力に253)O

ホンダは、夢と若さを持ち、理論と時間とアイデアを尊重する会社だ。とくに若さとは困難に立ち向かう意欲、枠にとらわれずに新しい価値を生む知恵であると思う。

人間の和(夢を力に255)★O

半端な者同士でも、お互いに認め合い、補い合って仲良くやっていけば、仕事はやっていけるものだ。世の中に完全な人間などいるものではない、自分の足りないもの、できないところを、まわりの人に助けてもらうと同時に、自分の得意なところは惜しみなく使ってもらうのが、共同組織のよい点で大切なところだと思う。「人間の和」がなければ企業という集団の発展はおろか、維持さえもできないことを充分認識してほしい。

荒っぽい(おもしろからやる16)

天下の争いをやったところなので、なんてったて浜松の血は荒っぽいですよ。私もその例に洩れない。

人より早く(おもしろからやる19)★B

発明なんてものは「人より早くやる」のが基本でしょう。 荒っぽい性格と関係ありと明記。

正直(おもしろからやる22)★C

私は何事にも正直でありたいんです。

若い人に任せる(おもしろからやる24)L

次の人にすべてを任せ、若い人が徹頭徹尾納得できる仕事をやってもらおうと思って。

会社は自分の物ではない(おもしろからやる24)B

本田技研は、たまたま私の「本田」という名前をつけちゃったから、世間では私のものだと考えているかもしれないが、それがとっても嫌なんですよ。

75 本田宗一郎

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論の背後にありそうな要素持論(頁)(生の言葉には★)

持論の行動化(頁) 記述内容

子供は会社に入れない(おもしろからやる24)B

副社長だった藤澤と「お互いに子供だけは絶対、本田技研に入れないことにしよう」と誓い合ったんですよ。

技術だけじゃだめだ(おもしろからやる43)★B

私はね、十代の時、自動車の修理やをやって「技術だけじゃだめだ」と気がついたんです。

お客さんは苦労していらいらしているのが普通(おもしろからやる43)

車を壊したお客さんは、修理屋へ来たり電話で連絡してきたりするまで、さんざん苦労し、いらいらしているのが普通ですよ。

技術だけじゃだめだということにつながると明記。

自由にのびのびと育ててくれた、良いことと悪いことのけじめをきちんと教えてくれた(おもしろからやる56)★

今になってよかったなと思うのは、親は子供に対して放任主義というんじゃないけれど、自由にのびのびと育ててくれたことですね。そのくせ私のやっていることをちゃんと見ていて、良いことと悪いことのけじめをきちんと教えてくれた。その点、おやじは学問なんかなかったけど、偉大なる教育者でしたよ。

時間に関する躾(おもしろからやる56-57)

(おやじは)時間には厳しかった。約束した時間に間に合わないと、えらくしかられたものですよ。

( ) 内研究者補筆。

長男だから家業を継ぐというのはおかしい(おもしろからやる69)★B

長男だから家業を継ぐというのはおかしいね。それ自体、徳川三百年来の固定した考え方ですよ。

人間が人間を評価することはできない(おもしろからやる75)L

私は人間が人間を評価するのをやめたほうがいいと思っている。

創造性(おもしろからやる78)C

教わったことをおうむ返しに言うだけで、レコードと同じなんだ。私はいろいろなことをよく覚える子を「いい子」なんて言うのは嫌だな。知識を応用して進歩させるところに、教育の本当の目的があるんじゃないでしょうか。

非人間的な鍛え方は良くない(おもしろからやる83)M

ああいう非人間的な鍛え方(昔の徒弟制度)は今の若い人に対しては、やるべきじゃないな。本人が納得してやるというのなら別だけど。

( ) 内研究者補筆。

時代が変わったことの認識が必要(おもしろからやる84)L

(昔、オレはこんなに苦労したんだから、お前たちもこのくらいはやれ、という人)はおかしいですよ。時代が変わったってことを認識しないといかんですね。

( ) 内研究者補筆。

仕事を認められる(おもしろからやる91)

帰りは団長さん以下が、プラットホームで最敬礼して汽車を見送ってくれたんですよ。

技術の有難さ、尊さ(おもしろからやる91)★M

その時ぐらい「技術」の有難さ、尊さを感じたことはなかったな。団長さん以下が、プラットホームで最敬礼して汽車を見送ってくれたことからと明記。

自分の行いが哲学、宗教(おもしろからやる95)C

私はね、自分の行い自体が哲学であり、宗教であると考えているんです。

論理、哲学の大切さ(おもしろからやる96)L

たとえ宗教と名がつかなくても、だれが聞いても「うん、そうだ」と納得する、論理というか哲学というか、そういうものを上に立つ者は持っていないと、何万人という社員を引っ張っていけるもんじゃありませんよ。

76 本田宗一郎

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論の背後にありそうな要素持論(頁)(生の言葉には★)

持論の行動化(頁) 記述内容

哲学の大切さ(おもしろからやる98)L

経営者には確固たる哲学がなければいけない。

逆境の時が一番の修行期間(おもしろからやる98-99)

みんながどう思っているとか、人間どうやって生きたらいいかと、随分悩んだね。今、考えると、逆境の時が一番の修行期間だったですよ。「困ったな」ということがいかに多いかが、私を育ててくれた力になったと思うね。

哲学の大切さにつながると明記。

若い従業員に教えられる(おもしろからやる102)★L

私なんか古い人間だから、今では若い従業員に教えられることが多くてね。これは非常に大事なことです。時代がどんどん変わって行ってますからね。

友人の大切さ(おもしろからやる107)M

友達を見れば人物が分かるって、よく言うでしょう。私だって仕事を途中でなまけたくなることがあるけれど、友人から手紙が来たり、電話がかかってくると、「あ、オレがしっかりしていないと、この人も悪口を言われちゃうな」と、すぐ反省するんです。

自動車修理店をたたむ(おもしろからやる120)

五十人の従業員を抱えるほど繁盛していた店を閉じて、一から出直し インタビュアーの質問より。

弟子たち思い(おもしろからやる121)B

同じ仕事を7,8年もやってると弟子たちがだんだん育って独立し、店を持つようになって、私とは商売敵になるでしょう。それも嫌だったんです。

自動車修理店をたたんだ理由の一つとして明記。

トヨタ自動車の下請けを断る(おもしろからやる128)

トヨタ自動車から「引き続き部品の生産をやらんか」という話はあったのですが、下請けみたいな仕事はもうあきあきしていたので断って、会社の株を全部トヨタに買ってもらい、きれいさっぱりに縁を切ったんです。

正直(おもしろからやる130)M

われわれ日本人として進むべき基本がわからないのに、商売するのは嫌だったな。人には嘘をついて、納得させることは出来ても、自分の気持ちは納得できませんからね。

日本の復興と商売の共生(おもしろからやる133)M

日本の復興にも役立つし、商売にもなるしね。

。いろいろな性格、能力を持った人と一緒に仕事をした方がいい(おもしろからやる144)★O

私は自分と同じタイプの人間なら、いらないんです。いろいろな性格、能力を持った人と一緒に仕事をした方がいいという信念は今でも変わりません。性格の違う人とお付き合い出来ないようじゃ、社会人としての価値がないな。

借金で買った機械の償却を早めるため、がむしゃらに操作をマスターさせる(おもしろからやる150)

借金で買った機械の償却が遅くなるでしょう。だから、機械据付工場の地盤を、あらかじめ整備して、機械が入ったその日からスイッチを入れて動かす状態にしておいてね。がむしゃらに操作をマスターさせてしまったんです。

時間の大切さ(おもしろからやる150)C

うちの会社が時間をやかましく言い、大切にする習慣を作るもとになったと言えますね。

借金で買った機械の償却を早めるためということからと明記。

77 本田宗一郎

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論の背後にありそうな要素持論(頁)(生の言葉には★)

持論の行動化(頁) 記述内容

論理の大切さ(おもしろからやる163)C

私だってむやみに人をなぐったわけじゃない。何かをする時に論理がなくちゃならんはずなのに、理屈に合わないことを平気でやられると、無性に腹が立ったんです。論理なしでやられたら、たまったものじゃないですよ。

自然体(おもしろからやる165)L

演技はすぐバレますよ。「オレは本当に怒っているんだぞ」って怒るんです。自然ですね。

平等(おもしろからやる166)L

私はあんまり人をほめませんね。ほめる時は「あ、これは案外いいじゃないか」といった程度に、ごく自然にね。ほめるのがむずかしいのは、だれかをほめると「あんなことならオレもやった。あいつをほめて、オレの時にはなぜほめないんだ」と思う人が必ずいるからです。人間だれだって、うぬぼれが強いからね。ですから私は「お前は偉い」なんて、人前で言ったことはいっぺんもありません。

探究心が旺盛(おもしろからやる176-177)★

この店はこれじゃだめだとか、もっと繁盛するだろうとか、お茶の出し方一つ、あいさつの仕方一つで分かるんですよ。灰皿の置き方にしたって、「あ、これは親切だな」と思ったりしてね。そういうことを発見するのが楽しみなんです。

公私の分離(おもしろからやる190)B

私は家庭と仕事場をはっきりとしないと嫌なんです。だから家庭では絶対に会社の人を使いません。どんな場合でも。

上役のために働いているのではなく会社へ勤めている(おもしろからやる192)L

「上役のところに何かを持って行かなきゃならん」という心配は、うちにはないはずです。会社へ勤めているのか、上役のために働いているのか、分からなくなっちゃうからね。

人を犠牲にして英雄にはなれない(おもしろからやる197)L

近代の英雄というものは、人の犠牲の上に成り立つもんじゃない。

自分のために働け(おもしろからやる198)★M

私はみんなに「自分が幸福になるように働け」って言っているんですよ、いつも。会社のためじゃなく、自分のために働けって。会社は二次的なものですよ。

自分の幸せのために(おもしろからやる200)M

われわれが技術を研究するのは、人間の幸せのためにやっているんですね。

自由にのびのび(おもしろからやる201)M

技術の根本は礼儀なんです。相手を尊重することから、あらゆることが始まるんですよ。経営だって、相手を尊重しない企業は絶対に伸びませんね。嫌われるだけ。そういうことをこの学校ではまず仕込むんですが、それでいて厳しくはないです。自分の好きなことは勝手にやっていいんです。決して先生のほうから押しつけない。ですからきちんとしている反面、のびのびしている。

人作りの大切さ(おもしろからやる203)B

メーカーこそ人間を作らなきゃだめです。

78 本田宗一郎

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論の背後にありそうな要素持論(頁)(生の言葉には★)

持論の行動化(頁) 記述内容

人間を理解するのが技術の根本の原則(おもしろからやる207)★B

技術屋がなぜ尊いかというと、人間に必要だから尊いんで、もし何の役にも立たないものだったら価値はない。やはり人間を理解するのが技術の根本原則で、人間を本当に考えない技術は技術でも何でもない。ですからどんなにいい技術をもっていても、人間のために表現しないんなら、技術がないのと同じなんだ。

こだわるくせがない(おもしろからやる209)

大体、人間というのは、物を知ったり、あるポストにつくと、それにこだわるくせがある。私は幸いこだわるくせがないから、職人で終わらず、こうやって来れたと思うね。

後継者はもっとも適任だと思われる人を選ぶと話していた(語り継ぐ経営28)

本田さんは、日頃から、社長の後継者は、全世界の中からもっとも適任だと思われる人を選ぶんだと話していた。

エピソード

ユニークさを求めていた(語り継ぐ経営30)

本田さんは、「物真似をするな、人真似をするな」が口癖で、たえず、社員にユニークさを求めていた。

エピソード

自らの体験によって自身をつけさせるという指導方針(語り継ぐ経営58)

だれもが敬遠するような難問題に対して挑戦させ、自らの身体で体験させることによって、本人に自信をつけさせるという指導方針であった。

エピソード

病気になっても永久に面倒を見る制度を要請(語り継ぐ経営69)

本田・藤澤のお二人は、病気になっても永久に面倒を見る制度を作れと、強く要請された。

エピソード

79 本田宗一郎

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)

従業員は一人も減らさない(33)★B

生産は即日半減するが従業員は一人も減らさない。

この世の貧しさを克服(36)★M

生産者の使命は、…この世の貧しさを克服することである。

商売は真剣勝負(36)★B

商売は真剣勝負と同じで、切られているうちに成功することはあり得ない。

積極主義(37)★ 私は万事積極主義だ。

モーター部門の設立(37)

モーターメーカーが一つもなかったので私は必要だと考え、この創設を発表した。

PHP運動を始める(42)

私はPHP運動というものを始めた。

ともに繁栄の道を歩みたい(42)★M

この混沌とした世相をなんとか根本的に直したい。人間性に立脚した、素直な正しいものの見方で、社会の諸制度の本来のあり方を考え、ともに繁栄の道を歩みたいと念願して…。

PHP運動を始めた理由として明記。

産業を通じてのわが国の再建(45)M

世代に生きるわれわれ産業人は、産業の復興を通じて、わが国の再建を成し遂げなければならない。

民主主義は繁栄主義(52)C

民主主義というものは繁栄主義だ。

経営に対する正当な価値(58)B

私は経営の価値を正当に評価すれば、特許料や技術指導料と同じように、当然、これは主張してもよいことだと思う。

よいものを社会に供給したい(62)★M

単に相手に勝てばよいという気持ちから生まれたものではなく、お互いの切磋琢磨によって、少しでもよいものを社会に供給したいと願う、全員の熱意と真剣みが、このような声価を世に示したのだと思う。

アメリカの一流メーカーは機械を自社で考案していることを知る。

アメリカで 新式だという乾電池の製造機械を買ったが、二度目の渡米で、ある乾電池工場を見学して、さきに買った 新式だという機械が、その工場では一番古い機械になっているのを見て驚いた。一般に売っている機械は平凡なものであって、一流メーカーは自社で考案した機械をもち、それを門外不出にして公開しない。

本当の考案は自らの考案、労作によるものである(63)C

自主的な気構えなしに教えをうけようとしたり、自らの意思なしに他人の力や金に頼るのは力の弱いものである、自らの考案、労作にあらずして、本当の考案はあり得ないことを痛感したのである。

アメリカの一流メーカーが機械を自社で考案していることを知ってと明記。

借金のある会社の再建を引き受ける(67-68)

あのマーク(日本ビクター)はすでに戦前から、小さい子供にまで親しまれている、いわば伝統ある国民的な“のれん”である。その“のれん”が消えるか消えないか、そのマークの値打ちを考えたとき、私は膨大な借金はあるけれど、あえてこれをお引き受けようとした。

( ) 内研究者補筆。

新政治経済研究会発足(68)

私が提唱して志を同じくする者が相集まり、新政治経済研究会というのが発足した。

アメリカ旅行で、繁栄の社会を築くためには民主主義の健全な発展、普及を心がけなければならないと強く肝に銘じたことからと明記。

博愛、平和(71)★M持てるものを他に与えるという博愛の精神からも、また、国土の平和のためという崇高な理念からも、堂々とこれを実行すべき…。

備考持論の背後にありそうな要素持論(頁)(生の言葉

には★)持論の行動化(頁) 記述内容

80 松下幸之助

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論の背後にありそうな要素持論(頁)(生の言葉には★)

持論の行動化(頁) 記述内容

世の中に対する奉仕(75)M

われわれは世の中に奉仕するという崇高な義務に基づいて、仕事をやっているのでありまして、名誉とか成功とか、そういういわば私的な欲望から発しているものでは断じてないのであります。

先ずは自国内を満たした上で、貿易する(81)B

そもそも貿易の本質というものは、自国内の求めを満たした上で、それでもなお余裕があれば、それを他に分け与えるというところにあると私は思う。

相手国の身になって考え(84)★B

私は貿易によって、自国も相手国もともに繁栄しなくてはならないと思う。そのためには、相手国の身になって考え、相手国に喜んで受け入れられるものを工夫し、生み出していかなくてはならない。

労働の能率の向上、人生を楽しむ時間を増やす(87-88)C

八時間の労働では相当疲れるということになります。ですから、五日間働いて一日は余分に休まなければもとに戻らない、…。…それとともに、やはり人生を楽しむという時間をふやさなければならないということのために、二日の休日のうち一日をあてるのです。

「週五日制」の導入(89)

昭和四十年四月に、松下電器は「週五日制」へと移行するのであった。労働の能率の向上と、人生を楽しむ時間を増やすためと明記。

経営は、発展と幸せのため(103-104)B

国の経営の意図するところは、その国の発展、繁栄であり、国民の幸せである。

自己評価の大切さ(104)L

経営者に、 も大切なことは、正しい自己評価ができるということである。

過当競争は罪悪である(105)B

企業の過当競争も、いわば罪悪であると考えていいと思う。

「われわれも悪かった。これからはお互いに心を入れ替えて、しっかりやろう」と言ってくれる人が続出した。(114)

(全国販売会社・代理店社長懇談会において)「われわれも悪かった。これからはお互いに心を入れ替えて、しっかりやろう」と言ってくれる人が続出した。

( ) 内研究者補筆。

性善説(114)C人間の性は、やはり善なのだ、相手の立場に立って素直に話し合えば、必ず有無相通ずるものがある。

全国販売会社・代理店社長懇談会において)「われわれも悪かった。これからはお互いに心を入れ替えて、しっかりやろう」と言ってくれる人が続出したことよりと明記。

事務用大型コンピュータをやめる(115)

松下通信工業でやっていた事務用大型コンピューターを、このとき、きっぱりやめると宣言したのである。

過当競争は罪悪であるということよりと明記。

素直(117)★C会社の経営でも何でも、素直な心で見るということがきわめて大事であると思う。そうすれば、事をやっていいか悪いかの判断というものは、おのずとついてくる。

強い心(124)★Mそういうことをやらねばと決意すれば、それなりにできるものです。あなたは、もっと強い心をもたないとだめですよ。

先手を打つことが大事(128)B

会社の経営も先手先手を打っていかねばならない。そのことが、全員の理解と協力を生み、一見、夢に思えることでも実現できるのである。

81 松下幸之助

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論の背後にありそうな要素持論(頁)(生の言葉には★)

持論の行動化(頁) 記述内容

精神面での若さ(129)★M

精神的には何歳になろうとも青年時代と同じように、日々新たな希望にみち、勇気を失わずにみずからの使命達成に取り組むという気持ちを持ち続けることができるはずだ。その精神面での若さというものを決して失いたくないというのが、かねての僕の願いなのである。

常に何が正しいかを考えて淡々とその道を歩んでいかなければならない(133-134)★B

そういう激しい競争の中にあっても、松下電器は単に競争そのものにとらわれず、常に何が正しいかを考えて淡々としてその道を歩んでいかなければならない。

経営とは芸術なり(137)★B

『経営とは芸術なり』という見方もできる

過疎地に工場を建てる(151-152)

これからは、積極的に地方へ工場を立てて、若い人たちに郷土で働ける機会を与えてあげないといけない。…人口の過疎過密を解消する一つの方策として、ぜひこれはやらなくてはならない。…経済性は第二義としても、過疎地に工場を建てていこうと決心したのである。

礼節を重んじ、謙虚な態度で(164)★B

私は創業会長として“社会のすべての人々を師表と仰ぎ、大事なお得意様と考え、常に礼節を重んじ、謙虚な態度で接すること”を強く要望したのである。

82 松下幸之助

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)

認めてくれる人の存在(14)

まだ年も若くしかも大恐慌の最中という時代に、才能を認められ信頼を受けたことは、我々にとって自信になり、進路を決めるうえで支えになった。

自由な家庭環境〈16〉 私の両親は才能の芽を摘むようなことは決してしなかった。

幼少期から実験好き〈16-17〉

私は爆薬にも興味があった・・・ラジオにも興味をひかれた・・・

コーチの教え(23)

その場合(注:両チームに等しくいい選手がそろっている場合)、チームワークがきわめて重要になる。特にそれは一瞬のプレーに現れる。選手の質も、チームワークも互角のときは、勝つ意思の強いチームが有利だという。

チームワークと勝つ意志が大事である。の持論との関連が明示的。

チームワークと勝つ意志が大事である。(23)L

私はこのアドバイスを覚えていて、HPを設立し、経営するときの指針とした。それは、すぐれた人材を集め、チームワークを重視し、勝負に勝とうという意志を喚起することである。(p23)

勉強優先(24)陸上競技部はやめることにした。勉強の時間が少なくなるからだ。私はスタンフォードに勉強しにきたのであって、スポーツをしにきたのではない。

優先順位のつけ方に強い意志と決断力が感じられる?

スタンフォード大での4年間のフットボール経験(25)

この経験から勝てるチームを作る方法についての考えが深まった その「方法」についての明確な記述はない。

忙しい好き(25ー26) いつも忙しく動いているのが好きだった

理論とビジネスのつながりを重要視する(36)

ターマン教授がこう言ったのが印象的だった「…理論的基礎のある人のほうが、ビジネス・チャンスはもっと大きいはずだよ。」

GEでの経験(39)やがて、エンジニアリング部門から工場の作業員に与える指示が不十分なため、全ての手順が正しく実施されていないことがわかった。

直接コミュニケーションの重要性の持論との関連が明示的。

直接コミュニケーションをとることが必要。(39)L

このことは重要な教訓となった。紙に書かれた指示だけではなく、直接コミュニケーションをとることが必要なときもある。

循環管理(MBWA)との関連が明示的

循環管理(MBWA)(39)

これがHPの「循環管理」の発端だった。

個々人を評価する(74)L

一人一人の貢献を認めたかった 報奨金制度との関連が明示的。

報奨金制度(74)

ビルと私は、戦前から従業員全員に報奨金制度を実施していた。これはゼネラルラジオから学んだことだった。・・・ゼネラルラジオの制度は、エンジニアのみに適応されていた。しかし、ビルと私はHPの従業員全員を対象にすべきだと考えた。

チームワークを奨励(75)★L

チームワークを奨励し、従業員の努力と企業の成功を結びつけてきた。

報奨金制度との関連が明示的。

長期的な借入には頼らない(75)★B

ビルと私は、利益は再投資し、長期的な借り入れには頼らないように決めていた。

この持論を守るため、再調整局と交渉する

備考持論(頁)(生の言葉

には★)

持論の背後にありそうな要素持論の行動化(頁) 記述内容

83 D.パッカード

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の背後にありそうな要素持論の行動化(頁) 記述内容

再調整局との交渉(75)

こうした理由から12パーセントという自己資本利益率を受け入れるわけにはいかなかった。それはワシントンに申し立てる必要があると言われたため、その通りに手続きし、政府との契約によって、主張はほぼ全面的に認められた。

焦点を定める(77)★B

このように焦点を定めることは初期だけではなく、後々まできわめて重要なことだったと考えている。・・・自分たちが十分にこなせる仕事だけを受け、品質の高い機器を設計・製造できるようにベストをつくし、確固たる基盤を築くべきだと考えていた。

牧場主になる(86) 私ははじめて牧場主になった。 そっとオスの持論と目関連が明示的

そっとおす(86-87)L何度も失敗を繰り返したすえ、後ろからそっと押すのが一番いいことに気づいた。・・・この教訓は経営者の仕事にも生かされた。

組織の弱点に直面(95)

一九五六年までの急成長のなかで組織面の弱点が表面化した。弱点の内容に関しては具体的記述無し組織構築との関連明示的

組織の構築が重要(95)O

今後も成長は続く見通しだったので、そろそろ会社の組織をしっかり構築し、目標を責任を定めるべきだと考えた。

ソノマ会議の開催とそこでの目標の作成との関連が明示的

製品開発部門の再編成(95-97)

・・・効率のいい少人数グループに分けるべきだと考え・・・グループ化によって、エンジニアは担当部門の製品開発のみに集中し、その分野の営業担当と密接に協力して、顧客のニーズや意見をつかむことが出来るようになった。

参加的経営(98)Lビルと私は管理者や監督者の指針となる目標を明文化するのなら、彼ら自身が目標の作成に加わるべきだと強く感じていた。

企業理念(組織の目標)の作成・すり合わせを目的とするソノマの会議の開催と関連が明示的。

ソノマの会議(97)1957初めに起きたもうひとつの重要なできごとは、上級幹部が初めて社外で行った会議である。

この会議の目的として上げられた3点は、組織構築上重要であることつまりリーダーシップの持論であると解釈できる

直接コミュニケーションが重要(97)L

少なくとも年に一回、主だった幹部を一同に集め、方針や問題点を話し合ったり、意見を交換したり、将来の計画を立てたりするのは、いいことだと考えたためである。

ソノマの会議の目的の1つ目

小企業のような雰囲気(97-98)★O

・・・われわれは、会社が成長しても、小企業のような雰囲気を守ること・・

ソノマの会議の目的の2つ目

スタイルや目標の共有(117)L

・・・幹部にこの経営スタイルと目標をよく知ってもらうことが必要・・・目標に賛同し、これかrしようとしていることに理解が得られれば、それを実行に移し、共通の方向へ進むことができるだろう

ソノマの会議の目的の3つ目

企業理念(組織の目標)の作成

組織、つまり、ある程度の期間協同作業をしてきたグループの間では、理念、価値観、、伝統と慣習が作られる。・・・われわれには価値観がある。目標を達成し、互いに協力し、顧客や株主に対応するときの指針となる固い信条がある。企業目標は、これらの価値観にもとづいて作られた。目標は日常の意思決定のための指針となっている。われわれは目標を達成するために、さまざまなプランや慣行を取り入れている。これらの価値観、企業目標、プラント慣行を合わせたものが「HPウェイ」である。

ここで、7つの「HPウェイ」が提示され、以下の章ではそれぞれについて述べられる。7つを箇条書き的に書き出すと、①利益②顧客③事業④成長⑤従業員⑥組織⑦市民性

84 D.パッカード

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の背後にありそうな要素持論の行動化(頁) 記述内容

利益の再投資による成長(101)B

企業が何か他の目標を達成するには利益を生まねばならない。・・・事業によって得た利益は、企業が成功し、成長するための資金源である。将来の機会を用意し、雇用を保証するための基盤である。・・・HPの長期方針は、利益の大部分を再投資すること・・・

HPウェイ

借金に対する嫌悪感(102)

資産に抵当権を設定していた場合、銀行が抵当権を行使し、企業には何も残らなかった。借入をしていなかった企業は、きびしい時期ではあったが、資産は無事に残り、不況期を乗り切ることができた。

この経験と「長期借り入れに頼らないという持論の関連が明示的また、ひいては利益の再投資という持論につながっている?

苦しい時ものりきる(104~105)

手元資金に限りがあったため、約一億ドルの長期借り入れを行うことを真剣に検討していた。・・・しかし、私は、社内の規律を強化することによって事態を改善できると確信していた。(以下要約)資産管理・コスト管理を徹底するため、社内の規律を強化する。そのために主要部門のほぼ全員のところをまわり、何人もの管理者と会って言い聞かせた。

長期借り入れに頼らないという持論との関連明示的

絶え間ない注意と厳しさ(105~106)★B

このときの経験からみても、成長を手元資金でまかなうには、絶え間ない注意と厳しさが必要であることはあきらかだ。

長期借り入れに頼らないという持論を守るための苦しい時を経験したこととの関連明示的。

株主への責任(106)★B

株主や投資家との関係を大事にすることである。この点で最大の目標は、利益と自己資本を着実に伸ばすなど、一貫した業績を上げることである。

利益の再投資による成長の章の中で語られているため、それとの関連が明示的であるといえるであろう。

長期的視点(108)B長期的には、これらの分野をないがしろにしたことで、手痛いツケを払うことになるだろう。・・・絶え間ない注意と厳しさ

低価格戦略をとらないという行動との関連明示的。

低価格戦略にをらない(110)

(以下要約)1972年卓上計算機「モデル35」のケース。高くても価値があるものは売れる。シェア獲得を狙って低い価格設定をした競合が出たが、長期的なコストの削減で利益を確保。

革新による成長(114)B

HPが特定の分野にかかわるかどうかを決めるかぎは「貢献」である。

革新性を見抜く

(以下要約)1960年代のLEDの開発;実用可能でありながらこれを使おうするする部門はなかった。しかし、結果的には、1972年の卓上計算機を皮切りに将来、自動車全てが用いるようになるだろうと考えるほど、実用化された。

革新性があり、貢献できる価値があると考えれば開発を続けるという革新による成長という持論の適用として明示的

ヒューレットのマネジメント方法に学ぶ

このプロセスでプロジェクトが採用されなくても発明者には満足感がある。これは熱意と創造性を持続させるには、きわめて重要なことだ。(p119)

ノエル・エンドリッティの言葉を引用(133)

「何でもわれわれの言うとおりにするのではなく、顧客の立場を支持してもらいたい」

顧客のニーズにこたえる(132)B

顧客ニーズにこたえるための努力である。顧客のために役立つという最大の目的に自分の仕事がどのようにかかわっているのかをただかんがえるようにと従業員全員に言っている。

この持論がHP内でどのように生かされているかは上記のノエルの発言から読み取れる。

ノエルの発言を引用(ノエルは)営業担当者には、絶対に競争相手を非難してはならないと言っていた。

85 D.パッカード

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の背後にありそうな要素持論の行動化(頁) 記述内容

競争相手の尊重(133)B

事業を始めた頃のゼネラル・ラジオとHPの関係のように競争相手を尊重すべきだと考えていたため

この持論と上記のノエルの発言の関係は明示的

適材適所に配置する(150)O

組織が効率を最大限に高め、成功を収めるには、さまざまな条件を満たさなければならない。そのひとつは、組織内の各職務に、もっとも能力のある人材を配置することである。

組織の効率を高める方法

耐えざる学習(150)O

進歩の早いハイテク業界では継続的に研修制度を実施していく必要がある。現在有効なぎじゅつが将来は時代遅れになる。組織の全員が各自の仕事をもっと適切に行う方法を、絶えず模索していかなければならない。

組織の効率を高める方法

工夫することが管理者の仕事(150)L

あらゆる階層で熱意を保てるようにすることである。とくに管理職に就いている人は、自分が熱心であるだけでなく、部下が熱心になるように工夫しなければならない。中途半端な関心や努力は役に立たない。

組織の効率を高める方法

信頼する(150)Lビルと私は最初から人々に強い信頼を寄せていた。だれもがいい仕事をしたいと考えている。

仕事を楽しむ(150)★M

人々にとって大切なのはHPでの仕事を楽しむのことである。

仕事を通じて達成感をえる(150)★L

われわれは、人々が仕事を通じて達成感を得られるように努めている。

努めているという表現がその困難さを示している。

相手に対する思いやり(150)L

・・・人に対するときは相手への思いやりや尊重の心をもつべきであり、その人の功績を認めることが重要だと考えている。

やる気の出る環境作り(150)★L

人々がベストを尽くし、みずからの可能性に気づき、業績を認められる機会を持てる環境づくりはビルと私にとって、つねに重要な課題だった。

重要な課題という表現がソノ困難さを示している。

自分の仕事に誇りを持たせる。(150ー151)L

HPではどの従業員も、どの仕事も重要である。…従業員全員の間に、自分の仕事にべストを尽くそうとする姿勢が生まれるように努力してきた。

プライドを持って仕事する従業員をたてる。(151)

ある機械工場での機械工が叫んだ「私の型に触るな」・・・かれには大切な仕事があり、自分の仕事を誇りに思っているのだ。

自分の仕事に誇りをもたせるという持論とつながりが明示的

協力と助け合い(151~152)O

HPでは、人々の密接なつながりによってある種の参加型管理が生まれ、個人の自由やイニシアチブを支援しながら、共通の目的やチームワークにも重点を置いていた。・・・社内のあらゆる部門の間に協力と助け合いの強い誠心が必要であり、この精神をHPウェイの基礎として尊重することが重要である。

組織の成長に伴う弊害(152)

初期には全員が同じ問題に取り組んでいたが、会社の成長とともにチームの一員であると自覚できなくなっていった。

協力と助け合いの持論との関係明示的

機会と仕事の保証(151)L

できるかぎりの機会と仕事の保証を与える責任を感じていた。

緊密なつながりによる管理能力の見極め(153)★L

われわれは従業員と緊密なつながりを持っていた。また、どの従業員に管理能力があるのか見極めようとしていた

社内ピクニック(154) 従業員とその家族に出会ういい機会となった。 緊密なつながり・・とのつながりが考えられる。

86 D.パッカード

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性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の背後にありそうな要素持論の行動化(頁) 記述内容

方針を「共有」する(156)O

HPの社員に関する基本方針は「共有」という考え方である。目標を設定し、達成する責任の共有、…事業の下降期に生じる負担の共有も含まれる。

正負の共有 従業員給付制度や不況時のノンレイオフ・フレックス勤務 方針を共有するとの関連明示的

人々を信頼する(158-159)L

こうして会社の初期まで振り返ってみると、ビルと私はHPの人々を信頼してきた。かれらが他の人に対して誠実であることを期待し、いつでも進んで責任を引き受けることを信じている。

GEでの経験(160)(要約)会社が社員を信用せず、工具箱にかぎをかけていた。不信感をあらわにされた従業員はかえって工具や部品を持ち出すようになった。

人々を信頼するとの関連明示的

違いを認める(161)O個々人の違いを認めるのもHPウェイの要素である。個人的な事情があって、業績や姿勢が一時的に悪化することがあっても、問題が解決されるまでの間、思いやりと理解をもって接することが重要である。

復職も認める(162)(要約)幹部の一人が大きなチャンスを見出してHPをやめた。後に復職し、定年まで管理職として活躍した。(p162)

違いを認めるの具体例としてつながり明示的

個人の責任と功績(164)★O

会社が成長し続け、多角化してきたため、今後も個人の責任と功績に重点を置くには、なんらかの分権化戦略を検討する必要があると考えた。また、HPウェイの個人的な要素がなくなることを懸念した。

製品部門化 1957年製品開発研究所の部門化をはじめとする部門化。 個人の責任と功績・権限委譲とのつながり明示的

権限委譲(165ー166)O

部門を設置した最大の目標は、各部門に十分な自治権を与えることにより、個人の士気、イニシアチブ、創造性を育て、共通の目的と目標に向けて努力際に、幅広い自由のある環境を作ることである。

分権化を維持するための注意が必要(171)O

私は分権化の進んだ企業でも、中央集権化の兆候には気をつける必要があることを、自分の経験から学んだ。

HPの成長に伴う中央集権化の経験(173)

(要約)1970年代:官僚主義の発生・決定が数週間・数ヶ月延ばされる。1990年意志決定プロセスが委員会に集中。決定にかかる時間が膨大に。

分権化を維持するための注意が必要との関連明示的

MBO

目標管理(MBO):全体の目標が明確にされ、それについて合意が成り立っているシステムである。人々には、各自の担当領域にとって最適と思われる方法で、目標に向けて努力する自由が与えられる。これは分権化の理念であり、自由企業の本質である。

分権化を維持するための注意が必要との関連明示的

個人のイニシアチブ(176)O

歴史の中にも、現代の企業の経験のなかにも、個人のイニシアチブを重視する組織の方が、きびしい統制と管理を強制する組織よりすぐれた業績を上げている例は多い。

例としては、アテネとスパルタ

コミュニケーションと相互理解(177)L

つまり、管理者には、コミュニケーションと相互理解を育てる重い義務がある。

87 D.パッカード

Page 89: リーダーシップの持 - Kobe Universityス・マクレガー(Douglas McGregor)による「X理論、Y理論」(1960)がある。 マクレガーは、経営学の中に行動科学、とりわけ心理学を応用することを最初に考えた

性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の背後にありそうな要素持論の行動化(頁) 記述内容

相互理解と責任感による管理(170)★L

一方、一般の従業員には、各自の仕事に十分な関心を持ち、仕事の企画を作成したり、古い問題点に対して新しいっ解決案を提案したり、貢献できることがあれば積極的に取り組む姿勢が必要である。HPは・・・相互理解と責任感は、長年にわたるHPの管理スタイルの重要な特徴となっている。

目標や目的の理解(177)L

管理者は、部下が各自の部門あるいは部署の目標や目的を明確に理解していることを確かめなければならない・・・(p177)

仕事内容の理解(177)L

管理者は、自分のグループの仕事を熟知し、完全に理解していることも必要である。

MBWA循環管理:(要約)この方法のアイディアはGE時のコミュニケーション不足によって生じた事件の経験が影響している。

目標や目的の理解・(部下の)仕事内容の理解とのつながり明示的

オープンドアポリシー(180)

MBWA同様に、相互の信頼関係と理解を築き、人々がアイディア、意見、問題、、懸念を自由に発言できる環境を作るための方針である。オープン・ドアは、個人的なことでも、仕事に関することでも、悩みを持っている従業員に対し適切な管理者に相談することを進める方針である。

ここでは明示的ではないが、共有やコミュニケーションといった、様々な持論や方針との関連が考え得る。

人事部がない(182)管理者と部下の悩みや不安に敏感である必要があると考えていたためである。人事部があると、この管理者と従業員の直接の関係に割って入る可能性があると考えていた。

明示的ではないが、直接コミュニケーションなどの持論との関連が考えられる。

ファーストネームで呼び合う(182)

ビルと私は、ファーストネームで呼び合う自然な雰囲気にいると、快適にいい仕事ができると考えてきた。

明示的なもとしては直接コミュニケーションとの関係や社内の雰囲気についての記述がある。

後継者の育成(183)L

管理者の重要な責任は、後継者の候補を選び、訓練することである。

成長に伴う、後継者育成の重要性の増大(184)

初期のHPは、・・・管理の継続性についてはあまり考えていなかった。しかし、、会社が成長するにつれて、それぞれの役職にもっともふさわしい人を選ぶことが大きな課題となった。事業の規模が拡大し、分野が多様化するのに比例して、管理職も増えたため、適切な管理者選抜プロセスを設けることが必要になった。

後継者の育成という持論との関連明示的。

部門別のレビュー(184)

われわれは、いつも経営陣が会社の若手の管理者と知り合えるように努めてきた。(要約)部門内の上司と部下の両者にプレゼンテーションをしてもらったり、食事を共にすることで、育成の任務をどの程度はたしているかなどについて、自然な形で行うことができた。現在は部門数が多すぎて、1年に1度は無理だが、グループ管理者がそれぞれおこなってい。

後継者の育成という持論との関連明示的。

内部からの昇進(186)O

私は、成功する企業は、管理者は内部から昇格させるのが常道だと考えている。

よき市民としての企業(198)B

地域社会が、HPの存在を我慢するのではなく、HPを必要とするようにしたいと思っている。

生まれ育った、不況時代の影響(191)

不況時代の思い出から、人への思いやりやかかわりあいの大切さが私の心に長く刻まれた。

よきしみんとしての企業との関連明示的。

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Page 90: リーダーシップの持 - Kobe Universityス・マクレガー(Douglas McGregor)による「X理論、Y理論」(1960)がある。 マクレガーは、経営学の中に行動科学、とりわけ心理学を応用することを最初に考えた

性格・持ち味(頁) 仕事経験(頁) その他(頁)備考

持論(頁)(生の言葉には★)

持論の背後にありそうな要素持論の行動化(頁) 記述内容

コミュニティーとのつながり(191)

従業員が個人的に地域のコミュニティや社会全体の利益のためにプロジェクトや組織に参加することを奨励してきた。

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