第10版 政策科学って何? 政策科学 POLICY SCIENCE って何? · 政策科学って何? 立命館大学政策科学部第7版 policy science 政策科学の学び方を知り、
ドイツにおけるコミュニティ形成のアプローチ:伝...
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愛知学院大学政策科学研究所所報「政策科学J 第5号(2014)
ドイツにおけるコミュニティ形成のアプローチ:伝統・変化と連携
Approaches for Community Building in Germany -Tradition, Change, and Collaboration:
Field Research Report
はじめに
政策科学研究所では、地域・コミュニテイの持続可能
性を課題として、研究会、シンポジウム、フォーラムを
開催してきた。平成23年度には、国際比較の観点から、
イタリア都市視察を実施した。平成24年度は、引き続き
国際比較の視点から、 ドイツ連邦共和国のフリードリヒ
スハーフェン、ライブツイヒ、イェーナの3都市におい
て、現場視察、インタビュー、意見交換を実施した。以下、
視察準備、現状視察、視察報告会等の概要である。
1 .視察の目的と意義・視察メンバー
今回のドイツ 3都市への視察目的・趣旨は、①イタリ
ア都市視察に続き、持続可能な地域コミュニティについ
て、国際比較の観点からの現状視察、②ドイツのコミュ
ニティ制度、地域自治制度、行政の対応、行政・市民・
教会等の関係や連携事業・活動について現状把握、③日
本社会の現実(少子高齢化、福祉・社会保障制度の再構
築、家族の変容、雇用の変化、超情報化社会)との比較
的視点を踏まえ、今後のコミュニティのあり方について
の示唆を得ることである。ドイツ 3都市視察メンバーは、
視察準備段階では、北住畑一政策科学研究所所長、稲垣
充庚所員、岩田和男政策科学研究所所員、杉山知子政策
科学研究所所員の4名であったが、視察及び視察報告は、
北住畑一所長、岩田和男所員、 杉山知子所員が行った。
2. 視察準備期間
・第 1 回視察準備ミーテイング(2013年 1 月 23 日)
視察目的・趣旨、日程、訪問先、視察メンバーの役割
の確認、訪問先での質問事項についての議論及び確認を
行う。質問事項については、多文化共生政策の現状と課
題、ジェンダーについて、コミュニティにおける教会・
教会関連団体の役割、市民活動の現状及び課題、情報化
社会の現状及び課題に関する質問事項に焦点が当てられ
ることになった。
-第2回視察準備ミーテイング
(2013年 1 月 30 日、第 1 回ドイツ視察準備勉強会)
「現代ドイツの政治:第二次世界大戦からドイツ統ーまで」
杉山知子
Tomoko Sugiyama
愛知学院大学総合政策学部准教授
報告者杉山知子
以下3点に焦点を当てた報告であった。①戦間期のワ
イマール共和国の破綻後、ヒトラーによる第二次世界大
戦・ユダヤ人に対する大量虐殺は、 ドイツ史にとって汚
点を残すことになり、第二次世界大戦後のドイツは、過
去に対する反省と安定をキーワードにすることになっ
た。②ドイツ統一については、 1989年 9月、ライブツイ
ヒのニコライ教会での平和の祈りの後の「関かれた固と
自由な人間」を求めるデモの拡大が、ベルリンでのデモ
及びベルリンの壁崩壊の契機ともなっている。③東ドイ
ツ時代、市民生活、人間関係などの情報収集・監視を行っ
ていた国家保安省は、現在、ライブツイヒでは博物館と
して機能し、東ドイツの負の記憶を次世代に伝える役割
を担っている。
報告後のミィーテイングでは、旧東ドイツにおいて民
主化運動参加関係者、旧国家保安省記念館運営関係にイ
ンタビューする可能性について前向きに検討されること
になった。
-第3回視察準備ミーティング
(2013年2月 13 日、第2回ドイツ視察準備勉強会)
「ドイツの家族変容とジェンダー研究の動向」
報告者岩田和男
「絶対核家族」、「外婚制共同体家族J、「権威主義家族」
などを中心としたエマニュエル・トッドの家族類型を紹
介しながら、 ドイツの家族と歴史の関係性、宗教、啓蒙
主義の影響、近代化の過程について考察すると共に、ド
イツ映画における「家族」の不在についての指摘があっ
た。又、ドイツにおけるマイスター制の徹底、専門職業
主義、地域密着型の家族経営、地方銀行からの長期的な
支援などについても紹介がなされた。
報告後、視察準備の日程・訪問先調整についてのミィー
テイングでは、ライブツイヒでの訪問先(デイアコニー
施設訪問、旧国家保安省記念館) へのコンタク トに関す
る現状報告が行われた。
・ 2013年2月 18 日(報告予定であったが、資料配布のみ)
「情報化とコミュニティ」稲垣充康
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POLICY SCIENCE REVIEW Number 5 (2014)
資料では、以下3点が紹介された。①世界における地
域のスマート化について、欧州内ではスマー トシティ、
エネルギー関連のスマートグリッドの普及が進められて
いる。特に、ドイツは、その推進について欧州では中心
的な役割を担うものと考えられている ②フリードリツ
ヒスハーフェンでは、 T-City という名称で2007年から医
療、教育、行政、交通、観光、ピジネスなどの分野にお
いてプロジ、エクトが進められている。 ③イェーナでは、
コンピタンス・ネットワーク「バイオインスツルメンツ・
イェーナ」が経済界・研究部門の関係者により共同で立
ち上げられた。チューリンゲン州の伝統産業である光学・
精密機器のコンビタンスを統合し、科学技術の新たなコ
ンピタンスと結びつけ、さらなる開発を目指している。
-第4回視察準備ミーテインク
(2013年3月 4 日、第3回ドイツ視察準備勉強会)
「ドイツの地方自治制度と民間非営利福祉団体」
報告者北住畑一
ドイツの戦後の政治的背景を踏まえ、ドイツの連邦国
家としての地方自治の位置づけ、州の主権としての地方
自治、多様な都市・農村計画、拘束力のある住民投票制
度などを紹介しながら、日本とドイツの地方自治の相違
性についての報告があった。
報告後、 ドイツ 3都市視察の訪問先の確認をした。
イェーナ市の訪問先については調整が若干遅れている
が、続けて調整にあたることを確認した。
3. ドイツ3都市視察実施日程及び実施内容
2013年3月 17 日
中部国際空港発フランクアルト経由フリードリヒスハー
フェン着
2013年3月 18 日
①オーバー卜イリンゲン市 カール・ハインツ・ベック
市長へのインタビュー・意見交換
・ベック市長より、オーパートイリンゲン市概要及び自
治制度についての説明を受ける。市長選については、個
人のアピールが重要であるが、市議会は、政党の影響力
が強く、キリス教民主同盟と社会民主党の勢力が措抗し
ているとのことであった。 一般的に南ドイツ地域では、
市長の任期が長く、市の取り組むプロジェクトを継続す
ることができ、成果も期待できる。ドイツでは、政治家
の汚職問題が極めて少なく、地方政治のレベルでの長期
政権も可能とのことである。
-地方自治の在り方についても、コミュニテイが小規模
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であり、いわゆるコンセンサス型デモクラシーも可能で
あると考えられる。市の産業は、リンゴ農園、手工芸、
航空産業関連の機械産業などがあり、フリードリヒス
ハーフェンの企業で働いている人も多く、失業率は3%
程度(ドイツ全体では8%)と全国的にも経済的に恵ま
れている。
-今日、農産物(例えばリンゴ)の出荷についても、市
の規則に加え、 EUの規則にも従わねばならず、 EUの
様々な法律に熟知していなくてはならない。その地域、
地域の特性がある中、州、連邦政府、さらにはEUの規
制を受けるのは必ずしも好ましいことでばかりではな
しミ。
・近年、州、市の財源以外に民間の寄付・基金による事
業もある。伝統的には教会による事業があったが、それ
とは別に企業の寄付による事業が見られるようになった
が、傾向としては、小規模な事業である。
①オーバー卜イリンゲン市 コミュニテイ・センター視察
伝統的な製粉小屋を改造し、現在は、コンサートホー
ル、アート展示スペースとなり、芸術イベントなどに使
用されている。若年層の市民に利用してもらうことを奨
励している。
③フリードリヒスハーフェン市ホルガー・クレツアー
氏へのインタヒ、ユー・意見交換
・フリードリヒスハーフェン市における市民参加の現状
については、積極的に市に対し意見表明をし、市政に対
し参加をしようとする市民がいる一方で、、公共的な課題
についての関心が低く、限定的な課題についてのクレー
ムなどもあり、市民参加の現状評価は難しいとの報告で
あった。
-市民参加促進のために電子メ ールなどにより市民の意
見を聞く制度を開設したが、市民参加促進につながって
いるか否かの評価は難しい。電子メ ールをツールとして
愛知学院大学政策科学研究所所報「政策科学J 第5号(2014)
市民が市政に参加する制度をつくることと、市民がそれ
を活用し、市民参加が積極的になるか否かは別の問題で
あるとのことであった。
-高齢者の方が市民活動への参加率は高い一方、若年層
の市民参加は難しいように思われる。若年層にも関係す
る重要な質問を投げかければ、前向きな参加姿勢は見ら
れるのではないかと思われる。
-地方政府も、公務員の職業倫理は高く、市民の声に対し、
真撃に対応することを心がけており、市民からの質問に
対して、通常10 日以内に誠実に返答をする。
これらの説明の後、フリーデイスカッションとなった。
二一同酬雌閉山
④ボーデンゼ一郡福祉行政部長 アンドレアス・ケス
ター氏とのインタビュー・意見交換
・ドイツの連邦政府、州政府、郡政府の機能、役割分担
についての説明後、今日ドイツの抱える人口減少・少子高
齢化問題、女性の社会進出や男女共同参画の現状と課題、
対応策についての説明があった。社会保障制度の在り方に
ついて、連邦政府による中央集権的な行政政策、政策管理
は避け、できる限り地方政府でできることはすべきとのこ
と、又、行政の重複化も避けなければいけないとの指摘が
あった。意見交換では、ドイツの日本の中央集権的な政策
と地方分権化の在り方の違いについて質疑応答があった。
2013年3月 19 日
①ボーデンゼー郡赤十字訪問赤十字事務局長 口ーズ
マリー・シュタイナ一氏、ディアコ二一事務局長ウリッ
チ・グレッシュ氏へのインタビュー・意見交換
・ドイツ赤十字の設立から今日のドイツ赤十字の活動に
ついて、病院と連携、保健衛生分野でのサービス提供、
救命サービスなどについての説明、ボーデンゼー郡の赤
十字の現状・活動内容、ボランテイアの高齢化といった
課題についての説明があり、続いてデイアコニーにおけ
る活動、ドイツ赤十字との違い、貧困層支援活動に対す
るドイツでの歴史的経緯、今日の補完性の原則とデイア
コニー・地方政府との連携についての説明があり、その
後デイスカッションとなった。
①ボーデンゼー郡女性・家族全権委員 ベ口ニカ・ベッ
シャー・ゲゲレ氏へのインタビュー・意見交換
・ドイツにおける女性の社会進出、それに関連する法制
化の経緯、郡議会より選出される女性・家族全権委員の
役割、活動内容などについての説明、 ドイツにおける女
性の活躍と活躍が期待される分野、旧東ドイツにおける
女性の社会進出、子育て支援体制、社会階層による男性
の意識の差についての説明があった。その後、教育の重
要性、保守的な教会組織の意識変革の課題、女性差別・
女性への暴力防止の啓蒙活動についてのデイスカッショ
ンへと展開した。
2013年3月 20 日 フリードリヒスハーブ工ン発フランク
フル卜経由ライブツィヒ着
①旧国家保安省記念館見学
記念館のトビアス・ホリツアー氏へのインタビューは、
直前にキャンセルとなり、記念館見学のみとなった。
2013年3月 21 日
①ライブツィヒのデイアコ二一介護施設見学 グドラ
ン・グンゼル氏へのインタヒ‘ユー・意見交換
・ライブツイヒ・デイアコニーの介護施設の宗教的行事、
アニマルセラピー、アートセラピーなどを取り入れた生
活スタイルや記念行事、幼稚園との連携事業、地方政府
との連携、州による財政的支援等についての説明があっ
た。その後、個室、コンピュータ一室、フィットネス
室、娯楽室、浴室、食事準備室、美容室、クリーニング
室等施設内見学、スタッフとのデイスカッションとなっ
た。限られた数のスタッフで施設を運営しているので、
スタッフ聞のコミュニケーションを重視している様子で
あった。
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POLICY SCIENCE REVIEW Number 5 (2014)
②障害者活動支援のためのデイアコ二一施設見学 デイ
アコ二一・ライブツィヒ支部事務局・広報担当スザンヌ・
ストラスペルガ一氏へのインタヒ、ユー・意見交換
・ドイツにおける障害者の現状、施設での活動内容、デイ
アコニー運営と州との関係についての説明があり、デイ
スカッションとなった。
③ライブツィヒ市多文化共生局 ス卜ハン・ググーチユ
コフ氏へのインタビュー・意見交換
・東ドイツ時代の移民受け入れの歴史、ライブツィヒ市
の特徴、 ドイツ統一後の行政改革に伴う移民統合局の創
設、現在の移民の現状、移民に対する差別・人種差別防
止のためのPR、移民に対するカウンセリング、情報提
供などの活動、移民支援団体の活動についての説明があ
り、デ、イスカッションとなった。
2013年3月 22 日
①イ工ーナ市男女同権委任官 コルネリア・バルトラウ
氏へのインタヒ、ユー及び意見交換
-旧東ドイツ時代に、女性のライフ・ワークバランスの
ための制度・施設整備(保育園、幼稚園)が進んでおり、
働く母親・シングルマザーへの支援体制、自治体とデイ
アコニー等との連携は、比較的整備されているとの説明
があり、イェーナ市の現状を踏まえ、市の取り組みにつ
いての質疑応答となった。
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②イ工ーナ市 家族・教育問題担当フランク・シェン力一
氏へのインタビュー・意見交換
・イェーナ市は、教育水準の高い大学街としての歴史が
あり、脳の発達調査をしながら、言語習得などにおいて、
初等教育においても充実した教育プログラムが展開され
ている。タト国語学習も大切だが、母国語の学習(特に、
外国人・移民の子供)も重視されている。教育現場での
いじめの問題については、日本でみられるような深刻な
いじめの問題はないが、特定のこどもが教室内でからか
われる程度のことはある等の説明があった。
③イヱーナ福音教会教区監教会監督 スベン・ヘニッヒ
氏へのインタヒ、ユー・意見交換
・ドイツの地域社会における幼稚園、介護施設経営を通
しての教会の活動、イェーナ市の市民活動課とのイベン
ト企画・緊急時の支援などの連携事業、旧東ドイツ時代
の民主化過程で公共性・非暴力な観点からの教会の役割
(平和、環境、教育、文化などについて話し合う場の提供)、
今日の課題(若年層は教会離れ)についての説明があり、
その後デイスカッションとなった。
④イ工ーナ市 アルプレヒ卜・シュレータ一市長へのイ
ンタヒ、ユー・意見交換
・イ ェーナ市の行政制度についての歴史的経緯と大学街・
光学産業都市イェーナの特徴、市長選挙の特徴、近年の
イェーナ市の抱える課題(慢性的住居不足問題、戦時中
の不発弾処理問題、ベルリンーミュンヘン聞の特急鉄道
路線建設・整備とイェーナ市の開発・発展問題)につい
ての説明があり、 1980年代後半のソ連のペレストロイカ
の影響と東ドイツの民主化運動、旧東ドイツの制度的・
文化的遺産を踏まえ、女性の政治 ・社会進出についての
デ、イスカッションカfあった。
⑤イエーナ市参加予算ワーキンググループ クレメン
ズ-ベック氏による活動報告及び意見交換
・イェーナ市の市民が予算執行に参加する制度と参加す
る市民の傾向、市財政局副市長の調整、最近の事例とし
て、イェーナ市のフィルハーモニーに対する市の財政負
担をどうするかという議論の紹介、その後質疑応答、デイ
スカッションとなった。
⑥イエーナ大学 オラフ・ライセ教授及び反権力市民団
体代表 夕、ニ工ル・ミュレ氏へのインタヒ、ユー・ディス
カッション
-東ドイツの民主化の過程、 Peaceful Revolution につい
愛知学院大学政策科学研究所所報「政策科学」 第5号(2014)
ての説明があり、 1989年9月、ライブツイヒのニコライ
教会ミサ後のデモ参加、デモ拡大と警察の静観的対応、
暴力的弾圧なしに、民主化運動が進められたことは奇跡
的であったことが強調されていた。
2013年3月 23 日
①チユーリンゲン州経済省職員、緑の党党員 マルテイ
ン・グーデ氏へのインタビュー ・ 意見交換
・脱原発をドイツのエネルギ一政策として訴えてきてい
た緑の党のエネルギ一政策に関連する活動の歴史と方向
性、東日本大震災時の福島原発事故のインパクト 、 政
策実施過程での官僚と政治家の役割についての説明があ
り、デイスカッションでは、ヨーロッパ各国のエネルギ一
事情、エネルギー産業、エネルギー産業を受け入れる地
元の状況は様々であり、ドイツは、脱原発であるが、ド
イツの近隣諸国(フランス、ハンガリ一、スロパキアなど)
では、原子力利用に前向きの国もある点を中心に議論が
展開された。
原子力発電所で事故が発生した場合、 ドイツにも影響
があるのではないかと思われるが、その国特有の産業基
盤、政治基盤などもあるとのこと。また、ヨーロッパ全
体(EU全体)でのエネルギー政策の構築が必要であるが、
現実的には難しいと思われる。
②ドイツ労働者福祉団イエーナ・ワイマール支部 カチヤ・
グリボウスカヤ氏へのインタヒ、ユー ・ 意見交換
・ ドイツ労働者福祉団設立の経緯、組織構成、イェーナ ・
ワイマール地区での運営形態、社会民主党との関係、幼
児教育の特徴、カリタスやデイアコニーとの違い、ドイ
ツ労働福祉同盟のスタッフの背景 ・ 傾向、移民統合政策
についての説明後、デイスカッションとなった。
イエーナからライブツィヒへ移動
2013年3月 24 日. 3月 25 日
ライブツィヒ発フランクフル卜経由中部国際空港着
. 3都市を視察した雑感
3都市を視察し、地域コミュニティに係る関係者への
インタビュー・意見交換、関連施設見学等を行い、訪問
先が、ドイツには、コミュニティ ・ 都市の規模にかかわ
らず、それぞれのコミュニテイ・都市が独自の顔を持っ
ているとの印象を受けた。経済的に恵まれていた都市を
訪問したことも影響しているかもしれないが、それらの
コミュニティ・都市が、中央政府の政策方針や中央政府
の影響を必ずしも好ましく思っておらず、自分たちのコ
ミュニティに対し誇りを持っていると感じた。そして、
ドイツの市民は、 一般的に建設的な議論をすることを好
み、自然体で市民活動に参加する土壌も培われているよ
うに思われた。
また、今回、介護や障害者支援のデイアコニー施設を
訪問し、 福祉分野における教会の役割の大きさとその伝
統、 ドイツ社会における教会関係団体の活躍を知ること
が出来たことも有意義であった。
4. ドイツ3都市視察報告
2013年6月 26 日 政策科学研究所講演会及びコミュニ
ティ論研究会ドイツ3都市視察報告
-杉山知子「ドイツ都市視察概要:フリードリヒスハー
フェ ン、ライブツイヒ、イェーナにおける地方分権の現
状と課題」(スライドを用いながら、 ドイツ都市視察実
施概要及びインタビュー内容・デイスカッション要旨等
についての報告)
- 北住畑一 「ドイツ福祉国家と民間福祉団体一保守主義
型モデルの再検討-J (ドイツの民間福祉団体の役割、
活動内容の変化、今後の課題について報告 し、 ドイツ福
祉国家を保守主義型福祉国家の観点から再検討し、 日本
への示唆に富む報告)
-岩田和男 「ドイツ政治・経済とジェンダーの微妙な関
係ードイツ視察報告」(ジェンダーや家族にかかわる事
柄は、 経済状況、コミュニテイや政治の意思決定とどの
ように結びついているのかについてのインタビュー調査
のまとめ及び考察)
おわりに
今回のドイツ 3都市の視察では、視察メンバーが、 3都
市 ・ 地域における行政、教会関係者を中心としたインタ
ビュー及びデイスカッションを通じ、 ドイツのコミュニ
テイの在り方について、その伝統、歴史的変遷、今日の
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POLICY SCIENCE REVIEW Number 5 (2014)
現状と将来への課題についての見識を深めるが出来た。
議論の中で、日本の現状や将来への課題についても逆に
問いかけられ、ドイツや日本の国レベル、地方都市レベ
ルの抱える共通の課題についても示唆を得ることが出来
た。しかし、今回の視察では、草の根民主主義や国家と
地方分権の歴史的経緯の異なる側面から、ドイツでの経
験、 ドイツモデルが、日本において活かされることの限
界についても考える契機ともなったように思う。
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