パワー・ハラスメント事例集...3 1 命の尊さ...
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防衛省におけるいじめ等の防止に関する検討委員会
平成28年3月
パワー・ハラスメント事例集
Ⅰ はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
Ⅱ 防衛省におけるパワー・ハラスメントの定義・・・・・・・・ 2
Ⅲ パワー・ハラスメント事例集の目的・・・・・・・・・・・・ 2
Ⅳ 基本理念・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
Ⅴ 隊員の留意すべき事項・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
Ⅵ 指導に際しての注意点・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
Ⅶ 指導を受ける際の注意点・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
Ⅷ パワー・ハラスメントの判断のポイント・・・・・・・・・・ 8
Ⅸ パワー・ハラスメントの行為類型・・・・・・・・・・・・・ 8
Ⅹ 事例と解説・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10
目次
1
防衛省においては、護衛艦「たちかぜ」における、いわゆるいじめを起
因とする自殺事案の東京高等裁判所の判決、横須賀所在の護衛艦における
自殺事案等、自衛隊においていじめ等に関する事案が生起していることを
重く受け止め、全省的な問題として取り組むべく、平成26年9月、防衛
副大臣を委員長とする「防衛省におけるいじめ等の防止に関する検討委員
会」を設置しました。
いじめ等が原因で、被害者が自殺に追い込まれるような最悪の事態を防
止することが最も重要であることを念頭に置いて、いじめ等を防止し、隊
員がその能力を十分に発揮できるような健全な職場環境を保持し、隊員の
人格・尊厳を保護するための施策について検討しています。
平成27年9月、それまでの委員会における検討結果を取りまとめ、自
衛隊員がその能力を十分に発揮できるような健全な職場環境の確保及び
自衛隊員の人格・尊厳の保護を目的として、いわゆる一般的に、いじめ、
パワー・ハラスメント等と言われてきた行為の防止のための措置等に関し、
「防衛省におけるパワー・ハラスメントの防止等に関する指針」を策定し
ました。
Ⅰ はじめに
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1 命の尊さ
防衛省におけるパワー・ハラスメント(以下「パワー・ハラスメン
ト」という。)を防止するためには、隊員一人一人が、自分も相手も、
等しく、不当に傷つけられることのない人格や尊厳を持った存在であ
ることを認識し、それぞれの価値観、立場及び能力などといった違い
を認めて、互いを受け止め、その人格を尊重し合うこと。
2 自衛隊員のあるべき姿
自衛隊法第52条は、服務の本旨として「隊員は、わが国の平和と
独立を守る自衛隊の使命を自覚し、一致団結、厳正な規律を保持し、
常に徳操を養い、人格を尊重し、心身をきたえ、技能をみがき、強い
責任感をもって専心その職務の遂行にあたり、事に臨んでは危険を顧
みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託にこたえるこ
とを期するものとする」と規定している。
この服務の本旨は、隊員の服務の根本基準であり、自衛隊という組
織の特殊性から隊員の責務と責任感が強調されたものとなっている。
パワー・ハラスメントの観点からは、特に、一致団結、厳正な規律
を保持し、常に徳操を養い、人格の尊重が重要である。
3 命令と服従
パワー・ハラスメントを防止し、自衛隊の精強性を確保するために
は、全隊員がそれぞれの立場において、命令と服従を正しく理解する
ことが必要である。
Ⅳ 基本理念
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(1) 職務命令
自衛隊法第57条において「隊員は、その職務の遂行に当って
は、上官の職務上の命令に忠実に従わなければならない」と規定
されている。ここにいう「職務上の命令」を通常、「職務命令」
という。職務命令は、一般的に職責に基づいて、任務達成のため、
上司が部下に対して特定の作為(やるべきこと)、又は不作為(や
ってはならないこと)を要求する意思表示であり、上司の命令が
「職務命令」として成立するためには、次の要件を備えているこ
とが必要である。
○ 職務上(指揮系統上)の上司が発した命令であること。
○ 部下隊員の職務に関するものであること。
○ 命令の内容が法令に抵触しないものであり、かつ、実行可
能なものであること。
○ 職務命令は、命令を受ける者の意思の如何にかかわらず、
強制的に実行させる力を持つものである。これは、自衛隊の
任務を達成するには、組織が一貫した方針のもとに統制ある
行動をとる必要があり、ここに厳しい命令と服従との関係が
要求されるためである。
(2) 服従
実力組織である自衛隊にあって、命令と服従との関係は、自衛隊
の存否にかかわる問題であり、その確保は極めて重要である。
ア 上司の職務命令は、積極的かつ忠実に守り、直ちに実行しなけ
ればならない。
イ 職務に反する重大かつ明白な違法の瑕疵を有する命令の場合
は、無効であり、従う必要はない。また、職務命令が適法かど
うか速やかに判断できない場合は、当該命令は適法であると推
定し、従わなければならない。
5
また、急を有する命令の実行について、命令の内容に不明な
点等がある場合、部下は直ちに上司に確認し、その命令の実行
に誤りがないようにする。
隊員はパワー・ハラスメントを防止するため、次の事項について留意す
る必要があります。
1 指導の在り方
自衛隊は実力組織であり、厳しい上下関係の下、目的達成のために「命
令と服従」により行動する。組織(部隊)として目的達成にあたり、時
には厳しい指導をする場合があるが、これは上司と部下の「情愛と信頼」
に裏付けられたものであること。他方、指導において、暴力及び暴言は
決して許されないこと。
部下指導における目的は、時代の変遷にかかわらず不変であるが、そ
の手段である指導方法を常に有効なものとするためには、価値観や教育
環境の変化、部下一人一人の資質等の違いなどに留意することが重要で
ある。部下が使命感を醸成しつつ、職務遂行に必要な知識や技能を習得
できるよう、従前の指導方法に固執することなく、常に改善に努めるも
のとすること。
また、パワー・ハラスメントを意識するあまり、職務上必要な指導を
ためらったり、逆に、パワー・ハラスメントの被害者となり得る立場を
過度に意識して当然受けるべき職務上必要な指導を忌避することがな
いよう留意すること。
Ⅴ 隊員の留意すべき事項
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2 良好な職場環境の醸成
各職場においては、パワー・ハラスメントを未然に防止するため及び
事案の兆候を見過ごさずに向き合うため、隊員同士思いやりの気持ちを
持って気軽に声を掛け合う雰囲気を醸成すること。特に若い隊員にとっ
ては、職場が同時に生活の場ともなり得るため、風通しの良い良好な職
場環境の醸成が極めて重要であること。
3 適切なコミュニケーション
互いの人格の尊重は、上司と部下や同僚の間で、互いを理解し、互い
に協力し合うといった、適切なコミュニケーションを形成する努力を通
じて実現できるものであることから、日常の職務において、職場の一人
一人が、適切かつ積極的なコミュニケーションに努めること。
4 パワー・ハラスメントが被害者に及ぼす心身への影響
パワー・ハラスメントの被害者にとって尊厳や人格が傷つけられるこ
とによる痛みは計り知れないものであり、働く意欲や自信を喪失し、心
身の健康を害する結果、休職や退職に追い込まれたり、深刻な場合は自
殺に至る場合もあることを認識すること。
5 懲戒処分等
行為の態様等によっては、懲戒処分等や刑事罰の対象となる場合があ
ることを改めて認識すること。
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1 指導の適正な範囲の逸脱
防衛省におけるパワー・ハラスメントの定義にあるように、職務の適
正な範囲を超えて、隊員に精神的・身体的苦痛を与える、又は職場環境
を悪化させる行為が、パワー・ハラスメントに該当します。
2 業務との関連性
パワー・ハラスメントは、受け手が不快かどうかで判断されるもので
はありません。職務上の命令や指導に対して受け手が不快と感じた場合
でも、職務の適正な範囲で行われた場合にはパワー・ハラスメントに該
当しません。
3 職場環境の悪化
パワー・ハラスメントを受けている隊員本人が、パワー・ハラスメン
トを受けていると感じていなくても、周囲の隊員がその行為による影響
により、その能力を十分に発揮できないおそれがあることにも留意する
必要があります。
(※ 例えば、執務室等で上司が部下に対し物を投げ付け、大声で人格を否定する発言を
継続することにより、周囲の隊員が職務に集中できなくなるような場合)
パワー・ハラスメント行為は、概ね次頁の表のように類型化されます。
なお、上司等の言動が実際にパワー・ハラスメントに該当するかどうか
は、当該言動の原因、状況等も踏まえて判断する必要があります。
なお、以下の分類は、パワー・ハラスメント行為を理解するための一
つの方法ですが、パワー・ハラスメントには、上下関係、同僚間、下か
ら上、職場環境など、次頁の分類以外にも様々な観点による分類が考え
られます。
Ⅷ パワー・ハラスメントの判断のポイント
Ⅸ パワー・ハラスメントの行為類型
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【事例と解説の目次】
① いわゆる「いじめ」とされる行為 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
② 無理な姿勢を長時間とらせる指導 ・・・・・・・・・・・・・・・・
③ 指導に激高した部下を制止(パワハラに該当しない事例) ・・・・・・・・・
④ 同階級者に不満があるとして暴行 ・・・・・・・・・・・・・・・
⑤ 部下隊員の不安全行為を戒める指導を印象つけるため平手打ち ・・・・
⑥ 飲酒時に部下の態度に激高して暴行 ・・・・・・・・・・・・・・
⑦ 部下に大声で指導・過度の催促 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
⑧ 反抗的な部下に長時間指導(パワハラに該当しない事例) ・・・・・・
⑨ SNSを通じての誹謗中傷 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
⑩ 暴言を伴う指導・部下の前での叱責 ・・・・・・・・・・・・・・
⑪ 指導中に物を投げる威圧的な指導 ・・・・・・・・・・・・・・・
⑫ 指導中に土下座をするよう示唆する強要的な指導 ・・・・・・・・
⑬ 明確な指針、具体的な不備事項を示さない指導 ・・・・・・・・・
⑭ 部下に「日頃の態度が悪い」と叱責するメール送信 ・・・・・・・・・
⑮ 財布の管理が不適切とし金銭を繰り返し要求 ・・・・・・・・・・
⑯ 上司を軽んじる態度を取り、職場の雰囲気の悪化 ・・・・・・・・・・
⑰ 特定の部下を無視 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
⑱ 指導と称して部下に過大な仕事の要求(反省文) ・・・・・・・・・・
⑲ 指導と称して部下に過大な仕事の要求(業務の押しつけ) ・・・・・・
⑳ 課業時間内の作業が無理なら残業せよと指導(パワハラに該当しない事例)
㉑ 特定の部下に過小な仕事の要求(仕事を与えない) ・・・・・・・・・
㉒ 特定の部下に過小な仕事の要求(パワハラに該当しない事例) ・・・・・
㉓ 上司が部下の趣味を悪意をもってやめさせる ・・・・・・・・・・・・・
Ⅹ 事例と解説
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類型Ⅰ:身体的な攻撃・類型Ⅱ:精神的な攻撃・類型Ⅲ:人間関係からの
切り離し(同期間)
①【いわゆる「いじめ」とされる行為】
同期生の隊員5名中1名が、他の同期から、暴行を受ける、無視され
る、バカにされる、根拠のない悪評を流布される等、同期生のいじめ行
為は日常的であり、かつ、徐々にエスカレートしていき、いじめ被害が
継続した。
被害者のややおっとりした性格が災いし、同期生によるいじめ行為を
継続的に受けるようになり、加害者は、優越感を得るために、また、被
害隊員の肩を持つことで自分がいじめの対象になることを避けるため
に、行為をエスカレートさせていった。被害者は閉鎖的な環境である職
場や内務班において孤立を深め、自殺願望をほのめかすまでになった。
【解説】
○ 本件は、当該隊員が暴行(身体的苦痛)を受けていることに加え、無
視やバカにされ、根拠のない悪評を流布され精神的苦痛を受ける、いわ
ゆる「いじめ」とされる行為がパワー・ハラスメントに該当する。
○ 本件のような行為は、表面化しにくく、かつ陰湿で継続性を有するた
め、極めて悪質であり、最悪の結果を招きかねない。命の尊さを認識し、
このような事案を察知したならば、速やかに上司等に報告するととも
に、その後に適切な処置が行われているかも注視し、再発を防止する必
要がある。
○ また、加害者の動機が「個人的な恨み」や「いじめを楽しんでいる」
等の場合、行為の内容もより悪質で長期間行われ、被害者が自殺に追い
込まれる可能性があるため、通常の事案よりも迅速な対処が強く求めら
れる。
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○ 隊員は、このような事案の早期発見に努め、発生を絶対に許さない、
見逃さない強い意識を持ち、組織的な対応を図り、部隊の健全性の確保
に寄与する必要がある。
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類型Ⅰ:身体的な攻撃(上下関係)
②【無理な姿勢を長時間とらせる指導】
新隊員教育隊の区隊長として勤務しているA2尉は、複数の新隊員の
生活・勤務態度に緩みを感じ、反省のための指導が必要と考え、新隊員
に被服を収納したバッグを持たせ、架空のイスに座る姿勢をとらせた。
その結果2名の失神者及び2名の膝痛による通院者が発生した。
【解説】
○ A2尉は、新隊員に対し、直接的な暴力行為は行っていないが、生活・
勤務態度の緩みの是正を理由として、懲罰的に指導内容と何ら関係のな
い肉体的苦痛を伴う行為を行わせている。
○ この指導は、新隊員の教育指導として適正な範囲に含まれず、不必要
な肉体的苦痛を与えたことになるため、パワー・ハラスメントに該当す
る。
○ 直接的な暴力行為をしていない場合でも、懲罰的に肉体的苦痛を与え
る行為は不適切な指導であり、口頭による指導を心がけることが必要で
ある。
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類型Ⅰ:身体的な攻撃(上下関係)
③【指導に激高した部下を制止】(パワハラに該当しない事例)
A班長が、部下のB3曹に対する指導中、その指導には全く問題がな
かったが、B3曹が突然激高し、A班長の胸ぐらをつかもうとした。
驚いたA班長は、とっさに手を払いのけようとしたが、偶発的にB3
曹の顔面に手が当たってしまった。
【解説】
○ A班長の指導に全く問題がないにも関わらず、B3曹が突然にA班長
の胸ぐらをつかもうとしたため、これに反応し払いのけただけであり、
顔面を殴る意図及び過失が無いのであれば、パワー・ハラスメントには
該当しない。
○ なお、A班長の適切な指導に対し、B3曹が反抗し胸ぐらをつかもう
とした場合には、上司に対する反抗不服従の疑いがある。
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類型Ⅰ:身体的な攻撃(同階級)
④【同階級者に不満があるとして暴行】
A士長は、B士長よりも2年早く入隊した先輩隊員であり、普段から
おとなしいB士長に対し、業務や服務のあり方について、積極的に指導
する等していた。
その後、B士長はA士長よりも早く3曹に昇任し、上下関係は逆転し
た。A士長は、B3曹が職場や内務班における士隊員への指導が相変わ
らず消極的であることに不満をうっ積させていた。やがてA士長も3曹
に昇任したが、B3曹の変わらぬ勤務態度に我慢がならなくなり、B3
曹を内務班の個室に呼び出し殴る等の暴行を加えた。
【解説】
○ A3曹が、「先輩」としての優位性をもって、先任者であるB3曹を
呼び出し、職務の適正な範囲を逸脱し身体的攻撃を加えたことは、パワ
ー・ハラスメントに該当する。
○ パワー・ハラスメントには、職場の地位に限らず、人間関係や専門
知識等、様々な優位性があり、上司から部下だけでなく、先輩・後輩
間、同僚間や部下から上司の場合もある。
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類型Ⅰ:身体的な攻撃(上下関係)
⑤【部下隊員の不安全行為を戒める指導を印象つけるため平手打ち】
A曹長は、空士を中心に編成されたクルーのチーフとして、地対空誘
導ミサイルの再搭載訓練を指導していた。クルーは熱心に訓練に臨み、
練度も向上しつつあったが、作業手順に慣熟できていないため、時に、
クルー間の意思疎通が乱れ、あわやクルーがミサイルの下敷きになりか
ねない、あるいはミサイルを損傷させかねないミスが見受けられた。
このためA曹長は、訓練を中断し、クルーを一同に集合させ、一人一
人の作業手順、ミスが起きた理由及び改善策について丁寧かつ理路整然
と解説した。さらに曹長は、特に重要な作業手順を担当する空士2名を
整列させ、「本日の訓練で指導した内容は、防空任務を完遂するために
も、大切な同僚を怪我させないためにも、絶対に忘れてはならない。指
導した内容を深く印象付け、忘れないようにするため、今からお前たち
を1回だけ殴る。」と宣言した上で、沈着冷静に、空士2名に対し平手
打ちを行った。
【解説】
○ A曹長が空士2名を平手打ちしたことは、指導の適正な範囲を逸脱
し、身体的な攻撃を与えた暴行・傷害事案であり、パワー・ハラスメン
トに該当する。
○ 仮に空士2名が、A曹長による平手打ちに納得していたとしても、指
導の手段として暴力を用いることは認められない。また、部下が上司に
よる指導手段について間違っていると感じていたとしても、一般に、自
ら上司に非を指摘することは難しいことに留意する必要がある。
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類型Ⅰ:身体的な攻撃(上下関係)
⑥【飲酒時に部下の態度に激高して暴行】
A課長は、課の懇親会の席において、酔った勢いもあり、部下のB係
長に対し、日頃の業務についてアドバイスをしたところ、軽く受け流さ
れたため、腹が立ち、B係長の肩を倒れるほど強く押した。
【解説】
○ A課長が、酔った勢いとはいえ、倒れるほど強くB係長の肩を押した
場合は、身体的な苦痛を与えていると考えられ、パワー・ハラスメント
に該当する。また、「暴行」として、刑事処分や懲戒処分の対象となる
可能性がある。
○ また、部下も、酒の場の雰囲気に乗じて、他の部下の目前で上司の問
題点の指摘や不満の表明等をし、上司としての面目を失わせた場合に
は、その行為自体が部下から上司に対するパワー・ハラスメント(精神
的な攻撃)に該当する場合があるほか、上司からのパワー・ハラスメン
トを誘発するおそれもあり、避けるべきである。
○ 本事例においては、勤務時間外、職場外、下から上、同階級において
もパワー・ハラスメントになり得る。
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類型Ⅱ:精神的な攻撃・類型Ⅳ:過大な要求(上下関係)
⑦ 【部下に大声で指導・過度の催促】
A課長は、着任したばかりで、業務に不慣れなB専門官に、会議のた
びに資料の作成を命じていたが、当該業務の緊急性や困難性に照らして
過度に進捗状況を報告させたり、事務所内に響き渡る大声で毎日のよう
に威圧的に指導したことにより、周囲の隊員も萎縮してしまった。
【解説】
○ A課長が資料の作成を命じて、B専門官に進捗状況を報告させること
は通常の業務の範疇であるが、被指導者の能力を考慮せず、大声で指導
することや、当該業務の緊急性や困難性に照らして過度の催促をするこ
とは、指導の適正な範囲を逸脱し、B専門官に精神的な苦痛を与えるも
のであり、また、周囲の隊員も萎縮するなどの精神的な苦痛を与え、職
場環境が悪化することとなるため、二つの観点からパワー・ハラスメン
トに該当する。
○ 他方、B専門官が業務遂行に適切な能力を有した上で、過去に何度も
期限内に仕事が終わらず、また、業務の進捗状況を全く報告しない場合
については、たとえB専門官がA課長の催促に不満に感じていても、業
務上の適正な範囲で行われている指導であるためパワー・ハラスメント
に該当しない。
その際も、A課長は、B専門官に「なぜ期限内に仕事が終わらないの
か」と理由を確認し、その解決方法として、業務分担を変更したり、具
体的な説明も併せて指導するなどのフォローを行い、良好な職場づくり
に努める必要がある。
○ 部下に仕事の督促をする際には、指導の趣旨及び督促の趣旨(なぜ急
いでやる必要があるのか等)を説明し部下に理解させるなどのコミュニ
ケーションが重要である。
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また、指導を行う場合は、時に厳しく部下を指導することも必要であ
るが、相手の性格や能力を見極めた上で、言葉を選んで、指導の対象者
のみならず、周囲の隊員に対しても職場環境を悪化させないように考慮
することが必要である。
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類型Ⅱ:精神的な攻撃(上下関係)
⑧ 【反抗的な部下に長時間指導】(パワハラに該当しない事例)
B事務官は、問合わせ等の電話対応の業務を行っていたが、その電話
対応のまずさからクレームが頻繁に発生するなどしていたため、A課長
が業務終了後から、電話対応の仕方等について指導を行っていた。
指導開始から30分程度経過したころからB事務官が返事をしなく
なった。また、約2時間を経過した頃、B事務官が黙秘権を行使してい
る旨述べるなどしたため、結果的に約4時間の長時間にわたり指導を行
った。
【解説】
○ 本事例については、B事務官の「黙秘権」という発言からもうかがわ
れるように、B事務官がA課長の指導に対し、意図的に長時間沈黙を続
けていたことは明白であり、このような部下Aの態度が原因で約4時間
の指導となったことが認められ、パワー・ハラスメントには該当しない。
○ 本事例は、部下が長時間沈黙をしていたという特殊な事情があったた
めパワー・ハラスメントに該当しないとされているが、通常、部下を指
導する場合に、4時間にも及ぶ長時間の指導を行うことは、不必要な精
神的苦痛を与える場合があることに注意し、指導中に部下が黙秘するよ
うな状況になった場合は、やみくもに指導を継続せず、日を改めるなど
の配慮が必要である。
○ 他方、B事務官が上司A課長の指導に対して侮辱的な発言をするなど
の反抗的な態度を示した場合は、懲戒処分等に該当する可能性がある。
【参考】裁判例:東京地裁平成22年8月25日
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類型Ⅱ:精神的な攻撃(上下関係)
⑨ 【SNSを通じての誹謗中傷】
【解説】
○ A1曹は、直接口頭により人格を否定するような言葉で指導は行って
いないが、パソコンやスマートフォンのネット端末を経由して、B士長
について誹謗中傷することは、B士長の人格・尊厳を傷つけ、不必要な
精神的苦痛を与えていることから、パワー・ハラスメントに該当する。
○ また、誹謗中傷する書き込みが不特定多数に見られる環境となってい
た場合は、名誉を毀損することとなり犯罪行為となる場合もある。
○ なお、SNSへの書き込みは、公私にわたる情報を世間に公表するこ
とになることを自覚し、掲載内容によっては、予測しなかった情報の流
出につながるおそれがあることから職務に関する内容を書き込むことは
禁止されている。
※SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービスの略)
ネットワーク上で人同士のつながりを電子化するサービス。
LINE、Twitter、Facebook、mixi など
A1曹は、業務上のミスが多いB士長に対して、指導しても一向に効
果が上がらないことに不満を持っており、ストレス解消のつもりで、S
NSの無料掲示版にB士長について「使えない奴」「存在が邪魔」「辞
めて欲しい」などと悪口を書き込んでいた。
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類型Ⅱ:精神的な攻撃(上下関係)
⑩ 【暴言を伴う指導・部下の前での叱責】
A2佐は、部下のB1尉に対し、着任以来、継続的に幕僚業務が不十
分であった場合や、自己の意図を体していなかった場合、感情的になり、
「バカ」「ボケ」「クビだ」等怒鳴りながら指導を行い、また、陸曹等
の前においても「こんな幹部を信用するな、死ぬぞ」との発言を繰り返
した。
【解説】
○ A2佐は、直接手を出す行為は行っていないが、継続的に相手の人格
を否定するような言葉を怒鳴りながら使用しており、B1尉を萎縮さ
せ、その発言がB1尉の面目を失わせ、不必要な精神的苦痛を与えてい
ることから、パワー・ハラスメントに該当する。
また、陸曹等の前においても侮辱ともとれる発言を行っており、発言
を聞いた陸曹等が不快に感じるなどの職場環境を悪化させることにも
なり、パワー・ハラスメントに該当する。
○ 他方、陸曹等の面前であったとしても、人格を否定するような言動を
用いることなく、B1尉も他の隊員も、指導されている理由を理解して
いる場合には、業務が不十分であったB1尉に対し、A2佐が指導する
ことは当然であり、パワー・ハラスメントには該当しない。
○ 指導に当たっては、指導対象者及び周囲でその指導が耳に入る者に対
して、指導の趣旨や目的がわかるように説明するなどが必要である。
○ また、部下の立場も考えて、相手の性格や能力を見極めた上で、言葉
を選んで、人格を否定するような言葉を使用せず、できる限り人前で叱
らないようするなどの配慮が必要である。
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類型Ⅱ:精神的な攻撃(上下関係)
⑪ 【指導中に物を投げる威圧的な指導】
A2佐は、部下のB1尉を指導中、初めは冷静に会話をしていたが、
B1尉の受け答えが曖昧なところがあったこともあり、だんだん腹が立
ってきて、B1尉の近くにあったソファーに向かって報告資料のはさん
であるバインダーを投げつけた。
【解説】
○ A2佐がB1尉に対し、直接手を出す行為は行っておらず、バインダ
ーをぶつけたわけではないが、指導中にものを投げつけることは、指導
の適正な範囲に含まれない威圧的な指導にあたり、パワー・ハラスメン
トに該当する。
○ また、報告資料を挟んだバインダーを投げる行為は、指導対象者の労
苦を否定することともなり、不必要な精神的苦痛を与えるものであるか
ら、パワー・ハラスメントに該当する。
○ 指導する際は一呼吸おいて、常に自身の感情をコントロールして冷静
に部下の状況や能力を見極めた上で適切に指導する必要がある。
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類型Ⅱ:精神的な攻撃(上下関係)
⑫ 【指導中に土下座をするよう示唆する強要的な指導】
A曹長は、以前からB3曹の勤務態度について、指導が必要であると
の認識を持っていた。
B3曹を指導した際、言い訳をする、指導を受ける姿勢も悪い等、反
省の色もなく改善の意欲も見られないと感じたため、大声で「俺がお前
の立場だったら土下座している」等繰り返し発言したことから、結果と
してB3曹を土下座させることとなった。
【解説】
○ A曹長はB3曹に対し、土下座するように直接指示、「死ね」「辞め
ろ」等の人格を否定する発言で指導は実施していないが、大声で繰り返
し土下座を強要するような発言を行ったものであり、その指導は不必要
な精神的苦痛を与えていることから、当該行為はパワー・ハラスメント
に該当する。
○ 他方、B3曹が指導を受ける際、反抗的態度や服従の義務に反する行
為を行っていた場合は、B3曹の行為は懲戒処分等に該当する可能性が
ある。
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類型Ⅱ:精神的な攻撃(上下関係)
⑬ 【明確な指針、具体的な不備事項を示さない指導】
A3佐は、B1尉が策定した訓練実施計画に関する指導の際、計画の
内容が気にいらなかったことから、意図的に計画の不備事項や修正に関
する明確な指針を示さず、何度もやり直しを命じた。
B1尉は、指導を受けている1週間、毎晩徹夜で業務を実施した。
その結果、その他の業務も遅れ、多大な精神的・身体的な負担を抱え
ることとなった。
【解説】
○ A3佐が行った指導は、何の腹案もなく、内容が気に入らないからと
否定するばかりでは部下の意欲を減退させ、適切な指導とはいえず、パ
ワー・ハラスメントに該当する。
○ 人材育成の観点から部下に自ら考えさせるため、あえて初めは指針
を示さずやらせてみる場合も、上司は腹案を持ち、部下の対応につい
て適切な改善策や具体的アドバイスを与えることで、その目的を達成
することが必要である。
26
類型Ⅱ:精神的な攻撃(上下関係)
⑭ 【部下に「日頃の態度が悪い」と叱責するメール送信】
B3尉は、どちらかと言うと自信過剰な性格であり、何かにつけて鼻
にかけた物の言い方をするほうであった。
そんな性格を気に入らないA1尉は、B3尉に対して、何回も「日頃
の態度が悪い」と叱責するメールを送っており、しかも、そのメールに
は、他の同僚や後輩が、メールのCC(受報者)に入っていた。
【解説】
○ A1尉が、B3尉に性格が気に入らないという主観に基づき何回も叱
責のメールを送信することや当該メールを他の同僚や後輩にも送信す
ることに合理的理由がない場合、見せしめによる制裁的要素が強く、パ
ワー・ハラスメントに該当する。
○ 上司が部下指導の一環として叱る場合は、状況により部下の立場も考
えて、できる限り関係のない人に知られないように叱るなどの配慮が必
要であり、また、指導の真意が伝わるように、出来るだけメールではな
く直接指導することが望ましいと考えられる。
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類型Ⅱ:精神的な攻撃 (上下関係)
⑮ 【財布の管理が不適切とし金銭を繰り返し要求】
A2曹は、内務班長として、内務班倉庫の整理作業を行った。
この際、班員Bの衣装ケースの中から班員Bの財布が出てきたため、
財布の確実な保管を指導した。
さらにA2曹は、ペナルティを課す目的で金銭を繰り返し要求し、班
員Bに精神的苦痛を与えた。
【解説】
○ ペナルティと称して金銭を繰り返し要求することは、職務の適正な範
囲を逸脱し、精神的苦痛を与えたことから、パワー・ハラスメントに該
当する。また、恐喝に当たるおそれもある。
○ 内務班長が、班員の金銭管理を指導すること自体は適正である。また、
団体生活を行う内務班においては、金銭管理の不備から窃盗事案を誘発
したり、あるいは無実の隊員が疑われ部隊の士気が低下する等、任務遂
行に与える影響も観過できない。
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類型Ⅲ:人間関係の切り離し(下から上)
⑯ 【上司を軽んじる態度を取り、職場の雰囲気の悪化】
A技官は、同じ職場に10年以上勤務しており、親分肌の性格で、後
輩職員から公私ともに頼りにされるような存在であったため、歴代の科
長は、そのような状況を考慮し、A技官を他の技官と比べて、気を使っ
て接していた。
新任の科長であるB事務官は、そのような風潮を良しとせずに、特段
そのような配慮を行わず、業務命令を行っていたところ、A技官は、他
の部下のいる場で、「はいはい、分かったよ、科長さま」と侮辱的な受
け答えをしたり、「それは私の仕事ではなく、科長がすべき仕事ですよ。」
と言い訳をしたり、時には、わざと1度目は聞こえないふりをして返事
をしないなど、無視した。その影響で他の部下もB事務官を軽んじる雰
囲気となった。
【解説】
○ A技官のB事務官に対する行為は、A技官がB事務官よりも同じ職場
に長年勤務している優位性を背景に行われた行為であり、B事務官の孤
立化、人間関係からの切り離しにあたることになり、また、他の部下も
それに影響され、B事務官を軽んじる職場の雰囲気となり、職場環境を
悪化させているため、二つの観点からパワー・ハラスメントに該当する。
○ 他方、A技官が侮辱的な受け答えや言い訳だけに止まらず、命令を遂
行しない場合は、反抗的な不服従として懲戒処分等に該当する可能性が
ある。
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類型Ⅲ:人間関係からの切り離し(上下関係)
⑰ 【特定の部下を無視】
B事務官は、A班長に業務を命じられた際、効率的であると思う仕事
のやり方を提案したところ、A班長に「この提案では逆に非効率だ。」
と言われ口論となった。それ以降、A班長はB事務官が業務上の質問を
しても無視するようになり、他の班員もB事務官の肩を持つことで自分
も無視の対象となることを避けるためB事務官を無視するようになっ
た。
【解説】
○ A班長の行為は、人間関係からの切り離しをしていることとなり、パ
ワー・ハラスメントに該当する。
○ 上司の行為は、部下職員に対する影響力が大きいことに留意し、日頃
からの部下指導に心がける必要がある。
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類型Ⅳ:過大な要求(上下関係)
⑱ 【指導と称して部下に過大な仕事の要求(反省文)】
A班長は、何度注意しても仕事のミスが直らない部下のB事務官に対
して、口で指導すれば事足りるような軽微なミスに対してもその都度、
いやがらせのため膨大な量の反省文を書かせるように指導した。
【解説】
○ 上司が問題を起こすなどした部下に対して業務上の注意・指導の一環
で書面の提出を求めることは問題ないが、あまりにも軽微な過誤に対
し、継続的に悪意をもって反省文を求めることは、その必要性の観点か
ら業務上の指導の範囲を逸脱しているとともに、不要な身体的・精神的
負担を与えるため、パワー・ハラスメントに該当する。
○ また、部下に対して書面の提出を求める場合は、反省という主観面
に主眼を置くのではなく、問題行動についての客観的な事実関係や再
発防止に関する報告を求めることが望ましい。
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類型Ⅳ:過大な要求(上下関係)
⑲ 【指導と称して部下に過大な仕事の要求(業務の押しつけ)】
A課長が部下の課員Bに「お前は将来、人の上に立つんだから」と言
い聞かせ、本来は他の課員が行うべき膨大な業務を課員Bに押しつけ
た。課員Bは自分の業務を終了してから取りかからなくてはならなくな
り、帰宅できないような状況が続き体調を崩した。
【解説】
○ A課長が課員Bに行わせていた業務は、体調を崩すほど著しく過大な
業務であり、パワー・ハラスメントに該当する。
○ A課長も課員Bの健康状態にも留意するなど、課内の同僚も業務をフ
ォローアップする体制も整えられているような状況ならば、職務の適正
な範囲内であると考えられるため、パワー・ハラスメントに該当しない。
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類型Ⅳ:過大な要求(上下関係)
⑳ 【課業時間内の作業が無理なら残業せよと指導】(パワハラに該当しない事例)
A係長は、部下であるB曹長に、期限を明示した上で定期報告の文書
作成を命じた。当該作業は定期的なもので作業内容もそれほど多くなく
B曹長は過去にも作業した経験があるものであった。しかし、B曹長は
何日たっても一向に着手せず、毎日定時退庁していた。そのため、A係
長はB曹長に対し、「課業時間内の作業が無理なら残業してでも実施せ
よ。」と指導したところ、B曹長から「パワー・ハラスメント」と指摘
された。
【解説】
○ A係長がB曹長に作成を命じていた当該文書は、規則で定期的に上級
機関まで報告する必要がある文書であり、職務遂行上の合理性を有して
いる。また、作業内容や過去にB曹長が経験した業務であることから、
B曹長が文書作成をするための他の障害となる事項がなければ、実現可
能な指導にあたり、A係長の指導自体は、パワー・ハラスメントには該
当しないと考えられる。
○ 他方、たとえば、A係長がB曹長に命じていた業務が、B曹長の担当
業務とは全く関係がない場合は、B曹長に対して、なぜその業務を行う
必要があるのかを説明し、業務の目的を理解させることが重要である。
○ さらに、A係長は、B曹長が毎日のように定時退庁することや、上司
に対しパワー・ハラスメントを指摘する行為に着目し、その行為の背景
に、例えば、家庭的な問題や、人に相談できない悩みを抱えている等の
背景を推察し、B曹長に対するきめ細かい身上(心情)把握を行い、服
務指導を適切に行う必要がある。
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類型Ⅴ:過小な要求(上下関係)
㉑【特定の部下に過小な仕事の要求(仕事を与えない)】
B事務官は異動したばかりで、所属する班は残業の多い部署であっ
た。
ある日、B事務官は、従来の業務のやり方が非効率な部分があると感
じていたため、業務改善に関する提案を自主的に作成して提出したとこ
ろ、A班長から「余計な事をするな」と突き返された。それ以降、A班
長は「あいつとは相性が合わない」と言って、お茶くみ、ゴミ捨て、新
聞の切り抜き以外の一切の仕事をB事務官に与えなかった。
【解説】
○ 業務改善の提案に対して、それが気に入らないことを理由に、A班長
がB事務官に仕事を与えなくしたのは職権の乱用にあたり、パワー・ハ
ラスメントに該当する。
○ 部下には差別なくその能力や役職等に見合った仕事を与える必要が
あり、合理的な理由なく仕事を与えないことは許されないことに留意す
る必要がある。
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類型Ⅴ:過小な要求(上下関係)
㉒【特定の部下に過小な仕事の要求】(パワハラに該当しない事例)
A課長は、B専門官に対して、ミスが多く、指示したとおりに作業を
しない、重要な報告を怠る、嘘をつくといったことを理由に、B専門官
の担当業務を前任者が担当していた業務から変更し、担当範囲を狭くし
た。
また、必ず同僚にフォローさせて、一人で作業させないようにしてい
た。これに対し、B専門官は、課長の行為を「パワー・ハラスメント」
として苦情を申し立てた。
【解説】
○ B専門官はプライドが高く、業務の割り振りを減らされ、同僚にフォ
ローされていることについて、不満を持っていたとしても、パワハラに
該当するか否かは、セクハラと違い受け手の認識だけでは判断できない
ため、A課長が、個人的な感情によることなく、業務遂行上の合理的な
理由により、適切な範囲で業務の割り振りを行っていると客観的に判断
される場合には、パワー・ハラスメントに該当しない。
○ 部下には差別なくその能力や役職等に見合った仕事を与える必要が
あり、性格が気に入らない等の合理的ではない理由で仕事を与えないこ
とは許されないことに留意する必要がある。
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類型Ⅵ:その他(上下関係)
㉓【上司が部下の趣味を悪意をもってやめさせる】
B2尉は、油絵が趣味で、課業時間外や休日には油絵を描いていた。
上司であるA科長は、平素からB2尉の仕事ぶりに不満を持っていた
ことから、B2尉が油絵を趣味としていることを知った以降、B2尉へ
悪意をもって「自衛官として油絵の趣味は相応しくない」、「俺は格闘
技が好きだから、油絵を描く暇があったら、格闘技をしたらどうだ」と
頻繁に言うようになった。
その後、A科長は、油絵をやめようとしないB2尉に対し、「もう油
絵なんかやめろ」と厳しく指導・命令するようになり、結局、B2尉は
油絵をやめてしまった。
【解説】
○ B2尉は、余暇を利用して趣味に講じているものであるが、A科長の
行為は、職務上の適正な範囲を超えて、悪意をもってB2尉の趣味を強
制的にやめさせたものであり、パワー・ハラスメントに該当する。
○ 他方、仮にB2尉が、体力的に劣っており、休日等は油絵に没頭して
いる場合に、上司は「休日等に油絵を少し休み、体力練成をしたらどう
か」とアドバイスする場合や業務多忙時にもかかわらず、頻繁に休暇を
取って油絵に没頭し、業務遂行に支障が生じている場合、職務上の指導
として、計画的な余暇の過ごし方等を指導することが必要な場合がある。
※ 事例解説内容は、あくまでも一例であり、事柄の詳細な内容や背景
等によってパワー・ハラスメントに当たり得るか否かは判断されるこ
ととなります。
※ 本事例集は、今後も改訂し、事例解説を増やしていきたいと考えて
おりますので、ご意見等ございましたら、各機関等の担当部署を通じ
て人事教育局服務管理官付まで、連絡下さい。