モーニングレクチャー～浮腫～

2018年7月26日(木)

総合診療科

懸樋英一

今日の話

1）浮腫とは

2）症候から原因検索へ

3）診断の進め方

4）診断確定のために

今日の話

1）浮腫とは

2）症候から原因検索へ

3）診断の進め方

4）診断確定のために

浮腫の定義

• 体液：細胞外液と細胞内液の2 つ

• 細胞外液は，間質液と血管内液に分けられる。

• 「浮腫」とは一般に，「細胞外液分画中の間質液量の増加」と定義される。

浮腫のメカニズム

• 毛細血管内の静水圧の上昇

-心拍出量の減少で静脈圧が上昇し浮腫を生じる

-静脈炎・静脈の閉塞で，局所的に浮腫を生じる

• 血漿膠質浸透圧の低下

-血漿アルブミン濃度の低下から浮腫。

• 毛細血管壁の透過性の亢進

-血漿水の間質液への移行が起きる

• リンパ管閉塞

今日の話

1）浮腫とは

2）症候から原因検索へ

3）診断の進め方

4）診断確定のために

患者の訴え

• 顔が腫れぼったい

• 眼の周りが腫れてきた

• すねをおさえるとへこむ

• 体重が急に増えた

• 靴，指輪がきつくなってきた，など。

浮腫の診察の3 原則

（1）浮腫の分布の確認

（2）皮膚の状態の確認

（3）全身状態の確認

浮腫の分布は？

• 全身性 -心臓性 （例：うっ血性心不全）-腎臓性 （例：急性，慢性腎不全）-肝臓性 （例：慢性肝不全，肝硬変，低ALB）-内分泌 （例：甲状腺機能低下症，クッシング）-栄養失調性-薬物性-特発性

• 局所性 -血管性浮腫-静脈性- リンパ性-炎症性

診察と手技がみえるvol. 1（第2版） メディックメディア，2007

約10 秒間約5mm の深さで圧迫して回復を確認

皮膚の状態は？

浮腫部の色調・熱感は？

• リンパ性浮腫

皮膚は硬くなり，褐色調。

• 下肢静脈瘤

皮膚が全体に褐色調

• 蜂窩織炎

暗赤色，熱感，疼痛

• 血管炎

軽度の隆起した紫斑

今日の話

1）浮腫とは

2）症候から原因検索へ

3）診断の進め方

4）診断確定のために

診断の進め方

• 医療面接

• 身体診察

• 医療面接と身体診察を統合して鑑別する

• スクリーニング検査

-尿検査

-血液検査

-胸部Xp

-心・腹部超音波

医療面接

• 経過

• 誘因

• 全身症状の有無

• 既往歴

• 嗜好品，常用薬

医療面接 （経過）

• どの程度の浮腫？

-全身性，局所性

• 浮腫の出現？

-急激，徐々

• 浮腫の持続は？

-一過性，持続性

• 日内変動は無いか？

医療面接（誘因）

• きっかけはどうか？

-過剰な水分摂取はなかったか？

-最近新しい薬剤を飲み始めていないか？

⇒お薬手帳を要チェック

-輸液は？

⇒特に高齢者の過剰輸液には要注意

医療面接（全身状態の有無）

• 体重増加，尿量の変化は？-乏尿といった尿量の変化⇒腎性の疑い

• 発熱，発汗，疼痛は？-炎症性の疑い

• 動悸，呼吸困難，起座呼吸？-心臓性の疑い

• 食欲不振，下痢，嘔吐？-消化管，蛋白損失性の疑い

• 妊娠，生理周期？-妊娠性，月経前緊張性⇒疑い

医療面接（既往歴）

• 心・腎・肝疾患，内分泌（特に甲状腺），等

-既往歴や処方歴から聴取

• 悪性腫瘍

-既往歴，手術歴を聴取

• アレルギー歴

-特に新規に始まった薬剤

• 外傷，手術，放射線照射

医療面接（嗜好品，常用薬）

• アルコール，喫煙の有無

• 服用中の薬物の有無（代表例）

- NSAIDs

-ステロイド

-降圧剤（Ca拮抗薬，ACE阻害薬）

-甘草（芍薬甘草湯，グリチルリチン製剤）

身体診察

• バイタルサイン （血圧，脈拍，呼吸数）

• 全身状態（体重，尿量）

• 頭頚部（眼瞼，貧血，黄疸，甲状腺）

• 胸部（心拡大，肺水腫）

• 腹部（肝脾腫，腫瘤，腹水）

• 四肢（圧痕の有無，全身性/局所性）

全身性浮腫

• 心性：うっ血性心不全

• 肝性：肝硬変，門脈圧亢進症

• 腎性：腎不全，急性糸球体腎炎，ネフローゼ

• 内分泌性：甲状腺機能低下，クッシング

• 薬物性（⇒血管性浮腫といった局所性もある）

• 栄養障害性

• 妊娠性

• 特発性浮腫

局所性浮腫

• 血管性（静脈性）：上大静脈症候群

• リンパ管性：リンパ管閉塞

• 炎症性：関節リウマチ，痛風，蜂窩織炎

• 外傷性：打撲

• 血管神経性：クインケ浮腫

• 遺伝性血管神経性浮腫

クインケ浮腫

PSL 15mg/日を3日間内服開始 1週間後

Schönlein-Henoch syndrome

（Problem List）＃ 20代，男性

＃両下肢に紫斑

＃両下腿浮腫

＃足がジンジン痛い

＃腹痛

ベーチェット病

（Problem List）

＃ 50代，女性

＃口内炎

＃両手・肘・膝関節痛

＃下肢の紅斑と浮腫

＃目のかすみ

蜂窩織炎

（Problem List）

＃ 80代，女性

＃右下肢痛

＃〃 熱感

＃〃 浮腫

RS3PE症候群

(1)予後の良い （Remitting）(2) リウマチ因子陰性 （Seronegative）(3)対称性 （Symmetrical）(4)手背足背の圧痕浮腫を伴う滑膜炎 （Synovitis With Pitting Edema）

上大静脈症候群

（Problem List）

＃ 70代，男性

＃顔面の浮腫

＃呼吸苦

今日の話

1）浮腫とは

2）症候から原因検索へ

3）診断の進め方

4）診断確定のために

必要なスクリーニング検査

• 尿検査：尿蛋白，尿潜血，尿糖，尿沈渣

• 血液検査：TP/ALB，BUN/Cr，TC，TSH/fT4

BNP，D-ダイマー

• 胸部Xp・心電図：心疾患を疑う時

• 心・腹部超音波：

心不全，肝硬変，腎萎縮，多発性のう胞腎，等

心性浮腫の診断

• 既往歴の確認

高血圧，弁膜症，不整脈，心肥大，心筋梗塞，等

• 聴診，血液検査，胸部Xp，心電図，心臓超音波

-起座呼吸の有無

-心雑音，頸静脈怒張

-血液検査：BNP，肝障害（うっ血肝の疑い）

-心拡大，肺うっ血，胸水貯留

腎性浮腫

• ネフローゼ症候群，慢性糸球体腎炎，糖尿病

-尿検査

蛋白尿 （3.5g/日）

-血液検査

低蛋白 （6.0g/dl以下），低ALB （3.0g/dl）

高TC血症

• 急性糸球体腎炎

-血尿，蛋白尿，高血圧

-溶連菌感染の証明

（ASO抗体，ASK抗体，捕体の低下）

肝性浮腫

• B・C型肝炎，肝硬変，肝癌の既往

• 血液検査

-低ALB血症，ChE低値，PT活性低下，Bil上昇

-門脈圧亢進症

• 画像検査

-肝硬変，脾腫，腹水の有無，等。

内分泌性浮腫

• 甲状腺機能低下症による粘液水腫

- Non-pitting edema

-中年女性

-皮膚乾燥，脱毛，動作緩慢，嗄声，除脈

-胸部Xpで心拡大，心電図で低電位

- TSH上昇，fT4低値

-高TC血症，高CK血症

栄養失調による浮腫

• 悪性腫瘍

• 蛋白損失性胃腸症

• 吸収不良症候群

-低アルブミン血症

-貧血

-電解質異常

薬剤性浮腫

• Na蓄積作用のある代表的な薬剤

- NSAIDｓ

-ホルモン剤

-グリチルリチン製剤

-甘草

• 降圧剤

- Ca拮抗薬 （血管透過性亢進：血管拡張）

- ACE阻害薬 （血管性浮腫：アレルギー機序）

興味深かった症例：80歳，男性

• 4月に足のしびれ，歩行困難。

⇒5月に腰部脊柱管狭窄症，手術で歩行可能。

• 退院後，6月に肝障害を主訴に当科紹介。

• 再度，歩行が困難になった。

• 両下腿に圧痕性浮腫，体重増加（56⇒59㎏/月）

• 採血：肝胆道系酵素上昇，BNP上昇

• 胸部Xp：心拡大（CTR 38%⇒44% / 3か月）

脚気心の疑い

• 外注のVB1⇒25ng/ml（30-70）

• 脚気心，心不全と診断，VB1製剤（アリナミンF ®）。

• 約2週間の経過で浮腫の軽減，歩行可能。

• 肝胆道系酵素，BNP値も改善。

• 心不全+うっ血肝+両下腿浮腫+末梢神経障害

• 食生活：家ではパンしか食べない偏食あり。

浮腫の診断のまとめ

医療面接

身体所見 → 局所性浮腫

↓

全身性浮腫

スクリーニング検査

-生化学，血液一般，検尿

-内分泌検査（甲状腺，ACTH，コルチゾール）

-胸部Xp

-心電図

-心臓，腹部超音波検査

• ご清聴ありがとうございました