タイ、シンガポール、マレーシアの 援助政策 - JICA...40 開発金融研究所報...

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40 開発金融研究所報 タイ、シンガポール、マレーシアの 援助政策 ―東南アジアの新興ドナー― 東京大学大学院 新領域創成科学研究科  佐藤  仁 目 次 Ⅰ はじめに 1.調査の意義 2.調査の方法と日程 Ⅱ タイ:背伸びする新興ドナー 1.対外関係と援助の沿革 2.援助の実績 3.援助の体制 4.援助の目的と戦略 Ⅲ シンガポール:したたかな Per Capita 経 済大国 1.対外関係と援助の沿革 2.援助の実績 3.援助の体制 4.援助の目的と戦略 Ⅳ マレーシア:「ドナー化」への躊躇と南 南協力へのこだわり 1.対外関係と援助の沿革 2.援助の実績 3.援助の体制 4.援助の目的と戦略 Ⅴ 受け入れ国の状況:ラオスとカンボジア Ⅰ はじめに 1.調査の意義 日本の ODA が厳しい予算制約の下で縮小 傾向にあるのは周知の事実である。他方で、 中国や韓国、東南アジアのタイやマレーシア といった「新興ドナー」と呼ばれる国々の援 助活動は、とりわけアジア地域において急速 に活発化している。東南アジア諸国における 新興ドナーの活動は民間企業の活動と密接に 結びつく形で展開されており、ゆえに新興ド ナーの影響はこれらのドナーの実施機関によ る「援助支出額」をはるかに超えるものがあ る。日本はこれらの国々の動きを注視しなが ら地域のトップドナーとしてリーダーシップ を堅持すると同時に、新興ドナー諸国との間 のパートナーシップを促進して、アジア地域 全体の安定と持続可能な発展に寄与しなくて はならない。 本調査の意義は大きく3つある。第一に、 「新興ドナー」については近年語られること が多くなったものの、援助の実態や背景にあ る考え方に関する客観的な情報は極めて乏し い。こうした状況下では、政府が公にしてい る情報を整理してまとめるだけでも一定の意 義がある。第二に、新興ドナーに分類される 複数の国を比較することによって、東南アジ ア地域におけるこれからの援助活動や、地域 の発展に占める援助の役割について洞察を得 るという意義である。具体的には経済水準が 近いマレーシアとタイの対比を通じて、両国 における援助の位置づけをより明確にするこ とができる。第三に、日本の援助方針を定め る上での意義である。シンガポールを除けば、 東南アジア新興ドナーは、援助の受け入れと 供与を同時に行っている。ドナーの意図があ る程度反映されざるをえない「受け入れ」に 対して、援助の供与は当該国の地域的・国際 的な利害をより直接的に反映する。つまり、

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  • 40 開発金融研究所報

    タイ、シンガポール、マレーシアの援助政策―東南アジアの新興ドナー―

    東京大学大学院 新領域創成科学研究科 佐藤  仁

    目 次

    Ⅰ はじめに1.調査の意義2.調査の方法と日程

    Ⅱ タイ:背伸びする新興ドナー1.対外関係と援助の沿革2.援助の実績3. 援助の体制4. 援助の目的と戦略

    Ⅲ  シンガポール:したたかなPer Capita 経済大国1.対外関係と援助の沿革

    2.援助の実績3.援助の体制4.援助の目的と戦略

    Ⅳ  マレーシア:「ドナー化」への躊躇と南南協力へのこだわり

    1.対外関係と援助の沿革2.援助の実績3. 援助の体制4.援助の目的と戦略

    Ⅴ 受け入れ国の状況:ラオスとカンボジア

    Ⅰ はじめに

    1.調査の意義

     日本の ODA が厳しい予算制約の下で縮小傾向にあるのは周知の事実である。他方で、中国や韓国、東南アジアのタイやマレーシアといった「新興ドナー」と呼ばれる国々の援助活動は、とりわけアジア地域において急速に活発化している。東南アジア諸国における新興ドナーの活動は民間企業の活動と密接に結びつく形で展開されており、ゆえに新興ドナーの影響はこれらのドナーの実施機関による「援助支出額」をはるかに超えるものがある。日本はこれらの国々の動きを注視しながら地域のトップドナーとしてリーダーシップを堅持すると同時に、新興ドナー諸国との間のパートナーシップを促進して、アジア地域全体の安定と持続可能な発展に寄与しなくてはならない。

     本調査の意義は大きく3つある。第一に、「新興ドナー」については近年語られることが多くなったものの、援助の実態や背景にある考え方に関する客観的な情報は極めて乏しい。こうした状況下では、政府が公にしている情報を整理してまとめるだけでも一定の意義がある。第二に、新興ドナーに分類される複数の国を比較することによって、東南アジア地域におけるこれからの援助活動や、地域の発展に占める援助の役割について洞察を得るという意義である。具体的には経済水準が近いマレーシアとタイの対比を通じて、両国における援助の位置づけをより明確にすることができる。第三に、日本の援助方針を定める上での意義である。シンガポールを除けば、東南アジア新興ドナーは、援助の受け入れと供与を同時に行っている。ドナーの意図がある程度反映されざるをえない「受け入れ」に対して、援助の供与は当該国の地域的・国際的な利害をより直接的に反映する。つまり、

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    ドナーとしての援助活動を通じて、受け入れ部分だけを見ていては分かりにくかった当該国の利害関心を一層立体的に把握できるようになり、そのことはわが国による援助を戦略的に位置づける上でも重要な情報になる。

    2.調査の方法と日程

     新興ドナーを直接的に扱った文献はほとんど存在しない。よって、当局の担当者への聞き取り、関連する研究者への聞き取り、インターネットからの情報収集、および JICA、JBIC をはじめとする日本側関係者への聞き取りが中心的なデータ収集方法となった。なお、シンガポールでは技術協力の実績や予算に関するデータの開示がなされなかったので、考察の素材に乏しいことをお断りしておく。 現地調査期間は、2006 年 12 月下旬から2007 年5月上旬までの合計 22 日間であり、その間にタイ、マレーシア、シンガポールにおける援助政策立案機関、実施機関、大学等の研究機関、そしてラオスとカンボジアにおける「受け入れ国側」の調査を行った。タイでは NESDB(国家経済社会開発庁)の国際経済戦略部、外務省国際経済局、同 TICA(タイ国際協力開発庁)、アジア開発銀行、USAID(米国国際開発庁)、UNDP(国連開発計画)などを訪問し、ラオスとカンボジアでは当地のタイ大使館の援助実施担当者、JICA 専門家、NGO 職員などからも聞き取りを行った。シンガポールでは外務省技術協力局、シンガポール国立大学リー・クワンユー公 共 政 策 大 学 院、 東 南 ア ジ ア 研 究 所

    (ISEAS)、シンガポール国際財団(SIF)などを訪問し、マレーシアでは首相府経済企画院(EPU)、国際戦略研究所(ISIS)、マレーシア経済研究所、国連開発計画(UNDP)などを訪問した。

    Ⅱ タイ:背伸びする新興ドナー

    1.対外関係と援助の沿革

     タイの外交政策は積極的な側面と慎重な側面との両方を備えており、援助の役割を位置づける上でも、両側面の背景を理解することが重要になる。まず積極的な側面の背景として挙げなくてはならないのは、安定した経済成長に裏打ちされた自信である。1997 年に発生した通貨危機という一時的な打撃はあったものの、タイの経済は順調に推移し、2006年9月に発生したクーデター以後もその勢いは衰えを見せていない。2003年7月末には、経済危機直後に受け入れた IMF からの緊急借入を前倒しで完済するなど、対外借入の面からも経済危機からの脱却を果たしている。 このように、タイ政府の経済政策は、従来のインフラ整備等を基本とした開発政策から、国際的な競争に耐えうる競争力強化や自由貿易体制への対応を強く意識した制度整備へと広がりをみせている。一人当たり GNIをみても、2004 年時点では 2,540 ドルであるが、仮に今後の成長率を5%と見積もれば、2009年には約3,200ドルに達することになり、タイは数年のうちに世界銀行が定義する「高中所得国(upper middle income country)」になる(外務省国別援助計画 2004)。 タイが今日の文脈でいう「援助」に相当する活動を開始したのはコロンボ・プランに加盟した 1954 年である。活動の内容は、先進国や国際機関の出資によって実施された途上国からの研修員の受け入れであった。より意識的に実施されるようになったのは 1978 年のブエノスアイレス行動計画*1 であった。この枠組みの下で、対アフリカを含む研修員の受け入れや専門家の派遣が行われてきた。 隣国との経済協力を中心としたインフォーマルな関係はその後も継続したが、1970 年代中ごろにインドシナにおいて共産党政権が成立したことによって関係は一気に悪化す

    *1 Buenos Aires Action Plan: http://tcdc.undp.org/tcdcweb/knowledge_base/bapa_english1.asp

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    る。やがて、1980 年代後半の冷戦の終結に連動して対立も軽減し、より本格的な交流が始まった。このようにタイの対外関係は経済の積極さに政治が水をさすというパターンを繰り返してきた。経済面におけるタイの積極策と比較して、援助を含む政治面で慎重さが見られるのは、こうした歴史的背景からすれば当然のことといえよう。 二国間レベルの協力活動が本格化するのは1988 年の経済ブーム以降、当時のチャチャイ政権による「インドシナを戦場から市場へ」というスローガンに後押しされ、近隣諸国への積極的な外交戦略が展開する 1990 年代初頭であった。その後、タイの援助拠出能力は、援助受け入れ額と反比例しながら向上し、2003 年 10 月の閣議ではタクシン首相(当時)が「ノーモア援助」宣言を行い、「被援助国」からの卒業を高らかに謳った。1992 年に開始された技術協力プログラムとしての TICP

    (Thailand International Cooperation Pro-gram)、1996 年における NECF(NEDA の前 身:Neighboring Economies Cooperation Fund) の 設 立、 そ し て 2004 年 の TICA

    (Thailand International Cooperation Agen-cy) 設 立、2005 年 の NEDA(Neighboring Economies Development Cooperation Agency)設立と、ここ 15 年程度の「ドナー化」傾向は著しいものがある。タイの場合、こうしたドナー化が「被援助国」という立場からの「卒業」に並行していた点で、南南協力が「卒業」以前に実施されていたマレーシアとは対照的である*2。 タイが援助に積極的にならざるをえない理由はいくつか考えられる。一つは、タイと近隣諸国との間にある圧倒的な経済格差である。とりわけ一人当たり GNI(Gross Nation-al Income:国民総所得)の比較においては、シンガポールが突出しており、ラオスとカン

    ボジアの遅れが著しいことがわかる。経済統合や援助など、国境を越える活動が、こうした大きな格差の構造に立脚しているという事実をまず確認しておく必要がある。 タイと周辺諸国との格差に注目すると、現状では、格差の存在を利用して、タイからは資本と技術が流出し、近隣国からは原材料と労働力が輸入されるという構図になっている。しかし、格差の存在は、副次的作用として不法労働者の流入だけでなく、密貿易、麻薬の取引、疫病の流入など negative flow を生じせしめる*3。こうしたフローは、受けるタイ側の努力だけでは十分に対応することができず、先方国の管理能力強化を支援する方向に援助せざるをえない。こうした受身の側面とは逆に、地域のリーダーとしての「旗を見せたい」(ADB バンコク事務所からの聞き取り)、あるいは、地域の発展モデルの「イメージ」を自ら先導して形成したいというという積極的な側面が並存しているのがタイ援助の特徴である(NESDB 2007)。 積極策の背景にある二番目の要因は、タクシン政権時にタイの国際的な地位を向上させる努力が行われ、その一環としてスラキアット外相(当時)を国連事務総長選挙に擁立しようとした背景がある。2004 年3月頃から拍車がかかり、アフリカ諸国との南南協力(対エジプト、南アフリカ、モロッコなど)への協力もこの時期にてこ入れされた。2005 年9月には非 OECD 国としてはじめて独自のMDGs(ミレニアム開発目標)報告書を作成し、その中で南南協力の重要性を強調した。タイは近い将来に OECD メンバーへの加盟も希望しているという(UNDP バンコク事務所からの聞き取り)。 タイの最も基本的な国家計画である国家経済社会開発5カ年計画は、その最新版である第 10 次5ヵ年計画(2007-2011)の中の重

    *2 もちろん、研修員の受け入れなどタイの援助活動は「卒業」のはるか以前から行われていた。しかし、それらは規模が小さいものであった。DTEC が外務省に移管される際に、「新興ドナー」として外務省が TICA を利用しようとしたことが、タイの「ドナー化」の過剰な演出につながったという見方もある(TICA での聞き取り)。

    *3 2003 年の段階でタイ入国管理局は 28 万人の不法入国者を検挙したが、その大部分はミャンマーからで、ラオス、カンボジアからの不法入国者数もかなりの数に上っている(Than 2006)。

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    350,000

    Thailand

    Malaysia

    Indonesia

    Philipines

    Lao PDR

    Cambodia

    Vietnam

    Singapore

    Brunei

    Myanmar

    GDP in 2005(current US million Dollars)

    要戦略の一つに「バランスの取れた持続的な経済の建設」を取り上げ、その一環としてGMS(Greater Mekong Subregion) やACMECS(Ayeyawady-Chao Phraya-Me-kong Economic Cooperation Strategy)などの地域協定を軸とした近隣諸国との緊密度の強化を明確な目標に掲げている(NESDB 2006)。2007 年 12 月に控えた総選挙の結果を踏まえて、タイがどのような体制を作り、援助を使って政治と経済のバランスをとろう

    とするのか、今後の変化に注目しなくてはならない。

    2.援助の実績

     借款や贈与を含む ODA 予算は、2003 年の段階で1億 6,700 万ドルが支出され、その年度の GNI の 0.13%を占めた(UN 2003)。この比率は先進諸国に比肩する数字である。同時に、供与先の 94%が LDC であるという点も、国際社会に評価されている。ただし、

    図表2 ASEANの経済格差 一人当たり国民所得

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    5,000

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    Thailand

    Malaysia

    Indonesia

    Philipines

    Lao PDR

    Cambodia

    Vietnam

    Singapore

    GNI per capita in 2005(current US Dollars)

    出典:世界銀行『世界開発報告 2006』

    図表1 ASEAN諸国のGDP格差

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    タイの近隣には、ミャンマー、ラオス、カンボジアといった最貧国が位置しているので、タイ援助を直ちに「貧困削減志向」として受け取るべきではない。また、技術協力、贈与、借款の比率を比べると借款が圧倒的であり、社会セクターへの投資はほとんどなく、「タイド」の割合が高い(藤沼 2007)*4。 技術協力について後に詳しく述べるが、1990 年の段階でわずか 2,200 万バーツだった援助総額(対途上国向け事業予算 Thailand International Cooperation Programme 配 分額)が、1992 年には1億 7,500 万バーツとなり、アジア危機の直前の1997年には4億1,200万バーツへと急伸している*5。その後、通貨危機による財政緊縮で予算配分は低下したものの、1999 年前後からはほぼ通貨危機以前の状況を回復し、2000年には1億1,300万バーツ、2003 年には1億 9,200 万バーツと安定している。 日本との関係においては、1994 年の段階ですでに「パートナーシップ協定」が結ばれている。2002 年からは援助貸付を組織的に行うようになり「ドナー化」へのステップを着実に歩みつつある。ただし、後に述べるように、パートナーシップの実質部分を構成する第三国研修の費用負担率を見る限り、まだ対等なパートナーになったというには時期尚早であり、タイの「背伸び」感が否めないのが実情である。図表3は、2003 年度の段階におけるタイの ODA の全体像を示すものである。TICA による 2006 年度の総予算は 4.5億バーツ(約1億ドル)となっているので、援助額は増える傾向にあることが確認できる。

    ⑴ 重点地域 技術協力に特化して、タイの援助実績を見てみると図表4のようになっている。図表4は 1999 年以降の TICA による援助対象国と援助額の集計である。2002年以降、東ティモールなどの紛争国、2003 年からはモザンビークやマダガスカル、2005 年からはエジプト、ケニア、ブルキナファソといったアフリカ諸国に技術協力の矛先を広げていることがわかる。 技術協力分野の優先対象国を見てみよう。TICA は援助対象国に明確な優先順位をつけている(TICA からの聞き取り)。優先度の高 い 順 に、 ① CLMV(Cambodia, Laos, Myanmar, Vietnam)、②スリランカ、東ティモールなどのポストコンフリクト地域、③アフリカ地域、④その他、である。最重要視されている CLMV については少なくとも年1回の協議を実施しており、とりわけラオスとは局長レベルの定期会合がほぼ制度化している。ラオスとの定期会合議事録*6 によれば、

    「援助(“kwam chuwai lua”)」という言葉は使 わ れ て お ら ず、「 技 術 協 力(“kwam rwameu thang wichakan”)」となっている

    (Thai Embassy of Laos 2007)。援助受け入れ国の面子を立てるような気遣いがこの表現一つにも感じられる。会議をタイ語で行うことができること、そして、タイ語でまとめられる議事録や合意文書を双方がチェックできるという点は、双方にとって第2外国語である英語で意思疎通しなくてはならないミャンマーやカンボジアと比べて大きな利点である。 図表5は、上の聞き取りを裏付けるものとなっている。主要な援助先として近隣諸国に

    *4 藤沼(2007)によれば、譲許的な借款の条件については NEDA 首相府令には規定はないが、実際には金利 1.5%、返済期間は 30 年(うち据置期間 10 年を含む)となっている。また、1 つの案件にローンとグラントを供与する際には、70:30 の割合で行っている。調達条件については「部分タイド」(partly tied)とタイ政府は称し、資機材やサービスの調達に関しては50%以上をタイから調達すること、契約者はタイ国籍の法人(株式の過半数をタイ人又はタイ法人が保有)又は、タイ法人と借入国籍法人との合弁会社であること、となっている。

    *5 末廣昭「DTEC の援助受け入れとタイ政府の技術経済協力」『タイ国別援助研究会報告書』(国際協力機構、2003)、194 頁。*6 この会議ではタイ側が提供する奨学金の受給者選定について、ラオスが希望する分野と選考方法についての議論、農業、教育、

    保健、労働といったセクター別の案件についての議論などがなされ、それぞれの案件についてラオスとタイ双方の代表を含むプロジェクト運営委員会の立ち上げについて合意がなされている。

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    図表4 TICAの援助対象国と援助額の推移

    (単位:千バーツ)

    1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005インドネシア 1,486 439 990 3,038 1,486 2,018 1,709マレーシア 0 436 772 508 175 8 0フィリピン 875 0 0 0 0 0 0東ティモール 0 0 0 658 8,993 10,567 2,696中国 260 3,112 6,546 7,142 2,438 5,629 5,498カンボジア 12,414 12,471 20,963 28,351 63,784 24,066 31,250ラオス 65,405 47,904 35,112 27,561 26,625 43,503 43,529ベトナム 8,428 7,767 19,604 11,968 11,897 13,752 24,915ミャンマー 4,377 16,445 2,188 1,974 1,925 1,160 4,501スリランカ 15 0 176 0 7,811 277 1,128ブータン 7,009 5,781 3,956 5,710 1,003 159 1,207モルディブ 4,022 3,728 1,935 1,950 228 205 0モザンビーク 0 0 0 0 1,650 1,021 5,041マダガスカル 0 0 0 0 2,405 534 2,286エジプト 0 0 0 0 0 0 2,032ケニア 0 0 0 0 0 0 1,678ブルキナファソ 0 0 0 0 0 0 1,593

    合計 104,291 98,083 92,242 88,860 130,420 102,899 129,063

    出典:TICA ホームページ

    図表3 タイ政府によるODA支出(2003 年度)

    (贈与) 供与先 金額(千ドル) %

    外務省 国連への供与 7,800 4.67TICA など 二国間プログラム、奨学金・訓練事業等 5,765 3.45財務省 ADB への供与 842 0.50教育省 奨学金・教師訓練 69 0.04保健省 マラリアやエイズ対策のために設立された Global Fund への供与 1,061 0.63運輸省 ラオス・ミャンマー・カンボジアの道路・橋建設 4,422 2.65

    計 19,959 11.94

    (融資)財務省 カンボジア、ラオス、ミャンマーのインフラ開発 48,820 29.20輸出入銀行 ラオスのダム・発電所建設 60,000 35.89輸出入銀行 モルディブのインフラ建設 30,000 17.94輸出入銀行 カンボジアのホテル・家屋建設 8,400 5.02

    計 147,220 88.06

    合計 167,179 100.00

    出典: Ministry of Foreign Affairs of Thailand. Global Partnership for Development-Thailand’s Contribution to Millennium Development Goal 8, 2006, p.14.

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    予算の大部分が集中しているのがわかる。カンボジア、ラオス、ベトナムの三国が圧倒的な割合を占め、他の国々に対する供与は金額としては著しく少ない。TICA のドナー化支援 に つ い て は UNDP、GTZ、AusAID、KOICA が関与しているが、タイはどこか一つの国をモデルにしようとはしていない

    (TICA からの聞き取り)。むしろ、「タイ・

    モデル」の構築を目指しているようである。「現場重視」という点では日本の援助手法は多いに参考になるというのが TICA 高官の発言であった。しかし、いまのところ TICAの現地事務所を近隣諸国に設置するという話はない。 図表6にあるように、NEDA の投資先は、TICA の投資先にほぼ対応しており、ラオス

    図表5 TICAによる援助対象国と金額(1999~2005 までの総額)

    出典:TICA ホームページより筆者作成

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    150,000

    200,000

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    300,000

    350,000

    マダガスカル

    モザンビーク

    モルディブ

    ブータン

    スリランカ

    ミャンマー

    ベトナム

    ラオス

    カンボジア

    中国

    東ティモール

    インドネシア

    (単位:千バーツ)

    図表6 NECF・NEDA国別承諾額の推移

    (単位:百万バーツ)

    年 度(期間)

    ~2002(~02/9)

    2003(02/10~03/9)

    2004(03/10~04/9)

    2005(04/10~05/9)

    2006(05/10~06/9)

    合 計

    ラ オ ス(融資)(無償)

    - ① 1,385 (1,385 )( - )

    ④ 1,517 (1,061.9)( 455.1)

    -   -   ⑤ 2,902 (2,446.9)( 455.1)

    カンボジア(融資)(無償)

    - ① 567.8 ( 567.8)( - )

    -   300 ( 300 )( - )

    ① 1,300 (1,300 )( - )

    ② 2,167.8(2,167.8)( - )

    ミヤンマー(融資)(無償)

    - -   ① 122.9 ( - )( 122.9)

    -   -   ① 122.9( - )( 122.9)

    合 計(融資)(無償)

    - ② 1,952.8 (1,952.8)( - )

    ⑤ 1,639.9(1,061.9)( 578.0)

    300 ( 300 )( - )

    ① 1,300 (1,300 )( - )

    ⑧ 5,192.7(4,614.7)( 578.0)

    出典:藤沼(2007)、11 頁。○の中の数字は案件の数。

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    とカンボジアが突出している点で共通している。

    ⑵ 重点分野 TICA の具体的な優先活動領域は、以下の7分野である。①農業・農村開発、②「足るを知る経済」、③公衆衛生および熱帯特有の疾病、エイズ、④小・中規模企業振興、⑤天然資源環境、毒物管理、環境影響評価、⑥観光開発、ホテル・マネジメント、⑦人的資源開発、アカデミック・キャパシティ・ディベロップメント(TICA での聞き取り)。このうち、国王が提唱している「足るを知る経済」の実践と普及は、TICA の重要業績評価指標

    (KPI)にも含まれているためにはずせない項目となっている。「足るを知る経済」とは、仏教の「少欲知足」の教えに則っとるもので、具体的には、環境保全と生産活動の調和がとれた地産地消型の経済をめざす。農村における複合農業の推進に力点を置くことも特徴である。TICA 担当者によれば、タイの援助の

    「強み」は、①熱帯地域でのベスト・プラクティス事例が豊富にあること、②援助国はタイを利用することによって経費を節減できること、③タイ特有の適正技術を用いることがで

    きること、であるとされる。先進諸国の援助とは異なる特徴を出しながら、ドナーとしての地位を確立していこうとする意気込みが窺がえる。 TICA が実施している技術協力プロジェクトの内容を見ると、農業や教育、保健医療などの案件が目立っている。例えば 2004 年度の案件を見ると、ラオスとカンボジアでは基礎教育、公衆衛生、職業訓練事業が実施され、中国では農業技術開発、ベトナムではタイ語研修と環境保全技術などの分野に専門家が派遣されている(TICA 2005)。 他方で NEDA については、近隣経済圏との連携強化という狙いが明確に出ており、国境付近における東西・南北回廊にリンクした道路、鉄道、空港建設などの分野に案件が集中している。これらの援助はバーツ・ローンであり、融資の半分以上をタイ企業の製品やサービスで賄うことを義務付けたいわゆる

    「紐付き援助」である(恒石 2006)。これらの案件は必ずしもタイ単独で推し進められたものではなく、タクシン首相(当時)が提唱してカンボジア、ラオス、ミャンマーの首脳との会談を経て作られた経済協力戦略構想に裏付けられたものである*7。

    図表7 NEDA案件リスト

    対象国 事 業 予 算

    ラオス ① R3 号線改良事業(チェンライ-昆民間南北回廊) 13 億 8,500 万バーツ

    ②ノーンカイ-ビエンチャン間4キロの鉄道敷設計画 1億 9,700 万バーツ

    ③ファイコンから北ラオスのパグベン間の 49 キロの道路建設(南北回廊)

    8億 4,000 万バーツ

    カンボジア ④タイのトラート県カンボジアのコッコンとスレオンバル地区を結ぶ 151 キロの道路改修工事(R48)

    8億 6,780 万バーツ

    ⑤タイのチョムサギャムとカンボジアのアンロオンウェン、シェムリアップ間の道路(R67)改修工事

    8億バーツ

    ミャンマー ⑥メソット・タートン間道路 153 キロの建設 5億 2,290 万バーツ

    出典:NEDA ホームページ

    *7 2003 年 1 月 12 日にミャンマーのパガンで「パガン宣言」として公表されたこの構想の目的は、⑴国境に沿って競争力の向上と成長をもたらすこと、⑵比較優位のある場所に農業と製造業の移転を促進すること、⑶ 5 カ国の所得格差を縮小させ、雇用機会を創出すること、⑷平和、安定の向上、および持続的繁栄を達成すること、とされた(恒石 2006)。

  • 48 開発金融研究所報

    3.援助の体制

    ⑴ スキーム 下の図表8は、タイにおける援助関連機関の全体的な見取り図であり、主要なスキームの総覧である。 CLMV を主な相手とする経済協力活動には、3つの類型がある。①借款、贈与など二国間資金協力、②研修や専門家派遣を中心とする技術協力、③ ASEAN やメコン委員会など国際機関を通じた多国間協力である

    (NESDB 2007)。先述の図表3に示したように、金額としては①が大きな割合を占めるものの、暫定政権になって NEDA の新規の案件はない中で、TICA による技術協力は粛々とスケジュールが進行している(TICA での聞き取り)。 実際に ODA 供与に関与する省庁は外務省と財務省以外にも存在する。主要なものでは保健省や運輸省(特に高速道路局)がそれぞれ援助に実施機関として関与している。それらを含む ODA に関する概括的な情報の整備

    は行われていない点で情報の総合的な把握は難しい*8。ODA 政策立案における分業体制という点においては、対近隣諸国への「経済政策の一環としての ODA」という側面からNESDB(National Economic and Social Development Board:国家経済社会開発庁)が主導的な役割を果たし、外務省は活動をTICA の技術協力と ACMECS などの地域協定に限定している。ただし、NESDB が主導的なのは対近隣諸国であり、アフリカや南アジアに対しては外務省-TICA のラインで政策立案が行われている。また、受け入れ国との打ち合わせなどは現地大使館員が中心になって行うが、大規模案件については政治家レベルの折衝で決まることも多く、大使館がバイパスされることもしばしばあるという

    (在カンボジア、ラオス大使館からの聞き取り)。

    ⑵ 政策機関 タイの ODA は“Forward Engagement”を謳う外交戦略の一環であり、その政策立案

    *8 UNDP における聞きとりによれば、タイ政府は 2007 年度中を目標に ODA の総合的な報告書を作成する計画がある。

    図表8 タイ援助関連機関見取り図

    出典:筆者作成

    政策立案機関 実施機関 主なスキーム

    外務省国際経済局

    +TICA企画評価部

    NESDB近隣諸国経済戦略部

    審議会

    近隣諸国協力開発委員会

    (大臣級)

     事務局=NESDB

    NEDA

    ・保健省・農業協同組合省・教育省・運輸省 その他

    経済技術協力委員会

    (次官級)

     事務局=TICA

    二国間事業年次国際研修南南協力第三国研修多国間・地域協力タイ・ボランティア事業

    TICAを通じた技術協力

    直接的な二国間協力

    二国間資金協力

    TICA

    関連省庁

  • 2007年10月 第35号 49

    には外務省(特に国際経済局)と国家経済社会開発庁(NESDB)内に設置された国際経済戦略部が中心的に関与している*9。タクシン政権時にはこの部署を事務局とする近隣諸国協力開発委員会)が存在し、その下部構造として観光や環境といった専門分野ごとの小委員会が構成されていたが、スラユット暫定政権後はこの審議会の機能はストップしている*10。 な お、GMS、ACMECS、IMT-GT

    (Indonesia, Malaysia, Thailand-Growth Triangle)などの地域協力枠組みにおけるタイの窓口機関も NESDB となっている。外務省国際経済局は、人材の不足などから分析的な仕事をほとんど NESDB に任せているようである。

    ⑶ 実施機関TICA タイの援助実施機関は、2004 年に外務省に新設された TICA と、かつて財務省内にあって 2005 年に独立法人化した NEDA である。TICA の前身は DTEC(Department of Technical Cooperation)であり、1950 年に首相府の中に設置された機関であった*11。その後、1963 年には近隣諸国を対象に援助活動を行うようになり、省庁再編で外務省へと移管された DTEC は、2004 年に TICA

    (Thailand International Cooperation Agen-cy)として生まれ変わる。首相府時代は職員総数が 300 人程度であった DTEC は、外務省への移管に伴い 175 名程度(内、常勤公務員は 90 名程度)へと縮小した。 TICA は、「東南アジア地域において他の途上国と共に社会経済開発、文化・技術的連携を高めるための開発協力のリーダーになる

    こと」を目指して創設された(TICA ホームページ)。そこには「新興ドナー(“Emerging Donor”)」としての自覚が明確に存在し、これまで援助を受けてきた経験と自国に固有の専門性とを組み合わせて開発協力を行っていくことが宣言されている。 図表9は 2007 年現在の TICA 組織図である。この中でドナーとして援助を送り出す業務 を 行 っ て い る の が Thai Cooperation BranchⅠ、Ⅱである。いずれの部者も常勤職員数は 10 名前後であり、決して大きな組織ではない。BranchⅠは、いわゆる近隣諸国(CLMV) 関 連 業 務、ACMECS、IAI

    (Initiative for ASEAN Integration)、東ティモールを担当し、BranchⅡは、アフリカ、BIMSTEC(Bay of Bengal Initiative for Multi-Sectoral Technical and Economic Co-operation)加盟国*12、CIS(Commonwealth of Independent States:独立国家共同体)、南アジア諸国、その他を担当するという区分けになっている。また研修事業については、HRD BranchⅠがタイを裨益国とする研修を担当し、BranchⅡがタイの予算で他の途上国の人々に研修を実施する場合の担当部署となっている(JICA タイ事務所)。この部署が担当し、タイのドナー化の進度を示す一つの事業に、先行ドナー諸国とのパートナーシップ協力に基づく第三国研修がある。 ここでいう「パートナー」とは、タイが純粋な被援助国の地位を卒業したという象徴的な意味だけでなく、そのことに見合うだけの費用負担を請け負う覚悟を意味している。ちなみに、図表 10 にあるように、JICA との協力による第三国研修では通貨危機まではタイ側の負担率を増加させる方向で推移した

    *9 10 名程度のスタッフからなるこの部署は、NESDB 副長官の Mr. Arkhom Termpittayapaisith 氏が統括、Mr. Pairot Potiwong が部長として指揮している。

    *10 国内統治を優先せざるを得ない暫定政権は、外交上の信用も薄い状態であり、ODA 政策の新体制構築は 2007 年 12 月に予定されている総選挙後となるであろう。ただし、外務省の下にあって主に技術協力の方針を審議する「対外経済技術協力政策委員会」は、タクシン政権後も健在であり、ODA の基本路線に大きな変更はないと思われる。

    *11 DTEC の沿革については末廣(2002)参照。*12 BIMSTEC は 1997 年に南アジアと東南アジアの経済連携を強める目的で結成され、当初は情報通信技術や観光など特定分野

    に特化した枠組みとして発足した。BIMSTEC はもともと加盟国のアルファベット頭文字(Bangladesh, India, Myanmar, Sri Lanka, Thailand Economic Cooperation)からその名称が付けられていたが、2004 年 2 月のブータン、ネパールの加盟に伴い、略称はそのままで名称が変更された。

  • 50 開発金融研究所報

    が、通貨危機以降、日本側の負担率が上昇し、8割近くまで増加した。昨年度は、通貨危機直前のレベルまで戻している。いずれにせよ、50:50 を実現しているシンガポールやマレーシアに比べると、実質的な意味においてパートナーにはなりきれていないのが実情である。NEDA タクシン政権は 2003 年 11 月に、資金協力援助機関を設立する方針について閣議決定を行った。関係者の話では、当時、首相の腹心であるスラキヤット外務大臣が資金協力機関の設立強化を強く進言し、首相は大蔵官僚出身のスチャート大蔵大臣(在任期間:2003年2月~04 年3月)に設立に向けて具体的な検討をするよう指示した。

     その後、大蔵省では新機関の機能について先進国の開発援助機関等の例を参考に検討した。ノッパドンNEDA前総裁によれば、結局、日本の旧海外経済協力基金(OECF)を基本モデルにしたとのことである。こうして、2005 年4月 29 日に NEDA 設立勅令(以下、NEDA 法と呼ぶ)が公布され、同年5月 17日に NEDA が設立されたのである。NEDAは、その基本的な機能設計において旧 OECFをモデルにしており、JBIC からの専門家を受け入れるなど、日本とのかかわりは深い。 NEDA の特徴は、下記のように整理することができる(藤沼 2007)。

    1)事業目的 NECF の場合は、首相府令で単に、近隣諸国に対して経済開発協力を実施することと規定したのに対して、NEDA 法の場合は、まず近隣諸国の政府、公企業、政府系金融機関に対して経済開発協力を行うことを明記している(第7条)。その方法は、①資金協力、②ソフト面の協力、③調査・分析・提案などと規定している。また、④国内外の政府機関、

    (国際機関や NGO 等の)組織、民間との連

    図表 10 第三国研修における費用負担率の推移

    (小数点以下四捨五入)

    1994 1997 2000 2003 2006

    日本:タイ 72:28 60:40 82:18 77:23 62:38

    総額(万バーツ)

    2,073 2,874 3,344 2,476 3,225

    出典:JICA タイ事務所

    図表9 TICA組織図(2007 年5月現在)

    DirectorGeneral

    DeputyDirector-General

    DeputyDirector-General

    Project Procurement andPrivilege Bureau

    PartnershipBureau

    Development CooperationBureau

    Human ResourcesDevelopment Bureau

    Office of theDirector General

    Project Procurementand Privilege Branch

    Project Budget Branch

    Clerical Section

    Planning & Monitoringfor Partnership Branch

    Countries PartnershipBranch

    (Bilateral and Trilateral)

    InternationalOrganizations PartnershipBranch(Multilateral)

    Clerical Section

    Planning & MonitoringBranch

    Thai CooperationBranchⅠ

    Thai CooperationBranchⅡ

    Clerical Section

    HRD BranchⅠ

    HRD BranchⅡ

    Clerical Section

    Technical Support andEvaluation Unit

    Information andCommunication

    Technology and PublicRelation Unit

    General Affairs Unit

    Clerical Section

  • 2007年10月 第35号 51

    携なども明示されている(同条)。 さらに、ここでいう「経済開発協力」とは、タイ政府の政策・戦略に沿って地域や国レベルで経済を発展させ、国際的な貿易・投資・観光を促進する援助協力事業を実施すること、としてその内容を具体的に示している(同条)。 なお、対象国である近隣諸国とは、NECFと同様にカンボジア、ラオス、ミヤンマー、ベトナムであり、その他ボードが定める国で閣議承認を得たものとなっている(同条)。

    2)事業 譲許的ローン及びグラントという形態で資金協力を行うことはNECFと同じであるが、NEDA は更に次のような広範な機能を保有している(第8条、第7条)。旧 OECF やJBIC の SAF(Special Assistance Facili-ties)に類似した内容が想定されていると思われるソフト面の支援(T/A)、NEDA の事業目的に沿った事業に対する他者又は他の法人との共同出資、業務遂行に必要となる資金の借入または資本金の募集、各種事業を運営するための業務委託など、様々な権限が付与されている。 このほか、NECFにはなかった機能として、NEDA は事業運営に係る各種手数料、維持費、役務報酬等を徴収することが可能となっている(第8条)。ただし、これまでのとこ

    ろ資金協力に係るハンドリング・チャージ等を導入する動きはない様である。

    3)資金ソース NECFとは異なりNEDAは独立法人(Pub-lic Organization)となり、政府からの出資金・補助金のほか、借入なども可能となり、事業も幅広く実施できることから投資資金の受入や事業運営収入なども主な資金ソースとして規定されている(第9条)。

    4)組織運営体制 NEDA は独立法人として、ボード→総裁→職員の体制で業務を実施し、必要に応じてボードは小委員会や作業部会を設置することが出来るとしている(第 15・21・22・23 条)。NECF 設置首相府令のように、予め委員会や小委員会設置が法令上に明記されてはいない。ここで「ボード」とは、最高意思決定機関のことで、NEDA 法第 15 条によれば、ボードの議長は有識者の中から閣議で選任される。ボードのメンバーについては、官職理事が大蔵次官、外務次官、NESDB(国家経済社会開発庁)長官、大蔵省 FPO(財政政策室)室長、外務省国際経済局長の5名である。有識者理事は4名以下で、閣議が選任した者とされている。さらに、NEDA 総裁がメンバーとして加わる。

    図表 11 NEDA組織図(2007 年現在)

    出典:NEDA ホームページ 括弧内は職員数。

    運営委員会(ボード)

    法律顧問 監事

    副総裁

    政策・企画部(4) 総務部(6)予算管理部(4)プロジェクト借款部(8)

    副総裁

    総裁

  • 52 開発金融研究所報

    5)監査・業績評価 NECF と同様に NEDA も内部監査と外部監査をそれぞれ年1回実施することになっている(第 41・42 条)。さらに、NEDA に関しては別の外部機関による業績評価も実施することになっている(第 44 条)。こうしてNEDA に対する監査関連業務は、資金の流れや処理を中心とした監査のみならず、業務パフォーマンスの評価の側面をも組込み、業務運営の向上を図っている。

    6)その他 NEDA では、新たに年次報告書を作成することが義務付けられ、これを大蔵大臣に提出することが義務付けられている(第 43 条)。また、NEDA ボードは3年毎に NEDA 全体の組織改革を実施することが規定されている

    (第 45 条)。これは、組織の効率性の向上を狙い、自己革新メカニズムとして法令中に予め組み込んだものと考えられる。

    ⑷ 援助の調整 タクシン政権時に設立された対外関係を審議する委員会組織は休止しており、現状は、援助を相互に調整する体系的なメカニズムは存在しない。この点は、タイがドナー化するに当たっての大きな課題となる。そもそも、諸外国のニーズの汲み取り方法に関して制度が整っていないので、タイの技術協力を強化するにあたってのタイ側の狙いと、受け入れ国としてタイが享受している ODA 提供国の思惑とのズレを生み出す。現状では、各国の大使館員(通常は1名が技術協力分野を担当)が窓口になっているが、重要な案件が必ずしも大使館を通過するわけではなく、むしろ政治家同士の合意でトップダウンに決定される案件も多い。現地大使館員や外務省国際経済局での聞き取りによれば、TICA の現地事務所を創設する構想はいまのところないという。 省庁間の調整メカニズムが存在しないことも問題である。ただし、これは日本を含む援助先進国でも必ずしも十分に解決できているとは言えない問題であり、タイの欠点として

    殊更に指摘することは憚られる。しかし、ODA 白書のような総合的な報告書も整備されていないタイでは、とくに各省庁が独自行っている援助の実態がなかなか把握できない。現在 UNDP や CIDA(Canadian Inter-national Development Agency)を中心に、援助マネジメント(特にデータベース作成)の能力強化が図られているというが、すぐに効果が現れるとは期待できない状況である。

    ⑸ 他のプレーヤー 援助に関与する他のプレーヤーには、民間主導の開発事業に対する融資を中心に行っているタイ輸出入銀行がある。これまでの近隣諸国に対するインフラ関連事業の融資では、例えば、近年の実績では、ラオスの水力発電所及びダム建設事業(60 百万ドル)、カンボジアのホテル・住宅建設事業(8.4 百万ドル)、モルディブの住宅及び関連インフラ事業(30百万ドル)などを供与し、グラント・エレメント 25%以上の譲許的な条件で融資している(藤沼 2007)。 NEDA とタイ輸銀とは業務上の連携関係はほとんど無いが、共に近隣諸国で行われる開発事業への融資に関わっていることから、前述の通り昨年度は合同の案件視察ミッションを派遣した。また、NEDA の最初の案件である国道 67 号線改良事業(カンボジア)では、タイ輸銀が閣議決定により急遽レンダーとなり、NEDA は“Lender’s Agent”となっている。 タイの対外援助については、日本の ODAに比べて市民団体や研究者を含む「取り巻き」がいまだ形成されていない。タイ援助の動向をつぶさに精査している研究者もいなければ、事業に対して本格的な批判を展開している NGO も見つけることができなかった。同様に、Bangkok Post や Nation といった主要な英字新聞、あるいはタイ字新聞の検索をかけても、協定の調印や合意を伝える記事のみで日本の ODA 批判に相当する記事は見当たらなかった。ただし、NEDA の工事を受注している民間企業やコンサルタントには一定

  • 2007年10月 第35号 53

    の情報が蓄積している可能性が高い。こうした組織からの情報収集は今後の課題である。

    ⑹ 援助実施上の課題 実施機関や政策立案機関での聞き取りをもとに、タイ援助の実施面における課題をまとめると次のようになる。①技術協力専門家のインセンティブ不足、② TICA と NEDA の関係を含む省庁間協調の不足、③相手国のニーズとタイ側の政策的な優先順位との間の齟齬、④国民への説明努力の不足。 ①については、長期間にわたって外国の地で活動することが本務地における出世に悪影響を与えるという懸念が大きく影響しているようである。②については、援助の分野に限らない官僚制の特徴であり、縦割りがとりわけ強く働くタイ政府内で効果的な協調を実現するには強い政治的リーダーシップが必要になろう。③の問題は、現地事務所がないために現場の情報が入りにくいことと、案件要請を処理するシステムが確立されていないことに由来するが、各省が独自に援助を行っていることを考えると、制度の一本化自体が政治的に困難となる可能性がある。ラオスではTICA の案件マッチングの定期協議が始まっているが、まずは TICA ルートの制度を近隣諸国へ広げていくことが最初のステップとなろう。④については、すでに国会でタイの対外援助について、「国内に深刻な貧困問題が残る中、なぜ諸外国に援助する必要があるのか」について議論されたことがあるが

    (NESDB での聞き取り)、国民に向けた援助の正当化や説明については具体的な手段はとられていない。また、援助の文脈における政府の説明責任を問いただす NGO も育っていないのが現状である。

    4.援助の目的と戦略

     タイの対近隣諸国援助の背景には多くの要

    因が関与しているが、2.1 で見たような近隣諸国との経済格差に伴う不法労働者の流入問題が大きい。しかし、この問題は別の角度から見れば、不足しているタイの労働力を近隣諸国からのそれで埋め合わせる可能性も示唆していることになる。NEDA による借款事業の大部分が国境沿いのインフラ整備に投入されているという事実は、国境経済圏の活性化を通じてタイが不法移民の流入と労働力不足の解消の両方を狙う思惑を読み取ることができる。 近隣諸国との関係において、経済面でタイが憂慮している側面の一つに農業がある。タイの GDP に占める農業セクターの貢献は、2005 年には1割程度まで落ち込んだが、農業従事人口という意味では、国民の半数程度が農業に関係する仕事を行っている。その意味では、農産物への影響は国民全体への影響という観点から注目されてしかるべきであろう。NESDB は 1998 年 に TDRI(Thailand Development Research Institute)に委託して「近隣諸国との協力における技術協力の役割」(TDRI 1998)と題した研究を行っているが、その分析対象はもっぱら農業であった*13。実態としては、ミャンマーとカンボジアの国境では大豆、トウモロコシや落花生などを契約農業方式で栽培し、規格化された生産物を免税とインフラ整備、技術支援などの政策によって市場に売り出すという振興策がとられており*14、少なくともタイから見るかぎり、農業ビジネスと一体化した援助は功を奏しているかに見える。 タイの援助が近隣諸国からの原材料とエネルギーと結果としてバーターになっているという側面は否定できない。今回の調査において、在カンボジア・タイ大使館職員もこの可能性を否定しなかった。対ミャンマー援助の戦略的な動機付けは原料資源の安定確保が背景にあるであろうし、ラオスへの援助の大き

    *13 ただし、報告書では、農業分野ではタイの技術的優位性が高いことを理由に、技術協力の拡大が提案されているだけで「戦略」は明示されていない。

    *14 タイの主要輸出品は、米、エビ、ゴム、繊維、トウモロコシ、錫、工業製品である。

  • 54 開発金融研究所報

    な目的が電力の確保にあることは否めない*15。しかし、他方でタイはこれまでインドシナがさらされてきた紛争の歴史を踏まえた「地域の安定」に気を使っており、闇雲に自国の利益を追求しているわけではないことも理解しておくべきである。とりわけミャンマーに対してはインドと中国も資源外交の観点から働きかけを強めており、タイが援助を使いながら大国の狭間にどのように分け入っていくのか今後注目される(Yahya 2005)。このように、将来を見据えた地域のかかえる緊張関係は、援助実施機関である NEDA やTICA の高官、ラオスやカンボジアのタイ大使館援助担当官からも感じ取ることができた。 NESDB が起草した「近隣諸国をにらんだ戦略マッピング」(草稿)によれば、タイ援助に関する具体的な政策方針には3段階の

    「戦略」がある(NESDB 2007)。第一は、政策レベルにおける戦略であり、ここには、衛生や環境面を含むさまざまな「基準」や地域の「アジェンダ」を共有するための諸政策が含まれる。第二は、セクター毎の開発戦略であり、そこには、運輸通信、エネルギー、投資、観光、農業、環境保全、人的資源開発、保健、災害予防、犯罪防止などの重点分野がある。最後の段階は、これらの重点政策を実現するためのメカニズムであり、そこでは近隣諸国の国家戦略とすり合わせを行うこと、政策の評価方法を確立すること、そしてこれらの活動を一元的に行うための「(閣僚級)近 隣 諸 国 協 力 開 発 委 員 会(Neighboring Countries Cooperation Development Com-mittee)」の組織を強化すること、などが示されている。この委員会は、上述したようにクーデター後の暫定政権になって休止状態にあるが、NESDB が近隣諸国政策の中心的な立案組織であり、今後もこの方面での主導権を握ろうとしていると考えれば、2007 年 12月の総選挙後に類似の委員会が活動を再開す

    る可能性は高い。 そこで NESDB の位置づけの中での「タイによる援助」の役割と今後の見通しを、再びNESDBの戦略ペーパーを参考に見てみよう。NESDB にとって、タイの ODA は上記の諸戦略を実現・促進するための、いわば「潤滑油」として位置づけられている。NESDB がタイの援助を強化していく方向については、①国別援助戦略の立案(CLMV 諸国に対して)、②対話チャンネルの確立と維持、③援助にかかわるアクターの裾野を拡張し、それぞれの成果に対するオーナーシップを高めること、④人材の育成、⑤援助評価の充実、の5点を特筆している。国別援助戦略の策定や援助評価の必要については、日本を含むDAC 諸国の潮流を受けた形になっていると見てよい。 他方で、近隣諸国以外のアフリカや南アジア諸国に対するコミットメントとしては、国際社会の一員としての MDG への明確な参画を示し、2005 年度には GNI に占める ODAの比率が 0.13%となり、多くの先進諸国を凌ぐ成績をアピールしている(Ministry of For-eign Affairs of Thailand 2006)。2005 年度のTICA 予算では初めてエジプト、ケニア、ブルキナファソに対して予算が計上され、対アフリカ支援のバリエーションが広がっていることは注目してよい。これをタクシン時代の一時的な国際的地位向上政策の一環として見るべきか、あるいは、より恒常的なタイのドナー化傾向として評価すべきかどうかは、いましばらく時間が必要である。

    Ⅲ シンガポール:したたか  な Per Capita 経済大国

    1.対外関係と援助の沿革

     シンガポールは「一人当たり GNP」が

    *15 ODA の究極目的について TICA 局次長の Apinan 氏は「ODA の究極目的は、地域の安全保障であり、エネルギーや貿易は二次的なものだ」と発言している。TICA は今後も、1)complementarity、2)mutual benefit、3)solidarity を基準に援助を実施していく、とのことであった。

  • 2007年10月 第35号 55

    2006 年の統計で3万米ドルを超えており、その指標では世界 20 位以内にランクする豊かな国である。平均所得だけで見るかぎり、地域の中進国であるマレーシアやタイを遥かに凌駕している。1970 年後半以降のコスト高を経験したシンガポールは、経済活動の力点を徐々に海外へと移し、政府の支援の下で海外直接投資を積極的に進めてきた。他方で、1990 年代に入り多くの外国での投資が失敗に終わるという事態に直面し、1993 年には国際化(internationalization)よりも、地域志向(regionalization)へと政策転換がなされる。この動きは、中国やベトナムの貿易自由化の動きと歩調をそろえる形で強化し、以来、「シンガポール・ブランド」の売り込みの一環としてアジア地域における工業団地の立地などが積極的に進められている(Yeoh and Wong 2005)。これらは、政府と民間が一体となった競争力強化にむけた政策であり、これから述べる技術協力事業もその一環として位置づけられるべきものである。 シンガポールの援助は、公式には 1992 年における SCP(Singapore Cooperation Pro-gram)の開始にその端緒を見る。天然資源

    のない都市国家であるシンガポールは、人材育成を通じて近代化を成し遂げたという自負をもつ。1965 年の独立直後には、一人当たり GDP がわずか 520 ドル(米)程度で、失業率も高く、教育やインフラを含む公共サービスが著しく未整備だった段階を経験しているシンガポールは、フランス、ドイツ、日本などの援助を受けながらめまぐるしい経済成長をとげ、いまや「発展のノウハウ」を知っている先輩として途上国への「研修」の売り込みを行うに至った。英語で快適に生活もできるという条件を生かし、研修を通じた「シンガポール・ブランド」の売り込みに熱心である。 シンガポールの国際協力では NGO 部門も大きな役割を果たしている。特にボランティア派遣や民間レベルの交流活動の大部分は、各種の財団を含む NGO が実施している。たとえば、代表的な国際協力の NGO のひとつである SIF(Singapore International Foun-dation)は、1991 年に設立された組織で民間企業等からの寄付金によって成り立っている。ちなみに、SIF のボランティア派遣実績は下記のとおりである。

    図表 12 SIF によるボランティア派遣実績(2006-2007)

    CountryFY 2006/2007

    In-fieldSpecialist Team

    Short Term

    Work ShopAceh

    VolunteersSXX* Total

    Afghanistan 2 2

    Bhutan 2 4 13 19

    Cambodia 1 26 15 42

    China 12 12

    India 2 23 6 31

    Indonesia 30 1 17 90 3 141

    Laos 1 6 6 13

    Myanmar 12 12

    Vietnam 36 36

    Total 2 112 3 67 90 34 308*SXX とは Singapore Executive Expeditions出典:SIF 提供資料

  • 56 開発金融研究所報

     このほかにも、World Vision、赤十字、MENDAKI(Council for the Development of Singapore Muslim Community)など一定数の NGO がボランティア派遣などの活動を行っている。シンガポールの NGO は、政府と対立的な、あるいは競合的な関係にあるところはなく、予定調和的に分業が行われているという印象である。それだけ政府の統制が強く浸透しているという見方もできる。

    2.援助の実績

     シンガポールの政府による援助協力は、技術協力分野に限定されている。借款も多少は行われているが、それは技術協力を行うための現地研修センターの建設など一部に限定されている。 シンガポールはマレーシアなどと比べても情報公開の程度が低く、外務省技術協力局から入手できた情報はきわめて限られていた。地域機関・国際機関への参加・拠出や SCP、支援活動のための予算として1億 1,900 万 Sドルが計上されているとしているが、その内訳等は不明である*16。

    ⑴ 重点地域 行政管理分野では、中国、インドネシア、ベトナム、ラオス、カンボジアからの研修生が数としては上位を占め、2006 年にはこの

    機関だけで合計 3,000 人の研修を行った。主要な官僚養成機関で、外務省奨学金によって途上国の行政官の研修も受け入れているCivil Service College の担当者によれば、ベトナムや中国からの研修受講者は自らの負担で参加しているという。中国からの研修生が多数に上る理由としては、シンガポールの政府システムに高い関心があること、そして研修を中国語で受けられるという理由があるという(Civil Service College での聞き取り)。広報は大使館などを通じてしているものの、基本的には要請主義をとっているので、研修参加者の分布を直ちに「援助の重点」として解釈することはできない。

    3.援助の体制

    ⑴ スキーム スキームとしては基本的に技術協力のみであり、プログラムの種類は大きく下記に分類される。

    1.二国間プログラム2. 合同研修プログラム(いわゆる「第三

    国研修」)3. ASEAN 統合イニシアチブ(IAI)・セ

    ンターを通じた協力4.現地見学5. アセアン諸国の学生に対するシンガ

    ポール奨学金

    図表 13 シンガポールによるパートナーシップに基づく研修活動

    協力相手 開始年 実績(累計) 研修分野

    タイ(TICA)

    1997 n.a 保健医療、英語、情報技術、行政

    韓国(KOICA)

    1993 46 コース、768 名観光、貿易、情報技術、環境、港湾管理、知的財産権保護

    日本(JICA)

    1994 186 コース、3,000 名以上情報技術、貿易促進、産業開発、保健医療、教育、都市計画、環境

    ドイツ(GTZ)

    1993 26 コース、370 名職業訓練、マルチメディア開発、企業管理、製造とオートメーション

    出典:Singapore MOFA 2007.

    *16 http://www.mof.gov.sg/budget_2007/expenditure_overview/mfa.html

  • 2007年10月 第35号 57

     研修には二国間研修と合同研修(第三国研修)がある。後者については、現在、ドイツ、日本、韓国、ニュージーランド、タイなどの政府機関と、世界銀行や WTO などの国際機関との協力の下に実施している。このうち、新興ドナー同士の協力という面では、KOICA との協力が 1993 年から開始し、すでに 46 コースにおいて 768 人に対する研修を実施した。また、ASEAN 諸国とのパートナーシップによる第三国研修としては初めて、タイとの協力が 1997 年に始まった。研修の主たる対象は、カンボジア、ラオスとミャンマーであり、研修の種類は英語、貿易と経済発展、観光、生産性向上、IT など累計で330 種類、合計 6,000 人以上の政府関係者がシンガポールでの研修に参加している。

    ⑵ 政策機関 シンガポール政府による援助は、外務省にある技術協力局(Technical Cooperation Di-rectorate)が集中的に統括している(組織図は図表 14 参照)。予算についての情報は、財務省の HP で開示されている以上のものはなく、実態は不明である。 SCP の実施は、外務省の技術協力局が行っている。およそ 30 名の職員からなるこの部局は、主に事業課(operations)と政策課

    (policy)とに分かれ、50 以上の研修実施機関と協力しながら途上国の研修員を教育している。

    ⑶ 実施機関 合計 50 の実施機関が専門分野ごとに研修に参加している。援助関連の行政官の研修に

    図表 14 シンガポール外務省 技術協力局組織図

    Director

    Publicity and DataManagement Section

    Assistant Director 以下2名Assistant Director 以下1名

    Third Country TrainingSection

    Assistant Director 以下10名 Assistant Director 以下5名

    Bilateral ProgramSection

    Training CoordinationSection

    Deputy DirectorDeputy Director職員1名

    DirectorateSupport Center

    Deputy Director

    Technical Cooperation Directorate 他16局

    Singapore CooperationProgram Policy Branch

    Singapore CooperationProgram Operations Branch

  • 58 開発金融研究所報

    ついては、Civil Service College が中心的な実施機関である。

    ⑷ その他のプレーヤー すでに述べたように、シンガポールの場合、政府と NGO は友好的な関係で分業体制を敷いている。政府は政府間の技術協力を、NGO はボランティア派遣を、という具合である。また、研究機関や大学関係者で援助を分析・批判している人はいないとのことであった。その理由は「援助に関して政府から提供される情報が乏しすぎる」(ISEAS からの聞き取り)という面もあるのだろう。

    4.援助の理念と戦略

     その地政学的な制限から近隣諸国に重く依存せざるをえないシンガポールは、物資確保という日常的な安全保障の面でマレーシアとインドネシアに依存しながらも、貿易と政治的な安全保障という面では日本とアメリカの傘下に入っている。マレーシアとインドネシアが中国と距離を置いていることがこうした構図をさけられないものにしている(岩崎 2005)。厳しい国際環境の中で、シンガポールは自らの国家建設の過程で最も重視してきた人材育成の経験を、今度は、途上国援助に活用しようとしている。とりわけ都市計画やガバナンス、行政、空港建設・管理運営といったテーマについては他の途上国から多くの研修リクエストがあり、対応しきれないのが現状であるという。 シンガポールによる援助の背景にある戦略的な動機がどこにあるのか、今回の調査で明確に特定することはできなかった。しかし、大学や研究所の関係者からの聞き取りによると、Singapore Cooperation Enterprise*17 などを通じた輸出振興、国際的に定評のある行

    政サービスのあり方をパッケージにして売り込むこと、援助を通じてシンガポールの得意とする技術モジュールに相手を乗せることによって「ロック(特定の技術要件から抜けにくくする)」することなど、すべて「ソフト・パワー」行使の一環として解釈すべきという見方もある。都市国家であるシンガポールにとっては、資源の獲得といった実利的な面よりも安定的な貿易が実現できる環境づくりのほうが重要なのである。その意味で、ブランドを有効利用した技術協力の充実化は国益に資するものとしてみなされているのだろう。 「地域の安定」を最優先するシンガポールが、政府主導の積極的な ODA 政策にすぐに打って出るとは考えにくい。融資を含む援助モダリティの更なる拡張は、近隣諸国との微妙なバランスの上に成り立つ per capita 経済大国シンガポールにとっては得策と考えられないからである*18。むしろ、技術協力と人材交流の強化に活動を限定しながらも、したたかに「シンガポール・ブランド」を売り込んでいくことが、この国の援助戦略として正しい道なのかもしれない。

    Ⅳ マレーシア:「ドナー化」  への躊躇と南南協力への  こだわり

    1.対外関係と援助の沿革 マレーシアは、これまで順調な経済成長の道をたどり、2004 年の段階で一人当たりGNI は 4,650 ドルに達した*19。人材育成に最も大きな力点をおく発展の仕方は、マレーシアの技術協力スタイルの確立に寄与するとともに、イスラム原理を踏まえた独自の発展理

    *17 Singapore Cooperation Enterprise とは、2006 年にシンガポール通商産業省と外務省とによって設立され、シンガポールの公共部門で蓄積されたノウハウを積極的に海外移転する目的で作られた組織である。http://www.sce.gov.sg/

    *18 ただし、歴史的にはシンガポールが大規模な融資を実施したことがある。1997 年の経済危機の時に行われた対インドネシア緊急経済援助である。このときのシンガポールの融資額は、日本の供与額と同じ 50 億ドルであった(岩崎 2005)。

    *19 2005 年時点での世銀による分類によれば、高中所得国は「2004 年の1人当たり GNI 3,256 ドル以上 10,065 ドル以下」と定義されている。

  • 2007年10月 第35号 59

    論に対する自信となって他のイスラム諸国からも尊敬を集めてきた。これが、後に述べるマレーシアでの技術研修の人気の源にもなっている。他方で、もはや途上国とは見なされなくなったマレーシアからは多くのドナーが手を引きつつある。例えば、UNDP は 1997-2002 年の期間に提供していた 230 万ドルを2003-2007 年には 170 万ドルに圧縮した。日本を含む他のドナーも同様に ODA 供与額を低下させている。 マレーシアの外交政策は、アブドゥル・ラーマン首相の下で 1960 年代までの反共・西欧追随型の政策から、1970 年代初頭にアブドゥル・ラザック・フセイン首相になってからの

    「非同盟」路線に急転換したところに大きな特徴がある。1980 年代に入ってマハティールが主導権を握ると、非同盟路線は一層強化され、外交政策のプライオリティも明確にされる。第一に優先されるべきは、ASEAN 諸国、次にイスラム諸国、非同盟諸国、そして最後に英連邦(common-wealth)の順序である。英連邦との関係が最優先されたそれまでの政策とは大きく転換したわけである。 マレーシアの本格的な技術協力活動は、1980 年の MTCP(Malaysian Technical Co-operation Programme)にその端緒をみる。

    その基本的な考え方は、人的資源の開発こそが国の発展の基礎になるというものであり、MTCP が研修活動に力を入れているのはそのためである。2005年までに135カ国の人々に対して研修が実施された。

    2.援助の実績

    ⑴ 重点地域 研修の実績は図表 15 のとおりである。ここには 2001 年以降の年ごとの地域別研修員受け入れ人数がまとめてある。特徴を整理すると次のようになる。①受け入れ研修員の総数は確実な増加傾向にある。2001 年から2006 年の間に2倍以上増えている点は注目してよい。②内訳を見ると、ASEAN 諸国が突出しているものの、アフリカ諸国が次に来ていることが特徴である。アフリカの中でも、スーダン、ナイジェリア、タンザニア、モーリシャスからの受け入れが多いことが特徴的である。

    ⑵ 重点分野 研修の重点は、行政管理マネジメント、生産性向上、民間航空、中央銀行業務、農業マネジメント、情報通信技術、獣医学、漁業、ラジオ・テレビ製作、投資、資産評価、税務、

    図表 15 マレーシアによる地域別受け入れ研修員数

    地域/年 2001 2002 2003 2004 2005 2006

    ASEAN 243 273 494 654 924 856

    その他のアジア諸国 40 53 50 71 130 135

    南アジア諸国 86 113 163 167 239 260

    南太平洋諸国 46 64 70 76 63 59

    北アフリカ・西アジア 134 145 232 258 260 354

    アフリカ 139 145 173 190 241 359

    中・東欧 22 20 36 58 39 36

    CIS 48 67 61 79 64 61

    南アメリカ 16 22 36 28 28 35

    カリビアン諸国 7 23 24 22 16 26

    合計 781 925 1,339 1,603 2,004 2,181

    出典:EPU 提供資料

  • 60 開発金融研究所報

    図書館経営、組合管理、やし油植林と火災防止、英語、などである(MTCP ホームページ参照)。

    3.援助の体制

    ⑴ スキーム MTCP による技術協力の形態には下記の5種類がある。政府による借款は行われていない。

    •   マレーシアのさまざまな機関で勉強するための奨学金の提供

    •   途上国やそこにある組織をスポンサーとする研修に対して施設の提供

    •  多様な機関への見学や実習の実施•  専門家による役務提供•   ケースバイケースのプロジェクト実施

    および機材の提供

    ⑵ 政策機関 MTCP の運営を担当しているのは、首相府経済企画院(Economic Planning Unit:EPU)の対外援助課(External Assistance Section:EAS)*20 である。MTCP の基本目的は、①他の開発途上国と開発経験を共有すること、②マレーシアとほかの開発途上国の二国間関係を強化すること、③南南協力を推進すること、④途上国間の技術協力を推進することである(MTCP ホームページ)。MTCP の実施は、まず技術協力プログラムへの参加を希望する実施機関が案件内容と予算の申請を EPU に対して行い、EPU がその内容に応じて認可するというシステムになっている(Abdul Hamid 2005)。実施に関する情報は EPU 経由で外務省に流れることになっており、外務省は研修の告知も含めて各国のマレーシア大使館に情報を流す。つまり、技術協力の受け手を実施機関に仲介しているのが外務省ということになる。 マレーシアの技術協力を主管しているのは上 述 の EPU で あ り、 外 務 省(Wisma

    Putra)の中には技術協力や援助を明確に担当する部署は存在しない。EPU と外務省の間には一定の調整があるようであるが、メカニズムの詳細は今回の調査ではわからなかった。EASの組織は下記のようになっており、総勢で 20 程度の職員からなる。EPU は、企画と調整を行う機関であり、研修員の受け入れを実際に行うのは全国に 130 以上存在する研修機関である。 組織としては非常に小規模であり、援助の送り出し(MTCP)も受け入れも数名のスタッフで対応している状態である。ただし、上席局次長(Senior Principal Assistant Di-rector)の配置が、地域協力課と南南協力課とにあることを考えると、これら二つの機能に力をいれていることが窺える。

    ⑶ 実施機関 マレーシアの研修実施機関は、2007 年現在で合計 43 に上る。教育機関、行政機関、研究機関、民間企業、金融機関など多岐にわたる。比較的特徴的なのは、マレーシア中央銀行によるイスラム式銀行経営に関する研修である。そのほかは、情報技術分野、動植物資源管理、図書館情報管理など多くの科目が用意されている(EPU 2007)。

    ⑷ その他のプレーヤー NGO の国際協力活動としては、ボランティア組織 SALAM(1997 年設立)が災害救援活動、英語教育、保健医療、村落開発などの分野を得意とする専門家やボランティアの長期派遣をした実績をもつ。ラオス、カンボジア、スリランカ、ベトナム、東ティモール、イランが主たる対象地域であった(UN 2005)。そのほかの代表的な NGO としては2001 年に設立された MERCY Malaysia がある。人道支援を目的とするこの組織は、イラクやアフガニスタン、パレスチナなどの紛争地域での経験をもつ。ただし、いずれの組織

    *20 2007 年 5 月時点での聞き取りでは、現在、対外援助課の名称を「国際協力課」に変更することが検討されているとのことであった。

  • 2007年10月 第35号 61

    も新しく、規模も大きいものではない。また、非政府経済協力という意味では、ペトロナスなどの石油会社が独自の予算で奨学金を提供しているといった活動もある。シンガポールの事例と同様、マレーシアの援助についての研究者は確認できず、援助について批判的な活動を行っている NGO も今回は特定できなかった。

    4.援助の目的と戦略

     マレーシアが技術協力を通じて何を狙っているのかについては、多くの関係者がやし油をはじめとするマレーシア産品の国際的な

    「マーケット・アクセス」を挙げた。マハティール時代の南南協力では、案件の採択を政治レベルで決めた後、民間企業の進出を図るといった傾向がみられた(ISIS からの聞き取り)。優先順位を受け取り側が決めることを重んじることが、南南協力の基本的な哲学で

    あるという。 マレーシアは、南南協力の哲学の下、技術協力と人材育成という側面に焦点を絞って国際協力活動を行ってきた。その規模は着実に増えつつあるとは言うものの、自らを「新興ドナー」と呼ぶことはなく、またそのように呼ばれることに違和感を示すほど、「援助」と「南南協力」とを明確に区別している。将来、借款を実施する可能性についても、EPU関係者は否定的であった。南の国同士の間に従属関係を作るということが、そもそもの南南協力の哲学に反するということが主な理由であるが、EPU を中心とする現状の人員配置ではそこまで手が回らないという実情もあるのだろう。しかしながら、研修員の受け入れを通じた技術協力の拡大は着実なものがあり、South-South Association 等、民間直接投資の支援団体の活動も活発であることから、今後もマレーシアと他の途上国との経済

    図表 17 MTCPの予算額推移(年平均の概算)

    期間1980-85

    (第4次計画)1986-90

    (第5次計画)1991-95

    (第6次計画)1996-2000

    (第7次計画)2001-05

    (第8次計画)2006-

    (第9次計画)

    年平均予算額(百万 RM)

    9 9 12.8 18.8 32.8 37.2

    出典:EPU 提供資料

    図表 16 MTCP組織図

    Senior PrincipalAssistant Director

    Regional Cooperation

    (Principal Ass.Director以下)

    Cooperation with Int.Agencies

    (Principal Ass.Director以下3ポスト)

    Cooperation withDevelopment Partners

    (Principal Ass.Director以下2ポスト)

    Senior PrincipalAssistant Director

    主にアセアン地域協力を担当

    主に国際機関を担当

    Malaysian TechnicalCooperation Programme

    (Principal Ass.Director以下4ポスト)

    主に南南協力を担当 ドナーからの援助受入れを担当

    (その他、サポートスタッフとして7ポスト)

    Director

    出典:EPU ホームページ

  • 62 開発金融研究所報

    協力関係は量的に拡大していくものと予想される。 マレーシアの強みは、英語普及度の高さによるコミュニケーションの容易さと、イスラム諸国との友好関係や連帯意識、そして、マハティール時代の遺産としての対アフリカを中心とする南南協力への積極的な意志であろう。マレーシアは一見、シンガポールと同じように人材育成を通じた市場拡大を狙っているように見えるが、農村開発を含む経験のレパートリーの広さ、そして民族的な多様性と国内に存在する経済格差問題を抱えている点などでシンガポールとは異なる意味での「教訓」をもっている。シンガポールとマレーシアは英語による研修を強みとしているが、英語はそれ自体としてよりも、さまざまな知識伝達を効率化し、ビジョンを共有するといった開発計画の促進に不可欠な媒介となる点で重要である。一般的に言ってタイの公務員の英語力は、シンガポールやマレーシアに比べると格段に落ちる。他国との比較の観点から、研修地の選択においてこの点がタイのマイナス要因になることはあろう。

    Ⅴ 受け入れ国の状況:ラオ  スとカンボジア

    1.受け入れ側の調査

     世界的にみれば著しい成長を遂げている東南アジア地域にあって、当面、低所得国の地位から脱却できそうもないのがラオスとカンボジア、そしてミャンマーである。これらの国々に接していることがタイ(や中国)のドナーとして役割を特徴づけることになっている。今回の調査では、他ドナーの進出が著しいラオスとカンボジアについて、新興ドナーの役割を位置づけるために「受け入れ側」の

    調査も実施した。

    2.ラオス

     東南アジア大陸部は、長い間、冷戦の影響を受けながら対立と係争を繰り返す混乱の多い地域であった。二国間関係を見ても、たとえば、タイはラオスとの間の国境封鎖を1975 年に実施し、翌年は貿易関係の改善に努める動きがでるも、瞬く間にタイ側の政情によって 1976 年に中断される。しかし、1980 年以降になると二国間の障壁は徐々に低下し、とりわけタイによる投資や援助協力は大きくなった。他方で、中国によるラオス投資も目覚しいものがあり、ビエンチャン中心部には中国の贈与・借款で建設された橋、建物や公園が多く存在する。海外からの援助に依存するだけでなく、中国やタイから隣国としての影響を強く受け、なおかつ日本の援助に大きく依存するラオスの経済は、微妙なバランスの上に成り立っているといえる。 ラオスにおける援助の受け入れに関与する主要政府機関は、計画投資委員会(CPI:Committee for Planning and Investment)、外務省、財務省である。中国とベトナムからの援助は CPI が統括し、それ以外の援助受け入れについては外務省国際協力局が所轄している。CPI はとりわけ重要な位置づけにあり、国の基本計画である国家社会経済開発計画(National Socio-Economic Development Plan:NSEDP)はこの組織で作られている。国際協力局は 2004 年まで CPI(2004 年までCPC:Committee for Planning and Coopera-tion)の傘下にあり、外国援助の受け入れにかかわる戦略・指針・計画の策定、援助要請の審査・承認、援助プロジェクトの実施促進とモニタリング、ドナー側との相互調整を行っている(渡辺 2003)*21。 中国とベトナムからの援助を政策形成の中

    *21 2004 年 9 月に CPC は Committee for Planning and Investment(CPI)に名称を変更している。なお、ドナーからの ODA を管轄する DIC(Department of International Cooperation:国際協力局)は、CPC の内部組織であったが、外務省に移管された。ただし、2007 年 8 月の段階で、国際協力局が再び CPI に移管されることが決定されているようである。ドナー援助窓口が再び CPI に一括集中することで、NSEDP など開発計画と ODA 予算との整合性を高め、業務効率化が目指されている。

  • 2007年10月 第35号 63

    核をなす CPI が手放さないという事実は、ラオスが社会主義国とのつながりを重視している証であると同時に、コンディショナリティの違いによる業務の性質の違いがあることが予想されるが、詳細は更なる調査が必要である。また、ラオス外務省の中には、アジア部にタイを専門とする課が設けられており、タイがラオスにとって重要な存在として位置づけられていることが分かる。 ラオスはナムトゥン2ダムをはじめ、「東南アジアのバッテリー」としてタイに電力を供給することで国を成り立たせる道を模索し

    つつあり、エネルギー資源の確保との関連で援助の役割は一層複雑かつ重要になりつつある。 図表 18 は、2005 年度におけるラオスのODA 受け入れ状況を示す統計である。一目瞭然であるが、日本が突出した額の供与を行っている。中国が6位、韓国が9位、タイが 12 位、インドが 13 位に食い込んでいることに注目したい。近年の「伸び率」という観点からは、今後も新興ドナー諸国のラオスへの影響は増大していくものと予想される(図表 19)。 また、シンガポールはビエンチャンに研修センターを作るなど、積極的な技術協力を実施しているが、外務省の統計に反映されていないところを見ると、公式統計に含まれない案件も一定の数に上ると推測される。 ラオス政府の認識では、ラオスで勢いをつけている新興ドナーは韓国とインドであるという(ラオス外務省国際協力局での聞き取り)。そこに中国とベトナムが追随している。国際協力局の局次長によれば、「ドナー間の区別はない」ということである。ただし、ドナーの特性には明らかな相違が生じつつある。たとえば、日本を含む先進諸国は、社会開発や環境などソフト部門に力点を移す傾向があるが、中国援助の場合はハード部門に集中し、なおかつ贈与の比率が高いといわれる。こうした事情を踏まえているラオス当局は、いわゆる新�