ネットワーク経済とボトルネック独占 - RIETI--1...

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- - 1 ネットワーク経済とボトルネック独占 ~いわゆるエッセンシャル・ファシリティ理論とネットワーク、標準、知的財産~ 2001年3月 一部改定 2001年7月 《目次》 第1節 はじめに(規制改革とボトルネック施設) 第2節 ボトルネック独占と競争政策 1.ボトルネック独占 2.自然独占と規制(規制下で形成されたボトルネック独占) 3.ネットワーク外部性と競争(競争により獲得されたボトルネック独占) 4.ボトルネック施設(プラットフォーム)と川下市場 (1) 基本的構図 (2) システム内競争とシステム間競争 (3) 非対称規制又は支配的(ドミナント)事業者規制 (4) 基本的構図への現実の当てはめ 5.ボトルネック独占と政策的対応(本稿の構成) 第3節 ネットワーク経済における競争の特徴と対応(事前の対応) 1.ボトルネック独占獲得の態様 2.ネットワーク経済におけるシステム間競争の特徴と政策的対応 (1)ネットワーク経済におけるシステム間競争の特徴と企業戦略 (2)政策的対応 ①初期値過敏性への対応 ②互換性の確保 第4節 ボトルネック独占の特徴と対応(事後的対応その1) ~如何なる目的の下で如何なる態様の政策的対応が求められるか~ 1.産業組織の評価 (1) 産業組織 (2) 垂直統合のメリット (3) ボトルネック独占のメリット、デメリット (4) 垂直統合のデメリット 2.対応の目的(保護法益) 3.手段(行為規制と構造規制) (1) 概要 (2) 特徴

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ネットワーク経済とボトルネック独占

~いわゆるエッセンシャル・ファシリティ理論とネットワーク、標準、知的財産~

2001年3月

一部改定 2001年7月

《目次》

第1節 はじめに(規制改革とボトルネック施設)

第2節 ボトルネック独占と競争政策

1.ボトルネック独占

2.自然独占と規制(規制下で形成されたボトルネック独占)3.ネットワーク外部性と競争(競争により獲得されたボトルネック独占)

4.ボトルネック施設(プラットフォーム)と川下市場

(1) 基本的構図

(2) システム内競争とシステム間競争

(3) 非対称規制又は支配的(ドミナント)事業者規制

(4) 基本的構図への現実の当てはめ

5.ボトルネック独占と政策的対応(本稿の構成)

第3節 ネットワーク経済における競争の特徴と対応(事前の対応)

1.ボトルネック独占獲得の態様

2.ネットワーク経済におけるシステム間競争の特徴と政策的対応(1)ネットワーク経済におけるシステム間競争の特徴と企業戦略

(2)政策的対応

①初期値過敏性への対応

②互換性の確保

第4節 ボトルネック独占の特徴と対応(事後的対応その1)

~如何なる目的の下で如何なる態様の政策的対応が求められるか~

1.産業組織の評価

(1) 産業組織

(2) 垂直統合のメリット

(3) ボトルネック独占のメリット、デメリット

(4) 垂直統合のデメリット2.対応の目的(保護法益)

3.手段(行為規制と構造規制)

(1) 概要

(2) 特徴

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①行為規制の特徴

②構造規制の特徴

(3) 対応の視点と手段の選択

4.アクセス保証の要否と保護法益

~インテル対インタグラフ事件の評価~

5.アクセス保証のメリット、デメリット

第5節 事後的規制の発動要件(事後的対応その2)

~如何なる要件が満たされれば私有財産権の制限が正当化されるか~

1.これまでの主な議論

(1)エッセンシャル・ファシリティ理論

(2)米 の整理FTC2.事後的規制の発動要件

(1) 事後的規制の三局面

(2) 行為規制による機会におけるイコール・フッティングの確保

(3) 構造規制による機会におけるイコール・フッティングの確保

(4) 結果におけるアクセス保証

3.その他のチェック・ポイント

(1) ボトルネック性(代替可能性)(2) 独占の形成過程

①「才覚と努力」

② 事前の公約

(3) 統合型ボトルネックの形成過程

(4) 正当な拒絶理由の有無

4.事後的対応の要否の判断基準

第6節 アクセス・チャージ(事後的対応その3)

第7節 ユニバーサル・サービス

第8節 標準と知的財産

1.標準獲得競争への対応2.知的財産の獲得競争

第9節 おわりに

(1) 政策的対応(これまでのまとめ)(2) 今後に期待される議論

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* Working Party No on Competition and Regulation Committee on Competit1 .2 ,on Law and Policy OECD "Structural Separation in Regulated Industries " Ma, , ,

.9, 2001, 2(2000)8 2r DAFFE/CLP/WP /REVそこでコンセンサスが得られているのは、「電力、電気通信、鉄道、郵便など

のネットワーク型産業においては、ある領域について競争に委ねることが可能な

領域が存在しており、こうした領域については競争を促進するような政策をとる

べきである。」ということに止まる。

具体的に如何なる領域を競争に委ねるか、他の領域において如何なる規制を講

ずべきかなどは、地理的状況や需要の性格、収入の状況によっても異なるし、一般に「人数、需要量ともに少ない居住エリアにおいては、人が集中し、需要量も

多い商業エリアと比較して競争的でなくなる。」ことも指摘されている。

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《本文》

第1節 はじめに(規制改革とボトルネック施設)

電力、固定電話、鉄道などいわゆるネットワーク産業を中心とする多くの分野に

おいては、長い間、独占を前提とした制度設計がなされてきた(自然独占)。

しかしながら、昨今、技術の進歩などを背景に、こうした分野においても、少な

からぬ領域において競争原理の導入が可能となっている。このため、我が国を含む各国は、これらの領域に競争原理の導入を図るべく、規制改革を進めている 。*1

ところが、現に競争原理を導入しようとするに当たり、独占から競争への移行期

に伴う競争政策上の問題が認識されつつあり、具体的な対応が求められつつある。

すなわち、規制下の時代から活動を続けている既存事業者と新規参入者の間には、

施設その他の蓄積の面で「格差」があり、これが規制改革が期待する競争を阻害す

るのではないかとの議論である。具体的には、新規参入などの鍵を握る既存事業者

保有のボトルネック施設へのアクセス問題などが高い関心を集めている。

私有財産であるボトルネック施設の開放は、当面の競争促進の観点からは積極的に評価される。しかしながら、その開放に当たっては、内部補助の禁止などを超え

て、接続義務を課すべきなのか、企業組織の分割にまで踏み込んだ構造規制による

べきかといった議論があるし、また、如何なる産業組織が消費者厚生、効率性など

の観点から望ましいかといった議論もある。

また、規制改革に伴う移行期の問題を超えて、こうした議論の射程をどこまで広

げるかという点も重要である。こうした議論は、エッセンシャル・ファシリティ理

論と呼ばれることがあり、アクセスしようとする側から見て不可欠(エッセンシャル)であるか否かなどに着目し、知的財産や標準などにも射程を広げることを検討

すべきだという意見も散見される。しかしながら、「才覚と努力」への報酬を事後

的に取り上げることが事前のリスク・テーキングに与える影響については、十分に

認識した上で議論を深めるべきである。

本稿では、いわゆるボトルネック独占を巡る種々の議論を整理するとともに、形

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1 こうした独占市場は、しばしば「独り勝ち市場( )* "Winner-Take-AllMarket"Frank R H and P J Cook "Winner-Take-AllMarkets and The Grと呼ばれる。 , . . . .

. . (1995)owth of Winner-Take-All Markets" N Y :The Free Press2 ただし、固定費比率が高いことは、独占が合理的であることを直ちに意味しな*い。固定費比率の大小は、相対的なものであるからである。これまでに独占が制度

的に認められてきた公益事業分野の例は、①限界費用逓減性が認められる(資本設

備の規模を他の生産要素と同時に 倍にしても総コストは 倍未満にしかならなk kい)場合の外、②固定費の絶対額が大きい(重複投資が社会的に好ましくない)、

③埋没費用が大きい(固定費の回収が難しい)、④投資の確保が社会的に必要であ

る(ユニバーサルサービスの提供に不可欠である)、⑤投資回収を長期間にわたっ

て行うことが合理的である(短期集中的に消費者に固定費を転嫁することは好まし

くないか、または、長期間にわたり(投資が無駄になるような)技術革新が期待されない)などであると考えられる。( .南部鶴彦・西村陽「エナジー・エコノcfミクス②発電部門の産業組織」経済セミナー(2000年11月号)日本評論社)

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成過程を巡る事前的対応の要否や、事後的対応として行為規制、構造規制の何れに

よるべきか、それは如何なる要件の下で発動されるべきかなどを含め、政策的対応

のあり方につき、検討したい。

第2節 ボトルネック独占と競争政策

1.ボトルネック独占

ネットワークの成立に不可欠なプラットフォームは、供給側の費用逓減性又は需

要側のネットワーク外部性を背景に、規制の下で、または、競争の結果、しばしば特定の者に独占される 。成立の経緯などに関わらず、このようなプラットフォー*1

ムを「ボトルネック施設」、その独占を「ボトルネック独占」と呼ぶ。

なお、「ボトルネック施設」とは言っても、物理的な施設に限定されず、仮想

ネットワークも含まれ得る。

2.自然独占と規制(規制下で形成されたボトルネック独占)

電力、固定電話、鉄道など、供給側の費用逓減性を理由とする独占の存在はこれ

までも制度的に認められてきた。こうした産業においては、固定費用が著しく大き

く 、いくつかの企業が分散して供給を担うよりも、特定の者が全ての需要に応え* 2

る方が、消費者の利益に適うと考えられたためである。こうした独占は、自然独占

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1「資源の稀少性や規模の経済性が存在すると、市場が1社で独占される可能性が*高い。電力、ガス、水道、鉄道など費用逓減型の産業では、企業規模が拡大するに

つれて平均費用が逓減し、自然独占( )が成立する。」金森久雄natural monopoly・荒憲治郎・守口親司編「有斐閣経済辞典 第3版」有斐閣(1998)

2 前出 報告書。如何なる領域に競争を導入すべきかについては、国によ* OECDり差異があるが、電力分野においては、多くの国において、発電領域への参入規制

を緩和するなどの規制改革が試みられている。

3 ネットワーク外部性は、「1950年代ライベンシュタイン( . )が* H Leibenstein「バンドワゴン効果( )」として提唱し、70年代ロールフズ( .Bandwagon Effect J

)が「通信サービスの相互需要」として定式化したが、80年代カッツとRohlflsM Katz and C Shapiro J Farrell and G Salonシャピロ( . . )やファレルとサロナー( . .

)のゲーム理論的研究で一躍脚光を浴びた概念である。」(依田高典「ネットerワーク・エコノミクス」日本評論社)

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として知られており、規制により独占が担保されてきた。* 1

独占を担保するための規制には監視コストなどの行政コストがかかることなどか

ら、かかる領域は必要最小限のものとすべく不断の見直しが求められている。費用

逓減性などを根拠に認められる独占の範囲も、技術の進歩などとともに縮小し、競

争原理の導入領域が拡大しつつある 。*2

こうした競争の導入、すなわち、規制改革の過程においては、既に規制の下で形

成され、独占に委ねられた施設の取扱いが注目を集めている。例えば、電力供給の

前提となる送配電網、各種電気通信サービスの前提となる市内固定電話網のいわゆるラスト・ワン・マイル施設などがボトルネック施設に該当するとされている。こ

の取扱い如何によっては、競争を導入しようとした規制改革の趣旨を実現させるこ

とが難しくなるおそれもあるからである。特に、こうした施設の利用が新たな市場

(商品など)の創出に不可欠な場合においては、その取扱いにはとりわけ注意が払

われなければならない。

3.ネットワーク外部性と競争(競争により獲得されたボトルネック独占)

一方で、昨今、競争の下で形成されたボトルネック独占についても、注目が集ま

りつつある。需要側のネットワーク外部性( ) を利用して獲得された独占Network Externality *3

である。

ネットワーク外部性とは、「財のユーザーの数あるいはネットワークのサイズか

らもたらされる便益のことをいう。その効果としては、ユーザー数が増えることに

よって財から得られる便益が直接増加する効果と、ユーザー数の増加が補完財の介

在によって便益を増加する効果とがある。電話、ファクシミリなどの情報通信関連

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1 前出「有斐閣経済辞典」*2 前出依田*3 東日本電信電話㈱( 東日本)と西日本電信電話㈱( 西日本)。* NTT NTT4 中央集配線盤。加入者交換局において、交換機と加* Main Distribution Frame:入者回線をつないでいる。

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産業や、パソコン、ビデオなどソフトウェアの利用がハードウェアの便益に大きな

影響を持つ産業で見られる。」 ファクシミリの普及台数が増え、送る相手が多く*1

なるほど消費者の便益は大きくなり、普及が進んでいる ほど、その上で動かすOSことが出来るアプリケーション・ソフトウェアの種類が多く、したがって、利用者

側の便益も大きくなる。

ネットワーク外部性は、実物のネットワーク( )のみならず、基本Actual Networkソフト( 以下 )、規格などについても認められる。本稿では、Operating System: OSこうした仮想ネットワーク( ) も含めてネットワークと呼ぶ。Virtual Network *2

ネットワーク外部性を背景とした独占は、必ずしも規制の下で形成される訳では

ない。( のように)競争の下で支配的な地位が形成されることもあり得るだろう。OSこのため、ネットワーク外部性を背景とした競争の特徴、その過程における政策的

対応のあり方に対する関心が高まっている。

一方で、規制の下で独占が形成された場合についても、ネットワーク外部性の有

無により規制改革後における競争のあり様が変わってこよう。

4.ボトルネック施設(プラットフォーム)と川下市場

(1) 基本的構図

ここで、ボトルネック独占を巡る議論に関し、本稿が前提とする基本的構図を確

認しておく。

まず、川上市場であるボトルネック施設(プラットフォーム)( )そのものの提a供市場( )と、川下市場であるボトルネック施設(プラットフォーム)の利用を前A提とした商品、サービス( )の提供市場(関連市場( ))の関係である。b B

川上市場( ) プラットフォーム( )そのものの提供 等A a MDF川下市場( ) プラットフォームを利用した商品、サービス( )の提供 等B b xDSL

最近の典型的な事例に即して言えば、 地域会社 が保有する 配電盤なNTT MDF* *3 4

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1 地域会社保有のメタル製加入者回線を用い、これまで利用されてきた音声* NTT・データ通信用の帯域より遙かに高い周波数を利用することによって、高速のデー

タ通信を実現。 ( 非対称デジタル加ADSL AsymmetricalDigital Subscriber Line:SDSL Symmetrical : xDSL入者線)、 ( ~ 対称~)などがあり、これらを総称して

という。2 白石忠志「 2 サイトと支配的事業者規制」(法学教室2001年3月号)も、* B B「従来は、地域内通信について 社や 社の参入がほとんどなく、・・・「川A B上市場の独占=川下市場の独占」であったために、二つの市場を峻別せずに・・・

議論していても大過はなかった。地域内通信の分野における川下市場での競争活性

化は、まさに「川上市場の独占≠川下市場の独占」という現実を目前に突きつけ、

これまで未分化であった議論を緻密化するきっかけを与えたといえそうである。」

3 さらに、実際の制度設計を検討するに当たっては、プラットフォームを構築す*るための権利を有する者と、実際に権利を行使し、構築を行う者を区別することが有益な場合もあるかも知れない。

4 ある米国政府関係者の個人的な見解による。*

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どはボトルネック施設( )、これを利用した 市場は川下市場( )となる。a xDSL B*1

それでは、例えば、ラスト・ワン・マイル施設の独占的な保有構造を基本的に維

持したまま、地域電話サービスに競争が導入されるような場合については、この構

図を如何に当てはめたら良いだろうか。この場合、もしボトルネック独占に着目し

て政策的対応を検討するのであれば、( )のレベルで競争が導入されたと整理するaのではなく、市場( )をラスト・ワン・マイル施設の提供市場に限定し、地域電話Aサービス市場を川下市場( )とする整理の方が論点の整理、検討の出発点として有B益である 。* *2 3

いわゆるネットワーク産業又は公益事業における規制改革、すなわち、競争を導

入する領域の拡大は、( )と( )の分離による( )への競争の導入と、(水平分割そA B Bの他を通じた)( )のレベルにおける競争の導入の2つに整理される 。a *4

(2) システム内競争とシステム間競争

プラットフォーム・レベルで競合関係が認められる場合、もはや「ボトルネック

独占」という整理を行うことは不適切であろう。

競争の中には、ある共通のプラットフォームの上での競争とは別に、プラットフ

ォーム相互やその上で成立しているシステム相互の間の競争がある。

VHS VH前者の例としては、 規格のビデオ機器相互の競争が、後者の例としてはとβマックスとの間の規格間競争が挙げられる。S本稿では、一つのプラットフォーム( )の上で行われるシステム内競争と対比さa

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* "Anticipating the th Century: Competition Policy in the New High-Tech Glo1 21 ,

(1996年6月)(以bal Marketplace" A Report by Federal Trade Commission Staff下 米 報告書(1996))においても、こうした整理が試みられているFTC

2「ボトルネック設備(競争上、他社への開放が不可欠な設備)を保有しているわ*けでもないドコモを、単にシェアが五〇%以上で、NTTグループの一員であるか

らという理由で、支配的事業者規制の対象にせよと、声高に叫んでいる・・・」

(週間東洋経済2001年3月31号「踏み込めるか定額制 の逆襲 」)KDDI !3 ボトルネック独占に至っていない場合であっても、規制緩和の直後において、*規制下で資産を蓄積し、新規参入者との格差が大きい場合、規制緩和の目的である

競争原理の導入を実効あるものにするために、追加的な措置が求められる可能性は

ある。

また、シェアが大きい事業者により強いアクセス保証義務を課すことには、より大きなネットワーク外部性の便益を消費者が享受できるようにする効果がある

かも知れない。

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せ、後者のような競争をシステム間競争と呼ぶ こととする。*1

なお、一つのプラットフォーム( )を前提とする川下市場( )は一つに限られなa Bい。例えば、インターネット接続サービスを巡っても、同じ 地域会社のラスNTTト・ワン・マイル施設( )を前提としてアナログ回線を利用したモデム経由の接続aサービス市場( )と サービス市場( )が同時に成立し、かつ、この両者の間B xDSL B'には競合関係が認められる。

(3) 非対称規制又は支配的(ドミナント)事業者規制

「非対称規制」「支配的(ドミナント)事業者」規制という用語についても同様に

注意が必要である。ボトルネック独占に着目した議論と、(シェアが高いなど)有

力事業者であることに着目した議論は、同一に取り扱えない 。* *2 3

本稿では、代替品、代替技術の利用が期待できない場合、すなわち、ボトルネッ

ク施設の提供を巡る議論のみを対象とする。

(4) 基本的構図への現実の当てはめ

ところで、ボトルネック施設( )の範囲の画定は、実務的には容易ではない。例aえば、送配電網やラスト・ワン・マイル施設と言われる施設の中に具体的にどの設

備まで含めるかを画定することは容易ではない。一つの企業体が、独占部門とその

他の部門の双方から成り立っている場合、両者の共通部門、共有施設、その維持、

運営にかかる経費の配分などは、一義的には決まらない。

これに関連し、 とブラウザ(閲覧ソフト)の関係について、以下のような議OS論がある。

すなわち、仮に初めから が の一部として単一商品とInternet Explorer Windows

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1 柳川範之「 革命における競争政策の視点」(公正取引2000年10月号)* IT

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して提供されていた場合、「独占の梃子」が認められるか、すなわち、ブラウザ市

場での競争を自らに有利に進めるために、 市場での支配的地位を不当に利用しOSたと言えるかという議論である。初めからこの両者が一体として提供されていた場

合、少なくとも、「抱き合わせ」を認定するための外形上の手がかりは失われる。

逆に、こうした効果を期待して、まだ「商品化が早すぎる(=商品、サービスを一

体のものとして初めから提供してしまうような行動に事業者を走らせてしまう)よ

うなことがあれば、社会的効率性が低くなってしまう。よって、このようなゆがみ

がなるべく生じないように、製品の技術に関する十分な知識を得て、出来るだけ適切な判断ができる体制をつくってく必要がある。」 との指摘もある。*1

5.ボトルネック独占と政策的対応(本稿の構成)

ボトルネック独占を巡っては、その成立前と成立後の双方において、政策的対応

の検討が求められている。

まず、ボトルネック独占の成立前であるが、前述のとおり、ボトルネック独占に

は、規制の下で成立したものの外、競争を通じて確立されたものがある。

ネットワーク外部性が認められる状況の下での競争については、例えば、競争の

初期における対応が結果を左右することなどが指摘されている。これについては、次節(第3節)で取り上げる。

次に、成立後においては、ボトルネック独占について、如何なる要件の下で(第

4節)何を目指して何をすべきか(第3節)が検討されなければならない。

後者に関連し、ボトルネック施設の利用条件(アクセス・チャージ)を巡る議論

(第6節)、ユニバーサル・サービスを巡る議論(第7節)については、別途整理

を行う。

その後、標準と知的財産について、第8節においてまとめて議論を整理する。

第3節 ネットワーク経済における競争の特徴と対応(事前の対応)

1.ボトルネック独占獲得の態様

"superiorボトルネック独占は、公正かつ自由な競争の下において「才覚と努力(

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1 . . , 148 .2 416 (2 . 1945)以* United States v Aluminum Co of America F d d Cir来、頻繁に用いられている用語。このいわゆるアルコア事件判決では、才覚と努力

( , )による結果については、シャーマン法第"superior skill foresight and industry"2条の適用の際にも尊重される(が、このケースはこれに該当しない)とされた。

2「21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書」(平成12年5月29日)(以下*標準検討委員会報告書)によれば、「公的な場において、関係者の合意のもとに公

的に制定された標準」のことを言う。

* David P A "Clio and the Economics ofQWERTY" American Economics Revi3 , . .75.2 (1985)( . . 80 .ew http://www usdoj gov: /atr/public/speeches/speech_rubinfeld)htm

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, )」によって獲得される場合と、そうではない場合がskill foresight and industry"*1

ある。後者の例としては、事前規制の下で形成されたボトルネック独占や、デジュ

ール標準 などがある。*2

こうした事情の違いは事後的対応において考慮されるべきである。「才覚と努

力」に対する報酬を予見可能性のない形で事後的に取り上げることは、その後のリ

スク・テークに大きな悪影響を及ぼすおそれがあるからである。

一方で、消費者にとって望ましい結果がもたらされるよう、競争過程の公正さは

担保されなければならない。ネットワーク外部性が認められる場合、ボトルネックの獲得を巡る競争の過程にはいくつかの特徴が見られることが指摘されている。

以下においては、このようなボトルネック独占獲得競争を巡る議論を整理し、競

争過程の公正さを担保するための政策的対応の要否について検討する。

2.ネットワーク経済におけるシステム間競争の特徴と政策的対応

(1)ネットワーク経済におけるシステム間競争の特徴と企業戦略

システム間競争においては、顧客は一旦あるシステムを利用し始めると、他のシ

ステムへの乗換えの負担を回避しようとして、そのままそのシステムに囲い込まれ

る(ロックイン( )される)蓋然性が高い。タイプライターのキーボード配Lock-in列について、 配列が普及した後、 配列への乗換えが進まなかっQWERTY DVORAた例が有名である 。*3

また、ネットワーク外部性が認められる場合、囲い込まれた顧客の数が多い(顧客基盤( )が大きい)ほど、より確実に、より大きな便益を享受するInstalled Baseことが期待できる。例えば、より多くのビデオを見ようとすれば、 規格の再VHS生機器を利用することが望ましい。

このため、顧客は「勝ち馬に乗」り易く、特に競争関係にあるシステム相互間に

互換性がない場合、競争の初期における僅かな違いが、大きな結果の違いをもたら

す(初期値過敏性 )。:Tipping

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* Farrell J and G Saloner "Standardization Compatibility and Innovation" R1 , . . , ,

19.2 (1985)では、ある一時点での企業間の「水平的」and Jounal of Economics"Installed Base and Comaptibility: Innovation Produな過剰慣性と過剰転移が、同 ,

, 76.ct Preannouncements and Predation Product" American Economics Review5 (1986) では、異時点間における「垂直的」な過剰慣性と過剰転移が論じられた。

* Rubinfeld Daniel L "Competition Innovation A2 , .(司法省反トラスト局次長) , ,

ntitrust Enforcement in Dynamic Network Industries" The Antitrust Bulletin/ Fall-(1998)Winter

3 前出 , の講演( 25, 1999)。* Pitofsky Robert February4 最近の欧州委員会が情報通信分野などにおいても企業結合に対して厳しい姿勢*を示しているとして、「モンティ(競争政策担当委員)は、こうした動きが速く、

理解が難しい業種においてさえ、速く動き、劇的な形で決着をつける。」とする批"Europe's Competition Equalizer int'l edition " BusinessWeek O判もある。( ( ),

( 9, 2000))nLine October

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このような特徴を有する競争を制するためには、可能な限り早い段階で (イ)多数

派を握ること(囲い込まれた顧客基盤( )を確立すること)、(ロ)多数Installed Base派を握ると顧客に信じさせることが重要である。このため、事業者は、しばしば低

廉な導入価格( )を設定したり、シェアを過大に発表したり、Low Introductory Price将来市場に投入する予定の商品、サービスの性能や導入時期について(しばしば過

大な内容の)事前予告を行う(「蜃気楼」を見せる。 . )。cf "Vaporware"こうした中で「過剰慣性( )」や「過剰転移( )」Excess Inertia Excess Momentum

といった現象が生ずる。前者は、非効率な旧システムが囲い込まれた顧客基盤( )を持つたInstalled Base

めに効率的な新システムの採用が阻害されること、後者は、非効率的な新システム

が将来普及すると予想されるために効率的な旧システムを駆逐してしまうことをい

う 。これが消費者にとって望ましい結果をもたらすはずの公正な競争過程を阻害* 1

するのかが、問題となる。

(2)政策的対応

①初期値過敏性への対応

ネットワーク経済における競争については、初期値過敏性( )に配意し、Tipping何らかの政策的対応を図るのであれば、早い段階で行うべきとする意見がある 。*2

しかしながら、初期段階で、将来何が生ずるかを正確に見通すことは困難である

。公正かつ自由な競争は、基本的に消費者にとって望ましい結果をもたらすはず* *3 4

だが、初期段階で何らかの措置を講ずる場合、こうした競争過程が本来有する情報発見機能の発揮が妨げられるおそれがある。初期値過敏性が認められる場合には、

逆に、ハイテク産業などにおいては、動態的競争を通じた前述の「自己修復」作用

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1 川濱昇「技術革新と独占禁止法」日本経済法学会編 日本経済学会報第20号第4*2号(1999)〈特集〉技術革新・技術取引と競争政策 有斐閣

* Besen S M and J Farrell "Choo2 規格間の標準獲得競争のモデルについては , . . .

sing How to Compete: Strategies and Tactics in Standardization" Journal of Eco,8.2 (1994) などの、規格の統一化(標準化)交渉を巡ってnomic Perspectives

Farrell J and G Saloner "Coordination through Committees and Markets" Raは , . .

,19.2 (1988)などの研究がある。nd Jounal of Economics3 対抗手段としては、頻繁な規格変更( .メイン・フレーム時代の )など* cf IBMがある。

- -12

も期待できるかも知れない。

したがって、仮に何らかの政策的対応を行うとしても、過剰慣性、過剰転移によ

り競争過程が歪められないようにするための最小限の措置を基本とすべきではない

か。

「独占の梃子」などへの厳格な対処には、本来は消費者の便益にならないかも知れ

ないような過剰慣性を防ぐ効果が期待される。次世代商品、サービスと現行の商品、

サービスの互換性を確保することは消費者の便益に適うが、自らボトルネック施設

を管理、提供しているか否かによりこうした次世代技術の利用が不当に差別されることは、技術革新に向けた優勝劣敗の過程を歪めるおそれがある。

一方で、過剰転移を防ぐ意味では、新たな商品、サービスの事前予告(「蜃気楼

( )」戦略)に際し、適正な表示を確保することも期待されよう。"Vaporware"

②互換性の確保

プラットフォーム(システム)レベルで水平間の競争が行われれば、ボトルネッ

ク独占は解消される。互換性がない場合にもシステム間で競争が成立することはあ、、

るが、システム相互間で互換性の確保が図られることは、「互換性のもつ競争促進

効果とネットワーク外部性の実現による消費者厚生(消費者余剰)の向上(を両立

させる)など好ましい効果を持つ。」 ネットワーク外部性の便益を維持しつつ、*1

プラットフォーム・レベルにおいて競争を導入することが期待できる。

互換性は、システム間の歩み寄りにより実現する場合と、一つの有力なシステム

に他のシステムが合わせることにより実現する場合がある 。*2

後者の場合、有力なシステムの側が互換性を望むとは限らない 。互換性を確保*3

するためには、例えば、有力なシステムのプラットフォーム(技術情報、知的財産

など)の利用が認められることが前提になる。

この問題は、事後的なプラット・フォームの利用(アクセス)の問題として、後

Page 13: ネットワーク経済とボトルネック独占 - RIETI--1 ネットワーク経済とボトルネック独占 ~いわゆるエッセンシャル・ファシリティ理論とネットワーク、標準、知的財産~

1 なお、互換性が完全な形で確保され、プラットフォームの管理も一元化された*場合には、システム間の競争も停止し、ボトルネック独占と実質的に同じ状況が実

現されるはずである。こうした状況に至る前に、多様性(システム間競争の維持)

と互換性の確保(広範なネットワーク外部性の享受)という2つの目的を両立し得

Farrell J and G Saloner "る手段として、コンバータに注目する見解がある。( , . .

Converters Compatibility and the Control ofInterface" Jounal of Industrial Eco, ,, (1992))。コンバータの実現のためにも、結局、有力なプラットフォnomics XL

ームの利用(アクセス)が求められる場合が多いものと思われる。

- -13

で併せて取り上げる 。*1

第4節 ボトルネック独占の特徴と対応(事後的対応その1)

~如何なる目的の下で如何なる態様の政策的対応が求められるか。~

1.産業組織の評価

(1) 産業組織

ボトルネック独占を前提とするネットワークの産業組織には、以下の2つがある。統合型ボトルネックの形成過程には、以下のようなものがある。

(イ) ( )( )双方のレベルにおいて独占が制度的の保証されていたところ、( )のa b bレベルで規制改革を実施し、競争を導入。

(ロ) 競争の過程で( )のレベルでのボトルネック独占を獲得し、自らの多角化又aは企業結合などにより( )のレベルの一部門と統合。b

〈統合型ボトルネック〉 〈分離型ボトルネック〉

( )a

( )b

また、この他、プラットフォーム・レベルでも(水平間の)競争があるとの前提

に立てば、以下の3つの産業組織も想定される。

〈分割型垂直統合〉〈非対称型垂直統合〉 〈分離分割〉

( )a

( )b

Page 14: ネットワーク経済とボトルネック独占 - RIETI--1 ネットワーク経済とボトルネック独占 ~いわゆるエッセンシャル・ファシリティ理論とネットワーク、標準、知的財産~

* Cournot A "Researches into the Mathematical Principles of the1 クールノー( , .(1838))とエコノミデス&サTheory of Wealth" Hafner Publishing Company Ltd

Economides N and S C Salop "Competiton and Integration among Coロップ( , . . .

, ,40.mplements and Network Market Structure" Journal of industrial Economics1(1992))のモデルを用いた前出依田の分析

2 前出有斐閣経済辞典によれば、マークアップ原理とは「平均生産費に利潤を確*保するための一定比率(マークアップ)を乗じて生産物価格を決める価格決定方式

のこと」とある。ここでは、やや広く「利幅」といった程度の意味で用いている。

3 欧米政府内外の関係者に行ったインタビューにおいては、競争政策の目的を消*費者厚生の増大に置くことが前提とされていた。

4 前出の電力分野の規制緩和の例など参照。*

- -14

(2) 垂直統合のメリット

あるモデル分析 によれば、社会的厚生(=生産者厚生+消費者厚生)によりこ*1

れらの産業組織を評価した場合、大まかに言って、()分割型垂直統合、( )統合型i iiボトルネックと非対称型垂直統合、( )分離型ボトルネックと分離分割の順に優れiiiているという。

これは、垂直統合による効率性の向上(垂直的補完性によるマークアップ の重*2

複の回避、規模の経済性、範囲の経済性)が期待できることによる。

ただし、競争政策において、消費者厚生ではなく、社会的厚生を追求すべきであ

るというコンセンサスは、欧米を含めて得られていない 。*3

(3) ボトルネック独占のメリット、デメリット

費用逓減性又はネットワーク外部性により、水平方向のプラットフォーム間競争

による便益を上回る便益を消費者が享受できることを前提とすれば、選択肢は、統合型ボトルネックと分離型ボトルネックの2つに絞られる。

しかしながら、費用逓減性、ネットワーク外部性による便益と水平方向の競争に

よる便益の比較考量は、機械的に行い得るものではない。

したがって、ボトルネック独占による弊害を抑制すべく、ボトルネック独占に対

する事後的規制の要否を検討するとともに、(特に独占が制度的に保証されている

場合には、)そもそも独占を認める範囲を必要最小限のものとすべく、技術の進歩

などを踏まえながら、不断の見直しを行うことが求められる 。*4

その上で、統合型ボトルネックと分離型ボトルネックの比較も必要である。垂直

統合のメリットを上回るデメリットの有無が検討されなければならない。

(4) 垂直統合のデメリット

Page 15: ネットワーク経済とボトルネック独占 - RIETI--1 ネットワーク経済とボトルネック独占 ~いわゆるエッセンシャル・ファシリティ理論とネットワーク、標準、知的財産~

1 と の垂直統合を巡っても、他の競合企業のコスト引* Barnes & Noble Ingram上げが懸念された。( など参http://www ftc gov/os/ / /antitrusttestimony htm. . 2000 04 .

照。)

2 前出川濱「技術革新~」*3 前出依田*4 ある米国関係者へのインタビューなどによる。*

- -15

ボトルネック施設の管理、提供の中立性(機会におけるイコール・フッティング

)が確保されない場合には、川下市場( )における競争者(ライバル企業)のコスBトの引上げが図られることにより、消費者厚生が減少するおそれがある 。*1

「互換性戦略が制限されている環境下でのネットワーク効果がある市場では、伝統

的に独占禁止法が問題としてきた排除的慣行が効果的に利用される危険性があるこ

とは明瞭である。」 特に、ボトルネック施設の管理、提供を行う者が、川下を含*2

め、多様な部門を保有し、内部取引の機会も多い場合、「価格差別化や抱合せ販売

のような各種経営戦略を用いて消費者余剰(消費者厚生)」を減少させる ことは*3

比較的容易である。

したがって、ボトルネック施設の管理、提供を行う者が、自ら川下市場における

商品、サービスの提供を行うことについての総合的な評価は、容易ではない。ケー

ス・バイ・ケースで高度な専門性をもって垂直統合のメリットとの比較考量を行う

ことが必要である 。*4

2.対応の目的(保護法益)

ボトルネック施設の利用を巡って何らかの対応を図ることが求められるとして、

次に、何を目指して何をすべきかが検討されなければならない。対応には、大きく分けて2つある。

第一は、機会におけるイコール・フッティングの確保である。

ライバル企業のコスト引上げなど垂直統合により生じ得る弊害を回避するため、ボトルネック施設の中立性の確保が求められる。

具体的には、ボトルネック施設の管理、提供部門と川下部門の統合を認めて良い

か(構造規制)、認めるとして内部補助の禁止を課す(行為規制)べきではないか

といった点についての検討が求められる。

ボトルネック施設一般に共通する問題である。

第二は、結果におけるアクセス保証、すなわち、実際に土台として活用すること

の確保である。機会におけるイコール・フッティングの確保を超えた保護法益、政策目標の追求

の要否が検討されることになる。

Page 16: ネットワーク経済とボトルネック独占 - RIETI--1 ネットワーク経済とボトルネック独占 ~いわゆるエッセンシャル・ファシリティ理論とネットワーク、標準、知的財産~

1 奥野正寛・鈴村興太郎「電気通信事業の規制と政府の役割」奥野・鈴村・南部*編「日本の電気通信:競争と規制の経済学」日本経済新聞社(1993)

- -16

アクセス保証については、

()要件(開放性)i如何なる要件が満たされれば、アクセスを保証することとすべきか。(私有財産

であるボトルネック施設の管理、提供は、如何なる要件の下で、可能となるか。)

( )取引条件の公正性iiアクセスを保証するとして、如何なるボトルネック施設の構築、管理、提供に関

する費用負担(取引条件(アクセス・チャージ))が公正なのか。

の2つが検討課題となる。それぞれ第5節及び第6節で取り上げる。

3.手段(行為規制と構造規制)

(1) 概要

以上を踏まえつつ、まず、如何なる態様の手段を選択すべきかについて検討する。Behavior Reボトルネック独占への事後的な対応(事後的規制)は、行為規制 (

)と、構造規制 ( )の2つに大別される。gulation Structure Regulation行為規制とは、ボトルネック独占に即して言えば、当該施設の提供(川上と川下

の間の取引)に関し、()垂直統合企業内部での厳格な区分経理、内部補助の排除iにより機会におけるイコール・フッティングを確保したり、( )ボトルネック施設iiの管理、提供を行う者に対し、川下の企業によるアクセスの保証を求めたり、アク

セス・チャージやその決定方法を規律するなどの規制を指す。一方、構造規制は、ボトルネック施設の管理、提供部門と川下部門の垂直分離を

意味する。すなわち、ボトルネック施設の管理、提供者が自ら川下市場に参入する

ことを排除することによって、川下市場への参加者のイコール・フッティングを確

保しようものである。

(2) 特徴

① 行為規制の特徴

行為規制は、「裁量型規制」になり易い 。*1

将来に問題となり得ることの全てを予め想定し、ルール化しておくことは、実

際には不可能である。したがって、新たな事態が発生する度に対応の在り方の検

討が求められる。このため、長期間にわたる行政の介入を前提とし、具体的な対

応も恣意的なものとなり易い。

一方で、行為規制によれば、機会におけるイコール・フッティングの確保のみ

Page 17: ネットワーク経済とボトルネック独占 - RIETI--1 ネットワーク経済とボトルネック独占 ~いわゆるエッセンシャル・ファシリティ理論とネットワーク、標準、知的財産~

* "FTC Perspective on Competing Policy and Enforcement Initiatives in Electric1

Power" speech by William J Baer Director Bureau of Competition Decem. , , , 4

1997ber2 前出依田*3 前出 1997* FTC4 滝川敏明「不当な排他行為をくりかえす独占企業を分割すべきか-マイクロソ*フトへの排除措置」ジュリスト( .1186 2000年10月1日)有斐閣 などNo

- -17

ならず、アクセス保証や、その場合の取引条件のあり方といった問題にも踏み込

むことが出来る。

なお、米 は、行為規制の問題点として、(イ)排他的行動の誘因や機会をFTC除去することは出来ないこと、(ロ)内部補助の有無などの違法行為の発見が困難

となり得ること、(ハ)長期間にわたる監視が必要となることを挙げている 。*1

② 構造規制の特徴

構造規制は、行為規制に比べ、私有財産の制約の度合いがより大きい。

一方で、構造規制は、行為規制と異なり、長期にわたる国の介入を招きにくい

とする考え方もある。しかしながら、実際には、構造規制についても、その当否

が長期間裁判で争われる可能性がある。「裁量型規制」に陥るおそれは小さくな

るが、「その間に産業の技術的環境も一変してしまう」おそれがある 。*2

ボトルネックの管理、提供部門と川下部門の組織的な垂直分離という構造規制

の実施によって、機会におけるイコール・フッティングは確保される。内部補助を手段とする競争者の排除( )の可能性は未然に防ぐことが出Price Squeezing来る。行為規制によっては、川上部門と川下部門の共通費用の配分の計算が難し

いなどの理由により、内部補助の懸念が払拭し切れない場合や、(第三者機関を

常置する必要があるなど)内部補助の防止のための監視コストが大きくなりすぎ

る場合があり得るが、このような場合には、構造規制は有効である。

ただし、垂直統合により実現された効率性向上など(社会的厚生)は損なわれ

るかも知れないし、そもそも私有財産の制約の度合いが大きい 。*3

(3) 対応の視点と手段の選択

仮にボトルネック独占を巡って競争政策上の問題が生じていた場合、行為規制と

構造規制の何れを適用すべきかについては、後者の方がより厳しく私有財産権を制約することから、まずは、行為規制を試み、それで十分な効果が上げられない場合

に構造規制を適用すべきとする有力な意見がある 。*4

しかしながら、これまで見てきたとおり、構造規制においては、結果におけるア

Page 18: ネットワーク経済とボトルネック独占 - RIETI--1 ネットワーク経済とボトルネック独占 ~いわゆるエッセンシャル・ファシリティ理論とネットワーク、標準、知的財産~

1 ここで念頭に置いている構造規制は垂直分離であるが、以下のような場合には、*水平分離も検討の対象となり得る。川下市場がかつて規制下にあり、既存事業者が既に支配的な地位を形成してい

るなどの場合である。川下市場において、規制改革が意図した競争が既存事業者

と新規参入者の間で行われることが期待できない場合においては、規制下におい

て形成された「格差」を是正するため、川下部門の水平分割を含めた措置の検討

が必要になるかも知れない。しかしながら、これは、厳密にはボトルネック独占

を巡る問題ではないので、本稿では問題の指摘に止める。

* Intergraph Corp v Intel Corp : htt2 . . .事件の連邦巡回控訴審判決(1999年11月5日

. . . 98 1308. )。この判決p://www ll geogetown edu/Fed-Ct/Circuit/fed/opinions/ - htmlにより、インテルの知的財産に 理論を適用したとされる連邦"Essential Facility"地裁判決(同 3 . .2 1255 ( . . 1998))が覆された。F Supp d N D Ala

- -18

クセス保証は達成できない 。行為規制と構造規制の「使い分け」については、以*1

下のとおり、如何なる政策目的によるのかによって、決定されることになる。

行為規制 構造規制

機会におけるイコール・フッティングの確保 内部補助の禁止 垂直分離

結果におけるアクセス保証 アクセス保証 ×

当然のことながら、構造規制のみによっては、結果におけるアクセス保証は確保

できない。

4.アクセス保証と保護法益

~インテル対インタグラフ事件の評価~

構造規制のみによっては、結果におけるアクセス保証は実現できない。

機会におけるイコール・フッティングの確保のみを政策目的とするのであれば、

アクセス保証は求められない。アクセスを認めるか、認めるとして如何なる条件と

なるかは、全て当事者間に委ねられる。こうした立場は、分離型ボトルネックを前提とする場合、アクセス保証までは求

められないとした米国の判例においても確認できる。2細部は省略するが、インテル対インタグラフ事件(1999年連邦連邦控訴裁判決*

)におけるボトルネック施設は次世代 ( 小型演算装置)MPU Micro Processing Unit:の技術情報(知的財産)であり、川下市場はこれを利用したワークステーション市

場であった。そして、ボトルネック施設を保有するインテル自身は、川下市場に参

加しておらず、したがって、このネットワークの産業組織は、先ほどの1(1)の整理

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1 白石忠志「独禁法講義(第2版)」は、「ある商品役務がすでに独占されてし*まっている場合、そのこと自体は独禁法の問題としない」という格言がある・・・。

すでに見たように、拒絶者と非拒絶者との間に競争関係がなければ、取引拒絶は独禁法に決して違反しない、という考え方も米国では根強い。これも、上記の問題と

根源を同じくしているのではないかと思われる。誰とも競争していない孤高の独占

者は、もはや競争の問題を起こしようがない、ということであろう。」とした上で、

このインテル対インタグラフ事件についての 1999年11月5日の連邦控訴審判決は

この立場を維持しているものの、同じ年8月3日のFTC同意命令は、これを超え、

当該取引拒絶行為を独禁法違反としていることを指摘している。

2「米国の反トラスト法には独占が成立してもそれが適法なものであれば、当該市*場における独占の単なる行使に対しては、少なくともその価格設定には、介入できないということはドグマとなっている。」(川濱昇「技術標準と独占禁止法」法学

論叢146巻3・4号」)

- -19

でいう分離型ボトルネックであった。(垂直分離により目指す産業組織が既に実現

されていた。)

以上を前提として、裁判所は、川下市場への参加者であるインタグラフに対する

ボトルネック施設へのアクセス拒絶を基本的に問題としなかった。インテル自身が

川下市場に参加していない以上、機会におけるイコール・フッティングは確保され

ており、その意味で川下市場における競争が歪められるおそれはないからである。

しかしながら、本件については、アクセス保証をすべきではなかったかとの議論

もある。現に、判決に先立ち、インテル自身はインタグラフへのアクセス保証を求める米 の同意審決に応じている 。FTC * *1 2

こうした問題については、以下のように考えるべきではないか。

すなわち、機会におけるイコール・フッティングの確保が事後的規制の政策目的であるならば、アクセス保証を求める必要はない。仮にインテル自身がワークステ

ーション市場に参加していたとしても、構造規制又は行為規制により、両者の分離

を図れば足りる。

しかしながら、このことは、そうした意味での「競争の保護」を超えた別途の理

由による事後的規制を排除しない。また、インテル対インタグラフ事件の連邦控訴

裁判決も、そうした可能性を排除していない。

したがって、例えば、仮に次世代 に関する技術情報を利用した「革新的でMPU創造的な価値をもつ事業活動」を現に川下市場において実現することや、動態的な

システム間競争、あるいは、ユニバーサル・サービスの提供を実現させることに高

い政策的価値を認めるのであれば、私有財産権を制限し、行為規制によるアクセス

保証を行うことが合理的な場合もあるのではないかと思われる。

すなわち、如何なる規制態様を選択するか、アクセス保証までを求めるかは、保

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1 この両者の立場は、取引拒絶の正当化事由の有無を厳しく見ることによって、*接近し得るが、何処を出発点とするかによって、結論は変わって来得よう。

2 技術革新・技術取引と独占禁止法:総論」日本経済法学会編 日本経* 稗貫俊文「

済学会報第20号第42号(1999)〈特集〉技術革新・技術取引と競争政策 有斐閣。なお、 条約第86条( )には「生産、販路または技術開発を消費者にとって不利EC bに制限するもの」を問題とする旨の規定がある。

- -20

護法益を何と考えるかによる 。*1

なお、こうした機会におけるイコール・フッティングの確保を超えた政策目的へ

の対応は、ボトルネック施設一般に求められるものではない。さらに、例えば、

「革新的で創造的な価値をもつ事業活動」と言ってはみても、具体的に何がこれに

当たるかを判断することは容易ではない 。仮に一般法である独禁法によりこうし*2

た問題に対処しようとするのであれば、事後的規制の適用範囲が安易に拡大しない

よう注意しなければならない。

5.アクセス保証のメリット、デメリット

結果におけるアクセス保証については、機会におけるイコール・フッティングの確保を超えた必要性を説明することが求められる。

アクセス保証を求めるか否かの検討の前提として、これがシステム内競争とシス

テム間競争にもたらすメリット、デメリットを大まかに整理すると、以下のとおり

である。(垂直統合による効率性の向上とライバル企業のコスト引上げなどのバラ

ンスの問題も別途ある。)

システム内競争 システム間競争短期/静態的分析 中長期/動態的分析

新規参入の確保 取引先・取引条件選択の自由の確保

価格の低下など 蛙跳び( )などleap-froggingプロセス・イノベーション プロダクト・イノベーション

まず、システム内競争への影響を見ると、アクセス保証により新規参入が促され

るので、システム内における価格、数量を中心とした静態的競争や、システム・イ

ノベーションが活性化することが一般に期待される。しかしながら、アクセス保証は、()「才覚と努力」により獲得されたものも含i

め、私有財産権の制約となり、また、( )取引先選択や取引条件決定への国の関与iiを伴い、事業者の選択の自由を制約するという側面を有する。

次に、動態的なシステム間競争への影響を見ると、アクセス保証が技術水準の固

定化を結果的に促し、現行のシステムに代替し得る次世代のシステムを創出しよう

Page 21: ネットワーク経済とボトルネック独占 - RIETI--1 ネットワーク経済とボトルネック独占 ~いわゆるエッセンシャル・ファシリティ理論とネットワーク、標準、知的財産~

1 前出米 報告書(1996)には、「 を から排除したこと* FTC Dean Witter Visa USAがシステム間競争を活性化したという積極的な評価」もあることが紹介されている。

2 . . , 224 . . 383(1* United States v Terminal Railroad Association of St Louis U S912)

3 . . ., 708 .2 1081(7 . 1983)* MCI Communications Corp v AT&T Co F d th Cir4 しかしながら、本年2月の米国のある弁護士へのインタビューによれば、「結*局、エッセンシャル・ファシリティ理論は、私有財産権を制約するものであるので、

「敷居値」は極めて高く、適用される例も希である。」とのことであった。

- -21

とする意欲と努力(動態的競争)を阻害するおそれもある 。*1

逆に、動態的なシステム間競争の前提として、あるボトルネック施設へのアクセ

スが求められる可能性がある。 サービスを創出し、モデム経由の接続サービxDSLスとの(サブ)システム間競争を実現するためには、 配電盤へのアクセス保MDF証が必要である。

何れにせよ、アクセス保証の有無がシステム間競争に与えるプラス、マイナス両

面の影響をケース毎に高い専門性をもって慎重に見極め、これをシステム内競争に

与える影響と慎重に比較考量しなければならない。

第5節 事後的規制の発動要件(事後的対応その2)

~如何なる要件が満たされれば私有財産権の制限が正当化されるか~

1.これまでの主な議論

(1)エッセンシャル・ファシリティ理論

規制の要否について、具体的な対応のあり方を検討する前に、これまでの議論を簡単に整理しておく。

まず、ボトルネック施設へのアクセス制限を巡っては、1910年代 からエッセン*2

シャル・ファシリティ( 不可欠施設)理論と呼ばれる議論がある。Essential Facility:その内容は、 事件連邦控訴審判決 において整理されている。この整理によMCI *3

れば、あるプラットフォームが以下の4つの要件を満たす場合には、事後的規制が

正当化される 。*4

()独占者によりエッセンシャル・ファシリティが管理されていること。i( )競争者が代替プラットフォームを別途構築することが事実上出来ないか又は合ii理的ではないこと。

( )競争者によるエッセンシャル・ファシリティの利用が妨げられていること。iii( )エッセンシャル・ファシリティを提供することが実行可能であること。(施iv

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1 前出米 報告書(1996)* FTC2「エッセンシャル・ファシリティ」理論は、それが妥当することが比較的明瞭な*領域(規制産業の関連領域などにおいて費用逓減性やネットワーク外部性が認めら

れる領域)が存在することは確かだが、通常持ち出されている一般的な基準は十分

に明瞭とは言えないし、取引条件の基準作りなど困難な問題は多い。」(前出川濱

「技術革新~」)

3 例えば、白石忠志「 理論-インターネットと競争政策」ジュ* Essential Facilityリスト2000年2月15日号( .1172)など。Noなお、二番目の川下市場における競争の減殺については、しばしば新規参入者

などのライバル企業の事業活動が成り立つかという言い方で表現されることがあ

るが、競争政策においては、あくまで個別事業者の保護(「競争者の保護」)に

着目するのではなく、競争減殺を回避することによって、どのような消費者厚生

を実現できるのかに着目しなければならない。

4 前出川濱「技術標準~」は、「(米国法では)たとえ独占者であっても取引の*相手方は自由に選べるのが原則である(が、)この法理の特徴は、シャーマン法二

条の通常の独占化であれば、拒絶が何れかの市場での独占力の形成、維持、強化をもたらすことが必要なところ、それらの反競争効果の存在が要件とはなっていない

点にある。」としている。

- -22

設の余裕があることなど。)

しかしながら、このエッセンシャル・ファシリティ理論には、少なくとも以下の

ような問題がある。

第一に、エッセンシャル・ファシリティであるか否かを判断する具体的な基準が

明らかではない。米 も、「(米)最高裁判所はこれまでエッセンシャル・フFTCァシリティ理論を認めたことはなく、その輪郭も限界も議論の余地を残したままで

ある」とした上で、 事件の4要件について、「この「呪文( )」は当該MCI mantra施設(ファシリティ)が必要不可欠(エッセンシャル)か否かを認定する方法を説明していない」と評している 。* *1 2

第二に、通常の取引制限を巡る議論との違いが明らかではない。

もともと競争政策においては、エッセンシャル・ファシリティという曖昧な概念

を持ち出すまでもなく、()他に代替手段がなく、( )当該取引が拒絶されれば川下i ii市場における競争が制限され、( )当該拒絶に正当化事由がない場合には、当該取iii引拒絶は認められないとする考え方があった 。*3

エッセンシャル・ファシリティという特別の用語を用いることにより、こうした議論とは異なる特別の法的効果が生ずるのか 、また、最近のネットワーク経済を*4

巡る議論はどう反映されているのか(例えば、ネットワーク外部性の存在は、代替

Page 23: ネットワーク経済とボトルネック独占 - RIETI--1 ネットワーク経済とボトルネック独占 ~いわゆるエッセンシャル・ファシリティ理論とネットワーク、標準、知的財産~

1 ネットワーク外部性を巡る議論を競争政策に当てはめようとした試みとして、*Lopatka J E and W H William "Microsoft Monopolazation and Network Ext, . . . . , ,

ernalities" Antitrust Bulletin/Summer Lemley M A and D McGowan "L(1995)、 , . . .

,86 (199egal Implications of Netwark Economics Effects" California Law Review8)などがある。

2 前出米 報告書(1996)* FTC3 前出 . . . . , 224 . .383* United States v Terminal R R Associatio of St Louis U S(1912)のほか、 . , 326 . .1(1944)などを参Associated Press v United States U S照。

4 . . ., 475 . .574(198* Matsushita Electric Industrial Co v Zenith Radio Corp U S6)などにおいては、競争政策の目的は「競争の保護」であって「競争者の保護」で

はないことが明らかにされている。

この表現は、例えば、今日においても、本年7月の の合併案件GE/Honeywellの欧州委員会の判断を巡る米国司法省の評価においても、「米国の競争政策は、明確に、かつ、長い間、競争者ではなく、競争を保護してきた。」といった形で

用いられている。( . . )http://www usdoj gov/atr/

- -23

手段の有無の判断に影響を与えるのか。)など については、必ずしも議論が収斂*1

していないようである。

エッセンシャル・ファシリティという用語を用いるか否かに関わらず、事後的規

制の要否、特に結果におけるアクセス保証の要否について、本質的な議論がなされ

なければならない。

(2)米 の整理FTC

その意味では、米 の議論が参考になる。FTC米 は、ボトルネック施設へのアクセス制限について、政策的対応が必要かFTC

否かを判断する視点として、以下の3つを挙げている 。*2

()ボトルネック施設の利用を求める側にとって不可欠なものか 。i *3

( )ボトルネック施設を提供する側に正当な拒絶理由があるか。ii( )ボトルネック施設へのアクセスの有無により、競争を通じて達成される消費iii者厚生(効率性など)に差異が生ずるか。(例えば、実現価格に有意な差が生ず

るか。)

( )の視点は、ボトルネック施設の利用側の主観的な事情に関心が集まりがちなiii()や、客観的に事後的規制の必要性を判断しようとしているという点で、注目さiれる。()の要件を重視した運用は、「競争の保護」よりも「競争者の保護」 に流i *4

れやすい。例えば、既に99名がアクセスし、現に競争している状態と、未だ1名しか

利用が認められていない状態では、新たに1名のアクセスを認めることの評価は、

()の視点からは全く変わりないことにもなりかねない。i

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* OECD "Recommendation oftheCouncil Concerning the Separat1 2001年春の の

ion of Competitive and Non-competitive Activities in Regulated Industries" DAFF(

2(2000)2 4)に至る議論の過程においても、仮に構造規制を行い、E/CLP/WP /REV組織的に垂直分離を図ったとしても、「元の身内」とのみ閉鎖的に取引が継続する

可能性があることが指摘されている。(他に (2001)78なども参照のこと。)C

- -24

ただし、( )の視点を重視する立場に立ったとしても、依然としてアクセス保証iiiの要否を判断する基準が具体化されていないことに変わりはない。

なお、( )の視点については、主観的な評価も可能であるが、客観的に判断すべiiきである。

2.事後的規制の発動要件

(1) 事後的規制の三局面

以上の議論を踏まえたつつ、事後的規制の要否の判断を検討することになるが、

こうした検討は、以下の3つの場面に分けてなされるべきである。

①(行為規制を前提とした)機会におけるイコール・フッティングの確保の要否

② 機会におけるイコール・フッティングの確保が求められることを前提として、行

為規制を超えて構造規制を行うことの要否

③ 結果におけるアクセス保証の要否

(2) 行為規制による機会におけるイコール・フッティングの確保

統合型ボトルネック独占の下で、垂直統合企業がライバル企業のコスト引上げを図り、これにより消費者厚生が減少することが懸念される場合には、機会におけ

るイコール・フッティングの確保が図られなければならない。(第4節1.(4)「垂

直統合のデメリット」参照。機会におけるイコール・フッティングの確保が、垂直

統合のメリット(効率性の向上)が損なわれることが基本的に想定されないだろう。

(3) 構造規制による機会におけるイコール・フッティングの確保

機会におけるイコール・フッティングの確保が求められることを前提として、行

為規制によった場合、内部補助の防止などのための監視コストが大きくなりすぎる

などの場合には、私有財産権の制限とのバランスを考慮しつつ、構造規制(企業組

織の垂直分離)が検討されることになる。ただし、構造規制について、「元の身内」を優遇する可能性が否定できないのであれば、規制のコストに見合った効果が

期待できないのではないかとの指摘もある 。*1

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1 現行規格との互換性を確保しつつ、次世代規格を開発しようとするような場合*には、現行規格の技術情報の利用が必要である。また、「自ら 回線、光CATVファイバ等を新たに敷設する事業者に対して、東・西 ・電力会社などの公益NTT事業者の電柱・管路等を積極的に開放するよう促していく」(平成12年12月14日

電気通信審議会 革命を推進するための電気通信事業における競争政策の在りIT方についての特別部会第一次答申「 時代の競争促進プログラム」)ことは、こITのケース又は「革新的で独自の創造的な価値をもつ事業活動」の創出の何れかに該

当するであろう。

- -25

(4) 結果におけるアクセス保証

如何なる場合に結果におけるアクセス保証まで求められるかについては、前述の

とおり、以下のような場合が考えられる。

() 川下市場における競争の具体的実現iそもそもある川下市場を創出したり、前述の「革新的で創造的な価値をもつ事

業活動」を実現する場合など、競争の活性化を通じて実現すべき消費者厚生の増大が明らかな場合には、結果におけるアクセス保証が求められ得る。

1( )(過剰慣性の防止による川上レベルでの)動態的なシステム間競争の円滑化ii *

( )ユニバーサル・サービスの確保(後述)iiiなお、この外に、「川下市場に参加しようとする者の事業遂行の確保」を求める

見解もあるが、前述のとおり、ボトルネック施設を利用しようとする側の主観的事

情ではなく、客観的な競争(その成果物としての効率性向上など(消費者厚生の増

大)への影響により判断すべきである。

なお、こうした視点からの結果の保証については、ごく限定された場合にのみ求められるものであるから、仮に一般法たる独禁法での対応を検討する場合には、具

体的な歯止め、線引きを慎重に検討する必要がある。

3.その他のチェック・ポイント

機会におけるイコール・フッティングの確保、結果におけるアクセス保証の何れ

を目的とする場合であっても、事後的規制の要否を検討する際には、その他以下の

ような点についても検討すべきである。

(1) ボトルネック性(代替可能性)

まず、事後的規制を巡る何れの議論においても、問題となるプラットフォームが

何者かに独占され、かつ、代替手段がなく、しかも、将来にわたって、そうした状

況が解消される見通しがないことを前提としている。

他に選択肢が残されている場合にまで、取引先や取引条件の選択の自由を制約す

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1 1945年の . , 326 . .1(1945)では、代替品* Associated Press v United States U SAreeda "がないことの説明なくアクセス保証が求められたが、この判例には、 ,

, 58 . .Essential Facilities: An Epithet in Need of Limiting Principles " Antitrust L J841(1990)や , , 75 . .Boudin Antitrust Doctrine and the Sway of Metaphor " Geo L. 395(1986)など批判も多い。J

2 この場合、当該プラットフォームは、既に「ボトルネック施設」ではないこと*になる。

3 定量的に商品間の代替* Small Signifcant and Non-transitory Increase in Price;性を評価し、これを基に市場の範囲を画定しようとする手法。

また、市場への参入障壁の高低を評価する際、埋没費用(参入後退出する際、

回収し切れない費用)に着目するなども、一般的になっている。

4 ., . , 504 . .451(1992)のよ* Eastman Kodak Co v Image Technical Services U Sうにコピー機間のシステム間競争を念頭に置かずに、 社製コピー機の補修Kodakサービス市場に市場を限定すれば、競争制限を認定し易くなる。

また、 を用いた事例ではあるが、 . , . ,SSNIP FTC v Staple Inc and Office Depot., 970 . 1066( . . .1997)においても、大手事務用品販売店のみで構Inc F Supp D D C

成される市場を観念し、市場を狭く画定し、結果、競争制限が認定された。こう

Brown Shoe Co v Uniteした判断については、(やはり市場を狭く画定した) . .

, 370 . .294 (1964)への「先祖がえり」とも言われているが(米国のd States U Sのある弁護士へのインタビューによる。)、このような傾向が、今後とも、定着していくことになるのか、注意が必要である。

5 前出のとおり「自己修復」機能が指摘されている。*

- -26

べきでないことは、当然であろう 。システム間競争、すなわち、プラットフォー*1

ム間の競争関係を認め、全体として一つの市場として見るのであれば 、ボトル*2

ネック独占の存在を前提とした事後的規制は求められない。

問題は、そのプラットフォームが「唯一無二」であるかをどう判断するかである。

これは市場の画定の議論そのものであり、少なくとも静態的競争であれば、例え

ば、 を始め、これまでに市場の確定を巡って積み重ねられてきた議論を土SSNIP*3

台とすることが出来よう。

しかしながら、そもそも市場の確定自体が実務的に難しい問題である 上、少な*4

くともある種の産業においては、技術の進歩のスピードが速く、動態的なシステム

間競争の可能性が大きくなっている 。高い専門性を有していたとしても、なお判*5

断が難しい。

ハイテク産業においては、(動態的な競争を通じた)急速かつ絶え間ない新製品

self-correctiの登場、商品寿命の短命化が競争政策上の懸念を払拭する「自己修復(

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* Pitofsky Robert "Antitrust Analysis in High-Tech Industries " a speech at an1 , , ,

American Bar Association Workshop on Antitrust Issues in High-Tech Industrie, , , 25, 1999s Scottsdale Arizona February

, , ,Barro "Why the Antitrust Cops Should Lay Off High-Tech " Business Week17, 1998August

2 平成12年9月13日読売新聞2面「 独禁政策の指針」など。* IT同じ 分野の中でも、より「唯一無二」のものとなり易いはずの や接続IT OS

規格などではなく、ビジネス方法の特許を念頭に、競争政策と知的財産政策の関

係について関心が高まったのは、奇異であった。

3 ワン・クリック方式については、我が国の審査においては、特許性が否定され*た。米国の審査においても、裁判の記録等によれば、担当審査官の心証は「特許性なし」であったが、先行事例が見つからず、拒絶事由を構成できなかったとある。

なお、我が国特許庁の運用については、 . . . 参照。http://www jpo go jp

- -27

)」作用をもたらしているとの見方もある 。ng *1

代替可能性の有無を巡っては、米国の判例においても議論があり、「街で唯一つ

"the only game in town" "no room toの獲物( )」や「もう踊る隙間が残っていない(

)」などの言い回しが定着している。しかしながら、客観的、明確な判断基dance"準はなく、結局、ケース・バイ・ケースの判断に委ねられている。前述のとおり、

判断が利用を求める側の主観に左右されるおそれもある。

なお、注意を有するのは、あるプラットフォームについて排他的な権利を持つこ

とと、そのプラットフォームが「唯一無二」のものであることは、別の次元の議論

であることである。例えば、特許権は全て排他的な権利であるが、これは、例えば、

ある特許が「唯一無二」の「基本特許」であることを意味しない。そもそも、「基

本特許」には厳密な定義はなく、代替技術が内という程度に理解したとしても、こleap-frogginれに該当するか否かの判断は極めて難しい。ある特許技術を「蛙跳び(

)」する技術の登場もしばしば見られる。これに関連し、いわゆるビジネス方法gの特許を巡っては、ワン・クリック特許のように、他に代替手段があるか否か、

ネットワーク外部性はどうかといった点について十分な検討もないままに、他の特

許権以上に競争政策上の取扱いに対する関心が高まった 。ワン・クリック方式に*2

ついて「才覚と努力」の成果として評価すべきかについては別途議論がある にせ*3

よ、ある排他権が「唯一無二」のものであると言い得るか、すなわち、あるプラットフォームについて独占が成立しているかについては、やはりケース・バイ・ケー

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1 アプリケーション・ソフトに過ぎないビジネス方法の特許についても、汎用機*と既存ネットワークの使用を前提としてあるアイデアを実現しようとする場合には、

ソフトウェア構成の選択の余地が狭くなり、代替品の開発が困難となる可能性もあ

り得よう。また、一部の遺伝子関連分野の特許権やある種の著作権については「唯

一無二」であるとの説明も可能かも知れない。

なお、米 報告書(1996)では、競争政策上注意を要する分野として、遺伝FTC子分野の外、ソフトウェア分野を挙げている。ソフトウェア分野が他の技術分野に比べ、「唯一無二」の発明が生まれ易い分野であるか否かについては簡単に評

価できないが、基本ソフト( )などについては、強いネットワーク外部性を背OS景にボトルネック独占が成立する可能性はある。

2「従来問題視されてきた例は、・・・戦略的一その他の要因で必須の投入要素が*特定の者の支配下に落ちるのが必然的な場合であって、その独占力の取得がその者

の競争上の努力の反映とはいえないケースなのである。」前出川濱「技術標準~」

* Rubinfeld D "Antitrust Enforcement in Dynamiv Network Industries" Th3 前出 , .

(1998)。e Antitrust Bulletin/ Fall-Winter4 奥田 日経連会長の講演(2001年2月12日日本経済新聞7面掲載)から。* 碩

5 前出川濱「技術標準~」*

- -28

スで高い専門性をもって慎重に判断する必要があろう 。*1

(2) 独占の形成過程

独占の形成過程にも注目すべきである。具体的には、2点ある。

①「才覚と努力」

第一は、そのボトルネック施設が「才覚と努力」によって獲得されたか否かであ

る 。* 2

「(ボトルネック独占が、規制などの下ではなく、競争の過程において形成され、

かつ、これが)偶然や反競争的行為の結果ではなく、優れた技術革新の結果である

場合、競争政策上の介入政策は長期的に有害である。なぜならば、それは技術革新3に税をかけるような政策だからである。」*

「才覚と努力」によって獲得した私有財産を制約することは、技術革新に向けた

リスク・テークに冷や水を浴びせる。技術革新を促進する観点からは、「嫉妬の経

済」 で規律すべきではない。*4

一方で、「ウィンドフォール」 により獲得されたボトルネック独占については、*5

事情が異なる。

米国の判例の評価についても、分割の対象とされた旧 の地域電話網につAT&Tいては言うに及ばず、 の合併に際してアクセス保証が求められAOL/Time Warnerた 保有のケーブルについても、「規制による保護が背景にあり、Time Warner

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1 米国のある弁護士へのインタビューによる。*2 例えば、2001年3月9日(金)付け日経13面には、前米国連邦通信委員長の「既存*大手と新規参入者は同じ土俵には立てないことを認識すべき。」との発言が紹介さ

れている。3 国際標準化機構* InternationalOrganization for Standardization:4 国際電気標準会議( の下部組* International Electrotechnical Commission: ISO織)

* JI5 前出の21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書においては「現行の

においては、 の指針に倣い、①原案作成段階を含む規格策定のすべてS ISO/IECの段階において、(規格策定過程への参加者の保有及び認識の範囲内で)知的財産

権の調査を要求するとともに、②標準に含まれる知的財産権の権利者に対し、第三

者への非差別的かつ合理的条件での実施許諾が保証されるように宣言することを求め、これが得られた場合のみ 化する、との方針を採用することにより、知的JIS財産権制度と標準制度とのバランスを維持してきている」ことが紹介されている。

- -29

「才覚と努力」によって獲得したものとは言い難い。」 とする指摘がある。*1

すなわち、川下市場における規制改革を契機としてボトルネック独占の問題を検

討する場合、統合型ボトルネックを目指すのか、分離型ボトルネックを目指すのか、

その際に何に注意すべきかといった、規制改革の進め方の問題として捉えることが

できる。規制緩和以前から川下市場で活動していた者が、既に事実上優位に立って

いる場合、川下市場における競争を有効に機能させる観点から、新規参入者との格

差是正措置が求められる場合もあるだろう 。*2

② 事前の公約

第二は、ボトルネック施設獲得競争に先立ち、開放性、公正性(無差別性)の公

約があったか否かである。システム間競争に臨む際、自らのプラットフォームについて、事前に(無差別性

ISO /Iや)開放性の確保を公約する場合がある。例えば、規格を策定する際には、 *3

のガイドラインなどを踏まえ、当該規格に取り込まれる知的財産や、当該規格EC*4

そのものについて、無差別に開放していくことを事前に公約することが実務上少な

からず見られる 。*5

こうした公約は、自らのシステム(プラットフォーム)が多数派を形成するとの

顧客の期待を高める効果も期待してなされる。(初期値過敏性( ))Tippingこうした状況の下で、事後的に(無差別性や)開放性が損なわれた場合、代替手

段の有無や、技術革新への影響などを議論することなく、「禁反言」の問題として

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1 ., .931 097 この事件では、パソコン用部品の接続* Dell Computer Corp File No - :規格の一つである 規格を巡って、デル社が、まず、自ら保有する特許権VL-busはないとし、これを前提に同社の部品が規格に採用された。その後、同社が特許侵害請求をしたため、問題となった。結局、米 の同意審決で(特許権の)権FTC利行使が禁止された。

2 前出本年2月の米国法律事務所の弁護士へのインタビューによれば、「合併に*ついては、 により当局側に合併をそのまま認めるか否かをHart-Scott-Rodino Act検討する手続きが保証されているので、条件を付することが実務上やり易いという

面はある。」とのこと。

3 典型的には、電波、空港発着枠などが考えられる。*4 政府規制等と競争政策に関する研究会「国内航空旅客運送事業分やにおける競*争政策上の課題(公益事業分野における規制緩和と競争政策・中間報告)(平成

12年2月)

- -30

処理することが可能になる 。*1

(3) 統合型ボトルネックの形成過程

事件においてアクセス保証が求められたケーブルについて、AOL/Time Warner「才覚と努力」により獲得されたとは言い難いのではないかとの指摘があることは

前述した。この事件については、こうした事情の外にも、アクセス保証を求める方

I向に働いた事情が別にあるとの指摘 がある。川上部門(ケーブル)と川下部門(*2

)の合併である。すなわち、これまで組織的に分離SP: Internet Service Providerされていたものが結合する場合には、条件を付しやすいとする見方がある。

規制の下で形成されたボトルネック施設に関連し、前出の統合型ボトルネックの

産業組織(垂直統合企業と川下専業企業の混在)が形成される過程としては、こののように川上と川下が結合する場合と、川下市場が規制緩和さAOL/Time Warner

れ、独占から競争へと移行する場合(例えば、電力分野の発送電分離、固定電話サ

ービス分野における長短分離など。)があるだろう。

こうした歴史的経緯を強調することは、種々の評価があり得ようが、事業者の暗

黙の期待、前提を適切に勘案することが、「才覚と努力」の発揮、リスク・テーク

への悪影響を回避する上で重要な場合があるのは否定できないであろう。

(4) 正当な拒絶理由の有無

正当な拒絶理由の有無も点検されなければならない。具体的には、プラットフォームに能力的な余裕がなく 、かつ、限られた能力を*3

公正な方向で分配しているか否かが、評価されなければならない 。*4

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1 規制の下で形成された施設以外へのアクセス保証、すなわち、「ライセンス拒*絶を反トラスト法違反とする見解を表明したものとして言及される、司法省の一九

八〇年共同研究反トラストガイドラインは、共同行為によって人為的に作り出され

た共同独占的地位がかかわったものである。かような・・・共同活動における努力

の果実やリスクテーキングの対価は保証しなかればならない。しかし、独占的な地

位の取得は本来単独ではできない事柄に関するある程度恣意的な共同の取り組みの

所産ともいえ、場合によって特定の業者を排除する・・・危険性もある。それらを

考慮した上で「合理的な対価」での接近の保証が望ましいと司法省はかんがえたのではなかろうか。」

2 前出 講演。* Pitofsky

- -31

4.事後的対応の要否の判断基準

結果におけるアクセス保証を求めるべきか否かについては、これにより客観的に競争に意味のある変化が生ずるか否か、その活性化を通じて具体的なメリットが消

費者にもたらされるか否かにより、判断されるべきである。しかしながら、3.

(2)で挙げたような事情も含め、その具体的な認定は難しい。

したがって、実務的には、3.(3)(4)に掲げた事情、とりわけボトルネック独占

の成立過程が重要になるのではないかと考える。規制の下で形成されたボトルネッ

ク独占については、事後的対応を講ずることの弊害は比較的小さい 。その他のボ*1

トルネック独占であって、結果におけるアクセス保証が高い関心を集めているもの

は、いわゆるハイテク分野に事実上限られようが、こうした分野においては一般に活発な動態的競争が期待できる。すなわち、短期間にボトルネック性そのものが解

消することも期待できる。

これに関連し、私見としてではあるが、米 委員長が、「ハイテク産業におFTCいて市場支配力を有する企業に対し、その活用を認めること(まで)は、活気ある

技術革新社会を実現するために支払うべき相応の代償だと見る意見(は否定する。

しかしながら、競争)当局は、それが支配的な地位を有する場合でも、既存のネッ

トワーク分割(筆者註:構造規制)又は強制アクセス命令(筆者註:結果におけるアクセス保証)について慎重な態度をとるべきだというのが、賛否両論を踏まえた

上での自分の暫定的な考え方である」との見解を示していることが注目される 。*2

第6節 アクセス・チャージ(事後的対応その3)

アクセス保証により取引先選択の自由を制約する以上、取引条件の決定の自由に

ついても議論は避けられない。取引先選択の自由が制限された場合においても、当

事者間の話し合いにより取引条件が決定されることが望ましいが、最終的に取引を

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* Efficient Componet Pricing Rule1

* Market-determined ECPR2

* Total Element Long Run Increment Cost3

4 前出依田*5 実際に効率化を図れば図るほどアクセス・チャージが低下するような制度設計*とすれば、逆に効率化誘因を低下させることになる。( に対しては、まさECPRにこのような批判がある。)前出依田においても、「将来の投資インセンティブが損なわれ、社会的インフ

ラの過小投資を引き起こす」などの時価方式の問題点を列挙している。

- -32

拒絶するという選択肢が残されていない以上、当事者間の話し合いだけでは決着で

きず、国などの第三者の介入が求められる事態は当然に想定されるからである。

前述のとおり、ボトルネック施設の提供者(供給側)は、価格差別化や抱合せな

どの手段によって自らの利益を増大させることが可能である。こうした需給間の分

配の公正性の観点からも、ボトルネック独占を前提とする場合には、アクセス・

チャージについて国の関与が求められる。

一方で、費用逓減産業、すなわち、限界費用が平均費用を下回る産業の場合、限

界費用をアクセス・チャージとすると、企業は赤字に陥って退出し、最終的にネットワークの利用が確保できなくなるおそれもある。

適切なアクセス・チャージのあり方としては、損失回避費用、完全配賦費用、ラ

ECムゼー価格といった考え方が示されてきた。最近においては、これらに加え、

(及び )、 などが提示されている 。PR M-ECPR TELRIC* * * *1 2 3 4

これらを巡る議論の中で注目すべきは、以下の2点である。

第一は、固定費を評価する際、原価(-償却分/以下同じ)を基礎とするか、時

価(又は技術革新などにより将来において実現が期待できる価格/以下同じ)を基礎とするかである。技術革新が激しく、システム間競争や(より効率的な企業との

)潜在的競争も期待され、これらにより固定費の回収が不能となるリスクも投資側

においてある程度覚悟すべき産業においては、時価を採用する余地があるかも知れ

ないが、その他の産業においては、時価を採用することには無理があろう。企業退

出後のネットワークの維持の保証がないからである。

また、システム間競争などが期待される産業についても、アクセス・チャージの

意味がその他の産業とは異なっていることに気をつけなければならない。すなわち、

競争が期待されるということは、この場合のアクセスチャージ規制は、厳密な意味ではボトルネック独占を前提としていない。競争が機能していれば、本来、料金規

制は不要であるので、競争が不完全であるか、後述するユニバーサル・サービスの

要請があることを前提にアクセス・チャージ規制がなされるのであろう。時価が原

価より低いことを前提として、時価以上の水準で固定費を評価することが、こうし

た目的から見て妥当性を欠くか否かについては、議論があり得るところである 。*5

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1 具体的な算定に当たり、理論値を積み上げるか(ボトムアップ)、会計情報を*用いるか(トップダウン)かといった議論もある。

* OECD-ICCP "Universal Service and Rate Restructuring in Telecommunication2

(1991)s Tariff

- -33

第二は、固定費と変動費をどの程度厳格に区別し得るかである 。*1

ネットワークの建設、運営に関し、単一の者によるシステム統合の要請が低く、

分業が相当程度進んでいる場合には、伝統的に固定費に相当すると考えられていた

経費を含め、「バラ売り」による投資回収に馴染む可能性もある。

何れにせよ、如何なる考え方によりアクセス・チャージを算定するかを検討する

に当たっては、その産業の性格、実態を踏まえなければならない。

また、アクセス・チャージのあり方は、アクセス保証を通じた競争の活性化を期

待するか(フリーライドが防止できればそれで足りるとするか)、プラットフォームづくりに向けた投資インセンティブの確保を重視するか(リスクテーキングへの

報奨という側面を重視するか)といった議論にも関連する。

第7節 ユニバーサル・サービス

ボトルネック独占を巡っては、いわゆるユニバーサル・サービスの問題もある。

1991年の のレポートは、ユニバーサル・サービスについて、以下の4点OECDの要件を満たすサービスであるとしている 。*2

()地理的にどこに住んでいても利用できること。i( )誰でも経済的な価格で利用できること。ii( )均質的な質のサービスが享受できること。iii( )料金面での差別的取扱いを受けないこと。ivこのうちいくつを満たすことが求められるかは、時と場合によろう。

何れにせよ、基本的にユニバーサル・サービスという用語が使用されるのは、最

終消費者にサービスが提供される場面においてである。

したがって、ボトルネック施設の提供そのものがユニバーサル・サービスとなる

場合もあるであろうし、ボトルネック施設の提供者と最終消費者へのユニバーサル・サービスへの提供者の間に何段階かにわたって事業者が介在することもあり得る。

最終消費者へのサービスの提供価格がユニバーサル・サービスを理由に規制され、

当該ユニバーサル・サービスがボトルネック施設の(直接的又は間接的)利用なし

には成立しない場合、かかる観点からも、アクセス・チャージに関する規制が求め

られる。

ユニバーサル・サービスを巡る議論としてしばしば取り上げられるのは、ある特

定の地域において、競争に委ねた場合には、ユニバーサルサービスの提供が期待で

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1「仕様を固定化するメリットは、参入の自由化、技術の多様性の実現といったも*のにとどまらない。」「(ただし、)標準を獲得する場合の協調行動それ自体は、

必ずしも競争制限的だとは言えない。しかし、それによって、品質や規格が制限されることとなれば、・・・技術革新を促すような競争が行われなくなってしま

う。」前出柳川

- -34

きない場合に、どのような仕組みの下でその提供を確保するかという議論である。

この問題への対応としては、2つ考えられる。一つは、公的な資金援助により投

資回収を図ることであり、もう一つは、当該地域を含むより広い地理的地域におい

て独占を制度的に認め、全体として投資回収機会を保証することである。

後者は、従来の公益事業規制において採られてきた手法であるが、昨今、大口顧

客への供給のみ自由化するなどのいわゆる部分自由化が進展しつつあることに伴い、

いくつかの議論が惹起されている。

まず、例えば、大口小売りのみ自由化され、小口小売りについては、独占が認められている場合においては、大口専業と規制部門大口・小口兼業の間の競争を歪め

ないように小口(規制部門)から大口(競争部門)専業への内部補助を規制するこ

とが求められる。

また、小口小売り部門で独占的地位にある者への販売において、垂直統合された

内部部門か、独立系の企業かにより、不当な差別的取扱いがなされないかについて

も注意が払われなければならない。

何れにせよ、ユニバーサル・サービスという概念自体が確定的なものではないので、こうした視点からの規制については、個別にその必要性を検討し、措置するこ

とが望ましい。なお、事実として、ユニバーサル・サービスの提供の視点からアク

セスが求められるボトルネック施設のほとんどは、かつての公益事業規制の下で形

成されている。

第8節 標準と知的財産

1.標準獲得競争への対応

以上の議論を踏まえつつ、次に、標準を取り上げる。

規格づくりは、複数の技術を組み合わせ、個別に個々の技術にアクセスしようと

する場合よりも、アクセスに要するコストを軽減することから、一般に競争促進的

なものであると評価されている 。*1

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1 「互換性標準に排他的な権利が存在し、互換戦略が効果的にブロックされてい*るときに半競争的な効果が出現するということであった。逆にいうと、互換性を

持った製品を供給できるように標準へのアクセスが認められるならば問題は解決で

きる。」(前出川濱「技術標準~」)

2 前出標準委員会報告書によれば「競争の結果、事実上市場の体制を閉めること*となった標準」を指す。

3 後述。*4「競争者を排除できる経済力は知的財産権それ自体ではなく、標準を生み出そう*とした共同活動の所産であるからである。したがって、この場合の取引拒絶は単な

る知的財産権の行使というより、共同活動の所産である」(前出川濱「技術標準

~」)

5 前出川濱「技術標準~」** Farrell J and G Salo6 前述のとおり、規格の統一化(標準化)交渉を巡っては , . .

,ner "Coordination through Committees and Markets"RandJounal of Economics19.2 (1988)などの研究がある。

- -35

こうした趣旨からは、規格については開放することが求められ 、また、しばし*1

ば統一化(独占)が期待される。非標準規格を利用する消費者が孤立することがな

いように配慮することも期待される。

政府又は公的機関の関与により制定されるデジュール標準については、開放性は

確保される。また、利用の強制は必ずしも伴わない場合であっても、当初より多数

派となることを期待されており、少数派の規格との統合が具体的に求められること

は少ないだろう。

一方で、デファクト標準 については、標準獲得競争を経て何れが多数派となる*2

かが決定される。前述のとおり、事前に各規格が開放性について公約したり、また、

消費者の乗換えコストの軽減などのため、複数の規格間で事前に統一化が試みられ

ることも少なくない。

それでもなお開放性が確保されないケースもあり得よう。また、標準に組み込ま

れたが故に価値の高まった知的財産の排他権の行使の是非も議論となり得る 。*3

何れにせよ、ある規格が標準となった場合、当事者の「才覚と努力」を考慮して

も、なおネットワーク外部性による消費者の便益の増大のために必要であると認められるときには、行為規制により開放性を確保すべきかも知れない。その際のアプ

ローチとしては、「本来単独ではできない事柄に関するある程度恣意的な共同の取

り組みの所産 (については、)「合理的な対価」での接近が望ましい」 といった* *4 5

整理もあり得るかも知れない。

なお、競争に先立ち、規格間の調整(統一化)が求められながら、当事者間の話

し合いが不調に終わるようなケースもある 。こうしたケースについては、デジュ*6

ール標準の制定を図らないのであれば、標準獲得競争に委ねるしかないのではない

かと考えられる。規格の統一化は、品質などを制限し、技術革新を促すような競争

Page 36: ネットワーク経済とボトルネック独占 - RIETI--1 ネットワーク経済とボトルネック独占 ~いわゆるエッセンシャル・ファシリティ理論とネットワーク、標準、知的財産~

1 前出柳川*2 例えば、市場分割をライセンス契約の名目の下に一括して行うことなど。*

稗貫*3 前出

4 . . ., 3 . .2 1225( . . .1998)では、イ* Intergraph Corp v Intel Corp F Supp d N D Alaンテルが保有する次世代 の技術情報(知的財産)について、エッセンシャMPUル・ファシリティ理論の適用が議論された。しかしながら、このアラバマ地裁判決

は、前述のとおり、控訴審において覆されている。5 この事件では、複数の放送局の放送予定を網羅した情報誌を(新たな商品とし*て)発行しようとした事業者に対する情報提供の拒絶が不当とされた。

- -36

を制限するおそれもあり、常に望ましいとは限らないからである 。その上で、事*1

後的に行為規制による開放性の確保を検討すべきであろう。

2.知的財産の獲得競争

次に、知的財産を巡る議論を再整理したい。

第一に、知的財産については、通常、競争の下で排他権が獲得されることが挙げ

られる。知的財産の取得は、「才覚と努力」によるものだといって良い。

知的財産権の行使を「隠れ蓑」とした競争制限行為 に厳しく臨むべきは当然で*2

あり、一番手が全てを獲得することの問題点も指摘されるなど、知的財産の保護が

研究開発に与える影響については、種々の評価があることは事実である 。*3

しかしながら、少なくとも、ただ乗りされ易い成果物を法的に保護することが、

そもそも競争の土台となる場合もある。また、「才覚と努力」の発揮を促すという

知的財産権制度の趣旨を十分に踏まえなければならない。

なお、知的財産へのエッセンシャル・ファシリティ理論の適用の試みの具体例と4して、我が国でしばしば紹介されるインタグラフ対インテル事件の連邦地裁判決*

は、既に連邦控訴審で覆されている。同じくマギル事件 についても、こうした文*5

脈で一般化することには地元欧州においても批判が強い。例えば、欧州のある弁護士も、「こうした番組情報は英国以外では著作権法では保護されておらず、そもそ

も何れ無料で公開されることが予定されている程度の情報である。また、本事件で

問題となった取引拒絶は、条約86条が期待する「新たな商品の創出」を妨げるもの

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1 前出稗貫は、同事件について「 委員会は、放送プログラムは著作権の成* EC立する著作物だとする英国の国内裁判所の判決を、 条約三六条の規定の趣旨ECで受け止めなければならない。しかし、そのうえでも、市場支配者たる放送事業者

が「生産、販路または技術開発を消費者にとって不利に制限するもの」(八六条

( )項)に該当する支配的地位を濫用したとし、三六条の但し書きの「構成国間bの貿易における恣意的な差別又は偽装された制限となる」に該当するとし、八六条

違反としたものである。

しかし、このような判断は、 法の優位という 法の特有の判断構造からEC ECくるものと考えられ、日本で直ちに参考となるものではない。第一に、日本では、

著作物性の認定において、放送プログラムは放送番組の二次的著作物と認められ

るかどうか明確でない。著作物でなければ、 では間違いなく八六条違反になECるであろうが、日本では独占者の取引拒絶が直ちに独禁法違反(私的独占の排除

)になるか明らかではない。第二に、著作権が成立する著作物だとしたら、日本

の独禁法は、著作権法の上位法ではないから、放送事業者が独占者であっても、

また消費者に潜在的な需要のある新製品の出現を妨げたとしても、それだけで私Eastman Kodak C的独占の排除とされるか微妙である。このような問題は、(

., . , 504 . .451(1992)もそうであるが、)拒絶o v Image Technical Services U S者(権利者)のライセンス拒絶の方法と状況の具体的な事情や被拒絶者の対応に

も大きく依存するもので、理論的な分析や一般的定式化は困難である。」としつ

つ、同事件を例示しつつ、「革新的で創造的な価値をもつ事業活動」の存否の重

要性を議論している。

2 独禁法と知的財産法の調整規定である独禁法第23条については、種々の議論が*ある。例えば、岡田羊佑「独禁法と技術開発」後藤明・鈴村興太郎編「日本の競争政策」東京大学出版会(1999)などを参照。何れにせよ、知的財産権の行使が「隠れ

蓑」に過ぎない場合には、独禁法上問題となり得ることについて異論はない。

- -37

であった 。このようにこの事件は非常に特殊な状況の下で起こったものであり、*1

この事件において「知的財産権への 理論が適用された。」とは"Essential Facility"自分たちも理解していない。」としていた。また、同様に、「知的財産権でエッセ

ンシャルファシリティ論を用いることは、(独禁法)二三条 の有無に関わらず、*2

(「才覚と努力」の発揮に報酬を与えることにより、技術革新を促すという知的財

産)制度(の)趣旨との衝突が問題となる。たとえば、著名な 事件判決を知Magil的財産権についてエッセンシャルファシリティ類似の基準で取引拒絶を違法とした

という見解が散見するが、同判決がライセンス拒絶を違法とするのはかなり限定的

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1 前出川濱「技術革新~」( .「米国の場合は、もともとの根拠条文が自身の* cf市場支配力の形成、維持、強化に繋がることを要件としたものであったのに対し、

条約八二条の場合は市場支配力に繋がらない程度の競争への影響やあるいはEC単なる搾取的濫用も規制対象となっており、対価への介入も比較的行われやすい点も注目すべきであろう。」(前出川濱「技術標準~」)

* Farrell J "Thoughts on Antitrust and Innovation " a speech before the Nati2 , ., ,

, . ., 25, 2001 ( . .onal Economists' Club Washinton D C January http://www usdoj7402. )gov/atr/public/speeches/ htm

3 ソフトウェアの「唯一無二」性、ワン・クリック方式の代替方法の存在などに*ついては、前述。

4 前出稗貫*5 白石忠志「函館新聞事件とアンプル生地管」法学教室2001年1月号 .244 有* No斐閣

6 前出稗貫*

- -38

な場合である。」 との意見もある。*1

第二に、ある知的財産の排他的な支配と、代替品、代替技術などとの競争の有無

は、区別して議論すべきである 。*2

前述のとおり、知的財産権の中には、ボトルネック独占とは言い難いものも数多

く含まれる。すなわち、知的財産権は排他権であるが、前述のとおり、これは直ち

にある市場において「唯一無二」のもの、すなわち、競合関係にある代替品が存在

しないことを意味しない。前述のワン・クリック技術とツー・クリック技術の競合

関係でも見たとおりである。

ただし、遺伝子分野における一部の特許権などについては、市場の画定の仕方如

何によっては「唯一無二」と言える可能性がある。何れにせよ、何が「基本特許」

に該当するか、すなわち、市場の範囲を適切に画定し、独占の有無を認定することは、実務的には、極めて判断は難しい 。*3

第三に、ボトルネック施設の取扱いについては、知的財産政策においても配慮す

べきだという議論がある。例えば、ボトルネック施設については、始めから排他権を設定しないようにすべきとする意見 などである。*4

知的財産政策に競争政策の視点を反映させようという方向性 自体には、大きな*5

異論はないであろう。

しかしながら、まず、ボトルネック施設であるか否か(代替品があるか否か)な

どについては、一義的に決定し難い。事後的にアクセス保証を求めるのであれば、

初めから排他権を設定すべきではなかったという意見 には一理あるが、動態的競*6

争の可能性も勘案すれば、事前にアクセス保証すべき知的財産か否かを判断することは、実質的に不可能である。また、アクセス保証を認める場合であっても、取引

条件(アクセス・チャージ)について当事者間で交渉させる前提として、権利設定

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1 前出川濱「技術革新~」*2 特許法第83条*3 同第92条*4 同第93条*5 この場合も、ある意味で「唯一無二」のものであると言えるかも知れないが、*相互にその実施のためには他方へのアクセスを必要とする(互いに拒否権を握っている)状況も少なくなく、プラットフォームを前提としたこれまでの構図が必ずし

も当てはまらない場合もあろう。

- -39

が求められる。

また、これに関連するが、行政コストの問題もある。事前に代替品、代替技術の

有無を国が評価するためのコストと便益が見合わない可能性が高い。これに関連し、

例えば、知的財産の保護の度合いを、その知的財産により享受し得る経済的利益に

より調整すべきだという見解について「知的財産の範囲と期間を最適報酬のために

柔軟化すること(は)、そのための情報が入手できるというおよそあり得なさそう

な仮定の下でさえ、運営コストが禁止的に高いであろうこと」 から現実的ではな*1

いとする評価がある。代替品、代替技術の有無の評価についても同様であろう。個々の知的財産の競争政策上の評価は、司法手続きや、審判のような準司法手続きと

いった事後的な手続きに委ねることが合理的であろう。

第四に、それでは競争政策の視点を如何に反映させるか。特に、アクセス保証について、具体的に如何なる場合に求めることとすべきか。

この点については、他のプラットフォームと同様に、機会におけるイコール・

フッティングの確保を超え、結果におけるアクセス保証を求めるに足りる事情が認

められるのかが評価されなければならない。

これに関連し、特許法は、アクセス保証(強制実施)が求められる場合として、

( ) 与えられた特許が使用されていない場合 、i *2

( ) 与えられた特許を活用するためには、周辺にある別の特許のライセンスを受けiiることが必要な場合 、* 3

4( ) ある特許を実施させることが公共の利益のために特に必要な場合iii *

の3つを挙げている。

特許の場合は、国が事前審査に時間とコストをかけて政策的に設定された排他権

であるという事情がある。こうした事情を勘案すれば、( )のみならず、()についiii iても、結果におけるアクセス保証を実現すべき特段の事情があるといえるだろう。

ただし、問題となる特許が「唯一無二」であることが求められるかについては、必

ずしも明らかではない。( )については、限定された局面において代替品、代替技ii術がない場合が多いだろう が、()、( )についても、代替品、代替技術がない場*5 i iii合にのみアクセス保証(強制実施)を求めるべきではなかろうか。

これについては、大きく分けて2とおりの考え方がある。

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1 前出川濱「技術標準~」*2 前出川濱「技術標準~」*

* Festo Corp v Shoketsu3 昨年11月29日のフェスト連邦巡回控訴審大法廷判決( . .

.(焼結金属工業㈱), 234 .3 558, 56 . . . .Kinzoku Kogyo Kabushiki Co F d U S P Q2 1865 ( . .2000))においては、均等論(特許権の「広い」保護)を厳格d Fed Cirに解釈している。また、昨年12月28日に公表された我が国の特許・実用新案 審査基準改訂も、

才覚と努力に見合った範囲内で権利付与をしようとする試みであると評価される。

- -40

なお、この外に、ウィンド・フォールの問題がある。例えば、ある知的財産の価

値が、それが組み込まれた規格が標準になったが故に高まったような場合、「排他

権による・・・果実の全てを与えるのは、その(知的財産の)開発(筆者註:「才1覚と努力」の発揮)が社会的にもたらしたネットの便益を越えた利益を与える」*

ことにならないかという議論である。「果実の与えすぎ」 であると言い得る場合*2

には、当該知的財産の活用により、消費者の便益は増大している訳であり、結果に

おけるアクセス保証の保証が正当化され易い場合が多いかも知れない。

知的財産について、ボトルネック施設との関係で注意すべきは以上のとおりであ

る。「才覚と努力」の成果は尊重されるべきであるが、その保護範囲(排他権)が

その「才覚と努力」に真に見合ったものであるべきであることに異論はなかろう 。*3

その意味では、知的財産の「広い保護」という政策目標は、誤解を招きかねない表現であり、使用する際には注意が必要であろう。

第9節 おわりに

(1) 政策的対応(これまでのまとめ)

ネットワーク経済を巡る政策的対応についての議論を再整理すると以下のとおり

である。

第一に、独占の範囲は、これを認めることで消費者にメリットが及ぶと言える必要最小限のものであるべきである。また、技術の進歩などを踏まえ、不断の見直し

が認められる。

第二に、ネットワーク外部性を背景にした競争については、早期の対応が求められると言われているが、具体的には「独占の梃子」への対処などに止め、優勝劣敗

の決定過程への介入には慎重であるべきである。

第三に、事後的規制は慎重に行うべきである。事後的規制の要否は、競争による消費者厚生の増大がどう変わりうるかなどの観

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1 前出 講演。* Pitofsky

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点から、客観的に判断すべきである。

「嫉妬の経済」の論理で「才覚と努力」の報酬を事後的に取り上げ、リスク・テ

ーキングに冷や水を浴びせることには慎重でなければならない。

「競争者の保護」ではなく、「競争の保護」を図らなければならない。

第四に、機会におけるイコール・フッティングの確保で足りるのか、結果におけ

るアクセス保証まで踏み込むべきかを明らかにしなければならない。

また、前者についても、行為規制によるのか、構造規制に踏み込むべきかについ

て、慎重な検討がなされなければならない。

結果におけるアクセス保証、構造規制については、例えば、エッセンシャル・フ

ァシリティ理論を巡って見られたような一般論の安易な適用により踏み込むことは

危険である。こうした観点からは、諸外国の例にも見られるとおり、アクセス保証、アクセス・チャージの規制などが求められる旧公益事業分野などについては、直接

一般競争法たる独禁法を根拠とするのではなく、特別の法的手当てを行うことも合

理的である。

なお、以上を含めた政策的対応を適切に行うため、高い専門性を持って対応でき

る体制の整備が必要である。

例えば、「ハイテク産業においては、多くの場合、技術的バックグラウンドを欠く普通の弁護士や判事には理解しがたい問題を取り扱っている。」 といった指*1

摘は諸外国においても見られる。

事後的規制の具体的なあり方については、仮にかつての規制分野に範囲を限定で

きたとしても、高い専門性をもって対応することが求められる。競合プラットフォ

ームの有無、出現可能性、ボトルネック施設の範囲の具体的画定、新たな商品、サ

ービスの提供可能性、取引条件(アクセス・チャージ)の算定等には、専門的な知

識を要する。

行政、司法を含め、国全体として如何にこうした要請に応える体制を整備していくかについて更に関心が払われなければならない。

(2) 今後に期待される議論

本稿においては、いわゆるネットワーク経済を巡る共通項を中心に取り上げた。

しかしながら、一口にネットワーク産業とは言っても、その産業組織、システム

間競争の蓋然性など多くの点において、産業毎の違いが認められる。

具体的な政策のあり方を考えるに当たっても、例えば、以下の表のような産業組

織、商品、サービスの特性などの違いを念頭に置くべきである。

この表の例でいえば、発電や卸/小売りを巡る政策的課題に相当するものは、電

気通信分野にはない。電力分野の規制改革は、基本的にこの領域において進められ

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てきたが、この領域においては、電源構成の適正化などの政策的課題への対応が引

き続き求められている。また、ネットワーク領域を見ても、電気通信分野において

は、多くのシステム間競争が認められるし、いわゆる「ピラミッド」から「メッ

シュ」へといったバリュー・チェーンの解体圧力も顕在化している。

線をつなぐ・(その上で)モノを運ぶ 運ぶものを作る・売る

〈ネットワーク〉・ 〈発電・卸/小売り〉

電力 ネットワークの整備・提供 発電・卸/小売り電気通信 各種ネットワークの整備 -

通信サービスの提供

これまで規制改革の対象とされてきた領域はどこか、それぞれの領域において規制改革後になお残る政策課題は何かなどについての整理を踏まえた上で、具体的な

政策のあり方を検討することが必要である。

また、規制(独占)から競争へという規制改革に関し、これまでの日米欧の事例から何を学ぶかも重要である。例えば、前出の の報告書においては、あるOECD国の鉄道分野の規制改革において、水平分割を通じて生まれた企業の数が多すぎ、

結果、期待した効果が挙がらなかったことなどが指摘されている。

本稿の議論が関係者の思考プロセスの共有化に資し、これを踏まえた上で、具体

的な制度改革のあり方、運用のあり方などについて、議論がより一層深められるこ

とが期待される。

本稿は、競争政策、産業組織論を巡る種々のトピックについて、今後の政策の企画立案などに資するため、議論の素材を提供することを目的として作成したも

のであり、直ちに経済産業省としての見解を示すものではありません。

御意見、御指摘などありましたら、 @ . . まで電子メールにてqqcdbc meti go jpお寄せ下さい。