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マイクロ波プラズマを用いた滅菌方法および装置の開発
琉球大学 工学部 教授 米須章
概 要
従来の滅菌法では、薬品や熱により菌を死滅させ
る方法が利用されてきた。これに対し、プラズマを用いた全く新しい滅菌法であるプラズマ滅菌法は、従来の方法に比較して安全性が高く、短時間で滅菌処理ができる。
本研究室では、プラズマ滅菌用のプラズマ源としてマイクロ波放電を利用した二種類の装置を開発した。この装置を用いたプラズマ滅菌法を提案する。
従来の滅菌法
物理的方法
・高圧蒸気滅菌
・放射線滅菌
・紫外線滅菌
化学的方法
・過酢酸・過酸化水素滅菌
・酸化エチレンガス滅菌
・オゾン滅菌
従来技術とその問題点
物理的滅菌法の代表である高圧蒸気滅菌は比較的短時間で滅菌を行うことが出来るが、非耐熱性・非耐湿性の対象物の滅菌が困難である。
プラズマ滅菌法
化学的滅菌法である過酢酸、過酸化水素、酸化エチレンガスを用いた滅菌は、低温で処理できるが、人体への影響が問題視されている。
従来の技術に替わる新しい滅菌法
プラズマとは
気 体 プラズマ
プラズマ中では、電子等が非常に高いエネルギー(数万度)を持ち、また、化学反応性に富んでいる。
放電
原子
イオン
電子
プラズマ滅菌法の原理
プラズマ中に存在する高エネルギー電子が原子や分子に衝突することにより、反応性の高いラジカルを作り出す。ラジカルは細菌と化学反応することにより、菌を死滅させる。
高エネルギー電子により励起された原子から放出される紫外線が細菌のDNAにダメージを与える。
また、電子やイオン等の荷電粒子が細菌へ直接衝突し、菌を死滅させる。
電子
酸素分子
酸素原子
解離
プラズマ
イオン
酸化反応細菌
CO2CO
電子
紫外線帯電
プラズマ滅菌法の特徴
プラズマ滅菌法は、他の滅菌法に比較して以下のような優れた特長を持つ。
・酸素ラジカルは残留性がなく、安全性が高い。
・ガス温度が低く、低温で滅菌処理できる。
・ドライプロセス。
・短時間での滅菌処理が可能
マイクロ波プラズマ
マイクロ波放電では、電極を用いず(無電極放電)、電子温度が高く、ガス温度の低い、非平衡プラズマを生成することができる。本研究室では、大気圧力下および高真空下でマイクロ波プラズマを生成する以下の二種類の
装置を開発した。
大気圧非平衡プラズマ生成装置
ECRプラズマ生成装置
大気圧非平衡プラズマ
プラズマ中の電子の温度とガス温度(原子・分子の温度)が異なる場合、そのプラズマを非平衡プラズマと呼ぶ。通常、非平衡プラズマでは、
ガス温度 ≪ 電子温度
となっている。大気圧下で生成された非平衡プラズマを大気圧非平衡プラズマと呼ぶ。
大気圧非平衡プラズマを用いたプロセスのメリット
・大気圧のため多量のラジカルを生成できる。
・ガス温度が低いため処理対象物に熱的ダメージを与えない。
・排気装置が不要なため装置が簡単でコストもかからない。
大気圧非平衡プラズマ生成装置
マイクロ波
石英管
ガス
吹き出し口
プラズマ
滅菌処理部
プラズマ生成部
ステンレス容器
アンテナ
アンテナプラズマ
大気圧マイクロ波プラズマ発光の様子
電子温度に比較し、ガス温度の低い非平衡プラズマが生成できる。
酸素ラジカルの発光分光による解析
Ar
Ar
O
波長
強度
発光スペクトル
5 10 15
5
10
15
0酸素混合比 [%]
発光強度比
(O/A
r)
酸素ラジカルの混合比依存性
発光スペクトルからプラズマ滅菌において も重要な働きをする酸素ラジカル(酸素原子)の存在が確認された。
放電ガスとしてアルゴン・酸素混合ガスを用いており、酸素ガスの混合比が高くなるとプラズマ中の酸素ラジカルの存在比も上昇する。
プラズマ滅菌試験
バイオロジカルインジケータ
・Geobacillus stearothermophilus・105 個
培養
Ar+O2
滅菌成功 滅菌失敗
プラズマ処理後のインジケータを培養液で培養し、その色で滅菌の成否を判定。
指標菌を塗布した試験紙
マイクロ波
D値による滅菌能力の評価
105
104
103
D値
処理時間
生存数
0
・
・
菌の生き残り株数が初期数の10分の1になる時間をD値と呼ぶ。
0
50
100
150
200
250
D値
[秒]
オートクレーブ法
(高周波放電)
プラズマ滅菌法
(誘電体バリア放電)
プラズマ滅菌法
本手法
200
240
60
5
約105個の菌を25秒で死滅
結果
大気圧非平衡プラズマを用いた滅菌法の想定される用途
• 食品容器等の滅菌
例 プラスチック容器、ガラス容器
• 食品の滅菌
例 粉末状の食品等
医療用器具などの滅菌
• 耐熱温度の低い対象物の滅菌に向け、ガス温度の低温化(60℃以下)
• 酸素ラジカル発生効率をあげ、滅菌処理時間の更なる短縮
• 大気圧下でのプラズマ着火
• 連続運転
大気圧非平衡プラズマを用いた滅菌法の実用化に向けた課題
ECRプラズマ
マイクロ波の周波数と磁場の強度がある条件(電子サイクロトロン共鳴条件)を満たしたとき、マイクロ波のエネルギーがプラズマ中の電子へ共鳴的に吸収される。このようにして生成・維持されるプラズマをECRプラズマと呼ぶ。
磁場
プラズマ
マイクロ波
共鳴領域
ECRプラズマは以下のような特徴を持つ。・磁場の空間分布によりプラズマ生成領域を制御できる。・電子温度が高く、高活性。
チューブ内での放電の様子
Nd Magnet
永久磁石の周りにシリコンチューブ(内径5mm)を巻きつけ、マイクロ波を照
射する。この時、チューブ内にプラズマ生成領域(共鳴領域)が来るよう磁場を調整。
上面から発光の様子を観測
内径5mmのチューブ内に
プラズマが生成されていることが分かる。無電極放電。
マイクロ波ガス
シリコンチューブ
永久磁石
チューブ内での放電の様子
円筒状の磁石ホルダーの周りにシリコンチューブを巻きつけ、シリコンチューブ内に共鳴領域が来るように磁場を調整し、マイクロ波を照射するとチューブ内にプラズマが発生。長さ約100cmの
範囲でプラズマ生成可能。
軸方向から観測シリコンチューブ
側面から観測
マイクロ波ガス
磁石ホルダー
N N SS
円筒型永久磁石
プラズマ滅菌実験
磁石
内径5mmのシリコンチューブ
内にバイオロジカルインジケータ(指標菌が付着した試験紙)を設置し、更にチューブ内部にECRプラズマを発生さ
せ、滅菌試験を行った。
シリコンチューブ
バイオロジカルインジケータ
・Geobacillus stearothermophilus・105 個
なお、プラズマの発生方法は、プラズマによるチューブへのダメージを考慮して、プラズマを1秒間発生させた後、休止し、その後また1秒間発生さ
せる工程を繰り返した。
プラズマ滅菌実験
プラズマ処理時間 [秒]
3 4 5 10× × ○ × × ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
○:滅菌成功 ×:滅菌失敗
プラズマ処理時間5秒(休止の時間は含めない)という非常に短い時間で105個の菌を完全に滅菌することができた。
処理後のシリコンチューブにはダメージは見られなかった。
結果
ECRプラズマを用いた滅菌法の想定される用途
• 医療用器具の滅菌
特にカテーテル等のチューブ形状の内部の滅菌
• 食品・飲料容器の滅菌
電極を設置できない容器内のプラズ
マ滅菌
• 放電の安定性および滅菌の再現性の向上
• 処理時間の更なる短縮
• 滅菌パウチ内での滅菌
• 滅菌対象物に合わせた磁場分布・マイクロ波照射法の 適化
ECRプラズマを用いた滅菌法の実用化に向けた課題
本技術に関する知的財産権
• 発明の名称:プラズマ発生装置及びそれを用いたプラズマ生成法
• 出願番号 :特願2006-61673PCT/JP2007/052893
• 出願人 :琉球大学• 発明者 :米須章
• 発明の名称:プラズマ生成装置及び方法• 出願番号 :特願2008-094330
PCT/JP2009/056758• 出願人 :琉球大学、佐賀大学• 発明者 :米須章, 林信哉
お問い合わせ先
琉球大学 産学官連携推進機構文部科学省 産学官連携コーディネーター
宮里 大八(Miyazato Daiya)電話:098-895-8599FAX: 098-895-8957
E-mail:[email protected]