準マイクロ波帯マイクロセル内伝搬特性の推定 一見通しの道...

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Vol. 38 No. 3 通信総合研究所季報 September 1992 pp. 165-172 研究 準マイクロ波帯マイクロセル内伝搬特性の推定 一見通しの道路の場合一 岩間 司市1 (1992 2 17 日受理) PREDICTIONOFLINE-OF-SIGHTPROPAGATIONCHARACTERISTICS ABOVE1 GHzFORMICROCELLULARLANDMOBILERADIO By TsukasaIW AMA,EimatsuMORIY AMA, ShinyaSEKIZA WA, HirofumiRYUKO,MitsuhikoMIZUNO,andTaijiSARUWATARI Inthelandmobilecommunicationfield,demandforlargercapacitycommunicationsystems withgreaterspectralefficiencyisincreasingmoreandmore. Themicrocellularsystemisoneof themostpromisingcandidatesforthisapplication. Inordertorealizeamicrocellularsystem, researchoftheradiopropagationcharacteristicsisamatterofgreaturgency. Inthispaper, experimentalresultsandtheuseofgeometricaltechniquesforpredictingpropagationcharacter- isticsaredescribed. Measurementsweremadeat1.5 GHzand 2.6 GHzwithafixedantennalocatedatthesideof the roadataheightof 5.3 m and 12.5 m. Datahavebeentakenwiththeomnidirectionalantennaat 2 cmintervalsalongthemeasuredroutes. Tallbuildingslinethemeasured routesonbothsides. Accordingtotheexperimentalresults,thepropagationlossisdominatedbythepropagation paths'condition. Forinstance,inline-of-sightpropagation,themedianof propagationlossisin proportion to the base-to-mobileantenna distance. Inout-of-sightpropagation, however, the medianisnotdeterminedsimplybythebase-to-mobileantennadistance. Thissuggeststhatin low base station antenna propagation, the communicationcellsarenotcircularshapesbut complicatedshapes. Then, toplanthedesignofoptimummicrocellularsystems, weneedto knowpropagationcharacteristicsof alineof-sightroadandintersecting roads. A simple prediction method is described. According to the calculated results, in the line-of-sightpropagationenvironment,thepropagationlossisdominatedbyinterferencebetween thedirectrayandspecularlyreflectedrays frombuildingsandother vehicles. [キーワード] 陸上移動通信,マイクロセル方式,伝搬特性,伝搬損失,推定法. landmobilecommunication, microcellularsystem,propagationcharacteristics, propagationloss,predictionmethod. 1 まえがき 近年,陸上移動通信の需要が激増している.すなわち, 叫総合通信部通信系研究室 2 通信技術部通信方式研究室 叫元総合通信部通信系研究室 165 昭和40 年度には約20 万局にすぎなかった陸上移動無線局 は,平成 2 年度には510 万局を越え,現在も増え続けて いる.また,その利用形態も業務用無線や自動車電話等 のような従来の音声信号の伝送を中心とした利用法に加 え,データ,ファクシミリ,画像信号等の伝送,またこ

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Vol. 38 No. 3 通信総合研究所季報 September 1992

pp. 165-172

研究

準マイクロ波帯マイクロセル内伝搬特性の推定

一見通しの道路の場合一

岩間 司市1 守山栄松•2

柳光広文•I 水野光彦•I

(1992年 2月17日受理)

関津信也•I

猿渡岱爾•3

PREDICTION OF LINE-OF-SIGHT PROPAGATION CHARACTERISTICS ABOVE 1 GHz FOR MICROCELLULAR LAND MOBILE RADIO

By

Tsukasa IW AMA, Eimatsu MORIY AMA, Shinya SEKIZA WA,

Hirofumi RYUKO, Mitsuhiko MIZUNO, and Taiji SARUWATARI

In the land mobile communication field, demand for larger capacity communication systems

with greater spectral efficiency is increasing more and more. The microcellular system is one of

the most promising candidates for this application. In order to realize a microcellular system,

research of the radio propagation characteristics is a matter of great urgency. In this paper,

experimental results and the use of geometrical techniques for predicting propagation character-

istics are described.

Measurements were made at 1.5 GHz and 2.6 GHz with a fixed antenna located at the side of the

road at a height of 5.3 m and 12.5 m. Data have been taken with the omnidirectional antenna at

2 cm intervals along the measured routes. Tall buildings line the measured routes on both sides.

According to the experimental results, the propagation loss is dominated by the propagation

paths' condition. For instance, in line-of-sight propagation, the median of propagation loss is in

proportion to the base-to-mobile antenna distance. In out-of-sight propagation, however, the

median is not determined simply by the base-to-mobile antenna distance. This suggests that in

low base station antenna propagation, the communication cells are not circular shapes but

complicated shapes. Then, to plan the design of optimum microcellular systems, we need to

know propagation characteristics of a line of-sight road and intersecting roads.

A simple prediction method is described. According to the calculated results, in the

line-of-sight propagation environment, the propagation loss is dominated by interference between

the direct ray and specularly reflected rays from buildings and other vehicles.

[キーワード] 陸上移動通信,マイクロセル方式,伝搬特性,伝搬損失,推定法.

land mobile communication, microcellular system, propagation characteristics,

propagation loss, prediction method.

1 まえ がき

近年,陸上移動通信の需要が激増している.すなわち,

叫総合通信部通信系研究室事2 通信技術部通信方式研究室

叫元総合通信部通信系研究室

165

昭和40年度には約20万局にすぎなかった陸上移動無線局

は,平成 2年度には510万局を越え,現在も増え続けて

いる.また,その利用形態も業務用無線や自動車電話等

のような従来の音声信号の伝送を中心とした利用法に加

え,データ,ファクシミリ,画像信号等の伝送,またこ

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れらを複合した通信に対する要望も高い.今後も高度情

報社会の進展及び国民生活の向上に伴いこの傾向は続く

ものと予測される.

これに対応するために,有限な周波数資源を効率的に

利用するための研究開発が推進されている.その中でも,

サービスエリアを分割し極小化して周波数の再利用効率

を高くするいわゆるマイクロセルは,きわめて有効な方

式の一つであると考えられている.

マイクロセル構成技術を確立するためには,伝搬特性

の解明は必要不可欠である.マイクロセルの実現方法と

しては,基地局のアンテナ高を周辺の建物の高さよりも

低くし,送信電力を小さくして通信を行う方法が一般的

である(1)(2). しかし,基地局のアンテナ高を周囲の建物

の高さよりも低くすると,基地局から送信された電波は

建物がある方向については建物によって遮られるため,

受信アンテナから見通しとなる道路沿いの方向と比較す

ると伝搬損失が増大する この結果,見通しとなる道路

沿いの方向には電波が伝搬しやすく,建物方向には伝搬

しにくい非等方性のセルとなる〔I)ーこのため,これまで

研究されていた基地局アンテナ高の高い場合の電波伝搬

特性のように基地局からの送受信間距離のみで伝搬損失

を評価することはできない.すなわち,マイクロセル内

における伝搬特性では,周辺の建物など地物の効果を考

慮した伝搬特性の推定法が必要となる.

現在,周囲の建物よりも低い位置に送信アンテナを設

置した場合の伝搬特性(ここで,このような状況におけ

る伝搬特性を低アンテナ高伝搬特性と定義する)の推定

については,幾何光学的な反射を用いる方法(3)(4),ナイ

フョ: iソジ回折を用いる方法(J) またフレネルーキルヒホッ

フの回折理論を用いる方法(2)などが報告されている.

低アンテナ高伝搬特性を推定するためには,周辺の建物

など地物による反射波,同折波などを総合的に推定する

必要がある.そこで今回は幾何光学的な反射とナイフエッ

ジ回折を組み合わせて反射波及び回折波から伝搬損失を

推定する

本;報告では,第2章,第3章で準マイクロ波において

マイクロセルを考慮した低アンテナ高伝搬実験の概要及

び伝搬損失距離特性の実験結果を示し,第4章で受信ア

ンテナから送信アンテナを見通せる道路における伝搬損

失の推定法について報告する

2. 実験の概要

実験は,送信周波数1.5 GHz帯及び2.6 GHz帯で行っ

た.測定装置の諸元を第1表に示す.実験では,受信帯

域幅を狭くして SIN比を向上させるために,送信局,

受信局とも周波数安定度の高いルビジウム周波数標準器

ー7』’...·u.i 立j•

送信周波数

送信州力

変調の型式

周波数安定度

受信等価帯域幅

通信総合研究所季報

第1表測定装置の諸元

1. 480 GHz/2. 6845 GHz

20W/15W 無変調搬送波1x10-11/秒以内

1 kHz 送信アンテナ及び受信アンテナ

アンテナ形式 A/2スリープアンテナ

偏波形式 垂直僑波アンテナ利得 2.1 dBi

第2表実験の諸元

実験場所:東京都港区

送信 S基地局:(I)秀和御成門ピル2F (御成門)

アンテナ地上高5.3m

(2)第て田町ビル4F (田町)

アンテナ地上高12.5 m

受信移動局:アンテナ地上高3m

主要測定コース:日比谷通り,第一京浜.桜田通り及びこれらの通りに固まれている道路(第1図参照)

を用いた.送信アンテナは,建物の窓から張り出して設

置しiた水平面内無向性の )./2スリーブアンテナである.

受信アンテナは,移動測定車のルーフ上の地上高 3mの

高さに設置した水平面内無指向性の A/2スリーブアン

テナである.

マイクロセルの実際の利用形態を考えると,利用者が

多く周波数資源がひっ迫している大都市部への導入が考

えられる.このことから,大都市部におけるデータが重

要になる.そこで今回は,大都市地域として東京都港区

の西新橋及び田町周辺を選定して実験を行った.

実験の諸元を第2表に示す.また,港区における測定

コース及び送信点を第1図に示す

港区の測定では,第 l図に示すように西新橋を中心と

した地域で測定を行った.道路は,基本的に直角に交わっ

ており,道路周辺の建物は, 10階建て程度のヒ‘ルが密集

してる.また,送信局の面している道路には,高さlOm

程度の街路樹がある.送信アンテナは,第1図(a)の御成

門周辺では地上高5.3m, ビル壁面から0.8m離れた地点、

に,第l図(b)の田町周辺では地上高12.5m, ビル壁面か

ら0.8m離れた地点にそれぞれ設置した

御成門の測定コースは,送信局の南西部の芝公園付近

を除くとビルが密集している.また,道路幅も第一京浜,

日比谷通り,桜田通り,外掘通りなどの比較的広い道路

とそれらに固まれた狭い道路の両方で測定を行った.

田町の測定コースは,御成門の測定コースに比べると

道路幅が広い部分が多く,第一京浜及び日比谷通り方向

に比較的良い見通しが得られる また,送信アンテナは,

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0 500 1000 [m]

(al 御成門周辺

o 500 1000 [m]

(b) 田町周辺

第 l図 illil定地域

御成門のiJ制定では日比谷通りに,田|!可の測定では釦ーボ

浜及び日比谷通りにそれぞれ面している.

iJllJ定では,受信電力を20mmmに出力する距離ノマル

スのタイミングでサンフ。ルする その後,送信屯)J及び

測定系の損失の値から送 ・受信アンテナ問の越本f.i:搬出

失を求める

3 実験結果

(ム搬t員失距離特性は,ょiょ行距離20mm何に求めた{ム

搬損失の 1000サンプル(必行距離20m)併の!::><:問の中

央値を用いてぷす

167

160

140

∞ ~ 120

4剖

司<100 -H-

選80空軍

$ 60

必x

×" ・ x" '-'.. ·~《企"",.,,,, oP杉

企計九"o"o~句。。。C¥J。

1. 5GHz 見通しの道路。

交差する道路。

見通し外の道路×。。

40 10 100

伝搬距離 [m]

1000

160

140 白

~120

4岨

司< 100骨

量80餐

!ぷ 60r。。 oax

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6しす外

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2見交通見

。。企

Oo

a 。企。

40 10 100

伝搬距離 [m]

ヨ12図伝搬J員失距離特性(基地j司御成門)

1000

3. 1 伝搬損失距離特性

伝搬損失と送受信間距離との関係を調べるために,伝

搬損失距離特性を求めたら〉 第 2図及び第3図に,御成

門及び悶HITの名iJ[iJ定コースの伝搬損失距離特性を示す

図LjJの“O”Erlは受信アンテナから送信アンテナを見通

せる道路(以下「見通しの道路」とする)における伝搬

鼠失LjJ火f11'i,“ ×”印は受信アンテナから送信アンテナ

を見通すことのできない道路(以下 「見通し外の道路」

とする)における値であり,“ム”印は 「見通しの道路」

と交差している道路(以下「交差する道路」とする)で

のf直である。

;;f~ 2区|及び第 3図から,「見通しの道路」では伝搬償

失が小さく, i送受信問距離の等しい「見通し外の道路」

とは,伝搬慣失の大きさに明かな迷いがある すなわち

送受信間距離が等しい場合であっても,「見通し外の道

路」では 「見迎しの道路Jよりも伝鍛損失中央値が 40

dB程度大きな値となる.また, 「交差す る道路jにお

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160

140

∞ 三120

+哩軍

司< 100-fl-

議80議l且 60

40 10

160

140

~ 120

4週

水 100-fl-

議80繋

l担 60

40 10

。。 cP0 - 見通しの道路。

交差する道路 a

見通し外の道路×

100 1000

伝搬距離[m]

100 1000

伝搬距離[m]

第 3図伝級f員失距離特性 (基地局 田II可)

いては, 「見通しの道路」とほぼ等しい値を示すデータ

から,「見通し外の道路Jとほぼ等しい値を示すデータ

がある これは,基地局及び移動局のアンテナ高が周辺

の建物の高さよりも低い場合には,道路に沿った伝搬が

主体となる(6)(7)ため,「見通しの道路」との交差点付近

では「見通しの道路」とほぼ等しい伝搬損失中央値を示

すが,交差点から雌れるにしたがい急激に伝搬損失が増

加して 「見通し外の道路」の値に近づいてゆ くためであ

る.そしてこの傾向は送受信間距離とは無関係に生じて

いる

3. 2 基地局アンテナ高が低い場合のサービスエリア

伝搬損失距離特性の結果から御成門の測定コースを用

いて基地局アンテナ高が低い場合のサービスエリアの形

状を求める, 2.6 GHz帯において「見通しの道路」で

の最大通信可能距離を約 500mと規定すると第 2図及び

第 3図より伝搬損失の値は御成門のiJllJ定では最大 102

dB,回lllJの測定では 93dBとなる この値を最大伝搬

損失とする通信可能なサービスエリアを求めると,サー

通信総合研究所季報

伝指損失10 2 dB

。 500 1000 (m]

?.114区| 2. 6 GHz帯でのサービスエリア

ビスエリアの形状は第4図の様になる 第4図より,準

マイクロ波帯において基地局アンテナ高を低くしてマイ

クロセルを実現した場合には自動車電話など基地局ア ン

テナ高が高い場合のセルとは異なり,周辺の建物等の影

響を受け「見通しの道路」と「交差する道路」からなり,

魚の甘のような非等方性な形状となることがわかる ま

た,同一周波数においても,送信アンテナ高,周囲の地

物の状況の追いなとから伝搬損失の値は異なって来るこ

とがわかる.

以上の結果から, 実際に基地局アンテナ高を低くして

マイクロセルを笑現するためには,まず 「見通しの道路」

及び「交差する道路」の伝搬特性を知lる必要があること

がわかった.

4. 伝搬特性の推定

第3't言では,実験結果を基に基地局アンテナ高を低く

した場合のマイクロセルのサービスエリ アについて検討

を行った しかし,実際にセルの設計を行う場合に,そ

の都度実験を行うことは多大な労力とl時間を必要とする

ため,あまり現実的ではない このため実験を行わずに

伝搬特性を推定する方法が必要になる 以下, 「見通し

の道路」における伝搬特性の推定法について述べる

4. 1 推定法の概要

低アンテナ高伝搬特性では,周囲の建物等による影響

が強く,基地局アンテナ高が周囲の建物よりも高い場合

の伝搬のように統引自]に伝搬特性を評価することは困難

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用いた.

第6図に,測定値と推定値の比較結果を示す.縦軸は,

測定結果及び推定結果の50サンプル (1m)毎の伝搬損

失中央値,横軸は測定コースに沿った走行距離である.

測定コースは全区間見通し内である.図中の実線は直

接波のみの場合の推定結果(自由空間損失),破線は直

接波及び大地反射波による推定結果,一点鎖線は直接波

及び壁面反射を含む一回反射波による推定結果,また二

点鎖線は直接波,一回反射波及び二回反射波による推定

結果である.

見通し内伝搬では直接波及び反射波の電界強度が強い

ため,今回の各計算結果に回折波を篭界強度を加えても

伝搬損失の値はほとんど変化しない.

この結果から「見通しの道路」では直接波,大地反射

波及び壁画波で推定可能であると考えられる.

4.3 都市内における測定値との比較9)

次に第3章の測定値と,推定値の比較を行った.推定

。 臼 100[m]

田区ヲ説先ぢヲ究会2反:::j日図~ 白測定コース E s~一,-~--一一一一ー・ー--;,-送信劇

ロ吃乏~えゑ乏乏ええ乏ゑ河口p

l2L2l

50

1992

である.このためここでは,幾何光学的な反射とナイフ

エッジ回折を組み合わせて「見通しの道路」における伝

搬損失を理論的に推定する

伝搬に寄与するパラメータとして以下の 3つのパラメー

タを用いる.

-直接波

・反射波

.回折波

今回の推定では,反射波には鏡面反射波を,また同折

波にはナイフエッジ回折波を用いる.また伝搬路中の建

物は無限の高さを有し建物上部からの回折を無視できる

ものと仮定した.このため伝搬する電波には,直接波,

大地反射波,建物壁面からの反射波,建物の角からの岡

折波及びそれらの組合せを用いた.

受信点における電界強度を E とした場合, Eは次式

で示される.

E= Eo+Er+Ed+Erd [V/m]……(1)

ここで, Eoは自由空間電界強度, Erは大地反射波

を含む建物壁面等からの反射波の電界強度の総和, Ed

は建物の角からの回折波の電界強度の総和, E吋は建

物壁面で反射及び回折を行った電波の電界強度の総和で

あり,それぞれ次式で示される.

Er= LEo争R・exp(ーjδ)

September No. 3 Vol. 38

[V/m]……(2)

~ Do~~色b

[V/m]……(3) Ed= LEo・手Fexp(-jδ)

第5図 モデル地域(通信総合研究所構内)

ιd= LEo・手・R・F・exp(月)[V/m]-凶

ここで, R はフレネルの複素反射係数, Fはナイフ

エッジ回折による回折係数, doは直接波の伝倣路長, d

は反射波又は回折波の伝搬路長, δはdとdoの問の

伝搬路長差である. ( R とFについては付録参照)

(1)式で求めた電界強度 E より,空間中の伝搬損失 L

は,{直接波 一一|直銀波友ぴ大地反射波

推定値 Ii車篠波友び一回反射波 ーーーl直接波.一回及び二回反射波ーー

100

[∞刀]思水門す水探制報担

測定値

10m

測定コースに沿った距離 [m]

測定値と推定値の比較結果(周波数: l.5 GHz帯)

E

60

50 s

第 6図

L= 4π2Rr•gt·gr ・ρt(E・.AJ2

となる.ここで, Rrはアンテナ放射インピーダンスの

実部,ムは送信電力, gt,grは送,受信アンテナの利

得,え は波長である.

4.2 モデル地域における測定値との比較(8)

理論推定と実際の伝搬状況を比較するために通信総合

研究所構内にモデル地域を設定し伝搬損失の測定を行っ

た. 測定を行ったモデル地域を第5図に示す. ここで,

“×”は送信点の位置,また点線は測定コースを示す.

送信局のアンテナ高は 2m,受信局のアンテナ高は 3m,

偏波には陸上移動通信で一般的に用いられる垂直偏波を

・・・(5)

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には,測定コース周辺の建物のデータ, 第一 1,,長及び第2

表に示す送信周波数,アンテナ利得及びアンテナ地上高

を朋いた.

第 7図及び第8図に「見通しの道路」におけるiJlll定結

果及び推定結果を示す iJllJ定結果,推定結果とも虐行距

離 lmζとの中央値 (50サンプノレ毎)で示しである.

第7図は御成門における笑験の測定値と推定値の比較

結果である 第 7図より,特に周波数 2.6 GHz帯の結

果では,送信から 400m 離れた点辺りから推定結果よ

りも実際の伝搬損失の方が大きな値を示す.これは,理

論計算上では,建物の壁面はすべて平らであること及び

道路上には車両が存在しないことを仮定しているが実際

には,壁画は窓などにより必ずしも平らではなくまた看

仮などが取付けられている場合があること,また実験時

に道路上には多くの車両が存在していたことなどから電

波の散乱や,遮蔽が起こるため特に高い周波数ではこの

彩響が大きく現れたためと恩られる

送信点

80

60 1. 5GHz 測定値 ”推定値一一

40 -600 -400 。-200

送信点からの距離(日比谷通) [m]

140

送信点rr; 120

てコ]

矧 100

4く1J- nn

士k vv

!! 警 60 2. 6GHz

測定値 誕推定値 一一

-600 -400 。40 -200

送信点からの距離(日比谷通) [m]

第7図測定値と推定備の比較結果 (基地崩御成門〕

通信総合研究所季報

第8図は,田lllJにおける実験の測定値と推定値の比較

結果である こちらの結果では,どちらの周波数も測定

値と推定値の傾向がよく一致している。

第 7[~[及び第 8 I~!における iJ!I]定値と推定値の誤差を第

9図にポす 惟定誤差は, 測定コース毎にj送信点から10

m毎の平均値で示してある 第9図よ り,推定誤差の

平均値は全体的にはほとんど周波数依存性が見られなかっ

た.またレベル的にもほぼ士15dB以内に収まっている。

この結果本推定法は, 1 GHzから 3GHzの準マイクロ

波帯において十分笑J.H的であるといえる

以上の結果から,都市内の見通し内伝搬において,送

信点及び受信点の回りの建物等のデータベースを基にl直

接波,大地反射及び壁面反射波を計算することにより,

理論的に伝搬損失の推定を行うことがで、きることがわかっ

た.

200

120

F 可 110

∞ .:'.:'. 100

骨+唖< 90 1l-士|く 80

出思議 70

60 -400 -200 。 200 400

送信点からの距離(第一京浜) [m]

120

F『 110

∞ てコ」~ 100

送信点

n

u

n

U

U

q

u

n

O

マJ

埋依円せ水昭和義思 2. 6GHz

測定値 x

推定値一一」-」-」

200 400 200 60

-400 -200 。送信点からの距離(第一京浜) [m]

第8図 iJlil定値と推定値の比較結果 (基地同 田町)

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Vol.38 No.3 September 1992

20

。1.SGHz。2.GGHz +

塁。

・20• 00 )!00 300 400 500 600 700 送信点からの距離(日比谷通) [m]

20 1.SGHz。2.GGHz +

百 10

可3

l!l!! 容。

-20. 0 00 200 3同)0 400

送信点からの距離(第一京浜) [m] 500

第9図推定誤差平均値

5. まとめ

陸上移動通信において,マイクロセルを設計するため

に必要な基地局アンテナ高が周囲の建物の高さより低い

場合の伝搬損失特性の測定及び各種の検討を行い,以下

の結果を得た.

(1) 伝搬損失は道路の見通しの状態に依存し,見通しの

道路から外れると伝搬損失が急激に増大する.

(2) 伝搬損失の測定値から基地局アンテナ高が低い場合

のサービスエリアの形状を求めると,自動車電話など

基地局アンテナ高が高い場合のセルとは異なり,周辺

の建物等の影響を受け「見通しの道路」と「交差する

道路」からなり,魚の骨のような非等}j性な形状とな

る.

(3)都市内の見通し内伝搬において,送信点及ぴ受信点

の回りの建物等のデータベースを基に直接波,大地反

射波及び壁面反射波を計算することにより,理論的に

伝搬損失の推定を行うことができる.

今後の課題として,推定法の推定精度を向上させるに

は,自動車の有無,散乱反射などによる変動率の検討が

171

必要である.また,「交差する道路」での推定法の検討

を行い,より実用的な推定法の確立が必要である.

謝辞

本研究を進めるに当たり,様々な御助言を頂いた拓殖

大学工学部池上文夫教授,ならびに基地局の設営・運用

等に協力頂いた富士通テン株式会社及び日本電気株式会

社の関係各位に深謝します.

付録反射係数 Rと回折係数F

フレネルの反射係数 R は偏波形式によりそれぞれ次

式で与えられる.

九 sin<P~歪=

sinψ+《Jn“一 cos"ψ(水平偏波)

・・・・・・(fl)

n2sin(I)-J n2-co ,2(1) R.= T w二一二二二 (垂直偏波)

n‘sinψ+ヘ/ n・-cos・<P

…(£2)

n2=ε,-j(18xl03・a I fcMHzl)= εr一j60a・λ

ここで, ψは反射面へ電波が入射する時の仰角, εr

及び uは媒質の比誘電率及び導電率である.今回の推

定法では, Er=5.5,。=0.023 [SI m]を用いた(10).

ナイフエッジの回折係数 Fは次式で与えられる.

F= S+0.5 .J2 sin (LJ<f>+n I 4)

官 rcs+0.5) 1 dφ=tan-'¥ CC可:5)j-4

上式の S及び Cはフレネル積分であり次式で示さ

れる

…・・(£3)

S= J:sin(ギ)dτ

C= J:cos(ヂ)dτ

ν=-hρJH去+先)

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . ・

. .

・・内’h

va

- . . .

~

第fl図 世イフエッジ["[祈の各パラメータ

Page 8: 準マイクロ波帯マイクロセル内伝搬特性の推定 一見通しの道 …本;報告では,第2章,第3章で準マイクロ波において マイクロセルを考慮した低アンテナ高伝搬実験の概要及

172

ここで, r1及び η はそれぞれ送信アンテナからエッ

ジの起点まで及びエッジの起点から受信アンテナまでの

距離である.またんはエッジの高さでありこれらの関

係を第 fl図に示す.

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