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そんなことを考えていたときに、社 長 室の内 線が 鳴った。通話ボタンを押すと、当の本人である霧野紗 枝の涼しげな声が流れてきた。 『社長、バン君がいらっしゃっています』 「わかった、通してくれ」 そう返事をすると、机に置かれた小さなケースに手を 置いた。 その中に入っているアキレスⅡは、拓也にとっての 希望だった。 神威島事件は解決した。だが、それによりLBXの未 来には暗雲が立ち込め始めている。それを払拭できる のは恐らくバンたちしかいない。 やがて社長室のドアをくぐり、バンが現れた。 この数年で山野バンは背丈も伸び、今では拓也と もそう変わらないほどになっている。彼はこの春、高校 を卒業する。卒業後はイギリスのブリントン大学に進 学するということだった。逞しい青年となったバンを見 て、拓也は様々な感慨が沸いてきた。 「拓也さん」 その白く輝く機体はまさに伝説の復活と呼ぶに相応 しいものだった。 アキレスの名を冠した新たな機体、『アキレスⅡ』の 誕生に立ち会えたのは正に運命だったのではないか と宇崎拓也は思った。 イノベーター事件やミゼル事変、そして神威島での 動乱という過酷な運命に晒されたLBXという一つの 文明は、この機体によってまた新たな一歩を踏み出し たのである。 LBXの歴史には、常に山野博士の名前があった。 しかし、このアキレスⅡは、素体となったアキレスの 設計こそ山野博士のものだが、それを現在の技術に 合わせ洗練させたのは、結城研介をはじめとするタイ ニーオービット社の開発チームだ。そのチームを拓也 は誇りに思っていた。 山野博士はタイニーオービットを去った。行先はわか らない。 その時には、もうLBXが終わってしまうのではないか 「社長!」 「どうした?」 霧野はあわてた様子で、社長席の脇にあるモニタを 立ち上げた。映し出されたのは、A国の映像らしい。 「A国で、LBXによる事件が発生しています・・・!」 「なんだと!?」 モニターの向こうでは、A国のLシティが大混乱に 陥っている。前後左右に振れるテレビカメラが、一瞬、 あるものを映し出した。 「あれは・・・!」 「エンペラー!?」 拓 也とバンが 叫ぶのが 同 時だった。二 人は向き 合って頷いた。 「バン、今すぐこれを持って、A国へ向かってくれ」 「わかりました!」 バンはアキレスⅡの入ったアタッシュケースを持つ と、社長室を飛び出していった。 それを見送りつつ、新たな波乱が始まる予感を、拓 也は感じていた。 (つづく) LBXバトルにおいて破損の頻度が高い腕回りは 強 度を上げたパーツで再 構 成することになった。両 腕は稼働スピードを向上するためコアスケルトンの保 護ではなく、補助的な役割を交えた形での改修となっ た。頭頂部に仕込まれたセンサー系は、オーディーン Mk-2やアキレスD9のものを踏襲した形となっている。 もはや、改修機というよりも新造機に近いものだった。 「また霧野君に怒られるな・・・」 拓也はスペック表を見ながら苦笑した。 採算の取れないLBXは自動車におけるモータース ポーツと同じだ。高度な技術を開発し、それが量産で きる体制を組むことができれば、会社の利益は飛躍的 に向上する。 アキレスⅡもまた然り。しかし、あまりに高度になって しまったこのLBXは、おそらく山野バン以外に扱える プレイヤーはいない。となれば、これを製品化し、売り 上げは立てられない。拓也は今の彼にとって、社内で は数少ない指導的役割を負ってくれる厳しい秘書が、 時々見せる怒りの表情を思い浮かべた。 「待っていた。さぁ、これを」 拓也は立ちあがってアキレスⅡの入ったトランクをバ ンに差しだした。 「開けてもいいですか?」 「もちろんだ」 かつてであれば、目を輝かせてケースを見ていたであ ろう少年は、落ち着いた動作で、ケースを開き、完成し たばかりのLBXを見始めた。 「・・・・・・」 何も言わないバンに不安を感じ、拓也は思わず声を 掛けた。 「どうだ?」 「凄いです」 バンは即答した。 「さすが結城さんです。こんなに良いLBXが作れるなん て、本当に凄いな・・・」 「そうか。それはよかった」 と、安心したところで、霧野が社長室に飛び込んで きた。 とすら思えた。生みの親たる山野博士がいなくなって しまったことにより、LBXそのものの未来も閉ざされて しまうのではないか、と。しかし、その一人息子である山 野バンは全く違っていた。 「拓也さん、アキレスを復活させてください」 そう語る山野バンの双眸には希望に満ちた光があ ふれていた。 山野バン、大空ヒロ、花咲ラン、青島カズヤ、川村ア ミ。5人の少年たちはLBXの未来を信じ、再び子供た ちの手にLBXを戻すために、拓也の前に現れた。父で ある山野博士がいなくなったというのに、バン自身はそ れを感じさせないほど、強く成長していたのだ。 「まさか、この俺が彼らに励まされることになるとは・・・」 自嘲気味に笑みを浮かべると指でこめかみを押さ え、結城から出された報告書に目を通す。アキレスⅡは まぎれもなく現在のタイニーオービット社における最高 傑作となった。アキレスの設計に対して、当時は材料 面で不可能であった熱処理系の技術を導入し、1枚 のマントであったものを可変型の防御装置とした。 『ダンボール戦機』の魅力を外伝ストーリー、本誌プ ロモデラーによる模型作例記事、新商品情報とLBX の魅力を凝縮してお届けしている本企画。今月は遂 に登場となるLBXアキレスⅡや先月イラストを公開 したエンペラーM5のプラキット最新情報を中心にお 届けしよう。 『ダンボール戦機』の新たなる激闘を描く公式外伝『ダンボール戦機 LBX烈伝 History of Justice』。今 月は山野バンの新たなるLBX、アキレスⅡが遂に登場。そして新たなる戦いの始まりを告げる鐘が鳴る・・・・・・。 原作/レベルファイブ 構成/上大岡六助 LBXデザイン/園部淳 (レベルファイブ) 企画協力/バンダイホビー事業部 ホビージャパン 題字/柳萌 『ダンボール戦機』公式外伝 003 「 L B XアキレスⅡ」 ⒸLEVEL-5 Inc. ⒸL5/PDS・TX

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 そんなことを考えていたときに、社長室の内線が鳴った。通話ボタンを押すと、当の本人である霧野紗枝の涼しげな声が流れてきた。『社長、バン君がいらっしゃっています』「わかった、通してくれ」 そう返事をすると、机に置かれた小さなケースに手を置いた。 その中に入っているアキレスⅡは、拓也にとっての希望だった。 神威島事件は解決した。だが、それによりLBXの未来には暗雲が立ち込め始めている。それを払拭できるのは恐らくバンたちしかいない。 やがて社長室のドアをくぐり、バンが現れた。 この数年で山野バンは背丈も伸び、今では拓也ともそう変わらないほどになっている。彼はこの春、高校を卒業する。卒業後はイギリスのブリントン大学に進学するということだった。逞しい青年となったバンを見て、拓也は様々な感慨が沸いてきた。「拓也さん」

 その白く輝く機体はまさに伝説の復活と呼ぶに相応しいものだった。 アキレスの名を冠した新たな機体、『アキレスⅡ』の誕生に立ち会えたのは正に運命だったのではないかと宇崎拓也は思った。 イノベーター事件やミゼル事変、そして神威島での動乱という過酷な運命に晒されたLBXという一つの文明は、この機体によってまた新たな一歩を踏み出したのである。

 LBXの歴史には、常に山野博士の名前があった。 しかし、このアキレスⅡは、素体となったアキレスの設計こそ山野博士のものだが、それを現在の技術に合わせ洗練させたのは、結城研介をはじめとするタイニーオービット社の開発チームだ。そのチームを拓也は誇りに思っていた。 山野博士はタイニーオービットを去った。行先はわからない。 その時には、もうLBXが終わってしまうのではないか

「社長!」「どうした?」 霧野はあわてた様子で、社長席の脇にあるモニタを立ち上げた。映し出されたのは、A国の映像らしい。「A国で、LBXによる事件が発生しています・・・!」「なんだと!?」 モニターの向こうでは、A国のLシティが大混乱に陥っている。前後左右に振れるテレビカメラが、一瞬、あるものを映し出した。「あれは・・・!」「エンペラー!?」 拓也とバンが叫ぶのが同時だった。二人は向き合って頷いた。「バン、今すぐこれを持って、A国へ向かってくれ」「わかりました!」 バンはアキレスⅡの入ったアタッシュケースを持つと、社長室を飛び出していった。 それを見送りつつ、新たな波乱が始まる予感を、拓也は感じていた。� (つづく)

 LBXバトルにおいて破損の頻度が高い腕回りは強度を上げたパーツで再構成することになった。両腕は稼働スピードを向上するためコアスケルトンの保護ではなく、補助的な役割を交えた形での改修となった。頭頂部に仕込まれたセンサー系は、オーディーンMk-2やアキレスD9のものを踏襲した形となっている。もはや、改修機というよりも新造機に近いものだった。「また霧野君に怒られるな・・・」 拓也はスペック表を見ながら苦笑した。 採算の取れないLBXは自動車におけるモータースポーツと同じだ。高度な技術を開発し、それが量産できる体制を組むことができれば、会社の利益は飛躍的に向上する。 アキレスⅡもまた然り。しかし、あまりに高度になってしまったこのLBXは、おそらく山野バン以外に扱えるプレイヤーはいない。となれば、これを製品化し、売り上げは立てられない。拓也は今の彼にとって、社内では数少ない指導的役割を負ってくれる厳しい秘書が、時々見せる怒りの表情を思い浮かべた。

「待っていた。さぁ、これを」 拓也は立ちあがってアキレスⅡの入ったトランクをバンに差しだした。「開けてもいいですか?」「もちろんだ」 かつてであれば、目を輝かせてケースを見ていたであろう少年は、落ち着いた動作で、ケースを開き、完成したばかりのLBXを見始めた。「・・・・・・」 何も言わないバンに不安を感じ、拓也は思わず声を掛けた。「どうだ?」「凄いです」 バンは即答した。「さすが結城さんです。こんなに良いLBXが作れるなんて、本当に凄いな・・・」「そうか。それはよかった」 と、安心したところで、霧野が社長室に飛び込んできた。

とすら思えた。生みの親たる山野博士がいなくなってしまったことにより、LBXそのものの未来も閉ざされてしまうのではないか、と。しかし、その一人息子である山野バンは全く違っていた。「拓也さん、アキレスを復活させてください」 そう語る山野バンの双眸には希望に満ちた光があふれていた。 山野バン、大空ヒロ、花咲ラン、青島カズヤ、川村アミ。5人の少年たちはLBXの未来を信じ、再び子供たちの手にLBXを戻すために、拓也の前に現れた。父である山野博士がいなくなったというのに、バン自身はそれを感じさせないほど、強く成長していたのだ。「まさか、この俺が彼らに励まされることになるとは・・・」 自嘲気味に笑みを浮かべると指でこめかみを押さえ、結城から出された報告書に目を通す。アキレスⅡはまぎれもなく現在のタイニーオービット社における最高傑作となった。アキレスの設計に対して、当時は材料面で不可能であった熱処理系の技術を導入し、1枚のマントであったものを可変型の防御装置とした。

 『ダンボール戦機』の魅力を外伝ストーリー、本誌プロモデラーによる模型作例記事、新商品情報とLBXの魅力を凝縮してお届けしている本企画。今月は遂に登場となるLBXアキレスⅡや先月イラストを公開したエンペラーM5のプラキット最新情報を中心にお届けしよう。

 『ダンボール戦機』の新たなる激闘を描く公式外伝『ダンボール戦機 LBX烈伝 History of Justice』。今月は山野バンの新たなるLBX、アキレスⅡが遂に登場。そして新たなる戦いの始まりを告げる鐘が鳴る・・・・・・。

原作/レベルファイブ構成/上大岡六助LBXデザイン/園部淳(レベルファイブ)企画協力/バンダイホビー事業部    ホビージャパン

題字/柳萌

『ダンボール戦機』公式外伝

#003「LBXアキレスⅡ」

ⒸLEVEL-5 Inc. ⒸL5/PDS・TX