ポートフォリオ マネジメントを通じた 戦略の展開...2013/05/21  · 2 Insights on...

16
ポートフォリオ マネジメントを通じた 戦略の展開 リスクに基づくアプローチ Insights on governance, risk and compliance

Transcript of ポートフォリオ マネジメントを通じた 戦略の展開...2013/05/21  · 2 Insights on...

ポートフォリオ マネジメントを通じた 戦略の展開リスクに基づくアプローチ

Insights on governance, risk and compliance

ii Insights on governance, risk and compliance

1Insights on governance, risk and compliance

はじめに今日の経済活動において、競争は一段とその激しさを増しています。市場の動向や市場の変動、利益への絶え間ない圧力とステークホルダーの厳しい要求を反映して、世界経済は相互の関係や依存が深まる一方であり、将来の予測も不可能に近くなっています。多くの企業はこうした新しい経済環境に完全には適合できていませんが、手をこまねいている余裕はなく、新たな環境への適応が必要との認識が高まりつつあります。この結果、多くの企業が業務改革を実施して経費削減、顧客重視経営の実践、ステークホルダーの信頼回復、情報通信技術の拡充や新たなビジネスモデルの確立を図ろうとしています。

多くの企業にとって、長期的な成功はこのような改革プログラムの成否にかかっています。失敗が許される余地は決して大きくなく、改革を行う環境も厳しさを増しています。今日の市場の混乱で方向性を失ったビジネスは、多数のプログラムやプロジェクトを並行して実施しながらビジネスの機能を維持しなければなりません。多くの多国籍企業では、何百ものプログラムやプロジェクトがさまざまな職能や地域にまたがって同時に実施されています。その複雑さゆえに、企業は「物事を適切に行う」ことと「正しいことを行う」ことの両面で四苦八苦しています。プログラムやプロジェクトの成果が乏しい企業が多いのはこのためです。

物事を適切に行う 往々にして、企業はプログラムやプロジェクトの実施に伴って問題に直面することがあります。投資先として正しいプログラムやプロジェクトを選択したとしても、実施した取組みが問題を引き起こし、成果が出るまでに時間やコストがかかりすぎるおそれがあります。この結果、企業がなけなしの資本を賢く使おうとしている矢先に、プログラムやプロジェクトが予想通りの成果を上げられず、対応を余儀なくされます。

正しいことを行う またそれ以上に根本的な問題として、企業は投資先として適切なプログラムやプロジェクトの選択に苦慮する場合があります。不適切なプログラムやプロジェクトは企業戦略の支えにならず、企業に十分な価値を加えません。戦略を実際のプログラムやプロジェクトに置き換えることがテーマである以上、これはポートフォリオマネジメントの範疇に入ります。効果的なポートフォリオマネジメントは、企業に正しいことを行う仕組みをもたらします。本レポートでは、効率的なポートフォリオマネジメントを行うためのリスクに基づく手法を取り上げていきます。

2 Insights on governance, risk and compliance

企業は「ポートフォリオ」「プログラム」「プロジェクト」の三つのレベルに沿ったマネジメントによって改革プログラムを実行する必要があります。各レベルの目的は全く異なりますが、一貫性を保つことで効果的な改革を実現できます。プロジェクトマネジメントが具体的な成果を主眼とするのに対し、ポートフォリオマネジメントでは企業の目標や目的との整合性に基づいて、どのプログラムやプロジェクトを実施すべきかを決定する意思決定プロセスが重要です。プログラムマネジメントは両者の中間プロセスとして、業務へのメリットに重点を置きます。各レベルのマネジメントの目的を以下にまとめました。

レベル 定 義 主な目的

ポートフォリオ 事業戦略を支援し、戦略目標に従って成果を挙げるために組織的に管理された一連のプログラムやプロジェクト

「正しいことを行う」ことに 重点

プログラム 業務目標や成果を達成するために組織的に管理された、相互に関連する一連のプロジェクト

成果を上げることに重点

プロジェクト 固有の製品、サービス、結果を生み出すための一時的な取組み

「物事を適切に行う」ことに 重点

「物事を適切に行い」 ながら「正しいことを行う」

3Insights on governance, risk and compliance

そうなると、企業が予定通り予算内でプロジェクトを終了しても、プロジェクトから得られる価値が最適化されなかったり、企業の戦略と一致しないケースも起こり得るでしょう。投資リソースが限られている時ほど、企業は潜在的な価値の流出を食い止めようと努力します。それだけに、プロジェクトポートフォリオに対する見通しが悪くコントロール能力に乏しい大企業の間で、価値流出の防止に特化したポートフォリオマネジメントが注目を集めるようになってきています。

およそ10年にわたってPRiNCE2(1996年、英国商務局)、PMBoK®(1996年、プロジェクト・マネジメント協会)、スクラムなど、より専門的な方法論が開発されて以来、企業はプロジェクトマネジメントに多額の投資を行い、その結果として企業のプロジェクトマネジメント能力は強化されました。しかし、プロジェクトマネジメントにすぐれた企業であっても、成熟したポートフォリオマネジメントプロセスを導入していない場合は、プログラムやプロジェクトと戦略との整合性に問題が生じます。

ポートフォリオマネジメント

プログラムマネジメント

プロジェクトマネジメント

正しいことを行う

物事を適切に行う

成果を上げる

主な目的 主な活動

• 戦略との適合と一致• ガバナンス• 機敏性• 資金の(再)配分

• 範囲• クオリティ• コスト• 時間

• 実証と検証• 優先順位付け• リソース

4 Insights on governance, risk and compliance

ポートフォリオマネジメントの課題

多くの企業はプロジェクトポートフォリオのマネジメントに苦慮しています。企業が抱える典型的な問題には次のようなものがあります。

•同時進行のプロジェクトが多すぎて焦点が定まらないため、結局は成果が上がらない

•戦略目標がプロジェクトやプログラムに支えられていない

•戦略目標に支えられていないプロジェクトやプログラムに対して投資を行う (企業戦略に合致していない)

ポートフォリオマネジメントにまつわる課題の全体像を以下にまとめました。

戦 略

ガバナンス

マネジメントと 能力

データと ツール

• ポートフォリオと企業戦略の整合性が理解されていない•(規制やコスト削減など)一つの戦略要因に合致したプロジェクトの数が多すぎ、往々にして重複している

• 「絶対必要」という位置づけのプロジェクトが多すぎる• 企業全体におけるプロジェクトの優先順位付けが効果的でない

• 低調なプロジェクトを中止する有効な手法が存在しない• ビジネスケースが効果的に精査されず、成果が非現実的• 日常的なプロジェクトがポートフォリオ外で管理されている• 各プロジェクト間のスケジューリングが調整できずに、達成に問題が生じる

• ポートフォリオマネジメントにおける経験や能力の不足• プロジェクトマネジメントのスキルや経験が企業の成功に不可欠と みなされていない

• 変化を吸収する企業の能力の不足

• プロジェクト、職能、事業単位間でポートフォリオのデータが一貫 していない

• 効果的な報告ツールや集約ツールの欠如• 経営陣の目から見て報告が効果的でない• プロジェクトチームが報告することを負担に感じている

• 事業目標の未達• 成果の遅れ、または成果が不十分• 不適切なプロジェクトの実施に伴う オポチュニティ・コスト(機会費用)

•リソース配分が非効率的• スケジュールの長期化や期日の遅れ• 意思決定と問題解決に一貫性がない• 戦略実施が非効果的

• 実施が非効率的• ポートフォリオマネジメントに一貫性がない

• クオリティスキルに乏しく、成果物に 悪影響を与える

• 期限に間に合わず費用が増大する

• ポートフォリオ内のプログラムや プロジェクトへの認識が低い

• モニタリングや報告が効果的でない• データの質が悪い• 重要課題が早期に特定されない

ポートフォリオマネジメントの課題 関連するリスク

5Insights on governance, risk and compliance

こうした問題を克服するためには、企業がポートフォリオマネジメントに取組んで以下の主な目的を達成することが必要です。

1. プログラムとプロジェクトの戦略的な整合性を強化して、企業戦略に寄与しない取組みの実施を防ぐ

2. 投資収益を最大にするために、ポートフォリオ全体の経済的価値を高める。このステップでは、プログラムやプロジェクトがビジネスにもたらす具体的な成果に注力します

3. 企業独自の基準に基づいた、プログラムやプロジェクトに関する経営陣の意思決定を強化する。基準には「取組みは定められたEA(エンタープライズアーキテクチャ)にどう適合するか?」「リスクや相互依存との兼ね合いは?」「企業はコンプライアンスの取組みにどう対応するか?」などが含まれます

下図に示した三方向からのアプローチにより、企業がプログラムやプロジェクトへの投資から最大の価値を引き出すことが可能になります。

経済価値

意思決定の枠組み

意思決定の枠組み

経済価値戦略の一致

ポートフォリオマネジメントの目的

戦略の一致戦略との適合: ポートフォリオは戦略的事業目標に合致しているか?

戦略との一致: 組織はどうすれば一貫性のあるトップダウンの戦略一致を図ることができるか? (下のレベルまで浸透させる能力)

ガバナンス: 企業はどうすればプロジェクトやプログラムの成果やリスクを管理してポートフォリオからの全体的な価値創出を最大化できるか?

機敏性: 戦略目標を変更した場合、企業はいかにしてポートフォリオを再編するか?

リソース: 企業はどのようにして供給と需要を一致させるか?資金調達に関する意思決定の根拠(例えばビジネスケース)は何か?プログラムの余剰予算をどのように特定し他のプログラムに割り振るか?

相互依存: 相互依存はどのように管理されているか?

リスクと課題: プロジェクト/プログラムにまつわるリスクや予算超過などの問題が、いかにして意思決定プロセスに織り込まれているか?

6 Insights on governance, risk and compliance

ポートフォリオマネジメントの実践

ポートフォリオマネジメントのプロセスは、通常1年に数回程度実施すべきものです。企業が展開する事業、社風、規模に合わせてその都度カスタマイズが必要ですが、一般的には次のようなステップが重要とみなされています。具体的には、

1. 戦略から取組みへの変換

2. プログラムとプロジェクトの細分化

3. ポートフォリオの最適化

4. ポートフォリオの承認

5. ポートフォリオのリスク評価と改善策

最後のステップはプログラムやプロジェクトの実施、すなわち「物事を適切に行う」ことと重要な関連がありますが、ポートフォリオマネジメントとも深くつながっています。いわば両者の要ともいえるものです。

戦略から取組みへの変換

プログラムとプロジェクトの細分化

ポートフォリオの最適化

ポートフォリオのリスク評価と改善策

ポートフォリオの承認

• 戦略を分析し目標を確認する

• 既存の取組みを最適化して、現在のポートフォリオで未達の目標をかなえる

• 新たな戦略的取組みを定義する

• 新たな決定事項を定義されたプログラムやプロジェクトに置き換える

• 詳しいプランとそれのおよぶ範囲、具体的なビジネスケースを定めた趣意書を作成する

• 現在のポートフォリオを評価する

• 合意した意思決定の枠組みを基に(プログラムやプロジェクトの追加や撤回を通じて)最適なポートフォリオを選択する

• 需要と供給を一致させる• EA(エンタープライズアーキテクチャ)コントロールの確立

• 合意した意思決定の枠組みを基にポートフォリオに優先順位を付ける

• 最適化されたポートフォリオの実施を承認する

• 優先順位付けの結果を一本化する

• 上層部が点検し承認する

• プログラムガバナンス、プロジェクトマネジメント、解決策の間の相互依存リスクを評価する

• 現状を評価する• プログラムとプロジェクトの改善の機会を特定する

• ポートフォリオの最適化の機会を特定する

戦 略

目 的

目 的

目 的 新たな決定事項

定義したプログラム

プロジェクト

プロジェクト

プロジェクト

目 的

目 的 決定事項の最適化

定義したプロジェクト プロジェクト

プロジェクト

プロジェクト

プロジェクト

プロジェクト

プロジェクト

プロジェクト

戦略の一致

A B C

E F

G

H

P Q

K X

J L Y

監視

加速

必須評価中止

現 状 将 来

段階的な改善プラン現在のポートフォリオ 更新したポートフォリオ

• 戦略の一致 • 経済価値 • 意思決定の枠組み• 経済価値• 戦略の一致

• 意思決定の枠組み • 意思決定の枠組み

意思決定の枠組み

経済価値戦略の一致

意思決定の枠組み

経済価値戦略の一致

意思決定の枠組み

経済価値戦略の一致

意思決定の枠組み

経済価値戦略の一致

意思決定の枠組み

経済価値戦略の一致

主な活動

アプローチ

経済価値

戦略目標

戦略目標

ポートフォリオマネジメントの プロセス

7Insights on governance, risk and compliance

戦略から取組みへの変換

プログラムとプロジェクトの細分化

ポートフォリオの最適化

ポートフォリオのリスク評価と改善策

ポートフォリオの承認

• 戦略を分析し目標を確認する

• 既存の取組みを最適化して、現在のポートフォリオで未達の目標をかなえる

• 新たな戦略的取組みを定義する

• 新たな決定事項を定義されたプログラムやプロジェクトに置き換える

• 詳しいプランとそれのおよぶ範囲、具体的なビジネスケースを定めた趣意書を作成する

• 現在のポートフォリオを評価する

• 合意した意思決定の枠組みを基に(プログラムやプロジェクトの追加や撤回を通じて)最適なポートフォリオを選択する

• 需要と供給を一致させる• EA(エンタープライズアーキテクチャ)コントロールの確立

• 合意した意思決定の枠組みを基にポートフォリオに優先順位を付ける

• 最適化されたポートフォリオの実施を承認する

• 優先順位付けの結果を一本化する

• 上層部が点検し承認する

• プログラムガバナンス、プロジェクトマネジメント、解決策の間の相互依存リスクを評価する

• 現状を評価する• プログラムとプロジェクトの改善の機会を特定する

• ポートフォリオの最適化の機会を特定する

戦 略

目 的

目 的

目 的 新たな決定事項

定義したプログラム

プロジェクト

プロジェクト

プロジェクト

目 的

目 的 決定事項の最適化

定義したプロジェクト プロジェクト

プロジェクト

プロジェクト

プロジェクト

プロジェクト

プロジェクト

プロジェクト

戦略の一致

A B C

E F

G

H

P Q

K X

J L Y

監視

加速

必須評価中止

現 状 将 来

段階的な改善プラン現在のポートフォリオ 更新したポートフォリオ

• 戦略の一致 • 経済価値 • 意思決定の枠組み• 経済価値• 戦略の一致

• 意思決定の枠組み • 意思決定の枠組み

意思決定の枠組み

経済価値戦略の一致

意思決定の枠組み

経済価値戦略の一致

意思決定の枠組み

経済価値戦略の一致

意思決定の枠組み

経済価値戦略の一致

意思決定の枠組み

経済価値戦略の一致

主な活動

アプローチ

経済価値

戦略目標

戦略目標

ポートフォリオマネジメントの プロセス

8 Insights on governance, risk and compliance

ステップ1 戦略から取組みへの変換最初のステップでは戦略の整合性を図ることに注力します。ここで戦略目標を確認し既存の取組みに関連付けます。企業が目標に掲げる成果を達成するためのプログラムとプロジェクトをまとめた戦略的取組みを通じて、ビジョンが実現されていくわけです。戦略的取組みは戦略目標や戦略目的と同一ではありません。戦略目標を達成する手段であり、「何を」よりも「どのようにして」に重点を置き、通常は機能横断的な能力を活用して組織全体で努力することを指します。戦略的取組みが単独のプログラムと一致することもありますが、そこに複数のプログラムやプロジェクトが含まれることも考えられます。例えば新興市場での成長を戦略目標に掲げている場合、新興市場における財務管理や流通経路の強化に白羽の矢が立てられるでしょう。関連するプログラムやプロジェクトとして、現地のサプライチェーンを管理するための立案組織の設立が考えられます。また、それをサポートするICT(情報通信技術)も必要になるでしょう。

つまり、このステップの目的は、戦略的取組みによって戦略目標が適切にサポートされているかを明確にすることです。図示することにより、「サポートされていない」または「サポートが不十分な」戦略目標が浮き彫りになり、これをサポートする取組みが

ない、または明確でないことが判明します。こうした目標に対しては、新たな取組みを定めるか取組みを最適化します。また、このステップを通じて企業内の現行の取組みで戦略目標に合致していないものも検出できます。

ステップ2 プログラムとプロジェクトの細分化このステップでは、新しい取組みや明確にした取組みの経済価値を最適化することが主眼となります。これらを実際のプログラムやプロジェクトに具体化することが重要です。これを目的として、上層部の決定事項に基づき詳しいプランとそれのおよぶ範囲、具体的なビジネスケース、リスクの可能性を盛り込んだプロジェクト趣意書を作成していきます。このステップではリスクが重要な役割を果たします。企業が定義するプログラムやプロジェクトの範囲がおおまかすぎることがよくありますが、そうなるとパラメータの設定範囲が広すぎて目標を外し失敗する確率が高くなります。このステップを成功に導くために重要なのは、大規模なプログラムやプロジェクトを採用することではなく、段階的アプローチにより戦略的取組みを分割し、具体的にビジネスの成果を測定できるような、扱いやすい小規模なプログラムを採用することなのです。

ポートフォリオマネジメントの実践

9Insights on governance, risk and compliance

ステップ3 ポートフォリオの最適化第3のステップでは意思決定の枠組みをつくり、次のステップにおける経営陣の意思決定に向けて準備をします。これを可能にするために、プログラムやプロジェクトを開始 /中止、加速 /減速する案を含めて最適化されたプログラムの作成が必要です。あるポートフォリオ案を最適化するには、意思決定の枠組みを用意する際にその企業特有の要因を取り入れるべきです。あらゆるケースでこの枠組みを活用し、経済価値の創出と戦略の一致を最適化する必要があります。価値創出の具体的な内容はもちろん業界、組織、地域によって異なります。

プロセスを促進するための適切な情報はもちろん、企業のプログラムとプロジェクトすべてを集約した概要が、ポートフォリオの最適化のカギを握っています。一般的に、概要には費用対効果、必要なリソース、リスク、ビジネス上のメリット、戦略目標との関連や相互依存などの情報が含まれます。こうすることで定義された企業の意思決定の枠組みに基づいて最適化されたプログラムやプロジェクトを選択し、優先順位を付けることが可能になります。

企業の意思決定の枠組みにおいてまず重要な尺度となるのは、必要なリソースの量です。ポートフォリオを実行可能にするには、企業がプログラムやプロジェクトを実践するのに十分なリソースを確保する必要があります。

ほとんどの場合、企業は処理できないほどのプロジェクトを推進する傾向があり、プロジェクトやプログラムの実施をめぐる問題が悪化して進歩が見られなくなる「プロジェクトの大渋滞」に陥ります。この問題を解決するため、企業は需要と供給を一致させる仕組みを導入する必要があります。

相互依存の管理も企業の間で広く活用されています。企業はEA(エンタープライズアーキテクチャ)などの制御を利用して情報通信技術システム、ビジネスプロセス、組織などの面から現状と理想的な将来の姿を定義します。これにより、プログラムやプロジェクトがビジョンに適合しているかを評価し、相互依存を検出し管理することが可能になります。ポートフォリオ管理がプロセスとガバナンスに重点を置く一方で、EA(エンタープライズアーキテクチャ)は必要な内容を提供します。

もうひとつの重要な尺度はリスクです。まず、過剰な(トップダウン)リスクを伴うプロジェクトやプログラムの実施を防ぐためには、企業のポートフォリオを企業のリスク要求度に一致させることが不可欠です。第二に、検出された(ボトムアップの)リスクや問題は、プロジェクトやプログラムを開始、中止、加速する際に考慮することができます。詳細はステップ5をご覧ください。

10 Insights on governance, risk and compliance

ポートフォリオマネジメントの実践

ステップ4 ポートフォリオの承認一般的に、企業は収益のかなりの部分をプログラムやプロジェクトに投資します。そのため、企業の経営陣が最適化したポートフォリオをあらかじめ正式承認しておくプロセスが欠かせません。ステップ3で最適化したポートフォリオは、その予備段階として大切です。下図はさまざまな提案を含む最適化されたポートフォリオを示したものです。これを見ると、プロジェクトの見通しとして中止すべき(経済価値 : 低 /戦略との一致度 : 低)、加速すべき(経済価値 : 高 /戦略との一致度 : 高)、必須(経済価値 : 低 /戦略との一致度 : 高)、監視が必要(経済価値 : 高 /戦略との一致度 : 低)、評価すべき(経済価値 : 低 /戦略との一致度 : 中程度)などが一目瞭然となります。円の大きさは通常「リスク」や「予算」を表し、経営陣の意思決定に役立つ追加情報を提供します。

ステップ5 ポートフォリオのリスク評価と改善策最後のステップではプロジェクトやプログラムの実施との関連付けを行います。このステップでプログラムやプロジェクトをリスクや課題にしたがって点検することで、分析力や意思決定力の向上につながります。実践段階では、これが経済価値が最大のプログラムであったり、企業にとって最大のリスクを伴うプログラムであったりするわけです。

さらに…リスクの点検で回収された情報をポートフォリオ最適化のプロセス(ステップ3)に盛り込み、問題のあるプログラムの改善策を講じます。リスク管理努力をより重大なリスクに集中することが必要です。このため、組織改革をスムーズに進めるためには、大規模で複雑、かつリスクを伴うプログラムに対して最大の注意を払うべきです。ポートフォリオ全体を大局的に見るアプローチを通じて、組織改革がしっかり実践できます。すなわち、進行中のすべての取組みを中央から俯瞰することで、経営陣は重要なリスクを監視し、リスクを考慮しつつ意思決定することができるようになるのです。

戦略との一致

A B C

E F

G

H

P Q

K X

J L Y

監 視加 速

必 須評 価中 止

経済価値

11Insights on governance, risk and compliance

アーンスト・アンド・ヤングではトップダウン型とボトムアップ型のリスク活動を区別しています。トップダウン型のリスク活動には、企業を最大のリスクにさらすプログラムやプロジェクトの(リスク)監視が含まれます。ポートフォリオのリスク管理は、業務、法務、コンプライアンス、財務面のリスクを一体的に管理するために企業が活用している企業リスク管理に近いリスクへのアプローチを提供します。この活動後の例として、ポートフォリオに含まれるプログラムやプロジェクトを監視するための内部または外部の監査計画が挙げられます。

ボトムアップ型リスク活動は、経営陣が意思決定する際に関連するリスク情報を考慮に入れることを主眼としています。最も重要なプログラムやプロジェクト内のリスクや課題、相互依存などを分類し、その概要をつかむことで、このような「リスクインテリジェンス」を獲得できます。そして経営陣はその知識を意思決定に活かせます。ポートフォリオリスク管理への総合的なアプローチにより、経営陣に強力な情報資産ができ、ポートフォリオを最適化する際(ステップ3)にプロジェクトやプログラムのリスクを念頭に置くことができるわけです。経営陣が主要リスクに積極的に対応できる点がこのステップの柱なのです。

ボトムアップ型リスク活動•ポートフォリオの意思決定の際にプロジェクトやプログラムのリスクを考慮に入れる(リスクインテリジェンス)

ポートフォリオ

プログラムとプロジェクト

トップダウン型リスク活動•リスク点検とハイリスクなプログラムやプロジェクトの監視

•企業のリスク要求度に沿った低リスクのプログラムやプロジェクトによるポートフォリオの選定

•リスク言語、ポリシー、尺度を定める

12 Insights on governance, risk and compliance

本レポートで、組織改革に伴うリスクの総合的な管理を可能にする、リスクに基づく革新的なポートフォリオ管理法をご紹介しました。より重大なリスクへの集中的な対応を企業に迫るこの手法を実践することで、改革努力が成功する可能性が大きく向上します。

さらに、この手法ではプログラムやプロジェクトに共通のリスク言語が生まれ、企業のリスク管理文化が強化されます。これを実現するために企業が取るべきステップを以下にまとめました。

12

具体的な行動

リスク管理文化を強化する主なステップ

1. 企業戦略と改革の目標を見直す

2. 戦略目標を取組みに変換する

3. 戦略的取組みを最適化して戦略の整合性を高める

4. プロジェクト趣意書により戦略的取組みをプログラムやプロジェクトに変換する

5. 現在のプロジェクトとプログラムのポートフォリオを評価する

6. EA(エンタープライズアーキテクチャ)の整合性、リスク、ビジネスケース、その他の基準を基に新たなプログラムやプロジェクトを追加することでポートフォリオを最適化する

7. 需要と供給のバランスを取り、プロジェクトの大渋滞を引き起こす可能性のあるプログラムをチェックし、プロジェクトを中止する可能性を残しておく

8. 経営陣の意思決定をサポートするために、監視、評価、加速、中止、必須プロジェクトの総合的な概要を作成する

9. ハイリスクおよび必須のプログラムやプロジェクトのリスク評価を実施する

10. リスクと課題の情報を活用して経営陣の決定とポートフォリオの最適化をサポートする

Ernst & Young

アーンスト・アンド・ヤングについてアーンスト・アンド・ヤングは、アシュアランス、税務、トランザクションおよびアドバイザリーサービスの分野における世界的なリーダーです。全世界の16万7千人の構成員は、共通のバリュー(価値観)に基づいて、品質において徹底した責任を果します。私どもは、クライアント、構成員、そして社会の可能性の実現に向けて、プラスの変化をもたらすよう支援します。

「アーンスト・アンド・ヤング」とは、アーンスト・アンド・ヤング・ グローバル・リミテッドのメンバーファームで構成されるグローバル・ネットワークを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。詳しくは、www.ey.com にて紹介しています。

新日本有限責任監査法人について新日本有限責任監査法人は、アーンスト・アンド・ヤング のメンバーファームです。全国に拠点を持ち、日本最大級の人員を擁する監査法人業界のリーダーです。品質を最優先に、監査および保証業務をはじめ、各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています。アーンスト・アンド・ヤングのグローバル・ネットワークを通じて、日本を取り巻く世界経済、社会における資本市場への信任を確保し、その機能を向上するため、可能性の実現を追求します。詳しくは、www.shinnihon.or.jp にて紹介しています。

© 2013 Ernst & Young ShinNihon LLC.All Rights Reserved.

本書又は本書に含まれる資料は、一定の編集を経た要約形式の情報を掲載するものです。したがって、本書又は本書に含まれる資料のご利用は一般的な参考目的の利用に限られるものとし、特定の目的を前提とした利用、詳細な調査への代用、専門的な判断の材料としてのご利用等はしないでください。本書又は本書に含まれる資料について、新日本有限責任監査法人を含むアーンスト・アンド・ヤングの他のいかなるグローバル・ネットワークのメンバーも、その内容の正確性、完全性、目的適合性その他いかなる点についてもこれを保証するものではなく、本書又は本書に含まれる資料に基づいた行動又は行動をしないことにより発生したいかなる損害についても一切の責任を負いません。

本書は SCORE no. AU1275の翻訳版です。

ED None

お問い合わせ先

新日本有限責任監査法人ITリスクアドバイザリー部

〒100-6028東京都千代田区霞が関三丁目2番5号霞が関ビルディング28F

Tel: 03 3503 1704E-mail: [email protected]