フィリピン大都市近郊地域の貧困層の糖尿病予防に関する研究...

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1.はじめに サンタローサ市は2006年と翌年に天理大 学地域文化研究センター主催の国際参加プロ ジェクト活動で訪れ,糖尿病罹患者と感染症 の聞き取り調査,さらに住民を対象とした公 衆衛生ワークショップを実施した。この聞き 取り調査では,治療が必要な場合でも治療費 支払い困難のために治療が受けられないとい う状況がみられた。保健医療サービスを受け ることに不自由のない生活をしている人がい る一方で,不十分なサービスしか受けること ができず生活苦と病に苦しむ境遇にある人が いることを知った。この経験が研究を始める きっかけになった。海外で行動をおこすには どこかに所属し何かを求められるのが通常と 考えるが,筆者にはそれがない。そこで国際 社会開発の学びの必要性を自覚し学究をはじ めた。自分の行動が間違っていないか常に自 らを振り返りながら,サンタローサの人々と 糖尿病の問題に関わっていく。つまり一人の アクターが研究行動のために開発の学びを始 めたという経緯が存在する。 【研究ノート】 フィリピン大都市近郊地域の貧困層の糖尿病予防に関する研究 ―サンタローサ市,バランガイ・シナルハンの実地調査から― 子* * 日本福祉大学大学院・国際社会開発研究科・国際社会開発専攻・修士課程修了 1.はじめに 2.糖尿病・肥満について 3.フィリピンの保健医療事情 3.1 新地方自治法と保健医療 3.2 公的医療保険 3.3 疾病の二重構造 4.調査地について 4.1 調査地の概況 4.2 貧困の指標 4.3 教育到達状況 5.対象住民への聞き取り調査と分析 5.1 調査の概要 5.2 調査結果の分析 5.3 糖尿病罹患者の生活 5.4 調査地の糖尿病診療 6.全体の考察と今後の展望 6.1 保健医療体制の整備状況 6.2 調査から得られた知見 6.3 糖尿病予防の課題と展望 7.終わりに 61 Agora: Journal of International Center for Regional Studies, No.13, 2016

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1.はじめにサンタローサ市は2006年と翌年に天理大

学地域文化研究センター主催の国際参加プロジェクト活動で訪れ,糖尿病罹患者と感染症の聞き取り調査,さらに住民を対象とした公衆衛生ワークショップを実施した。この聞き取り調査では,治療が必要な場合でも治療費支払い困難のために治療が受けられないという状況がみられた。保健医療サービスを受けることに不自由のない生活をしている人がいる一方で,不十分なサービスしか受けること

ができず生活苦と病に苦しむ境遇にある人がいることを知った。この経験が研究を始めるきっかけになった。海外で行動をおこすにはどこかに所属し何かを求められるのが通常と考えるが,筆者にはそれがない。そこで国際社会開発の学びの必要性を自覚し学究をはじめた。自分の行動が間違っていないか常に自らを振り返りながら,サンタローサの人々と糖尿病の問題に関わっていく。つまり一人のアクターが研究行動のために開発の学びを始めたという経緯が存在する。

【研究ノート】

フィリピン大都市近郊地域の貧困層の糖尿病予防に関する研究―サンタローサ市,バランガイ・シナルハンの実地調査から―

椋 野 和 子*

* 日本福祉大学大学院・国際社会開発研究科・国際社会開発専攻・修士課程修了

1.はじめに2.糖尿病・肥満について3.フィリピンの保健医療事情3.1 新地方自治法と保健医療3.2 公的医療保険3.3 疾病の二重構造

4.調査地について4.1 調査地の概況4.2 貧困の指標4.3 教育到達状況

5.対象住民への聞き取り調査と分析5.1 調査の概要5.2 調査結果の分析5.3 糖尿病罹患者の生活5.4 調査地の糖尿病診療

6.全体の考察と今後の展望6.1 保健医療体制の整備状況6.2 調査から得られた知見6.3 糖尿病予防の課題と展望

7.終わりに

61Agora: Journal of International Center for Regional Studies, No.13, 2016

この研究の目的は,フィリピンの首都圏近郊の貧困層の糖尿病予防の課題と保健医療体制を明らかにすることである。研究の視点を糖尿病に限定したのは,生活習慣病の中でも個人の健康管理により将来糖尿病になるのを防ぎ,重症化を防げると言われているからである。研究の方法は文献調査と現地調査である。調査は2014年2月,7月,8月にそれぞれ10

日余りの日程で実施した。2月のプレ調査では保健医療関係者,糖尿病罹患者にインタビューし,調査地での医療状況と糖尿病罹患者の生活状況の把握に努めた。7月,8月には半構造化質問票による聞き取りを実施した。本稿は日本福祉大学大学院国際社会開発研究科国際社会開発専攻に提出した修士論文の一部を加筆修正したものであり,開発の視点で考察した。調査協力者は調査地のシナルハンに拠点を置いて20年近く布教している天理教東本大教会サンタローサ出張所長,上田和興氏である。通訳として,上田氏,日本語教師の経験のある現地人と日本に留学経験のある現地人ほか数名が同行した。本稿に使用した保健医療分野のデータは現地調査の際にサンタローサ市の保健事務所から入手し,保健医療以外のデータは主としてサンタローサシティ・ホールで入手した。途上国では十分に医療が提供されていない

現実があり,調査地においても糖尿病に関するデータは限られている。同時に筆者は医学に関する知識もわずかしか持ち合わせていない。本稿にはそういう限定があることを述べておく。糖尿病に関する研究は日本糖尿病学会をは

じめ,アメリカ糖尿病学会,イギリス糖尿病学会等で数多く発表されている。たとえば,東アジアでの糖尿病の大規模調査として肥満

指数BMIと糖尿病の関連を調べる横断的研究1)や,体重を5%以上減らせば「糖尿病が治った状態」を維持できる可能性があることを指摘した研究(ニューキャッスル大学,2015)や,1万人以上を16年間追跡調査した結果,糖尿病の人が太りすぎや肥満であると死亡率が上昇するという発表(ハーバード公衆衛生大学院,2014)や,体重を毎日測ると減量は成功しやすいという研究(コーネル大学,2015)もある。そして,2型糖尿病患者の半数近くは「糖尿病のコンディション管理が十分にできていない」と感じていることも明らかになっている(英国糖尿病学会,2014)。またアメリカ糖尿病学会(ADA)は,このほど「2014年版 糖尿病臨床ガイドライン」(2014 Clinical Practice Recommendation)で,個々の患者に合わせた最適な治療が必要であることを強調している。このように日本や欧米諸国で行われている大規模臨床研究など,様々な研究成果があがっている。しかし,フィリピンの貧困層の糖尿病に関する研究や報告は少ない。それを補うため,詳細は現地に赴き調査を実施した。調査に際して以下の仮設を立てた。

1) フィリピンでは首都圏だけでなく,それ以外の地域でも肥満な人が多く,貧困層にも多くみられる。その中に糖尿病を発症した人や放置すればいずれ罹患する人も少なくないと思われる。

2) 貧しい人々は診療を受ける機会があまりないために治療が遅れたり,経済的理由のために治療を十分に受けなかったりする傾向があるのではないだろうか。そうだとすれば予防がより重要となる。

3) 貧しい人々は糖尿病に対する知識は乏しく,予防行動をあまりとらないのでは

1)このプロジェクトでは,バングラデシュ,中国,インド,日本,韓国,シンガポールおよび台湾の計18のコホート,90万人以上のアジア人を対象にして,体型の指標であるBMI(体重(kg)÷身長(m)2)と糖尿病の関連を調べる横断研究が行われた。(PLoS ONE 6巻: e19930)(2011/6)。

62 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

ないだろうか。

この調査の結果がフィリピン全体の傾向を示すとは言えない。しかし,貧困層の糖尿病予防の問題を検討することがフィリピン医療の発展に有用であると考えられる。

2.糖尿病・肥満について糖尿病にはいくつかのタイプがあり,

1型は膵臓のβ細胞というインスリンを作る細胞が破壊され,体の中のインスリンの量が絶対的に足りなくなって起こる。子供のうちに始まることが多く,以前は小児糖尿病とか,インスリン依存型糖尿病と呼ばれていた。2型糖尿病は食事や運動などの,肝臓や筋肉などの細胞がインスリン作用をあまり感じなくなる(インスリンの働きが悪い)ために,ブドウ糖がうまく取り入れられなくなって起こるもの,遺伝子の異常や肝臓や膵臓の病気,感染症,免疫の異常などのほかの病気が原因となって糖尿病がひきおこされるもの,薬剤が原因となる場合もある。さらに妊娠中に発見された糖尿病。新生児に合併症が出ることもある(厚生労働省ホームページ)。

本稿で糖尿病としているのは2型糖尿病のことである。2014年現在,世界の糖尿病人口は3億人を超え糖尿病罹患者は世界的に増加している(IDF:国際糖尿病連合,2014)。世界・成人の糖尿病割合ランキング205カ国

の中では,南太平洋島嶼のミクロネシア連邦,マーシャル諸島,キリバス,バヌアツが上位を占め,フィリピンは106位,日本は157位である(WHO,2013)。日本を含む西太平洋地域2)の糖尿病人口は1億3000万人(成人人口の8.5%)と推定されている。また糖尿病を発症している可能性が高いにも関わらず,検査を受けて糖尿病と診断されていない人は全世界で1億7900万人に上り,およそ半分は自分が糖尿病であることを知らない(IDF:国際糖尿病連合,2014)。フィリピンの都市部において1982年の糖尿病有病率(20~70歳人口で)は3. 3%で,2002年は4.9%であり,糖尿病の患者数は19年間に1.5倍の上昇を認める(梶尾,2012)。同様にWHOのデータでフィリピン2013年の糖尿病有病率は6.01%である。世界では12人に1人が糖尿病であり,糖尿病有病者の世界ランキングでは第1位中国,第2位インド,第3位米国となり,糖尿病に対する「豊かな先進国に多い病気」というイメージは誤りで,糖尿病有病者の77%は低・中所得国3)に集中している。また2型糖尿病は40~59歳の働き盛りの世代で爆発的に増加している(国際糖尿病連合糖尿病アトラス第6版 2014 UPDATE)。糖尿病の発症メカニズムについてはまだ解

明されてない部分が多く,患者の多くは10年くらいをかけ徐々に血糖値が上昇していくとみられている。糖尿病は自覚症状が乏しい病気なので検査を受けていないと,いつの時点で発症したか特定できない場合が多い。糖尿病と関係の深い肥満について,世界の

2)西太平洋地域:インドネシア,オーストラリア,韓国,カンボジア,北朝鮮,キリバス,クック諸島,サモア,シンガポール,ソロモン諸島,タイ,中国,ツバル,ティモール,トンガ,ナウル,ニウエ,日本,ニュージーランド,バヌアツ,パプアニューギニア,パラ,フィジー,フィリピン,ブルネイ,ベトナム,マーシャル諸島,マレーシア,ミクロネシア,ミャンマー,モンゴ,ラオス

3)主要国所得階層別分類(国連及び世銀の分類)では,一人当たりGNI(平成22年)低所得国はUS$ 1,006以上US$ 1,915以下の国(ウズベキスタン,インド,ガーナ,カメルーン,コートジボワール,ナイジェリア,ニカラグア,パキスタン,パプアニューギニア,ベトナム,ホンジュラス,ボリビア,モルドバ,モンゴル),中所得国は US$1,916以上US$3,975以下の国(アルメニア,イラク,インドネシア,ウクライナ,エジプト,エルサルバドル,ガイアナ,カーボヴェルデ,グアテマラ,グルジア,コソボ,コンゴ共和国,シリア,スリランカ,スワジランド,トルクメニスタン,トンガ,パラグアイ,フィジー,フィリピン,ベリーズ,マーシャル諸島,ミクロネシア,モロッコ)。

63椋野和子:フィリピン大都市近郊地域の貧困層の糖尿病予防に関する研究

肥満人口は増加傾向にあり肥満の割合は1980年から約30年間でほぼ2.5倍に増え,現在21億人程度に達した(ワシントン大学健康指標評価研究所,2013)。肥満であるかどうかの判定には,体格の判断基準としてBMI

4)が使われる。WHOはBMI30以上を肥満と判定し25.0以上30.0未満を過体重と判定する。フィリピンの基準はWHOに準じて30以上を肥満とし,日本は日本糖尿病学会の基準を用いて25以上を肥満とする。BMIが25以上で「過体重」あるいは「肥

満」と判定されても,すぐに治療を必要とするわけではないが,肥満であることにメリットはない。また肥満は2型糖尿病や心筋梗塞などの生活習慣病と密接な関係があるため,疾病予防のうえからも肥満のメカニズム解明が課題となっている5)。特に欧米人種と比べ日本人を含むアジア人集団は,軽度の肥満でも生活習慣病にかかりやすいことが知られており,その原因は謎のままである。肥満には遺伝的要因があり,現在までに数

十個の関連遺伝子が同定されているが,そのほとんどは欧米人集団を対象とした研究であった。理化学研究所の研究グループは日本人集団とアジア人集団に大規模解析を実施し,東アジア人集団に特異的な肥満の原因遺伝子の同定に成功した。研究が進めば東アジア人特有の肥満の原因解明が期待できる(独立行政法人理化学研究所,2012)。このように欧米人とアジア人では肥満と生活習慣病との関係が異なっていること,アジアの中でも日本とフィリピンでは肥満の判定基準が異なっているなどから,肥満の軽減を考慮する際には,国,人種,文化,生活習慣などを視野に入れる必要がある。日本糖尿病学会で

は,「診療ガイドライン」(2013)の中で,肥満の原因となっている生活習慣の除去が重要であり,軽減には生活環境や精神的要因などを聞き取ることも必要であるとしている。フィリピンにおける糖尿病に関する研究が少ない中,フィリピンの2型糖尿病診療の問題について梶尾(2012)は次のように指摘する。

フィリピンの糖尿病罹患者数の増加の主たる原因の一つは,急激な社会的・経済的成長であり,劇的な生活の変化は食生活の欧米化や運動量の低下などをひきおこし,肥満や糖尿病,さらには高血圧や冠状動脈疾患を招くことになった。フィリピンにおける2型糖尿病診療の問題点は①糖尿病専門施設へのアクセスが欠如していること,②医療知識や医療資源の不足のため実際の臨床の場で糖尿病としての診断が十分に行われず糖尿病の診断が遅れること,③糖尿病教育への支援やそのための資源が不十分であること,④糖尿病への進行や悪化を阻止することが困難な環境にあること,⑤利用できる治療薬の副作用,⑥治療にかかる費用,⑦糖尿病腎症のようにハイリスクの患者に利用可能な薬剤選択が限られている(梶尾,2012,516-524頁)。

梶尾(2012)の指摘した問題のうち,①,④,⑥は本調査に関係の深い指摘である。

3.フィリピンの保健医療事情3.1 新地方自治法と保健医療フィリピンでは,1991年に制定された新

地方自治法6):LGC(Local Government Code:

4)BMI(Body Mass Index):人の肥満を示す指標BMI=体重(kg)/身長(m)2の計算式に基づき体重と身長の関係から算出される。

5)「世界肥満実態(GBD)調査」は,ワシントン大学健康指標評価研究所(IHME)が188ヵ国の最新のデータをまとめたもので,結果は医学誌「ランセット」に発表された。

6)従来までの地方分権化と異なる点は「権限の分散」から「権限の委譲」を伴った行財政改革である。理論的には住民のニーズに応じた無駄のない保健医療サービスが地方レベルで可能になる。しかし地方自治体

64 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

LGC)によって,保健医療行政が地方自治体に移管され,地方政府が基本的なサービス提供主体となった。ここでいう地方政府はLocal Government Unit(LGU)と称されるもので,基本的には州,市・町,バランガイ(最少行政単位)の3層で構成されている。フィリピンの保健医療関係の行政組織としては,保健省が管区(Region)7)ごとの地域事務所までを所管している。管区の下には80の州があり,各州には保健局がある。その下には,市や町があり(全国1500),それぞれ,市・町保健事務所が設けられている。また,医師,看護婦,検査技師等が常勤する保健所(Rural Health Unit: RHU)が全国2,266ヶ所(2005年)に設置されている。市・町の下にバランガイがある(全国約42,000ヶ所)。バランガイの保健支所(Barangay HealthStation: BHS)には准看護師兼産婆が勤務しているが,中にはバランガイ・ヘルス・ワーカーといって資格のないボランティアしか勤務していないところもある。BHSにおいては,分娩介助,家族計画教育,避妊薬・避妊具の配布,母子保健教育,乳幼児健診,予防接種,結核治療,栄養失調児へのビタミン剤の支給等の簡単な治療や保健指導が行われている(厚生労働省,2013)。バランガイ・シナルハンのBHSについては後述して詳細を述べる。

3.2 公的医療保険フィリピンの公的医療保険は,フィリピン

健康保険公社(Philippine Health Insurance

Corporation: PHIC,通称「フィルヘルス」)が運営している。フィルヘルスは2010年までに国民皆保険の実現を目指していたが,実

際には2011年末現在の加入率は82%である。フィルヘルスにおいて,外来費用は給付の対象から外され,入院給付は期間が短いことと各種医療内容に対する低い上限の設定,医療行為,手術,薬剤,疾病の種類など,どの程度まで患者の日常的な医療ニーズに対応しているかという問題があげられる。こうした事情から富裕層は民間保険にも加入しており(厚生労働省,2011-2012),貧困層が保険制度の恩恵を十分に受けているとは言い難い状況がある。貧困層に対するプログラムは「メディケ

ア」(para sa Masa)と呼ばれ,フィリピン人社会の底辺に位置するこれらの人々に,メディケアの特典(医療給付)を提供することを目的としている。貧困者はミーンズテスト8)にもとづき,保険料の拠出なしに,この制度による医療保障を受けるようになる。プログラムが対象としているのは,人口の35%を占める貧困層の人々である。貧困層に属する人々は,地域社会福祉公社によって行われたCBN-MBNと呼ばれる調査で把握されている。プログラムは,地方政府(LocalGovernment Units: LGUs)とフィルヘルスの協力によって実行される。フィルへルスによって,LGUsと中央政府双方が,フィルヘルスに登録されている貧困層のために保険料の支払いを行っている。ちなみにサンタローサ市(人口296, 621人,68, 982世帯,2013年)は中央政府から7,086世帯分,LGUsからは8,881世帯分の保険料の支払いを受けている。なお,バランガイ・シナルハン(人口21,437人,4,985世帯,2013年)は政府から514世帯分,LGUsから209世帯分の保険料の支払いを受けている。よってバランガイ・シ

が保健行政の実施を十分に行えるだけの財政的基盤や組織制度,人材などが十分に整備されていないという新たな問題や課題が浮上してきた(福島,2006,23-25頁)。7)行政管区(Region)とは,LGUと異なる地方単位として自治権を有しない行政単位であり,複数の州,高度都市化市,独立構成市から構成されていて,フィリピンには17の管区がある。ムスリム・ミンダナオ自治区,マニラ首都圏,コルディエラ行政区は管区と同レベルの行政区でありながら中央政府に予算配分を受けている。

8)所得と資産に関する調査。生活保護給付の際に行われる資力調査。(大辞林 第三版)

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ナルハンは723世帯が保険料免除されていることになり,14.5%がインダイジェント9)世帯となっている。なお,サンタローサ市では (National Household Targeting System:

NHTS)のガイドラインにより,貧困層の人々は診察,薬,医療費(入院,手術)など,ある一定のラインまで無料で受けることができる。なお60歳以上になると医療費が20%割引になるシニア・シティズンという医療割引制度もある。

3.3 疾病の二重構造フィリピンでは,表1に示したように感染

症と共に生活習慣病が増加傾向にあり,途上国の健康問題と先進国の健康問題が混在している。糖尿病は死亡原因の第8位である。生活習

慣病10)について,その対策は日本でも注目されているが,フィリピンでは死因の第3位までを「心疾患」,「脳血管疾患」,「悪性新生物(がん)」が占め,生活習慣病による死

亡率が高い。一方,「肺炎」「結核」などの「感染症」による死亡も死因10位内に入っており,先進国型の「生活習慣病」と途上国で問題になる「感染症」が混在し,いわゆる疾病の二重構造となっている。フィリピンは途上国と先進国の医療上の課題をともに抱えており,感染症対策とならんで生活習慣病対策の充実が必要となる。

4.調査地について4.1 調査地の概況本研究の調査地は,フィリピン,ルソン

島,ラグーナ州,サンタローサ市,バランガイ・シナルハンである。ルソン島南部に巨大なラグーナ湖があり,その湖の南側半分を取り囲むようにラグーナ州がある。サンタローサ市はラグーナ湖の西側に位置し(図1),マニラ首都圏から高速道路で1時間ほどの距離にある。サンタローサ市の郊外には大きな工業地域があり,トヨタ,コカコーラ,テルモほか,日本の企業が多く進出し,そこで働

9)生活に困っている,貧困な,という意味。働けない事情があり支援が必要。10)高血圧,糖尿病,高脂血症,心疾患,脳血管障害,肥満など偏った食生活,喫煙,など生活習慣の影響により起きる可能性のある病気。

表1 フィリピンの10大死因別疾患(5年平均2004~2008年,2009年)

死亡原因( 人口10万対) 5年平均2004~2008年 2009 年

1.心疾患 94.5 109.4

2.血管系疾患 64.3 71.0

3.悪性新生物 49.6 51.8

4.肺炎 41.1 46.2

5.不慮の事故 39.9 39.0

6.結核 29.2 27.6

7.慢性下気道疾患 24.0 24.7

8.糖尿病 22.7 24.2

9.ネフローゼ症候群およびネフローゼ 13.4 15.0

10.周産期に発生した病態 14.5 12.5出典:フィリピン保健省統計資料より作成。

66 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

く人のための工業団地が広がっている。調査地シナルハンは,サンタローサ市内でも工業地域とは遠く離れており,ラグーナ湖に面している地域である。シナルハンの人口は2万人余り,ラグーナ湖での養殖業も盛んで,とれた魚の一部を女性が道端で売っている光景をあちこちで見かける。若者は地元のショッピング・モールなどで契約社員として働く商業従事者が多いが,中年になると年齢制限があるため働きたくても働けない現実がある。また,漁業のほかにトライシケル(二輪バイクにサイドカーを取り付けた乗り物)のドライバーで生計を立てている人も多い。

4.2 貧困の指標貧困率11)

フィリピンの貧困率は,2006年には32.9%であり,RegionⅣ-A(サンタローサ市が含まれている)は20.9%で,フィリピンの

平均より裕福な数字である。しかし,サンタローサ市には,工業都市として発展してきた地域12)と,そうでない地域があり,調査地バランガイ・シナルハンはラグーナ湖に近く,漁業が主な産業で貧困層が多く住んでいる。したがってRegionⅣ-Aの平均より貧困率は高いと考えられる。貧困ライン政府の貧困ラインの公式測定基準は,国家

統 計 調 整 委 員 会(National StatisticalCoordination Board: NSCB)が科学技術省食糧 栄 養 調 査 研 究 所(Food and Nutrition

Research Institute: FNRI)の協力を得て,以下のような手順で設定している。

1年間一人あたり貧困ラインの算出方法① 食料貧困ラインを設定: FNRI が定める「1日の必要栄養量2,000kcal を満たす地域別(州単位12)のメニュー」

図1 フィリピン共和国,ラグーナ州,サンタローサ市,バランガイ・シナルハン出典:ウィキペディア

11)「貧困ライン以下の人口または世帯が,全体の人口または世帯に占める割合」を意味する12)共立総合研究所(2013/4/23)「東南アジアの工業団地に関する概況と制度その2」25頁。

67椋野和子:フィリピン大都市近郊地域の貧困層の糖尿病予防に関する研究

に基づいて,一人あたりの食料コストを算出する

② 1年間一人あたり貧困ラインの算出: 食料以外の基礎的ニーズ(衣料,燃料,電気および水,家屋のメンテナンスやその他の小規模な修繕,住居,医療,教育,交通,通信など)を満たすのに必要な収入を算出。更に,最新の家計調査(FIES)の結果に基づいて,食料貧困ラインの上位および下位10%の世帯の「食料支出の対総基礎的支出比(FE/TBE ratio)」を算出。食料貧困ラインをその比率で割る。(国際銀行,2008)

貧困ラインの推移表2 に,フィリピンとRegionⅣ-Aの貧困ラ

インの推移を示した。2012年にRegion Ⅳ-Aはフィリピンの平均よりやや高くなっている。貧困ラインの上昇はサンタローサ市郊外の工業の発展によるものと考えられるが,貧困率で分析したのと同様にバランガイ・シナルハンの貧困ラインはRegion Ⅳ-Aの平均貧困ラインよりも低いと考えられる。

所得格差フィリピンの所得格差を概観する。フィリ

ピンの経済動向は好調との見方がある一方で,所得の上位2割でフィリピン全体の所得

表2 フィリピンの貧困ラインの推移(年間1人当たり。単位:ペソ注)

表3 所得分配の状況

2006年 2009年 2012年

フィリピン 13,357 16,871 18,935

RegionⅣ-A 13,241 17,033 19,125

1961年 1991年 2003年

所得分配(%)

第1十分位 1.5 1.8 1.8

第2十分位 2.7 2.9 2.9

第3十分位 3.4 3.8 3.8

第4十分位 4.5 4.7 4.7

第5十分位 5.5 5.7 5.8

第6十分位 6.6 7.0 7.2

第7十分位 8.3 8.8 9.1

第8十分位 11.0 11.4 11.9

第9十分位 15.5 16.1 16.6

第10十分位 41.0 37.8 36.3

合計 100.0 100.0 100.0

出典:NSCB Philippine Statistical Year Book 2014: Editionより作成。注:1.00 PHP = 2.65064 JPY(2015/8/20)

出典: 鈴木有理佳(2007)「アジ研ワールド・トレンド136」(2007/1)20頁より引用。

68 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

の半分以上を占める状態が約20年も続いている。つまり,経済規模拡大のメリットが全体に行き渡らず一部の富裕層だけに富が停滞している。表3の所得分配は世帯所得を低い方から高

い方へ順に並べて十分割し,各分位の所得比率を示したものである。2003年の第1十分位,つまり下位10%の世帯の所得の合計は全体の1.8%しかなく,さらに第10分位,つまり上位10%は全体の36.3%になっている。これは所得格差が大きいことを示しており,1961年の所得分配と大きな違いがない。このようにフィリピンでは,所得の上位2割で全体の所得の半分以上を占める状態が,約40年も続いている。また,低所得層は,農林水産業で生計を立てている場合が多く,そういった人々はいつまでも低所得のままでいる傾向がある(鈴木,2010)。サンタローサ市は首都圏に近い地域で,郊外には工業地域もある

が,バランガイ・シナルハンはラグーナ湖の畔にあり,養殖や取れた魚を売るなどの水産業との関わりが深い。

4.3 教育到達状況「貧困ラインの推移」で述べたように,バ

ランガイ・シナルハンの貧困ラインと貧困率はサンタローサ市の平均とは異なっていると考えられる。裕福な暮らしをしている工業地域と,漁業を中心として昔から伝統的なフィリピンの暮らしをしている地域では,得られる収入にも差があり,貧困の度合いや人々の受けてきた教育も異なるだろう。表4にサンタローサ市における学校教育最終到達状況を示した。表5に,現地調査で調査対象者63名に「フィリピン版,簡易貧困スコア・カード」13)を用いて聞き取りした結果の中から教育に関する項目を集計した。表4と表5を厳密に比較できないものの,

表4 サンタローサ市における学校教育最終到達状況(10歳以上の人対象)(2013年)

教育状況 人数 %

学歴がない 5,400 2.29

幼稚園 7,196 3.05

小学校 65,296 27.70

高校 91,805 38.94

中等教育後の訓練校 10,719 4.55

大学生 26,068 11.06

大学卒 28,529 12.10

学士所有 510 0.22

学びをスタートしていない 239 0.10

総人口 235,763 100.01

出典:National Statistics Office, Sta.Mesa, Metro Manila, Philippines; 2010 CPH*SOCIO-ECONOMIC PROFILE(Table14)より作成。*CPH:Census of Population and Housing

13)ある世帯の貧困の度合いを調べるための簡易スケールで,世帯の人数,6歳から17歳の就学児童数,世帯内で働いている人の数,さらにその職種,家屋の造り,各種電化製品,家族が持っているケータイ電話の数など10の質問項目に回答する。いくつか用意された回答の中から選び,それぞれに定められた点数を合計する。点数がより少ない方が,貧困度が高い。本調査では2014年に発表されたものを使用した。

69椋野和子:フィリピン大都市近郊地域の貧困層の糖尿病予防に関する研究

シナルハンの調査対象者の高校卒業者は高校中退者を含めてもサンタローサ市の高校卒業者38.94%に比べ23.8%で,かなり少ない。小学校卒業者は,サンタローサ市の27.7%に比べ,シナルハンは54%と圧倒的に多い。バランガイ・シナルハンでランダムに対象者を抽出したこの結果は,調査対象地域の中年女性の傾向と捉え,肥満者や糖尿病罹患者へのアドバイスは理解しやすいように伝えなければならないことを示唆している。

5.対象住民への聞き取り調査と分析5.1 調査の概要事前調査(2月)2014年2月は,現地の糖尿病事情把握を目

的として,医療関係者の意見を聞くことに重点をおき,保健所医師とBHWへのインタビューを実施した。保健所医師へのインタビューから,サンタローサ市には市長が強く後押しする糖尿病プログラム(The SantaRosa Diabetic Club : SRDC

14))が2005年に発足し,2008年から実施されていることが分かった。薬に頼るだけでなく肉体的に健康を維持することを目的としている。保健所の医師は,毎週1回RHUで糖尿病罹患者に対し無料モニタリングを実施し,貧困層の糖尿病罹患者のうちインスリンが必要な人には無料で

配布している。これは市の保健医療予算で供給できる量が少ないことから他国から援助を得ているわけだが,十分な量ではない。このような貧困者へのインスリンの無料サービスが行われているのは,フィリピンではマニラ首都圏・マカティ市とサンタローサ市のCHO1だけである。また,医師は糖尿病の遺伝的傾向のある家庭を巡回訪問している。これは健康診断が十分に行えない貧困地域において,医師による糖尿病予防の啓発であり積極的取り組みである。バランガイ・シナルハンのBHSでは,10人

のBHWと一人のミッドワイフが活動しており,毎週1回,無料で血糖値測定が実施され,同時に血圧と体重測定も行い記録保存している。血糖値測定には毎回50~60人ぐらい訪れる。糖尿病罹患者へのアドバイスは,主として食事,エクササイズ,ライフスタイルの3点についてなされている。食事指導については,“リトルライス,レスシュガー,野菜中心で魚と肉は少々”といった具合に,住民にわかりやすく実行しやすいような表現を用いて指導している。運動については,週に3日,エクササイズが行われ,毎回50~60人が参加し,そのうち約3分の1が糖尿病罹患者である。BHSでの日常業務は,週間スケジュールに沿って各種健診,血糖値測定,予

表5 本調査対象者の学校教育最終到達状況 (バランガイ・シナルハン)(2014年)

教育状況 人数 %

学歴なし 4 6.3

小学校 34 54.0

高校卒または高校中退 15 23.8

大学卒 10 15.9

調査人数 63 100.0出典:調査(2014年7月,8月)により作成。

14)Santa Rosa Diabetic Club: SRDCは2005年に発足し,2008年から活動を開始している。メンバーはサンタローサ市の糖尿病患者599名が中心になっている。プログラムの内容としては例えば糖尿病罹患者に対して無料で薬を与え,毎週1回の血糖値測定と週3回のエクササイズを実施し,薬に頼るだけでなく肉体的に健康を維持促進することを目的としている。

70 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

防接種,妊婦健診を行い,医療業務を行わない金曜日は記録業務をする。ちなみに新生児(生後1か月)から5歳児までの健診と妊婦健診は無料で受けることができ,出産もBHSで行われている。

調査(7月)調査は,2014年7月と8月に実施した。調

査対象者は40歳以上の,肥満気味な女性とした。設定理由は,2型糖尿病の発症は40~59歳の世代に多く,中年以降に爆発的に多くなる傾向があること,日中家にいるのは男性より女性が多いからである。貧困層の人々の生活の中から,糖尿病予防

の手がかりを見つけるため,貧困の度合いを測定する指標として,「フィリピン版貧困スコア・カード」(巻末資料参照)を用いた。貧困度の試算は協力者の知り合いで,かなり貧困な生活をしている現地人に試算対象になってもらい,その人のスコアと暮らしぶりにより,貧困のボーダーを60とした。聞き取り調査対象者を60以下と設定したが,それが最貧困層の人々に相当する。BMIは,25以上を過体重とするフィリピンの基準を用いた。聞き取り対象者の設定は,貧困スコア60未満で,BMI25以上の人,なおかつ糖尿病でない人にし,予防行動を意識した健康,運動,食事の3点に焦点を絞った半構造化アンケート調査を実施することにした。調査開始前に,まずバランガイ・キャプテ

ンを訪問し,調査の目的,内容を説明し,調査許可を得た。その際,キャプテンの計らいでバランガイ・ホールに対象者を集めてくれることに話が進んだ。計画では,各家を訪ねて歩く予定であったが,せっかくの好意を受け止めることにした。調査には,聞き取り調査票を英語版で準備していたが,現地語の方が理解しやすいことがわかり,急遽タガログ語版を用意した。実際に調査した結果は,スコア60台の人が多かった(表6)。当日はバ

ランガイ・キャプテンから住民に調査の目的と個人情報守秘についての説明があり,調査に移った。日本で英語教師の経験のある現地人が,貧困スコア・カードの質問項目をタガログ語で一つ一つ読み進め,参加者がチェックした(写真①)。その後,スコア・カードの点数を合計して身長,体重測定に入り,BMI値を算出した。貧困スコア60以下でBMI25以上の人には後日聞き取りをさせてもらう了解を得て終了した。しかし,調査地には日本のように住所に番地がないため,自宅訪問は難しいことがわかり,バランガイ・キャプテンに相談した。するとBHWがすぐに呼ばれ,住民の名前から自宅がわかるということであり,自宅訪問に協力してもらった。これら一連の様子から,住民とバランガ

写真①

写真②

71椋野和子:フィリピン大都市近郊地域の貧困層の糖尿病予防に関する研究

イ・ヘルス・ワーカーの繋がりと,バランガイの行政が,保健医療に熱心に取り組んでいる姿勢を窺うことができた。結果を集計すると,バランガイ・ホールに

集まってくれた36人中,糖尿病罹患者が14人であった。糖尿病予防についての調査であり,すでに罹患している人は対象から外さざるを得ない。半構造化質問票による聞き取り対象者は,6人となった(聞き取りできたのは5人)。これでは数が少ないため,8月には個別に訪問し,再調査を実施することにし

た。(写真②)。糖尿病罹患者が多く集まった理由として

は,筆者の言語のハンディキャップによるものが大きい。調査はすべて通訳を通して実施したが,バランガイ・キャプテンに調査内容を説明する際,調査の意図がうまく伝わらなかった可能性がある。

調査(8月)7月調査の反省を受け,8月は見た目で

太っている中年女性を調査対象とし,肥満者

表6 調査対象者全員の貧困スコア別,BMI測定値(2014年)

調査日

スコア8月22日8人

8月23日4人

8月24日10人

8月25日4人

8月27日1人

7月24日32人

7月30日4人

27人 36人

89~803人

28.4 25.3 *24.5

79~704人

24.7 ◎32.8 25.3 28.8

69~6026人

35.6◎32.728.030.0

22.017.7

◎23.2◎28.7◎24.3

35.630.9

23.526.027.519.625.129.435.2

*25.1*29.9*29.0*28.9*26.5◎24.5

32.536.5

59~5011人

25.7 *23.4◎26.6

◎30.8 21.925.9

○29.2*24.2*30.0

26.034.8

49~409人

27.3 ◎23.018.8

◎19.0

24.523.2

25.8*19.0*26.0

39~307人

26.4 30.7 20.932.0

*26.7*20.3*22.5

29~203人

24.2 24,7 *28.8

*は糖尿病罹患者,◎は40歳未満の人,○印は予定していたが聞き取りできなかった人。網掛は糖尿病ではない・スコア60未満・BMI25以上の人:(7月の聞き取り対象者)8月の聞き取り対象者は1人(糖尿病罹患者)を除く全員

72 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

表7 調査対象者の内訳(2014年)

表8 調査対象者の年齢と性別(男性は8月に1人:網掛)(2014年)

調査対象者 内訳

7月 女性36人 糖尿病罹患者14人。糖尿病でない22人中,BMI25以上は15人,そのうち貧困スコア60以下は7人。

8月 女性26人男性1人

糖尿病罹患者1人。糖尿病でない人26人中,BMI25以上は16人,そのうち貧困スコア60以下は6人。

7月 (36人) 8月 (27人) 計(63人)

年令別 才 才 人

20代 24,24 2

30代 39 30,31,32,33,34,35,38,38 9

40代 45,48,48,45,47,47,47,44,49 41,42,42,40,46,49,47 16

50代 54,58,59,50,54,52,59,50,54,57,54,56,57,52,50 55,50,53,59,56 20

60代 60,61,62,63,63,64,65,65,67 63,66, 66, 68, 13

70代 71 70 2

? ? 1

調査対象者の貧困スコア 糖尿病罹患者(BMI値は多種)

63人 15人

7月 8月 計 7月 8月

80台 2 1 3 1 0

70台 1 3 4 0 0

60台 15 11 26 5 0

50台 7 4 11 2 1

40台 5 4 9 2 0

30台 5 2 7 3 0

20台 1 2 3 1 0

計 36 27 63 14 1

表9 貧困スコア別,糖尿病罹患者の分布(2014年7・8月)

73椋野和子:フィリピン大都市近郊地域の貧困層の糖尿病予防に関する研究

宅を訪問して,貧困スコア測定,BMI測定,聞き取り調査を実施した。したがって,年齢は必ずしも40歳以上とは限らず,BMI高値者は7月より8月の方が多い可能性がある。調査する時間帯は,住民たちが昼食後に午睡や

休息をする生活習慣に合わせ,午前中と夕方に実施した。

5.2 調査結果の分析表6に,調査対象者全員を,調査日毎に貧

表10 BMI25以上の人の貧困スコア別分布(糖尿病罹患者を除く)(2014年)

表11 バランガイ別糖尿病罹患者数(2012年)と男女別人口(2013年)(人)

調査者全員の貧困スコア(63人)

肥満者を意識せず調査した7月BMI25以上の人(36人中)

肥満者を探して調査した8月BMI25以上の人(27人中)

80台 3 1 1

70台 4 1 2

60台 26 7 7

50台 11 4 3

40台 9 1 1

30台 7 1 2

20台 3 0 0

計 15人 16人

男性 女性 計

バランガイ 罹患者 人口 罹患者 人口 罹患者 人口

アプライヤ 16 7,324 35 7,443 51 14,767

カインギン 16 9,617 32 9,772 48 19,389

南ビレ 35 55 90

イババ 20 2,344 43 2,382 63 4,726

カンルラン 21 2,234 34 2,270 55 4,503

ラバス 17 7,797 28 7,923 45 15,719

マルサク 11 2,715 32 2,759 43 5,474

マーケットエリア 12 6,763 32 6,872 44 13,635

シナルハン1 259,862

5210,021

7719,883

シナルハン2 16 32 48

タガポ 5 10,633 30 10,804 35 21,437

計 194 405 599出典:(1)City Health Office 1 , City of Santa Rosa, Laguna (2012 年)。

(2)人口は,City of Santa Rosa2013SOCIO-ECONOMIC PROFILE(2013)。

74 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

困スコアとBMI測定値を記した。7月調査の糖尿病罹患者に注目すると,罹患している14人中,BMI25以上が9人もいることがわかる。表7は,表6を基に,全調査対象者の内訳

を7月と8月に分けて記した。表8に,全調査対象者の年齢・性別を年代

別に記した。調査対象者の設定が女性であることから,男性は一人だけである。8月の調査は,年齢を問わず,肥満気味な人を訪問して調査したことから,調査対象者の年齢は40代以上とは限らず,20代,30代も含まれている。表9は,表6を基に,糖尿病罹患者を貧困

スコア別に示した。調査対象者63人中,15人が糖尿病罹患者であり,貧困スコア別にみると,貧困スコア70台以外,どのレベルの貧困層にも糖尿病罹患者がいることがわかる。表10に, BMI25以上の人を,貧困スコア

別に記した。肥満であるかどうかを意識せずに調査した7月と,肥満者を探しながら調査した8月に分けている。肥満を意識しないで調査した7月の半数近くが肥満気味な人である。貧困スコアで見ると,ほとんどの貧困レベルに肥満者が存在している。ここで,サンタローサ市の糖尿病罹患者に

焦点をあててみよう。サンタローサ市の人口は約2万人で約5000世帯が住んでいる。市内にはバランガイが18ヶ所あり,2ヶ所の保健事務所で管理されており,調査地シナルハンは保健事務所1の管轄である。表11にシナルハンの糖尿病罹患者と人口,男女別,性別をバランガイ別に記した。バランガイ・シナルハンの糖尿病罹患者は77人である。どのバランガイも,男性より女性に糖尿病罹患者が多い。フィリピン国民栄養調査15)では,フィリピンの成人過体重者(BMI≧25)の割合は,男性14.9%,女性18.9%であり,肥

満者MI≧30)の割合は男性2.1%,女性は4.4%で,男性より女性に肥満者が多い。

質問票の分析本調査は,糖尿病予防の視点から「健康」

「食事」「運動」に焦点を絞り,半構造化質問票を用いて,聞き取り調査を実施した。質問票には「はい・いいえ」で回答する質問と,さらに聞き込みをして自由に回答する質問がある。聞き取り対象者は,「BMI25以上・貧困スコア60未満・糖尿病罹患者でない」7月の対象者と,8月の調査対象者全員(糖尿病の1人除く)である。質問票の分析は,貧しい地区と糖尿病予防を意識して,貧困スコア 60未満の人で,糖尿病でない「BMI25以上の人」と,同じく「BMI25未満の人」を比較した。ただし, 7月はBMI25未満の人には聞き取りを行っていない。

「健康」について表12は肥満気味な人と,肥満でない人

(どちらも,糖尿病はなく,貧困な人)の回答を比較した。痩せようと思うかどうかの質問以外に相違は殆どみられなかった。

以下は,その結果である。① 肥満気味な人も,肥満でない人も健康には気を遣っている。

② 糖尿病について,過半数の人がある程度知っている。

③ 肥満は健康的でないと全員が答えている。

④ 肥満は病気を引き起こすことがあることを殆どの人が知っている。

⑤ 糖尿病は元気なうちから気を付ければ予防できる病気であることを殆どの人が知っている。

⑥ BHCで血糖チェックしていることを,殆どの人が知っている。

15)フィリピン国民栄養調査1998年,20歳以上。

75椋野和子:フィリピン大都市近郊地域の貧困層の糖尿病予防に関する研究

糖尿病については,「血糖値が高い病気」という程度の知識を持ち,「元気なうちから気を付ければ糖尿病は防げる病気である」と回答している。さらに質問すると具体的には分からないと回答する人が多かった。この結果から情報提供の必要性も考慮すべきである。そして糖尿病予防のための啓蒙活動によって,健康なうちから実施できる肥満対策を提示することができれば,住民たちの糖尿病に対する知識向上と予防のための具体的行動につながる可能性もゼロではない。

「健康について」の自由回答は,できるだけ多くの調査対象者の意見を反映するために, 8月の調査対象者26人(貧困の度合いに関係なく,糖尿病罹患者ではない人)の意見を集計した。以下,「食事について」「運動について」も同様である。

BHSのワーカーの話では,シナルハンの人々は体調を崩しても,病院や町の診療所に行くより,費用が一定の枠内だが無料になるBHCで医師の診察を受けたり,薬をもらっ

表12 健康についての回答(肥満気味な人と,肥満でない人)(2014)

項目 質問内容

BMI25未満貧困スコア60未満糖尿病ではない

BMI25以上貧困スコア60未満糖尿病ではない

5人 11人

はい いいえ はい いいえ

健康

健康には気を使う方ですか 5 0 11 0

糖尿病を知っていますか 3 2 8 3

太っているのは健康的ですか 0 5 0 11

肥満は将来病気になりやすいことを知っていますか 4 1 8 3

健康なうちから気を付ければ糖尿病を予防できることを知っていますか 5 0 9 2

痩せようと思いますか 2 3 9 2

BHCで血糖チェックしてくれることを知っていますか 4 1 9 2

自由回答:健康について(8月の調査対象者26人)

【あなたが病院に行くときは,どんな時ですか?】•重い病気の時 •身体に異変を感じたとき •妊娠中•病院には行かず,メディカルミッションの巡回を利用する•ハーバルメディシン(薬草治療)で治療する•今,身体の調子が良くないが,もっと悪くなったら行く•11年前に胆石の手術をしたとき •おかしいなと感じたとき•現在眼が悪いので,時々行っている •最悪の時 •バランガイ医師のみ•病院に行かない •保険があるから時々行く •2か月前会社の健診で行った•3年前,胆石で行ったきり •血圧が高くなったら行く。

76 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

たりすることが多い。BHCは住民にとって体調を崩した時の重要な存在となっている。家族の保険や,本人の保険がある人は病院,診療所に行くこともある。また,肥満で健康な場合は医療施設でチェックを受ける機会がない。日本のように健康診断のシステムが整っておらず,正規雇用者であればその機会があるものの,当地では正規雇用者は少なく体調を崩すまで医療者に相談する機会がないのである。

「食事」について質問には「はい・いいえ」で答え,さらに

聞き取りを実施した。それぞれの質問の内容を表にした。ファスト・フードは「めったに食べない」

と「食べない」を合わせると16人中13人が「めったに食べない」のである。

ソフトドリンクを「飲む」人は約半数である。ソフトドリンクの容量は何種類かあり,サリサリストアや道端でもよく売られていて手軽に手に入る。フィリピンは暑いので人々は,のどを潤すために飲むことが多い。メリエンダー16)は肥満でない人の殆どが

食べているのに対し,肥満気味な人は,約半数の人が食べていない。肥満を意識して食べない傾向が窺える。食事指導をBHCの医師から受けている2人

は,数年前に手術した時の指導であり,もう1人は現在,高血圧症に対する食事指導を受けている。指導内容は「油っこいもの,甘いものを控え,食べる量を減らして運動をする」などである。母から受けた指導は医療的ではなく,「食べ過ぎないように」という程度である。バランガイ・セミナーは, BHS

のヘルス・ワーカーが指導をしている。

「ファスト・フードを食べに行きますか?」の回答内容

「ソフトドリンクは飲みますか?」の回答内容

ファスト・フード糖尿病ではない

貧困スコア60未満でBMI25未満の人(5人)

糖尿病ではない貧困スコア60未満でBMI25以上の人(11人)

はい(3人)

食べる(3人) (0人) 1回/月(1人)・2回/月(1人)

1回/2月(1人)

いいえ(13人)

めったに食べない(11人)

滅多に食べない(3人)1回/年(1人)

滅多に食べない(4人)2~3回/年(3人)

食べない(2人) 食べない(1人) 食べない(1人)

ソフトドリンク糖尿病ではない

貧困スコア60未満でBMI25未満の人(5人)

糖尿病ではない貧困スコア60未満でBMI25以上の人(11人)

はい(7人)

飲む(7人)

毎日飲む(1人)暑い時に飲む(1人)

毎日飲む(2人)・1回/月(1人)・1回/週(1人)2本/日(1人)

いいえ(9人)

めったに飲まない(3人) めったに飲まない(1人) めったに飲まない(2人)

飲まない(6人) 飲まない(2人) 飲まない(4人)

16)フィリピンでは1日2回,食事と食事の間に食べるおやつの習慣があり,軽い食事を出されることもある。

77椋野和子:フィリピン大都市近郊地域の貧困層の糖尿病予防に関する研究

バランガイ・シナルハンの人々の食事は「ご飯と少々の魚」が一般的で,炭水化物が多い。ときに野菜や肉が入っているスープをご飯にかけて食べることもある。BHSのワーカーが血糖値測定の時に行っている糖尿病の食事指導は,個人に合わせた指導方法とは言えないが,「ノンオイル,レスシュガー,ハープカップライス」など,住民が理解しやすい指導である。資格のある看護師がいないBHSで,病院受診や検査もままならない貧困地域の糖尿病罹患者への糖尿病指導方法としては適切であろう。同時にこの表現で指導する方法は,健康な肥満者に糖尿病予防として指導することも可能である。

食事に関する回答を,以下にまとめた。① ファスト・フードは,貧困層の人々は,めったに食べていない。

② ソフトドリンクは,肥満に関係なく,飲んでいる。

③ メリエンダーは,肥満気味な人の方が,肥満気味でない人より控えている傾向がある。

④ 食事指導は,高血圧症などの病気があ

る場合,BHC医師により食事指導を受けている。糖尿病に関する食事指導はBHSのワーカーによる毎週の血糖値測定の際にも受けることができる。

肥満の原因を探ろうと,次の3つのグループに属する人,各1名に「前日に食べたものすべて」を書き出してもらった。a.「肥満な糖尿病の人」b.「肥満だが糖尿病でない貧困な人」c.「シナルハンの中でも裕福な暮らしをしている人」

それによるとa,bの2人の朝食は,パンデサル(朝食用の小さいパン)1~2個とコーヒー,昼食は,ご飯と少々の魚または肉であり,夜も同じくご飯と肉,野菜の入ったスープなどであった。いずれも高カロリー食を摂っているとは思えないが,回答は調査を意識してなされた可能性もある。食事だけに肥満の原因があるとは考えにくいが,ご飯の量は,我々一般的な日本人の食事よりも,やや多く摂っていると思われる。cの裕福な人の食事は,他の2人とは少し違っていた。コレステロールが高いので,3か月に1度,町の

「メリエンダーは食べますか?」の回答内容

「食事指導は受けたことがありますか?」の回答内容

メリエンダー糖尿病ではない

貧困スコア60未満でBMI25未満の人(5人)

糖尿病ではない貧困スコア60未満でBMI25以上の人(11人)

はい(11人) 2回/日(4人)1回/日(1人)

時々(3人)1回/日(3人)

いいえ(5人) (0人) (5人)

食事指導糖尿病ではない

貧困スコア60未満でBMI25未満の人(5人)

糖尿病ではない貧困スコア60未満でBMI25以上の人(11人)

はい(12人) 母(1人)医師(2人) 母(4人)バランガイ・セミナー(4人)医師(1人)

いいえ(4人) (2人) (2人)

78 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

診療所に通っていて,医師の指導により,毎日果物を摂り,ご飯を「ハーフカップライス」にしている。cは健康のための運動として,毎日,市場まで約1.5㎞歩いて買い物に行き,帰りは荷物があるのでトライシケルに乗って帰る生活を続けており,最近の半年間で5㎏減量した。このようにシナルハンに住んでいる裕福な

人は,診療所で医師の治療を受け,定期的にチェックを受けている。また貧富の差に関係なく,シナルハンの人々は医師や指導者の指示をよく守る傾向があり,健康にはかなり関心があるといえる。

「食事について」の自由回答には,美味しいが,調味料が体に良くないなど,食の安全

や健康に気を遣っている人が多い。手軽で美味しいファスト・フードについての意見はみられない。

調査地とファスト・フード発展途上国では近年のグローバル化に伴

い,先進国の影響を受け食の変化による肥満者の増大が問題視されている。そして近い将来,糖尿病の増加と生活習慣病が大きな問題となることはWHOも予想している。フィリピンの伝統食は米を主食に魚や肉の煮込み料理を食べていたが歴史上の経緯から中国,スペインの影響を受け,麺類,揚げ物,パスタも食べるようになった。近年ではアメリカの食文化(ファスト・フード)が流入し,油分,塩分が多く高カロリーな食事を摂取する

自由回答:食事について(8月の調査対象者26人)

【若いころに比べて,食べ物がどのように変わりましたか?】•野菜,果物,米の種類が違う•昔,米と豚を食べていたが,今は肉の油がよくないので健康上,魚にしている•家に食べ物があると食べたり飲んだりしている•小さいとき肉をよくたべたが今は魚中心・昔はスリムだったが今は食べ過ぎている•今は調味料(味の素,オイスターソース,シニガンミックス・・)があるのでおいしく感じる

•油が多い•マクドは健康に良くない•昔,母が作ってくれたが,今は自分が忙しいので缶詰にたよることが多くなった•昔は化学調味料,農薬は使わなかったが,今は増えて不安だ•中国野菜のことはあまり知らない•むかし野菜をよく食べていた,今も食べているが肥料,消毒薬が怖い•若いころジャンクフードおかし食べていたが,今は食べていない•昔,物価も安かった,今は子供が増え,まともに食べられない(貧困スコア22)•野菜,家畜に化学肥料や薬を使っているのが気になる•若いとき食べられるだけ食べた,今,食欲はあるがダイエットしている•着色が危険•子供の時,食べ物が少なかった,大人になって増えた•若いとき地方出身で野菜中心だった,15年前サンタローサに来て,チキン,魚中心になった

•合成保存料,着色料が気になる•昔たくさん食べていた,今あまり食べないようにしている(高血圧)•若いとき新鮮な野菜だった,今は食の安全が気になっている•若いころ野菜,魚,新鮮だった,今は美味しいけど体に良くない合成着色,保存料,調味料が入っている

79椋野和子:フィリピン大都市近郊地域の貧困層の糖尿病予防に関する研究

ようになったと言われている。しかし調査結果からはこのように途上国に広がっていると世界中で問題になっている外食産業の波は,フィリピンの貧困層には届いていない。というより手が届かない状況と言った方がよいかもしれない。めったに食べない人が多いのである。むしろ昔からあるフィリピンの伝統料理の方が健康に良いと述べる人が多いのである。このように貧困層の人々はグローバル化

による影響を受けているとは言い難い結果であった。つまり,手軽で美味しい高カロリーなファスト・フードはバランガイ・シナルハンの貧困層の人々は,糖尿病であるなしに関わらず,めったに食べていないのである。

「運動について」の自由回答を以下にまとめた。「歩いた距離と時間」を知るために,前日の行動を思い出してもらう方法をとっ

表13 「運動」についての聞き取り(肥満気味な人と,肥満でない人)(2014)

自由回答:運動について(8月の調査対象者26人)

項目 質問内容

BMI25未満貧困スコア60未満糖尿病ではない

BMI25以上貧困スコア60未満糖尿病ではない

5人 11人

はい いいえ はい いいえ

運動

体を鍛えるなど健康のための運動をしたことがありますか 4 1 9 2

運動指導を受けたことがありますか 1 4 6 5

SRDC(Santa Rosa Diabetic Club)を知っていますか 2 3 3 8

【昨日1日,どこへ歩いていきましたか?(家の中を歩く以外すべて)】•市場までの1㎞を買い物と運動を兼ねて,帰りは荷物があり,トライシケル利用•15~30分家の周囲 •1日中洗濯していて歩かない•毎週日曜日,聖書研究会に歩いて20分 •10分エアロビ会場まで•5~10分家の周囲だけ •家から3分のところを往復 •毎日20分近所•1日1時間,買い物 •家の周囲2,3分を5,6回 •家の周囲10分を毎日2回•ショッピング・モールまでジプニーで行き,2~30分モール内歩く•仕事場で5分歩いた •1日3分ぐらい •毎日7分くらい •100m•家の近くを2,3回 •エアロビ週3回2時間SMマーケットの前までジープニーで行く•1回40ペソの交通費のみで楽しい •通りから家まで5往復(洗濯とご飯作りに忙しい)•いろんなところに歩いていく15~30分毎日 •家の近くを2,3回歩く。【体を鍛えるなど健康のための運動は何をしていますか】•散歩 •ジョギング •ジム週2回1時間 •ダンス •ヨガ週2回•バランガイホールのエクササイズ週3回1時間 •SMの前にあるエアロビ週3回2時間【運動指導をだれに,どんな指導を受けましたか】•医師 •学校 •福祉局 •学校の先生に•ジム •エアロビ•エクササイズ •ウォーキングの指導を受けた•血圧高いけど,お金高いから指導も受診もしていない。

80 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

た。聞き取りの結果,シナルハンから出て買い物に行くこともあまりなく,通りにあるサリサリまで数10メートル歩いて買い物するとか,家の周囲で近所の人とおしゃべりをする,朝起きて湖畔に行ってみるなどが多く,毎日の生活行動範囲が限られていた。健康のために運動を意識して歩く人は少ない。高血圧症などの病気で医師によるチェックを受けている人は,同時に糖尿病の指導を受けられる。しかし,なかには病気だが治療をうけられないという人もいる。【体を鍛えるなど健康のための運動は何をしていますか】の回答からは,調査地には,運動しようとすれば方法は各種あり,住民の中には健康維持のために運動をしている人もいることが窺える。

5.3 糖尿病罹患者の生活次の事例は調査地で生活している糖尿病罹

患者である。糖尿病と診断された後,どのように治療を受け,生活しているか,生活への影響などをインタビューした。A,B,C,Dの4人は,いずれも糖尿病の

診断がついている。そのうち食事と運動療法だけでコントロールしているのはA,1人だけで,他の3人は内服薬治療中である。A,47歳男性(貧困スコア40,BMI26)は

診断を受けた後,薬に頼ることなく運動と食事療法をしている。食事は1日2回,家族とは別メニューにし,毎週BHSで血糖チェックと指導を受けている。BHSで,彼の記録を見ると,2014年5月から8月の血糖値17)は,102から196と変動がある。血糖値のほか体重,血圧も記録・保管されており,本人はトライシケルドライバーをしながら積極的に体調の自己管理をしている。B,48歳,女性(貧困スコア37,BMI28.8)は高血圧症のチェックを受けていたおかげで,2か月前に糖尿病と診断されたばかりだ。高血圧の薬を以前から服用している。現在は

両方の薬をのんでいる。「医療費がかかって生活は大変だけど,娘の主人が働いてくれるので助かっている」と言う。家族の保険でクリニックを受診し,医師のチェックを受け,血糖値は300あったが今は下がっている。BHSで毎週血糖値測定をし,食事指導も適宜受けている。マーケットで魚を売る仕事をしている。C,45歳女性(貧困スコア32,BMI26.7)

は2年前から高血圧で内服治療中であり,血糖値は毎週BHSでチェックしている。Cはインダイジェント対象者であり,薬は時々サンタローサ市からもらっているが,それだけでは足りず,もらえる時期まで薬局で安価な糖尿病の薬を1錠8ペソで購入している。宝くじを売り歩く仕事をしており,それが運動になっている。食事は3食とも1カップライスに魚1切れの生活で,野菜や肉は高価だから食べないと言う。BHCで医師のチェックを月1回無料で受けている。D,64歳女性(貧困スコア50,BMI30)はイ

ンダイジェント対象者で,甲状腺と糖尿病の治療をしている。膝が痛くて家の中を歩くのがやっとである。家にテレビはない。糖尿病は3~4年前からで,薬は時々購入している。SRDCのメンバーであり,BHCで医師のチェックを受けている。本人は働けないので,家族が働いて治療に協力している。「シニア・シティズンを利用できるのでありがたいわ」と言い,「家族の援助があるから,なんとかやっていけるのよ」とも言っている。

バランガイ・シナルハンでは糖尿病罹患者だけでなく,経済上の理由などで町の診療所に行くことができない人が多く,健康上問題があればBHCに相談している。こうした問題を解決するために,医師2人が新たに2014年3月から配属された。それまで月1回の診察をしていた保健所の医師と合わせて3人の

17)空腹時血糖正常値: 100㎎/dl(日本糖尿病学会)

81椋野和子:フィリピン大都市近郊地域の貧困層の糖尿病予防に関する研究

医師が週2日ずつ交替で半日BHCに常駐し,毎日診察が行われるようになった。なお週のうち1日は,1日中常駐する。診療以外にも週1回の巡回医療も行われている。それらバランガイでの診療には,ガイドラインがあり一部有料の場合もあるが,基本的には無料である。フィリピンでは所得格差により貧困層はい

つまでたっても貧困のままであり,特に農林水産業に携わる人々にはその傾向が強い(鈴木,2010)。バランガイ・シナルハンに医師が派遣されて無料の医療提供が実施されることは,貧困層の人々が医療を受けられる環境が整いつつあるということであり,糖尿病罹患者は医療関係者による助言をうけながら病気と向き合っている。

5.4 調査地の糖尿病診療以下は,バランガイ・シナルハンに2014

年3月から新しく派遣された医師による糖尿病の治療方針である。

① 糖尿病Ⅰ型とⅡ型に対応② 糖尿病についての教育③ 糖尿病足病変モニタリングと血糖値測定④ 予防のアドバイス

減量と体重管理低糖ダイエット,栄養,食事医療相談,フォローアップ血糖値測定と記録薬の投与と記録エクササイズライフスタイル

医師が派遣されたのは筆者が事前調査を終えた後であった。したがって事前調査時には1人のミッドワイフと10人のBHWたちが住民からの医療相談や,医療業務に対応し糖尿病の指導も実施していた。ワーカーたちで対応できない事例は保健所医師の診察をうけるよ

うに助言していた。BHSの業務は,月曜日は各種健診,火曜午前は血糖値測定,水曜日は予防接種,木曜日は妊婦健診,金曜日は記録業務と曜日ごとに決まっている。BHCにおいて医師の診察日が増えることは,ミッドワイフと看護師資格のないBHW にとっては,日々の業務が安心して行うことができ,医師から直接指導を受けられる教育の機会にもなる。そういったことからバランガイ・シナルハンでは貧困地域の住民に対する医療サービスは徐々に改善されていると言えよう。

6.全体の考察と今後の展望6.1 保健医療体制の整備状況本節では,調査地における保健医療体制の

整備状況について調査したことを概括する。2008年から活動している糖尿病プログラム(SRDC)は,サンタローサ市長が力を入れ,毎年7月に糖尿病週間を定めて,糖尿病予防の啓発に取り組んでいる。その目的は,薬に頼らず身体を鍛えて糖尿病を防ぐことである。一方,保健医療政策の一環として,2014年からバランガイ・シナルハンに医師が配属され,BHCでは毎日診察が行われるようになった。いずれも貧困地域での保健医療分野の積極的取り組みである。しかしながら,保健所に勤務する看護師の話では,サンタローサ市にはバランガイが18あるが,そのうち10バランガイの糖尿病罹患者数のデータしかなく,8バランガイの医療データは管理されていない。それらのバランガイでは,既にBHSが機能していないのだという。その理由はサンタローサ市の工業地域等に住んでいる裕福な暮らしをしている人々は,病気になれば看護師も医師もいないBHSよりも診療所や病院へ行くようになってきたからである。そのように富裕層が増えているバランガイに比べて,貧困層の多いバランガイ・シナルハンではBHSが住民にとって大切な保健医療施設である。このようにサンタローサ市

82 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

には豊かな暮らしをしている人と,貧しい暮らしをしている人が住んでおり,富裕層は病院や診療所で受療し,一方,貧困層はBHSを利用するという二つの異なる受療状況がある。これがバランガイ・シナルハンにおける受診形態の特徴である。フィリピンでは,補助を必要とする貧困層

の住民はインダイジェント・プログラムにより保険料の支払いを免除され,一定の枠内で医療補助が受けられる。たとえば,サンタローサ市の貧困層の23.1%がその恩恵を受けている。さらに保健所医師による週1回の糖尿病罹患者の無料モニタリングと,インスリンを必要とする貧困層の糖尿病罹患者への無料配布がある。インスリンの量は十分ではないが,糖尿病罹患者は助かっている。医師は遺伝的要因のある家庭を重点的に指導し,糖尿病予防の啓蒙に努めている。医師の診察,薬,処置,手術などは一定のところまで無料で受けることができる。BHSでは各種健診や指導,出産も行われている。その他に,1~2年に1回実施される特別の医療もあり,簡単な手術やチェックが受けられる。また,60歳以上の人はシニア・シティズンで医療費が2割引きになる。また,SRDCの一策でBHCに隣接しているバスケットコートでは週3回,それぞれ1時間のエクササイズの指導が無料で行われている。このように,バランガイ・シナルハンの貧

困層の人々は医療を必要とする状況が生じた場合,家族に支えられることがなければ難しいという状況は多分に見られるが,何とか生活することができている。貧困なバランガイであるとはいえ,保健医療が発展し整備されてきている。この状況は,調査を繰り返し実施することにより明るみにできたと捉えている。

6.2 調査から得られた知見調査するにあたり,研究の問題意識を本稿

の冒頭に提示した。調査は想定される仮説に基づき,フィリピン版,貧困スコア・カードを用いて貧困度を調べ,「糖尿病」「肥満」「所得階層」「食生活」の相互関係を見ながら調査し,前章までに調査によって導かれた結果を提示した。その中で,注目したいことが3点ある。1点目は,貧困なバランガイにも糖尿病が広がっていること。2点目は,どの貧困のレベルにも肥満者や糖尿病罹患者が存在していること。3点目は肥満者でもファスト・フードをあまり食べていないという発見である。限られた調査対象者のデータからではあるが,1年余りの文献調査と,貧困なバランガイに3回も現地入りして調査を進めた結果である。

6.3 糖尿病予防の課題と展望調査地は貧困なバランガイとはいえ,当

初,想定していたよりも,はるかに保健医療体制は充実しており,糖尿病に罹患した人は,現行の保健医療体制と家族の協力をうけながら地域で生活している。しかし,肥満な人にとっては問題が多い。想定した仮設を視野に入れ,肥満者への糖尿病予防の視点から次の5つの問題をあげることができる。1つ目は,貧しい人々は健康なうちに診療を受ける機会は少なく,糖尿病の症状が出る前に発見することは難しいこと。実際に現地の糖尿病罹患者は体調を崩して受療する際に糖尿病が見つかっている。そのため今後は合併症が出てから初めて糖尿病が発見される人が増える可能性がある。かりに,健康診断を実施するとなれば,予算,人材,医療教育の問題もあり簡単には実施できない。したがって健康診断がなくても健康教室などによって糖尿病について知ることは病気予防の上からも重要である。2つ目は,貧困層の人々は,経済的理由の

ために,きちんとした診断・治療を受けることができないこと。これは,国民の医療保険

83椋野和子:フィリピン大都市近郊地域の貧困層の糖尿病予防に関する研究

や受療者の経済事情,さらに医療関係者の教育事情も関係している。また,貧困層の人々にとって「診断をうけ,治療する」ことが何を意味するかを考えてみると,まず,きちんとした診断には高額の医療費が必要になる。診断がついたとして,その後の生活に及ぼす影響は,治療費がかかるだけでなく,職を失いかねないというデメリットが存在する。たとえば,河川の中に入るような仕事をしている人が,糖尿病の「診断」がついたとして,足に傷を作れば感染して重症化し,壊死に陥る可能性がある。そのため,雇用者は,仕事を辞めさせるかもしれない。職に就くことが難しい地区で収入がなくなれば,生活そのものがさらに苦しくなるのである。このように「きちんとした診断・治療を受けることができない」という糖尿病罹患者の課題ではあるが,医療者側からすれば「診断して治療することができない」という課題にもなっている。つまり,貧しい地域では「診断」して「治療」することが難しいのである。3つ目は,健康で肥満な人は,自ら肥満の

程度を知る機会がないこと。貧困層の人々は,病気であれば,保健医療体制の恩恵を多少なりとも受けることができる。しかしながら健康な肥満者にはこのような手立ては今のところない。肥満者は健康上,特に問題がなければBHSや診療所に行く機会がない。肥満の程度を自覚することができない問題を解決しようにも,体重計は高価であり,どの家庭にも置いているというわけではない。人々の生活において体重は,それほど関心事ではなく,体重計の需要がないということかもしれない。このような状態では糖尿病予防のために,自らが肥満かどうかを確認することすらできない。4つ目は,バランガイで実施している運動

指導の他に,医療的な注意や指導を受ける機会がないこと。BHCで行われているエクササイズは肥満者の半数以上が知らないと答え

ているように,情報へのアクセスが限られているという問題がある。5つ目は痩せようと思うが行動が伴わない

こと。肥満者も肥満でない人も,肥満は良くないし,痩せたいと思っているが,減量の必要性を実感として受け止めておらず,運動が身体に良いとわかっていても,自ら進んで運動したり,歩いたりする傾向はみられない。フィリピンの人々は,近い距離でもトライシケルを利用するという歩かない生活文化があり,それが減量しにくい理由のひとつでもある。さらに運動しないのは指導だけの問題だけではなく,行動変容の問題がある。このことに注意する必要がある。肥満には決定的な原因が存在しないため

に,肥満を治療する特効薬もない。効果的な予防戦略としては,SRDCにもある集団アプローチとしての健康増進キャンペーン,医師による個人アプローチを組み合わせて,人々の健康への意識変革を促すこと,また多くの利害関係者,例えば食品業界と経済界の協力や公衆衛生と食の安全に関連した分野の協力など,多くの業種が協力し合うシステムづくりも必要ではないかと考える。調査では,貧困地域に暮らす人々が,将

来,健康を害すると言われている肥満を必ずしも問題としていないことが判明した。このため健康に配慮した行動の選択を促進するためには,住民の身近な環境の中で健康へ関心を向けることが重要である。予防という難しい課題に立ち向かうには,個人に任せるだけでは解決しない。人間には意志の弱さや,問題の先送りなどの行動原理があり,わかっているができないことが多いのである。健康教育は効果的ではあるが,興味,関心を持ち続けるためには日々の生活に密着した方法が望ましく,人々が自ら実施できる活動が求められる。糖尿病に移行する前の,健康で肥満な状態

のうちに,なんとか糖尿病や肥満に関する情

84 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

報が得られるよう,その環境づくりをして,糖尿病を知る機会の提供をしなければならない。肥満者は体重の具体的な数値を見て肥満の自覚ができることが重要である。家庭に体重計がなくても,BHWが巡回の際に持参できる携帯用の体重計を購入することでより多くの人の体重測定が可能になろう。また,肥満者に食事や運動指導をする際には,具体的で分かりやすい指導内容にすることが望ましい。個人というより集団に合わせた指導方法で,BHWが日常業務として現在実施している糖尿病罹患者への食事・運動指導が,肥満者への指導として対応できそうである。それらを含めて,糖尿病予防の対策を提案

したい。それは体重減少を目的としたプログラムである。具体的にはバランガイが中心となって,学校とそこに通う子供の協力で,親や近所の人に声掛けをしてもらう方法である。中年女性には就学児がいることが多い。いなくても近所には必ずそういった子供がいる。学校でその啓蒙活動に協力してもらう形にして,月に一度バランガイでの体重測定に参加しよう,というキャンペーンを行うのである。糖尿病予防に向けての活動が,フィリピン

人のホスピタリティを重視する文化に密着した形で,しかも人々が自然に参加でき,持続可能なものであれば,そうした中で個人の予防への思いが活性化され,行動変容が起きるかもしれない。子供たちが学校からの知らせを,親たちに

知らせ,1か月後,あるいは数か月後,(減量の目標値を医師と相談して決めておき)減量に成功した人には,一定のお米か,あるいは,ほかの品をプレゼントする。バランガイで体重測定をする際には,食事・運動指導を受けることができる。予算も関係することから期間限定にするなど,行政との話し合いで決める。これは,体重測定をデフォルトの選択枝にしてインセンティブを提供すると言う取り組みである。

7.おわりに本研究では,現地調査により現地の生活状

況,医療状況,保健医療体制の整備状況を明らかにし,バランガイ・シナルハンにおける糖尿病の現状と糖尿病予防の問題を指摘することができた。フィリピンでは糖尿病予防に関する調査研究数は少ない。なかでも貧困層の肥満な人々に直接話を聞くと言う調査は見当たらなかった。本研究を通して筆者自身がバランガイ・シナルハンをある程度理解できたように,既存データの少なさから研究を諦めるのではなく,貧困な人々の健康のために,地道に調査をすることが重要だ。この研究が,さらなる研究の足掛かりになれば幸いである。平穏な生活に研究者が立ち入ることは良くない場合もあるが,現地医療者の保健医療に対する取り組みを尊敬し,住民には迷惑がかからないよう努力した。本稿が今後の現地医療の発展に役立つことを祈っている。

85椋野和子:フィリピン大都市近郊地域の貧困層の糖尿病予防に関する研究

参考資料

貧困度を推定するためのスコア・カード(フィリピン版 2014年)

Simple Poverty Scorecard for Philippines

Indicator & Response Points Score

1. How many members does the household have?

A. Eight or more 0B. Seven 2C. Six 6D. Five 11E. Four 15F. Three 21G. One or two 30

2. Are all household members ages 6 to 17 currently attending school?

A. No 0B. Yes 1C. No one ages 6 to 17 2

3. How many household members did any work for at least one hour in the past week?

A. None 0B. One 2C. Two 7D. Three or more 12

4. In their primary occupation or business in the past week, how many household members

were farmers, forestry workers, fishers, laborers, or unskilled workers?

A. Three or more 0B. Two 4C. One 8D. None 12

5. What is the highest grade completed by the female head/spouse?

A. No grade completed or elementary undergraduate 0B. No female head/spouse 2C. Elementary graduate or high-school undergraduate 2D. High-school graduate 4E. College undergraduate or higher 7

6. What type of construction materials are the outer walls made of?

A. Salvaged/makeshift materials, mixed but predominantly salvaged materials,

light materials (cogon, nipa, anahaw), or mixed but predominantly

light materials 0B. Mixed but predominantly strong materials 2C. Strong materials (galvanized iron, aluminum, tile, concrete, brick,

stone, wood, plywood, asbestos) 37. Does the family own any sala sets?

A. No 0B. Yes 3

8. Does the family own a refrigerator/freezer or a washing machine?

A. No 0B. One or the other, but not both 6C. Both 12

86 アゴラ(天理大学地域文化研究センター紀要)

9. Does the family own a television set or a VTR/VHS/VCD/DVD player?

A. No 0B. Only television 4C. VTR/VHS/VCD/DVD player (with or without TV) 7

10. How many telephones/cellphones does the family own?

A. None 0B. One 4C. Two 7D. Three or more 12

microfinance.com Score

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http://www.diabetesphil.org/html/files/clinical_practice_guidelines_draft.pdf(2013/5/13).

WHO:Obesity and overweight

http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs311/en/(2014/11/19).

WHO(2008) "Global Action Plan for the Prevention and Control of Non-Communicable Diseases 2013-

2020"

http://www.who.int/nmh/events/ncd_action_plan/en/(2014/11/19).

謝辞

この研究は,天理大学地域文化研究センターの諸先生方のご尽力と,日本福祉大学大学院の雨森教授の御指導,研究当初から上田和興氏には,通訳をはじめ,バランガイ・キャプテンや医師へのコンタクト,住民との架け橋,滞在中の住居の便宜など多くの助力,そして調査地では,バランガイ・キャプテン,保健所の医師,看護師,BHCおよびBHSの職員,サンタローサ市の職員,日本で日本語教師の経験のある現地協力者,住民の皆様の協力があり実現し得た。ここに深く感謝の意を表します。

89椋野和子:フィリピン大都市近郊地域の貧困層の糖尿病予防に関する研究