モデリングの実際 - CG-ARTS...(画像提供:株式会社ModelingCafe) 3 chapter...

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chapter 3 130 3- 1 3 -3 モデリングの実際 モデリングは対象の種類や使用目的によって,適切な手法や手順を選択 する必要がある。映像作品のなかに登場することが多い,キャラクタ,背 景,メカニックの3種類について,実際にモデリングする場合の手順や手 法,モデリング以外の工程との関係,制作における注意点を解説する。 3 -3- 1 モデリングの基本的な進め方 まずすべての対象共通する,基本的なプロジェクトでのモデリン グのについてべる[ 1]制作前 デザイン モデリングの,対象のデザインがわれるデザインにもさま ざまなやりがあり,全体的なデザインの方向性シーンでのっていく場合にはコンセプトアートやイメージイラストがかれるディテールまで決定する場合には,設定画モデリング参照できる三面図かれる。各部素材については,別途設定 がおこされることもある (図 3.47)。 以前2 次元くことがデ ザイン作業であったが,現在では段階からも 3次元CGデータがつ くられ,3 次元的にデザインの検証われることも一般的になって いるデザインしながらさまざまな角度からの方,色素材感 わせて確認でき,完成したデザインのモデルデータをそのまま モデリング作業げるからであるデザイン担当者,映像演出家,美術監督,色彩設計,造形全体責任者とイメージの共有をし ながらデザインを提案していく必要があり,決定されたデザインがモ デリング担当者される資料集め デザイン作業だけで決定できない細部については,補足資料ることでモデリング担当者への具体的指示スタッフのイメージ のすりわせがわれるたとえば,対象人物であればイメージに 造形をもった実在人物写真指針にしたり,実在する物品写真使って各部のマテリアルや指示したりすることで,具体的 なイメージを共有できる

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3-3モデリングの実際モデリングは対象の種類や使用目的によって,適切な手法や手順を選択する必要がある。映像作品のなかに登場することが多い,キャラクタ,背景,メカニックの3種類について,実際にモデリングする場合の手順や手法,モデリング以外の工程との関係,制作における注意点を解説する。

3-3-1 モデリングの基本的な進め方

まず,すべての対象に共通する,基本的なプロジェクト内でのモデリングの進め方について述べる。

[1]制作前・デザインモデリングの前に,対象のデザインが行われる。デザインにもさま

ざまなやり方があり,全体的なデザインの方向性や,シーン内での見え方を探っていく場合には,コンセプトアートやイメージイラストが描かれる。ディテールまで決定する場合には,設定画や,モデリング時に参照できる三面図が描かれる。各部の色や素材については,別途設定がおこされることもある(図3.47)。以前は2次元の絵を描くことがデザイン作業であったが,現在では早い段階からも3次元CGデータがつくられ,3次元的にデザインの検証が行われることも一般的になっている。デザインしながら,さまざまな角度からの見え方,色や素材感も合わせて確認でき,完成したデザイン用のモデルデータをそのままモデリング作業に引き継げるからである。デザイン担当者は,映像の演出家,美術監督,色彩設計,造形全体の責任者とイメージの共有をしながらデザインを提案していく必要があり,決定されたデザインがモデリング担当者に受け渡される。

・資料集めデザイン作業だけで決定できない細部については,補足資料を付け

ることで,モデリング担当者への具体的指示や,スタッフ間のイメージのすり合わせが行われる。たとえば,対象が人物であれば,イメージに近い造形をもった実在の人物の写真を指針にしたり,実在する物品の写真を使って各部のマテリアルや色を指示したりすることで,具体的なイメージを共有できる。

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[b]キャラクタの表情集

■図3.47──キャラクタのデザイン(『蒼き鋼のアルペジオ−アルス・ノヴァ−』©ArkPerformance/少年画報社・アルペジオパートナーズ)

[c]キャラクタの色設定

[a]キャラクタの設定画

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・モデリング作業に入る前の確認事項モデリング担当者は,そのモデルに必要とされる仕様や条件を,作業前から理解しておく必要がある。まず,モデルに求められる演出的な特性,どのシーンでどのように使われるのか,デザイン的な細部の設定についての理解が求められる。さらに,後工程のリギング作業と連携するためには,オブジェクトの階層構造,ローカル座標系の原点の位置や軸の方向,変形部分の頂点の分布,マテリアルやシェーダの設定に必要なパーツ分けやUV設定への配慮も必要である。レンダリング用のモデルデータまで担当する場合は,コンポジタに受け渡す素材の仕様も確認する必要がある。そのほかにも,モデリングのチーム内で共通させておくべきモデルのつくり方,各パーツの命名規則,使用してよいデータ量などの確認が求められる。これらすべてがモデリングの具体的な方法や使用ツールの選定に影響を与えるため,事前にしっかり検討しておく必要がある。

[2]制作途中モデルの大まかな形状,ボリューム,プロ

ポーション,オブジェクトの配置などの確認を制作途中でとりながら,徐々にディテールをつくり込んでいく。モデルを確認する際には,3次元CGソフト上でさまざまな方向から表示したり,ターンテーブル上で360度回転させる確認用のムービーをつくったりする。また,モデリング作業に先行して絵コンテやプリビズが制作されている場合には,随時内容を共有し,絵コンテやプリビズで使用されるカメラアングルやサイズ,想定されるカメラでのテストレンダリングなども行い,問題がないか確認することが望ましい。モデルが完全に完成する前段階でも,適宜マテリアル設定担当者やリギング担当者にデータを見てもらい,データの構造や進め方に問題がないか確認しながら進めるようにする。

[3]制作終盤モデルの造形が承認されたら,データを後工程に引き継ぐ。モデリン

グ時に生じるエラーや,仕様に合っていないところがないか,事前に確

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[a]完成モデルのワイヤフレーム [b]テクスチャやシェーダを適用し,見え方を確認している

[c]作品内で使用されている完成モデル [d]完成モデルを使用した作品のキービジュアル

■図3.54──セルアニメ調の作品におけるロボットの表現(『シドニアの騎士』©弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局)

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[2]メカのモデリングの手法メカのモデリングでは,ポリゴンを使用することが多い。メカで多用

される幾何学的な形状どうしの接合,データ量のコントロール,修正や構造の変更などが比較的容易なことがおもな理由である。 シャープな面や,鋭いエッジが求められる一方で,滑らかな曲面が必要な場合もあり,サブディビジョンサーフェスを使用することもある。モデリングの初期段階に,大まかなデザインの方向性,プロポーション,構造などの試行錯誤を重ねる場合には, スカルプトツールが使用されることもある(図3.55)。また,実在する機械や製品をモデリングする場合には,建築物と同様,CADデータを流用することもある。CADデータは外側から見えない部分までつくり込まれていることが多いため,データを整理してから使用する必要がある。

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[a]スカルプトツールを使い,形,プロポーション,構造などを試行錯誤している [b][a]の完成画像

■図3.55──スカルプトツールを使った,フォトリアルなロボットのモデリング(画像提供:株式会社ModelingCafe)

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[3]メカモデルのマテリアル設定メカモデルで多用される素材には,金属,ガラス,プラスチックなどが

あり,ときにゴムも用いられる。金属は,メッキ加工,ヘアライン処理,塗装など,表面の加工方法によって見た目がさまざまに変化する。また,広い面を細かいパーツの組み合わせで表現するものも多い。使用頻度が高ければ,各所に油や泥による汚れも加わる。さらに使用年数が長ければ,塗装のはげや錆も加えられる。これらのディテールのすべてをモデリングするとデータ量が重くなりすぎる場合があるため,カラーマップ,バンプマップ,ノーマルマップなどで表現することも多い。強いハイライトや映り込みのある質感の場合,レンダリングを行ってみなければ,最終的な曲面の見え方を確認できないため注意が必要である。

[4]メカのモデラに必要な知識実写,アニメを問わず,既存の映像作品内でのメカの表現方法を研究

することは有効である。また,実在する自動車,二輪車,重機,兵器などの形や構造,動くしくみに対する理解を深めることで,メカ表現の説得力を高めることができる。 たとえ架空のメカをモデリングする場合であっても,現在の科学技術にもとづく設計ルールや物理法則を下敷きにすることで,リアリティを高めることができる。粘土造形,金属加工,プラモデルなどを経験することで,造形感覚を磨くことも有効である。

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[a]人体の脊柱は,体幹の中心ではなく背面寄りに位置している

[b]赤い矢印は,脊柱部分のスケルトンの位置を表している(『蒼き鋼のアルペジオ−アルス・ノヴァ−』©ArkPerformance/少年画報社・アルペジオパートナーズ)

■図4.14──脊柱のリギング

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リギングの実際

4-2-1 キャラクタのリギング

[1]人体骨格とスケルトン構造人体骨格を理解することが,人型キャラクタのリギングの第一歩であ

る。とりわけ個々の骨,および関節の位置の正確な把握が重要となる。たとえば脊柱

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は,体幹の中心ではなく背面寄りに位置している。また指骨も,掌とは反対側の背面寄りに位置している。スケルトン構造を設定する際に,前述のような人体骨格の構造を模倣すると,自然な変形を実現できる場合が多い(図4.14,図4.15)。その一方で,ごくまれに,人体骨格を模倣しても思うような変形ができないこともある。その場合には,本来とは違う位置にスケルトンを設定する(図4.16,図4.17)。

4-2リギングの実際実際の作品制作においては,モデルの形状やアニメーションの内容に応じて,異なるリギングが施される。また,同じ人型キャラクタであっても,体格や性格などの個性が違えば,リギングのしくみも変わってくる。ここでは,制作現場で実際に使われている多様なリギングの作例を紹介する。

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*8「せきちゅう」と読む。7個の頸椎,12個の胸椎,5個の腰椎,仙骨,尾骨で構成されている。いわゆる背骨のこと。

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[a]人体の鎖骨の内側端は,身体の中心にある胸骨の上端に接している

[b]緑色の点は,スケルトン構造の鎖骨内側端の関節位置を表している。スキニングに支障があったので,本来の位置よりも少しだけ外側にずらしてある(『蒼き鋼のアルペジオ−アルス・ノヴァ−』©ArkPerformance/少年画報社・アルペジオパートナーズ)

■図4.16──鎖骨のリギング

[a]人体の股関節は,股間とほぼ同じ高さに位置している

[b]緑色の点は,スケルトン構造の股関節の位置を表している。スキニングに支障があったので,本来の位置よりも少しだけ斜め上方にずらしてある(『蒼き鋼のアルペジオ−アルス・ノヴァ−』©ArkPerformance/少年画報社・アルペジオパートナーズ)

■図4.17──股関節のリギング

[a]人体の指骨も,掌とは反対側の背面寄りに位置している

[b]赤色の点は,スケルトン構造の指の関節位置を表している(『蒼き鋼のアルペジオ−アルス・ノヴァ−』©ArkPerformance/少年画報社・アルペジオパートナーズ)

■図4.15──指のリギング

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■図6.1──シーンのレイアウト[a]の絵コンテをもとに[b]のレイアウトがつくられ,アニメーション,コンポジットなどの工程を経て[c]の完成映像ができあがる。(ⓒ東映アニメーション・ニトロプラス/楽園追放ソサイエティ)

[a]絵コンテ [b]レイアウト

[c]完成映像

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シーンデータの構築

6-1-1 シーンのレイアウト

シーンのレイアウトとは,絵コンテやビデオコンテをベースに,個々のカットのキャラクタやプロップ(小道具)の配置,カメラアングルなどを3次元CG空間内で実際に再現していくことである。レイアウトは制作の中心的な工程であり,アニメーションやライティング,コンポジットなど,後工程全体に影響をおよぼす。この作業結果を見て,配置や演出,デザインを再考したり,各カットの尺やアニメーションのタイミングなどを調整し,シーンやカットの最終的な構成を確定させてゆく。また,制作初期段階でのレイアウト作業はダミーモデルを使用するな

ど,ラフな作業となる場合が多い。そのため,最終的なモデルが完成したのち,それらを組み合わせ,改めて厳密なレイアウト調整を行う必要がある。その作業もレイアウトとよぶ(図6.1)。

6-1シーンデータの構築シーンデータを構築するうえで最も重要なのは,そのシーン,あるいはカットに何が求められているのか,何を表現したいのかを理解することである。シーンデータを構築するという工程は,演出にとって重要な要素をすべて含んでいる。ここではシーンのレイアウトについて解説する。

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■図6.2──基本的なシェーダ[a]ランバートシェーダ [b]ブリンシェーダ [c][b]に透過・屈折の効果を加えたもの

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マテリアル表現

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6-2-1 マテリアル設定のポイント

マテリアル設定を行うには,各パラメータとテクスチャがどのように関係し,結果に影響をおよぼすかを知らなければならない。また,マテリアル設定のパラメータだけではなく,ライティングやレンダリング手法による影響も考慮する必要がある。ここでは,どのような要素がマテリアル設定に影響を与えるかについて解説する。

[1]基本的なシェーダ物体に光を当てたときに物体表面上に生じる明暗,すなわち反射光の

強度を計算によって求めることをシェーディング*1

とよぶ。 また,この計算を行うメカニズムのことはシェーダとよぶ。意図した質感を表現するには,適切なシェーダの選定が必要である。CGソフトに実装されている多様なシェーダを使いこなすためには,目指す質感に近付けるための観察と,シェーダ自体のしくみの正しい理解が大切となる。ここでは基本的なシェーダについて解説する。ランバートシェーダは,チョークやつや消しのペイントなど,ハイライトをもたないサーフェスの表現に適しており,計算コストも少ない。フォンシェーダやブリンシェーダは,鮮明なハイライトを表現でき,自動車のパーツやバスルームの備品など,金属やプラスチックのサーフェスに用いられることが多い。 またシェーダによっては,透過と屈折を表現できるものもあり,ガラスや水面の表現も可能となるが, 表現の要素を増やすごとに計算コストは高くなってゆく(図6.2)。

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6-2マテリアル表現実際の作品制作においては,各パラメータやテクスチャを機械的に設定すればよいというわけではない。ここではマテリアル設定時の注意点や,高度なマテリアル表現について解説する。

*1 シェーディングについては,3-1-4を参照のこと。