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新型インフルエンザ発生時のオフィス内感染拡大抑制の シミュレーション 〇下馬場有祐、林潤英、中井豊、市川学 ( 芝浦工業大学 ) 1. 背景と目的 2. 研究方法 4. シミュレーションの実行 5. おわりに 6. 参考文献 実際の研究室 事業者・職場における新型インフルエンザ対策 ガイドライン https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf 厚生労働省 新型インフルエンザ流行時の日常生活におけるマスク使用の考え方 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/09/dl/s0922-7b.pdf エージェントベースシミュレーションにより、オフィス内人数を減少させる方法 でも,通常通りの接触を行うが咳エチケットを行うことで飛沫を抑える方法でも、 感染抑圧の効果はあることが検証できた。今回の研究はオフィスの中で対策を行う 人数によって、効果を発揮しやすい閾値が存在する可能性を示したものとなる。 シミュレーションモデル 未知の感染症である新型インフルエンザは殆どの人が免疫を持っていないため, 一度発生すれば大きな健康被害と、これに伴う社会的影響をもたらすことが懸念さ れている。今後強毒性の新型インフルエンザが流行した場合に向けて、いつでも感 染対策を実行することができるよう準備をしておく必要がある。新型インフルエン ザの対策としては、外出や集会の自粛といった他人との接触を避けることがあげら れる。本研究では企業が感染対策を行った場合について注目した。 ①テレワークによる人と人の接触を避ける感染対策 企業が在宅勤務体制を行った場合、オフィス内人数の減少で人と人の接触を抑え る効果が期待できる。 ②咳エチケットで他人への感染を抑える感染対策 マスクの着用等の咳エチケットによって飛沫を抑えることで、他人との接触を 行っても他人への感染を防ぐことができる効果が期待できる。 本研究では効果的なオフィス内対策を考察することで、今後新型インフルエンザ の流行を見据えて、効果的な感染対策を啓蒙する際の指標となることを目指す。 本研究ではエージェントベースモデルを使用して、新型インフルエンザ発生時に エージェントが各種感染対策を行うことで、感染拡大抑制の効果を調べ、各種感染 対策の評価を行う。 3. 感染モデルの構築 3.1. 行動データの収集と行動プロセスの再現 3.2. 地図の再現 上記の期間にコアタイムを設けることで現実のオフィスに見立てた行動の再現を 行う。取得したデータを元にエージェントの種類を 4 パターンに分けて、パターン ごとに独自の行動プロセスを設定した。エージェントは入室と同時に部屋内の椅子 に座って待機し、パターン毎に設定した時間で休憩を挟む。 実際の研究室をシミュレーションモデルの南部分に落とし込んだ。北部分はエー ジェントの外出時の行先や在宅勤務時に利用する。エージェントの感染は南部分の 研究室の中のみで考慮される。 3.3. 感染プロセスの再現 ・最初の感染者はランダムで 1 人発生 ・感染者は 30 分に一度飛沫を飛ばし、半径 2m 内に存在したエージェントが低確 率で感染 ・感染する確率=感染力と定義して、複数の感染確率でシミュレーションを実行し 3.4. 感染対策の実装 ①咳エチケット実行時…マスク着用した感染者の周囲への感染確率が 1/10 になる ②オフィス内人数減少時…総人数を減らす、又はエージェントの一部が在宅勤務 構築したモデルの1週間分 ( 平日 5 日 ) のシミュレーションを実行する。シミュ レーションは感染確率と対策ごとに 100 回実行し、その平均値で結果を算出する。 シミュレーション結果を以下のように計算し纏める . < 総感染者数 > 総感染者数 = 部屋内感染者数 + 通院者数 < 感染者率 > 感染者率 = 感染者数 / オフィス内最大人数 < 追加感染者数 > 追加感染者数 ( 初期感染者を除いた感染者数 ) = 総感染者数 ‒ 1 < 感染者抑制率 > 感染者抑制率 = 対策時の感染者率 / 非対策時の感染者率 4.1. 非対策時のシミュレーション結果 感染確率 1% 2% 3% 4% 5% 6% 7% 8% 9% 10% 総感染者数 2.275.469.6015.3518.8922.6224.8226.4026.9928.92感染者率 7.57% 18.20% 32.00% 51.18% 62.96% 75.40% 82.73% 88.00% 89.97% 96.40% 感染確率を 1~10%でシミュレーションを実行した。この感染確率の中で 1~5% を低感染力、6~10% を高感染力とし、それぞれの中央値となる 3%と 8%を抽出し て対策時のシミュレーションを実行した。 4.2. 咳エチケット実行時のシミュレーション結果 84.7 69.8 53.1 32.0 19.7 16.3 11.3 8.3 5.4 3.3 28.7 22.7 13.2 10.3 4.4 3.5 2.7 2.6 1.6 1.0 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 0 5 10 15 20 21 24 25 27 30 追加感染者率(%) マスク着用者数() 感染率8% 感染率3% 82.4 62.8 37.8 23.3 19.3 13.4 9.8 6.4 3.9 79.3 46.2 35.8 15.5 12.2 9.3 9.0 5.6 3.6 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 5 10 15 20 21 24 25 27 30 非対策時からの感染者抑制率(%) マスク着用者数() 感染率8% 感染率3% 咳エチケット実行時の追加感染者率 咳エチケット実行時の感染者抑制率 4.3. オフィス内人数減少時のシミュレーション結果 84.67 77.36 67.95 47.60 36.30 16.20 28.67 20.28 18.95 13.07 10.80 7.00 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 30 25 20 15 10 5 追加感染者率() オフィス内最大人数() 感染率8% 感染率3% 総人数減少時の追加感染者率 4.3.1. 総人数減少時のシミュレーション結果 91.37 80.26 56.22 42.87 19.13 70.74 66.10 45.58 37.67 24.42 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 25 20 15 10 5 感染者抑制率() オフィス内最大人数() 感染率8% 感染率3% 総人数減少時の感染者抑制率 4.3.2. 一部在宅勤務時のシミュレーション結果 56.26 24.61 6.79 2.28 0.47 52.44 17.44 6.16 1.63 0.70 0 10 20 30 40 50 60 5 10 15 20 25 感染者抑制率() 在宅勤務者数() 感染率8% 感染率3% 一部在宅勤務時の追加感染者率 84.67 47.63 20.83 5.75 1.93 0.40 28.67 15.03 5.00 1.77 0.47 0.20 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 0 5 10 15 20 25 追加感染者率(%) 在宅勤務者数() 感染率8% 感染率3% 一部在宅勤務時の感染者抑制率 7. 謝辞 この研究は、厚生労働科学研究費補助金 ( 新興・再興感染症及び予防接種政策推 進研究事業 )「新興・再興感染症のリスク評価と危機管理機能の実装のための研究」 ( 研究代表者 斎藤智也 ) の助成によって行われた。

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 新型インフルエンザ発生時のオフィス内感染拡大抑制の          シミュレーション

〇下馬場有祐、林潤英、中井豊、市川学 ( 芝浦工業大学 )

1. 背景と目的

2. 研究方法

4. シミュレーションの実行

5. おわりに

6. 参考文献   実際の研究室

 

事業者・職場における新型インフルエンザ対策 ガイドライン https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf厚生労働省 新型インフルエンザ流行時の日常生活におけるマスク使用の考え方https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/09/dl/s0922-7b.pdf

 エージェントベースシミュレーションにより、オフィス内人数を減少させる方法でも,通常通りの接触を行うが咳エチケットを行うことで飛沫を抑える方法でも、感染抑圧の効果はあることが検証できた。今回の研究はオフィスの中で対策を行う人数によって、効果を発揮しやすい閾値が存在する可能性を示したものとなる。

 シミュレーションモデル

 未知の感染症である新型インフルエンザは殆どの人が免疫を持っていないため,一度発生すれば大きな健康被害と、これに伴う社会的影響をもたらすことが懸念されている。今後強毒性の新型インフルエンザが流行した場合に向けて、いつでも感染対策を実行することができるよう準備をしておく必要がある。新型インフルエンザの対策としては、外出や集会の自粛といった他人との接触を避けることがあげられる。本研究では企業が感染対策を行った場合について注目した。 ①テレワークによる人と人の接触を避ける感染対策 企業が在宅勤務体制を行った場合、オフィス内人数の減少で人と人の接触を抑える効果が期待できる。 ②咳エチケットで他人への感染を抑える感染対策 マスクの着用等の咳エチケットによって飛沫を抑えることで、他人との接触を行っても他人への感染を防ぐことができる効果が期待できる。 本研究では効果的なオフィス内対策を考察することで、今後新型インフルエンザの流行を見据えて、効果的な感染対策を啓蒙する際の指標となることを目指す。

 本研究ではエージェントベースモデルを使用して、新型インフルエンザ発生時にエージェントが各種感染対策を行うことで、感染拡大抑制の効果を調べ、各種感染対策の評価を行う。

3. 感染モデルの構築3.1. 行動データの収集と行動プロセスの再現

3.2. 地図の再現

 上記の期間にコアタイムを設けることで現実のオフィスに見立てた行動の再現を行う。取得したデータを元にエージェントの種類を 4パターンに分けて、パターンごとに独自の行動プロセスを設定した。エージェントは入室と同時に部屋内の椅子に座って待機し、パターン毎に設定した時間で休憩を挟む。

 実際の研究室をシミュレーションモデルの南部分に落とし込んだ。北部分はエージェントの外出時の行先や在宅勤務時に利用する。エージェントの感染は南部分の研究室の中のみで考慮される。3.3. 感染プロセスの再現・最初の感染者はランダムで 1人発生・感染者は 30 分に一度飛沫を飛ばし、半径 2m 内に存在したエージェントが低確率で感染・感染する確率=感染力と定義して、複数の感染確率でシミュレーションを実行し3.4. 感染対策の実装①咳エチケット実行時…マスク着用した感染者の周囲への感染確率が 1/10 になる②オフィス内人数減少時…総人数を減らす、又はエージェントの一部が在宅勤務

 構築したモデルの1週間分 ( 平日 5 日 ) のシミュレーションを実行する。シミュレーションは感染確率と対策ごとに 100 回実行し、その平均値で結果を算出する。

 シミュレーション結果を以下のように計算し纏める .< 総感染者数 >総感染者数 = 部屋内感染者数 + 通院者数<感染者率 >感染者率 = 感染者数 / オフィス内最大人数<追加感染者数>追加感染者数 ( 初期感染者を除いた感染者数 ) = 総感染者数 ‒ 1< 感染者抑制率>感染者抑制率 = 対策時の感染者率 / 非対策時の感染者率

4.1. 非対策時のシミュレーション結果感染確率 1% 2% 3% 4% 5% 6% 7% 8% 9% 10%総感染者数 2.27人 5.46人 9.60人 15.35人 18.89人 22.62人 24.82人 26.40人 26.99人 28.92人感染者率 7.57% 18.20% 32.00% 51.18% 62.96% 75.40% 82.73% 88.00% 89.97% 96.40%

 感染確率を 1~10%でシミュレーションを実行した。この感染確率の中で 1~5%を低感染力、6~10% を高感染力とし、それぞれの中央値となる 3%と 8%を抽出して対策時のシミュレーションを実行した。

4.2. 咳エチケット実行時のシミュレーション結果84.7

69.8

53.1

32.0

19.7 16.3

11.3 8.3

5.4 3.3

28.7 22.7

13.2 10.3

4.4 3.5 2.7 2.6 1.6 1.0 0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

0 5 10 15 20 21 24 25 27 30

追加感染者率

(%)

マスク着用者数(人)

感染率8% 感染率3%

82.4

62.8

37.8

23.3 19.3

13.4 9.8

6.4 3.9

79.3

46.2

35.8

15.5 12.2

9.3 9.0 5.6 3.6

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

5 10 15 20 21 24 25 27 30

非対策時からの感染者抑制率

(%)

マスク着用者数(人)

感染率8% 感染率3%

 咳エチケット実行時の追加感染者率  咳エチケット実行時の感染者抑制率

4.3. オフィス内人数減少時のシミュレーション結果

84.67 77.36

67.95

47.60

36.30

16.20

28.67 20.28 18.95

13.07 10.80 7.00

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

30 25 20 15 10 5

追加感染者率

(%)

オフィス内最大人数(人)

感染率8% 感染率3%

 総人数減少時の追加感染者率

4.3.1. 総人数減少時のシミュレーション結果91.37

80.26

56.22

42.87

19.13

70.74 66.10

45.58 37.67

24.42

0102030405060708090

100

25 20 15 10 5

感染者抑制率

(%)

オフィス内最大人数(人)

感染率8% 感染率3%

 総人数減少時の感染者抑制率

4.3.2. 一部在宅勤務時のシミュレーション結果56.26

24.61

6.79 2.28 0.47

52.44

17.44

6.16 1.63 0.70

0

10

20

30

40

50

60

5 10 15 20 25

感染者抑制率

(%)

在宅勤務者数(人)

感染率8% 感染率3%

 一部在宅勤務時の追加感染者率

84.67

47.63

20.83

5.75 1.93 0.40

28.67

15.03 5.00 1.77 0.47 0.20

0102030405060708090

0 5 10 15 20 25

追加感染者率

(%)

在宅勤務者数(人)

感染率8% 感染率3%

 一部在宅勤務時の感染者抑制率

7. 謝辞 この研究は、厚生労働科学研究費補助金 ( 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業 )「新興・再興感染症のリスク評価と危機管理機能の実装のための研究」( 研究代表者 斎藤智也 ) の助成によって行われた。