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バクロフェン ギャバロン 髄注 2.5 臨床に関する概括評価 第一製薬株式会社

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バクロフェン

ギャバロンⓇ髄注

2.5 臨床に関する概括評価

第一製薬株式会社

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

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目次

2.5 臨床に関する概括評価........................................................ 1

1. 製品開発の根拠................................................................................................................................ 1

2. 生物薬剤学に関する概括評価........................................................................................................ 7

3. 臨床薬理に関する概括評価............................................................................................................ 8

4. 有効性の概括評価.......................................................................................................................... 10

5. 安全性の概括評価.......................................................................................................................... 23

6. ベネフィットとリスクに関する結論.......................................................................................... 41

7. 参考文献.......................................................................................................................................... 48

図の目次

図 2.5.1-1 植込み型ポンプシステムの設置 ......................................... 6

図 2.5.4.4-1 Ashworth 評点の推移:国内試験(スクリーニング試験)................ 13

図 2.5.4.4-2 Ashworth 評点の推移:Protocol VI(スクリーニング試験)............. 14

図 2.5.4.4-3 脳由来(小児)における被験者ごとの投与量推移: 国内試験

(長期持続投与試験)............................................... 16

図 2.5.4.4-4 Ashworth 評点の推移:国内試験(長期持続投与試験).................. 16

図 2.5.4.4-5 Ashworth 評点の推移:Protocol VI(長期持続投与試験)............... 18

図 2.5.4.4-6 Ashworth 評点の推移:Protocol XI(長期持続投与試験)............... 19

表の目次

表 2.5.1-1 Ashworth評点....................................................................................................................... 2

表 2.5.1-2 Spasm評点............................................................................................................................ 2

表 2.5.2-1 市販製剤 .............................................................................................................................. 7

表 2.5.4.1-1 小児に関連する臨床試験 ............................................................................................. 10

表 2.5.4.4-1 投与量別被験者数:国内試験(スクリーニング試験).......................................... 12

表 2.5.4.4-2 投与量推移:Protocol VI、Protocol XI(長期持続投与試験)

(参考として実施した追加解析) .............................................................................. 18

表 2.5.5.4-1患者背景の比較 .............................................................................................................. 25

表 2.5.5.4-2ギャバロン髄注の平均 1日用量の要約....................................................................... 27

表 2.5.5.7-1 投与量別有害事象発現例数:国内試験...................................................................... 32

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表 2.5.5.7-2 投与量別副作用発現例数:国内試験.......................................................................... 32

表 2.5.5.7-3 投与量別副作用発現例数:海外臨床試験(脳由来)

(参考として実施した追加解析) .............................................................................. 33

表 2.5.5.8-1 時期別有害事象発現例数:国内試験.......................................................................... 34

表 2.5.5.8-2 時期別副作用発現例数:国内試験.............................................................................. 35

略号一覧

略号 名称

ADL 日常生活動作/活動(activities of daily living)

ALT(GPT) アラニンアミノトランスフェラーゼ(L-alanine aminotransferase)、グルタ

ミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(glutamic pyruvic transaminase)

Al-P アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase)

AST(GOT) アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(L-aspartate aminotransferase)、

グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(glutamic oxaloacetic

transaminase)

BUN 血中尿素窒素(blood urea nitrogen)

CK(CPK) クレアチンキナーゼ(Creatine Kinase)、クレアチンホスホキナーゼ

(Creatine Phosphokinase)

DIC 播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation)

DL-404 開発記号:ギャバロン髄注

DL404-01 試験番号:ギャバロン髄注国内第Ⅲ相試験(スクリーニング試験、長期持

続投与試験および髄液中薬物動態試験)

DL404-02 試験番号:ギャバロン髄注国内第Ⅲ相試験(長期安全性試験)

GABA γ-アミノ酪酸 (γ-aminobutyric acid)

FDA 米国食品医薬品局(Food and Drug Administration)

LDH 乳酸脱水素酵素(lactic acid (lactate) dehydrogenase)

MDT-3101 米国メドトロニック社製造の植込み型ポンプシステム

NOS 他に特定されない (not otherwise specified):MedDRA(ICH国際医薬用

語集)日本語版に収載されている用語(基本語)で用いられる略語

PLM 下肢の周期的不随意運動(periodic leg movement)

QOL 生活の質 (quality of life)

ROM 関節可動域 (range of motion)

USP 米国薬局方(United States Pharmacopoeia)

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専門用語一覧

略号 名称

Ashworth評点 筋緊張の程度に関する 5段階の評価尺度からなる評点。本資料中では、特

にことわりのない限り、以下の 4つの関節部位の左右下肢 8部位の

Ashworth評点を総称する。

評点 筋緊張の程度

1 筋緊張の増加なし

2 筋緊張の軽度の増加と、屈伸により引っかかる感じがする

3 筋緊張の明確な増加はあるが、他動的には動かせる

4 非常に筋緊張が増加し、他動運動は困難である

5 完全に硬直している

評価部位

〔脊髄由来の痙性〕

股関節外転、股関節屈曲、膝関節屈曲、足関節背屈

〔脳由来の痙性〕

股関節外転、膝関節屈曲、膝関節伸展、足関節背屈

Spasm評点 スパスム(筋攣縮)の頻度に関する 5段階の評価尺度からなる評点

ROM 関節の運動可能な範囲 (range of motion)

Kenny式セルフ

ケア得点

床上動作、移乗、移動、更衣、衛生、食事に関する動作について、各 5

段階の評価尺度からなる評点

Lioresal Intrathecal バクロフェンの髄腔内投与製剤(外国で市販されている商品名)

ポンプシステム 植込み型のポンプ、カテーテルおよびプログラマーから構成される、米国

メドトロニック社製造の薬液髄腔内注入装置。

スクリーニング

試験

バクロフェンの髄腔内単回投与時に抗痙縮効果を確認する試験

用量設定期

(滴定期)

長期持続投与試験において、個々の患者にとって最適な抗痙縮効果が得ら

れる至適用量(標準用量)を設定する期間

維持期 長期持続投与試験において、症状に応じて標準用量を適宜増減のうえ持続

投与する期間

化学構造式一覧

一般名(略号) 化学名 構造式

バクロフェン (RS)-4-Amino-3-(4-chlorophenyl) butanoic acid

Cl

H

CO2H

NH2

および鏡像異性体

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2.5 臨床に関する概括評価

1. 製品開発の根拠

1. 痙縮の症状、問題点

痙縮(痙性、spasticity)は、中枢神経または伝導路の傷害により上位中枢からの抑

制が減少し、脊髄での反射が亢進する病態であり、筋緊張の亢進ならびにスパスム(筋

攣縮)やクローヌス(間代性痙攣)による運動障害や不随意な運動を特徴とし、脊髄

損傷、脊髄変性疾患、脳性麻痺、頭部外傷などによる痙性麻痺患者で問題となる。脊

髄損傷、脊髄変性疾患などでは、受傷(発病)時期が比較的遅いため、その多くは成

人患者であるが、脳性麻痺では受胎から新生児期または幼児期前半にかけて受傷する

ため、小児患者が多い。

痙縮を有する患者1)では、下肢をはじめとする種々の筋が硬直し、拮抗筋の共同

収縮なども生じて動きにくくなるため、日常生活動作(ADL:activities of daily living)

が困難になる。また、可能な動作が痙縮により困難になり、拘縮予防のための加療や

対応に時間を取られるなどリハビリテーションや看護の阻害因子となっている。痙縮

の病状が進展した場合は、多数の筋で強い痛みや締め付け感を伴う強直が高頻度に発

現し、単純な動作(たとえばベッドから車椅子への移動や座位保持・床上動作など)

でも困難が伴い、日常的な介護が不可欠となる。痙縮が慢性化すると、関節の可動域

は徐々に狭まり関節拘縮を招くとともに、自由な肢位が取れなくなり、痙縮に伴う痛

みや締め付け感で患者の生活の質(QOL:quality of life)は低下する。また、患者の

体位変換や会陰部衛生保持は容易ではなく、褥瘡や尿路感染症などの併発症を避ける

ための介護者の負担は大きい。小児における痙縮は、痙縮による過度のエネルギー消

費や姿勢異常による栄養摂取の困難に伴う慢性的な栄養障害の一因となり、骨に対す

る異常な応力や正常な運動発達を阻害することによる、骨・関節の形成障害、脱臼な

どの二次障害の原因となって年齢相応の ADL獲得を妨げ、さらには QOLの低下を

助長する。

以上のように、痙縮の進展・慢性化は、患者の ADL悪化、QOL低下を招くととも

に、さらに介護者の負担を増加させるなど、大きな問題を引き起こしている。

2. 痙縮の評価指標

2.1 Ashworth 評点

Ashworth評点2)は関節部位の筋緊張の程度を5段階に分類した評価尺度(表2.5.1-1)

であり、痙縮の重症度の評価に用いられる。痙縮の評価方法として簡便で使いやすい

ため、国内外で最も広く用いられている。Ashworth評点の信頼性については多くの

検討がなされており、同一評価者による測定精度が高いことが示されている3, 4)。国

内第Ⅲ相臨床試験に際しては、評価の信頼性をより一層確保するため、治験責任医師、

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リドカイン16)やフェノール

17, 18)を用いた化学的な神経破壊術または外科手術として

末梢神経縮小術 19)や脊髄後根切断術 20)が適用されることがあるが、前者では治療効

果が継続しないこと、薬剤による周辺組織への損傷性により、後者では広範囲に発現

した痙縮への対応の困難さ、厳密な患者選定と高度の技術の必要性により、本邦での

実施はまだ一般化されていない。

以上のように、亢進した痙縮症状を有し抗痙縮薬の内服療法が奏効しない、いわゆ

る重度の痙縮に対して、確実な効果を示し、かつ施術・実施上の種々の制限が改善さ

れた新たな治療方法が待ち望まれている。

4. 開発の背景

バクロフェンは、中枢神経系の抑制性伝達物質である γ-アミノ酪酸(GABA)の誘

導体であり、GABAB受容体に作用して GABAと同様な抑制作用を発現する抗痙縮剤

である。日本チバガイギー社および第一製薬株式会社は、バクロフェンの経口剤を開

発し、ギャバロン錠として製造承認を取得した[1979年 8月、適応症:脳血管障害、

脳性(小児)麻痺、痙性脊髄麻痺、脊髄血管障害、頚部脊椎症、後縦靱帯骨化症、多

発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、外傷後遺症(脊髄損傷、頭部外

傷)、術後後遺症(脳・脊髄腫瘍を含む)、その他の脳性疾患、その他のミエロパチー

による痙性麻痺]。

バクロフェンの経口投与では、血液-脳関門により作用部位とされる脊髄に分布す

る GABAB受容体に十分にバクロフェンが到達せず効果発現が不十分な場合がある。

一方、髄液中濃度を上げるために投与量を増加した場合、中枢神経系をはじめとする

副作用が懸念される。そのため、Pennら21~23)はバクロフェンの髄腔内直接投与によ

る臨床検討で良好な抗痙縮効果が確認されたことから、脊髄損傷または多発性硬化症

による重度の難治性痙性麻痺患者を対象として髄腔内単回投与によるスクリーニン

グ試験および引き続き植込み型ポンプを用いた長期持続投与試験をオープン試験で

実施した。バクロフェンの髄腔内投与はいずれの試験においても痙縮の評価指標であ

る Ashworth評点および Spasm評点を有意に改善した。

以上の知見から、米国メドトロニック社は、脊髄損傷または多発性硬化症による重

度の難治性痙性麻痺患者を対象として、スクリーニング試験におけるバクロフェンの

有効性を確認する目的でプラセボを対照とした二重盲検比較試験をクロスオーバー

法(投与量 50~100 µg)で、引き続き植込み型ポンプを用いた長期持続投与試験を

オープン試験で実施した。その結果、いずれの試験においても、バクロフェンは

Ashworth評点および Spasm評点を著明に改善し、また、長期持続投与に関する安全

性も確認された。1990年 4月、米国メドトロニック社は脊髄由来の重度痙性麻痺を

適応とした申請を同国で行い、1992年 6月に承認を取得した。

一方、4歳以上の幼児・小児を含む脳性麻痺患者による重度痙性麻痺を対象にした

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バクロフェンのスクリーニング時ならびに長期持続投与の有効性および安全性も検

討され、Ashworth評点の明確な改善効果と安全性が確認された(添付資料番号:

5.3.5.1-2、試験番号:Protocol XIおよび添付資料番号:5.3.5.1-1、試験番号:Protocol VI)。

また、脳損傷による重度痙性麻痺に対してもバクロフェンの髄腔内単回投与は

Ashworth評点ならびに Spasm評点を著明に改善することが示された。1995年 5月に

米国メドトロニック社は脳由来の重度痙性麻痺を適応とした追加申請を同国で行い、

1996年 6月に承認を得た。髄腔内投与用のバクロフェンは欧米を初めとする世界 22

ヵ国で承認されている(2005年 12月現在)。

本邦においても上述した Pennらによる臨床試験成績 5, 21~23)の公表後、いくつかの

臨床成績が報告されている。吉村ら 24, 25)は脊髄損傷による痙性麻痺患者を対象にし

てバクロフェンを髄腔内単回投与(投与量 50~75 µg)した結果、Ashworth評点およ

びスパスムの著明改善に加えて、胸・腹部の締め付け感および両肩痛の改善や車椅子

の駆動、移動、自己導尿など ADL上の改善を認め、患者の満足度は高かったことを

報告した。桜井ら 26)は脊髄損傷による痙性麻痺患者を対象にしてバクロフェン髄腔

内単回投与(投与量 75~125 µg)による抗痙縮効果、痙縮の一症状としての下肢の

周期的不随意運動(PLM)および睡眠障害に対する効果を検討した。その結果、

Ashworth評点およびスパスムは著明に改善されるとともに、ADLの改善、痙縮に伴

う体幹、上肢の痛みも消失した。また、PLMおよび睡眠効率においても著明な改善

が認められた。平27)は脳出血後遺症患者による痙性麻痺患者を対象にして、カテー

テル経由によるバクロフェン髄腔内単回投与(投与量 25~75 µg)を 8日間実施した。

疼痛については 25 µgで、Ashworth評点は 50 µgで著明な改善が認められたことを報

告した。

5. 臨床開発計画

第一製薬株式会社は、髄腔内投与用のバクロフェン(以下、ギャバロン髄注と略す)

の臨床開発に際し、1)重度の痙性麻痺に対してほかに有効な治療法がなく早期導入

が医療上望まれていること、2)推定患者数が約 27000人*の規模であること、3)海

外臨床試験成績、各国での承認状況、国内での臨床研究報告から、有効性および安全

性についての知見は蓄積されており開発の可能性が十分高いことなどを勘案し、重度

の痙性麻痺[脳性(小児)麻痺、脊髄血管障害、多発性硬化症、脊髄小脳変性症(遺

伝性痙性対麻痺)、外傷後後遺症(脊髄損傷、頭部外傷)、後縦靭帯骨化症、頸部脊椎

症の計 8疾患のいずれかに由来する]に対する希少疾病用医薬品指定下(2001年 4

月)で開発を実施することとした。

*希少疾病用医薬品指定後に公表された痙縮の出現頻度 28)に基づいた再試算では、約 16000人。

第一製薬株式会社は、日本メドトロニック株式会社と共同で、2002年 2月よりギ

ャバロン髄注の国内第Ⅲ相試験[添付資料番号:5.3.5.2-1、試験番号:DL404-01、ス

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クリーニング試験(検証的試験)および長期持続投与試験から構成される]を重度の

痙性麻痺を対象として開始した。また、国内第Ⅲ相試験参加患者のうち選択基準を満

たし、本剤の継続使用を希望し、文書同意の得られた患者は、長期持続投与時の安全

性および有効性を評価するために、長期安全性試験(添付資料番号:5.3.5.2-2、試験

番号:DL404-02)に移行することとした。

希少疾病用医薬品指定を受けた 8疾患のうち、多発性硬化症を除く 7疾患の成人

25名のスクリーニング試験成績および 19名の長期持続投与成績(平均 22.1ヵ月、最

長 30ヵ月時点)が集積され、欧米での治験成績を再現する高い有効性を認めるとと

もに、安全性面でも欧米における成績の範囲内の結果が得られた。本成績をもってギ

ャバロン髄注は「脳脊髄疾患に由来する重度の痙性麻痺(既存治療で効果不十分な場

合に限る)」の効能・効果で、2005年 4月に輸入承認を取得した。

一方、成人患者の中間評価成績および海外臨床試験成績を検討の上、小児への適用

を考慮した場合に問題とすべき点がないことを確認し、2003年 3月から小児脳性麻

痺患者の組み入れを開始した。小児患者 5名のスクリーニング試験および長期持続投

与試験の成績(平均 15.6ヵ月、最長 18ヵ月時点)が集積され、有効性および安全性

面で成人と類似した成績が得られた。第一製薬株式会社は、成人の国内試験成績なら

びに欧米における成人・小児の臨床成績を踏まえ、本成績を十分に検討した結果、小

児における用法・用量を新たに設定することが妥当と判断したため、本申請を行うに

至った。

その後、長期安全性試験の中間成績を 2006年 3月に追加提出した。本申請資料は

追加提出したデータに従い、2005年 5月(本一部変更申請時)に提出した資料に修

正を加えたものである。

第一製薬株式会社は今回実施した国内第Ⅲ相試験[添付資料番号:5.3.5.2-1(試験

番号:DL404-01)および添付資料番号:5.3.5.2-2(試験番号:DL404-02)]のほかに、

外国で実施された髄液中の薬物動態に関する試験データ(添付資料番号:5.3.3.2-2)

および有効性に関する 2つの治験データ(添付資料番号:5.3.5.1-2、試験番号:Protocol

XIおよび添付資料番号:5.3.5.1-1、試験番号:Protocol VI)を加え、臨床データパッ

ケージを構築した。また、安全性の評価に際しては、主として小児患者を対象として

外国で実施された治験データを使用した。

なお、治験継続中の中間評価結果による申請の考え方および海外臨床試験データの

取り扱いについては、希少疾病用医薬品指定に係わる医薬品機構との相談時の指摘も

参考にした。相談時の議事録を、第 5部 5.4.2-1~6に添付する。

[参考情報]植込み型ポンプシステムの概略

国内試験、海外臨床試験において使用され、外国において市販されている植込み型

ポンプシステムは、ギャバロン髄注の投与量および設定・変更が可能な腹部皮下への

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

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植込み型のポンプ、カテーテル、プログラマーから構成される。

植込み型ポンプは、内部のリザーバーに薬液を貯蔵しプログラムされた投与量およ

び投与モードに従って薬液をカテーテル経由で髄腔内に注入する装置である。薬液充

填は、通常 1~3ヵ月ごとに体表から注射針を薬液注入口に挿入して行う。プログラ

マーは、薬液の投与量および投与モード(流量、投与間隔などが設定可能)などを体

外から非侵襲的に高周波信号により制御する装置である。これらの機器を体内に設置

した状態を図 2.5.1-1に示す。

これらのポンプシステムについては、国内試験を共同で実施した日本メドトロニッ

ク株式会社がシンクロメッド ELポンプ、インデュラカテーテル、シンクロメッドプ

ログラマとして 2005年 3月に輸入承認を取得した。

図 2.5.1-1 植込み型ポンプシステムの設置

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2. 生物薬剤学に関する概括評価

市販製剤の一覧を表 2.5.2.-1に示す。

ギャバロン髄注は髄腔内に直接投与されるため、生物学的利用率は 100%と考えら

れる。また、市販製剤は国内試験で使用した治験用製剤と同一処方である。外国試験

で使用された 5 mLアンプル製剤(2 mg/mL)および 20 mLアンプル製剤(0.5 mg/mL)

も、本邦において市販した製剤と同一処方である(一部の外国試験のみ実施医療機関

において調製された製剤を用いた)。

表 2.5.2-1 市販製剤

販売名 1アンプル中

バクロフェン含量

1アンプル中

添加物含量 容量 用途

ギャバロン髄注

0.005% 0.05 mg/1 mL (0.005 w/v%)

塩化ナトリウム

9 mg 1 mL

単回投与用

(スクリーニング試験に使用)

ギャバロン髄注

0.05%

10 mg/20 mL

(0.05 w/v%)

塩化ナトリウム

180 mg 20 mL

持続投与用

(用量設定期(滴定期)および維

持期に、ポンプに充填して使用)

ギャバロン髄注

0.2%

10 mg/5 mL

(0.2 w/v%)

塩化ナトリウム

45 mg 5 mL

持続投与用

(用量設定期(滴定期)および維

持期に、ポンプに充填して使用)

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

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3. 臨床薬理に関する概括評価

髄腔内投与されたバクロフェンは、髄液の移動とともに髄腔内を循環し、循環血中

へ移行し、主として腎から排泄される。循環血中におけるバクロフェンの体内動態は

ギャバロン錠で検討されているため、ギャバロン髄注の体内動態については髄液中か

らの消失に関して検討を行った。

痙性麻痺患者を対象とした国内試験の成人患者において、髄腔内単回投与(投与量

50 µg)2時間後までの髄液中バクロフェン濃度は 350~1320 ng/mL、投与 2~4時間

(4.02時間を含む)後では 29~950 ng/mLであった。同時に採取した血漿中バクロフ

ェン濃度は、測定時間に関わらずいずれも 0.4 ng/mL~0.6 ng/mL(バクロフェン内服

4名を除く)であり、髄液中濃度と比較して 10−2~10

−3のレベルであった。国内試験

では髄液採取回数を限定せざるを得なかったため、データ量が十分でなく髄液中濃度

に関する生物学的半減期、クリアランス、分布容積を算出することはできなかった

(2.7.2.2.1 MDT-3101(植込み型ポンプシステム)を使用した DL-404(バクロフェン

注)の髄腔内投与による第Ⅲ相臨床試験 -脊髄由来および脳由来の重度痙性麻痺を

対象とした検証的試験-[DL404-01]の項参照)。

一方、米国における薬物動態試験(成人患者)の結果、髄腔内単回投与(投与量

50 µgまたは 100 µg)1~2時間後の髄液中バクロフェン濃度は 170 ng/mL(50 µg群)

~1830 ng/mL(100 µg群)、3~4時間後では 90 ng/mL(50 µg群)~340 ng/mL(100 µg

群)であった。生物学的半減期は 1.51時間、クリアランスは 32.1 mL/h、分布容積は

73.8 mLと算出された(2.7.2.2.2.1髄腔内単回投与後の試験の項参照)。

国内試験および米国で実施された薬物動態試験の結果を比較すると、いずれの試験

においても患者間に大きな変動(個人差)が認められたが、日本人と欧米人とで髄液

中薬物濃度推移は大きく異なるものではなく、日本人の髄液中薬物動態パラメータは

欧米人と同様であると推定された。

また、成人患者にバクロフェン 50 µg髄腔内単回投与 1~4時間後の血漿中濃度は

0.4~0.6 ng/mLであり、健康成人にギャバロン錠 5 mg、10 mgを経口投与した場合の

最高血清中濃度 82.8 ng/mL、121.8 ng/mL(2.7.2.2.3.1 血清中濃度の項参照)と比較し

て約 10−2以下のレベル(2.7.2.3全試験を通しての結果の比較と解析の項参照)であ

った。以上より、臨床用量での髄腔内投与時の循環血中への曝露量は、経口投与時に

比べて著しく低く、安全性上のメリットが考えられた。

なお、髄腔内投与時の排泄に関する臨床での検討は国内外とも行われていない。参

考として、健康成人被験者に 14C標識バクロフェン 40 mgを経口投与した場合、尿中

の代謝物は放射能量の 4~8%であった(2.7.2.2.3.2代謝の項参照)。健康成人被験者

にギャバロン錠 5 mg、10 mgを経口投与した場合、尿中排泄率は投与後 24時間でそ

れぞれ投与量の 80.8%、78.7%であった。ギャバロン錠として 1日 5 mg、10 mg、20 mg

または 30 mgを漸増法により経口連続投与した場合、累積投与量に対する尿中排泄率

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

9

は 1日目 80.8%、2日目 75.8%であり、3日目以降は 62~63%であった(2.7.2.2.3.3排

泄の項参照)。

また、ヒト CYP発現系ミクロゾームを用いた in vitro試験の結果から、バクロフェ

ンの代謝に CYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4の CYP分

子種が寄与している可能性は低いことが推測された(2.7.2.2.3.4 ヒト CYP発現系ミ

クロゾームによる代謝試験の項参照)。

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

10

4. 有効性の概括評価

ギャバロン髄注の有効性の概括評価には、国内試験成績(添付資料番号 5.3.5.2-1

(試験番号 DL404-01)および添付資料番号 5.3.5.2-2(試験番号 DL404-02))ならび

に小児患者を含む 2つの海外臨床試験成績(添付資料番号 5.3.5.1-1(試験番号 Protocol

VI)および添付資料番号 5.3.5.1-2(試験番号 Protocol XI))を用いた(2.7.3.1.1臨床

試験の構成の項参照)。

なお、国内試験の成績を記述する際は、7歳以上 16歳以下の脳性麻痺を原疾患と

する被験者集団を脳由来(小児)、17歳以上の脳性麻痺および頭部外傷の被験者集団

を脳由来(成人)、脊髄損傷など脊髄疾患を原疾患とする被験者集団を脊髄由来(成

人)と表記する。また、脳由来(成人)と脊髄由来(成人)を併せた被験者集団を成

人計と表記する。

1. 対象となった患者集団の特性

有効性の概括評価に用いた試験の被験者数を表 2.5.4.1-1に示す。

国内試験で有効性評価の対象とした被験者数は 30名であり、脳由来(小児)は 5

名であった。

外国臨床試験 Protocol VIおよびXIは、いずれも脳性麻痺を対象とした試験であり、

有効性評価の対象とした被験者数はそれぞれ 64名、51名であった。そのうち、16

歳以下の小児はそれぞれ 46名、43名であった。

表 2.5.4.1-1 小児に関連する臨床試験

被験者数(有効性評価対象)

試験番号 添付資料

番号 原疾患

4歳以上

6歳以下

7歳以上

16歳以下 17歳以上 計

DL404-01 5.3.5.2-1 7種類 a) 0 5 b) 25 c) 30

DL404-02 5.3.5.2-2 7種類 a) 0 5 b) 19 d) 24 e)

Protocol VI 5.3.5.1-1 脳性麻痺 12 34 18 64

ProtocolXI 5.3.5.1-2 脳性麻痺 14 29 8 51

a) 脊髄損傷、脊髄小脳変性症(遺伝性痙性対麻痺)、脊髄血管障害、後縦靱帯骨化症、頸部脊椎症、脳性麻痺

および頭部外傷 b) すべて脳性麻痺 c) 内訳は脊髄由来 21名、脳由来 4名

d) 内訳は脊髄由来 15名、脳由来 4名 e) 24名全員が DL404-01から継続した被験者

(表 2.7.3.1-2と同一)

対象となった小児被験者の年齢は、国内試験では 7歳から 16歳、Protocol VIと

Protocol XIでは 4歳から 16歳であった。

7歳以上 16歳以下の被験者における年齢(平均値±標準偏差)は、国内試験では

10.6±3.5歳、Protocol VIでは 11.5±3.0歳、Protocol XIでは 11.3±2.6歳であった。男

性の比率は国内試験で 40.0%、Protocol VIでは 57.1%、Protocol XIでは 55.2%であっ

た。

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

11

海外臨床試験における 6歳以下の被験者における年齢(平均値±標準偏差)は、

Protocol VIでは 5.6±0.7歳、Protocol XIでは 5.5±0.8歳であった。男性の比率は

Protocol VIでは 66.7%、Protocol XIでは 71.4%であった。

2. 試験デザイン

国内試験および海外臨床試験において対象とした患者は、重度の痙性麻痺患者であ

った。これらの臨床試験における主要な患者選択基準は、下肢平均 Ashworth評点 3

以上とし、抗痙縮薬(外国では経口バクロフェンに限定している)で十分な効果が認

められていない患者とした。

主要評価項目には、痙縮の代表的な評価尺度である Ashworth評点(2.5.1.2.1

Ashworth評点の項参照)を採用した。測定部位として下肢の左右計 8部位を選択し、

スクリーニング試験における投与前と投与 4時間後の平均 Ashworth評点の差(変化

量と記載する場合あり)を主要評価項目として用いることとした。これは、バクロフ

ェンの効果は下肢全体に認められるが、患者ごとに問題となる痙縮の部位は異なるた

め、代表的な 8部位を選択したものであり、下肢平均 Ashworth評点を用いても痙縮

に対する髄腔内投与バクロフェンの薬効を評価できるものと判断した。また、脳性麻

痺および頭部外傷患者については、上肢平均 Ashworth評点についても評価した。国

内試験では、さらに痙縮に伴う痛みおよび締め付け感、腱反射、関節可動域(ROM)、

ADL評価尺度である Kenny式セルフケア得点もあわせて評価した。

試験デザインは、1)最初にスクリーニング試験(ギャバロン髄注を髄腔内単回投

与し抗痙縮効果を評価する)を行った後、2)長期持続投与試験(スクリーニング試

験で効果が確認された患者のみを対象とし、投与期間を 6ヵ月間とした)に移行する

構成をとった。なお、長期持続投与試験は、用量設定期(滴定期)(植込み型ポンプ

を用いて個々の患者にとって最適な抗痙縮効果が得られる至適用量を検索する)およ

び維持期(症状に応じて適宜増減の上、長期持続投与時の有効性と安全性を評価する)

から構成される(ここまでを試験番号 DL404-01で実施)。6ヵ月間の長期持続投与試

験終了後、効果が持続し治験の継続を希望する患者については、長期安全性試験に移

行して承認取得時まで安全性と有効性をフォローすることとした(試験番号

DL404-02で実施中)。

国内試験では、スクリーニング試験、長期持続投与試験および長期安全性試験とも

に対照群を設けずオープン試験として実施した。スクリーニング試験は 25 µgもしく

は 50 µgの髄腔内単回投与から開始し、有効と判断されない場合には増量してスクリ

ーニング試験を継続することとした(最大 100 µg)。海外臨床試験では、スクリーニ

ング試験をプラセボ対照クロスオーバー二重盲検比較試験により、長期持続投与試験

はオープン試験により実施した。

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

12

3. 統計学的手法および試験結果の解釈に影響を与えると思われる種々の問題点

本剤は希少疾病用医薬品として指定を受けたように対象患者の絶対数が少なく、国

内試験において統計学的に詳細な比較・検討が可能な例数を選択・登録することは実

施上困難であった。また、このため複数の海外臨床試験成績を、国内試験成績を補完

するために用いた。

Ashworth評点変化の解析は、国内試験では投与前値との差についての対応のある t

検定を適用したが、先行して実施されていた海外臨床試験ではWilcoxon符号付順位

和検定が適用されていた。上述のように、国内試験では、より限定された被験者数で

評価せざるを得なかったため、変化量のデータについて正規性を仮定できれば、より

高い検出力を有する t検定を採用することが望ましいと考え、海外臨床試験(Protocol

IIおよび Protocol XI)のスクリーニング試験における投与前に対する投与 4時間後の

下肢平均 Ashworth評点変化量の分布を検討した。その結果、正規性を仮定すること

が可能であると判断し、国内試験では対応のある t検定を使用した。

なお、主要評価項目または解析に係る重要な変更、追加は行わなかった。

4. 有効性と用法・用量の関係

4.1 スクリーニング(効果の確認)における用法・用量に関する有効性

4.1.1 国内試験の有効性

国内試験のスクリーニング試験における投与量を表 2.5.4.4-1に示す。

脳由来(小児)5名のうち、3名は 25 µg、2名は 50 µgからスクリーニング試験が

開始され、いずれの被験者も開始用量において有効と判断された。このため、増量し

てスクリーニング試験を継続した被験者はなかった。なお、25 µgが投与された被験

者の体重は 17.4 kg、17.8 kgおよび 20.1 kgであり、50 µgが投与された被験者の体重

は 21.3 kgと 30.0 kgであった。

表 2.5.4.4-1 投与量別被験者数:国内試験(スクリーニング試験)

投与量 脳由来(小児) 脳由来(成人) 脊髄由来(成人)

25 µg 3 1 0

50 µg 2 3a 21

75 µg 0 1 0

100 µg 0 0 0

a 3名中 1名(被験者 02007)が 75 µg投与に移行

(表 2.7.3.4-1と同一)

国内試験のスクリーニング試験における下肢平均 Ashworth評点の推移を図

2.5.4.4-1に示す。

国内試験の脳由来(小児)における下肢平均 Ashworth評点(平均値±標準誤差)

は、投与前 3.73±0.15から 4時間後 2.43±0.18に有意な低下を認めた(対応のある t

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

13

検定、P<0.001)。脳由来(成人)および成人計においても同様に、投与前に対して 4

時間後の下肢平均 Ashworth評点は有意な低下を示した(対応のある t検定、それぞ

れ P=0.005、P<0.001)。また、下肢平均 Ashworth評点の推移は脳由来(小児)と脳由

来(成人)では同様であり、脳由来(小児)では成人計よりも最大の低下が小さかっ

たものの、推移のパターンに違いは認められなかった。

したがって、小児患者では 25 µgの単回髄腔内投与でも効果の確認が可能な場合が

あり、スクリーニング(効果の確認)の開始用量を 25 µgまたは体格に応じて 50 µg

までの用量とすることが妥当であると考えられた。このため、小児患者におけるスク

リーニング(効果の確認)の用法・用量を、成人患者とは別に設定することが適切で

あると考えた。

1

2

3

4

5

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24

時間(hr)

Ashworth評点

脳由来(小児) 脳由来(成人) 成人計

( ):n

上段:脳由来(小児)

中段:脳由来(成人)

下段:成人計

(5)

(4)

(25)

(5)

(4)

(25)

(5)

(4)

(25)

(5)

(4)

(25)

(5)

(4)

(25)

(5)

(4)

(25)(5)

(4)

(25)

図 2.5.4.4-1 Ashworth 評点の推移:国内試験(スクリーニング試験)

平均値±標準誤差(図 2.7.3.3-1と同一)

4.1.2 海外臨床試験の有効性

Protocol VIにおける下肢平均 Ashworth評点の推移を図 2.5.4.4-2に示す。

Protocol VIは 25 µgを開始用量とする強制漸増デザインと任意漸増デザイン(下肢

平均Ashworth評点が投与前と比較して1点以上低下した場合は有効として増量せず)、

50 µgを開始用量とする任意漸増デザインで実施された。

投与後 8時間までの下肢平均 Ashworth評点の推移は、投与量や年齢層による顕著

な違いは認められなかった。

被験者の年齢によるサブグループ解析を参考として実施し、その結果を以下に示す。

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

14

7歳以上 16歳以下における下肢平均 Ashworth評点は、25 µg、50 µgおよび 100 µg

のいずれにおいても、投与前と比較して 4時間後には低下が認められた(Wilcoxon

符号付順位和検定、P<0.01)。6歳以下の被験者における 4時間後の下肢平均 Ashworth

評点は、25 µgと 50 µgで有意な低下を認め(Wilcoxon符号付順位和検定、それぞれ

P<0.01、P=0.02)、100 µgでは被験者数が 3名と少なく、統計学的な有意差は認めら

れなかったものの、投与前 3.11から 4時間後 2.33と低下を示した。

したがって、7歳以上 16歳以下の小児患者のみならず、6歳以下(4歳以上)の小

児患者においても、25 µgの単回髄腔内投与によって効果の確認が可能な場合があり、

スクリーニング(効果の確認)の開始用量を 25 µgまたは 50 µgまでの用量とするこ

とが妥当であると考えられた。

1

2

3

4

5

0 1 2 3 4 5 6 7 8

時間(hr)

Ashworth評

25µg

~6歳

25µg

7~16歳

25µg

17歳~

50µg

~6歳

50µg

7~16歳

50µg

17歳~

100µg

~6歳

100µg

7~16歳

100µg

17歳~

図 2.5.4.4-2 Ashworth 評点の推移:Protocol VI(スクリーニング試験)

平均値±標準誤差(図 2.7.3.3-2を改変)

4.2 長期持続投与における用法・用量に関する有効性

4.2.1 国内試験の有効性

国内試験の長期持続投与試験において、ポンプ植込み後の初回 1日投与量は、スク

リーニング試験で有効性が確認された投与量の 2倍量とした。ただし、スクリーニン

グ試験において、8時間後の評価で有効と判定された被験者および副作用の重症度分

類基準でグレード 2以下の有害事象が発現した被験者の初回投与量はスクリーニン

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

15

グ試験時と同一の投与量とした。滴定期(ポンプ植込み後 60日まで)には初回投与

の 24時間以後、下肢左右合計 8部位の平均Ashworth評点が 1~2に維持されるまで、

治験薬の 1日投与量を直前の投与量に対して脊髄由来の場合 30 %以内の範囲で、脳

由来の場合 15%以内の範囲で 24時間に 1回増量を可とした(増量の上限は 600 µg/

日)。維持期(植込み後 61日以降)には下肢左右合計 8部位の平均 Ashworth評点を

維持するため、1日投与量は直前の投与量に対して脊髄由来の場合 40 %以内の範囲

で、脳由来の場合 20%以内の範囲で 24時間に 1回の増量を可とした(増量の上限は

600 µg/日)。滴定期、維持期いずれにおいても、有害事象が認められた場合には、1

日投与量を直前の投与量の 20%以内の範囲で減量可とした。長期安全性試験では、

長期持続投与試験と同じ方法で 1日投与量を調節することとしたが、600 µg/日を超

えてもよいこととした。

脳由来(小児)における投与量の推移を図 2.5.4.4-3に示す。

脳由来(小児)におけるポンプ植込み時の投与量は、スクリーニング試験の 8時間

後の評価で有効と判定されたため、5名すべてにおいてスクリーニング試験時と同一

(25 µg/日もしくは 50 µg/日)であり、平均値±標準偏差は 35.01±13.69 µg/日であっ

た。1ヵ月後は 73.62±28.18 µg/日に増加したが、その後は安定して推移し、3ヵ月後

84.60±35.89 µg/日、6ヵ月後 87.48±32.67 µg/日、12ヵ月後は 101.68±39.40 µg/日、

18ヵ月後は 120.54±59.14 µg/日、24ヵ月後は 106.60±21.29 µg/日と著しい変動は認

められなかった。1ヵ月後以降最長 30ヵ月後までの最小投与量は 41.09 µg/日、最大

投与量は 280.00 µg/日であった。耐薬性は認められなかった。

なお、脳由来(成人)では、ポンプ植込み時の投与量は 50.00±20.41 µg/日、1ヵ

月後は 106.27±70.84 µg/日であり、36ヵ月後は 145.50±133.64 µg/日であった。成人

計においては、ポンプ植込み時の投与量は 52.50±13.81 µg/日、1ヵ月後162.64±159.69

µg/日、6ヵ月後 200.19±192.37 µg/日、36ヵ月後 248.84±226.27 µg/日と推移した。

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

16

図 2.5.4.4-3 脳由来(小児)における被験者ごとの投与量推移:

国内試験(長期持続投与試験)

(図 2.7.3.4-1と同一)

国内試験における下肢平均 Ashworth評点の推移を図 2.5.4.4-4に示す。

脳由来(小児)、脳由来(成人)ともに 1ヵ月後に低下を示した後、変動は認めら

れるものの 30ヵ月後まで低下が維持された。また、脳由来(小児)と成人計の推移

に特記すべき違いはなかった。

1

2

3

4

5

0 3 6 9 12 15 18 21 24 27 30

時期(ヵ月)

Ashworth評

脳由来(小児) 脳由来(成人) 成人計

(5)

(4)

(20)

(5)

(4)

(18)

(5)

(4)

(20)

(5)

(4)

(20)

(5)

(4)

(19)

(5)

(4)

(18)(5)

(4)

(18)(5)

(4)

(18)(5)

(4)

(19)

(5)

(4)

(19)

(5)

(4)

(19)(4)

(4)

(19)

(3)

(4)

(18)(1)

(4)

(18)

( ):n

上段:脳由来(小児)

中段:脳由来(成人)

下段:成人計

図 2.5.4.4-4 Ashworth 評点の推移:国内試験(長期持続投与試験)

平均値±標準誤差(図 2.7.3.3-4と同一)

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

17

以上の成績より、小児患者においても、成人患者と同様に下肢平均 Ashworth評点

の変化を基準として 1日投与量を調節することにより、長期間にわたって効果を維持

することが可能であると考えられた。1日投与量はポンプ植込み後の初回が 25 µg/日

もしくは 50 µg/日であり、1日投与量の平均値が 27ヵ月後では 100 µg/日を超えたと

ころで調節されていたことから、小児患者における長期持続投与(滴定期・維持期)

の標準用量は 25~150 µg/日と設定することが妥当であると考えた。

4.2.2 海外臨床試験の有効性

Protocol VIにおいては、ポンプ植込み時の 1日投与量をスクリーニング試験で有効

であった投与量の 1.0~2.0倍量として髄腔内持続投与し、以降は下肢の痙縮を改善す

ることを目的として適宜増減した。

Protocol XIにおいては、ポンプ植込み時の 1日投与量をスクリーニング試験で有効

であった投与量として髄腔内持続投与し、以降は下肢平均 Ashworth評点が 1~2を維

持することを目標とし、24時間に 1度は 1日投与量を 40%まで増量可能とした。

被験者の年齢によるサブグループ解析を参考として実施し、その結果を以下に示す。

Protocol VIおよび XIにおける投与量の推移を表 2.5.4.4-2に示す。

7歳以上 16歳以下のポンプ植込み時の 1日投与量(平均値±標準偏差)は、Protocol

VIでは 99.2±30.5 µg/日、Protocol XIでは 76.3±25.3 µg/日であり、3ヵ月後にはそれ

ぞれ 213.9±142.6 µg/日、171.7±127.9 µg/日と増加したが、以降は徐々に増加したも

のの安定して推移した。3ヵ月以降の最小投与量と最大投与量は、Protocol VIが 22 µg/

日と 900 µg/日、Protocol XIが 25 µg/日と 1350 µg/日であった。

6歳以下(4歳以上)のポンプ植込み時は、Protocol VIでは 75.0±43.3 µg/日、Protocol

XIでは 85.6±22.6 µg/日であり、3ヵ月後にはそれぞれ 109.0±52.9 µg/日および 162.2

±101.7 µg/日と増加したが、以降は 7歳以上 16歳以下よりも低い投与量で安定して

推移した。3ヵ月以降の最小投与量と最大投与量は、Protocol VIが 30 µg/日と 188 µg/

日、Protocol XIが 65 µg/日と 670 µg/日であった。

17歳以上においては、Protocol VIでは 7歳以上 16歳以下と比較してやや高い投与

量で推移し、Protocol XIでは 7歳以上 16歳以下と同程度の投与量で推移した。3ヵ

月以降の最小投与量と最大投与量は、Protocol VIが 115 µg/日と 900 µg/日、Protocol XI

が 25 µg/日と 906 µg/日であった。

なお、Protocol XIにおいて耐薬性が 1例(31歳、女性)報告された。髄腔内バク

ロフェン投与量は 875 µg/日、発現までの期間はポンプ植込み後 15.6ヵ月であり、休

薬が実施された(表 2.7.3.5-1参照)。

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

18

表 2.5.4.4-2 投与量推移:Protocol VI、Protocol XI(長期持続投与試験)

(参考として実施した追加解析)

Protocol VI

6 歳以下 7 歳以上 16 歳以下 17 歳以上 全体 時期

例数 平均値 標準偏差 例数 平均値 標準偏差 例数 平均値 標準偏差 例数 平均値 標準偏差

植込み時 5 75.0 43.3 28 99.2 30.5 18 131.9 48.4 51 108.4 42.5

3 ヵ月 4 109.0 52.9 23 213.9 142.6 14 255.2 106.2 41 217.8 129.4

12 ヵ月 4 111.5 49.5 19 243.0 198.0 12 335.4 144.9 35 259.6 180.3

24 ヵ月 4 117.0 52.9 18 264.9 193.7 13 379.8 204.4 35 290.7 201.7

36 ヵ月 2 114.5 36.1 15 226.1 190.0 7 360.4 148.9 24 256.0 182.9

48 ヵ月 1 90.0 12 275.5 250.6 7 366.2 199.9 20 298.0 230.8

Protocol XI

6 歳以下 7 歳以上 16 歳以下 17 歳以上 全体 時期

例数 平均値 標準偏差 例数 平均値 標準偏差 例数 平均値 標準偏差 例数 平均値 標準偏差

植込み時 12 85.6 22.6 24 76.3 25.3 8 71.9 20.9 44 78.0 23.9

3 ヵ月 11 162.2 101.7 23 171.7 127.9 8 198.3 153.3 42 174.3 124.4

12 ヵ月 11 182.6 118.2 20 284.5 297.2 8 348.4 345.6 39 268.8 271.0

24 ヵ月 8 224.3 155.8 18 326.8 265.0 5 255.4 149.2 31 288.8 224.9

36 ヵ月 1 130.0 7 421.3 333.8 2 440.0 297.0 10 395.9 304.8

(表 2.7.3.4-3および表 2.7.3.4-4より抜粋)

Protocol VIとXIにおける下肢平均Ashworth評点の推移を図 2.5.4.4-5と図 2.5.4.4-6

に示す。

Protocol VIとXIにおける下肢平均Ashworth評点は、6歳以下、7歳以上 16歳以下、

17歳以上のいずれの年齢層においても 3ヵ月後以降さらに継続的な低下を認め、30

ヵ月後にも低下は維持された。

1

2

3

4

5

0 3 6 9 12 15 18 21 24 27 30

時期(ヵ月)

Ashworth評点

~6歳 7~16歳 17歳~

( ):n

上段:6歳以下

中段:7歳以上16歳以下

下段:17歳以上

(5)

(28)

(18)(4)

(20)

(12)

(4)

(19)

(15)

(3)

(12)

(9)(3)

(14)

(12)

(5)

(15)

(10)

(3)

(15)

(9)

(3)

(13)

(12)

(3)

(13)

(10)(3)

(18)

(10)

(3)

(9)

(8)

図 2.5.4.4-5 Ashworth 評点の推移:Protocol VI(長期持続投与試験)

平均値±標準誤差(図 2.7.3.3-5と同一)

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

19

1

2

3

4

5

0 3 6 9 12 15 18 21 24 27 30

時期(ヵ月)

Ashworth評点

~6歳 7~16歳 17歳~

( ):n

上段:6歳以下

中段:7歳以上16歳以下

下段:17歳以上

(11)

(24)

(8)

(11)

(23)

(7)

(12)

(21)

(7)

(11)

(22)

(8)

(11)

(20)

(8)

(11)

(18)

(6)

(10)

(20)

(7)

(8)

(18)

(3)

(8)

(17)

(5)

(7)

(14)

(2)

(4)

(14)

(2)

図 2.5.4.4-6 Ashworth 評点の推移:Protocol XI(長期持続投与試験)

平均値±標準誤差(図 2.7.3.3-6と同一)

以上の成績より、小児患者においても、成人患者と同様に下肢平均 Ashworth評点

の変化を基準として 1日投与量を調節することにより、長期間にわたって十分な抗痙

縮効果を維持することが可能であった。7歳以上 16歳以下の小児患者での長期持続

投与における投与量は、17歳以上の患者よりもやや低いか同程度で調節され、患者

によっては 1日投与量の上限値(600 µg/日)付近で調節される場合もあるものの、小

児患者の多くは成人患者よりも低い投与量で調節されることから、小児患者の 1日投

与量の上限は成人患者の 600 µg/日に対し 400 µg/日と設定することが適切であると考

えられた。

5. 長期使用における有効性の維持・耐薬性

5.1 国内試験

脳由来(小児)における長期持続投与時の下肢平均 Ashworth評点(平均値±標準

誤差)は、ポンプ植込み時 3.73±0.15から、1ヵ月後には 2.18±0.34に低下し、6ヵ

月後 2.33±0.18、27ヵ月後 1.71±0.30と安定して推移した。1ヵ月後から 27ヵ月後

までの下肢平均 Ashworth評点の低下はいずれも統計学的に有意であった(対応のあ

る t検定、P<0.001~P=0.003)また、脳由来(小児)の下肢平均 Ashworth評点推移

は、脳由来(成人)や成人計の推移と比較して特記すべき違いはなかった(図 2.5.4.4-4

および 2.7.6.2.6.1下肢左右合計 8部位の平均 Ashworth評点の項参照)。

なお、国内試験において耐薬性は認められなかった。

したがって、小児患者においても、長期間にわたって効果を維持することが可能で

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

20

あると考えられた。

5.2 海外臨床試験

Protocol VIの 7歳以上 16歳以下における下肢平均 Ashworth評点(平均値±標準誤

差)は、投与前が 2.86±0.14であり、3ヵ月後以降の各時点において変動はあるもの

の、投与前よりも低い値で推移した。6歳以下では、投与前 2.72±0.17に対して、18

ヵ月後に 2.87±0.93と上回ったが、他の各時点では投与前よりも低い値で推移した。

17歳以上では、7歳以上 16歳以下と同様に 3ヵ月後以降は投与前よりも低い値で推

移した。Protocol VIでは耐薬性は認められなかった。

Protocol XIの 7歳以上 16歳以下における下肢平均 Ashworth評点(平均値±標準誤

差)は、投与前が 3.45±0.11であり、3ヵ月後に 2.47±0.17と低下した後、以降の各

時点において平均値の低下は維持された。6歳以下では、投与前 3.23±0.09であり、

3ヵ月後 2.29±0.26と低下した後、各時点において変動はあるものの、投与前よりも

低い値で推移した。17歳以上においても、投与前 3.41±0.24であり、3ヵ月後に 2.24

±0.43と低下した後、各時点において変動はあるものの、投与前よりも低い値で推移

した。Protocol XIでは耐薬性が 1例報告された。

脳由来の痙性麻痺患者を対象とした海外臨床試験(長期持続投与試験に移行した

188名)において、成人 2名(1.1%)に耐薬性が報告された。耐薬性が発現した被験

者 2名における髄腔内バクロフェン投与量は、それぞれ 875 µg/日および 1184 µg/日

であり、発現までの期間はそれぞれポンプ植込み後 15.6ヵ月および 34.9ヵ月であっ

た。2名とも休薬の後に投与が再開されており、再開後の投与量はそれぞれ 200 µg/

日および 250 µg/日であった(2.7.3.5.2 海外臨床試験の項参照)。なお、脊髄由来の痙

性麻痺患者を含めた検討では、ポンプ植込みから 43.5ヵ月後以降には新たな耐薬性

は報告されていない(2.7.3.5.3 耐薬性への対処の項参照)。

以上より、小児患者においても耐薬性が発現する可能性は否定できないものの、耐

薬性の発現頻度は成人患者を上回るものではないと考えられ、また、長期間にわたっ

て効果を維持することが可能であるものと考えられた。

6. 臨床データの新地域への外挿可能性

バクロフェンの髄腔内投与については、外国において有効性および安全性に関する

検討・確認がなされた後に 1992年以降各国で承認・上市がされ、すでに国際的に十

分な使用経験がある。本邦におけるギャバロン髄注の臨床開発に際し、希少疾病用医

薬品に指定されたことからも明らかなように対象患者が少なく、したがって臨床試験

に参加可能な患者が著しく少ないことが予想されたため、臨床試験データパッケージ

として、海外臨床試験成績を参照・補完することとした。このため国内試験の立案に

あたっては、外国申請データの中核となった臨床試験 Protocol II(脊髄損傷および多

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

21

発性硬化症を対象)および Protocol XI(添付資料番号 5.3.5.1-2)の治験実施計画書に

可能な限り類似させて治験実施計画書を作成した。

なお、ギャバロン髄注は、作用部位である髄腔内に直接投与し作用させる製剤であ

り、薬効発現に吸収・分布過程の影響を受けにくいこと、バクロフェンは髄液中およ

び循環血中でほとんど代謝を受けないこと、ヒト髄液中の薬物動態は国内外の薬物動

態試験で人種間の変動よりも患者間の変動が大きいと考えられたこと、国内外とも対

象疾患の診断基準に相違がないことなどから、現時点で得られている知見の範囲で内

因性あるいは外因性民族的要因について臨床適用上問題となるような特記すべき点

はないと推察した。また限定的なデータではあるものの、国内試験において海外臨床

試験と同様に高い有効性が認められたこと、有害事象または副作用について同様のプ

ロファイルが認められたことに鑑み、本邦での臨床データパッケージに海外臨床試験

成績を含めることは妥当であると判断した。

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

22

7. 血中濃度モニタリングによる治療成績改善データおよび至適血中濃度範囲を示す

データ

ギャバロン髄注は、作用部位である髄腔内に直接投与し作用させる製剤であり、薬

効発現に対する吸収・分布過程の関連は特段考えられない。したがって、血中濃度モ

ニタリングによる治療成績改善データおよび至適血中濃度範囲に関する検討は行わ

なかった。

8. 観察された効果の臨床的意義

重度の痙性麻痺患者では、多数の筋群で有痛性の痙縮が高頻度に発現し、患者の

QOLは低下し、ADLも制限される。ギャバロン髄注が長期間持続的に示す抗痙縮効

果は、中枢性の筋緊張緩和作用によるものであり、対象とする原疾患の治療によるも

のではない。しかし、難治性の痙縮の改善により患者の QOL向上と ADL改善が期

待され、すでにそれらに関して多数報告がなされている 24~27)。国内試験では、5名

中 4名で被験者本人との意思疎通が困難であったため、小児患者における痛みおよび

締め付け感に関して評価することはできなかった。ADLの評価指標である Kenny式

セルフケア得点についても、明らかな改善を認めることはできなかったが、突発的な

四肢の伸展が見られなくなり、椅子に座って食事が最後までできるようになったとい

う報告もある 30)。また、関節可動域の改善は認められており(2.7.3.3.3.1.3および

2.7.3.3.3.2.3その他の評価項目の項参照)、関節拘縮の予防とこれに伴う QOLの悪化

を防ぐことが期待されるとともに、肢位の自由度が確保されることによって介護者の

負担軽減も期待される。さらに、痙縮の改善により成長の妨げとなる栄養障害、骨変

形や脱臼などの二次障害の予防も期待できる。

ギャバロン髄注は、抗痙縮薬の内服療法が奏効しない重度の小児痙性麻痺患者に対

して明確な痙縮改善効果を示し、さらにその効果は長期間にわたり持続した。ギャバ

ロン髄注の臨床的意義は大きいと考えた。

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

23

5. 安全性の概括評価

ギャバロン髄注の安全性の概括評価には、国内試験成績[添付資料番号:5.3.5.2-1

(試験番号:DL404-01)、添付資料番号:5.3.5.2-2(試験番号:DL404-02)]30名お

よび脳由来の重度痙性麻痺を対象とした海外臨床試験成績[添付資料番号:5.3.5.3-3

(脳由来の臨床試験の統括成績)]252名のデータを用いた(2.7.4.1.1.5安全性データ

の記載方法の項参照)。また、そのうち 68名については、引き続き米国市販後追跡試

験[添付資料番号:5.3.6-1(試験番号:D96-056)]に組み入れられ、その試験での長

期安全性についても併せて評価した(2.7.4.6市販後データの項参照)。

死亡例については、脊髄由来の海外臨床試験成績[添付資料番号:5.3.5.3-2(脊髄

由来の臨床試験の統括成績)および欧州臨床試験(Protocol VII)]693名を上記に加

えた計 945名のデータを用いた(2.7.4.2.1.2.2海外臨床試験の項参照)。

なお、国内試験において、ギャバロン髄注の投与を受けた小児患者の年齢範囲が 7

~16歳であったことから、脳由来の海外臨床試験(Protocol VI、VIII、IX、X、XI、

XII、XIVおよびNVD94-043)においてギャバロン髄注の投与を受けた患者 252名を、

6歳以下、7歳以上 16歳以下および 17歳以上の 3つの部分集団に分けた集計を参考

として米国メドトロニック社において実施した。

1. 本薬に特徴的な有害事象

バクロフェンは中枢神経系の抑制性伝達物質であるGABAの誘導体であり、GABA

と同様に中枢神経の抑制に基づいた抗痙縮作用を有する。ギャバロン髄注の国内試験

および海外臨床試験の結果、患者の年齢にかかわらず、傾眠などの中枢神経系および

筋緊張低下などの筋骨格系、嘔気/嘔吐などの消化器系の有害事象が特徴的なものと

して認められた(2.5.5.5比較的よく見られる重篤でない有害事象、2.7.4.2.1有害事象

の解析の項参照)。

また、バクロフェンに特徴的であり致死性の経過をたどる可能性のある有害事象と

して、離脱症状(Withdrawal:バクロフェンの突然の投与中断時に発現する有害事象)

および過量投与に起因する有害事象が知られている。

離脱症状は国内試験では認められなかった。米国においては市販後 12年間で 82

例の FDAへの報告があり、髄腔内投与バクロフェンの米国添付文書中に「バクロフ

ェンの髄腔内投与を受けた患者すべてに、離脱症状のリスクがあると思われる。バク

ロフェンの離脱症状の早期症状としては、投与により改善していた痙縮の増悪、そう

痒症、血圧低下および感覚異常が挙げられる。バクロフェン髄腔内投与の中断が続い

た際の離脱症候群の臨床的特徴は、自律神経過反射などの自律神経の反射異常、感染

症(敗血症)、悪性高体温症、神経遮断性悪性症候群、あるいは、代謝亢進状態や広

範な横紋筋融解症などに類似することもある。」との記載がある(2.5.5.9.3重要な基

本的注意、2.7.4.5.7離脱症状および反跳現象の項参照)。

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

24

過量投与は、国内試験では認められなかった。髄腔内投与バクロフェンの米国添付

文書では、「急激な大量の過量投与により昏睡状態になる。」との記載がある(2.5.5.12

過量投与に対する反応、2.7.4.5.5過量投与の項参照)。

2. 特定の有害事象をモニターするための方法

髄腔内投与バクロフェンの海外臨床試験の結果ならびに髄腔内投与バクロフェン

およびギャバロン錠の添付文書から、国内試験において慎重な対処が必要と予想され

た特定の有害事象として、離脱症状および過量投与が考えられる。本剤を長期連用中

に突然投与が中止・中断された際に発現する離脱症状としては、高熱、精神状態の変

化(幻覚、錯乱、興奮状態等)、けいれん発作、リバウンド症状としての痙縮の増強、

筋硬直などが認められる。また、過量投与に伴う症状として傾眠、頭のふらつき、め

まい、意識減弱、呼吸抑制、発作、緊張低下、昏睡につながる意識消失がある。臨床

使用に当たっては、これらの症状に留意して十分な観察を行う必要がある。

なお、国内試験においては、各治験実施医療機関の治験責任(分担)医師等に治験

トレーニングを行い、離脱症状や過量投与の原因、危険性などを周知させるとともに、

治験実施計画書に増量および減量規定を厳密に規定した。さらに、有害事象、副作用、

治験用具の不具合、手術・手技または薬液の充填手技に関連した併発事象、バイタル

サイン(筋弛緩作用を鑑み、呼吸数、脈拍数、血圧、心電図を経時的に評価した。)

および臨床検査の各項目について観察・測定を行い、当該有害事象のモニタリングに

努めた。その結果、離脱症状および過量投与は国内試験では認められなかった

(2.7.4.5.5過量投与、2.7.4.5.7離脱症状および反跳現象の項参照)。

3. 非臨床での毒性学的情報および製品の品質に関する情報

バクロフェンの非臨床での毒性学的情報から、特に小児患者における安全性への影

響が考えられる項目として、耐性および依存性形成が重要と考えられた。

筋弛緩を指標としたラット耐性形成試験では、10 mg/kg/day以上でバクロフェンに

対する耐性形成が認められた。

ラットを用いたモルヒネ型身体依存性試験およびバルビツール型身体依存性試験

において身体依存形成能は認められなかった。また、精神依存性試験(ヒヒ)の結果、

バクロフェンのコカインによる強化効果は極めて僅少であった(初回申請 CTD2.6.6.8

その他の毒性試験の項参照)。

なお、米国の臨床試験中、662名中 27名(4.1%)に耐薬性が認められ本剤の休薬

が行われている。本剤の連用により耐薬性が生じる可能性がある(2.7.4.5.6薬物乱用

の項参照)。

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

25

4. 投与対象となった患者集団の特徴と曝露の程度

4.1 投与対象となった患者集団の特徴

ギャバロン髄注の国内試験および米国試験において、安全性評価の対象となった患

者集団の要約を表 2.5.5.4-1に示す(試験ごとの内訳は表 2.7.4.1-1および表 2.7.4.1-2

参照)。なお、国内試験に参加した患者集団は小児(7歳以上 16歳以下)5名および

成人(17歳以上)25名、計 30名と少数であり、患者背景に関する海外臨床試験との

詳細な統計学的検討・比較は困難であった。

国内試験における男性の比率は、小児で 40.0%、成人で 80.0%であり、海外臨床試

験(脳由来)における男性の比率は、6歳以下で 66.7%、7歳以上 16歳以下で 55.3%、

17歳以上で 67.3%であった。

国内試験における小児の平均年齢(最小値、最大値)は、10.6歳(7歳、16歳)、

成人の平均年齢は 41.1歳(18歳、61歳)であった。海外臨床試験(脳由来)では、

6歳以下の平均年齢は 5.7歳(4.0歳、6.8歳)、7歳以上 16歳以下では 11.9歳(7.0

歳、16.8歳)、17歳以上では 28.1歳(17.0歳、70.4歳)であった。

表 2.5.5.4-1 患者背景の比較

国内試験 海外臨床試験(脳由来)a)

小児

(7~16歳)

成人

(17歳以上)

小児

(6歳以下)

小児

(7~16歳)

成人

(17歳以上)

評価対象症例数 5 25 39 103 110

10.6±3.5b) 41.1±14.0 b) 5.7±0.8 b) 11.9±3.0 b) 28.1±9.5 b) 年齢(歳)

7, 16c) 18, 61 c) 4.0, 6.8 c) 7.0, 16.8 c) 17.0, 70.4 c)

男 2(40.0%) 20(80.0%) 26(66.7%) 57(55.3%) 74(67.3%)性別

女 3(60.0%) 5(20.0%) 13(33.3%) 46(44.7%) 36(32.7%)

脊髄損傷 - 12(48.0%) - - -

多発性硬化症 - - - - -

脊髄小脳変性症

(遺伝性痙性対麻痺)- 4(16.0%) - - -

脊髄血管障害 - 3(12.0%) -

後縦靱帯骨化症 - 1(4.0%) -

頸部脊椎症 - 1(4.0%) - - -

頭部外傷 - 2(8.0%) - - -

脳性麻痺 5(100.0%) 2(8.0%) 36(92.3%) 95(92.2%) 49(44.5%)

脳損傷 d) - - - 3(2.9%) 50(45.5%)

脳由来の痙性麻痺 - - 2(5.1%) 2(1.9%) 8(7.3%)

無酸素症 - 1(2.6%) - 3(2.7%)

その他 - - - 3(2.9%)

6~12ヵ月 - 4(16.0%)

13~24ヵ月 - 8(32.0%)

痙縮

罹病

期間 25ヵ月~ 5(100.0%) 13(52.0%)

- - -

a)Protocol VI, XI, XIV, VIII, IX, X, XII, NVD94-043

b)平均値±標準偏差

c)最小値, 最大値

d)非開放性頭部外傷および脳挫傷を含む

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

26

4.2. 曝露程度

ギャバロン髄注の国内試験および脳由来の海外臨床試験(Protocol VIおよび XI)

における年齢別にサブグループ化したバクロフェンの投与後各時点別の平均 1日用

量を表 2.5.5.4-2に要約した。

国内試験の小児(7歳以上 16歳以下)におけるポンプ植込み時の平均 1日用量は

35.01 µgと、Protocol VIの 7歳以上 16歳以下における 99.2 µgおよび Protocol XIの 7

歳以上 16歳以下における 76.3 µgと比較して、約 1/3~1/2であった。1日用量の最大

値については 50.00 µgであり、Protocol VIにおける 195 µgおよび Protocol XIにおけ

る 120 µgと比較して約 1/4~1/2であった。また、国内試験の小児におけるポンプ植

込み時の平均 1日用量は 35.01 µgと、成人(52.50 µg)の約 2/3であった。1日用量

の最大値 50.00 µgは成人(17歳以上)の 1/2であった。

海外臨床試験のポンプ植込み時の平均 1日用量は、Protocol VIにおける 7歳以上

16歳以下 99.2 µgは 17歳以上 131.9 µgの約 3/4であり、Protocol XIにおける 7歳以

上 16歳以下 76.3 µgは 17歳以上 71.9 µgとほぼ同用量であった。1日用量の最大値に

ついては、Protocol VIにおける 7歳以上 16歳以下 195 µgは 17歳以上 200 µg、Protocol

XIにおける 7歳以上 16歳以下 120 µgは 17歳以上 100 µgであり、いずれもほぼ同用

量であった。

長期持続投与時の 1~6ヵ月後の各時点で最も頻度が高かった 1日用量は、国内試

験における小児では「1 µg 以上 100 µg未満」であったのに対して、海外臨床試験

(Protocol VIおよび XI)では「100 µg以上 200 µg未満」が最も頻度が高かった(付

表 2.7.4.1-1~2.7.4.1-5参照)。

長期持続投与時の平均 1日用量には経時的な漸増傾向が認められた。6ヵ月以降の

7歳以上 16歳以下の平均 1日投与量は、国内試験では 87.48 µg~136.88 µgであり、

Protocol VIの 209.0 µg~327.3 µgおよび Protocol XIの 214.1 µg~499.3 µgと比較して

約 1/4~2/5であった。長期持続投与時の 1日用量の最大値については、国内試験の小

児は 280.00 µgであり、Protocol VIおよび Protocol XIの 7歳以上 16歳以下の 900 µg、

1350 µgと比較して約 1/5~1/3であった。

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27

表2.5.5.4-2ギャバロン髄注の平均

1日用量の要約

1日投与量(

µg/日)

Pro

toco

l V

I

Pro

toco

l X

I 時期

国内試験(小児)

7歳以上

16歳以下

国内試験(成人)

17歳以上

6歳以下

7歳以上

16歳以下

1

7歳以上

6歳以下

7歳以上

16歳以下

1

7歳以上

ポンプ

植込み時

35

.01

(2

5.0

0, 50

.00)

52

.50

(2

5.0

0, 10

0.0

0)

75

.0

(5

0, 1

50)

99

.2

(5

0, 1

95)

13

1.9

(5

0, 2

00)

85

.6

(5

0, 1

01)

76

.3

(5

0, 1

20)

71

.9

(5

0, 1

00)

1ヵ月後

7

3.6

2

(4

1.0

9, 10

8.0

0)

16

2.6

4

(4

0.0

9, 59

9.0

0)

2ヵ月後

8

3.6

0

(4

7.0

0, 12

4.0

0)

17

6.5

0

(3

5.9

2, 60

0.0

0)

3ヵ月後

8

4.6

0

(4

7.0

0, 12

4.0

0)

18

5.7

1

(3

3.0

3, 60

0.0

0)

10

9.0

(7

9, 1

88)

21

3.9

(2

2, 6

00)

25

5.2

(11

5, 48

0)

16

2.2

(6

5, 4

40)

17

1.7

(3

2, 4

80)

19

8.3

(5

6, 4

90)

6ヵ月後

8

7.4

8

(5

6.0

0, 12

4.3

0)

20

0.1

9

(3

5.0

4, 60

0.0

0)

13

5.0

(8

0, 1

75)

21

8.0

(2

2, 7

20)

27

2.1

(1

50, 48

0)

16

4.9

(6

5, 5

00)

21

4.1

(3

5, 1

00

0)

24

8.3

(0

, 60

0)

12ヵ月後

1

01.6

8

(7

0.2

0, 16

0.5

0)

23

3.1

5

(2

5.9

6, 80

0.0

0)

111

.5

(5

5, 1

75)

24

3.0

(6

5, 9

00)

33

5.4

(1

51, 70

0)

18

2.6

(6

9, 5

20)

28

4.5

(4

5, 1

35

0)

34

8.4

(2

5, 9

06)

18ヵ月後

1

20.5

4

(7

6.2

0, 22

0.0)

24

6.3

9

(1

9.9

5, 99

9.9

0)

11

7.0

(6

0, 1

79)

25

0.8

(8

5, 7

99)

38

1.4

(1

51, 70

0)

19

7.6

(7

1, 5

60)

28

8.5

(5

0, 1

00

0)

29

3.7

(1

04, 75

0)

24ヵ月後

1

06.6

0

(7

7.2

0, 12

4.3

0)

18

8.0

3

(1

7.0

0, 60

0.0

0)

11

7.0

(6

0, 1

79)

26

4.9

(6

5, 7

99)

37

9.8

(1

50, 90

0)

22

4.3

(8

6, 5

80)

32

6.8

(2

5, 1

00

0)

25

5.4

(11

5, 50

0)

30ヵ月後

1

43.1

0a)

20

5.9

6

(1

5.9

7, 69

0.0)

86

.3

(3

0, 1

40)

24

5.0

(2

5, 7

10)

35

9.2

(1

50, 61

0)

28

4.9

(8

6, 6

50)

37

8.7

(2

5, 1

00

0)

39

4.5

(1

89, 60

0)

上段は平均値、下段括弧(

)内は最小値

, 最大値

a)1例のみ

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

28

5. 比較的よく見られる重篤でない有害事象

5.1 国内試験

5.1.1 国内試験における有害事象

小児患者における有害事象発現率は、スクリーニング試験で 80.0%(5名中 4名 11

件)、用量設定期(滴定期、ポンプ植込み 60日以内)で 100.0%(5名中 5名 43件)、

維持期(ポンプ植込み 61~180日)で 80.0%(5名中 4名 38件)、スクリーニング試

験および長期持続投与試験の試験期間を通して 100.0%(5名中 5名 92件)であった。

主な有害事象は、結膜炎、下痢、嘔吐、気管支炎、血中クレアチンホスホキナーゼ増

加が各 60.0%(3例)、埋込み部位反応、発熱、創合併症、血圧低下、紅斑、発疹、

潮紅が各 40.0%(各 2例)であった(2.7.4.2.1.1.1.1国内試験の項参照)。

また、長期安全性試験(ポンプ植込み 6ヵ月後以降)における小児患者での有害事

象発現率は 100.0%(5名中 5名 146件)であり、主な有害事象は発熱 80.0%(4例)、

便秘、嘔吐、気管支炎、胃腸炎、皮膚裂傷、てんかん、接触性皮膚炎および湿疹が各

40.0%(各 2例)であった(2.7.4.2.1.1.1.2国内長期安全性試験の項参照)。

成人患者における有害事象発現率は、スクリーニング試験で 76.0%(25名中 19名

59件)、用量設定期(滴定期、ポンプ植込み 60日以内)で 100%(20名中 20名 148

件)、維持期(ポンプ植込み 61日以降)で 73.7%(19名中 14名 64件)であり、ス

クリーニング試験および長期持続投与試験の試験期間を通して 100.0%(25名中 25

名 271件)であった。主な有害事象は発熱 56.0%(14例)、頭痛 48.0%(12例)、創

合併症 44.0%(11例)、鼻咽頭炎、感覚減退が各 28.0%(各 7例)、便秘、悪心、紅斑

が各 24.0%(各 6例)であった(2.7.4.2.1.1.1.1国内試験の項参照)。

長期安全性試験における成人患者での有害事象発現率は 100.0%(19名中 19名 334

件)であり、主な有害事象は鼻咽頭炎 47.4%(9例)、便秘および発熱が各 31.6%(各

6例)、尿路感染、血中クレアチンホスホキナーゼ増加および褥瘡性潰瘍が各 26.3%

(各 5例)、創合併症、背部痛、感覚減退、紅斑および発疹が各 21.1%(各 4例)、下

痢、口内炎、倦怠感、疼痛、膀胱炎、頭痛および湿疹が各 15.8%(各 3例)であった

(2.7.4.2.1.1.1.2国内長期安全性試験の項参照)。

以上より、国内試験における有害事象発現率について、小児患者と成人患者の間に

違いはないものと考えられ、発現した有害事象の内容についても、大きく異なるもの

ではないと考えられた(2.7.4.2.1.1比較的よく見られる有害事象、2.7.4.5.1内因性要

因の項参照)。

5.1.2 国内試験における副作用

小児患者における副作用発現率は、スクリーニング試験で 40.0%(5名中 2名 2件)、

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

29

用量設定期(滴定期、ポンプ植込み 60日以内)で 40.0%(5名中 2名 3件)、維持期

(ポンプ植込み 61~180日)で 40.0%(5名中 2名 2件)、スクリーニング試験およ

び長期持続投与試験の試験期間を通して 80.0%(5名中 4名 7件)であった。発現し

た副作用は血中クレアチンホスホキナーゼ増加 40.0%(2例)、血中乳酸脱水素酵素

増加、血圧低下、C-反応性蛋白増加が各 20.0%(各 1例)であった(2.7.4.2.1.1.2.1国

内試験の項参照)。

長期安全性試験において小児患者には副作用は認められなかった(2.7.4.2.1.1.2.2

国内長期安全性試験の項参照)。

成人患者における副作用発現率は、スクリーニング試験で 44.0%(25名中 11名 32

件)、用量設定期(滴定期、ポンプ植込み 60日以内)で 45.0%(20名中 9名 26件)、

維持期(ポンプ植込み 61日以降)で 10.5%(19名中 2名 2件)であり、スクリーニ

ング試験および長期持続投与試験の試験期間を通して 72.0%(25名中 18名 60件)

であった。主な副作用は頭痛 28.0%(7例)、無力症、感覚減退が各 16.0%(各 4例)、

悪心、血圧低下が各 12.0%(各 3例)であった(2.7.4.2.1.1.2.1国内試験の項参照)。

国内長期安全性試験における副作用発現率は 68.4%(19名中 13名 37件)であり、

主な副作用は倦怠感 15.8%(3例)、便秘、嘔吐、血中クレアチンホスホキナーゼ増

加、頭痛、感覚減退、そう痒症、末梢冷感が各 10.5%(各 2例)であった(2.7.4.2.1.1.2.2

国内長期安全性試験の項参照)。

以上より、国内試験における副作用発現率について、小児患者と成人患者の間に違

いはないものと考えられた(2.7.4.2.1.1比較的よく見られる有害事象、2.7.4.5.1内因

性要因の項参照)。また、小児患者で認められた副作用は臨床検査値異常であったが、

いずれも一過性の変動である、または他に問題となる症状が認められないことから、

臨床的に問題となるものではないと考えられた(2.7.4.3. 臨床検査値の評価の項参照)。

5.2 海外臨床試験

ギャバロン髄注の海外臨床試験(脳由来)では有害事象の因果関係判定が行われな

かったため、すべての有害事象は副作用として取り扱った(2.7.4.2.1.1.2.3海外臨床試

験(脳由来)の項参照)。

副作用発現率は、スクリーニング試験で 25.8%(252名中 65名 127件)、用量設定

期(滴定期、ポンプ植込み 60日以内)で 37.8%(188名中 71名 146件)、維持期(ポ

ンプ植込み 61日以降)で 47.6%(170名中 81名 303件)、スクリーニング試験およ

び長期持続投与試験の試験期間を通して 56.3%(252名中 142名 576件)であった。

主な副作用は筋緊張低下 20.2%(51例)、傾眠 17.9%(45例)、頭痛 15.1%(38例)、

嘔気/嘔吐 13.9%(35例)、嘔吐 12.3%(31例)であり、器官別の発現件数では神経

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

30

系障害が最も多く、全体の 52.1%(300件/576件)をしめた。

被験者の年齢によるサブグループ解析を参考として実施し、その結果を以下に示す。

7歳以上 16歳以下の患者における副作用発現率は、スクリーニング試験で 27.2%

(103名中 28名 64件)、用量設定期(滴定期、ポンプ植込み 60日まで)で 41.3%(75

名中 31名 66件)、維持期(ポンプ植込み 61日以降)で 54.2%(72名中 39名 137件)、

スクリーニング試験および長期持続投与試験の試験期間を通して 59.2%(103名中 61

名 267件)であった。主な副作用は筋緊張低下 24.3%(25例)、傾眠 19.4%(20例)、

嘔吐 18.4%(19例)、頭痛 16.5%(17例)、嘔気/嘔吐 15.5%(16例)、けいれん発作

8.7%(9例)、便秘 7.8%(8例)であり、器官別の発現件数では神経系障害が 7歳以

上 16歳以下の患者に発現した副作用の 50.9%(136件/267件)を占めた。

6歳以下の患者における副作用発現率は、スクリーニング試験で 41.0%(39名中

16名 25件)、用量設定期(滴定期、ポンプ植込み 60日まで)で 41.9%(31名中 13

名 21件)、維持期(ポンプ植込み 61日以降)で 57.7%(26名中 15名 37件)、スク

リーニング試験および長期持続投与試験の試験期間を通して 76.9%(39名中 30名 83

件)であった。主な副作用は傾眠 28.2%(11例)、筋緊張低下 25.6%(10例)、嘔吐

20.5%(8例)、けいれん発作 17.9%(7例)であり、器官別の発現件数では神経系障

害が 6歳以下の患者における副作用の 61.4%(51件/83件)を占めた。

17歳以上の患者における副作用発現率は、スクリーニング試験で 19.1%(110名中

21名 38件)、用量設定期(滴定期、ポンプ植込み 60日まで)で 32.9%(82名中 27

名 59件)、維持期(ポンプ植込み 61日以降)で 37.5%(72名中 27名 129件)、スク

リーニング試験および長期持続投与試験の試験期間を通して 46.4%(110名中 51名

226件)であった。主な副作用は頭痛 17.3%(19例)、筋緊張低下 14.5%(16例)、傾

眠 12.7%(14例)、嘔気/嘔吐 12.7%(14例)、尿閉 10.9%(12例)、嘔気 8.2%(9

例)、めまい 7.3%(8例)であり、器官別の発現件数では神経系障害が 17歳以上の

患者における副作用の 50.0%(113件/226件)を占めた。

以上より、海外臨床試験では、患者の年齢にかかわりなく、主な副作用は筋緊張低

下、傾眠、頭痛、嘔気/嘔吐、嘔吐であった。試験期間を通じての副作用発現率は、

6歳以下で 76.9%(39名中 30名)と最も高く、7歳以上 16歳以下で 59.2%(103名

中 61名)、17歳以上で 46.4%(110名中 51名)であり、小児患者においてはより慎

重かつ十分な観察を行い、安全管理を徹底することが重要であると考えられた。

6. 重篤あるいは他の重大な有害事象

6.1 国内試験

ギャバロン髄注の国内試験[添付資料番号:5.3.5.2-1(試験番号:DL404-01)およ

び添付資料番号:5.3.5.2-2(試験番号:DL404-02)]において、死亡例は認められな

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

31

かった。

重篤な有害事象は、スクリーニング試験では認められず、長期持続投与試験(ポン

プ植込み 6ヵ月後まで)では成人患者 5名に 7件認められたものの、小児患者では認

められなかった。長期安全性試験(ポンプ植込み 6ヵ月後以降)では小児患者 1名に

1件、成人患者 5名に 9件の重篤な有害事象が認められた。小児患者の 1件は医療用

具合併症(右大腿骨プレート抜去)で、治験開始前より予定されていたため、治験薬、

医療用具、手技との因果関係はなしと判定された。なお、成人 5例 9件の重篤な有害

事象についても、治験薬との因果関係はなしと判定された(2.7.4.2.1.3.2国内長期安

全性試験の項参照)。

なお、中止例は全被験者 30名のうち、試験期間を通じて成人患者 6名であり、小

児患者に中止例はなかった(2.7.4.2.1.4.2.1国内試験の項参照)。また、長期安全性試

験(24名)では、2006年 1月時点で中止例はなかった。

6.2 海外臨床試験

FDA承認時までの脊髄由来および脳由来の海外臨床試験における死亡例は 25例

(945名中)であり、内訳は米国 20例(828名中)および欧州 5例(117名中)であ

った。また、米国試験に組み入れられた一部症例(161名)による市販後追跡試験に

おける死亡例は 17例であった。

これら 42例の死亡例のうち、小児の死亡例は、脳由来の重度痙性麻痺を対象とし

た米国臨床試験 2例(252名中)、米国市販後追跡試験 2例であったが、いずれも本

剤の髄腔内投与との関連性はないものと考えられた(2.7.4.2.1.2.2海外臨床試験の項

参照)。

海外臨床試験(脳由来)において、小児患者では 36名(死亡例 2例を含む)の被

験者に重篤な有害事象が認められた。内訳は、けいれん発作 18例、髄膜炎/感染症

(ポケット部の感染、虫垂炎など)12例、過量投与 5例、呼吸器系(呼吸抑制、呼

吸困難、喘鳴、頻呼吸など)8例、その他(嘔吐、傾眠、頭痛など)9例、離脱症状

1例、死亡 2例(交通事故、DICが各 1例)、心血管系(低血圧、徐脈)2例であった

(2.7.4.2.1.3.3海外臨床試験の項参照)。

海外臨床試験(脳由来)における有害事象発現による中止例は、スクリーニング試

験の 6歳以下で 0%、7歳以上 16歳以下で 3.9%(103名中 4名)、17歳以上で 0.9%

(110名中 1名)であり、長期持続投与試験の 6歳以下で 9.7%(31名中 3名)、7歳

以上 16歳以下で 13.3%(75名中 10名)、17歳以上で 4.9%(82名中 4名)と、小児

患者では有害事象発現による中止例が多かった(2.7.4.2.1.4.2.2海外臨床試験(脳由来)

の項参照)。

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

32

7. 用法・用量と有害事象との関連

ギャバロン髄注の国内試験の症例数は小児 5名および成人 25名(計 30名)と少数

であり、用法・用量と有害事象との関連性についての統計学的な検討は困難であった。

限定的なデータの範囲ではあるが、投与量別有害事象および有害事象発現例数の関連

性を検討した(2.7.4.2.1.1.4.1国内試験の項参照)。

国内試験における投与量別有害事象発現例数を表 2.5.5.7-1に、投与量別副作用発

現例数を表 2.5.5.7-2に示す。

小児患者 5名における投与量は 300 µg/日未満であったが、300 µg/日未満における

有害事象発現率と副作用発現率は、小児患者と成人患者の間に特記すべき差異は認め

られなかった。

表 2.5.5.7-1 投与量別有害事象発現例数:国内試験

全体 小児 成人

投与量(µg/日) 例数

発現例数

(%)

発現

件数 例数

発現例数

(%)

発現

件数 例数

発現例数

(%)

発現

件数

1~100未満 25 24 (96.0) 359 5 5 (100.0) 135 20 19 (95.0) 224

100~200未満 21 18 (85.7) 266 4 3 (75.0) 91 17 15 (88.2) 175

200~300未満 12 9 (75.0) 51 1 1 (100.0) 1 11 8 (72.7) 50

300~400未満 6 4 (66.7) 11 0 0 (0.0) 0 6 4 (66.7) 11

400~500未満 4 2 (50.0) 31 0 0 (0.0) 0 4 2 (50.0) 31

500~600未満 4 3 (75.0) 27 0 0 (0.0) 0 4 3 (75.0) 27

600~800未満 3 3 (100.0) 23 0 0 (0.0) 0 3 3 (100.0) 23

800~1000未満 1 1 (100.0) 5 0 0 (0.0) 0 1 1 (100.0) 5

(表 2.7.4.2-1と同一)

表 2.5.5.7-2 投与量別副作用発現例数:国内試験

全体 小児 成人

投与量(µg/日) 例数

発現例数

(%)

発現

件数 例数

発現例数

(%)

発現

件数 例数

発現例数

(%)

発現

件数

1~100未満 25 11 (44.0) 24 5 2 (40.0) 3 20 9 (45.0) 21

100~200未満 21 7 (33.3) 12 4 1 (25.0) 2 17 6 (35.3) 10

200~300未満 12 4 (33.3) 7 1 0 (0.0) 0 11 4 (36.4) 7

300~400未満 6 2 (33.3) 4 0 0 (0.0) 0 6 2 (33.3) 4

400~500未満 4 2 (50.0) 6 0 0 (0.0) 0 4 2 (50.0) 6

500~600未満 4 3 (75.0) 9 0 0 (0.0) 0 4 3 (75.0) 9

600~800未満 3 2 (66.7) 6 0 0 (0.0) 0 3 2 (66.7) 6

800~1000未満 1 1 (100.0) 2 0 0 (0.0) 0 1 1 (100.0) 2

(表 2.7.4.2-2と同一)

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

33

海外臨床試験における投与量別副作用発現例数を表 2.5.5.7-3に示す。

海外臨床試験(脳由来)においても、投与量と副作用発現率の関係について、年齢

サブグループ間に特記すべき差異は認められなかった。

表 2.5.5.7-3 投与量別副作用発現例数:海外臨床試験(脳由来)

(参考として実施した追加解析)

合計 6歳以下 7-16歳 17歳以上 投与量

(µg/日) 例数 発現例数

(%)

発現

件数 例数

発現例数

(%)

発現

件数例数

発現例数

(%)

発現

件数例数

発現例数

(%)

発現

件数

1~100 166 52 (31.3) 138 30 12 (40.0) 15 70 24 (34.3) 82 66 16 (24.2) 41

101~200 157 63 (40.1) 142 25 13 (52.0) 25 63 30 (47.6) 66 69 20 (29.0) 51

201~300 90 28 (31.1) 50 7 2 (28.6) 2 34 15 (44.1) 23 49 11 (22.4) 25

301~400 58 14 (24.1) 26 6 2 (33.3) 3 19 3 (15.8) 4 33 9 (27.3) 19

401~500 44 9 (20.5) 29 4 0 (0.0) 0 14 3 (21.4) 8 26 6 (23.1) 21

501~600 34 9 (26.5) 17 4 1 (25.0) 2 10 2 (20.0) 5 20 6 (30.0) 10

601~800 29 8 (27.6) 19 5 2 (40.0) 8 9 1 (11.1) 1 15 5 (33.3) 10

801~ 15 6 (40.0) 15 0 0 (0.0) 0 7 3 (42.9) 6 8 3 (37.5) 9

データ締切り日:1996年 7月 31日 (米国メドトロニック社資料)

(表 2.7.4.2-4と同一)

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

34

8. 長期投与時の安全性

ギャバロン髄注の国内試験の症例数は小児患者 5名および成人患者 25名(計 30

名)と少数であり、投与時期と有害事象との関連性についての統計学的な検討は困難

であった。限定的なデータの範囲ではあるが、投与時期と有害事象発現率および副作

用発現率の関連性を検討した(2.7.4.2.1.1.5.1国内試験の項参照)。

国内試験における時期別有害事象発現例数を表 2.5.5.8-1に、時期別副作用発現例

数を表 2.5.5.8-2に示す。

有害事象発現件数が最も多かった時期は、小児患者、成人患者ともにポンプ植込み

から 30日後(小児 32件、成人 129件)であった。小児患者と成人患者の有害事象発

現率には、いずれの時期においても特記すべき違いは認められなかった。

副作用発現率が高かった時期は、小児患者、成人患者ともにスクリーニング時(小

児 40.0%、成人 44.0%)とポンプ植込みから 30日後(小児 40.0%、成人 45.0%)であ

った。小児患者と成人患者の副作用発現率には、いずれの時期においても特記すべき

違いは認められなかった。

表 2.5.5.8-1 時期別有害事象発現例数:国内試験

全体 小児 成人

時期 例数

発現例数

(%)

発現

件数 例数

発現例数

(%)

発現

件数 例数

発現例数

(%)

発現

件数

スクリーニング 30 23 (76.7) 70 5 4 (80.0) 11 25 19 (76.0) 59

ポンプ植込み~30日 25 25 (100.0) 161 5 5 (100.0) 32 20 20 (100.0) 129

31日~60日 25 11 (44.0) 30 5 4 (80.0) 11 20 7 (35.0) 19

61日~90日 25 11 (44.4) 32 5 3 (60.0) 13 20 8 (40.0) 19

91日~120日 24 12 (50.0) 23 5 3 (60.0) 7 19 9 (47.4) 16

121日~180日 24 15 (62.5) 47 5 4 (80.0) 18 19 11 (57.9) 29

181日~270日 a) 24 18 (75.0) 65 5 4 (80.0) 21 19 14 (73.7) 44

271日~360日 a) 24 15 (62.5) 45 5 5 (100.0) 13 19 10 (52.6) 32

361日~450日 a) 24 14 (58.3) 53 5 4 (80.0) 21 19 10 (52.6) 32

451日~540日 a) 24 14 (58.3) 66 5 4 (80.0) 24 19 10 (52.6) 42

541日~630日 a) 24 13 (54.2) 48 5 4 (80.0) 15 19 9 (47.4) 33

631日~720日 a) 22 11 (50.0) 45 3 3 (100.0) 20 19 8 (42.1) 25

721日~810日 a) 22 18 (81.8) 44 3 2 (66.7) 10 19 16 (84.2) 34

811日~900日 a) 20 14 (70.0) 44 3 3 (100.0) 18 17 11 (64.7) 26

901日~990日 a) 18 11 (61.1) 36 1 1 (100.0) 3 17 10 (58.8) 33

991日~1080日 a) 10 9 (90.0) 31 - - - 10 9 (90.0) 31

1081日~1170日 a) 5 5 (100.0) 9 - - - 5 5 (100.0) 9

a) 国内長期安全性試験

(表 2.7.4.2-7と同一)

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

35

表 2.5.5.8-2 時期別副作用発現例数:国内試験

全体 小児 成人

時期 例数

発現例数

(%)

発現

件数 例数

発現例数

(%)

発現

件数 例数

発現例数

(%)

発現

件数

スクリーニング 30 13 (43.3) 34 5 2 (40.0) 2 25 11 (44.0) 32

ポンプ植込み~30日 25 11 (44.0) 25 5 2 (40.0) 3 20 9 (45.0) 22

31日~60日 25 2 (8.0) 4 5 0 (0.0) 0 20 2 (10.0) 4

61日~90日 25 1 (4.0) 1 5 0 (0.0) 0 20 1 (5.0) 1

91日~120日 24 1 (4.2) 1 5 1 (20.0) 1 19 0 (0.0) 0

121日~180日 24 2 (8.3) 2 5 1 (20.0) 1 19 1 (5.3) 1

181日~270日 a) 24 2 (8.3) 2 5 0 (0.0) 0 19 2 (10.5) 2

271日~360日 a) 24 3 (12.5) 4 5 0 (0.0) 0 19 3 (15.8) 4

361日~450日 a) 24 3 (12.5) 5 5 0 (0.0) 0 19 3 (15.8) 5

451日~540日 a) 24 4 (16.7) 7 5 0 (0.0) 0 19 4 (21.1) 7

541日~630日 a) 24 3 (12.5) 6 5 0 (0.0) 0 19 3 (15.8) 6

631日~720日 a) 22 2 (9.1) 4 3 0 (0.0) 0 19 2 (10.5) 4

721日~810日 a) 22 3 (13.6) 4 3 0 (0.0) 0 19 3 (15.8) 4

811日~900日 a) 20 1 (5.0) 1 3 0 (0.0) 0 17 1 (5.9) 1

901日~990日 a) 18 3 (16.7) 3 1 0 (0.0) 0 17 3 (17.6) 3

991日~1080日 a) 10 1 (10.0) 1 - - - 10 1 (10.0) 1

1081日~1170日 a) 5 0 (0.0) 0 5 0 (0.0) 0

a) 国内長期安全性試験

(表 2.7.4.2-8と同一)

海外臨床試験における、各治療期別の副作用の発現率は、スクリーニング時から用

量設定期(滴定期)のポンプ植込み~90日の期間が高く(6歳以下 41.9~43.6%、7

歳以上 16歳以下 26.2~41.3%、17歳以上 19.1~37.8%)、また維持期の副作用発現率

は、評価症例数の少ない時期を除くと、いずれも 0~10%台であった(2.7.4.2.1.1.5.2

海外臨床試験の項参照)。

以上のとおり、国内外および年齢を問わず、投与開始初期(スクリーニング時から

用量設定期(滴定期))の患者および安全性の管理が重要と考えられた。

9. 有害事象の予防、軽減および管理方法

国内試験および海外臨床試験の成績と、バクロフェン髄注の米国添付文書(第 1

部 1.6(2.1)項参照)および国内添付文書(第 1部 1.8項参照)から、投与禁忌、慎

重投与、重要な基本的注意に該当する項目など、有害事象の予防、軽減および管理方

法といった、ギャバロン髄注の小児患者における臨床適用時に安全性上の配慮が必要

な情報を以下にまとめた。

9.1 投与禁忌

国内試験では、バクロフェンに対し過敏症の既往歴のある患者は、除外基準により

登録・投与は行われなかった。

ギャバロン髄注の国内添付文書では、「投与禁忌」として「本剤の成分に対し過敏

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

36

症の既往歴のある患者」との記載がある。また、髄腔内投与バクロフェンの米国添付

文書では、バクロフェンに対し過敏症を有する患者には禁忌であり、静注、筋注、皮

下注、および硬膜外投与してはならないとの記載がある。

これまでの知見から、小児患者における用法・用量の追加にあたって、追記すべき

事項はないと考えられた。

9.2 慎重投与

ギャバロン髄注の国内添付文書では「慎重投与」として、てんかん患者およびその

既往歴のある患者、精神障害のある患者、消化性潰瘍のある患者、腎機能低下のある

患者、肝障害のある患者、呼吸不全のある患者、自律神経反射異常の既往歴を有する

患者および低体重の患者が規定されている。小児患者における用法・用量の追加にあ

たって、追記すべき事項はないと考えられた。

なお、体躯が小さな患者に対しては、過量投与にならないようスクリーニング試験

の初回用量について慎重に考慮する必要がある。国内試験では、体躯が極端に小さな

患者(体重 20 kg未満が目安)に対するスクリーニング試験の初回用量を 25 µgとし

て行い、小児 5名のうち 3名は 25 µg、2名は 50 µgが投与された。その結果、いず

れの患者も開始用量において有効と判断されたが、1名に本剤との因果関係が否定で

きない血圧低下が認められた。なお、25 µgが投与された患者の体重は 17.4 kg、17.8

kgおよび 20.1 kgであり、50 µgが投与された患者の体重は 21.3 kgおよび 30.0 kgで

あった。一方、低体重の成人患者 1名(18歳、14.4 kg)には、スクリーニング試験

の初回用量として 25 µgが投与され、有効と判断されたが、嘔吐および頻脈(いずれ

も本剤との因果関係は否定されている)が認められた。国内試験では過量投与の徴候

は認められなかったが、使用経験が限られているため、低体重の患者には慎重投与が

必要であると考えられる。

9.3 重要な基本的注意

9.3.1 離脱症状

バクロフェン髄腔内投与期間中に突然に投与が中止された場合、離脱症状として

「高熱、精神状態の変化、リバウンド症状としての痙縮の増強、および筋固縮などの

症状が現われ、まれに横紋筋融解症へと進行し、多臓器不全、死亡」などの重篤な有

害事象が発現する可能性がある。国内試験では離脱症状を呈した患者は認めなかった

ものの、外国においてバクロフェンの髄腔内持続投与時の離脱症状が市販後に報告さ

れている。離脱症状の発現は、外国臨床試験および市販後調査の経験から、カテーテ

ルの障害(特にカテーテル設置位置からの外れ)、ポンプリザーバーの薬液不足、お

よびポンプの電池切れであるなどの人為的なミスが原因や何らかの要因となってい

る。従って、離脱症状のリスクは患者の年齢とは関係なく、小児患者においても成人

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

37

患者と同様に十分な注意が必要であり、離脱症状を予防するための配慮および発現し

た際の対処法について十分な知識が施術者にとって必要と考えられる。

ギャバロン髄注の国内添付文書では、離脱症状の項に「本剤の長期連用中に投与が

突然中止・中断されると、高熱、精神状態の変化(幻覚、錯乱、興奮状態等)、けい

れん発作、リバウンド症状としての痙縮の増強、筋硬直などの症状が発現し、まれに

横紋筋融解症、多臓器不全、および死に至ることもあるとの報告があるので、投与を

中止する場合は、用量を徐々に減量するなど慎重に行うこと[海外の市販後 12年間

の調査で 82例(死亡に至った 17例を含む)の離脱症状が報告されている]。通常、

離脱症状は本剤の投与中止・中断後数時間から数日以内に発現している。また、離脱

症状の臨床的特徴は、自律神経反射異常、感染症(敗血症)、悪性高体温症、神経遮

断性悪性症候群、あるいは代謝亢進状態や広範な横紋筋融解症等に類似することもあ

るので鑑別に注意すること。」、「一般的な原因:本剤における離脱症状は、カテーテ

ルのトラブル(特に外れ)、ポンプ内の薬液不足、ポンプの電池切れ、または誤った

用量設定等が原因で、発現するおそれがある。ポンプ、カテーテルおよびプログラマ

の説明書を熟読の上、ポンプシステムのプログラミングおよびモニタリング、薬液の

補充スケジュールおよびその手順、ならびにポンプのアラームに十分注意すること。

患者および介護者には薬液補充のための受診の重要性および離脱症状の初期症状(投

与により改善していた痙縮の増悪、そう痒症、血圧低下および感覚異常)について十

分説明し、異常がみられた場合には直ちに受診するよう指導すること。」および「処

置:離脱症状に対する治療として、投与中止・中断前の用量あるいはそれに近い用量

での本剤の投与再開が推奨される。投与再開が遅れる場合は、バクロフェンの経口投

与、ベンゾジアゼピン系薬剤(ジアゼパム等)の経口、経腸、または静脈内投与によ

り症状の重篤化を予防できることがある。」との記載がある。小児患者における用法・

用量の追加にあたって、以上の記載に追記すべき事項はないと考えられた。

9.3.2 危険を伴う機械の操作

バクロフェンの薬理作用(中枢神経抑制作用)から、バクロフェン髄腔内投与時は

危険を伴う機械の操作への影響や支障を来たす可能性がある。また、国内試験および

米国試験において、危険を伴う機械の操作に支障を来たす可能性のある有害事象が認

められた(2.7.4.5.8自動車運転および機械操作に対する影響または精神機能の障害の

項参照)。

ギャバロン髄注の国内添付文書では、重要な基本的注意に「眠気等を催すことがあ

るので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作には従事させな

いよう注意すること」との記載があり、小児患者においても成人患者と同様の注意が

必要である。

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

38

9.4 相互作用

小児患者における用法・用量の追加にあたって、新たな知見はなく、追記すべき事

項はない。

9.5 小児などへの投与

小児においては、スクリーニング試験の初回用量を考慮すること、植込みポンプの

装着に関し体格を考慮することが必要と考えられる。

スクリーニング試験の小児初回用量に関しては、髄腔内投与バクロフェンの主要国

添付文書では「成人と同量の 50 µg(幼少の患者は 25 µg)または 25 µgを推奨」との

記載がある(第 1部 1.6外国における使用状況等に関する資料参照)。また、「6歳未

満の小児の臨床経験は極めて限られる(米国を除く)。4歳未満の安全性は確立され

ていない」との記載がある。また、髄腔内投与バクロフェンの米国添付文書では、「小

児においては、長期持続投与用の植込みポンプを装着するために十分な体格をしてい

ること。4歳未満の小児患者における安全性および有効性については確認されていな

い。」との記載がある。従って、ギャバロン髄注の国内添付文書においても「小児に

おいては、ポンプ植込みに十分な体格であることを考慮すること(ポンプの添付文書

を参照すること)。幼児(7歳未満)の小児に対する使用経験は海外のみに限られて

いるので、慎重に投与すること。なお、4歳未満の幼児に対する安全性は確立してい

ない(使用経験がない)。」と記載することが適切と考えられた。

なお、海外臨床試験における小児患者の副作用発現率は成人患者よりも高く、小児

患者ではより慎重かつ十分な観察が必要であると考えられた(2.5.5.5.2 海外臨床試験

の項参照)。

10. 過量投与に対する反応

患者の年齢にかかわりなく、過量投与による髄液中バクロフェン濃度の急激な上昇

が、昏睡状態や意識喪失などの有害事象を惹起する可能性がある。

国内試験では、過量投与につながる髄液中バクロフェン濃度の急激な変化を避ける

ため投与量増量規定を治験実施計画段階で規定し、これを厳密に遵守した結果、過量

投与は認められなかった(2.7.4.5.5項参照)。

ギャバロン髄注の国内添付文書では、用法・用量に関する使用上の注意に「用量を

調整する際には、用法・用量に従うこと。適切な手順に従わなかったり、使用する薬

液濃度を誤った場合、離脱症状や過量投与が発現するおそれがあるため、注意するこ

と」との記載がある(表 2.7.4.5-2参照)。重要な基本的注意に「本剤の投与に際して

は、離脱症状、過量投与等による副作用が発現するおそれがあり、患者またはそれに

代わり得る適切な者に対して、これらの初期症状について十分に説明し、異常を感じ

た場合には、直ちに医師に連絡し、指示を仰ぐよう注意を与えること」、過量投与の

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

39

項に「カテーテルの開存性または位置を確認する際、カテーテル内の薬液を不注意に

送達することにより過量投与が生じることがある。ポンプシステムのプログラミング

ミス、極端に急激な増量、経口バクロフェンとの併用、あるいはポンプの機能異常等

が原因で発現することがある」との記載がある。「兆候・症状:特徴的な症状は傾眠、

意識障害、呼吸抑制、昏睡等の中枢神経抑制症状である。また、けいれん、錯乱、幻

覚、全身筋緊張低下、反射低下・消失、低血圧、徐脈、低体温等があらわれることが

ある。」ならびに「処置:速やかにポンプを停止させる(ポンプ内の残存薬液をすべ

て抜き取ることでもポンプは停止される)。呼吸抑制がみられる場合、人工呼吸ある

いは必要に応じて挿管するとともに心血管系の機能保持のための処置を行う。本剤は

主として腎から排泄されるため、水分の供給を十分に行い、可能ならば利尿薬を併用

する。腎機能が低下している場合には血液透析等を考慮する。けいれんが発現した場

合にはジアゼパムを慎重に静脈内注射する。症状の発現直後であれば、髄液中バクロ

フェン濃度を低下させるために、腰椎穿刺またはポンプアクセスポートより 30~40

mLの髄液を抜き取ることも有効である。ただし、その場合、低髄圧症状、ヘルニア

等の発現に注意しながら急激には抜き取らないこと。なお、過量投与による症状が改

善した後もポンプを停止させたままで放置した場合には、離脱症状が発現する可能性

があるため、症状が改善した後には、患者の痙縮の状態を十分観察しながら、過量投

与を起こす前の用量あるいはそれに近い用量で本剤の投与を再開すること」との記載

がある。小児患者における用法・用量の追加にあたって、以上の記載に追記すべき事

項はないと考えられた。

11. 世界における市販後使用経験

ギャバロン髄注は国内においては 2005年 4月に「脳脊髄疾患に由来する重度の痙

性麻痺(既存治療で効果不十分な場合に限る)」の輸入承認を取得したが、小児の新

用量医薬品に関する本販売承認申請時(2005年 5月)、市販されていない。

一方、米国においては 1992年 6月に脊髄由来の重度痙性麻痺、1996年 6月に脳由

来の重度痙性麻痺(小児を含む)の承認を受け市販されている。なお、ポンプシステ

ムの累計での販売台数から推定して、バクロフェン髄腔内投与は約 3万人に実施され

ている。

脳由来の重度痙性麻痺を対象とした海外臨床試験(米国)に組み入れられた一部症

例(68名)について、米国上市後、引き続き市販後試験としてフォローし副作用の

集計を実施した(2.7.4.6.1項参照)。試験期間を通しての副作用発現率は、6歳以下

80.0%(15名中 12名 46件)、7歳以上 16歳以下 75.0%(36名中 27名 141件)、17歳

以上 35.3%(17名中 6名 32件)であった。発現した主な副作用は患者の年齢にかか

わりなく、筋緊張低下、傾眠、嘔気/嘔吐、けいれん発作であった。器官別の発現件

数では神経系障害が最も多かった。

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

40

12. 他地域で得られたデータの新地域への外挿

脳由来の重度痙性麻痺を対象とした海外臨床試験(米国)の安全性データを、国内

試験のデータを補完するために使用する。

ギャバロン髄注は希少疾病用医薬品の指定のもとに開発に着手した。国内試験にお

いて、安全性および有効性の統計学的な検証に必要な多数の患者数の確保や対照群の

設定などは実施不能であった。したがって、国内試験での限定的なデータ量あるいは

知見を海外臨床試験成績により補完するため、国内試験の選択および除外基準、用

法・用量、治験用具、投与期間、有効性および安全性の評価項目・基準などの重要項

目については、海外臨床試験との整合性・共通化に配慮し設定した。なお、国内試験

に参加した患者集団は 30名(小児 5名、成人 25名)と少数例であり、海外臨床試験

成績との詳細な統計学的検討・比較は困難であった。

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

41

6. ベネフィットとリスクに関する結論

痙縮に対する治療の目的は、下肢をはじめとする種々の筋の硬直を緩和することに

より拘縮を予防し、痛みや締め付け感といった患者の自覚症状を改善することで

ADLを改善し、患者の QOL低下を抑止することにある。さらに、小児においては痙

縮の改善によって、栄養障害や骨に対する異常な応力に伴う、成長の妨げとなる骨変

形や脱臼などの二次障害の防止も期待できる(2.5.1.1 痙縮の症状、問題点の項参照)。

したがって、痙縮治療の主たる標的は、関節部の筋緊張の改善にある。

現状の小児における痙性麻痺に対する治療は成人患者に対するものと同様に、抗痙

縮薬の内服や理学療法、装具療法などによる痙縮のコントロールが中心である。しか

し、小児における抗痙縮薬内服では、副作用によって十分な有効性が得られる用量を

投与することができない場合があり、より有効性と安全性のバランスに優れた薬物療

法の開発が期待されている。

ギャバロン髄注は重度痙性麻痺患者において痙縮の改善効果と、それに伴う ADL

の改善効果や QOLの向上を示し、「脳脊髄疾患に由来する重度の痙性麻痺(既存治療

で効果不十分な場合に限る)」の効能・効果で、2005年 4月に輸入承認された。しか

し、本承認における用法・用量は、成人に関する規定のみであった。米国をはじめと

する諸外国では、小児患者に対しても髄腔内投与バクロフェンが 1996年以降承認・

上市され、確立された治療法として普及している。本邦においても小児の重度痙性麻

痺患者における用法・用量を確立し、医療現場に提供することが急務である。

1. 小児患者における有効性

国内試験では小児患者 5名(7~16歳)を対象に、スクリーニング試験、長期持続

投与試験、長期安全性試験を実施し下肢平均 Ashworth評点の推移を評価した。スク

リーニング試験では、投与前の下肢平均 Ashworth評点(平均値±標準誤差)は 3.73

±0.15であったのに対し、4時間後には 2.43±0.18と有意な下肢関節部の筋緊張改善

を示した(対応のある t検定、P<0.001、2.5.4.4.1.1国内試験の有効性の項参照)。長

期持続投与時(長期持続投与試験および長期安全性試験)の下肢平均 Ashworth評点

は、ポンプ植込み時 3.73±0.15から、1ヵ月後には 2.18±0.34に低下し、6ヵ月後 2.33

±0.18、27ヵ月後 1.71±0.30と安定した改善が認められた(対応のある t検定、P<0.001

~P=0.003)。小児患者における下肢平均 Ashworth評点は、スクリーニング試験、長

期持続投与時ともに、成人患者(17歳以上)と同様の推移を示した(2.5.4.4.1.1およ

び 2.5.4.4.2.1国内試験の有効性の項参照)。

一方、海外臨床試験においても国内試験の成績と同様に、小児患者(4~16歳)に

おける下肢平均 Ashworth評点の改善が認められ、成人患者(17歳以上)における成

績と比較して特記すべき違いは認められなかった(2.5.4.4.1.2および 2.5.4.4.2.2海外

臨床試験の有効性の項参照)。なお、海外臨床試験において脳由来の痙性麻痺患者 2

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

42

名(いずれも成人患者)に耐薬性が認められた。小児患者においても耐薬性が発現す

る可能性は否定できないが、その発現頻度は成人患者を上回るものではないと考えら

れた(2.5.4.5.2海外臨床試験の項参照)。

以上より、国内・海外ともに小児の重度痙性麻痺患者におけるバクロフェン髄腔内

投与の有効性が示された。また、バクロフェン髄腔内投与は小児の重度痙性麻痺患者

においても、成人患者における有効性と同様に、長期間にわたって持続的に下肢関節

部の筋緊張を緩和し、抗痙縮効果を発揮するものと考えられた。ただし、国内試験に

おいては 6歳以下の小児に対する使用経験がないため、6歳以下の小児にはより慎重

な投与が必要になるものと考えられた。

2. 小児患者における安全性

2.1 重大な安全性所見

国内試験の小児患者 5名(7~16歳)では死亡例は認められなかった。重篤な有害

事象は 1名に 1件(右大腿骨プレート抜去)認められたが、治験開始前から予定され

ていた手術であり、因果関係は否定されている。離脱症状および過量投与は認められ

なかった(2.5.5.6.1国内試験の項参照)。

海外臨床試験における小児患者 142名(4歳~16歳)では、死亡例が 2例認められ

たが、いずれもバクロフェン髄腔内投与との因果関係はないものと考えられた。重篤

な有害事象は、けいれん発作 18例、髄膜炎/感染症 12例、過量投与 5例、呼吸器系

(呼吸抑制、呼吸困難、喘鳴、頻呼吸など)8例、その他(嘔吐、傾眠、頭痛など)

9例、離脱症状 1例が認められた(2.5.5.6.2海外臨床試験の項参照)。

バクロフェン髄腔内投与にあたって特に安全性上留意すべき問題点は、離脱症状と

過量投与である。これらはポンプの誤作動や投与ミスなどが原因ではあるものの、ギ

ャバロン髄注の投与を受ける患者すべてにリスクがあると考えられる。小児患者にお

いても、離脱症状の発現と過量投与の防止に十分留意し、離脱症状が認められた場合

は投与中止・中断前の用量あるいはそれに近い用量での投与再開を行い、一方、過量

投与が認められた場合は速やかなポンプ停止と体内からのバクロフェン除去、呼吸抑

制やけいれんに対する処置、症状消失後の投与再開を行う必要がある(1.8添付文書

(案)、2.5.5.11.3.1離脱症状および 2.5.5.12過量投与に対する反応の項参照)。

2.2 小児患者における有害事象・副作用

国内試験における小児患者の有害事象発現率は 100%(5名中 5名)であり、主な

有害事象は結膜炎、下痢、嘔吐、気管支炎、血中クレアチンホスホキナーゼ増加(以

上各 3例)、埋込み部位反応、発熱、創合併症、血圧低下、紅斑、発疹および潮紅(以

上各 2例)であった。また、小児患者における副作用発現率は 80.0%(5名中 4名)

で、発現した副作用はいずれも臨床検査値異常(血中クレアチンホスホキナーゼ増加

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

43

が 2例、血中乳酸脱水素酵素増加、血圧低下および C-反応性蛋白増加が各 1例)で

あった。有害事象発現率および副作用発現率は、スクリーニング試験から用量設定期

(滴定期)のポンプ植込み後 30日以内で高かった。有害事象および副作用の内容と

発現率は、小児患者と成人患者の間に特記すべき違いはなく、発現率が高い時期も同

じであった(2.5.5.5.1国内試験および 2.5.5.10長期投与時の安全性の項参照)。

海外臨床試験における小児患者の主な副作用は筋緊張低下、傾眠、頭痛、嘔気/嘔

吐、嘔吐であり、成人患者における主な副作用と共通していた。副作用発現率は 6

歳以下の小児で 76.9%(39例中 30例)、小児 7~16歳で 59.2%(103例中 61例)、成

人 17歳以上で 46.4%(110例中 51例)と、6歳以下の小児患者において高かった。

副作用発現率は小児患者、成人患者ともにスクリーニング時から用量設定期(滴定期)

のポンプ植込み後 90日の期間で高かった(2.5.5.5.2海外臨床試験および 2.5.5.10長期

投与時の安全性の項参照)。

以上より、国内試験で小児患者に認められた有害事象と副作用には、海外臨床試験

成績と比較して特に問題となるものはなかった。また、国内・海外ともに小児患者と

成人患者で主な副作用に違いは認められなかった。海外臨床試験における副作用発現

率は成人患者よりも小児患者で高く、小児患者への投与にあたっては十分な観察が必

要であると考えられた。有害事象と副作用の発現時期からは、投与開始初期(スクリ

ーニング時~用量設定期(滴定期))における安全管理が重要と考えられた。

3. 小児患者における用法・用量

3.1 スクリーニング(効果の確認)の用法・用量

小児患者(脳性麻痺)5名を対象とした国内のスクリーニング試験では 25 µg投与

が 3名、50 µg投与が 2名であり、いずれも抗痙縮効果が確認された。25 µgが投与

された 3名の体重は 17.4 kg、17.8 kgおよび 20.1 kgであり、50 µgが投与された 2名

の体重は 21.3 kgと 30.0 kgであった(2.5.4.4.1.1国内試験の有効性の項参照)。

海外臨床試験では 25 µg投与もしくは 50 µg投与からスクリーニング試験が開始さ

れており、いずれの投与量においても抗痙縮効果が確認された(2.5.4.4.1.2海外臨床

試験の有効性の項参照)。

したがって、スクリーニング(効果の確認)は 25 µgもしくは患者の体格に応じて

50 µgまでの用量から開始することが適切と考えられ、小児における用法・用量を以

下(下線部)のように設定することとした。

スクリーニング[効果の確認]

本剤専用のポンプシステムを植込む前に本剤の効果を確認するため、スクリーニングを実施

する。スクリーニングには髄注 0.005%を用いる。

通常、成人にはバクロフェンとして 1日 1回 50 µg[髄注 0.005%を 1 mL(1管)]をバルボ

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

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タージ法(ポンピング)により髄腔内投与し、抗痙縮効果を 1~8時間後に確認する。期待し

た効果が認められない場合、初回投与から 24時間以降に 75 µg[髄注 0.005%を 1.5 mL(1.5

管)]に増量の上同様に髄腔内投与して 1~8時間後に効果を確認する。期待した効果が認めら

れない場合、2回目の投与から 24時間以降に 100 µg[髄注 0.005%を 2 mL(2管)]に増量の

上同様に髄腔内投与して 1~8時間後に効果を確認する。100 µgでも効果が認められない場合、

本剤の治療対象とはならない。

通常、小児にはバクロフェンとして 1日 1回 25 µg[髄注 0.005%を 0.5 mL(0.5管)]をバル

ボタージ法(ポンピング)により髄腔内投与し、抗痙縮効果を 1~8時間後に確認する。ただ

し、体格、症状などを考慮して増量することができるが、初回投与量の上限は 50 µg[髄注

0.005%を 1 mL(1管)]とする。期待した効果が認められない場合、初回投与量が 50 µg未満

である場合は 50 µg、50 µgである場合は 75 µgに増量の上、髄腔内投与して 1~8時間後に効

果を確認する。期待した効果が認められない場合、成人の用法・用量に準じて増量の上、同様

に髄腔内投与して 1~8時間後に効果を確認する。100 µgでも効果が認められない場合、本剤

の治療対象とはならない。

3.2 長期持続投与(用量設定期(滴定期)・維持期)の用法・用量

国内試験では、ポンプ植込み後の初回 1日投与量をスクリーニング試験で効果が認

められた投与量の 2倍、ただし、8時間後の評価で有効と判定された場合はスクリー

ニング試験時と同一の投与量とした。小児患者(脳性麻痺)5名の初回 1日投与量は

いずれもスクリーニング時と同じであった(2.5.4.4.2.1国内試験の有効性の項参照)。

国内試験の用量設定期(滴定期、ポンプ植込み後 60日まで)には初回投与の 24

時間以後、下肢平均 Ashworth評点が 1~2に維持されるまで、1日投与量を直前の投

与量に対して 15%以内の範囲で 24時間に 1回増量を可とした。維持期(ポンプ植込

み後 61日以降)には直前の投与量に対して 20%以内の範囲で 24時間に 1回の増量

を可とした。また、1日投与量の上限は 400 µg/日とした。小児患者(脳性麻痺)5名

の投与量(平均値±標準偏差)は、ポンプ植込み時 35.01±13.69 µg/日から、1ヵ月

後 73.62±28.18 µg/日、3ヵ月後 84.60±35.89 µg/日、6ヵ月後 87.48±32.67 µg/日、12

ヵ月後は 101.68±39.40 µg/日、18ヵ月後は 120.54±59.14 µg/日、24ヵ月後は 106.60

±21.29 µg/日と推移した。1ヵ月後以降最長 30ヵ月後までの最小投与量は 41.09 µg/

日、最大投与量は 280.0 µg/日であった。なお、成人患者の 1日投与量は、小児患者と

比較して高用量で推移した(2.5.4.4.2.1国内試験の有効性の項参照)。

一方、長期持続投与時の投与量と有害事象発現率または副作用発現率の関係につい

て、小児患者と成人患者の間に特記すべき差異は認められなかった(2.5.5.5.1国内試

験の項参照)。

したがって、小児患者における初回 1日投与量は、有効性が確認できたスクリーニ

ング時の投与量と同一とし、その後 1日用量が 25~150 µgとなるように、増量は直

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

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前の投与量に対して滴定期で 15%以内、維持期で 20%以内と設定することが適切で

あると考えられた。

海外臨床試験では、国内試験と同様に小児患者における 1日投与量は成人患者より

も低く推移したが、6歳以下の被験者集団、7歳以上 16歳以下の被験者集団のいずれ

においても 600 µg/日を超えて投与量が調節された場合があった(2.5.4.4.2.2海外臨床

試験の有効性の項参照)。

また、髄液総量は、日本人では成人 100~150 mL、小児 60~100 mL、欧米人では

成人 125~150 mL、小児 92 mLと報告がある31~33)。髄腔総量を髄腔容積と考えると、

いずれの報告でも小児の髄腔容積は成人の約 2/3であり、小児では本剤暴露が成人よ

りも高くなることが予想される。

したがって、患者によってはより高用量の投与が必要となる場合があるものの、小

児患者の多くは成人患者よりも低い投与量で調節されることから、小児患者の 1日投

与量の上限は成人患者の 600 µg/日に対し 400 µg/日と設定することが適切であると考

えられた。

海外臨床試験における長期持続投与時の投与量と副作用発現率の関係について、小

児患者と成人患者の間に特記すべき差異は認められなかった(2.5.5.5.2海外臨床試験

の項参照)。小児患者における離脱症状の報告は 1例(感染によるバクロフェン投与

の中止によって、疼痛、痙攣、アジテーションが発現)のみであるが(2.5.5.6.2海外

臨床試験の項および付表 2.7.4.2-21参照)、バクロフェン髄腔内持続投与の突然の中

止は高熱、精神状態の変化、リバウンド症状としての痙縮の増強および筋固縮など症

状が現われ、まれには横紋筋融解症へと進行し、多臓器不全、死亡などの重篤な状態

に陥る可能性が否定できない。

したがって、小児患者において減量が必要な場合には離脱症状の発現を防ぐため、

成人患者と同様に直前の投与量に対して 20%以内で減量することを規定すべきであ

ると考えられた。

以上より、長期持続投与時の小児における用法用量を以下(下線部)のように設定

することとした。

適正用量の設定

本剤専用のポンプシステム植込み後の適正用量の設定には、髄注 0.05%または髄注 0.2%を

用いる。髄注 0.2%は 0.05~0.2%の範囲内で日局生理食塩液にて希釈して使用することができ

る。

1. 用量設定期(滴定期)[ポンプシステム植込み後 60 日まで]

スクリーニングのいずれかの用量で期待した抗痙縮効果が認められた患者には、その用量を

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

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初回 1日用量とし、本剤専用の植込み型ポンプシステムを用い 24時間かけて髄腔内投与する。

通常、成人には 1日用量が 50~250 µgとなる範囲で患者の症状に応じ適宜増減する。用量

の調整は通常 1日に 1回、次のとおりとする。なお、1日用量の上限は 600 µgとする。

原疾患 増量時 減量時

脊髄疾患(脊髄損傷、脊髄小脳変性症(痙性対麻痺)等) 30%以内の範囲 20%以内の範囲

脳疾患(脳性麻痺、頭部外傷等) 15%以内の範囲 20%以内の範囲

通常、小児には 1日用量が 25~150 µgとなる範囲で患者の症状に応じ適宜増減する。用量

の調整は通常 1日に 1回、次のとおりとする。なお、1日用量の上限は 400 µgとする。

増量時 減量時

小児 15%以内の範囲 20%以内の範囲

2. 維持期[ポンプシステム植込み後 61 日以降]

通常、成人では標準 1日用量として 50~250 µgであるが、患者の本剤に対する反応には個

人差があるため、症状に応じて適宜増減する。用量の調整は通常 1日に 1回、次のとおりとす

る。なお、1日用量の上限は 600 µgとする。

原疾患 増量時 減量時

脊髄疾患(脊髄損傷、脊髄小脳変性症(痙性対麻痺)等) 40%以内の範囲 20%以内の範囲

脳疾患(脳性麻痺、頭部外傷等) 20%以内の範囲 20%以内の範囲

通常、小児では標準 1日用量として 25~150 µgであるが、患者の本剤に対する反応には個

人差があるため、症状に応じて適宜増減する。用量の調整は通常 1日に 1回、次のとおりとす

る。なお、1日用量の上限は 400 µgとする。

増量時 減量時

小児 20%以内の範囲 20%以内の範囲

4. ベネフィットとリスクのまとめ

国内試験の成績および海外臨床試験の結果から、ギャバロン髄注は抗痙縮薬の内服

療法が奏効しない小児の重度痙性麻痺患者に対して抗痙縮効果を示し、髄腔内持続投

与によってその効果は長期間持続的に発揮するものと考えられた。ギャバロン髄注に

よる下肢関節部の筋緊張緩和は、関節拘縮の防止と小児患者で特に問題となる栄養障

害や骨変形、脱臼といった成長の妨げとなる二次障害を予防することが期待できる。

また、自由な肢位が取れなくなることによる患者の生活の質(QOL)の悪化を抑制す

ることも期待できる。さらに海外では、睡眠、疼痛、整容、食事、コミュニケーショ

ンや衛生の改善、痙縮症状の改善による介護者の負担軽減なども報告されている 34~

36)。したがって、ギャバロン髄注の抗痙縮効果は重度の小児痙性麻痺患者に対して大

きな医療上のベネフィットを示すものと考えられた。

小児患者におけるリスク・安全性のプロファイルに関して、海外臨床試験で小児患

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2.5 臨床に関する概括評価 ギャバロン髄注

47

者の副作用発現率が成人患者よりも高いとの成績が得られ、投与にあたってはより注

意深い観察が必要と考えられる。しかし、国内外の試験で発現した有害事象および副

作用の内容に、小児患者と成人患者の間で違いはなかった。小児患者において認めら

れた副作用はいずれも臨床検査値異常で、担当医師は臨床上問題ないと判断しており、

忍容可能なものと考えられた。また、バクロフェン髄腔内投与にあたって留意すべき

有害事象として、過量投与および離脱症状が海外臨床試験で報告されている。過量投

与および離脱症状は生命を脅かす危険性を有するが、バクロフェン髄腔内投与に関す

る適切なトレーニングを受けた医師のみが本剤による治療にあたること、ならびに予

め適切な措置を講じるとともに、患者、家族および介護者に対する離脱症状回避のた

めの十分な説明を実施することにより、これらのリスクは低減可能である。

以上のベネフィットとリスクを勘案した結果、ギャバロン髄注は、既存治療で十分

な効果が得られない重度の小児痙性麻痺患者に対して、適切な用法・用量を設定する

ことで長期間にわたり有効性が持続しかつ安全性上の管理が可能な抗痙縮薬である

と考えた。

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