バランス断面法による地質構造変遷の推定ツールハザマ研究年報(2011.12)...

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ハザマ研究年報(2011.12) 1 バランス断面法による地質構造変遷の推定ツール 塩﨑 功 *1 ・今井 久 *2 ・山下 亮 *2 放射性廃棄物処分の安全評価では,地質構造の長期的な変化による地下水流動や地球化学特性への影響 評価が重要になる。そこで,バランス断面法に基づいて地質構造の変化を理論的に解析して推定するため のツールを開発した。バランス断面法は,断層関連褶曲理論に基づいて地質断面を解析する方法であり, 断層の折れ曲がりや変位量の変化を定量的に解析することにより,断層形状と断層運動に伴って形成され る褶曲構造との関係を論理的に表現することができる。本ツールは,①褶曲した地表面あるいは地層境界 線から断層位置を推定する機能,②単数または複数断層面に沿って地層を変化させて過去あるいは将来の 褶曲変形の形状を求める機能,を有するとともに,地質断面図を編集画面の背景に取り込む機能や,複数 の変形段階における地質構造の形状を数値データとして保存する機能を有する。 キーワード:バランス断面法,断層,褶曲,放射性廃棄物処分,地下水流動 1.はじめに 放射性廃棄物処分の安全評価では,数 10 万年~100 万年以上の時間スケールにおける放射性核種の移行を評 価する。このような長期の時間スケールにおける地下水 や物質の移行を評価するには,評価期間内で生じる地質 環境変化や気候変化による影響を考慮することが必要に なる。そのため,古水理地質学的アプローチにより,過 去の地形・地質構造を復元し,それに基づき過去の地下 水の流れや水質を再現するための一連の調査・評価・解 析手法の技術基盤を構築することが重要とされている 1) 例えば,地形・地質構造が変化する場における地下水 流動を評価する際には,流動場の境界条件や物性値の変 化を考慮した流動解析が必要になる。境界条件の変化に は,①気候変動による降水量の変化,②氷河や凍土層の 形成による涵養量の変化,③地殻変動や侵食による地形 形状や動水勾配の変化,④海水準変動などがあり,物性 値の変化には,①地震・断層運動による地盤の透水性変 化,②堆積層の圧密による透水性変化,③岩盤風化によ る透水性変化などがある。 このような境界条件や物性値の長期的な変化を考慮し た地下水流動解析・物質移行解析は,日本原子力研究開 発機構を中心に進められており,複数の解析手法が提案 されている 2),3) 。例えば,今井ほか 2) は,地形・地質構 造の時間変化をジオモデルとしてデジタル化し,作成し たジオモデルを介して一定時間毎に地下水流動解析のた めの FEM メッシュに圧力水頭などの解析データと物性値 を引き渡す方法により,地形・地質構造の変化を考慮し た地下水流動・塩分濃度解析を実施し,長期の地下水流 動解析では地質環境の変化が地下水や物質の移行形態に 与える影響が大きいことを指摘している。 このような解析では,過去の地形・地質構造や気候を 復元し,それらを地下水流動解析における境界条件とし てモデル化することが必要になる。そこで,著者らは, 断層による褶曲構造の形成に着目し,その変化を理論的 にモデル化するためのバランス断面法に基づく地質構造 解析ツールを開発した。 以下,バランス断面法の原理と開発したツールの機能 について報告する。 2.バランス断面法 バランス断面法は,1983 年に Suppe 4) により体系的に 整理された断層関連褶曲理論に基づく褶曲構造の解析手 法である。断層の折れ曲がりや変位量の変化を幾何学的 手法により定量的に扱うことにより,断層形状と断層運 動に伴って形成される褶曲構造との関係を明確に表現す るものであり,国内外を通じて多くの研究者に受け入れ られている 5),6),7),8),9) バランス断面法の基本的な考え方は,褶曲が断層運動 によって形成されたもので,断層変位をゼロに戻すと褶 曲した地層も変形前の自然な形の地層に復元できるはず であるというものである 6) 。変形手法としては,layer- parallel slip,flexural slip,inclined shear があ 7) が,基本的な変形手法である layer-parallel slip と inclined shear の原理を以下に解説する。 *1 技術研究所 *2 原子力部 報告

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ハザマ研究年報(2011.12) 1

バランス断面法による地質構造変遷の推定ツール

塩﨑 功 *1・今井 久 *2・山下 亮 *2

放射性廃棄物処分の安全評価では,地質構造の長期的な変化による地下水流動や地球化学特性への影響

評価が重要になる。そこで,バランス断面法に基づいて地質構造の変化を理論的に解析して推定するため

のツールを開発した。バランス断面法は,断層関連褶曲理論に基づいて地質断面を解析する方法であり,

断層の折れ曲がりや変位量の変化を定量的に解析することにより,断層形状と断層運動に伴って形成され

る褶曲構造との関係を論理的に表現することができる。本ツールは,①褶曲した地表面あるいは地層境界

線から断層位置を推定する機能,②単数または複数断層面に沿って地層を変化させて過去あるいは将来の

褶曲変形の形状を求める機能,を有するとともに,地質断面図を編集画面の背景に取り込む機能や,複数

の変形段階における地質構造の形状を数値データとして保存する機能を有する。

キーワード:バランス断面法,断層,褶曲,放射性廃棄物処分,地下水流動

1.はじめに

放射性廃棄物処分の安全評価では,数 10 万年~100

万年以上の時間スケールにおける放射性核種の移行を評

価する。このような長期の時間スケールにおける地下水

や物質の移行を評価するには,評価期間内で生じる地質

環境変化や気候変化による影響を考慮することが必要に

なる。そのため,古水理地質学的アプローチにより,過

去の地形・地質構造を復元し,それに基づき過去の地下

水の流れや水質を再現するための一連の調査・評価・解

析手法の技術基盤を構築することが重要とされている 1)。

例えば,地形・地質構造が変化する場における地下水

流動を評価する際には,流動場の境界条件や物性値の変

化を考慮した流動解析が必要になる。境界条件の変化に

は,①気候変動による降水量の変化,②氷河や凍土層の

形成による涵養量の変化,③地殻変動や侵食による地形

形状や動水勾配の変化,④海水準変動などがあり,物性

値の変化には,①地震・断層運動による地盤の透水性変

化,②堆積層の圧密による透水性変化,③岩盤風化によ

る透水性変化などがある。

このような境界条件や物性値の長期的な変化を考慮し

た地下水流動解析・物質移行解析は,日本原子力研究開

発機構を中心に進められており,複数の解析手法が提案

されている 2),3)。例えば,今井ほか 2)は,地形・地質構

造の時間変化をジオモデルとしてデジタル化し,作成し

たジオモデルを介して一定時間毎に地下水流動解析のた

めの FEM メッシュに圧力水頭などの解析データと物性値

を引き渡す方法により,地形・地質構造の変化を考慮し

た地下水流動・塩分濃度解析を実施し,長期の地下水流

動解析では地質環境の変化が地下水や物質の移行形態に

与える影響が大きいことを指摘している。

このような解析では,過去の地形・地質構造や気候を

復元し,それらを地下水流動解析における境界条件とし

てモデル化することが必要になる。そこで,著者らは,

断層による褶曲構造の形成に着目し,その変化を理論的

にモデル化するためのバランス断面法に基づく地質構造

解析ツールを開発した。

以下,バランス断面法の原理と開発したツールの機能

について報告する。

2.バランス断面法

バランス断面法は,1983 年に Suppe4)により体系的に

整理された断層関連褶曲理論に基づく褶曲構造の解析手

法である。断層の折れ曲がりや変位量の変化を幾何学的

手法により定量的に扱うことにより,断層形状と断層運

動に伴って形成される褶曲構造との関係を明確に表現す

るものであり,国内外を通じて多くの研究者に受け入れ

られている 5),6),7),8),9)。

バランス断面法の基本的な考え方は,褶曲が断層運動

によって形成されたもので,断層変位をゼロに戻すと褶

曲した地層も変形前の自然な形の地層に復元できるはず

であるというものである 6)。変形手法としては,layer-

parallel slip,flexural slip,inclined shear があ

る 7)が,基本的な変形手法である layer-parallel slip

と inclined shear の原理を以下に解説する。

*1 技術研究所 *2 原子力部

報 告

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ハザマ研究年報(2011.12) 2

2.1 layer-parallel slip の原理

図-1は,上盤と下盤の2層で構成された地層の上盤

に左から圧縮力が作用したとき,①-②-③の断層に沿

って地層が変形する場合の模式図である。上盤が完全な

剛体の場合,図-1のように上盤と下盤の間に隙間が形

成される。しかし,通常は上盤の地層にはそのような隙

間を保持するだけの強度がない。そのため,何らかの内

部変形が生じて隙間が解消される。

図-2は,layer-parallel slip によって上盤が変形

する場合の模式図である。層理面に平行な滑りを上盤全

体に仮定することにより上盤を変形させる方法である。

水平方向に重ねた紙の束を断層面に沿って横方向に変形

させると考えればよい。この場合,地層の長さと厚さは

変化しないので地層の断面積も一定である。

ただし,断層の傾斜角度θが大きくなれば,図-2の

e’が元々の地表面に乗り上げることができなくなる

(図-3(1)参照)。玉川ほか 9)は,Suppe4)が行った議論

を再検討することにより,断層の角度θが 30°を越え

る場合には単純な断層折れ曲がり褶曲は存在しないこと

を示している。

図-1 上盤が剛体の場合の変形

図-2 layer-parallel slip による変形

(1)layer-parallel slip (2)inclined shear

図-3 断層傾斜角度が大きい場合の変形様式

layer-parallel slip による変形の場合,褶曲構造と

断層との関係により,断層面に沿って上盤の地層全体が

変形しながら移動する fault-bend fold,断層の先端位

置が移動しながらその先端位置の変位を固定して上盤が

移動する fault-propagation fold,水平断層の先端位

置が移動しながら内部で流動的な変形が生じて褶曲が形

成される detachment fold の3種類の変形様式がある

(図-4参照)。これらの変形様式の詳細については岡

村 6)が解説しているのでここでは説明を省略する。

図-4 低角逆断層に伴う3タイプの褶曲構造 6)

2.2 inclined shear の原理

図-5は,inclined shear によって上盤が変形する

場合の模式図である。上盤の中に多数の高角平行な滑り

面を仮定する方法であり,鉛直方向に紙の束を重ね,断

層面に沿って横方向に移動させると考えればよい。

空 間

a b c d e

e’d’c’

a’b’

d1

d2A1

A2

θ

a b c d e

e’d’c’

a’b’

d1

d2A1

A2

θ

d1>d2,A1=A2,a'e'=ae

② ③

空 間

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ハザマ研究年報(2011.12) 3

inclined shear の高角滑り面には,一定の傾斜角度を

設定することもできる。

図-5 inclined shearによる変形(鉛直滑り面の場合)

3.システムの機能

バランス断面法に基づく解析ソフトとして,Midland

Valley 社の Move, 2DMove, 3DMove, 4DMove, IFP

Software 社の Thrustpack などがある。しかし,元々石

油資源探査を目的として開発されたものであり,反射法

地震探査のデータ処理機能など多くの機能を有するもの

の高価であることから一般の地質構造評価のツールとし

ては普及していない。そこで,地質構造や断層に関する

専門知識を有していない技術者でも使えるバランス断面

法のツール開発に着手したものである。

これまでに開発したシステムは,以下の機能を有する。

①断層位置の推定:褶曲した地表面あるいは地層境界

線から断層移動量をもとに断層位置を推定する機能

②褶曲変形モデル:単数または複数断層面に沿って地

層を変化させ,過去あるいは将来の褶曲変形の形状

を求める機能。

上記機能を実現するために,本システムでは、地層を

複数の薄い層に分割し,分割した薄い地層(モデリング

層)を移動・変形させる手法を適用した。また、補助機

能として背景画像の取り込みと拡大・縮小,縦横のスケ

ーリング,断層および地層境界のノード座標の直接入力,

テキストファイルへエクスポート・インポートなどの機

能を備えている。

3.1 断層位置の推定

断層位置の推定では,与えられた褶曲形状を基に断層

移動量を与えて断層位置を推定する。

断層位置を推定する際には,初期条件として以下の条

件を設定する。

・褶曲した地表線(または褶曲した地層境界線)

・予想断層位置

・断層に沿ってのずれの量

断層推定では,①地層が一つであること,②地表面あ

るいは地層境界が水平でないこと,③予想断層が一つ以

上であること,が必要条件になる。

図-6は推定モデルの初期設定と断層の推定結果であ

る。図-6 a)は初期条件として与えた地表面の褶曲形

状と予想断層位置である。断層に沿ったずれの量 100m

を数値入力あるいはマウスドラッグにより指定すれば,

図-6 b)に示す断層形状が求められる。図-6 c)は断

層推定結果と変形前の水平な地表面である。推定した断

層により断層の上盤を変形させると図-6 d)のように

なり,図-6 a)に示す元の褶曲形状を再現しているこ

とがわかる。

図-6 断層推定の初期設定と断層推定結果

図-6 断層推定の初期設定と断層推定結果

3.2 褶曲変形モデル

褶曲変形モデルでは,設定された断層面に移動量を与

えることで褶曲構造を推定する。現状の断層位置が設定

されれば移動量を与えることで将来の褶曲構造を推定す

ることが可能となる。

推定するには以下の初期条件を設定する。

・水平地層(一層あるいは複数)

・断層(一つあるいは複数)

・それぞれの断層に沿った移動量

褶曲変形モデルでは,①地層が一つ以上であること,

②地表面あるいは地層境界が水平であること,③断層が

一つ以上であること,が必要条件になる。

以下,褶曲変形モデルによる変形例を示す。

図-7 a)は,初期設定として与えた水平地層と断層

1と断層2の形状であり,図-7 b)は最初に移動する

d1=d2,A1=A2,a'e'>ae

A1

d1

d2

a c d eb

e’d’c’

a’ A2b’

θA1

d1

d2

a c d eb

e’d’c’

a’ A2b’

θ

断層に沿うずれ100m褶曲形状

予想断層

推定断層によ

る褶曲変形

推定断層

a) b)

c) d) 変形前の地表面

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ハザマ研究年報(2011.12) 4

領域を指定した画面である。

図-7 地層・断層の初期設定と移動領域の指定

図-8 a)は,fault-bend fold により断層1の上盤

が右移動した結果である。断層1の上盤全体が右移動す

ることにより断層2の形状も変化する。図-8 b)は,

図-8 a)の変形に続いて断層2の上盤に右移動を与え

た結果であり,断層1に続いて断層2が右移動した変形

形状が推定できる。図-8 c)は,図-8 a)の変形に続

いて断層2の上盤を左移動させた変形結果である。

図-8 fault-bend fold による変形結果

図-8 a)に示す fault-bend fold による変形では,

断層の上盤全体が移動する。それに対し,図-9は断層

の先端を固定点として断層上盤を変形させた結果である。

fault-propagation fold による変形では,断層の先端

位置が移動しながらこのような変形が連続的に生じるこ

とになる。本ツールでは断層先端位置の移動と断層上盤

の移動を同時に行うことはできないが,図-9に示すよ

うに断層先端を固定した状態での変形は可能である。

図-9 fault-propagation fold による変形結果

4.市販ソフトによる解析成果との比較

今回作成したツールの妥当性を確認するために,

Midland Valley 社の 2DMove10)を使った解析結果との比

較を行った。

4.1 layer-parallel slip による解析

layer-parallel slip による解析対象としたモデルは,

楮原ほか 11)が作成した横手盆地千屋丘陵北部のバラン

ス断面図である(図-10 参照)。これは,2DMove の

fault parallel flow アルゴリズムを用いて作成したも

のである。

図-11 は,今回作成したツールの layer-parallel

slip による再現結果である.ただし,図-10 は縦横の

スケールが 1:1 であるが,本ツールの理論的根拠となる

Suppe4)の layer-parallel slip による変形では,前述

のように断層の角度θが 30°を越えると単純な断層折

れ曲がり褶曲による変形ができなくなることから,図-

11 では縦スケールを2倍に拡大して変形させた。図-

10 では,断層変形後の侵食等による地表面形状の変化

なども表示されているが,図-11 の断層による変形部

分だけを見れば,本ツールを使った場合でも 2DMove の

fault parallel flow とほぼ同様なバランス断面図を作

成できることがわかる。

4.2 inclined shear による解析

inclined shear による解析対象としたモデルは,岡

村・石山 7)が作成した魚沼丘陵と東山丘陵の褶曲モデル

である(図-12 参照)。これは,2DMove の inclined

shear アルゴリズムを用いて作成されたものであり,東

に 85°傾いたせん断面を仮定し,断層下端深度が 15km

になるように断層変位量を調整しながら断層形状を求め

ている。

図-13 は,今回作成したツールにより推定した断層

初期設定

断層 2

断層 1

c) 断層 2による左変形

b) 断層 2による右変形

a) 断層 1による右変形

断層 2 の上盤を左に

200m 移動させて変形

断層 2 の上盤を 200m

右に移動させて変形

断層 1 の上盤を 300m

右に移動させて変形

断層 1 と断層 2 の間

の領域を指定

断層 1の先端を固定して断層先端から

左700mの位置を右に移動させて変形

a)

b)

断層先端の固定点

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ハザマ研究年報(2011.12) 5

と推定断層による褶曲の再現結果である。図-13 a),b)

には図-12 の画像を背景画像として取り込んでいる。

図-13 a)は図-12 に示す地表面の褶曲形状と予想断層

位置,図-13 b)は東に 85°傾いたせん断面を仮定した

inclined shear による断層位置の推定結果,図-13 c)

は推定した断層位置と水平地表面,図-13 d)は推定断

層の上盤を変形させた地表面の褶曲形状である。本ツー

ルを使った場合でも 2DMove の inclined shear とほぼ同

様な断層位置の推定とそれによる褶曲形状の復元が可能

であることがわかる。

図-10 千屋丘陵北部のバランス断面図 11)

図-11 今回作成したツールによるバランス断面図

図-12 inclined shear を適用して推定した断層 7)

図-13 今回作成したツールにより推定した断層と褶曲

Fu-1

Fu-2

初期状態

Fu-1断層沿い

に920m移動

Fu-2断層沿い

に650m移動

初期状態

Fu-1断層沿い

に920m移動

Fu-2断層沿い

に650m移動

a)地表面の褶曲形状と予想断層

b)断層位置の推定結果

c)推定断層と地表面

d)推定断層による変形結果

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ハザマ研究年報(2011.12) 6

5.おわりに

本ツールは,長期の時間スケールを対象とした地下水

流動・物質移行解析において,地形・地質構造の変化を

理論的な根拠に基づいてモデル化するために開発したも

のである。しかし,開発の過程において,地質に関する

専門知識を有していない技術者でも使える簡易なバラン

ス断面法のツールとしても活用でき,操作が比較的簡単

であることから教育現場でバランス断面法の基本的な考

え方を理解させるための教材としても活用できると認識

されるようになった。

まだまだ未成熟なツールであるが,今後できるだけ多

くの研究者や技術者に使っていただきながら,簡易な国

産ツールとしての実用化ならびに機能向上を目指してい

きたいと考えている。

最後に,本ツール開発におけるプログラミングは,ジ

ーエスアイ株式会社の豊田守社長とイセンコ エフゲー

ニー氏によるものである。ここに記して謝意を表する。

参 考 文 献

1) 日本原子力研究開発機構:「地質環境の長期安定性に関

する研究」基本計画-第 2 期中期計画期間(平成 22 年

度~平成 26 年度)-,第 8 回 地質環境の長期安定性

研究検討委員会,資料 5,p.19,2010.

2) 今井 久,山下 亮,塩﨑 功,浦野和彦,笠 博義,丸

山能生,新里忠史,前川恵輔:地下水流動に対する地

質環境の長期的変遷の影響に関する研究,JAEA-

Research 2009-001,2009.

3) 尾上博則,笹尾英嗣,三枝博光,小坂 寛:過去から現

在までの長期的な地形変化が地下水流動特性に与える

影響の解析的評価の試み,日本原子力学会和文論文誌,

Vol.8, No.1, pp.40-53,2009.

4) Suppe,J.: Geometry and kinematics of fault-bend

folding, American Journal of Science, Vol.283,

pp.684-721, 1983.

5) Marshak, S. and Mitra, G. : Basic Methods of

Structural Geology, Prentice Hall, 1988.

6) 岡村行信:音波探査プロファイルに基づいた海底活断

層の認定-fault related fold, growth strata 及び

growth triangle の適用-,地質調査所月報,第 51 巻,

第 2/3号,pp.59-77,2000.

7) 岡村行信,石山達也:2004 年新潟県中越地震震源域で

の地質構造を用いた伏在断層モデルの作成,活断層・

古地震研究報告,No.5,pp.17-28,2005.

8) 木村治夫,岡村行信:2003 年宮城県北部地震震源域の

3 次元地質構造に基づいた伏在断層モデルの構築,活断

層・古地震研究報告,No.9,pp.65-78,2009.

9) 玉川哲也,松岡俊文,田村八洲夫:単純剪断変形が存

在する時の断層折れ曲がり褶曲構造に対する幾何学的

検討,情報地質,Vol.9,No.1,pp.3-11,1997.

10) Midland Valley 社 ホームページ,2011 年 11 月.

(http://www.mve.com/software/2dmove)

11) 楮原京子ほか:横手盆地東縁断層帯・千屋断層の形成過程と

千屋丘陵の活構造,地学雑誌,Vol.115, pp.691-714,2006.

Estimation Tool of Geological Evolution by Cross-Section Balancing Assessment

Isao SHIOZAKI,Hisashi IMAI and Ryo YAMASHITA

In the safety assessment of radioactive waste disposal, it is important to evaluate impact on

groundwater flow and geochemical characteristics caused by long-term changes of geological structure. Therefore, we developed an estimation tool to analyze changes of the geological structure on the basis of cross-section balancing. Cross-section balancing is a method to analyze the geological section based on the theory of fault-related folding. By quantitative analysis of bends and fault displacement, we can express a logical relationship between fault geometry and fold structure formed by folding.

This tool enables us the following actions. (1) Estimation of the fault location from the boundary surface or folded strata. (2) Estimation of the past or future folds deformation by moving the geological strata along the single or multiple fault planes. (3) Viewing the geological section in the background of an editing screen. (4) Saving geometry data of multiple geological deformation stages.