エネルギー機能材料学特論 第3回目 担当:西野...
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授業の内容
• 真空技術概論
• プラズマの生成法
• プラズマの特徴
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真空技術概論
• 実験室で通常真空容器内にプラズマを生成する。そのためには、真空について知らねばならない。ここでは、必要最小限の真空技術について簡単に述べる。
• さて、真空とは何であろうか?
• 「何もない状態」、すなわち、原子やイオン・電子などがない状態の空間のことを一般的には意味する(素粒子論的な真空ではない)が、こ
のような状態を実験室で作ることは不可能である。宇宙においてさえ、何がしかの原子・イオン・電子が存在する。
• すなわち、実験室での真空とは、研究対象については、真空とみなせる空間となる。
• 真空とは、研究対象について許容範囲内にある圧力が極めて低い気体である。
真空ポンプについて
• 気体の圧力は、SI単位でPa[=N/m2]である。一気圧は、凡そ105Pa、すなわち、100kPaである。真空の度合いも、この圧力で表す。
• 真空度という言葉もよく使用される。(真空度が高い=圧力が低い)
• 閉じた容器から、気体を吐き出して望む真空度(圧力)にする装置を、真空ポンプという。
• 容器の体積Vとして、ポンプの性能は、dV/dtと表される。今、容器内気体の圧力pとすると、容器内の気体量はpVである。
• 真空作成では、体積一定の容器をポンプを用いて排気する。容器内の気体量は、時間とともに減衰する。その時間変化は、
• ここで、Q[Pa・m3/s]はガス流量を表す。また、右辺の第一項は体積の時間変化、第2項は圧力の時間変化を表す。
( )d pV dV dpQ p Vdt dt dt
= = +
排気方程式におけるdV/dtの意味
• 前頁の式を、以下のようにする。
• さて、流入ガスがない場合(Q=0)、真空容器の体積は変わらないの
であるから、この式は何を意味するか?
• 実は、この見かけのdV/dtがポンプによる排気効果を表している。ポ
ンプによって、気体の見かけの体積が大きくなり、圧力が下がるのである。ここで、真空ポンプの排気速度S[m3/s]として、
• と定義する。すると、排気方程式は、以下のようになる。
dp dVV Q pdt dt
= −
dVSdt
=
dpV Q Spdt
= −
ポンプの排気速度
• 気体の圧力が高い場合、圧力勾配による力が流れを作る。この圧力範囲を粘性流領域という。
• 逆に、気体の圧力が低い場合、圧力勾配は意味を成さなくなる。この圧力範囲を分子流領域という。
• これらの中間が、中間流領域と呼ばれる。
• この状況を簡単に図にすると、
• すなわち、平均自由行程が真空装置の代表長さより大きいか小さいかで、領域が決まるのである。
• 次ページに相対圧力とコンダクタンスの関係を述べる。
コンダクタンスS[m3/s]
• 例として、半径a=1.25cm、長さL=300mmの配管による空気のコンダ
クタンスと圧力の関係を下図に示す。
• なぜなら、分子流領域では、気体分子は自身も含めて他の分子とほとんど衝突しないため、圧力勾配の情報は気体の流れとは無関係となる。高真空の真空ポンプとは、(たまたま)入り口に来た気体分子を戻さないような口である。
•コンダクタンスは、ポンプと真空容器をつなぐパイプの代表的な量で、真空度を決める要素のひとつである。
•コンダクタンスは、粘性流領域では圧力差にほぼ比例し、分子流領域では一定。中間流領域では、二つを滑らかにつなぐことになる。
漏れがない状態では
• 漏れがない理想的な状態でも、放出ガスはなくならない。それゆえ、真空度(残留ガス圧力)は、放出ガスで決まるといってよい。
• 真空ポンプの排気速度は、分子流領域ではコンダクタンスSで決まるため、到達圧力peは
• と、QとSがわかれば簡単に計算できる。
• ここに、Qは流入ガス量[Pa・m3/s]でコンダクタンスS[m3/s]は通常パイ
プの長さと径で決まる。
• 次ページに、 Qを決定する代表的な要因を図示する。
0ee
dpV Q Spdt
= − = eQPS
=
真空を決める要素 ー 漏れと放出ガス
• 漏れとは、容器の外から小さい孔を通じて流体が入ってくる状態
• 放出ガスとは、容器や容器内物質の表面から出てくる気体のこと。
• 大気からの漏れは
• N2が特徴。
• 放出ガスは、
• 通常、H2Oである。
• 金属壁の容器の場合、
• 透過は通常極めて
• 小さい
http://www.ulvac-es.co.jp/より
プラズマ生成法
• プラズマを生成するには、電離するのに必要なエネルギーを原子に与えなければならない。
• 電離現象の種類は、大別して、放電電離、熱電離、光電離がある。
• 最もよく利用されるのは電気による放電である。放電を起こすには、
– 直流放電
– 交流放電、特に、高周波(マイクロ波)
• 等が利用される。
• 以下、最も簡単な直流放電を対象として、放電の考え方を理解しよう。
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放電のメカニズム
電場E +V0•右図の様に電極間に電圧Vをかけると、電極間には電場E(=V/d)ができる。
•気体中で自然に電子は存在するため、その初期電子による電流をI0とする。
e-
d
• 電子は電場で加速される。十分なエネルギーを得た電子は電極間にある中性原子等を衝突電離する。
• 衝突電離によって倍増された電子による電流をIとすると、
• の関係が得られる。
• このαを衝突・電離係数(タウンゼントの第一係数)と呼ぶ。
• αの単位は何か?
• αにはどのような意味があるか?
( )0 expI I dα=
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αの意味
• 指数関数の中のαdは無次元であるから,αの単位は明らかに、m-1であり、αdで指数関数的に倍増するので、単位長さあたりの電離の回
数となる。
• 下図のように、自由電子が倍々に増える➟指数関数的増大
• αは気体の圧力p、電場E、気体による定数A,Bで
• と表される。
中性原子
e-
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正イオンによる2次電子の効果
• 電離によって生じた正イオンが電極に衝突し、電極から2次電子が放出される。γを一個のイオンの衝突による2次電子の平均個数とし、この電
子の効果も含めると、
• となる。
• このγをタウンゼントの第二係数と呼ぶ。
• 電場Eが十分大きくなると、この分母が0になり、放電が始まるとされる。
放電開始条件は、
( )( )0
exp1 exp 1
dII d
αγ α
=− −
( )exp 1 1dγ α − =
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放電開始電圧と放電の維持
• 実験的には、電極間の電圧Vを上げて行くといつか放電する。
• 放電開始電圧を求めるには、先ほどの式にαの式を代入して、以下式を得る(各自確かめよ) 。
• 次に、係数γは電極の材質や表面状態によって異なるがVによる影響
はないと考えて、定数とみなすと
( )ln
ln 1 1/
pdV BApd
γ
= +
[ ]+ln spdV B V
pd= =定数
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パッシェンの法則
• 火花電圧Vsが放電開始に必要な印加電圧で、ガスの種類と一定の電極条件の下ではVsはpdのみに依存する。
• pdとVsの式は持続的な放電開始に必要な電圧の目安を与える式でパッシェンの法則(Paschen’s law) と言う。
•実験では電極間隔が1-100cm程度であるので、1kV程度の電圧で、最適放電圧力pはおよそ10-2-10torr程度となる。
•また、再結合やその他の電子消失を考えていないため、実際にはVsはパッシェンの
法則より高くなる。
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パッシェンの法則 空気の例
• 空気放電に必要な電圧とpdの関係
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直流放電の種類
• 直流放電形態は放電する気体の圧力によりさまざま変化する。代表的な放電はグロー放電とアーク放電である。以下、簡単に説明する。
• 放電電流が低く、最初に明るい発光が見られるようになる放電状態がグロー放電と呼ばれる放電である。
•放電電流をさらに上げて行く(電圧を上げる)と、やがて、強い発光を伴う放電と
なる。この状態をアーク放電と言う。
•グロー放電は主に高速電子による衝突電離で、アーク放電は、電流加熱による熱電離で放電が維持される。
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グロー放電の特徴
• 円筒放電管(ガラス製)に電極を入れて、10-1-10torr程度の圧力にし、数百Vかけて放電させると、グロー放電が得られる。
• 明るい部分を陽光柱と呼び、電子と正イオンがほぼ同数混在する領域である。
• 両端の電極付近は、電場が大きく、暗い。それぞれ、陰極降下、陽極降下と呼んでいる。
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グロー放電内の電位分布
• 電位分布は、陽極付近で下がる(場合によっては上がる)が、陽光柱の部分はほとんど下がらない。
そして、陰極付近で大幅に低下する。
• プラズマ中での電子温度は比較的高く数eV程度となる。(高速電子の影響)
• しかし、電子密度は低く109-11cm-3で、中性粒子密度に比べて5桁ほど低い。
• そのため、プラズマの温度は中性粒子の温度程度となる。
• したがって、グロー放電は電子温度だけが周囲より2桁程度高い非熱平衡状態にあり、低温非熱平
衡プラズマである。
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アーク放電の特徴
• 異常グロー放電より、さらに電流(電圧)を上げて行くと、増大した電流密度により陰極が加熱され、陰極が多量の熱電子を放出するようになる。この結果、電流維持に必要な陰極付近での陰極降下が緩和され放電維持電圧が急低下する。
• このようなアーク放電では中性気体も高温となり、熱平衡状態に近づく。
•見掛けの放電状態は、陰極、陽極ともに点状に光る(陰極点、陽極点)。また、電極間はアーク柱と呼ばれるプラズマ状態となる。陽光柱は放電管いっぱいに広がるが、アーク柱は電流によるピンチで細い。
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温度分布の特徴
• 下図に、それぞれの放電形態での温度分布の概略を示す。
• この様に、アーク柱内では熱電離が支配的であり、ガス温度も電子温度もほぼ等しく(通常、数万度)熱平衡状態に近い。電子密度も気圧によるが、1015cm-3以上の高密度も得られる。
• アーク柱内のプラズマは強電離プラズマで、熱プラズマとも呼ばれる。
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高周波放電
• 直流電圧の代わりに、交流電圧を使っても放電できる。
• 交流電圧の場合は、電流が電場Eにしたがって、向きを変えるので、電極間を往復することになる。その振幅Aは
• で与えられている。ここに、µは移動度、mは粒子の質量、eは素電荷、ωは交流電圧の角周波数である。
• 今、粒子の質量を無視して考えると、上の式は、
• と簡単になる。すなわち、振幅は、µEに比例し、ωに反比例する。
221
EAme
ω ωµ
= +
/A Eµ ω=
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高周波放電の特徴
• 低周波の場合は、Aが電極間距離dより大きいであろうから、電子は電極に到達し、電極からの2次放出もあるため、直流放電と変わらな
いであろう。
• しかし、周波数が大きくなり、Aが小さくなると電子もイオンも電極に到達しなくなる(捕捉現象、trapping)。
• この場合、電極からの2次電子放出が無くなり、電離倍増はα効果の
みである。また、放電は電極と無関係となり、後に示す無極放電が可能となる。
• 電極間電圧V=Ed、移動度μ=μ0/pとして、この条件は
2 22 2
0
2 2 1
2 4 ( )
A Vd pd mfd fd
e
ς
µ πµ
= = < +
但し、µ0は1torrの時のµ
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放電特性
• 放電が持続するためには、衝突電離による電子増倍と、拡散やその他の原因による電子減少が釣り合う事が必要である。
• 適当な条件で電子の壁での消失を考慮した空気での計算では、
• が放電持続の条件と報告されている。ここで、Esは電場の実効値、pはtorr、dはcm、fはMHz単位の値である。Es=Vs/d
0.0161.44 1 1sEpdfd p p
α − =
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無極放電
• 直流電場は電極を気体中に入れる必要があるが、高周波電場は誘電体を介して電流を流す事が可能であるため、無極放電が可能である。
• 図(a)は、対向電極間に直接高周波電界を印加する容量結合の例。(b)はコイルに高周波電流を流し、それで誘起された電界を利用する
誘導結合の例である。
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プラズマの性質デバイの長さ(再掲)
• 前に説明したデバイ遮蔽(Debye shielding)の典型的な大きさ=デバイの長さ(Debye Length)を定量的に求めてみよう。
– プラズマ中には+と-の荷電粒子が動き回っているが、平均的に+のイオンの周りには-の電荷の電子がより引かれるために、真空中に比べ+のイオンが作る電場の及ぼす距離が短くなる現象。逆も然り。
例として、プラズマ中にある電位V0のグリッドを考える
この電位分布は,ポアソン方程式によって与えられる。
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ポアソン方程式とは?
• ポアソン方程式を復習する。
• Maxwellの方程式(ガウスの法則)より、
• これは、空間にある電荷密度ρから電気力線がD本出ることを表して
います。
• この時、電荷密度のない空間を真空として、
• と、電気力線の本数Dを電場Eに変換すると、
• そして、静電位を仮定すると
• よって、ポアソン方程式 を得る。2
0
ρε
∇ Φ = −
E = −∇Φ
, ,div ρ ρ= ∇⋅ =D Dあるいは
0
ρε
∇ ⋅ =E
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ポアソン方程式
• 先ほどの問題に戻ろう。
• 簡単のため、プラズマは電子と一価のイオンのみでできているとし、その電子の密度をne、イオンの密度をniとする。
• すると、電位分布V(x)は、ポアソン方程式(Poison equation)によって表される。
• イオンの慣性は電子のそれより千倍以上あるため、イオンの密度は空間一定のn∞とし、電子は、各点の電位V及び電子温度Teに対するボルツマン分布をしているとすると、
( )2
20
e id V e n ndx ε
= −
, expi ee
eVn n n nkT∞ ∞
= =
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式変形
• neとniの表式をポアソン方程式に代入すると、
• 右辺をテイラー展開すると、
• 2次以降の項を取れば、
2
20
exp 1e
d V e eVndx kTε ∞
= −
22
20
12e e
d V e eV eVndx kT kTε ∞
= + +
22
20 e
e nd V Vdx kTε
∞=
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微分方程式の解は?
• x=0でV=V0、x=±∞でV=0の境界条件を与えると、
• すなわち、前々項の図のようにグリッドに与えた電位はプラズマによって遮蔽されて急激に減少する。
• λ=λDでは、V=V0/2.718になることがわかる。
• 電子の熱運動がない場合(Te=0)の時は、遮蔽は完全で、プラズマ中
ではグリッドの電位を感じない。
• 電子が熱運動をしている場合、上式程度の電位のしみ出しが起こる。
0( ) expD
xV x V
λ
= −
但し, 02
eD
kTe nελ
∞
=
30
準中性
• プラズマの大きさLがデバイ長より十分大きい場合は、例え、空間の
一部に荷電集中が集中しても、その効果はデバイ長により遮蔽され、プラズマ全体の空間電位に影響しない。
• 換言すれば、kTe/e程度の電位を生じさせるのに必要なne、niの不均
衡は僅かでよい。
• すなわち、大変良い精度でプラズマ中ではne=niが成り立つ。
• これを、プラズマの“準中性”(quasi neutrality)という。
• 他方、電磁界は荷電粒子の集合体であるプラズマに強い影響を与える。このため、真の“中性”と区別するために,“準“という言葉がついて
いる。
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プラズマの特徴
• デバイ遮蔽が有効なためには、その範囲内に多くの粒子がいることが必要である。
• その条件は、デバイ長を半径とする球内の粒子数NDが
• この無次元量NDの条件がプラズマの性質を持たせる重要な条件で
ある。
• よって、通常のプラズマの特徴として、
• が挙げられる。但し,非中性プラズマなどの例外がある。
34 13 D e Dn Nπλ =
DL λ>>
1DN >>
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さらに進むために
• 今までは、プラズマの静的な特徴を示したが、動的な性質がより重要である。
• すなわち、
– 与えられた電磁界の下でのプラズマ挙動は?
– プラズマ中での粒子バランス、運動量バランス、エネルギーバランスはどうなっているのか?
• それらを考えるために代表的な二つのアプローチがある。
• 単一粒子(が多くいる)として取り扱う方法
– Single particle motion
– Kinetic theory (Boltzmann distribution)
• 個々の粒子の平均(統計)量の性質を持つ連続体としてプラズマを扱う方法
– Magnet-hydro dynamics (MHD)
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レポート
• 放電(直流,交流を問わない)によるプラズマ生成方法について,ひとつテーマ(方式)を決めて調査し,A4一枚以上にまとめよ。