ホテルと都市の MICE(マイス)戦略...ホテルと都市のMICE(マイス)戦略...

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本レポートに掲載されている情報の正確性については万全を期してはおりますが、人為的・機械的その他何らかの理由により誤りがある可 能性があります。当社は、利用者がこれらの情報を用いて行う判断の一切について責任を負うものではありません。 ©2009 Space & Environment Institute, Mitsui Fudosan Co., Ltd. All Rights Reserved 1 ホテルと都市の MICE(マイス)戦略 2009 9 29 S&E総合研究所 1. 問題と目的 ホテルを含む旅行産業は、景気、流行、戦争などの影響を受けやすい産業だ。東京・大阪に あるホテルの 2009 年上半期の平均客室稼働率は、イラク戦争やSARSの流行があった 2003 年上半期を下回り、半期ベースで最低になったという 1 。地方都市でも同様の事態が想定される が、東京や大阪以上に交流人口の増大による経済効果が望まれる地方都市でのホテル宿泊客の 減少は、その地域経済にとって大きな打撃である。 一方、旅行産業は今世紀世界最大の産業になると言われ(Kotler,et al.,2003)、我が国でも 「観光立国」を目指すことが 2003 年に国の方針として掲げられた。 本稿でとりあげるMICE(マイス)は、「Meeting(M),Incentive(I),Conference(C)& Exhibition(E)」の略語 2 で、旅行産業にあって比較的景気の動向などに左右されず、短期間で 大きな収益を地域経済にもたらすと言われている(ジェーティービー能力開発,2006; Kotler et al.,2003)1 MICEのフルスペル (ミーティング)の表す、研修やチームビルドを目的とした企業の社外ミーティングやI(インセンティ ブ)の表す報奨旅行は、その効果から人材への投資とみなしうるし、C(カンファレンス)の表す、業界 や学会の会議や大会などは、国内だけではなく世界中の都市持ち回りで定期的に開催されるこ とがその理由だ。またE(エグジビション)の表す、見本市や展示会もオフシーズンが少なく定期的 に開催されるものが多い。 本稿では、このMICEについてその現状を紹介し、MICEの代表的施設であるホテルお よび都市が、いかにしたらMICEの開催場所になれるのか考察する。 1 日本経済新聞記事(2009.8.12 Conference Convention/CongressExhibition Event とされる場合もある。 Meeting Incentive Conference (Convention/Congress) Exhibition (Event)

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ホテルと都市の MICE(マイス)戦略

2009年 9月 29日

S & E 総 合 研 究 所

青木 惠 之 祐

1. 問題と目的

ホテルを含む旅行産業は、景気、流行、戦争などの影響を受けやすい産業だ。東京・大阪に

あるホテルの 2009年上半期の平均客室稼働率は、イラク戦争やSARSの流行があった 2003

年上半期を下回り、半期ベースで最低になったという1。地方都市でも同様の事態が想定される

が、東京や大阪以上に交流人口の増大による経済効果が望まれる地方都市でのホテル宿泊客の

減少は、その地域経済にとって大きな打撃である。

一方、旅行産業は今世紀世界最大の産業になると言われ(Kotler,et al.,2003)、我が国でも

「観光立国」を目指すことが 2003年に国の方針として掲げられた。

本稿でとりあげるMICE(マイス)は、「Meeting(M),Incentive(I),Conference(C)&

Exhibition(E)」の略語2で、旅行産業にあって比較的景気の動向などに左右されず、短期間で

大きな収益を地域経済にもたらすと言われている(ジェーティービー能力開発,2006; Kotler et

al.,2003)。

図 1 MICEのフルスペル

M(ミーティング)の表す、研修やチームビルドを目的とした企業の社外ミーティングやI(インセンティ

ブ)の表す報奨旅行は、その効果から人材への投資とみなしうるし、C(カンファレンス)の表す、業界

や学会の会議や大会などは、国内だけではなく世界中の都市持ち回りで定期的に開催されるこ

とがその理由だ。またE(エグジビション)の表す、見本市や展示会もオフシーズンが少なく定期的

に開催されるものが多い。

本稿では、このMICEについてその現状を紹介し、MICEの代表的施設であるホテルお

よび都市が、いかにしたらMICEの開催場所になれるのか考察する。

1 日本経済新聞記事(2009.8.1) 2 Conferenceは Convention/Congress、Exhibitionは Eventとされる場合もある。

Meeting

Incentive

Conference (Convention/Congress)

Exhibition (Event)

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2. MICEとは何か

前述のとおりMICEとは、「Meeting(M),Incentive(I),Conference(C)& Exhibition(E)」の

略語で、旅行産業の団体市場における組織的な購買行動である。米国ではMICEを構成する

4つの分野について詳細な定義をする場合もあるが(原,2007,p.43)、註 2 に記したように各分

野を示す言葉が入れ替わることもあり、あまり限定的にとらえない方がよいだろう。M(ミーティン

グ)は企業主催の研修や比較的規模の小さい会議、I(インセンティブ)は企業主催の報奨旅行、C(カン

ファレンス)は団体や企業主催の比較的規模の大きい会議、E(エグジビション)は見本市や展示会という

ように大枠で理解することが重要だ。

従来から個別の分野についてはホテル業界などで認識されてはいたが、MICEがビジネス

の括りとして文字で最初に登場したのは 1994年のオーストラリアで、国の経済を発展させるエ

ンジンとして位置づけられていたようだ(浅井,2008a)。我が国では、2004年頃からホテル業界

でMICEが注目され始めた3。

(1)MICEの特徴

MICEを構成する4つの分野に共通する特徴は、主催する目的が必ずあり、その目的の達

成という成果が期待されていることだ(浅井,2008b)。すなわちMICEは、主催者の課題解決

という目的を達成するために開催される。たとえばチームビルドのミーティングであれば参加

者のチームとしての一体感の醸成などが目的とされ、報奨旅行であれば報奨対象者の満足感を

高めモチベーションを喚起することが目的とされる。会議であれば決議をしたり情報を共有し

たりすることが目的となり、見本市であれば商談の成立や商品PRなどが目的となる。

またMICEへの需要が、基本的に「派生需要」であるということもその特徴だ。MICE

参加者の需要がまずあり、その需要から派生して主催者がMICEを開催するので、参加者の

少なかったMICEは以後開催されなくなる (Kotler et al.,2003)。したがってMICEを成

功させるには、MICEの直接購入者である主催者を満足させるだけでなく、そのMICEの

参加者をも満足させる必要がある。逆に言えば、参加者が満足するMICEであれば主催者も

満足するということだ。

(2)MICEの関与者

MICEの関与者は、MICE需要者と施設供給者(サプライヤー)に大別される。

1) MICE需要者

MICE需要者は、最終消費者であるMICE参加者とそれを開催する主催者である。M

ICE参加者は大きな影響力を持つが、どのようなMICEを、どこでどのように開催する

かという開催決定権は主催者にある。また主催者は、MICEの構想、計画、運営を専門家

であるプロフェッショナル・オーガナイザー4へ委託することが多く、その場合には、プロ

3 ハイアットホテルズ&リゾーツが、チェーン全体でMICEに本格的に取組み始めたのが 2004年だが、ホテル業界誌で特集を組んだ 2006年には、まだMICEの読み方の問合せがあるような状況だった(石渡,2008)。 4 オーガナイザーは、欧米では契約に基づきMICEの実務を代行する法人または個人を指す。特に会議のオーガナイザーを米国ではミーティングプランナー(MP)という。MPは主催者の組織内に置かれる場合と組織外の独立MP(Independent MP)へ委嘱する場合がある。

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フェッショナル・オーガナイザーが実質的な決定権を持つ。

2) 施設供給者(サプライヤー)

MICEの4つの分野に共通して必要な施設としては、会場、宿泊施設(会場を兼ねる場

合もある)、ケータリングを含む飲食施設、交通手段などがあり、これらの施設に関わる者

がサプライヤーに当る。

MICEの誘致は競争が激化しており、今やサプライヤー間の競争ではなく都市間競争、

地域間競争さらには国際的な競争になっている。そこでサプライヤーをサポートするため国

および地方公共団体に、観光資源の総合セールスを行う非営利の組織が生まれた。我が国で

は、日本政府観光局(JNTO)5という国際観光振興機構法に基づく組織が国のそれに当り、

(観光)コンベンションビューローなどの名称を持つ組織が地方公共団体のそれに当る。(観

光)コンベンションビューローは、その地方の観光関連企業を会員とし、年会費や地方公共

団体からの補助金6などで運営されている。

3. MICEの市場

(1)M(ミーティング)の市場

M(ミーティング)は、単独企業により開催されることが多く市場の詳細は不明であるが、収益性が

高く今後伸びゆくと期待されている領域である。2009年についても、MP(ミーティングプランナー,註 4

参照)の世界的組織であるMPIとアメリカン・エキスプレス社が共同で実施した市場予測調査

によると、企業の通常会議は不況にもかかわらずこれまでどおり開催される7。

米国ではホテル収益の 10%以上が会議によりもたらされると言われる(Kotler,et

al.,2003,p.593)ように、この市場のサプライヤーは主にホテル業界であるが、各地の(観光)

コンベンションビューローもこの分野の収益性と成長性ならびに宿泊による経済波及効果に着

目し、その拡大方策を検討している8。

個別の事例では、ソラーレホテルズ&リゾーツのビジネスホテルブランドであるチサンホテ

ルは、この市場に焦点を当て、10軒のホテルで改装を施したうえで、研修・会議のパッケージ

プラン「チサンビズ」を 2007 年 6 月から販売している。2008 年 1~6 月期のMICE関連売上

げは前年比 122%を超え、年間 10億円というビジネスホテルとしては大きな売上げを見込むこ

とができた。また、東京や大阪といった企業の多いエリアだけでなく、熊本や札幌などMIC

Eにそれまで取組んでいなかったエリアでも、売上げが好調だったようだ9。

1992年に宿泊特化型ホテルとしてオープンしたメイプルイン幕張(152室)は、2005年に研修

棟を新設し、研修に特化したM(ミーティング)の受け入れを本格的に開始した。売上げの約 5割が研

修関連となり、その約 8割を直販することができたという(礒部, 2007)。

5 日本政府観光局は通称。正式名称は独立行政法人国際観光振興機構(Japan National Tourism Organization)で、「国際会議などの誘致促進、開催の円滑化」が主要事業の 1つになっている。 6 米国ではホテルの宿泊に対して課税されるホテル税(地方特別税)も通常収入源とされる(原,2007)。 7 週刊ホテルレストラン記事(2009,44(7),p.36) 8 週刊ホテルレストラン記事(2007,42(30),Pp.36-39) 9 週刊ホテルレストラン記事(2008,43(30),Pp.44-45)

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(2)I(インセンティブ)の市場

I(インセンティブ)もM(ミーティング)と同様、単独企業により開催されることが多く市場の詳細は不明

であるが、収益性が高く今後伸びゆくと期待されている領域であり、ホテルをはじめ各地の(観

光)コンベンションビューローもこの分野の拡大方策を検討している。

I(インセンティブ)は主催企業の報奨旅行が中心であるため、この市場で主に恩恵を受けるのはリ

ゾートや観光地のホテルである。

宮崎のフェニックス・シーガイア・リゾートは、2001年に累積債務が膨らみ経営が破たんし

外資により買収されたが、そのホテル部門であるシェラトン・グランデ・オーシャンリゾート

(743室)は、2002年からI(インセンティブ)に注力したセールスを始め、2004年には客室売上げの

約四分の一をMICE関連で占めるに至ったという(礒部, 2007)。

写真 1 シェラトングランデ・オーシャンリゾート

Photo by S&E

(3)C(カンファレンス)の市場

2007年我が国でのC(カンファレンス)の開催件数は国際・国内会議合わせて 11,526件、会議主催者

関連の事業費 295億円、参加者関連の消費支出 2,037億円、合わせた市場規模(直接的経済効果)

は 2,332億円と推計された10 (日本イベント産業振興協会,2008)。

1 件当りの事例をみると、たとえば 2007 年 7月にさいたま市で 2日間開催された関東ブロッ

ク大会(参加者 637名、内宿泊者 453名)では、会議主催者関連の事業費が 6,350 千円、現地で

の参加者関連の消費支出が 8,353 千円、これらを合わせた直接的経済効果は 14,703千円(参加

者 1人当り約 23千円相当)であった。さらに生産誘発効果他の間接的経済効果が 26,876千円(参

加者 1 人当り 42千円相当)生じたので、この 2 日間の会議の開催により 41,579 千円(参加者 1

人当り 65千円相当)の経済効果が生じた(さいたま観光コンベンションビューロー,2007)。

会期が長くなると宿泊支出等が増えるため、経済効果はさらに大きくなる11。たとえば 2003

10 2007年からJNTOの国際会議選定基準が変更になったため、2006年以前との比較が困難になった。 11 2007年に我が国で開催された国際会議の平均会期は 2.67日であった(JNTO,2008)。

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年 11月に奈良市で 5日間開催された国際会議(参加者 643名)では、直接的経済効果 48,305千

円(参加者 1 人当り 75千円相当)、間接的経済効果を合わせた経済効果は 84,029 千円(参加者 1

人当り 130千円相当)であった(コンベンション誘致専門委員会,2005)。

C(カンファレンス)の内、国際会議の 2007年国内都市別開催件数は、東京 23区(440件、前年比 20

件減)が最多で以下、表 1 のとおりである。

表 1 2007年国内都市別国際会議開催件数(JNTO,2008)

都市名 件数 前年比

東京 23区 440 ▲20

京都市 183 + 29

横浜市 157 + 54

福岡市 151 + 25

名古屋市 109 -

神戸市 89 + 13

つくば (つくば市+土浦

市)

82 + 18

大阪市 76 ▲35

仙台市 51 + 6

札幌市 44 ▲ 4

首都東京が圧倒的に多いが、つくば地域を除く各都市も県庁所在地であり、その地方の中核

都市である。

国際会議の 2007年国内会場別開催件数は、パシフィコ横浜(89件、参加者総数 166 千人)が

最多12で以下、表 2のとおりである。

表 2 2007年国内会場別国際会議開催件数(JNTO,2008)

会場名 件数 参加者総数(千人)

パシフィコ横浜 89 168

九州大学 62 10

京都大学 61 10

つくば国際会議場 58 28

東京大学 42 7

国立京都国際会館 37 34

淡路夢舞台国際会議場 35 4

国連大学 34 6

名古屋大学 32 7

神戸国際会議場 29 45

件数、参加者とも圧倒的に多いパシフィコ横浜に続いて、件数としては支出の少ない大学で

12 パシフィコ横浜は施設別の国際会議開催件数で、5年連続首位である(横浜国際平和会議場,2008)。

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の開催が多かったが、参加者総数は専用会議施設での開催の方が多かった。淡路夢舞台国際会

議場は、他施設が大都市や大学・研究機関の多い地域にある中で、異色の存在である。

(4)E(エグジビション)の市場

2007年我が国でのE(エグジビション)の開催件数は 721件(前年比 29件増)、主催者関連の事業

費 2,808億円、来場者の消費支出 915億円、合わせた市場規模は 3,723億円と推計された(日本

イベント産業振興協会,2008)。

開催件数は 2007 年も増加したものの、延べ来場者数が 2,833 万人と前年比 386 万人減少した

ため来場者の消費支出が減少し、市場規模は前年を若干下回った(図 2 参照)。来場者の会場内で

の消費支出は 1 人当たり 3,230 円、それにお出かけ前支出、交通費、宿泊費を加えると、1 人当

たりの総支出金額は 9,442 円であった(日本イベント産業振興協会,2008)。

図 2 E(エグジビション)の開催件数・市場規模推移 (日本イベント産業振興協会,2008を基に作成)

4. MICEの誘致

(1) MICE誘致のポイント

1) M(ミーティング)誘致のポイント

M(ミーティング)誘致のポイントは、商品企画のパッケージ化にあるようだ。会議室の利用や

宿泊、食事、休憩時の飲み物サービスなどをすべてパッケージ化し、客単価に利用人数を乗

ずることで、簡単に予算を把握できるようにする。価額に関する交渉が、個別商品ごとでは

なくパッケージ価額全体の交渉となるため、室料の値下げ防止に役立っているという (礒

部,2007)。M(ミーティング)参加者にとって数少ない楽しみの 1 つである食事や休憩時の飲み物サ

ービスなどのパッケージ内容がどれほど魅力的であるかをサプライヤーであるホテルは競

うことになる。

2) I(インセンティブ)誘致のポイント

単にラグジュアリーなホテルに宿泊するというだけでは、I(インセンティブ)のオーガナイザー

30873299

3776 3723

0

100

200

300

400

500

600

700

800

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

4000

2004 2005 2006 2007

市場規模 開催件数

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や参加者の満足を得ることは今やできない。オーガナイザーの様々なリクエストに対して、

サプライヤーがいかに柔軟に、かつ熱意を持って応えてくれるのかといった点をオーガナ

イザーは評価する。開催都市・開催場所選択のポイントは「そのホテルのトップから全従

業員までの関心が、こちらに向いているかどうかだ」と言い切るオーガナイザーもいる13。

前述した宮崎のシェラトン・グランデ・オーシャンリゾートの例でいえば、コンベンシ

ョンセンターやゴルフ場、室内型ウォーターパークといった大規模施設がホテルと同じサ

イトにあるからMICE関連の売上げが増加したというのではなく、それらの施設を利用

して主催者や参加者に向けたイベントをどのように演出できるのかというホテルの提案が

積み重ねられた結果、MICE関連の売上げが増加したのである。「そこで何ができるか」

ということがI(インセンティブ)誘致のポイントで、参加者の期待を超えるプランを提供できなけ

ればI(インセンティブ)の受注はできない。

3) C(カンファレンス)誘致のポイント

C(カンファレンス)の誘致は、M(ミーティング)と比べて規模が大きいため、ホテル単体ではなく都市

やその周辺の地域全体で行うことになる。オーガナイザーが開催都市を決定するに当り最

も重視するのは、想定するC(カンファレンス)の参加者を収容できる宿泊施設や会議施設の有無、

空室の有無であり、これを満たすことが前提条件になる。

そのうえで開催都市を決定する際の重要なポイントは、開催都市や周辺地域が参加者に

とって魅力的な場所であるか否かという点である。C(カンファレンス)への参加者の多くは自らの

意思で参加を決めるため、魅力的な場所で開催しないと集まりが悪くなる。では何が魅力

的なのかというと、その地域や都市固有の歴史、文化、自然であろう14。アジア諸都市は、

東京をはじめ我が国の都市に比べてC(カンファレンス)関連のインフラが整備されているためC(カ

ンファレンス)の誘致に有利であるが、地域や都市固有の歴史、文化、自然はその土地ならではの

ものなので、不利なインフラを補う誘致のポイントになりうる。これは東京と比べた場合

の地方都市にも当てはまる。たとえば静岡県内で開催されたC(カンファレンス)において、開催都

市への満足度を規定する最大の要因は「(その土地)ならではの食・土産との出会い」であ

った (静岡県生活・文化部観光交流室,2005)。

4) E(エグジビション)誘致のポイント

E(エグジビション)誘致のポイントは、誘致する地域に展示場があるか否かであるようだ。そ

れも中途半端な規模ではなく、競合する数千社が同じ屋根の下に集える巨大な会場が必要

だという(石積,2007)。

国内では、東京ビッグサイト 82 千㎡(51 千㎡+31 千㎡)、幕張メッセ 72 千㎡(54 千㎡+18

千㎡)、インテックス大阪 70 千㎡(6 棟に分割)が規模の大きな展示場であるが、世界にはさ

らに巨大な展示場が数多くある。世界最大の屋内展示場はドイツのハノーファー・メッセ

(495 千㎡)であるが、これ以外にも 2007 年時点で 100 千㎡以上の規模を持つ屋内展示場は

世界に 47 ヵ所あり、内アジアに 6 ヵ所ある。

13 週刊ホテルレストラン記事(2007,42(30),p.41) 14 週刊ホテルレストラン記事(2007,42(30),Pp.36-39;2008, 43(17),Pp.54-57)

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写真 2 東京ビッグサイト

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(2) 誘致競争の激化

前述のとおりMICEの誘致競争は激化しており、国際競争になっている。

たとえばC(カンファレンス)の内、国際会議は伝統的に欧米諸国が強く 2008年においても7割強の

シェアを欧米諸国が占めた。だが近年はアジア諸国の伸長が著しく、2007年には開催件数で南

北アメリカ大陸諸国を合算したものより多くなり、2008 年にはその差が拡がった(JNTO,2008)。

国別では、米国とフランスのシェアが大きく、その他の国が第2グループを形成し激しく競

合している。我が国と競合する東アジアでの開催件数を、統計基準変更前の 2006 年まで見ると、

ビジット・ジャパン・キャンペーンの始まった 2003年を超えてから逆に減少傾向となり、2005

年にはアジアで4位と大きく下落した15(図 3参照)。

図 3 国際会議開催件数(東アジア)の推移(JNTO,2008を基に作成)

15 国際会議の開催件数は、訪日外国人旅行者数を増やすという経済効果のみならず、国際社会での我が国のプレゼンス向上にとって重要である。このため 2008年に「5年以内に主要な国際会議の開催件数を 5割以上伸ばし、アジア最大の開催国を目指す」という目標が、訪日外国人旅行者数増加の目標に加えて掲げられた。

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都市別に開催件数を統計基準変更前の 2006年まで見ると、シンガポールが都市国家ではある

ものの、2006 年に大幅に伸びている。東京は、2004年以降シンガポールはおろかソウル、北京

にも及ばない(図 4参照)。米国の都市はニューヨークが 2000年に最高6位という状況で、ラス

ベガスなど多くの都市で分散して開催されていると思われる。

図 4 都市別国際会議開催件数推移16 (JNTO,2008を基に作成)

E(エグジビション)でもアジア諸国の勢いは強く、たとえば 2010年に上海万博を控える中国の見

本市産業は、「発展初期段階」から「成長期」に入ったと言われている。見本市開催件数は 2007

年には 5,400件、見本市事業者の直接収入は 1,890億円17に達し、2010年には 2,700億円以上

になると予測されている(JETRO,2009)。

図 5 日中の見本市開催件数推移

(JETRO,2009;日本イベント産業振興協会,2008を基に作成)

16 2006年時点の国際会議開催件数都市別ベスト 3にアジア 3都市を加えた。凡例の括弧内数字は 2006年時点の順位。 17 1元=13.5円で換算。

2487

3800

4320

5400

537 526 692 721

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

2004 2005 2006 2007

中国

日本

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5. ホテルと都市のMICE戦略

(1) ホテルのMICE戦略

サプライヤーであるホテルがMICEを受注するためには、厳しい誘致競争に勝たなけ

ればならないのは前述したとおりだが、ホテルは誘致に向けて、具体的には何をすべきな

のだろうか。

1) デスティネイション・マーケティング

MICEを誘致するためには、個別のホテルがMICEを受注しようという意志とその

ためのハード・ソフト両面の受入れ能力を高めることがまず誘致競争に加わる前提となる。

MICEの誘致は、その規模が大きくなるほど、個別のホテル間の競争よりもホテルの

所在する都市間、地域間さらには国際間の競争になる。ホテルの所在する国や地域、都市

をMICEのデスティネイションとしてオーガナイザーにまず選択してもらわなくては、

MICEの誘致はできない。

オーガナイザーにアピールできるデスティネイションとしての魅力は、都市の地域資源で

ある。それらが顕在化していなければ、それらを掘り起こしてMICE参加者が魅力的だと

思うようにアピールしなくてはならないし、魅力的な地域資源がない場合には新たに創らな

くてはならない。

2) ターゲット分野の絞り込み

オーガナイザーにアピールできるホテルの受入れ能力、ならびにホテルの所在する都市の

地域資源を認識したら、次はMICEのどの分野をターゲットにするかを決めるべきだ。自

分たちの受入れ能力や地域資源が、MICEのどの分野に対してデスティネイションとして

魅力的にアピールできるかを考えるのである。

たとえばM(ミーティング)であれば、ミーティングや研修に最適な会場と快適な宿泊をパッケー

ジできるようなホテルがあれば魅力的であろうし、I(インセンティブ)であれば誰もが訪れてみた

いリゾートにサプライズを提供できるホテルがあれば魅力的であろう。C(カンファレンス)であれば、

会場のある都市や地域が魅力的であるか、もしくは近郊に魅力的な観光地があれば、参加意

欲は高まるかもしれない。E(エグジビション)であれば簡素ではあっても業界企業が数多く出展

できる巨大な会場が交通利便性の高い場所にあれば、出展者やバイヤーである来場者とも魅

力的に感じるであろう。

このようにMICEの分野ごとに訴求点が異なるので、全分野のオーガナイザーにアピー

ルすることは難しいばかりでなく、効果が薄い。ターゲット分野を絞って、オーガナイザー

へアピールしていく必要がある。

3) 地域との連携協力

MICE誘致のためには、ホテル、地方公共団体や(観光)コンベンションビューロー、

住民の連携協力が不可欠だ。ホテルがハードとソフト両面でMICE受入れ能力を高めるよ

うに努めるのはもちろんのこと、コンベンションセンターや交通システムといったインフラ

整備も必要で、それに地方公共団体の果たす役割は大きい。また、魅力的なデスティネイシ

ホテルと都市の MICE(マイス)戦略

本レポートに掲載されている情報の正確性については万全を期してはおりますが、人為的・機械的その他何らかの理由により誤りがある可

能性があります。当社は、利用者がこれらの情報を用いて行う判断の一切について責任を負うものではありません。

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ョンとなるために不可欠な観光分野の整備や実際のMICE誘致活動においては、(観光)

コンベンションビューローの効果的な活動が期待される。地域住民のホスピタリティも重要

な要素だ。その土地を訪れたオーガナイザーや参加者が初めて受けるサービスであるタクシ

ーや公共交通機関での体験は、その地域の印象を決定してしまうかもしれない。たとえば京

都のタクシーには観光ガイドブックが常置され、乗客の質問に答えられるようにしてある。

また、シンガポールのタクシー運転手は、英会話、安全管理プログラム、地理の知識などの

研修をうけており、そのサービスには定評がある(Kotler et al.,2003,p.580)。

4) グリーン・マーケティング

MICE市場においてもグリーン・マーケティングといわれる環境問題への配慮が、誘

致するうえで重要になった。特に欧米のクライアントからの要望は強いようだ(小林,2008)。

ホテルをはじめMICEサプライヤーもグリーン化の動きへの対応を始めた。たとえば

スターウッドのCGO(Chief Green Officer)によると、環境配慮型デザインのホテルブラ

ンドであるエレメントホテルを創り、そこで得たノウハウをシェラトン、ウェスティンな

ど他のブランドへ展開していくという18。シンガポールの国際会議場であるサンテック・シ

ンガポールは、会議場の屋根で雤水を集め植木の散水に利用する設計になっており、今後

はリサイクル品で展示会を行えるようにする予定だ(小林,2008)。

グリーン・マーケティングの実施に当っては、会場のスタッフ、納入業者はもちろん、参

加者にもその会場を使用することが環境配慮型のMICEになることを啓蒙し、会場選択

に間違いがなかったと確信させることが重要であるようだ19。

(2) 都市のMICE戦略

この拡大するMICE市場を都市の活性化に活かそうとする動きはこれまでにも大都市

から地方都市まで各地で見られた。たとえばJNTOが国際会議の誘致や開催支援などを

体系的に行う国際会議観光都市20として認定した都市は、2009年 9月現在、北海道から沖

縄まで 51都市あるが、年間 400件以上国際会議を開催している東京(23 区)を筆頭に 100

件以上開催している大都市から、年間数件程度しか開催されない都市21までその実態は様々

である。

MICEにより都市を活性化するに当っても、ホテルの取組みと同様に、各都市の置か

れた状況からデスティネイション・マーケティングを行い、ターゲット分野の絞り込みを行

うことが必要だ。そのうえで次に挙げる政策の拡充がMICE開催都市に成るために重要

である。

1) 助成金制度の拡充

オーガナイザーが開催地を決定するに当って、多くの都市が設けているMICE開催へ向

18 Business Traveller誌記事(2009.4.27) 19 Event Solutions HP記事 http://www.event-solutions.com/breaking_news/5_new_ways_to_green_your_event(2009.6.18参照) 20 1994年施行の「コンベンション法」に基づく認定制度で、主な認定要件は、開催会場、十分な宿泊施設、(観光)コンベンションビューロー機能、観光資源などの存在の有無である(ジェイティービー能力開発,2006)。 21 四国の中核都市にある、その都市の主要なMICE施設は、同時通訳設備が故障していたが需要がないということで放置されていた(2009.7取材)。

ホテルと都市の MICE(マイス)戦略

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けた助成金制度は、その都市の大きな魅力の 1 つである。特にC(カンファレンス)をターゲット分

野とする場合には、都市からの様々な支援は開催地決定の大きな要因となっている。したが

って、MICE開催都市になるためには、助成金制度の拡充が必要だ。

都市としての魅力が大きいと思われる東京都でも、海外都市との誘致競争に勝つため、

都からの資金を原資として東京都観光財団が新たに基金を設置し、開催者に対して開催資

金の助成を行うことになった22。

シンガポールでは、政府観光局が‘Be in Singapore’というキャンペーンを行い、一定

の条件を満たすMICEに対して様々な支援を行っている。マーケティングや広告活動へ

の助成金を主催者に提供するだけではなく、植物園でパーティーを開催できるようにする

など、様々な便宜を図っている23。

2) オーガナイザーとの信頼関係の構築

MICEの開催都市決定者であるオーガナイザーは、参加者の満足を高めるためいつも

新しいデスティネイションを探しているが、一方確実にMICEの目的が果たせるよう高

い信頼性も求めている。したがってMICEを誘致するためには、都市の(観光)コンベ

ンションビューローなどの誘致担当がオーガナイザーとの間で信頼関係を築く必要がある。

信頼関係を築くためには、MICEの展示会に出展し、ターゲットに定めたオーガナイ

ザーを招待して、その都市の魅力を知ってもらうことが必要だ。

3) 大都市および大都市圏のMICE戦略

MICEに必要な大規模な会場や宿泊施設、さらには公共交通システムなどのハードなイ

ンフラに加え、質の高い通訳やサービス提供企業の集積などのソフトなインフラが比較的充

実しているため、MICE各分野の誘致が可能である都市が多いと思われる。ただし個々の

都市の状況を見ると、今後改善を要すると思われる状況もある。

① 東京

たとえば、東京はハード、ソフトともインフラが他の国内都市に比べれば充実している

が海外の都市と比べると見务りがして国際競争に敗れる場合もある。たとえばMICE開

催に欠かせないレセプション会場について、東京が現実的に対応できるのは、柱の多い東

京国際フォーラムの地下 2階展示ホール(5,000 ㎡)を含めて、2,000 人規模程度までだが24、

着席で 3,000 人規模の需要があり、他国に競合負けしているようだ25。大型レセプションの

受入れが可能な東京ビッグサイトは、稼働率が高くスペース確保が難しいうえ東京国際フ

ォーラムとの距離がやや遠い。ホテルも東京国際フォーラム周辺地区を除けば集積地が、

赤坂、新宿、品川と点在している。E(エグジビション)の会場も不足しており、石積(2007)

によれば、東京だけでも東京ビッグサイト(82 千㎡)に加え、新たに 160 千㎡必要だという。

22 助成額は助成対象経費の二分の一で、最大 1,000万円である。 23 シンガポール政府観光局広告記事(プレジデント,2008,668,Pp.172-175) 24 週刊ホテルレストラン記事(2007,42(30),Pp.36-39 25 国際会議を誘致運営する日本コンベンションサービスへの取材(2009.6)。

ホテルと都市の MICE(マイス)戦略

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写真 3 東京国際フォーラム地下 2階展示ホール

(東京国際フォーラムHP掲載写真)

② 京都

京都は日本を代表する観光都市でありデスティネイションとしての魅力は高いものの、

C(カンファレンス)の会場が建築後 40 年以上経過し老朽化している26。さらに都心からやや遠く周

辺に賑わいがないため会場周辺が孤立し、京都にいることをあまり意識できないような立

地環境にあると思われる。

写真 4 国立京都国際会館

Photo by S&E

③ 横浜

横浜は、21 世紀の国際コンベンション都市を目指し27、みなとみらい地区を整備してき

た。その結果、みなとみらい地区には日本最大級のMICE施設であるパシフィコ横浜が、

26 ㈶国立京都国際会館 平成 20年度(第 43期)事業報告書・決算書 p.2 http://www.icckyoto.or.jp/jp/outline/img/jigyo2008.pdf(2009.9.14参照) 27 建設グラフ記事(1998.1月号) http://www.jiti.co.jp/graph/int/1takahi/1takahi.htm(2009.9.16参照)

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ランドマークとなるユニークな形状のヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテ

ルと直結し、サプライヤーがコンパクトに集積している。またMICE施設のみならず、

商業施設、オフィス、住宅が集積し、新都心としての賑わいを創っている。横浜自身が観

光都市であるばかりでなく、近隣の東京、鎌倉、箱根、富士山といった様々な観光拠点に

も恵まれているため、I(インセンティブ)のデスティネイションにもなりうる。また羽田空港が近

く、横浜高速鉄道みなとみらい線と東急東横線との相互乗り入れなど交通利便性も上がっ

た。羽田空港の国際線発着が増えれば、交通利便性はますます向上する。近年ではクリエ

イティブシティを目指しアートを充実させようと試みているが、まだまだ横浜らしいエン

タテイメントには不足感がある。また、横浜が目指している大規模国際会議を開催すると、

宿泊場所がみなとみらい地区はおろか関内その他の周辺地区を含めても不足することがあ

るようだ28。

写真 5 パシフィコ横浜とインターコンチネンタルホテル(右の高層ビル)

Photo by S&E

4) 中小都市および地方都市のMICE戦略

中小都市や地方都市は、各都市の置かれた状況からデスティネイション・マーケティング

を行い、大都市以上にターゲット分野の絞り込みを行う必要がある。大都市と比べ、デス

ティネイションとしての魅力に限りがあるからだ。宮崎のシーガイアがI(インセンティブ)にタ

ーゲットを絞って成功したように、自らの地域資源の棚卸を行い、ターゲット分野を決め

ていくべきであろう。

ただし、地域資源がありながらもそれをうまく活用していない場合は、注意しなければ

ならない。たとえば、誘致活動が開催実績のある企業や団体へ営業しているだけで、誘致

先の新規開拓などを積極的には実施していない場合がある29。誘致結果から地域資源を限定

28 MM21地区に桜木町まで加えて 3,000室以上確保できるが、日本コンベンションサービスによると、 大規模な国際会議開催の場合、宿泊場所は渋谷にまで拡がるという(2009.6取材)。 29 たとえば、2010年 5月にフランクフルトで開催される国際的なMICEの展示会IMEX10へ、日本からサプライヤー登録しているのは旅行社も含めて 16団体だけであり(http://www.imex-frankfurt.com/index.php,2009.9.14参照)、これまでの出展でも他の参加国のブース

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すると、ターゲット分野を見誤る。

MICE施設が公設の場合、所有と経営を分けることも考えられる。米国では、民間会

社がMICE施設の運営管理を行い、さらには誘致活動を行う場合が多い(ジェイティービ

ー能力開発,2006)。たとえば 1977年に米国で創業されたSNG社は、米国を中心にヨーロ

ッパへも事業を展開する世界的な会社であるが、MICE施設の運営管理のみならずマー

ケティングや開発も行う。まだアジアでは展開していないようだが30、このような世界規模

の会社に運営管理や誘致活動を委託し、世界的なネットワークの傘下に入ることも考えら

れる。自らの地域資源を魅力としてアピールするデスティネイション・マーケティングは、

MICEの受注のみならず、拡大が予想される旅行産業にとっても必須である。しかし、

地元では日常的すぎてなかなか気がつかないこともあるだろう。このような時、このよう

な外部の会社への委託は、魅力的な地域資源がどこにあるのかを発見するきっかけにもな

りうる。

以 上

に比べて小さく狭いという(週刊ホテルレストラン記事,2007,42(30),P.45)。 30 SNG社 HP http://www.smgworld.com/worldwide_venues.aspx?un=1 (2009.9.14参照)

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【引用文献】

1 浅井新介 (2008a) 「MICEとは?」① Travel Vision

http://www.travelvision.jp/html/mice/2008/market/01.html(2009.7.17参照)

2 浅井新介 (2008b) 「MICEとは?」⑧ Travel Vision

http://www.travelvision.co.jp/mice/2009/colum/mice-9.html(2009.7.21参照)

3 コンベンション誘致専門委員会 (2005) コンベンション誘致専門委員会報告書 奈良コンベンションビュー

ロー http://www.kcn.ne.jp/~info-ncb/kaihosy.pdf(2009.8.11参照)

4 原忠之 (2007) なぜ、われわれはMICEを理解すべきか 週刊ホテルレストラン, 43(30), 40-43.

5 石渡雅浩 (2008) 数字で読むホテル vol.12 週刊ホテルレストラン, 43(30), 38.

6 石積忠夫 (2007) 正直者はバカをみない ダイヤモンド社

7 礒部道生 (2007) 乱立!生き残るホテル消滅するホテル プレジデント, 45(12), 128-135.

8 JETRO (2009) 中国・香港の見本市ビジネス動向

http://www.jetro.go.jp/j-messe/business/2009-china.html

9 JNTO (2008) 2007年コンベンション統計 http://www.jnto.go.jp/info/conventions/data/statics.html

(2009.8.4参照)

10 ジェイティービー能力開発 (2006) イベント&コンベンション概論 ジェイティービー能力開発

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kanko/kettei/030424/houkoku.html#I(2009.7.17参照)

11 小林裕和 (2008) 観光産業の地球温暖化への対応が観光の国際競争力優位に 月刊JTMレポート ツーリ

ズム・マーケティング研究所 http://www.tourism.jp/report/2008/06/post-8/(2009.6.15参照)

12 Kotler, P., Bowen, J., & Makens, J. (2003) Marketing for Hospitality and Tourism, 3rd ed., Pearson

Education. (白井義男 [監修] ・ 平林祥 [訳] 2003 コトラーのホスピタリティ&ツーリズム・マーケテ

ィング第 3版 ピアソン・エデュケーション)

13 日本イベント産業振興協会 (2008) 平成 19年国内イベント市場規模推計結果報告書 日本イベント産業振

興協会

14 さいたま観光コンベンションビューロー (2007) 平成 19年度コンベンション個別事例経済効果推計報告書

さいたま観光コンベンションビューローhttp://www.scvb.or.jp/pdf/toukei/h19report_kobetsu3.pdf

(2009.8.11参照)

15 静岡県生活・文化部観光交流室 (2005) コンベンション開催都市に対する参加者の満足度に関する調査-平

成 16年度調査-

http://ai.u-shizuoka-ken.ac.jp/~iwasaki/ConventionAttendeeReport20050514.pdf(2009.8.10参照)

16 横浜国際平和会議場 (2008) パシフィコ横浜で開催されるコンベンション等による経済波及効果測定

http://www.pacifico.co.jp/press/pressrelease/prelease_081120_economyeffectsummary.pdf(2009.8.18

参照)

以上