ファイナンスのための数学基礎 第1回 オリエンテー...
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構造変化の検定
講師: 長倉大輔 (慶應義塾大学経済学部)
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今日の予定
1. Chow 検定について
2. Quandt – Andrews テストについて
3. CUSUM, CUSUMSQ 検定について
4. EViews による分析例
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構造変化の検定
構造変化とは?
計量経済モデルのパラメーターは、通常、時間を
通じて一定と仮定される。しかしながら、何らか
のショックや制度変更などによって、経済構造が
大幅に変化するような場合、それを反映して、モ
デルのパラメーター値がある時点を境に大幅に
変化している可能性がある。そのような変化を構
造変化という。
構造変化の検定
構造変化のモデル
構造変化のモデルは典型的には以下のようなモ
デルである。
t =1, 2…, s
t =s+1, s+2,…,T.
E(εt)= 0, var(εt) = σ2
4
,...11 tKtKtt XXY
,...11 tKtKtt XXY
構造変化の検定
このモデルにおいて、第1期 (t =1,…, s) と第2
期 (t = s + 1,…,T) において切片もしくは係数の
どれか一つでも等しくなければ、つまり
のどれか1つでも成立していれば(部分的な)構
造変化が起きているという。
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,....,,,, 2211 KK
F 検定による構造変化の検定
構造変化が起きた時点 s は(起きたならこの時点というのが)事前に分かっているとする。
変数として、
を定義すると、これらを用いて、先ほどのモデルは
構造変化の検定
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Kkkkk ,...,1,,
構造変化の検定
(第1期)
(第2期)
と表せる。
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,)(
...)( 111
tKtKK
tt
X
XY
t =1, 2…, T1
,...11 tKtKtt XXY
構造変化の検定
さらにダミー変数
を用いて、第1期と第2期を合わせて1つの回帰式
として
t = 1, …., T
と表せる。
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,
...1111
tKttKKtK
ttttt
XDX
XDXDY
t =1, 2…, T1
Tsst
stDt
...,,2,1,1
...,,2,1,0
構造変化の検定
この回帰式において、「構造変化がない」という
帰無仮説は、
H0: δ = γ1= …. = γK = 0
という K+1 個の制約からなっている。
以後、 表記の簡単化のため M = K + 1 とする。
これは複数のパラメーターに関する検定である
ので F 検定を用いて検定する事ができる。
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構造変化の検定
(構造変化の F 検定)
F値を
によって計算する。ここで SSR0 は構造変化がないモデルからの残差平方和、SSR1は構造変化があるモデルからの残差平方和である。
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)2/(
/)(
1
10
MTSSR
MSSRSSRFT
構造変化の検定
この F 値は εtが正規分布に従っているという仮
定の下で(厳密には他にも条件がある)、第1自
由度 M, 第2自由度 T – 2M の F分布に従
う。
このような構造変化の検定方法を提案したのが
Chow という人だったので、この検定を Chow 検
定と呼ぶ。
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構造変化の検定
部分的な構造変化の検定
先程のモデルでは切片 α および全ての係数 βk
について構造変化が起こったかどうかを検定した。
もしある特定の係数についてのみ構造変化が起き
たかを検定したい場合も同様に検定できる。
例えば、切片 α、および最初の j 個の係数
βk, k=1,…, j のみに構造変化が起こったかどうかの
みを検定したい場合(残りの係数 βk, k=j+1,…, K
は期間を通じて一定と想定)場合を考える。
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構造変化の検定
この場合、構造変化モデルは
t = 1, 2, …., T
であり、構造変化なしの帰無仮説は
H0: δ = γ1= …. = γj = 0
という j+1 個の制約からなっている。
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,...
......
11
11
tjttjttt
KtKjtjtt
XDXDD
XXXY
構造変化の検定
また J = j+1 とすると、F値は
によって計算する事ができる。ここで SSR0、
SSR1 は新たな帰無仮説の下で先ほどと同様に
定義される。この F統計量は帰無仮説のもとで
(εtが正規分布である場合) F(J, T – 2J) という
F 分布に従う。
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)2/(
/)(
1
10
JTSSR
JSSRSSRFT
構造変化の検定
構造変化点が未知の場合
先ほどは構造変化点があらかじめ分かっている
という状況を考えた。しかしながら、現実にはど
の時点で構造変化が起きているのかわかって
いない場合も多い。
そのような場合に 構造変化があるかどうかを検
定する方法が Andrews (1993) および Andrews
and Ploberger (1994) によって提案されているの
でその方法について説明する。
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構造変化の検定
構造変化が起こった時点を s 時点であるとして
計算した F 検定統計量を F (s) と表すとする。
今、構造変化時点 s は未知とするが、
M ≤ s1 ≤ s ≤ s2 ≤ T – M
を満たす時点とする。 ここで s1 と s2 は、その2
つの時点の間のどこかでは構造変化が起きた
事がわかっているとして、分析者があらかじめ
設定する値である。
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構造変化の検定
この時、以下の3つの検定統計量を定義する。
(sup ワルド F 検定)
(Exp ワルド F 検定)
(Ave ワルド F 検定)
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)(supSup21
sMFF Tsss
T
2
1 2
)(exp
1
1logExp
12
s
ssT
sMF
ssF
2
1
)(1
1Ave
12
s
ssT sMF
ssF
構造変化の検定
Andrews (1993)、Andrews and Ploberger (1994)
はこれらの検定統計量について特定の有意水
準(および特定のM)についての臨界値を求めて
いる。
Hansen (1997) はこれらの検定統計量の P 値を
(任意のMについて、近似的に)求める方法を提
案している。
言うまでもなく、有意水準 100α% の検定ではP
値が α より小さければ棄却となる。
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構造変化の検定
部分的な構造変化の検定の場合は、先ほどの統計量において、M を J に置き換えて計算すればよい。
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EViews による分析
利用するデータはG7各国の 2003/1/2から2008/4/30までMSCI株式指数の(対数階差×100によって計算した)収益率である
msci_ret.xlsx のデータを使用
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信用保証制度の問題点についての実証分析
データの読み込み
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EViews による分析
日本の収益率に対して各国(および自国)の過去の収益率がどのような影響を与えているかを見る。
次のモデルを推定する。
jpt = α + βjp jpt–1 + βge get–1 + βfrfrt–1 + βit itt–1
+ βukukt–1 + βcacat–1 + βus ust–1 + εt
jpt: 日本のデータ, get: ドイツのデータ
frt: フランスのデータ, itt : イタリアのデータ
ukt: イギリスのデータ, cat: カナダのデータ
ust: アメリカのデータ 22
「Quick」→「Estimate Equation」 「jp c jp(-1) ge(-1) fr(-1) it(-1) uk(-1) ca(-1) us(-1) 」 で推定。
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推定結果は上記のようになる。 24
Quandt – Andrews 検定
次にQuandt – Andrews 検定を行う。
「View」→「Stability Diagnostics」→「Quandt-Andrews Breakpoint Test」 を選択 25
「Breakpoint variables」の部分に どの変数の係数の構
造変化を検定するか指定。最初はとりあえず全部指定してあるので、とりあえずそのまま 「OK」
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検定結果が出力される。青丸が上から順に「Sup ワルドF」、「Exp ワルドF」、「Ave ワルドF」検定 27
「LR F statistic」というのは別の統計量。これも構造変化の検定に用いるがここでは解説しない。
P値が0.01以下なのでいずれの検定統計量でも有意水準1%以下で棄却。
にある 12/27/2005 というのは構造変化時点の推定値で、この時点で構造変化があった事を示唆。
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「Trimming」で数値を変えれば変化時点の範囲を変えて検定。 29
「Trimming」 を 5にしてやってみたが特に結果はかわらなかった。これは前後5%のデータの内側に構造変化点あると想定したという事。
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構造変化の検定
CUSUM 検定
他にも、構造変化によく用いられる検定の一つとして CUSUM 検定がある。
先ほどのモデルにおいて t = u 時点までのデー
タを用いて推定した切片、および係数の推定値を
とする。これを用いて次の期 (t = u+1) の予測値を
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,ˆ,...,ˆ,ˆ )()(1
)( uK
uu
構造変化の検定
と計算し、その予測誤差を
とする。
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,~
...~~~
1,)(
1,1)(
1)(
1 uKu
Kuuu
u XXY
111
~~ uuu YY
構造変化の検定
同様に s = u +2, u +3, …, T についても
その1時点前までのデータ (s –1 時点までのデー
タ)で推定した予測値と予測誤差を
および
と計算していく。
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,~
...~~~
,)1(
,1)1(
1)1(
sKs
Ksss
s XXY
sss YY~~
構造変化の検定
この時、この予測誤差は構造変化がないという帰無仮説が正しい時(および誤差項が正規分布に従う時)
に従う事を示すことができる。ここで は
説明変数 Xit , t =1,…, s の値に依存して決
まる値(関数)である。
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),0(..~~ 22ss mNidi
2sm
構造変化の検定
ここで とする。この時、CUSUM 検定統計量は、 の推定量 で を基準化し、足し合わせることによって
と計算される。
Cs は s = M +1, …, T のT – M 個の求められることに注意しよう。
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sw
TMsw
Cs
Mu
us ....,,1,
ˆ1 ,
sss mw /~
構造変化の検定
CUSUM 検定では Cs の値がある範囲を超えた
とき(この範囲は有意水準に応じて決まる)に構造変化があるとして構造変化なしの帰無仮説を棄却する。
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構造変化の検定
CUSUMSQ 検定
CUSUM 検定に似た検定として CUSUMSQ 検
定もよく用いられる。これは先ほど定義した変数
を用いると
と定義される。これも CUSUMSQ 検定も
CUSUM検定同様、その値がある範囲を超えた
ときに帰無仮説が棄却される。
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TMsw
wS
T
Mu u
s
Mu u
s ....,,1,
1
2
1
2
EViews による分析
先程と同じデータに対して CUSUM 検定と
CUSUMSQ 検定を行ってみよう。
先程のモデルの推定までは終わっているとする。
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先程と同様に、
「View」→「Stability Diagnostic」 →「Recursive Estimation (OLS only)」
を選択。 39
「CUSUM Test」 を選んで 「OK」をクリック
40
CUSUM 検定統計量の値とその有意水準5%の臨界
値の幅がプロットされる。どの値も外側にないのでこの場合構造変化は棄却されない。
41
CUSUMSQ 検定は 「CUSUM of Squares Test」を
選択し「OK」をクリック
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検定統計量の値が赤線の外側に出ている。この場合は構造変化なしは棄却される。
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CUSUM 検定は切片の構造変化にCUSUMSQ検
定は誤差分散の構造変化に対して検出力があるといわれる。
ただし共に検出力があまり高くない事が知られている。
EViews による今回の結果もあまりはっきりした結果ではない。
Quandt – Andrews 検定の方が望ましい。
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本日のまとめ
1. 構想変化を検出する方法として Andrews –
Quandt, CUSUM, CUSUMSQ 検定を紹介した。
2. EViews を用いてMSCI 指数の構造変化の検定
を行った。Quandt - Andrews 検定によると2005
年の終わりごろに構造変化が認められた。
3. CUSUM 検定と CUSUMSQ 検定は検出力に
問題があるため、Quandt – Andrews 検定が望
ましいが、EViews の結果もそれを示唆している
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