エネルギー Preserving the Life of Solar Power Inverters...Solar Power Inverters...

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Solar Power Inverters 太陽光発電システムやその他の分散型電源システムを送電網(グリッド) に接続するインバーターについて,送電網の安定性を維持しやすく するため,無効電力の注入に対応することを求める公益事業者が 増えています.ただし,無効電力を発生させると,インバーターの 熱応力が増加して,インバーターの寿命を縮める可能性があります. ピッツバーグ大学の研究者はインバーターの試作段階に移行する 前に,ANSYS シミュレーション ソフトウェアを用いて,インバー ターの電気的特性と熱的特性を評価 しています.これにより,製品開発 プロセスの早い段階で,設計者が 適切な意思決定を行うことが可能に なります. Preserving the Life of Patrick Lewis ピッツバーグ大学, 博士課程学生研究員, 米国 ピッツバーグ Brandon Grainger ピッツバーグ大学,准教授, 米国 ピッツバーグ 太陽光発電インバーターの寿命維持 エネルギー 1 I ANSYS ADVANTAGE © 2019 ANSYS, INC.

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Solar Power Inverters

太陽光発電システムやその他の分散型電源システムを送電網(グリッド)

に接続するインバーターについて,送電網の安定性を維持しやすく

するため,無効電力の注入に対応することを求める公益事業者が

増えています.ただし,無効電力を発生させると,インバーターの

熱応力が増加して,インバーターの寿命を縮める可能性があります.

ピッツバーグ大学の研究者はインバーターの試作段階に移行する

前に,ANSYS シミュレーション

ソフトウェアを用いて,インバー

ターの電気的特性と熱的特性を評価

しています.これにより,製品開発

プロセスの早い段階で,設計者が

適切な意思決定を行うことが可能に

なります.

Preserving the Life of

Patrick Lewisピッツバーグ大学, 博士課程学生研究員, 米国 ピッツバーグBrandon Graingerピッツバーグ大学,准教授, 米国 ピッツバーグ

太陽光発電インバーターの寿命維持

エネルギー

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米国では,1 千万世帯を超える家庭に電力を十分に供給することができる,55 ギガワット超の太陽光発電所が設置されています.[1] ただし,この太陽光発電所すべてを送電網に接続するにあたっては,特別な課題があります.動きの速い雲が存在すると,太陽電池パネルによって生成される電力は大幅に減少します.このとき,送電網に送られる電力が低下することで,電圧が不安定になってしまい,照明が点滅したり,電圧に敏感な機器が動作を停止したりします.この問題に対処するため,公益事業者は,このような障害時に電圧を維持または補償するため,無効電力を供給することを太陽光発電所に求める可能性があります.無効電力が作り出されるのは,電流と電圧の正弦曲線の軌跡が相互に位相ずれを起こしている場合です.無効電力は,実際の電力とは異なり,電気機器に電力を供給することはできませんが,送電網の安定化を助けるために,送電網の電圧を増減させることはできます.インバーターで無効電力を発生させると,インバーターの熱負荷が大幅に増加します.その結果,インバーターの予想寿命を縮めることになります.ピッツバーグ大学の研究者は,インバーター

「インバーターで無効電力を発生させると, インバーターの熱負荷が大幅に増加します.その結果,

インバーターの予想寿命を縮めることになります.」

曲線情報

40.00

30.00

20.00

10.00

0.00

AM–id 1

VM–Vds.V

VM–Vgs.V x 2.5

Y軸

電流TR

TR

TR

電圧

電圧

0.80

0.60

0.40

0.20

0.00

電圧 [kV]

電流 [A]

時間 [μs]87.50 87.52 87.54 87.56 87.58 87.60 87.62

シミュレーションした試験回路の出力 (パワーエレクトロニクスデバイスの電気モデルの妥当性確認に使用)

Solar Power Inverters

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を構成するパワーエレクトロニクスデバイスの温度を予測して,インバーターのプロトタイプを製作する前に,その設計の最適化を可能にする手法を実証しました.

太陽光発電インバーターの早期故障の回避最新世代のスマートインバーターは,送電網の障害時に無効電力補償により送電網の乱れを修復するなどして,送電網を安定化させるよう設計されています.無効電力補償を実行すると,インバーター内のパワー半導体ごとに発生する平均接合部温度の上昇と接合部温度の変動によって,デバイスに余分な電力損失が生じる可能性があります.インバーターは,交流電流の周波数に適合するよう,毎秒 60 サイクルで電流の向きを切り替えます.パワーエレクトロニクスデバイスを構成する材料がサイクルごとに加熱および冷却されると,熱膨張係数の異なる材料同士の接触面で熱応力が発生します.熱応力の量と強さによっては,接触面で熱疲労が発生して,デバイスの故障を引き起こす可能性があります.このデバイス故障の物理的な原因をわかりやすく例えるなら,金属線を繰り返し折り曲げるようなものです.折り曲げを繰り返すと,金属線は最終的に切れてしまいます.絶縁ゲート型バイポーラ接合トランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar junction Transistor)モジュールの場合,潜在的な故障点として,基板やチップのはんだ接合部の亀裂,ワイヤボンドの隆起などが挙げられます.パワーエレクトロニクスデバイスの劣化速度は,熱サイクルの深度や,平均接合部温度と関係しています.

パワー半導体は従来,さまざまな材料層の熱伝導を表すため,並列に接続された抵抗素子(R:Resistor)とコンデンサ素子(C:Capacitor)から成る熱インピーダンス回路網としてモデル化されています.熱インピーダンス回路網内の各ノードは,デバイスパッケー

「シミュレーションを用いて,プロトタイプや 物理実験に選択されるケーススタディを最適化します.」

1.0E+000

1.0E-001

1.0E-002

1.0E-003

1.0E-004

MOSFET ZthM,1C1 = 0.189554C2 = 0.002404C3 = 0.0150863C4 = 0.0R1 = 0.269846R2 = 0.00839784R3 = 0.0829825R4 = 0.0

Zth

jc [K

/M]

t (s)1.0E-006 1.0E-005 1.0E-004 1.0E-003 1.0E002 1.0E-001 1.0E-000 1.0E+001

インポートしたデータシートの計測値に基づいた過渡熱インピーダンスモデル

RC回路網(パワー半導体の熱インピーダンス特性の評価に使用)

Solar Power Inverters

MOSFET 接合部PM,損失

MOSFET ケース温度

IGBT ケース温度

ダイオードケース温度

雰囲気温度

IGBT 接合部PT,損失

ダイオード 接合部PD,損失

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ジとシリコンウエハー,ヒートシンクとパッケージ,雰囲気環境とヒートシンクなど,2 つの異なる材料同士の接触面を表します.このアプローチに伴う課題として,各材料層の RC 定数を決定するためには,プロトタイプの試験回路を製作し,時間やコストがかかる一連の物理実験を実行して,パワー半導体モジュールにおける各材料層の RC 定数を求める必要があることが挙げられます.設計プロセスにおいては,さまざまな設計候補を評価するため,多数のプロトタイプを製作して,試験する必要があります.一般的なパワー半導体でも,このプロセス全体で多大な工数が必要になることもあります.

データシートの計測値に基づいたデバイス特性評価ピッツバーグ大学の研究員は,マルチドメインシステムシミュレーション機能(現在は,ANSYS Twin Builder に搭載)を用いて,パワー金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET:Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)であるCREE C2M0040120D および Si ベースの IGBT である Infineon IKW40T120 の電気・熱モデルを開発しました.デバイス特性評価シミュレーションを用いれば,温度変動を観測するためのプロトタイプや物理実験は不要になります.これが可能になったのは,デバイスメーカーから提供されたデータシートの試験回路計測値に基づいた RC 回路網のパラメータ計算によります.ANSYS は,回路挙動と制御アルゴリズムの迅速な評価を目的として,IGBT,MOSFET,およびダイオードのシステムレベルのライブラリを提供しています.研究者が 2 つのデバイスモデルを用いてシミュレーション用の試験回路を製作すると,デバイスモデルの電気性能は,データシートに記載されたターンオン / ターンオフの期待時間と一致しました.そこで,システムシミュレータに搭載されているデバイス性能評価ツールのデータシートスキャンユーティリティを用いて,デバイスのデータシートから熱インピーダンス曲線をインポートしました.さらに,システムシミュレータがデバイスの各レベルで熱インピーダンス回路網モデルのパラメータを自動的に計算しました.

最後に,研究者はさまざまな設計構成を評価して,無効電力性能とデバイス寿命の重要なトレードオフを最適化しました.ピッツバーグ大学の研究は,これらのデバイスモデルを効果的に使用して,スマートグリッド機能がグリッドコンバータの信頼性に与える影響を評価しました.研究者は,これらのデバイスの電気性能および熱性能を正確に予測できることを実証しました.また,所定レベルの無効電力補償を行うデバイスについて,劣化速度の増加を定量化することができました.これにより,従来のアプローチと比較すると,わずかな所要時間で無効電力性能とデバイス寿命のトレードオフの観測が可能になりました.

References:[1] U.S. Solar Market Insight, seia.org/us-solar-market-insight

(07/03/2018)

ANSYS Twin Builderansys.com/twin-builder

35.00

34.00

33.00

32.00

31.00

30.00

29.00

28.00

27.00

26.00

25.00S

w1

TEM

PJ –

T

0.600 0.610 0.620 0.630 0.640 0.650 0.660 0.670 0.680 0.690 0.700時間 [s]

曲線情報

∆TjTj,MAX

Sw1, TEMPJ–T

Sw1, TEMPJ–T

Sw1, TEMPJ–T

Sw1, TEMPJ–T

Sw1, TEMPJ–T

TRP–ref=0.2

TRP–ref=0.4

TRP–ref=0.6

TRP–ref=0.8

TRP–ref=1

さまざまな負荷要件に対して計算されたSiC MOSFETの接合部温度

1E+9

1E+8

1E+7

1E+6

1E+5

1E+4

故障までのサイクル

10 100

TjM=77.50C

TjM=900C

TjM=102.50C

Tj.max=定数=125.50C

∆Tj(K)

接合部温度サイクルに対するデバイス寿命.グラフ(資料提供:SEMIKRON International GmbH社)1) Cree Inc.社,「Silicon Carbide Power MOSFET C2M Technology(SiCパワーMOSFET C2M技術)」,C2M0040120Dデータシート,2015年.[オンライン]. 入手先:www.cree.com

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