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タンパク質・ペプチドの溶解性を制御して 免疫応答を増強させる新技術 大学院工学研究院 生命機能科学部門 教授 黒田

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タンパク質・ペプチドの溶解性を制御して免疫応答を増強させる新技術

大学院工学研究院

生命機能科学部門

教授 黒田 裕

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2Tokyo University of Agriculture and Technology

発明の概要

➢本発明は、抗原タンパク質・ペプチド(以下、抗原タンパク質)の末端に、4~6個の連続した特定のアミノ酸を付加する技術である(ペプチドタグ)。

➢本発明のペプチドタグは抗原タンパク質の免疫原性を飛躍的かつ特異的に増強させる機能を有する。

➢用途1:タンパク質・ペプチドを抗原に用いたワクチンに於ける基盤技術

➢用途2:生化学実験用抗体の製造効率を向上させる基盤技術

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本発明者による先行研究1

Solubility Enhancement Peptide tag (SEPタグ)

:溶解性向上ペプチドタグ

組換えタンパク質の末端に付加する5~12残基からなるペプチド配列で、

当該タンパク質の溶解性を向上させるペプチドタグ(特許5273438)

Tobacco Edge Virus (TEV) protease Anti-EGFR ScFV

Kalpana & Kuroda New Biotech 2018

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4Tokyo University of Agriculture and Technology

BPTI-22(3.8mM) BPTI-22-C5R (3.8mM)

11.

0

10.

0

A46

11.

0

10.

0

A46

Kato et al Biopolymers 2007、特許第5273438号

背景:SEPタグを用いたタンパク質の核磁気共鳴法(NMR)スペクトルの改良

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5Tokyo University of Agriculture and Technology

Solubility Controlling Peptide tag (SCPタグ)

:溶解性制御ペプチドタグ

組換えタンパク質の末端に付加する5残基程度からなるペプチド配列で、

当該タンパク質の会合度を制御する

1 10 20 30 40 50 58

BPTI-19-C5X: RPAFCLEPPY AGPGKARIIR YFYNAAAGAA QAFVYGGVRA KRNNFASAAD ALAACAAA-GGXXXXX Kabir et al BBA 2018

本発明者による先行研究2

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発明の起源

本発明は、タンパク質が凝集(会合)することに

よって、免疫原性が向上するという考えに基く。

その際、溶媒条件を変えずにタンパク質を会合さ

せるためにSCPタグを使用した(科研費基盤研究)。

SCPタグの利点は、その汎用性のほか、非常に短い

ため、タンパク質の機能を変えないことが挙げら

れる。

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既に実用化されている技術には、アドジュバントによる

免疫増強法等があるが

❖特異性の問題

当該タンパク質以外の分子の免疫抗原性を増強させる副作用が発症する。

例:自己免疫反応

❖安全性の問題

添加物の使用に対する不安等の問題があり、国内では臨床使用が控えられている。

従来の免疫原性増強技術とその問題点

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免疫原性増強剤:アドジュバント

アルミニウム塩世界初のアジュバント 1926年

パラフィン・ラノリン・フロイントなど油性アジュバントミセルを作ることで抗原を保護すると考えられている

Complete Freund’s adjuvant油性アジュバントであるFreund’s adjuvantに結核菌の死菌を加えたアジュバント(動物実験用)

➢特異性、安全性、副作用、操作性(粘性)の問題

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牛膵臓トリプシン阻害タンパク質(以下、BPTI;分子量6.5kDa)をモデルタンパク質に用いて、SCPタグの付加が、タンパク質の会合性と免疫抗原性に与える影響を明らかにした。

免疫応答実験に用いたモデル蛋白質

19A

aa

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免疫応答実験の条件

➢BALB/cAJclの市販マウスを用いて、BPTI変異体を

20ug程度、5週間マウスに皮下投与した。

(最適濃度は実験的に決定)

➢毎週マウスの尾、及び6週目に心臓から血液を採取。

血清中のIgG及びIgM抗体(IL2とIL4も予定)を、

ELISA法を用いて測定した。

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免疫応答実験の結果

➢ELISA抗原:タグ化していないBPTI変異体(19A)でコーティング

➢Anti-Caa1:BPTIのC末端に(XX)-(aa1)を付加。添字a1,a2はマウスの個体を示す。

aa1a1

aa1a2

aa1

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SCPタグによる免疫原性の向上効果の比較

タグ付加によって、血中の抗19A抗体価(IgM+IgG)は3~9倍増加する

タグ スペーサー力価

(Linear fit.)力価比

(19Aに対する比)

19A(比較例)

― ― 2019.2 ―

Caa1 -(aa1) (XX) 17662.3 8.8

Caa2 -(aa2) (XX) 2210.8 1.1

Caa3 -(aa3) (XX) 2423.5 1.2

Caa4 -(aa4) (XX) 5523.6 2.7

Caa5 -(aa5) (XX) 6499.5 3.2

Caa6 -(aa6) (XX) 5990.6 3.0

Caa7 -(aa7) (XX) 2575.3 1.3

Caa8 -(aa8) (XX) 8163.5 4.0

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SCPタグとアジュバント効果の比較

免疫増強剤(Freund incomplete adjuvant)の有無による条件でのBPTI免疫原性:SCPタグによる抗原性向上がアジュバントによる向上より大きい。さらに、アジュバントとタグを組み合わせて使用可能である。

あり

なし

Caa1

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14Tokyo University of Agriculture and Technology

Wild-type dengue ED3

Immune response

デングED3・タンパク質は抗体認識部位(エピトープ)を有す

るため、ED3を用いた抗体はウイルス感染を抑制することが知

られている(Crill & Roehring J Virol. 2001)

⇒十分強い免疫応答を引き起こすことができれば、ED3は抗デ

ングワクチンとして利用可能と期待される

デング由来ED3SS RNA virus, 4 strains DEN1~4

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15Tokyo University of Agriculture and Technology

長期免疫原性(抗体価)

0

500

1000

1500

2000

2500

a b c a b c a b c a b c

D3wt D3C4I D3C5D D3C5K PBS

抗体価(Ig

G)

Dose1_TB1 Dose1_TB2 Dose1_TB3 Dose2_TB4 Dose2_TB5 Dose2_TB6

AA3AA2

• コーティング:D3wt

• PBS:PBSを注射したマウスの血清を用いた

• BG:ELISAのバックグラウンド(血清を加えなかった)

AA1

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• 従来技術における安全性、操作性、安定性、コスト面の問題

を改良することに成功した。

• 従来は安全性や免疫応答強度の点から、組換えタンパク質を

抗原に使用することは限られていたが、タンパク質ワクチン

の開発の可能性が拡大した。

• 血清生成を1~2週間短縮できるため、生化学実験用抗体の

製造コストが1/4~1/3削減できると期待される。

SCPタグの特徴・従来技術との比較

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17Tokyo University of Agriculture and Technology

• 発明の名称 :抗原組成物

• 出願番号 :特許出願済 未公開

• 出願人 :国立大学法人東京農工大学

• 発明者 :黒田 裕、上岡 哲矢、ナフ

スーン・ラフマン、モ二ール・モハマド・イスラム、

三浦 史帆

本技術に関する知的財産権

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18Tokyo University of Agriculture and Technology

• 発明の名称 :組換ポリペプチドの発現

量及び収量の向上方法

• 出願番号 :特許出願済 未公開

• 出願人 :国立大学法人東京農工大学

• 発明者 :黒田 裕、上岡 哲矢、

ノチヤル・カルパナ

関連する知的財産権

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19Tokyo University of Agriculture and Technology

• 発明の名称 :ペプチドの溶解度計算方法、及びそ

れを用いたペプチドタグの設計方法とタンパク質の合成方法

• 特許番号 :第5273438号

• 出願人 :国立大学法人東京農工大学

• 発明者 :黒田 裕、泉川 直重、加藤 淳、惣谷 志保理

関連する知的財産権

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20Tokyo University of Agriculture and Technology

• エピトープ領域を有するタンパク質の同定

• タンパク質の断片化

• タンパク質断片の大量生成

• タンパク質断片の物性検証及びその最適化

• SCPタグを用いたタンパク質断片の溶解性制御

• タンパク質の免疫原性の検証

• 血清生成・抗体生成

設計生成

物性

免疫原性

新規タンパク質へ応用するためのステップ

現在、BPTI及びデング・ED3の免疫原性向上を検証している。

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21Tokyo University of Agriculture and Technology

研究室に蓄積するノウハウ・独自開発技術を活用した、抗原タンパク質の設計生成、物性解析、免疫原性検証の各ステップでの共同研究・研究指導等

ワクチン製造業者

本免疫原性増強技術における、ライセンス契約・研究指導・共同研究

試薬製造業者

本免疫原性増強技術及び溶解性制御技術における、抗体・酵素・タンパク質の設計に関する共同研究

実用化にむけた企業との協力関係

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22Tokyo University of Agriculture and Technology

• H24年11月-H25年10月 A-STEP探索タイプ

• H25年8月-H26年3月 A-STEP探索タイプ

• H27年10月-H28年9月

マッチングプランナープログラム(探索試験)

産学連携の経緯

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FAX 042-388-7553

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東京農工大学

先端産学連携研究推進センター