チリの電力問題―エネルギー業界の現況が チリの鉱業活動に...

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1. 序 論 1-1. 1990 年代の鉱山開発におけるアルゼンチン産天然 ガスの重要性 1990 年代にアルゼンチンはガス市場を自由化し、 1995 年にはチリ・アルゼンチン両国ガス統合議定書を 締結した。1996 年に両国間の最初のガス・パイプライ ンが運転を開始し、2004 年までに更に 6 つのパイプラ インが建設された。これらの工事に投資された金額は 16 億 US$ に達した。表 1 に、チリ、アルゼンチン間に 建設されたパイプラインの名称と特徴を、図1にチ リ・アルゼンチン間に敷設されたパイプライン網を示 す。これらパイプライン網により、最近までアルゼン チンのガス田から安い価格の天然ガスを輸入し、チリ で電力を発電することが可能であった。 2007.7 金属資源レポート 43 143チリの電力問題 エネルギー業界の現況が チリの鉱業活動に及ぼす影響はじめに エネルギー資源のほとんどを海外からの供給に依存しなければならないチリにとって、電力・エネルギー確保に関 する問題は重要である。最近、アルゼンチンからの天然ガスの供給が頻繁に停止し、チリ北部の鉱山操業に必要な電 力の確保が大きな課題となっている。 1990 年代には、アルゼンチン産天然ガスは量も豊富で安価であったため、アルゼンチン産天然ガスを使った発電は 鉱山業界にとっては非常に魅力的な、採算性に富むものであった。このため、鉱山業界ではエネルギーコストが大幅 に節減でき、1997 年から 2003 年の期間に 12.6 億 US$ が節約できたと試算されている。しかしながら、最近のアルゼ ンチン産天然ガスの供給停止や料金の値上げ問題はチリの電力業界の持続性を脅かすほど重大な状況を引き起こして いる。これに対しチリ政府や電力業界は、電力の安定供給確保や正当な価格の維持のための様々な対策を講じている。 本レポートは、アルゼンチン産天然ガス供給停止がチリの鉱山活動、特に銅鉱山の活動に及ぼす影響を評価するた め、鉱山業界にとって重要な大北部発電系統連携システム(Sistema Interconectado del Norte Grande = SING)と 中部連携システム(Sistema Interconectado Central = SIC)の2つの電力システムの発電能力、電力消費量に関す るデータを収集・分析し、エネルギーの需給バランスを求めると共に、需給バランスがどのように形成されているか を明らかにすることにより、将来の電力危機のリスク分析を行った。 サンティアゴ事務所 副所長 [email protected] 平井 浩二 北   部 Norandino Gas Atacama 中 南 部 Gas Andes Gas Pacifico 南   部 Condor Posesion Bandurrias Dungenes 5.00 8.50 8.70 3.90 2.00 1.20 1.25 2.50 4.30 8.00 1.25 2.00 2.00 1.24 1.14 1.03 0.75 1.07 n/d n/d n/d ´ パイプライン 最高能力(百万m 3 /日) 確定料金(US$/百万BTU 1 確定契約能力(百万m 3 /日) 表1 チリ、アルゼンチン間に建設されたパイプライン 出典:“チリのエネルギー産業:規制と見通し”プレゼンテーション、2003 年 1 British Termal Unit の略称。1BTU は約 252.2カロリーに相当する。  天然ガス 1 キュービック・フィートは、 500 から1,500BTU の間、平 均して 1,000BTUを放出する。 ´ 出典: El Mercurio 紙 図 1 アルゼンチンのガスパイプラインとガス田

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1. 序 論1-1. 1990 年代の鉱山開発におけるアルゼンチン産天然ガスの重要性

1990 年代にアルゼンチンはガス市場を自由化し、

1995 年にはチリ・アルゼンチン両国ガス統合議定書を

締結した。1996 年に両国間の最初のガス・パイプライ

ンが運転を開始し、2004 年までに更に 6 つのパイプラ

インが建設された。これらの工事に投資された金額は

16 億 US$ に達した。表 1 に、チリ、アルゼンチン間に

建設されたパイプラインの名称と特徴を、図1にチ

リ・アルゼンチン間に敷設されたパイプライン網を示

す。これらパイプライン網により、最近までアルゼン

チンのガス田から安い価格の天然ガスを輸入し、チリ

で電力を発電することが可能であった。

レポート

チリの電力問題 ―エネルギー業界の現況がチリの鉱業活動に及ぼす影響―

2007.7 金属資源レポート 43(143)

チリの電力問題 ―エネルギー業界の現況がチリの鉱業活動に及ぼす影響―

はじめにエネルギー資源のほとんどを海外からの供給に依存しなければならないチリにとって、電力・エネルギー確保に関

する問題は重要である。最近、アルゼンチンからの天然ガスの供給が頻繁に停止し、チリ北部の鉱山操業に必要な電

力の確保が大きな課題となっている。

1990 年代には、アルゼンチン産天然ガスは量も豊富で安価であったため、アルゼンチン産天然ガスを使った発電は

鉱山業界にとっては非常に魅力的な、採算性に富むものであった。このため、鉱山業界ではエネルギーコストが大幅

に節減でき、1997 年から 2003 年の期間に 12.6 億 US$ が節約できたと試算されている。しかしながら、最近のアルゼ

ンチン産天然ガスの供給停止や料金の値上げ問題はチリの電力業界の持続性を脅かすほど重大な状況を引き起こして

いる。これに対しチリ政府や電力業界は、電力の安定供給確保や正当な価格の維持のための様々な対策を講じている。

本レポートは、アルゼンチン産天然ガス供給停止がチリの鉱山活動、特に銅鉱山の活動に及ぼす影響を評価するた

め、鉱山業界にとって重要な大北部発電系統連携システム(Sistema Interconectado del Norte Grande = SING)と

中部連携システム(Sistema Interconectado Central = SIC)の2つの電力システムの発電能力、電力消費量に関す

るデータを収集・分析し、エネルギーの需給バランスを求めると共に、需給バランスがどのように形成されているか

を明らかにすることにより、将来の電力危機のリスク分析を行った。

サンティアゴ事務所 副所長[email protected] 平井 浩二

北   部

 Norandino

 Gas Atacama

中 南 部

 Gas Andes

 Gas Pacifico

南   部

 Condor Posesion

 Bandurrias

 Dungenes

5.00

8.50

8.70

3.90

2.00

1.20

1.25

2.50

4.30

8.00

1.25

2.00

2.00

1.24

1.14

1.03

0.75

1.07

n/d

n/d

n/d

´

パイプライン 最高能力(百万m3/日) 確定料金(US$/百万BTU1) 確定契約能力(百万m3/日)

表1 チリ、アルゼンチン間に建設されたパイプライン

出典:“チリのエネルギー産業:規制と見通し”プレゼンテーション、2003年

1 British Termal Unitの略称。1BTUは約252.2カロリーに相当する。  天然ガス1キュービック・フィートは、500から1,500BTUの間、平 均して1,000BTUを放出する。

´

出典: El Mercurio 紙

図 1 アルゼンチンのガスパイプラインとガス田

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チリの電力需要は 1990 年代に強い伸びを示し、新規

発電源を求める動きが起こった。1990 年代初頭に高効

率結合サイクル(ciclo combinado de alta eficiencia)2

が開発され、アルゼンチン産天然ガスを用いた発電が

有利となり、多くの発電所が建設された。発電所建設

に投資された金額は 20 億 US$ と推定され、発電能力

は 3,400MW 増加し、ガス発電は短期間のうちに重要

な位置を占めるようになった。2002 年には SING の発

電量の 62.4 %が天然ガス発電であった。チリ北部の大

鉱業プロジェクトの多くは、アルゼンチン産天然ガス

を用いた結合サイクルによる発電所により、安い電力

コストで開発・操業が可能となった。

図2に SING の限界費用(costo marginal)3 の推移を

示す。このコストは 1996 年に 42US$/MWh であった

ものが 2003 年には 15US$/MWh と 60 %も減少してい

る。このため、鉱山会社は同期間中に電力代を 12 億

56 百万$節約できたことになる。但し、Antofagasta

地方、特に Mejillones 及び Tocopilla 両市における石

炭燃焼による汚染物質排出量を低減するための汚染除

去に要する費用は考慮していない。

2.結合サイクルの発電所は 2 つの異なったタイプの発電所で構成されている。先ずターボガスによる発電サイクルを行い、この時得られる高温を持ったガスを利用して水を熱して蒸気を生産し、蒸気で追加的に発電する。こうした 2 つのタイプの発電方式の結合により、使用する燃料を最大限に利用できる他、発電の熱効率も向上する。

3.限界費用とは最も効率の低い発電所で発電された発電量の操業コストである。

チリ北部の鉱業活動にとっては Gasoducto Atacama

と Norandino パイプラインが特に重要である。これら

のパイプラインの詳細を表 2 に示す。

レポート

チリの電力問題 ―エネルギー業界の現況がチリの鉱業活動に及ぼす影響―

2007.7 金属資源レポート44(144)

名  前 (所有社名)

当初投資額 US$Mill.

長さ (Km)

パイプ径 (インチ)

主要な顧客電力会社名 (顧客電力会社が売電している鉱山名)

・Central Tal Tal(SIC) ・Fundicion Altonorte ・Cerro Dominador ・Central Ciclo Combinado Atacama(Escondida, El Tesoro, Collahuasi, El Penon, Quebrada Blanca)

・Edelnor(Mantos Blancos, Cerro Colorado, Michilla, Rayrock, Haldeman, Noranda Chile, Quiborax) ・Elecroandina(Chuquicamata, Radomiro Tomic, El Abra)

Gas Atacama 380 940 20

400 780 20Norandino

´

出典:El Mercurio紙

表2 チリNorte Grande(大北部)のガス・パイプラインの詳細

Ahorro(Mill. US$) Costo Marginal de Energia SING(US$/MWh)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45Ahorro c/r a Costo Mg 1996

Costo Marginal(US$/MWh)

´

0

50

100

150

200

250

300

267

244

221

61

116132

216

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003(年)

出典:Centro de Despacho Economico de Carga del Sistema Interconectado del Norte Grande(CDEC-SING)

図2 SINGの限界費用及び1996年との対比コスト節減額

Costo Marginal:SINGの限界費用、Ahorro c/r a Costa Mg 1996:1996年との対比コスト節減額

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レポート

チリの電力問題 ―エネルギー業界の現況がチリの鉱業活動に及ぼす影響―

2007.7 金属資源レポート 45(145)

1-2. 天然ガス供給危機アルゼンチンでは 2001 年末の経済危機により天然ガ

ス生産業者が探鉱、生産・ガス輸送への投資を控え、

政府と約定済みの投資、契約済み供給量の増加部分を

生産するに必要な投資しか行わなかった。また、アル

ゼンチン市場におけるガスの実質価格が下がったため、

需要が大幅に増え、生産能力に不足を来たすようにな

った。この結果、国内需要に対する供給が不可能とな

り 2004 年 4 月以降チリへの天然ガスの輸出を段階的に

打ち切り始めた。特に産業用ガスの供給は急激に削減

された。

図3に過去 3 年間におけるアルゼンチン産天然ガス

のチリ向け輸出量の推移を示す。アルゼンチン産天然

ガスのチリ向け輸出量は 2004 年 2 月の 20 百万 m3/日

から 2006 年 9 月には 10 百万 m3/日に減少している。

こうした状況が天然ガス販売会社及び顧客企業に大き

な不安を与えた。特に Noroeste Argentino(アルゼン

チン北部 Salta 州)のガスパイプラインに供給を全面

的に依存しているチリ北部の企業の不安は大きかった。

0

5

10

15

20

25

Abastecimiento promedio(Mm3/dia)

Austral Neuquen Noroeste *

*アルゼンチンの天然ガス産出地域、Austral地域(アルゼンチン南部パタゴニア)、 Neuquen地域(アルゼンチン中部Neuquen州)、Noroeste地域(アルゼンチン北部Salta州)

出典:国家エネルギー委員会

図3 チリに輸出されるアルゼンチン産天然ガスの推移

´

´

Jul 2006

Abr 2006

Ene 2006

Oct 2005

Jul 2005

Abr 2005

Ene 2005

Oct 2004

Jul 2004

Abr 2004

Ene 2004

´ ´

アルゼンチン産天然ガスのチリ向け輸出が減少する

に従い、2006 年 9 月には産業界向けのガスは全量カッ

トされるに至った。一方、チリ北部の電力会社は 2004

年 2 月の供給量の 80 %相当量を供給カットされた。こ

れまで商業施設や住民の家庭向け電力供給がカットさ

れたことはなかったが、2007 年 5 月にアルゼンチン産

天然ガスの供給停止によりチリ北部で停電が発生し北

部の主要都市と鉱山業界が影響を受けた。

1-3. チリ政府の対策アルゼンチン産天然ガスの供給危機に対し、チリ政

府は、エネルギー資源の輸入先国の事情に依存せずよ

り自立性を高める目的で、エネルギー源を多様化する

政策をとった。このため、アルゼンチン産天然ガスの

調達難により引き起こされたエネルギー危機問題が電

力業界に意識改革を巻き起こし、新たなエネルギー源

の導入のための投資意識も高まる結果となった。

最近 2 年間に、アルゼンチンからガスを輸入する企

業は、輸入ガス量がゼロになった場合でも操業を維持

できるように、ガスとディーゼル両方で発電できる、

デュアル・スタンドバイ・システムやプロパンガス製

造プラントに投資した。この結果、天然ガスを使用し

ていたプラントでも、コストは高いものの、他の燃料

でも稼動できるようになった。火力発電所の場合、デ

ィーゼルによる発電は天然ガスに比べ 6 倍のコストが

かかる(US$33/MW h 対 US$192/MW h)。

現在、チリの鉱山業界は銅価格の下落に備え、鉱山

会社がエネルギー消費量の削減を目的とした計画を導

入する方向に進みつつある。鉱山会社の見通しでは、

エネルギー消費量を 1 %削減すると 10 百万 US$ の経

費節減になるという。鉱山会社は経費節減を評価する

ための研究を行い、エネルギーのより効率的な使用法

を具体化するための投資を政府当局と一緒に検討して

いるようである。

2. チリの電力・エネルギー供給2-1. チリ電力業界の特質

チリには 4 つの異なった電力システムが存在する。

これらは、大北部連結システム(SING)、中部連結シ

ステム(SIC)、Aysen 電力システムと Magallanes 電

力システムである。図4に各電力システムの管轄地域

を示す。

´

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レポート

チリの電力問題 ―エネルギー業界の現況がチリの鉱業活動に及ぼす影響―

2007.7 金属資源レポート46(146)

SING は Arica 市から Antofagasta 市までを含む地域

をカバーし、チリに設置された発電能力の 29.5 %に相

当する。SING は複数の発電所と連結した送電線とで

構成され、チリの第 I 州及び第 II 州の電力消費量を賄

っている。SIC は Taltal と Chiloe 間の地域をカバーし、

チリの発電能力の 69.7 %に相当する。Aysen システム

は第 XI 州の電力消費量を賄い、チリの発電能力の

0.3 %、Magallanes システムは第 XII 州の電力消費量

を賄い、チリの発電能力の 0.5 %に相当する。

表 3 にチリの電力システムの特徴を示す。また、こ

れら電力システムの発電能力及びエネルギータイプを

表 4 に示す。2005 年のチリの発電能力は約 12,206MW

である。

SING が発電した電力のほとんどは火力エネルギー

による発電である。2004 年には、アルゼンチンから輸

入した天然ガスを使った結合サイクル方式の発電所か

らの電力が SING 全体の 58 %を占めている。

SIC: Sistema Interconectado CentralPotencia Instalada: 8,512 MWDemanda Maxima: 6,100 MWPoblacion: 92.7%

SING:Sistema Interconectado del Norte GrandePotencia Instalada: 3,595.8 MWDemanda Maxima: 1,700 MWPoblacion: 5.7%

Sistema de AysenPotencia Instalada: 33.5 MWDemanda Maxima: 19.4 MWPoblacion: 0.6%

Sistema de MagallanesPotencia Instalada: 64.7 MWDemanda Maxima: 40.6 MWPoblacion: 1.0%

図4 チリの電力システムの配置図

Potencia Instalada:発電能力 Demanda Maxima:最大電力需要 Poblacion:人口の割合

出典:Energica、2006年1月

´ ´

´ ´

´

´ ´

´

´

´ ´

システム 供給場所 住民数(%) 発電会社の数 発電能力 (MW)

最高需要電力 (MW)

総発電量 (GWh) 4

SING

SIC

Aysen

Magallanes

第I、II州

Taltal-Chiloe

Aysen地方

第XII州

5.7%

92.7%

0.6%

1.0%

3,595.8

8,512.0

33.5

64.7

1,700.0

6,100.0

19.4

40.6

12,657.4

37,915.1

107.9

211.4

6

21

1

1

表3 チリ電力システムの特徴(2005年)

表4 チリの発電能力(MW)2005年

出典:国家エネルギー委員会、2006年12月

出典:国家エネルギー委員会、2006年11月

システム 火  力 水  力 風  力 合  計

SING

SIC

Aysen

Magallanes

合   計

3,583.0

3,766.7

 13.9

 64.7

8,452.3

 12.8

4,745.3

 17.6

4,775.7

3,595.8

8,512.0

 33.5

 64.7

12,206.0

2.0

2.0

´ ´

´

´

4.GWh(Giga ワット)は1時間フルチャージした場合の1,000MWの電力エネルギーに相当する。

´

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レポート

チリの電力問題 ―エネルギー業界の現況がチリの鉱業活動に及ぼす影響―

2007.7 金属資源レポート 47(147)

図5にチリの電力消費量全体に占める経済活動分野

別の割合を示す。鉱業分野と工業分野が最重要分野で

あり、鉱業分野がチリの電力消費量全体の 36 %を占め

ている。

チリにおいてほとんど全ての鉱山操業が北部及び中

部に位置していることを考慮し、チリの主要鉱山に電

力を供給している SING と SIC についてより詳しく記

述する。

工業 33%

農業 3%

商業 12%

一般生活 17%

鉱業 36%

出典:電力業界統計年表、全国統計研究所、2004年

図5 経済活動分野別電力消費量

(1)大北部連結システム(SING)図6に SING の主要施設を示す。1990 年代には、

鉱山会社の需要増を先取りしようとした電力会社数社

がアルゼンチン産天然ガスを用いた発電設備設置を競

って過剰投資を行った。その結果、2002 年には必要

な最高需要量を 2.5 倍も上回る発電能力を持ったた

め、競争が激しくなり、この地方の電力料金は大幅に

低下した。

Nudos importantes:主要連結部 Subestacion:変電所

Central termica:火力発電所 Central hidroelectrica:水力発電所

Linea en 345:345kV送電線 Linea en 220:220kV送電線

Linea en 110:110kV送電線 Lineas menores:110kV以下の送電線

図6 SINGの操業施設図

´ ´

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レポート

チリの電力問題 ―エネルギー業界の現況がチリの鉱業活動に及ぼす影響―

2007.7 金属資源レポート48(148)

2005 年の SING の発電能力は合計 3,595.8MW でこの

内 2,073.6MW(58 %)は天然ガスによる発電、これ以

外の 1,522.2MW(42 %)がその他のエネルギー源によ

る発電である。また、SING の電力消費量の約 85 %は

鉱山業界向けである。電力消費量の約 2.5 %を自家発

電している Chuquicamata を除くと、自家発電を行っ

ている鉱山会社は他に 1 社もない。鉱山会社は全て

2MW 以上消費するので、自由(選択)顧客か調整対

象外の顧客である。従って、売電契約は電力会社との

直接交渉を行うため、電力費を安く抑えることが可能

である。また、鉱山業界と SING とは密接な関係を保

っている。

チリ北部における鉱山会社と電力会社の契約状況

(SING の供給区域内にある電力会社が鉱山業界に売電

している契約出力と契約期間の終了年)を表5に記載

する。現在では、電力会社、配電会社、最終使用者

(顧客)との間で料金のネゴを行うことになっており、

新規契約の料金はコスト上昇する傾向にある。しかし

ながら、鉱山会社側は電力会社が過去に過大投資を行

ったことを理由にそのしわ寄せをコスト増として料金

に上乗せすることを拒否しているので、交渉は困難な

状況である。多くの重要な電力契約が 2007 年に契約期

限満了を迎えるため、現在、電力会社、配電会社と鉱

山会社間で契約の再交渉が行われている。

(2)中部連結システム(SIC)2005 年の最大需要が 6,100MW であったのに対し、

SIC の発電能力は 8,512MW と推定される。SIC の発電

源については、水力発電が発電能力全体の 55.7 %

(4,745MW)を占めているため、天然ガスに依存して

いる SING と比べリスクは低いと考えられる。表6に

SIC の発電源別発電能力の詳細を示す。

公表されている SIC の発電所建設プロジェクトによ

ると、2010 年まで新しい発電所は建設されない。従っ

て、地震によるダムの崩壊等、不測の事態が発生した

場合は電力が不足する可能性がある。

ELECTROANDINAEl Abra Chuquicamata Radomiro Tomic

150 310~382 100~110

電力会社 顧  客 契約出力(MW)

2007 2009 2017

契約終了年

560~642

NOPELEscondida Qubrada Blanca Collahuasi

150 14 88

2011 2012 2015

>252

EDELNORMantos Blancos Cerro Colorado Fund. Alnorte

36 22 > 32

2005 2007 無期限

>90

NORGENEREscondida Escondida

110 62

2007 2008

172

CELTACerro Colorado Collahuasi

25 90

2007 2015

115

AES GENER Zaldivar 110 2008 >110

合計(MW)

表5 SINGと主要鉱山会社との契約

出典:ESTRATEGIA紙のデータをもとに作成、2004年4月

発電源のタイプ 発電総出力(MW)

表6 発電源別SICの発電能力

出典:国家エネルギー委員会のデータをもとに作成、2006年11月

Pasada(ダムなし水力発電)

ダム

蒸気-Licor negro

蒸気-石炭

ガス-ディーゼル

ガス-IFO 180

Ciclo-Aabierto 天然ガス

ガス-林業廃棄物

Ciclo-混合 天然ガス

石油派生品

発電出力合計

1,301.9

3,443.4

73.0

937.7

591.5

64.2

410.0

105.9

1,509.4

75.0

8,512.0

発電総出力の割合(%)

15.29%

40.45%

0.86%

11.02%

6.95%

0.75%

4.82%

1.24%

17.73%

0.88%

100.00%

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レポート

チリの電力問題 ―エネルギー業界の現況がチリの鉱業活動に及ぼす影響―

2007.7 金属資源レポート 49(149)

2-2. エネルギー源の多様化チリではこれから数年間は急速な経済成長が見込まれ

ており、これに伴って電力の消費も高い伸びを示すと想

定される。従って、適切なエネルギー供給を可能とする

幾つかの選択肢を準備しておく必要がある。こうした見

地から、将来の課題として、持続的成長と両立可能な効

率的発電方式を開発して行かなければならない。

チリ南部にある水力発電資源を利用することは重要

であるが、消費地までの送電システムの開発が不可欠

である。また、持続可能な農村地帯開発に有効な pasa-

da(ダム無し)方式による水力発電所建設プロジェク

トが重要となる。

表7に発電方式別投資額及び運転コスト示す。

発電所のタイプ 設置能力単位当たり投資額(US$/MW)

表7 発電方式別コスト比較

*年間の運転とメンテの固定コスト、発電年間変動コスト及び投資年間コスト

出典:国家エネルギー委員会のデータをもとに作成、2006年10月

地熱

風力

太陽熱

バイオマス

水力(ダム方式)

水力(Pasada方式)

火力(天然ガス)

火力(石炭)

火力(ディーゼル)

1,671,134

1,012,000

4,550,000

600,000

998,000

1,320,000

629,000

922,000

429,000

オペレーション・コスト(US$/MWh)*

31

50~55

412~904

55~56

23

26

41

45

201

チリの電力需要が年 7 %の割合で増加する一方、発

電プロジェクト数は減少しつつある現状を考え、チリ

政府はエネルギー源の多様化に努力している。再生可

能エネルギー(ERNC)は環境への影響が少ないこと、

燃料コストがないことを考えると幾つかの利点がある。

このカテゴリーには、風力、地熱、pasada 方式水力、

太陽熱、バイオマス(植物性物質を処理して得た)に

よるエネルギーが含まれる。チリ政府は現在エネルギ

ー源の 2.4 %に過ぎない ERNC を 15 %に増加させる政

策を発表し、Endesa Espana、Enel、Pacific Hidro、

Geothrmec、Ormet 等の様々な企業の関心を呼んだ。

これらの企業はチリで ERNC のプロジェクトを進めた

い考えである。

ERNC を使った発電所への投資額は従来の発電所よ

り高くつくが、長期的な観点から見ると利点が多い。

現在、チリ環境委員会(CONAMA)には ERNC をベ

ースとした発電所の建設プロジェクトが 15 件提出され

ており、そのうち 9 件は既に承認済みである。しかし

ながら、これらプロジェクトの発電能力を合計しても

チリの発電能力の 3 %程度である。さらに、SING の

供給区域である第 I 州、第 II 州にこれら発電所を建設

するプロジェクトは皆無である。

チリ北部地区(SING)の発電源をアルゼンチン産天

然ガスに過度に依存することは避けるべきである。代

替燃料として、石炭、液化天然ガス(GNL)、圧縮天然

ガス(GNC)の活用やペルー・ボリビアから天然ガス

をパイプ輸送することを考える必要がある。価格面、

技術面、国際市場での入手のし易さ等を考慮すると、

石炭が一番現実性のあるエネルギー源である。また、

アルゼンチン産天然ガスの補完燃料または代替燃料と

して液化天然ガス(GNL)を使用することも選択肢の

1つである。

2-3. 液化天然ガスプロジェクト(1)Quintero の液化天然ガスプロジェクト

チリ第 V 州、サンチャゴの北西約 110km に位置す

る Quintero の液化天然ガスプロジェクトは石油公社

(ENAP)、ENDESA、METROGAS 及び British Gas

が共同で進めているプロジェクトで、当初の目的は液

化天然ガスを長期的にチリのエネルギーの一大供給源

にすることであった。しかしながらこの計画は下方修

正され、現在では配電会社 Metrogas、Energas、Gas

Valparaiso の一般家庭向け及び産業向けガスの供給計

画に変更されている。これらの配電会社はアルゼンチ

ン産天然ガスの輸入制限が想定される 2007 年には供給

不足に陥ると考えられており、この対策として本プロ

ジェクトにより供給不足を補う予定である。この他、

Quintero の液化天然ガスはアルゼンチン産天然ガスの

供給を受けて操業を開始する ENDESA の San Isidor

II 発電所向けにも使用される予定である。

Quintero の液化天然ガスプロジェクト計画による

と、2008 年の半ば頃には GNL を供給できる見通しで、

それまでに一般家庭向け及び商業向けに 2 百万 m3 の

第 1 号貯蔵タンクを建設し、その後、2009 年までに 10

百万 m3 の本格的貯蔵タンクを数基建設する予定であ

る。Quintero の GNL コンビナートの全設備が完成す

れば、この施設だけでチリの天然ガス需要の 40 %を賄

えることになる。

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レポート

チリの電力問題 ―エネルギー業界の現況がチリの鉱業活動に及ぼす影響―

2007.7 金属資源レポート50(150)

(2)Mejillones の液化天然ガスプロジェクトCODELCO、BHP Billiton、Dona Ines de Collahuasi

と Phelps Dodge(G4)は Gas Atacama、Suez

Energy と共にチリ第Ⅱ州アントファガスタの北 50km

に位置する Mejillones の液化天然ガスプロジェクトに

参加することを明らかにした。これにより、2008 年末

には GNL 輸送船からガスパイプラインに液化天然ガス

を注入するためのインフラ施設を建設できる見込みと

なった。Mejillones 液化天然ガスプロジェクト計画に

よると、2010 年に再ガス化プラントと 6 百万 m3 の能

力を持つ貯蔵タンクを複数建設する予定である。建設

コストは総額 3 億 50 百万$と見積もられているが、鉱

山会社(G4)と Gas Atacama、Suez Energy が投資す

る予定である。Mejillones の GNL プラントの操業開始

により、400MW の発電能力を持つ天然ガス火力発電

所の稼動が見込まれている。

チリ国家エネルギー委員会の見積によると、GNL は

2010 年には US$6/百万 BTU でチリに供給可能になる

という。しかしこの価格は当初 GNL プロジェクトの推

進者が見込んでいた US$4/百万 BTU を大幅に上回っ

ている。

2-4. チリの発電能力の見通しチリ資本財技術開発会社(CBC)の調査によると、

チリの電力システムは 2007 - 2015 の間に発電能力が

6,908MW 増加する。この内、51 %が水力発電、14 %

が石炭による火力発電、28 %が液化天然ガスによる結

合サイクル発電、3 %が再生可能エネルギーによる発

電となっている。

SING において、2010 年までに計画されている新規

発電プロジェクトは 2008 年に建設される予定の石炭火

力発電プロジェクト(250MW)のみである。SING で

発電能力増加が顕著となるのは 2010 年以降で、毎年約

200MW の増加が予測されている。なお、この調査に

は幾つかの鉱山会社が行う予定の石炭による火力発電

所建設は含まれていない。

中部連結システム(SIC)においては、2007 - 2010

の期間に数件のプロジェクトが運転を開始し、チリで

最も電力需要の高い本地区の需要増加に対応できる見

込みである。南部の電力システムでは、発電能力の増

強は水力発電プロジェクトがほとんどで、この他、少

数の風力発電プロジェクトが含まれている程度である。

図7に国家エネルギー委員会が発表した発電能力の

見通しを示す。

2005

8,512

3,596

65

33

12,206

2006

8,662

3,596

65

33

12,355

2007

9,194

3,596

72

38

12,900

2008

9,506

3,846

72

41

13,465

2009

9,871

3,846

73

42

13,832

2010

10,881

4,046

73

45

15,045

2011

11,706

4,346

73

49

16,174

2012

12,744

4,546

73

51

17,414

2013

13,059

4,746

80

54

17,939

2014

13,819

4,946

82

60

18,908

2015

14,519

5,146

82

60

19,808

(年)

出典:国家エネルギー委員会のデータにもとづき作成し、CBCのエネルギー・プロジェクト調査をもとに修正

図 7 発電能力の見通し(MW)

´

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レポート

チリの電力問題 ―エネルギー業界の現況がチリの鉱業活動に及ぼす影響―

2007.7 金属資源レポート 51(151)

SING の発電能力は年平均 4.1 %の割合で増加し、

SIC の発電能力は年平均 5.9 %の割合で増加する。

SING の発電能力の増加率が SIC よりも低いのは、

SING の現在の最大需要が発電能力の半分以下である

ことによる。但し、この発電能力の大部分は天然ガス

による発電である。なお、この見通しは国家エネルギ

ー委員会が工事計画として発表した発電プロジェクト

及び再生可能エネルギーを用いた発電計画が実際に操

業を開始することが前提となっている。

3. チリのエネルギー需要3-1. チリの電力消費分析

国家エネルギー委員会によると、2005 年のチリの電

力消費量は 49,078GWh であった。この内、SIC の電力

消費量は全体の約 73.5 %、SING は全体の約 26 %であ

った。Aysen と Magallanes 電力システムの電力需要

は全体の僅か 0.5 %であった。将来の見通しとしては、

電力消費量は年平均 7 %の割合で増加し、2015 年には

電力消費量が倍増する見込みである。図8にチリの電

力消費量の推移を示す。

2005

221

33

12,894

35,929

49,078

2006

231

33

13,594

38,480

52,339

2007

241

64

14,307

41,443

56,055

2008

252

68

15,458

44,800

60,577

2009

263

71

16,631

48,250

65,214

2010

274

74

17,854

51,483

69,685

2011

286

74

19,130

54,932

74,421

2012

298

74

20,458

58,502

79,332

2013

311

74

21,842

62,305

84,531

2014

324

74

23,282

66,355

90,035

2015

338

74

24,817

70,668

95,897

(年)

出典:国家エネルギー委員会の見通しをもとに作成、2006 年

図 8 チリの電力消費量の推移

SIC 及び SING の管轄地域の電力需要は 2006 - 2015

の期間に倍増する見込みである。南部電力システム

(Aysen、Magallanes)の地域でも電力消費量の増加が

見込まれているが、その電力需要の伸びは SIC、SING

地域に比較すると非常に小さなものである。

3-2. チリ鉱山業界の現在及び将来のエネルギー消費量(1)鉱業分野別電力消費の単位係数

鉱山業界の電力消費量の見通しを立てるに当たって

は、チリ銅委員会(COCHILCO)が発表した推定方式

を使用した。COCHILCO はチリで鉱業活動を行うため

に使用する電力の総需要量を計算するため、銅の生産

工程を概念的に複数の工程に分類し、これをもとに銅

の生産会社及び精錬所に対し電力消費量に関する聞き

取り調査を行った。これにより得られた情報、工程別

の製品の流れ、各工程の生産量とその処理、その他の

データをベースとして、各鉱業プロセスの平均電力消

費量を計算している。調査対象とした企業はチリの

2004 年の銅生産量の 99 %を占める。各鉱業オペレー

ションにおける電力の単位係数を計算し、また、処理

した物質毎の単位係数、生産された物質及び処理され

た物質に含まれる銅量毎の単位係数を求めている。

COCHILCO が聞き取り調査のデータを処理して計算し

た単位係数の一部を表8に示す。

´

´

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レポート

チリの電力問題 ―エネルギー業界の現況がチリの鉱業活動に及ぼす影響―

2007.7 金属資源レポート52(152)

各年の数値は電力消費量の情報を収集した全鉱業事

業所の加重平均値である。2005 - 2015 の電力需要の

見通しを立てるに当たっては、表 8 のデータから単位

係数を推定した。単位係数の推定値を計算するに当た

っては、工程別に最後の 3 年間(2002 - 2004)の単位

消費量の平均値をとることにした。その計算結果を表

9に示す。

COCHILCO が発表した 2005 - 2015 の期間のチリの

銅生産量を計算すれば、銅鉱山業界の将来の年間電力

需要を推定することが可能である。

(2)鉱山業界の電力需要の見通しチリで操業中の主要な銅鉱山は第 I 州から第 VI 州の

間に位置している。また、銅の生産はチリ北部の第 I

州と第 II 州に集中している。2004 年には、鉱山から生

産された銅の 66 %はこの地域のものである。銅の主要

生産者としては、Escondida 鉱山、Codelco Norte 事業

所、Dona Ines de Collahuasi が挙げられる。

2005 - 2015 の期間の電力消費量を推定するため、

同期間にチリの鉱山から産出する銅生産量、製錬所の

銅地金生産量及び電解銅の生産量の見通しを計算した。

表 10 に結果を示す。

1

2

3

4

5

6

7

208.3

284.3

1,545.6

751.8

332.1

3,013.6

127.6

1995年

197.3

270.5

1,395.5

730.9

333.6

2,751.3

129.4

1996年

161.4

248.7

1,407.6

782.6

335.0

2,644.5

120.0

1997年

238.6

260.6

1,514.5

843.4

336.1

2,680.6

135.7

1998年

149.8

320.1

1,615.7

896.6

344.7

2,734.5

126.4

1999年

126.0

332.0

1,707.3

918.5

347.6

2,805.8

117.6

2000年

121.5

398.8

1,725.8

970.6

343.0

2,672.7

127.0

2001年

131.6

435.0

1,943.4

1,026.1

342.2

2,771.3

134.1

2002年

148.4

417.4

2,012.4

1,053.3

340.5

2,848.8

119.8

2003年

161.0

376.0

1,954.9

1,065.6

351.4

2,896.8

125.3

2004年

表8 分野別電力消費量の単位係数

1. 露天掘り鉱山(KWh/元鉱t) 2. 坑内掘り鉱山(KWh /元鉱t) 3. 選鉱場(KWh /精鉱t) 4. 製錬所(KWh /アノードt) 5. 電解工場(KWh /ERカソードt) 6. LX・SX/EW(KWh /SX/EWカソードt) 7. サービス業務(KWh /全製品t)  t:銅金属量

出典:チリ銅委員会(COCHILCO)

露天掘り鉱山(KWh/鉱石中のFine Metric Ton)

坑内掘り鉱山(KWh/鉱石中のFine Metric Ton)

選鉱場(KWh/精鉱中のFine Metric Ton)

製錬所(KWh/アノード中のFine Metric Ton)

電解工場(KWh/電解カソード中のFine Metric Ton)

LX/SX/EW(KWh/SX-EWカソード中のFine Metric Ton)

サービス業務(KWh/全生産物中のFine Metric Ton)

147.0

409.4

1,970.2

1,048.4

344.7

2,839.0

126.4

表9 2005-2015期間の推定単位係数の見通し

注:LX=リーチング 出典:COCHILCOが計算した単位係数からの推定

銅 生 産 量

精鉱

SX-EWカソード

鉱山出の銅合計

製  錬  所

既存製錬所

新規生産

アノード合計

電 解 工 場

既存電解工場

新規生産

電解カソード合計

3,736

1,585

5,321

1,558

0

1,558

1,239

0

1,239

2005年

3,686

1,713

5,399

1,541

0

1,541

1,105

0

1,105

2006年

3,752

1,950

5,702

1,781

0

1,781

 

1,245

246

1,491

2007年

3,892

2,047

5,939

1,807

65

1,872

1,251

269

1,520

2008年

3,873

2,117

5,990

1,834

115

1,949

1,264

257

1,521

2009年

4,172

2,047

6,219

1,824

115

1,939

1,265

289

1,554

2010年

4,413

2,104

6,517

1,824

215

2,039

1,263

278

1,541

2011年

4,705

2,164

6,869

1,832

415

2,247

1,263

346

1,609

2012年

5,065

2,062

7,127

1,832

487

2,319

1,263

346

1,609

2013年

5,032

2,043

7,075

1,832

487

2,319

1,263

346

1,609

2014年

4,853

2,074

6,927

1,832

487

2,319

1,263

346

1,609

2015年

表10 鉱山から産出される銅の推定生産量 千t:銅金属量

出典:COCHILCO の情報をベースに推定

´

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レポート

チリの電力問題 ―エネルギー業界の現況がチリの鉱業活動に及ぼす影響―

2007.7 金属資源レポート 53(153)

チリの鉱山業界の電力消費量は SING に集中してい

る。2006 年には鉱山業界の電力消費量全体の 68 %が

SING から供給されている。今回の推定結果によると、

2015 年の SING の電力消費量は全体の 61 %と 2006 年

から減少しているものの、依然高い割合を占めている。

SIC については、2006 - 2015 間における鉱山業界の

電力需要は 54.1 %増加すると推定される。一方、SING

における増加率は 14.7 %である。

表 11 にチリで操業している主要鉱山会社の電力消費

量の推移を示す。SING においては、BHP Billiton

(Escondida、Cerro Colorado 及び Spence)、Codelco

Norte(Chuquicamata、Radomiro Tomic)、Collahuasi

の電力消費量が大部分を占めている。これら 3 企業の

2006 の電力消費量は、チリの最北部地方(Parinacota

県、Tarapaca 県及び Antofagasta 県) の鉱山業界全

消費量の 64 %を占めている。SIC では、CODELCO の

El Teniente 事業所、Los Pelambres 鉱山が電力消費量

が多い鉱山として挙げられる。

表 10 に示した銅の推定生産量と表 9 に示した単位消

費量のデータから 2005 - 2015 の銅鉱山業界の電力消

費量を推定した(図 9)。

200510,603 5,454 16,057

200611,055 5,295 16,350

200712,197 5,479 17,676

200812,853 5,568 18,421

200912,822 5,835 18,656

201012,519 6,575 19,094

201112,683 7,113 19,796

201213,154 7,663 20,816

201313,069 8,199 21,269

201412,726 8,373 21,099

201512,681 8,158 20,840

(年)

図 9 チリの銅鉱山業界の電力消費量

SING

BHP Billiton

Codelco Norte

Collahuasi

Lomas Bayas

Quebrada Blanca

Zaldivar

Otros Clientes

Total SING(GWh)

SIC

Candelaria

Salvador

Los Pelambres

Andina

Los Bronces

El Teniente

Otros Clientes

Total SIC(GWh)

Total Mineria(GWh)

3,501

2,450

1,112

175

243

346

3,228

11,055

532

231

669

529

517

1,071

1,746

5,295

16,350

´

´

2006年

4,307

2,684

1,213

154

243

357

3,239

12,197

488

220

700

501

547

1,083

1,940

5,479

17,676

2007年

4,229

2,910

1,260

127

245

360

3,722

12,853

439

213

841

562

531

1,125

1,857

5,568

18,421

2008年

3,945

2,842

1,246

126

244

354

4,065

12,822

361

210

757

574

527

1,150

2,254

5,835

18,656

2009年

3,832

2,615

1,209

125

243

340

4,155

12,519

361

200

757

586

519

1,163

2,989

6,575

19,094

2010年

3,790

2,595

926

125

239

344

4,664

12,683

337

202

757

608

535

1,162

3,512

7,113

19,796

2011年

3,628

2,653

890

124

240

365

5,254

13,154

337

124

744

572

547

1,128

4,211

7,663

20,816

2012年

3,550

2,021

890

124

241

355

5,888

13,069

296

0

744

543

547

1,108

4,961

8,199

21,269

2013年

3,218

1,806

856

123

221

367

6,135

12,726

280

0

734

552

551

1,095

5,158

8,373

21,099

2014年

2,956

2,152

856

110

111

360

6,136

12,681

153

0

725

535

519

1,097

5,129

8,158

20,840

2015年

表11 主要鉱山会社の電力消費量の推移(GWh)

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4-2. 大北部連結システム(SING)SING の供給事情は SIC に比べると非常に複雑であ

る。表 13 に SING のエネルギーの種類別、発電会社別

エネルギー源の構成を示す。

レポート

チリの電力問題 ―エネルギー業界の現況がチリの鉱業活動に及ぼす影響―

2007.7 金属資源レポート54(154)

4. 計画消費量と発電能力4-1. 中部連結システム(SIC)

SIC の発電能力と国家エネルギー委員会による

2006 - 2015 期間の推定電力消費量を比較すると、こ

の期間の電力需要は問題なくカバーできるものと推定

される。国家エネルギー委員会の工事計画で定めた期

間に新規発電プロジェクトが順次運転を開始されれば、

SIC から電力を供給されている鉱山の鉱業活動用に必

要な電力供給は確保されると想定される。

表 12 に SIC の発電能力と電力消費見込み量とのバ

ランスを示す。発電能力(MW)とシステムの有効利

用率から年間有効発電量(GWh)5を計算した。有効発

電量を年間平均増加率 7 %から推定した電力消費見込

み量と比較する。今回行った計算から、既存発電能力

に将来数年間に亘り実施される SIC の発電プロジェク

トを加えれば、2006 - 2015 期間の全ての経済活動

(鉱山業を含む)電力需要をカバーすることが可能であ

ると想定される。

5.有効発電量(GW h)を算出するためには発電能力に 1 年365 日と 1 日 24 時間を乗じ、更にシステムの有効利用率76%をかける。1GW hは 1,000 MW hに相当する。

発電能力

消費電力量

バランス

54,962

35,929

19,033

2005年

55,954

38,480

17,474

2006年

59,486

41,443

18,043

2007年

61,555

44,800

16,755

2008年

63,976

48,250

15,726

2009年

70,673

51,483

19,190

2010年

76,144

54,932

21,212

2011年

83,027

58,502

24,525

2012年

85,116

62,305

22,811

2013年

90,156

66,355

23,801

2014年

94,798

70,668

24,130

2015年

表12 SICの発電能力と電力消費量の見通し(GWh)

出典:国家エネルギー委員会の推定資料をベースに作成

この表によると、天然ガス混合サイクル方式の発電

所は SING の総設置能力の 59 %を占めている。近年に

なってアルゼンチン産天然ガスの輸入量が減り天然ガ

スの価格が上がったため、複数の混合サイクル方式発

電所ではディーゼル等の代替エネルギーを使用するこ

とを余儀なくされた。また、操業を停止する発電所も

あった。アルゼンチン産ガスの供給が極度に不安定な

ことにより、天然ガスを使用する火力発電所の発電能

力は最大出力の半分に減ってしまったと考えられる。

2006 年のアルゼンチン産天然ガスのカット率は 2004

年の供給量に比べ 30 %減と想定される。

仮に Mejillones の液化天然ガスプロジェクトが実現

した場合は、2008 年の第 4 四半期にはパイプラインに

天然ガスを注入できることになる見込みである。これ

により天然ガスで操業する火力発電所で、現在はガス

の供給制限のため操業を中止している 400MW の電力

発電が再開されることになり、アルゼンチン産天然ガ

スの供給カットのため発電を中止していた 1,000MW

の一部が回復されることになる。この他、最近、

Electroandina 社の 250MW の石炭火力発電所建設が新

しいプロジェクトとして追加された。2008 年の第 1 四

半期に操業を開始する計画である。これらを考慮する

と、2008 年から発電能力は増加する見込みである。

表 14 に示した SING の発電能力と電力消費量の見通

しによると、2007 年に最も電力需要に対する発電能力

がタイトになり危機的状況が予想される。2008 年には

石炭による火力発電所が 1 か所操業を開始する他、

Mejillones の液化天然ガスプロジェクトの開始により、

操業を停止していた数か所の天然ガスによる発電所が

操業を再開するので発電能力が増加するが、消費量の

増加も多く、その後も引き続き SING に対する圧力は

高いと思われる。

Gas Atacama

Electroandina

Edelnor

Aes Gener

Norgener

Celta

Total

全体に占める比率

781

438

251

643

2,113

58.8%

13

13

0.4%

3

125

115

22

265

7.3%

429

341

277

158

1,205

33.5%

表13 会社別、 エネルギー源別発電出力(MW)

出典:国家エネルギー委員会の推定資料をベースに作成

会社名 天然ガス 水 力

784

992

720

643

277

180

3,596

100%

21.8%

27.6%

20.0%

17.9%

7.7%

5.0%

100%

合 計 % 石 炭 ディーゼルと Fuel Oil

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レポート

チリの電力問題 ―エネルギー業界の現況がチリの鉱業活動に及ぼす影響―

2007.7 金属資源レポート 55(155)

5. 考察5-1. 電力供給不足の危険

最近数年間に亘り、アルゼンチン産天然ガスの供給

停止が頻発したことや実際にアルゼンチン産天然ガス

の供給量が減少したことから、現在、官民共にエネル

ギー確保に向けた取り組みを行っている。

SIC については、現有発電能力に加え適切な将来計

画による設備増強を実施すれば、近い将来の電力消費

量に問題なく対応できるものと思われる。なお、SIC

の現有発電能力は SING に比べると天然ガスへの依存

度が低いのもリスクが低いポイントである。しかしな

がら、水力発電への依存度が高いため、年間降雨量が

急増する等の気象条件が大きな影響を与えることは否

めない。また、発電能力の増強を石炭による火力発電

所だけに頼る計画も環境への影響が大きく、当局から

環境認可を取得するのに困難を伴うと想定される。

このような状況を考えると、近い将来における発電

能力の増強は環境を重視した主にガスによる火力発電

所を建設すべきである。現在建設中の Quintero の液化

天然ガス(GNL)プロジェクトが重要となる。この計

画は投資額が大きく、アルゼンチン産天然ガスに比べ

ると液化天然ガスはコスト高であるが致し方ない選択

であると考える。

今回の計算結果によると、SIC が供給する総電力の

うち鉱山会社が消費する電力量は平均して約 13 %であ

り、鉱山操業用に必要と推定された電力消費量は充分

カバーされると考えられる。図 10 に SIC の電力供給

量と鉱山業界の電力消費量を示す。

発電能力

消費電力量

バランス

17,200

12,894

4,306

2005年

17,200

13,594

3,606

2006年

17,200

14,307

2,893

2007年

22,040

15,458

6,582

2008年

22,040

16,631

5,409

2009年

23,529

17,854

5,675

2010年

25,763

19,130

6,633

2011年

27,252

20,458

6,794

2012年

28,742

21,842

6,900

2013年

30,231

23,282

6,949

2014年

31,720

24,817

6,903

2015年

表14 SINGの発電能力と電力消費量の見通し(GWh)

出典:国家エネルギー委員会の見通しをベースに作成

200554,962 35,929 19,033 5,454

200655,954 38,480 17,474 5,295

200759,486 41,443 18,043 5,479

200861,555 44,800 16,755 5,568

200963,976 48,250 15,726 5,835

201070,673 51,483 19,190 6,575

201176,144 54,932 21,212 7,113

201283,027 58,502 24,525 7,663

201385,116 62,305 22,811 8,199

201490,156 66,355 23,801 8,373

201594,798 70,668 24,130 8,158

(年)

出典:国家エネルギー委員会の予想をベースに作成

図 10 鉱山業界の消費量見通し(SIC)

SING の場合は発電能力の 60 %近くが天然ガスに依

存しているため、状況が大きく異なる。アルゼンチン

の国内消費量の増加により、天然ガスの輸入が急にカ

ットされると、発電そのものが不確定になる上、鉱山

業界が計画していた生産コストと比べ割高なコストを

強いられることとなる。鉱山業界の電力消費量は

SING の電力需要分野にとって重要な位置を占めてお

り、特に今後 3 年間は鉱山業界の電力消費量が SING

の総需要量の約 80 %を占めることとなる。図 11 に

SING の電力供給量と鉱山業界の電力消費量を示す。

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レポート

チリの電力問題 ―エネルギー業界の現況がチリの鉱業活動に及ぼす影響―

2007.7 金属資源レポート56(156)

SING においては、電力供給不足になるリスクは SIC

の場合に比べ非常に高いといえる。SING は電力供給

不足による危機に直面した場合余裕が少ないため、電

力供給不足が起こる可能性がある。2005 - 2015 の間

に電力供給不足に陥る危険度をグラフにしたのが図 12

である。このグラフは次の計算式から算出した。

電力供給難に陥る危険度(%)=[100 -バランス(GWh)/電力消費量](%)

この計算は、アルゼンチン産天然ガスのチリ SING

への供給削減レベルを 2004 年のレベルと比較して

30 %減と想定して行った。

200517,200 12,894 4,306 10,603

200617,200 13,594 3,606 11,055

200717,200 14,307 2,893 12,197

200822,040 15,458 6,582 12,853

200922,040 16,631 5,409 12,822

201023,529 17,854 5,675 12,519

201125,763 19,130 6,634 12,683

201227,252 20,458 6,794 13,154

201328,742 21,842 6,900 13,069

201430,231 23,282 6,948 12,726

201531,720 24,817 6,903 12,681

(年)

出典:国家エネルギー委員会の見通し及び情報をベースに作成

図 11 鉱山業界の電力消費量見通し(SING)

出典:国家エネルギー委員会の見通しと情報をベースに作成

図 12 電力供給不足の危険度(SING)

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レポート

チリの電力問題 ―エネルギー業界の現況がチリの鉱業活動に及ぼす影響―

2007.7 金属資源レポート 57(157)

これによると、2007 年にエネルギー需要増による電

力供給不足の危険度が最大となる。仮にアルゼンチン産

天然ガスの供給がゼロになった場合は、発電能力に対す

る有効出力数の減少や天然ガス価格の高騰による発電所

建設計画の中止等が想定され、供給不足に陥る危険度は

さらに上昇する。発電所の操業コストが上昇し、上昇し

たコストは鉱山業界を含む顧客に転嫁される。

アルゼンチン産天然ガスの供給停止に係る影響を予

測するため、アルゼンチン産天然ガスの供給度に応じ

て変化するシナリオを幾つか検討する。

*シナリオ 0:2004 年までの通常レベルの供給状態

と比較し、アルゼンチン産天然ガス

の供給が 30 %減少した場合。

*シナリオ 1:2007 年以降、アルゼンチン産天然ガ

スの供給が全量カットされた場合。

*シナリオ 2:アルゼンチン産天然ガスの供給が

2004 年レベルから漸減し、2011 年に

供給量がゼロになる場合。2004 年に

供給された天然ガスの総量の 15 %を

毎年供給カットすることを想定。

Norandino パイプラインを通して供

給されるアルゼンチン産天然ガスの

年間量と天然ガス結合サイクル方式

の発電所の発電能力は右記のとおり

推移すると想定される(表 15)。

この予測は、アルゼンチン産天然ガスのカットが天然

ガス方式の発電能力に与える効果のみを対象として行っ

た。この見通しを立てるに当たっては、2010 年以降の

新規鉱山開発プロジェクトに必要な電力量を確保するた

め、鉱山会社が石炭又はその他のエネルギーによる発電

所建設を開始する可能性は考慮に入れなかった。

図 13 に各シナリオにおける電力供給不足の危険度を

示す。2007 年にアルゼンチン産天然ガスの供給量を全

量カットするシナリオでは、2007 年から SING が電力需

要に対応できなくなる可能性がある。シナリオ2では、

天然ガスのカットが漸次進み、2010 年に危機的な状況

になる。SING が配給制度を採らざるを得なくなり、操

業コストが高騰することが考えられる。

今回の予測結果は、アルゼンチン産天然ガスの供給が

カットされた場合、SING が増加する電力需要に対応で

きなくなり、電力供給不足を引き起こす可能性があるこ

と、従って、早急にアルゼンチン産天然ガスに替わる代

替エネルギー源を探す必要性があることを示している。

天然ガス供給量(百万m3/年)

天然ガス設置出力(MW)

2006年

1,191

1,020

2007年

943

807

2008年

686

587

2009年

429

367

2010年

171

147

出典:国家エネルギー委員会のデータをベースに作成

2011年

0

0

表15 アルゼンチン産天然ガスのカットとSINGの設置能力(MW)

出典:国家エネルギー委員会の見通しと情報をベースに作成

図 13 各シナリオにおける電力供給不足の危険度(SING)

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レポート

チリの電力問題 ―エネルギー業界の現況がチリの鉱業活動に及ぼす影響―

2007.7 金属資源レポート58(158)

5-2. 生産コスト増加SING の天然ガスをエネルギー源とした有効発電能

力は 2,113MW である。この発電能力の内、1,020MW

は天然ガスがカットされた場合、ディーゼルに切り替

えて操業することが可能である。しかしながら、SING

はディーゼルや重油等のエネルギー源を用いて操業を

続けることは可能であるが、これらのエネルギー源を

用いた発電には輸送や貯蔵といった課題がある。また、

以下のことを考慮しなければならない。

*ディーゼルによる発電の場合、発電コストが大幅

に上昇し、US$33/MW h から US$192/MW h にな

ること。

*環境に与える影響が大きいため、環境許可取得手

続きに時間を要すること。

*発電効率が低く、メンテナンス・コストが大幅に

上昇するため、ディーゼルだけに依存した発電は

長期間に亘っての持続性に欠けること。

SING の発電能力を増強するための選択肢としては、

石炭と液化天然ガスによる火力発電所を建設する方法

や地熱、風力、バイオマス、太陽熱といった再生可能

エネルギーを活用する方法が挙げられる。

表 16 に発電所別投資コスト及び発電操業コストを示

す。石炭による火力発電所は一般的に天然ガスによる

発電所より投資コストが高く、この結果、総コストも

高くなっている。液化天然ガスを使用する場合は、港

(Mejillones)周辺に GNL コンビナートを建設する必

要がある上、液化天然ガスのコストは天然ガスの 1.5

倍、操業コストは同じく 33 %高くなっている。ディー

ゼルによる発電所の操業コストは天然ガスと比べ約 4.5

倍である。SING がアルゼンチン産天然ガスの供給不

足に対応するため、石炭、液化天然ガス等による発電

所を建設した場合、SING の発電コストは大幅に上昇

することが想定される。また、建設と操業開始に少な

くとも 3 年は必要である。

5-3. 鉱山会社の計画現在のエネルギー事情により最も影響を受けている

のは SING の電力供給に対する信頼性である。このた

め SING 地区の鉱山会社は電力確保に向けた活発な動

きを示しており、段階的に様々なタイプのエネルギー

関連プロジェクトへの参加を発表してきた。

CODELCO、BHP Billiton、Collahuasi 鉱山、Phelps

Dodge による Mejillones の液化天然ガスプロジェクト

への参加以外にも、BHP Billiton は 2006 年に 400MW

の石炭火力発電所の建設に係る国際入札を実施した。

2011 年には発電を開始する予定でこの発電所が完成す

れば同社の Spence 鉱山の操業及び Escondida 鉱山の

拡張に必要な電力需要をカバーすることができる。

Collahuasi 鉱山は鉱区面積 4,300ha の範囲で 1.1 百万

US$ を投資し、地熱探査を開始した。Collahuasi 鉱山

周辺は火山地熱地帯で地熱資源ポテンシャルが高いと

される。

Quebrada Blanca は同鉱山の湿式冶金工程に使用す

る電力を賄うために、重油をベースにした自家発電を

計画している。アルゼンチン産天然ガスの再三にわた

る供給カットの結果、価格が高騰したため Ga s

Atacama との電力供給協定が合意に達しなかったこと

が主な理由である。

SIC 地区では、Barrick が、Pascua Lama プロジェ

クトに必要な電力を供給するため、1 基 150MW の火

力発電所を 2 基建設すると発表した。Pascua Lama に

必要な電力は約 120MW で、余剰電力は SIC に売電す

る予定である。発電の開始時期は 2010 年、投資総額は

4 億 US$ 程度と発表されている。

多くの重要な電力契約が 2007 年に契約期限満了を迎

えるため、現在、電力会社、配電会社と鉱山会社間で

契約の再交渉が行われている。電力会社からコスト上

昇分を料金に上乗せすることを要求されている鉱山会

社は独自で電力を確保する傾向にある。

まとめ現在、チリ北部の電力供給はアルゼンチン産天然ガ

スの供給停止により重大な影響を受けている。過去に

アルゼンチン産天然ガスに依存したことはチリの鉱山

業界の発展に大いに好影響を与えたことは間違いない。

しかしながら、今後はアルゼンチン産天然ガスを安定

的に入手するのは困難になるものと思われる。

今回の分析の結果、アルゼンチン産天然ガスの供給

停止の程度や代替エネルギー計画の効果の程度にもよ

るが、チリ北部の電力供給の見通しはかなり厳しいも

のであり、発電コストが上昇することは避けられない

だろう。2008 年に Mejillones で液化天然ガスのターミ

ナルが操業すると供給不足のリスクは減少するが、こ

れだけでアルゼンチン産天然ガスへの依存を解決する

ことにはならないし、チリの電力自立の道は程遠い。

多くの鉱山会社が石炭その他を原料とする自家発電

所を建設し、安定した電力供給を行う動きを見せてい

るが、現在のような不確定な情勢の下では、合理的な

措置であると考える。

(2007.6.8)

天然ガス(370MW)

石炭(250MW)

ディーゼル(120MW)

液化天然ガス(370MW)

ディーゼルと 天然ガス(370MW)

630

630

670

1,000

450

*4.23

*6.50

*5.78

**80

**600

33.1

43.9

45.3

33.1

192

46.3

53.0

62.4

49.3

212

投資コスト (US$/KW)

エネルギー コスト

操業コスト (US$/MWh)

総コスト平均 (US$/MWh) 発電所の種類

表16 発電所別投資コストと発電操業コスト

出典:国家エネルギー委員会発表の情報 *US$/mill.BTU、**US$/ton

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レポート

チリの電力問題 ―エネルギー業界の現況がチリの鉱業活動に及ぼす影響―

2007.7 金属資源レポート 59(159)

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