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マイクロ磁気シミュレーション I Simon Greaves 1 1 Research Institute of Electrical Communication Tohoku University, Japan 4/2019 1 / 29

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マイクロ磁気シミュレーション I

Simon Greaves1

1Research Institute of Electrical CommunicationTohoku University, Japan

4/2019

1 / 29

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概要

マイクロ磁気シミュレーションの基礎

分割と LLG方程式

磁場源

モデル構造

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分割とLLG方程式

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分割 I

磁性体の挙動は、マイクロ磁気シミュレーションを使用して計算する

ことができる。

マイクロ磁気シミュレーションとは、磁性体を一様な磁化の小さな体

積(セル)に分割し、内部および外部磁界の影響下でそれらの挙動を

計算することを意味する。

典型的には、セルサイズは、nmの範囲内であり、例えば、2 nmから10 nm。

究極の限界は、一つのセルがたった一つの原子/磁気モーメントを含む原子論的モデルである。

磁場に対する磁気モーメントの応答は、Landau-Lifshitz-Gilbert(LLG)の式で表される。

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分割 II

記録媒体中の粒子の TEM像

画像サイズ = 110 nm

粒径は約 8 nmである

記録媒体をモデル化したい場合は、モデル内の各磁性粒子を一つのセ

ルで表すことがある。

さらに、詳細が必要な場合は、各粒子をより小さなセルに細分するこ

とができる。

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ボロノイ粒子モデル

0 20 40 60 80 1000

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

110

Cross track (nm)

Dow

n tra

ck (

nm

)ボロノイセルを使用して粒子を表現できる。

粒径分布および非磁性境界の厚さは容易に制御することができる。

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ボロノイセル

0 10 20 30 40 50

0

10

20

30

40

50

Cross track (nm)

Do

wn

tra

ck (

nm

)

0 10 20 30 40 50

0

10

20

30

40

50

Cross track (nm)

Do

wn

tra

ck (

nm

)ボロノイセルは、特定の母点に最も近い領域を定義する。

母点の位置と密度は粒径分布を制御する。

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ボロノイセルの構築

0 10 20 30 40 50

0

10

20

30

40

50

Cross track (nm)

Do

wn

tra

ck (

nm

)

0 10 20 30 40 50

0

10

20

30

40

50

Cross track (nm)

Do

wn

tra

ck (

nm

)

まず、母点のセットを生成する。Delaunayテッセレーションを作成するために、母点をそれらの最近母点に接続する。

Delaunayテッセレーションの垂直二等分線は、ボロノイセルの境界を形成する。

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LLG方程式

LLG方程式は常微分方程式である。

d ~Mdt

= −γ

(~M ×

(~H − α

γMs

d ~Mdt

))

~M は磁気モーメントベクトル、~H は磁場ベクトルである。

γは磁気回転定数、αは減衰定数である。

LLG方程式は磁場中の ~M の時間変化を決定する。

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無減衰システム

減衰していないシステムでは α = 0。LLG方程式が

d ~Mdt

= −γ(~M × ~H

)磁場 ~Hは ~M にトルクをかけ、それが時間の経過と共に ~M を歳差運動させる。

減衰のない(α = 0)システムでは、磁気モーメントは ~H 回りを歳差運動するが、それと整列することはない。

~H が ~M と平行であれば、トルクはゼロである。

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減衰システム

−1

−0.5

0

0.5

1

−1

−0.5

0

0.5

1

−1

−0.8

−0.6

−0.4

−0.2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

Mx

My

Mz z 軸に沿って磁場が印加されたときの磁

気ベクトルの歳差運動

αがゼロ以外の場合、磁気モーメントは歳差運動をしながらエネルギーを失い、最終的に ~H と整列する。

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磁場源

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磁場源

LLG方程式の ~H 項はさまざまな磁場の総和である。

印加磁界:グローバルまたはローカルの磁場、例えば書き込みヘッド

の磁界分散。

静磁気相互作用(反磁界):他の磁性材料によるもの。

異方性磁界:特定の方向(容易軸)を優先する。

交換結合磁界:最近傍の間の結合

熱磁界:熱のゆらぎを表す。

スピントルク磁界:スピン偏極電子は、磁気材料を流れるときに磁気

モーメントにトルクを及ぼす。

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静磁気相互作用

漂遊磁界は磁石表面の極によって発生する。

漂遊磁界はデータを記録するために使用され、ディスク上の記録され

たデータビットを読み取るための手段でもある。

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静磁気相互作用 II

点~r における双極子 ~mからの磁場は以下の方程式によって与えられる。

~H(~r) =1r3

(3(~m ·~r

r

)~rr− ~m

)各セルから合計の磁場を取得するためにセル体積を積分する。

計算を簡単にするためにテンソル形式に書き換える。他のセル j によるセル i の磁場は、

Hdx(i)Hdy (i)Hdz(i)

=∑

j

Kxx Kxy KxzKyx Kyy KyzKzx Kzy Kzz

Mx(j)My (j)Mz(j)

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静磁気相互作用 III

静磁場の計算は、シミュレーションで最も時間がかかる部分である。

Nのセルがある場合、LLG方程式を解くたびに、静磁場を得るためにN2の計算を実行する必要がある。

反磁界テンソル Kxx などはプログラムの開始時に一度計算され、保存

される。

時間を節約するために、特定の範囲を超えるセルについて計算に入れ

ないことができ、あるいはセルのブロックを組み合わせて計算の数を

減らすことができる。直方体セルの場合、FFT変換を使用できる。

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静磁気相互作用 IV

0 5 10 15 200

2

4

6

8

10

12

14

16

18

Cross track (nm)

Dow

n tra

ck (

nm

)

六角のセルを直方体への

分割

直方体の反磁界テンソルを計算するのは簡単であるが、不規則な粒子

の場合は困難である。

一つの解決策は、不規則な多角形を直方体に分割し、各直方体の反磁

界テンソルを合計することである。

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異方性磁界

異方性磁界は各セル内で作用する局所磁場である。それは以下の式に

よって与えられる。

~Hk =2~K · ~M

Ms

~K は磁化容易軸を表すベクトル、~Mは磁気モーメントである。他の磁場がない場合、~M が ~K に沿っているときにエネルギーが最小化される。

~K の大きさと方向は両方ともセルごとに異なる。

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交換結合磁界

交換結合は、セル i とその隣接セル j との間の最近隣相互作用である。交換結合磁界は次の式で与えられる。

~Hex(i) =2

Ms(i)

∑j

Aij∇2~m(j)

ここで、Aij はセル i と j の間の交換結合定数である。

距離 dij で区切られたセルを含む通常の微細構造体では、次のように

~Hex を近似できる。

~Hex(i) =2

Ms(i)

∑j

Aij

(~m(j)− ~m(i)

d2ij

)

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交換結合磁界 II

i

ia) b)

c)

d)

sL

sA

粒状媒体の場合、交換結合磁界は、隣接セルの共通表面積と粒界厚さ

dbに依存する。

~Hex(i) =1

Ms(i)Vi

∑j

JijSij ~m(j)× f (db)

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熱磁界 I

熱磁界は、任意な熱変動を象る確率的な磁界である。

熱磁界の大きさは時間の経過とともに任意に変化する。その平均値は

ゼロである。

熱磁界の直交成分は、次の式で与えられる標準偏差を持つガウス分布

を形成する。

σ =

√2kbTα

VMsγdt

T は温度、V はセルの体積である。

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熱磁界 II

-1 -0.5 0 0.5 1M

x / M

s

-0.5

0

0.5

1

My /

Ms

8 nmの立方体における ~M の歳差運動

Ms = 500 emu/cc

Hz = 2 kOe

α = 0.1

T = 77 K

非ゼロ温度では、~M の運動はやや任意である。

~M は印加磁界軸を中心に任意に変動する。

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熱磁界 III

0 10 20 30 40Angle from z axis, θ (°)

0

0.02

0.04

0.06

0.08

P(θ

)

Distribution from simulationBoltzmann distribution

8 nmの立方体の場合、~M と~H の間の角度

Ms = 500 emu/cc

Hz = 2 kOe

α = 0.1

T = 77 K

~M の角度分布を描くと、ボルツマン分布が得られる。

温度を上げると、ピークはより高い角度に移動する。

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スピントルク

電流が磁性材料を通って流れると、電子スピンは磁化と整列するよう

になる。角運動量の保存は、電子が磁気モーメントにトルクを及ぼす

ことを意味する。

d ~Mdt

= −bj

M2s(1 + αξ)~M × (~M × (~j · ∇)~M)−

bj

Ms(ξ − α)~M × (~j · ∇)~M

bj =PµB

e(1 + α2)(1 + ξ2)

ここで、~j は電流密度、P はスピン偏極、ξは非断熱性の程度である。

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モデル構造

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マイクロ磁気シミュレーションフローチャート

Create geometry

Calculate and storedemag. factors

Set initialmagnetic state

Calculate magneticfields

Apply LLGequation

Normalisemagnetisation

vectors

Done ?Exit

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LLG方程式の解 I

t

M

f ( H , t )

EulerHeun

∆t

微分方程式を解くための

Eulerと Heunの方法。

Heun法は Improved Euler法とも呼ばれる。

Euler法

M(t +∆t) = M(t) + ∆tdf (H, t)

dt

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LLG方程式の解 II

0 0.1 0.2 0.3Time (ns)

0.999

0.9995

1

Mx /

Ms

Euler, dt=0.6×10-14

s

Euler, dt=1.2×10-14

s

Heun, dt=0.6×10-14

s

Heun, dt=6.0×10-14

s

軟磁性材料における微小振

動を計算するときの LLG時間ステップの影響

Euler法は適用が簡単であるが、時間ステップは小さくなければならず、計算時間が長くなる。

Heun法はより大きな時間ステップを可能にし、先に示した熱磁界方程式と互換性がある。

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結論

マイクロマグネティックスは、多くのアプリケーションで役立つデザ

インツールである。

実験的装置が利用可能になる前に、理論的構造およびデバイスをシ

ミュレーションすることができる。

計算能力が向上するにつれて、原子スケールでものをモデル化するこ

とが可能になるであろう。

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