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205イスラム社会のなかの男女差別のあり方 北山 秀樹 和光高等学校 担当教科:英語 実践教科:3年選択「世界の民族と文化」 時間数:8時間(2h で 1 コマ) 対象生徒:3年(選択授業受講者) 対象人数:26名 ■カリキュラム (1)実践のテーマ: 日本社会と比較しながらイスラム社会の男女観を考える (2)実践の目的 イスラム社会の文化、生活、男女のあり方を調査、学習する。日本の社会と比較することで我々の日 常の生活や男女観を捉え直す。最終的にはディベートを通してそれぞれの考えについて多面的に理解 を深める。また、どのようにあることが望ましいか考える機会とする。 (3)授業の構成 時限・テーマ・ねらい 方法・内容 使用教材 1.2 限目 (1) ヨルダンの状況を通 してイスラム社会、 宗教社会について 学習 (2) フィールドワークの 準備 (1) アザーンを流し、イスラムの世界へ (2) イスラム教って何?ヨルダンの国って? プリントを使って概要を学習 イスラエルのレバノン侵攻や難民問題の関係 (2006 年 7 月 12 日侵攻開始) (3) ヨルダンの写真やビデオを使って国や社会を紹 介(約20分) (4) イスラム寺院の訪問に向けて、質問項目の検 討(教師の提起した項目も含めて) (5) 次回のフィールドワークの確認 (6) 2学期最終レポートの予告 (1) アザーンのテープ (礼拝の呼びかけ) (2) プリント No.1 (地図と宗教紹介) (3) 写真、ビデオ (現地で撮影したもの) (4) プリント No.2 (習慣や家族、男女の あり方等の質問項目) (5) 質問項目例と訪問活 動プリント 3.4 限目 (1) フィールドワーク イスラム寺院の訪問 (2) 聞き取りとインタビュ (3) イスラム教の学習 (4) イスラム社会の理解 家族、男女観の学習 (1) 代々木上原の東京ジャーミーを訪問 (2) イスラム教の牧師さんによる解説 モスクの歴史、アラビア文字美術の紹介 イスラム教の解説 (3)礼拝の様子を見学 (午後3時に礼拝が始まる) (4)インタビューと質問 事前に準備した質問や解説を聞いて疑問に思 ったことを質問 (5)モスク内の散策 (1) プリント No.3 質問用紙 (2) フィールドワーク まとめ報告プリント 5.6 限目 (1) イスラム社会の生 活、家族、結婚、夫 婦のあり方を分析。 (2) 討論の準備 (1) 日本とイスラム社会の生活、習慣を比較しなが ら、男女観について考える (2) 相対的に日本社会を振り返り、日本の社会の 課題について考える 一夫多妻ってあり? そもそも日本は何教の社会? 日本の家族の現実はどうなっている? イスラム社会は神への信仰と家族が大切 日本人は何が大切? 恋?お金?? (3) 次回の最終ディベートに向けてグループ毎にテ ーマを設定し、予備討論をする (1) プリント No.4 ヨルダンと日本の比較 (2) ディベートテーマ例の 紹介プリント

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イスラム社会のなかの男女差別のあり方

北山 秀樹

和光高等学校

● 担当教科:英語

● 実践教科:3年選択「世界の民族と文化」

● 時間数:8時間(2h で 1 コマ)

● 対象生徒:3年(選択授業受講者)

● 対象人数:26名

■カリキュラム

(1)実践のテーマ: 日本社会と比較しながらイスラム社会の男女観を考える

(2)実践の目的

イスラム社会の文化、生活、男女のあり方を調査、学習する。日本の社会と比較することで我々の日

常の生活や男女観を捉え直す。最終的にはディベートを通してそれぞれの考えについて多面的に理解

を深める。また、どのようにあることが望ましいか考える機会とする。

(3)授業の構成

時限・テーマ・ねらい 方法・内容 使用教材

1.2 限目

(1) ヨルダンの状況を通

してイスラム社会、

宗教社会について

学習

(2) フィールドワークの

準備

(1) アザーンを流し、イスラムの世界へ

(2) イスラム教って何?ヨルダンの国って?

プリントを使って概要を学習

イスラエルのレバノン侵攻や難民問題の関係

(2006 年 7 月 12 日侵攻開始)

(3) ヨルダンの写真やビデオを使って国や社会を紹

介(約20分)

(4) イスラム寺院の訪問に向けて、質問項目の検

討(教師の提起した項目も含めて)

(5) 次回のフィールドワークの確認

(6) 2学期最終レポートの予告

(1) アザーンのテープ

(礼拝の呼びかけ)

(2) プリント No.1

(地図と宗教紹介)

(3) 写真、ビデオ

(現地で撮影したもの)

(4) プリント No.2

(習慣や家族、男女の

あり方等の質問項目)

(5) 質問項目例と訪問活

動プリント

3.4 限目

(1) フィールドワーク

イスラム寺院の訪問

(2) 聞き取りとインタビュ

(3) イスラム教の学習

(4) イスラム社会の理解

家族、男女観の学習

(1) 代々木上原の東京ジャーミーを訪問

(2) イスラム教の牧師さんによる解説

① モスクの歴史、アラビア文字美術の紹介

② イスラム教の解説

(3)礼拝の様子を見学

(午後3時に礼拝が始まる)

(4)インタビューと質問

事前に準備した質問や解説を聞いて疑問に思

ったことを質問

(5)モスク内の散策

(1) プリント No.3

質問用紙

(2) フィールドワーク

まとめ報告プリント

5.6 限目

(1) イスラ ム 社会 の 生

活、家族、結婚、夫

婦のあり方を分析。

(2) 討論の準備

(1) 日本とイスラム社会の生活、習慣を比較しなが

ら、男女観について考える

(2) 相対的に日本社会を振り返り、日本の社会の

課題について考える

① 一夫多妻ってあり?

② そもそも日本は何教の社会?

③ 日本の家族の現実はどうなっている?

④ イスラム社会は神への信仰と家族が大切

日本人は何が大切? 恋?お金??

(3) 次回の最終ディベートに向けてグループ毎にテ

ーマを設定し、予備討論をする

(1) プリント No.4

ヨルダンと日本の比較

(2) ディベートテーマ例の

紹介プリント

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7.8 限目

<最終授業>

(1) グループディベート

(2) 発表と相互評価

(1)グループ毎に設定したテーマでディベート

相互に論理を深めることで、イスラム社会のあ

り方や各自の考えを再認識する

(2)各部ループのディベートを相互に評価する

自分のグループもまとめる

(1) プリント No.5

ディベート評価用紙

(2) VTR で記録

■授業実践の詳細

<これまでの授業展開>

2学期前半は「子どもの権利」をテーマに「アジアの児童労働」「メキシコのストリートチルドレン」の現状を

学習した。最後にジャーナリストの郡山総一郎氏をゲストに招き、タイ・カンボジアの子どもたちの児童売

春の状況と取材者としてのポリシーを話してもらった。子どもたちの深刻な現状についての報告を聞いた

り、ジャーナリストとして活動する姿勢について話してもらい、生徒は熱心に質問したり、また意見交流す

ることができた。

その後、イスラム社会を取り上げた。担当者としては、ヨルダンを通してイスラム社会の構造的な男女役

割とそれに対する若者の意識、私たちとの認識の違いや差別のあり方を、日本と比較しながら相対的に

浮かび上がらせたいという目標を持っていた。しかし、スタート段階では論点を何にするか、最終的な展開

(山場)をどのように設定するか、など詰め切れないでスタートすることになった。

1.2限目 ヨルダンの映像を使ってイスラム社会の様子と宗教社会について学習

アザーンのテープを流し、イスラム社会にトリップ。ヨルダン周辺の地図を見ながら、クイズ形式で中東

地域の国々の位置を把握した後、自作のプリントで3つの宗教(ユダヤ教・キリスト教・イスラム教)の歴史

と特徴を紹介した。実際の様子を写真やビデオをプロジェクターで上映し、質疑応答でヨルダンの人々の

生活を紹介した。今後の問題提起につながるようヨルダンの国を通してイスラム社会の社会的構造、地域

や学校での女子学生の様子、民族や労働者の状況を中心にした。

・市街のマクドナルドやスターバックスに集う若者、高級車がずらりと駐車する道路

・ほとんどが男性か家族連れで夜の歩行者天国に集まる人々、民族衣装を誇らしげに着込む

人々、「チャイニーズ?」と我々に車から声をかける若者の映像

・土漠に生きる原住民ベドウィンの生活、パレスチナ難民キャンプ地域の様子と JICA が支援する職

業訓練学校でパソコンを学ぶ子どもたちの様子

・バレーボールの女子選手がスカーフ・長袖・長ズボンで競技しているスポーツ番組と、一方で、肌

を露出した女性を使ったテレビコマーシャルの映像

・ワディムサの職業訓練女子中高等学校の生徒とヨルダン大学の女子大生の様子

・ビル建築に従事するエジプト人、トカラ遺跡で観光客にラクダやロバを勧めるベドウィンの子どもた

こうした映像を考える視点として、次回のモスク訪問のためのイスラム教や社会について、また男女や

家族のあり方について質問づくりを検討した。さらにヨルダンの地方の町ワディムサの女子中高生と、首

都ヨルダン大学の女子大生に尋ねたときにインタビューした「生まれ変わることができたら、男女のどちら

がよいか」についての返答を紹介した。その違いは地域差、自己実現への欲求度の違いの大きさをかな

り実感させるものであった。

保守的な地方の女子中高生は、半数ほどの生徒が男性がよいと答えた。「男性は自由に外出できてう

らやましい」「家族を守らなければいけないから大変そう」また、進学への要望や家族との絆を大切にした

いという思いを語る生徒もいた。近い将来、親の決める婚姻によって大家族に入って生きることが、期待さ

れる女性像として根付いている地域性の強さを感じた。交流後に紹介した折り紙をいつまでも楽しむ姿が

印象的であった。

一方、開発の著しい中心都市のヨルダン大学に通う女子大生は、誰も男性がよいと答えなかった。日本

語講座を履修している彼女たちは、自身の能力だけでなく家族の経済的な保証や理解に支えられて、近

年では欧米に留学したり就職を希望する学生が多いという。むしろ彼女たちの能力や学歴に見合う仕事

が国内にない、ということが問題である。もちろんこうした自己実現の機会が与えられているのは、ヨルダ

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ン全体では極めて限られた人たちであろう。

ヨルダンでは宗教や地域の女性観、そして家族の考え方や経済力などが、女性が自分の未来をどのよ

うに描くかということに大きく影響している。またエジプトやアジアなどの海外からアンマンなど都心に多く

の人々が職を求めて集まる一方、おもに高学歴の人々は職を求めて欧米に出て行く現状は、国の経済活

動の活性化にともない、市場経済の波と欧米文化の影響を確実に受けつつあることを示している。世代が

変わるにつれ、それが女性観、女性の社会進出に今後どのような変化をもたらすか気になるところであ

る。

さて、日本ではイスラムと言えば自爆テロや過激派のイメージが強いが、生徒にとっては日本の中の別

世界イスラム寺院への訪問をとても楽しみにしている様子であった。

初回は目標設定に悩んでいたため、準備は不十分でやや散漫。

3.4限目 代々木上原の東京ジャーミー(イスラムモスク)を訪問

牧師さん(ムハマッド氏)からイスラム教の歴史と特徴、そしてテーマの男女観について話を聞いた。3時

には定例の礼拝が始まり、一端中断し礼拝の様子を見学。金曜日は盛会とのことだが、木曜なので礼拝

者は数名の男女のみ。その際、男性2名は中央正面の前方で礼拝をし、礼拝の際の区別として女性は後

方(今回は左側の脇)で礼拝する様子は印象的であった。

その後、事前に準備した質問などを聞き取ったり、イスラム教の男女観や家族のあり方、ジハードとは

何かなど詳しく説明を受けたり質問をすることができた。生徒はモスクの美しさに感嘆したり、アッラーの神

のもとに人間はみな平等である、という明快でもあるイスラムの教義に感心したりしていた。一方、イスラ

ム社会では男性が女性や家族を守る役割であること、また男性にとって女性がどうあったら望ましいか、

という考え方で女性の生活様式、役割が規定されていることに疑問を抱いたようだ。

5.6限目 イスラム社会の生活、家族、結婚、夫婦のあり方を分析し、最終授業の準備へ

最終授業に向けて、授業の山場をグループ毎のディベートとし、それを相互に評価、分析することとし

た。どのようなテーマを設定するか、が大きなカギである。また、ディベートの形式を目標とするが、後半が

結果的に討論形式となっても生徒のやり取りが深まってゆけばよし、と考えた。

討論の準備のため、日本とイスラム社会の生活・家族・男女のあり方を、一覧表を使って日本の社会と

比較しながら考えた。イスラム社会には男女差別はあるのか、それは差別と考えられるか。また逆に日本

の社会にこそ差別はあるのか、あるとすれば何が問題なのか、などまとめていった。

ねらいはイスラム社会の情報をある程度蓄えながら、私たちの日常生活を比較することで、相対的に日

本社会の課題を考えることになること。またその作業を通して次回のディベートのテーマの問題意識を深

めることにあった。

最終回に向けて、テレビ番組の爆笑問題の「太田総理のマニフェスト」をまねて、グループディベート発

表のテーマ例を提案。

1.日本の犯罪を減らすために、イスラム教を高校の必修科目とします。

2.日本の男女差別改善のために、女性を家長とします。(家父長制ならぬ家母長制)

3.各班で設定。

テーマ決めをめぐって、各グループでワイワイ。また決まったテーマについて予備討論を実施。班毎にそ

の是非をめぐって賛成、反対に別れて論議をすることになるのだが、生徒が自分たちで考えたテーマには

感心させられた。生徒の発想はなんと柔軟なことか。その班の設定したテーマは、

・「アメリカのディズニー映画が制作した『アラジン』の王女ジャスミンの露出はありか?」

7.8限目 班別グループディベート発表と相互評価 <最終授業>

最終的に生徒が選んだテーマは、次のように決まった。

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1.日本の犯罪を減らすために、イスラム教を高校の必修科目とします。

2.日本の男女差別改善のために、女性を家長とします。

3.『アラジン』の王女ジャスミンの露出はありか?

4. イスラム社会は女性を差別している

各班に司会、賛成派、反対派を構成して意見の各提起、質問、討論で約20分。その後クラス全員で相

互に評価(別紙)した。準備した意見以外の発言にグイグイ引っ張られていく班もあったりして、真剣な中に

も爆笑ありで盛り上がった。

普段は無関心そうな生徒が、異表をつき断定的な提起をするのに対し、理論派の生徒があの手この手

で論破しようとするが、かなり手こずっている様子はいろんな意味で考えさせられるものであった。

<ディベートの様子>

それは「1」のテーマで、「宗教を学校教育に持ち込むことは、憲法上から違法であること、思想の自由

に介入することであり、神への信仰を強制すること自体が統制につながる危険な問題であり、教育に持ち

込むことに反対である。」と反対する意見に対し、「現在犯罪を減らすのに有効な手だてとなっている施策

が実際のところあるのか。一方、宗教教育を進めることによって拝金主義的な考え方を改めたり、家族を

大切の思うきっかけとなれば、犯罪の減少につながる可能性がある。また犯罪が減れば警察官や刑務所

などの施設も削減でき、余った予算を教育に回すことができる。その予算を、宗教教育を充実させることに

生かせばさらに効果が期待できる。」イスラム教など宗教教育を学校という公的機関でどのように扱われ

るべきか、というまさに現在の問題でもある。このやり取りは多いに全体を沸かせてくれる討論となった。

また、「3」のジャスミンについては、「イスラム教社会(アラビア社会)を世界の人々に楽しく紹介するの

に多いに役立った。またベリーダンスも公式にあのような衣装が認められているのだから問題ないのでは

ないか。」という賛成意見に対し、「アメリカの文化や資本がイスラム教の文化を変質させて、多くの子ども

たちに誤った認識を与えたり、ディズニー作品を通してイスラム社会にアメリカ的文化をすり込ませていく

ことになった。」と否定する意見が出された。

グループのディベートの様子 ディベートを聞き入る生徒

<終わりに>

テーマ設定や論議を深める企画やまとめをどのように設定するか、迷いながらのスタートであったが、

困ったときには生徒に聞け、ということで生徒による討議の設定や実際のディベートは期待した以上のも

のであった。次年度はイスラム社会の提起の仕方や生徒がより主体的に関心を深められるような検討を

したい。 JICA の研修制度に参加させて頂たことに感謝したい。

<参考文献>

・インターネットより『ダンダン、ヨルダン』 http://www31.ocn.ne.jp/~kens_asia/

・高橋 通浩『世界の民族地図』作品社 1997

・佐藤 寛『開発援助の社会学』世界思想社 2005

・浜林 正夫『これならわかるキリスト教とイスラム教の歴史Q&A』大月書店 2005

・他 各社新聞など多数

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<使用教材> プリント No.1

ヨルダン概況 基本データ 2006 年 9 月

(1)面積:8.9 万平方キロメートル (日本の約 4 分の 1)

(2)人口:560 万人(2004 年末現在)

(3)言語:アラビア語(公用語)、英語も通用

(4)宗派構成:イスラム教 93%、キリスト教等 7%

(5)政体:立憲君主制

(6)元首:アブドッラー・ビン・アル・フセイン国王

(H.M. Abdullah II bin Al Hussein)

(7)議会:二院制 (上院 55 名、下院 110 名(女性議席 6))

(8)政府:首相:マルーフ・アル・バヒート(H.E. Dr. Marouf Al Bakhet)

外相:アブドゥル・イラーヒ・アル・ハティーフ ゙(Mr.Abdel Elah

Al-Khatib)

(9)GDP:115.11 億ドル(2004 年)

(10)一人当たりの GDP:2,163 ドル(2004 年)

(11)総貿易額:輸出:39.6 億ドル 輸入:81.4 億ドル(2004 年)

(12)貿易品目:輸出:衣料品、燐鉱石、カリ、化学肥料、医薬品

輸入:原油、自動車・車両、機械類、電気機器

(13)累積債務残高:100 億 8,616 万ドル(2004 年)

1. 内政

全人口の約 7 割に相当するパレスチナ系国民を抱えるため、パレスチナ情勢やイラク情勢等国外の

情勢変化の影響を被り易い。 ヨルダンはアブドッラー国王の指導の下、貧困の撲滅、失業対策、民主

化の促進に向けた改革に取り組んでいる。アブドッラー国王自身がアラブ諸国における民主主義のモ

デル国家を目指すことを明らかにしている。

2. 経済

国内にめぼしい外貨獲得手段のないヨルダン経済は、本質的に脆弱であり、湾岸危機後、数次に亘

り国際通貨基金(IMF)の構造調整プログラムが実施された(同プログラムは2004年7月に終了し、現在

IMF はヨルダンに対しポストモニタリングプログラムを実施している)。他方、アブドッラー国王は自ら経

済の再生に強い意欲を示し、WTO への加盟、米国、モロッコ、チュニジア等との FTA 締結、アカバ経済

特別区の創設等、外国投資と自由貿易の促進による一層の経済成長を図っている。

しかしながら、2000 年 9 月からのイスラエル・パレスチナ間の衝突の影響、2001 年 9 月 11 日の米国

における同時多発テロ事件、更にはイラク戦争の影響を受け、ヨルダンの基幹産業である観光業やパ

レスチナ自治区との貿易が伸び悩んでいる。 また、ヨルダン経済はイラク市場に大きく依存(特に石油

輸入に関しては全面的にイラクに依存)していたため、イラクに対する武力行使の影響によりヨルダン経

済は大きな影響を受けた。

ヨルダンの首都 アンマン ヨルダンの子どもたち

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プリント No.2 イスラム教って何だ?

1.イスラム人口トップ10

アメリカ

年5~10%の増加率

800 万~900 万人

Q1 トップ5はどの国?(1位は 2 億 1000 万人、2位 1 億 6000 万人)

Q2 西ヨーロッパでも同じ率で増加中 どうして? 日本は?

2.イスラム教の歴史

①ユダヤ教 (モーセ 最高の預言者 アラビア語でムーサ 旧約聖書)

世界最古の一神教 4000年の歴史「疑問を抱かない服従は求めない」

ヤコブが天使と出会い格闘した後、イスラエルという名を与えられる

「神と争う者」という意味 信仰より行動(慈善行為、現世が重要)

「自分が嫌なことは人にはするな」これがトーラーのすべて

神と契約したユダヤ人だけが救済される

パリサイ派の形式主義 人間は基本的には善とする 日々の行いが大切

「何を信じたか」(信仰)ではなく「何をしたか」(律法に従う生き方)

②キリスト教(イエス アラビア語でイーサ 新旧約聖書)

・世界人口の1/3(約21億人) 2000年前ユダヤ人のイエス

イエスがユダヤ教(パリサイ派の形式主義)を批判する分派として登場

あらゆる人々に向かって開かれた救いの思想 → 世界中に広がる

「三位一体」イエスは神であり、人であり、(復活した)精霊である

現世より来世を重視 「人間は罪深く生まれてくる」と考える

イエスが贖罪し人々を救済、人々はイエスを信じ救いを求める

ダマスカス(シリア首都)で「復活したイエスに遭遇」して改宗したパウロの伝道

ミサ「みことばの祭儀」(祈りの聖歌)、「聖体拝領の祝儀」(パンとワイン)→永遠の命

③イスラム教( )

40歳のときメッカ近郊のヒラー山で大天使ガブリエルの声を聞く

ガブリエル「読誦せよ」→ これがのちのコーランとなる

(622年)新興宗教であるイスラム教は迫害され、信者はメディナに移住

これがイスラム元年

(630年)イスラム教徒はメッカを征服(カーバ神殿の多神教の偶像を破壊)

(632年)死去 (サウジアラビア)

3.イスラム教の特徴

①アラーの唯一絶対の神

②コーランは「アラーの言葉そのもの」「誦み上げてこそ価値がある」

新約聖書は「イエスの言行を周りの人間が書きとめたもの」

③5行(シャハーダ<入信>、サラート<礼拝>、ザガート<喜捨>、サウム<ラマダン断食>、ハッジ<巡礼>)

(万人)

順位 国名 順位 国名

バングラディシュ 6 トルコ 7000

インド 7 イラン 6700

エジプト 8 ナイジェリア 6400

インドネシア 9 モロッコ 3250

パキスタン 10 アルジェリア 3200

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プリント No.3 3年選択「世界の民族と文化」

ヨルダン(Jordan) のイスラム社会と比べてClass No. Name

テーマ イスラム文化 日本(自分の認識) これって差別

1 宗教

・約9割がイスラム教の信者・1日5回のお祈り。・祈りの放送(アザーン)が鳴り渡る。・モスクでは男性が前、女性は後ろ席。

2 女性の服装・女性は美しいもの。美しさは隠さなければならない。・戸外ではベールをかぶって、肌を露出しない。・家庭では洋服に着替えたりする。

3 結婚

・家族が判断して婚約するケースが多い。・双方の親や家族の理解や調和も大切。・客観的に見て望ましいカップルになる。・一夫多妻(4人まで。妻を等しく愛すること)

4 離婚

・離婚の権利は双方にあるが、現実的には難しい。・結婚のとき契約書を交わす。離婚の時の慰謝料を明記する。かなり高額・相続は女性は男性の半分。・兄弟は一族の面倒をみる義務があり、 姉妹はお金をもらうだけ。

5 家事・育児・一般的に男性は家事、育児に関わらない。・結婚前は母親が男性をケアし、結婚後は妻が男性をケアする考え方。

6 家族

・家族をとても大切にする。・家族は男性が守り、妻がサポートするのがルール。・男性は経済的にも精神的にも支える義務がある。・大家族で暮らす家庭は、少なくなってきてはいるが、 血縁関係のある人々との絆はとても強い。

7 国

・伝統的に親欧米のアラブ穏健派。中東和平プロセスに積極的に貢献・協力。・男性はとても愛国心がある。・家庭を守り、生活の糧を得ることは男の責任。・妻の就労は自由で収入の使途も自由。・銃は身近にあり、国を守る気概も大きい。

8 社会問題

・「名誉殺人」不貞問題で家族が起こす殺人事件、'05年は8件。・不倫、婚前交渉、中絶、ポルノはタブーな話題。・イラク人捕虜への性的虐待は許し難い行為。・フィリピン人のメイド、運転手、コック、板前が大勢働いている。・劣悪な雇用条件で救助を求めることも多い。・多くの難民を抱え、粗末な格好した女の子が、身振り手振りで物乞いする姿も。

プリント No.4

フィールドワーク 「イスラム寺院探訪」 - 考える視点として-

1.イスラム教の教えとは?

- 神様はいるの?

- 牧師さんの中に階級制ではあるの?

2.イスラム教は、日本にいつからどのように広がったの?

- どうして世界に広く受け入れられているの?

3.イスラム寺院「東京ジャーミー」建設の経過は?

4.どうして女性は「ブルカ」(ベールのようなもの)で頭や顔を隠すの?

- それはいつから、どうして?

- 男性はどうして隠さないの?

5.イスラム家庭での女性の役割や立場は?

- 一夫多妻制ってどういうこと?

- 男性も家事や育児を分担するの?

- 家庭が女性の居場所、というイスラム家族法があるって、ほんと?

7.どうして女性はその魅力を人前にさらしてはいけないの?

- 男の所有物?

- 女性を人目から遠ざける(イスラム圏)と、女性をさらしものにする(欧米や日本など)と、本質的に

どこがちがうの?

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プリント No.5

「世界の民族と文化」 ディベート評価用紙

[ 班]テーマ「 」 1 どちらが優勢? 賛成派 反対派 <○で囲む>

2 説得力ある発言は?

誰 内容

誰 内容

3 ディベート評価 提起、論証(根拠)、論理的な展開、説得力など総合評価

1 ・ 2 ・ 3 ・ 4 ・ 5 <○で囲む>

4 あなたの感想

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私たち地球人、ヨルダンを体感しよう!世界にとびだそう!

梅井 洋子

西東京市立谷戸第二小学校

● 担当教科:全教科

● 対象生徒:3年生

● 対象人数:92人

■カリキュラム

(1)実践の目的

小学 3 年生ということで、友達をはじめ、周りの人を意識した話し方、行動ができ、様々なことに興

味を持ち、視野が広がるときである。世界の国々に対しても、まだ、漠然としたイメージしかもっていな

いが、そこに住む人々、衣・食・住など自分の身近なことについて、興味をもっている。地球には多く

の人々がいて、文化がある。今回は、ヨルダンを通して、文化の違いやと共通性などを知り、尊重す

る気持ちを育みたい。また、世界の中の日本をあらためて考えたい。学校生活において自他を尊重し

あっていける態度や心情を養うことにつなげたい。

(2)授業の構成

時限・テーマ・ねらい 方法・内容 使用教材

1時限

世界の友達

「ドバイからの転入生をむかえ

て」

・ UAEから転入生を迎え、身近な友達

から、世界のことに目をむける。

・ 「小学生アトラス『地図

で見る世界』~はじめ

て見る世界のすがた~ 清水靖雄 中山正則 藤

江邦雄 国際地学協会

1995 年」

・ ドバイの写真(転入生

の私物)

2時限

将来の夢 ~わたしの夢「ヨル

ダン出発にいたるまで」~

1. 皆の将来の夢について発表し合う。

2. 担任の今までの夢、そして、これから

の夢としてヨルダンへ行くことを伝え

る。

・ 心のノート

3時限

世界に目を向けよう

「ヨルダンってどんな国?」

~想像上のヨルダン~

1. 世界に目をむけよう。

・ クイズ(国の数、言語の数、人口の

数)

・ 世界の国からこんにちは

・ あいさつゲームをする

2.ヨルダンを知ろう

・ 世界地図で、日本とヨルダンを探す。

・ 国旗の紹介

・ ヨルダンはどんな国か想像してみる。

(UAEも手がかりにして)

3.フォトランゲージでヨルダンを知ろう。

・ もっと知りたいこと、ヨルダンでインタ

ビューしたいこと、調べたいこと、感想

をまとめる。

・ 7種類の国旗

・ 7言語のあいさつカー

・ ワークシート(界地図

とヨルダンについての

予想)

・ 写真「砂漠や死海の写

真」「市場の写真」「学

校の様子」「家族団らん

の様子」「ベドウィン」

「食べ物」

・ プリント「みんなのぎも

ん」

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-214-

4時限

「ヨルダンの旅の準備をしよ

う!」①

実際に旅に出るという場面設

定のもとに文化の違いに遭遇

する。本時では、旅に行くとき

に必要なものは何かを考え、

1. 実際にヨルダンへ行くという想定のもと

に、あいさつ、簡単な会話、文字、数字

などに親しむ。文字の書き方特徴。

2. 教室内を自由に回り、挨拶をし合う。

3. 旅の目的を確認し、感想を書く。

目的○ヨルダンと日本の違いや似ていると

ころをたくさん見つけよう!それぞれの国

のいいところを発見しよう。

・ 世界地図

・ 飛行機のぺープサート

・ アラビア語の名札(学

年分用意)

・ アラビア語の新聞、本

・ 旅のしおり

5時限

「ヨルダンの旅に出発!」

文化の違いに遭遇し、皆で考

えていく。

1.旅の目的の確認後、ヨルダンに到着。ヨ

ルダン人に扮した担任とヨルダン語であ

いさつをする。

2. 町並み、建物、食べ物、トイレの使い

方、風習などをパワーポイントの映像

をもとにクイズやディスカッションで体

験する。

3. 死海に到着。実際に死海の塩分濃度

で塩水を作り、なめてみる。

・短冊(旅の目的)

・旅のしおり

・ 民族衣装

・ パワーポイント

・ アザーンのテープ

・ ワークシート

・ 水、塩

6時限

「ヨルダンの旅、班別行動編」

~ヨルダンいろいろな風景~

1. ペトラ、交通量の多い道路、土漠、市

場、ローマ劇場、城跡、難民キャンプ

など様々な表情をもつヨルダンを知

る。

2. それぞれの風景の特徴をもとに、班ご

とにクイズを作成し、出題。

・ 6枚の写真(左記の内

容)

7時限

ヨルダンの衣服のひみつ

1. ヨルダンの様々な衣服を紹介し、気候

や宗教的な背景を考える。

2. 衣装を実際に着て、感想を交換する。

ヨルダンの衣装

8時限

ヨルダンの食文化について

~ホブサについて~

1. 世界には、気候や風土、歴史によっ

て、様々なパンがあることを知る。

2. ヨルダンのパンホブサについて知る。

GT(栄養士の先生)

ホブサ

給食の時間

ホブサを食べよう!

・ 実際に給食にホブサを出してもらい、

食べる。

絵日記

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9時限

日本の食文化を体験する

「ソバの実をひこう」

・ これまでに育てたそばの実を収穫し、

石臼でひく活動を行う。

GT(地域のそばやさん)

そばの実

石臼

10~13時間

「そば打ちをしよう」

・ そば作りに挑戦し、日本の食分化を体

感し、世界の食文化の多様性にふれ

る。

GT(そばやさん、保護者)

14時限~17時限

世界の料理を調べよう!

・ これまでの取り組みから、さらに世界

の食文化を調べる。自分で調べたい国

を選ぶ。

・ 本に仕上げる。

・ 本をもとにお互い発表し合い交流す

る。

GT(司書)

・ 世界の食べ物大百科

シリーズ

・ 世界のくらしシリーズ

・ 世界の子どもたちシリ

ーズ

今後の予定

ユニセフ募金に合わせて、

世界の子どもたちの実情に

ついて授業を行いたい。

・ ユニセフのビデオ

を見る。

■授業の詳細

○1~3時限「世界の友だち」「わたしの夢」「世界に目を向けよう!」(ヨルダン出発前の事前授業)

『世界に目を向けてほしい、そのきっかけとしてヨルダンについて興味をもってほしい』というねらいのもと、

身近な存在から、そして、世界の中のヨルダン、日本ということを意識付けしようと授業をした。

1時限は、UAEから転入生(短期間・日本人)を通して、中東の一国であるUAEの気候・風土、学校生

活、食べ物、アラビア語などを紹介してもらった。その後、いくつかの写真でフォトランゲージを行った。UA

Eからまだまだ世界にはたくさん国があることを世界地図で示しながら、様々な言語であいさつゲームをし

た。2時間目は、ヨルダンという国を初めて紹介した。今回、ヨルダンへ行くことになった経緯を「私の夢」と

いうことで話し、子どもたちの将来の夢も発表してもらった。ヨルダンで、何を見たり、調べたりしてほしいか

いっしょに考えよう!ということで調べてきてほしいことや疑問をあげてもらった。3時間目は、国の数、言

語の数、人口など世界の統計についてのクイズをした後、恒例のあいさつゲームをする。挨拶ゲームは、

カードの表にその言語で書かれたあいさつ、裏に○○語と書かれたものを配り、教室を自由に回りながら、

10人とあいさつをした。ヨルダンのフォトランゲージ(土漠、死海、市場、家族、難民キャンプ、食べ物な

ど)でイメージを広げ、ワークシートにヨルダンへの疑問や調べたいことをまとめた。

【子どもたちの疑問から】

ヨルダンの人の大好物は何?/ヨルダンには、どんな遊びやスポーツがあるの?/どんな洋服を着てい

るの?/女の人は、なぜ、タオルみたいなものを頭にまいているの?/砂漠はどれくらい大きい?砂漠の

砂がほしい!/どんな生き物がいる?/どんな家に住んでるの?ビルは多いの?/トイレやクーラーは

あるの?/ヨルダンの人口は何人?/男の人と女の人どちらが、多い?/ヨルダンの人ってどんな性

格?やさしい?こわい?おくびょう?/どんな趣味をもってるの?/どんなマナーがある?/どんなお仕

事がある?/どんなお店がある?/ヨルダンの子たちと遊んでみたい。会ってみたい!など

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○4時限~5時限「ヨルダン旅行の準備をしよう!」「ヨルダンの旅」

文化の違いを体感してほしいと思い、実際に旅に出るという設定で授業を行った。4時限では、「実際に旅

に出たら、どんなことが必要かを皆で考え、あいさつや数字・文字などを事前に学習するという目的で、授

業を行った。文字は、アラビア語で書かれた新聞や子ども用の本で特徴をとらえた。実生活で使われてい

る具体物に子どもたちも興味津々だった。その後、一人ひとりのアラビア語の名札を配る。自分の名前が

アラビア語で表せることに驚き、配布した「旅のしおり」の氏名欄にアラビア語やアラビア数字で書き込む

子もいた。【子どもの感想】アラビア語は、右から書くなんて初めて知った。/日本語とちがって、まるい形

の文字もあるんだな。/自分の名前とクラスをアラビア語とアラビア数字で書いてみたら、難しかった。/

絵みたいな字だ。

5時限は、プロジェクターの画像を中心に、実際にヨルダンの旅をする中で、町並みや異文化を体感する

ことを目的とした。飛行機に乗ってヨルダンへということで、雰囲気を変えるため、教室を移動。到着後、現

地の衣装を着て現地の人に扮し、練習してきた挨拶を元気に交わした。モスクのシーンでは、アザーンの

テープを流してより体感できるようにした。その後、「町探検に出かけよう!」ということで、プロジェクターで

町並みや市場などを映し出しながら、食べ物やモスクや習慣、水問題に発展するクイズやトイレの使い方

を考えることなど実際に旅をしていて遭遇することを疑似体験できるようにした。その後、死海に到着。一

般的な海水の塩の量と死海の塩の量を比べて提示すると、一同にびっくりしていた。死海の食塩濃度で、

海水を作り、皆でなめてみた。本物は苦さもあるが、作ったものは、しょっぱさだけなので、顔をしかめるよ

うな塩辛さ、苦さはないが、子どもたちの心には残ったようだ。【子どもの感想】死海の水はすごくしょっぱく

てびっくりしました。後でのどがかわきました。/トイレに行って、トイレットペーパーがなかったら、わたしだ

ったら、困るなと思いました。/社会で町探検に行ったとき、お店のフルーツやお肉はパックされていたけ

ど、ヨルダンでは、そのまま置いてあって、それもおいしそうでした。/お祈りに行きましょう!という時の声

を聞いていると気持ちがなんだか落ち着きました。/日本のような一軒家がなくて、同じ色のビルがたくさ

んあるように見えました。/ヨルダンは岩がいっぱいあって、砂漠ではなく、土漠というんだ!と初めて知り

ました。/暑い国で、長袖を着てるけど、もっと暑くならないのかな?/ヨルダンの人は、熱心においのり

をするな。

○6時限「ヨルダンの旅2~ヨルダンの様々な顔~」班別行動編

ヨルダンの旅は、この時間も続く。班別行動ということで、一班ずつに違う風景の写真を渡し、そこへ行っ

てくるという設定にした。その場所から、3つの特徴を書き出し、他の班がその特徴を手がかりにどの写真

かをあてるクイズをした。ヨルダンにも様々な顔があり、じっくり観察することにより理解を深めてほしいと

思いからこのようなクイズを行った。「日本と同じような車が多く通る道路やマクドナルド・バーガーキング

など国外からの企業が入ってきている町並み」「ペトラ」「ローマ劇場」「城跡」など歴史的な町並み、「土

漠」「市場の活気」「難民キャンプ」などの写真を使った。

○7時限「ヨルダンの衣服のひみつ」

これまでに見てきた映像に、たくさんのヨルダンの衣服を見てきた。なぜ、このような服を着ているのか

を考え、意見交換を行った。「暑いから、日焼けするとよくないから」「民族衣装を着ていない人もいるね」

「そういうルールがあるから」など風土や洋服を着ている人もいることなどに気付いた。深入りせず、宗教

感についても補足した。その後、皆で衣装を着た。

○8時限「ヨルダンの食文化」~ホブサを知る~

ヨルダンの全体像を学習してきて、子どもたちの興味をもっていた食にスポットをあてた。栄養士の先生

をゲストティーチャーとして、世界各国のパン、パンと風土や歴史の関係について教えてもらった。給食の

時間には、実際にホブサを出してもらい、食べた。パンといっても日本のパンのようにふかふかで厚みの

あるものだけではないことに驚いていた。【子どもの感想】日本のパンは、やわらかくてフワフワしているけ

ど、世界にはかたいパンや平たいパンもあることを知りました。ホブサは、半分に切るとドラえもんのポケッ

トみたいで中にハムカツとキャベツを入れて食べたらとってもおいしかったです。また、食べたいなと思い

ました。

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○9時限~13時限「日本の食文化」~そばを作ろう~

今回のねらいとして、ヨルダンや世界に目を向けると共に、自分の国はどうなんだろうと日本にも興味を

もって探求してほしいというねらいがあった。日本食の一つとして、そば作りに取り組んだ。種から育てて、

実を収穫し、石臼でひき、そばを打ち、茹でて食べる一連の作業を体験した。口に入るまでの行程を体験

してきたことによって、よく味をかみしめながら、日本の食文化への理解や興味も深まったようだ。

○14時限~17時限「世界の料理」

ホブサやそば作り体験を通して、日本や世界の食べ物にも興味をもつようになった。そこで、自分で調べ

たい国を選んで、どんな国か、また、食文化や料理について調べ、本にまとめた。料理は、国の風土や歴

史などと大きく関わっていることをこれまでに栄養士さんからも説明してもらい、そこをふまえて、本作りを

した。子どもたちが、国を選ぶ基準は、好きなサッカー選手がいる国、めずらしいクワガタやカブトムシが

いる国、親の出身国、おいしそうだなと思った料理のある国などそれぞれの興味に合わせて選んだ。司書

さんにも協力してもらい、図書館から児童に行き渡るように本を借りた。インターネットも活用した。

【子どもたちの感想】ぼくは、はじめ大好きなホセ・カレーラスがいる国ということでスペインを調べました。

ホセ・カレーラスも食べているかと思うとうれしくなりました。/給食で食べたホブサがおいしくて調べました。

ヨルダンの人にとって、パンは神聖なものでもあります。国の事もわかってよかったです。/ぼくは、日本

の料理のこともあまり知りません。ノルウェーの材料は、いろいろと知らないものがたくさんありました。/

韓国にもおもちがありました。でも、形や大きさが違うなと思いました。/クロアチアには、おいしそうなお

菓子がたくさんありました。ぜひ、行ってみたくなりました。/

☆ 調べた地域・国☆中国、インド、ブラジル、オーストラリア、アフリカ、クロアチア、フランス、キ

ューバ、ロシア、韓国、台湾、イラン、アメリカ(ニューヨーク、ハワイ)、ヨルダン、日本、イギリ

ス、ドイツ、フィリピン、イタリア、ノルウェー、スイス、メキシコなど

パワーポイント

資料抜粋

5時限目授業風景① 5時限目授業風景②

5時限目授業風景③

地理的にも心情的にも遠い国という感覚から、身近に感じられることを常に意識して、授業を行ってきた。その積

み重ねにより、ヨルダンに興味や疑問をもつようになった。世界には、戦争や貧困などにより様々な現状をもつ国

が多くある。ヨルダンの問題点も今回は、あまり取り上げていない。発達段階に合わせて、世界の実情を知らせて

いきたいと思っている。国際理解の出発点として、世界を知りたいと思う気持ちのきっかけとして、今回の授業が

子どもたちに活きてくればいいと思う。

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ヨルダンを通して「援助」を考える

石田 重久

八王子市立川口中学校

● 担当教科:社会科

● 実践教科:選択(社会)

● 時間数:2時間

● 対象生徒:3年

● 対象人数:10人

■カリキュラム

(1)実践のテーマ 援助について考える。

(2)実践の目的

私たちの生活にとって、中東は地理的にも意識的にも遠い世界である。そして、アメリカのイラク政

策やイスラエルによるヒズボラの攻撃などと、中東は危険な地域という認識がある。第一にヨルダン

を学ぶことにより、中東に対する関心を持つようにする。

そして、我が国の国際貢献として、政府開発援助(ODA)の出資額は、アメリカに次いで世界第2

位である。どのような援助をしているのかを、ヨルダンについて学び、我が国は、国際社会に対してど

のような援助をするべきか考える。援助は、資金や物質だけではなく、人材育成も大切であることか

ら、生徒自身には今学ぶ意義について気づいてもらいたい。

(3)授業の構成

時限・テーマ・ねらい 方法・内容 使用教材

1 ヨルダンを知ろう ・ワークシートでヨルダンの位置を確認する。

① ヨルダンの位置を地図で確認する。

② ヨルダンは、なぜ、平和なのか考える。

③ スライドショーでヨルダンの写真を見る。

④ 死海の水をなめる(一滴なめる)

⑤ 民族衣装を着てみる。

ワークシート

・ヨルダンで撮影した写真

・死海の水

・民族衣装(トーブ)

2 援助について考える

① 十字軍について復習

② カラクにどのような援助が必要か考える。

→発表する

③ 援助のビデオを見る。海外青年協力隊の活

動、カラク・柔道と外国の道路援助・清掃車

④ 自立のために必要な援助について考える。

ワークシート

援助のビデオは、ヨルダン

の現地で撮影したビデオを

編集して作成した。

授業展開(1/2)

(1) 主 題 ヨルダンを知ろう

(2) ねらい ヨルダンの地図での位置を確認し、中東問題がある中で平和を維持できている理由を考え

る。ヨルダンの死海の水の味と民族衣装を体験する。

(3) 展開

生徒の学習活動 教師の支援・留意点 資 料

導入

1ヨルダンの位置を地図で確認する。

中東の白地図にヨルダン国境を赤でなぞ

る.

2ヨルダンの隣国を記入する。(シリア・イラ

ク・サウジアラビア・レバノン・イスラエル)

3パレスチナ自治政府の記入

地図の上では、危険な地域であること

を強調する。

中東問題のニュースは新聞記事で

掲示する。

ワークシート

(ワークシートの

中東の白地図)

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1スライドショーでヨルダンの写真を見る。

2ヨルダンはなぜ、平和なのか考える。(資

源のない国がなぜ豊かなのか)

3死海の水をなめる(一滴なめる)

4民族衣装について(写真)

ヨルダンの平和なスライドを提示す

る。

サウジアラビア・イラクと中東は産油

国というイメージがあるが、ヨルダンに

は資源がないことを説明する。

・現地で撮影し

た写真

・死海の水

・民族衣装

(トーブ)

まと

スライドショーの中にあったカラクにど

のような援助をするかを次週考えると

予告。

授業展開(2/2)

(1) 主 題 援助について考える。

(2) ねらい カラク(Karak)の援助から国際援助のあり方を考える。

国際援助のひとつとしてJICAの対ヨルダン事業援助の自立的・持続的経済成長のための基盤整備の

一つを知り、今後どのような国際援助が必要か考える。

(3) 展開

生徒の学習活動 教師の支援・留意点 資料

十字軍について復習

十字軍は、現在は教科書には載っていな

いので,説明する。

プリント

1カラクにどのような援助が必要か考える。→

発表する

2ビデオを見る。

海外青年協力隊の活動、

カラク・柔道

外国の援助 道路建設

ごみ問題・清掃車

アンマンの町の様子(スーパーマーケット)

死海の様子(浮遊している人・ホテルのプ

ール)

中東最大の十字軍の城(遺跡)の町に、

どのように援助をすればよいのかを考え

る。

※ビデオを見ながら解説する。

・ 柔道着は、日本の高校生が授業で使っ

たものが寄付されたものであり、高校名

が入っている。

・ 援助で造られた立派な道路に並行して

援助による道路工事をしている。その横

には歴史的な道路がある。

・ ヨルダンは世界で二番目に水問題が深

刻な国であるなど

ワークシート

現地で撮影

したビデオを

編集

まと

自立のために必要な援助について考える。 今の自分の生活において必要なことも考

える。

授業の様子と生徒の反応

平成18年の夏は、中東は緊張状態が続いていた。事前授業を行った 7 月にはイスラエル兵が拉致さ

れ、イスラエルは報復としてレバノンを空爆したことを生徒は報道により知っている。ヨルダンに行くと話を

すると、安全なのかと誰もが心配してくれた。

その後、ヒズボラはイスラエルの北部主要都市にロケット砲により攻撃を

おこった。イスラエル側がレバノンに越境侵攻し、ヒズボラ側と激しい戦闘

になった(イスラエル・レバノン紛争)。私たちの帰国後8月14日国連安全

保障理事会の決議に基づき、停戦が発効された。ヨルダンを、イラクやイス

ラの位置とともに地図で確認し、スライドショーの現地のアルジャジーラの

テレビ画面からも自分たちの中東への「危険な地域」を再認識するもので

あった。

しかし、ヨルダン城からの景観や市場や市内の様子を見るとそこは平和な国であるという驚きに変わっ

た。

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また、ペトラ遺跡の写真で小泉首相が、ラクダに乗ったところだと気がついた生徒も多かった。

「なぜヨルダンは平和なのか」の問いに、産油国だからとまず発言があった。ヨルダ

ンには、資源がないということを説明すると次のような答えがあった。

みんな仲がよい。戦争が嫌いな人が集まっている。

独立国だから。他の国からの援助がある。

ここでは、ヨルダンは、世界各国がイスラエル・パレスチナ問題を解決するためにヨ

ルダンを支援しているという外交の大切さを解説した。

死海を体感するために、タレビン(弁当用の調味料容器)から一人ひとりの指に一滴

死海の水を落としなめた。塩水ではなく、舌が痛いなどの驚きであった。民族衣装を

着ると、乾燥地帯で肌を隠すことの必要性や、寒暖に対しての工夫が体験できた。

2時間目の中心は、カラク(城)にどのような援助をすればよいかを考えた。

生徒からは、資金援助。城ではない物を建てる。城が壊れないように保存

する。資源と人材を派遣する。

周りに建物を建てる。家を建てる。

色の付いた建物を建てる。

水をためる施設を作る。栄養がある土にする。

では、具体的な方法としては、現地に行く。大工を連れて行く。資材を船で

運び、仲のよい国を通って運ぶ。建物を造る方法を人々に教える。その土

地に適する食物を調べ、それを植える。水を確保するために井戸を掘

る。資料館を建てる。町を明るくする。壊れているところを補修する。城

に管理人を置く。乾燥に強い植物を植える。

であった。これらの記述は、海外青年協力隊や産業人材の育成などと我が

国の行っている国際援助に近いものがあげられた。

(カラクは、エジプト~シリア間の隊商路にあたり宿場町として栄えた。エル

サレム間の軍事拠点として十字軍が城砦を建て、のちオスマン・トルコの支

配下にあった。)

↓カラク城遠景 ↑カラク城城壁

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生徒のまとめと感想(分類は筆者の推測による)

○スライドショーの土漠やペトラ遺跡の様子から、

緑がない。国全体が茶色。

○援助のビデオから

柔道をやっていた人が仲がよい。博物館にして歴史を風化させないのはよい。

この国の人たちは、働いているのだろうか。

外国は、なんか意味のない援助をしているようだ。

ゴミを砂漠に捨てて自然を破壊しては行けない。

イラクの近くだからもっと貧しく危険なところかと思ったが、スーパーとかが写っていて普通の国だと思っ

た。死海のプールがすごくきれいだった。

○授業を通して

援助の仕方を考え、無駄な援助をなくし必要な援助を増やすといいと思う。問題が解決できる援助をす

る。

歴史を途絶えさせない。観光業を発達させる。町が栄えるような援助をしたい。

おわりに

私たち一般には、中東は危険な地域であるという認識がある。しかし、ヨルダンは平和である。これは、

私たち、そして生徒にとって認識が否定されることになる。これを、吉田悟郎氏は「ひっくりかえし」と表現し

ている。教育=学習は、小・中・高・大、単なる連続・蓄積ではなく、無限のひっくり返し、無限の否定・克服

の過程とし、認識・知識の形成過程としている。(世界史講義上巻 p3 お茶の水書房)中東への興味・関

心を深めるためには、特異な存在であるヨルダンでの見聞は貴重な体験になった。

世界で二番目に水不足問題を抱えるヨルダンにおいて、死海の外国人向けホテルのプールの水の豊

かさは、中東の人々との生活格差を象徴するように思えた。

授業での使った映像の一部

日本の援助(清掃車) テレビのロボコン(アラビア語吹き替え) 昼食(メッカレストラン)

アンマン城(ヘラクレス神殿) アンマン(ローマ劇場)

ペトラ遺跡

ゴミ箱(分別されていない) 水売り

死海の

プール

ロボコンは、「がんばれロボコン」として1974~1977年にテレビ朝日系で放映されていた。

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世界を知る

坂本 なおみ

山梨県甲斐市立

敷島小学校

● 担当教科:全教科

● 実践教科:総合的な学習

● 時間数:15時間(実施予定を含む)

● 対象生徒:6年

● 対象人数:22人

■カリキュラム

(1)実践のテーマ 「世界を知る」

(2)実践の目的

世界の様々な生活、文化、諸問題を知り、さらに、自ら知ろうとする姿勢を育てる。

様々な違いを知り、異文化を受け止める姿勢を育てるとともに、自分を見つめ直すきっかけとする。

(3)授業の構成(案)

時限・テーマ・ねらい 方法・内容 使用教材

1 限目

テーマ::ヨルダンを知る

ねらい: :感じたことをもと

に、これからの学習のめあ

てを持つ

(1) ヨルダンの国内の様子を、写真で見る。

(2) 興味、関心、疑問をまとめる。

(6) ヨルダンで収集した写

真、新聞、雑誌等

2限目

テーマ:ヨルダンの衣装を

着る

ねらい:異文化を体験する

(1) カフィーヤ、へジャブ、チャドル、ドレス

を着てみる。

(2) 感想をまとめる。

(1) ヨルダンで購入した衣

3限目

テーマ:世界を知る

ねらい:世界には様々な国

があり、様々な人がいて、

様々な言語があることを知

(1) 知っている国名をあげる。

(2) 人、住まい(町)、あいさつを合わせる

カードゲームをする。

(1) 世界地図

(2) カード(写真・言葉)

4・5限目

テーマ:世界を知る

ねらい:知りたいことを調べ

よう

(1) 知りたいことを書き出す。

(2) 本、インターネットなどで調べまとめ

る。

(1) 世界地図

6・7限目

テーマ:世界を知る

ねらい:住んでいる所によ

り、生活状況が異なり、偏り

があることを知る

(1) 「世界がもし、100人の村だったら」

(2) 授業のふりかえり。

(1) 「世界がもし、100人の

村だったら」の教材セッ

8・9限目

テーマ:世界を知る

ねらい:知りたいことを調べ

よう

(1) 知りたいことを書き出す。

(2) 本、インターネットなどで調べまとめ

る。

10限目

テーマ:違いを知る

ねらい:異文化に触れ、受

け止める姿勢を育てる

(1) フォトランゲージ、VTR、CD、など

で、ヨルダンの生活、文化を考え、私

たちとの違いを知る。

(1) 写真、VTR、CDなどヨ

ルダン国内で収集、購

入したもの

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11限目

テーマ:日本で誇れること

ねらい:今大切にしたいこ

と、感謝したいことに目を向

けさせる

(1) 大切なものを考える

(2) 感謝したいことを考える

12限目

テーマ:日本の国に住んで

ねらい:日本人の活躍を知

(1)JICAの活動、協力隊員、緒方貞子さん

13限目

テーマ:日本の国に住んで

ねらい:ボランティアの道を

知る

(1) 青年海外協力隊の活動体験談を聞く

(1) JOCVの方

14・15限目 まとめ (1) 今までの学習をまとめる

1.テーマについて

「世界を知る」をテーマに掲げた。今回のヨルダンへの研修で、私はイスラム文化に初めて接することが

できた。知らなかったことを知ることは、見識を広げることはもちろんのこと、そこから考え出す力を生み出

す。私たちの地球には、実に様々であり、様々な問題を抱えている。そのことに「無知」でいてはいけない

と強く感じた。

そこで、ヨルダンを手がかりに世界に目を向けていこうと、学習計画を立てた。様々な国の様子を知り、

世界の偏りを感じ、そして、日本に住む自分に目を向けていこうと考えた。また、同時に異文化に排他的

にならない感覚を身につけてほしい願いを持って取り組んだ。学習全般に自ら学ぶ時間を設定し、興味を

持った事柄を追求する姿勢を育てることに配慮した。

赤十字新聞の記事の中に、「人間の敵は、“無知”。」の言葉を見つけた。アフリカのエイズ対策活動に

携わっている人の言葉である。様々な角度から、様々なことを知ることが、世界が平和になる第一歩であ

ろう。将来的にこの子どもたちが、さらに多くのことを知ろうとし、何か一歩を踏み出してくれることを願って

いる。

1. 授業について

1限目 ヨルダンで撮影した、町の様子、人物、生活品等々をパワーポイントでまとめ、スライド形式で

使用した。その折りの写真については、共にヨルダンを旅した方々とのデータ交換で得たものも、使わせ

ていただいた。

ヨルダンは土漠の地であること、人々の衣装、男女の差、お祈り、食事、ペトラ遺跡、ラクダ、死海等々写

真を手がかりに見聞きしたことを伝えた。特に、事前授業で扱った難民キャンプが想像と違い驚いていた。

死海は不思議さ故に大変興味を持っていた。

2限目 ヨルダンで購入した衣装を使用。男性用のカフィーヤと女性用のへジャブ、チャドル、ドレスを

全員が試着。女性用のチャドル(真っ黒の)を着たがる男の子がいて、そこから、全員が男女両方を試着

して、喜んでいた。「なぜ、こんなの着るのか」は多くの子どもたちの疑問であった。

3限目 世界のいろいろな国々を知ろうと「カードゲーム」で進めた。一つの国につき、人・家

(町)・あいさつを一枚ずつ、合計3枚のカードにした。あいさつは、カタカナで表記し、人と家は画像を貼り

付けたカードを作成した。①パプアニューギニア ②ケニア ③ベトナム ④グアテマラ ⑤中国

⑥モンゴル ⑦アフガニスタン ⑧ヨルダン の8カ国を用意した。多くの画像は、HP「探検しよう、みんな

の地球」から、活用させてもらった。

5.6人で一つのグループをつくり、メンバーで相談して24枚のカードを三枚一組に分ける。全グループが

分け終えたところで、答えの発表。3枚が正しくセットされていたチームに10点を加算し、得点方式で活動

した。活動の中で、今まで口にしたことのない国名に触れ、想像しながら楽しんで分けていた。中国とヨル

ダンは正答率が高かった。しかし、カード作成の時の写真選定でかたよったイメージを与えかねないので、

迷いも悩みもつきまとった。

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4・5限目 ワークシートに、知りたいこと・興味を持ったことを記入(今までの学習の中で記録していたこ

とも含めて)して、図書やインターネットを使い、調べまとめた。一人一人の個人学習として行い、世界に関

わることならなんでもよいとし、幅広く興味関心を認めるように配慮した。世界の国の数から、世界の犬ま

で、実に様々なテーマに取り組んでいた。

6・7限目 開発教育で紹介されている「世界が100人の村だったら」を行った。活動が主体であるため、

楽しみつつ、多くのことを体験できる大変よい教材で盛り上がった。富の配分では事前研修で紹介された

「ポテトチップス」で行ったが、配分量がよく見ることができ、また食べたい気持ちが強く、子どもの心に残っ

たようである。

8・9限目 4・5限の続きである。調べることでさらに生まれてきた興味関心をさらに調べていく時間にし

た。

《ここからは、実施予定》

10限目 ヨルダンの国内で見つけた、日本とは違うものをフォトランゲージしたり、音、映像で知らせたり

する。取り上げるのは、①トイレ ②水、飲み物 ③服装 ④アザーン ⑤家族 ⑥仕事 ⑦貧富の差 ⑧

難民。家族については、ヨルダンのホームステイ先の大学生が日本の子どもたちに何かメッセージをとお

願いしたときに語ってくれたビデオレターを使用。「お父さん、お母さんを大切にして下さい」の内容から、

家族愛の深さに気づかせたい。

11限目 「今、自分が大切にしたいこと」「感謝したいこと」を書き出す。世界を知る学習の中で感じたこ

とを思い出し書き加えていく。書き出したことをもとに、意見交換。

12限目 日本人が世界でどんな働きをしているのか、JICAの活動、民間NGOの活動の紹介をする。

緒方貞子さんの生き方、活動にも触れたい。

13限目 青年海外協力隊として活動されていた方を招いて、活動体験談を聞く。

14・15限目 まとめとして、今までの学習を振り返り、「これからの自分」についてレポートにする。

2. 成果と課題

(この実施報告書を提出する今現在学習途中で、全体を振り返って反省をできないことをまずお詫びしま

す。)今回の学習で、子どもたちが多少なりとも世界に目が向き、世界各地のニュース、新聞の出来事を

話題にし始めたことは私にとって大きな成果である。しかしながら、一つの問題を深く掘り下げた内容にな

っていないことは大きな課題であり反省点である。今後、この学習を手がかりとしてこれからの一人一人に、

さらなる関心興味が広がり、深めていてくれることを願っている。

1限目に使用 パワーポイントでヨルダンの町の様子、生活、人等々、30枚の写真の一部

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2限目 衣装を身につけた様子と感想

感想 夏でもあの格好は暑くないのか

な?冬は寒くないのかな?けれど、黒と

いうのは何か意味がありそう。不思議に

思ったことは、女性は男性がいるところで

は必ず着用すること。いろいろな国の衣

装に注目してみていきたいです。

3限目 8カ国の、人・家(町)・あいさつ(こんにちは)

①パプアニューギニア グッド アフターヌーン

② ケニア フジャムボ

③ ベトナム チャオ アウム

④ グアテマラ ブエノス タルデス

⑤ 中国 ニーハオ

⑥モンゴル サェン バェ ノー

⑦アフガニスタン サラーム アレイコム

⑧ヨルダン

ヨルダンのカード

〈人〉 〈家・町〉 〈あいさつ〉

感想 ・その国の様子など、人の様子、あいさつなどが楽しくわかった。他のたくさんの国を知りたい。

・その国々の文化を学んだ。日本は裕福すぎると感じた。ベトナムの人はなぜ、船で暮らすのか

・日本は先進国として食べ物にも困らないし、家にも困らないのが普通だけど、他の国では家もわ

らでつくったり、人の服も汚れていた。これからは他の国の生活も考えるようにしたい。

6・7限目

感想

世界の国々には、たくさんの言葉や人種があることがわかった。中国で女性が少ない理由にひどさを感

じた。お金がなかったり、安全な水や食べ物を得たれない人がいるのに、自分はご飯を残したりしていま

す。また、国には豊かな国、貧しい国、普通の国があり、豊かな国は人数が少ないのに全体の59%・・・こ

アッサラーム

アライクム

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れでは争いが起きてしまいます。貧富の差が激しいと思いました。このように、性別や人種、貧しさなどで

差別されている人がいると言うことを、今までぼくは気が付いていませんでした。これからは、日本は物も

金もあって、自分は十分な生活を日々送っていると言うことを実感し、他の国では、住むところ、食べるも

の、お金に困っていると言うこともわかって生活したいと思いました。また、人口増加で温暖化も心配で

す。

食べるものの量があまりにも違いすぎて悲しくなった。笑ってごまかしていたけど、涙が出そうになる位

辛かった。こんなにも、物の貧しさに気づいたのは初めてだ。ポテトチップスをこれだけしかもらえないのは

嫌だった。(略)今の自分は、給食を残す、好き嫌いが多い、わがままを言う。全部あてはまります。いろん

な事を体験しました。言葉を読めない人、ご飯を食べれない人。今の日本はずるい。貧しい国にご飯を分

けることもできる。少しでも役に立ちたい。そして、生きていることに感謝したい。