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〈モノ〉いう‘モノ’達 Thingsto be Reachingby MegumiCoLabo 「大変革の時代」、AI は人の脳に学び急速に深化 -‘事実’だけでは不十分。“社会的真実”の共感へ- 2018 MegumiCoLabo Co-Reflector 相田剛 「大変革の時代」です。ロジスティクスは、IoT〔モ ノのインターネット〕と‘モノ’と人の接点、エッジでも AI〔人工知能〕を駆使することで、今まで以上にそ の「モノの流れ」という綜合系と、それが現わす相 PhaseReal に実感することになります。 社会の中で「モノ達のいう〈モノ〉」を聴くことにな り、その未知のメッセージを考えさせられるのです。 今回は、AI が人と協調し、社会性を獲得する方 向へ向かう動きから、「モノの流れ」の関係様態が現わす“意義相”にも求められる“社会的真実”と いう視点を考えてみたいと思います。 大変革の時代」には、よく考え、適切に行動 さて、トヨタ自動車の豊田章男社長は、「100 に一度」の「大変革の時代」に、自社を「自動車を つくる会社」から、世界中の人々の「移動」に関わる あらゆるサービスを提供する「モビリティ・カンパニ ー」にモデルチェンジすると決断しました。 そして、「従来の延長線上にある成り行きの未来」 と決別し、「自分たちの手で切りひらく未来」、「これ までにないスピードと、これまでにない発想で、自 分たちの新しい未来を創造する」とのチャレンジ宣 言をしました〔「豊田社長挨拶」トヨタ自動車 2018.3 期決算発表 PDF2018.5トヨタ社の今期の決算は、車の販売台数が伸び 悩む中、為替要因を除く真水でも増益し、過去最 高の営業利益を達成しました。「たゆまぬ改善とい う『トヨタらしさ』があらわれはじめた決算」だった、と 豊田氏は総括し、トヨタ社の真骨頂TPSToyota Production System:「トヨタ生産方式」〕と「原価低減」 をその要因に挙げました。 そして、TPS の基本の一つ「原価主義より原価 低減」について、自分たちができるのは「原価」を 下げることで、「原価」を見ることは「行動」を見るこ となのだから、一人ひとりが「原価意識」と「相場観」 をもって、かつては、当たり前であったことが、いつ のまにか「当たり前でなくなっていた」と気づくことか らのスタートだった、と振り返ります。 さらに、TPS でいうところの JIT〔ジャストインタイ ム〕の世界は、必要とされるサービスを、必要なとき に、必要なだけ提供する世界であり、それは「ジャ ストインタイム・サービス」だ、というのです。 自動車産業は今「100 年に一度」と言われる「大 変革の時代」に突入し、ライバルも、競争のルール も変わり、まさに「未知の世界」での「生死を賭けた 闘い」が始まっています。 新たなライバルとなるテクノロジーカンパニーは、 我々の数倍のスピードで、豊富な資金を背景に、 新技術への積極的な投資を続けており、今後、トヨ タ社は、「原価低減」の力に磨きをかけて、「稼ぐ力」 を強化し、新技術や新分野への投資を拡大してい き、グループはもちろん、同業他社や他業界も含 めたアライアンスをさらに強化していきます。 アライアンスの目的は、資本による規模の拡大 ではなく、想いを共有するパートナーとオープンに 連携することによって、より良いモビリティ社会の実 現を目指すもので、大切なことは、新技術を一番 早く世の中に出すということよりも、全ての人がより 自由に、安全に、楽しく移動できるモビリティ社会 を実現するために一番役に立つ技術を開発するこ とだ、と考えを述べました。

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〈モノ〉いう‘モノ’達

‘Things’ to be 〈Reaching〉 by MegumiCoLabo

「大変革の時代」、AIは人の脳に学び急速に深化

-‘事実’だけでは不十分。“社会的真実”の共感へ-

2018夏 MegumiCoLabo

Co-Reflector 相田剛

「大変革の時代」です。ロジスティクスは、IoT〔モ

ノのインターネット〕と‘モノ’と人の接点、エッジでも

AI〔人工知能〕を駆使することで、今まで以上にそ

の「‘モノ’の流れ」という綜合系と、それが現わす相

〔Phase〕を Realに実感することになります。

社会の中で「‘モノ’達のいう〈モノ〉」を聴くことにな

り、その未知のメッセージを考えさせられるのです。

今回は、AIが人と協調し、社会性を獲得する方

向へ向かう動きから、「‘モノ’の流れ」の“関係様態”

が現わす“意義相”にも求められる“社会的真実”と

いう視点を考えてみたいと思います。

◆「大変革の時代」には、よく考え、適切に行動

さて、トヨタ自動車の豊田章男社長は、「100年

に一度」の「大変革の時代」に、自社を「自動車を

つくる会社」から、世界中の人々の「移動」に関わる

あらゆるサービスを提供する「モビリティ・カンパニ

ー」にモデルチェンジする、と決断しました。

そして、「従来の延長線上にある成り行きの未来」

と決別し、「自分たちの手で切りひらく未来」、「これ

までにないスピードと、これまでにない発想で、自

分たちの新しい未来を創造する」とのチャレンジ宣

言をしました〔「豊田社長挨拶」トヨタ自動車 2018.3

期決算発表 PDF、2018.5〕。

トヨタ社の今期の決算は、車の販売台数が伸び

悩む中、為替要因を除く真水でも増益し、過去最

高の営業利益を達成しました。「たゆまぬ改善とい

う『トヨタらしさ』があらわれはじめた決算」だった、と

豊田氏は総括し、トヨタ社の真骨頂、TPS〔Toyota

Production System:「トヨタ生産方式」〕と「原価低減」

をその要因に挙げました。

そして、TPSの基本の一つ「原価主義より原価

低減」について、自分たちができるのは「原価」を

下げることで、「原価」を見ることは「行動」を見るこ

となのだから、一人ひとりが「原価意識」と「相場観」

をもって、かつては、当たり前であったことが、いつ

のまにか「当たり前でなくなっていた」と気づくことか

らのスタートだった、と振り返ります。

さらに、TPSでいうところの JIT〔ジャストインタイ

ム〕の世界は、必要とされるサービスを、必要なとき

に、必要なだけ提供する世界であり、それは「ジャ

ストインタイム・サービス」だ、というのです。

自動車産業は今「100年に一度」と言われる「大

変革の時代」に突入し、ライバルも、競争のルール

も変わり、まさに「未知の世界」での「生死を賭けた

闘い」が始まっています。

新たなライバルとなるテクノロジーカンパニーは、

我々の数倍のスピードで、豊富な資金を背景に、

新技術への積極的な投資を続けており、今後、トヨ

タ社は、「原価低減」の力に磨きをかけて、「稼ぐ力」

を強化し、新技術や新分野への投資を拡大してい

き、グループはもちろん、同業他社や他業界も含

めたアライアンスをさらに強化していきます。

アライアンスの目的は、資本による規模の拡大

ではなく、想いを共有するパートナーとオープンに

連携することによって、より良いモビリティ社会の実

現を目指すもので、大切なことは、新技術を一番

早く世の中に出すということよりも、全ての人がより

自由に、安全に、楽しく移動できるモビリティ社会

を実現するために一番役に立つ技術を開発するこ

とだ、と考えを述べました。

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〈モノ〉いう‘モノ’達

‘Things’ to be 〈Reaching〉 by MegumiCoLabo

IoT、AI、ロボットなどの技術発展が、現実世界

にもたらすのであろう未知の変化、経営環境の「大

変革」を、電気自動車、自動運転車などの出現で

気づかされた結果、自分自身、事業ドメインを再定

義し、文字通りの「未知の未来」への挑戦を決意し、

具体的行動を宣言したのだ、と筆者は思います。

豊田氏は、これからの新技術のキーワードを「電

動化」、「自動化」、「コネクティッド化」と観ます。

自動運転車は未完成で、実証実験とはいえ今

年発生した死亡事故や人との協調などに問題あり

ですが、多くの企業が開発にしのぎを削ります。

こうした新技術はロジスティクスも無縁ではありま

せん。IoTがAIを装備し、ドライバー支援や荷役結

節点での連携だけでなく、「‘モノ’の流れ」全体の

正しい効率化に大きく影響すると予想します。

一方、組織マネジメント対応でも、「リバース・メン

タリング〔逆メンター〕」制度が、コミュニケーションの

双方向化による、従来のメリット*1よりも、今日では、

積極的にミレニアルなどとも呼ばれるデジタル・ネ

イティヴ世代を、役員や執行役員のメンターにする

必要性や意義が注目されているようです。

*1十年近く前から企業で導入がみられる。従来の

メリットは、先輩や上位者からの事業ノウハウや企

業文化の伝授に加えて、若輩や部下から現場情

報の共有化やチーム意識の醸成などを期待。

社会は大きく変わり、伝統や既存の経験が通用

しない社会や市場になってしまったのです。

しかも、その変化は急激で、その上、今までに経

験したことのない、想像することの難しい変化なの

です。

つまり、「大変革の時代」に、未知なる未来に向

かう方向を考えるためには、伝統的知識や既存の

ノウハウが通用しなくなるのです。社会は過去の

‘事実’や今の‘モノ’だけでは不足だ、ということで

す。人のもつ想像力を発揮し、人として求めざるを

得ない、社会が実感する“社会的真実”を探り当て、

分かち合う必要がより強くなっている、と筆者は考

えます〔今コラム 2018年新年 参照〕。

それは、過去のデータ、さらには、ビッグデータ

だけでは足りないのです。人の能力を拡張するた

めに、ディープラーニングや AIが目指すものは、

そうしたデータという‘事実’から、事業にとってだけ

ではない、“社会的にも価値のある意味”という未

来に向かう“真実”を探ることだ、ともいえるのです。

◆AIは‘エッジ’へ向かい、クラウドから自立へも

AIは‘エッジ’へ向かい、ネットワーク上でクラウ

ドから自立することで、ユーザー接点で Realな自

律的支援へも向かう、と日本 IBMの東京基礎研究

所長はいいます〔招待講演「AI とその社会へのイン

パクト」福田剛志氏、第 8回 CiNet シンポジウム〕。

ITの劇的進展が AIの深化をブレークスルー

しているが、今度は AIが概念的知識を劇的に増

加させる、と福田氏は予想します。

現在の「広い AI」が 2050年に向かって「汎

用AI」への深化を目指している、と言われるが、

AIの拡張性自体にも難しさがあり、信頼できる

倫理的 AIやスキル教育も必要になるため、シン

ギュラリティ〔技術的特異点〕はそう簡単では

ないのではないか、と観ます。

ユーザーエンドではなく、‘エッジ’で、人

が意識することなく、AIが人と協調し、人の能

力を拡張するようになることを狙います。

IBMはWorld Smallest コンピュータを開発

しました。小さい(約 1 mm x 1 mm)ながら、数十

万個のトランジスターとわずかな RAM と太陽電池

と通信モジュールを備え、1990年のチップと同程

度のコンピュータ能力を持っている、といいます。

これを装備した製品が、メーカーの指図通りの

工場で作られ、偽物が混じったりしていない本物で

あることを証明するためなどに使われます。

ブロックチェーンを利用したロジスティクスや追

跡システムの高度なセキュリティーが、薬剤包装、

ワインボトル、シリアルの箱のようなものにも適用で

きるようになるようです。

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〈モノ〉いう‘モノ’達

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◆AIの深化は、人との協調、社会性の実現へ

AIは、人間の活動領域に、さらに、医療診断な

どクリティカルな領域にも広がりつつあります。

世界の自動車メーカーは、AIを駆使した自動運

転車の開発に注力していて、今までは、その実用

化が 2020年以降と見られていましたが、このところ

各社ともに、もっと前を目指しているようだ、と(株)

KDDI総合研究所のリサーチフェロー 小林雅一氏

は言います〔「AIの現状と展望」、HNK「カルチャーラ

ジオ 科学と人間」講演、2018.4放送。以下同様〕。

小林氏によると、1990年以降に統計・確率的な

データ解析手法を応用した方法が主流となった AI

は、今後は、コンピュータのパワーの飛躍的な向上

と、最新の脳神経科学の成果を取り入れて人間の

脳を構成する無数の神経細胞のネットワークを工

学的に再現しようという試みによって、一気に実用

的な技術に進化する勢いを高めているのです。

2009年に自動運転テストでピザ配達の実験が

報道され注目を集めましたが、AIには、合意された

厳密な定義はない、と小林氏はいい、様々な人間

ならではの知的な能力(知覚・思考・推論など)を

機械(コンピュータ、ロボット、自動車などのマシン)

上で実現していく技術(特にソフトウエアー技術)、

と説明します。

機械ならではの長所、例えばコンピュータでは

大量データを高速で処理できることに、人間が追

い付けないことに気が付いたことで、AIの必要性が

生じたが、これからは、こうした長所と、人間ならで

はの柔軟な知的能力を足し合わせれば、よりすご

いものができるのではないか、と考えています。

定義がないということは、定義が変遷させられて

きたということでもあり、1970年代に発明された、文

字を認識して読みだす OCR光学式文字読み取り

装置は、当時はAIと言われていました。また、現在

の「音声認識機能」も今のところ AIの枠組みの中

ですが、あたり前に使われていて、何年か先には、

AI と呼ばなくなるかもしれないと観ます。

1950年代から 1980年代にアメリカを中心に開

発が始まってブームになった、「ルールベースのAI」

は、人間社会に蓄積されている専門的データをル

ール化し、プログラミング化で、コンピュータで処理

できるようにし、専門家を代替させるというものです。

「エキスパートシステム」とよばれ、その目的は、医

師の診断方法などの、専門家のノウハウをルール

かしてコンピュータに移植して利用することです。

1980年代後半にはやり手がいなくなり、AIは冬

の時代となりました。加えて、現実の人間社会は、

単純ではなく、複雑で、例外や突発事象、ニュアン

スなどの差もあるため、適用限界や当時の AIの欠

陥が露呈していきました。

1996、1997年に再び復活した AIは、現在では、

統計的、確率的手法を中心に再びブームになって

います。その考え方は 「隠れマルコフ・モデル」で、

過去は水に流して、あまり頼らなくて良く、現在は

その直前の状態で決まる、というものなのです。

それは現代の「統計・確率型 AI」のベースになっ

ていて、自動運転、グーグル音声検索、Siri〔発話

解析・認識のインターフェース〕などの音声認識もこ

の技術です。この方法には限界があり、今後本格

的な、人間の脳に近い AI、つまり脳科学的、ニュ

ーラルネット〔神経回路網〕やディープラーニング

〔深層学習〕が中心になる AIに向かうことになるだ

ろう、と小林氏は予想します。

脳科学的なAIは、研究レベルでは1950年代に

既に始まっていましたが、ビジョンも内容も壮大す

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ぎて手に負えず、実用化に至らなかったもので、

21世紀になって、 ハードウエアの飛躍的な進歩

により初めて可能になりました。ディープ・ニューラ

ルネットなどもその例です。

現在の AIのベースとなるのは Big Data〔「社会」

に蓄積される大量のデータ〕です。用語の使用頻度

としては、2015年に‘AI’が上になり、‘Big Data’

が下降に転じたようです〔Google Trend〕が、実は

その内容は同じことで、データに着目か、処理技

術に着目か、の違いだけなのです。例えば、Big

Data回析のサポートベクターマシンは、今の AIの

ベースである機械学習の一種です。

現在主流の「統計・確率型の AI」は Big Dataを

処理すればするほど性能が上がるので、Big Data

の先取り(勝者総取りの法則)の競争にもなってい

ます。ユーザーの嗜好データは、スマート・スピー

カからもあたりまえに提供され、クラウドコンピュー

ティングが既成の事実になった今日、差別化の技

術は AI となっている、と言います。

AIの時代には、「データ」は資産です。しかし、

個人の権利やシェーリング・エコノミーを脅かしか

ねないと危惧する声も聞かれます。

ウーバーテクノロジー社の米配車サービスソフト

が、顧客がソフトを利用していない時にでも顧客の

位置情報を集め始めて、「サービスの範囲を超え

ている」と消費団体から訴えられた、と報じられまし

た。通信の秘密、プライバシーの権利という側面が

ある個人データが、立法で国家によって、また、知

らない内に企業に収集されるような時代に、国家に

よるインターネットのファイアーウォールという、「見

えない国境」による支配も指摘されます〔朝日新聞

2018.6〕。配車サービスのデータは相乗りサービス

の囲い込みに使われるのでは、とも指摘されます。

小林氏は、要素技術として、音声認識、画像認

識、自然言語処理、マシン・ビジョン、機械学習、

確率的推論などが確立してきており、こうした要素

技術の組み合わせで商品化できる段階になってい

ると観ます。

例えば、お掃除ロボ、スマート TV、往診ロボ、AI

植木ポットなどです。

今後は、高齢化や共働きなどのライフスタイルの

変化といった社会的ニーズへの対応にも向かい、

例えば、介護ロボ、家事ロボなどが開発されていく、

と予想しています。

人間の活動領域に広がった AIは社会的要請を

受け「マシンと人間の関係」が改めて問われます。

小林氏は指摘します。「マシンと人間の関係」は、

User Interface領域で、1950年代から研究が始ま

り、二つの側面、A I〔Artificial Intelligence:人工知

能〕と IA 〔Intelligence Amplification:知能増幅〕の

二つの側面から研究されてきました。

AIは、「人間の知能と同じものをマシンで実現」

しようというもので、要素技術が貧弱(処理速度、ス

トレージ、技術…)な初期にそれは「夢」でした。

一方、IAは、「人間の知能をマシンでサポート」

し、実用的で現実的な領域に適用されました。マウ

ス、プルダウンメニューなどです。

画像や音声認識などのいわゆるパターン認識

にディープラーニングが効果的に活用されて、

機械学習が広く浸透している今では、データ処

理能力や要素技術の発展で、AIの方が IA より注

目され AI優位の時代になってきましたが、そのこと

は、「人が機械に合わせる時代」から、「機械が人

の合わせる時代」に向かう、ということを意味します。

さらに、現在主流の AIの限界を打破して、問題

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を打ち破っていくためには、人間の脳にもっと

近いモノにして、本物の知性に基づいていかな

ければならない、と小林氏は観ているのです。

ニューラルネットが注目されていますが、そ

れは、流行語にもなっているディープラーニン

グとも呼ばれています。

◆AIはディープラーニングで「パターン認識」へ

さて、AIの機能を飛躍させ、実用化を実現させ

ているディープラーニングについて、小林氏の説

明を聞いてみましょう〔書き起こし、加工は相田〕。

【*****

ディープラーニングとは、生物の脳を構成する無

数のニューロン(神経細胞)とシナプス(接合部)の

ネットワークを工学的に再現する「ニューラルネット」

の一種である AI技術です。

ニューラルネットとは、神経細胞のネットワークで、

人間の脳の中のネットワークを指すことばだったの

ですが、最近は人工的なニューラルネットである、

AIの方が注目されています。

それは、1950年代のパーセプトロンの研究から

始まって、ニューロンとシナップスの機能を工学的

に実現するものです。当時は建物サイズのモノ(ハ

ード)だったのですが、今日では、LSIのコンピュー

タで数十行のプログラム(ソフト)として実現されるよ

うになりました。

人間のニューラルネットの基本的な原理は非連

続性です。1000 億本のニューロンが繋がっていて、

閾値に達するとスパイクし、信号が出力され、他の

神経細胞に入力されるのです。この神経細胞の振

る舞いを数式で表現すると、ステップ関数、シグモ

イド関数、ランプ関数などがありますが、グラフ上に

表すと、横軸が電気信号の総量で、ニューロンに

蓄積される電気量がある値までいかないと、縦軸

の、シナップスにおける他の神経細胞への出力は

反応しないのです。これだけの機能でも効力には

大きなものがあったのです。

ニューラルネットによるコンピュータは自分で学

習する、とのうたい文句(技術のアピール)で軍事

力に応用もされました。

パーセプトロンは、外部から教えなくても、大量

の入力図形にたいして形での「初歩的分類」がで

きましたが、その限界は、排他的論理、即ち、集合

の重なりを排除すること(A と Bのどちらかならいい

けど両方はダメ)ができない、ということで、これが

できないことが数学的に証明されたのです。

図形には「概念の重なり」がない、ということから

1970年代に低迷してしまいました。

これに対して、出力層と入力層との間に、隠れ

構造という別の層を入れ、2層、3層構造にすれば

解決できることが数学的にも証明され、簡単な工夫

で、つまり、層を増やすだけで、複雑な問題が理解

され、難しい問題も解けるようになったのです。そし

て、再びブームになりました。多層、複層ということ

が、「ディープ」の由来なのです。

100から 1000層(グーグル)にまで拡大すること

で、将棋・囲碁・チェス AIやクイズ解答 AIにするこ

とができました。

しかし、脳の真似をしているのは、数学的に関数

化できた、ごくごく一部(1%ぐらいか)でしかありま

せん。脳全体はもっともっと複雑な数式の産物(シ

ステム)のはずです。

当然、限界があります。多層化すればするほど

データ処理時間が膨大になる。処理時間がかかり

すぎ、出力までのリードタイムに実用性がなくなる

のです。また、汎用性にも乏しく、例えば、音声用

のニューラルネットは画像用にはつかえず、逆も然

りです。そのため、1990年代に下火になりました。

実用性の壁、処理時間や適用領域の一般化の

課題などは 21Cにブレークスルーされたのです。

要因の第 1は、ハードウエアの進化です。例え

ば GPU(画像処理専用チップ)でニューラルネット

の処理速度が上がり時間が節約されました。

第 2は、脳科学の研究成果の導入です。 例え

ば、 視覚野のしくみの実験で解明された、スパー

ス(まばらな)コーディングです。視覚データは何百

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〈モノ〉いう‘モノ’達

‘Things’ to be 〈Reaching〉 by MegumiCoLabo

万画素というBig Dataを、何百ポイントかの特徴点

に、特徴量化することで、データを縮小し、特徴点

の組合せでパーツ化し、そのパーツの組合せで、

画像内容を認識することが分かりました。これが、

数式化(ソフトウエアー化)できるようになったので、

汎用性を確保した AI導入が可能になりました。

40から 50万枚の紛らわしい画像で画像認識を

競争するコンテストが2004~2007年に行われまし

たが、2006年以降 AIの誤認率は 3%未満で、人

誤認率(3~4%)を上回る結果を出したのです。

脳にはもともと汎用的なデータ処理機能がある、

と考えられています。

1990年代のフェレットの実験では、眼から出て

いる視神経のラインを、後頭部(視覚野)への繫が

りを切断し、側頭葉の聴覚野に繋ぎ直したら、一度

目が見えなくなったフェレットが、何か月かすると、

ぼんやりとではあるが外界が見えるようになった、と

いいます。

脳の機能は、いろんな領域(視覚野、聴覚野、

体性感覚野*2など)に分かれているが、領域に関

係なく、モノを感じる脳の領域全体に通底する「共

通するアルゴリズム」があると推測されるのです。

*2 体性感覚(たいせいかんかく)は、皮膚感覚、深

部感覚、内臓感覚(除外する立場もある)を指す。

視覚や聴覚といった特殊感覚と異なり、 感覚器

が外からははっきり見えず、皮膚・筋肉・腱・関節・

内臓の壁そのものに含まれる。体性感覚は視床

で処理され、対側の大脳半球に送られる他、自律

神経系や賦活系にも影響を及ぼす。また、深部感

覚は小脳でも処理される。Wikipedia

入力情報が違うために異なる認識をするが、同

じ情報がくれば、同じような認識をするということは、

おそらく、「共通するアルゴリズム」がある、と推測さ

れるようになってきた。

それを補足する実例として、ビデオカメラの画像

データを、ケーブル回線で「舌(ある種のセンサー)」

に入力すると、訓練次第だが、目をつぶって映像

が見えようになるらしい。

子供のころから目が見えない人は、訓練で、ある

種の、反射音など音の情報で外界を捉えられるよう

になります。自転車やスケボーや階段昇降などの

通常の日常生活もできるようになる、エコロケーショ

ンがあるのです。

視覚野の研究から始まったディープラーニング

でしたが、「同じアルゴリズム」であるという、汎用性

の研究成果からは、聴覚情報にも適用ができること

が分かります。画像認識でも性能が上がるというこ

とは、音声認識でもAIの性能が上がると類推され、

それは実証されました。

ディープラーニングの成果が実用化されている

のは、画像認識、音声認識と言った「パターン認識」

の領域であり、その有効性が証明されています。

今後は、医療など色々な分野に応用、導入が期待

されています。

******】

一方、ジャレド・ダイヤモンド博士*3 も、ヒトの脳に

備わった遺伝的なプロフラム(即ち、ヒトに共通のア

ルゴリズム)から生まれた、「ヒト言語に共通の文法」

の可能性を示唆しています。

*3 カリフォルニア大学 ロサンゼルス校教授。生理

学、進化生物学、文化人類学の研究者。ヒトを

「第 3 のチンパンジー」の視点で見る。著書 に

『銃・病原菌・鉄』(ピューリッツァー賞受賞 1998

年)、 『人間はどこまでチンパンジーか?』など

動物も後天的な学習による「名詞」を獲得するが、

まだ「文法」をもつ動物の発見はない。しかしヒトは、

文法を持ちます。そして、互いに非常によく似てい

る複雑な文法も持つ言語を、世界各地で自ら自然

発生的に創出していた事実があるのです。

かつて 19 世紀末などに、例えば、北欧の魚取

引で、また、インドネシアなどの貿易の荷扱い地域

で、異言語出身の親達は、商売や仕事の会話の

ために雇用主者や地元の言葉を単語レベルで使

用せざるを得なかった。それは単純で文法のない

Pidgin 語〔ピジン語:異言語間で商売する人の簡単

な言語。語順に意味がない〕などになった。そうした

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〈モノ〉いう‘モノ’達

‘Things’ to be 〈Reaching〉 by MegumiCoLabo

親達に育てられた子供達は、自分たちの気持ちや

意志を伝えることができないという不自由と不満か

ら、世界各地で、自ら自然発生的に複雑な文法も

持つ Creole語〔クレール語〕を創出していたのです

〔「ダイヤモンド博士の“ヒトの秘密”」 NHK E テレ

2018.1。相田が書き起こし、加筆、加工〕。

人の脳にはもともと汎用性があり、また、複雑な

認識を単純化して実現する機能や、機能のフラク

タル構造などもあり、それは、今考えられている AI

より遥かに高い機能で、「おもろい」機能なのだ、と

筆者は感じる。

◆AIは脳情報科学の知見で社会性の深化へ

さて、CiNet〔脳情報通信融合研究センター〕では

7 Tesla の超高磁場 fMRI〔機能的 MRI:磁気共鳴

画像診断装置〕や BMI〔Brain-machine Interface)な

どを駆使することで、リアルに脳活動の 4D情報を

得ながら脳情報科学を研究しています。

その柳田敏雄センター長氏は「脳に学ぶ AI」を

提言します。AIは、人から信頼され、社会に受け入

れられるためにも、「人との協調」に向かうべきだと

考え、「おもろい*4 AI・ロボット社会」を目指すので

す〔講演「脳情報科学でおもろい未来社会を目指す」

第 8回 CiNetシンポジウム「脳科学が拓くおもろい

AI・ロボット社会」2018.6〕。

*4 ‘OMOROI’ in KANSAI dialect is not being

cool or interesting but thrilled. 〔わくわくする〕

汎用型 AIは、様々な見方がありますが、2045

年に人間の知性を超えるシンギュラリティ〔技術的

特異点〕を迎えると言われながら開発競争が進んで

いるようです。

柳田氏は、AIは、Big Data と機械学習による

「特化型 AI」から、今後は「脳に学ぶ AI」という、人

と調和し、信頼でされ、協調し、超省エネ*5で、少

ない学習データでも柔軟学習をする、AIを目指し

すべき、と考えて研究しています。

*5 脳の思考機能消費電力は 1ワット。思考時 21

ワット、休止時 20ワット

この超省エネは、少ない特徴点だけでも、脳が

「わかる」ことの結果でもあります。柳田氏は、ヒラメ

キや隠し絵に気づくなどの「わかる」の特徴が脳内

にあり、それが出てくる能力は、人が自らの進化の

中で critical parameter を生体に獲得して、それ

を脳内に選び出せるようにしたのだ、と仮説しま

す。

人との協調には、AIが人から拒絶されない親和

性を感じてもらう必要があります。それを実現する

には、インプットされた知覚情報から意味を感じる

(「メタ化」する)機能の構造的な距離が、人の脳と

同様であることが有効ではないか、と想定します。

意味を意識する部位の空間的距離関係というのが

「世界観の枠組み」に、ひいては「価値観の同一性」

に重なって、AIがこの機能距離構造を実現できれ

ば、人は AIからのアウトプットに、従って AI自体に、

自分との同一性という親和性を感じてくれるのでは

ないか、と考えるのです〔講演「脳情報科学でおもろ

い未来社会を目指す」柳田敏雄〕。

筆者は、意味を実感する脳内構造との同一性は、

人という種の中でも「仲間」を感じるためのキーとな

る要素であり、それが“真実”を共感できることの

「対称性」の前提になるのでないか、と感じます。

「脳に学ぶAI」とは、①人の脳と同様の意味意識

の機能構造を持ち ②small data & ultra-small

energyを実現できる機能構造であるべきだ、と柳

田氏は考えています。

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〈モノ〉いう‘モノ’達

‘Things’ to be 〈Reaching〉 by MegumiCoLabo

それは、「人間の知能と同じものをマシンで実現

しよう」とする AIが人の脳に近づくにつれて、ロボッ

トスーツ、BMIマニュピュレータ、音声操作、音声

ナビガイドなど、Advanced IA とでもいうべきより人

と調和した「人間の知能をサポートするマシン」とい

う IAにもなるのだ、と筆者は観ます。

また、現実世界を仮想拡張させ、調和させること

で、現実世界における人の能力を拡張する AR〔拡

張現実〕が AI を装備して深化する方向にも重なる、

と感じます。

関係性の深化は、部位の画像診断から人の総

合健康診断へ、専門機能から総合機能、さらに社

会関係という機能へ、ということです。

◆人が受け容れる AIの「人間らしさ」とは?

石黒浩氏は「1000年後には、全ての脳神経系

の外部化が可能になり、人の脳とアンドロイド*6は

同じものになる」と観ます〔特別講演「人と関わるロボ

ットの研究開発」石黒浩氏(CiNet/ 大阪大学、ATR)、

第 8回 CiNet シンポジウム〕。

*6人間酷似型ロボット。見た目だけでなく、話し、考

える、人間そっくりのロボット

石黒氏は、人は人間を認識する能力を自然にも

っており、人間にとっての理想的なインターフェイ

スは人間だと考え、従って、人間を取り巻くロボット

や情報メディアは少なくとも部分的には人間らしく

なるべきだ、と主張します。それと同時に、人間らし

いロボットやアンドロイドは、人間そのものを理解す

るためのテスト・ベッド*7になる、と観ているのです。

*7 実際に運用されているシステムを危険にさらすこ

となく、実際の運用体制に近い状況で稼動させ

る目的で用いられる試験用プラットフォームの

総称。Weblio辞書

iPhoneは、人々に、そして社会に広く受け入れ

られ、使った人はもう離せなくなっています。ロボッ

トやアンドロイドから人間を理解するアプローチもこ

れと同様で、何が人に積極的に受け入れられる要

素なのか、また、それを実現する人間の知能の構

成要素は何か、を脳科学や認知科学から明らかに

していきたい、と氏は言います。

「ロボット開発は人間理解であり、人間理解はロ

ボット開発の前提」で、それが相互に作用してスパ

イラスアップしていくために、人の存在を拡大し、再

現するアンドロイドは必要で、有効だと訴えます。

ロボット研究は、個々の機能、仕組、メカニズム

から、今や安全や乗り心地など人間に近いところ、

人間とのインターフェイスの研究に進んでいます。

「人間らしさ」には「知識」AIだけでは足りない、と

いうことです。「人間らしさ」、人の定義も変わってい

くのです。

今日では義手、義足などが受け入れられ、肉体

全てが「らしさ」の必須要件ではなくなっています。

そして、「マルチモーダル」は「人間らしさ」の典

型なのだ、というのです。

また、別の講義では、究極の

人間という意味で、万人が受け

入れるロボットを直観的に想像

すると、姿や形、性も歳もが完全にニュートラ

ルなものが思い浮かぶ、といっています〔石黒

浩の「最後の講義」NHK BS1 2017.8放映〕。

「第3の腕」実験では、自分の本物の2本の腕で

作業しながら、肩越しに設置してある第 3の腕と手

を、人の「意図」の脳波で、BMIを通して動かしな

がら、渡されるモノをつかむという作業を行うことが

できるのです。しかしそれは、腕の見た目が本物ら

しい時だけで、いかにもマシンという見た目の腕で

は意識によるマシン操作ができなかったのです。

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〈モノ〉いう‘モノ’達

‘Things’ to be 〈Reaching〉 by MegumiCoLabo

即ち、脳は、外部マシンだが人間のような姿をし

た第 3の腕を、脳意識と同期して動くのを見ること

で、自分の身体として受け入れ、脳活動という意識

の対象にしてしまったのです。つまり、《mind》とし

ては「外部」を「メタ化」し、自覚している[body]とい

う《mind》「内部」に再「区画化」したのです。

「意図・欲求」や「意識」に関しても、こうした人の

脳の不思議な、おもろい事実が、「人間らしさ」とは

何か、を考えさせます。人間らしい高い機能とは

「自律的な対話」〔「最後の講義」〕で、「人間らしさ」

の中でも「社会関係」を実現する、コンパニオン・ロ

ボットは難しい、と石黒氏はいいます。

ある機械が知的かどうか(人工知能であるかどう

か)を判定するためのテストも、これからは「人間と

協調する AIかどうか」を確認することが欠かせなく

なり、アンドロイドを使ったトータル・チューリング・テ

スト〔TTT〕が必要になる、石黒氏はいいます。

人の脳に学び、アンドロイドが人に近づくに従っ

て、アイデンティティや存在感、対話、身体、心とは

何か、今度は人に問い返されてくるのです。

解剖学者で「人間」を科学的に考え、二つの情報

世界を観る養老孟子氏は機能還元的だと指摘しま

すが、人間らしさの要素でもある、と筆者は思うの

で、参考のために、ラマチャンドラン氏の「自己」を

構成する 5つの特徴を再掲します。

次に、人の脳で、左脳と右脳の機能や外部認識

の不思議を少し覗いてみます。

◆身体の区画感覚を生む左脳は、右脳を抑圧

脳研究者ジル・ボルティ・テイラー博士は 1996

年 12月、ボストンの自宅で、脳の左側側面のほぼ

中央部分から出血し、脳卒中に襲われました。

その瞬間から感じていた「体の境界感覚」の喪

失感と、術後に生じた、左脳の機能を失うことで解

放された不思議な幸福感、右脳のおもろい世界に

ついて語りました〔「復活した“脳の力” ~テイラー

博士からのメッセージ~」NHK BSプレミアム

2018.1(初回放送 2009年) から相田が書き起こし、

加工し、作成〕。

「シャワーを浴びている時、バランスを崩し

壁にもたれかかりました。自分の腕を見下ろす

と自分の体の境界が分かりませんでした。あの

時、私は自分というものをハッキリと定義づけ

ることができない状態で、私自身と私以外のも

のの動きを分ける境界がなくなった感じがしま

した。その時、自分の細胞を感じました。私は

美しい細胞 50兆個からなる、生きる力である

と思いました」。

「あの時、自分の体は一つの個体だという感覚

を私は失いました。あなたと私を区別する境界

線が見えなくなった時、自分自身がまるで液体

であるかのような感覚になりました。体の 80%

以上が水で、細胞も水でできています。血液や

リンパ液も液体です。まわりの環境の液体と自

分がつながったような感覚を持ちました」。

右半身を動かす運動野と聴覚野の出血・圧迫

で、単語以外の音韻の機能とさらに文法・文章を

理解する能力が失われたのです。その後、左脳を

圧迫し続ける血の塊を摘出する手術で命を取り留

めましたが、破壊された脳細胞は再生しません。

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〈モノ〉いう‘モノ’達

‘Things’ to be 〈Reaching〉 by MegumiCoLabo

テイラー氏は、術後、意識を戻しましたが、言葉

はなくなり、人生の記憶や好き嫌いの感情も失った

のです。 しかし、会話もできない状態で彼女はほ

ほ笑みをたたえています。「私は何も損なわれてお

らず、ありのままの自分で十分に心は満たされてい

た。この上もなく幸せな状態でした」というのです。

その後に、実母のサポートなどで、必死のリハビ

リを乗り越え、奇跡の脳の復活を果たしました。8年

目に、出血以来感じていた液体のようだった体の

感覚が元に戻り、体を自由に動かせるようになって

初めてジルは日常生活を不自由なく過ごせるよう

になったのです。

そうして、自分の脳に起こったことについて、

様々な場所で語り始め、また出版〔‘My STROKE

of INSIGHT’:「奇跡の脳」など〕をしました。

テイラー氏は、自身の実体験から、脳の左半球

の機能の多くが失われたことで、普段は抑えられて

いる右半球の感覚が不思議な心理を生みだした

のでは、と考えています。他の人の話すことは理解

できなくなりましたが、逆に言葉にとらわれなくなっ

た、というのです。

「右半球が感じていることを、抑え込んでいると

いうか、『言葉が定義をしている』と思います。私の

脳の左半球の神経細胞が、これが私の境界であり、

私はここから始まって、ここで終わる、といっていま

す。それが働かなくなると私の認識に変化が起こり

ました。私はその心の状態は涅槃だと感じました。

言葉が存在せず、自分の人生との結びつきも、

周りとの関係も自分の仕事との関係も、全ての責任

もストレスも、それまでの様々な感情も全く引きずっ

ていない状態だったからです。全てが無くなったと

き、私は『現在だけに存在』し、今のこの経験だけ

が全てだという感じでした」。

再生を果たしたテイラー氏には、リハビリで

再生する前、右半球をより使っていた時の感覚

(色など芸術的な感覚)がみずみずしく残って

いました。

テイラー氏は、最も好きな場所、森に来ると

「言葉などを司る左半球の力が抑えられたよう

な感覚に陥る」といいます。森の中の散歩でテ

イラー氏は二つのことを感じるのです。「私の

顔に風が当たるとほとんどその瞬間に、風が吹

いてきた源に自分が結びつくような気がします。

もうひとつ、何を言おうとしていたのかがどこ

かに行っちゃうと言葉がついてこない。いつも、

森に来るとすーっと簡単に自然に結びつくこと

ができるの」。

次に、人が動物、チンパンジーからの‘進化’

で、遺伝子 DNA と社会性について、どのよう

に人を特徴づけているのかを観てみます。

◆ヒトが‘進化’させた「らしさ」は社会性とメタ化

進化生物学者 ジャレド・ダイヤモンド博士による

と、ヒトとチンパンジーの DNAは 1.6%しか違わな

いのです。ヒトは、第 2のピグミーチンパンジーに

次ぐ、第 3 のチンパンジーとして進化してきた中で、

遺伝的には、その 1.6%の DNAが「人間らしさ」を

創出させた、といってもいいのです〔「ダイヤモンド

博士の“ヒトの秘密”」 ジャレド・ダイヤモンド博士〕。

動物(脳)にも、きれいと感じたり、相手が喜んだ

りするものを理解し、造形するようなアート能力はあ

りますが、ヒトはそのメタ化された意味を理解します。

コミュニケーションする言語についても然りです。

ヒトは動物と違い、特に社会の中でメタ化された

意味を理解し、浮気や殺人などに対する社会的規

範、モラルを成立させ、そうした倫理に基づいた行

動の選択ができます。その結果、ますます社会に

依存した動物となり、逆に、その社会性がまたさら

に意味をメタ化していきます。

ヒトは、種、仲間の生存を優先した行動をもたら

す DNA を克服したのです。道徳的判断が、進化

の利益を越え、遺伝子の奴隷ではなくなった、とい

うことです。遺伝子より優先する利益があるとの認

識に至ったのです。

筆者は、メタ化した意味により、自分たちを「社

会」との関係に再「区画化」したのだ、と観ます。

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〈モノ〉いう‘モノ’達

‘Things’ to be 〈Reaching〉 by MegumiCoLabo

一方、伝統的な部族社会ではおおむね「平等」

egalitarian だった、といいます。しかし、今日では

人の社会が抱える大きな矛盾、未来への暗い影が

生じています。環境破壊や格差の拡大です。世界

の富が一部に集中し、社会で貧困層と富裕層の格

差が拡大し、社会を揺るがし、また、国家間の不均

衡も、関係を不安定にしているのです。

そして、博士は指摘します。「人は進化に逆行し

ているようだ。類人猿さえもっている、公平さ、公正

さの感覚がマヒしているから」と。

チンパンジーには、「公平さ、公正さ」の感覚が

ある。仲間の冷遇を見ると、自分への優遇は受け

取らないのです。チンパンジーと 98.4%共通の

DNA を持つヒトは、共通の「公平さ、公正さ」の感

覚が、「欲望」で抑えられてしまっているのです。

今直面する問題は、全て人間がつくり出したもの

です。それなら、人間はそれを解決する力も持って

いる筈だ、と博士は希望を持ちます。例えば、海洋

汚染へのロンドン条約、天然痘撲滅、地球温暖化

の 2015 年パリ協定など、国際間の協定の調印が

進んでいることに未来を観るのです。

博士は、「動物と人の最も大きな違いは、私たち

はどう行動するか、自分で決められることです。動

物として遺伝子の拡散だけを目的とするのを止め、

『モラルによる選択』をすることができ、モラルによっ

て行動すると決めたのです。

これからは、皆さんの行動が世界を決めます。

皆さんの世代の行動が人生を決めます。世界には

希望がある。過去の過ちから学び、未来を真剣に

考えて取り組めば世界は必ず皆さんが喜んで暮ら

したいと思う場所になると思います」、とプログラム

に参加した学生たちにメッセージを送りました。

今考えられている AI より、遥かに高機能で優れ

ているとされる「人の脳」は、次世代 AI のお手本で

す。しかし、学ぶべき脳をもつ人とそれらによって

構成される社会にも限界や課題があるのです。

「想像力」は、「欲望」を生みますが、同時に、より

動物的(社会性の未熟)な子供の成長段階で「我

慢」という社会性を獲得させます〔マシュマロ・テスト

による行動科学の知見〕。この「人間らしさ」という未

来への「想像力」の中に限界があるのかもしれない

し、人の脳の構造、脳機能に由来しているのかもし

れませんが、しかしながら、それは倫理を生み出す

こともできたのです。

研究開発で、「発見した、解明した」成果や「でき

る」という発想だけで、単に模倣的にAIに適用する

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‘Things’ to be 〈Reaching〉 by MegumiCoLabo

のでなく、「正しい学び」を通じた適用内容にする

ために、そのことを確認する、例えば、石黒氏の言

う TTT〔トータル・チューリング・テスト〕やテスト・ベッ

ドなどの合意の手続きを創出する、「大変革の時代」

の“知恵”が求められるのです。

◆AIの未来には、もっと「人」を知る必要がある

大阪大学大学院の石黒浩教授は、「最後の講

義」と題して、人間の未来を展望する中で「1000

年後の未来に人間はロボットになる」、と語りま

した〔最後の講義「石黒浩教授」 NHK BS1 2017.8

放映。相田が書き起こし、加工、作成〕。

「人間の進化には2つの方法がある。第 1は

遺伝子による身体的なもので、第 2 は技術で、

それは加速度的に能力を高めている。

技術による進化は、遺伝子による進化よりも

遥かに速度が速い。

人間=動物+技術≒ロボット*8

*8 いずれも活動はほとんど技術に支えられていて、

人間の定義において生身というのは必要がないよ

うな気がする

止まらない技術開発と技術による能力の拡張

で、人間にとっての最後の砦は「脳」と言われ

ているが、シンギュラリティでコンピュータが

コンピュータを創り、その結果さらに、加速度

的に技術が進化すると、それも怪しくなる。

定義された仕事で、人間はコンピュータには

勝てないほどの速度を今も達成している。天文

学的に速くなるコンピュータに人間の脳が勝て

るような気がしない。

人間の脳レベルのモノは、遅くても 100年後

には作れると思う。作られてしまったら、人間

の脳がコンピュータに置き換えられてしまい、

人間は唯の技術の結晶みたいなものなって、い

わばロボット、機械になる、ということです。

人間は、最終的向かうのは、人類は無機物か

ら生まれて無機物に戻ろうとしていることのよ

うな気がする。

既に、人間は、有機物にはほとんど頼らず、

もう 9割ほど技術に支えられた生活をしている

ように感じる。1000年後に、ぼくは人間が残ら

ないと思う。最終的に生き残るのはたぶん機械

だけかもしれない。

有機物(生命)、人間がこの世に生まれたこ

との意味を考えれば、複雑な分子構造を持つ有

機物は環境適応性が高いが、一方で、その複雑

な構造は壊れやすく永遠に維持できない。人の

寿命は 120年が限界だ。それだと、太陽や大き

な環境異変があれば消滅してしまう。

人間という有機物の身体は、物質の進化(知

能化)を加速させるための手段にすぎない、と

も考えられる。

最終的には、無機物に戻ろう、ロボット(無

機物の知的生命体)になろう、としているよう

な気がしてしょうがない。逆説的だが、肉体の

制約から解放されるのが人間なのだ。

それより、人間を知ることの方が重要だ。人

間の可能性はまだまだある。現状にすがるより、

新たな可能性を見つける方が生きている価値を

見出せるのだ。

人間の歴史を考えてみると、技術とは人を映

しだす鏡で、人間の生身の機能を技術に置き換

えて人間とは何かというのを考えてきていると

ころがある。そこに、技術による人間理解の方

法の一つがある。

消去法で考えて、機械に置き換えていって、

それでも残るはずの人間らしいところ、人間の

種を見ようとしているのが、技術による人間理

解の方法の一つかもしれない。

もっと極端に言えば、『人とは何かを考える

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‘Things’ to be 〈Reaching〉 by MegumiCoLabo

以外に、生きる目的は持っていない』のではな

いか。『自分たちに問いかけできる生き物』は

人間以外にない。われわれの人生はそういった

問いかけに最も大きな価値があるんだ」と話し、

最後を「青春の夢に忠実であれ」と結びました。

◆人の「指向性」がもたらす「全体性と対称性」

これまでのコラムで考えてきたことも含め、人間と

いうもの、人の脳というもの不思議や「おもろさ」を

様々観ることで、新しい概念への刺激を受け、アイ

デアをもらい、考えてきました。

筆者は、好奇心あふれる探求心など、「人間らし

さ」とは、人に備わる「指向性をもった想像力」では

ないかと考えています。それは、特徴的には脳に

おける「区画化」や「メタ化」の内容を深化させなが

ら、‘事実’が現わす「全体性」や「対称性」というも

のの実感を通して、“社会的真実”という意味を共

感させてくれるのではないか、と考えます。

柳田氏がいうように、少ない特徴点から「わかる」

に行き着ける脳機能や脳にある機能のフラクタル

構造も「全体性」や「対称性」に通じているのかもし

れません。

左脳と右脳で機能や役割の違いがあることが脳

の全体であり、それが一人に人間になるのです。

また、小林氏の観る、いろんな領域に分かれて

いる脳の機能にある、領域に依存しない、脳の領

域全体に通底する「共通するアルゴリズム」や、ダ

イヤモンド博士が言うような、脳内にある「文法」を

創出する能力の共通性もそうなのでしょう。

また、仲間の生存を最優先するDNA機能で、社

会性がそれを克服したり、逆に抑え込んだりするこ

とがあるということに何らかのバイアスや社会的無

意識のようなものも感じます。

知覚インプットのアップ・ダウン双方向処理と相

互作用や、自己を規定する「DNA・環境・認知バイ

アス 」モデルなども、「人の脳に学ぶ AI」というもの

を見る目を広げてくれます。

こうした、異分野の知見や仮説に触れ、そこに共

通したり、「対称性」を感じさせたりする「何か」を筆

者は感じます。それは、物質(無機物)・物体・生

命・マシン(無機物)の「同源性」です。Cyber

Worldの digital dataに対しても、これらの「同源

性」、「対称性」の見方で観えるものがあるはずだ、

と思うのです。

これらのアイデは、筆者に、「区画化・異質化、メ

タ化・全体化、相互作用・対称性(同源性認識)」の

モデルを思い浮かばせます。

それらは、筆者の観るロジスティクスの「‘モノ’の

流れ」における“関係様態”の枠組みの概念でもあ

り、そこに観る “社会的真実”を Just-In-Demand

LOGISTICS*9と呼んだのです。

*9定義:「モノ’の流れとその関連情報に関して、

“関係様態”における‘メタ’ネットワーキングと創発

的「区画」化を通じて、空間価値と時間価値を実

現する、綜合的な納得マネジメント」

◆「‘モノ’の流れ」にある“社会的真実”を探して

「人の脳に学ぶ AI」への動きを概観し、AIの深

化を観てきました。AIが人間の領域に急速に広が

り始めた今日、改めてマシン、AIの人との協調、社

会的関係が問われており、人間と同様、「社会に学

ぶ」AI、にも向かうはずです。

その「人の脳」には、まだ AIに置き換えられてい

ない、機能、「人間らしさ」があるといわれています。

しかし同時に、その「人間らしさ」の中にも限界があ

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〈モノ〉いう‘モノ’達

‘Things’ to be 〈Reaching〉 by MegumiCoLabo

り、特に社会の中で大きな課題があることも理解さ

れてきています。

倫理という概念を生み出し、遺伝的利益を上回

るという、いわば「外部進化」を果たした人間が、チ

ンパンジーにもある「公平さ、公正さ」という DNAを

受け継ぎながら、それを「欲望」で抑圧してしまうの

です。環境破壊や格差、自己中心の動きなどが指

摘されます。この「欲望」を生む「想像力」は「人間

らしさ」の代表でもあり、子供の成長段階で「我慢」

という社会性を獲得させてくれるのですが・・・。

人も社会も未熟であり、我々は人についても社

会についても、まだ大事な部分を知り得ていない、

と気づき、よく考え、未来へ行動していく必要があ

るのでしょう。

「人間らしさ」は「メタ化」と「区画化」の機能では

ないかと筆者は考えます。それらが、無機物(物質)

に‘モノ’(物体)を獲得させ、さらに有機体へと、そ

して生命体へと‘進化’させるための必須機能であ

り、さらに、動物からヒトへと‘進化’させ、人社会を

創出し、外部認識を内化することでヒトを社会的動

物にする根源機能でもある、と考えるからです。

「大変革の時代」、digital dataによる Cyber

Worldの急激な進展で、未知の全く理解できない

情報や、それを提供する媒体が出現し、‘エッジ’

でも AI、IoT、ARを意識しないで、それが発する

digital dataによる情報をあたりまえとして受け入れ

る生活や業務が繰り広げられ、新しい社会的な関

係性が構築されていくことになります。

「脳に学ぶ AI」が、人の脳の持つ限界や問題を

放置したまま脳機能を移植するのでなく、「大変革

の時代」の正しい‘進化’をすることを、また、今度

はその AIの実用化の過程で、拡張される「人の想

像力」が、既存の社会に Cyber World と伴に築い

ていく“正しい社会”を指向していくようになることを

願ってやみません。

こうした、新しい存在や情報の属性を受け入れる

には、ヒトという「自己」をも‘事実’としてではなく、

“社会的な真実”として自覚し、共有しながら、考え

ていくことが必要なのでしょう。

「大変革に時代」の“知恵”を得るには、もっと、

人を、社会を、宇宙を、そして‘モノ’を、「‘モノ’の

流れ」を、さらには digital data と「情報の流れ」を

知ることが必要ということなのです。さらなる「メタ化」

と創発的「区画化」による概念の創造、具体的には

言葉の創出に向かって。

こうした Realな[body]の世界が、メタ概念の生

まれる場、Virtualな《mind》の世界を創出している

わけで、“知恵”の創出は畢竟「人間」を知ることに

帰着するのでは、と考えます。

ロジスティクスにおいては、「‘モノ’の流れ」という

Realな世界が“関係様態”という Virtualな世界を

示し、そこに現れる“意義相”に“社会的真実”を

[body]が実感するのです。社会を隅々まで Real

に見ている‘モノ’達が言う声を聴き、ロジスティクス

においても、人の理解を進め、社会との関係を考

え、「‘モノ’の流れ」の“社会的真実”を共感すべく、

考え、正しい行動へと向かっていってもらいたい、

と願います。アマゾン社の対応変化や、ロジスティ

クスにおけるフェアトレードなどが思い浮かびます。

筆者は、‘data’や《mind》も含めて、すべてが

「物質」に帰着する、「物質との対称性」があるので

はないか、とも夢想するのです。

以上