ッハほど多様な魅力を持った音楽を書いた人はいないでしょう。バッハのメロディ、バッハのハーモニー、バッハのリ

ズム……音楽の全ての要素に、バッハの個性が刻印されています。そのバッハの音楽を他から際だたせているもの、それは何と言っても「フーガ」という作曲技法でしょう。多声音楽において、「テーマ」と呼ばれる旋律が、種々の規則に従って異なる声部の間で模倣され、掛け合うのが「フーガ」です。フーガというタイトルは、イタリア語の「逃げる」という意味の言葉から発したので、日本語ではかつて「遁走曲」と呼ばれましたが、逃げる者があれば、追いかける者もあります。音楽におけるこの追いかけっこが、バッハの音楽におけるスリルと興奮、そして深い感動の源泉なのです。

ッハの主要な作品には、それがカンタータや受難曲のような教会音楽でも、管弦楽組曲やブランデンブルク協奏曲

のようなオーケストラ曲でも、フルートやヴァイオリンのための室内楽曲でも、チェンバロやオルガンのような鍵盤音楽でも、多数のフーガが含まれているのは周知の通りです。そして、彼は生涯の最後の数年間に、自分のフーガとの取り組みの総決算をして、それを２つの作品にまとめ上げました。それが、《ロ短調ミサ曲》と《フーガの技法》です。《ロ短調ミサ曲》は合唱フーガの集大成であり、《フーガの技法》は全てが単一の主題から紡ぎ出されます。これらの作品は、音楽史上の不滅の金字塔であると共に、音楽が最も偉大であった『バロック』という時代への挽歌となったのです。

手プロムナード・コンサートでは、今年と来年の2度にわたり、これらのバッハ最晩年の傑作を取り上げることとなりま

した。まず、今年の秋が《フーガの技法》、そして来年の秋には《ロ短調ミサ曲》を演奏します。

ーガの技法》は、その中に含まれる2組のフーガを除いて、他は全てチェンバロ独奏のために作曲されました。しか

し、この作品の特殊な性格と偉大さを一般にわかりやすく伝えるために、様 な々楽器のための編曲が試みられています。

回の山手プロムナード・コンサートでは、４台のヴィオラ・ダ・ガンバによるいわゆるガンバ・コンソートに、コルネット、オー

ボエ・ダ・カッチャ、トロンボーン、ファゴット、そして2台の鍵盤楽器を加えた特殊な楽器編成で演奏します。ヴィオラ・ダ・ガンバは低音の独奏楽器としてよく知られていますが、今回は、ヴァイオリンと同じ音域をもつ珍しい高音用のヴィオラ・ダ・ガンバが活躍します。ヴァイオリンに比べると遙かに柔らかい音色で、ルネッサンス／バロック当時には「貴族の楽器」として称賛されたものです。

回用いるコルネットは、やはりルネッサンスからバロックにかけて特に教会音楽の分野で好まれた、「木と皮で出来た

金管楽器」です。この楽器をトロンボーンと共に用いると、神秘的でこの世のものとは思われない響きとなります。オーボエ・ダ・カッチャとは「狩のオーボエ」の意。湾曲した管にラッパのような頭部の付いたこの中音用のオーボエは通常のオーボエとは全く似て非なる響きがします。

のような珍しい楽器の組み合わせによる「別世界のアンサンブル」が作り出す妙なる響きによる《フーガの技法》の特

別な世界は、まさに「異次元のバッハ」と呼ぶにふさわしいものとなるでしょう。

1751年の初版は、19曲のフーガと4曲のカノン、1曲のコラールから成るものの、ベルリン国立図書館にあるバッハの自筆譜とは曲の配列や内容が異なっていて、構成や曲順に関しては現在でも研究者のあいだに議論があります。自筆譜によれば基本的には次の６グループの音楽から成り立っています。①単純フーガ②反行フーガ（主題がその転回した形で応答されるフーガ）③複数の主題によるフーガ（二重フーガ、三重フーガ）④鏡像フーガ（ひとつのフーガの楽譜の下に鏡をおいて映し出したかたちでも、きちんとした音楽になるフーガ）⑤２声のカノン⑥３つの主題のためのフーガただし、これらの演奏に関するバッハによる具体的楽器指定はありません。

音楽監督・渡邊順生とコンサート・ソムリエの朝岡聡が開演前にプレ・トークを行います。「フーガの技法」を実際に聴く前に、作品のツボと聴きどころを分かりやすくお話します。これを聞いてから本番演奏に臨めば「フーガの森」が興味深く楽しめる事、請け合い!11月25日（日）は是非! プレ・トークから会場に足をお運びください。

濱田芳通コルネット

江崎浩司オーボエ

宮下宣子トロンボーン

𠮷田　將ファゴット

平尾雅子ヴィオラ・ダ・ガンバ

神戸愉樹美ヴィオラ・ダ・ガンバ

福沢　宏ヴィオラ・ダ・ガンバ

櫻井　茂ヴィオラ・ダ・ガンバ

崎川晶子チェンバロ

コルネット

オーボエ・ダ・カッチャ

トロンボーン

ヴィオラ・ダ・ガンバ

～異次元のバッハ～ようこそ

　フーガの森へ

「フーガの技法」ってどんな作品？

演奏前に13時15分からプレ・トークを開催します！

渡邊順生チェンバロ

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お話：朝岡聡

※当日、使用する楽器とは異なります。

ようこそ

　フーガの森へ