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11 メキシコ合衆国・サカテカス州の 鉱業事情 メキシコ事務所 所長 高木 博康 1. サカテカス州の概要 サカテカス州は、メキシコ中央部に位置し(図照)、北はコアウイラ(Coahuila)州、北西部はドゥラ ンゴ(Durango)州、南西部はハリスコ(Jalisco)州 及びナヤリット(Nayarit)州、南はアグアスカリエン テ(Aguascalientes)州、東はサン・ルイス・ポトシ(San はじめに メキシコは古くからの鉱業国であり、銀の生産が世界一である他、鉛、亜鉛等が世界生産の上位に位置している(表 参照)。なかでもサカテカス(Zacatecas)州は、Peñoles の主力鉱山である Fresnillo、Francisco.I.Madero 両鉱山、 2010 年月に商業生産を開始し既にメキシコ最大級の鉱山となった Goldcorp の Peñasquito 鉱山等を有し、面積は 万 3,000km 2 とメキシコ全土の4%に過ぎないなか、州別生産量で銀、鉛及び亜鉛が第位となっている。なかで も植民地時代から生産の盛んな銀については、2010 年の世界生産の約割を生産している。 本稿では、今後ともメキシコ鉱業をリードしていくと考えられるサカテカス州の鉱業の現状と今後の開発見通しに ついて報告する。 Luis Potosi)州である。面積は、万 3,000km 2 (国土 の約4%)、人口は 149 万人(メキシコ全体の 1.4)、 州都は、サカテカス(Zacatecas)市である。 サカテカス州の GDP に占める鉱業の割合は約 14で、農牧業、建設業に次ぐ第位となっている。 表1. サカテカス州及びメキシコの主要鉱石生産量(2010年) 図1. メキシコ合衆国・サカテカス州位置図 (出典:サカテカス州とメキシコはメキシコ国立地理情報院(INEGI)、世界計はWBMS2011) 鉱種 サカテカス 州〔①〕 メキシコ計 〔②〕 世界計 〔③〕 サカテカス 州の対メキ シコ計割合 〔① /②〕 メキシコ計 の対世界計 割合 〔② /③〕 サカテカス 州の国内 順位 メキシコの 世界順位 金(t) 12.8 79.4 2,550 16% 3% 3 11 銀(t) 2,029 4,411 21,299 46% 21% 1 1 銅(千t) 40.2 270.1 16,099 15% 2% 2 12 鉛(千t) 97.9 192.1 4,102 51% 5% 1 5 亜鉛(千t) 228.9 570.0 12,115 40% 5% 1 8 4152012.1 金属資源レポート

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メキシコ合衆国・サカテカス州の鉱業事情

メキシコ事務所 所長 高木 博康

1. サカテカス州の概要サカテカス州は、メキシコ中央部に位置し(図1参

照)、北はコアウイラ(Coahuila)州、北西部はドゥランゴ(Durango)州、南西部はハリスコ(Jalisco)州及びナヤリット(Nayarit)州、南はアグアスカリエンテ(Aguascalientes)州、東はサン・ルイス・ポトシ(San

はじめにメキシコは古くからの鉱業国であり、銀の生産が世界一である他、鉛、亜鉛等が世界生産の上位に位置している(表1参照)。なかでもサカテカス(Zacatecas)州は、Peñoles の主力鉱山である Fresnillo、Francisco.I.Madero 両鉱山、2010 年9月に商業生産を開始し既にメキシコ最大級の鉱山となった Goldcorp の Peñasquito 鉱山等を有し、面積は7万 3,000km2 とメキシコ全土の4%に過ぎないなか、州別生産量で銀、鉛及び亜鉛が第1位となっている。なかでも植民地時代から生産の盛んな銀については、2010 年の世界生産の約1割を生産している。

本稿では、今後ともメキシコ鉱業をリードしていくと考えられるサカテカス州の鉱業の現状と今後の開発見通しについて報告する。

Luis Potosi)州である。面積は、7万 3,000km2(国土の約4%)、人口は 149 万人(メキシコ全体の 1.4%)、州都は、サカテカス(Zacatecas)市である。

サカテカス州の GDP に占める鉱業の割合は約 14%で、農牧業、建設業に次ぐ第3位となっている。

表1. サカテカス州及びメキシコの主要鉱石生産量(2010年)

図1. メキシコ合衆国・サカテカス州位置図

(出典:サカテカス州とメキシコはメキシコ国立地理情報院(INEGI)、世界計はWBMS2011)

鉱種サカテカス州〔①〕

メキシコ計〔②〕

世界計〔③〕

サカテカス州の対メキシコ計割合〔① /②〕

メキシコ計の対世界計

割合〔② /③〕

サカテカス州の国内順位

メキシコの世界順位

金(t) 12.8 79.4 2,550 16% 3% 3 11

銀(t) 2,029 4,411 21,299 46% 21% 1 1

銅(千t) 40.2 270.1 16,099 15% 2% 2 12

鉛(千t) 97.9 192.1 4,102 51% 5% 1 5

亜鉛(千t) 228.9 570.0 12,115 40% 5% 1 8

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2. 国内鉱業に占めるサカテカス州の位置(1)生産量

2010 年の世界、メキシコ及びサカテカス州の主要鉱産物の生産量を表1に示す。サカテカス州は、銀、鉛及び亜鉛が州別の第1位でそれぞれメキシコ全体に占めるシェアは、46%、51%、40%となっている。銅は北東部のソノラ(Sonora)州に次ぐ第2位で同シェアは 15%、金はソノラ州、チワワ(Chihuahua)州に次ぐ第3位で同シェアは 16%となっている。なお、2007年においては、亜鉛はチワワ州に次ぐ第2位で同シェアは 38%、金は第6位で同シェアは3%であった。

(2)生産額サカテカス州の金属鉱業生産額は、2003 年に約5億

US$であったが、2007 年に約 13 億 US$へと増加した。その後、金属価格の低迷により 2008 年に約9億 US$に減少したものの、生産量の増加と貴金属を初めとする金属価格の上昇により、2010 年には約 29 億 US$へと大幅に増加している(図2参照)。

メキシコ全体に占める生産額のシェアは、2003 年が11%、2007 年が 13%だったのに対し、2010 年は 32%へと急増している。なお、2010 年においては、生産量のシェアの伸び以上に生産額のシェアの伸びが高くなっているが、その理由としては、Peñasquito 鉱山が商業生産を開始した 2010 年9月以降の金、銀等の金属価格が高かったためと考えられる。

3. 鉱種別概要3-1. 金

サカテカス州の年間金生産量は、2007 年まで、10 年間以上にわたって1~ 1.5tで推移していたが、2008年に 1.77t、2009 年に 6.10tへと増加している(図3参照)。これは、2008 年5月に Peñasquito プロジェクトにおいて酸化鉱からの金生産が開始されたこと及び2008 年途中に Frisco 社の El Coronel 金鉱山(2009 年までの生産量は公表していないが、同社の株式上場に伴い公表した 2010 年の金生産量は 5.44t)が操業を開始したためと考えられる。また、2010 年には 12.84tへと増加したが、これは Peñasquito 鉱山(2010 年の金生産量は 5.23t)が 2010 年9月に商業生産を開始した

ことが主たる要因である。メキシコ国内の金の生産量は、2004 年から 2010 年

の7年間に 21.8tから 79.4tへと 3.6 倍に増加しているなか、サカテカス州のシェアは 2004 年の 5.4%から2007 年には 3.0%まで低下したものの、2009 年には9.8%、2010 年は 16.2%と大きく増加している。

今後の見通しとしては、Peñasquito 鉱山のフル操業後(2012 年 Q1 の予定)の金の年間生産予定量は、15.6tであり、2011 年4月に商業生産を開始した Peñolesの Saucito 鉱山(2011 年金生産予定量 0.7t、2014 年以降の金生産予定量 1.4t)等新しい鉱山も多いことから、今後、更にサカテカス州の金の生産量は増加するものと考えられる。

図2. サカテカス州の金属鉱業生産額の推移

(注�)メキシコ中央銀行発表の年平均Peso/US$為替レート(2003年�10.7913、2004年�11.2871、2005年�10.6255、2006年�10.7975、2007年�10.9180、2008年�13.8050、2009年�13.0730、2010年�12.3550)で換算。

(百万US$)

(出典:SGMサカテカス事務所)

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3-2. 銀サカテカス州は、毎年 1,000t以上の銀を生産するメ

キシコ最大の銀鉱山である Peñoles の Fresnillo 鉱山を有し、2004 年にはメキシコの 52.4%の銀を産出していた。メキシコ全体での銀の生産量が 2004 年から 2010年の7年間で 2,569tから 4,410tへと 72%増加したため、サカテカス州のシェアは、52.4%から 46.0%に低下しているものの、この間にサカテカス州の銀生産量は1,345tから 2,229tへと 66%増加している(図4参照)。

特に、2010 年は、2010 年9月に商業生産を開始した

Peñasquito 鉱山(2010 年の銀生産量は 434t)の影響で大きく増加している。

今後の見通しとしては、Peñasquito 鉱山のフル操業後(2012 年 Q1 の予定)の銀の年間生産予定量は、871tであり、2011 年4月に商業生産を開始した Peñolesの Saucito 鉱山(2011 年銀生産予定量 146t、2014 年以降の金生産予定量 286t)等新しい鉱山も多いことから、今後、更にサカテカス州の銀の生産量は増加するものと考えられる。

図3. サカテカス州及びメキシコ全体の金生産量の推移

図4. サカテカス州及びメキシコ全体の銀生産量の推移

(出典:INEGI、単位:t)

(出典:INEGI、単位:t)

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3-3. 銅サカテカス州の銅の生産量は、2004 年から 2006 年

にかけて 24.9 千tから 18.2 千tへと 27%減少したが、2006 年に加 Capstone Mining 社の Cozamin 鉱山(2010年の銅の生産量は 16.14 千t)が操業開始し、その後生産が本格化したことから、2010 年には 40.2 千tまで増加し、メキシコ全体でのシェアは、2005 年の 5.1%から 2010 年には 14.9%まで上昇している(図5参照)。

なお、2006 年から 2009 年にかけてメキシコ全体での銅の生産量が減少しているのは、2006 年に Grupo Mexico の La Caridad 同 鉱 山 及 び Cananea( 現Buenavista)銅鉱山でストライキが発生し、2007 年か

ら 2010 年6月まで Cananea 銅鉱山(年間産銅量 180千t)がストライキにより長期にわたって操業を停止したことによるものである(2011 年に入ってメキシコの銅の生産量は急増している。)。

今 後 の 見 通 し と し て は、 加 Aura Minerals 社 のAranzazu 銅鉱山(銅の年間生産予定量 4.09~ 4.54 千t)が 2011 年2月に商業生産を開始したことから、サカテカス州の銅の生産は多少の増加が見込まれる。一方、メ キ シ コ 全 体 に 占 め る シ ェ ア は Buenavista 鉱 山

(Sonora 州)の生産増に伴い、大幅に低下するものと予想される。

3-4. 鉛2005 年から 2008 年までにサカテカス州の鉛の生産

量は 52.3 千tから 43.6 千tまで減少したが、Fresnillo鉱山、Sabinas 鉱山、Cozamin 鉱山等の生産量が増加したことから、2009 年には 51.0tまで回復し、2010 年9 月に操業を開始した Peñasquito 鉱山(2010 年の鉛生産量は 44.2 千t)の影響で 2010 年は 97.9 千tと急増した(図6参照)。

メキシコ全体の生産量に占めるシェアは 2004 年の44%から 2008 年には 31%まで低下したが、2010 年は51%となっている。

今後の見通しとしては、Peñasquito 鉱山のフル操業後(2012 年 Q1 の予定)の鉛の年間生産予定量は、90.8千tであり、今後サカテカス州の鉛の生産量は更に増加するものと予想される。

図5. サカテカス州及びメキシコ全体の銅生産量の推移

(出典:INEGI、単位:千t)

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3-5. 亜鉛サカテカス州の亜鉛の生産量は、Francisco.I.Madero

鉱山、Fresnillo 鉱山等の亜鉛品位の低下に伴い、2005年の 197.9 千 t から 2008 年の 158.4 千tまで減少し、メキシコ全体でのシェアも 2004 年の 45%から 2009 年には 32%へと大きく低下した(図7参照)。

2010 年には 228.9 千t(同シェア 40%)と急増しているが、これは 2010 年9月に商業生産を開始したPeñasquito 鉱山(2010 年の亜鉛生産量 70.1 千 t)の影

響である。今後の見通しとしては、Peñasquito 鉱山のフル操業

後(2012 年 Q1 の予定)の亜鉛の年間生産予定量は、204.3 千tであり、また、加 Teck Resources 社が 79%の権益を保有する San Nicolas 亜鉛・銅プロジェクトが今後操業を開始するものと見られることから、今後サカテカス州の亜鉛の生産量は更に増加するものと予想される。

図6. サカテカス州及びメキシコ全体の鉛生産量の推移

図7. サカテカス州及びメキシコ全体の亜鉛生産量の推移

(出典:INEGI、単位:千t)

(出典:INEGI、単位:千t)

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4. サカテカス州の主要鉱山、主要探鉱開発プロジェクト等の現状

(1)サカテカス州の主要鉱山の生産量2010 年のサカテカス州の主要鉱山の金属別の生産量

は、表2のとおりとなっている。州内の生産量に占める 割 合 は、 金 に つ い て は El Coronel 鉱 山 が 43%、Peñasquito 鉱山が 41%、銀については Fresnillo 鉱山が 55%、Peñasquito 鉱 山 が 21%、 鉛 に つ い て はPeñasquito 鉱山が 45%、亜鉛については Peñasquito鉱山が 30%、Francisco.I.Madero 鉱山が 19%、銅については Cozamin 鉱山が 40%、Sabinas 鉱山が 21%等と

なっている。なお、Peñasquito 鉱山のフル操業後(後述の同鉱山

所長の話では 2012 年初からの予定)の年間生産予定量は、金、15.6t、銀 871t、鉛 90.8 千t、亜鉛 204.3 千tとなっている。

また、2011 年 2 月には加 Aura Minerals 社の Aranzazu銅鉱山(年間生産予定量は銅 4.1 千t、金 0.19~ 0.25t、銀 4.0~ 4.4t)が、2011 年 4 月には Peñoles の Saucito金・銀鉱山(2011 年生産予定量は、銀 146t、金 0.7t、2014 年以降の年間生産予定量は、銀 286t、金 1.4t)がそれぞれ商業生産を開始した。

(2)サカテカス州の主要鉱山の現状① Fresnillo(フレスニージョ)鉱山

サカテカス州から北北西に約 50km 離れたフレスニージョ市近郊に位置する鉱山で、1550 年から操業が行われ、460 年近くの歴史を持つ世界で最も豊富な銀鉱山である。1910 年に Peñoles 前身の Fresnillo Company of New York の所有となり、幾度かの変遷を経て、Peñoles の貴金属部門子会社(77.1%権益)の Fresnillo plc.(2008 年にロンドン証券取引所に上場)の保有と

なっている。年間 1,000t以上の銀を生産し、銀の世界生産量の約5%、メキシコ生産量の 1/4 を占める。2010 年は、Peñoles の産銀量の 72%を占めた。

埋蔵鉱量は、31.5 百万t(平均品位 金 0.54g/t、銀 338g/t、鉛 1.35%、亜鉛 2.63%)となっている。2010 年には選鉱プラントのミル処理量を 7,500tから8,000tに改善した。

表2. サカテカス州の主要鉱山の2010年生産量及びその割合

表3. Fresnillo鉱山生産量(純分)

(出典:INEGI、各社 HP等)

(出典:Peñoles社 HP)

鉱山名 所有企業 金(t) 銀(t) 鉛(千t) 亜鉛(千t) 銅(千t)

Fresnillo Peñoles  0.78(6%)

1,117(55%)

12.2(12%)

 11.5(5%)

Francisco.I.Madero

Peñoles -   32(2%)

11.4(12%)

 42.6(19%)

 1.7(4%)

Sabinas Peñoles -  110(5%)

 7.3(7%)

 25.2(11%)

 8.6(21%)

Tayahua Frisco  0.16(1%)

  57(3%)

 4.9(5%)

 34.9(15%)

 6.7(17%)

El�Coronel Frisco  5.44(43%)

   1(0%)

- - -

Peñasquito 加 Goldcorp  5.23(41%)

 434(21%)

44.2(45%)

 70.1(30%)

Cozamin 加 Capstone -   44(2%)

 4.2(4%)

  7.9(3%)

16.1(40%)

La�Colorada 加 Pan�American  0.13(1%)

 115(6%)

 1.4(1%)

  2.9(1%)

その他 -  1.06(8%)

 119(6%)

12.3(13%)

 33.8(15%)

 7.1(18%)

サカテカス州�計 - 12.8  2,029 97.9 228.9 40.2

2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

銀(t) 1,048 1,042 1,050 1,125 1,117

金(t) 0.9 0.8 0.8 0.9 0.8

鉛(千t) 10.6 9.2 8.7 11.1 12.2

亜鉛(千t) 14.8 12.3 11.3 11.5 11.5

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② Francisco.I.Madero(フランシスコ・イ・マデーロ)鉱山本鉱山は、サカテカス市近郊に位置するメキシコ最

大級の亜鉛を主とする多金属鉱山で、2001 年に操業が開 始 さ れ、2007 年 頃 ま で は Charcas 鉱 山(Grupo Mexico・サン・ルイス・ポトシ州)とメキシコにおける亜鉛の生産量のトップを競っていたが、2010 年生産量では、Peñasquito 鉱山(Goldcorp、サカテカス州)、Charcas 鉱山、Bismark 鉱山(Peñoles、チワワ州)に次ぐ第4位となっている。本鉱山は、Peñoles が国有鉱区の入札によって取得した鉱山であり、メキシコ鉱業センター(SGM)に対し、2.5%のロイヤルティ(Net Smelter Royalty)を支払っている。

(注)メキシコにおいては、国有鉱区を入札で取得する場合を除き、国家にロイヤルティを納める義務は無い。SGM によれば、国有鉱区の入札においては、通常NSR2%を下限に入札が行われている。

本鉱山は、亜鉛の比率が高く亜鉛の価格により操業が左右される。2002 年~ 2003 年には亜鉛を初めとする金属価格の低迷により、操業の一時停止が検討された。また、金属価格が低迷した 2008 年にも一時赤字操業に陥っている。本鉱山の亜鉛の損益分岐価格は、0.80US$/lb(1,762US$/t)とのことである。

確定・推定埋蔵量は、25 百万t、平均品位は、亜鉛2.3%、鉛 0.55%、銅 0.12%、銀 22g/tでマインライフ約 10 年(Peñoles 社 2010 年次報告では 14.5 年)であるが、資源量の増加を目的とするボーリング探査を実施中である。なお、銅の生産は、あと3年に限って行われる予定である。

坑内掘で現在の切羽位置は地表下約 200mであるが、300~ 350mまで鉱化作用が確認されている。粗鉱処理量は、8,000t/ 日で、労働者は約 700 人、操業キャッシュコストは、28US$/tとなっている。

鉱山開発時にエヒード(村の共有地)の住民の反対により操業開始が多少遅れたが、Peñoles 社の社内規則に基づき鉱山用地は全て買収しており、その後、エヒード、環境団体、労働組合等との問題は発生していないとのことである。(2011 年9月のメキシコ事務所による同鉱山へのヒアリング結果等による。)

③Sabinas(サビナス)鉱山サカテカス市の北西約 150km のドゥランゴ州州境付

近に位置する亜鉛を主とする多金属鉱山で、Peñoles の中で Fresnillo 鉱山に次ぐ歴史を持っている。1555 年から操業が行われ、1910 年に Peñoles 前身の Fresnillo

Company of New York の 所 有 と な り、 現 在 はFresnillo100%子会社の Minera Sabinas 社が操業を行っている。塊状鉱床と脈状鉱床からなり、埋蔵鉱量は、14.2 百万t(平均品位 銀 97g/t、鉛 0.64%、亜鉛2.19%、銅 0.79%)である。

写真1. Francisco.I.Madero鉱山の鉱石運搬設備

表4. Francisco.I.Madero鉱山生産量(純分)

表5. Sabinas鉱山生産量(純分)

2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

銀(t) 46.0 51.4 44.0 34.7 31.7

鉛(千t) 9.1 11.3 10.8 11.4 11.4

亜鉛(千t) 64.6 61.1 48.1 47.2 42.6

銅(千t) 0.5 1.3 1.9 2.0 1.7

2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

銀(t) 104.3 97.3 95.0 105.0 110.2

亜鉛(千t) 29.2 25.4 26.3 25.4 25.2

鉛(千t) 3.1 4.0 5.5 7.9 7.3

銅(千t) 6.7 6.5 6.7 7.6 8.6

(出典:Peñoles社 HP)

(出典:Peñoles社 HP)

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④Saucito(サウシート)鉱山Fresnillo 鉱山の南西 8km に位置する Peñoles の貴金

属部門子会社(77.1%権益)の Fresnillo plc. が持つ多金属鉱山で、2011 年4月に商業生産を開始した。初期の開発コストは、309 百万 US$で、F/S におけるマインライフは 17 年である。F/S の生産計画では、2011年の生産量は、銀 146t、金 0.7t、2014 年の生産量は、銀 286t、金 1.4tで、その他、鉛、亜鉛も生産される。

⑤ Tayahua(タヤウア)鉱山Peñasquito 鉱山の東方数 km のコアウイア州との州

境付近に位置する多金属鉱山で、Frisco の 100%子会社である Minera Tayahua 社が操業を行っている。本鉱 山 は 1972 年 か ら 操 業 を 行 っ て お り、1998 年 にFrisco が 51%の権益を取得し、2011 年5月に 90.2%まで権益を増加した。採掘は坑内掘で行っており、粗鉱処理量は 3,000t/ 日である。2010 年の生産量は、表2のとおりである(Frisco 社がメキシコ市場に上場する前の 2009 年以前の生産量は公表されていない。)。

⑥El�Coronel(エル・コロネル)鉱山サカテカス市の南東約 50km のアグアスカリエンテ

州との州境付近に位置する金鉱山で、Frisco の 100%子会社である Minera Real de Angeles 社が操業を行っている。同社は、かつて本鉱山の東方の Noria de Angeles 町において Real de Angeles 多金属鉱山を操業していた。

本鉱山では、リーチングで 30,000t/ 日の粗鉱処理を行っている。2008 年に建設が開始され、2009 年に操業が開始されている。2010 年の生産量は、表2のとお

りである(Frisco 社がメキシコ市場に上場する前の2009 年の生産量は公表されていない。)。

⑦Peñasquito(ペニャスキート)鉱山Peñasquito 鉱山は、サカテカス市から約 250km 北東

のコアウイア州との州境近くのコンセプシオン・デル・オロ町から国道を外れ、約 30km西に位置する。Goldcorp が 100%権益を持つメキシコ最大級の多金属鉱山である。

1950 年代に Peñoles がこの地域で探鉱を行っていたが、 良 好 な 結 果 は 得 ら れ な か っ た。1994 年 か ら、Kennecott 社がポーフィリーカッパー鉱床を対象に 250孔のボーリング探査を実施し、1996 年に銀・鉛・亜鉛の鉱化帯を発見した。1998 年に Western Copper 社がプロジェクトの 100%権益を獲得し、2004 年に金の高品位部を発見した。2006 年5月に Glamis Gold 社がWC 社 を 買 収 し、2006 年 11 月 に Goldcorp が Glamis社を買収した。

2008 年に酸化鉱からの金生産を開始し、2009 年 10月から硫化鉱からの鉛精鉱・亜鉛精鉱の生産を開始した。2010 年9月に商業生産を開始し、2011 年初頭にフル操業を予定していたが、未だフル操業に至っていない。その原因としては、最新型の高速 HPGR(High Pressure Grinding Roll)を導入したものの、粗鉱を規格の粒径にしないと同装置が十分な能力を発揮できないことが判り、HPGR に送る粗鉱の粒径を規格内に収めるためのプラント(Alimentador Complementaria)の建設が新たに必要となったためである。

また、2011 年7月から8月にかけて硫化鉱プラントの更新を行ったため 2011 年 Q3 は生産量が減少している。

鉱床はいくつかの鉱体で賦存しており、複数のサイトで採掘が進められているが、最大の鉱体は、直径4~5km の楕円形で、深さは場所にもより異なるが概ね地表下 40~ 50mから鉱化し、そこから数十mが酸化鉱、それ以深が硫化鉱となっている。なお、将来的に別の露天採掘場と繋がり、露天採掘場がより拡大する可能性もある。地下 1,000mまで鉱化作用が確認されており、可能なうちは露天掘で採掘するが、将来的には坑内掘に移行する見通しである。また、深度が増すに従って銅の品位が高くなっており、将来は銅も生産することとなると思われる。主要ピットではズリと併せ 200 万t/ 日の採掘が行われており、大量のズリ

は将来の廃さいダムの堤体の材料として野積みされている。

酸化鉱については、粗鉱処理能力 13 万t/ 日のリーチングで金銀ドーレに処理され、硫化鉱については、粗鉱処理能力 42 万t/ 日の選鉱プラントにより、鉛精鉱と亜鉛精鉱が生産されている。

労働者は、下請会社従業員も含め約 3,000 人で、7時と 19 時の2交代体制となっている。

鉱山用地は、かつてはエヒードであったが全て買収しており、周辺のエヒードの住居民に対しては電気及び水の供給、学校及び診療所の建設、子供の鉱山体験学習による交流等を行い、良好な関係を築いている。

表6. Peñasquito鉱山の生産量の推移とフル操業後の四半期の生産予定量(純分)

(出典:Goldcorp社 HP)

2010年 2011年 フル操業後の四半期生産予定Q3 Q4 Q1 Q2 Q3

金(t) 0.5 1.7 1.8 1.8 1.7 3.9

銀(t) 48 143 136 143 131 218

鉛(千t) 5.1 15.6 16.6 17.5 15.3 22.7

亜鉛(千t) 8.5 24.6 25.2 30.2 30.1 51.1

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マスコミにおいて、地下水の利用を巡る地元住民との軋轢が報道されたが、これは全くの誤報で、水は十分に足りており、地元住民との関係も良好であるとのことであった。

治安対策については、鉱山用地は警備員が厳重に警護しており、一番危険なのは通勤時(特に国道から鉱山までの 30km)の誘拐であることから、鉱山労働者に対しては護衛付きの専用バスで通勤し、自家用車を

使用しないよう奨励するとともに部長職以上については、小型飛行機により通勤しているとのことであった。なお、所長は 10 日間泊まり込みで仕事をし、飛行機でモントレー国際空港を経由して米国の自宅に帰り、4日間の休日を取るとのことであった。(2011 年9月のメキシコ事務所による同鉱山へのヒアリング結果等による。)

⑧Cozamin(コサミン)鉱山Cozamin 鉱山は、サカテカス市近郊に位置する銅を

主とする多金属鉱山であり、2010 年の銅の生産量は、La Caridad 鉱山(Grupo Mexico、ソノラ州)、Milpillas鉱山(Peñoles、ソノラ州)、Buenavista 鉱山(Grupo Mexico、ソノラ州)、NEMISA 鉱山(S.M.de la Paz y Anezas、サン・ルイス・ポトシ州)に次ぐメキシコで第5位となっている。

加 Capstone Mining 社 は、2004 年 に 地 元 資 本 のGrupo Basis 社から 100%権益を取得し、2006 年から本鉱山の操業を開始した。買収時の鉱区は5km×2

km の範囲であったが、鉱脈延長上の2km の鉱区を個人鉱区所有者から買収し、現在の鉱区は7km×2kmとなっている。同社は、今後更に鉱脈延長上の鉱区の買収を検討している。なお、Capstone 社は、契約に基づき Grupo Basis 社や個人鉱区所有者に対し3%のロイヤルティ(Net Smelter Royalty)を支払っている。

概測・精測資源量は、地表下 600mまでで8百万t、平均品位は銅 2.0%、亜鉛 1.7%、鉛 1.5%、銀 70g/tであるが、地下 1,000mまでの鉱化作用が確認されている。

坑内掘で粗鉱処理量は 3,500t/ 日。労働者は、労組非加盟で約 900 人と下請会社従業員約 500 名が働いている。現在の操業キャッシュコストは、40US$/t とのことである。

鉱山用地はエヒードであったが、全て買収済みである。なお、エヒードは最近では個人所有地に代わってきており、個人所有者と用地交渉することが多くなっているとのことであった。

なお、Capstone 社は、カナダに Minto 鉱山を保有しているが、人件費が高い等操業コストが高く、同社の利益の大半は Cozamin 鉱山によるとのことであった。

(2011 年9月のメキシコ事務所による同鉱山へのヒアリング結果等による。)

表7. Peñasquito鉱山の確定・推定埋蔵量(2010年末現在)

(出典:Goldcorp社 HP)

鉱量(百万t)

品位(金、銀はg /t、他は%) 含有量

金 銀 鉛 亜鉛 金(t) 銀(t) 鉛(千t)亜鉛

(千t)

硫化鉱 1,421  0.40 23.4 0.25 0.57 565  33,241 3,303 7,979

酸化鉱 67.8 0.18 16.8 - - 12.4 1,137 - -

写真2. Cozamin鉱山全景

表8. Cozamin鉱山生産量(純分)

2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

銅(千t) 1.7 9.2 12.0 16.4 16.1

鉛(千t) 0.6 1.7 2.9 4.6 4.2

亜鉛(千t) 1.4 3.4 4.4 7.0 7.9

銀(t) 7.0 23.2 40.4 47.3 43.6

(出典:Capstone社 HP)

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⑨ La�Colorada(ラ・コロラダ)鉱山本鉱山は、Sabinas 鉱山南南西方約 10km のドゥラン

ゴ州との州境付近に位置する銀を主とする多金属鉱山である。加 Pan American Silver Corp. が保有する。毎

年 100t以上の銀を生産し、2010 年の銀の生産量は、メキシコ第9位である。近年、鉛、亜鉛の生産量も増加傾向にある。

⑩Aranzazu(アランサス)鉱山本鉱山は、Peñasquito 鉱山の南東約 10km に位置す

る銅を主とする鉱山である。加 Aura Minerales Inc. が保有し、2011 年2月に商業生産を開始した。年間平均生産予定量は、銅 4.09~ 4.54 千t、金 0.19~ 0.25t及び銀 4.0~ 4.4tと見積もられている。

同社は、2008 年6月に Arroyos Azules(アロージョス・アスーレス)銅鉱山及び周辺の銅・金・銀スカルン鉱床の権益 100%を獲得したが、銅価格の下落等から 2008 年 12 月から操業を一時的に停止していた。粗鉱処理量は、2008 年当時の 654t/ 日から 2,600t/ 日に拡大されている。

⑪San�José(サン・ホセ)鉱山本鉱山は、英 Arian Silver Corp. が保有する銀鉱山で、

サカテカス市の東方約 55km のアグアスカリエンテ州

の州境付近に位置する。2010 年 Q4 に商業生産が開始され、粗鉱処理量は 1,500t/ 日となっている。

表9. La Colorada鉱山生産量(純分)

2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

銀(t) 108.7 123.3 121.6 107.9 115.1

金(t) 0.11 0.12 0.12 0.20 0.13

鉛(千t) 0.2 0.7 1.0 1.2 1.4

亜鉛(千t) 0.0 0.9 1.8 2.3 2.9

(出典:Pan�American社 HP)

表10. Aranzazu鉱山の概測・精測資源量(銅のカットオフ品位0.5%)

表11. Aranzazu鉱山生産量(純分)

表12. San José鉱山の資源量

表13. San José鉱山の生産量(純分)

(出典:Aura�Minerals社 HP)

(出典:Aura�Minerals社 HP)

(出典:Arian�Silver社 HP)

(出典:Arian�Silver社 HP)

資源量(百万t)

平均品位 含有量

銅(%) 金(g /t) 銀(g /t) 銅(千t) 金(t) 銀(t)

32.29 1.11 0.54 13.59 359 17.4 439

鉱量(千t)

平均品位 含有量

銀(g /t) 鉛(%) 亜鉛(%) 銀(t) 鉛(千t) 亜鉛(千t)

概測資源量 2,196 127.7 0.51 0.88 281 11.2 19.2

予測資源量 11,190 93.8 0.39 0.83 1,050 43.4 93.2

2011年 Q1 2011年 Q2 2011年 Q3

銅(t) 405 698 986

金(kg) 19 49 48

銀(t) 0.84 0.81 0.74

2010年 Q4 2011年 Q1 2011年 Q2 2011年 Q3

銀(t) 0.29 1.44 1.85 2.05

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⑫San�Martin(サン・マルチン)鉱山本鉱山は、Grupo Mexico の所有で La Colorada 鉱山

の北東直近のドゥランゴ州との州境付近に位置する。2007 年7月の労組ストライキ以来、一時操業停止中である(同時に一時操業停止した鉱山のなかには廃山を公表したところもあるが、本鉱山については未だに同社所有鉱山としている。)。

(3)サカテカス州の主要な探鉱開発プロジェクトの現状①Noche�Buena(ノチェ・ブエナ)プロジェクト

Goldcorp が 100%権益を持つ多金属プロジェクトで、

Peñasquito 鉱山の北西5km に位置する。同社は、②の Camino Rojo プロジェクトとともに Peñasquito 鉱山の衛星鉱山と位置付けており、同鉱山のプラントを使うことで低価格の操業を可能にするとしている。現在は、表 14 の資源量(2010 年末現在)の増加を目指してボーリング調査を行っているところである。なお、Goldcorp は、開発段階のプロジェクトと位置付けている。2015 年以降の操業開始としているが、Peñasquito鉱 山 と 距 離 が 近 い た め、2014 年 操 業 開 始 予 定 のCamino Rojo プロジェクトよりも先に操業開始するのではないかとの見方もある。

②Camino�Rojo(カミノ・ロッホ)プロジェクトGoldcorp が 100%権益を持つ多金属プロジェクトで、

Peñasquito 鉱山の南東約 50km に位置する。同社は、①の Noche Buena プロジェクトとともに Peñasquito鉱山の衛星鉱山と位置付けており、同鉱山のプラント

を使うことで低価格の操業を可能にするとしている。現在は、表 15 の資源量(2010 年末現在)の増加を目指してボーリング調査を行っているところである。なお、Goldcorp は、開発段階のプロジェクトと位置付けている。2014 年操業開始予定となっている。

③Miguel��Auza(ミゲル・アウサ)プロジェクト本プロジェクトは、サカテカス市の北北西約 150km

のドゥランゴ州との州境付近に位置している。2007 年から 2008 年にかけて、加 Silver Eagle Mines Inc. が銀を主とする多金属鉱山を最大で粗鉱処理量 600t/ 日で操業していたが、金属価格の低迷により操業を中止し、同社は 2009 年6月に加 Excellon Resources Inc. に買収合併された。

Excellon 社は、操業再開に向け資源量調査を実施している。

④Del�Toro(デル・トロ)プロジェクト本プロジェクトは、Sabinas 鉱山南方直近のドゥラ

ンゴ州との州境近くに位置する。加 First Majestic Silver Corp. が 100%権益を保有しており、同社がDurango 州に持つ La Parilla 銀鉱山から車で 1 時間の距離にある。精測・概測資源量は、銀換算で 653tとなっている。現在、1,000t/ 日の粗鉱処理量を持つ選鉱プラント他の鉱山設備を建設中で、2012 年 Q2 に操

業開始、2012 年 Q3 に商業生産開始の計画である。

⑤San�Nicolas(サン・ニコラス)プロジェクト本プロジェクトは、サカテカス市の南東約 60km に

位置する。加 Teck Resources 社が 79%の権益を有している銅、亜鉛、銀及び金のプロジェクトである。同社 HP には操業開始時期の見通しが出ていないが、2011 年 10 月の第 29 回メキシコ国際鉱業大会(Expomin Mexico 2011)の特別講演「鉛、亜鉛、銅の受給見通し」の中で International Group of Lead and Zinc Resarch社の講演者が早ければ 2012 年にも操業を開始する可能性があると述べていた。

表14. Noche Buenaプロジェクトの資源量

(出典:Goldcorp社 HP)

鉱量(百万t)

平均品位 含有量

金(g /t) 銀(g /t) 金(t) 銀(t)

概測資源量 71.75 0.42 14.1 30 1,009

予測資源量 17.67 0.42 13.9  7  249

表15. Camino Rojoプロジェクトの資源量

(出典:Goldcorp社 HP)

鉱量(百万t)

品位(金、銀はg /t、他は%) 含有量

金 銀 鉛 亜鉛 金(t) 銀(t) 鉛(千t) 亜鉛(千t)

概測 163.39 0.65 11.6 0.19 0.37 107 1,888 315.5 607.9

予測 31.03 0.55 7.6 0.09 0.31 17 237 29.5 97.6

表16. San Nicolasプロジェクトの資源量

(出典:Teck�Resources社 HP)

資源量(百万t)

平均品位

亜鉛(%) 銅(%)

精測資源量 1.9 3.6 0.73

概測資源量 78.1 1.8 1.34

予測資源量 7.0 1.4 1.28

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(4)サカテカス州の主な金属処理プラントの現状サカテカス州には小規模なものも含め、13 の金属処

理プラントが存在するが、小規模鉱山の操業を可能とするため、サカテカス市から北西に5km に粗鉱処理量 500t/ 日の州営の選鉱プラントを建設中であり、2011 年 12 月完成予定となっている。州政府は、27 の

小規模鉱山所有者と契約を締結し、組合を組織している。なお、処理料金は、金属価格によって変動するが、現在 40US$/tとしている。また、この選鉱プラントが成功した場合には、2014 年を目途に州営の小規模製錬所を建設する計画もある。

おわりにメキシコは、北米のロッキー山脈から南米のアンデ

ス山脈に至るコルディレラ山系に位置する。この山系はメキシコにおいて2~3列の山脈が高原をはさむ形で南北に連なっている。その一番西側がシエラネバダ山脈で、バハカリフォルニア半島となっている(カレントトピックス 11-43「バハカリフォルニア半島の鉱業の現状と自然保護地域での鉱業活動について」を参照されたい)。更に西側から順に西シエラマドレ山脈、東シエラマドレ山脈が南北に連なっている。

従来サカテカス州の鉱業の中心は、西シエラマドレ山脈周辺が中心であったが、近年、東シエラマドレ山

脈周辺の鉱業開発も進んでいる。特に、Peñasquito 鉱山は、2012 年 Q1 に予定されるフル操業後の年間予定生産量が金 15.6t、銀 871t、鉛 90.8 千t、亜鉛 204.3千tと膨大であり、サカテカス州の鉱業生産は今後ますます増大するものと予想される。なお、東シエラマドレ山脈周辺の鉱山は、地表から深度が増すに従って、銅の品位が高くなる傾向が見られるが、Peñasquito 鉱山も同様の傾向が見られるとのことであった。

メキシコ事務所では、今後とも重要性が増すと考えられるサカテカス州等主要な鉱業州の鉱業の概要をフォローアップし、適宜報告していきたい。

(2011.11.16)

表17. サカテカス州の主要な金属処理プラント

図8. サカテカス州の主要な鉱山及び探鉱開発プロジェクトの位置図

(出典:SGMサカテカス事務所)

名 称 所有者 操業システム処理量

(t /日)対象鉱物

Fresnillo Peñoles 浮遊選鉱 8,000 Au、Ag、PbFrancisco.I.Madero Peñoles 浮遊選鉱 8,000 Pb、ZnSabinas Peñoles 浮遊選鉱 3,000 Cu、Ag、Zn、PbSaucito Peñoles 浮遊選鉱及びリーチング 3,000 Au、Ag

Peñasquito Goldcorp浮遊選鉱 420,000 Zn、Pb、Ag、Auリーチング 130,000 Au、Ag

Tayahua Frisco 浮遊選鉱 3,000 Cu、Ag、Zn、PbEl�Coronel Frisco リーチング 30,000 Au、AgCozamin Capstone 浮遊選鉱 3,500 Cu、Zn、Pb、AgLa�Colorada Pan�American シアン抽出 550 Ag、Pb、ZnAranzazu Aura�Minerals 浮遊選鉱 2,600 Cu、Au、Ag

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