情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000267.pdf ·...

21
113 情報技術による企業のプロセス ・イノベーショ ン戦略 は じめに プロセス ・イノベーションの成功要因 情報技術活用の展開 プロセス ・イノベーションと情報技術 おわ りに は じめ に 近年、情報技術 は企業経営 に大 きなイ ンパ ク トを与 え るツール と して認識 されて いる。 それ は、情報技術 の革新性 が コス ト、 品質、 ス ピー ドとい った企業 の業績基準 を劇 的 に改善す る可 能性 を持 ち、今 日の変化 の激 しい競争環境下 にお いて企業 に競争 優位 を もた らすか らであ る。 そもそも、情報技術の企業経営 における役割は、業務処理あるいはマネジメントレベルでの 意思決定支援であった。 もちろん このような役割 も重要であるが、今 日より注 目されているの は 「経営戦略実施の手段」 としての役割である。情報技術その ものが戦略実行の担い手になる とい うのである。 この考 え方 を は じめて展開 したのがC. ワイズマ ンであ り、 こ うした情報技術 の活用方法を SIS (戦略的情報 システム) と名付 けた。例えば、製造 メーカーでは、新製品 開発 においてCAD (コ ンピュー タ支援設計)、 CAM (コ ンピュー タ支援 生 産 ) を活 用 す る ことで、大幅な リー ドタイム短縮 が可能 になる。新製品の リー ドタイムを短縮す ることは企業 にとって重要な業績であり、戟略実行の一部であるが、情報技術 自体がそれを可能にするので ある。 しか し、情報技術 を取 り入 れ るだ けで戟略 を実行 で きると考 え るべ きで はな い。 む しろその 使い方にこそ戦略性を兄い出すべ きである。情報技術 さえ導入すればという安易な考えか らS ISも失敗 した と言 われて い る。 そ こには、 それ までの業務 のや り方 を情報技術 で変 え るとい う発想が欠けていたのである。 こうした展開か ら、現在では業務のや り方っまりビジネス ・プロセスを変えるために情報技 術 を活用 しよ うとい う動 きが主流 とな って きて い る。 この ビジネス ・プ ロセスに焦点 を当てた 経営革新 は、M. -マーと J. チ ャンピーが リエ ンジニア リング1)と して、 T.H. ダベ ンポー トが キ ー ワー ド :プ ロセ ス ・イ ノベー シ ョン、情報技術、 コ ンカ レン ト・エ ンジニ ア リング、 ビジネ ス 目標 の達成

Transcript of 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000267.pdf ·...

Page 1: 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000267.pdf · 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略

113

情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略

稲 村

Ⅰ はじめに

Ⅱ プロセス ・イノベーションの成功要因

Ⅱ 情報技術活用の展開

Ⅳ プロセス ・イノベーションと情報技術

Ⅴ おわりに

Ⅰ はじめに

近年、情報技術は企業経営に大きなインパクトを与えるツールとして認識されている。それ

は、情報技術の革新性がコスト、品質、スピー ドといった企業の業績基準を劇的に改善する可

能性を持ち、今日の変化の激 しい競争環境下において企業に競争優位をもたらすからである。

そもそも、情報技術の企業経営における役割は、業務処理あるいはマネジメントレベルでの

意思決定支援であった。もちろんこのような役割も重要であるが、今日より注目されているの

は 「経営戦略実施の手段」としての役割である。情報技術そのものが戦略実行の担い手になる

というのである。この考え方をはじめて展開したのがC.ワイズマンであり、こうした情報技術

の活用方法をSIS (戦略的情報システム)と名付けた。例えば、製造メーカーでは、新製品

開発においてCAD (コンピュータ支援設計)、CAM (コンピュータ支援生産)を活用する

ことで、大幅なリー ドタイム短縮が可能になる。新製品のリー ドタイムを短縮することは企業

にとって重要な業績であり、戟略実行の一部であるが、情報技術自体がそれを可能にするので

ある。

しかし、情報技術を取り入れるだけで戟略を実行できると考えるべきではない。むしろその

使い方にこそ戦略性を兄い出すべきである。情報技術さえ導入すればという安易な考えからS

ISも失敗 したと言われている。そこには、それまでの業務のやり方を情報技術で変えるとい

う発想が欠けていたのである。

こうした展開から、現在では業務のやり方っまりビジネス・プロセスを変えるために情報技

術を活用しようという動きが主流となってきている。このビジネス ・プロセスに焦点を当てた

経営革新は、M.-マーとJ.チャンピーが リエンジニアリング1)として、T.H.ダベンポー トが

キー ワー ド:プロセス ・イノベーション、情報技術、コンカレント・エンジニアリング、 ビジネス目標

の達成

Page 2: 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000267.pdf · 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略

114 経営研究 第48巻 第 1号

プロセス ・イノベーション2)として提唱したものである。 リエンジニアリングとプロセス・イ

ノベーションは、プロセスの変革を通 して企業の業績を向上させるという意味においては同義

であるが、プロセス ・イノベーションには、イノベーションという言葉に、プロセスだけでな

く技術的、組織的、人的側面での革新も含まれており、これから新 しいプロセスの設計に取 り

組もうとしている経営者あるいは従業員に革新というものをより強く意識させるという点で、

本稿ではプロセス ・イノベーションを支持 し、その用語を用いていく 0

ビジネス・プロセスとは、「特定の顧客あるいは市場に対 して特定のアウ トプットを作 り出

すためにデザインされ構造化された評価可能な一連の活動」3)であり、製品開発、受注管理、

サービスなどに代表されるように、顧客に対 して価値を生み出す企業にとって重要な活動であ

るoそれぞれのプロセスには、例えば製品開発プロセスならば研究開発、マーケティング、生

産というようにいくつかの職能部門の業務が含まれる。そこでの情報技術の役割は、従来のよ

うに各職能における業務の能率を上げることで数パーセントの改善を目指すものではなく、そ

の革新性を生かしてビジネス ・プロセス全体を変革することで戦略を実行 し、「鍵 となるプロ

セスにおいて60パーセント、100パーセントあるいはもっと高い改善 レベルの目標」4)を達成す

ることである。

確かに、ビジネス・プロセス全体を変革の対象とすることは、実質的に組織革新や従業員の

意識革新を必要とし、企業にとっては大きな苦痛を伴うことになるだろう。 しかし、革新では

ない漸進的な改善ではもはや今日のグローバルな競争環境で生き残れない状況にあり、そのた

めプロセス・イノベーションは緊急の課題となりつつある。

そこで、本稿ではプロセス・イノベーションの推進に際しての情報技術活用について、戦略

実行という側面からの検討 も加えながら若干の考察を試みたい。

Ⅱ プロセス ・イノベーションの成功要因

1.プロセス ・イノベーションの概要

企業が性急にプロセス ・イノベーションに着手 しなければならない背景として、現在の業務

の非効率性がある。顧客からの問い合わせへの対応のまずさ、製品開発の遅れ、過剰在庫など

はその典型である。これらの非効率は企業から容赦なく競争力を奪っていくが、その原因の第

一は、現代企業の持病とも言うべき職能指向のアプローチにある。顧客にとって価値のある、

すなわち企業に収益を生み出す業務のほとんどは職能横断的であり、時間を短縮 したり、質の

高い顧客サービスを行うためには職能間の連結が重要になる。 しかし、多くの企業では相変わ

らず職能あるいは部門内の改善に注力し、業務の流れを重視 したプロセス指向にはなっていな

い。「たとえば、製造部門は長い年月をかけて、サイクルタイムと品質を改善 してきた。 しか

し、これらの改善はしばしば他の職能との調整が十分でないために、その成果が顧客を満足さ

せるには至っていない。製品が速 く製造されても、顧客の信用チェックや受注の確認に手間取っ

Page 3: 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000267.pdf · 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略

情報技術による企業のプロセス ・イノベーション戦略(稲村) 115

て、倉庫に眠っているようなことが起こる。このように、職能的改善の成果は、たとえそれが

完全に達成されたとしても、限られたものでしかない」5)のである。

一方、プロセス指向における革新は大きな成果が期待できる。 これまでに、プロセス指向を

取り入れた改善方法の1つとして継続的改善プログラム (CIPs:Continuouslmprovement

Programs)があり、それがしばしば日本企業の成功の主要因と言われてきた6)。 しか し、 も

はやそれでは十分とは言えず、プロセス・イノベーションを成功させた企業の前ではその改善

成果も色あせて見える。プロセス ・イノベーションに着手する必要のある企業にとって、例え

ばコダックの事例は成果の面でも、さらにプロセス・イノベーションを成功させるための要因

を識別するためにも魅力的であろう。

コダックの最大のライバルである富士フイルムが1987年新たに35ミリの使い捨てカメラを開

発した。当時コダックにはそれに対抗できる製品がないどころか開発さえしておらず、たとえ

開発するとしても、従来の製品開発プロセスでは新製品を製造するのに約70週間かかり、この

ままでは新しい市場で富士フイルムに優位性を奪われることが予想された。そこで、現状を打

開するために、コダックは製品開発プロセスの変革に踏み切ったのである。プロセスの変革は

設計の各ステップの同時進行というかたちで進められ、そのためボディ設計、シャッター設計、

フイルム先送り機能設計に関する情報がデータベースに統合された。これまで存在 していた各

設計部門間の壁が取り払われたのである.このデータベースには毎日、各設計担当者の業務に

関する情報が集められ、それぞれの業務の進捗状況が1つにまとめられている。 そして、設計

に関わる人は毎日このデータベースを調べ、前日の誰かの業務によって自分のところや設計全

体に影響がでないかどうかチェックする。もし影響を受けるならば、以前のプロセスのように

製造の段階になってまた初めからやり直すということがないよう、事前に解決することが可能

になった。こうして、製品開発にかかる時間が約半分の38週間に短縮され、新市場で富士フイ

ルムに遅れをとらずに済んだばかりでなく、さらに製品設計の段階から製造担当の技師も製造

用工作機械の設計をはじめることができるようになり、工作機械とカメラの製造コストを25パー

セント削減したのである7)。製品サイクルタイムの50%短縮と製造コストの25%削減は継続狗

改善プログラムでは不可能な数字であり、プロセス・イノベーションの意義はまさにここにあ

ると言える.そして、プロセス・イノベーションによる劇的な改善を通して-マーとチャンピー

が3Cと呼ぶ顧客(Customer)、競争(Competition)、変化(Change)に対応 していくことがで

きるのである。

また、この事例にはプロセス・イノベーションのエッセンスがちりばめられている。それは、

企業のビジネス戦略にリンクしたプロセスを選択 し、情報技術によってそのプロセスを変革し

たこと、そして、組織の壁に穴を開け、職能横断的に製品開発チームとして業務を実行したこ

とである。

Page 4: 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000267.pdf · 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略

116 経営研究 第48巻 第1号

2.プロセス ・イノベーションを成功に導く3つの要因

(1) 企業戦略とリンクしたプロセスの選択

プロセス・イノベーションを実行するに際してまずはじめに重要なことは、企業に存在する

様々などジネス ・プロセスを識別 し、その中のどのプロセスを変革対象として選択するかであ

る。この作業がプロセス ・イノベーションを成功させるためにクリティカルである理由は、第

-に選択するプロセスによって変革後の成果が異なるということ、そしてより根本的な問題で

あるが、第二に資源的制約 (人、金、時間)と組織的制約 (組織が変革の大きさに耐えうる限

皮)のため一度に一つのプロセスしか変革できないということである。企業は、一度のプロセ

ス・イノベーションでできるだけ大きな成果を得たいものであり、そのため変革対象プロセス

の選択は決定的に重要な意味を持っ。ここでは、プロセスの戦略性とプロセスの大きさという

2つの次元に注目して選択の基準を示 したい。

まずプロセスの戦略性であるが、「プロセス選択の最も明快なアプローチは、組織の戦略を

達成するために最 も中心となるプロセスを選択することである」8)とダベンポー トも述べてい

るように、これを第-の選択基準にすべきである。「ただしこの場合には、組織が明確に表現

された戦略を持っていることが前提となる」9)。多 くの事例では、この基準を満たすことによっ

て劇的な改善を実現 している。例えばできるだけ多 くの顧客を獲得するという企業の本質的な

活動から、顧客と接する機会の多い受注管理プロセスやサービス ・プロセスを選択 し革新する

ことは良い結果につながる。処理時間の短縮や迅速な対応というビジネス・スピー ドが達成さ

れ結果的に顧客満足が向上 し、より効果的なプロセス・イノベーションが可能になるからであ

る。

もう一つの基準となるプロセスの大きさは、プロセスの識別というプロセス選択の前段階と

も関連 してくるものであるが、企業に存在するビジネス ・プロセスをどのような大きさで識別

し、どのような大きさのプロセスを変革対象とするかということである。プロセスの大きさは

第一の基準である戦略性とも密接に関連するので、戦略性を考慮するためのサポー ト的役割を

果たすものでもある。この点に関 してG.ホールらは "リデザインされるプロセスの幅''とし

て単一職能内のプロセスからビジネス・ユニット全体にまたがるプロセスまでを設定 し、その

プロセスの幅によってコスト削減効果がどれだけ違うかを事例調査している (図一Ⅱ-1参照)0

そして、狭い範囲のプロセス改善は収益を生まないと結論づけ、競争優位を得るためにはプロ

セスを広 く定義すべきであると主張 している10)。私見もこれと一致 しているが、単一職能内の

プロセス●には戦略的機会が少ないとはいえゼロだとは言い切れないので、ここでは便宜上プロ

セスの大きさを製造プロセスなどの単一職能内プロセス、製品開発プロセスに代表される職能

横断プロセス、アウトソーシングやバーチャル ・コーポレーションなどにともなう企業間プロ

セスという3つに区分する。

効果的なプロセス選択の方法としては、選択の基準である戦略性と大きさという2つの次元

Page 5: 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000267.pdf · 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略

情報技術による企業のプロセス ・イノベーション戟略(稲村) 117

からなるマ トリックスに企業の主要などジネス ・プロセスを列挙 し、優先順位付けの結果、変

革対象プロセスを決定するのがよいだろう。その際には、やはり職能横断プロセスと企業間プ

ロセスをプロセス ・イノベーションの対象プロセスとし、単一職能内プロセスはプロセス改善

のための候補とすべきである (図-Ⅱ-2参照)。

プロセスの幅はビジネス ・ユニット全体

ビジネス ・ユニットのコス ト削減率17%

狭 い

単一活動

I

企業間プロセス

職能横断

プロセス

単一職能内

プロセス

単一職能

出所)Hall,G.,Rosenthal,J.,&J.Wade,"How toMakeReenglneeringReally Work",HaT・UardBusinessReuL'ew(November-December1993)

p.121

広 い

競争優位にかかわる

すべてのビジネス活動

図-Ⅱ-1

戦略性

図-Ⅱ-2 プロセスの戦略性と大きさ

≡ 喜

プロセス革新に

適するプロセス

プロセス改善に

適するプロセス

Page 6: 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000267.pdf · 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略

118 経営研究 第48巻 第 1号

(2)情報技術の適用 (コンカレント・エンジニアリングによるプロセスの再設計)

プロセス ・イノベーションという経営手法が登場 した背景には、業務革新を強力に支援する

情報技術の存在がある。単一職能内でのプロセス改善 レベルでは、流れを重視 して業務の順序

を変えたり、あるいは1人に複数業務を任せるなどの対応策で解決でき必ず しも情報技術の支

援を必要としないかもしれないが、職能横断プロセスや企業間プロセスで革新的な変革を達成

しようとすれば情報伝達において時間的 ・空間的制約を解消する情報技術の支援が不可欠にな

る。広い範囲での情報交換や情報共有が達成されない限り職能間、企業間に存在する膨大な調

整時間や調整作業などの非効率を排除 しにくいからである。 しかし、状況的にはむしろ情報技

術の革新性がビジネスのやり方を変え、業務効率を上げることを促進 していると言える。情報

技術のこうした能力については、N.ベンカ トラマンが情報技術活用の高次の レベルとして

「事業プロセスの再設計」を挙げ、「ここで重要な前提になるのは、このレベルではITが事業

プロセスを設計するための手段であり、これまでのレベルのように既存の組織のコンテクス ト

に合わせるようなものではないことである」11)と述べ、さらにD.タブスコットとA.キャス トン

が情報技術の応用における重大な転換として 「業務グループコンピューティング」に言及 し、

「業務グループシステムは、もしうまく設計され実行されれば、 ビジネス ・プロセスや業務 自

体を再設計する際の焦点 となりうる」12)と述べており、ここでの見解と一致するところである。

ただし、プロセス ・イノベーションでは、従来のように情報技術主導ではなく、情報技術が提

供する革新的な能力とビジネス側からの要請によって効率的に再設計されたビジネス ・プロセ

スをうまく組み合わせることが大切であり、それが実現 したとき劇的な効果をもたらすといえ

る。

では、どうすれば情報技術の能力と効率的なビジネス・プロセスを組み合わせることができ

るのだろうか。情報技術の活用方法については後にくわしく考察するが、ここではプロセス ・

イノベーションを実行する際の核心となりうると思われる1つの方法としてコンカレント・エ

ンジニアリングについて言及する。コンカレント・エンジニアリングとは先程のコダックの事

例のように、製造企業が製品開発において、それに関わる様々な活動を順次的ではなくできる

だけ同時並行的に進行させようとする技術であるが、その効果が端的には時間の短縮というか

たちで現われることから、最近ではアジル (俊敏)という言葉で表現されているようにビジネ

スのあらゆるシーンでスピー ドが求められる今日、非常に注目されているものである。S.L.ゴー

ル ドマンらは、アジルについて 「俊敏性とは、事業が直面する挑戦への包括的対応であり、顧

客に応 じて作 られる高品質、高性能のモノとサービスからなるグローバルな市場が、急速に変

化、断片化 し続ける中で、利益を得ることである」13)と定義 し、今日の経営においては、速い

ことが戦略的に不可欠な用件であると主張 している。このコンカレント・エンジニアリングを

実現するためには、各業務担当者がお互いに他の進捗状況を知 らなければならないので、広い

範囲で リアルタイムに情報を共有 し交換する必要があるがこれを共有データベースなどの情報

Page 7: 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000267.pdf · 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略

情報技術による企業のプロセス ・イノベーション戦略(稲村) 119

技術が支援するのである。その際、情報の流れが従来と変わるところがポイントである。情報

技術により同時並行的なプロセスへと再設計することで、業務が職能間を順次的に進み、その

ため無駄な時間や ミスを発生させるという現代企業の職能指向病が効果的に治療され、劇的に

プロセス遂行時間が短縮するのである (図-Ⅱ13参照).そこで、この技術を製品開発プロ

セスだけではなく企業内の様々なプロセスで応用 し、 ビジネス ・スピー ドを追求 していくこと

がプロセス・イノベーションの中心的課題であると考える。

<従来の順次的プロセス>

短縮される時間

<再設計された同時並行的プロセス>

ステ ップ 1

ステッ プ2

ステッ プ3

▲‥‥・‥‥‥-

データベース

く=

1日・----一・一一--・------・・・・・トL情報の流れ

図-Ⅱ-3 コンカレント・エンジニアリングによるプロセスの再設計

(3)組織革新 (チーム制と権限委譲)

「管理者は、プロセス ・イノベーションが本質的に組織変革である、ということを認識 しな

ければならない」14)とダベンポー トが述べているように、プロセス ・イノベーション戦略は言

い換えれば組織革新戦略であるということもできる。なぜなら、 ビジネス ・プロセスの多くは

職能横断的であり、プロセス ・イノベーションによってプロセス単位で業務を行 うようになる

と、必然的に職能間の壁はなくなるからである。そこでは、従来の職能指向組織から新たなプ

ロセス指向組織への移行が基本となる。 しかし、プロセス ・イノベーションは、同じ組織革新

戦略として一時話題となったリス トラクチャリングとは本質的に違うものである。その根本的

Page 8: 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000267.pdf · 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略

120 経営研究 第48巻 第 1号

な相違点は、 リストラクチャリングが組織機構のみに手を加え、業務のやり方すなわちプロセ

スは変化の対象としていないのに対 し、プロセス・イノベーションは組織とプロセスの両方を

革新の対象としている点である。また、しばしばリストラクチャリングが疾患部分を切り取る

外科的治療、プロセス・イノベーションが切断することなく細胞部分から再生させる内科的治

療とたとえられるように15)、実施後は、内部っまり業務のやり方から変えていったプロセス ・

イノベーションの方が元気に回復 し、競争力が増すという点も大きな違いである。

このプロセス・イノベーションにおける組織革新は、組織をプロセス指向にするために不可

欠な要素であるが、その具体的な方法の1つとしてチーム制の導入がある。 ダベンポー トも

「最も強力な組織変革は、プロセスの流れに沿った各種作業を、チームにより構造化すること

である」16)と述べている。実際、チーム制を採用することで職能別組織で発生 したいくつかの

デメリットを解決することができる。まず、それまで別々の部門に分かれていた複数の職能が

1つのチームに統合され、「職能部門間の連結強化、デザインの並列化」17)が達成される。それ

により、従来は部門間を渡るたびに発生 していた書類の待ち時間がなくなり、また作業を同時

並行的に行うコンカレント・エンジニアリングが可能になるため、 1つのプロセスにかかる時

間の大幅短縮、生産性の劇的向上がもたらされるのである。さらに、チームでプロセス全体の

作業を遂行することでチーム目標とプロセス目標が合致 し、職能別組織では希薄になりつつあっ

た従業員一人一人の目標も明確になるのである。このように、組織機能の側面からチーム制に

メリットがあるのは明らかであるが、チーム制をまた違う側面から、効果的な情報技術の支援

機会を提供するものとして見ることもできる。この点に関 してタブスコットとキャス トンは

「業務グループシステムでは、ビジネスユニットの業務プロセスを簡素化 し、業務の性格を変

えることが可能である。 その結果は典型的には、業務完了までにかかる時間の短縮に現れ

る」18)と述べ、情報技術をチーム作業の支援に活用することの意義を主張 している. プロセス

指向を実現するチーム制は、組織機能を回復させるためにも、情報技術を有効に活用するため

にも効果的だということである。ただし、チーム制を本当の意味で成功させるためには、チー

ムという形だけではだめで、チーム構成員への権限の委譲が確立 していることが大切である。

現場の人間に決定を任せなければ、プロセス・イノベーションの主要な成果であるビジネス ・

スピー ドは達成できないからである。チーム制とチーム構成員への権限委譲はプロセス・イノ

ベーションの有力な成功要因であり、そのため企業は組織構造と同時に従業員の意識改革など

組織文化も変革の対象としなければならない19)0

Ⅲ 情報技術活用の展開

プロセス・イノベーションにおける情報技術の活用機会を詳 しく検討する前に、情報技術の

これまでの活用方法を概観 し、今日的な役割についてより理解を深めておく。

企業における情報技術の役割は、SISという1つの概念的転換を境に、大きく分けて 「伝

Page 9: 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000267.pdf · 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略

情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略(稲村) 121

続的活用」と 「戦略的活用」の2つに分類できる。この分類はワイズマンの慣習的パースペク

ティブと戦略的パースペクティブ20)、J.スタークの 「伝統的」EDP-MIS環境と 「将来的」

IT環境21)という分類と対応 している。「伝統的活用」にはデータ処理、情報処理、意思決定

支援、「戦略的活用」には戦略実行の支援とプロセス変革の支援がそれぞれ含まれる。

1.情報技術の伝統的活用

企業が情報技術を取り入れた初期の段階として、EDP(電子データ処理)、MIS(経営

情報システム)がある。EDPの主な用途は、基本業務の機械化であり、受発注や給与計算な

どの大量のデータを汎用コンピュータを使って一括処理するものである.こうした構造化され

た業務は機械化に適 しており、事務部門でのコス ト削減を目的に多くの企業で実施されてきて

いる。そして、MISは、こうして処理 したデータを企業経営に生かせないものかといったニー

ズから登場 してきた概念である。G.B.デービスはMISを 「組織におけるさまざまなオペレー

ション機能、管理機能および意思決定機能を支援する情報を提供するための統合化されたマン・

マシン・システムである」22)と定義 しているが、そこに見られるように、MISには、処理さ

れた トランザクション・データを簡単に加工 して要約的な情報に変換 し、いろいろな管理階層

の人間の意思決定に役立てようとする意図があった。1960年代中頃に登場 したMISは、当時

非常に注目を集めたが、理想とは裏腹に、実際には処理されたデータは事実の記録にとどまる

ことが多く、意思決定に生かされる情報をほとんど提供できなかった。こうしてMISは、単

に定型的な トランザクション処理をこなすものに過ぎないという認識が一般化 し、それが今日

のMISの狭義の定義となったのである。MISが失敗 した原因はいろいろ考えられるが、第

一に、当時の技術的レベルの問題、第二に、情報と意思決定との関わりについての理解不足な

どが挙げられるだろう。

データ処理から情報処理への発展は1970年代後半に見られる。 この頃になるとそれまでコン

ピュータ化といった面で取り残された半構造的な事務機能を機械化 しようとする動きが現れた。

これはOA (オフィス・オー トメーション)といわれる概念であり、そこでは情報処理の専門

家ではないエンド・ユーザが自分のニーズに合った情報を得ようと、いわゆるOA機器を用い

て自ら現場でデータを処理 しはじめた。この動きはEUC(エンド・ユーザ ・コンピューティ

ング)と呼ばれており、具体的な意思決定を意識 した情報処理を行うことを目的としたもので

ある。EUCは広 く普及 していくことになるが、その背景としては、まず情報処理部門では的

確に対応 していくことが困難な非定型的情報処理要求に対 して "自前のデータ"を蓄積 し、そ

れを処理することで対応 していこうというエンド・ユーザの関心が高まったこと、また、PC

やWS (ワークステーション)の価格性能比が著 しく向上 し、エンド・ユーザが容易に自らの

コンピュータ利用環境を用意できるようになったこと、さらにオフィス以外、たとえば出張先

や自宅で情報処理を行うという作業環境の多様化がEUCを必然的なものにしたことなど多数

Page 10: 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000267.pdf · 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略

122 経営研究 第48巻 第 1号

促進要因があったといえる。EUCは最初はスタンド・アローンであったが、その後企業内、

企業間でネットワーク化され、情報の交換や情報の共有が行われるようになる。そしてその過

程で、EUCにより戟略的な事業機会が提供されうるということが認識されてきたのである。

現場のニーズを満たす情報をェンド・ユーザが自ら処理するというEUCの流れはDSS

(意思決定支援システム)の登場につながる。DSSの主な機能は、エンド・ユーザに検索 と

分析の能力を与え、かれらの意思決定を支援することにある。H.A.サイモンによると、人

間の意思決定過程には①情報活動、②代替案設計活動、③代替案選択活動、という3つの局面

があるという23).DSSはこれらの意思決定過程において必要となる情報の検索や分析を支援

するのである。氏.H.スプレーグJr.とE.D.カールソンはDSSの狭義の定義を 「非構造化

問題を解決するためのデータとモデルを利用する意思決定者を支援する対話型のコンピュータ

ベースシステム」24)とし、その特徴として、(1)経営者が一般的に直面する、あまり構造化され

ておらず、特定不十分な問題の解決、(2)データアクセスや検索機能とモデルや分析技法の結合、

(3)コンピュータを専門としない人たちにも容易に利用できる対話形式、(4)エンド・ユーザの意

思決定アプローチや環境変化に対応できる柔軟性と融通性25)、を挙げている。DSSの主な対

象は経営者であるが、プロセス・イノベーションでもDSSやES(ェキスパートシステム)

を活用して従業員に意思決定を行わせ、意思決定を含むプロセスを革新することがあるように、

最近ではその対象は全従業員にまで広がっている。また経営者 (役員)には、DSSにはない

機能を持っEIS(経営者情報システム)が支援ツールとして登場 している。DSSの使用例

としては、特定の情報についてのデータ・ベースの検索やプランニング・モデルをテストする

ためのシナリオの作成などがあるが、そこに見られるように、DSSは概念的には意思決定と

情報処理の間のインターフェイスの役割を果たすものであるといえる0

2.情報技術の戦時的活用

戦略的活用以前の情報技術には、いかに意思決定に役立っ情報を提供できるかということに

焦点があてられてきた。そういった意味からDSSの登場で、情報技術の役割 としてそこに1

つの区切りができたといえる。完成域には未だ到達 していないが、意思決定支援を実行するツー

ルができたことで、伝統的活用の目的は一応達成されたのである。そして、次に出てきた概念

がSISである。伝統的活用の枠内ではDSSにより、戦略計画に関する意思決定は支援でき

る可能性はあるが、戦略そのものを支援することは不可能である。 しかし、SISは戦略の実

行に情報技術を活用 しようとする概念であり、販売、マーケティング、サービスなど企業の主

要業務に情報技術を適用する点で、それまでの活用法とは一線を画するものである。全国的に

ネットワーク化されたコンビニエンス・ス トアにおけるPOSシステムや全国的な規模でメー

カーと小売店を結んだ受発注システムなどは競争優位を得るために決定的に重要な意義をもっ

ものであったが、このように情報技術の活用そのものが戦略の達成につながる形式をとるので

Page 11: 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000267.pdf · 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略

情報技術による企業のプロセス・イノベーション戟略(稲村) 123

ある。こうした活用法に着目して、SISと名付けたのがワイズマンである。ワイズマンはそ

の定義を 「競争優位を獲得 ・維持 したり、敵対者の競争力を弱めたりするための計画である企

業の競争戦略を、支援あるいは形成する情報技術の活用である」26)としている。 そして、戦略

を達成するための具体的な行為としてコスト、差別化、革新、成長、提携という5つの戦略ス

ラストを提示している。この戦略スラストという概念を媒介にして情報技術と戦略を結び付け

ようというのである。戦略スラス トについてはプロセス・イノベーションでの情報技術の活用

においても重要な役割を持っため、また後に言及する。また、ワイズマンは革新スラストの中

でプロセスの革新に触れており、プロセス・イノベーションの原型をそこに見ることができ

る2').ともかく、SISは情報技術を会社の業績に関わるような業務の重要箇所に適用 し、企

業戦略を達成しようとする概念であり、今日的な情報技術の活用を明確にしたものであった。

こうして、SISを契機としで情報技術に対する期待は大きな高まりを見せた。企業戦略を

達成できるのだから業績が改善されるに違いないと経営者たちは考え、とにかく戦略的情報シ

ステムを構築しようとしたのである。 しかし、その期待に反 して多くの失敗事例が報告された。

そして、そもそも戦略的情報システムなどとはじめから呼べるシステムなどなく、成功事例は

結果としてそう呼べるだけであるという見解が有力になった。そこで、情報技術を活用して成

功 した企業を詳細に調査したところ、次のようなことが明らかになった。それは、業務の一連

の流れであるビジネス・プロセスを変革し、業務のやり方を変えるために情報技術を活用した

時に、戦略の達成につながるような大きな改善がもたらされていたのである。例えば、受発注

プロセスを変革して納入を迅速にし、顧客満足度を高めることで企業は競争優位を得ることが

できるが、このプロセス変革に情報技術を活用できるというのである。また、そこではSIS

には決定的に欠けているといわれた組織革新や従業員の意識革新という情報技術を生かすため

の他の要因も考慮されていた。こうした状況に注目したのが-マ-とチャンピーあるいはダベ

ンポートである。プロセス・イノベーション (リエンジニアリング)と呼ばれるこの経営手法

における情報技術の役割は、 ビジネス・プロセスを変革するための手段であり、SIS同様ビ

ジネスそのものを支援するのであるが、情報技術とプロセスを結び付けるという方法論が加わっ

ている点で、より情報技術の活用法が明確になったといえる。ダベンポー トが 「情報技術投資

それ自体を、経済的効果を提供するものとして期待することはもはやできない。プロセス変革

だけがそのような利益を生み出すことができるのであって、情報技術の役割は、新 しいプロセ

スのデザインを可能にすることである」28)と述べているように、企業にとって情報技術をプロ

セス変革のために活用することが今日的な課題なのである。

Ⅳ プロセス ・イノベーションと情報技術 :情報技術の活用機会

1.情報技術とプロセス

前述のように、情報技術とプロセスの関係は近年ますます密接なものになり、プロセスを従

Page 12: 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000267.pdf · 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略

124 経営研究 第48巻 第1号

釆よりも効率的あるいは効果的に機能させるためには、両者を同時に考慮する必要があると認

識されてきている。そのためには、企業は情報技術がプロセス変革を可能とするどのような能

力を持っているのか、つまりプロセス再設計のための情報技術の活用機会を理解 していなけれ

ばならないが、それがここでの考察対象である。企業間、部門間での情報共有によるプロセス

の同時並行化が中心的な課題であることは先ほど述べたが、情報技術の能力は他にもプロセス

変革の機会を提供する。競争優位を得るために、製品やサービスを生み出すプロセスに創造性

が求められる今日では、より多くの機会を追求 しなければならない。活用機会を検討するには

いくつかのアプローチが考えられる.例えば、ダベンポー トは、プロセス側からの視点に立っ

て、自動的、情報的、順序的、追跡的、分析的、地理的、統合的、知識的、直接的という9つ

を挙げている29).これらは 「情報技術によりプロセスを順序的にする、分析的にする」 という

ように、すべてプロセスをどのようにするかを基準に分類 したものである。 しかし、情報技術

の能力を理解するという意味においては、情報技術側からのアプローチも必要であると思われ

る。つまり、情報技術の本来的な役割として、情報をどのように扱うかという視点に立ったも

のである。そこで、ここでは情報に焦点を当てた活用機会として、次の8つを挙げる。

(1)情報の処理

(2)情報の共有

(3)情報の交換

(4)情報の統合

(5)情報の分析

(6)情報の追跡

(7)情報の集中と分散

(8)情報のリアルタイム化

これらの活用機会は、1つの概念が単独でプロセス・イノベーションを可能にするが、例え

ば企業間で交換 した情報を分析 し、販売プロセスを革新するというように重複することもあり、

必ずしもそれぞれが独立 したものではない。

(1) 情報の処理

一般的に情報処理と言われるものは、給与計算などの定型業務の機械化であるが、そこには、

情報技術による最もよく知られたメリットが存在する。それは業務の自動化とそれによる人員

の削減である。この発想をプロセスにまで拡張することで、自動化というかたちでプロセス革

新を実行することができる。注文処理や顧客サービスなどの電話が主体のプロセスでは、AC

D (自動電話配信装置)により、自動制御が可能になる。 しかし、ただ単にプロセスを自動化

するという発想では、従来通りの業務をコンピュータ化するだけという多くの企業が経験 した

失敗を繰り返すことになるので、 ビジネスとして意味のある自動化を達成 しなければならない。

例えば、文具大手のプラスは、顧客が所定のFAX用紙に注文を書き込んで送信すると、FA

X-OCRが自動的に注文内容を読み取り、その情報が即時に物流センターへ送られるように

受注プロセスを変革 した。プロセスが自動化されたのであるが、大切なのは、これにより注文

処理全体が迅速化されたため、受注の翌日配送することが可能となり、顧客満足を大きく向上

させたことである。

Page 13: 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000267.pdf · 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略

情報技術による企業のプロセス ・イノベーション戟略(稲村) 125

(2)情報の共有

プロセス内の情報を共有することは、業務をよりプロセス指向にするために非常に有効であ

る。それは、そのプロセスに関わる人間が、プロセス目標を達成するためにそれらの情報を活

用することになるからである。さらに、プロセス内の各工程を担当する人間は、情報を共有す

ることで、従来は存在 していた前工程、あるいは後工程との間の調整作業から解放され、各自

が同時並行的に作業を進められるようになる。こうしたプロセスの同時並行化は、プロセス遂

行時間を劇的に短縮 し、市場に素早 く対応すること、すなわちアジルを目指す企業の基本とな

る。ゴール ドマンらも、企業を俊敏にするために重要なイニシアティブの1つとして、「同時並

行的業務」を挙げている30)。異なる場所で情報を共有 しながら業務を進めるためには今日のデー

タベース、ネットワーク技術が鍵となるが、これらの情報技術を用いて、製造業では製品開発

プロセスにおけるコンカレント・エンジニアリング、流通業では受発注プロセスでのQR/E

CR (製販同盟)が実行されてきている。また、製品開発プロセスを 1企業内と限定すること

なく、設計を担当する企業、製造を担当する企業、さらにマニュアルなどドキュメント作成を

担当する企業というように企業間で情報を共有することで、VC(バーチャル・コーポレーショ

ン)という形態でコンカレント・エンジニアリングを実行することもできる。

(3) 情報の交換

情報の交換つまりコミュニケーションは、分離分割されたプロセスをっなぎ合わせたり、プ

ロセスを顧客と直接結びっいたものにするために重要である。企業内でのコミュニケーション

は協調作業を支援するために欠かせないが、イントラネットなどのネットワーク技術がこれを

改善するものとして注目されている。あまり構造化されていないナレッジワーク ・プロセスも

チームとして情報交換を密にしたほうが飛躍的に効果が上がると報告されている31)。さらに、

今日では情報の交換は企業間、あるいは顧客との間でさかんに行われており、プロセス・イノ

ベーションの機会を提供 している。企業間の情報交換はEDIが一般的であるが、EC (電子

商取引)といったさらに大きな概念が登場 し、すべての取引を電子化する動きが加速する傾向

にあり、企業間の取引を含むプロセスを変革する契機となる。メーカーと小売りの間で販売情

報などの情報交換の効率を高め、メーカー側では生産の効率化を、また小売側では在庫管理や

発注業務の効率化を達成するQR/ECRがその代表である。また、インターネットの普及に

より、コンピュータ上でのバーチャル ・スペースで企業が顧客と直接情報交換を行うことが可

能となり、受注プロセスはますます人手を介さないもの、顧客指向のものに変革される。

(4)情報の統合

1つのプロセスには通常、複数の職能が関わるため、 1つのプロセス成果を達成するには、

そのプロセスを構成するいくつかの専門的に細分化された業務が、何人かの専門家によって遂

行される必要がある。それは従来の職能別組織では当り前のことであるが、当然の事ながら、

職能間の調整が必要となり、職能指向病としての非効率性を生み出してしまう。 しかし、こう

Page 14: 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000267.pdf · 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略

126 経営研究 第48巻 第 1号

した弊害はプロセスに関わる各専門家の持っ情報 ・知識を情報システムに統合することによっ

て解決できる。複数の専門家が別々に持っていた情報 ・知識を1つに統合するということは、

プロセスを遂行するために別個に行われていた職能を統合することにつながり、それによりプ

ロセスはより一貫性のある1つの業務となる。それを対象として、チームあるいはケース・ワー

カーが顧客に対 して完結 した意義を持っ1つのプロセスに関するすべての業務を実行できるこ

とになる。例えば、 IBMクレジットでは受付から信用状発行までの案件処理プロセスに関わ

る情報 ・知識をES (ェキスパー ト・システム)に統合 し、必要な情報をそこから引き出せる

ようにしたことで、そのプロセスの遂行者を数人の専門家から1人のケース ・ワーカーに置き

換えた。そして、プロセス遂行時間を劇的に短縮 し、業績を大幅に向上させた32). ケース ・マ

ネジメントと呼ばれるこのアプローチは注文処理を中心に様々なプロセスで適用可能である。

(5) 情報の分析

情報を分析することは情報技術に求められる基本的な能力であり、意思決定の支援には欠か

せない要素である。ダベンポートは、プロセスを活動の性質という側面から 「管理的」と 「業

務的」の2つに分類 している33).管理プロセスとは予算計画プロセスなどであり、業務プロセ

スとは注文処理のようなプロセスである。いずれのプロセスにおいても情報の分析はプロセス

変革を促進する要因となるが、両者ではその目的が異なる。まず管理プロセスでは戦略計画や

マネジメント・コントロールのレベルでのあまり構造化されていない問題を解決すること、い

わゆる意思決定を支援することが目的となる。経営者に情報を分析する能力を与え、意思決定

のスピー ド化と質の向上を達成 しようというのであるが、これを支援するツールとしてEIS

やDSSが利用できる。一方、業務プロセスでは業務上の比較的構造化された問題を解決する

ことでプロセス内の管理を減 らし、プロセスをより効率化することが目的となる。情報を分析

するツールを従業員に与えることで、比較的容易な意思決定を行わせ、業務プロセス内にオペ

レーショナル ・コントロールの一部を取り込み、プロセス遂行を遅 らせるような不要な管理を

なくすのである。たとえば、アメリカン・エキスプレス社ではクレジットカー ドの承認にエキ

スパー ト・システムを利用 しているが、従業員はそこからデータを引き出すことで分析が容易

になり、不良クレジットの決定を正確に、 しかもより速 く実行できるようになった。

(6)情報の追跡

従来型の職能指向組織では、プロセス内の情報を即座に取 り出せないということがしばしば

問題となるが、それはプロセス全体を管理できていないことに原因がある。というのも、職能

指向ではプロセスを構成する各職能は自分に関わる業務だけを実行 し、次へ渡せば責任はなく

なるため、誰も全体の流れを知らないからである。 しかし、こうした状況は、自分の注文は今

どこでどうなっているのかといった顧客からの問い合わせに答えられないというビジネス上の

重要な欠陥を露呈することになり、性急に解決 しなければならない問題である。そこで、情報

技術によりプロセス内の情報を絶えず追跡 し、いっでも取 り出せるようにすることが必要とな

Page 15: 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000267.pdf · 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略

情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略(稲村) 127

る。このコンセプトでプロセス・イノベーションを成功させるには、プロセス内の各ステップ

の情報をデータベースに一元管理 し、進捗状況や書類あるいは物の位置を常に把握できるよう

プロセス全体を管理する体制が鍵となる。この種のイノベーションのよい例は運輸業界に多く

見られるが、たとえば、フェデラル ・エキスプレス杜では1つの小包を10回以上 もスキャナで

走査 し、その位置を絶えず追跡することで、小包に関する顧客からの問い合わせに答えられる

ようにしている。

(7)情報の集中と分散

企業における情報技術活用の1つの大きな流れとして、情報処理の形態が中央での集中処理

から現場での分散処理へ移行 してきたことが挙げられる。そして、それに対応するかたちで組

織的にも集権化から分権化への転換がより望ましいものとされてきた。 この点に関 してR.E.

ウォルトンは、情報技術が組織に影響を与える2つのタイプとして、情報を集中させ管理をよ

り強化することによる 「従属の効果」と情報を分散させより権限を与えることによる 「参画の

効果」があるとし、後者がより好ましいが管理者は必要に応 じて選択できるとしている34)。組

織をプロセス指向にするには、プロセス遂行に関する情報と権限を従業員に分散させる必要が

あるため、「参画の効果」を選択することになるが、情報を集中させることによる効率化のメ

リットも同時に享受できないかを検討することも必要である。例えば全国に工場を持っ製造企

業では、原材料の購買プロセスは現場のニーズに合わせるために地方の工場に任され、本社が

一括処理することはない。 しかし、それでは大量購入による値引きのメリットを失うことにな

る。そうしたトレード・オフの関係を解消するためにヒューレット・パッカー ド社では、共同

購買ソフトを利用した。新 しいプロセスでは、地方の工場は独自のニーズで注文をするがそれ

を共通の購買システムを通 して行うようにし、そのデータを本社の購買部門のデータベースで

管理できるようにしたために、一括購入の値引きを得ることも可能にした35).現代企業では情

報を分散させることは当然であるが集中させるメリットがあるならば同時に達成すべきである。

(8)情報のリアルタイム化

情報についてリアルタイムという場合、情報をリアルタイム処理することと、情報が斬新で

あるということと2通りの解釈がある。処理についてか情報そのものについてかの違いである

が、ここではその両方を含むものとする。情報をリアルタイム処理することは、受注プロセス

やサービス・プロセスでは不可欠な要件である。注文と同時に納期と価格は確約されねばなら

ないし、待っことの嫌いな顧客にとっては交渉と同時にサービスを受けられるというリアルタ

イム性が企業を評価する基準となるからである。これらは、販売員やサービス担当者が本社と

アクセス可能な携帯端末を持ち、従来は本社でしか入手できなかった関係データを現場で利用

することによって実行できる。例えば、ある食料品配給企業では、営業マンが在庫データベー

スと価格設定アルゴリズムへのアクセスが可能なコンピュータを持っことで、翌日配送を確実

に行っているし、ある保険代理店ではリアルタイムに見積書を作成 している。一方、こうして

Page 16: 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000267.pdf · 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略

128 経営研究 第48巻 第 1号

リアルタイム処理された斬新な情報は、その後の製品開発や販売に役立っ重要な情報となる。

販売と同時に得 られるPOS情報などは、顧客の購買行動や製品噂好を分析するための材料と

なり、顧客の好みの変化を素早く察知するために活用できる。例えば、クリスマスカー ドなど

のカー ド類を製造、販売するホールマークではPOS情報を意思決定支援システムで分析する

ことによって、売れ筋、季節変動、顧客の購入パターンなどの傾向を得て、製品開発と販売プ

ロセスを革新 している36)。

2.情報技術とビジネス目標

ダベンポートも指摘 しているように、これまでのプロセス改善は `̀合理化"のみが目的であ

り、そこには戟略達成のような特定のビジネス的ビジョンが含まれていなかった37). しか し、

これからのプロセス革新は、情報技術の戦略性を大いに活用 してビジネス上で優位性を獲得す

べきであり、なんらかのビジネス目標を達成することが主要な目的となる。上では、プロセス

を変革するための情報技術の活用機会を考察 したが、もう1つの視点として、 ここでは情報技

術とビジネス目標の関わりについて検討する。情報技術の活用がどのようなプロセス変革を引

き起こし、さらにそうしたプロセス変革がどのようなビジネス目標の達成につながるのかとい

うように、2つの側面から検討することがより有益であると思われる。

ビジネス目標については、-マ-とチャンピーはコスト、品質、サービス、スピー ドといっ

たキーワー ドを挙げているが、ここでは情報技術による戦略の達成という視点から考察 してい

るワイズマンの戦略スラストの理論を利用する。戦略スラストとは情報技術によって支援可能

な戦略達成のための具体的な行為であり、コスト、差別化、革新、成長、提携の5つが挙げら

れている。コス トとは、一規模、範囲、そして情報-の経済を利用 して自社のコストを削減 し

たり、競争企業のコストを増大させたりすることであり、差別化とは、他社にはない特徴を持

つ製品やサービスを提供 したり、あるいはマーケテイング ・プロセスで戦略的に情報を分析し、

顧客と効果的な接触機会を持っことによって優位性を確保することであり、革新とは、製品や

サービス、または事業プロセスの中に革新的な機会を見つけ先駆的利益を享受することであり、

成長とは、製品の多角化、供給業者が提供する諸機能の後方統合、グローバル化、あるいは情

報技術を中核とした新規事業ラインの創設によって、製品又は機能において成長を達成するこ

とであり、提携とは、複数企業が協力して新 しい流通チャネルを創出したり、新 しい販売方法

や新しい製品開発の機会を発見することである38).すべてプロセス ・イノベーションで達成可

能な概念であり、今日の情報技術に期待される事柄ばかりである。これらの概念は、M.E.ポー

ターのコスト、差別化、集中という基本戦略39)を基に考えられているが、ワイズマンの実務家

としての立場から、戦略達成の機会をより広い視野で検討 したものとなっており、プロセス ・

イノベーションにおける情報技術の活用機会を探究する上でも有効である。 しか し、「これか

らはコストよりもむしろ時間がより重要なビジネス指標となるだろう」40)とスタークが指摘 し

Page 17: 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000267.pdf · 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略

情報技術による企業のプロセス・イノベーション戟略(稲村) 129

ているように、時間短縮が今日の企業の重要な課題であるが、5つのスラス トには時間に関す

るものが含まれていないため、-マ-とチャンピーもキーワー ドとして挙げているスピー ドを

新たなスラストとして加え、全部で6つのビジネス目標を設定することにする。

そこで、プロセス革新に際しての情報技術活用に関する、次のようなマ トリックスが利用で

きる (図-Ⅳ-1参照)。マ トリックス上でのすべての機会を検討することは不可能なため、

図では企業における代表的なプロセスである、製品開発プロセスと受発注プロセスについて、

コンカレント・エンジニアリングとQR/ECRがどの機会に当てはまるかが示されている。

前述のように、コンカレント・エンジニアリングとは製品開発に関わる各工程の同時並行化を

達成する技術であり、そのための情報技術の役割は主に情報の共有化を支援することである。

そして、そこで達成されるビジネス目標としては、プロセスの同時並行化による開発期間短縮

というスピードとそれにともなうコスト削減、あるいは外国企業と協力 して開発することによ

る提携と成長の実現、さらに、ボーイング社がいちはやくCALS的発想を取 り入れ先駆的利

益を享受 したように、開発プロセスでの革新的機会の発見などが考えられる。一方、メーカー

と小売の間の情報交換を効率化 し、 レジと生産現場を直結することによって自動発注、在庫削

減などを目指すQR/ECRでは、提携やコスト削減はもちろん、花王がジャスコの在庫管哩

を肩代りしたように、企業間に重複 して存在 している業務を統合する業務革新、さらにPOS

情報を分析 し、品揃えの充実や欠品の排除を実現することで顧客との接触機会を増大させる差

別化などが達成できる.またメーカー側では、売れる製品を迅速に開発するためにPOS情報

を活用しており、製品開発プロセスでの差別化とスピー ドの達成につなげている。

製品開発や受発注以外のプロセスにも情報技術による多くのイノベーション機会が存在 して

いるため、各企業は情報技術の能力とビジネス目標の組み合わせを他社の事例を参考にしなが

らより創造的に利用 していくことができる。このように、情報技術をプロセス変革の手段とし

て活用し、そのプロセス目標としてのビジネス成果を達成することによって競争優位を獲得す

ることが、今日の企業の緊急課題なのである。

Ⅴ おわりに

本稿では、プロセス・イノベーションに際しての情報技術活用について検討 してきた。情報

技術の戦略性についてはSIS以降広 く認識されているが、プロセスの革新に結び付けてこそ、

その戦略性が発揮されるというのがここでの主張である。 ビジネス ・プロセスは、その各々が

顧客に対 して1つのアウトプットを提供するため、職能ではなくプロセスをマネジメントの対

象とすることは、直接顧客を視野に入れたマネジメントを可能にし、業績を大きく向上させる

という点で非常に有効である。こうしたプロセス ・マネジメントという考え方と情報技術の戦

略性を組み合わせることで、劇的な改善成果を得ることができるのである。情報技術によるプ

ロセス変革の方法はこれまで検討 してきたように様々考えられるが、その中心的な課題は、コ

Page 18: 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000267.pdf · 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略

130

コ ス ト

スピー ド

差 別 化

革 新

提 携

成 長

コ ス ト

スピー ド

差 別 化

革 新

提 携

成 長

経営研究 第48巻 第 1号

製品開発プロセスでのコンカレント・エンジニアリング

「 萱 覇 F

情報の処理 情報の共有 情報の交換 情報の統合 情報の分析 情報の追跡 讐努蒜集中 情報のリアルタイム化

受発注プロセスでのQR/ECR

情報の処理 情報の共有 情報の交換 情報の統合 情報の分析 情報の追跡 哲男蒜集中 情報o)'アルタイム化

図-Ⅳ-1 情報技術とビジネス目標

ンカレント・エンジニアリングによるプロセスの同時並行化である。職能中心のマネジメント

では、業務は職能ごとに順次的に行われるため、職能間での待ち時間や余計な調整が発生する

が、プロセス全体を1つの業務と考え、プロセス内の情報を共有化 し、プロセスの各工程を同

時並行化することにより、それらの弊害は相当軽減できる。その結果としてプロセス遂行時間

が劇的に短縮されるのであるが、時間がビジネスにおいて重要な業績指標となっている今日で

は、この方法は非常に効果的であると考えられる。また、プロセス ・イノベーションを実行す

る際には、企業戦略と関連 した特定のビジネス目標を達成することを考慮 しなければならない。

コンカレント・エンジニアリングではスピー ドやコストといったことが達成できるが、その他

Page 19: 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000267.pdf · 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略

情報技術による企業のプロセス ・イノベーション戦略(稲村) 131

に差別化、革新、成長、提携などの目標を設定 し、それを可能とする情報技術の活用機会を追

求していくことが必要である.企業は、情報技術を活用したプロセス・イノベーションを実行

し、 ビジネス目標を達成することで競争優位に立っことができるのである。

1)Hammer,M.,andJ.Champy,ReengineeringTheCorporatL'on,1993.(野中郁次郎監訳 『リエ

ンジニアリング革命』 日本経済新聞社、1993年)

2)Davenport,T.H.,ProcessInnovation:ReengineeringWorkthroughInfoT・mation

TechTWlogy,1993.(ト部正夫他訳 『プロセス ・イノベーション』 日経BP出版センター、1994年)

3)前掲訳書、14-15ページ。

4)同、 9ページ。

5)同、19ページ。

6)Schroeder,D.M.,andA.G.Robinson,"America'sMostSuccessfulExporttoJapan :

ContinuousImprovementPrograms",SloanManagementReview(Spring1991)p.67.

7)野中郁次郎監訳、前掲訳書、74-76ページ。

8) 卜部正夫他訳、前掲訳書、45ページ。

9)同、45ページ。

10)Hall,G.,J.Rosenthal,andJ.Wade,"HowtoMakeReengineeringReallyWork",Haruard

BusinessReview(November-December1993)pp.120-122.

ll)Morton,M.S.S.,TheCorporationofthe1990S:InformationTechnologyandOrgaTu'zati

onalTransformation,1991.(宮川公男 ・上田 泰監訳 『情報技術と企業変革』富士通 ブックス、1992

年、256ページ)

12)Tapscott,D.,andA.Caston,PARADIGM SHIFT ITheNeu)PromL'seofInformation

TechTWlog)′,1993.(野村総合研究所訳 『情報技術革命とリエンジニア リング』野村総合研究所、 1994

年、39ページ)

13)Goldman,S.L.,R.N.Nagel,andK.Preiss,AgileCompetitorsandVirtual0rgaTu'zations

StralegiesforETm'chingTheCustomer,1995.(野中郁次郎監訳/紺野 登訳 『アジルコンペティ

ション』 日本経済新聞社、1996年、32ページ)

14)卜部正夫他訳、前掲訳書、205-206ページ。

15)平田周氏 もリス トラとリエンジニアリングを外科的方法と内科的方法 として、その実行方法の性格的

な違いか ら両者を区別 しているが、企業を本当の意味で再生させるためには、どちらか一方だけでは不

十分であり、両方の実行が必要であるとの見解を示 している。(平田周 『リエ ンジニア リングvsリス ト

ラクチャリング』 日刊工業、1994年、155ページ参照)

16)ト部正夫他訳、前掲訳書、119ページ。

17)同、120ページ。

18)野村総合研究所訳、前掲訳書、39ページ。

19)-マ-とチャンピーも、「ビジネス ・システム ・ダイヤモンド」 という概念を用いて、 ビジネス ・プ

ロセス、職務と組織構造、マネジメントと評価 システム、価値観 と信念の4つのポイントをうま くかみ

合わせなければならないとしている。(野中郁次郎監訳、前掲訳書、125-127ページ参照)

20)Wiseman,C.,StrategicInformatL'onSystems,1988.(土屋守章 ・辻 新六訳 『戦略的情報 システ

ム』 ダイヤモンド社、1989年、 2章、 4章参照)

21)Stark,J.,CompetitiveManufacturingthroughInforTnationTechnology,1990.(稲崎宏治 ・

Page 20: 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000267.pdf · 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略

132 経営研究 第48巻 第 1号

若山由美訳 『競争優位のIT戦略』ダイヤモンド社、1992年、8-9ページ)

22)Davis,G.B.,ManagementInforTnationSysteTnS:ConceptualFoundations,StructuT・e,

andDeuelopTnent,1974,p.5.

23)Simon,H.A.,TheNewScienceofManagementDecision,1977.(稲葉元吉 ・倉井武夫訳 『意

思決定の科学』産業能率大学出版部、1979年、55-56ページ参照)

24)Sprague.R.H.,Jr.andE.D.Carlson,BuildingEnecliueDecisionSupportSystems,1982,

p.4.

25)Ibid.,p.6.

26)土屋守章 ・辻 新六訳、前掲訳書、118ページ。

27)同、231-253ページ。

28)卜部正夫他訳、前掲訳書、63ページ。

29)同、69-74ページ。

30)野中郁次郎監訳/紺野 登訳、前掲訳書、69ページ。

31)Davenport,T.H.,S.LJarvenpaa,andM.C.Beers,"ImprovingKnowledgeWork

Processes",SloanManagementReview (Summer1996)pp.62-63.

32)野村郁次郎監訳、前掲訳書、62-66ページ。

33)Davenport,T.H.,and∫.E.Short,"TheNew IndustrialEngineering:Information

TechnologyandBusinessProcessRedesign",SloanManagementReview (Summer1990)

pp.20-22.

34)Walton,R.E.,UP&RUNNING:IntegratingInforTnationTechnologyandthe

Organization,1989.(高木晴夫訳 『システム構築と組織整合』ダイヤモンド社、1993年、48-51ページ)

35)野村郁次郎監訳、前掲訳書、142-143ページ。

36)同、10章参照。

37)Davenport,T.H.,andJ.E.Short,op.cit.,p.14.

38)土屋守章 ・辻 新六訳、前掲訳書、 5-9章参照。

39)Porter,M.E.,CoTnPetitiueAdvantage,1985.(土岐 坤他訳 『競争優位の戦略』ダイヤモンド社、

1985年)

40)稲崎宏治 ・若山由美訳、前掲訳書、41ページ。

参考文献

[1]Davenport,T.H.,ProcessITmOUation:ReengineeringWorkthroughInformation

TechTWlogy,1993.

(ト部正夫他訳 『プロセス・イノベーション』日経BP出版センター、1994年)

[2]Davenport,T.H.,andJ.E.Short,"TheNewIndustrialEngineering:Information

TechnologyandBusinessProcessRedesign",SloanManagementReview(Summer

1990)

[3]Davenport,T.H.,S.L.Jarvenpaa,andM.C.Beers,"ImprovingKnowledgeWork

Processes",SloanManagementReview(Summer1996)

[4]Davis,G.B.,andS.Hamilton,ManagingInforTnation:HowInfoT・mationSystems

ImpactOrganizationalStrategy,1993.(島田遵巳他訳 『マネージングインフォメーション』 日

科技連、1995年)

[5]Goldman,S.L.,R.N.Nagel,andK.Preiss,AgL'leCompetL'torsandVirtualOrganizations

StrategiesforEnrichingTheCustomer,1995.(野中郁次郎監訳/紺野 登訳 『アジルコンペ

ティション』日本経済新聞社、1996年)

Page 21: 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000267.pdf · 情報技術による企業のプロセス・イノベーション戦略

情報技術による企業のプロセス ・イノベーション戦略(稲村) 133

[6]Hall,G.,J.Rosenthal,andJ.Wade,"How toMakeReengineeringReallyWork'',

Haruar・dBusinessReuieu)(November-December1993)

[7]Hammer,M.,andJ.Champy,ReengineeringTheCorporation,1993.(野中郁次郎監訳 『リ

エンジニアリング革命』日本経済新聞社、1993年)

[8]Morton,M.S.S.,TheCorporationofthe1990S:InformationTechnolog)′and

OrganizationalTransformation,1991.(宮川公男 ・上田 泰監訳 『情報技術 と企業変革』富士

通ブックス、1992年)

[9]Porter,M.E.,CompetitiveAdvantage,1985.(土岐 坤他訳 『競争優位の戦略』 ダイヤモンド社、

1985年)

[10]Schroeder,D.M.,and A.G.Robinson,"America'sMostSuccessfulExporttoJapan:

ContinuouslmprovementPrograms",SloanManagementReview (Spring1991)

[11]Sprague,R.H.,Jr.andE.D.Carlson,BuL'ldingENectiueDecisionSupportSystems,1982.

[12]Stark,J.,CompetL'tiueMantLfacturingthroughInformationTechnology,1990.(稲崎宏治 ・

若山由美訳 『競争優位のIT戦略』 ダイヤモンド社、1992年)

[13]Tapscott,D.,andA.Caston,PARADIGM SHIFT:TheNew PromiseofInformation

Technology,1993.(野村総合研究所訳 『情報技術革命とリエンジニアリング』野村総合研究所、

1994年)

[14]Walton,R.E.,UP&RUNNING:IntegratingInformationTechTWlogyandtheOr・ganiz

ation,1989.(高木晴夫訳 『システム構築と組織整合』ダイヤモンド社、1993年)

[15]Wiseman,C.,StrategicInformationSystems,1988.(土屋守章 ・辻 新六訳 『戦略的情報 シス

テム』ダイヤモンド社、1989年)

[16]伊藤淳巳 ・森井良雄編 『情報技術の創造的活用』創 元社、1992年.

[17]末松千尋 『CALSの世界』 ダイヤモンド社、1995年.

[18]日経 ビジネス編 『日本型 リエンジニアリング』日本経済新聞社、1994年.

[19]平田 周 『リエンジニアリングvsリス トラクチャリング』日刊工業、1994年.

[20]松島克守 『IT (情報技術)とリエンジニアリング』日本能率協会マネジメントセンター、1994年.

[21]松島克守 ・中島 洋 『ェレクトロニック・コマースの衝撃』日本経済新聞社、1996年.

[22]宮川公男編 『経営情報システム』中央経済社、1994年.