地域環境工学概論II京都大学大学院農学研究科 森林科学専攻 農学部組織図 1次生産 2次生産 (加工) 摂取 人 類 の 健 康 で 豊 か な 暮
イネの病害抵抗性を活性化させる 環境に優しい農薬の開発 ·...
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アグリ・バイオ分野
• 岡山大学大学院
環境生命科学研究科(農学系)
准教授 稲垣 善茂
イネの病害抵抗性を活性化させる環境に優しい農薬の開発
従来技術とその問題点
プラントアクティベーター(プラントディフェンスアクティベーター、抵抗性誘導剤)と呼ばれる一群の化合物は、植物の持つ免疫力を高め、その耐病性を向上させる薬剤である。
プラントアクティベーターは、複数の病害に対する広範な防除効果を持ち、薬剤耐性菌による効果の減衰もない。
プラントアクティベーターの利用によって従来の殺菌性農薬の使用回数や量を低減できることから、持続的で環境負荷の少ない農業の実現に向けた利用拡大が期待されている。
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これまでにプロペナゾール(オリゼメート)とアシベンゾラルSメチル(BTH,バイオン)、チアジニル(ブイゲット)、イソチアニル(ルーチン)、バリダマイシンA(バリダ
シン)などがプラントアクティベーターとして販売されている。
つい最近もアラドプシスに対して有効なインプリマチンというプラントアクティベーターも開発された(Noutoshi et al, Plant Cell, 2012, 24(9):3795‐3804.)。
全てサリチル酸系薬剤である。
従来技術とその問題点3
新技術の特徴・従来技術との比較
従来のプラントアクティベーターはイネに特化し、純合成化合物で、防御応答シグナル物質であるサリチル酸を介した抵抗性反応を活性化させるものしか知られていない。
本化合物は天然物由来なので植物体内で容易に分解される可能性があり、防御応答シグナル物質であるサリチル酸やジャスモン酸シグナルを介在しないプラントアクティベーターである。
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天然物
=易分解性が期待できる
β-アミリン
5
6
7
野生型日本晴
組換え体#21
組換え体#22
μg / gFW
Nihonbare(WT)
Transgenic(#21‐07)
Transgenic(#22‐07)
Arabidopsis(Leaves)
Shoot 0 102.80 ±17.67
68.13 ±12.23
19.0*(μg / gDW)
β-アミリンの蓄積量
*Manzano et al, Planta (2004) 219: 982–992.19.0 μg / gDW = Approximately 100-110 μg / gFW
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GGDP
ent-CDP
cyn-CDP
Pytocassane A-E
Oryzalexin A-F
Momilactone A, B
Oryzalexin S
OsCPS2
OsCPS4
OsKSL7
OsKSL10
OsKSL4
OsKSL8GGDP : (E,E,E)-geranylgeranyl diphosphateent-CDP : ent-copalyldiphosphatecyn-CDP : cyn-copalyldiphosphate
#22/WT = 70.9 fold
#22/WT = 16.0 fold
#22/WT = 12.3 fold
#22/WT = 22.1 fold
#22/WT = 4.6 fold
#22/WT = 3.8 fold
MPMI Vol. 23, No. 8, 2010, pp. 1000–1011.
ジテルペン生合成遺伝子群の活性化 9
#22 / WTFold Change EST Gene LOC
11.27 AK107926 PR1 LOC_Os01g284505.64 AK104140 PR1 LOC_Os07g035906.35 AB027427 PR8 LOC_Os11g475203.84 AK073757 PR8 LOC_Os11g475009.63 ‐ PBZ1 LOC_Os12g368606.81 AK071613 PBZ1 LOC_Os12g368804.16 AK111606 WRKY69 LOC_Os08g296603.66 AK099773 LRR LOC_Os04g031803.58 AK103606 LRR LOC_Os12g10870
Activation of defense response- related genes in rice (Shoot).
防御応答関連遺伝子群の発現が活性化 10
Activation of paralogues of JA biosynthesis genes in rice (Shoot)
JA #22Sh/WTShGene Fold Change EST ProbeName(OPR4) 57.55 AK105590 Os06g0215900(OPR3) 31.97 Os06g0216000(OPR1) 1.31 AK103067 Os06g0216300(OPR7*) 1.10 AK104843 Os08g0459600(LOX4) 7.98 AB099850 Os03g0699700(LOX11*) 1.82 D14000 Os08g0508800(AOS1) 1.06 AB116527 Os03g0767000(AOS2*) 1.26 AK061758 Os03g0225900(AOS3) 4.11 AK107161 Os02g0218700(AOS4) 1.17 AK105964 Os02g0218800
*JA biosynthesis genes:
OsOPR7 & OsAOS2 & OsLOX11
ジャスモン酸合成系相同遺伝子群の発現が活性化11
Behaviours of JA accumulation in rice(Shoot), after Xoo infection.
0.05.0
10.015.020.025.030.035.040.045.050.0
0 12 48
JA (n
g/g
DW
)
Time (h)
WT #22
病原菌感染後のジャスモン酸蓄積量の変化 12
Behaviours of SA accumulation in rice(Shoot), after Xoo infection.
0
5000
10000
15000
20000
25000
0 12 48
SA (n
g/g
DW
)
Time (h)
WT#22
病原菌感染後のサリチル酸蓄積量の変化 13
1.0000.946
0.7160.767
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
WT #21-08 #22-09 #26-02
Dise
ase
Inde
x
Xoo‐ infection assay for AsbAS1‐induced transgenic rice at 20 days after germination
* *
β-アミリン合成酵素遺伝子を導入した組換え体イネにおける耐病性の亢進 Xoo接種
発芽後20⽇齢の組換え体イネ幼苗にイネ⽩葉枯病菌(Xoo)を接種した。その14⽇後(34⽇齢)で病斑⻑の測定を⾏った。
WT: ⽇本晴
#21-08, #22-09, #26-02: β-アミリン合成酵素遺伝⼦を導⼊した組換え体イネ
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β-アミリン噴霧処理による抵抗性遺伝子群の活性化
C: DDW+0.5%EtOHBA10: β-Amyrin 10 µM
+0.5%EtOHBA100: β-Amyrin 100 µM
+0.5%EtOHP100: probenazol 100 µM
+0.5%EtOHP200: probenazol 200 µM
+0.5%EtOH
発芽後10⽇齢のイネ幼苗に薬剤溶液を噴霧処理し、2⽇後(12⽇齢)に葉⾝サンプルを回収し、RNAを抽出した。
15
1.000
0.423
0.124 0.182
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
1.4
C+ BA10 PBZ10 PBZ20
Dise
ase
Inde
x
Xoo‐ infection assay for BA solution‐treated rice
**
*
β-アミリン溶液処理による耐病性の亢進
溶液処理発芽後7⽇齢のイネ幼苗から14⽇齢まで薬剤懸濁液で育成 し 、 イ ネ ⽩ 葉 枯 病 菌(Xoo)接種後28⽇齢で病斑⻑の測定を⾏った。
C: DDW+シルエットL-77 100 ppm
BA10: β-Amyrin 10 µM +L-77
PBZ10: probenazol 10 µM +L-77
PBZ20: probenazol 20 µM +L-77
*
16
Actin 30 cyc 472 bp
OsKSL10
OsKSL8
OsKSL7
OsKSL4
OsCPS4
OsCPS2
35 cyc 488 bp
35 cyc 488 bp
32 cyc 488 bp
35 cyc 491 bp
32 cyc 425 bp
32 cyc 422 bp
0 1 2 3 4 0 1 2 3 4WT #22‐05
dpi
β-アミリン合成酵素遺伝子を導入した組換え体イネにおける病原菌接種後のジテルペン合成遺伝子群の発現挙動
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実用化に向けた課題
0 1 2 3 4 Xoo 感染後の経過日数
野生型イネ
組換え体イネ
病害抵抗性の度合
プライミング様の反応
病原菌感染後、1〜4日
の中期から後期での抵抗性を高める薬剤を使用する必要がある
1)他の病原菌(糸状菌)では効果はどうか?2)イネ以外の単子葉類、ムギ類に対してはどうか?3)病原菌接種後のジテルペン合成系遺伝子群の発現挙動(下図 ↓ )
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新技術の特徴
β-アミリンはイネに対して病害抵抗性反応を活性化する植物二次代謝産物(天然化合物)である。
従来のサリチル酸やジャスモン酸を介した防御応答の活性化ではない。新規のシグナル伝達を介在すると予想される。
本抵抗性誘導は、いわゆるプライミングと言われる現象に似た防御応答反応を示す。
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想定される用途
もちろん、イネの病害防除
イネ以外の、例えばムギ類などに対する病害防除の可能性も予想される。
β-アミリンにはほ乳類に対して抗炎症作用が知られており、組換え体イネはβ-アミリン含有の機能性米となる。
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本技術に関する知的財産権
• 発明の名称 :プラントアクティベーター
• 出願番号 :特願2014-255886
• 出願人 :岡山大学
• 発明者 :稲垣善茂
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お問い合わせ先• 岡山大学大学院
環境生命科学研究科(農学系)
准教授 稲垣 善茂
Tel & Fax: 086-251-8307
E-mail: yinagaki @ me.com
・岡山大学 産学官連携本部副本部長 薦田 哲男
Tel: 086-251-8465Fax :086-251-8467E-mail: komoda-t@cc.okayama-u.ac.jp
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