人民元の現状と今後の見通し...人民元の現状と今後の見通し 』...

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『人民元の現状と今後の見通し』 ~人民元はどの程度通貨投機に耐えられるのか?~ 2017222安達 誠司 1

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『人民元の現状と今後の見通し』 ~人民元はどの程度通貨投機に耐えられるのか?~

2017年2月22日 安達 誠司

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1. 人民元市場の現状 1) 「Currency Crisis Model」のパターンを繰り返している ⇒ 人民元は、通貨バスケット制の下でのCrawling Peg制? 2) 外貨準備減 ⇒ 人民元売り圧力増 ⇒ 為替介入による外貨準備減 ⇒ 人民元売り圧力増 ⇒ (市場)短期金利の引き上げ ⇒ ・・・

2. 「ボディブロー」のような外貨準備の減少

1) 外貨準備の増加局面と減少局面の「非対称性」 2) ただし、まだ「余力」はある ⇒ ただちに現状の通貨システムが壊れる可能性は低いのでは? 3) 今回は、不動産、株式市場の大幅調整に波及していない

3. トランプ政権の「中国ターゲット」の影響

アジェンダ:

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1. 第一世代モデル(A first-generation model) ・Flood-Garber-Krugman model 1) 固定相場制を維持しながら、国内の成長通貨供給を続けた場合、 外貨準備が減少し、やがて枯渇の危機を迎える 2) 金融政策を為替レート維持に割り当てた場合、国内経済の成長が阻害 される一方、国内経済の成長を同時に満たそうとした場合には為替介 入による為替レートの維持が必要となり、外貨準備が減少していく 3) オフショア市場のような「開かれた外為市場」が存在する場合、1)、2) のプロセスを投機筋が狙い、通貨を売り浴びせる状況が生じる 4) これを防衛しようと、為替介入を続けると外貨準備の減少が加速し、 ますます固定相場制が維持できなくなる 5) 「国内経済の成長通貨供給と固定相場制維持のConflictが外貨準備減 少をもたらす」というのがこのモデルの「肝」

通貨投機モデル(1):

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2. 第二世代モデル(A second-generation model) ・Obstfeld’s Multiple Devaluation Threshold model 1) 通貨アタックに対する政策オプションをいくつか想定する 他国から外貨準備を借り入れる(通貨スワップも) 国内金利を引き上げる 対外資本取引の規制を実施する 2) これらの政策オプションの存在によって、通貨アタックに対抗すること が可能となる 3) ただし、これらの政策オプションの実施には様々なコストがかかる 4) 当局は、固定相場制を維持することのBenefitと政策オプション実施の Costを比較して、固定相場制を維持するか、通貨切り下げ(もしくは変 動相場制への移行)を選択する 5) この通貨当局の選択は、(マクロ)経済の状況(State)に依存する 6) また、この「State」は、民間経済主体(the public)の「予想形成 (Expectation)」に依存して、Switchするものと仮定する 7) 民間経済主体の「予想形成」を代理する変数は何か? アジア通貨危機の場合、短期的な対外資本の流出入 不動産市場 など

通貨投機モデル(2):

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中国人民元市場の現状:

5

1.6

2.1

2.6

3.1

3.6

4.1

4.6

5.1

5.66.0

6.1

6.2

6.3

6.4

6.5

6.6

6.7

6.8

6.9

7.0人民元レート(対ドル、左)

中米金利差(Shibor-Libor、3ヵ月物、右、逆目盛)

(元/ドル) (%)

人民元安

人民元高

米中短期金利差と人民元レート

外貨準備の減少局面

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

7.0

Shibor3ヶ月物

Libor3ヶ月物

(%) 米中短期金利の推移

外貨準備の減少局面

出所:FRED、SHIBORデータより作成

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中国の外貨準備残高の推移:

6

600

700

800

900

1000

1100

1200

1300

1400

1500

2000

2500

3000

3500

4000

4500

09 10 11 12 13 14 15 16

中国の外貨準備残高の推移 (10億ドル)

外貨準備の減少局面

出所:米財務省、中国国家統計局データより作成

(10億ドル)

外貨準備高(左)

米国債保有残高(右)

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中国の国際収支統計:対外資本流出の懸念

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経常収支 金融・資本収支

財 直接投資 証券投資 その他 外貨準備 誤差脱漏

GDP比(%) 対内 対外 増減

2005 132.4 5.8 130.1 -155.3 90.4 104.1 13.7 -4.7 5.6 -250.6 22.9

2006 231.8 8.4 215.7 -235.5 100.1 124.1 23.9 -68.4 13.6 -284.8 3.6

2007 353.2 9.9 311.7 -366.5 139.1 156.2 17.2 16.4 -64.4 -460.7 13.3

2008 420.3 9.1 359.9 -439.4 114.8 171.5 56.7 34.9 -112.6 -479.5 18.8

2009 243.3 4.8 243.5 -201.9 87.2 131.1 43.9 27.1 80.3 -400.3 -41.4

2010 237.8 3.9 246.4 -184.9 185.7 243.7 58.0 24.0 72.4 -471.7 -52.9

2011 136.1 1.8 228.7 -122.3 231.7 280.1 48.4 19.6 8.7 -387.8 -13.8

2012 215.4 2.5 311.6 -128.3 176.3 241.2 65.0 47.8 -260.1 -96.6 -87.1

2013 148.2 1.5 359.0 -85.3 218.0 290.9 73.0 52.9 72.2 -431.4 -62.9

2014 277.4 2.6 435.0 -169.2 208.7 268.1 123.1 82.4 -278.8 -117.8 -108.3

2015 330.6 3.0 567.0 -142.4 62.1 249.9 187.8 -66.5 -479.1 342.9 -188.2

2016 210.4 1.9 485.2 -47.0 -58.5 152.7 211.2 - - 443.6 -

2014

83.7 3.1 139.4 -39.8 26.5 64.1 37.6 23.5 -90.0 0.1 -43.9

90.1 3.1 147.0 -28.3 51.0 88.9 37.8 22.0 -131.6 30.0 -61.8

2015 85.3 3.5 116.6 -32.3 36.1 68.5 32.4 -8.1 -139.8 80.2 -53.0

88.0 3.2 135.2 -57.3 24.7 63.2 38.5 -16.0 -53.3 -13.1 -30.6

65.5 2.3 157.3 -2.1 -6.7 44.1 50.8 -17.2 -137.3 160.5 -63.4

91.9 3.0 157.9 -50.6 8.0 74.1 66.1 -25.2 -148.7 115.3 -41.3

2016 39.3 1.6 103.9 -0.2 -16.3 41.1 57.4 -40.9 -67.2 123.3 -39.2

64.1 2.3 125.9 -14.3 -30.4 33.7 64.0 7.8 -22.9 34.5 -49.9

69.3 2.4 137.1 5.1 -29.0 26.2 55.2 -10.5 -90.7 136.3 -74.3

37.5 1.2 118.3 -37.6 17.2 51.7 34.6 - - 149.5 -

出所:中国国家統計局

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底堅い中国の資産市場

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上海地区の実質住居用不動産市況指数

出所:FREDより作成

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11 12 13 14 15 16

(2010年=100)

7.5

7.7

7.9

8.1

8.3

8.5

8.7

2012/1/4 2013/1/4 2014/1/4 2015/1/4 2016/1/4 2017/1/4

上海総合株価指数

-6

-4

-2

0

2

4

6

8

-20

0

20

40

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80

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2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

社会融資総量(左)

実質住居用不動産価格(右)

社会融資総量と不動産価格

(前年比、%) (前年比、%)

出所:FRED、中国人民銀行データより作成

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米国の金融政策の影響:

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1.4

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1.6

1.7

1.8

1.9

2.0

2.1

6.0

6.2

6.4

6.6

6.8

7.0

09 10 11 12 13 14 15 16

人民元レート(左)

米中マネタリーベース比率

(中÷米、右)

出所:FREDより作成

3,000

3,500

4,000

4,500

5,000

5,500

6,000

6,500

7,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

4,000

4,500

09 10 11 12 13 14 15 16 17

米国(左)

中国(右)

米中マネタリーベース比率と人民元レート (人民元/ドル)

米中マネタリーベースの推移 (10億ドル) (10億元)

1) 2014年以降の元安進行は、米国FRBのテーパリング⇒利上げの動きが影響して いる可能性が高い

出所:FREDより作成

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1. 外貨準備減少局面における人民元と金利差の関係 1) 対外資本流出の発生(社会不安?政治リスク?中国の将来の成長力 に対する不安?) 2) 資本流出にともなう人民元安圧力を相殺するための為替介入の実施 3) 外貨準備高の減少がシグナルとなって資本流出(投機的取引)の増大 4) 資本流出抑制のための短期金利引き上げ 5) 人民元売り圧力一服するも資産価格の下落等による景気センチメント の悪化(⇒「経済ファンダメンタルズ」の悪化懸念の台頭) 6) 人民元売り圧力が再び高まる・・・・悪循環

2. 当局による信用供与の拡大による危機の回避(2016年) 1) マネタリーベース、社会融資総量の拡大によって資産価格の調整を回

避(2016年) 2) 人民元安のスピード調整のために為替介入は拡大 ⇒ 外貨準備高の減少は加速(米国債保有高の急激な減少) 3) 米国の金融引き締め(マネタリーベースの減少)が人民元安を促進させ たという側面も ⇒ 人民元安の進行は「放置」されてきた

外貨準備減少局面での人民元レートの状況:

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トランプ政権の対中国政策の影響(1):

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1. トランプ政権の対中国通商政策

レーガノミックスにおける日本の立場ではないか? 1) 中国国内マーケットの対外開放を求める 2) 「為替操作国」という位置づけ ⇒ 人民元の動向にますますセンシティブにならざるを得ない (人民元安の進行は、米国に不当な元安誘導と誤解されかね ない) 3) 人民元安圧力の高まりに対しては必死に元買い介入を実施する可能 性がある ⇒ 外貨準備減少ペースの加速化 ⇒ 通貨アタックを受けやすく なる 4) 人民元の変動相場制への移行のタイミングが早まる可能性も

2. 中国における「第二のプラザ合意?」的なリスク 1) 「半強制的な」金融引き締め(マネタリーベースの縮小) 2) 米国のマネタリーベース削減が続くとこれが実現する確率が高まるか もしれない

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トランプ政権の対中国政策の影響(2):

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3.「トランポノミクス」と人民元、そして、変動相場制の圧力 「トランポノミクス」によるFTPL的世界の実現 1) 米国の大幅財政拡張+受動的な金融政策(利上げの停止)=FTPL 2) この局面では、米国のインフレ率の上昇の可能性が高まる 3) 中国が人民元レートを安定化させるために為替介入を続けた場合、 中国に米国のインフレが輸入されることになる 4) 中国当局がインフレ抑制の姿勢をとりたいと考えるのであれば、 変動相場制にする必要が生じる(この場合、人民元高となる)

4.5

5.0

5.5

6.0

6.5

7.0

7.5

8.0

8.5

9.0

90 95 00 05 10 15

実際の人民元レート

1992年生産者物価基準の購買力平価

出所:FREDより作成

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1. 人民元市場の現状 1) 「Currency Crisis Model」のパターンを繰り返している ⇒ 人民元は、通貨バスケット制の下でのCrawling Peg制? 2) 外貨準備減 ⇒ 人民元売り圧力増 ⇒ 為替介入による外貨準備減 ⇒ 人民元売り圧力増 ⇒ (市場)短期金利の引き上げ ⇒ ・・・

2. 「ボディブロー」のような外貨準備の減少

1) ただし、まだ「余力」はある ⇒ ただちに現状の通貨システムが壊れる可能性は低いのでは? 2) 今回は、不動産、株式市場の大幅調整に波及していない ⇒ マネタリーベース、及び社会融資総量の増加による下支え? 3) 2016年は人民安進行がアメリカに許容されていたという側面がある

3. トランプ政権の「中国ターゲット」の影響 1) 中国を「為替操作国」として指定し、制裁を加えるリスクの台頭 2) 米国でのFTPL的世界具現化によるインフレ輸入のリスク

結論:

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