銀座地区の不動産売買取引動向と地価等の動向 (その2:地...

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S PECIAL R EPORT © 2017(株)都市未来総合研究所 1 Special Report の中で示された内容や意見は、都市未来総合研究所の公式見解を示すものではありません。 なお、Special Report に対するご意見・ご質問・お問い合わせは、執筆者までお寄せください。 銀座地区の不動産売買取引動向と地価等の動向 (その 2:地価等の動向) ~銀座地区の地価上昇は面的な広がりをみせ、バブル期ピークの地価を上回る地点が 出現しているが、バブル期越えの地点は今のところ限定的と推察される。今後の銀座 地区の地価は、これまでのような大幅な上昇が続く蓋然性は低いと考えられる。~ 2017 年 9 月 湯目健一郎(Ken-ichiro Yunome) [email protected] バブル期の地価を超える地点が出現し、メディアで取り上げられる機会が多 い銀座地区について、不動産売買動向と地価等の動向を 2 回に分けて紹介する。 概要 (その 2:地価等の動向) ・銀座地区 ※1 の地価(公示地価、基準地価。以下、単に地価と記載する場合が ある。)は、金利低下や不動産投資ニーズの増大を背景とした取引キャップ レートの低下とともに、大型再開発などの進展による地区全体の集客力アッ プやインバウンド消費・宿泊需要の増加といった不動産賃貸収益の向上期待 などから、メインストリート ※2 沿いにとどまらず、裏通りや銀座中心部の 繁華街から離れた昭和通りを越えた地点でも前年比 2 ケタ上昇を記録し、面 的な広がりをみせている。 ・直近の地価をバブル期 ※3 ピークの地価と比較すると、直近の地価水準が高 い地点ほどバブル期ピークの水準近くまで地価が上昇している(直近の地価 水準が低い地点ほどバブル期ピークの地価水準を下回る)傾向がうかがえ、 メディアで報道されるようなバブル期超えの地点は今のところ、地価がかな り高いメインストリート沿いの一部に限定されると推察される ※4 ・実際の不動産売買取引事例においては、土地単価 ※5 が 3,000 万円 / ㎡(≒ 1 億円 / 坪)以上のような高単価物件あるいは売買価格が 100 億円以上のよう な高額物件の取引が目立っている。2016 年度の取引事例(売買価格判明分) では、10 事例中 4 事例が土地単価 3,000 万円 / ㎡以上かつ売買価格 100 億 円以上(他に土地面積不明で売買価格 100 億円以上が 1 事例あり。)で、い ずれもメインストリート沿いの物件であった。 ・今後の銀座地区の地価に関し、取引キャップレートが現在の水準から大きく 変動する蓋然性は低いと考えられる。他方、不動産賃貸収益の向上期待には 銀座地区の商業施設の賃料のピーク感(特に 1 階賃料)や都心部での 2018 年以降のオフィスビル大量供給などが重石となりやすい。したがって、取引 キャップレートが低位安定する中、不動産賃貸収益の向上期待が弱まる格好 となり、銀座地区の地価はこれまでのような大幅な上昇が続く蓋然性は低い と考えられる。ただし、銀座地区の商業施設の賃料水準は変動幅が大きいこ と(特に 1 階賃料)や土地の最有効使用の変化(ホテル開発ニーズの増加) をふまえると、訪日外国人の増加や国内景気の回復が予想を上回り、銀座地 区での消費・宿泊需要が増加することがあれば、不動産賃貸収益の向上期待 が再び高まり、地価上昇ペースを底上げする可能性も考えられる。 公開 株式会社都市未来総合研究所 2017 年度 vol.2 ※1 所在地の住居表示が 「銀座」 である地 点を対象 (したがって銀座地区の中心 部だけでなく昭和通りを越えた地点など も含まれる。)。 ※2 本稿でいうメインストリートとは、中央通り、 晴海通り、 外堀通り、 並木通り、 マロニ エ通り、 松屋通り、 みゆき通り、 交詢社 通りの 8 つの通りを指す。 メインストリー ト沿いの公示価格、 基準地価の調査地 点はいずれも 2016 年基準地価または 2017 年公示価格において前年比 20% 以上上昇している。 ※3 本稿でいうバブル期とは、 1986 ~ 1991 年の第 11 循環における景気拡大期 (内 閣府経済社会総合研究所による。) お よびこれに遅行する地価上昇期を指し、 いわゆる平成バブル経済期と同義であ る。 ※4 バブル期の路線価と直近の路線価を比 較することでバブル期超えの範囲を確 認することはできるが、 本稿では公示地 価、 基準地価を用いた分析のため、 推 察とした。 ※5 都市未来総合研究所 「不動産売買実 態調査」 から売買価格と土地面積の両 方が判明している事例対象。 土地単価 は土地 ・ 建物一体の取引を含め、 売買 価格÷土地面積として算出した。 複数 物件の取引で売買価格は一括開示の 事例は除く。 なお、 建物の一部取得や 借地 (一部または全部) 物件も同様の 算出式を用いているため、 当該物件に 関しては完全所有権で取得した場合と 比較して土地単価が低く算出される (分 析対象期間の 2004 ~ 2016 年度全体 で約 15%が該当。)。

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  • SPECIAL REPORT

    © 2017(株)都市未来総合研究所 1

    Special Report の中で示された内容や意見は、都市未来総合研究所の公式見解を示すものではありません。なお、Special Report に対するご意見・ご質問・お問い合わせは、執筆者までお寄せください。

    銀座地区の不動産売買取引動向と地価等の動向(その 2:地価等の動向)

    ~銀座地区の地価上昇は面的な広がりをみせ、バブル期ピークの地価を上回る地点が出現しているが、バブル期越えの地点は今のところ限定的と推察される。今後の銀座

    地区の地価は、これまでのような大幅な上昇が続く蓋然性は低いと考えられる。~

    2017 年 9 月

    湯目健一郎(Ken-ichiro Yunome)[email protected]

     バブル期の地価を超える地点が出現し、メディアで取り上げられる機会が多い銀座地区について、不動産売買動向と地価等の動向を 2 回に分けて紹介する。

    概要

    (その 2:地価等の動向)

    ・銀座地区※ 1 の地価(公示地価、基準地価。以下、単に地価と記載する場合がある。)は、金利低下や不動産投資ニーズの増大を背景とした取引キャップレートの低下とともに、大型再開発などの進展による地区全体の集客力アップやインバウンド消費・宿泊需要の増加といった不動産賃貸収益の向上期待などから、メインストリート※ 2 沿いにとどまらず、裏通りや銀座中心部の繁華街から離れた昭和通りを越えた地点でも前年比 2 ケタ上昇を記録し、面的な広がりをみせている。

    ・直近の地価をバブル期※ 3 ピークの地価と比較すると、直近の地価水準が高い地点ほどバブル期ピークの水準近くまで地価が上昇している(直近の地価水準が低い地点ほどバブル期ピークの地価水準を下回る)傾向がうかがえ、メディアで報道されるようなバブル期超えの地点は今のところ、地価がかなり高いメインストリート沿いの一部に限定されると推察される ※4。

    ・実際の不動産売買取引事例においては、土地単価 ※5 が 3,000 万円 / ㎡(≒ 1億円 / 坪)以上のような高単価物件あるいは売買価格が 100 億円以上のような高額物件の取引が目立っている。2016 年度の取引事例(売買価格判明分)では、10 事例中 4 事例が土地単価 3,000 万円 / ㎡以上かつ売買価格 100 億円以上(他に土地面積不明で売買価格 100 億円以上が 1 事例あり。)で、いずれもメインストリート沿いの物件であった。

    ・今後の銀座地区の地価に関し、取引キャップレートが現在の水準から大きく変動する蓋然性は低いと考えられる。他方、不動産賃貸収益の向上期待には銀座地区の商業施設の賃料のピーク感(特に 1 階賃料)や都心部での 2018年以降のオフィスビル大量供給などが重石となりやすい。したがって、取引キャップレートが低位安定する中、不動産賃貸収益の向上期待が弱まる格好となり、銀座地区の地価はこれまでのような大幅な上昇が続く蓋然性は低いと考えられる。ただし、銀座地区の商業施設の賃料水準は変動幅が大きいこと(特に 1 階賃料)や土地の最有効使用の変化(ホテル開発ニーズの増加)をふまえると、訪日外国人の増加や国内景気の回復が予想を上回り、銀座地区での消費・宿泊需要が増加することがあれば、不動産賃貸収益の向上期待が再び高まり、地価上昇ペースを底上げする可能性も考えられる。

    公開

    株式会社都市未来総合研究所

    2017 年度 vol.2

    ※ 1 所在地の住居表示が 「銀座」 である地

    点を対象 (したがって銀座地区の中心

    部だけでなく昭和通りを越えた地点など

    も含まれる。)。

    ※ 2 本稿でいうメインストリートとは、中央通り、

    晴海通り、 外堀通り、 並木通り、 マロニ

    エ通り、 松屋通り、 みゆき通り、 交詢社

    通りの 8 つの通りを指す。 メインストリー

    ト沿いの公示価格、 基準地価の調査地

    点はいずれも 2016 年基準地価または

    2017 年公示価格において前年比 20%

    以上上昇している。

    ※ 3 本稿でいうバブル期とは、 1986 ~ 1991

    年の第 11 循環における景気拡大期(内

    閣府経済社会総合研究所による。) お

    よびこれに遅行する地価上昇期を指し、

    いわゆる平成バブル経済期と同義であ

    る。

    ※ 4 バブル期の路線価と直近の路線価を比

    較することでバブル期超えの範囲を確

    認することはできるが、 本稿では公示地

    価、 基準地価を用いた分析のため、 推

    察とした。

    ※ 5 都市未来総合研究所 「不動産売買実

    態調査」 から売買価格と土地面積の両

    方が判明している事例対象。 土地単価

    は土地 ・ 建物一体の取引を含め、 売買

    価格÷土地面積として算出した。 複数

    物件の取引で売買価格は一括開示の

    事例は除く。 なお、 建物の一部取得や

    借地 (一部または全部) 物件も同様の

    算出式を用いているため、 当該物件に

    関しては完全所有権で取得した場合と

    比較して土地単価が低く算出される (分

    析対象期間の 2004 ~ 2016 年度全体

    で約 15%が該当。)。

  • SPECIAL REPORT

    2  © 2017(株)都市未来総合研究所

     バブル期の地価ピークである1991 年以降継続して調査対象となっている地点を対象に、直近の地価(2016 年※ 9)をバブル期ピークの地価(1991 年)と比較すると、直近の地価水準が高い地点ほどバブル期ピークの地価水準近くまで地価

    1. 銀座地区の地価はメインストリート沿いにとどまらず、裏通りや銀座中心部の繁華街から離れた地点でも前年比 2 ケタ上昇地点がみられる 銀座地区の地価は、金利低下や不動産投資ニーズの増大を背景とした取引キャップレートの低下とともに、メインストリート沿いを中心とした大型再開発や大型建替えなどの進展による地区全体の集客力アップやインバウンド消費・宿泊需要の増加といった不動産賃貸収益の向上期待から、メインストリート沿いを中心に大きく上昇し、銀座四丁目交差点付近の中央通り沿いではバブル期の地価を超える地点※ 6 も出現している(図表 1 ※ 7)。

    一方、メインストリート以外の裏通りや銀座中心部の繁華街から離れた昭和通りを越えた地点においても、前年比 10%超※ 8 の地価上昇を記録し、銀座地区の地価上昇は面的な広がりをみせている(図表 2)。

    2. 地価がバブル期を超える地点は直近の地価がかなり高いメインストリート沿いの一部に限定されると推察

     上記のように、銀座四丁目交差点付近の中央通り沿いではバブル期ピークの地価を超える地点も出現しているが、銀座地区のそれ以外の地点の地価はバブル期の地価に対して、どの程度回復しているのであろうか。

    ※ 6 2017 年の路線価における鳩居堂前の事例。 公示地価、 基準地価における銀座四丁目交差

    点付近の中央通り沿いの調査地点として、 山野楽器銀座本店 (公示地価 5-22) があるが、

    2002 年から調査対象となっているため、 バブル期との比較はできない。

    ※ 7 図表 1 ~ 3 の公示地価、 基準地価を対象としたグラフは、 公示地価、 基準地価とも同一年に

    表示したため、 調査時点には半年の差がある (2016 年 1 月 1 日時点の公示価格と 2016 年

    7 月 1 日時点の基準地価をともに 2016 年に表示。)。

    ※ 8 一例として、昭和通りを越えた地点の上昇率は、公示地価 5-1 が 2016 年+ 12%、2017 年+ 8%。

    公示地価 5-44 が 2017 年+ 10% (2016 年から調査地点)、 基準地価 5-17 が 2016 年+ 15%。

    ※ 9 本稿作成時点では 2017 年基準地価は未公表のため、公示地価、基準地価とも 2016 年とした。

    が上昇し、直近の地価水準が低い地点ほどバブル期ピークの地価水準を下回っている傾向がうかがえる。例えば、分析対象地点の中で直近の地価が最も高い中央通り沿い 2 丁目の地点(基準地価 5-13)はバブル期ピークの地価に対して約 9 割まで上

    図表 1 銀座地区の地価推移(2002 年以降継続して調査対象となっている地点)

    0

    1,000

    2,000

    3,000

    4,000

    5,000

    6,000

    1984

    1985

    1986

    1987

    1988

    1989

    1990

    1991

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

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    2003

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    2005

    2006

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    2010

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    2017

    (万円/㎡) 銀座地区の地価推移(2002年以降継続して調査対象となっている地点)

    基準地価-5-5 銀座7-11-14 基準地価-5-15 銀座3-2-9基準地価-5-13 銀座2-6-7 基準地価-5-17 銀座2-12-14公示地価-5-18 銀座4-2-15 公示地価-5-22 銀座4-5-6公示地価-5-27 銀座2-3-18 公示地価-5-4 銀座3-7-1公示地価-5-1 銀座2-16-12

    公示地価-5-22

    銀座4-5-6

    基準地価-5-13

    銀座2-6-7

    公示地価-5-18

    銀座4-2-15

    基準地価-5-1 銀座2-16-12

    -40%

    -30%

    -20%

    -10%

    0%

    10%

    20%

    30%

    40%

    50%

    60%

    1985

    1986

    1987

    1988

    1989

    1990

    1991

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    2002

    2003

    2004

    2005

    2006

    2007

    2008

    2009

    2010

    2011

    2012

    2013

    2014

    2015

    2016

    2017

    年銀座地区の地価変動率の推移(全地点対象)

    基準地価-5-14 銀座6-8-3 基準地価-5-5 銀座7-11-14基準地価-5-15 銀座3-2-9 基準地価-5-13 銀座2-6-7基準地価-5-17 銀座2-12-14 公示地価-5-53 銀座8-6-20公示地価-5-23 銀座7-9-19 公示地価-5-2 銀座6-8-3公示地価-5-41 銀座5-4-3 公示地価-5-18 銀座4-2-15公示地価-5-22 銀座4-5-6 公示地価-5-27 銀座2-3-18公示地価-5-44 銀座5丁目201番6外 公示地価-5-29 銀座2-6-7公示地価-5-4 銀座3-7-1 公示地価-5-1 銀座2-16-12

    図表 2 銀座地区の地価変動率の推移(全地点対象。2017 年調査開始地点除く)

    データ出所:図表 1、2 いずれも国土交通省「地価公示」、「都道府県地価調査」

  • © 2017(株)都市未来総合研究所 3

    SPECIAL REPORT

    昇しているのに対し、地価が最も低い昭和通りを越えた地点(公示地価5-1)は 1 割台にとどまっている(図表 3)。

     この傾向をふまえると、メディアで報道されるようなバブル期超えの地点は今のところ、地価がかなり高いメインストリート沿いの一部に限定されると推察される※ 4。銀座地区は大型再開発や大型建替えなどの進展やインバウンド消費需要の増加によって地区全体の集客力がアップしているが、その中でも特に出店ニーズが強いのは通行量が多く、視認性が良いメインストリート沿いであることから※ 10、メインストリート沿いの地価上昇は実需を伴ったものと考えられる。

    3. 実際の不動産売買取引事例ではメインストリート沿いに所在する高単価物件や高額物件の取引が目立つ

     銀座地区の不動産売買取引に関しては、「その 1:不動産売買取引動向」に記載のように、大型再開発などの進展による銀座地区全体の集客力アップやインバウンド消費・宿泊需要の増加といった不動産賃貸収益の向上に資する材料がある一方、不動産価格の高値警戒感が台頭し、買い時と判断する買主と売り時と判断する売主が並存する格好で取引が成立している様子がうかがえ、土地単価※ 5 が 3,000 万円 / ㎡(≒ 1 億円/ 坪)以上のような高単価物件や売買価格が 100 億円以上のような高額物件の取引が目立っている。

    ※ 10 銀座地区の店舗賃料の上昇基調が顕著であった 2013 ~ 2015 年 (「その 1 : 不動産売買取

    引動向」 参照) にかけての銀座地区のテナント出店動向に関し、 一般財団法人日本不動産

    研究所、 株式会社ビーエーシー ・ アーバンプロジェクト 「店舗賃料トレンド (各号)」 (デー

    タ提供 : スタイルアクト株式会社) では、 ブランドショップにより高額賃料が形成されるエリア

    は中央通りと並木通り (外堀通り) に挟まれた 2 ~ 7 丁目エリア (本稿が定義するメインスト

    リートのエリアにおおむね一致) にほぼ絞られる、インバウンド狙いの出店動向はメインストリー

    トを中心に引き続き活発、 などの記述がある。

    ※ 11 売買価格が判明している事例対象。 複数物件を取得し、売買価格は一括開示の事例は除く。

     銀座地区における実際の不動産売買取引事例(売買価格が判明している事例)について、取引物件の土地単価別の件数推移をみると、2016年度の取引事例では 9 事例中 4 事例が 3,000 万円 / ㎡以上の物件で(図表 4)、うち 2 物件が中央通り沿い、2 物件が並木通り沿いの物件であった。分析対象期間の 2004 ~ 2016年度における 3,000 万円 / ㎡以上の17 事例(2016 年度含む)に関しても 11 物件が中央通り沿い、4 物件が並木通り沿い、2 物件が晴海通り沿いと、すべてメインストリート沿いの物件となっている(図表 6 左)。

     売買価格※ 11 では、2016 年度の10 事例中 5 事例が 100 億円以上の物件で(図表 5)、うち 3 物件が中央通り沿い、2 物件が並木通り沿いの物件であった。分析対象期間の2004 ~ 2016 年度における 100 億円以上の 29 事例(2016 年度含む)に関しては、12 物件が中央通り沿い、5 物件が並木通り沿い、3 物件が晴海通り沿い、2 物件が外堀通り沿いと大半がメインストリート沿いの物件となっている。なお、残り 7物件はメインストリート以外であるが敷地面積が大きいため、高額となったものである(図表 6 右)。

    図表 3 銀座地区のバブル期ピーク地価に対する直近地価の比率

    R² = 0.948

    0%

    10%

    20%

    30%

    40%

    50%

    60%

    70%

    80%

    90%

    100%

    0 1,000 2,000 3,000 4,000

    1991年の地価に対する直近地価(2016年地価)の上昇率

    直近地価(2016年地価)万円/㎡

    銀座地区のバブル期ピーク(1991年)の地価に対する

    直近地価(2016年地価)の比率

    (1991年以降継続して調査対象となっている地点)

    基準地価-5-5

    銀座7-11-14

    基準地価-5-13

    銀座2-6-7

    公示地価-5-18

    銀座4-2-15

    公示地価-5-4

    銀座3-7-1

    基準地価-5-15

    銀座3-2-9

    *「公示地価-5-22

    銀座4-5-6」は

    1991年はデータなし

    基準地価-5-17

    銀座2-12-14

    公示地価-5-1

    銀座2-16-12

    データ出所:国土交通省「地価公示」、「都道府県地価調査」

  • SPECIAL REPORT

    4  © 2017(株)都市未来総合研究所

    図表 4 銀座地区の不動産売買取引件数(土地単価区分別)(左:件数、右:構成割合)※ 売買価格と土地面積の両方が判明している事例対象

    図表 6 銀座地区の不動産売買取引事例における高単価物件、高額物件の所在(左:土地単価、右:売買価格)

    02468

    10121416182022

    2004

    年度

    (n=9

    )

    2005

    年度

    (n=2

    0)

    2006

    年度

    (n=9

    )

    2007

    年度

    (n=6

    )

    2008

    年度

    (n=5

    )

    2009

    年度

    (n=9

    )

    2010

    年度

    (n=1

    3)

    2011

    年度

    (n=7

    )

    2012

    年度

    (n=6

    )

    2013

    年度

    (n=8

    )

    2014

    年度

    (n=1

    6)

    2015

    年度

    (n=8

    )

    2016

    年度

    (n=9

    )

    (件数)銀座地区の不動産売買取引件数(土地単価区分別)

    (建物の一部取得や借地(一部または全部)物件含む)

    3,000万円/㎡以上 2,000万円/㎡以上 1,000万円/㎡以上 1,000万円/㎡未満

    *土地単価は土地・建物一体の取引であっても、売却価格÷土地面積として算出

    0%

    10%

    20%

    30%

    40%

    50%

    60%

    70%

    80%

    90%

    100%

    2004

    年度

    (n=9

    )

    2005

    年度

    (n=2

    0)

    2006

    年度

    (n=9

    )

    2007

    年度

    (n=6

    )

    2008

    年度

    (n=5

    )

    2009

    年度

    (n=9

    )

    2010

    年度

    (n=1

    3)

    2011

    年度

    (n=7

    )

    2012

    年度

    (n=6

    )

    2013

    年度

    (n=8

    )

    2014

    年度

    (n=1

    6)

    2015

    年度

    (n=8

    )

    2016

    年度

    (n=9

    )

    銀座地区の不動産売買取引の土地単価区分別構成割合(件数ベース)

    (建物の一部取得や借地(一部または全部)物件含む)

    3,000万円/㎡以上 2,000万円/㎡以上 1,000万円/㎡以上 1,000万円/㎡未満

    *土地単価は土地・建物一体の取引であっても、売却価格÷土地面積として算出

    0

    2

    4

    6

    8

    10

    12

    14

    16

    18

    20

    22

    2004

    年度

    (n=1

    0)

    2005

    年度

    (n=2

    0)

    2006

    年度

    (n=9

    )

    2007

    年度

    (n=6

    )

    2008

    年度

    (n=5

    )

    2009

    年度

    (n=1

    0)

    2010

    年度

    (n=1

    3)

    2011

    年度

    (n=8

    )

    2012

    年度

    (n=7

    )

    2013

    年度

    (n=9

    )

    2014

    年度

    (n=1

    6)

    2015

    年度

    (n=8

    )

    2016

    年度

    (n=1

    0)

    (件数) 銀座地区の不動産売買取引件数(売買価格区分別)

    (建物の一部取得や借地(一部または全部)物件含む)

    100億円以上 50億円以上 10億円以上 10億円未満

    0%

    10%

    20%

    30%

    40%

    50%

    60%

    70%

    80%

    90%

    100%

    2004

    年度

    (n=1

    0)

    2005

    年度

    (n=2

    0)

    2006

    年度

    (n=9

    )

    2007

    年度

    (n=6

    )

    2008

    年度

    (n=5

    )

    2009

    年度

    (n=1

    0)

    2010

    年度

    (n=1

    3)

    2011

    年度

    (n=8

    )

    2012

    年度

    (n=7

    )

    2013

    年度

    (n=9

    )

    2014

    年度

    (n=1

    6)

    2015

    年度

    (n=8

    )

    2016

    年度

    (n=1

    0)

    銀座地区の不動産売買取引の売買価格区分別構成割合(件数ベース)

    (建物の一部取得や借地(一部または全部)物件含む)

    100億円以上 50億円以上 10億円以上 10億円未満

    02468

    1012

    中央通り 並木通り 晴海通り 外堀通り その他

    メインストリート メインスト

    リート以外

    (件数) 分析対象期間(2004~2016年度)における土地単価3,000万円/㎡以上の17事例の物件所在

    *その他はマロニエ通り、松屋通り、みゆき通り、交詢社通り。

    *複数の通りに面している場合はいずれか一つの通りに計上。

    02468

    101214

    中央通り 並木通り 晴海通り 外堀通り その他

    メインストリート メインスト

    リート以外

    (件数) 分析対象期間(2004~2016年度)における売買価格100億円以上の29事例の物件所在

    *その他はマロニエ通り、松屋通り、みゆき通り、交詢社通り。

    *複数の通りに面している場合はいずれか一つの通りに計上。

    図表 5 銀座地区の不動産売買取引件数(売買価格区分別)(左:件数、右:構成割合)※ 売買価格が判明している事例対象

    データ出所:図表 4 ~ 6 いずれも都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」

  • © 2017(株)都市未来総合研究所 5

    SPECIAL REPORT

    4. 今後の銀座地区の地価はこれまでのような大幅な上昇が続く蓋然性は低いと考えられる。ただし、訪日外国人の増加や国内景気の回復が予想を上回れば、地価上昇ペースを底上げする可能性も

      これまでの銀座地区の地価の上昇は、金利低下や不動産投資ニーズの増大を背景とした取引キャップレートの低下とともに、大型再開発の進展による地区全体の集客力アップやインバウンド消費・宿泊需要の増加といった不動産賃貸収益の向上期待が大きかったことが要因と考えられる。

     今後の銀座地区の地価に関しては、資金調達環境が良好な中、不動

    産投資ニーズは底堅いが、金利水準が大きく低下する余地は小さいことから、取引キャップレートが現在の水準から大きく変動する蓋然性は低いと考えられる※ 12。他方、不動産賃貸収益の向上期待に関しては、銀座地区の商業施設の賃料が 2015 年頃から頭打ちしていることや(特に1 階賃料)(「その 1:不動産売買取引動向」参照)、都心部での 2018年以降のオフィスビル大量供給などが重石となりやすい。したがって、取引キャップレートが低位安定する中、不動産賃貸収益の向上期待が弱まる格好となり、銀座地区の地価はこれまでのような大幅な上昇が続く蓋然性は低いと考えられる。

     ただし、銀座地区の商業施設の賃料水準は変動幅が大きいため(特に 1 階賃料)(図表 7)、消費需要の

    増加によって、商業施設の不動産収益が大きく向上する可能性があること、土地の最有効使用の観点では、人通りが相対的に少ない、あるいは敷地規模が小さい、地形が悪いといった商業施設やオフィスビルに不向きな裏通りの土地であってもホテル事業が成立する場合があり、こうした土地はホテル素地として従来よりも高い価格で売却できる可能性がある(「その 1:不動産売買取引動向」参照)。こうした特徴をふまえると、訪日外国人の増加や国内景気の回復が予想を上回り、銀座地区での消費・宿泊需要が増加することがあれば、不動産賃貸収益の向上期待が再び高まり、地価上昇ペースを底上げする可能性も考えられる。

    ※ 12 イールドスプレッドに関しては、 ファンドバブル期 (国内外のファンドによる不動産投資が急

    増した 2006 ~ 2008 年ころを指す。レバレッジを利かせるなどして、高値の取引が散見された。)

    よりも現在のほうが厚いが、 ファンドバブル期はレバレッジを効かせることで小さなイールドスプ

    レッドでも投資が活発化したと考えられる。 現在は当時のようなハイレバレッジの取引は少ない

    と考えられ、 イールドスプレッドの縮小が進みにくいと考えられる。

    20,000

    30,000

    40,000

    50,000

    60,000

    70,000

    80,000

    90,000

    上期

    下期

    上期

    下期

    上期

    下期

    上期

    下期

    上期

    下期

    上期

    下期

    上期

    下期

    上期

    下期

    上期

    下期

    2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年

    (円/坪) 銀座エリアの店舗の公募賃料

    全フロア 1F 1F以外

    図表 7 銀座地区(左図)と表参道地区(右図)の商業施設(グラフでは店舗と記載)の賃料推移の比較

    20,000

    30,000

    40,000

    50,000

    60,000

    70,000

    80,000

    90,000

    上期

    下期

    上期

    下期

    上期

    下期

    上期

    下期

    上期

    下期

    上期

    下期

    上期

    下期

    上期

    下期

    上期

    下期

    2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年

    (円/坪) 表参道エリアの店舗の公募賃料

    全フロア 1F 1F以外

    データ出所:一般財団法人日本不動産研究所、株式会社ビーエーシー・アーバンプロジェクト「店舗賃料トレンド(各号)」(データ提供:スタイルアクト株式会社)

  • SPECIAL REPORT

    6  © 2017(株)都市未来総合研究所

    <参考>銀座地区の不動産売買取引事例における売買価格(土地単価)の変動率

     銀座地区における不動産売買取引事例について、同一物件で 2 回の

    図表 8 銀座地区における同一物件の売買価格(土地単価で図示)の変動率

    ②+40%

    ①+23%

    -21%

    ④+50%

    +69% +49%-32%

    ③+39%

    0

    500

    1,000

    1,500

    2,000

    2,500

    3,000

    3,500

    4,000

    4,500

    5,000

    2004

    年1月

    2005

    年1月

    2006

    年1月

    2007

    年1月

    2008

    年1月

    2009

    年1月

    2010

    年1月

    2011

    年1月

    2012

    年1月

    2013

    年1月

    2014

    年1月

    2015

    年1月

    2016

    年1月

    2017

    年1月

    (万円/㎡)銀座地区における同一物件の売買価格(土地単価)の変動率

    初回2014年・2回目2016年

    初回2005年・2回目2006年

    図表 9 銀座地区における同一物件の売買価格の変動率と前面道路の路線価の変動率(初回と 2 回目の取引が比較的短期間の事例)

    売買取引が行われ、両取引の売買価格が判明している事例を抽出し※ 13、売買価格(図表 8 では土地単価で図示)の変動率を算出した※ 14。

     図表 9 には初回と 2 回目の取引が

    比較的短期間(2 年以内)で行われた 4 事例を整理した(参考として当該物件の前面道路の路線価の変動率を記載)。

    初回2014年・2回目2016年の2事例

    取引事例における売買価格の変動率 約2年で23%

    前面道路(二方道路)の路線価の変動率

    2015~2017年の2年間で42%、56%

    取引事例における売買価格の変動率約2年で40%(取引建物は同一だが当初取得者は低層階の用途変更等により賃貸収益を高めて売却)

    前面道路(三方道路)の路線価の変動率

    2015~2017年の2年間で23%、30%、33%

    初回2005年・2回目2006年の2事例

    取引事例における売買価格の変動率 約1年で39%

    前面道路の路線価の変動率 2006~2007年の1年間で32%

    取引事例における売買価格の変動率 約1年で50%

    前面道路(三方道路)の路線価の変動率

    2006~2007年の1年間でいずれも27%

    ②中央通りと昭和通りの間に所在する物件

    ①中央通り沿いに所在する物件

    ②中央通りと昭和通りの間に所在する物件

    ①外堀通りと中央通りの間に所在する物件

    データ出所:売買価格は都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」、路線価は国税庁「財産評価基準書路線価図」

    データ出所:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」

    ※ 13 建て替えで初回と 2 回目の取引時の建物が異なる事例除く。 初回に解体目的の空きビルを

    取得し、 2 回目に更地を売却した事例含む。

    ※ 14 売買価格は取引の諸条件に影響されるが、 売買価格に大きな影響を与えるような特殊事情

    はないものと想定した。

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    【主な業務】(1) 不動産に係る市場・顧客環境の調査研究と事業戦略・投資戦略に関するコンサルティング , (2) 資産マネジメント:CRE(企業不動産)・FM、AM・PM に関する調査研究とコンサルティング , (3) 開発プロジェクトのための調査研究とコンサルティング , (4) 都市開発および地域開発の調査研究とコンサルティング

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