鋼板挿入型ドリフトピン接合による 木質構造接合部...
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鋼板挿入型ドリフトピン接合による 木質構造接合部の非線形解析と実験
近畿大学大学院 堀智之
研究背景 2
「格子状吹き抜け構造」という従来の木造住宅の吹き抜け構造とは違う、
新たな構造モデルの力学特性を解析する手法の構築が研究されている。しかし、完成させるには、様々な問題がある。
問題点として、実大寸法の格子状吹き抜け構造の正負繰り返し載荷試験をしたところ、接合部である が変形し耐力向上
が乏しかったことがあげられる。
区画梁接合部 GOYA金物
GOYA金物
格子梁接合部 T字型プレート
図5. T字型プレート
・面材,火打ち仕様とは異なる横架材ユニット
・床または吹き抜けを含む床構面として活用
図1. 格子ユニット一例
2P×2P 2P×3P 4P×4P-2P×2P 4P×4P-1P×2P 4P×4P-3P×4P
1P=910[mm]
図2. 活用例
2730
910
3640
格子状吹き抜け構造(格子ユニット)について
吹き抜け 床張り 可能
格子ユニット 格子状吹き抜け構造
3
基本モジュールを表す記号「P」 ・格子形状・
2P×2P -最小サイズ 4P×4P -最大サイズ
3
図3. 構成部材
2730
910
3640
区画梁
ユニットの構成部材について 4
4
格子ユニット構成部材 格子状吹き抜け構造
格子梁 +
区画梁接合部 GOYA金物
剛性 1k
図4. GOYA金物
格子梁接合部 T字型プレート
剛性 2k
図5. T字型プレート
実験方法と結果 5
図9. 試験体A(E105) 図10. 試験体B(E105)
5
◆実験について:試験体の端部はピン支持とし、頂部を水平ジャッキにより正負繰り返し載荷を行う
◆加力装置のストローク限界に達しても破壊までには至らなかったが、架構の変形性状の違いに起因する接合部の初期不正の影響が確認された。
本研究の目的 6
実験により発覚した木造接合部(T字型プレート)についての問題、ドリフトピンの大きさ、ピンを打つ位置、鉄板の厚さなどの設計に必要なメカニズムを、的を絞った実験により把握する。
汎用有限要素ソフトアンシスを使用し、力の流れを正確に把握することにより、格子状吹き抜け構造の完成を目指すことを目的としている。
鋼板挿入型ドリフトピン実験概要 7
7
鋼板挿入型ドリフトピン
試験体P2-2D
試験体P1-2D
試験体は、同様の形状でドリフトピンの軸径が4D(D=16)のものでピンの本数が1本(P1),2本(P2),3本(P3)があり、それらに対しても同様に実験を行う。
格子梁接合部 T字型プレート
図5. T字型プレート
8
8
変位計
実験方法
矢印の位置に変位計をセットし試験体の両端部を固定し引っ張り圧縮試験機にセットし引っ張り試験を行う
拡大
変位計
実験結果(試験体終局状況) 9
P1-2D
P3-2D
P2-2D
P1,P2について終局状況は、鋼板によりピンが引っ張られるため側面に損傷が見られた。
P3については、ドリフトピンの間から部材が完全に割れていることがわかる。これは、ピンとピンの間に応力が集中しているためであると考えられる。
せん断応力度分布(解析)
解析方法
10
10
◆本研究の解析では、直交異方性体の弾性応力により解析を行う。直交異方性の主軸を(x, y, z)とする直交異方性体を考えると,その弾性応力-ひずみ関係は,次式で与えられる。
Eはヤング係数、Gはせん断弾性係数,nijはi方向の垂直応力によってj方向に生じる垂直ひずみの大きさを表すポアソン比である。式中の弾性コンプライアンスマトリックスは通常の等方性弾性体の場合と同様,対称マトリックスとなる。
Hillのポテンシャル理論- 11
11
木材のように年輪に対して繊維方向、接線方向、半径方向のように荷重のかける向きによって強弱がある場合は方向異方性のHillポテンシャル理論を用いる。Hillの基準は材料の異方性降伏を考慮するためにvon Misesの降伏条件を拡張したものであり,この基準が等方硬化則として使用される場合,降伏関数は以下の通り求められる。
σ0=参照降伏応力 εp=相当塑性ひずみ、 {σ}=応力ベクトル [Cp]=塑性コンプライアンスマトリックス
材料は3つの対称直交平面を持つと仮定すると,材料座標系がこれらの対称平面に対し法線方向である場合,塑性コンプライアンスマトリックスは以下のように表される。
採用する材料定数と降伏応力値 12
12
方向 値 単位 備考
ヤング係数E L 10500 N/mm2 EL R 420 N/mm2 EL/25 T 420 N/mm2 EL/25
せん断弾性係数G LR 700 N/mm2 EL/15 RT 700 N/mm2 EL/15 TL 700 N/mm2 EL/15
ポアソン比ν LR 0 RT 0 TL 0
記号 値(N/mm2) 備考 降伏応力比Rij
単軸降伏応力 FL 30.0 FL FL/FL=1.000 FR 3.75 FL/8 FR/FL=0.1250 FT 3.75 FL/8 FT/FL=0.1250
せん断降伏応力 FLR 3.00 FL/10 FLR/FL=0.1732 FRT 3.00 FL/10 FRT/FL=0.1732 FTL 3.00 FL/10 FTL/FL=0.1732
表1 採用する材料定数
表2 採用する降伏応力値
有限要素法による弾塑性解析 13
13
φ1224
800
120
300
スリット11mm
11
解析モデルは,下図に示す試験体に対し,ドリフトピン(P)本数および端距離(直径D=12mmのドリフトピン径の2倍,4倍,6倍)の異なるモデルで解析する。
解析モデル(基本形状)
φ1224
800
φ1248
800
φ1272
800
φ12
24
800
75
φ12
48
800
75
φ12
72
800
75
P1-2D
P2-2D
P1-6D P1-4D
P2-6D P2-4D
モデルの要素分割 14
解析は,試験体の対称性を利用し,1/2解析モデルによって解析を行った。 2D-1モデル,4D-1モデルの要素分割を示す。
2D-1モデル 4D-1モデル
解析結果
15
0
5
10
15
20
25
0 1 2 3 4 5
荷重
(kN
)
変位(mm)
解析
実験
0
5
10
15
20
25
30
0 1 2 3 4 5
荷重
(kN
)
変位(mm)
解析
実験
2D-1モデルの荷重変位関係
2D-1モデルの相当応力度分布
4D-1モデルの荷重変位関係
4D-1モデルの相当応力度分布
ピンの位置が端から近いもの ピンの位置が端から遠いもの
二つのモデルの比較 16
4Dと2Dのモデルを比較すると解析と実験の結果はほぼ同じ値を示した。そして、4Dと2Dでは2Dの方が少ない荷重で大きく変位していることが確認された。 0
5
10
15
20
25
30
0 1 2 3 4 5
荷重
(kN)
変位(mm)
4D-1・解析
4D-1・実験
2D-1・解析
2D-1・実験
相当応力の分布と実験の終局状況を見ても全く同じ箇所が破壊されており、実験と解析の妥当性が伺える。しかしピンと木材の接触要素を考慮しないと解析結果に大幅場なずれが生じることが確認できた。
P1,P2モデルの端距離の比較 17
P2のせん断応力度分布
0
20
40
60
80
100
120
0 1 2 3 4 5
荷重
(kN
)
変位(mm)
P1-6D
P1-4D
P1-2D
0
20
40
60
80
100
120
0 1 2 3 4 5
荷重
(kN
)
変位(mm)
P2-6D
P2-4D
P2-2D
P2モデルの端距離の比較 P1モデルの端距離の比較
P1のせん断応力度分布
ピン軸径(2D,4D)ごとの比較 18
2D
0
10
20
30
40
50
60
70
0 2 4 6 8
荷重
(kN
)
変位(mm)
2D-1
2D-2
2D-3
0
10
20
30
40
50
60
70
0 2 4 6 8
荷重
(kN
)
変位(mm)
4D-1
4D-2
4D-3
4D
◆2Dはドリフトピンの数が増えるごとに、耐力も2倍、3倍と大きくなっていることがわかる。
◆4Dでも2Dと同様にドリフトピンの数が増えるごとに変位も増大していくことが分かった。
ドリフトピンの曲げ実験 19
実験目的:格子状吹き抜け構造の鋼板に挿入されている格子梁のドリフトピンの耐力を正確に把握する。
2730
910
3640
格子梁接合部
T字型プレート
剛性
2k
図5. T字型プレート
ドリフトピン
実験方法 変位計をセットし、試験体を引っ張り圧縮試験機にセット。両端に支えを持たせレーザーによりピンの真ん中を圧縮し鋼材の変位,荷重,曲げ応力度,ひずみ度を計測する。同じ試験体を3つ用意し同様の実験を行い実験によるデータの正確さと合わせて結果を検討する。
実験結果 20
試験体終局状況
試験体1 試験体3 試験体2
0
2
4
6
8
10
12
0 5 10 15
荷重
(kN
)
変位(mm)
試験体1
試験体2
試験体3
正確な実験データを取るため材質SS400の同型のドリフトピン3つの耐力実験を行った。荷重と変位の関係から初期剛性は高く約6KNを超えるまでは変位もそれほど大きくはなかったが、6KNを超えてからは大きく変位し10KNで約15mm変位した。
解析概要 21
解析モデル 試験体1
解析は実験で使用したドリフトピンと全く同じ形状、厚さ、ヤング係数で解析を行い力の流れと応力集中箇所の算定を目的とし解析を行った。加える応力は実験と同様にピンの頂部の真ん中に応力を加え荷重と変位を求める
ヤング係数:230KN/mm2
摩擦系数:0.00002≒0 降伏応力値は実験から得
られた値とする
ポアソン比:0.3
解析結果 22
解析終局応力度分布
試験体1終局状況
解析の応力度分布からピンの中心部に応力が集中していることが分かる。解析結果と実験結果を比較すると6kNまでは両者とも弾性域であるが6kNを超えてからは塑性域に入り、徐々に変位が大きくなり最大で14㎜の変位が確認された。また金属などの等方性材料は解析でほぼ同じ値になることがわかった。
鋼板挿入型ドリフトピン接合実大実験 23
目的:これまで行ってきた実験のまとめとして行った実験の結果から分かったそれぞれの問題点を考慮した実験を行う。
問題点①:ドリフトピンの数が増えるにつれ、ピンとピンの間に応力が集中し部材が真ん中から割裂してしまったこと
問題点②:ドリフトピン1本の耐力は約10kNであったこと
問題点の解決 24
問題点①について:ドリフトピンが一列に並んでいたため応力を分散できずにピンとピンの間に応力が集中してしまったと考えられるので、今回の実験では応力の分散を図るためピンの間にある程度の不規則性を持たせることとした。
問題点②について:ドリフトピンの本数を82本と前回よりも多くすることでピン1本が負担する耐力を軽減させる。もっとも単純な計算であるが一本につき約10kN負担するので、82本であれば全体で約820kNの耐力が期待されるのではないかと予想される。
前回の実験 今回の実験
試験体概要 25
105
105
450
210
3000 650 650 3000
8160
3980
3430
580 580
3430
430 4307300
3980
48
溝形鋼200-90-8-13.5-L450鋼鈑(SS400)450-580-t9
ドリフトピンDP16-210(丸鋼φ16-L210×40本)
構造用LVL 105-450(120E-320F/55V-47H)
M16ボルトL185 スチフナ(t=9)
高力TCボルトM20-L60
ドリフトピンDP16用孔加工木材:φ16孔,鋼材:φ16.5孔
φ18貫通孔(φ50段差孔)
φ22孔
105 105
210
450
200
550 550
50505050
φ18貫通孔(φ50段差孔)
900 900 900 900
8 8
φ18貫通孔(φ50段差孔) φ18貫通孔(φ50段差孔) φ18貫通孔(φ50段差孔)
140
φ18貫通孔(φ50段差孔) φ18貫通孔(φ50段差孔) φ18貫通孔(φ50段差孔)
φ18貫通孔(φ50段差孔)
50
25
M16ボルトL185
25
50
87.5
87.5
900900900900 1409
鋼鈑:φ18孔木材:φ18貫通孔(φ50段差孔)
87.5
50
87.5
50
φ22孔
φ22孔
φ22孔
φ22孔
φ22孔
φ22孔
φ22孔
φ22孔
φ22孔
φ22孔
48
9
200
部品
その他すべてφ16.5孔
48
48
鋼鈑450-580-t9(SS400)
φ18孔
450
48
580
100
φ22孔
50
87.5
87.5
87.5
87.5
50
ドリフトピンDP16用孔加工木材:φ16孔,鋼材:φ16.5孔
484848484848484848
48
48
48
33
33
48
48
48
48
480
488 488
484848484848484848
48
48
48
33
48
48
48
33
試験体前長8150㎜。
ドリフトピンの本数82本。
実験概要 26
実験は試験体の中心からの1300㎜の部分を頂部から金物を当てその金に荷重をかける方法で圧縮試験を行う。またD1~D7は変位計の位置を示す。
実験結果(試験体終局状況) 27
試験体(実験前) 試験体終局状況
試験体(接合部) 試験体(接合部)終局状況
接合部終局状況
試験体は前回の実験とは異なりピンとピンの間から部材が破断することはなく、木材の中にある鋼板が先に破断し試験機のストローク限界となった。
実験結果(変位計ごとの変位荷重) 28
真ん中に設置した変位計が最高変位を記録し120kNで20㎜変位することがわかる。D2の変位計も大きく変位を記録しているがこれは実験の手違いにより実験途中で変位計がずれたためこのような値となった。曲げに対するヤング係数は6.66kN/㎟となった。また最大曲げモーメントは180kNmであり、耐力は400kNと予想の半分程度耐力であった。
まとめ 29
本研究の目的
目的①:接合部(T字型プレート)の耐力を向上させることにより、格子状吹き抜け構造の完成を目指す。
目的②:接合部の耐力向上のための実験と解析の結果を比較し解析の妥当性の検討を行う。
0
5
10
15
20
25
30
0 1 2 3 4 5
荷重
(kN
)
変位(mm)
4D-1・解析
4D-1・実験
2D-1・解析
2D-1・実験
それぞれの成果のまとめ 30
目的①の成果:最終的に行った鋼板挿入型ドリフトピン接合部の実大実験では耐力400kNm、曲げに対するヤング係数は6.66kN/㎟となりまだまだ耐力の向上が不可欠であることがわかった。これまでの実験では接合部問題に対しての実験解析を行っただけであるので、今後は今までに行った実験をもとに格子状吹き抜け構造の実大実験を行い、改めて問題を把握し格子状吹き抜け構造の完成を目指してほしい。
目的②の成果:鋼鈑挿入型ドリフトピン接合では, Hillのポテンシャル理論にもとずく木質材料の異方性また,ドリフトピンと木材との接合面には接触問題を考慮しなければ、部材の寸法や降伏応力値等を同じにしても全く違い値になることがわかった。