底質の固化・被覆 (反転・集積反転工法)による ため池放射性...

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12調1Cs 2Cs 331調3底質の固化・被覆 (反転・集積反転工法)による ため池放射性物質の汚染拡散防止 青木あすなろ建設株式会社 東京土木本店 課長 杉山 浩司 3 0 c m 2 0 c m 3 0 c m 3 0 c m 2 0 c m 2 0 c m 3 0 c m 図 1  固化反転工法 5 1 5 c m 5 1 5 c m 2 0 c m 図 2  集積反転工法 76 土地改良 292号 2016.1

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技 術 紹 介

技 術 紹 介

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取組の背景

 

東日本大震災に起因して発生した原子力発電所

の事故により、ため池等の農業水利施設には、放

射性物質が蓄積しており、営農や施設管理等に悪

影響を及ぼさないための対策が必要となっている。

東北農政局と福島県は平成二十四年度から「ため

池等汚染拡散防止対策実証事業」により、ため池

等農業水利施設における放射性物質の実態とそれ

による影響の把握、及び影響を軽減するための対

策技術の実証に取り組んでいる。

 

本報では、その一環として、福島県南相馬市の

ため池で行った実証工事の概要と得られた結果に

ついて紹介する。

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対策技術の概要

 

ため池の放射性物質対策は、要因や程度に応じ

て、吸着除去、底質の原位置固定、底質被覆、底

質除去等多岐にわたる。

 

本ため池では底質の巻き上がり抑制を目的とし

た対策を行った。巻き上がり抑制対策としては、

底質除去、底質の原位置固定、底質被覆があるが、

対象面積が二〇、〇〇〇㎡を超える、本ため池に

おいては、原位置固定のための工法として、固化、

被覆を合わせた底質固化反転工法を採用した。

 

なお、本工法は『ため池等汚染拡散防止対策技

術検討委員会』により検討した対策工法である。

 

今回の実証工事では事前の調査により、対策工

法を以下の二工法に分けて行った。

 

固化反転工法(図1)

放射性Cs(セシウム)汚

染の深さが一〇㎝を超える範囲は、①上層(三〇

㎝)を剥ぎ取り、セメント系固化材で改良、②覆

土材として下層(二〇㎝)を剥ぎ取り、中性固化

材で改良、③上層を先に埋戻し、④下層を埋戻し

(覆土)反転させる。

 

集積反転工法(図2)

放射性Cs汚染の深さが

一〇㎝以下の範囲は、⑤表層(五〜一五㎝)を剥

ぎ取り、セメント系固化材で改良、⑥集積場に埋

めて覆土材(中性固化材で改良)にて覆土する。

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実証工事の概要

3・1 工事範囲

 

事前調査結果により図3に示す通り各工法の施

底質の固化・被覆(反転・集積反転工法)によるため池放射性物質の汚染拡散防止

青木あすなろ建設株式会社東京土木本店 課長 杉山 浩司

上層 30cm

下層 20cm

上層 30cm

①上層 30cm を剥ぎ取りセメント系固化材で改良する。

②下層 20cm を剥ぎ取り中性固化材で改良する。

③改良した上層土を先に埋戻す。(反転)

④改良した下層土を埋戻す。(覆土)

下層 20cm

上層 30cm

図 1 固化反転工法

⑤表層 5~15cm を剥ぎ取りセメント系固化材で改良する。

⑥改良土を集積場に埋戻し覆土する。

表層 5~15cm表層改良土

覆土 20cm

図 2 集積反転工法

76 土地改良 292号 2016.1●

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工範囲(面積)を決定した。

3・2 固化材の種類及び添加量

 

固化材の種類は放射性Cs(セシウム)を含む上

層土及び表層土は改良効果が高く経済的なセメン

ト系固化材、下層土は覆土材として転用し、工事

完了後はため池の底質となるため、水質に影響が

出にくい中性固化材を使用した。

 

添加量は改良後のバックホウによる池敷き内作

業を想定して、トラフィカビリティ確保に必要な

強度八八kN/㎡により以下の通りとした。

①セメント系固化材(高有機質土用)一二〇㎏/㎥

②中性固化材二一〇㎏/㎥。

3・3 使用機械

 

本工事に使用した主要機械を表1に示す。

 

施工時期が冬期で、改良後の強度発現が遅くト

ラフカビリティの早期確保が困難で工期上の制約

もあり、池敷き内作業はすべて泥上掘削機(写真

1)にて行った。

3・4 仮設備計画(図3)

改良作業ヤード 

上流の畑を借地し、掘削土を

運搬・仮置きし改良を行うヤードを設置した。

仮排水路工 

上流部からの流入水は仮排水路管

径三〇〇㎜×二条により、下流側の池外へ排水

した。

濁水処理設備 

池敷き内の作業で発生する濁水

は下流側堤体部に設置した濁水処理設備三〇

㎥/hにより処理した。

中央仮設道路

池敷き内の中央部に敷鉄板を敷

設し幅員六・〇mの施工時の進入路を設置した。

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実証工事の結果

①作業単位毎の空間線量率変化

 

実証工事による周辺への線量の影響を事前に把

握するため、実施工前に固化反転工法試験施工を

行い各作業時の空間線量率を確認した。

 

結果を図4に示す。

 

上層剥ぎ取り、下層剥ぎ取りにより線量率は低

下する。反転により上層改良土を埋戻すと線量は

上昇するが改良による低減効果が確認できる。最

後に下層改良土を埋戻し覆土することで線量はさ

らに低減する。

②各対策工法の空間線量率変化

 

対策工法の効

果を把握するた

めに、工事期間

中施工範囲の測

点ごとに空間線

量率を測定した。

図5に固化反転

工法の空間線量

率測定結果を示

す。

 

施工開始前の

空間線量率は

〇・六〜一・〇μ

Sv/hであった

が、は剥ぎ取り、

集積反転工法(A=14,014m2)

固化反転工法(A=6,801m2)

①改良作業

ヤード

②仮排水路工

③濁水処理設備

④中央仮設道路

図 3 施工範囲・仮設計画図

写真 1 泥上掘削機(MA200)

表 1 主要機械

機械名 能力、規格 使用工種集積・反転

湿地ブルドーザ D21P 4t級 敷均・締固め

不整地運搬車 EG110R 11t 運搬

泥上掘削機 MA200 0.7m3 掘削・積込・敷均・整地土質改良

バックホウ SH200-5 0.7m3 積込・投入

自走式土質改良機 SR-P1800 120t/h 土質改良

濁水処理設備 30m3/h 濁水処理

図 4 各作業時の空間線量率測定結果

77土地改良 292号 2016.1 ●

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技 術 紹 介

埋戻しを順次行うことにより、空間線量率は徐々

に低減し、施工完了時には〇・四μSv/hまで低

減している。

 

測定結果より、汚染土を固化・反転して覆土す

る固化反転工法は、線量率を三〇%〜六〇%低減

でき対策工法として有効である。

 

また、ため池の底質は覆土材により固化され、

汚染土の流失も防止できる。

 

図6に集積反転工法における表層剥ぎ取り箇所

の空間線量率測定結果を示す。

 

施工開始前の空間線量率は〇・五〜一・二μSv/

hであったが、各測点位置の表層剥ぎ取り直後に

線量率が〇・三μSv/h

まで低減した。

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その他技術

①地形測量

 

放射性物質対策では、

確実に汚染土を処理する

ことが必要とされる。剥

ぎ取りは通常、点で施工

管理を行うが、点管理で

は汚染土の取り残しが懸

念される。今回は事前、

事後の地形測量に、三次

元レーザースキャナー測

量を採用し面的に剥ぎ取

り厚を管理することで取

り残し防止対策を行った。

②土質改良

 

改良は当初バックホウ

原位置撹拌を計画してい

たが、池敷き内の汚染土

は含水比が高く原位置で

の適正な固化材の添加管

理が困難であった。

 

また、改良土量

や固化材の添加量

が多く、試験施工

時のバックホウに

よる混合では均一

な改良体の造成が

難しく、施工能力

もQ=八㎥/hで

あり、本施工では

工期を優先して、

Q=四〇㎥/hの

自走式土質改良機

(写真2)を導入

した。これにより

工期内に均一な改良体が造成できた。

6

まとめ

 

東北農政局と福島県は県内の全ため池の約八割

にあたる二、九五六箇所の農業用ため池の水質及

び底質の放射性物質について調査結果を発表した。

 

本年度から各市町村による本格的な調査が実施

され、放射性物質対策箇所及び対策工法が選定さ

れる。

 

今回工事では固化反転・集積反転工法の効果を

実証することができた。本工事の結果が、今後の

ため池放射性物質対策への一助となれば幸いです。

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図 5 固化反転工法の空間線量率測定結果

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図 6 集積反転工法の表層剥ぎ取り箇所の空間線量率測定結果

写真 2 自走式土質改良機 SR-P1800

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