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市民と行政による協働のまちづくり手法の研究 平成28年3月

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市民と行政による協働のまちづくり手法の研究

平成28年3月

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目次

0.概要図 ................................................................... 3

1.はじめに ................................................................. 4

1.1 本研究の背景 .......................................................... 4

1.2 本研究の目的 .......................................................... 5

1.3 本研究の手法 .......................................................... 5

1.4 用語の定義 ............................................................ 5

2 コミュニティをめぐる環境の変化 ........................................... 7

2.1 社会情勢の変化 ........................................................ 7

2.2 意識の変化 ............................................................ 9

2.3 地域コミュニティの弱体化 ............................................. 15

2.4 地域コミュニティの弱体化から発生する諸問題 ............................ 19

3 自治会などの地域コミュニティの現状 ....................................... 20

3.1 自治会加入の現状 ..................................................... 20

3.2 自治会制度の変遷 ..................................................... 22

4 NPOなどのテーマ型コミュニティの現状 ................................... 23

4.1 市民活動団体の現状 ................................................... 23

4.2 市民活動団体の仕組み ................................................. 25

5 協働の手法 .............................................................. 27

5.1 春日部市の取り組み ................................................... 27

5.2 協働の種類 ........................................................... 28

6 先進事例の研究 .......................................................... 30

6.1 FAAVO埼玉 ....................................................... 30

6.1.1 埼玉県共助社会づくり課へのヒアリング .............................. 31

6.1.2 株式会社サーチフィールドへのヒアリング ............................ 32

6.2 千葉市 地域運営委員会 ............................................... 33

6.3 その他の協議会型住民自治組織.......................................... 35

6.4 千葉県野田市光葉町自治会の事例 ........................................ 36

7 各種アンケート結果の分析 ................................................ 38

7.1 市民参加と協働に関するアンケート調査結果 .............................. 38

7.2 公益財団法人日本都市センターにおけるアンケート調査 .................... 40

8 解決策のポイント ......................................................... 41

8.1 地域に枠をかける ..................................................... 41

8.2 地域のプラットフォーム構築の必要性 .................................... 42

9 市民と行政による協働のまちづくり手法 ...................................... 45

9.1 みらい会議 ........................................................... 45

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9.2 みらい会議の対象範囲 ................................................. 47

9.3 既存団体とのつながり ................................................. 48

9.4 実施スキーム ......................................................... 49

9.4.1 導入期 ........................................................... 49

9.4.2 発展期 ........................................................... 50

9.4.3 円熟期 ........................................................... 51

9.5 支援内容 ............................................................. 52

9.5.1 ファシリテーター派遣 ............................................. 52

9.5.2 ファシリテーター養成講座 ......................................... 53

9.5.3 地域担当職員 ..................................................... 54

9.5.4 設立支援補助 ..................................................... 55

9.5.5 活動支援補助 ..................................................... 55

9.5.6 一括交付金 ....................................................... 55

9.5.7 拠点支援 ......................................................... 56

9.6 期待される効果 ....................................................... 57

9.6.1 地域の担い手確保 ................................................. 57

9.6.2 地域の主体性が強まる ............................................. 57

9.6.3 地域の個性発揮 ................................................... 58

9.6.4 地域への愛着増進 ................................................. 59

9.6.5 ソーシャル・キャピタルの影響 ...................................... 60

9.6.6 市の歳出削減 ..................................................... 61

9.6.7 各地域のニーズの把握 ............................................. 61

9.6.8 既存団体の負担軽減 ............................................... 62

10. まとめ ................................................................. 63

11. おわりに ............................................................... 64

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0.概要図

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1.はじめに

本研究報告書では、地域の誰もが気軽に参加できるまちづくりを目標として、今後の少子高齢化

時代においても持続可能な地域コミュニティ像や市民と行政による新たな協働の仕組みについての

研究をするものである。

1.1 本研究の背景

春日部市の人口は平成13年(2001年)~15年(2003年)頃をピークに減少に転じ、年齢構成は

少子高齢化、世帯状況は単身・高齢世帯の増加という傾向が続いている。財政も依然として厳しい

状況にある中で、税収の伸び悩みや地域経済の活力の低下が懸念されている。

このような中、防災・防犯・保健・福祉をはじめとする様々な分野において、地域が取り組む課

題は大きくなる一方であり、それに従い、行政と市民、地域コミュニティやNPO等との連携や協

働による自己解決力が必要になってきている。

国の取り組みとして、総務省の地域力創造グループは、本格的な地方分権改革の時代を迎えた今、

時代の動きに即応し、常に新たな政策を企画・立案し、地域の元気創造プランの推進、定住自立圏

構想の推進、過疎地域等条件不利地域の自立・活性化、人材力の活性化・交流・ネットワークの強

化、都市から地方への移住・交流の推進、地域情報化の推進、国際交流・国際協力などの重要な課

題に地方公共団体が積極的に対応していけるよう支援を行っている。

本市でも平成20年度(2008年度)に市民参加推進条例、平成22年度(2010年度)に自治基本条

例を制定、平成 23年度(2011年度)には市民活動センターを開設し、積極的に市民協働の推進に

取り組んでいる。

しかし、春日部市の地域コミュニティ活動の主な担い手となる自治会の加入率は年々低下傾向に

あることや、市民の地域コミュニティ活動に対する意識には地域差があることなど、コミュニティ

活動は限定的なものにとどまっている状況である。これは数字にも顕著に表れている。平成26年度

(2014年度)に市の現状・まちづくりの課題を把握し、今後の市政運営に活用するために、市民意

識調査を実施した。その結果、市民の生活実態として「この1年間に地域の活動(自治会、福祉活

動等)に参加したことがありますか」という問いに対し、参加したことがある方は、平成23年度(2011

年度)の調査と比較して 7.9ポイント減少している。また、市の取り組みとして「市民協働のまち

づくりが進められていると思いますか」という問いに対し、肯定的に答えた方は、平成23年度(2011

年度)の調査と比較して、4.3ポイント減少していることが分かった。

少子高齢化が深刻化していく状況において、コミュニティをめぐる状況は今後も変化していくこ

とが予想される。しかし、この問題を単に社会背景や各所属における施策の問題とするのではなく、

原因や問題点を客観的に分析したうえで、これからの時代に即したコミュニティの在り方や市民が

市政により参加しやすい仕組みについて検討する必要がある。

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1.2 本研究の目的

本研究の目的は次の2つである。

① 市民参加や協働により、市民が主体的にまちづくりに関わる活動の仕組みを考察すること。

② 市民が自ら地域の課題を解決し、地域の活性化に協力して取り組むこと。

1.3 本研究の手法

本研究は、以下の手法により実施した。

①各自治体ホームページ等により先進的な取り組みについて情報を収集した。

②用語の定義や現状把握については、「春日部市自治基本条例」、「春日部市市民参加と市民協働指針」

等を参考とし、研究員において検討を重ねた。

③問題点の抽出においては、合併後に実施された『春日部市市民意識調査(以下「市民意識調査」

という){平成 19年(2007年)、平成 21年(2009年)、平成 23年(2011年)、平成 26年(2014

年)}』の結果等により分析した。

④先進事例研究については、視察、講演会への出席、先進自治体のホームページ等により情報を収

集した。

⑤具体的な解決策については、先進自治体のホームページ、市民協働に関する各種文献等からヒン

トを得るとともに、協働の現場における研究員の実体験を通して感じたことを加え、検討を重ね

た。

1.4 用語の定義

市民参加

本研究における市民参加とは、春日部市自治基本条例第三条に規定されている「広く市民の意

見を反映させるため、市民が様々な形で市政へ自主的に参加すること」をいう。

協働

本研究における協働とは、春日部市自治基本条例第三条に規定されている「市民、議会、及び

執行機関が、目的を共有し、それぞれの役割と責務に基づいて信頼関係を構築し、対等な立場で

補い合い、協力して行動すること」をいう。

コミュニティ

地域を基盤とする自発的に組織される自治会等の団体、地域や市民生活における課題について

共通の目的又は関心を持つ人が自主的に活動を行う団体、及びインターネットやSNS等を通じて

共通の関心を持つ人のつながり。

地域コミュニティ

自治会や町内会などの地縁団体

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NPO1

(Non Profit Organization)の略であり、継続的、自発的に社会貢献活動を行う、営利を目的

としない団体の総称。

テーマ型コミュニティ

NPO・ボランティア団体を含む市民団体

自助・共助・公助

自助とは、自分の責任で、自分自身が行うこと。共助とは、自分だけでは解決や行うことが困

難なことについて、周囲や地域が協力して行うこと。公助とは、個人や周囲、地域あるいは民間

の力では解決できないことについて、公共(公的機関)が行うこと。

1 内閣府NPOホームページより

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2 コミュニティをめぐる環境の変化

本章では、社会情勢の変化や市民のコミュニティに対する意識の変化について問題提起を行って

いく。

2.1 社会情勢の変化

春日部市を取り巻く環境は今後どのように変化していくのかを考察する。

総務省国勢調査の実績2と国立社会保障・人口問題研究所の推計3によると、春日部市の人口は次の

ような推移となる(図表 1)。平成 12年(2000年)(240,877人)のピーク時と比較すると平成 52

年(2040年)(184,796人)には23.3%もの減少となってしまう。

図表1 春日部市 人口推移

出典)平成7年(1995年)~平成22年(2010年) 総務省 国勢調査総人口(年齢不詳を除く)、

平成27年(2015年)~平成52年(2040年) 国立社会保障・人口問題研究所

次に、人口の構成について平成 22年(2010年)と平成 52年(2040年)を比較する(図表 2)。

グラフを見ると人口構成が大きく変化していることがわかる。また、平成52年(2040年)では65

~69歳の男女の割合が最も高く、生産年齢人口4の減少が激しいことがわかる。

2 統計法に基づき、総務大臣が国勢統計を作成するために、「日本に居住している全ての人及び世帯」を

対象として実施される、国の最も重要かつ基本的な統計調査(全数調査)である。 3 将来推計人口・・・平成22年(2010年)の国勢調査を基に、平成22年(2010年)10月1日から平成52

年(2040年)10月1日までの30年間(5年ごと)について推計したデータ。 4 国内で行われている生産活動に就いている中核の労働力となるような年齢の人口であり、日本では15

歳以上65歳未満の年齢層を指す。

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図表2 2010年と2040年の人口ピラミッドの比較

出典) 総務省 国勢調査総人口(年齢不詳を除く)、国立社会保障・人口問題研究所

さらに高齢者に注目して推移を見てみる(図表3)。すると、平成32年(2020年)には、前期高

齢者と後期高齢者の比率がほぼ同率となり、その後は後期高齢者の割合の方が高くなるという推移

が示されている。そして、春日部市の高齢化率は平成52年(2040年)には40%に迫るほどの推移

を示している。

図表3 高齢化の推移と将来推計

出典)平成7年(1995年)~平成22年(2010年) 総務省 国勢調査総人口(年齢不詳を除く)、

平成27年(2015年)~平成52年(2040年) 国立社会保障・人口問題研究所

以上のことから、今後の春日部市の社会情勢は他の自治体と同様に人口減少・高齢化の問題に直

面し、さらに厳しい行財政運営となっていくことが予想される中で、これまでとは異なる行政サー

ビスが求められるようになるものと考える。

(人)

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2.2 意識の変化

コミュニティの弱体化が叫ばれてから久しい。それに伴い地域の人々にはどのような意識の変化

が見られるのかを調査した。

まず、大きな視点で意識の変化を考える。NHK放送文化研究所が行った「日本人の意識調査」

の中で「隣近所の人とのつきあいのしかたがのせてあります。あなたはどれが望ましいとお考えで

すか。実際にどのようにしているかは別にして、ご希望に近いものをお答えください。」との設問

に対する回答を次に示す(図表4)。

図表4 日本人の意識調査

出典)NHK放送文化研究所「日本人の意識調査」より作成

なお、この調査の対象は16歳以上の国民に対する調査である。

調査結果の推移をみると、「なにかにつけ相談したり、助け合えるようなつきあい」と回答した人

の割合は減少し、「会ったときに、あいさつする程度のつきあい」と回答した人の割合は増加してい

る。

このことから、隣近所の人とのつきあい方は深い関係から浅い関係に変化してきており、人との

つながりが希薄化してきていることがわかる。

次に、春日部市市民意識調査からコミュニティに関わる意識の変化を調査した。

「この1年間に地域の活動(自治会、福祉活動等)に参加したことがありますか」という問いに

対する回答を平成19年度(2007年度)~平成26年度(2014年度)までの推移で示す(図表5)。

N=4,243

N=4,240

N=4,064

N=3,853

N=3,814

N=3,622

N=3,319

N=3,103

N=3,070

(年)

(%)

会ったときに、あいさつする程度のつきあい

あまり堅苦しくなく話し合えるようなつきあい

なにかにつけ相談したり、

助け合えるようなつきあい その他

わからない・

無回答

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図表5 市民意識調査 地域の活動への参加状況

出典)春日部市市民意識調査結果

注釈)「参加したことがある」:実際の市民意識調査での選択肢「ほぼ毎日参加している」、「週に1回程

度参加している」、「月に1回程度参加している」、「年に数回程度参加している」に回答した人の

合計である。また、無回答を除いて作成しているため、合計は100%とはならない。

地域の活動に「参加したことがある」と回答した人の割合は、直近の平成 26年度(2014年度)

では、37.0%となっており、平成 23年度(2011年度)と比較すると 7.9ポイントの減少となって

いる。

しかし、平成19年度(2007年度)からの推移に注目すると、平成23年度(2011年度)の一時的

な増加がイレギュラーな動き方をしている。この一時的な増加については、市民意識調査において

理由に関する設問がなかったため、原因はわからない。

平成23年度(2011年度)の市民意識調査は平成23年(2011年)11月~12月に実施された。一

つの意見として、平成23年(2011年)3月11日の東日本大震災発生後に全国的に「絆」という言

葉が注目されたように、市民の意識にも地域活動に対する影響が出たのではないかとの意見があっ

た。

内閣府の平成25年度(2013年度)版「防災白書」によると、国土交通省が平成24年(2012年)

に行った国民意識調査において東日本大震災後に,防災意識の高まり(52.0%),節電意識の高まり

(43.8%),家族の絆の大切さ(39.9%)等に対する考え方が変わったとする回答が多く,未曾有の

震災である東日本大震災をきっかけとして,自らの命を守る等国民の防災意識が高まったと推察さ

れている。防災という観点から地域の活動に注目が集まり、平成 23年度(2011年度)の一時的な

増加に繫がったのではないかと考えている。

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また、図表5を年齢別のグラフで見てみる(図表6)。

図表6 市民意識調査 地域の活動への参加状況(年齢別)

出典)春日部市市民意識調査結果

注釈)「参加したことがある」:実際の市民意識調査での選択肢「ほぼ毎日参加している」、「週に1回程

度参加している」、「月に1回程度参加している」、「年に数回程度参加している」に回答した人の

合計である。また、無回答を除いて作成しているため、合計は100%とはならない。

各年度の調査結果は、70歳以上の数値を除けば年齢階層が上がるほど地域活動への参加割合が増

えていることがわかる。

地域活動への参加にあたっては、個人が自由に使える余暇時間がどれだけあるかという問題が関

わってくるため、比較的時間に余裕があると思われる高齢層の参加割合が高い結果となっている。

しかし、単純に余暇時間の有無だけが問題であれば、現役で働いている世代の参加率はどの世代

でもある程度同じ割合になるはずである。言い換えれば、世代ごとに参加割合が違うのは余暇時間

の有無のような物理的な問題以外の要素があるといえる。

図表7は平成26年度(2014年度)の市民意識調査において、「あなたは、春日部市に「自分のま

ち」といった愛着や親しみを感じていますか。」という質問に対する回答を年代別・居住年数別でグ

ラフ化したものである。居住年数別では、長く居住している人ほど自分のまちに対する愛着が増し

ているという結果が出ている。

また、内閣府の平成 19年度(2007年度)版国民生活白書によると、近隣との関係を深く持つ人

と地域活動に参加する人の特性は概ね一致していると指摘している(図表8)。

このように地域活動に参加する意思決定には、個人の特性や居住に関する特性など様々な要素が

関わっていることがわかる。

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図表7 市民意識調査 「自分のまち」への愛着(年代別)・(居住年数別)

出典)平成26年度(2014年度)春日部市市民意識調査

図表8 近隣との深い付き合いをする要素と地域活動への不参加要素

出典)内閣府平成19年度(2007年度)版国民生活白書を基に独自に作成

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次に春日部市市民意識調査結果からコミュニティにおける取り組みについての意識の変化を調査

した。

「春日部市では、市民と行政による協働のまちづくりが進められていると思いますか」という問

いに対する回答を平成19年度(2007年度)~平成26年(2014年度)までの推移を示す(図表9)。

図表9 市民意識調査 協働のまちづくりに対する意識

出典)春日部市市民意識調査結果

注釈)肯定的:「そう思う」、「どちらかといえばそう思う」と回答した人の合計である。否定的:「そう

思わない」、「どちらかといえばそう思わない」と回答した人の合計である。また、無回答を除い

て作成しているため、合計は100%とはならない。

協働のまちづくりに対して、肯定的な回答をした人は直近の平成26年度(2014年度)では、17.0%

となっており、平成23年度(2011年度)と比較すると4.3ポイントの減少となっている。平成19

年度(2007年度)からの推移に注目すると、20%程度で留まっており、大きな変化は見られない。

一方、否定的な回答をした人は平成21年度(2009年度)から増加の一途をたどり、平成26年度

(2014年度)には43.7%にも上っている。市民意識調査において理由に関する設問がなかったため

原因はわからないが、少なくとも市民の意識としてまちづくりへの参加を遠いものと感じている人

が増えている。

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次に年齢別で肯定的な回答をした人の割合を示す(図表10)。

図表10 市民意識調査 協働のまちづくりに対する意識 肯定的な回答をした人の割合(年齢別)

出典) 春日部市市民意識調査結果

注釈) 肯定的:「そう思う」、「どちらかといえばそう思う」と回答した人の合計である。また、無回答

を除いて作成しているため、合計は100%とはならない。

このグラフについても、40~49歳を除き年齢階層が高くなるほど肯定的な回答をした人が多くな

っている。そして、20~29歳は平成 23年度(2011年度)から平成 26年度(2014年度)にかけて

協働のまちづくりが進んでいると感じている人が唯一増加している。

次に否定的な回答をした人の割合について示す(図表11)

図表11 市民意識調査 協働のまちづくりに対する意識 否定的な回答をした人の割合(年齢別)

出典) 春日部市市民意識調査結果

注釈) 否定的:「そう思わない」、「どちらかといえばそう思わない」と回答した人の合計である。また、

無回答を除いて作成しているため、合計は100%とはならない。

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平成19年度(2007年度)から平成21年度(2009年度)において、すべての年齢階層で否定的な

回答割合が減少したものの、平成 21年度(2009年度)からは否定的な回答をした人の割合がほと

んどの年齢階層で増加している。

次に地区別の推移を示す(図表12)。

図表12 市民意識調査 協働のまちづくりに対する意識 肯定的な回答をした人の割合(地区別)

出典) 春日部市市民意識調査結果

注釈) 肯定的:「そう思う」、「どちらかといえばそう思う」と回答した人の合計である。また、無回答

を除いて作成しているため、合計は100%とはならない。

内牧地区のみ平成 19年度(2007年度)から減少を続けている。地区別の結果分析については、

否定的な回答についても試みたが、注目すべき傾向は見出すことができなかった。

2.3 地域コミュニティの弱体化

これまで自治会をはじめとする地域コミュニティは行政の手の届かないような領域において、地

域のニーズや課題に対応してきた。行政では公平・公正性の観点から、そのサービスはどうしても

均一的・画一的なものとなるため、地域に課題がある場合、地域の中で課題を解決する自己解決能

力は非常に重要なものであり、その点で地域コミュニティは大きな役割を果たしてきたのである。

しかし、目まぐるしく変化する社会情勢や個人意識の変化が相まり、地域コミュニティに大きな

影響を及ぼしている。そこで、社会的背景が地域コミュニティに及ぼす影響を整理した(図表13)。

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図表13 社会的背景から見る地域コミュニティの弱体化

全国的に人口減少・少子高齢化が始まり、単身者の増加や核家族化が進んでいる。生活が便利

になればなるほど個人のライフスタイルは多様化し、それに伴って地域での人間関係はますます希

薄になってきている。生活は個人を重要視する方向へと移行し、地域との関わりを「必要ない」と

考える人が昔より増えていると思われる。

昔であれば、人とのつながりや市・地域の情報を得るという側面においても、地域に属すメリッ

トがあったが、現在ではICT技術が進化し、個人がインターネットを通じて直接世界とつながっ

ており、いつでもどこでも欲しい情報が手に入る時代になっている。誰かとつながりたいと思えば

24時間いつでもネット上でつながりは持てるため、現実的に地域とつながりを持たずに孤独化する

人が増える状態となっている。

このような情報社会において、個人情報保護法の制定以降、個人に関する情報の取り扱いに対す

る意識は急激に高まり、広く社会に浸透している。しかし、個人の権利や利益侵害の危険性から守

るための制度が、個人情報を取り扱う機会の多い地域運営にあっては様々な場面において弊害とな

っている例もある。

地域において見守りや支援が必要な高齢者の把握をしようと試みても、その情報の管理・責任の

問題から断念するという話はよく耳にする。

また、「子どもは地域の宝」といったように、昔は親以外の地域の人々が子どもを見守り、「地域

の子ども」として育てていたが、現在では、ごく近所でもどのような人が住んでいるか分からない

という状況があり、どこか不信感が拭えず閉鎖的な雰囲気があるように思う。

ある研究員の住む地域では、旅行などで家を空ける際には、何かあった時のためにお隣に鍵を預

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けるといった密接な関係性が残っているとのことだが、このような関係性を持っている地域はごく

少数だと思われる。

このように社会情勢の変化と共に個人の意識も変化してきており、それらが相まって地域コミュ

ニティの運営自体が難しいものとなってきている。

地域コミュニティの代表である自治会においても、多くの地域で加入率が低下しており、次世代

の担い手不足や役員の固定化・高齢化といった課題が生じている。

図表14は公益財団法人日本都市センターが全国812都市自治体を対象に実施した「都市自治体に

おける地域コミュニティの現状及び関係施策等に関するアンケート調査」の結果であるが、この結

果からも次世代の担い手不足や役員の固定化の課題は全国的に共通の課題であることがわかる。ま

た、担い手不足の課題については、実に94%の自治体が課題として挙げていることは注目すべき点

である。

図表14 地縁型住民自治組織における課題

出典) 公益財団法人 日本都市センター(2014)「地域コミュニティと行政の新しい関係づくり」

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また、図表14に示すような課題は決して自治会に限ったものではなく、地域に存在する多くの市

民活動団体やコミュニティに共通する課題である。

担い手不足の結果、運営にあたる役員が固定化・高齢化していくと、活動の幅も狭くなってき

てしまう。先述のように個人のライフスタイルが多様化することに伴い、人々のニーズも増加する

中で、地域コミュニティにおいては従来から取り組んでいる年中行事を実施することで手一杯とな

ってしまい、新たなニーズに対する取り組みまで手を広げにくくなっている。

少子高齢化のさらなる進行が予想される中、このまま地域コミュニティが弱体化していくとする

と、20年後の地域の姿はどうなるのだろうか。

地方創成会議・人口減少問題検討分科会による消滅可能性自治体になぞらえた「消滅可能性自治

会」5という研究も一部で報告されているが、将来にわたって持続可能な地域コミュニティのあるべ

き姿を行政と地域の双方で真剣に考えていく必要がある。

5 鈴木栄之心、森薫、長瀬光市、玉村雅敏、金子郁容(慶應義塾大学)(2015年)『自治会ベースの人口

統計データを用いた「消滅可能性自治会」の将来予測モデルの開発』地域活性学会

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2.4 地域コミュニティの弱体化から発生する諸問題

地域コミュニティの弱体化が進めば、当然として地域の自己解決能力も低下していくこ

ととなる。ここでは地域コミュニティが弱体化することで発生することが予想される諸問

題を図表15にまとめた。

図表15 地域コミュニティの弱体化で発生する諸問題

地域において人とのつながりが強く保たれている状態であれば、どこかで問題が発生し

たとしても地域の中でそれをキャッチし対応することが可能である。しかし、地域コミュ

ニティが弱体化し、人とのつながりが希薄な状態であると、課題や支援を必要とする人が

どこにいるか分からず地域に埋没してしまう可能性がある。

ニュースで未成年者が被害に遭う都市型犯罪などを目にすると、なぜ地域で防げなかっ

たのかという思いを抱くことが多い。昔は地域に子どもを叱ってくれる「おせっかい」な

大人がいたというが、もし現場に居合わせた大人が「おせっかい」をしていれば防げたの

ではと思うケースが多いのである。

また、単身の高齢者は年々増えており6、食料品などの重いものを買いに行けない、ゴミ

出しが出来ないといった生活に密着した問題や地域との関係を持てずに孤独化してしまう

といった問題の増加が懸念される。

6 総務省の統計によると、高齢単身世帯は平成20年の414万世帯から平成25年には552万世帯(過去最

高)となっている。

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3 自治会などの地域コミュニティの現状

本章では、地域コミュニティの代表である自治会などの地域コミュニティの現状と変遷について

考察する。

3.1 自治会加入の現状

春日部市の自治会加入率について次に示す(図表16)。

図表16 春日部市の自治会加入率の推移

出典) 春日部市自治会加入促進実施計画より作成

自治会加入率は低下傾向にあり、平成26年度(2014年度)には65.4%となっている。

昔であれば、その地に住めば自治会に「当然入るべし」といった暗黙のルールがあったが、時代

の変化に伴い現在ではこの暗黙のルールが社会的に共有されていないことが低下する自治会加入率

からも窺える。

自治会はこれまで高い加入率に支えられ、地域の代表として様々な役割を担ってきた。しかし、

このまま加入率が低下すると、地域の代表としての位置付けにも疑義が生じてくるだろう。行政も

様々な分野で自治会と連携・協力してきたため、市政運営にも影響を及ぼす可能性がある。

では、なぜ自治会加入率が低下するのか。実は自治会加入世帯はずっと横ばいの傾向を続けてい

る。加入率が低下している要因となっているのは、未加入世帯数の増加なのである。未加入世帯数

は平成17年度(2005年度)の26,033世帯から平成26年度(2014年度)の34,863世帯まで増加し

ている。

本研究では、自治会加入率の低下そのものよりも未加入者世帯が増えていることを重要視した。

平成27年(2015年)3月策定の本市自治会加入促進計画の中では、自治会未加入の理由を大きく

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次の5つに分類している。

①自治会に加入する必要性を感じない

②一時的な仮住まいである

③体力・経済等の事情

④自治会に対する不満

⑤勧誘されないので加入しない

自治会は任意団体であり、未加入者は自らの意思で加入していないとはいえ、加入しない理由は

様々であり、約35,000世帯もの人が地域運営から除外されていることは問題である。

また、未加入者が増えることで生じる問題として、フリーライダーの増加がある。フリーライダ

ーとは、活動に必要なコストを負担せずに利益だけを受ける者を指す。自治会が開催する祭りやイ

ベントなどの親睦事業にのみ参加するといったケースである。フリーライダーが増えることで、加

入者の中にも「真面目に自治会費を払っているのがばかばかしい」と感じ、退会者が増えることが

懸念される。

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3.2 自治会制度の変遷7

ここで自治会という仕組みの変遷について考えてみる。

日本は中福祉中負担の国であるため、公共サービスを行政のみで行っているわけではなく、身近

で簡易な公共サービスは市民側の役割となっていた。この構造は高度成長期から1980年代まで、行

政サービスが充実されていく過程でやや弱まったが、バブル経済崩壊により、1990年代は一転して

行政サービスが縮小重点化する傾向に転じた。これに対応するために、地域コミュニティやテーマ

コミュニティの公共サービス提供機能が再度注目されることとなり現在に至っている。

近代社会における地域共同管理体制には、次の4つの条件8が必要とされている。

・管轄領域の公的画定

・法人格

・条例制定権

・課税権

この4条件を具備するのが地方自治体である。しかし市町村合併により地域は共同管理の仕組み

であるこの4条件を失うこととなる。歴史的に見ると日本は中央集権体制の時代が長く続き、その

時代においては身近な地域社会はないがしろにされてきた。明治の大合併以降、何度も市町村合併

が行われたが地域社会に対する法制度的手当はほとんどなされなかった。この不都合に対し、地域

住民全員を会員とする組織をつくることで、4条件を充足しようとしたのが「自治会」である。法

制度的な位置付けを得ない、民間原理のみのこうした対応方法は国際的に見ると、とても稀な方法

である。これまで自治会は世帯会員制や自動加入文化、ボランティア原理などに支えられ地域の代

表として地域運営を担ってきた。しかし、時代の変化に伴い自治会の組織原理は危機に直面してい

るのである。

7かすかべ未来研究所 平成27年度第5回「実践型政策形成能力向上研修」有識者講演会における 名和

田是彦氏(法政大学 法学部教授)の講演を参考にしている。 8 「コトラーの4条件」 アメリカの公民権運動家であるミルトン・コトラーの「近隣政府論」より。

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4 NPOなどのテーマ型コミュニティの現状

一般的にコミュニティを論じる場合、「地域コミュニティ」と「テーマ型コミュニティ」の2つが

あると言われている。

「地域コミュニティ」の代表は、これまで見てきたような自治会や町内会などの地縁団体である。

一方、「テーマ型コミュニティ」にあたるのが、NPOやボランティア団体を含む市民団体になる。

このテーマ型コミュニティは特定の分野に特化した活動をする団体をいう。近年多発している大規

模な災害現場などにおいて、行政には手の届かないような市民ニーズに対しきめ細やかに応えたの

が NPOやボランティア団体といったテーマ型コミュニティであり、その存在に注目が集まってい

る。

本章では、NPOなどのテーマ型コミュニティの現状と仕組みについて考察する。

4.1 市民活動団体の現状

埼玉県内のNPO法人数推移を次に示す(図表17)。

図表17 埼玉県内のNPO法人数推移

出典) 埼玉県NPO情報ステーション

平成 11年度(1999年度)には、38団体であったNPO法人数は、平成 26年度(2014年度)に

は、2,036 団体にも上っている。埼玉県共助社会づくり課へのヒアリングの結果、埼玉県では日本

一の共助県を目指し、平成 24年度(2012年度)まではNPOなどの活動団体の数を増やし、広く

NPOの活動を支援することを目的として、NPO活動推進課が支援を行っていた。また、平成24

年度(2012年度)以降は地域課題の解決に多様な主体を巻き込んで、自発的・主体的に取り組む担

い手を支援することを目的として、共助社会づくり課が支援を行っている。つまり平成24年度(2012

年度)以降は「活動団体の数を増やす」ことから「活動団体の質の向上」へと移行していることが

わかった。

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次に埼玉県全体ではなく、春日部市の市民活動団体数の推移を草加市、越谷市と比較したグラフ

を次に示す(図表18)。

図表18 市民活動センターの登録団体数(個人含む)の推移(人口千人あたり)

出典) 春日部市総合振興計画後期基本計画重点プロジェクトの進捗状況より作成

注釈) 人口は平成28年3月1日の住民基本台帳人口(外国人含む)

春日部市では人口千人あたりの登録団体数が著しく増加しており、草加市、越谷市と比較しても

突出して高いことがわかる。平成23年(2011年)11月に春日部市市民活動センターが設立された

ことで、市民活動に意欲のある方々のニーズに対応してきたのだと考えられる。

春日部市は市民活動について他市よりも大きな利点を持っていると言える。

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4.2 市民活動団体の仕組み9

ここでは特にNPO法人について説明する。

法人は法律によって成立する。例えば企業であれば、会社法によって法人格を与えられている。

つまり、NPO法人は特定非営利活動促進法(NPO法)によって法人格を与えられている団体と

いうことになる。法律に定めがある要件を満たし、法律に則った運営が必要である。

法人格を取得する理由として、登記ができること、団体としての契約・口座の開設や財産の所有

ができること、また対外的な信頼が高まるという副次的効果もある。

よって、法人格を取得していない場合は、団体の財産はあくまで代表者の財産とみなされてしま

うことが生じる恐れがある。このようなリスクをさけるためNPO法人としている団体もある。

次にNPOの財源についてイメージ図を示す(図表19)。

図表19 NPOを支える財源のイメージ図(健全な状態)

これはNPOの財源の安定性を住宅に例えたイメージ図になるが、図で示されている1階部分の

自主財源の確保が重要である。

会費は会員から受け取るお金であり、特徴として定期的かつ安定的な収入となる。使途は自由で

あり運営費にあてることができる。

寄付は個人や企業などから募るお金であり、特徴として定期的な場合、短期的な場合があり、寄

付しやすい仕組みをつくることが必要である。また、使途は基本的には自由であるが、限定するこ

とで寄付しやすい仕組みにする場合もある。

9 平成28年1月31日 市民活動学習講座「NPOではたらくってどういうこと?~社会を変える若者に

なる~」における講演を参考にしている。

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事業収入は事業を行うことで得る収入であり、特徴として収益がでる事業の仕組みをつくるまで

に労力がかかる。また、使途は自由であるが、事業の内容によっては課税対象となる場合もある。

以上が自主財源の手法である。

イメージ図の2階に該当する助成金・補助金は、実際には使途や期間を限定していることが多い。

自主財源の確保が覚束ないまま助成金・補助金だけを頼りにしてしまうと1階部分が狭くなり、不

安定な家となってしまう(図表20)。

図表20 NPOを支える財源のイメージ図(不安定な状態)

つまり、安定的で継続的な活動を行うためには、運営費を1階部分の自主財源で確保できる仕組

みを考える必要がある。

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5 協働の手法

本章では、春日部市の取り組みの現状と協働の手法について考察する。

5.1 春日部市の取り組み

春日部市では、総合振興計画の基本理念に「市民主役・環境共生・自立都市」を掲げており、後

期基本計画においては重点プロジェクトのひとつとして「地域力の強化と市民参加の推進」を掲げ

ている。市では、これまで市民と行政による協働の推進に向けて、次のような各種取り組みを行っ

てきた(図表21)。

図表21 春日部市の取り組み

平成20年(2008年)10月に春日部市では、春日部市市民参加推進条例を施行した。この条例は、

総合振興計画の基本理念である市民主役、環境共生、自立都市のうち、市民主役を明確にするため、

市民も市の機関も「まちづくりの主役は市民」であることの認識を高め、それぞれの立場を理解し、

尊重し、情報を分かち合い、参加できる仕組みを定めたものである。また、平成22年(2010年)4

月には、春日部市自治基本条例を施行し、市民、議会及び執行機関が、暮らしやすいまちを築くた

め、市民自治の実現を目指すことを定めた。そして、平成23年(2011年)11月には、市民が主体

的にまちづくりに関わる活動ができる拠点となる春日部市市民活動センターがオープンした。

平成25年(2013年)3月には、春日部市市民参加推進条例第5条第4項及び、第16条に基づき、

市民参加と協働指針が策定された。この指針は市民参加の推進に関する基本的な方向性、行政活動

の各過程における市民参加の基本事項や手続き方法をわかりやすく示した指針である。

その後、平成25年(2013年)8月には、春日部市自治会連合会、公益社団法人埼玉県宅地建物取

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引業協会埼葛支部と協定を締結し、自治会加入促進のための取り組みを行っている。

さらに、平成27年(2015年)3月には、春日部市自治会加入促進実施計画を策定し、自治会加入

促進強化月間を設け、一定期間に集中した自治会加入促進活動を実施した。

以上のように春日部市では、市民主役のまちづくりを目指して取り組みを行ってきた。

5.2 協働の種類

協働の種類は例を挙げればきりがないが、市民参加と協働指針や研究を通じて得た事例の中から

一部を例示する(図表22)。

図表22 協働の種類に関する例示

No 名称 内容

1 委託 市が実施責任を負う事業を、市民に委ねる。

2 補助 市民と市が、共通の目的を達成するために行う事業に財政的な支援をする。

3 共催 市民と市が共同してイベント等の企画や運営、事業の実施を行う。

4 後援 市民が実施責任を負う事業に対して、市が名前を連ねて事業を行う。

5 実行委員会 市民や市など、事業の実施責任を担う人々が集まった組織が主催者となり事業を行う。

6 事業協力 市民と市が協力して事業を行うこと。

7 アダプトプログラム 市民が一定区間の道路や公園の清掃・美化活動を行うもの。市は清掃用具の貸与やボラ

ンティア保険への加入などを行う。

8 地区まちづくり計画

住民が主体となってまちづくりを行うための団体申請をし、地区のルールを定めること

が出来る。ただし、市が認定基準に基づき認定したものであり、市は地区まちづくり協

議会に対し経費の一部を助成する。

9 協働提案事業 維持管理を行うことを条件に住民自らが公開コンテストを行い、採用された場合は市が

補助する。

10 クラウドファウンデ

ィング

群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語で、アイデアを実現するため

に必要な費用を、そのアイデアに共感した友人、ファン、ソーシャルメディアのつなが

り、そして世界中の人々から少額ずつ集める行為である。

11 ICT活用アプリ 閲覧、投稿などの機能をもつコミュニケーションアプリの開発、市民団体等の会員募集

やイベントの周知にも活用できる。

12 地域ポイント制度 地域のイベントで参加するとポイントを付与する事業である。

13 地域担当職員制度 地域の課題解決に職員自身が参加する。

14 コミュニティカフェ 誰もが気軽に立ち寄ることが出来るような場の提供を行っている。

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これらの事例を市が主体か市民が主体かという観点と概念的か具現的かという観点の2つの観点で

分類分けを行った(図表23)。

図表23 協働の手法の分類分け

協働の手法についてはそれぞれの特徴があるため、事業の目的や内容により最も効果的な手法を

選択することが求められる。

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6 先進事例の研究

本章では、先進事例を通じて課題解決の手がかりについて考察する。

6.1 FAAVO10埼玉

「FAAVO」は地域を盛り上げるプロジェクトに特化したクラウドファンディングネットワー

クである。埼玉県はこのFAAVOの埼玉エリアを運営する株式会社サーチフィールドと平成 27

年(2015年)2月9日に共助社会づくりのための協力に関する協定を結んだ。目的は、インターネ

ットを活用した資金調達手法の普及や寄附文化の拡大をすることで、地域の課題を解決し活性化す

ることに協力して取り組むことである。

そして、協定の内容は以下の5つである。

(1)地域の情報及び課題の共有に関すること。

(2)クラウドファンディングを活用した地域の課題解決のための取組支援に関すること。

(3)寄附文化の醸成に関すること。

(4)共助の取組を推進する人材の育成に関すること。

(5)県内の共助活動の幅広い広報に関すること。

地域活動に必要な財源を確保する手法の一つとして、FAAVOを実施している埼玉県共助社会

づくり課と株式会社サーチフィールドを先進事例としてヒアリングを実施した。

10FAAVOは、FAVORITE、FAVOR(愛)+ACTION(活動)の造語

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6.1.1 埼玉県共助社会づくり課へのヒアリング11

埼玉県では、日本一の共助県を目指してマッチング事業を行っている(図表24)。

図表24 共助の取組マッチング事業

出典)埼玉県共助社会づくり課 提供資料

埼玉県NPO実態調査(平成25年9月)を行ったところ、課題として人材や資金の問題が見えて

きた。

・人材の繋がりを作るためにも、「共助仕掛人」と呼ばれる地域コーディネーターを埼玉県共

助社会づくり課、和光市、熊谷市、川口市においている。これは非常勤の職員という立場で

ある。内容としては、HPやチラシの作成方法を教えることや、行政書士、税理士などの人

材バンクに掲載されている人とのマッチングを行っている。

・資金面での支援では、県・市町村・民間が持っている助成金の紹介、寄附、銀行のローンな

どを紹介する融資の3種類に大別でき、クラウドファウンディングは寄付手法の1つである。

このヒアリング後に春日部市を舞台にした「地域を想ってたのしくはたらく、未来人・かすかび

あんを創ろう!」というプロジェクトが立ち上がっており、目標額の 200,000 円に対し、270,000

円(達成率135%)の支援が集まり、実際に事業が実施されている。

11 平成27年9月24日 春日部市役所第2委員会室において実施。

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6.1.2 株式会社サーチフィールドへのヒアリング12

クラウドファンディングを行っている趣旨は出身者と出身者を繋ぐ手段として考えている。

イメージの実線のような推移で地元から離れてしまう状況をインターネットで繋げようとしてい

る(図表25)。

図表25 クラウドファンディングによる地元との繋がりのイメージ

クラウドファンディングの歴史は古くは、祭りのちょうちんに名前を入れているのもクラウドフ

ァンディングの一種として考えられる。

現在のクラウドファンディングは寄附型、購入型、融資型に大別できる(図表 26)。その中で、

サーチフィールドは購入型である。

図表26 クラウドファンディングの種類

対価 制限

寄附型 なし 寄附できる団体が限られる

購入型 物、サービス なし

融資型 金利、配当 金融取扱の資格が必要

ある事例では目標額 5万円でレンガ道をつくる企画があった。5万円の事業であれば企画者によ

る持ち寄りによっても実現可能であった。しかし、クラウドファンディングを実施したことで、協

力者が増え継続性が生まれた。現在では30回続く地域の定例イベントとなったという。成功したポ

イントは「分かり易い場所」「ストーリー」「大学生」であった。

FAAVOのシステムは、人々が地域に対して持つ「共感」を媒介にして人とのつながりを生み

出している。実働としては参加できない遠隔地にいる人でも、財源支援という面でプロジェクトに

参加することができ、新しい協働の形と言える。

12平成27年9月24日 春日部市役所第2委員会室において実施。

年齢 15 20 25 30 35 40

地元との繋がり

オンラインで繋

がりを作る

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6.2 千葉市 地域運営委員会

全国で地域コミュニティの弱体化が叫ばれるようになり、既存の団体を生かしながら様々な主体

の連携によりそれぞれが補完し合う協議会型住民自治組織13を設立する地域が増えている。そこで、

協議会型住民自治組織の仕組みを把握するため、千葉市に先進地視察を行った。

千葉市では、将来にわたり地域で活動する様々な団体が連携・協力し合い、いつまでも「住民同

士の助けあい・支えあい」を続けられるために協議会型住民自治組織である「地域運営委員会」を

設立した。次にその概要を示す。

・小学校区から中学校区の範囲の地区毎に、その地区で活動する様々な団体が参加して委員会を

構成する。

・住民のニーズや地域の課題を調べ、みんなで共有するとともに、地域が目指す将来の姿をみん

なで考える。

・課題解決や将来像の実現に向けて、委員会において、「誰が」「何を」「どのように」実施するか

を検討し、計画を立てる(地域運営委員会が事業を実施することも可能)。

・計画を実施するために必要な、「担い手」「お金」「情報」などの地域資源を地域全体で活用でき

るよう、団体間で調整し、利用方法を決定する。

・市は委員会を通じた地域全体での課題解決を支援するため、補助金の使い勝手を良くしたり、

活動を支援する「地域担当職員」を配置する。

また、地域運営委員会を設立することで生じる地域のメリットとして、以下の3点を挙げている。

①地域のことを地域で決められるようになる。

②地域の資源を活用して、事業実施できるようになる。

③個々の団体の負担が軽減される。

地域運営委員会の設立にあたって、市は(1)財政面の支援、(2)人材面の支援、(3)活動拠

点確保の支援を実施している。

(1)財政面の支援

地域運営委員会の設立及び活動に必要な経費の一部を補助することで、助けあい・支えあいに

よる地域運営を促進することを目的としている。また、地域で使途を決めることのできる補助制度

を創設し、地域のニーズに応じた事業の実施を一層促進する(図表27)。

13 地縁型住民自治組織、ボランティア団体、NPO、学校、PTA、企業等の多様な主体による地域課題の解決のための組織(日本都市センター「地域コミュニティと行政の新しい関係づくり」より)

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図表27 千葉市地域運営委員会の財政支援内容

補助金の種類 内容 上限額

1 設立支援補助金 地域運営委員会の設立準備に要する

経費を補助する。

10万円

(原則1年間のみ)

2 活動支援補助金

地域運営委員会が行う地域課題解決

に向けた取組みに要する経費を補助

する。

10万円

3 地域運営交付金

地域の団体に交付されている補助金

を統合し、地域で使途を決めることの

できる補助金として一括して地域運営

委員会に交付する。

ア 統合する補助金の

合計額

イ 上乗せ額(アの 1割)

出典)千葉市視察資料

(2)人財面の支援

地域運営委員会の活動を支援するために、平成27年度から美浜区において、地域担当職員制度

をモデル実施している。地域担当職員の役割は、地域運営に必要な情報やノウハウを地域に提供

し、また、地域における市役所の窓口として、庁内外との調整を行う。職員体制は美浜区地域振

興課地域づくり支援室に正規職員を1名配置し、上司2名がサポートをしている。職員が地域の

会議に積極的に参加することで、地域の活動状況や様々な課題やニーズを把握することができる

ようになった。今後は、職員向けに地域担当職員制度の研修を実施しながら、各地区への導入を

図る予定である。

(3)活動拠点確保の支援

地域の需要に応じて、小中学校や公民館などの公共施設の一部を地域運営委員会の活動の場と

して活用できるように、施設の所管課等と協議をするとともに、制度化を含めた検討をしている。

現状では小中学校の空き教室がない状況であり、公共施設の跡施設を活用している。

千葉市では地域運営委員会の設立に向けた準備期間を経て、平成26年度から実際に地域への説明

会を開いている。地域での説明会においては、「自治会連絡協議会があるにも関わらず、また新たな

組織を作るのは屋上屋を重ねるようなもの」といった否定的な意見が多数を占めるが、繰り返し丁

寧に説明し意見交換をすること、地域自治に精通した有識者を活用することで設立への意識の醸成

を図っている。視察の時点では7地区が地域運営委員会を設立しており、今後千葉市新基本計画(計

画期間:平成24年度~平成33年度)に合わせ、平成33年度末までに市内全48地区での設立を目

指している。

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6.3 その他の協議会型住民自治組織

全国的に広がりを見せる協議会型住民自治組織について、その一部を次に示す(図表28)。

図表28 協議会型住民自治組織の先行事例

自治体名 組織名 市民個人

の参加 管轄範囲

1管轄範囲あたりの

人口割り 特色ある取組み

豊中市

(大阪府)

地域自治協議会

など 自由 41小学校区 約1万人/小学校区

地域住民の自主性、主体性を尊重。それぞ

れの地域の現状を踏まえ、その地域の特

性を生かして段階的に取り組む。これを「豊

中スタイル」と呼び、基本理念としている。

所沢市 地域づくり協議会 無し 11行政区 約3万人/行政区

・市内全11行政区にまちづくりセンターを整

備。

・既存の地域システムを、地域づくり協議会

を中心とした地域横断的なシステムに組み

替えていくことも視野に入れている。

板橋区

(東京都) 地域会議 自由

原則は18地域セ

ンターの区域(実

情により変更可)

約3万人/地域センタ

・住民主体を強調(地域の範囲なども地域

の実情に合わせる)

・既存団体との相乗効果を図る

新宿区

(東京都) 地区協議会

公募(10~

30名) 10特別出張所

約3.4万人./特別出張

各地区協議会と区は、お互いに対等な立場

で協力し合うパートナーという位置づけで

あり、区との意見交換や提言をすることが

できる。

習志野市

(千葉県) まちづくり会議 自由 16小学校区 約1..2万人/小学校区

・市の予算編成前に「まちづくり予算編成会

議」を実施し、各まちづくり会議からの予算

要望を市に提出。

・地域担当職員制度・・・昭和43年から実施

(全職員を割り振り)

流山市

(千葉県)

地域まちづくり協議

会 自由 15小学校区 約1万人/小学校区

・モデル地区から実施

・総合振興計画後期基本計画において、平

成31年度までに市内全小学校区で設立す

ることを目指す。

出典)各自治体HPを基に独自に作成

図表28は先行事例のほんの一部であるが、協議会型住民自治組織の形態や実施方法は各自治体に

より様々である。組織構成における市民個人の参加については、既存団体の連携に重きを置き個人

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の参加を認めていない形式や、個人の参加を自由に認めている形式、公募制とし限定的に認めてい

る形式などがある。一つの組織が管轄する範囲については、小学校区を単位としている形式や従来

からある行政区を単位としている形式が多い。また、一管轄範囲における人口割りについては、図

表28に掲載していない事例も含めて見ると、概ね1万人前後としている自治体が多いことが分かっ

た。

6.4 千葉県野田市光葉町自治会の事例

地域の課題に対し自治会独自で新たな活動に取り組む事例も出てきている。千葉県野田市の光葉

町自治会では、未来の街のあり方に危機感を抱いた自治会長の声かけにより、企業と連携しながら

住民同士の話し合いを重視した課題解決の取組を実施している。この住民同士の話し合いは「光葉

町ミライ会議」と題され、誰でも気軽に参加ができることが特色である。会議の開催を案内するチ

ラシ(図表29)には、「お子様連れからシニア世代まで(キッズルームあり)」といった文言や、「身

構える必要はありません。楽しく話しましょう。」といった言葉が並び、様々な世代の人が気軽に立

ち寄れる場であることをPRしている。

この取組みのポイントは、専門のファシリテーター14を活用し、ワールドカフェ15形式により会議

を進行することで、住民が意見を言いやすいような環境を創り出していることである。一般的な固

14 人々の活動が容易にできるよう支援し、うまくことが運ぶよう舵取りする人。集団による問題解決、アイデア創造、教育、学習など、あらゆる知識創造活動を支援し促進していく役割を担う人。(出典:特

定非営利活動法人 日本ファシリテーション協会) 15 「知識や知恵は、機能的な会議室の中で生まれるのではなく、人々がオープンに会話を行い、自由に

ネットワークを築くことのできる『カフェ』のような空間でこそ創発される」という考え方に基づいた

話し合いの手法(出典:株式会社ヒューマンバリューHP)

図表29 開催案内チラシ 図表30 第1回光葉町ミライ会議での意見

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いイメージの会議ではなく、参加者は会議中において「常に休憩時間」のように振舞っていいこと

が約束されている。参加者は自治会役員も日頃地域に対して意見を言う機会がない人も皆が対等な

関係であり、リラックスした楽しい雰囲気の中、自分の住む地域に対する思いを話すことができ、

活発な意見交換がされている(図表30、写真1、2)。会議後には「チョイ呑みナイト」と呼ばれる

親睦会も開かれており、住民同志の交流も図られている。

写真1 第3回光葉町ミライ会議の様子 写真2 第4回光葉町ミライ会議の様子

写真提供)中央グリーン開発株式会社

住民が会議に参加しやすい工夫や会議の中で意見を言いやすい工夫、また、住民同士の交流を積

極的に図ることで、人と人とのつながりが広がっていき、会議の参加者は、第 1 回が 15 名、第 2

回が25名、第3回が約50名、第4回が約100名と回を重ねるごとに増えている。

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7 各種アンケート結果の分析

本章では、アンケート結果から求められる解決方法の方向性について考察する。

7.1 市民参加と協働に関するアンケート調査結果

市民参加推進課において、平成24年(2012年)6月~9月に市内の市民活動団体及び自治会を対

象に「市民参加と協働に関するアンケート」を実施している。その中から既存団体が持つニーズを

見出してみる。

既存団体が行政と協働をすることに対するニーズ結果を図表31、32に示す。

図表31 市民参加と協働に関するアンケート調査結果 協働に対するニーズ

出典) 市民参加と協働に関するアンケート調査結果

注釈) 「今後、春日部市と協働したいですか」という問いに回答した人の割合である。

0 10 20 40 50 60 70 80 90 10030

いいえはい

88%の団体が「はい」と回答しており、協働したいと考えている団体が多い。

N=282

(%)

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図表32 市民参加と協働に関するアンケート調査結果 春日部市に望むこと

出典) 市民参加と協働に関するアンケート調査結果

注釈) 「春日部市と協働する場合、市に望むことは何ですか」という問いに回答した件数である。

以上のことから、既存団体の多くは市との協働による活動を望んでいるが、現状では相互の意見

交換や意思疎通を図る機会が不十分であることがわかった。

市民側から提案できる仕組みがあること

十分な意見交換や情報の共有

市民団体とのビジョンの共有

市職員のコミュニケーション能力柔軟な理解

市職員の協働に関する見識

公共の有料施設の使用に関する便宜

公共施設の優先使用

事業に際しての駐車場の手配

特に望むことは無い

その他

0 10 20 40 50 60 70 80 90 100 110 12030 130 140 150 160 170 180

複数回答可 M.T=768 (回答件数)

「十分な意見交換や情報の共有」と回答した団体が最も多く、次に「市民側から提案できる仕組みがあるこ

と」の回答が多い。

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7.2 公益財団法人日本都市センターにおけるアンケート調査

日本都市センターにおいて、平成25年(2013年)11月~12月に全国812都市自治体を対象に「都

市自治体における地域コミュニティの現状及び関係施策等に関するアンケート調査」を実施してい

る。その現状を次に示す(図表33)。

図表33 協議会型住民自治組織の有無

出典)公益財団法人日本都市センター(2014)「地域コミュニティと行政の新しい関係づくり」より作成

アンケート結果によると半数の自治体で協議会型住民自治組織があることがわかった。また、同

調査で設立時期についても設問もある。その回答を次に示す(図表34)。

図表34 協議会型住民自治組織の設立時期

出典)公益財団法人日本都市センター(2014)「地域コミュニティと行政の新しい関係づくり」より作成

設立時期は平成 17年(2005年)以降のいわゆる平成の大合併の時期に集中していることがわか

る。

平成27年(2015年)10月14日にかすかべ未来研究所が開催した第5回「実践型政策形成能力向

上研修」有識者講演会における名和田 是彦氏の講演の中でも、平成の大合併以降にこうした都市内

分権の動きが活発化していることは指摘されているところである。

以上のことから、多くの自治体において市町村合併を契機に、協議会型住民自治組織の設立とい

う形で都市内分権の強化を図っていることがわかった。

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8 解決策のポイント

「市民と行政による協働のまちづくり手法」の研究を進めるなかで、これまで述べてきた課題を

解決するためのポイントを整理する。

8.1 地域に枠をかける

図表35 自治会構成の変遷イメージ図

図表 35 は昔と現在の自治会構成を簡略化したイメージ図である。自治会は昔であれば地域のす

べての世帯を会員として地域運営の役割を担っていたが、現在では加入率の低下が全国的に問題視

されており、春日部市においても平成26年度(2014年度)時点で65.4%まで低下している。

自治会は地縁型住民自治組織と呼ばれるように、地縁の歴史に由来し、住民に最も近い立場で地

域の課題解決のために組織された団体である。それゆえ、加入率が低下した現在においてもなお地

域コミュニティの代表であることに変わりはない。

春日部市では総合振興計画後期基本計画において、平成 29年度(2017年度)末までに自治会加

入率 70%、自治会加入世帯数 70,000世帯を目標に取り組んでいる。したがって、自治会加入率を

向上させることは重要である。

しかしながら、例え自治会加入率が70%に向上したとしても、相当数の未加入世帯が存在するこ

とになる。現実的に考えれば、図表16でも示したとおり今後未加入世帯は増えていくことが予想さ

れる。本研究では、自治会加入率の低下そのものよりも、この未加入世帯の増加を問題視している。

今後の地域コミュニティの姿を考えたとき、こうした未加入世帯の存在は決して無視できないから

である。

現状の自治会というものはその制度上、加入世帯と未加入世帯の区別がはっきりし過ぎており、

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未加入世帯が地域活動の対象から外れている。未加入者は自分の意思で加入していないのであるか

ら排除されて当然という見方もできるが、加入しない理由は世帯ごとに様々であり、未加入世帯の

すべてが地域に無関心であるとは限らないのである。

この未加入世帯も含めた地域のすべての人が手を携え、まずは全員がまちづくりの対象者(当事

者)とすることが必要である。そのためには、自治会よりも大きな単位の地域全体に新たな枠をか

ける必要があると考える。

8.2 地域のプラットフォーム16構築の必要性

地域総ぐるみでの協働のまちづくりを進めていくためには、「地域のプラットフォーム」、つまり

地域の受け皿となる仕組みが必要であると考える。

この「地域のプラットフォーム」の必要性を感じたのは、災害ボランティアの現場である。平成

27年(2015年)9月関東・東北豪雨によって鬼怒川の堤防が決壊し、茨城県常総市では広範囲が水

没する被害にあった。常総市では被災から 3日後に常総市ボランティアセンターが設立され、被災

された方の情報やニーズ、また、全国からの支援がここにすべて集約された。集められたニーズや

支援はボランティアセンターによりマッチングされ、被災地の復旧・復興の大きな力となった。こ

れは「地域のプラットフォーム」の究極例である。

地域コミュニティの弱体化が進んでいくと、いつ・どこで課題が発生し、誰が何を困っているの

かが分からないというように、地域に埋没してしまうというマイナス要素が増えていく。

一方、先述したように地域には市民活動団体やNPO法人といったプラス要素も増えている。

これら、マイナスとプラスの要素を包括的にマッチングする「場」が今の春日部市には存在しな

い。まずは、地域における課題やニーズ、または支援といった情報と人が一箇所に集約される「場」

が必要であり、それを「地域のプラットフォーム」とする。以下に「地域のプラットフォーム」の

イメージ図を示す(図表36)。

16 多様な主体の協働を促進するコミュニケーションの基盤となる道具や仕組み、空間。

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図表36 地域のプラットフォーム イメージ図

また、地域のプラットフォームの制度設計にあたっては、先進事例の研究やヒアリングから知見

を得て、以下の6点に留意する必要があると考えた。

①様々な主体の参加

地域の様々な主体が集まることが重要である。これらの主体に課題やニーズ、「これだったら協

力できる」という支援を持ち寄ってもらう。

例に挙げるなら、地域住民、自治会、NPO・市民活動団体、民生委員、消防団、PTA、社

会福祉協議会、地域包括支援センター、事業者・商店会、そして行政といった様々な主体が考え

られる。

②横の連携

現状ではそれぞれの主体が個別に活動をしている。縦割り社会の中にあっては、地域に課題が

あったとしても活動目的の範囲外・管轄外であれば、その課題は放置され地域に埋没してしまう

可能性がある。そこで、様々な主体に横のつながりを持たせることで、課題を共有することがで

き、また、それぞれの主体が「これなら協力できる」ということを持ち寄ってもらうことで、課

題の解決を図ることができる。

③緩いつながり

地域のプラットフォームに集まる各主体は、強制感や負担感を感じないよう緩いつながりで集

まることが重要であると考える。参加することが自由であれば、当然参加しないことも自由であ

るべきである。地域への想いを共有する人が自由に話し合いや活動に参加できるといった状況が

理想である。

④やらされ感・負担感の排除

昔から行政は自治会をはじめとする地域コミュニティと様々な分野で連携・協力してきた。時

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代が進むにつれ、制度が複雑化し、行政機能も細分化することとなり、縦割り行政が進行してき

た。それに伴い、自治会などに協力を依頼する仕事も増える一方である。地域の方からは、「行政

の下請けばかりでとても忙しい」というようなお話をよく耳にする。おそらく地域にはこのよう

な「やらされ感」や「負担感」が蔓延していると思われる。したがって、地域のプラットフォー

ム構築の際にはこの「やらされ感」や「負担感」をいかにして排除するかがポイントとなる。

⑤対象範囲

地域のプラットフォームの対象範囲を適正に区画することも重要である。あまり範囲が広すぎ

ると、活動のモチベーションとなる“自分が住んでいる地域”という感覚を感じることが出来な

くなってしまう。逆に範囲が狭すぎると、様々な主体の交流が生まれず、課題の解決につながり

にくくなってしまう。歩いて参加できる程度で、なおかつ“自分が住んでいる地域”を感じられ

る範囲が最も適していると考える。

⑥行政の関わり方

地域のプラットフォームに行政はどのような形で関っていくか。行政が主導し、地域に対し「あ

あしてください」「こうしてください」では、地域にやらされ感や負担感ばかりが増えてしまう。

地域のプラットフォームは、地域が主体となって議論・活動する場であるので、そこで話し合

う内容や活動する内容も一律同じにすることなく、地域の「個性」に任せて地域独自の活動に発

展していけるようにすべきである。そのような場に行政職員も“対等な立場”で参加していく。

“市民参加”ではなく、“行政参加”という発想で関っていくことが必要である。

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9 市民と行政による協働のまちづくり手法

本章では、前章までの経緯を踏まえた市民と行政の協働によるまちづくり手法を提案する。

9.1 みらい会議

地域総ぐるみでの協働のまちづくりを推進するため、各小学校区単位での「みらい会議」の開催

を提案する(図表37)。

このみらい会議が小学校区で生活するすべての人を対象とした地域のプラットフォームとなる。

小学校区というまとまった地域に対し大きな枠をかけることにより、自治会加入者はもちろん、

自治会未加入者も対象とすることができる。さらに、その地域に存在する既存団体や企業、学校、

PTA、民生・児童委員などの地域に存在するすべての資源も対象となる。すなわち、その地域で

生活するすべての人を対象とすることができ、同時にまちづくりの当事者とすることができるので

ある。

図表37 みらい会議の概要図

みらい会議では、参加した地域住民が意見を言いやすい環境の整備を徹底する。そのため、従来

の会議形式とは違い、専門のファシリテーターが会議を進行することとする。そうすることで、小

さな子ども連れから高齢者の方まで、家族全員で楽しく、自由な形で参加することができるように

なる。ファシリテーターによる支援については、9.5.1にて説明する。

また、みらい会議では「会議」という文字どおり、話し合いをする場でもありながら、回を重ね

るごとに、地域活動をする場であったり友達作りの場であったりと、様々な機能を持つ場になって

小学校区単位の地域コミュニティの形成

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いくことを想定している。この様々な場を総称して「みらい会議」と呼ぶこととする。

どんなに些細なことでも意見を出しあい、出来ることから自分たちで実行していく。こうした小

さいことを積み重ねることで、地域住民の意識が徐々に醸成されるとともに、人と人とのつながり

が広がっていき、地域のことは地域で決めることができるようになるものと考える。

このような小学校区を単位とした地域コミュニティの再形成の取り組みは、本研究でも視察を行

った千葉市をはじめ全国的にも広がりつつある。 千葉市の例では「地域運営委員会」という名称が

使われており、他にも「まちづくり協議会」や「地域会議」など名称は自治体によって様々である。

本研究の提案では、子ども達からお年よりまで親しめる名称で、かつ、その地域の未来を話し合

い、未来を見据えた活動をしていく場になっていって欲しいという希望をこめ「みらい会議」とし

た。

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9.2 みらい会議の対象範囲

みらい会議は原則として、小学校区を1つの単位として活動を行う。その理由について次に示す。

1.顔の見える関係づくりの必要性

みらい会議では地域住民による対話を重要視しているため、対話が生まれやすい環境づくりが

必要である。人がコミュニケーションをとる際、ある程度顔の見える方が円滑に進むと考えた。

地域における最も身近なコミュニティは自治会であるが、前述してきたように自治会において

は未加入世帯の増加が課題となっている。みらい会議の対象範囲を自治会単位としてしまうと、

未加入世帯はみらい会議に参加しにくくなってしまうだろう。

したがって、みらい会議の対象範囲は自治会よりも大きい範囲で、且つ、顔の見える関係づく

りが可能な範囲が適切であると考えた。

2.自分が住んでいる地域という意識

地域課題を身近で感じることができるよう自分が住んでいる地域という意識が持てる範囲にし

ている。この意識があることで実際の活動へのモチベーションにも繋がると考えた。

3.幅広い人材の確保

春日部市には24の小学校区、198の自治会17が存在している(平成28年3月31日時点)。単純

計算すると1つの小学校区に8~9の自治会が存在することになる。その他にも各種団体や企業な

ど、その地域における資源すべてを対象とするため、自分の関与する領域でありながら、様々な

立場の人との交流を図ることができる。

4.拠点としての利点

昔から小学校は地域の顔として人々との繋がりを持っていた。小学校を拠点とすることで、各

地域において平等な拠点配置となり、防災の面でも小学校が避難所となっているなどの利点があ

る。

これらの理由のもと原則的に小学校区を一つの単位として提案を行っているが、対象範囲につい

てもあくまで地域の実情に即した区画が望ましいと考えている。そのため、地域によっては中学校

区まで範囲を広げるなどの事例が生じることも考えられる。

17 自治会連合会に加盟している団体。

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9.3 既存団体とのつながり

みらい会議は既存団体とどのような関係にあるのかを次に示す(図表38)。

図表38 既存団体とのつながりイメージ図

図表38の左側は現状を示している。地域にはそれぞれの活動領域に対して対応する各種団体が存

在しているが、縦割り社会の中でそれぞれが個別に活動をしている。このような状況下では活動領

域が重複している団体も多いと思われる。また、活動領域外の課題やニーズに関してはそのまま放

置されてしまう恐れがある。この縦割りの構図が既存団体の負担を生んでいる原因と考え、既存団

体同士のつながりを生む仕組みを考えた。

図表38の右側はみらい会議設立後のイメージである。みらい会議はあくまで住民や団体同志のつ

ながりや横の連携を生み出すものであって、既存団体自体の統廃合を目指すものではない。イメー

ジ図では横のつながりを持つことで、それぞれが補完しあうということを示している。

活動領域が重複している団体がある場合、単独で活動するよりも協力して活動する方が効率的に

活動をすることができるかもしれない。また、違う活動領域を持つ団体同士が情報共有し、協力し

て活動することにより、今までよりも幅広い活動ができるかもしれない。

このように既存団体が横のつながりを持つことで、それぞれの団体の負担軽減や効率的な活動が

期待できる。

さらに、団体同士が情報を共有することにより、地域に埋没してしまう可能性があった課題を拾

いあげ解決に導く可能性が増す。要するに地域の課題解決能力が向上するのである。

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9.4 実施スキーム

みらい会議を実施するにあたっては、次のようなスキームで運営を軌道に乗せる(図表39)。

図表39 みらい会議設立までの実施スキーム

みらい会議は地域住民が主体となり、20年後、30年後も持続可能な自立した地域運営を目標とす

る。そのため、基本的には財政面においても行政に頼らない自立した体系を地域で構築することが

求められるが、みらい会議の取り組みをより強力に推進するため、市は導入期、発展期、円熟期の

各段階において地域の実情に即した支援をしていくこととする。この支援のあり方については、9.5

にて説明する。

9.4.1 導入期

みらい会議の推進において最も重要なのは導入期である。みらい会議は地域住民が主体的に様々

な活動を行う場であるので、地域住民の意識醸成が大切である。そのため、導入期では市が用意し

たファシリテーターを地域に派遣し、みらい会議の進行をすることとする。専門家の仕切りのもと、

みらい会議に参加した地域住民の間で「面白そうだから参加してみよう」、「試しにやってみよう」

といった意識を醸成することがねらいである。

導入期では一人でも多くの地域住民(各種既存団体に所属している人たちも一地域住民である)

に参加してもらうことが大切であり、「楽しいから次も参加してみよう」というある種の成功体験を

積み重ねていくことが重要である。そのためには次のような一定のルールが必要である。

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(1)参加者はすべて対等な立場

現状において地域活動に最も遠い位置にいる人も、地域活動に熱心に従事している人もみらい

会議の中ではすべての参加者を対等な立場で扱う。同様にすべての参加者の意見は同じ重さで扱

う。

(2)人の意見を否定しない

参加者の意見はすべて尊重し、他人の意見に対し否定することはしない。

このような一定のルールを設けることで、どのような立場の人でも自由に意見を言えるというこ

とが約束されることとなり、活発な意見交換が期待できる。

人が集まり、何かを始めようとする時は、必ず共通した目標が必要になる。

地域の中には実に様々な年代・職業の人が生活しており、当然考えていることも様々だが、「自分

が生活している地域がより良くなって欲しい」という想いは誰もが共通して抱くものである。

みらい会議では「自分が生活している地域がより良くなって欲しい」という共通目標のもと、ま

ずは「自分たちの地域が今後どのようになっていって欲しいか」、「自分たちの地域に足りないもの

は何か」という基本的なことから地域を見つめ直すことが、第1歩となる。

堅苦しい会議ではなく楽しみながら、日頃の生活で感じることや思うことを地域住民同士で共有

する。この話し合いを続けていく中で、少しずつ顔の見える関係性が築かれていき、人と人とのつ

ながりが広がっていくものと考える。

したがって、この導入期はこの取り組みの土台づくりとなる、地域の盛り上がり、機運を高めて

いく最も重要な段階と位置付けている。

9.4.2 発展期

発展期では活動の実践を行う。導入期に話し合ってきた地域としてやりたいことを実行に移して

いく段階である。実行に移していくことでみらい会議が「話し合いの場」から「課題解決の場」で

あったり、「自己実現の場」であったりと様々な要素を包含する場になっていく。当然、地域(小学

校区)ごとにやりたいことは違うので、この発展期から地域(小学校区)ごとの個性が発揮される

ことになる。

活動にあたっては「負担感」にならないよう、できる人ができる時に実践していくことが大切で

あると考える。

みらい会議では市民が主体となって自立的な地域活動をしていくため、財政的にも自立する必要

がある。はじめから補助金をあてにしていては、地域の創意による自由な活動ができなくなってし

まうし、補助金の打ち切りとともに活動も終了してしまい、持続可能な地域活動は期待できない。

そのため、みらい会議での活動や運営に要する財源については、地域でイベントを開催する際に

参加団体や個人から寄付金を募集したり、飲食物を提供して売上金を得るなど、積極的に自主財源

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の確保をしていく。また、本研究でも視察を行ったFAAVOなどの地域に特化したクラウドファ

ンディングの活用も想定される。

9.4.3 円熟期

円熟期はみらい会議の運営が安定化し、地域が協働してまちづくりを行っていく段階である。運

営がどのように安定化されるかのイメージを図表40に示す。

図表40 みらい会議 運営の安定化イメージ

出典)飯盛義徳(2015)「地域づくりのプラットフォーム」(学芸出版社)を参考に独自に作成

ある組織の運営が安定化するには、その組織が停滞することなく、常に活性化していなければな

らない。そして、組織が常に活性化するには、絶えず新たな人的交流を組織の内外問わず行ってい

く必要がある。組織の担い手が固定化してしまうと、アイデアもじきに枯渇してしまい、活動自体

も固定化してしまうだろう。新しいアイデアというものは常に新たな交流によって、また、よそ者

の視点によってもたらされると言われている。したがって、組織自体が常に新陳代謝を繰り返して

いかなければならないのである。

そうは言っても、組織の運営にあたっては、常勤となるような核となるメンバーも絶対不可欠で

ある。このような組織運営にあたる強いつながりと新たなアイデアをもたらす弱いつながりを融合

させることで、組織は活性化し、運営も安定するものと考える。

組織が安定化することで、より大きな地域課題の解決にもあたることができるようになる。今後、

少子高齢化の進展とともに厳しい行政運営が懸念されるなか、地域の課題やニーズはさらに多種多

様なものになると思われる。公平性・公正性に縛られ行政だけでは対応できない地域独自の課題に

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対し、みらい会議は行政と協働しながらこのような課題に対応していくことができるのである。

9.5 支援内容

ここでは、みらい会議の推進するための市の支援を示す。先述したが、みらい会議では 20年後、

30年後を見据えた持続可能な自立した地域運営を目標とするため、基本的には財政的にも自立した

体系を目指す。しかしながら、みらい会議を推進していく過程では、場合によって支援が必要とな

ることも想定される。したがって、導入期・発展期・円熟期の各段階において想定される支援内容

を図表41に示し、市は地域の実情に応じて必要な支援をしていくこととする。

図表41 市の支援内容

9.5.1 ファシリテーター派遣

みらい会議を実施するにあたり、気軽で自由な会議にするためには、ファシリテーターは必要不

可欠である。みらい会議での話し合いには小中学生から高齢者まで幅広い地域住民が参加する。普

段、人前で意見を述べることに慣れていない人であっても、意見が言いやすくなるような会議進行

が求められる。参加者全員が発言できることで当事者意識が生まれ、その後の活動へのモチベーシ

ョンにもつながると考える。その意味でとりわけ導入期においてファシリテーターの果たす役割は

非常に大きい。

そこで、1年間を上限に市が用意した市民協働の専門家であるファシリテーターを派遣すること

地域の状況に即した支援

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とする。派遣されたファシリテーターは、各小学校区におけるみらい会議の進捗具合を見ながらワ

ールドカフェやOST18といった状況に適した会議手法を用いて進行していくこととする。

9.5.2 ファシリテーター養成講座

1 年間の専門ファシリテーターの派遣期間を経て、地域の方々にファシリテーターの必要性を認

識してもらった上で、地域の方々にファシリテーター養成講座を開催する。ここでは、後述する地

域担当職員にも講座に参加してもらうことを想定している。養成講座を通じて地域内でのファシリ

テーター役を増やしていくことで、地域の意見をまとめていける担い手が確保でき、みらい会議の

自立的な運営につながると考えている(図表42)。

図表42 ファシリテーター養成講座

この養成講座を開催するにあたり、ファシリテーターに関する協会や研修企画会社と連携して実

施する。

既に茨城県五霞町では、住民向けの講座を開催し、住民自身のファシリテーターの能力向上、ひ

いては地域のキーパーソンの育成にも繋げている。

18参加者が議論したい課題を自ら提案し、自主的に話し合いを行う手法。参加人数の多少に関わらず、生

産的かつ創造的なミーティングやカンファレンスを実施し、集合的意思形成に向けた取り組みを促す効

果がある。

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9.5.3 地域担当職員

各小学校区のみらい会議には市職員も積極的に参加することが望まれるため、各小学校区ごとに

地域担当職員を置く。地域担当職員は地域と行政のパイプ役を担うとともに、市民主体となった地

域づくりやまちづくりの推進サポート役を務めることが期待される。

地域担当職員制度を導入している先行事例を見ると実施方法にばらつきが見られ、全職員を割り

当てている自治体や担当課のみの自治体、該当地域に居住している職員をあてる自治体など様々で

ある。

そこで春日部市では、まず入庁 3年目くらいまでの若手職員から希望する小学校区での地域担当

職員を公募することとする。我々市職員の行動目的は言うまでもなく「住民の福祉の増進」である。

若手職員を対象とすることで、早い段階から現場を知り、地域でどのような議論がされているのか

や地域ではどのようなニーズがあるのかを学ぶことができる。

また、若手職員だけでは、経験面での不安がある。若手職員をフォローできる中堅職員にも公募

をかけて複数人での対応を考えている。

選出方法を公募とした理由については、地域住民と同じ立場で参加するためである。例えば地域

担当職員としてのみらい会議参加を業務としてしまうと時間帯による制約が生じる。会議が休日や

夜に開催される場合が多いため対応するために時間外労働となってしまう。そもそも地域の方々は

普段の仕事を行いながら、地域活動のできることを行っている。地域担当職員も同じ立場になるべ

きと考え公募による制度を提案する(図表43)。

図表43 地域担当職員制度

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地域担当職員は事務局という立場ではなく、一参加者としてみらい会議に参加する。事務局とい

う立場になってしまうと、地域住民と市役所という垣根ができてしまい、地域住民の中では「やら

され感」が出てしまう。そのため、地域担当職員は行政職員としての知識やノウハウを提供するこ

とはあっても、あくまで一参加者という対等な立場で参加する必要がある。

また、みらい会議で出てきた課題の中には行政として、対応すべき課題も含まれることが想定さ

れる。その時に地域担当職員が地域から吸い上げた課題を庁内で検討する組織が必要となる。視察

を行った千葉市では、地域から「地域に横のつながりを強いておいて、行政は縦割りのままなのか」

という意見があったという。視察先での話を生かし、地域担当職員が相談したりアドバイスを求め

る先として庁内協働部会を設立する。庁内協働部会は課長級職員による庁内横断的な組織とし、地

域担当職員が吸い上げた課題を多角的な視点で検討し、課題解決に向かう方策を提案する。地域担

当職員が地域と市とのパイプ役となることで、市民と行政による協働の形が構築される。

9.5.4 設立支援補助

次に財政支援について説明する。みらい会議は自立した地域運営を目指すため、財政的にも自立

することが求められる。そのため、財政支援内容については図表41で示しているが、地域の実情に

応じ必要がある場合のみ適用していくこととする。

また、財政支援にあたってはあらかじめ要綱等の整備が必要なことは当然の事としてこの報告書

では触れない。しかし、補助金交付にかかる手続き等も可能な限り簡素化していくことの配慮は必

要である。補助金申請の窓口にあたったことのある職員であれば、「数万円の補助金をもらうのにし

ては提出する書類が多すぎる」というご意見を耳にすることは多いと思う。

千葉市では要綱等の整備において、あらかじめ監査委員事務局と検討を行い、手続きを極力簡素

化する努力をしている。

設立支援補助は導入期に実施する。みらい会議の設立に向けた準備を進める目的を持った地域が

会議やニーズ調査を行う場合の費用を補助するものである。

設立支援補助はみらい会議設立年度のみ交付する。

9.5.5 活動支援補助

みらい会議では様々な既存団体が含まれることから、各種補助金の重複を避けるため既存の事業

は対象外とし、みらい会議として新規に実施する事業を対象に補助するものである。

9.5.6 一括交付金

一括交付金は、既存団体の重複した事業を統廃合した場合に交付するものである。小学校区に存

在する既存団体内で目的を同じにする活動がある場合、お互いに連携・協力して実施した方が効率

的で効果的なことがある。この活動に補助金が交付されている場合、それぞれの補助金を統廃合し

自由度の高い一括交付金として交付することで、地域においてより効果的な補助金の使い方が出来

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ると考える。

なお、千葉市の例では各既存団体の補助金を統合または廃止することにより、一括交付金として

①統合する補助金の合計額と②上乗せ額(①の1割)を加えて交付している。

9.5.7 拠点支援

みらい会議は原則として小学校区を単位としているため、拠点としても小学校施設の有効活用が

望ましい。

現在、春日部市では「春日部市立学校施設の開放規則」第2条に「この規則において「学校施設

の開放」とは、住民のスポーツ、レクリエーション活動の場を確保するため、学校教育に支障のな

い範囲で教育委員会の企画及び運営のもとに、所管の小学校及び中学校の体育施設を住民に開放し、

その利用に供することをいう。」と規定されている。施設開放の対象活動が住民のスポーツ、レクリ

エーション活動の場に限定されている状況である。

学校施設を住民に開いている習志野市ではどのような状況かを次に示す。

習志野市では、「習志野市立学校施設の目的外使用に関する規則」第4条に「校長は、学校教育及

び施設管理上支障がなく、次の各号に該当すると認められるときは、学校施設の使用を許可するも

のとする。

(1) 法令に基づいて使用するとき。

(2) 国又は他の地方公共団体が、市の業務に関連のある業務を行なうとき。

(3) 公共的団体が、市の施策に協力するための事業を行なうとき。

(4) 社会教育及び社会体育に利用するとき。

(5) その他特に必要があると認められるとき。

2 校長は、許可をする場合において、特に必要があると認めるときは、使用の場所、使用する者の

行為等について条件を付することができる。

3 校長は、学校施設の使用期間が7日以上にわたるもの又は異例なものの許可については、あらか

じめ教育長の承認を受けなければならない。」と規定されている。

今後春日部市でも教育施設をコミュニティの拠点とする場合には、規則改正か新規規則の制定を

行うことで実現できると考えている。

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9.6 期待される効果

各小学校区におけるみらい会議の実施により見込まれる効果を説明する。

9.6.1 地域の担い手確保

地域の多くの団体で次世代の担い手不足が課題として挙げられている。図表14でも紹介した公益

財団法人 日本都市センターのアンケートでも、地縁型住民自治組織において最も大きな課題が担い

手不足となっている。

野田市光葉町自治会の事例研究をする中で、自治会加入者であっても自治会の各部会活動などの

細かい部分は知らない人が多いということが分かった。これは、自治会における自治会役員以外の

一般会員はほとんどが受身の姿勢で関わっており、自治会の組織構成や詳しい活動内容までは興味

を持たないためと思われる。そして、自治会が地域にとってどれだけ意義のある活動を行っている

かを自治会加入者すらも知らない状況が、今日の自治会加入率低下の一因になっていると思われる。

みらい会議では自治会未加入者やこれまで地域活動にあまり熱心に参加していなかった人なども

参加することが見込まれ、これらの人の「地域デビュー」を推進する場にもなる。自治会加入の低

迷に悩む役員もこれらの人々と交流する中で、自治会活動の意義を知らせることができる。すなわ

ち、みらい会議は自治会PRの場にもなるのである。

一つの小学校区みらい会議には単純計算で8~9の自治会が対象となるので、現状よりもはるか

に幅広く人材を知るきっかけにもなり、多種多様なつながりが形成される。

9.6.2 地域の主体性が強まる

みらい会議では専門のファシリテーターを活用することで、従来とはまったく違う意思決定の形

となる(図表44)。

図表44 意思決定の差異

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従来の地域の意思決定のあり方が図表44左側のイメージである。多くの場合では、一部の役員に

より意思決定がなされ、その他多数の地域住民は決定のプロセスに関わらない。そのため、多くの

住民はただただ受身になってしまい、意識の醸成がされないまま行事にだけ参加することになって

いる。このような構図により、住民の多くは負担感を感じ、市民意識調査結果にも表れている地域

離れが進んでいるのではないかと考えた。

そこで、みらい会議では図表44右側イメージのような中立的なファシリテーターを中心に、全員

参加型の話合いを行う形とする。そうすることで参加住民は活動をする意味、活動の必要性につい

ても深く理解した上で活動できる。また、企画段階のプロセスから参加することで責任感が増し、

その後の活動へのモチベーションも向上する。住民が納得した状態で参加することで負担感も排除

でき、能動的な活動につながると考えた。

9.6.3 地域の個性発揮

春日部市内においても地域ごとによって魅力や課題は様々である。導入期におけるみらい会議で

は、今一度地域を見直すことから始まる。自分たちの地域にはどのような地域資源や課題があるの

か、20年後・30年後にはどのようなまちになっていて欲しいのかといったことを地域総ぐるみで考

える。そのような地域の想いをもとに活動を展開するため、各小学校区のみらい会議によって地域

の個性を反映させた活動になる。図表45に示したように、それぞれの小学校区によってまちづくり

の方向性に特色が出てくることで、地域ごとの個性がより輝くようになると考える。

図表45 地域の個性発揮

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9.6.4 地域への愛着増進

現在行われている地域活動の多くはボランティアとして行われている。みらい会議における活動

も基本的には無償のボランティアになる。

ボランティア活動は地域への愛着醸成に深いつながりがある。全国社会福祉協議会の「全国ボラ

ンティア活動実績実態調査」によると「貴団体・グループのボランティア活動は社会的にどのよう

な効果を生んでいると考えていますか」という問いに対して、一番多かった回答は「活動に関わる

人たちの絆が深まって地域への愛着が生まれた」であった(図表46)。

図表46 ボランティア活動と地域への愛着

出典)社会福祉法人 全国社会福祉協議会 全国ボランティア活動実態調査(平成 22年 7月発行)より

作成

みらい会議でも自分の地域を良くしたいという想いから活動を展開していくため、活動を通じて

地域に愛着を持つ住民が増えると考えられる。

Q. 貴団体・グループのボランティア活動は社会的にどのような効果を生んでいると考えていますか

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9.6.5 ソーシャル・キャピタル19の影響

内閣府の平成 19年度(2007年度)版国民生活白書では、ソーシャル・キャピタルを指数化(ソ

ーシャル・キャピタル指数20)し、合計特殊出生率と刑法犯認知件数との相関について記載している

(図表47)。

ソーシャル・キャピタルとは社会関係資本と訳されることが多く、社会資本であるインフラとは

異なる概念である。簡単に言い換えれば地域の繋がり、または、地域力といえる。

ソーシャル・キャピタルに関する議論は、その概念についても様々な考え方がある。

ソーシャル・キャピタル(地域力)が高いほど出生数は増え、犯罪は減るという傾向があること

が分かる。

みらい会議の導入により地域コミュニティが強化され、地域力が向上すると人口増加や犯罪抑止

にも寄与する可能性があると言える。

図表47 ソーシャル・キャピタルの影響

出典)内閣府 平成19年版国民生活白書 地域のつながりの変化による影響

19 グループ内部またはグループ間での協力を容易にする共通の規範や価値観、理解を伴ったネットワー

ク(OECD 経済協力開発機構)。 20 ソーシャル・キャピタルを構成する要素と言われている「つきあい・交流」、「信頼」、「社会参加」の程度を表すと考えられる指標をそれぞれ複数選択し、これを指数化した上で合成することで、ソーシャル・

キャピタル指数を試算している。

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9.6.6 市の歳出削減

現在、市では自治会に関係する補助金や助成金を関係各課から交付している。各小学校区みらい

会議において、既存団体同士での行事の見直しや業務分担を行うことが出来れば、重複していた部

分を統合あるいは廃止することができる(図表48)。

図表48 歳出削減のイメージ図

図表48を例に説明すると、これまではA自治会、B自治会、C自治会に対して個別に防災関係の

補助金が10交付されていたので、合計は30になる。これを小学校区みらい会議の中で統合するこ

とで、重複していた経費を削減したり、より効率的な運営に改善されることで防災関係の補助金を

20に減らせることができると考える。市町村合併による経費削減効果と同様の論理である。

これにより、市の歳出も削減することができ、結果生じた余剰分については、拡充したいところ

に集中し一括交付金の財源とすることができる。

9.6.7 各地域のニーズの把握

地域に課題やニーズがある場合、現状ではその分野ごとに市の担当部署が対応にあたっている。

行政目線で考えれば効率的であるが、住民目線で考えた場合はどうだろうか。複数の課題がある場

合などは、庁内でもワンストップサービスを心掛けてはいるものの、込み入った内容では複数の窓

口を回って歩いていただくしかない。

みらい会議を導入した場合、図表43にも示したように地域と市の間を地域担当職員がパイプ役と

なってつなぐため、地域課題やニーズを効率的に把握できるようになる。

地域での課題やニーズを的確に把握できるようになることで、市としても地域特性をより多角的

な視点から見た施策を展開し易くなると考える。

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9.6.8 既存団体の負担軽減

ある活動を実施するにあたり役員が配置されていると、団体の数が多い分だけ役員の数も多くな

る。みらい会議では既存団体が情報を共有し重複している活動を統合することで、役員数は減るが

活動自体は広域的に実施できるようになるなど、より効率的な活動ができるようになる。すなわち

各既存団体自体の負担が軽減される効果がある。

防災訓練を例に挙げると、現在は各自主防災組織がそれぞれに集会所などで訓練を実施している

状況がある。これを一つの自主防災会に統合し、みらい会議の拠点である小学校で実施できるよう

になると、各自主防災組織の負担が軽減されるとともに、有事の際の想定に近い市指定の避難場所

にて訓練を実施できるメリットがある。(図表49)。

図表49 既存団体の負担軽減

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10. まとめ

地域づくりに特効薬はない。

これは約1年間の調査研究を通して感じた実感である。「これさえやっておけば、地域は活性化す

る」というものは無いのである。

本来、何か課題があった時には対話を通してしか解決は図れないはずである。

しかし、逆説的ではあるが、現状はこの対話がないからこそ様々な課題が地域に出ていると考え

た。現実的にすべての人と対話をするのは不可能かもしれないが、対話の扉は常に開いていなけれ

ばならない。

本報告では、市民と行政による協働のまちづくり手法として、対話を重視した各小学校区単位で

のみらい会議の設立を提案した。

・誰でも

・自由に

・参加できる場

以上の3点を採り入れた地域のプラットフォーム、それがみらい会議である。

この取り組みを、まずはモデル地区から働きかけ、徐々に全小学校区に対して導入を図っていく

という目標を掲げた。モデル地区から行うことで、得られる知見や改善点を他の地区に反映させよ

うと考えた。

取り組みの効果は、5年間に 2回実施している春日部市市民意識調査において検証することを想

定している。その際に市民参加や市民協働に関する調査項目において市民意識の変化をチェックし、

状況に即した見直しを加えていくことが必要であろう。

将来的には市内全24小学校区でみらい会議が設立され、市民と行政による協働のまちづくりが進

むことを期待する。

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11. おわりに

編集後記

約 1年間という長期間にわたり、調査研究チームでは多くの打合せを実施し、議論を重ねてきま

した。調査研究の道程は決して平坦ではなく、多くのアップダウンがありましたが、一つずつ乗り

越えていくごとにチームに一体感が生まれていくことを実感し、とても貴重な経験を得ることがで

きました。

調査研究のテーマとなった協働という言葉は一般的にはあまり使われない言葉であり、市民の方

にも馴染みのない言葉だと思います。協働のまちづくりと言われてもイメージが湧かない方が多い

のではないでしょうか。

そのため、私たちの調査研究を進める上では、実際に研究員が協働の取組が行われている現場を

体験し、その中で感じたことや実践的に活用できると思ったポイントを提言に反映することで、少

しでも多くの方に共感を抱いていただけるよう心掛けました。

春日部市自治基本条例において、市民の定義は「市内に居住し、通勤し、通学し、又は活動する

個人及び団体をいう。」と規定されています。そのため、春日部市職員はすべからく、市民であると

言えます。私たち行政職員が仕事をする中では、行政と市民という立場を区別しがちですが、本来

は同じ市民であり、手を携えお互いに協働することが求められています。

まずは、本報告書が市民と行政とのつながりの一助となれば幸いです。

最後になりますが、本調査研究を行うにあたり、さまざまな視点から的確なご意見をいただいた

研究所モニターの皆様、快く視察に応じてくださった埼玉県共助社会づくり課様、株式会社サーチ

フィールド様、千葉市市民自治推進課様、千葉市美浜区地域づくり支援室様、千葉県野田市光葉町

自治会様、中央グリーン開発株式会社経営企画課様、また有識者として専門的な視点からご講演い

ただいた名和田是彦様、そして年間を通してさまざまなアドバイスをいただいたかすかべ未来研究

所政策形成アドバイザーの牧瀬稔先生に厚く御礼申し上げます。

研究員

人事課 新谷 弘樹

国民健康保険課 中山 祥一

下水道課 杉浦 弘紀

施設課 栄羽 武史

政策課 砂田 清志

政策課 遠藤 祐太郎