施設園芸用農ビおよび農 PO の種類と紫外線透過率 …167...

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─ 167 ─ 施設園芸用農ビおよび農 PO の種類と紫外線透過率 ○白山竜次・郡山啓作 1) (鹿児島農総セ花き・ 鹿児島県北薩地域振興局) 1) 【目的】 太陽から地上に到達する紫外線( UV, Ultra Violet )はその波長によって UVA, UVB に分類さ れる。UVA は320~390nm の波長域で,アントシ アニン色素の合成促進等に関与するとされている。 UVB は280~320nm の波長域で,植物の病害抵抗 性誘導による病害防除等に利用されている。一方, 紫外線は昆虫の走光性に大きな影響を及ぼす波長 域であり,施設栽培では被覆資材により紫外線域 をカットすることで,昆虫の種類によっては被害 が軽減されることが知られている。しかし紫外線 をカットすると特定の品目ではアントシアニンの 合成が不十分になり,果実や花弁の着色が不良と なり商品性が低下するため注意が必要であるが, 被覆資材の紫外線透過率に関する情報は少ない。 そこで本試験は,市販されている被覆資材を用い て,紫外線(UVAUVB)の透過率を測定し,今 後の試験の参考にすることを目的とした。 【材料および方法】 市販の UV カット(農ビおよび農 PO)資材6種 類と UV カットではない農ビおよび農 PO 資材31 種類を供試した。供試材料は商品カタログに添付 された資材サンプルを用いた。UVA および UVB の測定は放射照度計(HD2102.2, Delta ohm)に UVA 放射照度測定用プローブ LP471UVA(測定範囲31 5~400nm),UVB 放射照度測定用プローブ LP471 UVB(測定範囲280~315nm)を用いた。紫外線源 として UVA UVA LED (試作品,エルム),UVB は紫外線蛍光灯(タフナレイ,panasonic)を用い た。測定は,UV 光源をプローブの50cm 上に設置 し,プローブの上に測定する資材を置いて,紫外 線の透過率を求めた。 【結果および考察】 供試した農ビおよび農 PO 系被覆資材の紫外線 透過率を表1に示した。UV カットと明記されてい た6資材については紫外線透過率が極めて低く10% 以下であった。一方,通常の被覆資材は商品によ って大きな差が見られた。UVA の透過率は22.9~ 83.6%で,UVB の透過率は0.4~55.4%のあいだで 分布した。通常の被覆資材における UVA UVB の透過率には相関が認められた(データ略)。 被覆資材が紫外線をどの程度透過するかは,栽 培する品目によっては重要な情報である。本試験 の結果から通常の農ビおよび農 PO でも紫外線透 過率に大きな差があることが示された。そのため 栽培を行うに当たっては現在被覆している資材が どの程度紫外線を透過するかをあらかじめ確認す る必要がある。 表1 各種被覆資材における紫外線透過率の差異 UV-A UV-B 農PO 2.0 1.4 農PO 3.2 2.4 農PO 3.8 0.0 農PO 4.3 5.1 農ビ 5.5 0.2 農PO 5.6 0.0 農PO 22.9 5.3 - 農ビ 29.7 0.4 - 農ビ 41.3 13.5 - 農ビ 44.3 12.9 - 農ビ 44.9 10.6 - 農ビ 45.7 20.3 - 農PO 47.7 36.5 - 農PO 50.5 32.5 - 農PO 51.8 32.0 - 農PO 53.5 41.1 - 農ビ 55.1 38.3 - 農PO 56.0 41.3 - 農PO 56.2 45.7 - 農PO 56.9 45.6 - 農PO 57.9 34.2 - 農PO 58.0 44.5 - 農PO 62.6 26.8 - 農PO 62.8 55.4 - 農PO 65.0 17.3 - 農PO 65.3 17.1 - 農PO 66.6 54.2 - 農PO 66.8 48.8 - 農ビ 68.3 45.9 - 農ビ 69.8 17.2 - 農PO 71.2 41.4 - 農PO 71.6 42.9 - 農PO 72.2 46.3 - 農PO 74.0 14.8 - 農ビ 74.5 41.6 - 農PO 74.8 49.7 - 農PO 76.8 49.4 - 農PO 78.1 47.8 - 農ビ 83.6 51.9 - 注)農PO:農業用ポリオレフィンフィルム 農ビ:農業用ポリ塩化ビニルフィルム 種類 UVカット 明記 透化率(%)

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Page 1: 施設園芸用農ビおよび農 PO の種類と紫外線透過率 …167 施設園芸用農ビおよび農 PO の種類と紫外線透過率 白山竜次・郡山啓作1) (鹿児島農総セ花き・

─ 167 ─

施設園芸用農ビおよび農 PO の種類と紫外線透過率

○白山竜次・郡山啓作1)

(鹿児島農総セ花き・ 鹿児島県北薩地域振興局)1)

【目的】

太陽から地上に到達する紫外線(UV,UltraViolet )はその波長によって UVA, UVB に分類さ

れる。UVA は320~390nm の波長域で,アントシ

アニン色素の合成促進等に関与するとされている。

UVB は280~320nm の波長域で,植物の病害抵抗

性誘導による病害防除等に利用されている。一方,

紫外線は昆虫の走光性に大きな影響を及ぼす波長

域であり,施設栽培では被覆資材により紫外線域

をカットすることで,昆虫の種類によっては被害

が軽減されることが知られている。しかし紫外線

をカットすると特定の品目ではアントシアニンの

合成が不十分になり,果実や花弁の着色が不良と

なり商品性が低下するため注意が必要であるが,

被覆資材の紫外線透過率に関する情報は少ない。

そこで本試験は,市販されている被覆資材を用い

て,紫外線(UVA,UVB)の透過率を測定し,今

後の試験の参考にすることを目的とした。

【材料および方法】

市販の UV カット(農ビおよび農 PO)資材6種

類と UV カットではない農ビおよび農 PO 資材31

種類を供試した。供試材料は商品カタログに添付

された資材サンプルを用いた。UVA および UVBの測定は放射照度計(HD2102.2,Delta ohm)に UVA放射照度測定用プローブ LP471UVA(測定範囲31

5~400nm),UVB 放射照度測定用プローブ LP471UVB(測定範囲280~315nm)を用いた。紫外線源

として UVA は UVA LED(試作品,エルム),UVBは紫外線蛍光灯(タフナレイ,panasonic)を用い

た。測定は,UV 光源をプローブの50cm 上に設置

し,プローブの上に測定する資材を置いて,紫外

線の透過率を求めた。

【結果および考察】

供試した農ビおよび農 PO 系被覆資材の紫外線

透過率を表1に示した。UV カットと明記されてい

た6資材については紫外線透過率が極めて低く10%以下であった。一方,通常の被覆資材は商品によ

って大きな差が見られた。UVA の透過率は22.9~

83.6%で,UVB の透過率は0.4~55.4%のあいだで

分布した。通常の被覆資材における UVA と UVBの透過率には相関が認められた(データ略)。

被覆資材が紫外線をどの程度透過するかは,栽

培する品目によっては重要な情報である。本試験

の結果から通常の農ビおよび農 PO でも紫外線透

過率に大きな差があることが示された。そのため

栽培を行うに当たっては現在被覆している資材が

どの程度紫外線を透過するかをあらかじめ確認す

る必要がある。

表1 各種被覆資材における紫外線透過率の差異

UV-A UV-B

農PO 2.0 1.4 ○

農PO 3.2 2.4 ○

農PO 3.8 0.0 ○

農PO 4.3 5.1 ○

農ビ 5.5 0.2 ○

農PO 5.6 0.0 ○

農PO 22.9 5.3 -

農ビ 29.7 0.4 -

農ビ 41.3 13.5 -

農ビ 44.3 12.9 -

農ビ 44.9 10.6 -

農ビ 45.7 20.3 -

農PO 47.7 36.5 -

農PO 50.5 32.5 -

農PO 51.8 32.0 -

農PO 53.5 41.1 -

農ビ 55.1 38.3 -

農PO 56.0 41.3 -

農PO 56.2 45.7 -

農PO 56.9 45.6 -

農PO 57.9 34.2 -

農PO 58.0 44.5 -

農PO 62.6 26.8 -

農PO 62.8 55.4 -

農PO 65.0 17.3 -

農PO 65.3 17.1 -

農PO 66.6 54.2 -

農PO 66.8 48.8 -

農ビ 68.3 45.9 -

農ビ 69.8 17.2 -

農PO 71.2 41.4 -

農PO 71.6 42.9 -

農PO 72.2 46.3 -

農PO 74.0 14.8 -

農ビ 74.5 41.6 -

農PO 74.8 49.7 -

農PO 76.8 49.4 -

農PO 78.1 47.8 -

農ビ 83.6 51.9 -

注)農PO:農業用ポリオレフィンフィルム

  農ビ:農業用ポリ塩化ビニルフィルム

種類UVカット

明記透化率(%)

テッポウユリ球根養成における摘蕾作業の省力化

○今給黎征郎・白山竜次

(鹿児島農総セ花き)

【目的】

鹿児島県沖永良部島は日本一のテッポウユリ生

産地となっている。球根生産においては球根肥大

を促進するため,摘蕾作業が必要となるが,現在

は適用のある摘蕾剤がなく,課題となっている。

そこで,摘蕾作業の省力化をはかるための効率

的な摘蕾技術を検討した。

【材料および方法】

試験 1 遮光による摘蕾効果の検討

2014 年 4 月,遮光による摘蕾効果を確認するた

め,テッポウユリ‘エンゼルホルン’球根養成ほ

場で,80%遮光率の資材を株にべたがけした。試

験開始時(4 月 3 日)は発蕾直前で,1 ~ 15 日間遮

光を行い,その後のブラスチング率を調査した。

試験 2 界面活性剤及びエテホン処理による摘

蕾効果の検討

2014 年 4 月,テッポウユリ‘クリスタルホルン

’球根養成ほ場において,エテホン 200ppm 区,

市販のシリコン系界面活性剤 500 倍液区と,それ

ぞれに STS を 0.8mM になるように加用した区,

さらに STS0.8mM 単用区を設け,発蕾初期の 4 月

18 日に株あたり 3ml をハンドスプレーで生長点付

近に散布し,その後のブラスチング率を調査した

(エテホンはエチレンを発生させる植物成長調節

剤,STS(Silver Thiosulfate)はエチレンの作用を阻

害する鮮度保持剤)。

【結果および考察】

試験 1:表 1 に処理後 28 日目にブラスチング率を調査し

た結果を示した。15 日間遮光区が,43.6%で最も

高く,次いで 11 日間遮光区の 29.8%であった。7~ 1 日遮光区はブラスチング数に有意差は無かっ

た(表 1)。2 週間程度の遮光により摘蕾効果は確

認されたものの,実用的な効果ではなかった。

試験 2:表 2 に処理後 24 日後に草丈とブラスチングの調

査を行った結果を示した。エテホン 200ppm 区が

ブラスチング率 75%と最も高く,次いでシリコン

系界面活性剤単用区の 31.4%であった。STS 加用

区と STS 単用区ではブラスチング率が 2.1 ~ 8.7%と低かった。また草丈も,ブラスチング率の高か

った区が低くなり,エチレンによる節間伸長抑制

の作用であると考えられた(図 1)。これらから,

エテホン及び界面活性剤の処理は,いずれもエチ

レンの作用でブラスチングを誘発していると推察

された。

以上のことから,テッポウユリの球根養成にお

いて,発蕾初期にエテホンを散布することで,高

い摘蕾効果が得られることが明らかになった。

表 1 遮光期間と摘蕾効果

注 1)異なる文字間は Tukey-kramer 法により有意差あり(1%)

注 2)ブラスチング率は総花数におけるブラスチングの割合

定植:平成 25 年 10 月 4 日,試験場所:雨よけハウス

品種:‘エンゼルホルン’,球根サイズ:5S球

表 2 エテホン及び界面活性剤による摘蕾効果

注 1)異なる文字間は Tukey-kramer法により有意差あり(1%)

注 2)ブラスチング率は総花数におけるブラスチングの割合

品種:‘クリスタルホルン’,その他は試験1と共通

図 1 試験 2の各処理区の草姿

区 処理 草丈 総数(cm) (輪) (輪)

対照 無処理 73.9 a 5.1 0.0 a 0.0

① エテホン 53.6 b 3.6 2.7 b 75.0

② エテホン+STS 70.4 a 4.5 0.2 a 4.4

③ 界面活性剤 60.1 b 3.5 1.1 a 31.4

④ 界面活性剤+STS 70.9 a 4.6 0.4 a 8.7

⑤ STS 72.9 a 4.8 0.1 a 2.1

分散分析 ** NS **

ブラスチング 率(%)

花数 ブラスチング

区 遮光期間 1次花数 ブラスチング ブラスチング率(輪) (輪) (%)

① 1日 3.6 0.0 a 0.0② 4日 3.6 0.0 a 0.0③ 7日 3.3 0.3 a 7.7④ 11日 3.9 1.2 b 29.8⑤ 15日 3.3 1.4 b 43.6

分散分析 NS **

対照 ①区 ②区 ③区 ④区 ⑤区

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