遺伝子操作により種子の劣化を 抑制する技術(CER6, CER10, PAS1, PAS2, FDH, KCS1)...

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遺伝子操作により種子の劣化を 抑制する技術 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 研究員 大島良美

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遺伝子操作により種子の劣化を抑制する技術

産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門

研究員 大島良美

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本日紹介する技術

• 植物表面の改変技術:クチクラの操作によりストレス耐性、光の反射、ワックス蓄積を改良する技術

• 種子の劣化を抑制する方法:クチクラを増強して種の保存性を高める技術

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種子の劣化とは?

3

発芽率(%)

(発芽勢)

0

50

100

保存期間

防御・種皮・抗酸化物質(フラボノイド、ビタミンEなど)・抗酸化酵素・代謝活性の低下

修復・タンパク質・DNA, mRNA・脂質、炭水化物・膜

種子の品質=高発芽率・強い苗(遺伝的要因 x 環境要因)

劣化要因・湿気、高温、酸素、紫外線…・病原菌、害虫

・酸化ストレス・細胞の破壊・傷害・発芽率低下・弱い苗

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従来技術とその問題点

すでに実用化されているものには、・厳密な相対湿度・温度の管理、殺菌処理、密閉容器の使用

・経験に基づいた保存期間の設定等があるが、

厳密な管理にはコストがかかる、短寿命種が存在する等の問題がある

一方で、種子側の改良はなされていない⇒種子本来の機能を維持しつつ改良することは容易ではない

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新技術の特徴・従来技術との比較

新技術では、種子の表面クチクラの合成蓄積を制御する転写因子を利用して、種皮を強化することにより種子の保存性を高めることができることを確認した。

種皮の機能「新しい個体を作る胚を守る」

• 硬さ• 水分の移動制限• 光・外敵からの保護 タンニン

ポリエステル

多糖

表面クチクラ

二次細胞壁

従来技術の問題点であった、設備コストを増加させることなく種子の品質維持期間を延長、短命種子の寿命改良技術への応用が期待される。

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O

OO

OH

CO-SCoACO~SCoA

OH

LACS1,LACS2

CER4

OHOH

ABCG11/12

O

小胞体

クチクラO

O

VLCFAs (Acyl-CoA Ester)

Alkanes

Secondary Alcohols

Ketones

Primary Alcohols

Aldehyde decarbonylase(MAH1)

Wax esters (16:0 acid - 20:0 – 32:0 alcohols)(20:0-32:0 acid - 20:0–32:0 alcohols)

Wax synthase(WSD1)

課題1:機能的な種皮の改変

LTPG

細胞壁

CO-OH

Aldehyde decarbonylase (CER1?)LCFAs (16:0, 18:0)

Acyl-CoA reductase(WAX2/YRE, CER3?)

色素体

FAE complex, VLCA synthesis(CER6, CER10, PAS1, PAS2, FDH, KCS1)

マスターレギュレーター

転写因子

酵素遺伝子など

クチクラワックスの合成蓄積制御

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遺伝子欠損変異体

機能強化LMI2-VP16

クチクラがなくなり種子表面が癒着

クチクラ

C C

lmi2-2野生型

CW 未熟種皮の表面クチクラ減少

LMI2-VP16

野生型

(種皮断面SEM観察)

種子表面のクチクラが厚くなった

LATE MERISTEM IDENTITY 2 (LMI2)とは

茎から花芽をつくる分裂組織に変化させることが報告されている転写因子

(種皮断面TEM観察、C,cytosol; CW, cell wall)

CW

種皮のクチクラ形成を制御する転写因子LMI2を同定

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0

20

40

60

80

100

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9発芽率

(%)

吸水後の日数

劣化処理

**

**

**

**

**

**

0

20

40

60

80

100

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9

発芽率

(%)

吸水後の日数

通常の保存

7~9°C相対湿度 10%

40°C相対湿度 100%3 日間

人工的な種子保存期間加速試験野生型種子lmi2-2 変異体種子

課題2:クチクラは保存性に関与するか

LMI2を欠損しクチクラが薄くなると種子の発芽能が低下→LMI2は種子の保存性維持に必要

Lmi2-2(欠損変異体) 野生型 t-test **p <0.01, *p < 0.058

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0

20

40

60

80

100

0 1 2 3 4 5 6

Ger

min

atio

nra

te(%

)

吸水後の日数

劣化処理 (40℃相対湿

度100% 3日間)* *

0

20

40

60

80

100

0 1 2 3 4 5 6

Ger

min

atio

n r

ate

(%)

吸水後の日数

通常の保存

LMI2の機能強化で保存性を高めることが可能

人工的な種子保存期間加速試験

LMI2機能強化種子(CYP77A6pro:LMI2-VP16)

野生型 LMI2-VP16 (機能強化) t-test **p <0.01, *p < 0.05

クチクラを増やすことで保存性を高めることが可能⇒他のクチクラ制御因子も効果がある可能性

LMI2

gene

VP16

強力な転写活性化ドメイン融合強く活性化

LMI2

gene

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想定される用途• 発芽率、初期成育の改善

• タマネギ、ニンジン、ダイズなど短命種子の寿命改良

• 豆類、穀類など種子作物の品質維持

実用化に向けた課題• 現在、シロイヌナズナにおいて実証済み。実用植物では未検証。

• 遺伝子組換え作物の社会受容を検討しなければならない。(非組み換えも検討)

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本技術に関する知的財産権

発明の名称:種子の劣化を抑制する方法

出願番号:特願2016-047311,

PCT/JP2017/009516(WIPO)

出願人:(国研)産業技術総合研究所

発明者:大島良美、光田展隆

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クチクラはすべての陸上植物に存在する

•植物が大気環境中で生存するために極めて重要

•陸上植物の地上部ほとんどすべてを覆う

•クチン、ワックスを主成分とした脂質性高分子フィルム

Li‐Beisson, 2011

ワックス

クチン(ポリエステル)

花弁

クチクラ細胞壁表皮細胞

クチクラ細胞壁表皮細胞

10μm

種子

クチクラ細胞壁表皮細胞

クチクラ細胞壁表皮細胞

ツヤ

フルーツの白い粉

身近なクチクラ

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新芽が伸びやすくする

水分の蒸発を防ぐ 病気、害虫から守る強光から守る

水や汚れを弾く虫媒を助ける

生理機能

潤滑剤化粧品燃料塗装食品・医薬品のコーティング離型剤など

産業利用サトウキビ

カルナバヤシ

キャンデリラ

米ぬか種子作物

Wikipedia

従来技術とその問題点

合成経路の研究が難しく、解明されていない為、クチクラの改良はなされていない

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新技術の特徴

組織特異的なクチクラ

花弁

種子

細胞の形づくりの遺伝子

MYB16

クチン・ワックス合成系遺伝子

遺伝子発現の活性化

WIN1/SHN1

転写制御因子を増やす

円錐形に細胞伸長

MYB106

クチクラの縞模様ができる

Oshima et al. Plant Cell, 2013

クチクラ形成のマスターレギュレーターを同定

新技術では、クチクラ形成を制御する転写因子により花、葉などのクチクラを改変、増強することができる。

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DR2975

Col-0

Col-0

10um

Bar=500um

200um?

Bar=0.5cm Bar=10 um Bar=10 um

MYB106-VP16

MYB16-VP16

LMI2-VP16

野生型

葉 花弁

CYP77A6Promoter TF THSP HPTVP16

CYP86A4Promoter TF THSP HPTVP16

MYB106-VP16

MYB16-VP16

LMI2-VP16

野生型

花弁タイプ

葉タイプ

ツルツルタイプ

ツルツル=透明感

ツヤ

ナノリッジ増加細胞伸長=ベルベット発色

http://ribesribes.blogspot.jp/2012/11/rosa-tra-le-rose.html

ベルベット発色の花の例:バラ

MYB転写因子により多様なタイプのクチクラ形成を制御可能

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• 乾燥、強光などの環境ストレス耐性付与

• 病気、害虫耐性付与

• 有用ワックスの増産

• 花の風合いの改良

• 光、水分透過性改変

• 野菜、果物の表皮改良

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農業の効率化

気候変動への適応・耕作不適地での栽培

脂質性有用物質の生産

想定される用途

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実用化に向けた課題• 現在、シロイヌナズナにおいて実証済み。実用植物では未検証。

• 細胞伸長阻害を抑えてクチクラ高蓄積を誘導するためのバランスやタイミングの検討

企業への期待• ここに挙げた用途以外も想定していますので、疎水性物質について広くご相談ください。

本技術に関する知的財産権Oshima et al. 2013 Plant Cell 25:1609-1624Oshima et al. 2013 Plant Signal. Behav. 8, e26826Oshima et al. 2016 Plant Biotechnol. 33:161-168 17

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お問い合わせ先

産業技術総合研究所

イノベーションコーディネータ 新間 陽一

TEL 029-862 - 6032

FAX 029-862 - 6048

e-mail [email protected]