専門家業務完了報告書 - JICA · 1 専門家業務完了報告書 (2008 年3 月26...

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1 専門家業務完了報告書 2008 3 26 日~2009 3 25 日の任期分) 1. 専門家氏名:栗原 敏昭 2. プロジェクト名:エルサルバドル東部地域零細農民プロジェクト 3. 指導科目:業務調整員/農家経営改善 4. 派遣期間:2008 3 26 日~2009 3 25 (延長決定後 ~2010 3 25 日) 5. 本邦所属先:独立行政法人国際協力機構 国際協力人材部援助人材育成課

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専門家業務完了報告書 (2008年 3月 26日~2009年 3月 25日の任期分)

1. 専門家氏名:栗原 敏昭 2. プロジェクト名:エルサルバドル東部地域零細農民プロジェクト 3. 指導科目:業務調整員/農家経営改善 4. 派遣期間:2008年 3月 26日~2009年 3月 25日

(延長決定後 ~2010年 3月 25日) 5. 本邦所属先:独立行政法人国際協力機構 国際協力人材部援助人材育成課

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6. 専門家活動内容と成果達成状況 6.1 活動内容 6.1.1 プロジェクト調整業務活動 【プロジェクト基盤整備】

赴任直後、実施機関である CENTA(国立農林牧普及センター)東部地域局長(プロジェクトサブマネージャー)と本部総務部長、財政課長と、政府合意文書(R/D 等)の内容を確認しながらプロジェクトにおける表 1のとおり実施体制の整備を行った。

表 1 プロジェクト基盤整備内容

プロジェクト実施

方針の確認と周知

・R/Dに基づく責任分担、プロジェクトフレームワークの確認 ・エルサルバドル側オーナーシップの確認と JICAや日本人専門家の協力機能としての位置づけの確認 ・各普及員 C/P、CENTA東部地域内の普及所長を含む各普及所員等全スタッフへのプロジェクト説明会の実施 ・プロジェクト関連の費用分担の明確化(R/Dの遵守)

C/P 及び管理要因の配置

・アサインされている 7名の普及員 C/Pとの面談、履歴書の回収 ・プロジェクト専属 C/P2名の配置 ・プロジェクト専属秘書の面接と配置(CENTA人事部長と相談) ・プロジェクト運転手 2名の配置(CENTA傭上)

プロジェクト関連

施設 ・プロジェクト事務所の建設(CENTA費用負担) ・会議室の建設(CENTA費用負担) ・トイレの建設(CENTA費用負担) ・プロジェクト事務所、会議室への情報機器・備品の調達(在外事業強化費)

プロジェクト規定 ・JICA・CENTA両規定を基にしたプロジェクト内規(西文・和文)を作成 ・エルサルバドル人の日当/宿泊費等の各種申請書フォーマットを作成 ・C/P、管理スタッフを対象にプロジェクト規定の説明会を実施

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【実施機関と東部地域普及所の現状把握】 CENTAのウェブサイトや文献閲覧に加え、本部ラボ・東部地域事務所・農牧省の訪問において意見交換を行い、当国農業普及体制や組織体系、人材・キーマン把握、既存資料の収集を行った。

また、CENTA東部地域の 7普及所を訪問し普及所全スタッフと SWOT分析を行い、普及現場の実態把握を C/Pと共有した。 【プロジェクト広報】

(1) マスメディアにおける広報活動: ・サンミゲル市の地元テレビ 2社、首都の全国ラジオ 1社の取材に出演

(2) プロジェクト紹介ツールの作成: ・3つ折パンフレットを 500部作成し関係者に配布 ・イベント用のプロジェクトロゴ入りテント 3台、プロジェクトバナー等を制作

(3) プロジェクト開始式展の実施: ・2008年 7月 30日に CENTA東部事務所にてプロジェクト開始式典を開催し、農牧大臣・在エ国日本大使・JICA 所長・CENTA ボードメンバー・東部地域行政機関幹部・地元マスコミ・農家等およそ 200名を招待したキックオフ式典を行いプロジェクト広報を行った。 ・プロジェクトイメージとなる野菜生産者の直売会も同時に開催した。

【関係者間調整(促進業務)】

(1) 関係機関訪問(東部 4 県知事訪問、6 市長訪問、NGO、農牧省傘下の 3 か所の農業ビジネスセンター、地域行政機関)を訪問し情報収集とプロジェクト説明や協力要請を実施。

(2) 農牧省次官(プロジェクトディレクター)、CENTA局長(プロジェクトマネージャー)、JICA関係者、日本大使館関係者など、関係者との面談調整およびプロジェクトへの訪問調整を適

宜実施。 (3) 合同調整委員会(JCC)を企画・開催(2008年 10月)。 (4) JICA本部千頭国際協力専門員等による運営指導の受入調整を実施(2008年 11月)。 (5) 第三国メキシコ人専門家の東部地域受入調整を実施(2008年 11月)

【チーフアドバイザーのプロジェクト運営管理の補佐業務】

(1) PDM 変更案、プロジェクト戦略ペーパー、年間詳細活動計画案の作成業務においてチーフアドバイザー(松田明専門家)を補佐し、JCC等実施機関との協議を実施した。

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(2) 各種報告書(出張報告書、研修報告書、月例報告書、業務進捗報告書)のドラフトを適宜作成し、チーフアドバイザーを補佐した。

(3) 年間計画(研修計画、機材供与計画、在外事業強化費執行計画)の進捗状況の管理や次年度計画の協議を行い、チーフアドバイザーを補佐した。

(4) 各普及所における「モデルプロジェクト1」と「展示圃場プログラム2」の実施要綱の作成を

支援し、普及所長と普及員 C/Pを対象とした実施説明会を開催した。 (5) CENTA本部における普及員国内研修「野菜生産普及技術コース」の実施運営補佐、ロジスティクス業務を行った(2008年 10月)。

【第三国研修の企画・実施】

コスタリカにおける 2週間の C/P研修「小農のための有機農業普及コース」をチーフアドバイザー及び CENTA東部局長と企画し、主に下記業務を実施した。 ・研修コース内容の検討と実施要綱の作成 ・JICA事務所(エルサルバドル・コスタリカ)や受入機関(CEDECO)との連絡・調整 ・各研修員への説明会の実施と日当・宿泊費の支払・精算 ・受入機関と JICAコスタリカ事務所間で締結される英文契約書の作成 ・ロジスティクス業務全般(宿泊手配、航空券・旅行保険手配、公金管理) ・現地でのコース運営監理 ・JICAコスタリカ事務所・CR外務省表敬訪問 ・帰国後の研修員活動のフォローアップ(報告会開催、報告書回収等) ・研修報告書の作成と帰国報告会の実施(於 JICAエルサルバドル事務所) ・次年度の第三国研修の検討

【機材調達・管理と公金管理】 年間を通じ、一般臨時会計役として公金管理、物品検収と管理、事務・会計・庶務を取りまとめ

その計画的な執行を図り、適切な時期(四半期毎)に JICAエルサルバドル事務所に報告を行った。

1 当プロジェクトで行う「モデルプロジェクト」とは、各普及所管轄の 6戸以上の野菜農家グループを選抜し自立した反復普及モデル作りを目指す「組織化→生産→販売」の一貫した活動。将来これらのモデルを活用し東部地域全域へ「農民から農民へ」

の普及ステージへつなぐ。 2 当プロジェクトで行う「展示圃場プログラム」とは、CENTA普及員の野菜栽培における実地研修、新規生産技術の実証、近隣農家への技術紹介を目的としたプログラムであり、必要資器材をプロジェクトから提供する代わりに各普及所管轄の先進農家

(1戸)から実験圃場と管理人員の提供という協力を得て実施する活動。

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6.1.2 農家経営改善専門家活動 PDM内成果 2を達成すべく、活動項目 2の内容に沿い、零細農家の経営改善・販売拡大・組織化促進のための支援業務を表 2のとおり実施した。

表 2 PDM活動項目 2に沿った活動内容

PDM活動項目 専門家活動内容 【PDM活動 2-1】 東部地域における

農家経営・生産者

組織および野菜流

通の現状を調査・

分析する

(1) 東部地域の野菜流通・農民組織化の現況調査 ・CENTA東部地域局長、普及員 C/Pとともに、 - 東部地域における農家(約 30戸)、 - 既存の農家団体(10団体)、 - 支援機関(農業ビジネスセンターやNGO、地方行政機関など)、 を訪問し東部地域の流通・経営・組織活動の現状把握のためのインタビュー

調査を行った。 ・下記マーケットを視察訪問し、農産物流通状況の調査を実施

- サンミゲル県・モラサン県・ラウニオン県・ウスルタン県の各主要

ローカルマーケット - 首都サンサルバドルの中央卸売市場 - 農牧省管轄の生産者朝市 - サンミゲル市の生産者団体の運営する朝市

・CENTA においてプロジェクト開始前の先行調査(PDM 上の前提条件)

が着任前に行われていたため、調査結果の分析検討会を各普及所長、C/Pと実施した。

【PDM活動 2-2】 各種農家経営改善

手段(組織化を通

じた資材の共同購

入・生産物の共同

集出荷、金融への

アクセス、付加価

値の創出等)を普

及員、零細農民お

よび支援機関に紹

介する

(2) C/P研修プログラムの企画・実施 下記のとおり C/Pや関係機関担当者を対象とした流通・組織化支援研修を実施した。 (2)-1 国内研修(農産物流通研修「ファーマーズ・マーケット設立運営

支援コース」) 2008年 8~9月の間、上記研修プログラムを企画・実施した。対象者(計

13 名)は主に普及員 C/P であるが、外部の農業ビジネスセンターや NGOなど 4名の参加も受け入れた。 研修実施ステップは以下のとおり。 ① 研修生による自己学習(文献学習、地域事例研究と発表、モデルプロジ

ェクト候補農家群の経営実態調査)

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② 優良事例の視察(サンミゲル生産者朝市、農牧省運営の生産者朝市の訪

問と参加農家との意見交換) ③ 農牧省やエルサルバドル人専門家によるセミナーと、各モデルプロジェ

クトにおける販売支援プランの作成ワークショップ(都内ホテルでの 3日間の集中研修) ※本専門家も「日本の生産者共同直売の事例と仕組み」についての紹介 セミナーを実施。

④ 東部地域 4県の各ローカルマーケットにおける農牧省市場調査員の調査見学

(2)-2 国外研修(第三国における「小農のための有機農業普及コース」)

2009年 1月 20~31日の間、CENTAより本部技術普及局長・東部局長・普及員 C/P 8名・研修ユニット担当者 2名に加え、農牧省マーケット支援課担当者 2名の合計 14名を対象とした同コースの研修をコスタリカ共和国にて実施した。 生産技術に関する研修に加え、有機農産物朝市やローカルマーケット・共

同集配センター視察、流通/農民組織化支援講座、認証制度に係るワークシ

ョップなどを実施した。全研修参加者が全日程を消化して修了。 【PDM活動 2-3】 経営改善策の実施

を促進すべく、既

存の生産者団体等

の組織化の手法を

整理する

(3) 農民組織化に関わる手法の整理と普及資料の作成 ・東部地域の既存の農家団体を訪問(サンミゲルHORTIZAR、モラサン

ACOPANOC、ウスルタン A.P.A.T de R.L.等)し、組織機能のヒアリング や組織資料を収集し内容を分析

・収集した資料の分析に専門家知見を加え、農家組織化に必要なコンポーネ ント(規則・理事会・基金/会計等)を洗い出し、CENTA普及員が推進 可能な手法を整理

・上記組織化手法に関する資料・フォーマットの作成(会計帳簿、会計プラ クティス資料、組合内規フォーマット、フォーマット記入例等) ・FAOが作成した組織化啓蒙教材(Jalemos Parejos)を使った農民向け ワークショップの普及員勉強会の実施

【PDM活動 2-4】 野菜生産者団体お

よび現地関係機関

とともに、有望な

(4) 農牧省関係者との関係強化 ・農牧省関係機関で情報収集を行い、流通・組織化支援協力のために農業ビ

ジネス総局へ、情報提供システム改善のために農業経済統計総局へプロジェ

クトとの協力要請を行い合意形成を図った。

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経営改善手段を実

証する (5) 各普及所におけるモデルプロジェクトの実施支援 ・モデルプロジェクト実施準備 プロジェクト運営チーム内でモデルプロジェクト実施要綱を作成し、各普及

員 C/P と普及所長を対象にして説明会を実施した。その後、7 名の普及員C/Pの各モデルプロジェクト計画書作成を支援し、C/Pとともに事前調査と検討会を行い 7つのモデル農家グループを選定した。2009年 1月に各普及所にて、各農民グループとのモデルプロジェクトの規則と責任分担を定めた

内容を合意し覚書を署名した。 ・モデルプロジェクト実施支援(経営改善コンポーネントの支援) 最初の活動コンポーネントであり、農家経営改善策としての「農民組織化

(協働活動)」支援活動を展開した。 プロジェクト内で活用する生産者組合内規フォーマットと簡易会計帳簿

を開発し、C/Pと普及所長を対象とした「生産者組合内規作成支援説明会」と「会計実習ワークショップ」を実施した。その後、7普及員がファシリテーターとなりそれぞれの農家グループで組織化啓蒙ワークショップ(FAOの教材を活用)を行い、農民グループ側の決定による、①組合理事会選出→

②組合内規の合意形成→③組合費の回収と共同基金(ファンド)設立と会計

帳簿作成、を支援した。さらに、このファンドを活用した農業資材等の共同

購入を推進した。 ・ウスルタン県のファーマーズ・マーケット(農家直売市場)の設立支援 モデルプロジェクト農家を中心とした、「ウスルタン生産者販売組合」の

結成を支援し、ウスルタン市内で農産物直売朝市の立上げ準備を支援した。

本専門家は同プログラムの実施中、参加農家と普及員 C/Pを対象に「組織化・会計ワークショップ」「ファーマーズ・マーケット運営セミナー」「農業

マーケティングセミナー」を日本やコスタリカの事例などを交えて実施した

(各回 40~50名ほどの農家が参加)。 【PDM活動 2-7】 経営改善策実施の

際に零細農民が必

要とする情報を定

期的に収集し、ま

た、零細農民に理

解しやすい形で広

く率的に提供する

体制を確立する

(6) エ国や東部地域の農産物市場価格・農業資材価格情報の提供システムの把握

・農牧省経済統計総局の発表する流通・資材価格情報の仕組みを調査 ・農牧省経済統計総局から価格情報を適宜入手し、グラフ化 ・CENTAの運営する情報普及センター(Centros de Divulgación)の機能 把握(東部地域には 2か所) ・農牧省の実施する東部 4県のローカル市場調査員との市場調査を実施

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6.2 達成状況 6.2.1 プロジェクト運営・調整業務の成果 【プロジェクト実施体制】 ・相手国機関の R/D項目の遵守とオーナーシップ CENTAのプロジェクト運営への積極姿勢や本部幹部のバックアップ、普及員たちの個々の活動に取組む熱意などから、これまでは組織的に十分なオーナーシップを発揮していると評価できる。

CENTAは、R/D条項で取り決められた責任範囲の大半を順守しており協力関係は大変良好である。 CENTAは、プロジェクトの事務所・会議室等施設の建設費用、運営補助スタッフ(秘書、運転手、管理スタッフ、警備員等)の傭人費、プロジェクト車両の燃料費、事務所の固定費など(水

道・光熱・通信費等)を負担したため、組織的な財政持続性(Financial Sustainability)を評価でき、プロジェクト終了後においても同じ体制で業務が進められることが期待できる。 ・東部局長を中心とするプロジェクトチーム人員の配置が完了 本専門家着任当時、直接の技術移転対象となる C/P においても PDM 前提条件どおり CENTA東部事務所において、東部局長(プロジェクトサブマネージャー)と他 7名の普及員 C/Pが配置されていた。その後、能力・適性を勘案し普及員 C/Pの入替えや増員を東部局長と検討し、現在 7普及所員の C/Pと 2名のプロジェクト専属 C/Pという人員構成となった。また CENTA本部の配慮により、東部局長補佐が東部事務局に 1 名配置され、より東部局長がプロジェクトに従事できるようになり、実質 10名の C/Pと協働する体制となった。また、CENTA予算により、1名のプロジェクト専属秘書が新規に雇用され、2名の運転手、24時間体制の民間警備員が配置された。

C/Pのキーマンである東部局長(アンヘル・ガルシア氏)のプロジェクトに対する熱意と行動力、そして普及員に対するリーダーシップが実施体制に大きく影響しており、プロジェクト目標達成

のために 4年間同氏の存在は不可欠といえる。同氏は 2006年の事前調査時より問題分析、プロジェクト計画策定に関わっていることもあり、プロジェクト運営の主体性の高さに影響している。

また前述のとおり東部局長補佐の配置によりキーパーソンである東部局長がプロジェクトに大き

く関われる体制となったこともプロジェクトに対する CENTA側の期待が大きいことが窺える。 各普及所で現地活動を行う普及員 C/P においても比較的若手で東部地域での精鋭が選抜されておりプロジェクト活動への参加意欲も高い。もちろん経験・能力に差があるのは否めないが、全

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員が学ぶ意欲が高い良い人材がそろっている。特に 10 人中 5 人が JICA 本邦研修経験者であり、日本の協力に関して非常に理解がある。初年度の活動において、合同の集中研修などを経て各個

人の知識のみならずチームの結束力も高まったと評価でき、彼らをコアとした普及所間の更なる

連携機会も増えた。 【実施機関 CENTAの農業普及機能の現況の分析】

CENTAは、農牧省の一下部機関であるが、他の部局などと違い一定の独立性を有する機関であるため予算配分や事業内容、人員配置においてある程度の自由度が認められている。

CENTA内の技術普及局に属する 4つの地域事務所中、プロジェクトは東部地域事務局(7普及所を管轄)を対象に協力活動を行っている。各普及所で SWOT分析、関係者とのインタビュー調査、文献調査の成果として、CENTAの普及機能の現況・課題として下記のポイントを整理した。

(1) 各普及所の組織的ダイナミズムが欠如 各普及所共通の強みとしては、普及員の定着率が高いことや地元の関係機関(行政や NGO)や農民との関係が良好であることがうかがえる。他方、担当エリアをカバーするだけの人員や物資(農

業資材やプレゼンテーションのための機材など)が不足しているだけでなく、ここ 10数年昇給がないなど仕事に対するモチベーションが低下している古株普及員も散見される。さらに、全体的

に普及員が高齢(50 歳以上が多い)である、優れたマネジメント能力を持つ中堅が少ない、各スタッフの仕事に関する緊張感の希薄さからお互いが慣れ合いになっている、など現場の組織的ダ

イナミズムに欠ける感がある。

(2) 「農家から農家へ」の普及システムが機能していない CENTAは、一人の普及員が 15戸のリーダー農家を直接指導し、その農家が近隣の 5戸に普及させ(間接指導)普及所長が監督する普及システムを採用しており、一人当たり合計 90 戸(15+15×5)が普及責任範囲となっている。各普及所には 3~7名程度の普及員が配置されているが、90 戸きちんと普及できるよう取組んでいる普及員は少なく、評価と改善指導をしっかり行っている普及所長も少ない。システムが悪いのかスタッフの資質によるものか様々な要因が考えられる

が、限られた人員でより多くの農家に普及サービスを行うにはプロジェクトでこの普及体制を効

率的に機能させることが重要である(特に「農家→農家」への普及機能や「農家グループ化」)。 CENTA の普及栽培技術については一定のノウハウが蓄積されているものの、農家の経営改善、販売促進、組織化支援において経験を有する人員は少なく、過去の経験も体系的なノウハウとな

っておらず本プロジェクトにおける流通・組織化を含む経営改善の支援に対する期待は大きい。

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(3) 普及所、普及員の増強計画から人材育成が課題 2009年 2月に CENTAは東部地域で閉鎖されていた 3普及所(サンミゲル県 Sesori、モラサン県 Osicara、ラ・ウニオン県 Nueva Esparda)をオープンし普及員も新規に 7名が増員された。今後、研修や現 CPとの協働(OJT等)などプロジェクト活動に適宜取り込んでいくことが期待されている。CENTA全体でも今年度中に 100名の普及員の増員が見込まれているとのこと。特に実践的で体系的な内部研修システムもないため、新人普及員の能力強化も課題となっている。

【2008年度プロジェクト予算の執行と供与機材の管理】 (1) 在外事業強化費の執行:合計US71,058ドルを執行 ・執行割合内訳は、物品購入費 83%、旅費・交通費 7%、会議費 4%、その他 6% ・主に展示圃場及びモデルプロジェクト実施に必要な農業資材等の購入、プロジェクト事務所

整備関連の機材購入を中心に活用した。 ・四半期毎に概算払受払報告書・物品管理簿・次四半期予算申請を JICA エルサルバドル事務所に提出し承認を受けた。

(2) 第三国研修費の執行:US48,521ドルを執行 ・主に旅費・講師謝金・研修資材購入等に充てた。 ・概算払申請書、概算払受払報告書の提出を行い、エルサルバドル事務所より承認を受けた。

(3) 供与機材の検収(JICAエルサルバドル事務所の調達支援による) ・車両 2台、マイクロバス 1台、コピー機・パソコン等情報機器、バイク 7台等の検収をした。

(4) 物品管理 ・2万円以上の物品購入(消耗品は除く)に関しては物品管理簿を作成し、JICAエルサルバドル事務所に適宜提出した。

・全ての供与資機材において動作確認等検収を行い、必要に応じて JICA ステッカーの添付、管理簿(西語・日語)への登録を行い、普及所へ供与するものにおいては所長・普及員の受

領書を適宜取り付けた。

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6.2.2 農家経営改善業務の成果 プロジェクトの PDM で設定された下記目標と専門家の指導科目に関する成果の達成に向けた

活動成果をここに報告する。 ・上位目標:東部地域において零細農民の野菜栽培による収入が増加する

・プロジェクト目標:東部地域における零細農民の野菜栽培への支援体制が強化される

・成果 2:東部地域の零細農民及び野菜生産者団体に経営改善手段を指導する体制が構築される

【東部地域の農産物流通・農民組織化状況の調査分析】(PDM活動 2-1の成果)

CENTA独自で実施した先行調査の分析結果、各マーケット視察、文献等により、東部地域の野菜流通・農民組織化の現況は、主に表 3のとおり C/Pと分析した。

表 3 東部地域野菜の流通・農家組織現況

グァテマラ、ホンジュラスなど近隣諸国から安価な野菜が大量に入荷されており、ローカル

マーケットにおける国内農家の販路を阻害している 東部地域零細農民の多くは、厳しい自然条件下の栽培不利地における低い生産性と品種の少

なさ、経営の不慣れ、などから輸入品に対する競争力に乏しく販売価格の変動に脆弱である 農業資材、種苗においても輸入品に頼らざるを得ず、資材の選択や価格の変動に脆弱であり、

高い生産コストが経営を圧迫している 既存の農民団体は運営管理が機能しておらず持続性に乏しい、またはグループ協働の経験が

ない農家が多い、などから農家は組織のメリットを利用した経営効率が図れていない 多くの農家が農業情報にアクセスできておらず経営的オプションが少ない 文盲や計算力の弱い農家も多く、経営の記録などを残している農家は少ない 零細農民が利用可能な融資制度へのアクセスが乏しい

かかる状況下において、東部地域の零細農民の持続的な所得向上に寄与すべく、経営改善面にお

いて表 4の項目をプロジェクトの活動で推進するよう整理した。

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表 4 プロジェクトで推進する農家経営改善策 ・組織化の啓蒙、農民の持続的な組合形成と運営支援 (モデルプロジェクトでは組織化を必須コンポーネントとする) ・共同資材購入によるコストダウン(共同基金を形成) ・共同販売・共同集出荷による競争力強化 ・定期市など生産者直売方式による輸入品との競合を回避(新しい販路の創設) ・有機野菜や地域ブランド・加工など付加価値をつけた販売戦略と消費者への啓蒙 ・CENTA農業情報提供システム(流通と資材価格、技術情報)の改善 ・東部地域にある NGO等の小規模融資制度の紹介 上記改善策を実施すべく、プロジェクト内での研修、農家から農家への学習(視察など)、モデル

プロジェクトを通じた OJT、農民が利用しやすい教材の開発(定期市設立、組織化、会計他)等に 2年次以降取組む。 【普及員キャパシティビルディング(農家経営改善分野)の成果】(PDM活動 2-2の成果)

流通・組織化分野の研修は、文献資料(JICA筑波資料等)の自己学習、理論セミナー、事例調査・発表、マーケット優良事例視察、直売農家・団体との意見交換、プランニングワークショッ

プ、他国(日本やコスタリカなど)の事例分析、など多岐に渡っておりモデルプロジェクトの実

施前に実施された。テーマに関しては、直売、共同販売、組合形成、会計、マーケット情報、農

牧省の支援経験、有機作物認証制度、マーケティング、プロモーション、流通チェーンなどを扱

い、研修前・研修後アンケート結果から普及員のニーズに合致したテーマの研修を提供できた。 下記の 2 つの研修を国内・外にて実施し、C/P の積極的な参加から、ひととおり普及活動に必要な理論的知識の習得はほぼ達成されたといえる。今後、研修で得た知識をモデルプロジェクト

内の OJTで活用し、更なる普及員の能力向上を図る。

(1) 国内流通研修の成果(研修内容は前述 6.1.2 ②のとおり) 研修前に研修参加の具体的目標(実践的な知識の向上など)を作らせ、参加者(プロジェクト

C/P や農業ビジネスセンター職員)に研修後のアンケートで各自の達成度を測った結果、参加者14 名中 13 人は目標を達成できたと答え、ほとんどの各研修項目において「講義に満足」、「業務への適応ができる」との回答を得たため一定の知識向上につながったものと思われる。特に、サ

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ンミゲルや農牧省運営マーケット視察、モデルプロジェクトにおける流通支援アクションプラン

策定、直売農家との意見交換、など現場や実践に近いリアリティのある研修は、各参加者にとっ

てより普及活動の具体的なイメージとなったようで評価も高く、参加の積極性も伺えたため農業

普及員の知識向上に寄与したものと思料する。 研修の具体的成果物として、「講義資料集」と各参加者の作成した「地域直売事例集」が当面普

及活動の補助教材となる。講義データを全て収録した CD-R を付属し、併せて各普及所にも 1 セットずつ配布した。

(2) 国外流通研修の成果(研修内容は前述 6.1.2 ②を参照)

国外研修はコスタリカ共和国にて実施され、C/Pを中心とした 14名の研修員の積極的な参加を得た。ここで研修員は、一般的な座学の後、有機農産物の生産者朝市や巨大な生産者朝市を視察

調査し、マーケット運営の仕組み、出展農家の経営能力、生産者団体の組織化・規定、価格の決

定の仕方、宣伝・マーケティングなどを学んだ。特に有機作物朝市は零細農民の共同販売の優良

事例であり、まさにプロジェクトが取組もうとしている良いお手本として見せることができた。

また、エルサルバドルではまだ未整備である有機青果物の認証制度において、コスタリカにおけ

る参加型認証制度をワークショップ形式で体得できたことや、他の第三者認証機関による認証シ

ステムの紹介などの知識を得たこと等に成果を得た。 研修中に収集した資料としては、講義データ、消費者向けの有機農産物普及資料、認証制度教

材、農家組合資料などであり、今後の普及補助資料として活用が可能となった。 研修帰国後において、各普及員はそれぞれの普及所内で、所長・他の普及員・モデルプロジェ

クト農家などを招待して帰国報告及び有機農業手法(生産・流通)のプレゼンテーションを実施

し広くその成果を紹介し、有機農業に関して関係者の大きな興味を引いた。また中堅幹部の 3 名の参加者は研修成果と具体的な有機農業普及のアクションプランを CENTAの全地域事務局長(3名)、東部地域外の普及所長約 50名に紹介し、活発な議論が行われた。 本研修は、モデルプロジェクト実施直前に行ったことから、C/Pのモチベーションを高め、帰国後学んだことをすぐに自分のプロジェクト内で実践する(有機資材制作など)普及員もいたり、

ウスルタンでのファーマーズ・マーケット設立支援にも役立てていたりし早速インパクトが認め

られた。実践直前という時宜を得た海外研修機会であり、今後も更なる成果が期待できる。 【農牧省関係機関との連携の実現】(PDM活動 2-4の成果)

農牧省とプロジェクトとの連携の可能性を議論した結果、農業ビジネス総局(Dirección General

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de Agronegocio: 以下 DEA)局長と農業経済統計総局(Dirección General de Economía Agropecuaria:以下 DGEA)局長からプロジェクトとの連携を図ることに承諾を得た。

2008年 10月に実施された JCC(合同調整委員会)では、両機関が正式にプロジェクトの協力機関として連携することが合意され、農牧次官と JICA事務所長署名のM/M(会議議事録)に記載された。

DEAにおいては、「市場アクセス支援課(División de Acceso a Mercados)」が、生産者の市場支援、農産物の付加価値創造、農民の組織化促進などに経験とノウハウの蓄積をもつ。2008 年 9月に実施した C/Pを対象とした国内流通支援研修では、同課の課長の参画により、DEA局内専門スタッフの研修講師の派遣、さらに FAOや国内コンサルタント等外部講師の調整や優良事例農家の推薦が行われた。 また、2009年 1月実施の第三国研修には農牧省の有機農産物流通の推進者として同課長を含む

2名の参加者を得て協力関係が強化された。CENTAは同分野活動を不得手としており、農業ビジネス関係の研修プログラムへの参画や教材作成等の協力を得られるため、プロジェクトを通じた

連携の効果は大きいと思料できる。(さらに、DEAは、在エ国日本大使館が支援する 2KR積立資金により実施される「東部地域小規模灌漑設置プロジェクト(2009 年より開始)」の実施機関にもなっており、本プロジェクトとの連携の可能性も大。)

DEAは IDB(米州開発銀行)と共同で作った全国 13か所(東部は 3か所)ある農業ビジネスセンター(Centros de Agronegocio)の業務委託取り纏め部署でもあり、これらのセンターは DEAの地方出先機関として位置づけられている。東部地域において、サンミゲル県は生産者団体

「HORTISAL」、モラサン県は NGO「FUNDESA」、ウスルタン県は CENTAにそれぞれ業務委託されており、これらは地域農民の農業ビジネス指導や経営情報提供などの支援サービスを無償

で行っている。プロジェクトも各センターと相互のイベントに参加し合うなど情報交換を行い実

務的な連携をすでに実施しており、例えば、ウスルタン県のファーマーズ・マーケット支援プロ

グラムでの企画・運営段階での協働を図っている。これらの農業ビジネスセンターは CENTA 普及所と近い位置関係にありまたお互いの業務の補完を推進するため更なる連携が有効である。

DGEA との連携については、市場調査課長との連絡を適宜とっており、毎週更新されている首都とローカルマーケットの野菜卸売価格情報や資材価格情報などを入手している。プロジェクト

の 2年次以降に計画している、CENTA普及所直営の「情報普及センター(Centro de Divulgación)」の機能強化を図る際に DGEAの統計情報を活用するなど連携することとなった。 また、DGEAの市場調査員の調査に普及員 C/Pが随行し、東部 4県の各主要ローカル市場や農業資材店舗の情報収集や調査手法の習得が図れた。

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【組織化手法の整理と普及資料を開発】(PDM活動 2-3の成果) 東部地域農家団体の調査において、下記団体の訪問調査を行った。そのうちサンミゲル県サン

ミゲル市のHORTIZAR、モラサン県オシカラ市の ACOPANOC、ウスルタン県サンタエレーナ市の A.P.A.T. de R.L.から組織化にかかる内部文書(写し)を入手した。ほとんどの団体は行政や弁護士から承認を受けて正式なものになっているが、文書の内容がかなり複雑であり全組合員がそ

れを全て把握しているとは思えない内容であった。このため、プロジェクトでは独自に農家自身

が決定しやすくまたわかりやすい組織化文書を推進するために、入手した団体の資料を基に専門

家知見を踏まえ、農家組織化の必要項目として、①組織の目的と活動内容の設定(会員のメリッ

トと協働内容を共有)、②組合費の徴収と共同基金の設立、③理事会メンバーの選出、④会計帳簿・

会議録の活用、の 4 項目とプロジェクト運営チーム内でと整理した。これにより開発した普及資料は以下のとおり。 ・農民組合内規フォーマット ・組合員名簿フォーマット ・簡易会計帳簿(年間帳簿、月間帳簿、組合費記録簿、レシート保存簿を一緒にしたもの) ・簡易会計実習シート これらのフォーマット類と記入例を用いて、全 C/P と普及所長を対象としたワークショップを開催し、活用法とファシリテーション手法についての研修を行い、C/Pに農民組織化過程の具体的な知識を習得させた。 (なお、当プロジェクトで推進している組織化手法は、あくまでインフォーマルであるため、

今後農牧省農業組合推進課との連携を図り、フォーマルな組織化(法人化)手法のメリットなど

を整理し融合を図る必要がある。農民にとってどの組織形態が最もメリットのあるものなのか紹

介できるよう CENTAが様々なオプションを保持しておく必要があると考える。) 【モデルプロジェクト活動の成果】(PDM活動 2-3、2-4の成果) モデルプロジェクト活動においては、各普及員 C/Pが作成した申請書を基に、東部地域 7つの普及所においてそれぞれの選抜された農家グループとの覚書署名が完了し、2009年 2月末までに7つの生産者組合が設立された。 モデルプロジェクトにおける、最初の活動コンポーネントである組織化過程において、前述の

プロジェクト作成の組織化フォーマットを活用した、①組合内規の作成、②共同基金(ファンド)

の設立、③理事会の選出、が普及員 C/P のファシリテーションによる参加農家側の決定において行われた。次ページ表 5は、プロジェクト支援で設立された農家組合の概要である。

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表 5 モデルプロジェクトで設立支援された農家組合の概要(2009年 3月末日時点) CENTA 担当普及所 農家組合名 県・村名 設立

年月日 共同基金

計(US$) 組合人数 (内女性)

理事人数

(内女性)

サン・ミゲル Asociación de Productores de

Hortalizas Orgánicas, Los Venados. Caserío La Ceiba, Cantón El Havillal,

San Miguel (APRHOVE)

サンミゲル県

Havillal村

09.2.16 55.00 5※ (0)

8 (2)

ヌエバ・ グァダルーペ

Asociación para el Desarrollo Local de los Agricultores de Nueva Guadalupe

(ASODLA)

サンミゲル県

San Isidro地区

09.2.27 56.00 8 (1)

5 (0)

ウスルタン Asociación de Productores de

Hortalizas Semi-Organica, en el Cerrìto , la peña y el Ojuste Usulután

(APHSOU)

ウスルタン県

Cerrito村 09.3.1 50.00 25 (4)

7 (0)

ヒキリスコ Asociación Comunal para la

Producción Orgánica y Comercialización de Hortalizas

(ACOPOCH)

ウスルタン県 Cabos

Negros村 08.8.11 411.44 23

(0) 7

(0)

サンタエレーナ

Asociación Cooperativa de Comercialización, Aprovisionamiento,

Ahorro y Crédito de Productores Agropecuarios de Santa Elena

(ACAPACSE EL TOROGOZ de R.L.)

ウスルタン県 Plan

Grande村 08.12.23 133.00 13

(2) 7

(0)

サンフランシス

コ・ゴテラ Asociación Productiva Familiar de San

Lucas

モラサン県 San Lucas村

09.2.24 35.00 7 (2)

7 (2)

ラ・カニャダ Asociación de Regantes Nueva España ラ・ウニオン県

Llano Los Patos村

09.1.5 156.00 13 (2)

7 (0)

※サンミゲル地区組合は 5戸で 11名(内 3名女性)が組合員として登録

組合員の総数は基本的に家族を含めない(1人=1戸)が、例外としてサンフランシスコ・ゴテラ普及所地区の農家組合のみ、経験年数を考慮し同族内(4家族ほどが独立している)の組合形成を認めた。家族経営体の仕組みで普及モデルを形成するひとつのオプションとなることが期待で

きる。 また、共同基金の運用では、サンミゲル、ヒキリスコ、サンタエレーナ普及所地区のモデルプ

ロジェクトにおいて、活動に必要な農業資材の共同購入、帳簿への記録等の実績が確認され、経

営改善のモデルとして最初の効果が発言している。組合基金の積上げや記帳等の管理能力の強化、

効果的な運用は、組織の持続性や普及への反復モデル構築に向けて大変重要である。このため、

各普及員が毎月基金の動向をモニターする仕組みを立ち上げた。 【ウスルタン県におけるファーマーズ・マーケット企画立案と立上支援】(PDM2-4の成果)

ウスルタン県の 3普及所の普及員 C/Pとウスルタン農業ビジネスセンターによる発案から、ウスルタン市セントロ(中心街)におけるファーマーズ・マーケット(農家直売市場)の立上げを

支援した。

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プロジェクト側より半年間(2008年 12月 11日~2009年 6月 10日)の設立・運営支援プログラムを作成し、ウスルタン県 3 普及所の管轄農家を対象に説明会を開催し、この結果参加希望農家(野菜に限らない)43 戸により「ウスルタン農業生産者販売組合」が結成された(プログラム支援期間中はプロジェクトの直営支援だが、プログラム終了後は組合の独自運営と CENTA の 3普及所の支援に移管される)。表 6に組合の概要を記した。

表 6 ウスルタン農業生産者販売組合の組織概要(2009年 3月末日時点)

CENTA 担当普及所 農家組合名 県名 設立

年月日 共同基金

計(US$) 組合人数 (内女性)

理事人数

(内女性) ウスルタン ヒキリスコ サンタエレーナ

Asociación de Productores Agropecuarios para el Agromercado de Usulután

ウスル

タン 09.1.7 448.00 43 (2)

10 (2)

組合結成後は、プロジェクト側より参加農家に対し組織運営・農業マーケティング等のセミナ

ー/ワークショップや他の先進事例の視察(サンミゲル市朝市・サンタエレーナ市朝市)などの

研修を提供し、零細農家の能力向上を図った。また、プロジェクトより理事会会議への参加や紹

介パンフの作成、市役所への協力要請、開始式展(2009 年 4 月 18 日を予定)の準備支援などを行い、マーケット会場はウスルタン市役所内の施設(無料貸出)において、隔週金曜日(月 2度)の開催と決まった。組合員はモデルプロジェクト参加農家を中心にウスルタン県内の青果物・穀

物・野菜の苗・有機肥料・魚介類・養蜂などの零細農業者や加工業者など多岐にわたる構成とし、

少量ではあるが多様な販売品目を定期的に共同で持ち寄って販売する機会が創出された。 本プログラムは、モデルプロジェクトの組織化・販売支援コンポーネントのパイロット活動と

しても位置づけることができ、組織化手法(役員選出、内規作成と共同基金の設立等)や販売手

法(共同販売、直売方式、付加価値創造、広報イベント開催)などの優良事例となることが期待

されている。他地域への反復性や組合の自主自立を重視する為、プロジェクトからの組合への直

接的な経費支援は一切行なわず、組合基金の活用や他機関との連携を促進している。 また、当プログラムは、ウスルタン県地元の生産物を地元で販売するという「地産地消」活動

の一環としても実践されるもので、ウスルタンの県知事や市長の理解・支援を得た地域ぐるみの

活動となっている。このため周辺ビジネスへの波及効果発現により地域全体の経済効果も期待で

きる。出展者のほとんどはマーケット開始を契機とした新規事業裨益者であり(新しい販路の獲

得)、得た収入を再投資などに活用されればさらに経営改善につながり、プロジェクト上位目標で

ある恒常的な農家収入の向上につながるものと期待される。本プログラムが持続発展性のあるマ

ーケット事業として実証されれば、他地域における反復が可能となり、CENTA支援の普及モデルとなりうる。

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6.3 具体的成果品 (PRODUCTS) リスト (1) C/P研修実施の実施要綱 (GI)/研修教材/実施報告書 ①「小農のためのファーマーズ・マーケット設立・運営コース」

(”Capacitación de Organización, Establecimiento y Administración de Agromercado a Pequeños Agricultores”, 2008年 9月)

② 第三国(コスタリカ)C/P研修「小農支援のための有機農業技術普及コース」 (“Metodologías de Extensión de las Técnicas de Agricultura Orgánica en Apoyo a los pequeños agricultores en Costa Rica”, 2009年 1月)

(2) 東部地域の農家組合内規(8組合) (3) セミナー資料(MSパワーポイント資料) ① 「農産物生産者による直売市のケーススタディ」

(”Casos Japoneses de Agromercado por Productores”, 2008年 9月 3日発表) ② 「生産者組合の内規作成ワークショップ」

(“Taller de Elaboración de Reglamento Interno”, 2008年 12月 20日発表) ③ 「ファーマーズ・マーケット運営」

(“Administración de Agromercado”, 2009年 1月 7日発表) ④ 「農業マーケティング」 (”Marketing Agrícola”, 2009年 2月 4日発表)

(4) 各種農家組織化推進資料(組合内規フォーマット、会計帳簿等) (5) ウスルタン県ファーマーズマーケット設立・運営支援プログラム実施要綱 (6) モデルプロジェクト実施要綱 (7) 展示圃場プログラム実施要綱 (8) 月例報告書(2008年 4月~2009年 3月分) (9) 各国内出張報告書 6.4 計画と進度に咀嚼があった場合、その理由

初年度はほぼ計画どおりにプロジェクト活動が進み、特に支障をきたす大きな問題はなかった。

チーフアドバイザーの着任が予定より 2 ヶ月遅れたため、プロジェクト PDM の見直しや戦略策定が遅れたが、その期間中に前倒しで国内流通研修を取組むなど対応したため、年間を通じた活

動の遅延は生じなかった。在外事業強化費、第三国研修費などの予算も計画どおり執行した。

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6.5 プロジェクト事業進捗に果たした専門家業務の役割 (PDMにおける成果に、個々の専門家業務および成果がどうかかわるか)

本専門家は、PDM成果目標 2(東部地域の零細農民及び野菜生産者団体に経営改善手段を指導する体制が構築される)に関しての責を負っており、この成果に対する PDM内の指標とこれに果たした専門家業務の役割は表 7のとおり。

表 7 PDM成果の指標に貢献した専門家業務の役割

指 標 1

農家経営改善(組織化、

流通販売等)並びに生

産技術(有機物利用、

新規導入作物等)の普

及資料が作成される。

・当地に適した農民組織化の重要項目の整理を行い、農家グルー

プを対象とした普及資料を開発・活用 ・国内研修にて農家経営改善分野のテキスト、東部地域事例集を

制作 ・国外研修(コスタリカ)で講義資料、普及資料を収集 ・農家経営改善のセミナーを開催しセミナー資料を作成

指 標 2

研修(経営改善及び生

産技術)の実施により

普及員及び農民代表の

能力が向上する

・経営改善、生産技術の国内集中研修を実施し普及員、関係機関

職員の能力向上に貢献 ・コスタリカでの有機農業(生産技術・流通支援)研修の企画・

実施により、普及員や関係機関職員の能力向上を促進 ・農民代表を対象としたコスタリカ研修内容発表会の実施支援、

生産者朝市事例の視察、組織化ワークショップ・農家経営セミ

ナーの実施を通じ農家の能力向上を促進 指 標 3

農民組織による野菜生

産モデル(モデルプロ

ジェクト)が各普及所

に設置される

・東部地域全普及所のモデルプロジェクトの立案と実施、組織化

と経営改善モデルを推進 ・各モデルプロジェクトにて農民組合(7か所)の設立を促進 ・ウスルタン県の 3普及所合同によるファーマーズ・マーケット立上・運営支援プログラムの企画と販売組合設立を促進

指 標 4

農業情報普及センター

に零細農民が必要とす

る農業情報が集積され

るとともに定期情報誌

が発行される

・首都や東部地域の主要マーケットを訪問し調査を実施 ・農牧省経済統計総局や CENTAの情報普及センターなどを調査しエ国、東部地域の情報普及体制を整理

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7. 指導分野およびその関連分野にかかる受入国、協力先の現状と問題点 ・農牧省・CENTAともに人件費や固定費以外の事業費が慢性的に不足しており、必要な農業資材の調達や経費の必要な個別プロジェクトの自主実施が困難である。 ・官民ともに野菜種苗の生産・配布体制がないため、コスト高の輸入品に農家が頼らざるを得ず、

経営をひっ迫している。また、農家が野菜栽培品目の多様化を図ろうとしても種苗の品目及び品

種が少なく(特に地方においては顕著である)入手すら困難な状況にある。 ・CENTA各普及所には、流通/組織化を専門とするスタッフが全く配置されていない。ほとんどの普及員が同分野の指導経験が少なく包括的な指導が出来ていない(普及員が栽培技術指導のみ

で経営を意識した指導をしない限り、農家の市場における競争力向上に限界がある)。農牧省側に

は一定のノウハウの蓄積があるが、CENTA末端組織(普及所)との連携が十分でなかった。 ・農牧省の統計データや農業資料が効果的に農民に伝わる仕組みとなっていない(普及員がその

存在すら知らない)。 ・中堅管理職(普及所長等)における普及員の活動モニタリングや改善指導力が弱い。 8. 専門家指導分野およびその関連分野で、今後プロジェクト目標を達成するために残された課題 まだプロジェクトは 1 年次が終了したばかりであり、取り組むべき課題が残されているが、ここまでプロジェクトは想定どおり活動が進捗しており、2008年 10月の JCCにて設定・合意した活動戦略を基に計画に沿った活動を確実に進め適宜モニターし微調整していくことがプロジェク

ト目標達成の早道である。その他、専門家指導分野および関連分野において下記のとおり記す。 〔組織運営〕 ・普及員は 1 年次において流通・組織化等の基礎研修は一通り修了したので、多くの経験を実地で積ませ(OJT)ノウハウを体系化することが必要とされる。例えば、モデルプロジェクトやファーマーズ・マーケット立上げなどは支援側にとっても良い OJTの場となっており、このような反復を意識した支援事例をより多く経験し、(成功でも失敗でも)経験を整理し共有することがノ

ウハウの蓄積につながる。 ・普及所員のモデルプロジェクトや展示圃場プログラムのオーナーシップの醸成 ・現在の C/Pから他の普及員への技術移転・経験のシェアの仕組み作り ・運営チーム、普及所長の実施するモニタリング体制の改善

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〔農家経営改善〕 ・農民の多くは指示された活動をその場で行うのみ(点の活動)で、長期的視点に立った生産・

販売の一貫した活動が意識できていない。普及員が組合全員と計画を参加型で論理的かつ視覚的

に作り、常にその計画をチェックしながら活動に取組む体制が必要(「経営を意識した普及」の実

践、「考える農民」への啓蒙)。 ・有機農産物などはまだ市場における認知が低いため、消費者への啓蒙活動が必要 ・農家が利用しやすい小規模融資制度をもつ地域の機関の調査と連携の促進 ・CENTA内で農業情報提供システムを運営するコアメンバーの選抜と提供の仕組み作り ・農家組織化における普及手法の整理は一旦完了したため、この手法が残りのプロジェクト期間

中、機能し持続するかモニターし必要に応じた改善 ・農家組合共同基金の効果的な活用、増減の記帳、透明性確保の指導体制 ・農牧省における農業法人の設立手法を調査・整理し、農民が選択可能な組織化メニューの増加

9. 専門家指導分野およびその関連分野で、今後受入国が取組む必要があると考えられる課題 食糧自給の乏しいエルサルバドルにおいて農業開発は避けて通れない喫緊の課題である。2009年 6 月 1 日に交替する次期政権において、既に農業普及や経済格差是正は重要な政策目標となっており、益々CENTAの果たす役割が大きなものとなっている。CENTAにおいて、現在の人員や新規に採用される人員の体系的なキャパシティビルディングと効率的活用などを図り、組織のダ

イナミズムを高める必要性を課題とし、下記の点を提言する。 ・CENTA の各地域事務局に最低 1 名ずつ(各普及所に 1 名だと理想的)市場支援担当者、農家組合(組織化)支援担当者の採用と配属を行い全普及員・地域関連機関と連携させ、農家の「経

営」をより意識して指導する体制作りに取り組む ・ウスルタン県のファーマーズ・マーケット設立プログラムのように、やる気のある若い農家グ

ループとの協働事業を積極的に取組み、より多くの事例を経験しノウハウを蓄積する ・中堅管理職の事業マネジメント能力(特に企画立案・改善指導)とオーナーシップを育成する ・各普及所が周辺の行政機関や NGOなどと連携を強化し、より多くの農家や住民とのコミュニケーションを高める機会を増やし、「地域力」を高める情報発信センターとして機能させる

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10. 類似プロジェクト、類似分野への今後の協力実施にあたっての教訓、提言等 ・第三国研修が参加した C/P14 名に大きなモチベーションを与え早くもインパクトが発現した。コスタリカでの研修はモデルプロジェクト実施直前に行われ、学んだものをすぐに実践に活かす

効果を生んだ。さらに技術移転のみならず、各 C/P の間で集中して寝食と学びを共にしたことにより、チームワークが強化された。このチームは CENTAにとって将来大きな財産となるだろう。言葉や文化、地理的にも近い第三国 C/P 研修の活用は、少ない投資で大きな効果が確認された効率性の高い技プロ投入要素である。さらに南南協力として相手国側の援助能力向上にもつながる。

協力活動に合わせたタイミングと人選を伴う積極的な第三国研修の活用を提言する。 ・農家も普及員も、理屈では(自発的に)動かない。あれこれ論理的な指示を出しても聞いてい

るようで専門家が空回りする結果となる。また給料が少ない、いくら働いても変わらないなどの

不満を C/P は慢性的に抱えており、何が現地職員を動かすモチベーションとなるのかを専門家は現場のキーパーソンと考えねばならない。 当プロジェクトにおいては、基本的に農家へ直接専門家が指導しない方式をとっている。農家

へは全て普及員が対応する。普及員自身が学んだことを実践し小さな成果の実感(達成感)の積

み上げがモチベーション向上につながるものと考える。更に、プロジェクト専属 C/P で構成される「運営チーム」を専門家と普及員との間にはさむことにより、「専門家→プロジェクト運営チー

ム→普及員→農家」の情報伝達体制(更にその逆のフィードバック)が現場関係者全てのオーナ

ーシップ、責任感を醸成する効果があり、運営チームの運営能力向上にも寄与している。 ・当プロジェクトでは、車両燃料費や運営スタッフ人件費等を実施機関が常に負担しており R/D条項が遵守されている。CENTA の資金能力にも依存するが、R/D 締結時にある程度細かく資機材・運営経費などの責任分担が議論され記載されたことと、プロジェクト開始時に予算管理部署

責任者と現場のキーパーソンと明確に確認し合ったことが寄与したものと思われる。 ・当プロジェクトのサブマネージャー(東部地域局長)は事前調査からプロジェクトのデザイン

立案に巻き込まれており、さらにプロジェクト開始後プロジェクト説明会を自ら部下に対して実

施した。このため、彼が「1番わかっている人間」となり、現場の「やらされ感」を排除し、運営に確実に組み込むことができた。このことから、プロジェクトデザインをトップダウンのみにせ

ず、プロジェクト運営の現場の指導者である「キーパーソン」を確実にプロジェクト立案段階か

ら巻き込むことが他の技術協力プロジェクトにおいても相手国 C/P のオーナーシップを高める重要な手段である。 以上