東アジアの保護区域のための 資金調達ガイドライン...Andrea Athanas, Frank...

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東アジアの保護区域のための 資金調達ガイドライン

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東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

世界保護区域委員会(WCPA)

世界保護区域委員会(WCPA)は、保護区域に関する専門家の主要な世界的ネットワ

ークである。保護区域に関するIUCNプログラムは、IUCN事務局の中心的な仕事であり、

WCPAのために事務局の役割も果たしている。

WCPAの使命と目的

WCPAの国際的使命は、IUCNの使命達成に不可欠な役割を果たすために、陸上およ

び海洋保護区域を代表する世界的ネットワークの設立と効果的な運営を促進することで

ある。

この組織は、以下の目的を持っている:

政策立案者への戦略的アドバイスの提供を通じて、政府その他の機関が保護区域

を計画し、それをすべての分野に組み入れることを支援する

指導、用具、情報、ネットワーキングの手法の提供を通じて、保護区域管理者の

能力と効率を高める

公的機関や企業ドナーにその価値を説得して、保護区域に対する投資を増加させ

IUCN会員や提携機関との協力などによって、WCPAのプログラム執行能力を強

化する

World Commission on Protected Areas (WCPA)

IUCN ―The World Conservation Union2001

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

Andrea Athanas, Frank Vorhies, Fernando Ghersi, Peter Shadie and John Shultis

シリーズ編集 Adrian Phillips

本書における地理的な呼称、資料の提示は、いかなる国、領土、地域の法的地位に関して、あるいはその権限に関して、あるいは国境、境界の範囲に関してIUCNまたはその他の資金提供者のいかなる意見を表明するものではない。さらに、本書において表明されている見解は、必ずしもIUCNあるいは日本政府、環

境省の意見を反映するものではない。本書は、日本政府環境省自然保護局からの資金援助によって出版が可能になったもの

である。発行者: IUCN(スイス国グランド、英国ケンブリッジ)

著作権: 2001 International Union for Conservation of Nature and NaturalResources教育あるいは他の非商業目的のために利用される本書の複製は、著作権が完全に記載されている限り、著作権者から書面による事前の承認がなくても許可される。再販あるいは他の商業目的に本書を複製するときは、事前に著作権者の書面による承認がなければならない。

引用: Athanas,A., Vorhies,F., Ghersi,F., Shadie,P., Shultis,J.(2001).Guidelines for Financing Protected Areas in East Asia.(IUCN:スイス国グラント、英国ケンブリッジ)

表紙デザイン: Dianne Keller and Janice Weberの原案グラフィック: ウォータールー大学表紙写真版権:

表表紙: 遊牧民、父と馬に乗った息子、ドーリアン大草原、モンゴル(WWF-Canon/Hartmut Jungius)ダラハト谷のモンゴル少女、北西モンゴル(Shelley Hayes)コブスゴルヌル国立公園の古代墓地遺跡を歩くラマ仏教僧、北モンゴル(Rolf Hogan)燃え立つような断崖、ゴビ・ゴルファンサイハン国立公園、南モンゴル(Rolf Hogan)コブスゴルヌル湖に流れる聖なる川(中央アジア2番目の深さを持つ)、コブスゴルヌル国立公園(Rolf Hogan)

裏表紙: しゃくなげ(Williamsianum):峨眉山と楽山大仏世界遺産――中華人民共和国(UNESCO)ゴルファンサイハン国立公園の砂丘――モンゴル(Shelley Hayes)

レイアウト: IUCN Publication Services Unit製作: IUCN Publication Services Unit原著入手先: IUCN Publications Services Unit

219c Huntingdon Road, Cambridge CB3 0DL, United Kingdom電話:+44 1223 277894ファックス:+44 1223 277175E-mail: [email protected] www.iucn.org/bookstore/index.htmlここではIUCNカタログも入手できる

v

はじめに vii

謝辞 ix

要点の整理 xi

パート1.

保護区域の資金調達――概論 1

1.序論 3

1. 1 保護区域、その重要性 4

1. 2 財務計画策定、その保護区域における重要性 4

1. 3 本書の適用範囲 5

2.保護区域のための事業的手法 7

2. 1 保護区域のもたらす便益 7

2. 2 顧客グループ 8

2. 3 正当な対価の収受 12

3.資金調達の仕組み 21

3. 1 政府支出金 21

3. 2 税、課徴金、サーチャージ、助成金 26

3. 3 利用料 27

3. 4 環境保護運動に関連するマーケティング 32

3. 5 自然保護と債務のスワップ 36

3. 6 共同実施協定とカーボン・オフセット・プロジェクト 37

3. 7 多国間、2国間資金支援機関からの補助金 37

3. 8 基金からの補助金 38

3. 9 民間からの融資 38

3. 10 公的機関からの融資 39

3. 11 企業や個人からの寄付 39

4.資金調達オプションの実行可能性の評価 43

4. 1 内部の組織力に関連する要因 43

4. 2 制度的外部要因 43

目次

vi

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

5.財務計画作成の手順 47

5. 1 保護区域における目的・目標を明確にする 47

5. 2 現存する顧客基盤を特定する 47

5. 3 現存する資金源と資金の需要をリストにする 47

5. 4 新規顧客、および利用レベル対負担額の関係を特定する 48

5. 5 顧客から収入を得るための仕組みを特定する 48

5. 6 提案された仕組みの実行可能性を評価する 48

5. 7 財務計画を明確に記述する 49

5. 8 追加検討事項 49

6.東アジアの保護区域の資金調達に関する問題とその方法 51

IUCNウエブサイト 53

参考文献 53

パート2.

東アジア保護区域の資金調達に関する模範ケーススタディ 55

ケーススタディ1.東アジア保護区域に対するNGOの支援 57

ケーススタディ2.バイオ探査:東アジア保護区域のための有望な資金源 59

ケーススタディ3.アジア開発銀行と東アジア保護区域 61

ケーススタディ4.北朝鮮の金剛山開発計画 63

ケーススタディ5.モンゴル環境信託基金 65

ケーススタディ6.中国森林保護区域の価値 67

ケーススタディ7.中国保護区域における観光 69

ケーススタディ8.中国臥龍(ウオロン)自然保護区の観光経済学 73

ケーススタディ9.香港特別行政区(中国)のマイポ湿地 77

ケーススタディ10.香港特別行政区(中国)地方公園 79

パート3.

東アジアの保護区域に対する資金支援組織 81

国際開発高度教育機構(FASID) 83

モンゴル環境信託基金 84

長尾自然環境財団 87

ユネスコ-MAB 88

地球環境ファシリティ 89

米国アースウォッチ 93

日本政府環境省 94

その他の資金支援組織 96

vii

過去10年、IUCN保護区域世界委員会(WCPA)は世界中の保護区域のために一連の

地域行動計画を作成してきた。これらの計画は、地域内における保護区域の優先事項を

明らかにし、保護区域プロジェクトに対する一般の理解を高め、資金確保を支援し、重

要な保護区域の問題に各団体が共同して取組むことを奨励してきた。東アジア行動計画

は、WCPAの東アジア・ネットワークが地域内で綿密な協議を行って完成した最初の計

画の一つである(IUCN, 1996)。

行動計画は、東アジアの保護区域に関連する基本課題を検討し、優先度が高い13のプ

ロジェクトを認定した。日本政府環境省の自然保護局には、寛大にも以下の5プロジェ

クトの実施を支援していただいた。

優先プロジェクト1:東アジアにおける持続可能な観光のガイドラインの作成

優先プロジェクト2:保護区域の経済的重要性を提示するために、当地域内の一保護

区域にフルコスト・アカウンティング(社会コストを統合した

環境会計方式)の採用

優先プロジェクト4:東アジアの保護区域に資金と支援を提供できる組織の名簿を作

成する。それには多数国参加、2国間、地域内の資金源を含む。

優先プロジェクト10:地域内保護区域のスタッフのために、他地域(例えばヨーロッ

パ)との交流プログラムの策定(恐らくEUROPARCとの提携

と技術援助プログラムを通じて)

優先プロジェクト13:東アジアの保護区域職員および団体の名簿を編集する

日本政府環境省自然保護局は、IUCNに対して地域内の主要な機関、個人と緊密に協

議して、これらプロジェクトを遂行するための陣頭に立つよう依頼した。1)日本からの

支援は、1998年10月1日に開始されてから3年にわたって提供された。それに対応して、

四つのサブ・プロジェクトが発足し、それぞれが行動計画の優先プロジェクトの一つ、

あるいはそれ以上のプロジェクトに対応した。その結果、現在、次の四つのIUCN出版

物が発行されつつある。

Guidelines for Tourism in Parks and Protected Areas of East Asia(優先プ

ロジェクト1)

Guidelines for Financing Protected Areas in East Asia(優先プロジェクト2,

4)

はじめに

1) 日本政府環境省は、これら優先プロジェクトの更なる実行を支援するために、自発的に次の3年間にわたり新たな資金負担を行なうことを申入れた。

viii

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

Implementation of an Exchange Programme for Protected Areas in East

Asia(優先プロジェクト10)

Directory of Protected Area Personnel and Organizations in East Asia (優

先プロジェクト13)

本書は、優先プロジェクトの2と4に対応するものである。それらは:

保護区域が、いかにしてそのニーズに応じて、また、いかにしてより多額の資金

を生み出せるかを説明する。

東アジアの保護区域の資金調達に関係する簡単なケーススタディを紹介する。

地域の保護区域業務のために、資金源となる可能性がある組織のリストを紹介す

る。

本報告書は、以下の諸氏によって執筆された。

Andrea Athanas, Frank Vorhies, Fernando Ghersi, Peter Shadie, John Shultis

編集:Adrian Phillips

[日本語版について]本「東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン」は、環境省の支援を受

け、英文による「Guidelines for Financing Protected Areas of East Asia」をNPO法人日本エコツーリズム協会(Japan Ecotourism Society)の協力と同協会理事の櫻田薫氏の翻訳により出版したものである。日本語への翻訳における誤訳、脱漏について、IUCNは責任を負わない。日本語

版に原書との間に相異があると考えられる場合には、英語版原文を参照していただきたい。

[翻訳者ノート]本書のタイトルにあるprotected areaは、自然公園を含む自然保護のために制度

的に指定された地域を意味するが、保護区域の呼称に統一した。本書で使われたBioregional Customer、Global customerなどcustomerの日本語

訳を「顧客」とすることは違和感がないわけではないが、ビジネス手法を提案する本書の主旨を生かして生態域顧客、グローバル顧客とした。広く自然保護区の受益者を意味している。本文から理解されるだろうが、気候の安定化、栄養素の還流など自然保護区域から間接的な恩恵を受ける人類一般を含めて、これら保護区域を訪問して利用料を支払う商業的な顧客とともにすべてCustomerである。3.4節のアドプションなど適切な日本語がないものがいくつかあるが、意味は理解されると考えてカタカナで表記している。この他、団体や担当者の名称が原書の執筆時から変更されているものもあるが、

原則として原文のままになっている。また中国の英語地名について、できるだけ原語の中国名を調べて採用したが、日本で使用しない中国の新漢字については旧漢字に変換、または英文の発音をカタカナにした。モンゴルの地名は、モンゴル友好協会から教えていただいた発音のままカタカナを用いた。

ix

IUCNは、日本政府環境省の寛大な支援に感謝したい。それによって本書の刊行が可

能になった。

本書の制作に当って多数の組織から支援と助言をいただいたが、IUCNは、特にザ・

ネイチャー・コンサーバンシー、地球環境ファシリティ(GEF)、ベトナムのIUCN事務

所にお世話になった。

謝辞

xi

本ガイドラインは、東アジア地域における保護区域のプランナーおよび管理者のため

に作成された。その助言は、この地域のプランナーと管理者が直面する最も重要な課題

の一つに取り組んでいる。すなわち保護区域の存続と成功を保証するために、必要な資

金を確保することである。

本報告書は、保護区域の管理運営のために‘ビジネス的’アプローチ(事業的手法)

を提唱する。それは、保護区域から財とサービスを入手する顧客グループを特定し、こ

れらグループに対して公正な見返りを求めようとすることである。パート1は、それに

関連する原則を取扱うが、それは本地域特有のものではない。本書が強調するのは、事

業計画は保護区域の環境保護目的に従属すべしということである。保護区域は、地元、

地方、国内あるいは地球レベルで多くの公共的な財とサービスを提供するものであるか

ら、保護区域に対する政府予算は、財源の基礎的部分として維持されねばならない。

保護区域から直接的、間接的に便益が生まれる。それはまた、私的財と公共財を供給

する。提供される便益のタイプ、それに関連する消費者グループと利用できる資金調達

の仕組みの間には重大な関係がある。これらが一体になって、保護区域の事業計画構築

を助ける。したがって公園管理者は、保護区域運営にビジネス的手法を採用する前に、

これら三つの変動要素について知っておく必要がある。

次のように11種の資金調達の仕組みがある。

政府支出金。税、課徴金、サーチャージ、助成金。利用料。環境保護運動に関連する

マーケティング。自然保護と債務の交換(自然債務スワップ)。共同実施プロジェクト

と炭素排出オフセット。多数国・2カ国、財団からの補助金。民間および公的部門から

の融資。社会全体または個人の寄付。

これらはそれぞれ利点と弱点がある。どの仕組みが適当かは、内部および外部の要因

によって定まる。収入確保の方策を策定して提案するためには、公園管理者は地元社会

の支持を確保し、公園職員の能力を超える負担を避け、現行の政治的、法的枠組みを尊

重する努力が必要である。

財務計画を策定するために必要な七つのステップは:

1.保護区域の目標と目的を明確にする

2.現存する顧客基盤を特定する

3.資金源とその資金の需要をリストにする

4.新規顧客、およびその利用レベル対負担額の関係を特定する

5.顧客から収入を得るための仕組みを特定する

6.提案された仕組みの実現可能性を評価する

要点の整理

xii

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

7.財務計画を明確に記述する

これらの段階については、保護区域の財務計画の作成に関連する他の検討事項ととも

に、後の章で簡単に再検討したい。

本書のパート2に掲載する10地域のケーススタディは、保護区域の管理者が利用でき

る広範な方策を提示している。それらはビジネス的手法に内在する利点といくつかの問

題を実証する。パート3は、特に東アジアに関係する資金源のリストである。

本書の助言が、東アジアの各保護区域管理者に、それぞれの保護区域と保護区域制度

の財務的健全性を改善するために必要ないくつかの手段と知恵を提供することを希望し

たい。これは一方で、この地域の管理運営能力を強化し、その結果、東アジアの保護区

域に存在する優れた自然と文化資源を保護する上で、管理者の能力向上に役立つはずで

ある。

東アジア地域の保護区域管理者と行政担当者には、この助言を基礎にして活用できる

いくつかの選択肢がある。東アジアWCPAが行なうべきことは:

1.メンバーによる作業部会を立ち上げ、資金問題と方策を探求する。1年以内に報

告を義務付ける。

2.実験的な事業計画を策定するために、保護区域、あるいは保護区域の小グループ

を指定する。その選定基準は、公園スタッフや管理者の財務計画作成能力、保護

区域が提供できる便益の数とレベル、資金源として見込める明確かつ大きな消費

者グループの存在、である。

3.研修会を開き、保護区域管理者と行政担当者たちが追加資金を確保するための行

動の進め方に同意を得る。

4.東アジアWCPAの会議で保護区域の資金調達問題を議題に乗せ、各種プロジェク

トのために最も有望な資金源特定の助けになる代表を招く。

5.東アジア地域のいくつかの保護区域を選定し、少数の試験的な財務計画を作成し、

管理者たちにこのような計画作成に必要な材料とプロセスを理解させるためにそ

れを配付する。

6.モンゴル環境信託基金(METF)は、東アジア地域のどの場所でも採用して利用

できる優れた資金調達モデルであると思われる。

7.東アジア地域内で消費者グループの特定と資金計画の作成について、管理者を教

育するために研修セミナー、あるいは利用パッケージを開発する。

8.地域内で実施された現存の評価調査の結果を集約して発表し、あるいは地域全体

の評価調査を新たな目標とすることができよう。

9.本書を翻訳して、地域内の保護区域管理者のすべてが利用できるようにする。

パート1

保護区域の資金調達―概論

2

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

福建省の世界遺産武威山は、南東中国の生物多様性保全と多数の古代残存

種の保護における最も著名な地域である。これらの多くは中国の固有種で

ある。 �Les Molloy

3

本書の目的は、保護区域の管理者や行政担当者が東アジアの生物多様性保全のために

充分で適切な資金を特定し、確保することを支援することである。本手引書は、保護区

域を設置し、管理運営に関係する人々を対象としている。本書は、IUCN経済部、IUCN

保護区域プログラム、IUCN世界保護区域委員会(特にIUCN, 2000)、を含む各方面から

得た情報を基礎にしている。その中には、ザ・ネイチャー・コンサーバンシーと協議し

て作成されたUNEPの次の刊行物からの引用も含まれる: Funding Protected Area

Conservation in the Wider Caribbean, A Guide for Managers and Conservation

Organizations(UNEP, 1999)。

保護区域管理の経済的役割と資金調達は、1960年代に大きな関心を集めた(例えば

Pearce and Turner, 1990;Munasinghe and McNeely, 1994;Pearce and Moran,

1994;Barbier, Acreman and Knowler, 1997;James, Green and Paine, 1999)。

本手引書は、保護区域の資金調達に対する過去の世界的な評価を基礎にして作成され、

保護区域管理者が保護区域のニーズと能力に適した財務計画を作成するために利用でき

る段階的なプロセスを提示する。さらに本書は、保護区域がいかに私的財および公共財、

そしてサービスを提供しているか、したがって公的・私的な財政支援を必要としている

かを明らかにする。このように本書は、保護区域がもたらす私的便益から収入を得る方

法を示すとともに、公共財とサービスの継続的な提供を保証するために必要とされる基

盤レベルの公的資金を、政府が確保するための論拠を提示する。

生態学上、東アジアは世界で最も豊かな地域の一つである。この地域には、世界の哺

乳動物、鳥類、魚類の14パーセント、シダ類のほぼ26パーセント、針葉樹の40パーセン

トが存在する。約1,200万平方キロの面積(世界の陸地の約8パーセント)を占め、北緯

4度から52度、東経73度から154度に広がる。その中に、社会的経済的に大きく異なる

特性を持つ八つの国がある。東アジア地域は、人類の28パーセント、ほぼ14億の人口を

抱える。人類と生態学的観点からも、この地域は大きな重要性を持つ地域である。

この地域の保護区域は、ほぼ88万5千平方キロの土地面積を持ち、これは全表土の約

7.5パーセントを占める。他の多くの地域と同様に、保護区域の数と広さは、国によって、

また生態系の性格によって大きく異なり、また、それらの管理運営の効率も、大きく異

なる。保護区域に割当てられる資金の額は、また、保護区域管理者にとって大きな課題

である(Li, 1993;日本組織委員会、1996;Jim and Li, 1996;IUCN/WCPA-EA-3, 1999)。

この報告は、東アジアのための地域行動計画で表明された懸念から生れたものである。

その行動計画は、また、政府に対して保護区域の予算を追加することを求め、資金確保

に新しい革新的な手法を採用するよう勧告する(IUCN, 1996)。これらのガイドライン

1.序論

4

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

は、特に後者の問題に取組んでいる。

東アジア保護区域における資金調達のための特定技術を議論する前に、保護区域とは

何であるか、および、それがもたらす便益について共通の理解を確立しておくことが重

要である。

1.1 保護区域、その重要性一貫性を維持するために、『保護区域』の用語に関するIUCNの定義が本書全体に使用

される。それは次の通りである。

「生物多様性、自然とそれに関連する文化資源の保護と維持を目的とし、法的その他

の効果的手段で特別に管理されている陸地および/または海域」(IUCN1994)

保護区域は、保護目的のために維持管理されている陸地や海域の特殊な地域を意味す

る。世界的制度として、現在、約44,000のサイトがあり、1,320万平方キロを占める(ほ

ぼ中国とインドを合わせた広さ)。これらのサイトは、それぞれ異なる、固有の生物、

生態、文化的特徴の組み合わせから成立っている。これらが一体となって、自然の生態

系の保全に重要な役割を果たし、効果的に管理されれば、生物多様性と持続可能な開発

に重要な貢献をする(McNeely, 1999;Synge and Howe, 1999;Groombridge and

Jenkins, 2000)

生物多様性条約(CBD)は、加盟国が生物多様性を保全するために着手できる数多く

の特定施策の概要を示している。「元のままの」自然保護に関する第8条の下で、加盟

国は生物多様性保全のために保護区域制度を創設し、このような地域管理のガイドライ

ンを策定し、隣接地の適正な開発促進を義務付けられる。このような公約は世界的に生

物多様性の保全を助けるけれども、既に膨大になった保護区域の予算には、さらなる重

圧を加えることにもなる。CBDの第8条mは、特に途上国に対する『元のままの』自然

保護への財政支援において加盟国が協力することを規定する。

保護区域は、地元、地方、国、地球のレベルで、生物理的、社会・文化的便益を提供

し、非常に重要な多数の役割を果たしている。例えば、それは、清浄な水と栄養素の流

れを新たにし、貴重な土壌資源を保護することによって、生態系の恩恵の永続性を保証

する。それは周辺社会に大きな社会・経済的な利益をもたらし、精神的、知的、肉体的、

経済的に満足する状況を生み出す。また、保護区域は、自然を大切にするという倫理的

な責任を果たすことにも役立つ。保護区域に対するこのような視点は、適切な資金供与

を決定するときに重要である。この点については、第2節で詳細に論じる。

1.2 財務計画策定、その保護区域における重要性財務計画は、保護区域の資金上の必要を判断し、収入源をその使途に合致させる手段

である。財務計画は予算と異なり、様々な活動にどれほどの資金が必要になるかを特定

するだけでなく、短、中・長期の必要に応じて最も適切な資金調達先を特定するもので

ある。

5

保護区域の資金調達―概論

異なる資金調達先は、異なる性格を持つ。あるものは、他のものよりも信頼性が高い

し、あるものは、多かれ少なかれ、獲得が困難である。管理上の必要に応じて自由に資

金を利用できる場合もあれば、多くの制約がともなう場合もある。資金調達の仕組みを

作るのに、多大の苦労と時間がかかることもあり、したがって短期的には見るべき成果

を期待できないが、しかし長期的に見ると、経常的に必要な経費として安定した信頼で

きる資金源になることもある。対象期間は短期のもの(銀行の当座貸越など)も長期に

わたるものもある(融資など)。優れた財務計画はこれらの特徴を把握し、保護区域の

短・長期の必要に見合った資金の流れを確立する。

保護区域が社会に対して数多くの便益を提供し続けようとすれば、効果的な管理と充

分な資金は決定的に重要である。保護区域を設定し運営するには、長期にわたり適切な

資金源が必要になる。実際のところ、限られた資金は徐々に保護区域の効果的な運営を

制約することになる。東アジアでは、他の地域も同様であるが、保護区域の資金は、そ

の需要に比して不十分なことが多い。教育、防衛、健康など他分野の資金需要の優先度

が高いことが多いので、保護区域に対する予算は、特に緊縮財政の時期には圧縮される。

したがって、世界中の多数の国で、保護区域に対する政府の投資が減少しつつあるのも

不思議ではない。

保護区域の計画と運営は、伝統的に政府機関によって行なわれ、政府の予算が毎年充

当されてきた。公的機関の資金支出は、常に保護区域の管理運営費用に見合った額を補

填するために必要であるが、特に1990年代には、保護区域運営費が削減されて、運営と

資金確保の新しいモデルを模索する動きが促進された。例えばアフリカでは、準国営組

織や民間部門に保護区域の依存度が高まり、いっぽうラテンアメリカではNGOの役割

が大きくなった。このような新しい制度の仕組みは、政府以外の資金調達先を確保する

上でよりフレキシブルになり、革新的なこともありえる。

しかしながら、資金源を多様化する必要があるとしても、政府は、国レベルで適切で

代表的な保護区域制度を確立し、その健全な運営を行なうために、責務を負い、義務を

果たすことが重要である。本書のガイドラインが主唱する財務革新を実現するための財

政的な柔軟性と選択肢は、この主旨にそって考えられるべきであり、また当然ながら、

現行の法律と計画の枠組みの中で進められるべきである。

1.3 本書の適応範囲本書は、保護区域管理者が活用できる財務手段の選択肢を明らかにするために、幅広

い保護区域と管理組織からの貴重な経験を集大成した。それは、東アジアの保護区域管

理者が利用できる資金調達先を多様化する方向に進むことを奨励する意図を持つ。

このガイドラインは、保護区域管理者が直面する財務的課題に対応できるよう支援す

るための多くの行動指針を提示する。それらは以下のとおり:

保護区域の資金調達に事業的手法を採用する。それは、関連する消費者を確認し、■

6

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

彼らから正当な見返りを確保する方法の特定を伴う。

事業的手法を開発するが、それは保護区域の運営計画と法律の全般的な枠組みの

中で実施できるものだけである。したがって、収入増加はそれ自体が目的ではな

く、より効果的な生物多様性の保全目的を達成する手段と見なされる。

公的機関と民間からの収入は共に重要であり、また公的資金の流入と公共財との

連関、民間からの収入と私的財との連関の重要性を認識する。

これらガイドラインのパート1は、保護区域運営について事業的手法のコンセプトを

紹介する。それから保護区域の資金源確保に利用できる方法を再検討する。その後で、

様々な財務方式および戦略の実行可能性について評価を行い、そして特定の保護区域の

資金源について再検討を行なう。パート1は、保護区域がより財政的に自給自足するた

めの一般理論を説明しようとする試みであるから、東アジア地域に限定して書かれたも

のではない。

しかし、ケーススタディ(パート2)、および資金支援組織(パート3)は、保護区

域管理者が地域内で、実際に、これら様々な選択肢を利用していることを証明する。こ

れらの実例は、また、資金調達の成功が、財政的ニーズと機会を分析する熟練した職員、

財務戦略を実行できる充分なインフラ、支えとなる政策環境、有意義な地域社会参加、

に依存していることを示している。

7

保護区域の財務計画、あるいはシステムを開発するために、保護区域管理者の多くは

考え方を変える必要がある。多くの管理者は、既に予算案を組むことやその執行には慣

れているけれども、財務計画の主たる目的は、資金入手の機会を保護区域の短期および

長期的必要に対応させることである。このように、開発にあたっては予算案を組む以上

に革新性と先見性を必要とする。この考え方を行動に移すために、ここでは、保護区域

が事業体であると同時に公共財でもあるという扱いをされなければならない。このこと

は、保護区域管理者が、保護区域の基本である自然保護目的を見失うことなく、財務計

画に照らしていかに事業家になりえるかを示すことである。したがって、本節は、保護

区域が、個人と社会全体に対して提供する便益を列挙することから始めたい。それから、

これらの便益は、顧客グループ、保護区域の顧客基盤開発における注意の必要、保護区

域から生まれる財とサービスの性質、そしてその財務計画における意味など、2.2節に

おける議論と関連している。2.3節は、保護区域管理者が、いかにすれば顧客に保護区

域がもたらす便益の対価を支払ってもらえるか、その方法を提示する。

2.1 保護区域のもたらす便益フィナンシャル・プランナー(資産運用の専門家)の目から見ると、保護区域は、恐

らくショッピング・モールとあまり変らない事業運営をしているように見えるかもしれ

ない。注1ショッピング・モールは、訪問者に衣料品、靴、化粧品、玩具、食品、娯楽な

ど多数の商品やサービスを提供する。保護区域も、訪問者に数多くの財やサービスを提

供する。この中には、草葺屋根の材料、野イチゴ、遺伝物資などの財や生物多様性保全、

作物の受粉、水質浄化、野生動物観察、レクレーション機会などのサービスが含まれる。

このような財やサービスは、社会に、保護区域の存在から途切れることなく生まれる便

益を提供する。この便益は二つのカテゴリーに分けられる:いわゆる利用(直接と間接

利用の価値で構成)と非利用(オプション、遺産、存在価値で構成)の恩恵である。

保護区域の直接利用価値は、レクレーション、観光、様々な自然や文化資源の利用、

採集、狩猟、魚つり、教育業務などの活動に保護区域が実際に利用されることから生じ

る。反対に間接利用価値は、保護区域の訪問で直接には提供されない財やサービスから

生じる。これに含まれる顕著なものは、流域保護、動物の繁殖・給餌場所の提供、気候

の安定化、栄養素の還流、など環境保護機能である。このような間接利用価値は、しば

2.保護区域のための事業的手法

注1 このように露骨に商業的視点で保護区域とそこから生じる恩恵を受ける人々を扱うことは、人に誤解を招くと考える者もいるかもしれない。しかしビジネス的アプローチが要求する自己規制は、保護区域の運営に必要な資金を増やす方法を理解するのに有用であろう。

8

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

しば広範囲に及ぶ重要なものであるが、過去の経済評価システムでは完全無視とは言え

ないまでも、低い評価をされてきた。実のところ、このような間接的な財やサービスの

利用価値の評価を試みた研究の多くは、より簡単に測定できる直接利用価値よりも、こ

の間接利用の分野のほうが、はるかに大きな価値を持つことを見出している。パート2

のケーススタディ6は、中国の保護区域での間接価値の重要性の事例を提示している。

オプション価値は、個人あるいは社会が将来保護区域を利用する可能性を指す。例え

ば、多くの人は、一度も訪問していなくても、将来、訪問するかもしれないと思う特定

の保護区域の価値を認める。遺産価値は、保護区域が提供する財やサービスの便益を、

他の人(例えば子供や孫)が現在、あるいは将来、受けることを知っていることの便益

を指す。最後の存在価値は、保護区域が存在し、貴重な財やサービスを提供することを

知っていることの便益に由来する。彼らは、特定の保護区域、またはその組織を訪問す

る計画がなくても、多くの人はこのようなサイトが存在するだけでも価値を認める(例

えば、それが提供する間接価値、あるいは地域や国の誇り)。

表2.1は、これらのカテゴリーを図表で示す(このコンセプトに関するさらに詳細な

議論のために、注2「保護区域の経済価値」(IUCN, 1998)参照のこと。注2)。例えば、

魚つりは実際に保護区域を訪れ、小川や湖で釣りをする人には直接価値である。それは

また、その保護区域をまだ訪れていないが、将来訪れて釣りをしたいと思っている人に

はオプション価値であり、あるいは将来子孫が訪れてその小川や湖で魚つりの機会を持

って欲しいと思っている人には遺産価値である。

2.2 顧客グループ2 .1表に記した便益は、それぞれ顧客基盤、あるいは受益者グループに関係している。

異なるタイプの保護区域は、その保護区域が提供する財とサービスに応じて、各種異な

る受益者グループの要求を満たすことができる。保護区域、または保護区域システムか

ら生じる様々な便益は、主にその土地の生態、あるいは景観の性格によって定まる。し

表2.1 保護区域の経済的便益

オプション価値 直接利用価値 間接利用価値 遺産価値

非利用価値 利用価値

存在価値

注2 本書は、IUCN/Cardiffの最優良事例シリーズに含まれるており、以下でのアドレスでダウンロード、またはIUCN書店(e-mail:[email protected])で購入できるhttp://biodiversityeconomics.org/valuation/topics-34-00.htm

9

保護区域の資金調達―概論

かしながら、利害関係者や顧客基盤へのアクセスの容易さも、保護区域の組織構造や政

策環境と合わせて、いかなる便益が提供されるかを決定づける助けになる。例えば、ク

ルーズ船のルートの近くにある海洋保護区域は、孤立した海洋保護区域よりも、直接、

レクレーション利用の便益を提供できるだろう。対象になる受益者を特定し、これら利

害関係者を環境保護目的と両立する方法で、保護区域または組織の財務計画に組込むこ

とは管理者の仕事である。

財務計画の策案において、両立性の問題は基本的に重要である。環境保護の目的との

両立性を査定する場合、IUCNが定める保護区域運営の6カテゴリーを参照するのが有

用である。それは科学研究から文化特性の保全まで、保護区域運営の主要な9つの目的

をベースにしている。保護区域の6カテゴリーは、おおまかに言えば、それぞれ保護区

域の基本的、二次的、潜在的運営目的に対応させることができる。その関係は2.2表に

示されている。同様に、各カテゴリーの目的は、利用目的の数とそれに付随する便益に

関係する。例えば、科学研究は保護区域に存在する資源の直接利用であり、対応する受

益者グループには学者や民間の研究チームも含まれる。このようにカテゴリー分類は、

特定の利用目的が適切か否かについて、いくらか指標になる。

各カテゴリーの保護区域は、すべての人に対して何らかレベルの便益を与えるが、各

カテゴリーによって、関連する度合いは異なる傾向がある。しかし、概してその地域の

直接の便益は、カテゴリーの番号が上るにつれて他の便益と比例して増加する(表2.2

参照)。しかし各地域の顧客基盤は、保護区域の状況によって大きく影響を受ける。

表2.1 保護区域がもたらす便益

利用価値

直接利用 間接利用 オプション 遺産 存在

非利用価値

IUCN2000から抜粋

レクレーション/観光

流域保護 将来生まれるサイトからの情報

遺産としての利用、または非利用価値

生態的機能

植物採集 気候安定化 将来のサイト利用(間接・直接価値を創造)

自分の子孫がサイトから引き出す価値

儀式/精神的または宗教的価値

野生動物捕獲 洪水制御 他人の子孫がサイトから引き出す価値

地元/地域、または国の誇り

燃料材木採集 地下水涵養 自体/社会に経済的利益

家畜の放牧 炭素隔離 審美的観賞対象

農業 自然災害防止 遺産価値の保全

遺伝子採取 栄養素保存 自体/社会に対する芸術的価値

教育 自然の恩恵(例:生息地、動物の食物供給源)

自然の恩恵

研究

10

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

表2.2 IUCN保護区域運営カテゴリーの運営目的マトリックス

運営目的 IUCN保護区域運営カテゴリー

記号解説:1.基本的目的、2. 2次的目的、3. 潜在的目的、 - 不適用

Ia:厳格な自然保護区、 Ib:自然地域、 II:国立公園、III:天然記念物、IV:生息地・種の保

護地域、V:景観保全地域(海洋、陸地)、VI:管理された資源保護区域

出典:IUCN、1994

科学研究

自然保護

種と遺伝子の多様性保全

環境改善事業の継続

特定の自然と文化特性の保全

観光とレクレーション

教育

自然のエコシステムからの資源の持続的利用

文化的伝統的属性の保存

1

2

1

2

Ia

3

1

2

1

2

3

Ib

2

2

1

1

2

1

2

3

II

2

3

1

1

1

2

III

2

3

1

1

3

3

2

2

IV

2

2

2

1

1

2

2

1

V

3

2

1

1

3

3

3

1

2

VI

図2.2 IUCN保護区域カテゴリーと顧客タイプの関係     (Bridgewater他、1996から抜粋)

グローバルおよび 生態域

現在および 将来の見込み客

事業対象および 近隣住民

Ⅰ Ⅱ

Ⅲ Ⅳ

Ⅴ Ⅵ

保護区域カテゴリー

11

保護区域の資金調達―概論

保護区域の受益者と利用者間、および受益者相互間の両立性も、また、財務計画と保

護区域運営を成功させるために重要である。両立しない利用者グループの存在は、対立

を生み、投資を失う原因になりうる。例えば、バード・ウオッチャーは賞品目当てのハ

ンターたちと同じグループになりたくないだろうし、ハンターによって彼や彼女の活動

は妨害されるかもしれない。このような場合、保護区域管理者は顧客グループを選別す

るか、あるいはゾーニングによって利用者を分離するような管理戦略を採用し、顧客グ

ループがお互いにレクレーション・観光体験の質を悪化させないよう手を打たねばなら

ない。

保護区域の利用目的と便益は、有料財または共有財の形で利用できる公共財、私的財、

あるいは二つの組合わせと考えることができる:

公共財は、その提供に排除性がなく分割できない財、またはサービスであり、一

旦それが提供されるときには、すべての人が利用できなければならないことを意

味する。保護区域で造られる公共財の事例には、流域保護、炭素隔離、絶滅の危

機にある生息地がある。

私的財は、排除的であり分割できるものである。すなわち、一度誰かに提供され

た時には、特定の人だけが利用できるものである。その事例には、規制のある狩

猟、魚つり、材木以外の森林生産物がある。例えば、一度、動物が猟の獲物にさ

れ、魚が釣られ、森林生産物が採取されて特定人のものになると、他の誰もそれ

を利用することはできない(すなわち分割できない)。

有料財は(例えば保護区域の入場制限)、排除的であっても良いが、分割は出来な

い。有料道路の場合と同じである。

共有財は分割できるが、排除的でない。共有財へのアクセスは誰でも可能である

が、一度利用されると、他の誰もそれを利用できない。例えば、保護区域の中で

個人的使用のために薬草を採集することは、誰でも許されるが、一度採集される

と、他の誰もそれを利用できない。

表2.3は、これら4カテゴリーの関係を示す。

保護区域が提供する財とサービスの本質を理解することは、潜在的な資金源を特定す

るために不可欠である。保護区域が提供する純粋な公共財は、伝統的な政府予算、海外

開発援助、あるいは基金の補助金であっても、公的な資金を必要とする。一方、私的財

の視点では保護区域は商業化され、したがって、観光投資や狩猟料やライセンス制度の

表2.3 財とサービスの性質

分割不能 分割可能

非排除的

排除的

公共

有料財

共有財

個人

12

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

ように民間から資金を得ることができる。有料財もまた、入場料のような制度で民間資

金を得ることができるが、共有財では公的資金と民間資金の組合わせが必要かもしれな

い。保護区域はあらゆるタイプの財とサービスを提供しており、不十分な公的資金の配

布を受ける保護区域管理者は、政府財源と民間資金源の両方から資金調達を考える必要

が生じる。

いくつかの国では、収入政策として、決定的な相違がある公共財と私的財を統合させ

ている。例えば、カナダ公園局の収入方針は、税金収入は国立公園と国定史跡の設置と

保護のために使用し、追加される個人的サービスや商業的便益に対しては、それを利用

する者が代金を支払うべきである、としている。公園や遺跡の文化的遺産の紹介プログ

ラムなど、公共の利益と個人的利益の両方をもつサービスでは、税金をベースにした歳

出金と料金を組合わせた方式で資金を調達すべきである(Parks Canada, 1998)

最後に、保護区域の財務計画は、当然、保護区域が存在する状況に深く関係するはずで

ある。下記の要素は、保護区域管理者が選択できる財務手段と密接に関連する:

保護区域の広さとカテゴリー

保護区域内のゾーニング規則

法令規定を含む管理責任

土地の所有権と関連する資源と特性

地域格差(例えば、周辺住民の規模と社会経済的特徴、あるいは現実の政治情

勢);

バッファー・ゾーンを含めて区域外のゾーニング規則;

国際的な指定(例えば、世界遺産、ラムサール保護区、生物圏保護区の指定)

これらの要素は、保護区域の運営のあり方、保護区域の財政に寄与できる方法と顧客

層、保護区域に資金を導入する機会に影響を与える。例えば、人口密度の高いバッファ

ー・ゾーンを抱える保護区域は、遠隔の地にある保護区域よりも、より多数の資金源を

地域社会から確保できるかもしれない。多くの国際的指定を受けたサイトは、より強力

な国際的援助団体を取込めるかもしれない。不安定な政治情勢は、資金を増やす計画の

障害になるかもしれない。

要約すると、保護区域が効果的な財務計画を作成するには、以下のものが必要であ

る:

1.運営計画

2.保護区域が創出する一連の便益の検討

3.公的および民間の利用者、受益者の特定

4.便益の提供を促進または阻害する制度的特徴の再検討

2.3 正当な対価の収受保護区域の潜在的利用方法、関係する受益者、これらの妥当性を確認した後に続く次

のステップは、保護区域が提供する財とサービスに受益者が対価を払う方法の確立であ

13

保護区域の資金調達―概論

る。本書は、保護区域管理者に、公的、私的なすべての資金源を求めるために努力する

ことを強く勧めるものである。保護区域管理者は、自分たちの公的な顧客と民間の顧客

の双方に奉仕し、適切な財務の仕組みを介して、相応の報酬を受取る必要がある。

世界の保護区域は、歴史上、基本的に公共財として便益を提供するために運営されて

きた。その結果、保護区域制度は細るいっぽうの公的資金と支援団体からの補助金にあ

まりにも頼りすぎることになった。政府と支援団体は、保護区域が提供する公共の便益

に対する社会的費用の負担者として、このような資金供給を続けることは重要である。

国レベルでは、この資金は流域保護のような間接利用の便益提供と結び付いているが、

地球レベルでは、絶滅の危惧がある生物多様性の重要な生息地の保護のように、存在価

値から生じる便益に関連する。しかし、多くの保護区域制度は、公共財として政府機関

によって運営されているので、利用可能な私的財やサービスから常に利益を得るわけで

はないし、またそれを許されてもいない。保護区域から私的財を得ようとする顧客は、

しばしば締め出されるか、さもなければ無料で入手したりする。本節は、保護区域の顧

客グループを観察し、彼らが保護区域に提供を求める各種の財とサービスに対して、い

かなる方法で適正な支払いができるか、を検討する。

保護区域の顧客は、おおむね四つのグループに分類できる:

1.顧客としての近隣住民

2.事業対象の顧客

3.生態域顧客

4.グローバル顧客

四つの顧客グループそれぞれは、以下、詳細にわたって述べるように、保護区域に異

なる価値を見出し、そこから異なる便益を引き出している。これら顧客グループの関心

を理解することによって、保護区域管理者は、彼らの様々な要求に応えて資金源を確保

することができる。

当然ながら、単独の保護区域がこれら顧客グループのすべてに財やサービスを提供す

ることはできないし、そうしようとすると顧客グループ間に対立を起こすかもしれない。

従って両立できる収入のポートフォリオを考えることが重要になる。先に、保護区域を

ショッピング・センターに例えたとおり、様々な顧客の間で摩擦が起きうる利用法を一

時的に、または地理的に分離するような運営をすべきである。例えば、写真撮影サファ

リの客は、ライオンが狩猟サファリで射殺されるのを見たいと思わないだろう。ある研

究によると、自動車利用の訪問者と徒歩などの訪問者は、お互いに分離して欲しいと考

えるのが普通である。一般に、少グループは大グループを避け、異なる価値観の訪問者

も交じり合うのを避け、対照的な行動をするグループも相互に避けたいと思うものであ

る。

2.3.1 顧客としての近隣住民

保護区域は多くの近隣住民を抱えるが、彼らは直接、間接両面の便益を得ているので

14

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

保護区域を大切にする。多くの保護区域には住民が住んでいるので(特にカテゴリーV、

VI)、近隣住民の用語は、保護区域内に住む人々も含むものと理解されなければならな

い。地域内でも外でも、この近隣住民は、地元社会と地元企業両方を含む。

地元社会は、潜在的に保護区域から多くの便益を引き出す。保護区域の産物を採取す

ることが許される所では、これらの産物を直接消費したり、販売することで利益を得る

ことができる。地元社会が保護区域から採取できる産品には、魚、薪材、籐、建材、萱、

野生動物、食材、文化的・宗教的意味のある物、薬などがある。これらの産物を地元社

会とその活動に利用することが法律で許されている所では、保護区域は、採取権に対価

を徴収できる場合があるかもしれない。さらに近隣住民は、レクレーションの場として、

また牧草地、通り道、飲料水源として、保護区域を尊重するかもしれない。このような

場合、地元社会から立入り権に対する代金を徴収するのが適当かもしれない。しかし、

新しい料金賦課や料金値上げの社会的影響を検討し、モニターしなければならない。利

用料賦課の前後や途中で関係者と協議する課程を持てば、常にこの仕組みに対する地元

の支持を最大限に高められる。

保護区域の周辺によく発達した不動産市場があるところでは、保護区域の設置や運営

の成功によって、近隣の不動産価格は上昇するかもしれない。例えば、保護区域の設置

は、時として近隣地域(あるいはカテゴリーV地域の保護区内)の不動産価格の上昇を

もたらしてきた。このように不動産所有者は、保護区域の存在から、まさに現実の経済

利益を得ることができる。私有不動産が譲渡されるとき、あるいは家屋所有者にサービ

スを提供するときに課される財産税は、このような価値の一部を保護区域のものにする

仕組みである。

地元住民は、また、保護区域に関係する雇用機会から利益を得ることができる。レイ

ンジャー、指導員、ガイド、マネージャー、管理人、会計係、売店店員など保護区域に

よる直接の雇用も発生する。彼らは、ホテル、レストラン、土産店、工芸品店や調査機

関など、保護区域に依存する事業からも雇用の恩恵を受けることができる。保護区域管

理者は、保護区域内外の事業者から収入配分を受けることは可能かもしれないが、この

ような代金としては直接の利益を得ることはできないだろう。「公園友の会」の寄付活

動や慈善行事のような地元民ボランティアの構想は、近隣住民を保護区域の支援者にす

ることができるもう一つの方法である。

地元企業の多く(例えば、ホテル、レストラン、土産店、工芸品店など)は、その保

護区域との地理上、営業上の関係からもたらされる売上げから利益を得る。これは、特

に保護区域が観光と両立する方法で運営される場合に当てはまる。これら企業は、自分

たちの利益を増進するために保護区域への投資に関心があるかもしれない。このような

投資から生まれる潜在的利益を吸収する仕組みがある。地方税はこの仕組みの一つであ

るが、もう一つは自主的な‘ビジター・ペイバック制度’である。それは商品やサービ

スを購入する訪問者によって自主的に税金が納められるというもので、その収入が保護

区域の支援に充当される。保護区域管理者は、多くの企業に保護区域内の事業を許可し、

15

保護区域の資金調達―概論

事業者にその権利に見合う代金を請求できる(営業権制度)。保護区域は、会社数社に

よる入札制度を採用すれば、競争によって営業権の価格が引上げられ、さらに収入を増

やすことができるかもしれない。

保護区域管理者は、地元企業や園内売店で販売される一連の関連商品を市場に出すこ

とができる。このような販売であがる利益の一部を、保護区域に還元することが考えら

れる。このような商品群は、保護区域の特徴や自然の産物と結び付いている。例えば、

蜂蜜、古来からの薬、土地特産の種子、ハーブ食品などである。また、自然解説ガイド

ブック、絵本、ビデオ、あるいは園芸用品、小鳥巣箱と餌台等の自然商品など、サイト

に関連する教育的資料を販売するのも適切である。

保護区域は、保護区域と直接関係はしないが、その区域に貢献することに関心がある

企業からも収入を得るための基金を設けることができるかもしれない。企業は、保護区

域内の特定の開発計画やイベントのスポンサーになるかもしれない。例えば建築会社は、

新しいビジター・センター、橋や歩道の建設に、喜んで資材、時間、資金を寄付してく

れるかもしれない。一方で、写真スタジオは自然写真の展示の資金を出し、あるいはオ

ークションのために保護区域の写真を進んで寄付してくれるかもしれない。同じような

プロジェクトは、地元の芸術家や工芸家と共に実施できるかもしれない。

2.3.2 事業対象の顧客

観光客、ハンター、バイオ資源探索者、映画制作会社など保護区域の事業対象たる顧

客は、直接利用の便益を引き出す。入園料と利用料は、このような収入を獲得するため

の、より伝統的な二つの手段であるが、いくらか新機軸も必要かもしれない。寄付金箱、

器材レンタル、特別ツアーまたはパッケージ、その他の手段も訪問者からの収入を増や

すために利用できる。

保護区域管理者は、保護区域にとって適切な市場を特定し、開発するために多くの時

間と資源を投入する必要がある。この作業は、観光地の場合に実施されるのに似た正式

の市場調査を含んでいるが、その方法は常に、保護区域の目標と目的の明確な理解に基

づいたものでなければならない。保護区域の基本目的を堅持しなければ、管理者は、保

護区域の目的と相容れない顧客基盤を開発し、その結果、自分たちが保護しようとする

資源そのものを損なう危険がある。さらに、その保護区域の目的を明確に知ることは、

市場調査の焦点を絞ることにも役立つ。例えば、保護区域の目的が消費者教育を含むも

のであれば、市場調査は、ガイド付きのツアーや特別企画のコースなどより形式張らな

い非公式な教育体験の市場と合わせて、学校や大学のニーズを調査するだろう。

一旦、事業対象になる潜在顧客の市場範囲が特定されれば、適切な商品が選択できる。

それには以下の事項が前提になる:

保護区域のニッチ分野、あるいは競争力優位分野を理解すること。

様々な事業対象顧客グループ同士の間でも、事業対象顧客と他の顧客グループと

の間でも、多様な利用目的が両立すること。

16

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

能力開発の可能性を含めてスタッフの特別な能力、またはその限界を知ること。

地元社会の利益、および地元社会にもたらされる可能性のある二次的利益がある

こと。

生み出しうる収入額。

増大する利益が、公園および地元社会内部にもたらす影響を理解すること(例え

ば、コミュニティ内部に社会的・経済的な不公平を生み、あるいは拡大する営利

企業は、社会にとっても保護区域にとっても有害かもしれない)。

商品を開発し、宣伝販売するためには、保護区域に対する理解を広める運動が必要に

なるかもしれない。そのためには従来型のリーフレットやパンフレット、新しいもので

はインターネットのような電子的手段を使うことが出来る。市場が裕福層や高級客層に

限定されるような特殊な場合には、キーパーソン個人との直接の対話にエネルギーを使

う必要があるかもしれない。例えば、保護区域管理者が映画会社の仕事を獲得したいと

きには、映画制作者と1対1の対話に力を注ぐ必要がある。

最後に注意事項として、商業的市場は、保護区域管理者の力の及ばないところで大き

な変動に見舞われる。趣味や流行の比較的小さな変化、または経済や安全環境のより大

きな基本的変化(例えば、崩壊に近かったアジア経済やフィリピンの一部の社会不安)

は、保護区域の顧客基盤に大きな影響をもたらす。顧客基盤の拡大を計画したり、幅広

い直接利用者と他タイプの顧客層を含めることにより、ある程度このような現象に対処

することができる。

2.3.3 生態域顧客

保護区域の生態域顧客の基盤は、流域の下流や他のエコシステム機能の受益者、治水

や防風の便益を受けている人々、栄養素保全、微気候効果の受益者を含む。最初のステ

ップは、顧客層と彼らが享受する便益を特定することである。それには、間接的に利用

される保護区域の財とサービスの特定を必要とする。この種の財とサービスの間接的な

性質は、しばしば、その収入を特定し、確保することを困難にする。生態域顧客の多く

は国外に住んでおり、実際にそこを訪れることもないので、彼らの得る便益を評価し、

その便益に関連する収入を得ることは困難である。

流域の便益や防風林のように間接的に利用されるものは、しばしば誰でも利用できる

公共財であるから、人々が保持する保護区域の生態域価値を把握することも困難である。

したがって殆どの場合、莫大な取引費用がかかるために、このような間接的便益の見返

りを確保することは市場の仕組みから非常に困難である。また、多くの政府は、これま

で無料で利用していたものに、改めて代金を支払うことには乗り気でない。

そうであっても、国家のためになる保護区域が提供する便益の経済価値を評価しよう

とすることは有益かもしれない。このような情報は、1回限りの配付資金や年間予算を

増やすために、政府機関、海外開発機関、あるいは多国間援助団体に対するロビー活動

17

保護区域の資金調達―概論

ボックス2.1 ニューヨーク市‐キャッツキル流域協定

ニューヨーク市(NYC)の水道の約90パーセントは、約900万人に利用されてい

るが、キャッツキルズから取水される。キャッツキルの経済にとって農業は重要で

あり、この流域には、およそ90の農業関連企業に加えて500近くの農園が存在する。

NYCが1990年9月に新しく厳しい流域規則を提案した時、地域の農業社会は、

その規則がキャッツキル地域に不当な負担を課すことになるとして、懸念を表明

した。彼らの疑問は「新たに更なる規制を課すのではなく、何故、景気を刺激す

る考え方を持って、水質を保全する方法を個人に教え、奨励しないのか?」とい

うものであった。これに対する回答としてNYCは、地域農業および林業の経済的

活力を犠牲にすることなく、水質保全を目的とした自主的なプログラムに資金を

提供するという画期的な決定を下した。基本的には、水処理に費用を使う代わり

に、NYCは、汚染物質が流域に流れ込むことを防止し、それによって追加的水処

理を不用にするプロジェクトに資金を提供する決定をした。NYCと農業社会の間

のこの提携は、「流域農業協議会」(WAC)の結成につながった。

非営利の流域農業プログラムの運営組織であるWACの議決権を持つ会員は、流

域の農民、農業関連産業指導者、NYC環境保護部(DEP)で構成される。議決権を

持たないWAC会員は、政府と民間団体の混成である。WACは、「流域企画チーム」

が提出するそれぞれの「完全農園計画」を審査し、承認する責任を負っている。

WACによると、提携関係の成功の原則には、以下の条件がある。

1.自発的参加:流域農業プログラムへの参加は、完全に任意である。農民は、

その計画導入が農業の経済的な存立を脅かすという不安を抱くことなく、自

分の農園に関わる優先課題に取組むことができる。

2.資金の全額支給:NYC DEPはWACを通じて、(a)その農園が達成できる所

定の水質目標に応じて、「流域企画チーム」の指導の下で、各農家の『完全農

園計画』の作成、(b)農園の汚染源を管理するための科学的支援、(c)すべ

ての構造変化と運営の遂行、に対して資金全額を支給する。

3.政府機関のパートナーシップ:コーネル大学生協エクステンション、土壌・

水質保全地区、米国農業省自然資源保護局から専門スタッフが派遣される。

チームとして働きながら、スタッフは『完全農園計画』の作成に農民と協力

する。この各機関混成の流域企画チームは、NYC DEP、ニューヨ―ク州環境

保護部、州水資源研究所を通じてコーネル大学から科学的、技術的な支援を

受ける。

4.地域社会の指導力:NYC DEP代表と、主体になる流域農民と農業関連産業指

導者で構成されるWACは、流域全体にわたって農民およびNYC DEPとの間

で密接な対話ができる仕組みを維持している。

18

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

に役立つ(Barbier, Acreman and Knowler, 1997)。その上、革新的な考え方や地方政

府機構の組織再編が、時には、このような間接的便益を把握するために利用できること

もある。生態域価値を把握する古典的な事例は、ボックス2.1で紹介される。

2.3.4 グローバル顧客

自然システムは相互に依存しているために、現在世代と未来世代は、共に環境保護活

動から利益を受ける立場にある。自然地域とそれらに関連する生物理学的な構成部分は、

我々の生存に不可欠なものである。それらは、まさに地球資源である。グローバル顧客

は、通常、しばしば代金を支払うことなく、これらの無形の便益を受取る顧客である。

これらのグループにアクセスする戦略を開発するためには、制度上異なるグループを分

けてグローバル顧客を眺めるのが有益かもしれない。例えば、政府間組織、ドナー、自

然保護運動組織である。保護区域の資金計画は、これらグローバル顧客が持つ価値観と

彼らに提供する便益を確認しなければならない。

保護区域と生物多様性に代表される全地球的な価値は、大多数の国で承認され、いく

つかの国際協定が結ばれた。保護区域は、以下の機関で重要な役割を果たしている:世

界遺産条約(WHC)、生物多様性保全条約(CBD)、絶滅危惧種の野生動植物の国際取

引に関する条約(CITES)、移動性動物種条約(CMS)、ラムサール湿地条約、である

が、気候変動条約にも関係するかもしれない。これらの各条約で条約署名国政府は、グ

ローバル顧客のために自然資源の保護を公約した。さらに、これらの条約署名国は、共

通の利益のために自然地域の保護を強化するだけでなく、その活動を支援する仕組みを

提示する。以下の各条約に関して、より詳細な情報は記載されたウエッブサイトから入

手できる。

生物多様性保全条約(CBD)(www.biodiv.org)

既述のとおり、CBDは、生物資源を保護し持続可能な方法で利用するために、それを

現状のままに残す活動に不可欠のものとして保護区域を認定する。CBDは、その履行上

の主導力を支える資金調達の仕組みが完全に構築されている。事実、地球環境ファシリ

ティ(GEF)は、グローバル顧客の利益のために、CBDの目的に沿った国の活動を補う。

GEFについての詳細情報は、本報告書のパート3を参照のこと。

移動性動物種条約(CMS)(www.wcmc.org.uk/cms/toc.htm)

CMS署名国は、多くの動物種が政治的な国境の存在に関係なく移動し、その生活歴

から一つ以上の国にまたがって営利的利用による被害を受け易いので、その保護のため

に政府間協力が必要なことを理解している。本条約は、種と生息地の両方を保護するに

よって、その移動範囲をカバーする絶滅危惧種の保護を規定する。保護区域は、多くの

移動性動物種の生息地を保護する上で重要な役割を果たす。条約は、また、移動性動物

種の保護のための国家間の協定を支援する資金を管理する。

19

保護区域の資金調達―概論

世界遺産条約(www.unesco.org/whc/)

本条約は「全地球的に顕著な自然と文化的価値を持つと見なされる」サイトを特別に

指定する。世界遺産指定は、この地域の運営に自動的に財政支援を行なうものではない

が、特定の環境に置かれた途上国を支援するために世界遺産基金が設けられている。よ

り重要なことは、この権威ある指定が、厳格な規準に合致する必要があることであるが、

保護区域の地位を強化し、営利的(観光)にも非営利的(博愛的寄付)にも資金調達に

役立つことである。特に、その指定によってGEFや国連の資金、その他の多国間、2国

間資金を引き込むことができる。

絶滅危惧種の野生動植物の国際取引に関する条約(CITES)(www.cites.org)

本条約は各種の規制手段によって絶滅危惧種を保護することを目的とする。保護区域

は、絶滅危惧種の保護と復活に不可欠な部分であるから、CITESは、種の復活と保護の

効果的な手段として保護区域の普及を促進する力になる。

ラムサール湿地条約(Ramsar)(www.ramsar.org)

ラムサール条約は、一般的な国際プログラムと指定プロセスの活用を通じて、特定の

生態系、すなわち湿地の保護を目的とする。世界遺産の指定と同様に、ラムサール条約

は世界的なサイトに格式を付与する。またラムサール条約事務局は、科学研究とサイト

管理の指導の両方を含む湿地保護の骨組みを示し、同時にラムサール賞とラムサール小

額助成基金を含む特定の資金供与制度を持っている。

気候変動に関する包括条約(www.unfccc.de)

気候変動に関する包括条約は、世界各国の政府が協力して地球気候の変動から生じる

多数の問題に対処する試みである。この条約の一つの重要な点は、「共同実施協定」の

コンセプトで、それによって各国が森林保護、管理を促進する手段になる森林再生や森

林保全などの活動に力を注ぐことが可能になる。この条約による*「クリーン開発メカ

ニズム」は保護区域に役立つ資金源を提供する可能性がある。

*訳者注:開発途上国自らが、温室効果ガスの排出削減などの事業を行い、自国の環境保全的な開発

に役立てると同時に、この事業によって生じるガス排出量を先進工業国に有償譲渡し、先進工業国の

温室効果ガスの削減量に繰り入れる制度。

要約すると保護区域の顧客が誰であるか、および、彼らがいかなる方法で保護区域に

対価を払ってくれるか、について理解することが財務計画を作成する重要なステップで

ある。ここで提示された基本的枠組みは、保護区域から受ける便益のタイプに基づいて

顧客を識別可能なグループに分類しようとするものである。各保護区域は、上記の顧客

グループのどれかに便益を提供している。どの顧客グループが比較的大きな便益の配分

を受けるかは、保護区域の運営目的によって定まる。これら顧客から資金を調達する仕

20

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

組みを開発するためには、戦略的な財務計画において、保護区域が提供する(運営目的

に基づいて)財とサービス、そしてこれらの財とサービスの顧客基盤との関係を研究す

る必要がある。次節は、それによって資金確保が可能になるかもしれない有効な資金調

達の仕組みを検討する。

21

ひとたび保護区域の潜在的顧客基盤が特定されると、次のステップはこの顧客グルー

プから資金を得るために、多くの選択肢の中からどのような仕組みが利用できるかを決

定することである。この選択は以下によって左右される:(a)目標とする顧客のタイ

プ;(b)保護区域によって提供される便益;(c)保護区域運営の制度的構造。地域

の文化的規範や法律制度も、適切な仕組みの選択に重要な役割を果たす。

表3.1は、様々な仕組みをリストし、それぞれの特徴を要約し、適切あるいは適用可

能と思われるケースを挙げている。本節の他の部分は、その仕組みのそれぞれをより詳

細に説明している。スペースの都合により、説明は比較的簡単にしているが、可能な箇

所では、詳細な情報が何処で得られるかについて案内をしている。

3.1 政府支出金中央政府や地方政府からの支出金は、伝統的に保護区域を支える大黒柱であった。一

般に、これらの支出金は長期にわたって支給され、スタッフと運営の基礎的な費用を賄

うためのものである。しかし、しばしば、これだけで保護区域の財政ニーズを完全に賄

うには充分ではない。例えば、インフラ整備計画、スタッフの教育、特別の維持管理費

が、政府支出金により賄われることは滅多にない。予算配分は毎年行なわれるが、この

ような年次計画は、特に年次配分額は短期間に変動しがちであり、戦略思考とうまく噛

み合わせることが難しい。この状況は、全部門にわたる予算削減が起きたときには、さ

らに困難になる。このような場合には、有力な案件であっても保護区域の予算削減は避

けられない。

本書のガイドラインは、世界の国々における政府予算の支出プロセスに関するガイダ

ンスを与えるものではない。しかし、保護区域から提供される間接的便益に対する支援

―例えば生物多様性保全や流域保護―は、基本的に国の責任であって、それを民間団体

やNGOに責任転嫁することは許されないことを、再度、強調することが重要である。

したがって長期財務計画は、保護区域が公共財であるという視点から中央政府による財

政支援の保証が含まれなければならない(たとえ、この資金を外部の資金源から調達し

なければならないとしても)。

3.資金調達の仕組み

22

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

表3.1 資金調達の仕組みのタイプとその特徴

資金源

または仕組み

内容

誰が利用できるか?

基本顧客

グループ

不利な点

利点

政府支出金

保護区域管理機関に

割当てられた政府予

算額。

国の保護区域管理機関。

定期的、反復的に入る収入。国

の環境政策の優先度に最も適合。 通常はニーズ対応に不十分。時宜に

適った、あるいは必要な時に利用で

きないこともある。複雑な予算作成

と会計規則。

事業対象

生態域

グローバル

税、課徴金、

サーチャー

特定分野の活動、販

売、または購入に課

した税、課徴金。

課税し、徴収する中央政府

(または地方政府)の権限。

徴収額は年度予算、信託基

金などに充当。

定期的、反復的収入。通常、使

途の制限はない。資源利用によ

る経済的利益から捕捉可能(観光、

水使用、狩猟・漁業、舟遊びそ

の他)。

収入確保のために不適切なアクティ

ヴィティを促進する可能性。権限付

与の特別立法を要するかもしれない。

特に、課税される選挙民の間で論争

発生の恐れ(課金の利点、目的に対

する消費者教育が必要)。

生態域

グローバル

入域料

訪問に対する料金。

通常1名、または車

一台当りで徴収。季

節や通年のパス、添

乗団体ツアーの主催

会社への課金など

様々な形態。

保護区域を管轄する機関自

体が料金徴収、法令が許せ

ば、それを第3者にも委任

できる。

定期的、反復的収入。通常、使

途の制限はない。利用者負担の

原則の具体化。アクセスおよび

過大利用の規制、保護区域内の

訪問者流入制御に活用可能。出

入り口が少ない地域で採用が容易。

訪問者の少ない区域には不適(予定

収入が集金コスト以上あること)。不

公平感発生の可能性(国民・地域住

民の料金を下げたり、1週間に1度

は無料日を設けるなどで対応できる)。

それまで無料だった地域の料金導入は、

議論を呼ぶ可能性。

事業対象

近隣住民

リース、営

業権料

保護区域に権限を持

つ機関が、保護区域

に関係する物品・サ

ービスを販売する組

織、または企業と法

的拘束力のある契約

を結び、利益の一部

や一定額を納付させ

る。

保護区域管理機関、民間保

護区、NGO、企業。

保護区域が小額の先行投資で、

サービスを提供できる効果的な

仕組み。営業権者は、利益を生

まないことがあるというリスク

を負う。営業権者は、マーケテ

ィングや事業的手法を導入する。

管理機関が資源保護に重点を置

けるよう(営業的な仕事から)

解放する。地元企業家に事業機

会を与える。

営業権者は、利潤目的の活動をし、

保護区域の価値観を共有しないかも

しれないので、慎重にモニターする

必要がある。料金の判断は、複雑で

困難である。適切な価格水準で訪問

者に健全かつ安全なサービスを提供

することを保証し、保護区域と企業

の双方に正当な見返りがあるもので

なければならない。訪問者が少ない

区域には不適当。

近隣住民

事業対象

23

保護区域の資金調達―概論

資金源

または仕組み

内容

誰が利用できるか?

基本顧客

グループ

不利な点

利点

物品、サー

ビスの販売

土産品と記念品店、

地図販売、ガイド、

有料ツアーの取扱い、

投錨、係留料、用具

リース、キャンプ・

ピクニック場所代、

展示会出展料などの

料金。

公園管理機関、NGO、営

業権者。

物品とサービスは、収入源と訪

問者教育・促進材料の2重の役

割がある。一般に、新たな法的

権限付与を要しない。収入額を

区域内部で保留することが容易。

物品の在庫確保、サービス提供者募

集に初期投資が必要。物品、サービ

スは保護区域の目的に関連するもの

に限るべきである。物品、サービス

を扱う他の地元業者と競合の可能性。

近隣住民

事業対象者。

環境保護運

動などに関

連するマー

ケティング

保護活動を支援した

ことを購入者が知る

ことが主たる価値に

なる、大部分が無形

の品目の販売(会費、

土地アドプション、

ホテル・レストラン

料金に自発的料金追

加など)。

NGOによって、最もしば

しば利用される。

プロモーション、教育、資金集

めの一体化。寄付には、税控除

の可能性もある。市場は容易に

特定できる(公園愛好家、NGO

会員、その他)。地元の財界を保

護活動に参加させる。

多くの保存区域は、既存市場を持た

ないので、訪問者記録などを作成し

なければならない。かなり高度なマ

ーケティング、何が売れるかの理解、

あるいは実験的アプローチが必要。

グローバル

自然保護と

債務の引換

え(スワッ

プ)

自然保護の約束と交

換で、対外債務の免

除または買い戻しを

含む取引(普通、保

護プロジェクトある

いは基金に現地通貨

を払込む)。

主役は、中央政府(財務省)、

債権を持つ国または商業銀

行、割引債務を購入するた

めに資金集めをする仲介組

織(商業的スワップで)、

国内援助組織(しばしば公

園信託基金)など。その国

は、多額の未払い商業債務

または2国間債務を負って

いなければならない。

国家債務の削減。強い通貨のデ

ット・サービスを国の基金また

は債券に対する自国通貨払いに

置き換える。ドナーは、負債証

書を額面以下で買取リ、満額償

還を受けることによって自然保

護のための投資を増加させる。

保護目的への資金の純移転。国

内保護区域信託基金への資金供

給を支援。

負債の正当性をめぐる論争を呼ぶ余地。

負債が大きく割り引かれ、または債

権者が喜んで帳消しにする場合のみ

価値がある。中央政府の政策承認と

完全な参加が必要。

グローバル

24

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

資金源

または仕組み

内容

誰が利用できるか?

基本顧客

グループ

不利な点

利点

多国間、2

国間援助団

体からの補

助金

多くの先進国には、

途上国の自然保護活

動のために補助金を

提供するドナー機関

がある。また、多く

の多国間援助機関も

ある。

中央政府が援助資金の利用

者の資格を持つことが多い。 特に、立上げ費用と保護区域運

営への住民参加のために重要な

資金源。

資金は、しばしば援助機関が関心を

持つ活動に限られ、再発する費用に

は支出されないことが多い。厄介な

申請手続きと報告義務も不利。

グルーバル生

態域

慈善団体か

らの補助金

銀行や融資機関は、

市中金利でローン提

供。

一般に非営利組織のみ利用

可能

特定のプロジェクト、あるいは

新規プログラム立上げのための

有効な資金源。「ひも付き」は比

較的少ないかもしれない。

何度でも利用できる資金源ではない。

限られた資金枠に激しい競争があり、

しばしば財政的支援の可能性が低い(ま

たは中位の)提案に、多大の精力を

注ぐ必要がある。外国語が問題にな

るかもしれない(多くの財団は、自

国の言語でしか申請を受け付けない)。

グローバル生

態域

民間団体か

らの融資

銀行や融資機関は、

市中金利でローン提

供。

準国営や民間が管理する保

護区域

ローンは、普通、最少の申請手

続きと報告義務で簡単に得られる。 融資額と経過利子は返済しなければ

ならない。途上国は、一般に高金利

であることから、長期的に必要な資

金源としては不適切で、返済不能の

リスクがいくらかあるということで

ある。いつでも可能、適法とは限ら

ない。

N.A.(融資者の

動機は利潤で

あって、保護

区域から恩恵

を引き出すこ

とではない)。

25

保護区域の資金調達―概論

資金源

または仕組み

内容

誰が利用できるか?

基本顧客

グループ

不利な点

利点

公的機関か

らの融資

国際金融公社など政

府機関や2国間援助

機関は、市中金利以

下でローン提供

一般に準国営あるいは民間

が管理する途上国の保護区

このローンも、普通、最少の報

告義務で簡単に入手できる。さ

らに低金利は、途上国の借り手

が直面する高金利問題を緩和す

るかもしれない。

このローンは一般に、先進国の保護

区域のためには利用できない。金利

を含めてローン返済の義務は残る。

グローバル

生態域

企業からの

寄付

会社のスポンサー、

または他の種類の無

償給付

公園管理機関、NGO。

施設や運営に対する国、あるい

は国際機関の支援を確保する一

般的手段。支援企業の期待は、

単純な感謝の掲示で満足される。

保護区域から利益を得る会社を、

その支援に結びつける手段(観

光業、ホスピタリティ産業)。

スポンサーを希望する会社は、保護

区域にとって関係を持ちたくない会

社であることが多いかもしれない(例

えば、資源採掘分野)。企業スポンサ

ーが得る対価については、寄付を求

めて受入れられる前に、注意深く限

定する必要がある。

事業対象

生態域

グローバル

個人の寄付

様々な仕組みで行な

われる個人の寄付

(直接寄付、会員入会、

遺贈など)

一般にNGO、時には保護

区域管理機関

ドナーの可能性がある人が現れ、

あなたは寄付をお願いするだけ

でよい。厄介な申請手続きもない。

やがてドナーの信頼感を醸成で

きる。通常、制限は付かな

寄付者になる可能性がある者とその

動機について洞察力が必要。寄付は、

特に遺贈の場合には、最終的に利用

できるまでに数年掛かることもある。

近隣住民

事業対象者

生態域

グローバル

26

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

公共的便益の提供を確実にするために充分な政府予算を確保することは、多くの保護

区域の課題である。政府はしばしば、保護区域が提供している一連の効用を認めず、そ

の価値を無視したり、低く評価する。これが実情なら、経済的評価手段は、保護区域の

財とサービスの価値の実証に役立つだろう。経済的評価の方式に関する情報は、以下で

得られる。

「保護区域の経済価値」(IUCN, 1998)は評価研究を着手するための段階的進め方

の指導を含む。これは下記でダウンロード、または購入可能。

http://wcpa.iucn.org/pubs/pdfs/Economic_Values.pdf

IUCN bookstore([email protected]

IUCN Ecosystem Valuation ウエブサイトも、エコシステム機能を評価するため

の優れた手法を教示する。http://www.ecosystemvaluation.org/default.htm

米国公園局は、「収入創造モデル」(MGM)を開発した。(公園局1995)その中で

研究者に保護区域の経済的影響を測定することを許可している。新版「MGM2」

が最近発行された(Stynes、Probst、Chang、and Sun、2000)。MGM2モデルの

目的は、保護区域訪問者の消費が、地域経済に及ぼす影響を測定することである。

経済的影響は、販売、所得、雇用、付加価値の諸項目で要約されている。両出版

物はインターネット(http://www.nps.gov/planning/mgm/)で入手できるが、

それは公園管理者にとって、訪問者の消費が地域経済に与える影響を測定する上

で役に立つだろう。

不幸にして、経済的評価に着手するために必要な経済理論やモデルに関する知識を持

つ公園管理者や行政担当者は少ない。しかし地元やその地域の大学などには、しばしば、

かなり低コスト、あるいは無料でこの種の研究を引受ける教授陣(例えば経済学やその

種の学部)が揃っているかもしれない。学生は、保護区域における経済評価の実習を完

了することで単位を取得できるかもしれない。

保護区域管理者は、政府資金を確保するために多くの戦略を用いることができるが、

その中には以下のものがある:

奨励金、あるいは政府の支出金に釣り合った金額を提供する官民提携

増大する政府支出金を支える収入を確保するために、中央または地方政府が徴収

する、税、課徴金、その他を導入するよう働きかける(次節参照)。

3.2 税、課徴金、サーチャージ、助成金政府の徴税権は、一般的に自然保護と保護活動全般を促進するための資金調達におい

て、様々な方法で利用される。国によっては、航空機やクルーズ船で入国する各旅客に

観光税を課し、入金額を国の自然保護信託会計に入れ、保護区域とその他の保護活動を

支えている国もある。他の国では、ホテルの客室料金に観光税を課し、その一部を自然

保護に充当している。税は、レクレーション用具、森林利用権、釣りや狩猟のライセン

ス、電気料金や水道料金など、あらゆる販売から徴収することができる。

27

保護区域の資金調達―概論

同様に、助成金は(財政措置を含めて)土地の寄贈や地役権(通行する権利など)な

どへの取組みを推進するために利用できるが、それによって保護区域予算の支出面の軽

減が可能になる。

租税制度を使って自然保護への資金の流れを作ることには、多くの利点がある。

1.毎年の財源が安定的、持続的に確保される。

2.支払いの負担は、保護区域訪問者に負わせることができる(例えばホテル宿泊客

やトレイル利用者)。彼らは保護区域から最も直接的恩恵を受ける人々である。

3.生まれる財源は、保護区域の運営ニーズに適合するよう利用できる。説明責任は

一般利用者に対して存在し、特定のドナーとの協議事項ではない。

4.この方法で生み出された資金は、国際的ドナーからの援助資金と釣り合う金額の

国の負担分としてしばしば使用できる。

5.普通は、新たな徴収機関を設ける必要もなく、公園スタッフに仕事を負担させる

こともない。税、課徴金、サーチャージのために、既存の組織が仕事を引き受け

てくれる。

このようなシステムの主要な欠点は、新たな課税に対して、政治的にも一般国民から

も支持を得る難しさがあること、一旦収受された収入を保護目的だけに充当し続けるこ

とが困難なことである。したがってこの制度を議会に働きかけ、立法化のために先行投

資の費用を使う場合には、そこから得られるであろう利益を天秤にかける必要がある。

この懸念は、次節で論議する利用料にも関係する。

3.3 利用料利用料の呼称は、料金徴収のいろいろな手段をカバーしており、その中には入園料、

特別な催し・アトラクションの入場料、キャンプ場、ピクニック場の利用料、駐車料、

ヨットやクルーズ船の寄港料などを含んでいる。これらの料金は、また宿泊、食事・飲

物、ガイド、貸しボートなどの営業権者にも課すことができる(この中には、事業ライ

センスの発給に対する料金や彼らが徴収する一人当たり料金に対するものも含まれる)。

下流の町に水を供給するなど重要なサービスを提供する公園は、利用料を水道や電力利

用者から税や課徴金によって収受することが出来るかもしれない(3.2節参照)。

政府からの支給額と同様、利用料が保護区域の資金を提供してきたのには長い歴史が

ある。伝統的に利用料は、公園と公園制度予算全体にとって比較的小額の資金しか提供

してこなかった(通常5%以内)。しかし近年、この資金調達の仕組みは先進国でも途

上国でも、減少する政府予算に代わってますます利用されるようになった。保護区域管

理者は、利用料の将来性を理解する必要がある。

利用料から生まれる潜在的収入は、訪問者数と利用レベルによって様々であるが、利

用料と課徴金の上手な組み合わせによって、その区域の運営費の半分までを賄える収入

額になる場合が多い。北米、アフリカ、南米などの利用者が多い公園では、自身の運営

28

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

費を充分賄うだけでなく、国の保護区域制度の中で、訪問者が少ない他のサイトの補助

金までも負担している。

利用料の利点としては:

仕組みの設定に費用が掛からず(料金徴収に全く費用が掛からないわけではない

が)、多くの利用者に馴染み深い。

利用者の多い公園ではかなりの収入が得られる。

管理手段として利用できる(例えば、過密、オーバーユースを防ぎ、季節による

繁閑を平準化する)

利用者負担の公平性を推進する(直接の恩恵を受ける利用者だけが支払う)

民間部門との不公平な競争を減らす(すなわち、私的財を民間部門と同じ価格で

提供する)

その区域がその運営費用の相当部分を生み出していれば、国庫や国際ドナー、民

間ドナーに対して、保護区域の資金調達を支援するよう促すことになる(天は自

らを助くるものを助く)。

しかし利用料制度を設けることの危険もある。それは:

無料で入園していた支持層を遠ざける。

伝統的に利用してきた人々が他所に移動する原因になる。

利用者により高レベルの施設設置への期待を生む。

一部の住民の利用を制限することになる(例えば、低所得層)

管理者が、間接的な利益よりも直接的な利益を、訪問者のより少ない区域よりも

より多い区域を、重視するようになる。

このような重大な危険が発生する可能性については、次の3.3 .1節でより詳細に論じ

る。

保護区域は、自ら大きな収入をもたらす施設を運営するけれども、いくつかの地域で

は、公園内のリゾート施設やロッジ施設を民営化する傾向が見られる。このような進展

は、社会全般の動きを反映したもので、特に過去十数年の傾向である。多くの政府部門

は「公共財」の理念を捨てて、事業的手法に経営姿勢を転換した(Crompton, 1998)。

これら民間事業者に与えられる営業権は、大きな収入をもたらす利用料の一形態であ

る。営業権による事業には、ギフト・ショップ、土産品、食品・飲料販売、用具のリー

ス(賃貸)や販売が含まれる。理論上は、公園全体の運営を含めて、保護区域のあらゆ

る機能を営業権者に委ねることも可能である。しかし保護区域が提供する公共財の便益

がもつ重要性から、公営の保護区域の場合、政府はその運営に密接に関与しなければな

らない。営業権を管理する上で特に困難な課題の一つは、資源を利用して得られる営業

権者の利益と保護区域管理機関に還元される利益の間に公正なバランスを設定すること

である。多くの利益が営業権者に流出するとしても、公園管理者にとって重要なことは、

資源が過度に利用されたり、被害を受けることがないよう、また利益追求を重視して保

護、管理機能が疎かにならないよう、確実に運営を制御できる充分な権限を持つことで

29

保護区域の資金調達―概論

ある。

リース(賃貸)も収入を得るために利用される。リースは、個人や団体に対して約束

した料金と約束した期間、土地や海域を利用することを承認する。伝統的に保護区域は、

鉱物採掘、石油採掘、森林事業、放牧、農業用にリースされてきた。しかし収入確保が

肝心の保護目的と矛盾していないかについて、厳格な注意を払う必要がある。リースし

ても環境被害の可能性が比較的少ない利用目的には、倒木の収集、装飾用の植物、種子、

果物の採取がある。

利用料は、また、特別保留地や許可証(たとえば奥地のハイキング、キャンプ場使用)

からも、ボート、ピクニック小屋の利用料、係留料、トレイル利用料としても徴収でき

る。保護区域の中には、企業が広告、映画、ポスターその他の背景やロケに利用する場

合に‘宣伝料’として料金を徴収する所もある。電波中継塔、海中の足場、研究拠点な

どの施設を建てたり、利用したりする場合にも料金を請求する。

多くの保護区域は、本屋やギフト・ショップで商品を販売し、ガイド付きのハイキン

グ、川下り、自然解説、博物館、展示、映画や娯楽、用具賃貸、地図、ガイドなど利用

者が代金を支払うサービスを提供することで収入を得ている。

3.3.1 利用料に関する注意事項

利用料は、切実に求められる収入確保に有用であるが、この資金調達の仕組みには、

いくつかの危険が潜んでいる。その一つは行き過ぎた商業主義のリスクである。利用料

を重視する保護区域は、本来の保護目的の視点を見落として、自然資源を保護するより

も収入を増やすための施設を過剰に開発しようとする。この他のリスクには、希少な資

源を保全よりも収入確保のために利用することで、物議を醸したり国民の反対運動を招

き、また保護区域が利用料を徴収すれば、利用者が被害にあう事故の責任を問われる可

能性は増大する(Leclerc, 1992)

さらに最近の調査は、利用料に対して人々がいかに反応するかを、別の角度から洞察

している。特に地元の利用者からは、利用料に対する支持が最も低く、以前は無料また

は低コストで入手できた財やサービスが得られなくなったことに対してとりわけ不満を

持つように見える。また、地元の利用者は、しばしば、保護区域訪問者の最大多数を占

めるので、不当な料金負担を負うかもしれない。保護区域管理機関が学ぶべき最も明確

な教訓の一つは、公園は、21世紀に生き残るために地元住民の支持を得なければならな

い、ということである。そうであれば利用料戦略が、彼らを疎遠にするかもしれないの

は困ったことである。確かに、前世代の人々が無料で得ていたサービスであり、永年に

わたり保護区域の維持保全を実際に支援してきた人々対して、利用料を新しく設定する

ことを正当化することは難しい。この調査が示唆したことは、料金制度が発効する前に、

利用料の影響を受けるかもしれない地元の人々と実効ある対話を行なう必要があるとい

うことである。地元民は、特定の物やサービスに対する相応の利用料が自分たちの利害

と最もよく合致することが示されるなら、その設定を支持するだろう。例えば、もし利

30

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

用料の徴収開始が重要な資源の長期的な保護に繋がり(例えば公園内に発見された薬

草)、地元社会にも利益をもたらすことを保護区域の管理者が示すことができれば、利

用料も受入れられるだろう。

事実、一般原則は、公園は新しい料金やその増額を正当化しなければならないという

ことであり、収入を生むこと以外に明白な理由がなく料金制度を導入することは、地元

民、外国人を問わず、いずれの利用者の支持を受けることは難しい。増加する収入をど

のように使うかについても計画策定が重要である。人々は、一般収入として他の場所で

使われるような資金集めよりも、保護区域の自然保護やレクレーション機能に関連する

料金制度を、支持する傾向がある。例えば、保護区域の生態系の健全性を高めるプロジ

ェクト、危機にある野生動物の生息圏を保護するプロジェクトを支援するために、ある

いは、公園を訪問者にとってより安全、快適な場所にするために、人々は費用を支払う

だろう。このように、保護区域管理機関が利用料で取得した収入を、例えばその75パー

セントを保護区域内で利用できるなら、世論はこのような料金設定を支持するだろう。

この支持は、利用料によって(その支払いの前後、途中)公園の特定の改善が実現でき

たことを利用者に伝えられれば、さらに容易に得られるだろう。例えば管理者は、苦労

して得たお金は皆が楽しく訪問しているその場所で有効に使われていることを利用者に

知らせるために、新しい、あるいは改修されたトレイルについて、その起点に掲示板を

設置することができる。

利用料が公正か否かについては、利用者が判断する。人々は、他の地域で特定の(ま

たは関連する)品物やサービスに支払った過去の経験から、類似の物品やサービスの比

較をすることで、その公正さを判定すると思われる。このように公園のキャンプ場に20

単位の料金を支払うことは、例えば民間の同様な場所が10単位であった場合、あるいは

以前のキャンプ場では10単位であった場合には、その利用料は支持されないだろう。ま

た、調査結果が示唆するところでは、人々は現行料金が相応に上昇するよりも、最初に

料金を支払うことに抵抗を感じる。例えば、保護区域のキャンプ場が以前は無料であっ

たり、公園外では一般に無料であったりすると、利用者は新たなキャンプ場料金は不公

正だと考えるだろう。そして施設を全く利用しないかもしれない。いずれの場合でも、

物品やサービスの料金が上昇すれば、品質や基準について利用者が持つ期待のレベルも

高まる(McCarville, Reiling and White, 1996;More, Dustin and Knopf, 1996;Barton,

1998)。

料金構造は、金払いのよい外国人を優先して地域住民を無視すべきではない。また、

一般人のアクセスを制限するような印象を与えるべきではない。したがって、いくつか

の保護区域は、地域住民に割引料金を設定したり、特定の日や特別イベントに無料の入

園を認めている。例えばインドでは、国の保護区域や世界遺産サイトの多くで、二つの

料金体系からなる制度を設けた。だからタジマハールを訪れるインド人は、入園に約

0.5米ドルを支払うが、外国人は20米ドル以上を支払うことになった。事例証拠が示す

ところでは、この料金値上げがあっても、タジマハールを訪れる訪問者の数は変らない

31

保護区域の資金調達―概論

が、彼らは、アグラ地域の滞在期間を短縮し、市内のそれほど有名でない他の場所を訪

れる熱意も薄れている。もしこの料金変更の結果、アグラ地域周辺の観光施設、ホテル、

レストランが自分たちの利益が減少したことを証明でき、それで地域の税収も減少した

ことになれば、この新しい料金構造は地元の支持を失うかもしれない。このような料金

値上げを正当化する根拠が示され、そして増加した収入の一部が連邦政府の国庫に入る

のではなく、タジマハール(あるいは同様な文化遺跡)で使われることであれば、比較

的高率の料金値上げがさらなる賛同を得るのに役立つだろう。

保護区域制度が地域の観光収入の基礎になっているところでは、適切な利用料の設定

は非常に重要になる。入園料は、一般に旅行費全体から見ると比較的少額であるが、旅

行・観光産業は世界市場を相手にするものであって、そこで国同士の競争が行なわれて

いる。このような競争市場では、費用や価格に対する不適切な戦略は顧客を逃すことに

なるかもしれない。訪問者に対する大きな料金値上げを実施する前に、何らかの市場テ

ストをすることを勧めたい。

利用料の設定に費用が掛からないわけではない。たとえば契約締結業務、料金所の設

置と維持、設備、関連する管理事務用備品が必要である。費用の増加は、関連する要員

訓練、保安、広報の費用とともに、会計と管理、データ処理、報告作成の形で現れる。

入場料など簡単な利用料制度は、直接あるいは第3者を通じて徴収される複雑な様々の

サービス料よりも、履行費用がかからない。一箇所で徴収される料金は(例えば、出入

口やトレイルの起点が一つ)、多くの場所で徴収しなければならない場合よりも、はる

かに運営が容易である。

最後に、利用料の設定にともなう先行費用が必要なことが多く、収入流れが出てくる

までに長い時間がかかるかもしれない。2国間、多数国参加の国際機関や支援者からの

短期ローンや寄付は、設立当初の段階で有用かもしれないし、彼らは長期にわたり持続

できる財政的安定の見通しに魅力を感じるのかもしれない。

3.3.2 利用料設定に必要なステップ

税や課徴金の場合と同じく、保護区域の資金調達の仕組みとしての利用料の有効性は、

保護区域の運営に関する法制によって、ある程度左右される。理想的には利用料が徴収

される保護区域制度あるいは個別の保護区域のために、その収入ができるだけ多く利用

できることである。しかし国の法律は、しばしば、政府機関の収入は国庫に還元するこ

とを規定しており、それによって保護区域の運営資金を保持できる半官半民、あるいは

民間組織を設置するための奨励金を作ろうとする。他の選択肢には、利用料から生じる

資金が国立公園で使用されるよう、法律改正を求める道もある。これを実現するには数

年は掛かるかもしれないが、いくつかの国はこの改正を行なっている。この種の制度は

恐らく、保護区域にとって長期的、持続的な資金調達の最良の基盤になるだろう。

上述のように、利用料の徴収を始めるには、利害関係者を保護区域の入園料の賛否を

巡る議論に参加させるための、立上げ資金を必要とする。様々な関係者グループと有意

32

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

義な対話を重ね、できる限り彼らの関心を汲み取ることは、利用料の活用における社会

的支持を最大にする上で役に立つ。また、このような料金を導入する背景にある自然保

護に関する理論的根拠を説明するためにも役立つ。

管理機関は、利用料制度の目的を規定し(特定の、あるいは一般的目的のための収入

確保、訪問者数の管理、時間と場所によって特定のアクティヴィティ・利用目的の抑制、

商業的利用の奨励または禁止、など)、その目的に相応しい料金を設定する。料金徴収

に要する費用は、費用を賄って利益が残るレベルで決定されるべきである。任意料金制

や第三者による料金徴収は、規則が100パーセント遵守される保証はないかもしれない

が、管理費が安くなるがゆえに、魅力的な選択肢かもしれない。市場分析は、現在と将

来の訪問者数を予測する上で有用であり、新たな料金制度に対する反応はモニターする

必要がある。

利用料徴収を実施することは、既存のビジター・センターで要員研修を行なうことの

ように簡単なこともあるし、あるいは公園の長期的な収入確保のためのインフラ整備に

多額の投資をすることもある。恐らく多くの場合、簡単なプログラムで運営を始め、そ

の発展を支えるほどの収入が生まれるにつれて、より資本集約的なシステムに移行する

ことが好ましいだろう。

3.4 環境保護運動に関連するマーケティング環境保護運動に関連するマーケティングとは、購入者に対して、個人として自然保護

に貢献したと感じさせることがその主要な価値である商品(その主体は無形財)の販売

である。この事例としては、特別の催し、アドプション制度、募金などがある。特別の

催しには、夕食会でのオークション(競売)、会員限定エクスカーションなどがある。

一般に、次のような条件を満たせば、このような催しで多額の資金が集まる。

賃金を支払うスタッフでなくボランティアが殆どの仕事をするよう活用されるべ

きである(小さな地域単位の催しからオリンピックのような大行事まで、特別の

催しはボランティアーの献身に依存する面が大きい)。

品物やサービスは、小額または無料で寄付される(例えば、映画、会場、食事、

飲み物、出演者、給仕)

同じ地域で行なわれる他の特別の催しと、時期とテーマにおいて衝突しないこと。

その催しには社会的訴求力があること、人気のある行事。

物品販売は、保護区域にとって大きな収入源でありえる。一般に販売促進活動は、独

自の商品を販売する者や既存の販売業者と競合でなく協調できる者が、最も成功する。

ビジター・センターは、売店や販売に最適の場所であることが多い。これを始めるには、

公園運営の代表者、関係することになるNGO、利害関係をもつ業界人を交えてブレー

ンストーミング・セッションを開くのが最善の方策である。健全な事業計画は不可欠で

ある。

33

保護区域の資金調達―概論

物品販売で成功している多くの組織は、各種の商品を試販して、よく売れた商品を増

やし、あまり売れない物を除いていく。Tシャツや帽子など衣料品、絵葉書や写真集な

どの土産品、キーホールダー、地図、ガイドブック、その他公園に関連する品物は、よ

く売れるのが普通である。可能な限り、販売商品は自然保護のイメージと関係づけるべ

きである。地元住民や訪問者が文化的に適切と認める商品だけを並べるべきである。

アドプション・プログラムも、特定のサイト、生物種やプロジェクトの資金集めのた

めに採用されている。中米数カ国のザ・ネイチャー・コンサーバンシーの仲間は、公園

保護の資金集めや寄付を得るために、保護区域内の1エーカーまたは1ヘクタールの不

動産譲渡証を販売している。35ドルから120ドルくらいで、支援者は一定の土地や野生

動物をアドプションした証明書を受取る。この証明書はクリスマスや特別のイベントで

の贈り物として人気があリ、学校の生徒がクラスで集まって1~2エーカーを買うため

に募金をすることもある。日本では、斜里町「100平方メートルの森トラスト」が設立

され、知床国立公園の中の私有地100平方メートルを8,000円(約65米ドル)で買うよう

個人、団体に働きかけた。この種のプログラムは、マーケティングが狙う対象が既に確

立している組織や保護区域ではうまく機能している(会員、土産店顧客、認可賞などを

展示販売する小売店やカタログ業者)。またこの種の制度の運営は、当然ながら豊かな

国で行なう方が容易である。アドプションによる資金集めの仕組みは、支援者と個人的

なコミュニケーションによって成功する部分が大きい。これには時間がかかるのでボラ

ンティアー・グループの助けを借り、証明者作りから発送、お礼や返信などの作業を行

なうことが有効である。

資金集めには多くの方法がある。使えるアイデアには以下のものが含まれる:

カンや小型貯金箱をレジの傍に置き、小銭を保護区域のために寄付するよう勧める。

旅行の終わりに、訪問者から残った通貨を集める。この方法としては、訪問者に

使い残し現金を入れる宛名入り封筒を渡す、空港、国際線出口、航空機内で出発

客から集めることなどがある。

公園内やその近くで掲示板を立て、自発的な寄付を求め、寄付金を預ける場所を

示す。博覧会や地域のイベントは、しばしば寄付集めの機会としてふさわしい。

各層の会員を集めて様々なレベルのサービスを特典として与える「友の会」を作

る(公園における開発状況に関する様々な情報を会員に知らせる)。友の会のマー

ケティング可能性と比較したドナーの問題は次の3.11.2節を参照)。

ボランティアを組織し、戸別訪問で募金を集める

税制が許せば、納税者が税金の一部を寄付できるよう所得税から任意の天引き、

あるいはそれを野生生物保護のために使う制度

このような資金集めのアイデアは、すべて役に立つ。支援しようとする保護区域やプ

ロジェクトの性格によって、他よりも立上げや維持に苦労が多いものがある。最も起き

易い間違いは、多すぎるほどの企画を一度に手掛けようとすることで、一つの企画に十

分な精力を使うことなく、またその真の可能性を評価しないことである。この種の計画

34

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

表3.2 自然・債務スワップ:現在までの国別実績

実施時期

ボリビア

93年5月

92年6月

87年8月

ブラジル

92年6月

コスタリカ

91年2月

90年3月

89年4月

89年1月

88年7月

88年2月

ドミニカ

90年3月

エクアドル

92年6月

92年3月

89年4月

87年12月

ガーナ

91年

グアテマラ

92年5月

91年10月

ジャマイカ

91年10月

マダカスカル

94年5月

93年10月

91年1月

90年8月

89年7月

メキシコ

96年11月

96年7月

購入者

CMB

TNC/WWF/JPM

CI

TNC

Rainforest Alliance

WWF/TNC/Sweden

Sweden

TNC

Holland

CI/WWF

TNC/PRCT

Japan

WWF/DKB

WWF/TNC/MBG

WWF

DDC/CI/SI

CI/USAID

TNC

TNC/USAID/PRCT

CI

CI

CI/UNDP

WWF

WWF

CI

CI

債務の額面

NA

$11.5M

$650,000

$2.2M

$600,000

$10.8M

$24.5M

$5.6M

$33M

$5.4M

$582,000

NA

$1M

$9M

$1M

$1M

$1.3M

$100,000

$437,000

$200,000

$3.2M

$119,000

$919,000

$2.1M

$670,889

$495,674

ドナー負担額

NA

NA

$100,000

$746,000

$360,000

$1.9M

$3.5M

$784,000

$5M

$918,000

$116,000

NA

NA

$1.1M

$345,000

$250,000

$1.2M

$75,000

$300,000

$50,000

$1.5M

$59,000

$446,000

$950,000

$440,360

$327,393

保護資金

$397,000

$2.8M

$250,000

$2.2M

$540,000

$9.6M

$17.1M

$1.7M

$9.9M

$5.4M

$582,000

$1M

NA

$9M

$1M

$1M

$1.3M

$900,000

$437,000

$160,000

$3.2M

$119,000

$919,363

$2.1M

$560,752

$442,662

35

保護区域の資金調達―概論

実施時期

96年1月

95年12月

94年11月

94年6月

94年6月

93年6月

92年1月

91年8月

91年4月

ナイジェリア

91年7月

パナマ

92年3月

フィリピン

92年2月

91年4月

90年8月

89年1月

ポーランド

90年1月

ザンビア

89年8月

注:NA・・・該当なし  M:百万

購入者

CI

CI

CI

CI

CI

CI

CI/USAID

CI/BA

CI/MF

NCF

TNC

WWF

USAID/WWF

WWF

WWF

WWF

WWF

債務の額面

$391,000

$488,000

$290,000

$480,000

$280,000

$252,000

$44,100

$250,000

$250,000

$149,000

NA

$9.9M

NA

$900,000

$390,000

NA

$2.3M

ドナー負担額

$191,607

$246,000

$248,395

$399,390

$236,000

$208,000

$355,000

NA

$183,000

$65,000

NA

$5M

NA

$439,000

$200,000

NA

$454,000

保護資金

$254,000

$336,500

$290,000

$480,000

$280,000

$252,000

$441,000

$250,000

$250,000

$93,000

$30M

$8.8M

$8M

$900,000

$390,000

$50,000

$2.3M

ボックス3.1 債務スワップの可能性を最大にする方法

財務省や中央銀行と償還の交渉をするとき、償還債務代金の最高額を要求す

る。

償還率を交渉する。たとえば額面全額か80パーセントなど、高い方がよい。

現金、債券、満期になるまでの期限、金利など償還方法の選択肢を検討する。

償還される債務の価値を保持するために、ハードカレンシーにインデックス

された預金勘定を国庫内に持てるよう努力する。

良い債務を求めて探す。トレーダーや投資銀行と交渉し、割安で交換できる

債務を見つけるよう努力する。

反復して資金源として利用できるよう、一定額を割賦提供できる仕組みを検

討する。

36

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

は一度立ち上がれば、その成功度、あるいは不成功度をモニターし、得られた教訓を次

に活かすべきである。保護区域運営そのものと同様、このような資金集め運動にも順応

できる運営体制が必要である。

3.5 自然保護と債務のスワップ最初の自然保護と債務のスワップが行なわれた1987年以降、1.25億ドルの資金が、こ

の自然保護の仕組みを利用して集められた。この資金の多くは、自然保護基金や特定保

護区域への基本財産に組み入れられた。

前の表3.2は、自然保護のために世界中で実施された債務スワップの実績を示す。表

には債務スワップの時期、債務が借り替えられた国、購入者の名前(NGOまたは政府)、

債務の額面価格(実際に相殺された金額)、債務相殺にドナーが負担した費用、生み出

された自然保護資金である。これまでの受益国の多くはラテン・アメリカとアフリカに

所在するが、この仕組みは、重い債務に悩むどの途上国でも活用できるだろう。

一般にスワップは、その国が返済されていない債務を抱えるときに実施できる。特に

商業債務の返済を待つことにうんざりした債権者が、それを割引価格で国際流通市場で

売却しようとする場合が普通である。この市場の割引率は20,50,80パーセントにもな

り、環境保護NGOなど買い手を誘引する。債務を手に入れた買い手は、債務国と接触

し、額面価格で、あるいは債務を購入した時に実際に使われたハードカレンシー(外貨

と交換可能な通貨)の価値よりも高い交渉価格で、現地通貨による償還を要求する。そ

の債務国は、ハードカレンシーの債務を免除される恩恵を受け、買い手が保護団体なら、

この方法で取得された現地通貨を財源として保護区域は利益を得ることができる。

自然保護・債務スワップは、巨額の現地通貨を生み出すが、NGO、保護区域、信託

資金管理者は自然保護・債務スワップの実施を決定する前に、多くの要素を検討しなけ

ればならない。それはうまく行かないこともある。例えば、その国の通貨が非常に不安

定な場合、得られた利益は急速に消えてしまう。また設備を購入するためにハードカレ

ンシーが必要であれば、外貨に交換できない現地通貨を持っていても役に立たない。さ

らに債務スワップから生まれる収入は、地元で投資することも困難であり、あるいはそ

の生み出す利益も乏しいことがあるかもしれない。

債務スワップは、債務が非常に低価格であれば良いアイデアである。この条件では、

スワップが良いプレミアムを生むことがある。債務が低価格でなくても、有利な投資の

機会があり、その国のインフレ率が低いときには、スワップは魅力的である。債務スワ

ップは、それが特定の資金源にアクセスする唯一の手段である場合にも成功するだろう。

例えば、国や債権者が自然保護に貢献していることを示したいために、自から進んで債

務を贈り物にする場合である。自然保護のための信託基金を設立し、その資金を確保す

るためにもそれを活用できる。債務スワップは、2国間支援機関にも魅力がある。

前頁のボックス3.1は、債務スワップの成果を最大にするための手引きである。

37

保護区域の資金調達―概論

3.6 共同実施協定とカーボン・オフセット・プロジェクト「共同実施」と炭素排出オフセット・プロジェクトは、「気候変動枠組み条約」の下

で策定された合意から生まれたものである。その基本的な目的は、バイオマス(生物資

源)の中に炭素を隔離する森林を保全することによって、大気中の「温室ガス」の集積

を削減することである。このようなプロジェクトの実施には、炭素排出量の制限を前提

として、企業と団体(通常はNGOやNGOと政府の連携)の間の連携を必要とする。こ

の連繋は、森林保全によって一定の炭素量相殺の利益が生まれることを実証し、そのよ

うな森林保全が行なわれることを保証しなければならない。これらのプロジェクトは複

雑で費用の掛かるものであるが、それは細目にわたる規則に準拠し、中央政府の保証を

要するほか、気候変動条約の管理機関から承認を得なければならない。それが保護区域

支援に利用できるものか否か、時が経てば分かるだろう。

3.7 多国間、2国間資金支援機関からの補助金多数国参加の支援機関(例えば、世界銀行、米州開発銀行、アジア開発銀行)や2国

間支援機関(例えば、米国国際協力機関〔USAID〕、欧州連合、デンマーク国際開発機

関〔DANIDA〕、日本の国際協力事業団〔JICA〕)は、多額の資金を自然保護のために

提供しており、しばしば、保護区域の活動支援に特別の関心を持っている。このような

機関からの資金は、生物多様性に関連する条約〔1.1節で述べたCBD条約第8m条など〕

の下で約束された義務を各国が果たすことを支援するために使われることもある。

ボックス3.2 債務スワップの可能性を最大にする方法

米国に本拠を置く財政支援機関は、Foundation Centerのウエブサイト:

www.foundationcenter.orgで検索できる。同センターは名簿やガイドブック

を販売しているが、その中にはFoundation Directory, Foundation Grants

Index、国際環境支援団体の名簿もあり、図書索引サービスを行い、色々な

サービスと並んでドナー調査、申請書の書き方の短期コースも開設されてい

る。ウエブサイトには、慈善的寄付の傾向について慈善関連の出版物の要約

も掲示されている。

多くの公共図書館などには、本書が触れたトッピクスに関する参考書が置か

れている。

他の環境保護団体に関するインターネット掲載リストは、以下で検索できる

が、その中のいくつかは資金提供を行う。

http://dmoz.org/Science/Environment/Organizations/

http://www.oingo.com/topic/49/49394.html

http://directory.netscape.com/Science/Environment/Organizations■

38

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

一般に、国際銀行の資金は、政府または特別に政府が承認した民間プロジェクトだけ

に提供される。公園・保護区域の設置や運営のための開発銀行の補助金やローンは、国

の自然保護計画の執行を支援するために提供されるのが普通である。例えば道路、鉄道、

ダム建設による環境被害を緩和する目的のように、時には環境保護資金がインフラ整備

のプロジェクトに付随することもあるだろう。

開発機関、特に多数国参加の銀行に申請されるプロジェクトは、通常、適切な政府機

関の支援を受けており、一般にこれらの機関から、または機関と共同で申請される。

3.8 基金からの補助金慈善目的の基金もまた、世界中で保護活動のために多額の資金提供をしている。基金

は、通常、特定の使命、重点分野があり、資金を提供するプロジェクトや活動の選択に

ついて地理的な関心を持っている。したがって基金の目的や特定の関心を知リ、それに

合わせて申請を調整することは重要である。これは単に、基金の使命、目的、目標の文

言に合わせて申請文書を作成することかもしれないが、時には計画全体を考え直す必要

が起きることもあるだろう。一般的に言えば、保護区域の目的に沿った使命、目的、目

標を持つ基金を見つけることが最も望ましい。ケーススタディ10は、基金から資金を得

るための優れた申請事例を示すものである〔本書のパート2〕。

一般的に基金は、活動またはプロジェクトを基礎にした資金提供に最も関心があり、

したがって、経常的や中核的な費用に対する資金源にはならないのが普通である。また

しばしば、彼らは、自分たちが支援するプロジェクトや活動が自給自足できるようにな

り、また資金調達ができるようになることを求める。だから基金は、立上げ時の費用や、

インフラ整備のような1回限りの資金源かもしれない。

多くの基金は、地域社会の参加を支持する。基金が支援するプロジェクトや活動は、

保護区域だけでなく、基金自体の事情を反映する。したがって基金は、しばしば、プロ

ジェクトの継続中ずっと関係を持ち続けることに強い関心がある。これは基金が無料で

アドバイスや支援をすることで、そのプロジェクトや活動を活発化するだけでなく、ま

た管理費用の増加に繋がることも起こりえる。再度強調すると、使命、目的、目標が保

護区域のそれと一致する基金を見つけることが重要である。ボックス3.2は、基金など

についての情報の要約である。

3.9 民間からの融資民間銀行や金融機関は、充分な信用度のある個人や団体に市中金利で融資する。この

ような融資には、銀行預金の当座貸越による短期融資〔通常、より高い金利で〕から長

期貸付〔通常、より低い金利で〕まで色々ある。貸手側は保護区域から提供される物品

やサービスではなく、利息収入を稼ぐことに関心がある点で、本節で述べる他の機関か

らの融資とは異なる。しかし彼らも有用な資金源になりうるので、ここで言及する。

融資は、保護区域に資金を供給するが、収入源と考えるべきではない。この種の融資

39

保護区域の資金調達―概論

は、借りた元本とともに利息の返済を要する。しかし要員教育、インフラ整備、その他

の長期的な利益につながる活動に対する保護区域の投資を助ける。しかし多くの途上国

の市中金利は高過ぎて、融資に焦げ付きの危険があるので、保護地域管理者はそれに依

存することに消極的にならざるをえない。さらに多くの政府は、国が運営する保護区域

で借入金を利用することを禁止している。保護区域の資金不足を暗黙に認めていること

かもしれないが、法令で借入が可能になっている場合でさえもそうである。

3.10 公的機関からの融資国際金融公社(IFC)のような公営企業は、市中金利以下の金利で融資する

(http://www.ifc.org)。IFCは、途上国における投資に関心があるが、これらの国の金利

が高いために投資意欲が減退している民間産業部門を支援するために設立された。IFC

は、途上国における民間運営の保護区域や営業権者のために有用な資金を提供すること

ができる。また保護区域が、非民間部門の投資に別途の資金供給源を見付ける助けにな

るかもしれない。IFCの資金提供は、地球環境ファシリティ(GEF)の補助金や他の多

国間あるいは2国間の贈与額に見合う資金を引き出すために利用できる。

当然ながらIFCや他の公的な融資機関からの資金は、借入金であって補助金ではない

ので利息を付けて返済しなければならない。したがって、その資金は、融資が続いてい

る期間中に収益を生むようなプロジェクトや活動に投資されなければならない。

3.11 企業や個人からの寄付3.11.1 企業からの資金集め

企業は、ますます自然保護活動の支援に関心を深めている。これは、環境意識がより

高い(よりグリーンな)企業というイメージを広げようという願望が原動力になってい

るが、また環境に優しい社会を目指して純粋に貢献したいという慈善的動機からでもあ

る。企業はしばしば、環境に優しい社会が企業に対して感じているのと同様に、環境保

護団体に対する確信が持てず警戒心を抱いている。したがって企業から寄付を得るため

には、相互理解を深めるための会議やプレゼンテーションに時間をかけ、努力する必要

がある。多くの企業は、複雑で時間のかかる意思決定過程によって経営されている。環

境意識の高い企業としてイメージを広める必要がある企業〔例えば資源採掘会社〕や自

然保護地域または保護活動の成功に直接関連する企業〔例えばクルーズ会社、食品産業、

旅行・観光関連事業者〕は、もっと迅速に行動するかもしれない。

保護区域の訪問者は、しばしば非訪問者よりもより高レベルの環境意識を持っている。

したがって彼らが非環境保護的と考えている企業〔例えば、過去に悪い事例を残した採

取産業〕からの寄付にあまり依存しすぎると、その公園に対して疑念を抱くかもしれな

い。

企業部門の協力を得る場合のアドバイスは、ボックス3.3に記載する。

40

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

3.11.2 個人からの寄付

一般に個人は、そこから募金する上で最も容易な資金源である。企画書や締切日やガ

イドラインも不要である。個人は、また融通の利く相手であリ、管理者側の優先度に応

じて利用できる資金を提供してくれる可能性は最も高い。その秘訣は、喜んで献金して

くれそうな個人を見つけて、彼らに寄付をお願いすることである。「お願いする」こと

は技術であると共に勇気のいる行動であるが、お願いされなくても献金してくれるドナ

ボックス3.3 企業の協力を得るための若干の手引き

意見を出し合って、最も関連ある企業や貢献しそうな企業リストを抽出し、

企業を代表する人物をリクルートして資金集めを指揮させよ。

小さな、目に見える仕事から始めよ。例えばトレイル作り、自然解説表示板、

海岸清掃などで、少数の企業スポンサーの支援(例えば1社250ドルで10社)

があれば実現できる。

現金と共に、現物支給も弾力的に受入れよ。

スポンサー企業の一部だけしか支援しないものであっても、そのプロジェク

トが確実に完遂できるよう予備的資金計画を用意しておくこと。

その貢献がよいパブリシティになり、評価を得るものになることをスポンサ

ーに保証せよ。

これまでの成果に満足している企業経営者に、次のプロジェクトを呼びかけ、

さらなるイベント作りで友好関係を構築せよ。

国際企業の基金や献金プログラムにアクセスするために、それら企業の地元

事務所と協力せよ。

支援企業の中に保護区域を利用する企業を加え、直接の寄付をお願いするの

ではなく、任意ベースであっても入園証を発行できるか、または利用料を収

受する方法があるか分析せよ。

人気のあるイベントについて企業スポンサーの可能性を考えよ。例えば学校

主催の科学の日、生徒の自然保護ポスター展示、学生自然保護クラブなど。

単に寄付を得たいがために保護区域の目的に反する活動を利用するな。むし

ろ、例えばスポンサーになる見込みがある銀行、保険会社、旅行会社、飲料

会社などサービス産業に働きかけるために学校や生徒を利用せよ。

名前、住所、電話番号、メールアドレス、仕事関係、コメントなどが記され

た訪問者の名簿を保存せよ。役に立ってくれる関係団体があるかもしれない

常連訪問者の名簿を調べ直せ。

各会社が支援している社会活動や慈善活動とその支援理由について、産業界

の指導者たちと話し合え。彼らやその仲間に、アピールする企業献金プログ

ラムの作り方についてアドバイスを求めよ。

41

保護区域の資金調達―概論

ーは稀である。要請が個人的であればあるほど、成功の確率は高まる。基本的に、個人

ドナーに勧誘して成功するには、3つの段階がある。

1.そのドナーに、自然保護プログラムおよび行動すべき理由を説明し、啓蒙する。

2.その貢献がどんな格差をもたらすかについて、個人的なビジョンを持てるように

仕向け、ドナーを鼓舞する。

3.その格差をもたらすために支援するようお願いする。

概して、一般的な要請よりも特定の案件に対して要請する方が効果がある(成功した

訪問者向けキャンペーンにおいて、有望なドナーに提案した事例は、「この湿地では自

然解説用の木道トレイルの建設に5万ドル必要です。木板一枚が20ドルかかりますが、

その1、2個を寄付していただけませんか?」であった)。数ヵ所の保護区域は、入園

者名簿や抽選券の仕掛けで訪問者の住所氏名を集め、それらの人々に寄付を求める手紙

を出している。土産品店に置いた釣銭の小銭寄付箱やツアーの終わりにガイドが説得的

な話(特別な寄付金用封筒を付けて)をするだけでも寄付は集められる。常に忘れてな

らないのは、献金した人の住所氏名を記録し、彼らに感謝し、その寄付がどれほど役に

立ったかを伝え、また再び献金を検討するようお願いすることである。

個人に寄付を求める場合に重要なことは、これら個人の相対的な所得額である。当然

のことだが、一般に裕福な人ほど保護区域のためなど慈善的な目的の寄付をすることが

できる。自由裁量所得が少ない層にも寄付していただくために、ボランティアー奉仕の

ような現物出資や建築資材提供など種々の所得層に合わせて要請額を調整するのも一つ

の方法であろう。現金でも現物でも個人からの寄付は、ドナーと保護区域との絆を築く

のに有効である。このように近隣住民と訪問者は保護区域を支える「友の会会員」にな

り、将来の保護区域の財政を助けたり、自然保護キャンペーンに動員することも可能に

なる。(「友の会会員」制度のマーケティングの可能性については3.4節参照)

予定されている贈与

予定されている贈与とは、個人の遺言や遺産、保険や年金受領権のような仕組みで行

なわれる慈善的な寄付である。それは先進国では、現在、最も急速に拡大し、最も有利

な側面を持つ慈善的寄付の一つである。個人ドナーが利用できるオプションは多いが、

ボックス3.4 予定されている贈与によって収入を得るオプション例

遺言書の中で保護区域や自然保護組織に対する贈り物を明示。

生命保険の受取り人として自然保護組織を指定。

ドナーの終身不動産権〔生涯にわたり資産を居住、利用できる権利〕や終身

年金の付いた〔あるいは付かない〕証券や資産を贈与。

慈善信託基金の設立。

保護区域に利益をもたらす年金受領権の購入。■

42

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

これらがすべての国に適用できるとは必ずしも限らない。そのオプションは、ボックス

3.4に記載されているものを含む。

保護区域制度の管理者や自然保護組織の多くは、今後ドナーになりうる人たちよりこ

れらのオプションについて知識が乏しい。したがって寄付を求めて個人ドナーにアプロ

ーチするとき、相続や税法をある程度は知っておくことは重要であリ、それは遺産活用

や投資計画の一部として献金する気持ちを持っている地元や外国のドナーに影響を与え

るかもしれない。いくつかの国では、投資顧問から無料の指導を受けることができよう。

会員制

会員制は、実際に関連するサイトを訪問する人からも、しない人からも自発的な支援

を受ける手段を提供する。会員とは、ある組織に加入し、見返りに会員として特典を得

ることができる個人または団体(例えば企業)である。会員になることの主たる魅力は、

彼らが信じる大義を支援する組織の一部になることである。その他の利益としては、入

場料の割引または無料化、商品の割引、会報、速報やニュースレターの購読、特別イベ

ントへの招待などがある。しかし、よく起きる誤りは、あまりに多くの特典を入会予定

者に与えることで、会員制度の費用が結果的に収入を超えることである。会員制度の利

点は、(保護地域維持という)大義の財政的な支援であることを決して忘れてはならな

い。

会員制度は、保護区域によく適している。「公園友の会」制度や既存NGOとの提携は、

直接保護区域に個人的寄付を誘う優れた機会になる。スタッフは現場で寄付を集めるた

めに、あるいは今後の寄付集めのために訪問者の住所氏名を記録する手段を講じる。い

くつかの保護区域は、共同で資金集めをするため、NGOにもこの情報を提供している。

個人会員の年会費は控えめになる(例えば20ドル~50ドル)。法人会費は、より高く

する(50ドル~5,000ドル)。経験則では、個人会員として目標にした人数の1パーセン

トから10パーセントが会員になる。法人会員募集の成功は、募金組織に関係するその同

業者が力になってくれるだろう。いずれの場合でも年会員の更新登録が、会員制度の長

期的成功にとっては不可欠である。

会費は収入源として大きいが、環境保護NGOや公園支援グループの存在は、資金源

以上の意味がある。それは、政治的プロセスにおいても、将来のドナーに投資を促す上

でも影響力を持っている。また会員は、公園に関連する仕事に自主的に時間を割き、ま

た商品を購入し、イベントを支援するために切符を購入し、将来のドナーを見つけてく

れるなどで貢献する。会員拡大は、会員の募集、更新、維持のプロセスを継続していく

ことによって可能になるもので、その結果として、これら利益も流入し続けることにな

る。

会員制とそれを開発する方法については多くのアドバイスがあるが、例えばネイチャ

ー・コンサーバンシーのResource for Success(Bath, 1993)を参照せよ。(この冊子注

文に関する情報は:http://nature.org/international/about/art872.html)

43

保護区域の財務戦略を策案することは、しばしば賢明なことである。このような戦略

が実行可能かどうかは、保護区域の内部能力と外部要因に左右される。前者は人材と財

務資源の強みと弱み、そしてサイト自体の特性の評価に関係する。後者は、保護区域の

社会、文化、政治情勢とともに、税、補助金、土地保有、ゾーニング規制など法制度を

含む。これらそれぞれの要因について、以下に詳述する。

4.1 内部の組織力に関連する要因4.1.1 人的資本

鍵になるのは組織内の人材の能力である。ハンター、学生、探鳥者、観光客など顧客

から直接的な収入を得ることを柱にする財務計画は、各顧客グループのニーズに対応し

てツアーの運行、安全対策の実演、規則の遵守、ムード創りをする能力を必要とする。

言語、プレゼンテーション、コミュニケーション技術は、特に重要である。一方、国内

外のドナーから補助金を得ることに重点をおく財務計画では、文書作成(時には外国語

で)、計画の策案、革新的なアイデアを伝達することなど、別の能力が必要になる。

4.1.2 財務

いくつかの戦略は、インフラ、人材、あるいは時間に対するかなりの短期投資が必要

であり、そのすべてに資金確保の必要があるだろう。巨額投資を要しない別の戦略を実

行することも可能かもしれない。例えば、観光事業を基礎にした財務計画は、多分、最

初の観光客がやって来るまでに、道路、宿舎、食堂施設、マーケティング活動への投資

が必要であり、必然的に大きな先行投資をともなう。

4.1.3 インフラ・自然資本

主要都市や交通ハブからのアクセスは、保護区域が都市や国際旅行市場に手を付ける

場合に決定的な要因になる。他の魅力的な観光地に近いことも要因になるかもしれない。

現地のインフラ―宿泊施設、食堂施設、研究機関、歩道など―の存在とその質も重要で

ある。また保護区域の自然と文化的特性が提供する魅力も重要である。

4.2 制度的外部要因4.2.1 法的枠組み

保護区域に影響を与える法的枠組みは、保護区域が利用できる財務オプションに重大

な影響を与える。現存する法律は、しばしば利用可能な仕組みに制限を加える。例えば、

4.資金調達オプションの実行可能性の評価

44

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

国立公園法制の中には、公園への入園料徴収を規制しながら、山小屋、トレイル、駐車

場の利用には料金徴収の許可を与えるものがある。町村、地域、国レベルの税制は、保

護区域を直接利用しない顧客が、保護区域の役割に対して対価を支払うことが可能かど

うか、を決定するかもしれない。例えば、住宅所有者に対する地方税がある地域では、

地域住民は、彼らのために保護区域が提供する生態系の役割に対価を支払うことができ

るかもしれないが、この税制が存在しない地域では、この貢献がもたらす価値を地域住

民が理解するのは難しいことであろう。税制は、財務の健全性を維持しようとする保護

区域管理者の足を引っ張ることもある。例えば、非営利組織として保護区域の税金が免

除されるところでは、保護区域管理者は、商業的な資金供給先にアクセスできないこと

もある〔例えば銀行ローン〕。

4.2.2 財務構造

税と同様に、助成金は自然保護とその持続的利用にとって有効であるとともに、障害

になることもある。保護区域は、保護や持続的利用のための活動やプロジェクトに対し

て政府から支給される補助金の恩恵を受けるかもしれない。例えば、湿地復元の助成政

策は機能するかもしれない。保護区域はその助成金を利用して、境界内にある湿地を埋

め立て、管理する。しかし、助成金は保護区域の生態学的および財務的持続可能性を達

成する上で支障になることが、しばしば、起きる。漁業、林業、鉱業など規制されない

採取企業を支援するような助成金は、保護区域の生態系に対して破壊的な影響をもたら

すことが少なくない。その結果、その影響を防ぐ仕事は保護区域管理者の責任になるの

で、財務的負担を負うことになるかもしれない。

土地保有やゾーニングの規制も、財政目標を達成しようとする保護区域管理者の能力

に影響するかもしれない。保護区域の利害関係者は誰か、ある活動から利益を得、そし

てコストを負担するのは誰か、保護区域やバッファー・ゾーンで行なわれるアクティビ

ティの権利と責任を負っているのは誰か、これらは保護区域の土地所有制度によって規

定される。明らかに、これらすべての要因によってどんな資金集めのオプションを利用

できるかが決まる。ゾーニング規則は、保護区域の中と隣接地で、許可または禁止され

る利用目的の種類に直接の影響を与えることがある。

保護区域の全般的な管理構造は、その財務戦略に大いに関連する。中央政府の機関に

よって管理される国立の保護区域の財務計画は、地域社会をベースにする団体、NGO、

あるいは民間の個人や会社が所有・管理する保護区域とは非常に異なる責任、基準、期

待される役割を持つものである。

4.2.3 社会的、政治的、文化的状況

保護区域の財務計画はすべて、その特定国や地域の政治、社会文化的状況を取り入れ

て作成される。

その国の政治情勢は、保護区域の財務戦略に無視できない影響を与える。政治的安定

45

保護区域の資金調達―概論

は経済的安定と結び付いており、保護区域の財政見通しを左右する重要な要因である。

例えば、ある国の政治的経済的安定は、長期的な寄付基金の確保を可能にするが、より

安定度の少ない地域の国では、保護区域にとって減債基金を考えるのが妥当かもしれな

い。

さらに政治的安定は、いくつかのオプションの実行可能性を決定付ける。例えば、戦

乱で疲弊し、あるいはテロ攻撃にさらされがちな国では、自分たちの保護区域のために

観光収入を基礎にした財務戦略を採用できる可能性は少ない。これは特に国際観光から

収入を確保しようと試みる場合に考慮すべき重要な点である。このような市場では、各

保護区域は国内の他の保護区域だけでなく、世界中の保護区域とも直接競争にさらされ

ている。社会不安、テロリズム、広く知られた誘拐事件は、観光客数に影響するが、ま

た危険な病気の発生、口蹄疫のような家畜の病気でさえも観光に悪影響がある。このよ

うな出来事は、保護区域自体から遠く離れたところで発生したものでも、観光収入を基

礎にした財務戦略を台無しにすることがある。

社会文化的状況を考慮しないプログラムは、経験不足、理解や感受性の欠如から未だ

に広く実施されている。社会文化的状況を完全に把握することは非常に困難なことが多

いが、適正な社会文化的状況の中に戦略を位置付ける助けとなる社会調査や手法がある。

財務戦略を策定しようとするどんな試みも、社会・文化問題とその保護区域に対する資

金供給の関連を検討してから行うべきである。例えば、先住民族がタブー視したり、聖

なるものと崇める品物を販売するのは賢明でない。また、彼らが伝統的に無料利用権を

持っていた狩猟、採集、漁穫などを有料にするのも不適切かもしれない。

46

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

国江西省ポーヤン湖自然保護区、梅西湖砂丘の江西自然保護区管理事務所のスタッフ �WWF-

Canon/Soh Koon Chng

47

本節は、これまでに述べた考え方に基づいて、保護区域管理者に財務計画を策定する

プロセスを案内するものである。七つのステップは、ある程度連続しているが、すべて

が財務計画策定だけに関連するわけではない。実際のところ、保護区域管理者は既に自

分が責任を負う他の活動の一部として、これらの課題の多くを既に全うしていることに

気が付くかもしれない。そのステップを要約すると:

1.保護区域の目標と目的を明確にする。

2.現存の顧客基盤を特定する。

3.現存する資金源とその資金の需要をリストにする。

4.新規顧客と利用レベル対貢献度の関係を特定する。

5.顧客から収入を得るための仕組みを特定する。

6.提案された仕組みの実現可能性を評価する。

7.財務計画を明確に記述する。

これら各事項について以下詳述する。

5.1 保護区域の目標と目的を明確にする財務計画が自然保護目的を確実に達成するためには、まず保護区域の目的を再確認す

ることから始めることが重要である。財務戦略の厳密には財務目的が、保護区域の中核

である保護目的よりも重視されることは許されない。財務の安定は、それ自身が最終目

的ではなく、保護目的を達成する一手段である。

5.2 現存する顧客基盤を特定する保護区域の現存する顧客基盤は、見込み収入の基礎になる。現存する顧客基盤を特定

する場合、保護区域管理者は現在、保護区域から引出している財やサービスに代金を支

払う顧客と、無料で恩恵を受ける人々の両方を含むべきである。将来追加するであろう

収入源について着想を得るために、現段階で誰が代金を支払い、誰が支払っていないか、

を明確にすることは有意義である。

5.3 現存する資金源とその資金の需要をリストにする当然ながら、現在の資金源、そのタイミング〔例えば、資金は何時まで続くか、それ

が実際に支払われる時期、この資金源からさらなる追加支援を得る可能性〕これらの資

金供与に付帯する義務(報告の必要、着手すべきプロジェクトや活動、その期限)を特

定し、リストアップすることが必要である。またこの段階では、保護区域の資金需要を

5.財務計画策定の手順

48

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

確定しておくことも重要である。この資金需要は、最重要、二次的、三次的な需要に分

類できよう。中軸スタッフの給与やローンの返済などは最重要であるが、他のものは重

要性がやや低く実施を延期できるし、さらに他のものは随意に実施すればよい。この資

金需要の中に、希望の計画期間を入れておくべきであり、それによって様々な資金源か

らの入金タイミングに合わせることができる。

5.4 新規顧客、および利用レベル対負担額の関係を特定する資金需要が、短期的にも、長期的にも、現存する資金源の枠を超えることは普通に起

きることであるから、新たな顧客を特定し、彼らの貢献度と対比した利用レベルを評価

することが必要になろう。これはステップ2〔5.2節〕で収集した情報に戻り、保護区域

から恩恵を受けながら入手した財やサービスに対価を支払っていないのは誰なのを特定

することである。このステップは、また、保護区域が見込まれる顧客からどれだけの収

入をあげられるかを評価し、それを顧客基盤開発のために要する投入資本額と比較する

必要がある。したがって2.3節で説明した様々な顧客グループに関する情報は、どの受

益者が資金源として追求する価値を持つか、を決定する上で重要になる。既述第4節の

アドバイスも、どの顧客基盤を開発するかの決定に有用であることに留意せよ。

5.5 顧客から収入を得るための仕組みを特定するひとたび、新たな顧客が特定されれば、彼らから収入を得るための相応の仕組みが選

択される必要がある。収入を得るのに必要な仕組みは、その顧客に関する決定事項に影

響するので、このステップはしばしば、ステップ4と同時に実行に移される。第3節で

述べたタイプ別の資金調達法の特徴に関する情報が有用なはずである。

5.6 提案された仕組みの実現可能性を評価するステップ6では、その仕組みが持つさまざまな制約と根本にある前提条件を特定しな

ければならない。特に、このステップは、その実施に伴うリスク、それを実行するため

に必要な仕事量と投資額、これらの投資からの見返りと保護区域が提示する資金需要の

両方の時間表はもちろん、その仕組みの複雑さが検討されねばならない。この段階で、

もう一度ステップ4と5に戻り、関連する顧客基盤を再評価し、何が適切な仕組みであ

るかを再検討する必要があるかもしれない。

ステップ4,5,6を通じて様々な利用可能なオプションを分析する手法としてはシ

ナリオ作りが有効かもしれない。この方式では、保護区域管理者は顧客と仕組みの様々

な組み合わせを特定し、それらを上述のステップを経て立ち上げた様々なシナリオに当

てはめる。そして、保護区域管理者は、様々なシナリオの下で確実に持続できる顧客グ

ループと仕組みを選ぶ。

49

保護区域の資金調達―概論

5.7 財務計画を明確に記述する計画書は、財務計画を保護区域管理計画および保護区域の目的・目標にリンクした文

書にまとめられるべきである。財務計画では、予測を盛り込み、保護区域における将来

の資金需要と並んで、財政の持続可能性においても予測される成果を明確に提示すべき

である。最後に、その計画書は、もし、期待どおり行かなかった場合に予定される行動

方針を明示すべきである。それは、例えば、選択した仕組みでは想定したよりはるかに

多額の投資が必要になり、その結果継続できなくなったとき、この仕組みによる投資を

中止し、状況を再評価できる計画を持つべきことを意味している。

5.8 追加検討事項財務計画を担当する保護区域管理者は、上記のステップに加えてボックス5.1に提示

した一連の質問を自分自身に投げ掛けてみるべきである。

ボックス5.1 財務計画作成において問われるべきいくつかの質問

現在の資金源にはどんなものがあるか?これは永久に依存できるものか?こ

れら資金源の一つ一つを増加させ、拡大し、強化するために何ができるか?

保護区域を支援しているのはどんな人々か?観光客、登山者、キャンパー、

船遊びの人、釣り人、地域の観光サービス提供者(例えば、商店、ホテル、

レストラン、ガイド)?彼らは、保護区域の管理運営に、現在どんな貢献を

しているか?もっと貢献できないか?

現在、どんなサービスが提供されているか?駐車、トレイル、キャンプ場、

ピクニック場、船の発着、投錨、停泊?利用者はこれらのサービスに料金を

支払っているか?その料金は、適正で公平か?利用者は、もっと支払ってく

れるだろうか?

どんな新しいサービスが提供できるだろうか?その収益性の見通しは?

どんな団体が、この区域の保護に関心を持っているだろうか?募金キャンペ

ーンに提携して、その費用を分担してくれるだろうか?地元会社はキャンペ

ーンに無料奉仕してくれないだろうか(特別イベントのためのラジオ、テレ

ビ、新聞、広告会社、有名人の出演、場所、食事、音楽提供など)?

世界あるいは地域規模でどんなドナーが、この自然保護計画に盛られている

ものと類似の活動を支援してきたか?彼らは、この地域のことを知っている

か?彼らの関心を探り出す計画はあるか?

政府は特別の税や課徴金を検討したか?地域、国の中でそのような制度に対

してどんな賛成、反対があるか?このような制度を設けることに賛成を主張

できるか、その実現を支援するために必要な団体結成を呼びかけることは可

能か?「環境保護のための消費税」その他の方式のサーチャージ、課徴金を

設定する上で中心的役割を担う指導者の2、3人は存在するか?誰が、その

人たちをキャンペーンに動員できるか?(UNEP, 1999)

51

ここまでの本書ガイドラインは、世界中の経験をもとに抽出されており、特別に東ア

ジア地域のニーズに合わせたものではない。この地域の保護区域管理者向けの主要なメ

ッセージは、「保護区域管理のために更なる資金獲得が可能であるとしても、しばしば、

それは骨の折れるプロセスが必要だ」ということである。それは特に、財務問題を理解

するための教育、経歴、能力を欠いている個々の管理者について当てはまる。

東アジア内外に数多くの資金提供機関がある。それらは東アジアの保護区域に資金を

提供する用意があり、当地域のために特別に設置されたものである。だから単に、資金

調達の選択肢があることを知り、資金申請書を作るための時間と精力を使えばよいこと

が多い。本書が当地域全体にできるだけ広く配付されれば、それぞれの保護区域の資金

調達の機会を最大にするために、管理者たちの事業的手法採用が促進されるだろう。

ここで提唱された手法は、また、保護区域から生ずる多くの直接的、間接的便益を特

定するのに役立つだろう。経済的評価研究を通じて、これらのいくつかをリストアップ

し、おそらく数量化することにより、公園管理者と行政担当者は、政府の政策決定者に

対して保護区域が提供する便益の完全な経済価値についてアドバイスすることができよ

う。この教育課程を経ることによって、政府が供与する資金は増加するかもしれない。

資金調達は、恐らく、より高いGNPと生活水準を持つ国では、より容易だろう。日本

のような国は、はるかに多くの環境規制があリ、多額の保護区域予算を持ち、さらに多

くの政府機関やNGOの資金源がある。富裕国にあるこのような組織のいくつかは、今

では東アジア一帯のプロジェクトを支援する用意がある。また国際組織も増えつづけて

おり、当地域の保護区域に資金を提供する〔例えばGEF、世界遺産基金、国連基金、ユ

ネスコ、IUCN、WWF、アース・ウォッチ〕。パート2,3は、これらについて詳述す

る。

東アジアの保護区域管理者と行政担当者のための特定オプションを、すべての国で活

用するのは難しい。その理由は、(a)保護区域管理者の間に存在する資金調達の知識(b)

この問題に関する管理者の情報アクセス手段(c)可能性がある金融の仕組みを査定し、

事業計画作成のために利用できる財源(d)利用できる金融の仕組み(e)東アジアの国別

GNP、に幅があるからである。このような差異があるので、各国の保護区域制度は―そ

れはしばしば個々の保護区域であるが―それぞれが追加資金を得るために自身のニーズ

と能力を査定する必要がある、ということである。

にもかかわらず東アジアでは、しばしば限界がある組織力、職員、財源を統合して、

一国内あるいはその一地域がチームを組織して資金調達の提案をすることは有効なアプ

6.東アジアの保護区域の資金調達に関する問題とその方法

52

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

ローチである。個々の公園レベルで行なう試みは比較的小額の資金調達であるが、多数

の公園による長期的な資金調達の提案は、チームとして取組む必要がある。力を結集す

ることで、管理者・行政担当者のチームはより上質の、最終的に成功する資金調達計画

を創造できるかもしれない。

東アジアのWCPAメンバーの会議は、東アジア全域の公園管理者、行政担当者が最適

の資金源について地域を超えた査定に着手するために利用できるだろう。例えば、本書

のパート3で紹介する有望な資金供与機関のリストを使って、行政担当者と他の関係者

からなるチームは、一つ、または二つ以上の地域や国際的な資金提供機関に対して資金

提供の申請書を作成することができる。特定のテーマ〔例えば、観光管理〕、ニーズ

(例えばインターネットやeメールのアクセス改善)、保護区域の種別〔例えば国立公園〕、

準地域(サブリージョン―モンゴルや中国)が、資金供与の申請の焦点を絞るために利

用できる。

最後にボックス6.1は、地域の保護区域の資金調達を、より成功に導くアプローチを

促進するためにいくつかのオプションを提示している。

ボックス6.1 保護区域の資金調達におけるWCPA-EAメンバーの課題

1.WCPA-EAメンバーのタスクフォースを結成し、財務問題と選択肢を探求す

る。1年以内にその報告を求めよ。

2.ある保護区域、あるいは保護区域の小グループを特定し、パイロット(試験

的)事業計画を作成する。その選択基準には以下を含む:公園スタッフや管

理者が財務計画を作成する能力、保護区域が提供する便益の総数とレベル、

資金源として開発できる明確な大消費者グループの存在。

3.保護区域管理者、行政担当者が調達資金を増加させるための行動の起し方で

一致するためのワークショップを開催する。

4.WCPA-EA会議の議題に、保護区域の資金調達問題を載せ、様々なプロジェ

クトに対して最も有望な資金源の特定に手を貸してくれる代表者を招待する。

5.東アジア地域周辺で選定した保護区域に、少数のパイロット財務計画を作成

する。それを配布することで、このような計画作成に要する材料やプロセス

を管理者に理解させる。

6.モンゴル環境信託基金(METF)は、東アジアのどこにおいても参考にでき

る優れた資金調達モデルと思われる。

7.消費者グループの特定と財務計画の作成において、管理者の研修に役立つよ

う地域内の研修セミナーや利用パッケージを策案する。

8.地域で実施された既存の評価研究の成果は、まとめて公表されるべきである。

また新たな評価研究は地域全体を対象とすることができよう。

9.東アジア全域の保護区域管理者が利用できるよう本書を翻訳する。

53

保護区域の資金調達―概論

IUCNのウエブサイトIUCNは、保護区域の資金調達についてインターネット・サイトを開発中である

(http://www.biodiversityeconomics.org/finance/topics-38-00.htm)。

本サイトは、保護区域の資金調達に関する文書の集大成とリンクを提供する。すべて

の資料はインターネットで、HTMLページとPDF文書の組合わせで利用できるので、利

用者は必要なすべての内容をプリントすることができる。

完成すれば、このサイトの概説部分は保護区域の資金調達問題の簡潔な序論になるだ

ろう。サイトの中核的資料部分は、本書の注釈編としてリンクする。このサイトには、

本書の中で引用した資料など、選別された資料にも注釈つきでリンクする準拠資料セク

ションがある。また数多くのケーススタディと一連のリンク・ページがあり、保護区域

に補助金を供与する可能性がある機関の詳細とコンタクト先を紹介している。

参考文献パート2で引用されるものを含む。

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パート2

東アジアの保護区域の資金調達に関する模範ケーススタディ

56

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

日本、白山国立公園 �Thierry Jolly, UNESCO

57

東アジア保護区域に対するNGOの支援一般にGNPと教育レベルが高いほど、保護区域の資金支援に携わるNGOの成長にと

って有利な環境が創出される。かくて東アジアの中で日本は、環境問題に関係する最も

多数のNGOを有している。その中には、ナショナル・トラスト、ゴルファー・グリー

ン基金、公益信託TaKaRaハーモニストファンド、公益信託自然保護ボランティアファ

ンド、公益信託大成建設自然・歴史環境基金、公益信託サントリー世界愛鳥基金、公益

信託アムウエイ・ネイチャー・センター環境基金、公益信託セブンイレブン自然環境基

金などがある。いくつかのNGOは(例えば経団連自然保護基金、地球環境基金)外国

のプロジェクトに資金を提供する。

前田一歩園財団は、阿寒国立公園(87,498ヘクタール)の4,300ヘクタールを管理する

ために1983年に設立された。この財団は森林の保全し、適切な組織に資金や資材を供給

し、自然保護を促進するプロジェクトを支援する役割を担う。

知床国立公園100平方メートル運動は、知床国立公園が産業目的に開発されるのを防

ぐために、公園内の土地を購入する運動で、約35,000人の個人から最低8,000円の寄付を

得て230万USドル以上を集めた。

自然公園美化管理財団(NPBMF)*は、日本の国立公園13箇所から駐車料として入園

料を徴収する公営企業である。年間約10億円の収入を公園管理事業に使用する。

*現在の財団法人自然公園財団

NGOは地域の観光を促進、運営すること、また保護区域管理機関が技術的支援を得

る仲介を行ない、研究機関相互間の経済的技術的協力を強化することなどによって、保

護区域に対する社会的支持を得るよう貢献できる。資金提供ができる団体を含めて環境

関係団体のウエブのリストは下記で得られる:

dmoz.org/Science/Environment/Organizations/

www.oingo.com/topic/49/49394.html

directory.netscape.com/Science/Environment/Organizations

中国では、日本を本拠とする野生生物保護協会の現地支部が、パンダおよびそれに関

連する動植物を保護する目的で保護区域に貢献している。そのチベット(西蔵自治区)

と新疆での野生生物調査は、直接保護区域の特定に結び付き、その中には、450万ヘク

タールの阿璽金山(Arjin Mountains)自然保護区や3,300ヘクタールと世界第2位に広

さを持つ保護区域チャンタン自然保護区が含まれる(www.wcs.org)。

ケーススタディ1

59

バイオ探査:東アジア保護区域のための有望な資金源自然保護運動家がしばしば主張することであるが、有用な薬、樹脂、ゴムその他の自

然産物を産出する手付かずの雨林に存在する生物種の潜在力は、森林保護を正当化する

理由になる。自然の産物の需要増に呼応して生物資源の持つ商業的な可能性が拡大し、

自然に存在する複合物に由来する新商品を市場で販売するために、数多くのパートナー

シップが結成された。いくつかのモデル(すべてが、その地域で明瞭になっているわけ

ではないが)は、いかに「バイオ探査」が保護区域の財源として発展しつつあるか、を

実証する(McNeely, 1998)。

第1のモデルは、製薬会社と国立研究機関との連繋に関係する。メルク社とコスタリ

カの国立生物多様性研究所(INBio)間の契約で、メルク社は新薬開発に必要な科学物

質を入手する手段を確保した。一方、INBioは新製品の利益からロイヤリティを得るこ

とになり、その一部がコスタリカの保護区域制度のために使用されている。

第2のモデルは、先住民が大切にしていた生物種から医薬品を開発することへの協力

に関係する。シャーマン製薬会社は、先住民との協力の価値を見出している。そのリス

クも利益も先住民協力者全員の間で分け合う。会社は非営利組織を設立し、利益の一部

を先住民の協力者に直接流す一方、その他の資金が保護区域管理機関に渡るようにして

いる。

第3のモデルは、原料産出国での薬品開発における、生物原料検査能力の開発に関係

する。例えば、アンデス製薬会社は最新の検査技術を、その原料が採集される国の研究

所に移転した。ホスト国は、さらに、この技術について特許権を申請する権利を得るか

もしれない。このように、ホスト国は制度構築による利益とともに、最終製品の価値に

応じてかなりの割合の利益を入手できる(特許がなければ、ロイヤリティはわずか1-

2%)

第4のモデルは、主要バイオテクノロジー会社と国立研究機関の協力を基礎にしてい

る。このような契約の範囲は、以下の表の中で示唆されるとおりで、中国のいくつかの

事例が示されている。保護区域との関係は明確に示されないが、研究対象にされた植物

の多くが保護区域で発見されている(時には、このようなサイトだけで)。例えば、雲

南省南部の景洪(シーシュワンバンナ)生物圏保護区の森林には、経済利益が得られる

1,000を超える植物種が生育しているが、その中には医薬品として価値がある500種が含

まれている。

バイオ探査は、保護区域の生物資源を持続的に利用し、その保護のための資金を作る

ことを含んでいるので、資金を自己調達しているように見える。それにもかかわらず、

ケーススタディ2

60

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

バイオ探査を求める提案の多くが、実際に実現できるかどうかには疑問がある。また多

くの大製薬会社は今、自然産物自体の研究よりも、コンピューターを使った分子モデリ

ングのような手法に多くの資源を注ぎ込んでいる。また益々多くの国が、バイオ化学探

求の市場に参入しているので、ニッチ市場は益々小さくなり、利益も縮小するかもしれ

ない。

潜在的収入源として生物多様性の探査に関心がある保護区域の管理者や保護団体は、

「生物多様性探査」(Reid他、1993)を参照すべきである。(http://www.igc.org/wri/

biodiv/bp-home.html参照)同書は、コスタリカのプログラム、製薬会社のリスト、生

物多様性探査の見本契約を紹介している。

中国の研究機関と外国の製薬会社との連繋

チバ・ガイギー(現 ノヴァリス)

活動開始時期:

収集機関:

適応症群:

1989(海洋);1992(熱帯植物)

中国科学院

抗がん、心臓血管、抗炎症性、中枢神経系、呼吸器、抗アレル

ギー

グラクソ・ホールディングス

活動開始時期:

収集機関:

適応症群:

1988

薬用植物開発研究所(北京)

胃腸、呼吸器、抗感染症、心臓血管、代謝系、伝染病、皮膚病、

抗がん、抗炎症

Rhone-Poulenc Rorer

活動開始時期:

収集機関:

適応症群:

1991

北京薬科大学、上海医科大学、天津植物研究所、 独立収集家

心臓血管、抗感染症、エイズ、中枢神経系 呼吸器、骨の病気、

抗がん

シンテックス・ラボラトリー

(現 ロッシュ)

活動開始時期:

収集機関:

適応症群:

1986

中国科学院

抗炎症性、骨の病気、免疫学、抗がん、 胃腸、心臓血管、抗ウ

イルス、皮膚病、避妊

アップジョン

活動開始時期:

収集機関:

適応症群:

1986-87

中国科学院上海薬物研究所

中枢神経系、心臓血管、抗感染症、エイズ

61

アジア開発銀行と東アジアの保護区域過去10年、アジア開発銀行(ADB)内では、広範囲の開発プロジェクトに対する保

護区域の重要な貢献について認識が高まってきた。1987年、環境ユニットが設置され、

銀行内でプロジェクトの環境面に関する審査を重視し、環境分野への意識向上と制度づ

くりが推進された。1995年、新たに命名された環境部は、環境保護の施策を確実に関連

するADB業務に組み込む任務が与えられた。ADBの環境政策に関する作業文書は、

2001年2月に発表された。

ADBのウエッブサイト(http://www.adb.org/Environment/default.asp)によると、

「持続可能な開発と環境保護の促進は、銀行の主要な戦略的開発目標である」。ADBは、

この地域において環境的に健全な開発促進を公約している。この目的を達成するために

ADBは:

自体のプロジェクト、プログラム、政策の環境への影響を再検討する

各国政府ならびに現業機関が、それぞれのプロジェクト設計、実施方法の中に環

境保護施策を取り込むことを奨励し、この目的に技術的な支援を行なう。

環境と生活の質を保護し、回復し、向上するようなプロジェクトやプログラムを

推進する。

経済開発の環境的側面について、ADBとDMCのスタッフを訓練し、資料を提供す

る。

中国におけるADBの「北中国養殖と沿岸資源管理プロジェクト」には、沿岸地域の

環境保護活動が含まれている。河北省は、保護区域のネットワークを省の0.4パーセント

から2パーセントに拡大するよう計画している。このプロジェクトの下で海洋保護区に

要する費用は、45万米ドルに達するだろう。また同プロジェクトは、商業化と事業開発

を促進しており、アワビ、ウニの孵化、干潟、浅瀬のハマグリ養殖、淡水漁業が行なわ

れている。

中国の保護区域に重点を置いた他のプロジェクトには、海南島農業・自然資源開発プ

ロジェクトがあるが、ADBは、景色の良いバッファー・ゾーン周辺を保護する、環境

に優しい管理システムを設定するために技術的支援を行なった。その中には、非木材資

源その他の産品の管理が含まれる。また、保護区域自体のために器具を提供し研修を行

ない、公園にゾーニング・システムを導入した。最後に、当プロジェクトはエコツーリ

ズム開発の戦略づくりを支援したが、その中には自然解説センターと自然歩道の詳細な

計画が含まれている。

ケーススタディ3

63

北朝鮮の金剛山開発計画北朝鮮政府は、長年にわたり金剛山の美しい景観を保全するよう努力してきた。1986

年、その環境保護のための法律が制定された。1990年代には、このサイトを破壊する恐

れのある活動に、外国の会社が投資するのを防ぐためにいくつかの法律が制定された。

しかし最近、サイトの持つ観光の潜在力に重要な関心が深まった。韓国の「太陽政策」

は北朝鮮と金剛山を企業の投資に開放し、10年以内に300万人の観光客を誘致する目標

を立てている。

韓国の財閥「現代」は野心的な1.6兆ウオンの開発計画をまとめたが、その中には海金

剛、温井里、侍中湖のホテルとコンドミニアム、海金剛と温井里のモーテル、三日浦と

侍中湖のゴルフコース、通川のスキーリゾートの建設が含まれる。三日浦のテーマパー

クと民族村、海金剛の海洋博物館、スポーツ娯楽センター、高城港マリーナ、ショッピ

ング・センターとともに、金蘭の国際空港、温井里の鉄道駅も開発計画の一部である。

これらすべての施設は2004年までに建設完了が予定されている。

「現代」は計画の一部として、金剛山を観光ワンダーランドとして開発する独占権を

得る代わりに、次の6年間に9.4億米ドルを支払うことに合意した。当局との対立が報道

されているが、同社は1998年にツアーの催行を開始した。わずか3ヵ月間に約27,000人

の訪問者が金剛山の氷の斜面を登った。

この開発計画の完成途上には、いくつかの懸念がある。計画が金剛山の環境に及ぼす

潜在的な影響や地元住民の社会経済的満足について、さらなる研究と討議が必要である。

これは保護区域の自然保護機能を考慮することなく、資金提供が進んでいる事例かもし

れない。

ケーススタディ4

65

モンゴル環境信託基金モンゴルは、モンゴル環境信託基金(METF)の創設を通じて、保護区域の資金調達

における革新的な手法の事例を提供している。この資金供与機関は、1997年11月にモン

ゴル政府と国連開発計画(UNDP)によって設立された。METFの目的は「国土と資源

保護および持続的な管理に役立つ対象案件に資金を供給することで、その中にはモンゴ

ルの多様な生態系、野生動物、豊富な生物多様性の保護、そしてモンゴルの砂漠化縮小

の目的を含む。

基金は、期間限定の外国資金による支援活動を補完し、あわせて国家戦略に連繋した

活動を行ない、資金調達費用の削減をもたらすことが期待されている。

METFの組織METFは非営利の非政府機関である。それはオランダの法律で設立され、ウランバー

トルに登記された事務所を持つ。METFは役員9名からなる理事会により運営され、役

員は政府、国際・国内の環境NGO、ドナー、学術団体の各代表および無所属メンバー

2名で構成される。METFには、提案されるプロジェクトを検討し、資金配付の優先度

を理事会に勧告する科学・技術諮問委員会と、モンゴルおよび外国に対するすべての資

金援助に関する財務諮問委員会がある。METFの日常業務は、信託基金事務所の少数の

管理スタッフによって運営される。

METFの経済活動と募金基金には、各方面からの寄付によって資金が賄われるが、それには民間資金およびモ

ンゴル政府から配布されるの年間予算が含まれる。

地球環境ファシリティ(GEF)とUNDPは、それぞれ信託基金に200万米ドルと50万

米ドルを約束している。1999年5月、モンゴル政府は、同年の予算から16億Tg(約160

万米ドル)供与することを決めた。国内の団体は、約300万TgをMETFに寄付した。

1999年の中葉まで、METF運営費は二つのUNDP/GEFプロジェクトによって負担さ

れた。METFは、また、フィンランドがモンゴル中央銀行に与えた500万米ドルのロー

ンについて「自然保護と債務のスワップ」による性格変更を求めている。またMETFは、

基金のために投資マネージャー1人を雇用するためにJPIB投資会社と交渉を開始した。

現在、「トゥール川流域の水資源の安定確保」と「防風林の創造」の支援者のために国

際ドナーから資金援助を求めている(http://www.un-mongolia.mn/metf/)。METFに

関するその他の情報は、本書パート3に掲載されている。

ケーススタディ5

66

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

中国武威山の広葉樹と針葉樹の混じった渓流 �Les Molloy

67

中国森林保護区域の価値森林は、それが提供する生物多様性とその他の重要な財と役割において、中国で最も

重要な生態系である。実際、中国の森林高原地帯は、国の低地河川域の流域保護に重要

な役割を果たしている。また、土壌浸食を防ぎ、洪水と旱魃被害を抑制し、国の集約的

灌漑農業システムを支えている。

これらの効用(水資源保全、土壌保護、栄養素循環、疫病制御)の非市場的価値に関

するいくつかの研究は、それが木材等の生産額をはるかに上回っていることを示してい

る。したがって:

国内段階で、中国の森林が持つ水資源貯蔵機能の経済的価値は7.5兆元と算定され、

これら森林内にある実際の材木価値の3倍になる。

地域段階で、中国北部の長白山生物圏保護区が提供する環境機能の経済的価値は、

16億5,700万元と算定され、通常の木材生産の機会価値の16倍である(Xue and

Tisdell, 1999)。

中国の三つの森林地域における水と土壌の保全、空気浄化、酸性雨緩衝その他の

機能が生む年間付加価値は、林業、材木加工、果樹生産の総生産額の2倍から10

倍であると計算された。

中国の森林保護区域ネットワークは、また、気候変動条約の『共同実施協定』および

炭素ガス吸収プロジェクトから恩恵を受けることができるが、それは東アジアの高度に

工業化された国々と遅れた国々の間の協力増進に貢献するだろう。

ケーススタディ6

69

中国保護区域における観光1980年代における中国保護区域制度の急速な発展には、政府予算の相応の増加が伴っ

ていない。保護区域をユニットとして連繋させる方針は、分権的な運営と合わせて、自

治州や地域に財政負担の増加をもたらした。ごく少数の保護区だけは、中央政府からの

資金に依存することができるが、中国608箇所に及ぶ保護区域の大多数は、州や地方政

府の支援に依存する。中央政府は、各保護区の管理者に安定した財政支援をすることが

できないので、彼らに資金源を多角化するよう主張してきた。

この状況下で、観光は、しばしば収入を生むための環境に優しい活動と見なされる。

過去10年、観光産業は急激に発展したが、保護区域によって落差があり、いくつかの保

護区域は年間10万人以上の訪問者を迎えるが、市場性に劣る他の区域は観光施設を満た

すために苦闘している。

観光は、既に多くのサイトの維持管理に多大の貢献をしており、総じて中国の保護区

域制度の発展に重要な役割を果たしている。しかし、持続可能な観光ガイドラインを欠

き、矛盾した収入関連政策によって、シーサンバンナ(西双版納)国立自然保護区で子

供が蝶々を捕獲する事例に見られるように、野生生物の違法な収集活動が広がっている。

これはまた、九賽溝景観歴史地区世界遺産(下記参照)におけるように、森林と水資源

への脅威を増大させている。事実、観光客の増加によって、サイトによっては保護目的

の達成が困難になっており、その事例は、国際的に有名な環状に繋がった自然保護区、

臥龍、鼎湖、長白山、梵浄山で示されている。

中国の観光産業中国の観光産業は発展している。1995年、588万人の外客が中国を訪れた。世界観光

機構(WTO)の資料によると、1993年の中国の受入外客数は世界15位で、年間伸び率

は最高の16.5パーセントを示した。この観光客の多くはアジア地域からであるが、欧州

と米国からの旅行者の増加率を見ると、近年減少気味のアジアの一部に取って代わるこ

とは確実である。中国は、2005年までに2,000万人の外客を迎えて世界の5指に入る観光

客受入国になると予測されている(Swanson他、1998)。加えて、中国は国内観光でも

未曾有の成長を経験しつつある。

中国における世界遺産の観光文化と風景が主要な関心

中国皇帝たちの聖なる巡礼地である山東省の泰山には、年間推定250万人が訪れる。

ケーススタディ7

70

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

このような多数の訪問者を輸送・宿泊させるための施設の急増は、このサイトにとって

最大の運営課題である。泰山サイト管理当局は、サイトの環境収容力を定め、それから

道路の通行料とケーブルカー料金を値上げすることで訪問数増加を抑制する計画を立て

た(ビジターセンターに立ち寄る訪問者の80パーセントは、歴史的歩行者ルートを通る

よりもむしろ道路とケーブルカーを利用する)。

安徽省黄山でも、訪問者増加は、明らかにサイトに影響を与える最も顕著な要因であ

る。中国で一番人気のある景観地の一つである黄山は、年間120万人の訪問者があり、

さらに推定年率10パーセントで成長している。

地元民の参加と利益配分

四川省には、優れた風景、文化、生物多様性の価値を持つ多数の保護区域がある。そ

の中の観光開発は、地域住民に直接、間接の利益をもたらす。

例えば九賽溝渓谷景観歴史地区世界遺産は、カルシウムの石灰華で生成したトラバー

チン(石灰華)湖があって、際立った景観価値を持つ場所である。観光ホテルは世界遺

産サイトの外側に建てられ、サイト内の宿泊施設はチベット人の部落にいくつかあるの

みである。

サイトの保護活動を改善するために行なった管理上の最大成果は、同渓谷に住む村民

930名のチベット人コミュニティと密接な提携を持ったことである。現在、村民の120人

以上がサイトの保護やモニター活動に雇用されている。チベット人たちは、また、訪問

者を宿泊させ、民芸品を販売し、モデル・チベット村の解説で訪問者を案内し、馬を賃

貸したり、文化イベントを催している。

九賽溝区域の管理者たちは、このような経済振興が行なわれたことが、1992年に世界

遺産に登録されて以来、100万人以上の訪問者を比較的に成功裡に取扱うことが可能に

なった理由だと考えている。一方、現在の管理運営にとって最も困難な課題は、観光客

を規制する能力に欠けていることである。訪問者の混雑は、緊急に根本的な措置を必要

とする段階に達した。1984年のわずか5,000人から、1998年には年間訪問者は30万人に達

すると予想された。1992年には、入口の外にホテルは一軒だけだったが、今では少なく

とも20軒はある。

同じく世界遺産である近くの黄龍の景観価値も、石灰湖群と背景の針葉樹と落葉樹の

森、雪宝頂山(中国最東端の氷河の頂上)に依るところが大きい。渓谷の中はチベット

住民によって景観が変ってきているが、ホーストレッキングによるエコツーリズムが盛

んである。このサイトはうまく運営されており、壊れ易いカルシウムの石灰華を保護す

る7キロの木道とトレイル網ができている。年間14万人に及ぶ訪問者の多くは、冬の寒

さが厳しいので、夏と秋のシーズンに訪れる(小道は高度3,100メートルから3,600メー

トルの高地に広がり、道路は高度4,200メートルの峠を越える符江渓谷の尾根を通る)。

訪問者は、入口にある小さな商業村を訪れ、区域の入口の非常に小さい観光客用施設に

宿泊するか、あるいは40キロ離れたミン川渓谷の主要道路に沿った軋如寺(Chuan Zhu

Si)の町に宿泊する。

71

東アジアの保護区域の資金調達に関するケーススタディ

結論これらのサイトが重要な収入を生み出しているにもかかわらず、サイト各管理機関に

対する政府と州からの財政支援は不十分である。1998年、119景観地区の運営と保護に

関する国レベルの年間予算は1,000万元(120万米ドル)であった。

保護区域におけるエコツーリズムの効果的な運営は、利益の配分に掛かっており、そ

れによって地域住民は、基盤になる自然資本の重要性を認識するようになる。相応の収

入と雇用機会の存在が、地元社会に保護区域の運営への参加意欲を生み出す。エコツー

リズムのさらなる発展のためには、地元社会がこれらサイトの効果的な運営に参加する

こと、もたらされる収入をより効果的に配分すること、に今まで以上に注意が払われな

ければならない。持続可能な観光事業とそのインフラを開発するための適正な枠組みも、

また必要である。

72

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

中国臥龍自然保護区のジャイアント・パンダAiluropoda Melanoleuca �WWF-Canon/John

MacKinnon

73

中国臥龍(ウオロン)自然保護区の観光経済学臥龍自然保護区は、中国四川省北西部の文川郡の山岳地帯にある。そこは、野生で生

存するジャイアントパンダ全体の15パーセント近い約145匹のジャイアントパンダを含

めて、多くの著名な生物種の生息地である。またジャイアントパンダ保護センターの本

部であり、パンダの繁殖活動が行なわれている。四川省の首都、成都から比較的近い場

所にあリ、美しい風景と文化的特性に恵まれた基本的なインフラの存在がすべて、保護

区の観光価値を高めている。

保護区の人口は少なく、チベット族とハン族の居住地域はピタオ河に沿った細長い地

域にある。自然保護区を保護する目的の法律・規則は、この人々が保護区域の中で生計

を立てることを著しく困難にさせた。その結果、住民の平均所得は、全国平均より15パ

ーセント、省の平均より7パーセント低くなった。政府は、再定住政策を放棄しなけれ

ばならなくなり、その結果、保護区域の人口は規制されず、増加を続けている。狩猟や

採取のような非公認の活動は、比較的規制されずに続けられている。この成行きは、ジ

ャイアントパンダにも影響を与えている。

北京大学とロンドン大学の専門家の提案によれば、必要なことは開発を拒否すること

ではなく開発を望む勢力に道を開きながら、保護区(野生動物とその生息地)を地域社

会が保有する貴重な資産として取扱う管理政策である。この想定は、ひとたび地元住民

が自然の資源基盤から大きな価値を引き出せること、また、この基盤の維持によって継

続する価値の流れが保証されることを理解すれば、彼らは公園を維持し、保護する意欲

を持つようになるだろうということである。さらに、臥龍保護区が存在するだけで、地

球の反対側に住んでいても、進んでこのサイトの保護に貢献したいとする人々にも価値

の大きな流れを生み出す。

臥龍保護区のエコツーリズム運営の可能性

北京大学・ロンドン大学の研究によれば、現在もその調査が進められているが、この

サイトの偉大な価値を測定し活用することによって、臥龍のエコツーリズム開発の可能

性が評価される。その手法は、いかにして生物種と生息地への影響を最少にするかを検

討し、かつ生まれる利益の大部分を地元住民に配分することを目的としている。

現在の保護区の観光は、低レベルにある。臥龍には近年5万人の観光客が訪れている

が、そのうちわずか2パーセントが外国からである。保護区には、25万米ドルの観光収

入があるが、その約12パーセントが外国人訪問客からである。この収入の4パーセント

だけがロヤリティの形で地元民に入るが、18パーセントは再移住計画に使用される。こ

ケーススタディ8

74

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

の数字では、地元住民に保護区を大切にしようという意欲はあまり起きない。しかし、

適切な指導があれば、保護区域における充分に開発された観光事業の利益は、地域とそ

の資源を保護することの必要性を人々に説得することができよう。

保護区の環境容量

臥龍保護区が受入れることができる訪問者の数に関しては、色々な推計がある。受け

入れ可能な訪問者数の総計は年間15万人程度と考える人たちがいる一方、19.5万人か

ら23万人までの範囲で考えるのが実際的と考える人たちもいる。この違いは、市場介入

政策と観光開発に関する異なる前提から生じたものである。

快く支払われる金額(WTP)

北京大学・ロンドン大学の研究は、公園の利用価値と非利用価値の両方の測定におい

て仮想評価法(CV)を採用した。仮想評価法は、これらの価値に対して人が快く支払

う金額を確認することで環境財に対する人々の選好度を明らかにし、仮想的市場を構築

する調査に採用される方法である。臥龍の調査は、1)現在の1つ星ホテル、2)4つ星

ホテル、3)伝統的山岳ロッジ、の3種のエコツーリズムのパッケージに対する仮想評

価法に関して実施された。同時に、パンダ保護は:標準的な檻の中での保護、柵囲いの

中、自然の生息地という3種のシナリオを採用した。

調査の結果、エコツーリズムのパッケージに対して人々が快く支払う金額は、伝統的

山岳ロッジで562米ドル、4つ星ホテルで441米ドル、現存する1つ星ホテルで285米ド

ルであった。

適切な料金設定

持続可能なエコツーリズムの主要原則の一つは、自然の生物生息圏に対する影響を最

小にするレベルに訪問者数を抑えることである。財政面の持続可能性からすると、その

制約の中で最大の収入が得られる訪問者への請求代金を見つけることが目的になる。臥

龍の場合、最適の料金は、ロッジに宿泊するエコツーリズムの場合に600米ドル、現存

ホテルの観光パッケージでは265米ドル、4つ星ホテルを選択する場合には500米ドルと

算出された。この分析は、また、人は保護区までの交通に、さらに18米ドルを快く支払

うことを明らかにした。したがって、現行料金の7米ドルを超えて、最適の保護区入園

料は25米ドルと算定される。

エコツーリズムで獲得できる収入総額

算定されたエコツーリズム・パッケージの最適価格および保護区の環境収容力の上限

下限を検討すると、エコツーリズムから得られる収入は、年間3,655万米ドルから4,904

万米ドルの範囲になる。

75

東アジアの保護区域の資金調達に関するケーススタディ

空港税サーチャージ(付加料金)で獲得できる収入:「パンダ保護スタンプ」

空港税サーチャージは、それを種の保全に貢献する費用を負担するための公正な手段

と考えている多くの外国人観光客に受入れられる支払い手段かもしれない。このような

手段が成功するためには、そのかなりの部分が地元社会にロイヤリティの形で還元され

なければならない。このようなサーチャージは、中国への入国ビザに「パンダ保護スタ

ンプ」として徴収することができる。この方法で得られる収入は、1995年の訪問者数を

使って算定すると5,770万米ドルと推定される。

獲得される最大総収入額

この調査は、パンダ関連の観光とその他の価値(値段)の両方を算定し、活用するこ

とによって、いかに大きな収入を生み出せるかを明らかにする(年間推定10,674万米ド

ル)。中国におけるパンダ保護区の発展は、これら保護区の価値を正しく評価し、活用

することに懸かっている。それは、また、保護区開発の利益を地域社会に配分すること

にもかかっている。大幅な収益の流入によって、これら地域社会は資源基盤の管理と維

持に参加する意欲を生み、それ故に保護区の持続可能性に貢献することができるだろう。

このように臥龍保護区は、本ガイドラインに主張された多くの原則を確認する。必要

なのは、1)地域の価値を最大にする、2)これらの価値を活用する、3)収益を、それ

が拠って立つ資源基盤を保護する方法で配分する仕組みである。

76

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

中国、香港特別行政区マイ・ポ湿地の風景 �WWF-Canon/Mauri Rautkari

77

香港特別行政区(中国)のマイポ湿地香港北西部の一角にあるマイ・ポおよび后海湾地域は、自然と人造の生物生息地がモ

ザイク状に混じり合っている。このサイトは、南シナ海沿岸沿いで最大かつ最も多様な

マングローブ群生を支えている。1975年、マイ・ポ湿地は野生動物保護条例によって立

入り制限地区に指定された。1995年、マイ・ポおよび后海湾周辺の湿地1,500ヘクタール

は、ラムサール湿地に指定された。1996年2月、保護区域は拡大され、内后海湾の干潟

も含まれた。この干潟は東アジア・オーストラリア間の渡り鳥経路にあって、鳥たちの

重要な餌場である。

ゲイワイ(浅い潮溜まり)のえび養殖1940年代の初頭、中国からの移住者は、沿岸のマングローブ林を潮間帯のえび養殖池

として囲い込むアイデアを持ち込み、それを地元でゲイワイと呼んでいる。各ゲイワイ

は、それぞれ10ヘクタールほどの面積を占める。当時造られた24のゲイワイは、主とし

てえび養殖用であったが、魚、牡蠣、海草、半塩水のすげ(菅)も採取された。このタ

イプの伝統的小規模の養殖漁業は、投入資本も少なく、海水の交換と滞留を自然の潮の

干満に依存するものだった。過去50年余の期間、マイ・ポ地域の土地利用の変化によっ

て、現在、香港特別行政区に残るゲイワイは、マイ・ポ自然保護区(380ヘクタール)

にあるものだけになった。

マイ・ポ自然保護区の管理マイ・ポ内部の土地は香港特別行政府に属し、数十年にわたりゲイワイえび養殖に従

事する民間漁業者にリースされていた。70年代に、ゲイワイのえび生産の利益が減少し

て、より利益のある養魚池への転向が増え、地域のマングローブ林と野生生物の多様性

の減少をもたらした。結果として、WWF香港は、香港行政府と合意して、マイ・ポの

ゲイワイの管理を引き受けることになった。そのためにWWF香港は、最初に、当時養

魚池を経営していた漁業者に支払うための資金を確保しなければならなかった。支払う

べき正当な金額は、えび養魚場の生産性など数多くの基準に基づいて、政府の農業漁業

部が定めた。多くの場合、その金額はゲイワイ10ヘクタールあたり80万香港ドルだった。

WWF香港がゲイワイの管理を引き受ける場合、この組織はいつでも可能な限り、元の

事業者をWWF香港の正社員として再雇用する。最初のゲイワイ引き継ぎは、1984だっ

た。現在、WWF香港は、マイ・ポ全部のゲイワイを管理運営している。

ケーススタディ9

78

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

マイ・ポ管理の資金調達マイ・ポの管理には、現在、年間約300―400万香港ドルが必要になる。以前は、この

金額は、例えばゲイワイのえび販売、訪問者の入園料(1996年に推定3万人)、保護区

の売店での土産品販売、特別募金行事などから得られた。この収入の一部は、香港特別

行政区教育部がWWF主催の学校向け教育ツアーを購入してくれることで得られた。マ

イ・ポおよび后海湾がラムサール条約の国際的に重要な湿地として指定されたことによ

り、政府農業漁業部は保護区を管理する予算を獲得した。この予算の一部には、ラムサ

ール湿地の管理を支援するWWF香港を含むNGOに渡される金額が含まれる。この金額

は、マイ・ポの年間管理費用の約50パーセントをカバーするに充分である。

79

香港特別行政区(中国)地方公園香港特別行政区(中国)の陸地の約45パーセントは、地方公園に指定されている。

この保護区域は無料で一般に開放されているが、自然保護、野外レクレーション、環境

教育、観光の目的のために管理されている。政府予算平均は約2.9億香港ドル(3,700万

米ドル)で、管理費の大部分と基本的インフラの費用を賄うには充分であるが、広範な

環境教育プログラムを支援するには充分ではない。収入の少額部分は認可料と営業権料

から得られるが、この資金は政府の中央歳入資金に組み込まれる。環境教育の資料の必

要に対応するために、地方公園・海洋公園局(CPMPA)は様々な資金調達の仕組みを

検討し始め、かなりの企業と慈善団体から寄付を得ることに成功した。

例えば、香港競馬クラブは、1本につき約20万香港ドルの費用で、五つの地方公園の

環境教育用ビデオ製作に資金を提供した。中国電力会社は、追加してビデオ1本を支援

した。これらのビデオのCD-ROMが製作され、教材として各学校に配付された。

企業による緑化計画は、最低1万本の植樹とその維持(3年間)の支援を産業界に求

めた。この植林は公園の景色を改善し、野生生物に生息場所を与え、空気や水の質を高

めることで地元と地域に恩恵を与える。この貢献は約25万香港ドルの価値があった。見

返りに、植林地にはスポンサー企業の名前がつけられ、企業は「グリーン」イメージに

よる利益を得るほか、立派な社会貢献をしたと考える。

企業からの寛大な寄付によって、多くの教育センターが地方公園内に設立された。ラ

イオンズ・クラブは、ライオン自然教育センターに3箇所の展示室を寄付し、またシェ

ル石油会社と環境キャンペーン委員会と共に出資して、貝類展示のための『シェル・ハ

ウス』を作った。香港競馬クラブは、各地のビジター・センターでいくつかの展示室の

改装費用を受け持った。これらのプロジェクトに要した下費用は、100万香港ドルから

500万香港ドルに及ぶ。

様々な営利団体や慈善団体は、市民と学校のために地方公園・海洋公園のパンフレッ

ト、リーフレット、書籍、教材の製作出版の資金を提供した。学校教師のための研修セ

ミナーも行なわれた。この方式で、解説案内用資料を製作するために、3万香港ドルか

ら20万香港ドルの募金が行なわれた。

ケーススタディ10

80

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

CPMPAが活動を組織し、土産品を生産し、教材を刊行し、政府予算がつかない営利

的な活動を行なうことを支援するために「地方公園友の会」という組織が設立された。

ここで得られる収益は、教材を増やす資金とし公園に還元された。

民間資金を調達した経験からCPMPAは、以下のような特徴を持つプロジェクトが、

より資金を得る可能性があることを学んだ。

特定の目に見えるような成果のある1回限りのプロジェクト

その成果が、ドナーの目的と一致するプロジェクト

資金支援団体に好ましいPR効果をもたらすプロジェクト

地域社会と関係があり、利益をもたらすが、地域向けの政府予算からは充分な資

金を得られないプロジェクト

タイミングも重要である。多くの会社は環境プロジェクトに充当される予算を持って

おり、特に会計年度の初めには、会社が支援に値する案件を特定するのに役立つアプロ

ーチを歓迎する。

CPMPAは、莫大な富に恵まれた地域に位置するという幸運に恵まれているが、公園

制度の目的に直接関連する活動に資金を得るために利用できる好機会を掴んできた。す

べてではないとしても、営利団体や慈善団体が支援した活動の多くは、通常の政府予算

の範囲では実行できないものであった。

パート3

東アジアの保護区域に対する資金支援組織

82

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

モンゴル、ボグドハンウル保護区のタイガの森―唐松、松、トウヒ、カバ

の樹木 �WWF-Canon/Hartmut Jungius

83

保護区域のための世界の資金供給源の名簿は、IUCN世界保護区域委員会との密接な

協力で、IUCN経済部によって編集、整備が進んでいる。名簿はIUCNの地域組織ごとに

区分されている。一般的には、組織はその本部が所在する地域にリストされている。政

府間組織や国際的NGOは、国際欄にリストされている。

東アジアに関係する下記の組織は、以下で詳細を説明する。

1.国際開発高等教育機構(FASID)

2.モンゴル環境信託基金(METF)

3.長尾自然環境財団(NEF)

4.ユネスコ‐人と生物圏プログラム(UNESCO-MAB)

5.地球環境ファシリティ(GEF)

6.アースウオッチ(Earthwatch, USA)

7.日本政府環境省

8.資金提供の可能性があるその他の組織

国際開発高等教育機構(FASID)経団連自然保護基金

日本経団連自然保護協議会事務局

島本明憲事務局長

東京都千代田区内神田1-2-7小谷ビル8F

電話:+81-3-5282-5701

ファックス:+81-3―5282-5703

Eメール:[email protected]

経団連地球環境エネルギー・グループ、自然保護委員会

東京都千代田区大手町1-9-4

電話:+81-3-3279-1411

ファックス:+81-3-5255-6233

http://www.fasid.or.jp

*名称変更があり、問い合わせは上記事務局へ

FASIDは、1990年3月経団連の積極的な支援と協力を得て、新しい日本人開発専門

家を育てるために設立された。民間の非営利団体として設立されたFASIDは、外務省

と文部科学省に登録された。1991年4月、経団連は地球環境憲章を発表した。憲章は、

東アジアの保護区域に対する資金支援組織

84

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

企業は生態系を保護し、資源を大切にすることの必要性に留意しなければならない、と

明記している。

経団連の自然保護委員会は、この活動を推進するために1992年に創設された。

FASIDは、経団連自然保護基金(KNCF)の管理委員会と協力して、日本および外国の

NGOが進める途上国における自然保護プロジェクト支援、国際自然保護プロジェクト

に従事する人材研修、環境問題の理解促進などを含む活動を支援している。

KNCFは、以下のような現地プロジェクトを支援する。

KNCFの目的に合致するもの。原則として、途上国、特にアジア太平洋地域の自

然保護活動を支援するプロジェクト。生物多様性を育むプロジェクトが優先され

る。

ホスト国政府、国内外のNGO自然保護グループ、地域社会で尊敬され、適切なレ

ベルの支援に適格とされる可能性が高いもの。

いかなる特定企業や個人の利益に奉仕するものでなく、充分な科学的知識を持つ

スタッフ、専門家によって実施されるもの。

KNCFに支援を申請する組織、団体は:

非政府機関、非営利団体

途上国で自然保護活動の実績があり、国内でも国際的にも高く評価されているこ

と。

プロジェクトの進捗状況、予算の使途、収支決算を必要に応じて報告できること。

申請するNGOは、日本に代表者が居て、NGO、そのプロジェクト、予算に関する情

報を提出できることが最も望ましい。しかし、日本に代表者がいなくても、そのNGO

がKNCFの要求に応じて技術的、専門的な対応ができれば、申請が受付けられる(例え

ば、時宜を得たeメールまたはファックスによる回答)。

モンゴル環境信託基金(METF)Bagatoiruu 44

Government Building #3, Room 404

Ulaanbaatar-11, Mongolia

Tel/fax +976-1-312771

e-mail: [email protected]

http://www.un-mongolia.mn/metf/

国連開発計画(UNDP)およびモンゴル政府によって創設されたMETFは、モンゴル

の環境保護のための資金確保を目的とした革新的な取組みである。それは、ドナーと受

益者双方に利益をもたらす財務と管理の仕組みであり、従来型の資金調達方式を一層補

完する。

METFは、環境プロジェクトに長期間の安定した資金を供給し、生物多様性モニタリ

85

東アジアの保護区域に対する資金支援組織

ング・プログラム、地域社会の自然保護プロジェクト、自然地域の再生などの活動計画

づくりを促進する。環境活動に対する不十分な政府予算を補強する追加的資金をモンゴ

ルで集めることによって、従来型の外国からの短期援助を補完し、代替する手段を提供

する。さらに、パートナーシップを促進し、既存の知見を動員するために、政府と

NGO関係者が長期的に協力ができるような制度的枠組みを構築する。

METFは、政府や外国援助機関が効率的に資金提供できない小規模や革新的なプロジ

ェクトに対して資金を提供する、補助金支援団体として活動する。METFのもう一つの

利点は、比較的官僚的でなく、運営管理費を最小に抑えていること、厳格な会計と監査

手続きの対象となり、ドナーと受益者双方に完全に透明な運営が行なわれていることで

ある。

METFの目的は、国土と資源の保護と持続可能な管理に役立つプロジェクトに資金を

提供することであるが、それにはモンゴルの変化に富んだ生態系、野生動物と豊かな生

物多様性の保護、砂漠化の抑制が含まれる。基金は、その目的達成に努力する一方、可

能な限り広い範囲のモンゴル社会をその活動に参加させるだろう。

METFは、いろいろなタイプの寄付を認めることによってドナーの特別の要求にも応

えられるような、非常にフレキシブルな財務構造を持つよう意図されている。

基本財産資金は国際金融市場に投資され、年間収入のみが使用される。基本財産の利点は、永

続的に収入をもたらすことが期待できることで、環境活動にとって最も持続可能な資金

確保の形である。

減債基金基本財産の資金と対照的に、収入と合わせて資本の一部は毎年消費され、恐らく10―

20年の間は毎年資金を引き出せる。減債基金では有効期間が限られるが、それでも相応

の期間、より確実な支援を可能にするもので、これは、しばしば従来型の援助プログラ

ムでは欠けていることである。

目的指定の資金METFが、ドナーのためにできるだけ手堅く資金を管理、運営する一方、ドナーは、

現在進行中の、あるいは提案された特定プロジェクトに資金使途を絞ることもできる。

その結果、ドナーは現地に直接代表を置かなくてもモンゴルの環境保護に貢献できる。

その他の寄付の形態METFは、この他のいろいろな形の寄付集めと配分のために設立されている。その中

86

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

には、モンゴル政府からの保証付きの寄付、同国の通貨や外貨での無償贈与、資産、器

材、株式、公債の提供などがある。

METFの運営METFのような環境基金は、環境保護を支援するための革新的な手法である。それに

は様々な形態があるであろうが、すべて共通の特徴を持つ。METFは2種類の勘定を持

つ。METFの資本は海外に投資され、経験豊かな金融機関のアセット・マネジャーが運

用する。第二の勘定は、モンゴルにあって資金配付のために利用される。

METFは、並立する二つの法人として政府外部に設立された。オランダの非営利財団、

そしてモンゴルNGOとして法的に設立・登記された事務所である。科学技術諮問委員

会は、資金支援を求められるプロジェクトの実行可能性と環境インパクト、および

METFの活動に地元民の参加を増やす方法について、METF理事会に助言を行なう。理

事会はまた、これらプロジェクトを審査するためのガイドラインを定める責任を負う。

モンゴル環境信託基金が支援するプロジェクトMETFは、モンゴルの環境保護のため、長期にわたり繰り返し発生する費用を支出す

ることに重点を置き、生物多様性保全行動計画や砂漠化抑止国民行動計画など国の環境

戦略の実施を助ける。発足後の最初の数年間は、以下5つの特別重点事項に力を入れた。

a)国民の環境意識向上と教育

モンゴルの環境を長期的に保護するために、人々は環境の健全性に関心をもたねば

ならない。環境状況とライフスタイルが急速に変化するにつれて、環境悪化の問題と

原因について一般の理解をさらに深め、社会各層で―学校の教室、地域社会グループ、

職場においてー浸透する必要がある。そうすればモンゴルの自然環境を維持するため

に必要な連帯責任感を生み出すことができる。

b)保護区域の運営

モンゴルの保護区域制度を維持発展させるには、基本的な費用支出を維持するため

の支援が必要であると認識されている。また、保護区域内外の効果的な管理のために

は、現代の生態学、保全生物学、社会経済学の原則の適用に基づいた支援が必要であ

る。

c)生物種の保護プロジェクト

保護区域は、生物多様性の保全問題の一部しか解決できない。絶滅の危機にさらさ

れた種の保護については、個別のプロジェクトが必要である。モンゴルでの対象は、

野生ロバ、モンゴル・ガゼル、ハヤブサ(ファルコン)、鶴などである。これら動物

の生息範囲は保護区域の限られるものではなく、その保護は、基本的情報とモニタリ

ング・システムの欠如により困難な状態にある。

87

東アジアの保護区域に対する資金支援組織

d)研修

研修プログラムは、自然資源管理者がモンゴルで環境保護活動を行なう上で、必要

な知識と専門技術を身に付けるために必要である。教育を受けた人材は、環境管理、

環境影響アセスメント、生態学、エコツーリズム、環境モニターリング、保護区域管

理、持続的な土地利用計画づくりの分野で求められる。METFは、これらのプログラ

ムのために、長期にわたり繰り返し発生する費用に見合う資金援助に重点を置くだろ

う。

e)偶発事象に対応する資金

従来型のドナーや政府による資金供与の仕組みは、しばしば、環境活動のための緊

急の資金要請に素早く対応する能力に欠けている。例えば、政府の予算削減で麻痺し

たプロジェクトの最重要の運営費をまかなうために、または火事、砂塵嵐、ひどい飢

饉や洪水など予想しなかった汚染や自然災害で発生した保護区域の被害を軽減するた

めのプロジェクト支援のために、資金提供が必要になるかも知れない。偶発事象に対

応する資金は、この種の緊急の要請に素早く対応することを可能にする

(http://www.un-mongolia.mn/metf/ May,2001)。

長尾自然環境財団(NEF)東京都文京区湯島2-29

電話:+81-3-3812-3123

ファックス:+81-3-3812-3129

Eメール:[email protected]

http://www.jwrc.or.jp/NEF/

1989年に設立されたNEFは、途上国の自然生物資源の保護を専門的に支援する非営利

の独立組織である。その奨学金と研究補助プログラムによって、NEFは、現在、アジア

太平洋地域の途上国の野生動物、生息地、生物多様性の保護を促進し、支援している。

NEFは、60余の保護プロジェクトに資金を供与し、60人以上の大学生に奨学金を支給し

た。NEFの活動は、丸三証券の長尾栄次郎社長とその一族からの寛大な個人資金だけで

支えられている。

NEF研究補助プログラムは、承認された研究機関でフルタイムで働く研究者たちの独

創的な研究からの提案を奨励している。そのプログラムは、野外調査プロジェクト、ワ

ークショップ、出版その他の活動に資金を提供する。資金申請者は、なるべく40歳以下

で、アジア太平洋地域内に職場と住所を持つ者でなければならない。年間の奨学金は、

1プロジェクトあたり年間100万円を超えない。プロジェクトは、3年間まで更新でき

る。申請書提出の前に、当プログラムに関心がある個人は、自己を紹介する600字程度

の手紙を、プロジェクトの要約と共に提出しなければならない。申請は、年間を通じて

受付ける。奨学金受領者は、プロジェクト期間の終わりに1万字程度の報告書、あるい

88

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

は同等の資料提出を義務付けられる。

ユネスコ‐MABUNESCO、Division of Ecological Sciences

1, rue Miollis,

F-75352 Paris、CEDEX 15, France

電話:+33.1.45.68.41.51

ファックス:+33.1.45.68.58.04

Eメール:[email protected]

http://www.unesco.org/mab

『ユネスコ、人と生物圏プログラム(MAB)』は、自然科学と社会科学の枠内で、生

物圏資源の理性的利用と保護を行い、人と環境との全地球的関係を改善するため、その

基礎づくりを目的とする学際的な研究・研修プログラムである。

生物圏保護区は、陸上と沿岸・海洋生態系の地域、またはその組合わせであり、

MABの枠組みの中で国際的に認識されている。その地域は人と生物圏の間の調和した

関係を発展させ、実証するために創設された。生物圏保護区は、当該国の申請を受けて

MABプログラム国際調整評議会によって指定される。個々の生物圏保護区は、それが

所在する国の統治下でそのまま管理される。共同では、すべての生物圏保護区は集まっ

て「世界ネットワーク」を設立しているが、国の加盟は任意である。

MABには、東アジアの関係者がアクセスできるいくつかの資金確保の機会があり、

このすべては保護区域と資源管理能力の改善に対応している。

(http://www.unesco.org/mab/capacity/capac.htm参照)

ユネスコ‐Cousteau Ecotechnie Programme(UCEP)UCEPは、ユネスコとクストー・グループが主導する共同プログラムで、生態学、経

済学、テクノロジー、社会科学を統合した教育、研修、研究への取り組みを促進してい

る。

2001年、中国で二つのプロジェクトが進行中である。「自然資源活用に関する研究と

研修コース」および「メコン川流域における保護と開発」のタイトルのプロジェクトは、

雲南大学(生態・植物地理学研究所)が中心になっており、四川連合大学(植物学部)

は『黒竹渓谷植物資源の持続可能な採集』プロジェクトに関係した。

若者のための環境関連業務研修プロジェクト

このプロジェクトは、生物多様性の保護と持続的な利用を目的とした総合的な環境関

連の職業教育を行なう。例えば、ブラジルのサンパウロ・グリーンベルト生物圏保護区

(Mâta Atlântica BRの一部)の若者は、環境改善と環境関連の職業を得るための研修を

89

東アジアの保護区域に対する資金支援組織

受けてきた。

The MAB 青年科学者賞制度Young Scientists Awards SchemeMAB青年科学者賞制度は、世界中の青年科学者を支援するMABの活動の一部である。

MAB賞の目的は:

青年科学者が調査や研修活動において、MABの調査・プロジェクトの現場および

生物圏保護区を利用することを奨励する。

既にこのような現場を利用している青年科学者が、自国や外国の他の現場で比較

研究を行なうことを激励する。

新世代の科学者が情報や経験を交換することを支援する。

韓国は、1991年と2000年に2名の青年の研修支援にこの資金源を利用し、中国は1989

年以来10名が利用した。

さらに下記の二つの研修プログラムがアフリカで実施されており、東アジアが見習え

ば有益なモデルになるかもしれない(東アジアのメンバー国が、この地域で同様な研修

センターを創設する計画ができない理由はない)。

地球環境ファシリティ(GEF)GEF事務局

1818 H Street, NW

Washington, DC 20433

USA

電話:+1 202 473 0508

ファックス:+1 202 522-3240/3245

ERAIFT

ERAIFT(総合熱帯林管理の地域学校)、コンゴ民主共和国キンシャシャ大学。

このプロジェクトは、フランス語を話すすべてのアフリカの国々を含んでいる。

その目的は、毎年、30名ほどのアフリカ人専門家に対して熱帯林総合管理の分野

の教育をすることである。別の重要な側面は、地域社会と協力して住民の生活条

件を改善し、持続可能な開発を推進することである。

マダガスカル、マナナラ北生物圏保護区のパイロット・プロジェクト

発足以来10年、同国の北東に位置する広大な地域の管理において、自然保護、

バッファー・ゾーン開発、地域社会参加を統合するプロジェクとして、マナナラ

北生物圏保護区は、国際的な評価を得てきた。自然保護と開発を統合した13以上

のプロジェクトが、生物圏保護区モデルを活用して遂行されている。

90

東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

E-mail: [email protected]

http://www.gefweb.org

GEFは、生物多様性、気候変動、国際水域、オゾン層破壊の分野で合意された地球環

境を守る施策について、合意された費用増加に対応するために新しく追加される補助金

と譲許的資金の提供を目的とする国際協力機構である。また、土地の劣化問題、主とし

て砂漠化と森林破壊は、上記の四つの焦点分野に関係するものとして取組まれるだろう。

GEFの運営戦略は、GEFが暫定的な資金支出機関として奉仕する関係条約―生物多様性

保存条約および気候変動枠組み条約―のガイダンスを取り入れている。

CEFは1991年に試験機関として発足したが、リオデジャネイロ地球サミットの後に、

世界各地で環境に関心を持つ人々に対応するよう組織改正が行なわれた。改組後に生ま

れた組織は、より戦略的、効率的で透明性を持ち、参加型になった。1994年、地球環境

を守り、持続的開発を促進するために、GEFの役割を支持して34ヵ国が20億米ドル、

1998年、36ヵ国が27.5億米ドルの拠出を約束した。GEFは、地球環境保全の共通指針を

打出すために、各国政府、代表的な開発機関、学会、広い範囲の民間産業、NGOなど

166の会員を結集した。

GEFは、基本的に、地球環境を守るという目的のプロジェクトや活動に対して、受益

国に新たな別枠の補助金や譲許的資金を支給するために創設された金融機構である。同

機構は、信託基金、科学技術諮問委員会(STAP)および技術支援プログラムで構成さ

れている。2001年に発表された東アジアのプロジェクトには、ベトナムの「Pu Luong-

Cuc Phuong石灰岩景勝地の保存」や「モンゴルのホブスゴル湖国立公園における生物

多様性減少と永久凍土層溶解の力学」が含まれる。

先に述べたとおり、GEFは5つの焦点分野―生物多様性、気候変動、国際水域、オゾ

ン層破壊、土地の衰退―を対象にする。これら各分野について、それに向けられた支援

額と合わせて、以下詳細に述べる。

生物多様性地球上の生物多様性を保全し、持続的に利用するための仕事は、GEFのプロジェクト

全体のほぼ半分を占める。一般に、プロジェクトは危機的な4類種の生態系の中から一

つまたはそれ以上のタイプとその地における人間社会を対象にする:1)乾燥、準乾燥

地帯、2)沿岸、海洋、淡水資源、3)森林、4)山岳。

1991年から1999年までにGEFは、生物多様性プロジェクトのために9.91億米ドルの補

助金を配付し、他機関(受益国、2国間支援機関、その他開発組織、民間団体、NGO)

との共同負担で15億米ドルを追加した。生物多様性プロジェクトに関する詳細情報は、

ウエブサイト参照。

http://www.gefweb.org/Projects/Focal_Areas/BiodiversityBooklet.pdf

91

東アジアの保護区域に対する資金支援組織

気候変動気候変動に取り組むプロジェクトは、GEF支援プロジェクトの下記4大グループに分

かれる。気候変動プロジェクトは、持続可能な開発のためのエネルギーを供給しながら、

全地球的な気候変動の危険を減少させる目的を持つ。GEF気候変動プロジェクトは4つ

の分野で構成されている:1)エネルギー効率とエネルギー保存に対する障碍除去、2)

障碍を除去し、導入コストを減らすことによって再生可能なエネルギーの採用促進、3)

グリーンハウス・ガス(温室効果の原因となるガス)排出を防止する技術のための長期

的な費用削減、4)環境を破壊せずに運行可能な輸送手段の開発支援。

1991年から1999年までにGEFは、227件の気候変動プロジェクトとエネイブリング・

アクティビティに8.84億米ドルを配分したが、それに合わせて共同支援の資金からは47

億米ドル以上が支出された。

国際水域国際水域の劣化を阻止するGEFプロジェクトは、様々な地域水域と国際水域協定から

情報を与えられ、その目的を実現することを支援する。これらのプロジェクトは、各国

が、共通に直面する水域関連の課題を認識し、理解し、協力する方法を見出し、問題解

決に必要な国内の改革に着手することを可能にする。水域プロジェクトの3つのカテゴ

リーは:1)湖沼、2)水陸統合プロジェクト、3)汚染物質。

1991年から1999年までに、GEFは国際水域プロジェクトに3.6億米ドルを配分した。

オゾン層破壊オゾン層破壊物質(ODS)を除去することは、現在および未来の地球環境を守るため

の効果的な手段と考えられる。GEFは、ウイーン条約(オゾン層破壊物質に関する)の

モントリオール議定書に協調し、ロシア連邦、東欧と中央アジア諸国がオゾン層を破壊

する化学物質の使用を削減することを可能にするプロジェクトに資金を提供する。1991

年から1999年までの間、GEFは、ODS削減プロジェクトに1.55億米ドルを配分した。

土地の衰退土地の衰退を防止し、制御する活動に資金を提供するGEFの関心は、全地球的な環境

変化とリンクするその性質と範囲に由来するものである。破壊された森林や悪化した水

資源は、生物多様性に危機をもたらし、気候変動を招き、水の循環を阻害する。「砂漠

化阻止条約」の目的を考慮に入れて、GEFプロジェクトは土地衰退問題に取組むために、

上記の4焦点分野をまたぐ活動をしている。1991年から1999年の間、GEFは、主として

森林伐採と砂漠化に焦点を当てたプロジェクトに3.5億米ドルを超える資金を提供した。

GEFの特別資金提供プログラムGEFが資金を提供するいくつかのプログラムは、東アジアの関係者には興味があるか

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東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

もしれない。各プログラムは、以下、簡単に紹介するとおりで、ウエブサイト(利用可

能なところでは)は詳細情報と申請フォームを得るためにアクセスできるようになって

いる。申請フォームは、上記のGEFアドレスでも入手できる。

普通規模のプロジェクトGEFの3執行機関(国連開発計画、国連環境計画、世界銀行)は、当該国の国家プロ

グラムおよび優先施策とGEFの運営戦略およびプログラムの双方に両立するプロジェク

ト案件を開発するために、各受益国における運営上の重点事項に取り組む。提案される

活動を支持する地域的あるいは全地球的プログラムとプロジェクトが、すべての国で策

定されるかもしれない。

中規模のプロジェクト(MSP)100万米ドル以下の補助金は、処理と決定をスピード化した迅速承認制度を通じて利

用できる。この中規模の補助金は、GEFの資金要員計画に弾力性を与え、広範な関係者

がプロジェクトのテーマを提案、開発することを促進する。MSPガイドラインの資料に

アクセスするには:http://www.gefweb.org/Documents/Medium-Sized_Project_

Proposals/MSP_Guidelines/msp_guidelines.html

エネイブリング・アクティビティエネイブリング・アクティビティへの補助金は、各国が生物多様性保全条約および国

連の気候変動枠組み条約に協力して、インベントリー、戦略、行動計画を作成すること

を助ける。この支援によって、各国は生物多様性と気候変動の課題を国家的見地から査

定し、プロジェクト進展に最も有望な機会を決定し、その結果として普通規模のプロジ

ェクトに進むことが可能になる。

プロジェクト準備と開発への支援プロジェクト準備段階への資金提供は、3つのカテゴリー、または「ブロック」の中

で利用できる。ブロックAの補助金(25,000米ドル以下)はプロジェクトあるいはプロ

グラム特定の非常に初期の段階で資金が提供され、GEFの実施機関で承認される。ブロ

ックBの補助金(35万米ドル以下)は、プロジェクトの提案書と求められる付属文書作

成に必要な情報収集の費用として提供される。これら補助金は、GEF運営委員会の勧告

に留意して、GEF会長によって承認される。ブロックCの補助金(100万米ドル以下)

は、より大規模なプロジェクトが技術設計や実行可能性調査を完了するために、必要な

場合には追加して、提供される。ブロックCの補助金は、通常、プロジェクト提案が

GEF諮問委員会の承認を受けた後、利用可能になる。

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東アジアの保護区域に対する資金支援組織

少額補助金プログラムGEF少額補助金制度(GEF/SGP)は、国連開発計画(UNDP)によって1992年に開

設された。GEF/SGPは、5万米ドルまでの補助金を提供し、GEFが関心を持つ地域問

題に取組むコミュニティ・ベースの団体(CBO)やNGOの活動を支援する。開設以来、

GEF/SGPは、アフリカ、北米、中東、アジア、太平洋、欧州、ラテン・アメリカ、カ

リブ海地域の750を超えるプロジェクトに資金を提供した。このプログラムは45ヵ国以

上で運営可能である。

GEF/SGPは、生物多様性保全、気候変動から予想されるの悪影響の緩和、国際水域

保護のために、地域に適した解決方法で家庭や社会が果たすことができる重要な役割を

認識している。人々は、行動できるよう組織されれば、自分の環境を守る力を持ち、自

然資源の基盤へのアクセスを制御する手段を持ち、必要な情報と知識を持ち、社会的経

済的幸福は長期的で健全な資源管理に依存していることを信じる、という前提でこのプ

ログラムは運用される。GEF/SGPは一般の理解を深め、提携関係を築き、そして政策

対話を促進することによって、国内で持続的な開発を達成し、地球環境問題に取組むた

めに、より強力な支援体制づくりを目標にする。

GEF/SGPの主要目的は:

1.長期にわたり繰り返し実行することで地球環境の脅威を軽減するだろう地域社会

レベルの戦略と技術を実証する。

2.地域社会レベルの経験から教訓を引き出し、成功した地域社会レベルの戦略と新

機軸を、地域ベースの組織(CBO)、NGO、ホスト国政府、開発援助機関、GEF、

その他大規模に活動している機関に普及させることを支援する。

3.環境問題に取組み、持続的開発を促進する地域社会、CBO、NGOの能力を強化、

支援するために、地域の利害関係者のパートナーシップとネットワークを構築す

る。

本プログラムの詳細情報は:http://www.undp.org/gef/sgp/main.htm

中小企業プログラム(SME)世界銀行グループの国際金融公社(IFC)と連携しているSMEプログラムは、環境に

対する好ましい影響を実証し、健全な財政基盤を持つプロジェクトに資金を提供する。

これによって途上国の民間投資の機会を増進する(http://www.ifc.org/sme/)。

米国アースウォッチ680 Mount Auburn Streetまたは P.O.Box9104

Watertown,MA02471

USA

電話:+1 617 926-8200

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東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

ファックス:+1 617 926-8532

Email: [email protected]

http://www.earthwatch.org

アースウォッチは、5ヵ国に 約75,000人の個人会員と事務所を持つ調査中心のNGO

である。現在、50ヵ国において165件以上の調査プロジェクトに資金支援をしている。

アースウォッチは、一流の科学および人間学の学者による国際諮問委員会が奉仕するフ

ィールド・リサーチ・センター(CFR)によって支援されている。これまで、アースウ

ォッチは全世界で1,000以上の調査プロジェクトを支援し、奨学金のために3,700万米ド

ル以上を寄付した。1972年以降、5万人を超えるボランティアが自然保護調査に参加し

ている。調査は、中国、インド、スリランカ、タイ、ベトナム、インドネシアの保護区

域で実施されている。

アースウォッチの使命は、科学者、教育者、一般人の間の連携を強めることによって、

自然資源と文化遺産の持続可能な保護を推進することである。アースウオッチもCFRも、

共に純粋科学および応用科学の大衆理解を促進することを約束している。

アースウォッチは、1人当りを基準として補助金制度を定めているが、補助金額は一

人当たりの補助金をプロジェクトに参加するボランティアの数に乗じて決定される。一

人当たり補助金の平均は900米ドル(250米ドルから1,200米ドルまでの幅がある)で、プ

ロジェクトに対する補助金平均は年間25,000米ドル(7,000米ドルから13万米ドルまでの

幅がある)である。典型的なプロジェクトは、全体で15人から60人のボランティアを使

用し、順次編成される3チームから6チームのそれぞれに5人から10人のボランティア

が参加する。各チームは、フィールドに1-3週間留まるのが普通である。必要に応じ

て、調査期間がより長いチームやより短いチームも奨励される。

アースウォッチの補助金の対象になるのは以下の費用である。調査チーム(調査班長、

スタッフ、アースウォッチ・ボランティア)の食事、宿泊、現場の交通。調査班長は、

現場までの往復交通費、リースまたはレンタルする調査用器材、保険料、スタッフと客

員科学者の生活費、招致国の協力者の生活費。

ボランティアもまた、野外調査に時間、労力、技術を提供し、調査現場までの往復交

通費を自弁する。アースウォッチは、資本設備、調査班長の給与、大学の間接費、調査

結果の発表準備の費用などは負担しない。調査班長の現場費用は、ボランティア・ベー

スまたはスポンサーを見つけて行なう。

日本政府環境省政府開発援助(ODA)プログラムは、東南アジアと東アジア全域の持続的開発およ

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東アジアの保護区域に対する資金支援組織

び自然保護プロジェクトを支援する。資金は、直接投資、民間企業との資金または技術

協力、NGOや一般市民への支援を含む。支援の可能性のあるプロジェクトは、以下の

目標達成に重点が置かれる:

自然資源基盤の保護と破壊されたり損傷を受けた環境を復元、改善する。

特に公共団体、政府機関、情報・資料、人材、開発などに関して、持続可能な開

発を達成するための途上国の能力を高める。

例えば、プロジェクトは次のような活動に資金提供を受けてきた。(a)環境政策と

マスタープラン作成の支援、(b)要員の教育、(c)モニタリング・システムの設定、

(d)排気ガス制御技術の強化、(e)野生動物の保護、(f)熱帯林の保護(g)調査

開発プロジェクトとそのセンターの支援。

1990年以来、環境庁(省)は国際協力事業団(JICA)と連携して、JICAの自然保護

と国立公園管理に関する研修コースを提供してきた。世界の途上国から10人のパーク・

レンジャーが、毎年、この研修プログラムを受講している。

地球環境センター(GEC)GECは、1992年1月28日環境省と外務省によって設立された。その目的は、日本に蓄

積された環境分野の知識と経験を活用し、途上国の都市環境管理におけるUNEPの活動

を支援することである。センターは、地球環境の保護に貢献する調査研究を行い、研修

プログラム、セミナー、シンポジウムを実施し、各国の国際機関、政府機関、調査機関

との連繋を円滑化する。

地球環境研究(GER)プログラム日本環境省(環境庁)の支援を受けて1990年に発足したGERプログラムの主目的は、

各分野の研究者の協力を推進して、学際的、国際的な視野に立って地球環境保護の総合

的な調査研究を促進することである。

1997年6月、USGASS(アジェンダ21実施状況の見直しと評価のための国連総会特別

セッション)は、科学知識涵養のために研究開発に投資を増やし、科学上の協力を推進

する必要を認めた。これに応えてGERプログラムは、地球圏・生物圏の国際共同研究計

画、世界気候研究計画、地球環境変化の人的側面の研究計画など国際的研究プログラム

に参加し、あるいは協力を通じて研究を推進している。

日本政府の国際資金提供に関する情報は:http://www.env.go.jp/en/index.html

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東アジアの保護区域のための資金調達ガイドライン

国 連絡先 資金支援機関

経団連自然保護基金 http://www.keidanren.or.jp(Jap/Eng) 日本

地球環境基金 http://www.eic.or.jp/jfge日本

国際協力事業団(JICA) http://www.jica.go.jp/english/日本/2国間

国連環境計画 http://www.unep.org国際

国連開発計画(UNDP) http://www.undp.org国際

世界銀行 http://www.worldbank.org国際

国際農業開発基金(IFAD) http://www.ifad.org国際

US-AID http://www.info.usaid.gov/米国/2国間

世界遺産基金 http://www.unesco.org国際

アジア開発銀行 http://www.adb.orgアジア地域

日本野鳥の会 http://www.museum-japan.com/wbsj/#NEW日本

韓国国立公園協会 Tel: +82-2-942-2420韓国

フィンランド国際開発機関 http://global.finland.fi/english/フィンランド/ 2国間

Aus Aid http://www.ausaid.gov.au/オーストラリア

BMZ, KfW, GTZ http://www.gtz.ge/home/engish/index.htmlドイツ/2国間

Global Greengrants Fund http://www.greengrants org/米国

ゴールドマン環境財団 http://www.goldmanprize org/goldman e-mail : [email protected]

米国

Pew Fellows Program in Conservation and the Environment

http://www.neaq.org/pfp e-mail : [email protected]

米国

ロックフェラー兄弟財団 http://www.rbf.org e-mail : [email protected]

米国

ウィンズロウ財団 http://www.lancewinslow.org Tel: +1 202-833-4714; fax: +1 202-833-4716

米国

アメリカン・エクスプレス http://home3.americanexpress.com/corp/ philanthropy/ Tel: +1 212-640-5661: fax: +1 212-693-1033

米国

サミット基金 e-mail : [email protected]米国

協力省 外務省 経済財務省(多国間のみ) 協力援助基金 フランス開発基金

http://www.france diplomatie. fr/frmondeフランス /2国間/多国間

デンマーク国際開発機関 (DpANIDA)

http://www.um.dk/english/デンマーク/ 2国間

その他の資金支援組織