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37 Enterolobium cyclocarpum 大きく育った植栽木(特に早成樹)が、 2014の長い乾期に突然枯死 Acacia mangium 土壌に問題あり? 物理性(硬く、孔隙少ない) 化学性(貧栄養、貧有機物) 土壌流亡 土壌侵食 土壌物理 性不良 貧栄養 植栽木の ダイバック 突然枯死 酸性硫酸 塩土壌の 形成 鉱山跡地に共通の課題 イ国林業省の指針に対処方法が記載 (コスト・労力の問題で順守困難な場合あり) 石炭採掘跡地に特有の問題 現場で、簡易かつ低コストで対処可能な 方法が必要とされている

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Enterolobium cyclocarpum

大きく育った植栽木(特に早成樹)が、2014の長い乾期に突然枯死

Acacia mangium

土壌に問題あり? 物理性(硬く、孔隙少ない) 化学性(貧栄養、貧有機物)

土壌流亡土壌侵食

土壌物理性不良

貧栄養植栽木のダイバック突然枯死

酸性硫酸塩土壌の

形成

鉱山跡地に共通の課題イ国林業省の指針に対処方法が記載

(コスト・労力の問題で順守困難な場合あり)

石炭採掘跡地に特有の問題現場で、簡易かつ低コストで対処可能な

方法が必要とされている

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ii) 各試験地の観察

AGM 試験地

試験地は年度毎にⅠ~Ⅳ(Ⅲは A と B)区が設定されている。ⅢとⅣは昨年と今年設定さ

れた試験地であるので省略するが、いずれの試験地もきわめて適切に管理され、会社とし

ての意識が高いことが伺われ、いい相手に巡り会えたことに感謝する必要がある。

埋め戻し材料は2年経過した材料で、TAJ 試験地のように古い材料ではない。しかしな

がら、表土被覆が行われなかった AGM-Ⅰの 奥部と AGM-Ⅱの中心部には硫酸酸性化し

た場所が発生しており(写真 2-20 )、硫酸酸性化は比較的早い時期に起こると考えられる。

この早期の酸化は植栽の判断を早期に行うことができるという利点となろう。

AGM-Ⅰの観察から、表土被覆が行われた入り口付近は全体面積の80%程度がほとん

どうっ閉状態になっており、速やかな緑化という本試験の一つの目的は達成された。AGM-

ⅠとⅡは水はけを確保するために傾斜地として造成された。結果として斜面に多くの川が

でき、深いガリーが造られた。ガリーの頻度はかなり密で明らかに斜面形成はテラス造成

より欠点が多い。

AGM-Ⅱ試験地の中心部を横切る硫酸を発

生する地層。植栽 3 年目の試験地で、植栽

木は地層周辺ではすべて消失している。

通常Pyriteを含む地層は黒灰色であること

が多いが、灰色の材料でも酸性化する場合

があるので注意が必要。

写真 2-20. 多量の Pyrite を含む地層

AGM-Ⅱから順次地域産樹種が増えてきた。AGM-ⅢとⅣにはフタバガキや Jelutong、

Tanjung など地域を代表する樹種が導入されている。今後これらの樹種の生存と成長につ

いてモニターが必要であろう。

TAJ 試験地

前述したように TAJ 試験地は 10 年前に掘った材料を埋め戻し材料として造成された場

所に設定された。表土被覆は行われなかったが、リッピングが導入された。以前から材料

の一部が空気中にさらされていたためすでに酸性化した部分と今後酸性化する部分とが

併存する。表土被覆が行われなかったため、酸性化ポイントの位置がよくわかり、また酸

性化ポイントから硫酸を含む水が流下する様子が明快に証明できる。

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この試験地で pH3 以下ではたとえ Kayu Putih、Aksia や Sengon Buto のような強い樹

種でも生存できないことが証明された。また、酸性化ポイントに置かれた土嚢に植栽した

Akasia も枯死しており、酸性化ポイントでは植栽しない方がよいと判断できた。

全体の 60%程度が残っていると予想され、そのうち全体の 40%程度がうっ閉状態にま

で成長している。このまま推移するとすれば、少なくとも 40%、すなわち 450 本程度は

成木になると予想されるので、立派な森林となろう。ただ、Eukali を除いて TAJ 試験地は

AGM-Ⅰ試験地と同様強いと予想された限られた樹種しか植えられていない。特に寿命の

短い Akasia や Sengon Buto の植栽部分は早晩新たな植栽が必要である。この問題はすで

に Sengon を中心としたダイバックの発生に見られるように(写真 2-21)、早晩顕在化する。

ともかくこのような裸地の緑化がエロージョンコントロールを含めて第一段階であると

認識されるので、この結果を次の森林管理にどのように結びつけるか、モニターを続けな

がら今後を見極める必要がある。

TAJ 試験地では 3 年経過して、写真のよう

な枯れた木が散見されるようになった。

Sengon Buto (Enterolobium cyclocarpum)

で発生していることが多いが、Akasia や

Teak でも頂端部が枯れることがあるが、

枯死は少なく、ある程度のサイズに成長し

てからは下部から萌芽することが多い。

写真 2-21. Sengon Buto のダイバック

iii) 将来の展望

他の石炭跡地でも埋め戻し地の早期緑化を図るため、酸性土壌やアルカリ性土壌でも成

長可能な Akasia、Sengon Buto や Jabon のような早生樹を植栽することは地域産樹種が

直接植栽困難なことから優れた選択と考えられる。このような早期緑化は、速やかなエロ

ージョンコントロールや土壌形成に結びつくという側面からも優れている。

しかしながらこのような早生樹を使った一次造林は寿命が短いという宿命を背負って

いる。Akasia は 15 年を過ぎると順次枯損が始まるし、Sengon は 4 年を過ぎた段階です

でにダイバックが始まっている。したがって石炭跡地緑化は一次緑化と次の本格的段階の

森林育成という二つの段階を踏むことを今回のプロジェクトの結果は示している。今回の

成果は地域の森林を管理する森林管理署などに対する今後の森林管理について優れた提

言ができたと判断される。

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すでに 7 年を経過した Akasia 林を TAJ 試験地の近辺で観察したが、埋め戻し材料の土

壌化はかなり進んでいて、pH は 5~6 前後で安定し始めている。Akasia の場合、枯損が

始まる 15 年生頃には土壌の安定もより進行し、一部の地域産樹種は導入可能と判断され

る。ただその場合、次の段階は生産林とするか、環境林とするか、地域の森林管理を行う

組織は選択する必要がある。

生産林にする場合、現在生育している早生樹の更新を意識してローテーションを組むこ

とにするのか、たとえば Akasia の場合では 15 年後の土壌安定を考慮して、別の種類、た

とえば Kemiri や Karet のような地域住民が利用できる森林にするのか、あるいは Mahoni

や Eukali のような用材生産林にするのか、判断の幅はより広がってくる。

環境林にする場合は地域産樹種の導入を中心とする森林管理となろう。この場合も植栽

木の寿命と土壌安定がキーワードで、Akasia 林の場合は 15 年程度とすることになろう。

この場合の林種転換は、たとえばマレーシアで行われたフタバガキ林への転換が参考にな

る。マレーシアの事例では 15 年生程度の Akasia 林をある一定程度の幅で伐採し、そこへ

フタバガキを植栽するという方法で、きわめて優れた成果が得られている(写真 2-22A, B)。

ここでは天然林の基本樹種であるフタバガキに加えて、その他のたとえば Nyawai のよう

に野生生物の食餌となるような樹木を植えるなど、いろいろな選択が想定される。

これらの新たな森林計画の策定は本プロジェクトにモニタリングなどで協力いただい

た地域の大学、たとえばランブンマンクラット大学やムラワルマン大学、さらに AGM の

環境・緑化担当部門が本試験の内容と推移を了知しているので、共同で進めることが利点

が多い。今回の成果を終点としないよう今後の石炭跡地での森林管理の象徴として、今回

の試験地を使って検討を進めることを期待する。

写真 2-22A. Akasia 植栽地に植え込まれた 写真 2-22B. 林床に群生する稚樹

フタバガキ

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Akasia は 22 年生で、Akasia 植栽地に植え込まれた Meranti Tembaga (Shorea leprosula)

は 19 年生。成長の良いものは樹高 25m、胸高直径 49cm になっている。一方 Akasia はほ

とんどが枯れており、早生樹の宿命を如実に示している。Akasia-2 列伐採、Meranti-2 列

植栽区で、3 列伐採(9m 幅)-3 列植栽区での成績が良かった。Mernti Tewmbaga の稚樹が

林床に多量発生しており、今後の更新は容易と判断している。

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2-3. 南カリマンタン州石炭採掘跡地の植栽木の養分状態-葉の窒素濃度-

森林総合研究所 主任研究員 田原 恒

国際緑化推進センター 主任研究員 仲摩 栄一郎

1) 背景と目的

石炭採掘跡地は、植生が完全に失われた裸地になっており、埋め戻しに使った材料によ

って、水や養分の欠乏、有害金属の過剰、強光、高温などの様々な要因が複合的に植栽木

の生育を阻害していると考えられる。特に、石炭層に付随して存在するパイライトを含む

材料を埋め戻しに使った場合は、極めて酸性な土壌である酸性硫酸塩土壌が生成し、土壌

の酸性が問題となる可能性が高い。一般的に、酸性土壌では、リン、カリウム、カルシウ

ム、マグネシウム、亜鉛など植物の生育に必要な必須元素の欠乏が問題となる(但野・安

藤 1984)。さらに、鉄、マンガン、アルミニウムなどが土壌鉱物から溶け出してきて過剰

害を引き起こす(但野・安藤 1984)。本報告では、石炭採掘跡地における植栽木の生育阻

害要因を理解する一助とするため、植栽木の葉の元素濃度を測定し、植栽木の養分状態を

知ることを目的とする。平成 25 年度に、酸性土壌で欠乏が問題となる必須元素(リン、

カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛)及び、過剰害を引き起こす元素(鉄、マン

ガン、アルミニウム)の濃度を測定した(田原・仲摩 2014)。平成 26 年度は、多量必須

元素の 1 つであり、多くの土壌で欠乏状態にある窒素について分析した。

2) 材料と方法

試料は、平成 25 年度に元素分析した植栽木の葉と同じである(田原・仲摩 2014)。イ

ンドネシア国南カリマンタン州の石炭採掘跡地に造成した技術開発モデル林の植栽木(植

栽後約 2 年)から葉を採取した。採掘残渣を埋め戻した対照区(採掘残渣区)、森林土壌

を全面客土した処理区(客土区)、客土に加えて施肥とマルチングを行なった処理区(客

土+施肥+マルチング区)の 3 処理区において、Acacia mangium(マンギウム)、Melaleuca

cajuputi(カユプテ)、Anthocephalus cadamba(ジャボン)、Swietenia macrophylla(マ

ホガニー)の 4 樹種から葉を採取した。マンギウムとカユプテは、採掘残渣区でも生残率

が高く、成長もよい樹種である。一方、ジャボンとマホガニーは、採掘残渣区では生残率

が低く、成長もよくない樹種である(田原・仲摩 2014)。採取した葉は、80℃で 2 日間乾

燥させたのち、細胞破砕機(Multi-Beads Shocker、安井器械)で粉末にした。粉末試料(約

3 mg 乾燥重量)の窒素濃度を有機元素分析装置(FlashEA 1112、ThermoQuest)で測定

した。

3) 結果と考察

マンギウムの葉の窒素濃度は、3~3.5%程度と他の 3 樹種と比べて高かった(図 2-16)。

マンギウムは、マメ科に属し、根に共生した根粒菌が大気中の窒素を固定する能力を持つ。

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他の 3 樹種の窒素濃度は、樹木にとって十分な窒素濃度(1.9~2.6%、Baker and Bryson

2007)を下回っていた。処理区間の違いは、マホガニーを除いて明瞭でなく、葉を採取し

た植栽後約 2 年の時点では客土や施肥等の葉の養分状態への効果は認められなかった。マ

ホガニーでは、採掘残渣区の葉の窒素濃度が他の 2 処理区と比べて高かったが、その理由

は不明である。

マンギウムでは、窒素濃度を高く維持できることが、採掘残渣区でも高い生残率とよい

成長を示す理由の一つとなっている可能性がある。土壌の化学性分析や窒素施肥試験、生

理学的実験などと組み合わせることによって、植栽木の生育阻害要因としての窒素欠乏を

より良く理解できると考える。

図 2-16. 植栽木の葉の窒素濃度

値は平均±標準偏差(n=6)である。

謝辞

窒素濃度を測定して下さった東京大学アジア生物資源環境研究センターの則定真利子

博士に深く感謝いたします。

引用文献

Barker AV, Bryson GM (2007) Nitrogen. In: Barker AV, Pilbeam DJ (ed.) Handbook of Plant

Nutrition. Taylor & Francis, Boca Raton, 21-50

但野利秋, 安藤忠男(1984) 酸性土壌の作物生育阻害要因とそれらに対する作物の耐性.

(酸性土壌とその農業利用. 田中明編, 博友社, 東京)217-258

田原恒、仲摩栄一郎(2014) 南カリマンタン州石炭採掘跡地の植栽木の養分状態.(途上国

森づくり事業(開発地植生回復支援)平成 25 年度報告書. 国際緑化推進センター)

81-87

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

マンギウム カユプテ ジャボン マホガニー

窒素

濃度

(% dry weight)

採掘残渣 客土 客土+施肥+マルチング

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2-4. 半乾燥・石灰岩地帯における森林回復実証試験(東ヌサテンガラ州)

(1) 背景・目的

乾期の長いモンスーン地帯や半乾燥地では、伐採、農業、牧畜業や火災等により一度森

林が失われると、通常の地域に比べて森林回復は困難である。そこで、本事業では、こう

した半乾燥地における農業や牧畜業跡地において、適用可能な植生回復・森林回復技術(土

壌改良、施肥、樹種選定等)を試験的に実施し、森林回復モデル林の造成を通して適切な

森林回復技術を実証的に検討することを目的とした。

(2) 対象地と方法

i) 対象地の概要

熱帯モンスーン地帯である東ヌサテンガラ州では、気候的には、4~10 月の 7 ヶ月間

が月間降水量 50mm を下回り、ほとんど雨の降らない乾期である。過去は森林であっ

たが、伐採、農業、牧畜業や火災等によって草地化した場所が多く見られ、比較的乾燥

に強い樹種であるモクマオウやヤシ類が一部散在している。

森林回復モデル林造成対象地として、東ヌサテンガラ州の荒廃地における代表的・特

徴的な以下の 3 つの土壌が分布する村落を対象とした(図 2-17)。

平成 24 年度は、①Alfisols に分類される膨潤性粘土が分布する Nekbaun 村 4.0ha(写

真 2-23)ならびに②Inceptisols に分類される石灰岩母材土壌が分布する Penfui Timur

村、4.0ha(写真 2-24)を森林回復モデル林の造成対象地とした。

また、平成 25 年度は、石灰岩

母材で、③Entisols/Leptosols に

分類される土壌が分布し、岩石が

散在するSilu村5.0ha(写真2-25、

2-26)をモデル林の造成体調地と

した。

そして、平成 26 年度は、Silu

村と同様に、石灰岩母材で、③

Entisols/Leptosols に分類され

る土壌が分布し、岩石が散在する

TTS 県 Soe 郡の Oelbubuk 村

6.0ha(写真 2-27、2-28)をモデ

ル林の造成体調地とした。

図 2-17. 東ヌサテンガラ州におけるモデル林造成地

Nekbaun村

PenfuiTimur村

州都クパン

Silu村

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表 2-7. モデル林造成地のサイト概要

ii) 植栽樹種、植栽方法(試験処理)

東ヌサテンガラ州の農業跡地において、森林回復モデル林を造成することを目的とし

て、次の通り植栽樹種を選定し、適用可能と考えられる植栽技術試験を実施した。植栽

後は、植栽木の生育状況(生存率、樹高および幹直径(地際径および胸高直径))を測定

した。

N-1. Nekbaun 村農業跡地:4.0ha

Nekbaun 村の農業跡放棄地 4.0ha(写真 2-23)を平成 24 年度における森林回復モデ

ル林の造成対象地とした。現地で代表的な造林樹種を 8 種選定し、2013 年 2 月に植栽

した。植栽樹種の選定にあたっては、現地で一般的に用いられている造林樹種のうち、

乾燥ストレスや粘土質土壌に耐性があると考えられる樹種、また、地域住民の意向を考

慮して、木材生産や非木材林産物が生産可能な樹種を植栽木として選定した。植栽間隔

は 3m×3m で、試験プロットの 小単位は、同一樹種 5 本×5 本とした。

Nekbaun 村の Alfisols は、膨潤性粘土に富むため、乾期には乾燥して体積が収縮し深

い亀裂(クラック)が発生する一方、雨期には体積が膨張して通気性・排水性不良とな

る(写真 2-24)。そこで、試験処理は、①無処理区をコントロールとし、土壌理学性の

改善を目的として、植え穴への②堆肥施用区、③木炭施用区、および、②と③の同時施

用区という 4 つの処理区を設定した。試験プロットは処理区順に規則的に配置し、それ

ぞれ 4 回の繰り返し区を設けた。

No 場所 位置 標高 気温

1 Nekbaun村(クパン県) S 10O 18’ 14,9” E 123O 41’ 24,4” 309 m

24 - 32 OC 2 Penfui村(クパン県) S 10O 10’ 24,5” E 123O 42’ 05,6” 86 m

3 Sillu村(クパン県) S 10O 02’ 35,9” E 124O 01’ 45,0” 436 m

4 Oelbubuk村(TTS県) S 09O 46’ 32,6” E 124O 16’ 56,9” 1024 m 18 - 30 OC

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写真 2-23.Nekbaun 村モデル林造成対象地 写真 2-24.Nekbaun 村の膨潤性粘土土壌

N-2. Penfui Timur 村農業跡地:4.0ha

Penfui Timur 村の農業跡放棄地 4.0ha(写真 2-25)を平成 24 年度における森林回復

モデル林の造成対象地とした。Nekbaun 村と同様に現地で代表的な造林樹種を 8 種選

定し、2013 年 2 月に植栽した。植栽間隔は 3m×3m で、試験プロットの 小単位は、

Nekbaun 村と同様に、同一樹種 5 本×5 本とした。

Penfui Timur 村の Inceptisols は、石灰岩母材であるため水が抜けやすく、乾期に乾燥

し易い特徴がある(写真 2-26)。そこで、試験処理は、土壌理学性の改善を目的として、

Nekbaun 村と同様の処理区とした。

写真 2-25. Penfui Timur 村対象地(4.0ha) 写真 2-26. Penfui Timur 村の土壌

N-3. Silu 村農業跡地

Silu 村の農業跡放棄地 5.0ha(写真 2-27)を平成 25 年度における森林回復モデル林

の造成対象地とした。現地で適応可能な造林樹種を 15 種選定し、2014 年 2 月に植栽し

た。植栽間隔は 3m×3m で、試験プロットの 小単位は同一樹種 5 本×5 本とした。

Silu 村の Entisols/Leptosols は、石灰岩母材であり、表土が極めて薄く、石灰岩が散

在している。水が非常に抜けやすく、乾期に乾燥し易い特徴がある(写真 2-28)。そこ

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で、試験処理は、試験処理は、①無処理区をコントロールとし、土壌理学性の改善を目

的として、植え穴への②堆肥施用区、③木炭施用区、および、保水剤として高分子吸収

剤を植え穴当たり④1 リットル施用区と⑤2 リットル施用区という 5 つの処理区を設定

した。試験プロットは処理区順に規則的に配置し、それぞれ 4 回の繰り返し区を設けた。

写真 2-27. Silu 村対象地(5.0ha) 写真 2-28. Silu 村対象地(5.0ha)

N-1-R. Nekbaun 村農業跡地の改植:4.0ha

2013 年 11 月、隣接する地域住民が農業利用を目的として実施した火入れが Nekbaun

村の植栽地に延焼し、約 9 割が火災被害を受けた(写真 2-29、2-30)。そこで、平成 25

年度に全面改植を行った。現地で代表的な造林樹種を 10 種選定し、2014 年 2 月に植栽

した(写真 2-31、2-32)。植栽間隔は改植前と同様に 3m×3m で、試験プロットの 小

単位は、同一樹種 5 本×5 本とした。試験処理は、①無処理区をコントロールとし、土

壌理学性の改善を目的として、植え穴への②堆肥施用区、③木炭施用区、および植栽後

の早期の成長を目的として、化成肥料(NPK)処理区という 4 つの処理区を設定した。

試験プロットは処理区順に規則的に配置し、それぞれ 3~4 回の繰り返し区を設けた。

写真 2-29. Nekbaun 村植栽地火災被害 (1) 写真 2-30. Nekbaun 村植栽地火災被害 (2)

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写真 2-31. Nekbaun 村改植(1) 写真 2-32. Nekbaun 村改植(2)

N-4. Soe 郡 Ouelbubuk 村農業跡地

標高千 m の石灰岩台地上に位置する Soe 郡 Oelbubuk 村の農業跡放棄地 6.0ha(写真

2-33)を平成 25 年度における森林回復モデル林の造成対象地とした。Oelbubuk 村は、

南中ティモール(TTS)県の中央 Mollo 地区に位置している。森林回復サイトは平らな土

地であるが、凹凸が見られ、草木はほとんど育っていない。土壌にはアルカリ性の

Entisold/Leptosols (WRB)が含まれている。粘土質の土壌は、シルト(石灰石)母材で、

表土の厚さは薄く、乾期の保水能力は低い。深さ 30-60cm の土壌を調査したところ、

土壌は湿っており、含水性が低いことを示している。風を弱める役目を果たす樹林が存

在しないため強風が吹¥きつける可能性が高く、蒸発散率が非常に高くなりやすい。

現地で適応可能な造林樹種を 14種選定し、2015年 12月から 1月にかけて植栽した。

植栽間隔は 3m×3m で、試験プロットの 小単位は同一樹種 4 本×4 本とした。当該土

壌は、表土が極めて薄く、石灰岩が散在している。水が非常に抜けやすく、乾期に乾燥

し易い特徴がある。そこで、試験処理は、試験処理は、①無処理区をコントロールとし、

②保水剤として高分子吸収剤を植え穴当たり 5 リットル入れる処理区を設定した。試験

プロットは処理区順に規則的に配置し、それぞれ 8 回の繰り返し区を設けた。

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写真 2-33. Oelbubuk 村の外観と土壌

(3) 東ヌサテンガラ州 半乾燥・石灰岩地帯におけるモデル林試験植栽結果

N-1. Nekbaun 村(4.0ha)2013 年 3 月植栽

下図 2-18 の樹高データは、植栽 1 ヶ月後のデータなので、植栽時の苗木の大きさ

であると考えて良い。

メリナ(Gmelina arborea)とセンゴン(Entroobium cyclocarpum)およびクミリ

(Aleurites moluccana)が他と比較して大苗を使用していたことがわかる。

ただし、その他の樹種も、インドセンダン(Azadirachta indica)を除いて、生存

率は 60%以上を維持している。

インドセンダンは、苗木の平均樹高が 10cm 未満と非常に小さく未熟であったこ

と、ならびに、カタツムリによる樹皮の食害を受けたことが生存率低下の要因と

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して考えられる。

植栽木の活着や成長および試験処理の効果が判明するまでには時間が必要であり、

継続したモニタリングが必要である。

図 2-18.Nekbaun 樹種別のプロット生存率平均値(左軸)および樹高の平均値(右軸)

(植栽 5 ヶ月後の生存率と植栽 1 ヶ月後の樹高)

また、改植後の植栽結果としては、いくつかの樹種において顕著な生存率の低下が見ら

れた。生存率の低下は、2014 年 2 月に発生した二度目の火災の後の再植栽において観察

された。しかし、火災後もいくつかの樹種が生存していることが、新芽の成長より確認で

きた。他と比較して Nitas が も高い生存率 55.3 %を示している一方、Jambu Air は も

低い生存率 0.8 %である。他のいくつかの樹種は、2 回の火災後も依然として生存可能な

能力を示している。さらには、火災よりも非常に長い乾期が生存率減少の要因になってい

ると考えられる。

図 2-19.Nekbaun 改植地樹種別のプロット生存率平均値

20 

40 

60 

80 

100 

0

20

40

60

80

100

1 2 3 4 5 6 7 8

No. Species name1 Swietenia macrophylla2 Gmelina arborea3 Sterculia foetida4 Toona sureni5 Pterocarpus indicus6 Entrolobium cyclocarpum7 Azadirachta indica8 Aleurites moluccana

81.5%

70.0%76.8%

93.3%86.5%

62.0%

76.3%

64.0%

53.8%

67.8%

8.8%

32.0%

0.8%

55.3%

44.0%

31.0%26.0%

3.3%

30.0%

4.0%

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%

70.0%

80.0%

90.0%

100.0%

Jun-14

Feb-15

樹種別番号 樹

高(m

生存

率(%

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51

N-2. Penfui Timur 村(4.0ha)2013 年 3 月植栽

下図 2-19 の生存率データおよび樹高データともに、植栽 1 ヶ月後のデータなので、

生存率については、ほとんどの樹種が 80%以上を維持しており、樹高については

植栽時の苗木の大きさであると考えて良い。

メリナ(Gmelina arborea)が他と比較して大苗を使用していたことがわかる。

チーク(Tectona grandis)は、苗木の平均樹高が 10cm 未満と非常に小さいが、

生存率は高い。

植栽木の活着や成長および試験処理の効果が判明するまでには時間が必要であり、

継続したモニタリングが必要である。

図 2-20.Penfui 樹種別のプロット生存率の平均値(左軸)および樹高の平均値(右軸)

(植栽 1 ヶ月後の生存率と樹高)

2013 年 3 月に実施された植栽後の 初の評価では、どの樹種も非常によい生存率を示

していたが、2 回目の評価ではいくつかの樹種において顕著な生存率の低下が見られた。

初の評価では Gmelina の生存率 73.4%が も低く、Suren の生存率 92%が も高い値

であった。しかし二回目の評価では、Gmelina が も高い生存率 67.5%を示し、 も低い

生存率は Nangka の 2.9%であった。

Penfui 村の森林回復サイトは、近隣農家により落花生やとうもろこし等の作物の栽培が

行われている場所にある。さらには、雑草や葦の除去などの耕作準備作業において集中的

に化学農薬が使われている。このような非有機農法における作業方法が生存率に影響を与

える要因の一つであると言われている。

10 

20 

30 

40 

50 

60 

70 

0

20

40

60

80

100

1 2 3 4 5 6 7 8

No. Species name

1 Swietenia macrophylla2 Artocarpus heterophyllus3 Toona surei4 Pterocarpus indicus5 Casuarina junghuhniana6 Syzygium cumini7 Gmelina arborea8 Tectona grandis

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52

図 2-21.Penfui 樹種別のプロット生存率の平均値(2013 年 3 月および 2014 年 8 月)

Gmelina Kayu merah

Suren Mahoni

写真 2-34.Penfui における植栽木

73,4 % 73,8%

82,8% 83,6% 84%88,8% 89,4% 92%

67,5%

2,9%

31,7%

61,0%

48,3%

6,7%

38,9%

48,0%

Gmenila Nangka Jati Kayu Merah

Kasuarina Jambu Hutan

Mahoni Suren0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

Mar-13

Agust-14

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53

N-3. Silu 村(5.5ha)2014 年 1~2 月植栽

2014 年 12 月に実施された植栽では、その後の生存率が一般的に非常に低いことが

わかった。一回目の評価においては、いくつかの樹種は非常に良好な生存率を示して

いたが、二回目の評価においては、生存種の生育状況は満足できるものではなかった。

ただし、いくつかの樹種においては、生育条件の良くない場所に植栽されたにも関わ

らず、高い生存率を示すものも見られた(写真 2-35)。

初の評価において、Nitas が も高い生存率 76,27 %を示し、続いて Gmelina

(74.60%)と Mahoni (73.35%)の生存率が高い。一方、Sirsak の生存率(41.69%)は も

低い。二回目の評価では明らかに生存率が低下しており、 も高い生存率は Gmelina

(33.47%)であり、 も低い生存率は Sirsak(0.42%)である。これは一回目の評価で

Sirsak が も低い生存率を示していることに対応している。

図 2-22.Silu 樹種別のプロット生存率の平均値(2014 年 6 月および 2015 年 2 月)

Gmelina Jambu ment 牛の侵入

写真 2-35.Silu における植栽木

73.35

57.52

74.60

63.77

76.27

51.28 50.43 50.44 52.51

41.69

51.30

63.77 64.1967.86

56.27

7.5112.53

33.47

7.9411.27

7.11 6.27 3.759.61

0.425.02

8.76 8.35 10.8515.84

0.00

10.00

20.00

30.00

40.00

50.00

60.00

70.00

80.00

90.00

Jun-14

Feb-15

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54

N-4. Soe 郡 Ouelbubuk 村(6.0ha)2014 年 12 月~2015 年 2 月植栽

評価の結果、植栽した樹種は一般的に良好な生存率を示すことが分かった。その中で

Fafi nakaf が も高い生存率 99.4 %を示した。この樹種は TTS 県の固有種である。一方、

Ampupu は も低い生存率 78.1%であった。

2014 年 12 月に植栽された樹種は、3 カ月を経た段階では良好な生存率を示している。

このサイトは、強風の影響を受けやすいため、蒸発散量が非常に高い可能性がある。さら

には、特定樹種(Ampupu、Cemara)に、土壌中のシロアリ被害が見られる。

図 2-23.Oelbubuk 樹種別のプロット生存率の平均値(2015 年 2 月)

高分子吸収材の施用による生存率や成長の促進効果は、現時点では有意でない。

ただし、雨期が始まる前(11 月)に、hydrogel 混入試験を実施した植栽木(写真 2-36)

は 100%生存。新芽が出る等成長も良好である。試験的に植えた後、約 2 週間後に降雨が

始まった。雨期の期間中の降雨を全て有効に利用することができたためと考えられる。

また、2015 年 1 月、一時的に雨が降らない時期(Dry spell)があり、植栽作業をスト

ップした経緯あり。そのときに、混入した Hydrogel が有効に働いた可能性がある。

98.2%

78.1% 81.1%

99.4%95.1%

87.1%

99.0%94.1% 95.3%

84.8%

97.1% 94.5% 94.7%98.7%

0.0%

20.0%

40.0%

60.0%

80.0%

100.0%

120.0%

Feb-15

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55

図 2-26.Oelbubuk 村における高分子吸収材の施用(2015 年 2 月)

図 2-26.Oelbubuk 村における植栽木(2015 年 2 月)

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56

(4) 東ヌサテンガラ州半乾燥・石灰岩地帯の荒廃地における試験導入樹種の選定

乾燥石灰岩地帯では 27 樹種を選定した。選定に当たっては、①気象条件、②立地条件、

③農民利用の可能性、④樹木生理的条件、⑤環境・生態条件の改善の可能性等を主な勘案

事項とした。

① 気象条件:乾燥石灰岩地帯が広く分布するインドネシアの島嶼部の多くは乾燥が樹木

の生育を左右することが多いことから、乾燥気候に適合する種を選定の基準とした。

また、標高の高い部分もあり、このような高標高に適合する樹木も対象とした。

② 立地条件:ジャワ島からイリアンにかけての島嶼部は隆起石灰岩によって形成された

山地・台地がきわめて広く分布する。このような場所は排水がきわめて良好で、土壌の

乾燥が厳しい。石灰岩による土壌のアルカリ性と乾燥に耐性のある種類を選定の基準

とした。

③ 農民利用の可能性:土地の荒廃は地域の農民による利用に起因することが多く、森林

の回復は地域農民の協力が必要である。そのため、農民が利用可能で森林化に結びつ

けられる樹木等を選定の基準とした。

④ 樹木生理的条件:石灰岩によるアルカリ性に耐性があり、裸地に近い環境であるため、

対象樹木は強光環境に耐性がある必要がある。また、今後の活用を配慮し、繁殖の可

能性も勘案した。

⑤ 環境・生態条件の今後の改善の可能性:地域の生態的環境の改善に寄与する可能性のあ

る樹木の導入を進めることが重要で、類似の種類がある場合は、地域産樹種の選定を

優先することとした。

2)各樹種の選定理由

Annona muricata: 外来種ではあるが、乾燥に耐性があり、アルカリ土壌に耐性があるし、

農民の利用が大きいことから対象樹木として選定した。

Persia Americana: 乾燥にある程度の耐性があり、高標高にも生育可能で、しかも農民に

よる利用が大きいことから対象樹木として選定した。

Santalum album: 地域の特産種であるが、ほとんど資源枯渇状態にあり、増殖が期待され

ている。乾燥や強光には耐性があるとされているので可能性を検討するために選定し

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57

た。

Eucalyptus urophylla: ティモール島の標高が高い場所に自生する地域特産種とされる。木

材はきわめて利用性能が高いとされ、乾燥にはある程度の耐性が予想されるので可能

性を検討するため、選定した。

Syzygium cumini: 現地産樹種で、地域住民の利用が活発で、多様な立地環境にも適合する

とともに、ある程度の乾燥に耐性があるとされることから選定した。

Syzygium samarangense: 上記同様、地域産樹種で、地域住民の利用が活発である。乾燥

にもある程度の耐性があるとされるので対象樹種とした。

Aleurites moluccana:元々地域に自生したとされる樹木で、地域住民の導入に対する要望が

大きく、乾燥にもある程度の耐性があり、高標高にも生育可能とされるので対象樹木

とした。

Acacia spp. (Acacia auriculiforms×A. mangium?): ティモール島の比較的高標高に自生す

る樹種で、自生地では絶滅危惧種の可能性もある。今後の利用や保全の可能性が求め

られる樹種であるので、検討の対象とした。

Cassia siamea: 外来樹種と考えられるが、ティモール島の若干高い標高の場所で優れた

成長を示している樹種であり、きわめて優れた木材を産出することから、検討の対象

とした。

Dalbergia lathifolia: きわめて高品質な紫檀材を産出する樹種で、乾燥と強光に耐性がある

程度認められる樹種であることから選定された。ただ、石灰岩の浅い土壌には問題が

あるとされることから、検証の意味をかねて対象種として選定した。

Enterolobium cyclocarpum: 東南アジアの乾燥が厳しい荒廃地で緑化樹種として活用され

ていることから迅速な緑化が期待される場所での導入に有効と想定される。そのため、

対象種として選定した。

Pterocarpus indicus: 地域産樹種で、高品質材を産出する。自生地では絶滅危惧種と考え

られており、保全が求められている。将来の木材生産および環境林の造成を念頭に、

選定された。

Samanea saman: 中南米産ではあるが、長年インドネシアで緑化樹として活用されてき

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58

た。近年乾燥が比較的強い荒廃地での緑化に広く活用されているので選定した。

Tamarindus indica: 乾燥耐性が大きい樹種で、高い標高にも生育可能であり、地域住民が

利用できる果実を生産することから選定した。

Artocarpus heterophyllus: 乾燥耐性や石灰岩土壌への適応性は必ずしも高くないとされる

が、ジャックフルーツとして地域住民の要望は大きいので、選定の対象とした。

Casuarina junghuhniana: 地域に広く自生する樹木で、高い標高にも生育可能である。乾

燥に耐性があることと良質な木材も産出するとされることから、将来の環境林や木材

生産林樹種として好適であると想定して選定した。

Stericuia foetida: 乾燥に耐性があり、明らかな強光耐性があるし、地域住民の要望もある

現地産樹種でもあることから選定した。

Schleichera oleosa: 多様な利用性能から地域住民の要望が大きい樹種であること、明らか

な地域産樹種であること、さらに気象条件などの条件が基準に合うことから、将来環

境林にも生産林にも適用可能であることから選定された。

Ancardium occidentale: 外来種ではあるがカシューナッツ生産という地域住民にとって

大きな利益を生むこと、乾燥に耐性があることなどから対象種として選定された。

Azadirachta indica: 外来種ではあるが乾燥に極めて高い耐性があり、薬用や材利用に優れ

た性能があるため、地域住民の利用が大きいと想定されるため、対象種として選定し

た。

Swietenia macrophylla: インドネシアでは良質な材を生産することから主要造林種として

選定されており、石灰質土壌で良好で、乾燥に耐性があるため対象種として選定した。

Toona sureni:地域産の良質な木材の生産樹種で、環境が整えば大きく育つとされる。石灰

質土壌で良好とされることから将来の環境林や生産林として有効と想定し、検討の対

象とした。

Citrus reticulate c.v. soe: Soe 地区で開発された温州ミカンの品種で、地域住民の導入に対

する要望が大きく、標高が高い場所に適応する樹種であることから選定した。

Manikara zapota:気象や立地、生理的条件は必ずしも適合しないが、優れた果実生産のた

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59

め地域住民の導入要望がきわめて大きいため検証の対象とした。

Gmelina arborea: 世界的に乾燥荒廃地での森林回復に活用されており、石灰岩地帯で良好

とされることから対象として選定した。

Tectona grandis: インドネシアの主要造林樹種で、乾燥に耐性があり、Ca が多い場所で

良好な成長を示すことから選定した。

Planchonia valida: 地域に自生する樹木であるが、希少化しているとされ、将来の環境林

育成を想定して選定した。また、良質材生産木でもあることから、造林の可能性も勘

案した。

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60

表 4-1. ヌサテンガラ州半乾燥気候・石灰岩地帯の森林回復実証植栽試験に用いた樹種

の土壌・気候条件への適性判断

Penfui Silu Soe

深土壌 石礫土 石礫土

2012/

2013

2013/

2014

(改植)

2012/

2013

2013/

2014

2014/

2015

モクレン目

バンレイシ科

1 Annona muricata △

クスノキ目

クスノキ科 2 Persea americana ◎

ビャクダン目

ビャクダン科 3 Santalum album ◎

4 Eucalyptus urophylla ○ ○ ○

5 Syzygium cumini △ △

6 Syzygium samarangense ○

キントラノオ目

トウダイグサ科

7 Aleurites moluccana ○ ○ △

8 Acacia  sp. ◎ ◎

9 Cassia siamea ○

10 Dalbergia latifolia △

11 Enterolobium cyclocarpum ◎

12 Pterocarpus indicus ○ ◎ ○ ○ ◎

13 Samanea saman ○ ◎

14 Tamarindus indica ○

バラ目 クワ科 15 Artocarpus heterophyllus △

ブナ目モクマオウ科

16 Casuarina junghuhniana ◎ ◎ ○ ○

アオイ目 アオイ科 17 Sterculia foetida ◎ ◎ ◎ ○

ムクロジ科 18 Schleichera oleosa ◎

ウルシ科 19 Anacardium occidentale ◎ ◎

20 Azadirachta indica △

21 Swietenia macrophylla △ △ ○ △ ◎

22 Toona sureni ○ ○

ミカン科 23 Citrus  sp. ◎

アカテツ科 24 Manilkara zapota △

サガリバナ科

25 Planchonia valida ◎

26 Gmelina arborea ◎ ◎ ◎ ○ ◎

27 Tectona grandis ○ △

8種 10種 8種 15種 14種

シソ目 シソ科

植栽樹種名埴質vertic

<適性判断>

ツツジ目

No.

Nekban

フトモモ目 フトモモ科

マメ科マメ目

ムクロジ目 センダン科

植物分類

目 科

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(5) 東ヌサテンガラ州半乾燥・石灰岩地帯の荒廃地におけるモデル林植栽試験の考察

1) Nekbaun 試験地での印象

Nekbaun 試験地は同一年、二度の火災に遭っているとのことである。火災は乾燥する

森林地帯では雷光や木が擦り合って発生することはアメリカやオーストラリアでは起こ

るとされているが、対象地のような草原地帯では通常まれである。しかも雨のほとんど降

らない乾期での火災であり、また散在する立木に雷が落ちた様子は見られなかったことか

ら、火災発生原因はおそらく人為的なものと推量定することが妥当と考えられる。人為的

原因には通常たばこの火やたき火の後始末の不備と付け火が考えられる。火災が二度続い

ていることは、たばこの火などではなく、誰かが火をつけた可能性が高くなっていると考

えられる。

この地の造林は村長の意向を受けて結成された造林グループによって行われた。造林グ

ループは計画に従って造林を行ったが、6 ヶ月後の乾季に火災で植栽木が焼失した。補植

によって回復が図られたが、補植木も再度の火災で焼失した。

原因を調べる中で、造林グループとそのグループに入れなかった人との間で軋轢が生じ

ており、グループを決めた村長が調整に苦慮しているとされている。信ずることは難しい

が、他の村人からの聴取からもそれが原因で火災が発生した可能性があることが予想され

た。

現在、当初植栽された被災しなかった植栽木はすでに 3m を超えており、3 回雨期を経

過した現在、対象地の多くは緑化が成功していたと予想される。

このような問題は荒廃地が広がる場所ではしばしば発生すると考えられる。というのは

住民が生活するために土地を過剰に利用したから土地が荒廃したと考えられるからであ

る。したがってこのような場所での植林を行う場合は、地域住民の意向調査をしっかり行

うような仕組みが必要で、さらに植栽後のフォローが重要であろうと考えられる。本プロ

ジェクトにおいても当初はクパンの国立大学の社会林業学者の参加を得て、村との調整を

行ってきたため当初計画を円滑に進めることができたという経緯がある。その後 BPDAS

の職員のみで推進が可能と判断し、現在に至っているが、必ずしも綿密なフォローが行わ

れなかったかもしれない。今後の反省としては、植栽後、成林するまでのフォローをより

綿密に行う必要があり、カウンターパートと綿密に打ち合わせることが重要である。また、

当地は他と違った難しい問題が存在することが指摘される。地域住民の多くは BPDAS の

ような国の職員と異なり、キリスト教で、国の施策に対して若干の違和感を持っているよ

うに感じる。地域住民との連携を深めていくことが円滑な計画推進の鍵であるので、カウ

ンターパートと地域住民との間をつなぐ人材の配置を行うことが重要と考えられる。

本試験地では火災後に自発的に補植が行われてかなりの本数が成長を始めている。植栽

後のフォローが適切であれば初年度の残存木の成長が予想と一致しているので、2~3 年後

には地表の火災に対応可能のサイズにまで成長し、将来の成林が期待される。カウンター

パートのフォローに期待し、今後もカウンターパートと連携をすることが重要である。

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62

2) Penfui 試験地での印象

Penfui 試験地は当初予定した場所が岩石地であり、成林に困難が生ずる可能性が高いと

判断したので、カウンターパートの勧めで個人の土地である当試験地を選定した。当初の

成長は速やかで、成林の可能性は高いと判断した。ただ、今年度は強い間作栽培が開始さ

れ、地拵えの段階での火入れの延焼があり、中心部の植栽木が焼失した。火災を免れた部

分での成長は 3m を超えているし、2 年目までの樹種別の成長が観察できたので結果をと

りまとめて地域での荒廃地植栽の初期成長の可能性をシミュレートすることが重要であ

る。

ただ、長期にわたる観察が困難な試験地となったが、今後もカウンターパートと連携し、

残存木の管理を進めていく必要がある。

本試験地の問題点は土地所有者との連携が十分ではなく、所有者に趣旨が十分理解され

ていなかったことで、結果として土地所有者による強度の間作が実施された。ただ、今後

植栽木の成長推移の観察も必要であるので、カウンターパートのフォローに期待する。同

時に試験地の選定に際して個人所有地を選定することの危険性を時間がかかる植林の場

合には考慮しておくことか重要であろう。この場合も、カウンターパートと所有者との調

整を図る仲介者の必要性を実感した。

3) Sillu 試験地での印象

Sillu 試験地は標高が比較的高い場所に配置した。石灰岩山地で土壌の発達が進んでい

ない岩礫地で、乾季の乾燥が厳しい場所である。このような荒廃地はこの地域の平頂丘で

は比較的広い面積があると考えられ、成果の普遍化には大きな意味がある。

本試験地はこのような困難な場所での成林に対する方法論を策定することを期待して

設定されたが、予想通り植栽木の定着と成長は困難であった。ただ、5 年~10 年後に ha

あたり 200 本程度が残存できれば成功と考えられるので、今後のフォローがあれば森林化

は可能で、カウンターパートと現地の実施グループによる粘り強いフォローに期待する。

4) Soe 試験地での印象

Soe 試験地は今年度の雨期に植栽されたもっとも新しい植栽試験地で、標高 1,000m 程

度の高地にある。Sillu 試験地と同様、隆起石灰岩の平頂丘に位置し、土壌の浅い岩礫地

であるので乾燥が厳しい。植栽 3 ヶ月経過している段階ですでに新葉が出始めている植栽

木の割合が高いし、5 月頃まで成長するとされるので、今までの例から考えると、火災が

なければ 5 月以降の乾季を乗り越えると予想される。しかも樹種ごとに違いが生じている

ので、本試験の一つの目的である、類似の荒廃地での適切な造林樹種のスクリーニングに

大きな成果が得られる可能性が高い。本試験地では植栽後の枯損原因に火災と乾燥以外に

シロアリが原因であることが判明した。ユーカリ、アカシア、モクマオウなど、特定の樹

種に集中していることも良い成果といえる。ただ、シロアリのコントロールは難しいとさ

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63

れるので、枯損割合が高い場合はその樹種を対象樹種を外すことになるかもしれない。現

在までの観察では 10%以下であるので、特に大きな問題はないと考えられる。

本試験地の実施グループは Soe 森林管理署で、現地採用の技術者が担当しており、地域

との関係は良好とされるし、植栽・管理技術も優れていると予想されるので、カウンター

パートの今後のフォローがあれば優れた成果が上げられると予想している。

5) 後書き

本試験はインドネシア東部島嶼部に普遍的な石灰岩に由来する半乾燥荒廃地で、しかも

低山帯と比較的高標高という二つのタイプの土地で、森林回復を図るための方法や適切な

樹種の選定にターゲットを絞って実施した計画であり、試験の効果の普遍化には大きな意

味があると評価される。

本試験は当初、クパンの国立大学で社会林業を専門とする Dr. Michel が仲介役として

現地と調整をすすめてきたが、途中から BPDAS が直接担当することとなった。BPDAS

の担当者も途中から変更になった。

Dr. Michel は多忙なため、フォローの段階では対応できなかった。現地と BPDAS との

間の調整を行う人材が継続的に存在する環境があれば本試験はよりよく進展したのでは

ないかと推察する。また、当初は BPDAS の担当者が多忙であったためと考えられるが、

対応が十分ではなかったと推察している。途中から BPDAS の造林課長の Mr. Joko が担

当してからは Soe 森林管理署の協力のように対応がスムーズになった。また、社会林業や

技術的問題について、森林研究所の応援をいただけるようになった。森林研究所の参加な

どについては林業省の社会林業総局の意向が働いた面もあり、当初からの積極的参加は少

なかった。技術的問題についてに絞ってでも森林研究所の協力を取り付けた方が試験はス

ムーズに展開したと推察される。これらは今後の反省である。

さらに当地の林業政策を取り仕切っているのはジャカルタの政府で、現地はそれに対し

て複雑な感情を持っている様子がある。考えたくはないが、宗教の違いも現地の住民との

対応に影響があるかもしれない。イスラム教中心の中央政府とキリスト教中心の現地住民

という構図である。したがって現地と中央の意識のずれがあるとすれば、Mr. Michel や

Soe森林管理署の技術者のような調整を進められる人の存在はこの地域では重要かもしれ

ない。さらにこのような人材には社会林業的アプローチができることが求められるかもし

れない。

植林試験は長い機関の観測が必要である。特に植栽後 2~3 年が も重要であり、それ

以降はシミュレートがある程度可能である。ただ、対外プロジェクトの場合、予算期間は

限られてくるので長期と言っても限度がある。本試験において、 も重要な今年度の成長

期に植栽した Nekbaun と Soe 試験地については、今後もモニタリングを継続することで、

各種造林プロジェクトにとっても援用できるデータが得られるため得策であると考える。