抗凝固薬:その歴史と最近の話題血液凝固線溶系とその制御系...
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2009年2月28日
平成20年度大阪大学薬学部卒後研修会平成20年度大阪大学薬学部卒後研修会
抗凝固薬:その歴史と最近の話題
三重県立看護大学三重県立看護大学看護学部生化学
林 辰弥林 辰弥
血栓性疾患が増加している人口10万人当りの死因別統計(平成18年度)
第1位 悪性腫瘍 : 262.3人 (30.7 %)第 位 悪性腫瘍 6 3人 (30 %)
第2位 心血管障害 : 135.8人 (15.9 %)
第3位 脳血管障害 : 100.9人 (11.8 %)第3位 脳血管障害 : 100.9人 (11.8 %)
心血管障害と脳血管障害の発症機構は基本的に同じであり、さらに近年増加
著しい静脈血栓症(一部は肺塞栓症になる)などを加えると死因の40%近くが著しい静脈血栓症( 部は肺塞栓症になる)などを加えると死因の40%近くが
血栓性機能障害を起こしている。
生活習慣病 血管病変 血栓性疾患
老化
生活習慣病 血管病変 血栓性疾患
心血管障害脳血管障害
肥満高血圧
動脈硬化血管狭窄
運動不足高カロリー食
脳血管障害肺塞栓症深部静脈血栓症血栓性臓器障害
高血圧糖尿病高脂血症喫煙
血管狭窄血管内皮障害
運動不足高カロリ 食 血栓性臓器障害など
喫煙運動不足など
止血機構
内皮下組織
血管内皮細胞
ブリ ゲ プ ゲ
プロトロンビン
トロンビン活性化
フィブリノゲン プラスミノゲン
トロンビン
フィブリンプラスミン
フィブリン
血小板血栓 フィブリン血栓
血小板凝集(一次止血) 血液凝固(二次止血) 線維素溶解(線溶)
血液凝固線溶系とその制御系
外因系凝固系 内因系凝固系外因系凝固系 内因系凝固系プロテインC 凝固制御系
IX
XIa XIThrombin, XIIa
HMKTFPI
ATTF・VIIa
VIII VIIIiV
Protein S・C4BPVIIIaIXa・ AT
X
V ViProtein S
Xa
Va・
ATZPI
プロテアーゼインヒビター凝固制御系
Prothrombin Thrombin APCPCIAT HCII
凝固制御系(TFPI, AT,ZPI, HCII)
TMProtein C
Thrombin EPCRt-PA
Plasminogen
u-PA
線溶系PAI-1
FibrinogenFibrinFDP
Plasmin2PI
Pro-TAFITAFI
FibrinogenFibrinFDP
EPCR: endothelial protein C receptor
TFPI: tissue factor pathway inhibitor
AT: antithrombin
HC II: heparin cofactor IIAPC: activated protein
CZPI: protein Z-dependent protease
⾎栓症治療薬抗凝固薬抗凝固薬
合成プロテアーゼインヒビター (メシル酸(M)ガベキサート、M-ナファモスタット、抗トロンビン、抗Xa剤)ヘパリン (未分画ヘパリン、低分子ヘパリン、合成ペンタサッカロイド)
ビタミンK拮抗薬 (ワーファリン)
合成プ テア ゼインヒビタ (メシル酸(M)ガ キサ ト、M ナファモスタット、抗ト ンビン、抗Xa剤)
ヒルジン (ヒルログを含む)
組織因子インヒビター (TFPI)
アンチトロンビン
活性化プロテインC (APC)
トロンボモジュリン
血栓溶解薬血栓溶解薬ウロキナーゼ (UK)
組織プラスミノゲンアクチベーター (t-PA)
プロウロキナーゼ (pro-UK、u-PA)
組織プラスミノゲンアクチベ タ (t PA)
スタフィロキナーゼ(SAK)
ストレプトキナーゼ(SK)
抗血小板薬抗血小板薬アラキドン酸代謝阻害薬(アスピリン、TXA2合成阻害薬, 他)
環状ヌクレオチド代謝作用薬(シロスタゾール、ベラプロスト、他)
アデニル酸シクラーゼ作用薬(チクロピジン)
血小板膜受容体作用薬(GPIIb/IIIa作用薬、セロトニン阻害薬、他)
ワルファリンの構造ワルファリンの構造
O
OH
OO
ワルファリンの抗凝固作用の発現メカニズム
ビタミンK ワルファリンワルファリン
抑制抑制エポキシド還元酵素
脱水素酵素
還元型ビタミンK ビタミンKエポキシド
抑制抑制
還元型ビタミンK ビタミンKエポキシド
CO2 , O2
カルボキシラーゼ
2 2
プロトロンビン第VII因子第IX因子
COOHCH2
COOHCH2
HOOC
第IX因子第X因子など
グルタミン酸残基 カルボキシグルタミン酸残基
CH2
CH CONHCH2
CH CONH
グルタミン酸残基 -カルボキシグルタミン酸残基
へパリンの構造
負(-)に荷電
未分画ヘパリン未分画ヘパリン
• ブリッジング及びアロステリックメカニズムにより、アンチトロンビンによるトロンビン及びXa因子の両者の阻害を促進する
低分子量ヘパリン低分子量 リン
• アロステリックメカニズムにより アンチトロン• アロステリックメカニズムにより、アンチトロンビンによるXa因子の阻害は促進するが、トロンビンの阻害には効果なしンビンの阻害には効果なし
抗トロンビン剤抗トロンビン剤
一般名:アルガトロバン
商品名:アルガロン、ガルトバン、スロバスタン、
スロンノン ノバスアタンスロンノン、ノバスアタン
経口抗Xa剤
• DU 176b(第一三共)• DU-176b(第一三共)
• リバロキサバン(バイエル薬品)
播種性血管内凝固症候群(DIC:disseminated intravascular coagulation)重篤な基礎疾患の下に、全身の細小血管内に微小血栓が形成されるため、微小循環が障害され、臓器の機能不全
や出血傾向が見られる。DICの病態は、SIRS(全身性炎症反応症候群)とも関連する。
DICの特徴(1) 微小循環障害(1) 微小循環障害
虚血により、腎臓、肺など多数の臓器が機能不全に陥る。
中枢神経の虚血性変化としては、意識障害や多彩な局所神経症状が現われる。
消化管では、急性潰瘍による下血、腹痛などが起きる。
肺 肺梗塞 難など 症状を す 状態を す もあ肺では、肺梗塞のために、呼吸困難などの症状を呈する。ショック状態を呈することもある。
(2) 消費性凝固障害組織因子(tissue factor:TF)が、細胞表面に多く発現し、外因系血液凝固が促進される。
多くの血液凝固因子(第VIII因子、第V因子、アンチトロンビンなど)や血小板が消費され、出血傾向が現われる。
(3) 凝固と線溶の亢進凝固の促進に応じて、線溶系も活性化されて、プラスミンによりフィブリンが分解され、フィブリン分解産物(FDP)が
血中に増加し、出血傾向が現われる。また、プラスミンを阻害するα2PIが消費される。
1.敗血症に伴うDIC細菌由来のエンドトキシン(LPS)刺激により単球・マクロファージで産生される腫瘍壊死因子(TNF-α)やインターロ
イキン(IL-1β)などのサイトカインが好中球を活性化させ、その結果、好中球エラスターゼや活性酸素により、血管内
皮障害が起こり、血管内皮透過性の亢進と血管攣縮が起こり、循環が泥状化し、微小循環が障害される。また、障害血
管内皮では単球や内皮細胞が活性化され、細胞表面に組織因子を発現させ、されに微小血栓が形成される。
2. 白血病・産科異常に伴うDICTFの過剰生成や露呈による血液凝固亢進による微小血栓形成が主な病態と考えられる。微小血栓形成は、微小
循環障害をさらに悪化させ、多臓器不全(multiple organ failure:MOF)を引き起こす。
活性化プロテインC(APC)の作用
● APCは、トロンビンにより活性化された第Va因⼦
( )
及び第VIIIa因⼦を分解・失活化することにより、抗凝固作⽤を発揮する。凝固作⽤を発揮する。
● APCは、細胞内のNFBの活性化を阻害することによ
り 抗炎症効果を発揮するり、抗炎症効果を発揮する。
● APCは、細胞内のカスパーゼ経路などの活性化を阻
害することにより、抗アポトーシス効果を発揮する。
活性化プロテインCは敗血症DICに有効Bernard GR, et al. N Engl J Med. 2001;344(10):699-709
日本では 深部静脈血栓症 急性肺血栓塞栓症及びプ テインC欠日本では、深部静脈血栓症、急性肺血栓塞栓症及びプロテインC欠損症に起因する電撃性紫斑病に対して適用
トロンボモジュリンによる細胞機能の制御
C-type lectin
⽩⾎球接着阻害(抗炎症)細胞間接着への関与ポレクチン様ドメイン
1
C type lectin アポトーシスの阻害抗腫瘍効果
レクチン様ドメイン
2
3
1
TAFI-BS
トロンビンによるPC活性化の促進トロンビンによるproTAFI活性6個のEGF
IIa-BS TAFIの活性化 Protein C
の活性化5
4
3PC-BS TAFI BS
PCIによるトロンビン阻害の促進
トロンビンによるproTAFI 活性化の促進(PCIによる制御調節)
ビ
6個のEGF様 ドメイン
Glycosamino-
65 促進
GAG結合トロンビンによるscu-失活化 促進
GAG結合ATによるトロンビン阻害の促進
O型糖鎖結合ドメイン glycan (GAG)GAG結合PF4によるPC活性化の促進
PA失活化の促進O型糖鎖結合ドメイン
細胞膜貫通ドメイン細胞膜貫通ドメイン
細胞質内ドメイン
組換えトロンボモジュリン(rsTM:リコモジ リン)の構造(rsTM:リコモジュリン)の構造
分子量分子量
約64,000レクチン様
一般名一般名
トロンボモジ リン
ドメイン
トロンボモジュリンアルファ(遺伝子組換え)(JAN)(JAN)
ヒトトロンボモジュリンの
解 説解 説EGF様ドメイン
セリン/ ヒトトロンボモジュリンの1-498番目のアミノ酸残基からなる糖蛋白質
セリン/スレオニンに富むドメイン 蛋白質ドメイン
rsTMの抗DIC効果
● rsTMは、主にプロテインC活性化を促進してトロンビン⽣成を阻害し 抗凝固作⽤を発揮することが動物⽣成を阻害し、抗凝固作⽤を発揮することが動物
実験で証明された。
● rsTMは、DIC患者を対象とした実薬対照の前向き比較
臨床試験で世界で初めてヘパリンに対する優越性を臨床試験で世界で初めてヘパリンに対する優越性を
示した薬剤である。
● rsTMは、ヘパリンと比較して出血作用が低いことが証