橋梁下部工事におけるコンクリートの品質向上 に...

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橋梁下部工事におけるコンクリートの品質向上 に向けた取組みについて 萩尾 直久 1 1 栃木県矢板土木事務所 整備部 (〒329-2163栃木県矢板市鹿島町20-11コンクリート工の施工時における仕様規定は、打設や養生の方法を規定した「工法規定」で あるが、施工後にはその適正性を証明することいが難しい項目が多いことから、発注者として その確実性を担保する方法を検証するとともに、施工後における品質管理において、圧縮強度 以外に密度や吸水率を微破壊検査により測定、評価する手法について試行した。 その結果、施工チーム全体のレベルアップが図られ、長期品質を担保するとともに配合設計 に関する課題を見出した。 キーワード コンクリート、長寿命化、品質向上、微破壊検査 1. はじめに 主要地方道 宇都宮船生高徳線は、国道119号の宇 都宮市石那田地区を起点とし、塩谷町船生を経由し鬼怒 川・川治温泉方面に通じる幹線道路であるとともに、地 域住民の日常生活を支える重要な道路である。 鬼怒川を渡河する観音橋は、1955 年(昭和29 年)の完 成から60年近く経過しており、幅員が4.4mと狭く車の すれ違いができず、歩道もないため、車両及び歩行者の 安全で円滑な通行に支障をきたしている。 このため、県では現在の観音橋の下流約120mの位置 に橋梁の新設を含むバイパスを計画し、平成20 年度から 事業を進めている。 図-2 全体平面図 図-1 事業位置図

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橋梁下部工事におけるコンクリートの品質向上

に向けた取組みについて

萩尾 直久1

1栃木県矢板土木事務所 整備部 (〒329-2163栃木県矢板市鹿島町20-11)

コンクリート工の施工時における仕様規定は、打設や養生の方法を規定した「工法規定」で

あるが、施工後にはその適正性を証明することいが難しい項目が多いことから、発注者として

その確実性を担保する方法を検証するとともに、施工後における品質管理において、圧縮強度

以外に密度や吸水率を微破壊検査により測定、評価する手法について試行した。 その結果、施工チーム全体のレベルアップが図られ、長期品質を担保するとともに配合設計

に関する課題を見出した。

キーワード コンクリート、長寿命化、品質向上、微破壊検査

1. はじめに

主要地方道 宇都宮船生高徳線は、国道119号の宇

都宮市石那田地区を起点とし、塩谷町船生を経由し鬼怒

川・川治温泉方面に通じる幹線道路であるとともに、地

域住民の日常生活を支える重要な道路である。 鬼怒川を渡河する観音橋は、1955年(昭和29年)の完

成から60年近く経過しており、幅員が4.4mと狭く車の

すれ違いができず、歩道もないため、車両及び歩行者の

安全で円滑な通行に支障をきたしている。 このため、県では現在の観音橋の下流約120mの位置

に橋梁の新設を含むバイパスを計画し、平成20年度から

事業を進めている。

図-2 全体平面図

図-1 事業位置図

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2. 整備効果

(1)安心 安全・安心で円滑な通行の確保

(a)車道が2車線となり、車両の安全で円滑な走行が

確保される。また、歩道の整備により、歩行者・自転車

が安全に通行できる。 (b)橋の位置を変えることで、左岸側の急カーブが解

消され、安全で快適な走行が確保される。

(2)成長 地域の活性化

(a)当区間が安全でスムーズな道路に生まれ変わり、

利用者が増加することで、地域の活性化が期待される。 (b)塩谷町と日光市の交流が促進され、地域の活性化

が図られる。

3. 長寿命化及び維持管理コスト縮減への工夫

(1) 設計における配慮

橋梁の新設工事においては、全国的に長寿命化や維持

管理コストの縮減(以下、長寿命化)の観点を取り入れ

た設計がなされてきており、技術開発もめざましいもの

がある。本橋においても長寿命化の視点から設計段階で

下記の対策を採用している。

(a)耐候性鋼材の使用による塗装塗替えに掛かるコス

トの削減を図っている。

(b)少数主桁構造による支承数の縮減や、全径間を連

続桁にすることによる伸縮装置数の縮減により、それら

の交換時に発生するコスト縮減を図っている。

(c) 合成床板の採用により、床板の長寿命化と補修時

における車両の片側交互通行が可能な構造とている。

(d) 長期強度の確保に優位な高炉セメントB種を使用

したコンクリートを下部工に使用している。

(2) 施工段階における配慮

設計段階で様々な長寿命化への工夫がなされている一

方で、施工段階においては、設計図書や仕様書に基づき

施工管理を行う手法「仕様規定」が一般的である。

仕様規定は、先輩技術者の努力の結果として定められ、

高度成長期から現在に至る間のインフラ整備を支えてき

た優れた管理手法で、施工管理が容易である点に優れて

いるが、施工者の創意工夫が反映されにくいことが指摘

されており、国土交通省等では「性能規定」の採用が始

まっている。

4. 取組のテーマ

本現場では、橋梁下部工事のコンクリート工における

「仕様規定」の問題点を整理し、発注者、受注者の双方

が構造物の長寿命化の視点に立って工夫や改善を提案で

きる工事を実施した。

5. 鉄筋コンクリート構造物の長寿命化を阻害する

要因

(1)直接的な現象 鉄筋コンクリート構造物(以下、RC構造物)の長寿命

化を阻害する直接的な現象は主として下記が上げられる。

(a)ひび割れや剥離、ジャンカ、ポップアウト等による

コンクリート断面の減少により構造体の強度が所要性能

を満たさなくなる。

(b)鉄筋の腐食による引張強度の低下、錆による鉄筋体

積が増加によるひび割れ等を引き起こし構造体の強度が

所要性能を満たさなくなる。

(2)間接的な要因 前記した直接的にRC構造物の長寿命化を阻害する現象

を発生させる要因について本現場の環境条件を考慮して

抽出し、施工不良等による初期欠陥(表-1)と供用後

の時間経過とともに発生する劣化(表-2)に分類し、

本県の品質管理基準による対応についてまとめた。

本現場の特徴

気候 :寒冷地域(+10°~-10°H24年2月)

環境 :渡河部(水面付近は乾湿を繰り返す)

使用特性:融雪剤の散布(12月下旬~3月上旬)

(3) 要因の整理 (a)初期欠陥は、直ちに構造体の所要性能に影響を与

える物の他、かぶりや水気密性が低下していることで供

用後の時間経過とともに劣化を促進させ、結果的に長寿

命化を阻害することになる。

(b)施工後に劣化因子は構造体外部から侵入する。

欠陥 懸念される現象 施工時の仕様規定

強度、耐久性不足

かぶり不足

コールドジョイント 気密性、水密性の不足

砂すじ 耐久性不足

沈下ひび割れ 気密性、水密性の不足

乾燥収縮ひび割れ △   ・養生方法のみを規定

ジャンカ

△・施工方法を規定

表-1 初期欠陥 表-2 劣化と要因

材料 施工後

中性化 二酸化炭素(空気) 鉄筋の腐食 - ○ △(鉄筋のかぶり厚のみ)

塩害 塩化物イオン 鉄筋の腐食 △ ○ △(鉄筋のかぶり厚のみ)

凍害 凍結融解作用(水) 断面欠損 - ○ ×

アルカリ骨材反応 反応性骨材 断面欠損 ○ - △

劣化機構 要因 現象要因の進入時期

施工時の仕様規定での対応

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6. 仕様規定

(1)材料と受入検査時における仕様規定 (a)使用材料やコンクリートの受入時における品質管

理については、試験方法や規格値がJIS等で詳細に規定

されている。

(b)材料や製造時の試験結果の提出と受入検査の二重

チェックにより生コンの生産段階での劣化因子の進入は

防止できている。

(2)施工に対する仕様規定

(a)施工時における仕様規定は、打設や養生の方法を

規定した項目が多く、「工法規定」である。

(b)施工後の品質管理基準は、テストハンマーによる

強度推定とひび割れ調査(0.2mm以下は許容)の2項目

のみである。

(3)施工に対する仕様規定の問題点

(a)工法規定は、バイブレータを挿入する適正間隔等

規定しており、施工中に連続的して行う必要があるが、

施工後ではその適正性を写真等の資料により証明するこ

とが難しい項目が多いことに加え、コンクリート打設は、

発注者の立会を必須としておらず、確実性に欠ける。

(b)劣化要因は施工後に外部から侵入するにも係らず、

規定は強度のみでコンクリート表面の空隙の多さや吸水

率を左右する密度については規定していない。

7. 取組の概要

(1)目的

仕様規定の問題点を改善し、初期欠陥の発生防止とコ

ンクリート構造体外部からの劣化要因進入抑制(密度向

上)を図ることを目的とした。

(2)体制

コンクリート打設は、全て発注者の立会を計画したが、

立ち合い回数が配筋確認等を含めると50回(Co打設23

回)を超えるため、一部を外部に委託した。さたに、次

記する講習会の講師や打設のアドバイザーとして外部講

師を招き、4社19名の体制とした。(表-3)

(2) 知識の習得と打設計画

初期欠陥の防止や密度向上に寄与する施工方法につい

て4社で議論した結果、施工や養生方法については、コ

ンクリート標準示方書(施工編)順守や、その実現のた

めの打設計画や工夫が上がった。

正しい施工方法について監督職員、監理技術者、作業

員の全員が共通認識を持つ必要があるため、関係者全員

に対して講習会や実施指導を行う計画とした。

表-3 実施体制

発注者 矢板土木事務所 監督職員  3名

監督補助員 3名

(立会は常時2名)

監理技術者 1名

Co工作業員10名

講師 兼 岩瀬 文夫氏

アドバイザー 他 1名

施工管理受託者

(公財)とちぎ建設技術センター

施工者 船生建設㈱

㈱総合コンクリートサービス 図-4 講習等実施フロー図

図-3 取組の概要

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圧縮強度 絶乾密度 表乾密度 吸水率

N/mm2 kg/m3 kg/m3 %

上部 29.8 2,159 2,276 5.08

下部 33.3 2,270 2,360 3.99

※値は、供試体3本の平均値

※材齢39日

(3)確認試験

今回の取組みの検証と、今後の品質管理における新た

な指標の策定のため、取組み前後に構造体からコアを採

取して圧縮強度試験の他、吸水率、密度を測定した。

8. 講習会、実施指導の特徴

本取組みにおける講習会、実施指導の特徴は、講師に

よる一方的な教育のみではなく、参加者全員が改善案を

提案し、PDCA型で施工方法等をスパイラルアップさせる

ことに主眼においた。

(2)具体的な作業方法

a)バイブレータの台数管理

バイブレータ1台当たりの締固め量を5㎥/h台程度で

打設計画を立案した。

b)コンクリート内部状況の確認

打設状況を確認するために、透明型枠を一部に使用し

た。

c)バイブレータ挿入深さの確認

ビニルテープによるマーキングを実施した。

d)型枠の隙間からのモルタル流失による砂すじ対策

型枠のつなぎ目に隙間テープを施した。

e)躯体表面の密度向上

外部振動機(型枠バイブ)を使用した。

※使用するタイミングや方法には配慮が必要。

f)密度向上、沈下クラックの防止

長柄バイブレータによる再振動締固めの実施。

g)天端面の密度向上

人力による踏み固めを実施した。

h)均一な加温養生と乾燥防止対策

熱交換型のヒータとビニールダクトを使用した。

i)脱型後の乾燥防止対策

ポリエチレンフィルムや養生剤を使用した。

9. 確認試験

(1)試験方法

a)目的

品質向上の取組み前後における品質の変化の把握

b)配合 27-8-25BB

W/C=54.0%(W=155ℓ/m3) s/a=44.2%

c)材齢

次工程の制約から15日(7日目採取)とした。

d)試験方法(微破壊検査)

φ3.2㎜の抜取コアによる試験(微破壊・非破壊試験

によるコンクリート構造物の強度測定要領)

e)採取位置

施工天端面(次期打設の打継目)から鉛直に深さ 7cm。

(図-6)

f)試験項目

圧縮強度、絶乾密度、表乾密度、吸水率の4項目

g)追加試験(取組後の別の躯体)

材齢39日における、天端面からの深さ1~7cmと12

~18cmの位置でコアを各3本採取し比較した。

(2)試験結果

(a)強度、密度ともに取組みの前後で変化は生じなか

った。(表-4)

(b)吸水率は、1.84Pの改善がみられ、効果があったと

いえる。(表-4)

(c)供試体の採取深を変えて試験を行ったところ、深

図-5 打設計画書

図-6 供試体採取位置図

表-4 取組前後における品質の変化

取組前後 前 後 前 後 前 後 前 後

平均 25.3 26.1 2,162 2,182 2,313 2,293 6.96 5.12

標準偏差 2.8 3.7 33.9 35.3 24.8 31.9 0.61 0.59

強度(N/mm2) 絶乾密度(kg/m3) 表乾密度(kg/m3) 吸水率(%)

表-5 供試体採取深さと品質

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度が11cm違うだけで良好な結果となった。(表-5)

(3)考察

(a) 再振動時に鉄筋やセパレータにバイブレータが接

触したことが原因で、ひび割れ(0.2㎜以下)3箇所が

発生した。

(b)取組後は、ブリーディング水120~150ℓ(2~

2.5ℓ/m3)を除去したが、完全に除去することは困難で

天端面付近では水セメント比が大きくなっていたと推察

する。

(c)追加試験で天端面から12cm以深の結果が良好な理

由としては、表面に比べブリーディングの影響が小さい

ことと、外気の影響が少なく良好な養生環境が得られた

結果と推察する。

(d)圧縮強度と密度、吸水率には相関がみられた。

(e)小径供試体は、鉄筋切断の懸念が少なく採取が容

易であり、個々の値にばらつきはあるものの試験数を増

やすことでRC構造物微破壊検査として有効である。

(f)小径供試体を躯体側面から採取すれば、施工工程

による採取時期の影響が小さく材齢28日での評価が可能

である。しかし、今回は採取孔の補修方法について不安

があったため採用を見送った経緯があり、今後の課題と

したい。

10. 取組を振り返って(長寿命化の視点に立って)

(1)発注者の立会

(a)発注者が全打設に立ち会ったことで、発注者や監

督補助員の技術力も向上し、具体的な指示を伴うように

なった。

(b)現場に良い緊張感が保たれつつ、作業員を含めた

受発注者間で良いものを作るという共通認識から一つの

チームとしての連帯感が生まれた。

(c)県の監督職員のみで、コンクリート打設全数に立

ち会うことは、時間的要因から難しいため、施工後の品

質管理を充実するなどの対応が必要。

(2)講習会等の実施の方法

(a)講習をPDCA型で計画したことで、問題点が抽出さ

れ改善に反映された。

(b)現場指導を繰り返すことで、指示、指導から議論

に発展し、作業方法の工夫が図られた。

(c)効率的に技術習得を図るためには、従来のOJTに偏

らず、ポイントを絞った学習会とOJTを組み合わせる等

の試行錯誤が今後さらに必要である。

(d)技能労働者が積極的に技術向上を図れるよう、月4

時間の安全教育や監理技術者の継続教育を義務化してい

るように、作業員教育の義務化や総合評価でのインセン

ティブを考える等の工夫が必要である。

(3)品質管理と生コンの配合

(a)長寿命化を実現するには現在の圧縮強度のみの管

理では不足している。1案として小径コア採取による試

験を実施したが、他の方法も含めて管理手法の充実が必

要と考える。

(b)強度規定の配合から、長寿命化に配慮した配合に

見直す必要があると感じた。特に単位水量(細骨材)を

減らす配慮は必要である。

(c)長寿命化の具体的な対策を進めるためには、発注

者が供用年数を定め、それに応じた技術開発を促す必要

がある。

謝辞: 今回の取組にご協力を頂きました船生建設の斎

藤社長をはじめ、代理人の斎藤氏と作業員の皆様、岩瀬

先生、とちぎ建設技術センターの皆様に厚く御礼申し上

げます。